(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
- 1 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 20:56:48 ID:Zin/TujAO
- ※はじめに※
・当小説は「(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです」のシリーズ作品です。
・前作を知らなくてもまったく問題ないです。
・しかし、前作に比べ書式は大幅に変わっております。
・また、前作は推理小説の色が強かったのに対し、今作は推理の要素はびっくりするくらいありません。
単純な刑事ものと見ていただいたほうが、差し支えは生じないかと思われます。
- 2 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 20:58:06 ID:Zin/TujAO
-
−1−
ショボーン警部は、ひとつの事件を解決して、疲れていた。
とある事件について、VIP県警におかれた捜査本部にて、事件解決のパーティーが、行われていた。
皆が和気藹々と語らうなか、ショボーンだけは、連日走り回った反動に襲われ、うつらうつらとしていた。
十二月十五日の、いよいよ本格的に寒さを伴ってきた日のことだった。
.
- 3 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 20:59:50 ID:Zin/TujAO
-
「お疲れのようですね」
と、ショボーンの後ろから声がかかった。
ショボーンは、はっとして振り向いた。
そこには、緑のコートを羽織った、体のおおきな若手ワカッテマス刑事が立っていた。
ショボーンは「ああ」と応え、椅子を若手に差し出した。
若手は落ち着いた声で「失礼します」と言い、ゆっくり座った。
( <●><●>)「警部も皆さんと一緒に祝われないのですか?」
(´・ω・`)「無茶言うな、どれだけ走り回ったと思ってるんだ」
と聞いて、若手は微笑した。
「そうですね」と言ったものの、彼はほかにかける言葉もなく、
また、ショボーンと感想を語り合うつもりもなかった若手は、早速言葉が詰まった。
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- 4 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:01:40 ID:Zin/TujAO
-
若手は優秀な刑事だ。
某有名大学を出てはすぐに刑事の道を志し、程なくして県警に配属された。
それからの彼の活躍は、実に目覚ましいものだった。
体力は人一倍あり、少年時代に格闘技の経験も持ち併せている。
県警でもその噂は瞬く間に広がり、一躍有名人になった。
というのも、若手が請け負った事件で、彼は次々に犯人を捕まえていくのだ。
一度、ギャングを壊滅させた事もある。
誰もが、彼の将来は、明るいものだと語った。
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- 5 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:06:09 ID:Zin/TujAO
-
彼が優秀であることは、ショボーンも、知っていた。
そして、ショボーンもまた、優秀だったのだ。
刑事となってから、すぐに警部補、警部と昇進した。
優秀だが、どちらかと言うと、クセがある人物として有名だった。
若手も、またショボーンと同じように相手の噂を知っていたし、互いに互いを尊敬し合う関係だった。
気が付くと、二人はコンビとして動くようにもなっていたと聞く。
まだ、年期がそうあるわけではないが、それでも、二人は確実に、今をときめくコンビと言われていた。
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- 6 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:07:34 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「ちょっと外に出るか」
( <●><●>)「煙草でも、買うのですか?」
(´・ω・`)「やめようと、思ってるのだけどねぇ」
捜査本部長に一言断って、二人は席を外した。
沈黙に耐えかねたショボーンの行動だったが、若手もそれに同行した。
その若手も、パーティーの雰囲気は気に喰わず、飽き飽きしていたようだった。
署のすぐ近くに、公園がある。
入り口の隣には、自販機と、公衆電話が並んでいる。
ショボーンは金を入れ、赤箱の煙草を買った。
公園のベンチに座り、一本取り出して、一服する。
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- 7 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:09:05 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「しばらく休みたいよ」
( <●><●>)「私は、働き始めて幾年、まだ休んだ事がないですよ」
(´・ω・`)「若いうちは、バカみたいに走ってりゃいいんだよ」
( <●><●>)「……走るのは、だいすきです」
と、口角を上げて、彼は柔和に笑った。
ショボーンの毒舌に最初は戸惑っていたが、今となれば、彼はまったく気にしないようになっていた。
ショボーンに食いかかっても、どうにもならないのを知っていたのだ。
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- 8 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:12:29 ID:Zin/TujAO
-
長らく煙草を吸っていたショボーンが、自分の肺のなかに溜まっていた煙を全部吐いた。
握っていたダーク(DARK)の箱を上着のポケットに突っ込み、煙草をくわえたまま、ショボーンは言った。
(´・ω・`)「だめだ、やっぱ外国産は不味いや」
( <●><●>)「はぁ」
独り言のようにショボーンは呟いて、吸いかけのそれを排水溝に放り、足で踏み消した。
「警察がポイ捨てはだめですよ」と皮肉を言うも、ショボーンはまったく気にかけなかった。
そのショボーンは、腕をぶんぶん回し、深呼吸して、歩き出した。
若手も彼に続いた。
公園を出る頃、彼らに、冬の冷たい風が吹いた。
顔面に直撃し、それが顔面の熱を奪って、神経が麻痺してくるのがわかった。
外にでたのはいいが、やはり戻ろうと思った。
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- 9 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:15:08 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「寒いな」
間髪入れずに、ショボーンが言った。
若手もそれにあわせる。
首都のアスキーアートや、そこに次ぐ都会のラウンジより、やや田舎っぽく見えるここVIPでさえこの冷え込みなのだから、
さらに田舎のシベリアなんかでは、もっと寒いのだろうなと、若手は思った。
シベリアはVIPのすぐ北に位置する。
さすがに寒さに抗うことは適わないため、二人は戻ろうとした。
ただ、ショボーンは、歩くことでさえ億劫に感じている。
そんなショボーンを襲う疲労が吹き飛んだのは、このあと、彼のもとにかかってきた、一本の電話のせいだった。
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- 10 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:16:43 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンの胸に入ってある携帯電話が、VIPの夜の街に、けたたましい音を鳴らした。
若手がショボーンの顔をのぞき込むと、彼は急いで電話を取り出した。
折りたたみ式ですらない、古い携帯電話だった。
(´・ω・`)「はい、もしもし」
受話音量をおおきくしているのか、通話相手の声は、意識せずとも若手に聞こえた。
相手は、やけに低い、特徴的な声の持ち主だった。
『もしもし、私だが』
(´・ω・`)「伊達さん。どうも、こんばんは」
ショボーンは急に顔色を変えた、声の高さも変わった。
晴れやかとも、暗くとも言えない顔色だが、確実にショボーンは態度が豹変(かわ)った。
若手がショボーンの鄭重な姿を見るのは、久々だった。
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- 11 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:17:59 ID:Zin/TujAO
-
『いきなりで申し訳ないが、今すぐ、私のところへ来てほしい』
(´・ω・`)「え、今ですか」
『すまないが、一大事なのだ』
(´・ω・`)「しかし……」
若手は、伊達と呼ばれる男との通話を聞いていたのだが、
どこか、伊達の声が落ち着きのないもののように感じ取れた。
声が乱れており、ショボーンの発言に、間髪入れずに返している。
ショボーンは、まだ、残務処理が残っている。
待ってもらおうとしたのだが、伊達の一言を聞いて、ショボーンは固まった。
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- 12 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:19:08 ID:Zin/TujAO
-
『孫が、誘拐された』
(´・ω・`)「!」
( <●><●>)「!」
ショボーンはすぐに電話を切って一旦本部戻り、そしてすぐに出てきた。
冷や汗を垂らして、ショボーンは若手を連れ、覆面パトカーに乗り込んだ。
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- 13 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:21:36 ID:Zin/TujAO
-
−2−
(; <●><●>)「なにがあったのですか!」
突然の出来事に、覆面パトカーに乗り込んで、すぐに出した。
そして一つ目の信号に引っかかった頃合いを見て、若手は聞いた。
ショボーンは、落ち着いており、ここに、キャリア――この場合は、実地の経験を指す――の違いが見られた。
(´・ω・`)「営利誘拐≠セ」
若手とは対照的に、平静を保って、ショボーンはゆっくり言った。
しかし、若手は、事態を呑み込めないでいた。
( <●><●>)「営利誘拐……ですか」
(´・ω・`)「詳しくは、向こうで話してやる」
若手は、顔を歪めた。
いきなり連れて来させられたというのに、扱いが雑だったのが、気に喰わなかったのだ。
若手が身体を座席に預け、前を見ると、信号は青になった。
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- 14 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:24:04 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「向こう、とは、具体的にはどこですか?」
(´・ω・`)「伊達クール、という、宝石商を営む富豪の自宅だ」
( <●><●>)「電話で話しておられた?」
(´・ω・`)「ああ。丁度、シベリアとVIPの境だ」
( <●><●>)「なるほど、シベリア……」
寒くなるだろうなと、若手は身構えた。
暖房がようやく効いてきた車内で、若手はハンドルを握りしめ、前を見据えていた。
それからショボーンの道案内を頼りに、若手は覆面パトカーを運転した。
彼はシベリアへは何度か行った事があるので、特に迷いもせず、伊達邸に着いた。
なるほど、富豪というのが、見て、よく判るほどの豪華なものだった。
玄関の隣の車庫には、外車が並んで二台、見えるが
裏の駐車場には、さらに高級車が並んでいそうだった。
.
- 15 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:25:48 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが呼び鈴を鳴らすと、存外早く、伊達は玄関から顔を出した。
背が低くこじんまりとしているが、頭がおおきい。
若手は彼を不思議な人だな、と思って見ていた。
その顔からは、焦燥が窺え、ショボーンに手招きをしている。
若手を呼び、二人は伊達邸のなかに、伊達に招かれるがまま入っていった。
|(●), 、(●)、|「助かった。約束通り、早く来てくれたのだね」
(´・ω・`)「他ならぬ、あなたの頼みですから」
|(●), 、(●)、|「そちらは部下かな?」
伊達の、眼力の強いまなこが、若手をとらえた。
一瞬、若手はぎょっとして、言葉に詰まった。
すかさず、ショボーンは「そうです」と答えた。
.
- 16 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:28:15 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「VIP県警の若手ワカッテマスです。以後お見知りおきを」
|(●), 、(●)、|「ああ。私は伊達クールと言う者だ、よろしく」
にっと、伊達は歯を見せて笑った。
いやに不気味な笑顔が、若手の緊張を確たるものにさせた。
伊達は先々歩き、来客室に、彼ら二人を招き入れた。
そこには、格調の高い金と黒の電話が、寂しく置かれていた。
そのテーブルを挟んで、伊達と、ショボーンと若手が向かい合い、ソファーに腰を下ろした。
あらかじめ用意していたのか、伊達は、紅茶を彼らに差し出した。
ショボーンは礼を言って、朱い紅茶を、すすった。
ショボーンと若手が落ち着いている間に、伊達は、ポケットから、一枚のちいさなカードを取り出した。
カードをテーブルの上に置いて、伊達はショボーンを見た。
|(●), 、(●)、|「今日、帰ってきたら、これがあったのだよ」
(´・ω・`)「どれどれ……」
出されたカードを、ショボーンは、若手に聞かせるために、声を出して読んだ。
.
- 17 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:31:32 ID:Zin/TujAO
-
――― 孫が惜しければ、四億円、用意しろ。受け渡し方法は電話で指示する。わかっているとは思うが、警察には知らせるな。
ショボーンの声が、静まり返った伊達邸に、響き渡った。
若手は、ちいさく「信じられない」と、言った。
そして伊達が、ショボーンの顔を見て言った。
|(●), 、(●)、|「警察に内通者がいるかもしれない、そう考えると、どうしても連絡できなかったのだ。
だから、ショボーン君に、個人的に連絡したのだよ」
(´・ω・`)「事情は、概ねわかりました」
パソコンで作成されたであろう、その文章が書かれたカードをテーブルの上に置いた。
若手がつられてカードを見たのだが、身代金の桁のおおきさに、一瞬たじろいだ。
(; <●><●>)「四億……!」
|(●), 、(●)、|「払えない額では、ない」
伊達が、きっぱり言った。
若手が額に汗を浮かべたまま、伊達の顔を見る。
.
- 18 名前:名も無きAAのようです:2012/01/07(土) 21:32:56 ID:szrJYYEIO
- レベル2はきついな
見てるよ、C
- 19 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:33:04 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「だからこそ、請求したのが四億と、高額なのだろう」
(´・ω・`)「人質を『孫』と知っているのも、その所為でしょう」
|(●), 、(●)、|「ショボーン君。私の孫を取り戻し、誘拐犯を捕まえるには、どうすればいいのかね?」
伊達は、言葉のひとつひとつを丁寧に言って、訊いた。
そう簡単に、この誘拐事件が、納まるわけがないと、わかっているのだろう。
(´・ω・`)「まずは、書かれている『指示』が来るのを待ちましょう。それからです」
と、ショボーンは、慎重に答えた。
.
- 20 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:35:00 ID:Zin/TujAO
-
−3−
ショボーンがそう言ったきり、しばらく、沈黙が続いた。
電話がなかなか来ないのだ。
時計を見ると、もう日付が変わろうとしていることに、気がついた。
ショボーンは顎に手を当て、伊達は歳に似合わずそわそわしている。
一方で若手は、思考に耽っていた。
( <●><●>)「(私が刑事になってどれくらいか経つが、誘拐事件を扱うのははじめてだな)」
今まで、幾つもの死体、凶器、現場、そして犯人を見てきた若手だが、
逆に言えば、それ以外については、無知そのものなのだ。
そう考えると、急に、武者震いが彼を襲った。
落ち着こうと、伊達からいただいた紅茶を、口に運んだ。
カップを持ち、上目遣いで若手も柱時計を見ると、丁度〇時になる時だった。
.
- 21 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:36:53 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、;|「うわあ!」
(´・ω・`)「……!」
日付が十六日になったと同時に、電話が鳴った。
伊達はそれに驚き、腰を抜かした。
ショボーンは落ち着いて、伊達のもとに歩み寄り、耳打ちした。
というのも、ショボーンは、レコーダーを持ってきていなかったのだ。
(´・ω・`)「伊達さん、ここで僕が電話に出るとまずい。
. 伊達さんが出て、用件を訊いてください」
|(●), 、(●)、;|「あ、ああ」
まるで、電話の相手が誘拐犯である、と決めつけたような言いぐさだった。
しかし、若手もショボーンも、この電話は誘拐犯からの『指令』に違いない、と確信している。
伊達は、促されるがままゆっくり受話器に手を伸ばして、電話に出た。
.
- 22 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:39:29 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「も、もしもし、こちら、伊達です」
相手は、思ったよりも早く、応えた。
『金の用意はできましたか?』
|(●), 、(●)、;|「っ!」
(´・ω・`)「……」
受話器からは、ボイスチェンジャーを通したであろう機械音が聞こえた。
明らかに、誘拐犯その人のものだ。
伊達が狼狽するも、ショボーンは口に人差し指をあて、落ち着くよう促した。
|(●), 、(●)、;|「孫は、無事なんだろうな?」
『それは、あなたの出方次第ですよ、伊達さん。
それよりも、約束通り、警察には知らせてないでしょうね?』
伊達は、指示を仰ぐためにショボーンを見た。
どう答えればいいのか、迷いが生じたのだ。
ショボーンは即座に首を振った。
.
- 23 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:42:46 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、;|「もちろんだ、それよりも、孫の声を聞かせてくれ」
『それは、無理ですね。彼女は、抵抗が激しかったので、今は、眠らせてあります』
ショボーンは、相手の態度が偉く丁寧だな、と思った。
だが、やはり誘拐犯は、誘拐犯だった。
|(●), 、(●)、;|「……要求は、なんだ」
『今日、十六日の午前二時きっかりに、シベリア第三地区の三丁目に在るコンビニに来なさい』
|(●), 、(●)、|「第三地区といえば、ホウエンだな。その三丁目のコンビニだと?」
シベリアは、この国で一番広大な面積を持つ。
だから、一番都会である地区から順に第一地区、第二地区、そして第三地区と、分けられている。
それぞれに「カントー」「ジョウト」「ホウエン」と地名がつけられている。
身代金の受け渡し場所に、コンビニという意外な場所を選んできたため、伊達も思わず聞き返した。
.
- 24 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:46:02 ID:Zin/TujAO
-
『具体的な、受け渡し方法を、今からお教えします。一度しか言いませんので、よく聞くこと』
|(●), 、(●)、;|「……」
はじめから、伊達に拒否権はなかった。
それをあらためて自覚させられ、伊達は、いよいよ緊張してきた。
そして、犯人は、具体的な受け渡し方法を言ってきた。
それを、ショボーンは、しっかり聴いた。
まず、渡すのは四億円ではなく、一億円だった事が、ショボーンの鼻をひくつかせた。
一億円を二万円ずつ、五つのボストンバッグに詰める。
それを、伊達が独りで指定されたコンビニに向かい、トイレの個室に置く。
あとはすぐに去り、自宅で次の指令を待つこと、と。
すべてを話し終えると、相手は、伊達の言葉を聞く事もなく、すぐに電話を切った。
受話器をかけ、ようやく、伊達と若手とショボーンの三人は、安堵の籠もったため息をついた。
どっと疲れたようである。伊達は、ソファに深く身体を預けた。
電話が切れたのを確認し、ショボーンは、手帳にその受け渡しの手順をメモした。
そして、苦い顔をした。
.
- 25 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:50:22 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「妙だ」
( <●><●>)「まず、場所がコンビニなのが解せないです」
若手は、ショボーンの手帳を見て、真っ先にその点が腑に落ちなかった。
深夜だからといって、客が来ないわけではない。
しかも、店員が見ているはずである。
(´・ω・`)「それだけでない。四億という身代金を一度にして回収せず、
. 四回に分けて回収しようとしているのも、妙といえば妙だ。
. 回数が増える分、捕まってしまうリスクも高まるのに、な」
( <●><●>)「同感です。どうして、犯人は、分けるのでしょうか」
(´・ω・`)「二つの可能性が考えられる」
( <●><●>)「というと?」
若手が、興味深そうに訊いた。
ショボーンは肯いて続けた。
(´・ω・`)「一つは、四億という大金を、一度に運ぶとなると、骨が折れるからだ。
. 重いし、検問を張られては、車での逃走も危うい」
( <●><●>)「そうですね」
(´・ω・`)「もう一つは、向こうは、一人か二人の少数であるのか。
. 独りで運ぶには、一度に四億は多すぎる。
. 一億を機会別に運んだ方が、人数が少ない分リスクは減るしな」
( <●><●>)「少人数ならば、早速向こうで犯人を押さえれば、いいのでは? 応援を呼んで」
.
- 26 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:54:34 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは、この案に首を振った。
話には続きがあったようだ。
(´・ω・`)「もしかしたら、誘拐犯グループの五、六人のなかから、一人、二人だけを遣いに出しているだけなのかも知れないぞ。
. 残ったメンバーは、保険として、な」
( <●><●>)「……警察が見えたら、アジトに残っているメンバーで人質を殺す、などしそうですね」
それを聞いて、若手は肩をすくめた。
確かに、単独犯なら、これほど簡単な事件はないだろう。
しかし複数人いて、手下を回収に遣わせたとなれば、そうもいかない。
回数を重ねる、という前提のもと行われる回収作業だ、
そのリスクを負ってでも、別の利益を得ようとしているのだろうか。
しかし、そうだとすると、それによって得られるメリットはいったい。
若手は気がつくと、ひとりでに推理していた。
|(●), 、(●)、|「私はどうすればいいかね、ショボーン君?」
(´・ω・`)「素直に相手の要求を呑んで下さい。
. お孫さんの無事が確認できない以上、迂闊に出てはいけません」
伊達は肯いた。
ショボーンの言い分は、もっともだったからだ。
しかし、素直に相手の言われるがままになるのは、若手に言わせてみても、癪だった。
.
- 27 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:57:40 ID:Zin/TujAO
-
そして、ショボーンは、誰かに電話をかけた。
しばらくコールすると、相手が出た。
割とコールがかかったので、相手は席をはずしていたと思われる。
誰にかけたのか、若手に見当はつかなかった。
(´・ω・`)「ああ、もしもし。僕だよ」
『どうしたんですか、こんな時間に。しかも、急に本部を飛び出すし』
(´・ω・`)「ははは、ベルさん怒ってた?」
『かんかんでした』
電話先の男は、微笑した。
低い、渋い声で、相手はショボーンに敬意を払っているのが、聞いてわかった。
(´・ω・`)「それはそうと、今、お前とあいつは手が空いてるか?」
『自分は今も本部にいますが、あの子はどうでしょうね』
それを聞いて、ショボーンはにやっと笑った。
(´・ω・`)「じゃあ、ミルナ。ペニサスを連れて、今から言う場所に来てくれないか。内密で、だ」
( <●><●>)「ミルナ……刑事?」
.
- 28 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 21:59:52 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが陽気な声で言うと、相手は少し驚いていたが、渋々了承した。
あとでかけ直すと言い、ショボーンは電話を切った。
若手には、ミルナとペニサス、この人名に、心当たりがあった。
というより、知っていて当然の名だ。
双方とも、ショボーンの部下で、刑事だ。
伊達が、会社の部下にボストンバッグを五つ用意するよう、電話で怒鳴っていた。
そして、いそいそと金の用意をするなか、ショボーンの電話が鳴った。
相手はそのミルナで、ショボーンに道案内を頼んだようだった。
ショボーンの指示が数分続くと、ショボーンは電話を切った。
(´・ω・`)「外で、待ってようか」
( <●><●>)「はい」
.
- 29 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:01:28 ID:Zin/TujAO
-
伊達に一言言って、二人は外に出た。
この土地は、シベリアがすぐそこである分、VIPの警察本部よりも、いささか寒かった。
ショボーンが身体を覆い、小刻みに、そしてオーバーにふるえてみせる。
若手も、リアクションこそ見せないものの、やはり、寒いと思っていた。
この男は、簡単には心境を顔にださない。
( <●><●>)「ミルナ刑事を呼んだのですか?」
(´・ω・`)「受け渡し場所には、同行させないけどね」
( <●><●>)「では、なぜ?」
若手が訊くと、ショボーンは、笑って答えた。
(´・ω・`)「護衛、そして警備のためだよ」
.
- 30 名前:名も無きAAのようです:2012/01/07(土) 22:01:50 ID:GjX6N.w20
- さぁ張り切って発狂支援
- 31 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:04:11 ID:Zin/TujAO
-
三十七分に、タクシーに乗った二人の人物が、伊達邸に到着した。
運転手に礼を言って、白髪まじりの刑事は、タクシーから降りた。
同乗していた女刑事も、彼に続いてタクシーから降りた。
年かさの方の刑事は、ショボーンを見て、皮肉混じりの挨拶をした。
女の方も、それにあわせる。
( ゚д゚)「まさか、叩き起こされるとは、思いもしませんでしたよ」
(´・ω・`)「悪い、悪い。頼れるのは、あんたらしか居なかったんだ」
('、`*川「ミルナさんだけでいいんじゃない」
(´・ω・`)「いいや、二人居てくれないと、だめだ、ペニサス」
東風(ひがしかぜ)ミルナと伊藤ペニサスを見、若手は挨拶を交わした。
ベテラン刑事の東風は、若手とって、ショボーンよりも先輩である。
一方伊藤は、若手と同期の白衣の女刑事として、また視線を集めている。
しかし、彼女の功績は、若手ほど、輝いてはいなかった。
服装ととある才能以外は、至って普通だったのだ。
.
- 32 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:07:10 ID:Zin/TujAO
-
( ゚д゚)「しかし、誘拐事件とは、また厄介ですな」
(´・ω・`)「四億だからね」
( ゚д゚)「何度か一緒に解決したこともありましたよね、イツワリさん」
(´・ω・`)「……ああ、そうだな」
ショボーンには、肩書きがあった。
それは、VIP県警だけでなく、所轄署でさえ知らない人はいない、と言えるほどに、有名だった。
( <●><●>)「『偽りを見抜く敏腕刑事』……ですね、その肩書きは」
(´・ω・`)「まあ、ね」
ノンキャリアのショボーンが、上司からの絶対的な信頼を受けたり、
あっさりと警部に昇進できたのも、数え切れない功績があったからだった。
現場に隠された、いくつもの偽り≠見抜く。
ここで特筆するまでもなく、それの偉大さは、雄弁に物語られている。
(´・ω・`)「もっとも、今回の事件で見抜く必要なんてないんだけどね」
と、ショボーンが言っては、東風は、軽く笑った。
.
- 33 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:08:22 ID:Zin/TujAO
-
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第一章
「 誘拐事件 」
.
- 34 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:13:49 ID:Zin/TujAO
-
−4−
ショボーンらはタクシーを帰し、伊達邸に入った。
伊達に伊藤と東風を紹介し、ソファに座らせた。
忙しなく動いていた伊達は、もう、顔面汗だらけである。
彼は、ソファに腰掛け、額の脂汗を拭った。
(´・ω・`)「どんな感じですか」
|(●), 、(●)、|「金は用意してあるし、バッグもそろそろここに着く。あとは、二時になるのを、待つだけだよ」
「そうですか」と言い、ショボーンは、思い出したかのように伊達に問いかけた。
(´・ω・`)「そうだ伊達さん。お孫さんの写真かなにか、持ってませんか?」
|(●), 、(●)、|「写真? ああ、そういえばまだ見せてなかったね」
そう言って伊達は、自室である書斎に向かった。
数十分経ち、一時になる頃に、彼は一枚の写真を持って戻ってきた。
それが遅いのか速いのかは、人によりけりだ。
若手はとても遅く感じた。
.
- 35 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:16:18 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「お恥ずかしい、一枚しかなかったよ」
(´・ω・`)「お孫さんは写真が嫌いなんですね、きっと」
|(●), 、(●)、|「非行に走る寸前の、やんちゃ盛りだからね」
申し訳なさそうに言っては、写真をショボーンたちに見えるよう、テーブルの上に置いた。
数年前の写真だと聞くが、顔がその数年で変わるはずもないので、問題はなかった。
茶髪で、耳から大きなピアスをさげ、無愛想で不機嫌そうな態度が、写真越しに嫌でも伝わった。
口を尖らせて、眼も細め、こちらを睨んでいる。
背丈は一五〇もないだろう、今時の非行少女と言った印象を、彼らに持たせた。
.
- 36 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:18:57 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「名は、伊達つー。幼い頃に両親を失い、私が引き取って、我が子のように育ててきた。
ただ、そんな環境が、彼女をあんな風に育ててしまったのだろう」
( <●><●>)「さぞ、小遣いの要求もされるのでしょう」
|(●), 、(●)、|「わかるかい」
情けなく思い、伊達は頭を掻いた。
しかし、親を早くに亡くし、まして、引き取ったのが富豪となれば、致し方のないことだろう。
物心がついた頃には生みの親はいない、このことがどれだけ辛いことか、ショボーンは理解している。
「悔やんでも仕方ないですよ」と、慰めた。
.
- 37 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:21:25 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「さて、伊達さんに、幾つか質問があります」
|(●), 、(●)、|「なんでも聞いてよ」
(´・ω・`)「まず最初に、最後につーちゃんと会ったのはいつですか?」
|(●), 、(●)、|「ううん、いつだったかねえ」
伊達は、少し考える素振りを見せてから、自信なさげに、言った。
よほど会ってないように見受ける。
だが、彼女の容姿をみたあとで言えば、むしろそれが予想の範疇に属されているように思える。
|(●), 、(●)、|「一週間くらい前、だね」
(´・ω・`)「それは、普段からですか?」
|(●), 、(●)、|「ああ。よく、友人の家に泊まってたし、おかしい事じゃない。
ただ、あのカードを、見てしまった時に……」
(´・ω・`)「そのカードは、どこに?」
|(●), 、(●)、|「帰宅した時に、うちの執事が入ってたって」
(´・ω・`)「入ってた、と言いますと?」
ショボーンは、続けざまに質問した。
日頃から聞き込みをしているので、こういった質問は得意だった。
.
- 38 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:24:48 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「郵便受けに入ってたそうなんだがね、おかしな話だ」
ショボーンは「ふむ」と、言ってから、また別の質問を投げかけた。
(´・ω・`)「執事やメイドはどちらに?」
|(●), 、(●)、|「ああ、帰したよ。もしかしたら、誰かが内通者かもしれない。そう思うと怖くてね」
ショボーンは、頭がいいな、と、感心した。
伊達は、何かにつけて、内通者の存在におびえている。
つまり、言い換えると、執事も警察も信頼していないのだ。
いわゆる少数精鋭だ。そのおかげで、ショボーンたちは捜査がしやすいだろう。
だがショボーンは、伊達に限らず、いままでの誘拐事件の被害者には
なるべくそういうことはすぐに通報するよう、言ってきている。
(´・ω・`)「しかし、警備は、おつけなさい。刑事を二人、ね」
|(●), 、(●)、|「そこの、かね」
東風と伊藤を、伊達は舐め回すように見つめた。
ショボーンは、力強く、肯いた。
.
- 39 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:27:19 ID:Zin/TujAO
-
|
(●), 、(●)、|「なんのために、かね?」
(´・ω・`)「相手は、おそらくはあなたについて詳しい。
. 留守を狙ったり、あなたを襲ったりするかもしれないですよ」
|(●), 、(●)、|「なぜ、詳しいと言えるのかね?」
(´・ω・`)「誘拐犯が人質を誘拐する際、人質の彼女がこの家の孫娘であることを、あらかじめ知っていました。
. おそらくは、長い間ここを監視していたのではないか、と思われるのです」
|(●), 、(●)、|「そうか」
伊達も納得したところで、ショボーンは、次の質問を、した。
(´・ω・`)「最近、誰かにつけられている、または、誰かに見られている、そんな気はしませんでした?」
|(●), 、(●)、|「ないね」
伊達は、きっぱりと、言い切った。
|(●), 、(●)、|「昔から、割と危険な目に遭ってきたから、そういうのには敏感なんだよ私は。
そういうのを、感じていたら、そう言うよ」
(´・ω・`)「つーちゃんに、不審な動きは、見られました?」
すると、伊達は、顔を赤くした。
.
- 40 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:30:26 ID:Zin/TujAO
-
|(●), 、(●)、|「孫の動きが、どう関係すると言うのだね! あの子は、被害者だ!」
(´・ω・`)「もしかしたら、何かに関係するのかもしれないのです。
. 我々は、いつもそうやって、何気ない証言から真実を見つけもしました」
ショボーンの力強い説得に、伊達は、しばらく黙っていた。
伊達の心境はわかるが、ショボーンの言うことももっともだ。
それを理解し、伊達は怒りを鎮め、ぽつぽつと話し出した。
|(●), 、(●)、|「………変わった様子は、なかったよ。いつも通りだった」
(´・ω・`)「いつも通り?」
伊達は、ムッとした顔になりつつも、答えた。
|(●), 、(●)、|「私がなにを言っても無視で、金の話の時だけ反応する」
(´・ω・`)「つーちゃんが家に居るとき、彼女の食事は、どうされていたのですか?」
|(●), 、(●)、|「孫が自分で言って専属のコックにつくらせていたねえ。口だけは立派だから。
でも、そんな憎たらしい孫でも、大切な、孫なのだよ」
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- 41 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:33:16 ID:Zin/TujAO
-
最後の言葉を聞いて、ショボーンは礼を言った。
振り向いて、ワカッテマスに声をかけ、立ち上がった。
|(●), 、(●)、|「どうしたのだね?」
(´・ω・`)「我々は、今から先回りして見張っておきますから
. あなたは、指示通り、二時きっかりに身代金を持って来て下さい。独りで」
|(●), 、(●)、|「で、どうすればいいのかね?」
(´・ω・`)「言われた通り、置いて下さい。襲われそうな時はすぐに駆けつけます」
|(●), 、(●)、|「トイレに置いて、すぐに去って、帰宅すればいいのだね」
(´・ω・`)「はい。あとは、僕と相手との我慢比べです」
ショボーンは、彼独特の嫌な笑みを浮かべた。
彼が発奮する時に、自然と浮かぶ笑みだ。
ある種の恐ろしさも感じ取れる。
笑みを消さないまま、ワカッテマスとともに伊達邸を出た。
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- 42 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:36:11 ID:Zin/TujAO
-
最後の言葉を聞いて、ショボーンは礼を言った。
振り向いて、若手に声をかけ、立ち上がった。
|(●), 、(●)、|「どうしたのだね?」
(´・ω・`)「我々は、今から先回りして見張っておきますから
. あなたは、指示通り、二時きっかりに身代金を持って来て下さい。独りで」
|(●), 、(●)、|「で、どうすればいいのかね?」
(´・ω・`)「言われた通り、置いて下さい。襲われそうな時はすぐに駆けつけます」
|(●), 、(●)、|「トイレに置いて、すぐに去って、帰宅すればいいのだね」
(´・ω・`)「はい。あとは、僕と相手との我慢比べです」
ショボーンは、彼独特の嫌な笑みを浮かべた。
彼が発奮する時に、自然と浮かぶ笑みだ。
ある種の恐ろしさも感じ取れる。
笑みを消さないまま、若手とともに伊達邸を出た。
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- 43 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:39:00 ID:Zin/TujAO
-
若手が覆面パトカーを走らせている。
指定されたコンビニに向かい、静けさ漂う町並みを、若手は見ていた。
シベリアは、その寒さと広大な土地が有名である。
広い割に、いや、むしろ広いからこそ、あまり経済発展しておらず、人口密度も低かった。
代わりに自然に溢れ、特に鉱山資源が豊富とされており、鉱山物の輸出量も、国内トップである。
また、土地はあまり肥えてないが、なにぶん広いので、放牧に最適で、牧場がよく見られる。
なにより、山が連なり、それを利用したハイキングコースの幾つかは世界的に有名で、若手も何度かそこに訪れた事があった。
そのときは夏で涼しく、地元の人も優しいので、シベリアという町に、好印象を持っていた。
そんなシベリアで、営利誘拐という卑劣な行為が行われると考えると、若手は、我慢ならなかった。
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- 44 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:41:43 ID:Zin/TujAO
-
一時三九分。
覆面パトカーは、コンビニの近くの、針葉樹が多く生えている公園の陰に止められた。
ここからならトイレが見えて、向こうからはこちらは見つかりにくいだろうから、見張りには最適なのだろう。
それを確認する時、ショボーンの息遣いが変わり始めたことに若手は気が付いた。
( <●><●>)「どうしました?」
(´・ω・`)「ワカッテマスは、確か、誘拐事件を扱うのははじめてだな?」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「誘拐事件は、我慢との勝負だ。相手には、人質がいることを、決して忘れるな。
. いくら金を搾り取られても、卑怯な手を使われても、ただひたすら、我慢だ。
. 最後に勝つのは、僕らだからな」
( <●><●>)「わかりました。絶対に、犯人を捕まえましょう」
若手の揺るがぬ決意に、ショボーンが「よし」と言うと、早速見張りにかかった。
いつでも飛び出せる準備をしているし、拳銃も用意している。
二人は、何が何でも誘拐犯を捕まえる気でいた。
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- 45 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:44:02 ID:Zin/TujAO
-
−5−
問題の、二時が近づいてきた。
それまでは店には誰も入ってないし、誰も出ていない。
一度、仕入れを担当する業者であろう人が訪れたが、五分としないうちに
出て行ったし、誘拐犯の仲間でないことは、まず間違いなかろう。
そう考えると、ショボーンの来る前に既に犯人は中に入っているか、若しくは別の場所で待機しているに違いない。
トイレにも、店員以外は、近づいていないのだ。
(´・ω・`)「(どうやら、二時以降に訪れて、金を回収するつもりらしいな)」
おそらく、ショボーンの推理は、正しかった。
もし、先に潜伏し、伊達を襲うつもりなら、店員が店内にいるその誘拐犯を不審に思う。
ならば、誘拐犯は二時以降に来るとみて、まず間違いなかった。
( <●><●>)「あ、きましたよ」
(´・ω・`)「お?」
.
- 46 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:47:01 ID:Zin/TujAO
-
指定された時間より二分早く、伊達の乗る黒い外車が着いた。
お抱え運転手はいない。伊達が、自分で運転したと見ていいだろう。
彼は、二個のボストンバッグをそれぞれ両脇で挟み、残り三つは重ねて持って店内に入った。
問題は、店員が間違えて持って行ったりしないか、だ。
しかし、コンビニを指定したのは相手だ、何らかの対策はあらかじめ講じてるだろう。
伊達は、急ぎ足で店から出て、大慌てで車に乗り込み、ショボーンの指示した通り、すぐに帰路に着いた。
ここからが正念場だ、と自分に言い聞かせるようにつぶやき、若手も肯いた。
見張り始めて、凡そ十分が過ぎた頃だ。
ショボーンは、店員用のバックスペースに通じる扉が、少し揺れたのを視認した。
不審に思い、ドアに手をかけると、同時に、彼らに緊張が走った。
.
- 47 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:48:56 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「っ!」
コンビニの明かりが消え、店内の様子が、闇に溶けてみえなくなってしまったのだ。
不安が的中したショボーンは、すぐにドアを開け、コンビニまで一直線で駆けた。
若手も、彼に続いて全力で走った。
十秒もしないうちに店先に着き、自動ドアをこじ開けて、二人が入った。
すると、異様な光景を、彼らは目撃した。
(; <●><●>)「警部! 店員が、倒れています!」
(´・ω・`)「……誘拐犯だ、誘拐犯を探せ!」
店員が、もがいていた。
それも、泡をふいて、いかにも、苦しそうに。
.
- 48 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:52:16 ID:Zin/TujAO
-
( ;TдT)「くッ……ごえっ!」
( <●><●>)「大丈夫ですか!」
若手が、バックスペースに入る扉の手前で倒れている店員のもとに近づき、意識があるのかを、確認した。
まだ死んでいないのだが、もう手遅れだ、若手はそう察した。
もしかしたら彼は、犯人についてなにか知っているかもしれない。
だが、その証言を得られそうになかったのが、若手にとって口惜しかった。
店内に、この店員以外に人の気配がしなかったので、バックスペースに誘拐犯が
隠れているのではないか、そう思って、ショボーンが駆けだしたときだ。
そのバックスペースから、重い、金属製の扉が閉まるような音が、確かに聞こえた。
それが、バックスペースから店内に繋がる扉でない事は、すぐにわかった。
同時に、それが、店外に繋がる扉であるだろう、という予想も、おそらく当たっていた。
.
- 49 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:54:48 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「外だ」
自動ドアをこじ開けて、直ぐ様、外に躍り出た。
ショボーンは、コンビニについて詳しくないため、
バックスペースから店外に繋がる扉がどこにあるのかが、わからなかった。
しかし、音の出所からして、ゴミ捨て場のほうではないか、とショボーンは思った。
若手も、彼に続いて、外に出た。
ショボーンに続いて、ゴミ捨て場に向かうためである。
(´・ω・`)「い、いない……?」
( <●><●>)「この金網を、乗り越えたのでは?」
ゴミ捨て場の隣には、ショボーンの予想通り、バックスペースに通じるであろう扉があった。
関係者以外立ち入り禁止であるためか、通路として
一メートルの幅を確保するように、周囲には白い金網が張ってある。
この金網はブロック塀の上にあり、ブロック塀含め、これらの高さは
目測二メートル弱で、若手の言うとおり、乗り越えるには難しくない高さだ。
ショボーンは、金網に掴まり、そこから先の景色を、凝視して、舌打ちした。
.
- 50 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:56:53 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「まさか。ここから向こうに走ると、そこは住宅地だ。
. もし僕が誘拐犯なら、間違えても人家には向かわない……」
(;´・ω・`)「あっ!」
それを言ってから、ショボーンは顔を蒼くして、すぐにそこの扉を開いた。
やはり、重い金属製の扉だ。先程の音の出所は、おそらくここからだろう。
バックスペースに入ると、店長と思わしき人物は、いなかった。
こういった、コンビニでの夜勤の場合は、店員が一人でいることも多い。
ショボーンも、それについては知っていたのか、無人のバックスペースについては、なにも疑問を持たなかった。
彼は、すかさず、監視カメラのモニターを見た。
犯人が映っているかもしれないと思ったからだ。
しかし、すぐに驚愕した。
(;´・ω・`)「真っ黒だ! 電源がついていない!」
.
- 51 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 22:58:50 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「警部、外です!」
モニターは電源が消されており、店内の様子を見ることができなくされていた。
それを不審に思う間もなく、ショボーンは、若手と一緒に店内に飛び出した。
(´・ω・`)「おい、トイレを見ろ!」
( <●><●>)「はっ」
店員を踏まないように気をつけ、若手は、まっすぐトイレに向かって走った。
扉は、開いていた。
このことが、ショボーンにとっての不安を、的中させたものとなっていた。
(; <●><●>)「やられました! からです!」
と、若手は、トイレから顔を出して、大声で言った。
(;´・ω・`)「くそ!」
.
- 52 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:02:00 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは舌打ちをした。
が、止まっている場合でもないため、ショボーンは出口に駆けた。
若手にも同行させる。
店外に再び飛び出して、ショボーンは辺りを見渡した。
(´・ω・`)「ワカッテマス、検問を張らせろ。警察と救急車も呼べ」
( <●><●>)「はい」
若手は、公園の傍(わき)に停めてある覆面パトカーに向かった。
その間、ショボーンは道路へ出た。
このコンビニは、一本の長い道路の傍にできた店で、駐車場を兼ねたおおきなコンビニであるほか、
コンビニの近くには、覆面パトカーの停めてある公園、歯科医、コインランドリーなどが見える。
深夜だから当たり前だろうが、どこも明かりがなく、閉まっている。
目撃証言には期待できなかったが、一つ、わかった事があった。
公園からコンビニを挟んで反対側に、車が停まってあったという痕跡を見つけたのだ。
長らく停車させてあったのか、排気ガスの臭いが、ショボーンの鼻をくすぐった。
また、真新しい、タイヤのこすれた跡もそこに見えた。
.
- 53 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:08:08 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンは、今回、誘拐犯を追うのを止めた。
なにぶん、こちらはシベリアの土地にさほど詳しくない。
無理に追ってコンビニを空け、更なる被害を呼ぶよりかは、
コンビニと死体について捜査するほうが、よほどよかった。
ショボーンは店内に入り、雑誌コーナーで、シベリアのホウエン地区、
特に、ここルグロラージ区近辺の地図をとって、代金をレジに置いて、覆面覆面パトカーのもとへ持って行った。
店員はもう助からない、ショボーンはそう思って、可哀想に思った。
誘拐犯によってとばっちりに近い被害を受けたのだ、浮かばれないに違いない。
と、そこへワカッテマスが駆け寄ってきた。
先程まで見られた焦燥は、すっかり取り払われていた。
( <●><●>)「シベリア県警に通報し、また、検問、救急車も頼みました」
(´・ω・`)「どうだった?」
( <●><●>)「パトカーと救急車はすぐに着きそうですが、検問には期待できないです」
と、ワカッテマスは、口惜しそうな顔をしみせた。
ショボーンは「まあ、待ってみなさい」とワカッテマスを宥め、
地図を一旦覆面パトカーに置いて、コンビニに戻った。
.
- 54 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:11:03 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「シベリアの土地が広大なのと、時間帯が時間帯のため
まして、この時間帯のホウエン地区には、渋滞するところなんてないのが、致命的でした。
その気になれば、森にでも逃げれますからね、ここからだと」
(´・ω・`)「それで、検問には期待できないのか」
ショボーンも、口惜しそうな顔をする。
二人は、コンビニに入り、被害者のもとへ駆けた。
しかし、泡をはいて、もうぐったりしている。
仕方ないとは言え、早速犠牲者を出したことに、ショボーンは、自分自身に、腹がたっていた。
(´・ω・`)「毒殺だな」
( <●><●>)「毒殺と言えば、裏に、食べかけの弁当がありましたね」
(´・ω・`)「調べるか」
ショボーンは、重い腰をあげ、店員に合掌し、バックスペースに入った。
先程はとにかく急いでいたため、あまりなかの様子は見ていなかった。
.
- 55 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:13:17 ID:Zin/TujAO
-
パソコンや多くの書類が並べられているデスクの上に、弁当が広げられてあった。
店の弁当であるのは、容器を見るまでもなくわかる。
至極当然なのだが、逆にそれが、ショボーンにとって不思議だった。
(´・ω・`)「おかしいな。あらかじめ毒殺を図っていたわけじゃあないのか?」
店員が殺されたのは、間違いなく、二時以降だ。
それまで彼が生きていたのは、ショボーンたちが確かに目撃している。
だから、外部犯である可能性は、限りなく低いと言っていい。
しかし、弁当に毒を仕込むのには、バックスペースに入らないとできない。
他殺はまず間違いないので、店員以外の人間がこの弁当に毒を仕込まないと、だめなのだ。
.
- 56 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:16:34 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「わかりましたよ、あの業者が犯人です」
若手は、あの、お弁当類を運んできた業者を疑った。
しかし、それはありえなかった。
業者は、店内に入りこそすれど、バックスペースには入っていないからだ。
しかし、あの業者に話を訊かなければならない、と言うのにはかわりなかった。
(´・ω・`)「毒は、おそらく即効性だ。彼が死ぬまでは、彼はよく動いていた。
. ……そう考えると、余計に不思議なんだよな」
ショボーンは、再び食べかけの弁当を見た。
米が半分ほど。梅干しもタネだけであり、惣菜の半分近くは既に食べられていた。
鳥の唐揚げと鮭が残っている。
その鮭は、半分ほど食べられていた。
(´・ω・`)「箸や弁当のふたにでも毒が仕込まれていたら、こんなに箸が進んでいるはずがないんだ。
. 一口目で死ぬんだからな。というのに、この害者は、半分近くは食べ終えているじゃないか」
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- 57 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:19:20 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「なにかの惣菜に限定して、毒を仕込んだのでは?」
(´・ω・`)「その場合、害者がその惣菜を残すと作戦が失敗するのだぞ。なにに仕込んだというんだ」
若手は少し考えた。
( <●><●>)「鮭が食べかけですから、これに仕込んでいたのではないのでしょうか。
鮭と言えば定番の惣菜ですから、仕込む惣菜としては、最適です」
(´・ω・`)「……調べるぞ」
ショボーンは踵を返し、再び、店員のもとへ歩み寄った。
口臭を嗅いでいる。
(´・ω・`)「アーモンド臭はしないが、こりゃだめだな」
( <●><●>)「きっと害者は、鮭を食べて、用を足すかなにかの目的で、トイレに向かおうとしたのでしょう。
しかし、バックスペースから出る前に毒がまわり、苦しくなった。
壁に凭れかかろうとして、手を掛けた先が、照明のスイッチだった。
こう考えれば、筋が通りますよ」
.
- 58 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:22:09 ID:Zin/TujAO
-
(´・ω・`)「照明、か」
照明のスイッチは、バックスペースの扉のすぐ隣で、
冷暖房を管理するコントローラーの下に取り付けられてある。
手を掛ける位置としては、別段不思議ではなかった。
が、どこか、ショボーンは腑に落ちなかった。
すると、店の外に、何台かのパトカーと、救急車が同時に見えた。
なかから一人の若い刑事と、紺色の制服を着た鑑識が、ぶわあっと出てきた。
ショボーンは、刑事に挨拶に向かった。
相手も、すぐに気づいた。
(´・ω・`)「どうも、こんばんは。VIP県警の、ショボーンです」
( <●><●>)「若手ワカッテマスと申します」
(‘_L’)「手前、シベリア県警で警部を勤めているフィレンクトと申します。こんばんは」
やけに若い警部だった。
スーツの上に薄いベージュの服を着ており、背丈は一七五くらいか。
三十五、六歳のそのフィレンク警部トは、てきぱきと指示を下し、鑑識たちを動かした。
.
- 59 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:24:00 ID:Zin/TujAO
-
(‘_L’)「第一発見者はあなたたちですかね?」
(´・ω・`)「そうです」
(‘_L’)「いったい、なにがあったのでしょうか」
(´・ω・`)「僕たちは、とある事件の捜査でここに来ていたですが」
その語り出しで、ショボーンは、今までの経過について詳しく話した。
しかし、誘拐については話さなかった。
フィレンクトはふむふむと肯いて、手帳に、なにやら書き込んでいった。
(‘_L’)「では、害者が毒を盛られたのは、二時きっかりから五分までの間、とみてよろしいのでしょうか」
(´・ω・`)「おそらくは。ああ、それと、調べてほしいところがあります」
(‘_L’)「と、いうと?」
(´・ω・`)「照明のスイッチに付いてある指紋。
. それと、害者が食べていたであろう弁当の毒物反応です」
(‘_L’)「鑑識!」
.
- 60 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:24:45 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが言うと、フィレンクトは鑑識を二人、そっちに寄越した。
指紋のほうは存外早く、結果が出た。
しかしそれは、たいへん不可思議なものだった。
焦り顔の鑑識が、結果をフィレンクトに報告した。
すると、フィレンクトの顔が歪んだ。
(;‘_L’)「指紋が、拭き取られている?」
(´・ω・`)「なんだって?」
.
- 61 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:27:31 ID:Zin/TujAO
-
ショボーンが、聞き返した。
しかし、指紋は、確かに拭き取られていたという。
ショボーンは、もしかしたら、誘拐犯が触っているのではないか
と思っていたのだが、それどころか、店員の指紋すらなかったというのだ。
これはおかしいのである。
ふつうは、店員の指紋くらいは、付いていないといけないのだ。
(‘_L’)「確か、ショボーンさんの話だと、一度、照明は消されたのですよね?」
(´・ω・`)「はい。間違いありません」
(‘_L’)「しかし、害者は手袋をつけてないし、近くに拭き取ったと思われるハンカチ類もない」
(´・ω・`)「……妙だ」
ショボーンが考え込み、しばらく、三人の間には沈黙が続いた。
フィレンクトは、ショボーンを疑っているつもりは、毛頭ない。
しかし、おかしいと言えばおかしかった。
.
- 62 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:32:30 ID:Zin/TujAO
-
( <●><●>)「犯人が、タオルで指紋を拭き取ると同時に、消したのかもしれませんよ」
(´・ω・`)「店員は、照明の消えた直後に、この扉の前で倒れていた。
. つまり、店員と犯人は、照明の消える直前に顔を会わせていたことになる」
( <●><●>)「毒で苦しんだ店員が、そこで、犯人と会ったのでしょうか?」
(´・ω・`)「……なんとも言えないね」
(‘_L’)「とにかく、この事件は、シベリア県警が捜査を担当するようですが」
(´・ω・`)「その事なんですけどね」
ショボーンは、にやっと笑んだ。
(´・ω・`)「どうやらこの事件、VIPとシベリアでの
. 合同捜査の必要性が出てくるかもしれないですよ」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第一章
「 誘拐事件 」
おしまい
.
- 63 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/07(土) 23:40:48 ID:Zin/TujAO
- 長すぎて投下が嫌になったけど支援のおかげで発狂して乗り切れました、ありがとうございます。
シリーズ第二弾ですが、諸注意にも書いたように、今回は推理小説ではなく、サスペンス小説です。
「ざけんな!某逆転する裁判みたいな推理ものを期待してたのに!」って人には申し訳ないです。
そして、書きためを途中で急遽書式を変更したのですが、推敲が足りてない部分もあったようで、
(なるべく注意はしたけど)どこかに訂正漏れがあると思います。
もし地の文で「若手」が「ワカッテマス」となっていたら、それらは全部ミスです。ごめんなさい。
二章以降もなるべく推敲はしますが、同じような誤植があった場合は是非報告お願いします。
それと、一章は一度に投下しましたが、二章以降は節分けで投下したいです(−1− ←これ)。
二節ずつの投下が一番楽できりもよさそうですから、反対意見がなければそうしていきます。
が、章ずつの投下となると、一ヶ月に一回できるかどうかわからなくなるということをご留意願います。
とまあ、長々しく書いたけど、
読んでくださった皆さま、ありがとうございます!
- 64 名前:名も無きAAのようです:2012/01/08(日) 01:06:31 ID:bn9FR8MUO
- 乙!
- 65 名前:名も無きAAのようです:2012/01/08(日) 09:27:54 ID:0ODrvnsEO
- イツワリ続編キター!!!!
- 66 名前:名も無きAAのようです:2012/01/08(日) 18:43:06 ID:fRcQXhCc0
- 次回も楽しみにしてる
- 67 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:06:22 ID:ybSidoFEO
- この作品に自信がなくなってきた( ´ω`)
サスペンスじゃなくて推理を書けばよかったぞ( ´ω`)
というわけで、今から週末を使い、第二章投下しちゃいます
- 68 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:10:15 ID:ybSidoFEO
-
第二章
「 オオカミ鉄道 」
−1−
(‘_L’)「合同……と言いますと?」
すぐにフィレンクトが聞き返した。
(´・ω・`)「我々はとある誘拐事件の調査をしております」
( <●><●>)「警部!」
ショボーンが誘拐事件の話をしたので、若手はすぐに止めに入った。
確か、今現在ではこの事件は非公開、秘密裏で行われている捜査ではないのか。
しかし、ショボーンは「いいんだ」と言って、フィレンクトに続きを話した。
(‘_L’)「ゆ……」
能面のような表情が一変、フィレンクトは顔色をかえた。
しかし、まだ事態を呑み込めてないように思える。
(´・ω・`)「そして、その誘拐犯が、この殺人を犯したと見てまず間違いない」
(‘_L’)「……」
フィレンクトは、腕を組み、少し考え込んだ。
誘拐事件自体、そうメジャーなものではないため、フィレンクトは戸惑っているように見えた。
対応に困っているのか、誘拐事件に対する経験と記憶が足りていないのかはわからない。
少しすると、彼はそっと組んだ腕を崩した。
.
- 69 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:16:04 ID:ybSidoFEO
-
(‘_L’)「公式に合同捜査本部が置かれるかはわかりませんが、
こちらの事件でなにかわかったことがあれば、その都度連絡しましょう」
(´・ω・`)「何人か刑事を寄越しましょうか?」
(‘_L’)「いいえ、正式に協力依頼がないいま、その必要はありません。
それよりもあなたがたの話では、誘拐犯と思わしき人物は逃走に成功してるんですよね。
ここに長らく居ても、大丈夫なのですか?」
(´・ω・`)「……ふむ、それもそうですね」
あくまで、この事件と誘拐犯との関連性が証明されたわけではない。
しかし、状況だけで言えば、関連性は大いにあり得る。
こちらの事件はフィレンクトに任せて、ショボーンと若手は公園から覆面パトカーを出した。
二時、三二分を過ぎた頃の話である。
だが、深夜という実感はなかった。
まだ二〇時のような感覚だった。
.
- 70 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:19:01 ID:ybSidoFEO
-
( <●><●>)「わかりませんね」
運転席で、ハンドルをきるが訊いた。
(´・ω・`)「ひとつ、思い浮かんだ事があるよ」
ショボーンは、窓の外を眺め言った。
すっかり乗用車は通っていない。
高速道路でも走っているかのように、スムーズに走らせることができていた。
(´・ω・`)「あの店員、もしかすると、誘拐グループの一人じゃないかと思うんだ」
( <●><●>)「と、言いますと?」
(´・ω・`)「もし、店員が誘拐犯なら、すべての謎に合点がいくんだよ。
. 仮にそうだとすると、受け渡し現場に深夜のコンビニを選んだのは非常に合理的だ。
. なんせ、客がいなければ、完全に向こうの有利な場所だからね」
( <●><●>)「なるほど」
「しかし」と言って、ショボーンは怪訝な顔をした。
.
- 71 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:22:24 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「なぜ、店員は死んだのか」
( <●><●>)「仲間割れ、ですかね」
(´・ω・`)「しかし、ボストンバッグを持ち出すのはなかなか骨だよ。
. 一億は、あんたの思ってる以上に結構重い」
( <●><●>)「二万円が入ったバッグを、五つですものね」
(´・ω・`)「ほんとうなら、大人数でやった方が楽なのに。
. 皆で運び出し、片方がトランクに詰めている間に、片方が運転するよう動く」
( <●><●>)「え、車あったのですか?」
若手の言下の質問に「たぶん」と語尾に付け足したきり、ショボーンはだんだん話さなくなった。
自信はないようで、推測の域を越えないために、なにも言うべきではないと判断したのだろう。
また、彼には彼の考え事があるようなので、若手も、それ以上は言わなかった。
(´・ω・`)「(まず、あらかじめ犯人は店員と手を組み、店内に潜伏する。
. 伊達さんがバッグを置き去り、五分経ってから、店員が回収しようとするも毒殺される、か)」
(´・ω・`)「……ちょっと、待てよ?」
.
- 72 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:25:11 ID:ybSidoFEO
-
( <●><●>)「はい?」
ショボーンが急に呟いた。
彼の口癖のひとつに、自己の制止がある。
推理を中断させる際、つい言葉にして出してしまうのだ。
不思議そうに、若手がショボーンの様子を窺った。
( <●><●>)「どうしました」
(´・ω・`)「不思議なんだよなー。回収する直前に弁当なんか食うか?」
( <●><●>)「緊張を解そうとしたのでは?」
(´・ω・`)「いや、現に、害者は毒殺されたんだ。弁当を食わなければよかったのに」
( <●><●>)「促されたとか。『これからが正念場だぞ』、と」
(´・ω・`)「まさか」
と、ショボーンは微笑し、いよいよなにも話さなくなった。
覆面パトカーは、伊達宅に向かっていた。
等間隔に置かれた街灯の下を走り、明るくなったり暗くなったりがテンポよく続いていった。
それは、徐々に眠気を誘いもした。
.
- 73 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:27:42 ID:ybSidoFEO
-
照明を消し、乗り込むショボーンと若手を撒くために、ゴミ捨て場に通じる扉を開ける。
そちらに二人が向かっている間に、誘拐犯はトイレに向かい、五千万を持って、逃げ出す。
ショボーンが、この扉がフェイクであることに気づいて、店内に入るも、既に誘拐犯は去っていた、と。
ショボーンの推理は、だんだんとまとまってきていた。
問題は、その殺害に至るまでの筋道だ。
ここで、ショボーンに電話がかかってきた。
伊達邸にいる、東風からである。
(´・ω・`)「もしもし」
『伊達さんが帰宅しましたよ』
(´・ω・`)「無事だったか?」
『はい。といっても、本人は大慌てでしたけど』
東風が苦笑した。
とってつけたような笑いであると、すぐに察せた。
.
- 74 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:31:20 ID:ybSidoFEO
-
しかしながら、東風も伊藤も、初対面の時、伊達のことを敬遠気味に見ていた。
そのことを思い出して、ショボーンは遅れて微笑した。
ショボーンたちも、少しして伊達邸に着いた。
外で東風が待っており、覆面パトカーを見て、東風は大きく手を振った。
車を止め、ショボーンと東風は降り、首尾はどうかと尋ねた。
結果、伊達の身にはなにも起こってない、と応えられ、ショボーンは胸を撫で下ろした。
|(●), 、(●)、|「……逃がしたのかね?」
(´・ω・`)「申し訳ありません。殺人事件が発生してしまい」
|(●), 、(●)、;|「ささ、殺人ッ!?」
伊達は紅茶を呑み、ショボーンに事件のことを逐一聞いた。
「ふーん」と鼻を鳴らし、孫が殺されたわけではないと知って、安堵していた。
寧ろ、驚いたのは、孫が殺されたのかと勘違いしてしまったのだろう。
(´・ω・`)「さて、ここからが問題だよ」
( <●><●>)「なぜです?」
(´・ω・`)「誘拐犯はこっちの姿を見たはずだからね。警察に知らせたこと、ばれたね、ありゃ」
|(●), 、(●)、|「な、なんと!」
伊達は即座に怒鳴った。
しかし、ショボーンは落ち着きながら「まあまあ、聞いてください」と言って、彼を宥めた。
.
- 75 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:34:19 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「相手の要求は四億であり、まだあと三億が残ってるんですよ?
. 犯人がもう人質を殺すことはないでしょうな」
|(●), 、(●)、|「それはそうだが……」
(´・ω・`)「却って好都合だ。堂々と、VIP県警を総動員させようじゃないか」
( <●><●>)「しかし危険ですよ。一億でも、大金には変わりありませんからね。
もしかしたら、犯人は諦めてしまうかもしれない。
現時点にて、大々的に挑むのは、まずいと思われます」
興奮気味だったショボーンに対して、若手は冷静に言った。
続いて東風も「同感です」と言った。
若手が捜査一課に配属されるまでは、ショボーンは、よく東風と組んでいたのである。
そんな、冷静でベテランの東風がそう意見したため、ショボーンも聞き入れた。
.
- 76 名前:名も無きAAのようです:2012/01/13(金) 17:37:04 ID:Z4olW1QYO
- (´・ω・`)支援と指摘だよ
( <●><●>)「二万円が入ったバッグを、五つですものね」
(´・ω・`)「若手君、二万円くらいバッグにはいれないよ二千万円だろう」
- 77 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:37:27 ID:ybSidoFEO
-
('、`*川「警部、次の指令はいつ頃なんですか?」
(´・ω・`)「……わからないね」
('、`*川「相手はきっと警察を警戒しています。
ほっておくと、人質がなにか危ない目に晒されるのではないのでしょうか」
(´・ω・`)「しかし、いまの僕たちには手の下しようがないのも事実だよ」
伊藤が、控えめに意見した。
彼女はショボーンの部下で、数少ない女刑事である。
しかし、取り立てて美人というほどではなく、どちらかというと恐れられている。
彼女は、ところどころで『吐かし屋のペニー』と呼ばれているがゆえの所為だった。
一度、取調に彼女が同伴したことがある。
相手が卑怯な男で、苛立った伊藤が本性を顕わにしたのが、この異名の発端だった。
.
- 78 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:40:55 ID:ybSidoFEO
-
大人っぽい女性という印象の彼女が、鬼の形相になって取調をし、同伴していた刑事が先に震え上がったのだ。
相手もすっかり脅え、ぺらぺら話し始めたことから、彼女はよく男に尋問するようになった。
だが、女は尋問できないのが、彼女の弱点だった。
ちなみに、若手と同期ではあるものの、才能は平凡で、目立った活躍はしていない。
それでもショボーンは、伊藤の才能を信じている。
伊藤は、テーブルの上に置かれた電話を見てため息を吐いた。
彼女は、見張りも聞き込みも不得意なのだ。
怒りっぽい性分も手伝って、待つことが苦手なのだろう。
|(●), 、(●)、|「指令がないのなら、私は寝たいのだがね」
ショボーンは時計を見た。
それもそうだろう、もう、三時だ。
ショボーンは彼を寝かせ、残った皆に言った。
(´・ω・`)「いつ電話が来るかわからないし、万が一もあり得る。交代で寝よう」
( ゚д゚)「わかりました」
.
- 79 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:44:50 ID:ybSidoFEO
-
−2−
交代制で皆が眠りについたが、結局朝になっても電話も襲撃もなかった。
別に願っている要素ではないため、取り立てて不審に思うこともない。
日光に浴び、うんと背伸びをしたが、眠気も疲労もさっぱりとれなかった。
同日十六日、朝の六時になり、伊達が食事を用意してくれた。
食事と言っても、トーストに目玉焼きの、簡単なものだったが。
言うまでもないが、伊達は大層な金持ちだ。彼に仕えるコックもいる。
だからといって、伊達も料理ができないわけではないそうだ。
珍しいと思い、ショボーンたちは礼を言ってありがたくいただいた。
まずくもないが、取り立てて言うほどうまいわけでもなかった。
(´・ω・`)「そろそろ七時だな」
( ゚д゚)「イツワリさん」
(´・ω・`)「ん?」
( ゚д゚)「誘拐犯は、昨夜の〇時きっかりに電話を寄越したのですね?」
(´・ω・`)「ああ」
( ゚д゚)「ちょっと面白い仮説が浮かびました」
(´・ω・`)「ほう」
( ゚д゚)「ひょっとすると、誘拐犯は几帳面な性格なのかもしれないですよ」
.
- 80 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:52:34 ID:ybSidoFEO
-
(;´・ω・`)「は? …几帳面?」
ショボーンは、なんの話だと思った。
が、東風のほうは一貫して真面目な顔でいた。
( ゚д゚)「だって、考えてみてもくださいよ。
普通、身代金を要求するのに時間を気にする必要はないんです。
わざわざ時間を操作してまで指令を下すということは、
向こうの性格が几帳面であるのかもしれないですからな」
(´・ω・`)「はぁ。几帳面ねぇ……」
最初、言われてみてもさっぱりなままだったが、いざ言われてみると、尤もだ。
捜査の役に立つかはわからないが、特徴のひとつとして、ショボーンは脳に刻んでおいた。
以後も、電話の前で二人は話し合っていた。
今の東風の推理を踏まえるとすると、長針が十二を差すに近づくにつれ、自然と彼らの間に緊張が走るようになった。
そして、七時きっかりに、電話が鳴った。
.
- 81 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:55:37 ID:ybSidoFEO
-
東風の予想が的中したためか、ショボーンは少しばかし動揺した。
まさか、ほんとうに几帳面なのか。
ショボーンの動揺は、苦笑混じりなものだった。
(´・ω・`)「……伊達さん」
|(●), 、(●)、|「あ、ああ」
伊達が、落ち着きを保とうとしつつ、電話に出た。
通話先はボイスチェンジャーを使っていたので、
それが誘拐犯からの電話であることはすぐにわかった。
相手は、やはり落ち着いた、ゆったりとした口調で言った。
『まず、一億は確かにいただいた』
|(●), 、(●)、;|「次は、次はどこに運べばいい!」
伊達がつい大きな声を出すも、相手は微笑しながら、応えた。
『それよりも、警察を呼んだのはルール違反だよ』
(´・ω・`)「(……口調が変わってる?)」
.
- 82 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 17:58:32 ID:ybSidoFEO
-
|(●), 、(●)、;|「頼む、まだ孫は殺さないでくれ!」
『ルール違反は、ルール違反だよ』
|( ), 、( )、;|「あ、あああ……」
伊達は、誘拐犯の声を聞き、うなだれた。
だが、相手はすぐに電話を切ろうとはしなかった。
話には続きがあったのだ。
『どうせ、そこに刑事がいるのだろう? 彼に代わってくれたまえ』
|(●), 、(●)、;|「? …ああ、わかった」
誘拐犯は、ショボーンと話したがっていた。
相手の思考が汲めず、一瞬伊達は動揺した。
戸惑いながらも、ショボーンに受話器を渡した。
ショボーン以外の刑事はみな、黙っていた。
(´・ω・`)「……もしもし、代わったぞ」
『おやおや、ほんとうにいたとは』
.
- 83 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:01:16 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「待て、話をさせてくれないか」
『というと?』
(´・ω・`)「こちらはちゃんと三億用意している。払うつもりだ。お宅も、諦めるわけじゃあないんだろう?」
『……ふふ』
誘拐犯は微笑した。
ショボーンの食い下がりようがおかしかったのだろうか。
『いいだろう。警察がいようと問題ないのでな。君たちに、もう一度だけチャンスをやろう』
(´・ω・`)「! ありがたい。
(……やけに自信たっぷりだな)」
『今から、次の受け渡し場所と手順を言う。一度しか言わないから、よく聞きたまえ』
ショボーンは目配せして、東風にメモの指示を促した。
東風が手帳を用意したのを見て、ショボーンは肯いた。
(´・ω・`)「いいぞ、言ってくれ」
すると誘拐犯は、一度目の指令の時よりもやや早口で言った。
.
- 84 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:03:44 ID:ybSidoFEO
-
『今日の七時四七分に、オオカミ鉄道の「あさやけ4号」という列車が、シベリアホウエン地区のルグロラージ駅を発つ。
後ろから三両目、寝台車である九号車の、B−8のベッドの上に、一億を四つのボストンバッグに分けて詰め、載せろ。
そして、すぐに降りることだ』
(´・ω・`)「七時四七分に発つ『あさやけ4号』の九号車のB−8に、ボストンバッグ四つを、置けばいいんだな?」
ショボーンは、東風にメモさせるために、わざとゆっくり復唱した。
誘拐犯は肯き、続けざまに言って、一方的に電話を切った。
『ただし、金を持ってくるのは、あんただ、刑事さん』
.
- 85 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:07:25 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「! おい、ちょっと待て!」
(´・ω・`)「……切られたか」
最後に、気にかかることを言われた。
時間を稼ぐという意味でも、その点を問おうと思ったのだが、先に切られてしまった。
切られたあとでなにを言っても仕方がない。
彼は口惜しそうに電話を戻し、東風のほうを見た。
要点を、箇条書きでメモし終えている。
ショボーンは「よし」と言った。
( <●><●>)「どうでした」
電話が終わり、若手がすぐに問いかけた。
すると、ショボーンは
(´・ω・`)「方法は、ぎょろ目に言ったとおりだ」
東風を見て、そう言った。
ショボーンにぎょろ目と呼ばれたが、東風は気にしていなかった。もう慣れているようだ。
(´・ω・`)「しかし、やはり妙だ」
( ゚д゚)「やはり、受け渡し場所が列車だから、でしょう。
全ての駅に検問を張れば、呆気なく捕まえることができます」
(´・ω・`)「それに、今度はボストンバッグを四つときた」
( ゚д゚)「電車だから、でしょうかね」
(´・ω・`)「それもあるのかなあ。
. それより、最後に、金を持ってこさせるのに、伊達さんではなく僕を指名したんだ」
.
- 86 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:09:29 ID:ybSidoFEO
-
ショボーンは、驚いたというより、むしろ呆れたと言いたげに溜息を吐いた。
全く、相手の思考が読めないからだ。
ボストンバッグの数については、東風の言うようにいくらでも説明はつきそうだが、
受け渡しの立ち会いに、相手はショボーンを選んできた。
そのことが気がかりで、ショボーンの思考を散漫させた。
ショボーンが金を渡す、つまり、警察との差しの勝負に、誘拐犯が自ら望んだというのだ。
まして、列車である。
ショボーンは「時間がないぞ」と、自分に言い聞かせるように呟いて、立ち上がった。
若手も彼に続いて立ち上がった。
(´・ω・`)「伊達さん、ボストンバッグと身代金の用意はお済みですか?」
|(●), 、(●)、|「ああ。と言っても、バッグは五つ用意してしまったがね」
伊達は申しわけなさそうに言った。
.
- 87 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:11:47 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「よし。ぎょろ目とペニーは、伊達さんと一緒に四つのバッグに金を移し替えてくれ」
東風と伊藤は承諾し、伊達と一緒に、バッグの用意に取りかかった。
若手が「我々はどうしましょう」と訊くが、ショボーンは急に外に飛び出した。
なにがあったのだと思って、若手も一緒に外に出た。
覆面パトカーに乗り込み、ショボーンが言った。
(´・ω・`)「時間がない。VIP県警から、直々にオオカミ鉄道に協力を要請する」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「オオカミ鉄道本社に向かってくれ」
覆面パトカーは、ゆっくり動き出した。
時間が、ない。
その言葉が、若手の緊張感を増幅させた。
.
- 88 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:19:12 ID:ybSidoFEO
-
ショボーンは、覆面パトカーが出発すると同時に、VIP県警本部に連絡をとった。
部下の動揺の混じった声が聞こえたが、ショボーンの「誘拐事件」というワードを聞くと、
向こうは急に狼狽し、それに合わせて矢継ぎ早にショボーンが用件を言った。
誘拐事件の件や、オオカミ鉄道への協力要請の件だ。
そして「また連絡する」と言い、ショボーンは足下から、地図を拾い上げた。
( <●><●>)「それは、あのときの」
(´・ω・`)「役に立つとは思わなかったけど。
. こいつを見て、オオカミ鉄道の例の列車が停まる駅を、徹底マークする」
ショボーンがそう言うと、早速ページを繰っていった。
ルグロラージ駅から、オオカミ鉄道の『あさやけ4号』が停まる駅を、ひとつひとつチェックしていった。
列車が切り離される、シベリアジョウト地区のクロコーダイル駅に至るまでを、だ。
隣り合った地区といえど、朝から半日を費やして移動するほどの長い距離だ。
それは、クロコーダイル駅が、シベリアの北部にまで続いている所為でもあった。
切り離し以降は普通列車は運行停止とあったため、それ以降は見る必要もなかった。
向こうとしても、そうなる前に逃走を図るに違いないからだ。
.
- 89 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:22:46 ID:ybSidoFEO
-
そして、再びVIP県警のほうに連絡をとった。
しばらくコールが鳴り、やがて出た人の息遣いは荒かった。
忙しいのだろう、無理もない。
(´・ω・`)「今から駅名を言うから、それぞれに何人か寄越せ」
と、言って、矢継ぎ早に、駅名を告げていった。
『あさやけ4号』が停まる駅名である。
(´・ω・`)「ひとつでも構わん、紺色のボストンバッグを持った怪しい者がいれば、捕まえてなかを調べろ。
. 札束が入っていれば、重要参考人として署へ連行しろ。シベリア県警と連携をとって、な」
そして、ショボーンは、再び「また連絡する」と言った。
早口言葉のように次々言ったのに、平然としていた。
彼らを乗せた車は、オオカミ鉄道本社のあるVIPへ向かった。
幸い、そう遠い距離ではない。車で、十分前後の距離だ。
七時一〇分を過ぎた。
ショボーンが少しずつ焦燥に駆られてゆくのが、声を聞くだけで、わかった。
.
- 90 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:26:24 ID:ybSidoFEO
- 二節まで投下を終えたので、一旦休憩します
今日中に二章を投下して、あわよくば明日明後日で三章を投下したいな
それと訂正
>>76の仰る通りで、
× >( <●><●>)「二万円が入ったバッグを、五つですものね」
○ >( <●><●>)「二千万円が入ったバッグを、五つですものね」
推敲不足です、すみませんでした。
- 91 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 18:27:56 ID:ybSidoFEO
- あああああああああああああああああ>>90は>>71の訂正です
訂正の訂正でした
- 92 名前:名も無きAAのようです:2012/01/13(金) 18:52:46 ID:Z4olW1QYO
- ( ^ω^)休憩中支援だお
- 93 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:41:36 ID:ybSidoFEO
- ついに一人将棋で俺に勝ち越し成功した!
俺との戦績は14勝13敗で、俺が俺に1勝リード
勝って気分がいいからすらすら投下できそう
というわけで投下再開します
- 94 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:45:57 ID:ybSidoFEO
-
−3−
覆面パトカーが、オオカミ鉄道本社に着いた。
案内係と思われる人物がその玄関で待っており、すぐに総裁のもとへ案内してくれた。
時計を見ると、七時二二分だった。
総裁も、時間がないのを知ってのことか、すぐに顔を出した。
わりと細く、背の高い人物だった。
爪'ー`)「オオカミ鉄道総裁の、大神(おおがみ)フォックスと申します」
(´・ω・`)「県警のショボーンです」
( <●><●>)「若手です」
二人が頭を下げた。
向こうもそれに応え、会釈した。
.
- 95 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:49:24 ID:ybSidoFEO
-
爪'ー`)「やっていいかね?」
(´・ω・`)「あ、どうぞ」
大神は、キセルを取り出して、尋ねた。
常に吸ってないと落ち着かないのか、うずうずしている。
ショボーンは、ここに五分も居座るつもりはなかったので、了承した。
爪'ー`)y‐~~
爪'ー`)y‐「ふぅ。これがないと、ね」
(´・ω・`)「早速ですみませんが、予め電話で伝えたように、『あさやけ4号』のほうで
. 身代金の受け渡しが行われるので、そちらの協力を――」
ショボーンが全てを言う前に、大神が口を開いた。
煙を吹かし、どこか落ち着いていた。
爪'ー`)y‐「いいですよ。話はつけてますから」
(´・ω・`)「…ありがとうございます。
. (やれやれ、臭いな)」
- 96 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:52:32 ID:ybSidoFEO
-
爪'ー`)y‐「で、ここに来た用件は、それだけじゃないのでしょう?」
(´・ω・`)「まあ」
( <●><●>)「え?」
(´・ω・`)「我々は、『あさやけ4号』に同乗します。
. 車掌長にも話を付けていただきたい」
爪'ー`)y‐「そういうと思って、既に話はつけました」
(´・ω・`)「……!
. (妙に早いな)」
ショボーンの急な要請に、大神は驚きもせず、すんなり受け入れてくれた。
それだけでなく、なんら必要な手続きを挙げていっても、その全てを既に済ましていると言う。
妙だと思ったが、四の五の言っている暇はなかったため、
ショボーンと若手は礼を言って、足早にそこを去った。
この間、なんと三分だ。
.
- 97 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:55:22 ID:ybSidoFEO
-
覆面パトカーに乗り込み、若手が運転する間、ショボーンは東風と連絡を取っていた。
ボストンバッグを持ってすぐにショボーンと落ち合うよう、駅での待ち合わせを取り付けたのだ。
ショボーンの指示で、覆面パトカーはルグロラージ駅に着いた。
二人が降りると、丁度同じタイミングで、東風、伊藤と会った。
ボストンバッグを若手とショボーンで二つずつ持ち、停車している『あさやけ4号』に向かった。
( ゚д゚)「イツワリさん、乗車するんですか?」
(´・ω・`)「ああ。車は返しといてくれ」
東風が肯き、車はすぐに発った。
彼らを見送ることはなく、ショボーンは時計を見た。
七時三九分、そろそろ発車だ。
.
- 98 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 19:59:02 ID:ybSidoFEO
-
急ぎ足で、プラットホームへ出た。
ベージュの車体で、上の方に二本、赤のラインが横に伸びている。
九号車から乗車しようとしたのだが、乗降口がなかったので、仕方なく八号車から乗り込んだ。
既に何人かの乗客がいたのだが、なにぶん、若い客が多い。
そのせいか、皆の好奇の視線がショボーンたちに突き刺さり、それは痛かった。
(´・ω・`)「(このなかに誘拐犯がいるのか?)」
とショボーンは警戒しながらも、寝台車である九号車に向かった。
誘拐犯の言っていた通り、後ろから三両目で、上下二段式の、B寝台だった。
二列構成で、縦に四つの席があり、全部で十六の数の席が、並んである。
誘拐犯の指定では、右列であるBの、一番後ろの下段だった。
乗客だが、ここが寝台車であるだけあり、席のほとんどは埋まっていた。
昨夜から乗っているのであろう、特に気にはかからない。
朝だけあって大半はベッドを折りたたんでいるが、カーテンを閉めて寝息をたてんとする者もいる。
.
- 99 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:01:35 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「(このなかに誘拐犯がいると思うんだけどなあ……)」
そう思いながら、B−8のベッドに、ボストンバッグを四つ置いた。
すると、ショボーンはとあることに気がついた。
(´・ω・`)「なるほど。このベッド、五つ突っ込むと、上に載せた一つがバランスを崩して通路に落ちそうだ」
( <●><●>)「『四つ』とは、ベッドの大きさに合わせたのでしょうか」
(´・ω・`)「おそらくそうだろう。頭のいい誘拐犯だ」
と、ワカッテマスと小声で話した。
ボストンバッグを手早く積み、見られないうちに、カーテンを閉めきった。
おそらく、一般の乗客には見られていないだろう。
すると、前方の扉から、一人の男が駆け足でやってきた。
どうやら、言っていた車掌長のようである。
( ゙ゞ)「お話は伺っております。VIP県警のショボーン警部と若手刑事ですね?」
.
- 100 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:04:34 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「(このなかに誘拐犯がいると思うんだけどなあ……)」
そう思いながら、B−8のベッドに、ボストンバッグを四つ置いた。
すると、ショボーンはとあることに気がついた。
(´・ω・`)「なるほど。このベッド、五つ突っ込むと、上に載せた一つがバランスを崩して通路に落ちそうだ」
( <●><●>)「『四つ』とは、ベッドの大きさに合わせたのでしょうか」
(´・ω・`)「おそらくそうだろう。頭のいい誘拐犯だ」
と、若手と小声で話した。
ボストンバッグを手早く積み、見られないうちに、カーテンを閉めきった。
おそらく、一般の乗客には見られていないだろう。
すると、前方の扉から、一人の男が駆け足でやってきた。
どうやら、言っていた車掌長のようである。
( ゙ゞ)「お話は伺っております。VIP県警のショボーン警部と若手刑事ですね?」
.
- 101 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:18:38 ID:ybSidoFEO
-
百六十五センチほどで痩身の、小柄な男がショボーンと若手に声をかけた。
顔のしわから察するに、歳は四十は超えていそうだ。
わりと甲高い声を持つ彼は、あわてて
( ゙ゞ)「申し遅れました。車掌長の、関ヶ原デルタと申します」
と、自己紹介を述べ、頭を下げるので、ショボーンも、半ば焦り気味に、礼をした。
車掌長と自称する関ヶ原は、ショボーンたちのことを存じていた。
総裁の大神から連絡が届いたと言っていた。
彼には、もし誘拐犯と思わしき怪しい人物が見られた場合、
その都度ショボーンに知らせるよう、頼んである。
「よろしく」と言って、ショボーンは時刻を確認した。
.
- 102 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:20:57 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「(そろそろ発車か)」
車掌長は持ち場に戻るといい、ショボーンたちの前からそそくさと駆けていった。
彼の姿が見えなくなってから、若手は、ショボーンに小声で話しかけた。
( <●><●>)「さて、どうします?」
(´・ω・`)「降りる」
( <●><●>)
( <●><●>)
( <●><●>)「え?」
ショボーンは、いきなり降りる、と言った。
いきなりの決断、そして行動に、当然若手はたじろいだ。
ショボーンは急に九号車から八号車に向かい、乗降口を降りたのだ。
若手には、何のことか、わからなかった。
(; <●><●>)「警部!」
.
- 103 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:23:36 ID:ybSidoFEO
-
焦った若手が、先々歩くショボーンめがけて大きな声で叫んだ。
するとショボーンは、出口に向かうと思われたものが踵を返し、
七号車前方にある乗降口に乗り込み、半身だけを外にのぞかせて、若手に手招きした。
若手は混乱寸前だった。
彼が追いかけて七号車のデッキに踏み込んだ直後、扉は閉まった。
(; <●><●>)「どうしたのですか、急に!」
(´・ω・`)「ばーか、帰るわけないだろうが。今のは、芝居だ」
( <●><●>)「芝居?」
まだ、ショボーンの意図がわからなかったが、
彼が本気で帰るつもりではないとわかり、若手は胸を撫で下ろした。
一頻り若手を貶してから、ショボーンは本題に入った。
(´・ω・`)「誘拐犯は、九号車の人間だ。
. 僕らが金を置いて帰らないとばれては、なにされることややら」
( <●><●>)「……ああ、それで、一旦プラットホームに出て、帰ると見せかけて、七号車から乗り込んだわけですか」
.
- 104 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:25:59 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「僕らが居座る方針でいるとわかったら、向こうは根城にいる仲間に連絡をして、人質を殺すよう言うだろう。
. 既に、五千万は奴らの手中にある。なんの躊躇いなく、殺してきそうなものだからな」
( <●><●>)「それも、そうですね」
と若手は苦笑した。
ショボーンは、彼とは対照的に、ニヤッとした。
(´・ω・`)「僕はね、コンビニの店員が誘拐犯の一人じゃないか、ってにらんでるんだよ」
( <●><●>)「まあ、考えにくい話では、ありませんね」
(´・ω・`)「そこで、だ。犯人グループ像が、自然と浮かび上がってきそうじゃない?」
( <●><●>)「と、言いますと?」
若手は、先を促した。
ショボーンの不適な笑みは、まだ失せてない。
.
- 105 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:31:58 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「あとでぎょろ目たちに害者の人間関係を根こそぎ洗わせるつもりなんだ。
. 今回の誘拐事件は、裏でつながっている人同士で犯されたものに違いない。
. なにかそれらしい関係が浮かび上がれば、捜査もしやすいだろ?」
( <●><●>)「警部は、その犯人グループ像についてはどのようにお考えですか?」
ショボーンは、少し間を置き、考えてから
(´・ω・`)「若いね」
( <●><●>)「店員と、同じ年齢層の人物らで組まれたグループ、と?」
ショボーンは首をかしげた。
(´・ω・`)「いやあねぇ、グループで行われる誘拐事件って、チームワークが大切なんだよ。
. しかし、向こうは仲間割れしている。エゴイズムな、今時の若者の犯行という気がしてならんのだ」
( <●><●>)「店員は、見て呉れで言うならば学生でないことは確かです。
そう考えると、過激なフリーターたちで組まれたのでしょうかね」
.
- 106 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:35:48 ID:ybSidoFEO
-
ショボーンは「そうかもね」と言って、軽く笑った。
そして、大神総裁からいただいた時刻表を見て、若手にそれを押しつけた。
(´・ω・`)「これは長距離列車だからね、停まる駅も数多だ。いつ誘拐犯が動くかわからない。目を通しておけ」
( <●><●>)「はい」
シベリアのなかで南に位置するホウエン地区の、更に南に在るルグロラージ駅から
更にジョウト地区の北端に向かうだけあって、停まる駅の数は、確かに多かった。
そのなかに、乗換によく用いられる駅も幾つかあったので、これは大変だ、と若手は思った。
.
- 107 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 20:57:54 ID:ybSidoFEO
-
まず、八時一六分に、ホチクライナ駅に着く。
ルグロラージ駅から半時間近くかかるが、ホチクライナ駅からは、わりと小刻みで駅が点在している。
ショボーンは、これだときりがないと言い、その中の幾つかの駅をピックアップして、手帳に書き込んだ。
イルミネーゼ駅 九時三五分 発
クナックラー駅 九時五三分 〃
ラルトロス駅 一〇時四二分 〃
○ゴドーム駅 一二時〇一分 〃
ネイティリオ駅 一三時二九分 〃
カラスコマチ駅 一七時五二分 〃
それを見て、ワカッテマスは訊いた。
( <●><●>)「これは?」
(´・ω・`)「僕がにらんだ、誘拐犯が金をおろすのに使いそうな駅だよ」
( <●><●>)「なにを根拠になされたのですか?」
(´・ω・`)「この駅は、全てが三分停車なんだ。金をおろすのには、充分すぎる時間だろ?」
( <●><●>)「なるほど」
.
- 108 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:00:12 ID:ybSidoFEO
-
まず、八時一六分に、ホチクライナ駅に着く。
ルグロラージ駅から半時間近くかかるが、ホチクライナ駅からは、わりと小刻みで駅が点在している。
ショボーンは、これだときりがないと言い、その中の幾つかの駅をピックアップして、手帳に書き込んだ。
イルミネーゼ駅 九時三五分 発
クナックラー駅 九時五三分 〃
ラルトロス駅 一〇時四二分 〃
○ゴドーム駅 一二時〇三分 〃
ネイティリオ駅 一三時二九分 〃
カラスコマチ駅 一七時五二分 〃
それを見て、ワカッテマスは訊いた。
( <●><●>)「これは?」
(´・ω・`)「僕がにらんだ、誘拐犯が金をおろすのに使いそうな駅だよ」
( <●><●>)「なにを根拠になされたのですか?」
(´・ω・`)「この駅は、全てが三分停車なんだ。金をおろすのには、充分すぎる時間だろ?」
( <●><●>)「なるほど」
.
- 109 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:03:30 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「あくまで、僕の予想だ。もちろん、三十秒で発つような駅でも、逆に相手が運び出すかもしれない。
. 僕たちが追いかけようとして、降りる前に扉が閉まったら、どうしようもないからね」
( <●><●>)「それはわかるのですが、ゴドーム駅にだけ、丸印がついてますが、これは?」
(´・ω・`)「ああ、これは、僕が一番にらんでる駅だ」
( <●><●>)「と、いうと?」
(´・ω・`)「ゴドーム駅も三分停車だけどね、ゴドーム駅に着く時間を考えてごらんよ」
若手は、ゴドーム駅発の一二時〇三分という時間を見た。
三分停車、という言葉で、若手は閃いた。
( <●><●>)「わかりましたよ。一二時きっかりに、到着するのですね?」
(´・ω・`)「そうだ」
.
- 110 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:06:27 ID:ybSidoFEO
-
( <●><●>)「しかし、それがどうしたのです?」
(´・ω・`)「僕も、ひょっとしたらって思っただけなんだけど、誘拐犯は、ぎょろ目の言うとおり几帳面な性格の持ち主かもしれない。
. 今までの指令の電話も、時刻に関しては無意味にきっちりしていた。
. それを考えると、どうも、一二時きっかりというのが、気にかかるんだ」
( <●><●>)「ほう」
(´・ω・`)「そして、ゴドーム駅の前の駅はラルトロス駅なんだけど、ラルトロス駅を一〇時五〇分に発ったきり、ゴドーム駅まで、どの駅にも停まらないんだ」
若手は、もう一度時刻表を見た。
確かに、ラルトロス駅からゴドーム駅までに、一時間以上間が空いている。
ショボーンは更に続けた。
.
- 111 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:09:04 ID:ybSidoFEO
-
(´・ω・`)「また、ゴドーム駅には『ゴドームドーム』というおおきなドーム球場があるし、
. それが在るのは『ゴドームパーク』という広大な面積を持つ公園だ。
. 陸上競技場も在ると聞くな。以上のことを踏まえると、ゴドーム駅が怪しく思えるんだ」
( <●><●>)「なるほど、確かにゴドーム駅は怪しいですね」
(´・ω・`)「まあ、あくまで予想だけどね。それより、そろそろ動くぞ」
時計を見ると、そろそろ最初のホチクライナ駅に着きそうだった。
七号車から八号車に渡り、ショボーンはデッキの扉の窓から九号車を覗いた。
(´・ω・`)「まだ、とられているわけではなさそうだが……」
ショボーンは、ボストンバッグを置く際、既にとられたかどうかをいつでも確認できるように、目印を残しておいた。
カーテンの端を折り、一度カーテンを開閉すれば、折れが直るようにしておいたのだ。
ショボーンは、その折れがまだあるのを見、そう言った。
( <●><●>)「到着まで、待ちましょうか。今見ても仕方がないですし」
(´・ω・`)「そうだな」
.
- 112 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:12:49 ID:ybSidoFEO
-
寝台車である九号車、十号車には乗降口がない。
そこにいる乗客が降りようとするなら、デッキ、もとい八号車に向かわなければだめなのだ。
どの道自分らのいる場所を通らないとだめなため、焦る必要はない、と若手は言った。
十一両目だが、そこはそもそも客車ではなく、何らかのサービスを目的にした荷物車だと聞いている。
このことに、ショボーンは、オオカミ鉄道らしいなと思っていた。
(´・ω・`)「デッキで待つのもあれだし、八号車で待機しておくか」
( <●><●>)「車椅子用のスペースで待ちましょう」
デッキをでてすぐ隣に、車椅子を使用の乗客が居ることのできるスペースがある。
幸い、そこには人がいないので、そこで二人は待機した。
デッキから顔を出し、横目で九号車の様子を確認するが、B−8に近づく者はいない。
程なくしてホチクライナ駅に着いた。
すぐに、ショボーンは九号車を覗いた。
まだ、金はとられていない。
そして、九、十号車には降りようとする乗客も、いなかった。
(´・ω・`)「駅に着くたびに、こうしなくちゃいけないのか。せわしないな」
と、笑った。
.
- 113 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/13(金) 21:14:24 ID:ybSidoFEO
- 訂正ばかりで申し訳なかったです。
残り二節は明日投下します。
誤字脱字があれば、なんの躊躇いなく突きつけてください。
では、後日……
- 114 名前:名も無きAAのようです:2012/01/13(金) 21:53:36 ID:p9NqqsPI0
- 乙
明日も楽しみにしてる
- 115 名前:名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 11:25:48 ID:8kWscHEoO
- 乙!
- 116 名前:名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 13:56:36 ID:pz/4caFkO
- 香りでぶひゃぶひゃ笑ってたショボンはいずこへ
- 117 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:19:30 ID:CbDEPBqwO
- (´・ω・`)「誘拐事件で笑ってられる場合か」
- 118 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:24:57 ID:CbDEPBqwO
-
−4−
朝の日射しがなかなかに眩しく、一方で厳しい寒さが襲ってくるため、妙な気分になっていた。
どうも寒さは苦手だ。それが、シベリアの乾燥した大気となれば、尚更だった。
東風と伊藤はシベリアにいた。
誘拐犯により殺害されたであろうコンビニの店員について調べるためである。
向こうに着くと、フィレンクトが出迎えてくれた。
コンビニ店内のなかは、鑑識でごった返している。
東風たちが降りてフィレンクトと合流すると、近くにいた警官たちが敬礼してきた。
自分らをVIPの刑事とわかっているのかはわからない。
が、慌てて東風たちも敬礼した。
( ゚д゚)「VIP県警の東風です」
('、`*川「伊藤です」
伊藤が律儀に頭を下げる。
その姿の時だけ、淑やかに見えた。
フィレンクトも同様に軽く自己紹介をして、早速本題に入った。
(‘_L’)「誘拐事件のほうは、どうですか?」
( ゚д゚)「第二の指令があったので、皆そちらに総動員させています」
と言って、現状の首尾をさっくり伝えた。
彼は「なるほど」と肯き、労いの言葉をかけた。
.
- 119 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:29:07 ID:CbDEPBqwO
-
(‘_L’)「害者ですが、身元が判明しました。名前は御前(ごぜん)モカ。
一週間前から、ここのコンビニで働いていたようです。
時間帯は夜勤で、七連勤であることが確認されました」
( ゚д゚)「働き詰めなんですね」
矢継ぎ早に言ってくるフィレンクトの言葉を、手帳に次々メモしていった。
東風は、この御前モカという人物についてとことん調べ上げるよう、上司のショボーンから指示されている。
直接の事件解決にはつながらないだろうが、手がかりにはなる、とショボーンが言っていた。
( ゚д゚)「ここのオーナーは、どこへ?」
(‘_L’)「数分前にここに来て、今は、なかで害者に関する書類を探しています」
と、フィレンクトはコンビニの店内に指をさして言った。
まさか、オーナーも、彼が雇って一週間で事件に巻き込まれるとは、予想にだに思わなかっただろう。
慌てて、自宅から飛んできたらしい。
東風は同情すると同時に、軽く笑った。
(‘_L’)「話を聞きますか?」
( ゚д゚)「書類とやらが見つかってからで大丈夫です。
それまでに、こちらの事件の詳細をまず聞かせてもらっていいですかね?」
(‘_L’)「ええ、いいですよ」
フィレンクトは快く承諾した。
.
- 120 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:31:45 ID:CbDEPBqwO
-
( ゚д゚)「死因のほうは、やはり……?」
(‘_L’)「毒殺です。青酸だったようです」
( ゚д゚)「それは、例の弁当とやらに?」
と東風が聞くと、フィレンクトは少しにやけた。
(‘_L’)「そのことなんですがね、実におもしろいのですよ」
( ゚д゚)「と、言うと?」
(‘_L’)「弁当には確かに食べられた形跡があるものの、
毒は口から入ったわけではないそうなのです」
( ゚д゚)「ほうほう」
(‘_L’)「調べると、腕のほうを毒針で刺されたようなのです。先程死亡が確認されました」
( ゚д゚)「むう。生きていてくれると、こちらとしてもありがたいのですが……」
東風は口惜しく思った。
そんな顔を見せて、フィレンクトも苦笑した。
生きていれば、誘拐犯についてなにか聞けるかもしれない。
しかし、そのような希望は、絶たれてしまったのだ。
.
- 121 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:35:50 ID:CbDEPBqwO
-
(‘_L’)「解剖結果については、また後ほどVIPのほうに電送しておきます」
( ゚д゚)「ありがとうございます」
(‘_L’)「それと、現場には、毒の件以外にもいくつかおかしいところがあるのですよ」
( ゚д゚)「おかしい……?」
(‘_L’)「まずひとつ、監視モニターの各種コードが切られてました。
おかげで、監視カメラから犯人を特定するのは不可能なのです」
( ゚д゚)「コードを切る……?」
(‘_L’)「最近の監視カメラには、様々な機能のものがありますからね。
用心深い犯人が、そうしたと見ていいでしょう。
ビデオのテープもぐちゃぐちゃで、再生不可能です」
それを聞いて、改めて東風は不思議に思った。
電源を切るまではよしとしても、コードをきったり、更にビデオテープまでをも
破損させるなどとすると、さすがに、店員の御前は気づくだろう。
前もって全てを破損させておいたと考えるなら、御前も誘拐犯の一味であると見て間違いない。
( ゚д゚)「(やはり、仲間割れなのだろうか?)」
と、御前は確信に近い推理を展開していた。
しかし、仲間割れするメリットがない。
強いて言うなら分け前が増える程度だが、同時にリスクも数倍に跳ね上がる。
.
- 122 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:37:44 ID:CbDEPBqwO
-
(‘_L’)「そして二つ目ですが、いま僕、ここのオーナーはモカの書類を探している、と言いましたよね?」
( ゚д゚)「言ってましたね」
(‘_L’)「不思議じゃないですか? すぐにパッと出てきそうなものが」
( ゚д゚)「確かに」
(‘_L’)「これはただの推測でしかないのですが、
もしかしたら、あらかじめ害者自身が処分したのかもしれないですよ」
( ゚д゚)「確かに、考えられますね」
(‘_L’)「そちらのほうでは、もしかして、害者は
誘拐グループの一味であるかもしれない、とみて捜査していますか?」
フィレンクトは、核心を突いてきた。
考えてみれば、わかる話だろう。
.
- 123 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:40:24 ID:CbDEPBqwO
-
誘拐犯は、身代金の受け渡し場所に、明らかに受け渡しには不向きであろう二十四時間営業のコンビニを選んできた。
しかし、そのコンビニだが、監視カメラは作動しておらず、また店員が殺されてしまった。
その店員、御前モカに関する書類が紛失されていて、また、犯人は店内のバックスペースに潜んでいた、と思われている。
実際、照明のスイッチに付着した指紋も拭き取られたし、御前を毒殺したのも、これはバックスペースでの話だ。
仮に御前が誘拐事件と無関係なら、監視モニターの件、受け渡し場所にコンビニを選んだ理由に納得がいかない。
だから、御前が誘拐犯の一味であると考えて、なんらおかしくはない。寧ろ、必然とみていいだろう。
フィレンクトも、この結論に至ったようだ。
( ゚д゚)「……」
(‘_L’)「あ、オーナーがきましたよ」
と言われ、御前は入り口を見た。
やけに大柄――というよりかは、背丈は確かにそうだが、横には細く
八頭身だ――で、職業がコンビニ運営のオーナーであるとは、想像しがたい。
.
- 124 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:45:42 ID:CbDEPBqwO
-
伊藤が、彼を舐め回すように彼の外見を刮目していると、
その男は伊藤の視線も気にかけず、フィレンクトに飛びついた。
落ち着きがなく、焦燥に駆られているのが、見てすぐに判る。
(;´Д`)「な、ないんです!
履歴書はおろか、御前くんが書いた紙すら失せてしまってます!」
(‘_L’)「書いた紙というと、メモ書きとかもですか?」
と興味深そうにフィレンクトが訊いた。
オーナーは、同じ口振りで続けた。
いい大人が、もう少し落ち着けないものか。
東風はそう思っていた。
(;´Д`)「うちのコンビニでは、自分が出勤できる日をレシートの裏にでも書いて
貼っておくのですが、そのレシートすらなかったのです」
(‘_L’)「確か、郵便とか受け付ける際に、店員がなにか伝票を書きますよね。そういったたぐいのものも?」
(;´Д`)「はい。もう、えらいこっちゃですよ」
と、オーナーは肩をすくめた。
本当にパニックに陥っているようだった。
.
- 125 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:47:50 ID:CbDEPBqwO
-
('、`*川「ミルナさん、これはどういうことなのでしょうか」
( ゚д゚)「害者が誘拐犯グループの一人だった、という裏付けだな。
犯人か害者自身かはわからないが、誰かが足跡を消すために犯行直前に持ち去ったとみていいだろう」
('、`*川「じゃあ、レシートとかは?」
( ゚д゚)「ひょんなことがキッカケで筆跡鑑定され、どこの誰なのかを特定されるのをおそれたのかもしれない」
('、`*川「でも、御前モカという名前で、身元も割れたのでは?」
と伊藤がきくと、東風は鼻で笑い、腕を組んだ。
( ゚д゚)「モカという人物はまぬけな誘拐犯であった、というわけだろうな」
.
- 126 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:50:28 ID:CbDEPBqwO
-
−5−
伊藤はきょとんとした。
彼女が、ここは笑うべきなのかどうかを考えている隙に、東風はオーナーに近づき警察手帳を見せた。
( ゚д゚)「VIP県警の者ですが、お話を聞かせてもらってよろしいですかね」
(´Д`)「え? あ、いいですよ」
( ゚д゚)「まず、あなたのお名前は?」
(´Д`)「八東(はっとう)ススムと申します。ここのコンビニのオーナーしております」
( ゚д゚)「モカさんのことについて、伺ってもよろしいですか?」
と聞かれたので、八東は腕組みをし、頭を傾げた。
視線は宙をさ迷っており、御前モカについて思いだそうとしているようだった。
八東は、そのままの姿勢で
(´Д`)「彼は、いわゆるそのフリーターでしてね。
定職につけるまでに、うちで少しばかし稼ごうと思っていたようです。
さすがフリーターというだけあるのか、コンビニの夜勤の経験は豊富だ、
と豪語していましたので、最初の三日だけ私も研修につきあい、あとは彼一人に任せていたのですよ」
.
- 127 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:54:00 ID:CbDEPBqwO
-
( ゚д゚)「一週間前から勤めだした、ということは、十二月九日からですか?」
(´Д`)「いち、に、さん……えっと、そうなるのですかね」
( ゚д゚)「(随分と、あやふやなんだな)」
言葉を濁す八東を見て、東風は不審に思った。
オーナーである以上はぱっと言えるだろう、と。
しかし、あらためて考えてみれば、それは仕方のないことだった。
御前に関する書類はすべて紛失しており、また逆算しようにも、夜勤と言うと、
日を跨ぐことが前提となる仕事だ。八東の記憶が混乱していても、おかしくない。
探せば、シフト表などを見つけ、いつから勤めだしたのかはわかるだろうが。
( ゚д゚)「働いていた時の、彼の様子を詳しく教えてください」
(´Д`)「はい。確かに経験があるだけあって、レジうちや揚げ物は上手でしたよ。
ただ、備品の場所などは当然ですが把握できていないので、最初は少し戸惑っていました。
が、二日目からは順調でしたよ。郵便や収納代行も、手際よくこなしていたので」
( ゚д゚)「なにかを探っていたとか、妙な行動はありませんでした?」
(´Д`)「いえ、特には――」
と八東は言ったが、間髪入れず、自分でその発言を取り消した。
東風はすぐに反応した。
(´Д`)「あれ。そういえば、あったといえばあったよ」
.
- 128 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:56:23 ID:CbDEPBqwO
-
( ゚д゚)「なんですか?」
(´Д`)「いや、たぶん事件とは関係ないことなんですがね」
( ゚д゚)「構わないですよ、是非仰ってください」
東風が促すものだから、八東も、本題に入る前に軽く咳払いした。
大層な話でもなかろうにここまで追求してくるのが、変だったからである。
相変わらず腕を組んだまま、首を傾げている。
(´Д`)「二日目あたりですな。客足が減って暇な時に、
御前くんがこんなことを聞いてきたのですよ。
『普段の、深夜二時ごろの客足はどうですか』と」
( ゚д゚)「………二時か」
.
- 129 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 17:58:46 ID:CbDEPBqwO
-
二時と言えば、誘拐犯が指定した時間と合致しているな、と東風は思った。
八東は腕組みを解いて、言った。
(´Д`)「二時と言えば、仕入れがきますからね。
あのときは、二時には仕入れがあるから客足を知っておきたいのかな
程度にしか思ってなかったのですが、いま思うとおかしいですよ。
仕入れが来るのは二時だけではないですから。
それに、御前さんが殺されたのは、二時なのでしょう?」
( ゚д゚)「はい。二時です」
(´Д`)「二時に、なにかあったのですかね」
( ゚д゚)「監視カメラが生きていればいいのですが……」
八東に同情するように口惜しそうに言ってみると、八東は更に残念そうな顔をした。
.
- 130 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:02:18 ID:CbDEPBqwO
-
( ゚д゚)「あなたが店を見て、不思議に思うことはなにかありませんでした?」
(´Д`)「不思議?」
( ゚д゚)「備品の位置が変わっていたり、見たこともないものがあったり」
と聞くと、再び、八東は腕を組んだ。
どうやらこれは、彼がなにかを思い出すときにとる癖らしい。
実にわかりやすい、面白い癖だ。
(´Д`)「監視カメラのコードがきられたりもあったけど、ほかには……」
( ゚д゚)「ありませんでした?」
(´Д`)「あっ」
( ゚д゚)「なにか、思い出しました?」
八東が、手をたたいた。
乾いた音が、周囲にこだまする。
(´Д`)「椅子」
( ゚д゚)「椅子?」
(´Д`)「椅子が二個、机の前に置かれていましたね」
( ゚д゚)「えっ」
(´Д`)「いま思い出した。椅子が二つありました!」
( ゚д゚)「ペニーっ」
東風は、伊藤に至急そのことを調べるよう指示した。
一分経たないうちに戻ってきて、椅子について報告した。
('、`*川「確かに、椅子は二個でした」
.
- 131 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:04:28 ID:CbDEPBqwO
-
八東は、更に苦い顔になった。
ぽりぽりと、面目なさそうに頭を掻いた。
(´Д`)「無断で部外者を入れてたみたいだな……
そんな不真面目な人とは思えなかったが」
( ゚д゚)「と言うと、彼は好青年だった、ということですか?」
(´Д`)「私の見ている限りでは。
今時の若者にしては、敬語もうまかったし、お客様を第一に思う人だったものですから」
彼を褒めている時の八東は、なんとも言えない複雑な表情をしていた。
そんななか、「若者」という言葉に反応した東風は、ここぞとばかりに八東に質問した。
( ゚д゚)「そういえば、年齢はいくつなのでしょうか?」
(´Д`)「私は三十七です」
(;゚д゚)「いや、被害者のほうです」
八東は「わかってますよ」と、微笑した。
隣で見ていた伊藤は、八東を見て「若いな」と思っていた。
確かに、コンビニのオーナーが三十台とは、世間的に見ると若いほうではないのか。
八東は背が高く、そのせいか余計に若く見えるのだ。
まあ、少ししわが見えるので、若いと言っても二十台には見えなかったが。
.
- 132 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:06:36 ID:CbDEPBqwO
-
(´Д`)「聞いた話、二十後半だったと記憶してますが、
今となると、それは虚偽だったかもしれませんよ」
( ゚д゚)「いえ、名前は虚偽ではなかったため、おそらく年齢も真実を告げているでしょう」
(´Д`)「それにしても、二十後半でうちのバイトをするなんて珍しいですよ。
だいたいは学生か、パートのおばちゃんだから」
( ゚д゚)「アルバイトの動機ですが、そのなかに、失業したとか言ってました?」
(´Д`)「失業……」
やはり腕を組んで、八東は考え込んだ。
即日で雇ったわけでないのなら、面接を行ったのは一週間以上も前の話となる。
思い出すほうが難しいだろうが、それでも東風は聞いてみた。
こういうとき、ちゃっかり思い出すことがあるのだ。
長年刑事をしている東風は、それを知っている。
.
- 133 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:09:01 ID:CbDEPBqwO
-
( ´Д`)「さあ。でも、仮に失業していても、恥ずかしがって言わないでしょう」
( ゚д゚)「それもそうですが」
( ´Д`)「職を探すと言っていたので、失業者か、もしくは脱ニートなのでしょうな」
( ゚д゚)「今後そういう若者が増えたら、警官でもしないかと言ってやってくださいな」
( ´Д`)「それはおもしろいですね」
と、八東は笑った。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第二章
「 オオカミ鉄道 」
おしまい
.
- 134 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:09:58 ID:CbDEPBqwO
-
(´Д`)「さあ。でも、仮に失業していても、恥ずかしがって言わないでしょう」
( ゚д゚)「それもそうですが」
(´Д`)「職を探すと言っていたので、失業者か、もしくは脱ニートなのでしょうな」
( ゚д゚)「今後そういう若者が増えたら、警官でもしないかと言ってやってくださいな」
(´Д`)「それはおもしろいですね」
と、八東は笑った。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第二章
「 オオカミ鉄道 」
おしまい
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- 135 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 18:14:34 ID:CbDEPBqwO
- まさか最後の最後でミスるとは。
これで第二章おしまいです。
誤字脱字等あれば、なんの遠慮もなく是非挙げてください。
全力でフライング土下座をしたあと泣きます。
予告ですが、第三章は「若さゆえの過ち」(仮)です。
厨二って感じするから変えようかは思案中ですが……
できるなら来週末に投下したいところです。
二章も読んでいただきありがとうございました!
- 136 名前:名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 18:21:53 ID:VdzlTVnQ0
- 乙!わくわくするな
八東ススムは八東進(はっとうしん)か
あと
>と、御前は確信に近い推理を展開していた。
>と言われ、御前は入り口を見た。
の御前は東風のことではないのかい?
- 137 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/14(土) 19:01:24 ID:CbDEPBqwO
- >>136
やっちまったあああああああああああ
仰るとおり指摘された>>121と>>123の「御前」とは「東風」の間違いです本当にすみません
なんとか脳内補完で対処をお願いします
- 138 名前:名も無きAAのようです:2012/01/14(土) 20:13:51 ID:8kWscHEoO
- 乙!
- 139 名前:名も無きAAのようです:2012/01/15(日) 01:47:26 ID:LXnuf.OU0
- おつう
- 140 名前:名も無きAAのようです:2012/01/19(木) 22:22:59 ID:TNnRcSyI0
- 駅の名前ポケモンか?
- 141 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 17:28:32 ID:.askSzBsO
- ポケモンをあれこれいじりました
ルグロラージって響き好きです
- 142 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:36:55 ID:.askSzBsO
-
第三章
「 若さゆえの過ち 」
−1−
特急列車『あさやけ』は寝台車があるため、運行当初は注目を集めた。
ふつうの特急に二両だけ寝台車を導入することで、その意外性を突いたのだ。
客車が十一両で、自由席が五両、指定席が三両、グリーン席が一両、寝台車が二両だ。
食堂に充てる車両を寝台車にしたがために、食堂車は用意できなかったのだと聞く。
だからか、車内販売が充実なされてあった。
ショボーンと若手も、その車内販売の弁当を食っていた。
(´・ω・`)「むしゃむしゃ、誘拐犯はむしゃむしゃ、いつむしゃむしゃ」
( <●><●>)「食うかしゃべるか、どちらかにしてください」
(´・ω・`)「むしゃむしゃ」
( <●><●>)「食うほう選んじゃった」
.
- 143 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:38:55 ID:.askSzBsO
-
ふつうに駅弁を買うよりも、どこか旨く感じられた。
オオカミ鉄道の奇策のなかに、「他社よりも旨い弁当を」が有るのかもしれない。
最近、ニュー速鉄道の台頭で、オオカミ鉄道の需要が減少してきつつあったのだが
オオカミ鉄道は、数々の奇策を用いることにより、それを乗り越えてきた。
一時期、オオカミ鉄道買収の噂もたったくらいだが、大神フォックス総裁はそれを否定していた。
実際、今もこうしてオオカミ鉄道として運営なされている。
ショボーンも、昔からオオカミ鉄道を利用しているのだ。
ショボーンは、オオカミ鉄道が好きだった。
(´・ω・`)「ぷぅ。鮭が旨かった」
( <●><●>)「さて、次がラルトロス駅ですよ」
.
- 144 名前:名も無きAAのようです:2012/01/20(金) 18:41:34 ID:H/kXcEzAO
- 投下キター!
- 145 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:44:03 ID:.askSzBsO
-
ショボーンはあれから、駅に停まるたびに身代金をチェックしたのだが、今の所はまだとられてなかった。
寝台車の二両から降りようとする人も未だ現れておらず、
ショボーンは、誘拐犯がいつ来るかわからない緊張と
結局なにも起こらない退屈に挟まれ、もやもやしていた。
そして、ラルトロス駅手前のアルガマールド駅を発った。
やはり、未だに誘拐犯は動きを見せていない。
もしかしたらもう逃げ出しているかもしれないが、それはそれでまずい。
伊達の孫を殺されては、元も子もないのだ。
ショボーンは、それを肝に銘じて動いてきた。
ラルトロス駅は、ショボーンが睨んでいるゴドーム駅の手前だから、
ここぞとばかりに裏をかいた誘拐犯が、こっそり金を持ち去るかもしれない。
そう思っていると、気がつけば、あきらかに今までとは違う緊張がショボーンと若手を操っていた。
.
- 146 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:46:17 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「今のところ、怪しい奴はまだ見つかってないな」
と言うと、若手が付け加えて
( <●><●>)「今までの駅にもボストンバッグを持った人はいないそうですしね。
まだ、相手は動かないつもりでしょう」
(´・ω・`)「だからこそ、いつ来るかがわからないんだよ。気を引き締めろ」
( <●><●>)「もとより了解しテオります」
若手の声がひっくり返った。
これは、彼が少なからず動揺している時に見られるものだ。
真剣な顔で眉間にしわを寄せているのに、
声が情けなく変わるものだから、そこに若さを感じさせる。
(´・ω・`)「やれやれ」
ショボーンは顔を歪めるも、微笑んだ。
自分も若い頃は、彼のように常に緊張していた記憶があるからだ。
若い頃の自分とよく似ている、と、ショボーンは思った。
.
- 147 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:49:17 ID:.askSzBsO
-
だからこそ、自身のやる気の空回りが引き起こす
どうしようもないミスが若手を襲うのが、ショボーンは怖かった。
それが一番、当人の気力を根こそぎ奪い取るからだ。
ショボーンにも覚えがあった。
しかし、若手に渇を入れようにも、ショボーンも、元々このような性格のため、がつんと言うのが苦手なのだ。
緊迫した空気でない限り、ショボーンは怒れなかった。
(´・ω・`)「(無茶に渇を入れるよりかは、鼓舞するほうがいいのかな)」
( <●><●>)「警部は、犯人が潜んでいる大凡の検討はついているのですか?」
(´・ω・`)「寝台車を指定した以上、向こうも寝台車の席をとっていると思うんだけどなあ。逆に怪しいよ」
( <●><●>)「怪しい?」
若手が復唱して尋ねた。
「ああ」と言い、ショボーンは声をこもらせた。
.
- 148 名前:名も無きAAのようです:2012/01/20(金) 18:51:47 ID:y.pxhn260
- 来たかッ
- 149 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:53:09 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「寝台車の二つにはデッキがない。そして寝台車を出入りする人間は、必ず車両を移動しなければならない。
. ましてこの列車だと、降りるのに向かう行く先はここ、八号車しかない。
. だから、僕らがこうして待ち伏せていれば、向こうは閉じこめられたも同然となるんだ。
. 向こうさんも、それくらいは予測していたはずなのに――」
と彼の見解を言いかけたのを、ショボーンははッとして口をふさいだ。
(´・ω・`)「そうなんだ。これは罠かもしれないんだよ」
( <●><●>)「罠?」
若手がまた同様に尋ねると、ショボーンは、明らかに先程よりもちいさな声で、身を屈めて言った。
(´・ω・`)「向こうが複数人でいることは間違いない。
. だから、一人回収役が寝台車に潜み、別の人間が僕らを監視しているかもしれないぞ」
( <●><●>)「あり得ない話ではないですね。
向こうも、警察がずこずこ引き下がるわけがない、とわかっているでしょうから」
.
- 150 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:54:55 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「もしかしたら、誰かが陽動作戦にでるかもしれない」
( <●><●>)「陽動、と言いますと?」
(´・ω・`)「たとえば、誰かを見せしめに殺してみたり、とか。
. 僕たちは警察である以上、殺人が起これば否応なく対応せざるを得ないからね。
. まあ、その犯人を捕まえれば、誘拐犯について吐かせることもできるけど」
ショボーンは、自身が思いつく推測を挙げていった。
その起こり得る事態のパターンを、若手は次々と頭にたたき込んでいった。
.
- 151 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 18:59:17 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「ちょっと、八号車の人間を見廻ってくる」
( <●><●>)「ここですか?」
(´・ω・`)「念のためさ」
と言って、ショボーンは一旦その場を離れ、八号車の先頭に向かい、歩いていった。
若い女子のグループがおしゃべりに夢中になっていたり
子連れの夫婦が、車内販売の弁当に舌鼓をうっていたり
シベリアの景色を次々とレンズに収める、初老の男性も。
誰が怪しいと問われれば、皆怪しく見えてしまうのだ。
一人で読書をする男もいるが、一人だからと言って怪しいと言ってはいけないのはわかっていた。
八号車からデッキに出た、と見せかけて、ショボーンは顔を覗かせ、八号車の様子を窺った。
一瞬、最前列に座る女と目があったが、女はショボーンの恰好を
ちらっと見たきり、視線を手元のスマートフォンに戻していた。
彼女だって、もしかしたら、スマートフォンで仲間に合図を送っているのかもしれない。
どんな人物であれど、赤の他人であれば、いくらでも疑うことはできるのだ。
しかし、挙動不審だったり、明らかにおかしく思える者は見あたらなかった。
.
- 152 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:03:16 ID:.askSzBsO
-
ショボーンは再び八号車内に足を踏み入れ、ゆっくり歩き、
やはり乗客を一人一人チェックしながら、若手のもとに戻った。
「どうでしたか」と聞かれたが、ショボーンはなんとも答えることができなかった。
ショボーンが窓の外を見ると、プラットホームが向こうのほうに見えた。
列車も減速しており、もう停まるのかと、ちいさく呟いた。
視線は、九号車に釘付けとなっている。
ここで誘拐犯がボストンバッグをもって出てこれば、これ以上楽な話はないのだが
さすがにそれが起こり得るわけがないだろうと、ショボーンはわかっている。
十二両編成の『あさやけ4号』が、ぴったりプラットホームに納まった。
乗降口が開き、何人かが降り、何人かが入ってきたが、九号車での乗客の出入りはなかった。
ショボーンはじっと待ち、停車時間の間、ずっと気を緩ませなかった。
が、結局、誘拐犯はまたしても動かなかった。
「おかしいな」と思い、九号車のB−8下段のベッドを覗くが、やはりバッグが運ばれた形跡はない。
.
- 153 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:07:37 ID:.askSzBsO
-
( <●><●>)「まだ、なのですかね」
と若手がぼやいたのを
(´・ω・`)「言ったろ、これは根気との戦いなんだ。
. 向こうはこっちの集中力が欠ける頃に攻めるつもりだろうよ。少しは、我慢しろ」
と、やや厳しめに叱った。
他の警部なら更に厳しいだろうが、それはショボーンの性分じゃなかった。
いつになくまじめだなと若手は思ったが、ショボーンの度を超えた
仕事熱心な姿は、刑事の間でも有名だったことを思い出した。
(´・ω・`)「一度、九号車に入ろうかと思うんだけど」
( <●><●>)「え、いいのですか?」
若手が意外そうな顔をして訊いた。
ショボーンの当初の計画と食い違っていたからだ。
(´・ω・`)「向こうは、こちらの想像しない方法で運ぶんじゃないか、って思ってきて。
. もしそうだとしたら、実際に中に入るよりほかにしかたがない」
( <●><●>)「でも、人質は大丈夫ですかね」
(´・ω・`)「そのことだけど、さっきのラルトロス駅のホームの出入り口、見たか?」
.
- 154 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:10:55 ID:.askSzBsO
-
若手は九号車のみを見張っていたので、ホームのほうは見ていなかった。
「どうしたのですか」と先を促すと、ショボーンは頭を掻いた。
(´・ω・`)「数人の警官が堂々と仁王立ちしてさ。
. あれじゃあ、誘拐犯も感づいたに違いないよ、きっと」
( <●><●>)「大丈夫でしょう」
(´・ω・`)「いや、そうとも限らないよ。実際に、そこで警官が降りてくる客の荷物を検査してたんだ。
. 指示が行き届いてないな、あれは」
と不機嫌な顔をして、ショボーンは言った。
人海戦術を執る際に似通った部分が出てくるが、やはり、大量の人を遣う場合、自然と指示漏れが出てくるものだ。
九割の人間は指示通りに動くが、残りの一割には指示が行き届いておらず、誤った動きをしていることも多い。
頭になる人間が手足に指令を下すも、そのようにして、別行動にでる者が現れるのは致し方のないことだ。
しかし、警察では、それで済ませてはならないのだ。
警察という組織にいる以上は、上からの命令は絶対である。
指示漏れがあるということは、まず、ない。
指示を勝手に履き違えたか、もしくは聞いてなかったのか。
それはわからないが、ショボーンはそれを思うと、腹立たしくて仕方がなかったのだ。
.
- 155 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:14:10 ID:.askSzBsO
-
九号車への扉を開き、ショボーンと若手は九号車に入った。
やはり寝台車だけあって、全ての席のカーテンが閉じられている。
ルグロラージ駅発車当初はそうでもなかったのだが、やはり時間が経つにつれ
乗客も、皆がカーテンを閉じ、くつろぎはじめたのだろう。
ショボーンはしめたと思い、跫音を忍ばせて、問題のB−8に向かった。
多少は跫音が車両内に反響するが、乗客に言わせれば、車掌がきたのか、と思う程度だろう。
ショボーンがカーテンに手をかけたとき、自分が、少し気分が昂揚しているのを実感した。
(´・ω・`)「(まさか金は奪われたあとかもしれないな。
. もしくは、誘拐犯が潜んでいるかもしれない)」
と思ったからである。
ほぼずっと見張っていたため、そんなはずはないと思っていても、やはり緊張してしまう。
.
- 156 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:16:46 ID:.askSzBsO
-
決心してカーテンを勢いよく開き、刹那、ショボーンは身構えたが、結果、それは杞憂だった。
ボストンバッグが四つ、ちゃんとベッドの上に載っかっていた。
ショボーンは、胸をなで下ろした。
( <●><●>)「まだ、のようですね」
(´・ω・`)「ああ」
二人は、小声で、乗客にはただの囁き声にしか聞こえないように話した。
もし九号車に誘拐犯がいるなら、自然とショボーンの声も知っているということに繋がる。
聞かれるわけには、いかなかったのだ。
(´・ω・`)「ワカッテマス、ふと思ったんだが、ここに僕かあんたかが潜むとおもしろいかもしれないな」
( <●><●>)「え、やだですよ私」
(;´・ω・`)「こンにゃろ……あくまで僕は上司だぞ」
ショボーンは、おおきな声で言おうとしたが、咄嗟にショボーンは声を抑えた。
今の発言は軽い冗談のつもりだったらしく、若手が口に手を当て、微笑した。
.
- 157 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:19:51 ID:.askSzBsO
-
若手は優秀だが、叩き上げの人材ではなく、天才型だった。
天才すぎる分、常識には疎いのだ。
若手は、ショボーン以外にも東風や伊藤と組んだりもしてきた。
時には、検察の人間と組んでいる、という噂も聞く。
しかし、ショボーンは、そのなかでも特色すぎたのだ。
若手はショボーンの背中を見て、刑事を勤めてきている。
だから、彼の毒舌で厭な性格をすっかり引き継いだのかもしれない、ショボーンはそう考えていた。
( <●><●>)「私が潜むにしては、少々狭いんです、ここ」
(´・ω・`)「ん?」
若手がそう言うと、ショボーンも不審気に屈んでベッドを見た。
ボストンバッグが並んでいるが、その上の潜り込めそうなスペースはやや狭い。
身体のおおきな若手には、無理そうな仕事だった。
.
- 158 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:21:20 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「なるほどな」
( <●><●>)「警部自身が潜むのは無理なのですか?」
(´・ω・`)「残念だが、僕が入るのにも狭そうだよ」
と言ったが、それは嘘だった。
ショボーンは、若手に外を委せるのを、半ば頼りなく思っていたのだ。
こいつに委せると犯人を逃がすかもしれないと、若手の腕をやや信頼していなかった。
だからショボーンは、自分が中に潜むのを拒んだ。
若手は「そうですか」と呟いたきり、深くは聞いてこなかった。
.
- 159 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:29:49 ID:.askSzBsO
-
−2−
ショボーンは、そこで数分待ってみた。
もしかしたら誘拐犯が動くかもしれない、と思ったからである。
しかし、というより当然といえば当然なのだが、誘拐犯は現れなかった。
ここ九号車に誰かがいる、と跫音でわかってるからである。
扉が開閉する音も、聞き逃してないだろう。
(´・ω・`)「十号車も見ておきたいね」
( <●><●>)「わかりました。私はここで引き続き見張っておきます」
(´・ω・`)「とちるなよ」
ショボーンはややきつめに言って、十号車に向かった。
今度は跫音を忍ばせはせず、堂々と跫音をたてて歩いていった。
もしかしたら、向こうが、九号車から人はいなくなったと勘違いして、出てくるかもしれないと思ったからだ。
それは、九号車に誘拐犯がいる、という前提ではあるが。
それよりも、やはり、ショボーンは若手にあの場を委せるのが少々不安だった。
が、いくらなんでも、あの場面では若手が失敗する要素もないと考え、ショボーンは委せた。
.
- 160 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:33:07 ID:.askSzBsO
-
扉を、やはり大袈裟な音を出して開き、十号車に入っていった。
カーテンはところどころ閉じられているものの、二カ所だけ開いてあった。
ショボーンもすぐそれに気づき、そこに近づいた。
左列で、前から三列目の上下なので、A−5、6と判った。
どちらからも、大きな旅行かばんが見える。
二人はベッドから通路に顔だけを出し、向かい合うようにして話し合っていた。
上段にいる方の女性がいち早くショボーンの存在に気づき、
下段にいる方の女性に、小声でそれを知らせた。
(´・ω・`)「はは、お話を邪魔してごめんなさいね」
向こうは、若かった。
女子高生くらいだろう。
向こうが警戒しているように見えたので、宥めるべく、フレンドリーな言いぐさでそう話しかけた。
二人の女が一斉に振り向いたが、ショボーンも、二人の女も、互いに一瞬固まった。
.
- 161 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:35:38 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)
(゚、゚トソン
パセ*゚ー゚)リ
上段にいる女が、俗に言うポニーテールだった。
顔が綺麗で整っており、幼さが見えるも、少し美しかった。
それよりもショボーンが驚いたのは下段にいる女の存在だ。
かなり特徴的だった。
というのも、赤い、金魚を象った被り物をしているのだ。
さすがにこの被り物は、いやでも目に留まってしまう。
そして、ショボーンはこの二人を知っていた。
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- 162 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:38:11 ID:.askSzBsO
-
少し静寂が生まれたが、すぐにそれは破られた。
ショボーンの思考が動き始める前に、向こうが話しかけてきたのだ。
パセ*゚ー゚)リ「あら、どこかで見たことのある……… って」
パセ#゚ー゚)リ「あああッ! いつかの悪徳刑事っ!」
(゚、゚;トソン「ショボーンさんですか!?」
(;´・ω・`)「あ、ちょっと静かに!」
二人のうち、金魚の被り物をかぶったほうの女が、大声を張り上げた。
ポニーテールの女も、ショボーンの顔を見て、ひっそりと言った。
が、それ以上に、被り物の女の声に反応し、ショボーンは制止を求めた。
しかし、そのショボーンの声もおおきく、乗客のうち何人かが起きたようだった。
カーテンを開き、何事かを確認する者もいた。
ショボーンは「ここに誘拐犯がいたらえらいことだ」と思い、冷や汗を流した。
.
- 163 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:41:54 ID:.askSzBsO
-
パセ#゚ー゚)リ「なに? 私たちの愛の旅行を壊しにきたわけ?」
(゚、゚;トソン「ちょっと、声がおおきい!」
パセ*゚ー゚)リ「ねートソンちゃん!」
(゚、゚トソン「いやあなたですパセリさん」
ショボーンは、彼女らと面識があった。
今時にしては比較的冷静なポニーテールの都村トソンと、
今時でなくとも比較的おかしい髪型――というより、被り物の――岡津(おかつ)パセリだったな、とショボーンは記憶している。
(;´・ω・`)「えっと」
(゚、゚トソン「どうしたのですか、こんなところで」
パセ*゚ー゚)リ「だから、私たちを尾行してたんだよ!」
(゚、゚トソン「黙ってて、お願い」
ショボーン以上に飄々とした性格のパセリの言い分を、トソンはいたって冷静に切り返した。
そして、ショボーンにどうしたのかと訊いた。
どうやら、彼女の扱いには慣れているようだ。
.
- 164 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:45:13 ID:.askSzBsO
-
しかし、一方のショボーンは
(´・ω・`)「(からかうと面白い子じゃないか)」
と、過去を振り返っていた。
都村は、このように冷静であるものの、からかうと、非常に面白い人だった。
いわゆる、自分のペースを崩されるのが嫌な性格の持ち主なのだろう。
一度ペースを崩すと、キャラも壊れる。
特にショボーンは、そういった類の人をからかうのが好きだった。
しかし、今は感傷に浸っている場合ではないと、自分で自分を叱った。
(´・ω・`)「トソンちゃん、十号車にきて、怪しい人は見なかったかい?」
(゚、゚トソン「あ、怪しい?」
ショボーンの顔つきが一瞬にして豹変ったので、都村は一瞬たじろいだ。
.
- 165 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:48:10 ID:.askSzBsO
-
(゚、゚トソン「どんな人ですか?」
(´・ω・`)「どんな人でもいい。挙動不審だったり、視線を気にしてたり、急いでカーテンを閉めたり」
言われた都村は、少し考えた。
しかし、肩を竦めて、言った。
(゚、゚トソン「見てないですよ? なんの事件の捜査なんですか?」
ショボーンは、当然、言えるわけがなかった。
誘拐事件はなるべく公に晒してはいけないのだ。
まして、都村はともかく、岡津のほうはかなり口が軽い。
すぐにマスコミにでもたれ流してしまいそうだった。
(´・ω・`)「まあそれはいいとして。ほんとうに見てない?」
曖昧に返事した上で、都村に念を押した。
大切なことだったので、ショボーンとしても、この点はよく聞くべきだと思っていたからだ。
(゚、゚トソン「見てないです」
パセ*゚ー゚)リ「ずっとラブラブトークをしてたんだよねっ」
(゚ー゚;トソン「あーもう、違う!」
(´・ω・`)「(……もう本性出してやんの)」
.
- 166 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:52:17 ID:.askSzBsO
-
都村は言葉遣いも丁寧でクールだが、その裏の顔を岡津とショボーンは知っていた。
割とドジで打たれ弱く、非常に涙もろい。
そして、知的なイメージとは裏腹に、頭は全然よくないのだ。
ショボーンは、一度都村の思考を見てみたいと思っている。
普段から何を考えているのか、非常に気になるのだ。
そして、二人きりで列車にでも乗ることがあれば散々からかってやりたい、と。
(´・ω・`)「ええと……パセリちゃんも?」
パセ#゚ー゚)リ「馴れ馴れしくちゃん付けするなしょぼ眉毛!」
(´・ω・`)「見てないんだね?」
パセ;゚ー゚)リ「………み、見てないよ?」
岡津は、ショボーンに対し敵対心を剥き出しにしているが、
ショボーンは気にせず、ややきつく念を押した。
岡津もショボーンが怖かったのか、戸惑いながら否定した。
この時のショボーンの気迫には、怖いものが感じられたのだ。
.
- 167 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:54:56 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「トソンちゃんたちは、ルグロラージ駅から乗り込んだのかい?」
(゚、゚トソン「違います。昨日から乗りっぱなしなんです」
(´・ω・`)「あ、そうなの。じゃあ、昨日から今日にいたるまで、乗客の顔は見てた?」
と言うと、思い出そうとしているのか、都村は長らく唸った。
しかし、なにも思い出さなかったようで、首を振った。
後ろで揺れるポニーテールが、可愛らしく見えた。
(゚、゚トソン「起きて車両内を見たとき、既に幾つかはカーテンが
閉まってたし、それにずっとパセリちゃんと話してたんです」
パセ*゚ー゚)リ「あ、ちゃん付けしてくれた」
(´・ω・`)「それは、一緒のベッドの上で?」
パセ*゚ー゚)リ「ねね、寝たのは別々なんだから!」
(´・ω・`)「わかってら。今朝、話をしてる時だよ」
(゚、゚トソン「ま、まあそうですけど」
.
- 168 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:57:33 ID:.askSzBsO
-
(´・ω・`)「じゃあ見てないのも無理はないね」
(゚、゚トソン「ごめんなさい」
(´・ω・`)「いいよいいよ」
都村は再び残念そうに肩を竦めた。
何か、ショボーンに情報を提供したかったのだろう。
慰めの言葉をかけるが、内心、ショボーンもがっかりしていた。
もし、十号車に誘拐犯と思わしき人物がいるなら、犯人の特定にぐっと近づくからだ。
若手を呼び、誘拐犯を取り押さえることも易しい。
しかし、わからないとなれば、どうしようもない。
(´・ω・`)「ちなみに、どこで降りるの?」
(゚、゚トソン「次のゴドーム駅です」
(´・ω・`)「ふむ」
ショボーンは、少し考えた。
が、特にロジックがつながりそうなことはなかった。
(´・ω・`)「(……ほかに聞けることはなさそうだな)」
(゚、゚トソン「どうしました?」
(´・ω・`)「いやいや。なんでもないよ。
. じゃあ、愛の旅行、楽しんできてね」
(゚ー゚;トソン「あ、ちょ、違います! 私はその」
パセ*゚ー゚)リ「刑事さんイイ人! ばいばーい!」
(゚、゚トソン「岡津さん嫌いです」
パセ;゚ー゚)リ「なんで!」
.
- 169 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 19:59:39 ID:.askSzBsO
-
ショボーンは十号車を一望してみたものの、やはり誘拐犯の足跡は掴めなかった。
それよりも、十一両目にある貨車に繋がる扉のほうが気にかかっていた。
ここに誘拐犯が潜んでいたら、果たしてどうだろうか、と。
(´・ω・`)「(まさか、な。誘拐犯があそこに潜んでいるはずがないか。一般人が入れる場所じゃあないはずだ)」
と思って、未練もなくそのまま十号車から去った。
九号車に戻るときも、都村は身の潔白を訴えていた。
が、ショボーンは、二人がただの友人なのか一線を越えるような関係なのかには、まるで興味がなかった。
.
- 170 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 20:02:01 ID:.askSzBsO
- 訂正
>>163の「トソン」「パセリ」はそれぞれ「都村」「岡津」です
ここで二節まで投下終えました。
引き続き投下するかはお風呂に浸かりながら悩んでおきます。
あとさすがに終末までは投下しねーから!!!
- 171 名前:名も無きAAのようです:2012/01/20(金) 21:06:09 ID:9OygEIM20
- 乙!
続きは今度か
- 172 名前:名も無きAAのようです:2012/01/20(金) 21:28:11 ID:GA4JpiAQ0
- おつおつ
- 173 名前:名も無きAAのようです:2012/01/20(金) 22:58:38 ID:zrBOiXFw0
- >オオカミ鉄道は、数々の奇策を用いることにより、それを乗り越えてきた。
オオカミ鉄道の企画長は古田リレントさんと見た
乙!続き期待してる
- 174 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/20(金) 23:16:22 ID:.askSzBsO
- (ゝ○_○)「駅弁に生きたさんまをまるまる一尾入れるのはどうでしょう?」
( ゚д゚)「……そういうのは、刑事の俺じゃなくてオオカミの人に言いなさい」
いや、意識した部分はあるけどさ
最初の設定では総裁はミルナだったし
今日は書きために時間を費やして寝ます
明日か明後日か来年のうちに三章を投下し終えたいです
ではおやすみなさい
- 175 名前:名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 07:44:17 ID:M.usAhagO
- オオカミだもんな
てか、パセリはミセリじゃなく、あくまでパセリなんだな
- 176 名前:名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 07:46:21 ID:U1DDw2yQO
- 来年かよwwwたまげたなぁ
- 177 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:35:52 ID:8oNpBbuMO
- 決闘の続編に心躍る今日この頃です。
アルファ終わって死のうと思ってたのに
決闘のせいで生きなければならなくなった。
というわけで頑張って三章の残り投下します。
>>175
あくまでパセリですね。
金魚の被り物をかぶってないと、恥ずかしくて
喋る事すらできないシャイな子なんです。
- 178 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:42:52 ID:8oNpBbuMO
-
−3−
( <●><●>)「どうでしたか」
帰ってきたショボーンを見て、若手は開口一番に尋ねた。
若手は、依然B−8の前に立ったまま、動いてないようだった。
顔だけをショボーンのほうに向けたのだ。
ショボーンは首を横に振り、俯いて九号車に足を踏み入れていった。
手が突っ込まれたポケットには、甘そうなキャンディが入ってそうだった。
(´・ω・`)「トソンちゃんとパセリちゃんに会ってきたよ」
( <●><●>)「なぜでしょう、嫌な思い出しか浮かんでこないのですが。どなたでしたっけ」
(´・ω・`)「無理して忘れようとするな」
常にポーカーフェイスな若手が、僅かだが苦い顔をした。
どうやら、都村トソンと岡津パセリの名を聞き
嫌な過去の一つでも思い出してしまったようだ。
だが、ここでは詳述しない。
.
- 179 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:46:01 ID:8oNpBbuMO
-
(´・ω・`)「なにか、不審な人物はいたか?」
( <●><●>)「いえ、まったく。
寧ろ、いびきが聞こえてきて、こちらまで眠くなりそうです」
(´・ω・`)「結局三時間も寝てないもんなあ。
. 事件が解決したら、今度こそじっくり寝てやろうじゃないか」
( <●><●>)「同感です」
と言って、若手は微笑した。
が、目は笑ってなかった。
いつ、なにが起こるかわからないという、緊張ゆえの所為だろう。
ショボーンも同じだった。
眠くて仕方ないはずなのに、この二人はこうしてぴんぴん動けているが、
その動力源は、やはり誘拐事件を追っているという緊張なのだろう。
この緊張の糸が解けると、たちまち動けなくなるに違いない。
だから、仕事中はショボーンは煙草も吸わないし、酒も呑みたくもないと思っている。
.
- 180 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:48:40 ID:8oNpBbuMO
-
しばらく、二人はそこで待ってみることにした。
三十分したあたりだろうか。
ショボーンと若手は、ある事に、薄々気がついてきつつあった。
不審気な顔をして、ショボーンは若手と顔を見合わせた。
(´・ω・`)「おい、この列車、スピードが緩まってきてないか?」
( <●><●>)「ゴドーム駅まで、まだありますよ」
(´・ω・`)「車掌長に確認しにいくか」
「よし」と言ってショボーンがその場から離れようとしたとき、前方の扉が開かれた。
車掌長の関ヶ原が、慌ててショボーンのもとへ駆けてきた。
ショボーンは嫌な予感しかせず、掌が脂汗で湿ってきた。
( ゙ゞ)「ここにいたのですか」
(´・ω・`)「ちょうどよかった。聞きたいことがあるのですが――」
.
- 181 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:51:34 ID:8oNpBbuMO
-
開口一番にショボーンが言いかけたのを、関ヶ原が遮った。
( ゙ゞ)「残念ですが、まだ怪しい人物は捕まってません」
(´・ω・`)「あ、いや。僕が聞きたいのは別のことです」
と言うと、関ヶ原は辛辣そうな顔色をみせた。
関ヶ原にも、ショボーンの言わんとすることが伝わったのだ。
ショボーンはますます不安が募ってきた。
(´・ω・`)「列車が徐々に減速している気がするのですが、どうしたのですか?」
( ゙ゞ)「そのことで、報告があるのです」
(´・ω・`)「というと?」
ショボーンが先を促すと、関ヶ原はショボーンに耳打ちした。
若手も近寄って、関ヶ原の声が聞こえるよう耳を澄ました。
( ゙ゞ)「爆弾です」
.
- 182 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 16:57:32 ID:8oNpBbuMO
-
(;´・ω・`)「……へ?」
瞬間、ショボーンの顔があからさまに豹変った。
口をぽかんと開き、事態を呑み込めないでいた。
( ゙ゞ)「先程、オオカミ鉄道本社に匿名で電話があったそうなのです。
『このさきのラルトロス大橋に爆弾を仕掛けた。
電車がそこを通ると、爆発するぞ』と」
(;´・ω・`)「それは……ほんとうですか?」
( ゙ゞ)「イタズラだと思うのですが、誘拐事件を考えると、あながちあり得るかもしれないでしょう?
なにより、立場上無視することはできないので、調べるつもりです。
そのため、ラルトロス大橋の手前で一旦止まり、爆弾を撤去してから運行します。
ラルトロス大橋まで、もう一分もありませんし」
(;´・ω・`)「………ッ」
ショボーンは、リアクションを抑えた。
眉を吊り上げた程度でとどまり、呼吸が荒くなった程度だ。
だが、その胸中に秘めた驚きに偽りはなかった。
徐々にショボーンの嫌な予感が的中しつつあるのを感じ、
ショボーンも少なからずや狼狽してきているのだ。
.
- 183 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:00:35 ID:8oNpBbuMO
-
一方若手は、関ヶ原の声が聞き取れなかったらしい。
事情を、今度はショボーンに尋ねた。
( <●><●>)「どうしたのですか?」
ショボーンは若手に身を屈ませ、関ヶ原と同じように、耳打ちをして
(´・ω・`)「爆弾だ」
( <●><●>)「え?」
(´・ω・`)「この先のラルトロス大橋に、仕掛けられたんだよ」
(´・ω・`)「爆弾が、な」
( <●><●>)「…………ば」
(; <○><○>)「 爆 弾 っ ! ? 」
(;´・ω・`)「ばッ! 声がでかい!」
.
- 184 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:04:36 ID:8oNpBbuMO
-
若手は心底驚いたらしく、普段の彼からは予想できないような驚きっぷりを見せた。
そのせいで、思わず、九号車全体に響きわたるような大声を発してしまった。
慌ててショボーンが制するも、遅かった。
九号車の寝ていた人間が起き、また、もとより起きていた者は
間違いなく若手の発した「爆弾」という一言を聞いたのだ。
そして、若手は身体が大きい分、肺活量もあるし、声の大きさは凄まじいものがある。
メガフォン無しでも立てこもり犯に説得ができるという程だ。
噂ではなく事実として流れているので、声の大きさは有名だと思われる。
それが、仇となった。
カーテンを開き、なにがあったのか、という顔をする中年男性や
はしゃぐ子供を宥め落ち着かせる子連れの女が慌てて出てきた。
これだけなら、騒ぎを鎮めさせることくらいできただろう。
しかし、問題は、別にあったのだ。
(゚、゚トソン
パセ*゚ -゚)リ
(゚、゚トソン「……爆、弾?」
(; <●><●>)「……あ」
.
- 185 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:11:58 ID:8oNpBbuMO
-
(;Д;トソン「きゃあああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああッ!!」
タイミング悪く、そこに都村と岡津が来ていたのだ。
デッキを扉を開きかけており、九号車と十号車は同じ空気を共有している。
つまり、十号車にも、若手の声は鮮明に届いていたのだ。
そして、こういう非日常的な緊急事態に、都村は非常に弱かった。
(;、;トソン「し、死ぬ! しぬぅぅぅぅぅッ!」
(;´・ω・`)「お、落ち着いて! 爆弾なんかないから!」
ショボーンが必死に落ち着かせようとするも、それは逆効果だった。
刑事ドラマにて、こういう場面では、刑事が嘘を吐いて落ち着かせることが鉄板だからだ。
そのせいか、ショボーンの言葉を聞いて、彼らの言葉を聞いていた皆が
ほんとうに爆弾があるものなのだ、と誤解してしまったのだ。
また、都村の絹を裂くような高い悲鳴が、若手の驚愕、仰天の含まれた声より
圧倒的に声の通りがよく、九号車と十号車の皆が起き、そして爆弾の存在を知ってしまった。
今更、隠し通すことはできなくなっていた。
.
- 186 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:16:18 ID:8oNpBbuMO
-
(;´・ω・`)「(しまった!)」
と思ったのは、それらのせいで皆がパニックに陥り、逃げようとし始めたのだ。
ベッドから飛び降りたり、慌てて九、十号車から外にでようとする。
同時刻に、ラルトロス大橋の手前ということで列車が止まったのが、
この騒動を決定的な混乱として彼らの脳に刻みつけてしまった。
仮に爆弾の有無はどうであれ、駅でも何でもないところで
列車が止まるのは、明らかに「今」が緊急事態だから、なのだ。
乗客がそれに気づき、いよいよ本格的に慌て始めてしまった。
収拾のつかない事態となってしまい、もうどうすることもできなかった。
一刻も早く、この列車から逃れようとする乗客ばかりだった。
十号車からも、皆が外にでようとするので、出口となる九号車には、すっかり人の波ができていた。
.
- 187 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:19:52 ID:8oNpBbuMO
-
九号車も十号車も寝台車で、席の構造も一緒である。
ひとつの車両につき十六、席が設けられている。
身代金受け渡しの場である九号車のB−8をひいても、
単純計算で、三十一人以上もの人間が押し寄せているのだ。
ショボーンと若手も、自然とその波に呑まれていた。
波のせいで身動きがとれず、また若手に関してなんか、自身の失態のせいで
こうなったのだと自己嫌悪に陥ったのか、生気が感じられず、ただ流されているだけだった。
だが、ショボーンは諦めなかった。
ひょっとしたら、この事態を逆手にとり、
身代金がまんまと奪われてしまうかもしれない、と案じたからである。
ショボーンの、その不安は的中していた。
(;´・ω・`)「おい、待てッ!!」
容姿、服の恰好までは見えなかったが、何者かがB−8に近づいているのが視認できたのだ。
波に流されるのに抗うが、無残にも、誘拐犯に飛びつくのは不可能だった。
必死にその人物に呼びかけるが、向こうが応える様子はなかった。
.
- 188 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:23:00 ID:8oNpBbuMO
-
結局、ショボーンと若手は八号車に押し戻され、九号車には入ることができなくなった。
乗客がパニックになり、うろちょろするため、掻き分けて進入するのも困難なのだ。
パセ*゚ー゚)リ「トソンちゃん、落ち着いた?」
(;、;トソン「……」
(゚、゚トソン「! 別に泣いてなんかいません」
八号車の人間も、当然困惑した。
しかし、車掌長がきて、八号車にいる全員に聞こえるように事態を説明した。
「混乱を招くような事態を引き起こしてしまい、まことに申し訳ありません」と、関ヶ原は言った。
( ゙ゞ)「爆弾についてですが、ただいま撤去が完了し、安全が確保されましたので、
どうか平静を取り戻し、各自の席へ戻ってください。
……この度は、ほんとうに申し訳ありません」
(´・ω・`)「(つまり、爆弾はほんとうにあったのか!)」
.
- 189 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:28:10 ID:8oNpBbuMO
-
ショボーンが驚いたのは、その点だった。
車掌長の謝罪で乗客もひとまずは安心し、各々の座席へと着いた。
九号車に戻ってきた乗客は早速横になり、再び寝息をたて始めた者も出てきた。
だが、ショボーンは、そんなことはどうでもよかった。
ショボーンと若手は、駆け足で、身代金を置いてあった九号車のB−8のところへ向かった。
まだ乗客がまばらで、何人かは気晴らしに歩いているのかもしれない。
が、やはりそれも、ショボーンにとってはどうでもいいことだった。
ショボーンは、乱暴にカーテンを開いた。
刹那、ショボーンの顔が苦くなった。
(;´・ω・`)「やられた!」
(; <●><●>)「……」
ベッドの上は、もぬけの殻だった。
一億円もの大金が詰められたボストンバッグが、四つとも、跡形もなく消えていたのだ。
.
- 190 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:31:24 ID:8oNpBbuMO
-
しかし、ゴドーム駅まであと十数分はある。
今、乗客がボストンバッグを持ち出すことなど、不可能だ。
だとすると、ボストンバッグはまだ列車内に必ずあるはずだ、
そう考えたショボーンは、咄嗟に車掌長の関ヶ原のもとへ向かった。
車掌室を強くノックし、関ヶ原を呼び出した。
関ヶ原は電話していたらしく、すぐには出なかったが、一、二分して出た。
(;゙ゞ)「ああ、ショボーンさんですか。えらいことですよ」
関ヶ原もそうだったが、ショボーンもものすごい剣幕だった。
関ヶ原はオオカミ鉄道本社へ連絡していたようだった。
ショボーンは雑談をしている暇はないと言い、身代金が奪われたことを告げた。
( ゙ゞ)「なんですって!」
(´・ω・`)「当然、まだ車内にボストンバッグがあるはずなんです。至急、調べてください」
( ゙ゞ)「わかりました。ほかの車掌にも調べさせます」
そう言って、関ヶ原は車掌室を飛び出していった。
若手は、始終無言だった。
.
- 191 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:37:19 ID:8oNpBbuMO
-
−4−
ショボーンは問題の九号車へ向かい、B−8の席を、穴が空きそうなほどじっと見つめた。
まさか、ここから底が抜けて、下にボストンバッグを落としたわけがあるまい。
しかし、ボストンバッグはどこかに運び出されたのだ。
だが、ここで新たな問題が顔をだす。
ショボーンは、九号車から、ボストンバッグの一つでも運び出されるのは見ていないのだ。
だから、よけい不思議だった。
このベッドにからくりがあるのかと思いもしたが、やはりなにもなかった。
(´・ω・`)「(この車両には、バッグを出せる窓のひとつもないし
. 壁を蹴破るなんてのもとうてい不可能だ。
. まず、異常なんてどこにも見当たらないんだ)」
.
- 192 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:40:50 ID:8oNpBbuMO
-
考えれば考えるほど、ショボーンはますますわからなくなっていた。
関ヶ原たちが調べた結果、ボストンバッグが見つかれば
問題がないのだが、そううまくいくとは思ってなかった。
捜すよう頼んだが、万が一を考えただけであり、ショボーンはさほど期待してなかった。
関ヶ原が戻ってきた時、関ヶ原の顔が晴れやかでなかったのを見て、ショボーンは肩をすくめた。
( ゙ゞ)「列車内をくまなく捜したのですが、身代金の入ったボストンバッグは見つかりませんでした」
(´・ω・`)「そうですか――」
と言いかけて、ショボーンはある可能性を思いついた。
(´・ω・`)「ふつうのボストンバッグはあったのですか?」
( ゙ゞ)「え? まあ。でも旅行者のものでして。
なかには宿泊用の荷物が詰まれており、かばんには名前も書いてありました」
(´・ω・`)「ボストンバッグの色は、何色でしたかな?」
( ゙ゞ)「真っ黒です」
(´・ω・`)「……そう、ですか」
.
- 193 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:44:50 ID:8oNpBbuMO
-
ショボーンは再び肩を竦めた。
もしかしたら、金だけを抜き出してほかのかばんに詰め、
元のボストンバッグには別のものを詰めたのではないか、
と思ったのだが、どうやらそれはあり得なかったようだ。
伊達の用意したボストンバッグは、紺色なのだ。
まして、名前まで書かれていると、さすがに同一のものとは思えないだろう。
( ゙ゞ)「そろそろゴドーム駅に着きますが、ショボーンさんはどうしますか?」
と関ヶ原に言われたので、時刻を見ると、もう到着の五分前だった。
.
- 194 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:52:14 ID:8oNpBbuMO
-
ショボーンは立ち上がり、関ヶ原に礼を言った。
そして、八号車の自由席をまわって乗客のかばんを虱潰しに調べていた若手を呼んだ。
無表情で、淡々と捜査を進めていた。
ふと窓の外を見ると、ゴドームドームが見えた。
巨大なドーム球場となっており、よくプロ野球球団の
試合球場としても使われているだけあって、見栄えはよかった。
正方形の、白い敷石でできた石畳が敷き詰められていて、
一定の間隔で木が植えられており、それに挟まれたところが通路となっている。
ドームからその通路を挟んで、向かいに国道がある。
バス停にはバスが停まったばかりのようで、客が降りていた。
ふと、そのうちの一人が歩く先を見ると、ドームの周辺だった。
そこには売店もちらほら見えたし、少し離れたところに地下鉄の出入り口もあった。
(´・ω・`)「(僕の予想は、当たってたんだ)」
予想とは、ゴドーム駅でなにかが起こる、ということである。
ドームがあり、競技場もあり、そしてこの利用客の多さ。
誘拐犯が自然に溶け込むのには、もう充分すぎる条件だ。
だが、事件が起こったのはゴドーム駅ではなく、ゴドーム−ラルトロス区間だった。
発生が区間と予想外の爆弾騒動が起こってしまい、未然に防げるものも防げなかったのだ。
.
- 195 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:55:46 ID:8oNpBbuMO
-
( <●><●>)「申し訳ないです」
(´・ω・`)「とりあえず、一旦本部に帰るぞ」
ショボーンはすっかり熱り立っていた。
本来なら、ここで誘拐犯を捕まえることもできたはずだったのに。
そう悔やむと、ショボーンは尚自分が許せず、苛々していたのだ。
若手もそれを察したのか、以降はしゃべらなくなった。
降りて、ショボーンは電話で本部に連絡をとった。
彼の上司のベル刑事部長は、怒りっぽい。
ショボーンとよく口論もするが、一方でベルは、事件解決のためなら
なんの躊躇いもなく上司である自分に噛みついてくるショボーンを、どこかよく思っていた。
もちろん、ショボーンには内緒で、だ。
(´・ω・`)「ショボーンです」
『いったいどういうことなんだ。爆弾騒動の話をマスコミが嗅ぎつけて、
いまオオカミ鉄道とうちはてんやわんやの大騒ぎなんだぞ』
と、ベルは開口一番で叱りつけてきた。
ショボーンはそれでも冷静でいられた。
.
- 196 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 17:59:54 ID:8oNpBbuMO
-
(´・ω・`)「うちにも来てるのですか」
『誰かが君の話でも聞いたのだろう。とりあえず早く戻ってこい。
シベリア県警との合同捜査本部も、君の要望が通り置かれたのだからな』
(´・ω・`)「わかりました」
( <●><●>)「あの」
(´・ω・`)「なんだ」
帰りはタクシーを拾った。
電車でもよかったのだが、何分シベリアからVIPへ帰ろうとすると、乗り換えやらが面倒なのだ。
クロコーダイル駅からなら躊躇いなく電車で帰るのだが、ゴドーム駅ならそうでもない。
乗って暫くしてから、若手は控えめに話を切り出した。
( <●><●>)「あのときは、私が声を荒げたばかりに乗客に広まり、混乱。
それが誘拐犯の身代金確保の助長となったのですよね?」
(´・ω・`)「ああ」
ショボーンは遠慮なく言った。
( <●><●>)「私が大声を出さないでいれば、誘拐犯はどうやって身代金を運んだのでしょうかね」
(´・ω・`)「それを、僕も考えていた」
.
- 197 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 18:09:23 ID:8oNpBbuMO
-
若手は、一度は謝ったが、以降は謝ってなかった。
一度過ぎた事をくよくよしても仕方がない。
まして、刑事という凶悪事件を相手にする職業なら、
失敗の度にする後悔など、何の役にも立たないのだ。
ショボーンと若手も、それをわかっていた。
(´・ω・`)「今回のハプニングは、誘拐犯に言わせればラッキー同然なんだ。
. ふつうは、警察がとちるなんて想定しないからな」
( <●><●>)「はい。だからこそ、向こうがとる筈だった本当の作戦がわからないのです」
(´・ω・`)「………」
( <●><●>)「どうでしょうか」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「一応、推測はできている……。
. が、確たる証拠もないし、まずこれを言いたくはない」
( <●><●>)「そう、ですか」
(´・ω・`)「時機が来れば、この推測も見当しなければならないだろう。
. でも、今の所は考えたくないんだ。これだけは」
( <●><●>)「わかりました」
釈然としなかったが、若手は肯いた。
ショボーンの苛立ちが、手に取るように窺えたからだ。
.
- 198 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 18:14:45 ID:8oNpBbuMO
-
(´・ω・`)「それと、もうひとつ。身代金の運び出しルートだ。
. ……どこにも、ないんだよ。誰にも気づかれずに運び出す道が」
と、溜息を吐いて言った。
運び出すタイミングはよしとして、その身代金のルートはさすがに見当の一人もつかなかった。
ショボーンがその道をくまなく探してみたのだが、そんなものはどこにもなく、
八号車か十号車へ持って行く以外には、何も見つからなかったのだ。
八号車に持ち運ばれたわけでない、というのはわかったので、残るは十号車だ。
十号車も、当然捜索された。
現職の車掌と刑事が調べ、そして見つからなかったのだから、十号車にも身代金はない。
(´・ω・`)「消えたのだよ、身代金は」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第三章
「 若さゆえの過ち 」
おしまい
.
- 199 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 18:23:15 ID:8oNpBbuMO
- 以上で、はっきり言って根城で一番のサスペンスシーンである三章の投下を終えました。
もう少し爆弾のインパクトを強めようと思ったのですが、やりすぎはよくないので。
また、この偽りの根城にまとめサイトがつきました!
嬉しすぎてしょんべんちびった、でもそんなの気にならないくらい興奮している!
▼ブーン芸さん
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
▼文丸さん
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/stronghold/stronghold.htm
偽りUといいストロングホールドと言い、格好良すぎるだろ!
前作に引き続き、まとめありがとうございます!
また、今回も読んでいただき、ありがとうございました!
今来たんだよ!って人は今から目次つくるので少々お待ちを。
- 200 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/21(土) 18:28:46 ID:8oNpBbuMO
-
第一章 「 誘拐事件 」 >>2-62
第二章 「 オオカミ鉄道 」 >>68-134
第三章 「 若さゆえの過ち 」 >>142-198
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- 201 名前:名も無きAAのようです:2012/01/21(土) 18:36:24 ID:unzBBBKc0
- 乙
- 202 名前:名も無きAAのようです:2012/01/22(日) 01:27:12 ID:Wy7xZo1g0
- 乙
- 203 名前:名も無きAAのようです:2012/01/22(日) 09:23:48 ID:pOulmr0AO
- 面白さが増して来てる
乙
- 204 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/23(月) 01:09:56 ID:kmNqYTUwO
- >>203
そう言ってもらえるとうれしいです
書きためも終局までだいぶ進んだので、先に番外編についての要望があれば聞いておきたいです
今候補に挙げているのが、以下の
・前作でもあったワカッテマスと武怨の因縁
・パセリが登場する事件
・若い頃のショボーンとミルナの事件
・ラウンジ在籍時のショボーンの事件
・前作番外編のような、ふつーの事件
ですが、他にも「こんな話がみたい」ってのがあって、それを挙げてくださればそれを書くかもしれないです
無論上記から選んでもらっても全然問題ないです
とにかく、プロットが真っ白でなにを書こうか悩んでるので、要望があれば是非聞きたいですというお知らせでした
- 205 名前:名も無きAAのようです:2012/01/23(月) 12:21:46 ID:JIacgWVIO
- テンと9
- 206 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/24(火) 22:51:31 ID:FQwl87kMO
- >>198
×見当の一人
○見当の一つ
いまさら気づいた。訂正ですごめんなさい。
>>205
ニックネームの由来はシリーズ最終話かその手前で
明かす予定なので、ふつーの推理のお話となりますが…
- 207 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 09:57:47 ID:nsZbpxssO
- 投下します
- 208 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:03:12 ID:nsZbpxssO
-
第四章
「 消えた身代金 」
−1−
VIP県警に着くと、確かにてんやわんやが似合う騒動だった。
マスコミが動き回っており、無論、ショボーンのところにも記者がやってきた。
(-@∀@)「爆弾騒動のことでお話を伺ってもよろしいですかね?」
(´・ω・`)「答えられることはありません」
なにを問われても、ショボーンはこのようにむすっとした態度で応えた。
今時のマスコミは平気で警察を叩き、評判を落とすこともざらだ。
この記者が所属する朝曰新聞社も、例に漏れず警察を叩くのがうまいことを、ショボーンは思い出していた。
今はまだ漏れてないようだが、ショボーンが追っている
誘拐事件まで公に出れば、間違いなく人質は危険な目に遭うだろう。
公表できない点では、誘拐事件は立てこもりよりも扱いが面倒だった。
ベル刑事部長が記者会見を開き、爆弾騒動とVIP県警との関連性がないことを言った。
無論記者はそれで納得する筈もなく、質問攻めにあった。
一応、口コミ情報では当事者であるショボーンも立ち会ったのだが、それはひどいものだった。
.
- 209 名前:名も無きAAのようです:2012/01/28(土) 10:06:43 ID:vujIwDYg0
- わっふるわっふる
- 210 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:09:43 ID:nsZbpxssO
-
(-@∀@)「隠してるだけじゃないんですか」
(`∠´)「この度の爆弾騒動はシベリア県警のほうが取り扱う事件です。VIPとは何ら関係が――」
(-@∀@)「そうやって、警察同士でなすりつけあいをするのでしょうか」
(`∠´)「いま、こちらでもあちらさんでもてんやわんやの騒ぎに見舞われていますので――」
(-@∀@)「ショボーン警部、垂れ込み情報にあなたの名前があったのですが、なにがあったのでしょうか」
(´・ω・`)「たまたま、オオカミ鉄道に乗っていただけです。
. 私も爆弾騒動とは関連性がございません」
(-@∀@)「とか言って、本当は何かの事件の捜査で乗っていたのでしょ?
その事件を教えていただきたいのですよ」
(´・ω・`)「そのような事件は事実にはございません」
やはり、 爆弾騒動は、恰好の飯の種なのだろう。
特に、朝曰新聞社がかなり質問をしてきた。
とにかく、何かVIPの事件と爆弾騒動を結びつけたいのだろう。
その点では、この記者の鼻は随分と利いているように思えた。
ベルの話を全部最後まで聞かないので、ベルも次第に苛立ってきている。
ショボーンも一緒で、誰が垂れ込みしたのかと、逆恨みに近い感情を持っていた。
.
- 211 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:13:54 ID:nsZbpxssO
-
結果、終わる頃には、ベルもショボーンもすっかり疲れてしまった。
ショボーンの身を案じた若手が、コーヒーを淹れてくれた。
ショボーンにとっては、酒も煙草もやらない仕事中、疲れた時はコーヒーが一番だった。
礼を言って、一口コーヒーを呑んだ。
ショボーンは、コーヒーを淹れるのはあまり得意でなかった。
原料も同じコーヒーなのに、なぜ味に差が出るのか、ショボーンはわからず、まいっていた。
なのに、部下の東風も若手も、なぜかコーヒーを淹れるのは上手だった。
まるで、コーヒーに艶があるように見えるのだ。
一度、自分がコーヒーに嫌われているのではないか、と本気で悩んだこともある。
若手も自分の分を淹れて、ショボーンの隣に座った。
( <●><●>)「まずいですよ。この調子じゃ、誘拐事件の話もいずれ飛び出しますよ」
(´・ω・`)「その前に、なんとしてでも解決しなくっちゃな」
ショボーンが椅子に凭れ、ようやく休憩できるようになったためか、すっかり気が抜けていた。
だが、そんな彼が即座に気付けを喰らったのは、ベル刑事部長に呼び出されたからだ。
嫌な予感しかしなかったが、コーヒーを呷り、ベルのもとへ向かった。
.
- 212 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:17:49 ID:nsZbpxssO
-
怒り心頭なベルの隣には、捜査一課長のドクオがいた。
比較的痩身で背も低いが、威厳がないわけではない。
ショボーンの理解者であり、合同捜査本部なんかが必要な時は、よくベルと掛け合ってくれる。
(´・ω・`)「どうしましたか」
(`∠´)「どうしましたじゃないだろう。誘拐事件のほうはどうなんだ」
ベルが熱り立っているのは、嫌でも伝わってきた。
ショボーンは紛らわすように苦笑し、経過を話した。
(´・ω・`)「あらましはミルナ君から聞いてますよね?」
(`∠´)「相手が資産家の孫娘を誘拐し、四億もの身代金を要求したのだったな」
(´・ω・`)「そこで、犯人の指示通り一億を持って
. オオカミ鉄道の『あさやけ4号』に乗り込み、
. 誘拐犯が現れるのを待ちました」
(`∠´)「で、失敗したのだな?」
と遠慮なく聞くので、ショボーンは再び苦笑した。
少しは同情の色でも見せてほしかった。
(´・ω・`)「爆弾騒動にやられましたね。
. まさか、爆弾があるとは、思いもしなかった」
('A`)「その爆弾の主はわかったのか?」
と、今度は捜査一課長のドクオが低い声で聞いてきた。
ショボーンは首を横に振った。
.
- 213 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:22:24 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「オオカミ鉄道に問い合わせたのですが、わからないそうです」
(`∠´)「誘拐犯グループの目星はついているのかね?」
(´・ω・`)「それは僕にはわかりません。ミルナ君に聞かないと」
(`∠´)「御前モカ殺人事件のことか。
シベリアのほうに合同捜査本部が設置された。爆弾騒動も誘拐犯の仕業だろうから、
向こうでモカ殺人事件、爆弾騒動、誘拐事件の三つを同時に追うことになるだろうな」
('A`)「ショボーン君は、これからどうするんだ?」
(´・ω・`)「シベリアの捜査本部で、ミルナ君と合流するつもりです。
. ……その後は、伊達邸で誘拐犯からの次の連絡を待ちます」
(`∠´)「今すぐ戻らなくて大丈夫なのかね?
いつ誘拐犯から電話がくるか――」
(´・ω・`)「ご心配なく。おそらく、向こうも金を運び出したばかりなので、
. そう急いで次の指令を言ってくるとは思えないですよ」
「そうか」と言い、ベルはショボーンを帰した。
ショボーンは空腹を感じながら、若手を率いてシベリア県警に向かった。
一三時三六分にシベリアに着いた。
合同捜査本部には、既にフィレンクト警部と東風の二人がいた。
.
- 214 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:25:26 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「首尾はどうだ」
( ゚д゚)「それが、はっきりしないのですよ」
(´・ω・`)「ほう」
東風は黒板を指さした。
御前モカの写真が貼られ、死体状況などが細かく書かれている。
死因は青酸液による中毒死、死亡推定時刻は二時一〇分から三〇分と、割と鮮明に特定された。
( ゚д゚)「家族関係を徹底的に洗ったのですが」
(´・ω・`)「どうだった?」
( ゚д゚)「独身で、両親は既に他界。
兄弟もおらず、天涯孤独だったようです」
(´・ω・`)「知人関係は?」
( ゚д゚)「ペニーにも調べさせていますが、誘拐事件につながりそうな人物像は一向に浮かんできません」
(´・ω・`)「同じ大学とか、高校とかの級友は?」
( ゚д゚)「害者は高校を中退しており、そして就職したようですが、
コンビニの件を考えると、ここ数年で辞めたのだと思いますね」
(´・ω・`)「小中高、それらのうちのどこかに誘拐犯の仲間がいると思うんだが、さっぱりか?」
( ゚д゚)「なにぶん多いですからね。
なにか、的を絞れる手がかりでもあればいいのですが」
.
- 215 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:28:39 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「今のところ、誘拐犯に関する手がかりはモカしかいないんだ。
. ほかに調べる方法はないだろ」
( ゚д゚)「ですが、一日二日じゃ、到底調べきれる量ではありませんからね。
自分もまいってるんです」
(´・ω・`)「現場にも手がかりはなかったのか?」
(‘_L’)「そのことですが、ひとつ、面白いことがありましたよ」
(´・ω・`)「と、言うと?」
フィレンクトが割り込んで言ってきた。
声を弾ませているので、いい知らせだな、とショボーンは思った。
(‘_L’)「害者を司法解剖したのですが、妙なんですよ」
(´・ω・`)「妙?」
(‘_L’)「ええ。食べたであろう弁当が、胃の中に残ってなかったのです」
(´・ω・`)「弁当と言うと、あの食べかけの、ですな?」
(‘_L’)「だから妙に思い、箸についた唾液を調べたのですが、血液型がA型と判明しました」
(´・ω・`)「ほう」
と、ショボーンは軽く返した。
御前の血液型はA型か、程度に思ったのだ。
ところが、返事してから腑に落ちない点が浮かんできて、さッと黒板を見た。
.
- 216 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:35:19 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「待ってください。害者はO型じゃないですか」
漸く気づいたか、と言わんばかりに、フィレンクトもニヤッとした。
「お気づきになりましたか」と言って、フィレンクトは
証拠物件を入れる、ビニル袋に入った割り箸を見せた。
(‘_L’)「割り箸だったので、唾液が染み込んだのですね。これはいい手がかりですよ」
(´・ω・`)「しかし、A型か」
フィレンクトは興奮気味だが、一方で、ショボーンはそうでもなかった。
がっかりとした表情を見せている。
(´・ω・`)「AB型ならまだよかったんだ。でも、A型はこの国で一番多い血液型だからなあ」
( <●><●>)「ABだろうとAだろうと、さして問題ないのでは」
(´・ω・`)「そうだな、例を挙げるなら伊達さんがAB型だけど、それでもそう言えるか?」
( <●><●>)「AB型の人間は凄く少なそうですね」
ショボーンは軽く笑った。
この国では、血液型である程度の性格は絞れると言われている。
AB型は、他の血液型とは違う思考を持っているとすら言われているので、
若手はショボーンのそのたとえ話を聞いて、すぐ納得した。
だが、笑い話をしている暇はない。
東風が、軌道修正を兼ねて本題を切り出した。
( ゚д゚)「でもいいじゃないですか。
これで、候補のうち半分以上はふるい落とせたのですよ」
.
- 217 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:39:00 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「しかし、それでもやはり一日二日で調べられるような人数じゃないですよ」
同じく気持ちを切り替えた若手が言った。
血液型を絞れたところで、結論は変わらないのだ。
ショボーンは「わかっている」と言い、更に不機嫌な顔になった。
(´・ω・`)「こうなったら、別の線で調べるしかないか」
( <●><●>)「と言いますと?」
(´・ω・`)「一度、トソンちゃんに話を聞こう」
( <●><●>)「しかし、なにも見てないのでは?」
(´・ω・`)「万が一がある。思い出してくれたら、一気に捜査が進むんだ。
. 幸い、彼女の電話番号は知ってるし」
と言って、携帯電話を取り出した。
存外早く都村は電話に出た。
はしゃいでいたのか、息が弾んでいる。
(´・ω・`)「もしもし、ショボーンだけど」
『どうしたんですか?』
(´・ω・`)「何度もくどいようだけど、なにか、十号車の乗客について思い出したこととかある?
. いや、この際十号車でなくてもいい。ほかの車両の人間でもいいんだ。
. 気になった人とか、あと団体客もいたらそのことも教えてほしい」
『と言われましても……』
(´・ω・`)「なにも、覚えてない?」
『ええと……』
.
- 218 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:43:07 ID:nsZbpxssO
-
都村は、一生懸命思いだそうとしているようだった。
随分と長いこと唸っていたが、結論を言うと、特になにも出なかった。
隣に居るらしい岡津に聞いてみたりもしていたが、結果は同じだった。
『パセリちゃんも見てないようですし』
『私は、トソンちゃんしか見てないのっ!』
『あ、こら、離―――』
(´・ω・`)「もしもーし」
(´・ω・`)「……きれた」
ショボーンは、しょぼくれた顔をして、電話をポケットにしまった。
団体客でも見ていてくれれば、そこから連鎖的に目撃証言がつながっていき、
最終的に誘拐犯が見つかる、と思ったのだが、やはりそううまくはいかなかった。
まして、年頃の女二人だから、余計まわりの人間を見ていることなんて、そうないのだろう。
何気ないおしゃべりをするだけで、あっと言う間に時間が過ぎて行くからだ。
他人を気にかけている暇なんかないと思われる。
なにも見てなくても、それは仕方のないことだ。
.
- 219 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:47:40 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「どうしますか」
(´・ω・`)「どうしようってもなあ」
ショボーンは苛立ちを見せた。
二度も、まんまと金を奪われてしまったのだ。
しかも、今回は、宣戦布告をかまされた上での犯行なのだ。
見かねた東風が、話題を変えた。
( ゚д゚)「イツワリさん、お昼は召し上がりました?」
(´・ω・`)「弁当を食べただけだね」
思い返すと、昼に弁当を口にしただけで、以降はずっと列車に張り込んでいたのだ。
弁当の量も決して多くはなく、したがってショボーンは空腹を感じていた。
( ゚д゚)「食べないとだめですよ。腹が減ってはなんとやらって言いますしね」
(´・ω・`)「そうだな」
( <●><●>)「私は、しばらく伊藤さんたちと一緒に
害者の人間関係を洗おうか、と思っています」
(´・ω・`)「A型で、事件当夜に現場に来ることのできた人間だ」
.
- 220 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:51:08 ID:nsZbpxssO
-
−2−
意気込んだ若手が勢いよく飛び出していった。
東風はまだ昼をとってないらしく、ショボーンを誘って、近くの喫茶店へ向かった。
一息つくのと同時に、互いが各自の捜査で得た情報を交換するためだった。
二人はコーヒーを頼み、待ってる間に早速本題に入った。
(´・ω・`)「モカの事件だけど、オーナーと会ったようだね」
( ゚д゚)「ええ。だいぶ、焦ってましたね」
(´・ω・`)「そりゃあそうだろう」
( ゚д゚)「それが、彼が焦ったのは、殺人事件があったからだけじゃないのですよ。
害者にまつわる書類、害者が文字を書いた紙、その他もろもろが
全て犯人の手によって持ち去られてしまったのですよ」
(´・ω・`)「ほう。筆跡鑑定でもおそれたか」
( ゚д゚)「ところが、あっさり身元が判明しましてね」
(´・ω・`)「財布に、免許証でもあったか?」
( ゚д゚)「いえ。オーナーが、害者の雇用登録の書類を持っていたのです。
オーナーは、害者が有能であるのを見いだし、随分と早い段階で雇用契約をしようとしていたそうですから」
(´・ω・`)「逆に、オーナーの機転がなけりゃ、身元の判明も難しそうだったな」
.
- 221 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:53:52 ID:nsZbpxssO
-
東風は苦笑した。
八東のおかげで身元が割れたのかと思うと、複雑な気分だったのだ。
( ゚д゚)「オーナーの証言ですと、害者はコンビニ店員の経験者で、
研修もそこそこに、即戦力として雇ったそうなのですが、
とても事件を起こしそうな感じではなかったと言ってます」
(´・ω・`)「でもまあ、一週間じゃ、その証言はあてにならないね」
( ゚д゚)「ひとつ不審な点があったと言えば、害者は一度、オーナーに
深夜二時頃の客足を尋ねたことがあったそうなんです」
(´・ω・`)「二時?」
ショボーンの眉が、ぴくりと動いた。
ショボーンが反応をそれしか見せなかったのは、同時にコーヒーが運ばれてきたからである。
東風はコーヒーをかき混ぜながら、ピラフを注文した。
ショボーンは、サンドイッチを頼み、コーヒーを一口呑んで、頬杖をついた。
.
- 222 名前:名も無きAAのようです:2012/01/28(土) 10:56:57 ID:vujIwDYg0
- 支援
- 223 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 10:59:39 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「事件が起きたのは二時五分頃だ。偶然とは思えないな」
( ゚д゚)「オーナーも、あらためて考えるとおかしい、と言ってましたしね」
(´・ω・`)「身代金の受け渡し場所にコンビニが使えると思った主犯格が、モカに訊かせたのかな。
. 予め客足を知り、深夜でもぽつぽつ客が来るようなら
. 受け渡し場所を別のところに移していた、そんなとこか」
かき混ぜていたコーヒーを呑んで、東風は肯いた。
御前が誘拐犯グループの一員であることは、確定的だ。
数多くの状況証拠が、それを物語っている。
(´・ω・`)「さて、オーナーさんは、いつその質問を受けたのかな?」
( ゚д゚)「ちょっと待ってください」
東風は慌てて手帳を開き、ページを繰っていった。
( ゚д゚)「勤め始めて二日目ですから、ほぼ一週間前です」
(´・ω・`)「つまり、一週間前には、既に誘拐事件は計画されていたことになる」
( ゚д゚)「そうなりますね」
(´・ω・`)「誘拐事件は、身代金の受け渡しだけが肝なんじゃない。誘拐が肝でもあるんだ。
. 受け渡しの話は、誘拐の手段をだしたあとで考えたろうから、
. 実際の誘拐事件の計画は、もっと前から練られていたに違いない」
.
- 224 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:02:58 ID:nsZbpxssO
-
ショボーンは、話しっぱなしで口が渇いたのか、コーヒーを多く口に含んだ。
ちいさな溜息をついて、カップをテーブルに戻した。
(´・ω・`)「つまり、害者のアルバイトの動機は、誘拐事件にあるんだ」
( ゚д゚)「一週間前、ですか」
(´・ω・`)「この一週間というのが、ポイントになるかもしれないな。若手に言っておくか」
と言って、携帯電話で若手にこのことを告げた。
伊藤やほかの刑事にも伝えるよう言って、電話をきった。
(´・ω・`)「害者の知り合いのなかに、一週間くらい前になにかアクションを起こした人物がいたら、
. ペニーを使っていろいろ吐かせるか。たとえそいつがシロでも、だ」
東風は、その取調を受ける男性を案じ、苦笑した。
伊藤の取調は、尋常じゃないのだ。
近々、誘拐犯グループの一員らしき人物がわかるかもしれない、そう思うと、ショボーンは嬉しかった。
微かな望みではあるが、まったく進展しないよりかは、断然よかったのだ。
ショボーンがコーヒーを呑んでいると、給仕が料理を運んできた。
彼らは、少し遅い昼食をとることにした。
.
- 225 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:07:11 ID:nsZbpxssO
-
ショボーンは、列車のなかで弁当を食っているので、サンドイッチをつまむ程度でよかった。
しかし東風は、伊達邸に行ったり、シベリア県警に行ったり、
ルグロラージ駅に行ったり、まるで休む間すらなかった。
ピラフの食いっぷりからするに、この調子だと、おかわりでもしそうだった。
早いうちに捜査を再開したいショボーンにとっては、
ここでおかわりされると、少し面倒に思うところである。
(´・ω・`)「第二の受け渡しなんだけどさ」
( ゚д゚)「はい」
東風はスプーンを置いて、ショボーンを見た。
(´・ω・`)「爆弾騒動は知ってるよね」
( ゚д゚)「まあ。シベリア県警にも、どっとマスコミが来たものですから」
と、苦笑混じりで言ったのを聞いて、ショボーンは「やはりか」と言った。
今時の新聞記者は、怖いな、とショボーンは思っていた。
(´・ω・`)「爆弾は、誘拐犯が仕組んだに違いない。
. しかし、それはどうでもいいんだ。問題は、身代金のほうなんだよ」
( ゚д゚)「身代金が、どうかしました?」
.
- 226 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:12:36 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「爆弾騒動を利用し、誘拐犯はバッグを運んだ。
. しかし、列車内を捜し持ち物検査もしたけど、見つからなかったんだ。
. ゴドーム駅にも問い合わせたが、ボストンバッグを持って下車した乗客はいない、と言っていた」
( ゚д゚)「そんなはずがないでしょう。
別のかばんに詰め替えたりでもしたのでは?」
(´・ω・`)「それも考えたが、ワカッテマスが虱潰しに調べていっても、結局金は出てこなかった。
. 極めつけに、爆弾騒動以降は、窓は開かれてないと来たもんだ」
そして、続けて「身代金は消えたのだよ」と言って、
ショボーンは二つ目のサンドイッチを口に放り込んだ。
東風も、目をしばたたいていた。
ショボーンの話通りだとすると、身代金はどこに行ったのか、見当もつかないのだ。
かといって、殺人事件があったわけではないし、爆弾も未然に処理された上、
誘拐事件を公にするわけにはいかないので、運行を中断して捜査するわけにはいかなかった。
ただでさえマスコミが目を光らせているのに、ここで列車を止めると、間違いなくマスコミに嗅ぎつけられる。
ショボーンとしては、今日一日の運行を終えたのち、捜査する予定だった。
.
- 227 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:16:58 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「どう思う?」
ショボーンは、この消えた身代金の行方について東風の見解を聞いた。
「なにをですか」とは問わず、すぐに、東風はショボーンの望む答えを返した。
( ゚д゚)「消えたなんてのはあり得ません。
現場にいかない限りなんとも言えませんが」
(´・ω・`)「行方はどこだと思う?」
( ゚д゚)「車掌たちは、そうとう急いでいらした。
きっと誘拐犯は網棚の上にでも置いたのだが、
それが、急いでいた車掌たちに運よく見つからなかった。
たった、それだけのことでしょう」
(´・ω・`)「棚に置いたなら、必ず目撃者はいる。
. 犯人は、そんなリスクを冒してまで、
. まして、そんなばれやすそうな場所に置かないんじゃないか?」
( ゚д゚)「ほかに思いつかないんですがねえ」
(´・ω・`)「まあ、そうっちゃそうだな」
東風が口惜しそうに言ったのをショボーンは汲み取って、相槌を打った。
正直言って、ショボーンも見当がつかなかったのだ。
一億と言っても、詰める分にはかなりの量だ。
鞄に金を移し替えるのは簡単でも、調べられるだろうというのは向こうも考えたはずである。
なにより、受け渡しに列車を指定したのは、向こうなのだ。
なんらかの回収方法を用意していたに違いない。
しかし、ショボーンは、一つ考えがあった。
.
- 228 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:21:13 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「(デルタ車掌長が運んだ、とでも言うのか?)」
一瞬、自分で、これかもしれない、という自信はあったが、その推理はすぐに崩れたことに気がついた。
関ヶ原は、爆弾騒動が起こってから三分もしないうちに、八号車でアナウンスをしていた。
移し替えるにしても、棚の上に載せるのにも、五分がぎりぎりだろう。
まして、三分と言っても、乗客が落ち着くまでの時間もあわせてある。
どこかに無造作に放り出して、やっと間に合うか、という時間なのだ、この三分とは。
ショボーンは、それを思い出した。
無造作に置かれていたら、さすがに捜査の素人である車掌でもすぐに見つけそうなものである。
それが、急いでいたとしても、だ。
(´・ω・`)「(実際に、犯人は身代金を消したんだ。
. トリックがなければ、おかしい)」
コーヒーを呑もうとすると、既に空なのに気がついた。
それを見かねた給仕が、そっと注いでくれた。
.
- 229 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:28:04 ID:nsZbpxssO
-
−3−
真山田(まやまだ)ネーノ刑事と伊藤ペニサス刑事は、なんとしても誘拐犯グループを特定するべく、
予てから御前モカの周辺にいた人物に対する聞き込みを、徹底していた。
だが、いくら聞き込みしても一向に誘拐犯の関係が見えてこない現実に、真山田は苛立っていた。
先程までも、御前の中学時代の同級生に対する聞き込みを当たっていた。
ところが、急に若手ワカッテマスがそれを調べると連絡を寄越したので、
二人は聞き込み対象を小学校にシフトしようとし、シベリア南第三小学校の門から出てきたところだった。
頭を掻きながら、真山田はぼやいた。
( `ー´)「あいつは、あの膨大な量からどうやって調べるってんだよ」
('、`*川「絞る条件を変えるそうだよ」
と、小学校の校長からいただいた、二十三期生の卒業アルバムと名簿に目を通しながら、伊藤は言った。
やはり、中学ほどではないが、それでも数百をいく膨大な量だった。
真山田も、その量を見て「うげぇ」と言い、すぐに視線を空に向けた。
.
- 230 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:35:08 ID:nsZbpxssO
-
( `ー´)「絞る?」
('、`*川「手がかりがA型だけじゃ、いつまで経っても特定なんてできないだろうって。
いろいろ推測で当てはめるようね」
( `ー´)「こっちにも教えろってんだ、条件」
('、`*川「彼はちょっと変わってるからね。
独りで、調べたいんじゃない?」
( `ー´)「捜査はチームワークが大事なのに」
ショボーンと東風以外、みんなが経歴の浅い新米の刑事なのだが、
真山田は、なかでも情熱と頑固さだけは抜きんでていた。
推理を駆使し頭脳プレーをする若手とひたすら走る真山田では、
とりたてて言うほどではないが、仲はよろしくなかった。
ショボーンは、彼らのこういった人間関係を叱っているも、
真山田も、心の底から若手が嫌いというわけではなかった。
ただ、凡人が天才にする、嫉妬に近い感情にすぎなかった。
('、`*川「喫茶店に寄って、目を通していきましょうか」
( `ー´)「ああ」
小学校が面している道路を北に五分歩いた先の交差点の一角に、喫茶店は在った。
老夫婦が営むちいさな喫茶店だが、客数が少ないぶん、
アルバム等をチェックするのにちょうどよかった。
コーヒーを呑んで、真山田がひとまずと言って寛ぐと、
伊藤は、テーブルの上にアルバムの御前がいたクラスのページを開いた。
.
- 231 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:41:24 ID:nsZbpxssO
-
('、`*川「小学校の頃から気が弱そうな少年だったようね」
( `ー´)「へえ、意外だな」
('、`*川「人間、気が弱そうな人ほど、裏の顔は凶暴なのよ」
( `ー´)「ペニーの裏の顔は、お姫様か?」
('、`*川「言ってる意味がわからんね」
真山田がけらけら笑い、伊藤は上品に振る舞いながら、クラス写真を隅々まで見ていった。
小学生というのに皆おとなしそうで、問題児はいなさそうに見えた。
コーヒーに砂糖を入れ、かき混ぜていると、
よほど暇だったようで、マスターの嫁らしき人物が近寄ってきた。
リコ-○ー○)リ「刑事さんですかな?」
( ;`ー´)「えっ! あ、その」
('、`*川「えっと、お仕事は暇なのですか?」
伊藤が遠慮なく言うと、彼女は笑った。
リコ-○ー○)リ「いつもこんなもんなんですよ。
それより、それ、三小のアルバムじゃないのかい?」
彼女がアルバムを指して言うと、伊藤は目をまるくした。
真山田は、三小というのが、シベリア南第三小学校の
愛称であると気がつくのに、少し時間がかかった。
.
- 232 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:46:03 ID:nsZbpxssO
-
('、`*川「わかるんですか」
リコ-○ー○)リ「んな、当然じゃないですか。
これでも、あの小学校ができる頃からここもあるんですから」
('、`*川「小学生も、よくここにくるのですか?」
リコ-○ー○)リ「ませガキが、小銭ば握ってコーヒー呑みに来ることもあるんよ。
まあ、だいたいが半分ほど残してきますけどなあ」
と、独特のイントネーションで毒々しく言ったので、伊藤は苦笑した。
どうやら、この人はお節介焼きの小言がすぎるおばあさんなんだな、と真山田は思っていた。
信号無視でもする小学生がいれば、すぐに飛び出して、注意でもしそうだ。
('、`*川「二十年ほど昔のことも、覚えてたりしますか?」
リコ-○ー○)リ「こう見えて、あたしゃ記憶力と暗算の速さは自信がありますよ。
この店の経理とかしてるからねぇ」
('、`*川「じゃあ、二十年くらい前に、あの小学校の生徒が
問題を起こしたこととか、ありました?」
リコ-○ー○)リ「んにゃ、信号無視以外は知らんね。
あたしが事ある毎に逐一告げ口してったら、
すっかり問題はなくなってたしのぅ」
('、`*川「じゃあ、将来、凶悪犯になるような生徒もいなかったんですね」
.
- 233 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:51:39 ID:nsZbpxssO
-
何気ない質問のつもりだったのだが、そう聞くと、その女性は険しい顔をした。
リコ-○−○)リ「なにかあったんか?」
('、`*川「いえ。ちょっと、ね」
リコ-○−○)リ「嫌だね。今まで何千人もの卒業生を見てきたけどね、
そんな悪い子はいなかったよ。いたら、捕まえて、一時間は説教してますから」
急に早口になり、次々に言葉を放っていった。
年かさの人は、何かと怒れば口調が速くなる。
('、`*川「すみません」
リコ-○ー○)リ「別にいいんよ。人間は、そのうちかわるもんだからのぅ。
うちの人だって、昔はええ男だったのにさ、今じゃ若い娘に目移りしてばっかでのぅ。
そうそう、刑事さんだってアブナいよ」
( `ー´)「こいつに限ってそれは――」
真山田が何か言おうとしたのだが、呻き声とともに、止めてしまった。
伊藤が、真山田の足を思いっきり踏んだのだ。
しかも、踵で指を踏んだせいで、ものすごく痛がっている。
('、`*川「じゃあ、こんな感じの少年は、非行に走るとかはなさそうですかね」
と、アルバムを差しだし、御前の写真を指して言った。
集合写真ゆえに、ちいさいからか、女性はじっと写真を見つめていた。
「ああ」と声を長いこと漏らし、彼女は顔をあげた。
.
- 234 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:54:31 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「なんじゃ、モカちゃんじゃないのかい?」
('、`*川「知っているのですか?」
リコ-○ー○)リ「そらーいい子なんですよ。
かき氷の季節になると、たまにうちに来て、うまそうに食べてたのぅ」
('、`*川「それは、いつのことですか?」
リコ-○ー○)リ「そこまでは覚えとらん。でも、まじめで、特に非行に走ると思えないね」
伊藤は、思わぬ収穫の可能性に胸を弾ませた。
もしかしたら、誘拐犯のつながりを追えるかもしれないのだ。
たとえ空回りでも、御前のエピソードを聞けるのは、それだけで価値があった。
リコ-○ー○)リ「あたしゃ、リコと言いますよ。あなた方は?」
('、`*川「VIP県警の伊藤です」
( `ー´)「同じく、真山田です」
リコは、まじまじと手帳を見つめた。
よほど警察手帳に興味があったようである。
この様子では、近くで事件が起きたことがないというのも嘘ではないだろう。
リコは、伊藤の隣に腰掛けた。
.
- 235 名前:名も無きAAのようです:2012/01/28(土) 11:56:44 ID:iIUlqOa.0
- wktk
- 236 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 11:58:28 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「なにを話せばええんかいの」
('、`*川「モカという人物について。
リコさんの主観でいいですので」
リコ-○ー○)リ「うんとなぁ。シャイで、人見知りするけどな、打ち明けた人には明るかったのぅ。
うちでかき氷食うときもな、あたしが話しかけたらさ、最初は驚いてたんだこれが。
でも、気がつくと、モカちゃんから話しかけてくれてねぇ。
学校の話とか、親父にぶたれたとか、言うんだわ」
('、`*川「悪いことをした、とかは?」
と、伊藤は控えめに聞いた。
リコは、首を横にぶるんぶるん振った。
リコ-○ー○)リ「ぜんぜん。たまに、優柔不断なところが
あったから、叱ってやったことはあるけどねぇ」
('、`*川「将来の夢とかは、ありました?」
リコ-○ー○)リ「昔は、本屋さんになりたいって言ってたと思いますよ。
本屋と図書館を一緒だと思ってたみたいだったけどね。
どちらにせよ、司書も似合ってたけどねぇ。
まあ、さすがに大人になると、その夢もかわったようでしたよ」
('、`*川「というと?」
.
- 237 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:02:41 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「何年か前に、久々にうちに来たんで、話すると、名の通った仕事に就いたんだってねぇ。
そりゃーもうたまげましたよ。あの子が、そんなすごい職に就くなんて」
('、`*川「数年前にも来たのですか」
リコ-○ー○)リ「ええ、来ましたよ。
見違えるように成長してさぁ。コーヒーも呑んでた」
と、リコは遠い目をして、言った。
まるで、我が子の成長でも思い出して、感傷に浸っているようだった。
そして伊藤は、自分が緊張しているのに気がついた。
数年前という、今までで一番新しい情報がわかると思うと、
どうしても、先程までのように落ち着いてはいられなかったのだ。
( `ー´)「大企業といえば、アンモラルとかかな?」
真山田が伊藤に聞くと、リコは首をかしげた。
リコ-○ー○)リ「名前は忘れた。大きな宝石商の社員だったはずだけどねぇ」
( `ー´)「宝石商?」
('、`*川「勝ち組じゃない。すごいですね」
.
- 238 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:04:47 ID:nsZbpxssO
-
伊藤はすっかり感心した。
銀行員や公務員、宝石商と言った職業は、将来有望と思っているのだ。
一方でリコは、あたかも自分の息子が褒められたかのようで、
とても誇らしげであり、同時にとても嬉しそうだった。
リコ-○ー○)リ「ああいう子がね、もっと増えてほしいから、あたしも目くじらたてて
じゃんじゃん悪ガキを叱ってんだよ。ほんとう、可愛い悪ガキどもだわ」
('、`*川「あなたも叱られたら?」
( `ー´)「ごめんだい」
.
- 239 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:07:18 ID:nsZbpxssO
-
リコと伊藤は笑った。
真山田が頭を掻いていると、扉が開いた。
鐘が鳴ったので、リコはすぐに反応した。
仕事柄、この鐘の音には敏感なのだろう、と伊藤は思った。
リコ-○ー○)リ「あら、恥ずかしいところを」
( <●><●>)「ここの主人はいらっしゃいますか?」
リコ-○ー○)リ「いますよ」
入ってきた男を見て、真山田と伊藤はほぼ反射的に反応した。
リコが鐘の音を聞くとすぐ反応するように、真山田と伊藤も。
男が彼らのほうを見ると「おや」と言った。
( `ー´)「ワカッテマス!」
('、`*川「どうしてここにいるの?」
慌てた二人を見て、若手は口に手の甲をあて微笑した。
リコは、訳がわからず、三人の話を聞こうとしていた。
ちゃっかりしてるな、と若手は思ったが、気にしなかった。
.
- 240 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:08:39 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「害者のお気に入りの喫茶店、というのがわかったのでね」
リコ-○ー○)リ「……害者?」
( <●><●>)「申し遅れました、VIP県警の若手です」
と言って、若手は警察手帳を見せた。
が、リコはそんなことはどうでもよかった。
リコ-○ー○)リ「伊藤さん」
('、`*川「は、はい」
伊藤は緊張した。
明らかに、リコの顔つきが豹変っていたのだ。
声も太くなっているし、拳も震わしている。
リコ-○−○)リ「事件って、モカちゃんが――」
( <●><●>)「伊藤さん、あなた、もしかして?」
('、`;川「……」
.
- 241 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:11:11 ID:nsZbpxssO
-
リコは、事態を察したのか、その場に崩れ落ちた。
わなわなと、身体を震わした。
声も、自然とふるえてきていた。
リコ-○−○)リ「モカちゃんが、死んだんですか?」
('、`;川「え、ええ」
リコ-○ー○)リ「……そうか。やっぱり、なにかがあったんだねぇ」
( <●><●>)「やっぱり?」
リコ-○ー○)リ「口止めされてたから言わなかったけどさ、
そういうことなら、言っちゃうしかないね」
( <●><●>)「なにかあるのですか?」
リコ-○−○)リ「その前に。ほんとうに、モカちゃんは、殺されたのですか?」
( <●><●>)「はい」
リコ-○−○)リ「……」
.
- 242 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:18:32 ID:nsZbpxssO
-
すると、リコは、ぽつぽつと話し始めた。
どうやら、当初は話すつもりなんかさらさらなかったようだった。
その気持ちがあらわれているから、そうわかった。
リコ-○ー○)リ「あの子ね。十日ほど前かに、ここに来たんよ。
いつになく深刻な顔だったから、なにかあったのかなって思ってたらさ、モカちゃんが」
リコ-○ー○)リ「『ぼくは、失業した。そのせいで、本来ならのらないはずの誘惑に、
ぼくは負けてしまった。昔からお世話になってきたのに、申し訳ない』って」
( <●><●>)「失業、ですか」
リコ-○ー○)リ「すぐになにかまずい事をしでかすとわかったし、本来なら叱るか励ますんよ。
失業なんて気にすんじゃないよ、とか言って。
でも、そのときのモカちゃんの顔からするに、完全に思い詰めていた。
これは、あたしがなに言っても仕方がない、そう思ってねぇ」
コンビニ店員のアルバイトの件とも、理屈が合う。
どうやら、御前は、誘拐の少し前に、リコにだけ真実を言っておきたかったのだろう。
自分が、近々大きな犯罪を起こすということを仄めかして。
天涯孤独の彼が頼れる、数少ない人物である彼女に。
情に脆い伊藤は、当時の御前を自分に当てはめ、同情していた。
.
- 243 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:21:29 ID:nsZbpxssO
-
( <●><●>)「そこで、終わりでした?」
リコ-○ー○)リ「ええ、そうですよ。コーヒーをあげる暇もなかったよ」
若手は、手帳にリコの証言を書き留め、礼を言った。
そして、そのまま出そうだったので、真山田と伊藤は慌てて彼のあとを追った。
扉の前で、二人とも深々と頭を下げたとき、リコは言った。
リコ-○ー○)リ「絶対に、犯人をとっ捕まえておくれよ」
('、`*川「はい。……必ず」
( <●><●>)「じゃあ、ここで」
( `ー´)「あ、待てよ!」
若手がそそくさと出て行ったので、真山田は自慢の脚で走って
追いかけ、その後ろを伊藤が追いかけるかたちとなった。
三人を見送ってから、リコは椅子に座った。
.
- 244 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:22:09 ID:nsZbpxssO
-
リコ-○ー○)リ「これで、よかったんだろうかねぇ……モカちゃん?」
リコは、そっと涙を流しながら、そう呟いた。
.
- 245 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:27:49 ID:nsZbpxssO
-
−4−
ショボーンは時計を見た。
十五時一八分。
ショボーンは不安に思い、伊達に電話をかけた。
(´・ω・`)「もしもし、ショボーンです」
『なんだ、ショボーン君かね』
伊達は、ほっとしたような声をしていた。
どうやら、誘拐犯からだ、と思ったようだ。
ショボーンは微笑した。
『いまニュースを見ていたのだがね、なんだ、爆弾騒動とは』
(´・ω・`)「はい。どうやら、向こうは爆弾を用意し、
. その騒動に乗っかって身代金を運ぼうとしたようなのです」
『それで、ショボーン君は、無事なのかね?』
ショボーンは、おや、と思った。
自分の身を案じられるとは思っていなかったようである。
(´・ω・`)「無事ですよ。ありがとうございます」
『身代金はどうだったのかね?』
(´・ω・`)「まんまと奪われました」
『なにをやってるのだ!』
- 246 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:30:29 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「落ち着いてください。いま、少しずつですが、
. 進展の兆しが見えています。誘拐犯逮捕も近いことでしょう」
と、ショボーンはここで嘘を吐いた。
ほんとうは、御前が誘拐犯のひとりである、という点以外、なにもわかってないのだ。
伊達は、なおも声を荒げていた。
不安が拭いきれないせいで、かなり気が立っているようだった。
(´・ω・`)「それよりも、次の指令はきました?」
『……いや、まだだ』
(´・ω・`)「一応、のちにそちらに向かいますが、それまでに指令がきたら
. 向こうの要求をメモして、我々に一報お願いします」
『はやく頼むよ。私は、不安で仕方がないんだ』
(´・ω・`)「わかりました」
と言って、ショボーンは電話をきった。
東風は、皿の上にスプーンを置いて、コーヒーを呑んでいた。
電話が終わったのを見て、東風は言った。
( ゚д゚)「さて、次は、どうでますかね」
.
- 247 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:34:26 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「わからないな。向こうは、身代金の受け渡し場所に
. 二回連続で妙な場所を指定してきたんだ。予想できない」
( ゚д゚)「次も、大型スーパーとか学校とかを言ってきそうなもんですね」
と、東風は苦笑して言った。
これが予想できたものなら、どれだけ楽か。
読ませないのも、向こうの作戦なのだろう。
(´・ω・`)「それより、僕は爆弾騒動のほうが気がかりだ。
. 誘拐犯を追ってたせいか、爆弾騒動のことはよく知らないんだからね」
( ゚д゚)「夕刊がでてるようですから、買いに行ってきましょう」
(´・ω・`)「頼むよ」
と言って、東風は一度喫茶店を出て行った。
爆弾騒動の世間の見方、記事の取り上げ方が気になっていたのだ。
ラルトロス大橋という鉄橋に爆弾が仕掛けられ、列車は停車され、爆弾が処理された。
ダイヤが狂い、大騒動となっている。
近年、こう言った爆弾騒動を聞かなかったぶん、余計に
記者も民衆も面白がって、その記事をみるだろう。
シベリア県警や、VIP県警、そしてオオカミ鉄道を
新聞はどう取り上げているかにも、興味があった。
( ゚д゚)「やはり、すごい騒ぎですね。
これじゃあ、ゴシップもいいところです」
と言いながら、新聞片手に、東風が戻ってきた。
朝曰新聞その他数社の新聞を買ってきたようだ。
.
- 248 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:38:52 ID:nsZbpxssO
-
東風はゴシップ同様と言った。
ショボーンはなんだと思ったが、持っていた新聞の
見出しには、確かに幾らか誇張された表現が窺えた。
〈オオカミに謎の爆弾テロか!?〉
〈大型爆弾でオオカミ襲撃〉
なかでも、朝曰新聞は、すごいものだった。
〈オオカミ襲撃、警察に対する抗議か?〉
という見出しで、事件の概要を冒頭に書いた後は
ただずっと記者の憶測が書かれてあったのだ。
爆弾騒動の裏に警察がいるとか、警察は内密で爆弾に
まつわる事件を追っていたに違いない、などだ。
やはりショボーンが、同乗していたのが、まずかった。
VIP県警では、誘拐事件を公開していないため迂闊なことが話せず、
それ故に記者会見にて後ろ暗く思われたのが、後押ししたようだった。
騒動が起こったというのに、涼しい顔をして通常運行するのは
どういう判断なのだ、とオオカミ鉄道を叩く文面も見られた。
(´・ω・`)「めぼしい情報はないな」
( ゚д゚)「そりゃ、ついさっきの事件ですからね。
だから、話を盛って、中身を充実させたのでしょう」
(´・ω・`)「フォックスさんもすごい謝ってるな」
( ゚д゚)「フォックスというと」
(´・ω・`)「大神フォックス。オオカミ鉄道の総裁だ」
.
- 249 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:43:21 ID:nsZbpxssO
-
大神フォックス総裁と重役とが並んで、一斉にフラッシュを浴びているのが、写真越しにわかった。
キセル片手ならどれほど面白いことか、とショボーンは冗談半分で思っていた。
しかし、内容は冗談じゃなかった。
大神が、自社の売名行為に今回の騒動を引き起こしたのではないか、という見解もされていたのだ。
さすがのショボーンも、これを見て笑うことはできなかった。
東風が二杯目のコーヒーを呑み終える頃に、丁度ショボーンに電話がかかってきた。
シベリア県警のフィレンクト警部からだった。
殺害された御前の自宅に向かうとのことなので、そのことを伝える電話だった。
ショボーンも急いでそちらに向かうと言って電話をきり、東風にその旨を告げた。
パトカーに乗って、御前の自宅へと急行した。
団地の一角にそびえるマンションで、既に玄関口には
シベリア県警と書かれたパトカー含む、数台が停まってあった。
東風が近くに停め、フィレンクトと合流して管理人に会い、家宅捜査が行われた。
.
- 250 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:46:54 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「らしいっちゃらしい住まいですね」
(´・ω・`)「フリーターだし、無駄に広い家に住むわけにもいかないのでしょうな」
エレベーターで三階に向かい、出て、右手の突き当たりまで歩くと、そこが御前の家だった。
管理人が鍵を開けて、どかどかと入っていった。
玄関にやけに高そうな絵画が飾ってある点以外は、華やかさは
まるでない、男の一人暮らしにありがちな生活様式だった。
1LKで調度品は揃っているが、それ以外がまるで揃っていない。
自宅で娯楽に費やす時間すらないのか、そういった類のものすら見当たらなかった。
ベッドの上の布団は綺麗に折り畳まれていて、
新聞や雑誌類は隅のほうに纏めて縛られていた。
まさにすみずみまで整理整頓が行き届いており、
御前は几帳面な性格の持ち主である、と思わせた。
(´・ω・`)「きれいな家だな」
( ゚д゚)「男の一人暮らしは、部屋が散らかっていて
当然だと思っていたのですがねえ」
と、笑いながら言った。
東風も感心したようだった。
.
- 251 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:49:51 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「人間関係から犯人をあぶれだせなかった以上、
手紙や日記などから見つけたいものですね」
(´・ω・`)「じゃあ、失敬して」
と言って、ショボーンたちは次々に箪笥のなかを漁りだした。
今時手紙を出す人は少ないが、年賀状や残暑見舞いが残っていれば、
そこから連鎖的に、誘拐犯と思わしき人物をあぶり出せるかもしれないのだ。
また、誘拐の計画書を書かれた紙でもあれば、一気に
捜査が進みそうなものだったが、それは期待できなかった。
鑑識が指紋を次々見つけていくが、ほとんど同じようなものだった。
御前の指紋は、この際どうでもいいのだ。
.
- 252 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:52:43 ID:nsZbpxssO
-
数十分、捜査が行われた。
互いに御前の話を交わしながら、情報を集めていった。
ショボーンの追う人物とフィレンクトの追う人物が同一である可能性は極めて高いため、
もしここで証拠のひとつでも掴む事ができれば、互いの事件は一気に進展する。
そのためか、ショボーンもフィレンクトも、すっかり張り切っていた。
クローゼットや戸棚はもちろんのこと、風呂場の天井裏にいたるまで、すみずみまで調べていた。
ショボーンは、電話番号を書き連ねられた電話帳を特に捜したが、見つからなかった。
今時の若い者は、そういうのはすべて携帯電話に記憶させているのか、とショボーンはぼやいた。
だから、というわけではないのだが、携帯電話も重点的に捜した。
最近の携帯電話は、薄型モデルの物がやたらに多く、ないに等しいほどの
隙間にでも潜んでそうで、ショボーンはそういった隙間に過敏になってきた。
しばらくして、ショボーンは眉間にしわを寄せた。
(´・ω・`)「妙だ」
(‘_L’)「手がかりが、なさすぎますね」
.
- 253 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:56:31 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「携帯電話ですが、現場にありましたか?」
(‘_L’)「まさか」
とフィレンクトが即答したので、ショボーンは肩を竦めた。
自分たちの存在がばれないようにと、足がつきそうな物はすべて持ち去られたのだ。
なにも見つからない以上、そのように見ていいだろう。
そうなると、ここを捜査して進展が見込まれる可能性は、ぐっと低くなる。
向こうは素人なのに対し、こちらは捜査のプロなのだから、
どこかには手がかりが残ってるかもしれないが、ショボーンは
ここにはもう手がかりは残ってないだろう、と思っていた。
そんな中、風呂場にいた東風が、ショボーンのもとにやってきた。
長い、髪の毛のようなものを持っていた。
( ゚д゚)「排水溝をほじった甲斐がありましたよ」
(‘_L’)「鑑識!」
茶色で、目測十五センチはあった。
確か、モカは短髪で、しかも黒髪だっただろう。
また、彼は天涯孤独で、友人の線はないと見ていい。
すると、これは誘拐犯の一人が残していったものではないのか。
そう思うと、ショボーンは興奮してきた。
.
- 254 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 12:59:36 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「よく見つけた」
( ゚д゚)「この長さは、男にはなかなか見られません。つまり女です。
血液型にもよりますが、もしこれがA型なら、いっそう犯人を絞れるはずですよ」
東風は鼻息を荒くして言った。
髪の毛の血液型の判定が出次第報告するよう頼み、
ショボーンと東風は捜査を切り上げることにした。
ショボーンは時間が惜しかった。
あの髪の毛の血液型がAとわかれば、主犯格の人間の髪の毛と見て間違いはないと思われる。
すると、主犯格は茶髪で、セミロングの女か、長髪の男となる。
つまり、これで半分ほど絞れることになるのだ。
ショボーンはそれだけで充分だった。
また、御前がコンビニに出勤した十五日の夕方頃以降、御前は
風呂に入れず、必然と、入ったのは朝から昼までの間となる。
髪が見つかった以上は、主犯格が御前よりあとに風呂を使ったことになる。
それは朝から昼までの間なので、もしコンビニに向かうまでの間に
煙草を買うなどで外出したら、目撃者がいてもおかしくない。
ショボーンはその可能性に期待した。
.
- 255 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 13:02:59 ID:nsZbpxssO
-
(‘_L’)「十五日の昼間に、この部屋を出入りする人がいたかの聞き込み、ですか」
(´・ω・`)「はい。おそらくは、あの髪の毛の持ち主はモカ殺しの犯人です。
. すると、必然と犯人は昼間以降にここを出たことになるので、目撃証言が出てもおかしくない。
. 仮に髪の毛の持ち主が犯人でなくとも、誘拐犯の一人であるには違いないので
. 収穫がないことはない、僕はそう考えますからね」
と頼むと、フィレンクトは快く承諾し、シベリアの刑事を遣わせてくれた。
同じ階に住む人に訊くよう言っていた。
血液型の判定と一緒に、聞き込みの結果も教えると、フィレンクトは約束した。
ショボーンと東風は礼を言って、マンションをあとにした。
主犯格が御前の部屋から手がかりを持ち去ったとすると、
ほかにすることがないから、というのが理由のひとつである。
別の理由に、次の指令までの間に、なんとしても通話先の人間を押さえる必要があった。
もっと直訳して言うと、御前以外の誘拐犯のメンバーを見つけだす必要があったのだ。
捜査本部に戻る頃には、午後四時になっていた。
ぶ厚い雲が太陽を隠したせいで、すっかり風も冷たくなり、寒くなってきた。
ショボーンは、羽織っているトレンチコートを入念に着込んだ。
.
- 256 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 13:07:16 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「『あさやけ4号』がクロコーダイル駅に着くのはいつだ」
唐突に訊かれたので、東風は慌てて時刻表を取り出した。
爆弾騒動によるダイヤの狂いはもう取り戻した、
そう言っていたので、正確な時間に列車は着くだろう。
( ゚д゚)「一八時の三二分です」
(´・ω・`)「まだ列車は調べられないなあ」
( ゚д゚)「その前に指令がくるでしょうね」
ショボーンは苦い顔をした。
身代金が消えた謎を、なんとしてでも暴きたかったのだ。
そこから犯人像につながることも決してないわけではないし、
今なお平常運行しているのを見ると、犯人は、自然に外に運び出したことになる。
何度も言うように、車掌が調べてもなくて、若手が廻ってもなかったのだ。
それなのに、穏やかな方法で外に運び出せるはずがないと、ショボーンは睨んでいた。
(´・ω・`)「十号車、九号車ともに大きな窓もないし、デッキも乗降口もない。
. まして、ベッドの下やカーテンで隠したわけでもないんだ」
( ゚д゚)「やはり、爆弾騒動が原因でしょう」
.
- 257 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 13:11:25 ID:nsZbpxssO
-
(´・ω・`)「あれで、どさくさに紛れて八号車に持ってきた、と言うのか?」
( ゚д゚)「というより、現場を見ないとなんとも言えないのです。
自分が捜して身代金の通路が見つからなければ、そのどさくさ以外には考えられない」
と、自分が蚊帳の外にいるのが口惜しかったのか、東風は意地が悪そうに言った。
ショボーンは、東風の捜査の腕が一流なのを思いだし、微笑した。
まさしく『千里眼』を持つ男であることを、ショボーンは思い出したのだ。
確かに、さぞ口惜しかろう、と心の中で同情していた。
口に出さないのが、いかにもこの男らしかった。
(´・ω・`)「話を戻そう。犯人は、九号車から八号車には来なかったと思うね」
( ゚д゚)「なぜですか?」
(´・ω・`)「僕も人の波に呑まれたが、誘拐犯は乗客が扉でつっかえている時に身代金に触ったんだ。
. どさくさに紛れて運び出すには、タイミングがおかしい。
. それに、僕も八号車に追いやられ、扉の前でボストンバッグがくるのを
. 見張ってたけど、結局持ってくる人はいなかったんだよ」
( ゚д゚)「では、九号車、若しくは十号車から身代金を消した訳ですか」
(´・ω・`)「でも、あそこから外部につながる箇所なんて、ないからな」
.
- 258 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 13:16:08 ID:nsZbpxssO
-
( ゚д゚)「その列車には、乗務員室もないのですか?」
(´・ω・`)「寝台車両にはなかったね」
当時の情景を思い出すように、憮然として言った。
しかしその直後、ショボーンの脳内に「乗務員室」という言葉が反芻した。
なにかが引っかかる、本当に抜け道などなかったのか?
そう思っているうちに、ショボーンは眼を見開いた。
そして「乗務員室」という言葉でなにかが閃き、大声をあげた。
(;´・ω・`)「……あッ! もしかして!」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第四章
「 消えた身代金 」
おしまい
.
- 259 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/01/28(土) 13:23:58 ID:nsZbpxssO
- 第四章 >>208-258
1レス毎の文章量を増やしたので、だいぶ節約できました。
そんな事よりも、もしかしたらまた地の文のどこかで
「御前」が「モカ」になっているかもしれないですが、
もしあったとしても、それは「御前」のミスです。訂正でした。
一度に投下すると三時間もかかるとは。
とにかく、今回も読んでいただきありがとうございました!
支援レスをみただけで、投下が通常モードから発狂モードになりました。ありがたいです。
前触れしておくと、この小説は全部で九章構成になると思います。
次回投下で、およそ半分ですね。
というわけで、また来週ー
- 260 名前:名も無きAAのようです:2012/01/29(日) 17:47:41 ID:.GiOT4cQO
- あれ、武怨はドクオじゃないのか…
乙
- 261 名前:名も無きAAのようです:2012/01/30(月) 17:31:10 ID:06T8LTEcO
- 俺だけなのかも知れないが
とにかく文章が読みづらい
乙
- 262 名前:名も無きAAのようです:2012/01/31(火) 07:00:26 ID:aNN0/xgs0
- 少しテンポが悪い
冗長というか
刑事もの好きだから期待してる
- 263 名前:名も無きAAのようです:2012/02/01(水) 16:49:00 ID:IDqzLdXs0
- 真山田って番外編の先生ででてなかった?
- 264 名前:名も無きAAのようです:2012/02/01(水) 17:46:46 ID:.rRvKswo0
- >>263
ネーヨ先生だろ?
兄弟とか親類なんじゃネーノ?
- 265 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/01(水) 20:25:35 ID:CC1QynL6O
- >>261
改行、文法ともに最善を尽くしているつもりでしたが、すみません
どういったところがご不満でした?
>>262
アクションがない時はやや冗長にしてますね
その分、緩急の急の時に盛り上がるようにしたいな、と
>>263
お遊び要素ってやつです
名前の由来は偽りシリーズが終わる時にでも
- 266 名前:名も無きAAのようです:2012/02/03(金) 17:13:11 ID:sTwF3AlEO
- 多分言い回しの、好みの問題だと思う。
これだけまとめも読者も多いんだから、人気はあるんでしょ?
俺はちょっと好きになれないけど。
- 267 名前:名も無きAAのようです:2012/02/03(金) 20:09:02 ID:1ajmgPl.0
- 横槍だけど、テンポは前作よりは良くなったと思う。
地の文があんまり上手くないね。不自然な表現がちらほら。言葉が反芻しちゃったりとか。
題材が題材だから難しいとは思うけど、頑張って。応援してるよ。
- 268 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 00:24:44 ID:rjvPOAeIO
- やっぱり、次の関門は地の文か。
さすがに、こればかりは一朝一夕では直せないですね。
日々精進するよう心掛けます。
投下ですが、別に今日と明日で投下できるんですが、
週一のペースだとちょっとはやすぎないかなって思ってるんです。
はやくてでも週一で投下すべきか、意見がほしいところ。
- 269 名前:名も無きAAのようです:2012/02/04(土) 00:33:02 ID:KrZWuWpU0
- 楽しみにしてるよ
はやくはやくー
- 270 名前:名も無きAAのようです:2012/02/04(土) 01:32:52 ID:/A.e.AAsO
- 作品投下に早すぎて悪いことなんかねえんだよおぉッッッ!!
- 271 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:01:56 ID:rjvPOAeIO
- じゃあこれからも週一で投下します。
書きためは全部終わってるので、順調にいけば来月半ばまでには完結できます。
第五章から地の文の行頭を下げてますが、
別に深い意味はなく、ただ読みやすくしたかっただけですので予めご注意ください。
- 272 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:10:33 ID:rjvPOAeIO
-
第五章
「 浮かばない犯人像 」
−1−
午後四時頃、真山田と伊藤は、すっかり途方に暮れていた。
リコという御前をよく知る人物こそ見つけたものの、そこから別の人のつながりは見いだせなかった。
小学校時代の同級生で、A型で、恐らくだが茶色い長髪の男かセミロングの女、
また一週間という期間になんらかのかたちでアクションがあった人物
こう言えば絞れてきたほうだとは思われるのだが、実際はそうでもなかったのだ。
御前の小学校の同級生だけで百を越しており、髪の長い生徒は四割ほど、うち茶髪は七十パーセントほどだった。
三十人ほどまでには絞るぶんには絞れたのだが、そこから先がどん詰まりだった。
コンタクトをとれる人から電話で片っ端からかけていくも、引っ越し等して
元の住所に居ない人物ばかりで、つながる人にはアリバイが成立している者が多かった。
.
- 273 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:14:37 ID:rjvPOAeIO
-
( `ー´)「今月の十五日、あなたはどこにいましたか?」
『息子を幼稚園に送り出したあと、家で赤ちゃんの世話をして、昼頃はお隣さんとおしゃべりしていましたわ』
( `ー´)「晩はどうでした?」
『息子を引き取って、あとは家で家事をしていましたわ。
七時過ぎに主人が帰宅しましたし。
主人や息子に証言させましょうか?』
( ;`ー´)「あ、いえ、大丈夫です」
このように、条件に当てはまろうが、事件当時犯行が不可能であるとみていい人ばかりだった。
というのも、この日はウィークデイなのだ。
ほとんどの者が出勤しているためアリバイがあり、既婚の女は育児や家事がある。
子供の居ない女もいたが、宅配便を受け取っていたりと、なんらかの形でアリバイが成立してしまっていた。
伊藤は、若手と一緒に中学時代の友人を洗っていったが、結果は一緒だった。
それに、小中ともに御前と学校を共にした者も多く、真山田が報告すると、伊藤は溜息をついた。
( `ー´)「こっちは、おそらく全員シロだ」
『こっちもよ。残ってるのは小中一緒だった人たちだけだし、洗うだけ無駄ね』
.
- 274 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:17:42 ID:rjvPOAeIO
-
( `ー´)「ワカッテマスはどうだ?」
『近所の塾やスイミングスクールとかを廻って、モカ君がいたかを検証してるみたい』
( `ー´)「……いたか?」
『まさか』
( `ー´)「そもそも、引っ越ししてない人が誘拐犯の一味である可能性なんて、限りなく低いんじゃねーの?」
『それを言っちゃだめじゃない』
( `ー´)「ホシが同級生なら、電話が通じなかった人に決まってるぜ」
『とは言っても、全部洗うわけにはいかないじゃん。時間も限られてるんだから』
( `ー´)「わかった、わかった」
真山田は、伊藤を宥めて電話をきった。
どうも、焦りを感じてきているな、と自分で思っていた。
それは、伊藤もまったく同じのようだった。
.
- 275 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:24:05 ID:rjvPOAeIO
-
伊藤は若手と一緒に行動しているが、その内容は
若手の指示で伊藤も塾などを廻る、というものだ。
しかし、当然ながらそう簡単には見つからなかった。
御前の担任だった教師に聞いてみても、御前がそういう習い事をしてたという情報は得られなかった。
それを知って尚聞き込みを続ける以上、若手は藁をも掴む思いで、とにかく聞き込みを続けていると思えた。
その仕事熱心な態度を、真山田は高く評価した。
しかし一方で、それは無駄な足掻きだ、と鼻で笑ったりもした。
( `ー´)「さて」
コーヒーを呑んで、真山田は立ち上がった。
無人の捜査一課で、軽く身体をほぐした。
電話をし続けていたので、身体が硬くなっていたのだ。
すると、捜査一課に電話がかかってきた。
真山田は驚いて、すぐに受話器をとった。
( `ー´)「はい、捜査一課」
『僕だ』
( `ー´)「警部。どうしましたか」
相手は、上司のショボーンだった。
彼が、真山田の携帯電話ではなく、捜査一課に電話したことが緊急事態の存在を臭わせた。
実際に、ショボーンの声は荒かった。
真山田も自然と緊張感が高まってきた。
.
- 276 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:30:08 ID:rjvPOAeIO
-
『手が空いてる奴はいるか?』
( `ー´)「ぼくとペニーは空いてますね」
『よし。なら、二人でいますぐオオカミ鉄道に向かって、
今日の「あさやけ4号」に同乗している車掌を全員調べてこい』
( `ー´)「ワカッテマスも連れていきますか?」
『二人で充分だろ。いいから急げ、時間がないぞ』
( ;`ー´)「はッ」
ショボーンの怒声が耳に突き刺さり、真山田は慌てて電話をきった。
その勢いで捜査一課を飛び出し、走りながら伊藤に電話をした。
真山田の落ち着きのない声を聞き、伊藤もすぐに真山田と合流することになった。
程なくして、オオカミ鉄道の前で落ち合った。
すぐに『あさやけ4号』に同乗している車掌のリストをつくってもらった。
オオカミ鉄道の人事部の人に事情を説明するのが、少々手間取ったが。
リストのなかには、関ヶ原デルタの名前も書かれていた。
その下に、近城、井蓋と、他二名の名前も書かれていた。
十一両編成で、特急列車に寝台車両の加わった異色の列車のためか、車掌は複数人いた。
業務を分担するつもりなのだろう。
.
- 277 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:34:26 ID:rjvPOAeIO
-
すると、真山田と伊藤の存在に気づき、大神フォックス総裁が二人を呼んだ。
なんだろうと思って、駆け足で総裁の待つ部屋に向かった。
爪'ー`)y‐「きたか」
( `ー´)「VIP県警の真山田と、伊藤です」
伊藤は軽く頭をさげた。
大神は、相変わらずキセルを片手にしている。
落ち着きがなく、うろちょろしていた。
彼が、真山田と伊藤に座るよう促して、本題に入った。
爪'ー`)y‐「ショボーン警部の部下だね?」
( `ー´)「はい」
爪'ー`)y‐「で、例の列車の車掌を調べている、と聞いたのだがね」
( `ー´)「はい」
爪'ー`)y‐「なぜだ? なにか進展があったのかい?」
大神に訊かれて、真山田もはじめて気がついた。
なぜ車掌を調べるのか、まだショボーンに聞かされてなかったのを思い出したのだ。
( `ー´)「なんで?」
('、`*川「なんで私に聞くのよ」
.
- 278 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:38:24 ID:rjvPOAeIO
-
爪'ー`)y‐「電話でいいから、聞いてくれないか」
( `ー´)「(怒らないかなあ)」
ショボーンは熱り立っている。
いま取り込み中だったなら、間違いなく怒るだろう。
おそるおそる、ショボーンに電話をかけた。
すぐにショボーンは応じた。
『どうした』
( `ー´)「オオカミ鉄道の総裁さんが、どうして車掌を調べるのか、と」
『かわってくれ』
( `ー´)「あ、はい」
真山田は、言われるがまま大神に電話を託した。
電話を受け渡す時にも感じたが、やはり大神はなにかを恐れているようだった。
どこか、会話中の仕草にも挙動不審な姿が見られるのだ。
大神が電話をしている間、彼は肯いたりしていると思いきや、いきなり「えッ」と言った。
そして電話をきり、大神は説明した。
爪'ー`)y‐「消えた身代金の行方が、わかったそうじゃないか」
( `ー´)「そうなんですか。具体的にはどこに……」
爪'ー`)y‐「それは自分で聞きたまえ」
.
- 279 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:42:37 ID:rjvPOAeIO
-
( `ー´)「……?」
爪'ー`)y‐「まあそういうことだから」
爪'ー`)y‐「急いでいるところ止めてすまなかったね。行っていいよ」
( ;`ー´)「は、はッ! 失礼します」
真山田は、大神の持つ掴みづらい性格が苦手だった。
どう応対すればいいかわからず、戸惑ってしまう。
大神に追いやられるがまま、真山田と伊藤はオオカミ鉄道を出た。
伊藤は渡されたリストをくしゃっと握り、怒りを顕わにしていた。
('、`*川「なにあの人。ムカつくわあ」
( `ー´)「警部と話すときはへこへこしてたのにな」
('、`*川「噂じゃあ、オオカミ鉄道の総裁と言えば、金と権力にめっぽう弱いそうね」
( `ー´)「買収される噂もあるしな」
('、`*川「県警の警部と言えば、やっぱ権力ってあるのかな」
( `ー´)「あの人に限ってそれは」
想像してみて、真山田は苦笑した。
と言う真山田も、いつかは警部となって、部下をあごで使う日を夢見ている。
いや、見ていた。
実際に刑事部に配属され、上司の姿を見ていると、あごで使う様子なんて、見たこともなかったのだ。
寧ろ、我先に、と現場に飛び、誰よりも一番がんばっているように見えている。
ショボーン警部には、権力ではなくて威厳があるのではないか、と思っていた。
.
- 280 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:46:40 ID:rjvPOAeIO
-
( `ー´)「噂じゃあ、警部って、刑事なりたての頃は相当な泣き虫だったらしいぜ」
('、`*川「まさかぁ。さすがにないわ……」
今度は、伊藤が苦笑した。
ショボーンは、自分の過去を語りたがらない。
いつか、暇な時に彼の過去を聞いてみたいという思いは、
おそらく捜査一課の刑事の皆が抱いているに違いない。
( `ー´)「とにかく、この近城って人から洗っていくか」
('、`*川「家は、シベリアの県庁の近くみたいね」
( `ー´)「電話でいいじゃん」
リストを持って、真山田と伊藤はシベリアの捜査本部に戻ることにした。
家族の人にでも電話で話を聞き、有力な情報を握っていそうなら
その都度実際に会って訊く、この方針で進めることにしたようだ。
捜査本部には、もうショボーンと東風はいなかった。
どこに向かったのか最初はわからなかったが、すぐに『あさやけ4号』だろう、と見当がついた。
消えた、と言われている、身代金のルートがわかったらしいからだ。
.
- 281 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 11:56:19 ID:rjvPOAeIO
-
−2−
ショボーンと東風は、カラスコマチ駅に向かっていた。
『あさやけ4号』の次に停まる駅が、一七時五一分に着くカラスコマチ駅だったからだ。
車だと追いつきそうになかったので、一六時四二分発の快速列車『フェンリル』を使うことにした。
レックウ・ザー線をノンストップで走り、一七時三二分にカラスコマチ駅に着く。
先回りする事で『あさやけ4号』に乗り込み、無理やり捜査をするつもりだった。
捜査令状は既にもらっている。
一六時四二分。
アブソルート駅から、快速列車『フェンリル』はゆっくりカラスコマチ駅に向けて走り出した。
空いているという理由で、グリーン車に乗り込んだ。
外の景色を一望できる、おおきな窓がまず目に飛び込んできた。
シベリアの雄大な景色を一望できるのが、この快速列車『フェンリル』が人気である理由と聞く。
そのためか、客足の遠のくウィークデイでも、朝か夕方以降なら四十パーセントほどの乗車率はある。
グリーン車でこの数値なのだから、普通車だと更に高くなることだろう。
ショボーンも東風も、この薄暗くて神秘的なオーラを醸し出す景色を楽しみたいのだが、
二人とも景色に見とれる素振りなど全く見せず、すぐに会議をはじめた。
先程買った茶は、二つとも既に半分も呑まれていた。
.
- 282 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:03:02 ID:rjvPOAeIO
-
( ゚д゚)「身代金の消えたルートというのは、なんなのですか?」
(´・ω・`)「現場を見ない以上、断言はできないが――」
意気揚々と捜査に向かったものの、ここで言葉を濁した。
この男にしては珍しく、推理にあまり自信がないようだった。
(´・ω・`)「あの列車は十一両編成だが、客車は十号車までなんだ。
. 残りの一両は、荷物とかを積んでる車両なんだよ」
( ゚д゚)「なるほど、わかりましたよ」
ショボーンの言いたい事を汲み取り、東風は得意げに言った。
ショボーンは軽く笑った。
(´・ω・`)「ああ、そうだ。
. 犯人は爆弾騒動を利用し、ボストンバッグを十一号車に運んだんだ。
. あの車両には、一般人が入らないよう錠が掛けられている。
. そこで、鍵を開けて、一旦なかに放り込んだんだ。
. そうすれば、必要な時間は、鍵を開ける僅か数秒だけだからね」
( ゚д゚)「つまり、車掌がその立場を利用して運んだのですね!」
(´・ω・`)「何食わぬ顔して持ち場に戻ったあとは、隙を見るなり乗務と併せて
. 荷物車両の窓からどこかに落とす。外で待機していた仲間が、それを回収した」
(´・ω・`)「これが、身代金の消えたルートだよ」
.
- 283 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:08:24 ID:rjvPOAeIO
-
推理を展開し、ショボーンはペットボトルに口をつけた。
喉が渇いていたようで、一気に中身が減った。
( ゚д゚)「充分あり得ますね。というより、それ以外には見当すらつきません」
(´・ω・`)「僕は八号車でじっと待っていたが、
. ボストンバッグを持ってない人には特に注意せず、ほとんどスルーしていた。
. 別に、車両から手ぶらの車掌がでてきても、なんとも思わないからね。
. だから、誰がこのトリックで身代金を持ち出したか、そこまでは見てないからわからない」
( ゚д゚)「だから、真山田たちに調べさせるのですね」
(´・ω・`)「もし推理が当たっていれば、三人のうち一人は、モカとつながりがある。
. そいつを捕まえて、尋問してみせるさ。まあ、こいつは一種の賭けだけどね」
ショボーンは、やや自嘲ぎみに笑った。
というのも、ショボーンのこの考えは、現時点では根拠のない推理でしかないのだ。
実際に捜査して、なにか痕跡が浮かんできたらいいものなのだが、
さすがに、誘拐犯もそう簡単に足跡を残してくれるはずもない。
.
- 284 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:13:09 ID:rjvPOAeIO
-
所轄に協力を要請しているので、『あさやけ4号』が
カラスコマチ駅に着く頃には、あちらの鑑識も飛んでくるだろう。
とにかく、そこで、十一号車が身代金の通ったルートだった
という、それらしい痕跡を見つけ出せばいいのだ。
犯人の指紋なり、髪の毛なり、札の一枚なりと。
ただ、ショボーンには、ひとつ危惧していることがあった。
(´・ω・`)「問題は、僕もワカッテマスも、十一号車の内部を知らない。
. もしかしたら、ふつうの貨車で、窓なんてないのかもしれないんだ。
. 窓や外へつながるルートがなければ、このトリックは瞬く間に崩れる」
( ゚д゚)「でも、外装はほかの車両と一緒なのでしょう?」
(´・ω・`)「まあね。それに、あの荷物車両は、聞いた話だと
. 劇団や映画撮影で多くの機材やセットが必要な際、それらを格安な値段で運びますよ、
. というオオカミ鉄道の新しいサービスらしいんだ。
. 如何せん、普及したばかりのサービスだから、僕もよく知らない」
( ゚д゚)「ニュー速鉄道との差別化、進んでますね」
と、東風はまるで他人事のように、笑った。
呑気なものだな、とショボーンも微笑した。
(´・ω・`)「指紋が残っていりゃ、最高なんだけど……」
( ゚д゚)「車掌は、手袋があります」
(´・ω・`)「口惜しいな」
.
- 285 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:19:45 ID:rjvPOAeIO
-
時刻表どおりの一七時三二分に、快速列車『フェンリル』はカラスコマチ駅についた。
ここから、シベリアよりも更に寒いアルプスのほうへ走ってゆく列車に乗り継ぎができる。
クロコーダイル駅やカラスコマチ駅は、ひとつの区切りなのだ。
カラスコマチ駅にも交通網はびっしり敷かれており、おかげで繁華街もにぎわっているようである。
ショボーンと東風の間には、その着く直前まで、緊張の空気が漂っていた。
充分カラスコマチ駅に間に合うのだが、わかっていてもショボーンはそわそわしていた。
いま、こうして呑気にしている間にも、証拠が隠滅されているかもしれない、
そう思うと、やはりいてもたってもいられなかったのだ。
カラスコマチ駅に着くと、地元の刑事一人や幾人の鑑識と合流した。
刑事は、既に五十ほどは喰っているであろう男だった。
襟が立っていて、容姿的に、彼には刑事の風格が備わっていなかった。
刑事は犬飼(いぬかい)と名乗った。
ほどなくして、問題の『あさやけ4号』が到着した。
搭乗口から乗客が数人降りたのを見計らって、ショボーンたちは列車に乗り込んだ。
当然乗客は戸惑ったが、それ以上に車掌長のデルタが困惑していた。
.
- 286 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:25:44 ID:rjvPOAeIO
-
( ;゙ゞ)「ちょ、ちょっとショボーンさん!」
(´・ω・`)「令状が出た。調べさせてもらうぞ」
ショボーンが強気に出ると、関ヶ原もムッとした顔つきになった。
出て行くよう促すが、ショボーンはまるで応えず、まっすぐ最後尾のほうへ向かっていった。
( ;゙ゞ)「困りますよ。捜査は運行終了してから、と頼んでたでしょ!」
(´・ω・`)「それじゃあ遅いんだ」
( ゙ゞ)「それに、あなたがたは……」
と、関ヶ原は犬飼と東風のほうを見て言った。
慌てて警察手帳を取り出して、名乗った。
( ゚д゚)「VIP県警の東風です」
フ,,´仝`)「署の犬飼と、こいつらはうちの鑑識です」
( ;゙ゞ)「とにかく、業務妨害で訴えますよ!」
(´・ω・`)「問題ない、うちらが調べるのは十一号車です。
. 運行業務の妨げになるような事はしませんから」
( ゙ゞ)「……え、あそこ?」
予想外の返答に、関ヶ原は声が上擦った。
ショボーンに頼まれ、そそくさと鍵を取りにいき、やがて十一号車へと案内してくれた。
.
- 287 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:30:17 ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「広いな」
( ゙ゞ)「ここは、『列車業界初のサービス』として売り出しはじめた、
団体客の荷物運搬を手伝う車両なんですよ。
修学旅行シーズンなんかは、重宝されましたね」
全面コンクリートで覆われた寒い空間に、ぽつぽつとシートをかぶされた大きな何かが点在していた。
とある劇団のセットのひとつのようだが、シートの上からではそれがなにか把握できない。
シートの上から、その劇団の名前を書いた紙が貼られており、
よその荷物と間違えないよう配慮する姿勢がうかがえた。
だが、さほど荷物は置かれてなかったので、ショボーンの
言うように、ここはがらんとして、通常より広く見えた。
説明の途中で、関ヶ原は肩を落とした。
( ゙ゞ)「乗客が減ってきてるから、別方面で稼いでいこうとしたいんですがね」
(´・ω・`)「今はジャンボジェットを使う時代ですからね」
( ゙ゞ)「ええ」
二人が話していると、犬飼がのそっと顔を出した。
渋い声で、ショボーンに話しかけた。
フ,,´仝`)「ショボーンさん、荷物付近も調べさせますかな」
(´・ω・`)「ああ、頼みます」
.
- 288 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:32:58 ID:rjvPOAeIO
-
ショボーンが肯くと、鑑識があちらこちらに散らばっていった。
ここは業者の人間や車掌がうろつく場所のため、彼らの痕跡が残っていても、問題はない。
一方で、ショボーンの推理では、車掌のひとりが誘拐犯のひとりと考えている。
だから、なにが出ようが、ここから犯人の痕跡は追えないが、
もし誘拐犯の仲間がここに潜んでいたら、その痕跡は残っているかもしれない。
ショボーンは、そう、考えていた。
(´・ω・`)「お?」
( ゙ゞ)「どうしました」
ショボーンが車内を隅々まで観察していると、電話があることに気がついた。
近くにホワイトボードがあって、顧客の連絡先と名前を控えていた。
(´・ω・`)「あの電話、外部にはつながるのですね?」
( ゙ゞ)「ええ。そのための電話ですから」
(´・ω・`)「指紋を検出でき次第、借りていいですかな?」
( ゙ゞ)「いいですよ。十円くださいね」
(;´・ω・`)「あ、はい」
.
- 289 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:37:06 ID:rjvPOAeIO
-
しかし、業者も顧客も車掌も、皆軍手や手袋をはめていると思われる。
指紋が出てくることはないだろう、とショボーンは楽観視していた。
ところが、鑑識のひとりが、すました顔でショボーンに結果を報告した。
指紋が検出された、ということだった。
この知らせに、ショボーンは「おや?」と思った。
鑑識は、かまわず報告を続ける。
(`・д・)ゞ「この指紋ですが――」
すると、鑑識が言い掛けたのを、後ろから関ヶ原が止めた。
顔をひょっこりと出して、ショボーンに歩み寄った。
あっけらかんとした顔で、詰め寄る。
( ゙ゞ)「すみません、指紋ですが、おそらく僕です」
(´・ω・`)「え?」
ふぬけた表情をしてしまった。
なぜ関ヶ原の指紋なのか、というのと同時に、
関ヶ原が如何にも堂々としており、妙に感じたからだ。
(`・д・)ゞ「――のようです」
( ゙ゞ)「荷物を運び終えて、暑かったから手袋をとったんです。
少しして、電話の用を思い出したので、そのままで電話に触れて。
捜査を錯乱させたようで、申し訳ない」
(´・ω・`)「はぁ」
.
- 290 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:40:45 ID:rjvPOAeIO
-
ショボーンはがっかりした。
一瞬、犯人の残した足跡だと期待したのだ。
ところが、ついていた指紋の主が関ヶ原であるのなら、別段咎めることもない。
部外者のものなら、と一瞬した臨みが、儚くも手前で崩れ去る。
捜査とはそういうものだ、とショボーンは言う。
指紋の照合を委せ、電話を調べ終えたのを見計らって、本部に電話をかけた。
事務的な内容を一方的に報告するもので、ショボーンの口調もえらく淡泊だった。
(´・ω・`)「では」
一方的に話し続けて疲れたのか、ショボーンは電話を切ってからため息をついた。
どうも、事務仕事のようなかたい仕事は向いていない。
根っからの刑事肌で、捜査が一番だいすきなのだ、と自分でもよくわかっている。
犬飼の鑑識も徐々に捜査を切り上げ、ショボーンの指示待ちとなる者が増えてきた。
ショボーンが、自分が電話している間の捜査の進展を東風に聞くと、残念なものだった。
( ゚д゚)「口惜しいですが、なにも残ってません」
(´・ω・`)「くそ」
短く、ぽつんと放たれた言葉だった。
だがそれだけで、ショボーンに積もっている苛立ちの一角は見ることができた気がした。
.
- 291 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:45:01 ID:rjvPOAeIO
-
なんとしても、次の指示までに誘拐犯を押さえて置かなければならない。
わかっていても、手がかりがなさすぎる。
御前の知り合いのルートは部下に委せており、特に若手が
参加してくれているから、ショボーンは少しは期待していた。
だが、聞き込みとは何日と繰り返して、はじめて
成果が芽生えるものだ、ということも同時にわかっている。
半日にも満たない時間で、そうそう手がかりなど手に入るものか。
ショボーンの苛立ちはとどまることを知らなかった。
.
- 292 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 12:46:13 ID:rjvPOAeIO
- 二節まで投下したので一旦休憩します
- 293 名前:名も無きAAのようです:2012/02/04(土) 12:48:43 ID:/A.e.AAsO
- 一旦乙
- 294 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:38:03 ID:rjvPOAeIO
- 再開します
- 295 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:40:20 ID:rjvPOAeIO
-
−3−
受話器を置いた真山田は、うん、と背伸びをした。
伊藤も疲れが見え始めたようで、普段のけだるそうな顔が、更にけだるそうに見えた。
すっかり時間を喰ってしまったようだ。
そろそろ、ショボーンや東風も、捜査を引き上げているだろう。
コーヒーを呷って、真山田が言った。
( `ー´)「まるで接点がねーな」
('、`*川「でも、警部はこの車掌らのうち、誰かが誘拐犯の一人だ、と睨んでるのでしょ?」
( `ー´)「でもな、こう関わりがないとすると、やはりはずれなんだよ」
近城、井蓋、そして関ヶ原と、三人の経歴をざっと調べ上げた。
年齢で言うと、皆三十を超えている。
二十後半の御前とは、とてもプライベートで知り合ったとは思えない。
学校か、若しくはオオカミ鉄道に勤めるより以前勤めていた職場でか。
とにかく、会うことが必然となる場所で出会い、偶然手を組んで誘拐に臨んだ、ということだ。
.
- 296 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:44:13 ID:rjvPOAeIO
-
井蓋は野球をしていたようだが、御前にはそのような動向は見られてない。
近城は、二十五まではフリーターだったようで、その点では
御前と一致しているが、それだけでは巡り会える事もない。
関ヶ原は五年近くはオオカミ鉄道に勤めており、その前は宝石商だったらしい。
「モカも宝石商だっけ」と、真山田は笑っていた。
年齢差からして、とても手を組めるような環境にいるわけではないだろう、と。
そして、誘拐犯のメンバー間に接点がなければ、とても誘拐は不可能だ。
かなり細密に練り込まれた誘拐の作戦を用意しているし、
二度もショボーン警部から身代金を回収することができた有能さ。
とても、会って二日、三日で練れるような案ではないはずだ。
だったら、どこかに接点はあるはずなのだ。
車掌長を勤めた関ヶ原が怪しいと真山田は睨んだが、歳が違いすぎる。
まず、オオカミの大神総裁が直々に任命していると
関ヶ原が言っていた以上、大神からの信頼も厚いことだろう。
('、`*川「じっくりと訊いてないからそうなるだけで、
詳しく訊けば、きっと新しい情報も入るんじゃないの」
( `ー´)「とは言ってもなあ――」
.
- 297 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:47:29 ID:rjvPOAeIO
-
真山田が背もたれに乗りかかると、捜査本部にどかどかと誰かが入ってきた。
はっとして振り向くと、それは少しばかり剣幕が見られるショボーン警部と
普段通り無表情の東風ミルナ刑事だった。
すぐに真山田が近寄った。
(´・ω・`)「はずれだ」
( `ー´)「そうです、か……」
(´・ω・`)「お前らはどうだったんだ」
やはり、機嫌が悪いようだ。
若干、語尾が荒れている。
平静を装い、真山田が言った。
( `ー´)「三人とも、害者との接点はなさそうです」
(´・ω・`)「ほんとうに、か?」
('、`*川「まだちょちょっとしか訊いてないのですが、さすがに
年齢差もあり、厳しいのではないかと」
(´・ω・`)「絶対、車掌のだれかが誘拐犯なんだ……」
ショボーンはため息を吐いた。
彼は、そこにベッドがあれば、飛び込みたい気分だった。
なにもかも投げ出して、ゆっくりしたいと思っていた。
.
- 298 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:50:40 ID:rjvPOAeIO
-
ショボーンの機嫌を損ねぬようにと、東風が話題をかえた。
本質は変わってないが、気を紛らわせることはできそうだ。
( ゚д゚)「イツワリさんは、車掌のうち誰が怪しいと思われますか?」
(´・ω・`)「うーん……」
ショボーンも、これといった目星がついているわけではなさそうだった。
視線をしばらく泳がせたが、「わからない」と言った。
(´・ω・`)「データが足りないな」
( `ー´)「なら、今から各車掌の家に向かって、徹底的に調べますか?
日記とかから、なんらかの交友関係が見つかるかも」
(´・ω・`)「いや、いい。三人のうち二人は無実なんだ。
. 彼らにしてみれば、迷惑きわまりないだろう。
. それに、僕らには時間がないんだ」
まだ、第三の指示が来ているわけではない。
が、次の指示が今日中に来るだろうというのは、掴めていた。
別に根拠があるわけではない。
ただ、指示が一日とぶ、というのは考えにくかった。
真山田が口惜しそうに顔をゆがめた。
口惜しいと思う気持ちは、この場にいる皆が一緒に違いない。
(´・ω・`)「ワカッテマスはどうなんだ」
( `ー´)「単身で聞き込みに回っています」
(´・ω・`)「報告を聞こう」
電話で、すぐに若手に報告を求めた。
一回のコールですぐに応じたことから、今は取り込み中ではないようだ。
.
- 299 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:53:39 ID:rjvPOAeIO
-
まずショボーンが現状を告げた。
身代金の消えたルートを突き止め、よって
車掌が誘拐犯である可能性が高いこと、だが接点はなかなか見つからないこと。
身代金の持ち去りに使われたであろう車両を調べたが、なにもでなかったこと。
賢い若手は、早口だったのを一度聞いただけで、全て理解したようだった。
ショボーンが先に報告を終えて、若手は「そうですか」と応えた。
ショボーンたちの捜査にも真山田たちの捜査にも加入していない若手が
捜査の空回りを聞いたところで、どうすることもできないのだ。
その分、ショボーンは若手に期待をしている。
なにか、手土産をもって捜査本部に帰還してほしかった。
『害者は無趣味人間だったようですね』
(´・ω・`)「なぜだ?」
『友人の線からは伊藤さんたちに委せ、私は学習塾やスイミングスクールといった
いわゆる稽古事などを中心に当たってみましたが、全てがはずれていたので』
(´・ω・`)「最近の子だと、だいたいの子はどこかに通ってるぞ」
『だから、害者の家が裕福でなかったのか、若しくは害者は好奇心のない少年だったのか』
(´・ω・`)「難しいところだな。成果はないんだろ?」
『口惜しい限りです』
(´・ω・`)「とりあえず、お前も戻れ。ひとまず会議だ」
.
- 300 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 18:56:17 ID:rjvPOAeIO
-
若手が了解し、そこで電話がきられた。
ふと時刻を確認すると、もう一九時になろうとしていた。
よけいな雑務に、時間を喰われてしまったようだ。
とにかく、伊達のもとに向かい、誘拐犯の指示を仰がないことには、はじまらない。
それまでに、方針だけは定めておきたかった。
誘拐犯を特定する方針ではらちが明かないので、当然と言えば当然の判断だ。
三度目の指示でも、今までと同様に一億を要求してきたら
少なからず、あと二回は立ち会う機会ができる。
それを迎えるまでに、確実に誘拐犯を捕らえる必要性が浮かんできた。
(´・ω・`)「総力戦だ。あと少し刑事がほしいところだが」
( ゚д゚)「そんなに集めても、足手まといでしょう」
(´・ω・`)「僕とワカッテマス、必要ならぎょろ目も受け渡しに連れていくとして、
. 残ったメンバーでなんとしても誘拐犯を特定してほしいんだ」
( `ー´)「二人だけじゃ足りない、ということですね」
(´・ω・`)「失礼だとは承知だが、その通りだ。時間がなさすぎる」
( ゚д゚)「しかし、警察内で明かされているとはいえ、
あくまで極秘裏で進めている捜査です。ほかに誰を」
(´・ω・`)「………くそ」
またも、ショボーンがちいさく吠えた。
.
- 301 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:01:44 ID:rjvPOAeIO
-
やはり、少数で挑まなければならない。
幸い、集っているのはどれも精鋭ばかりだ。
ベテランの東風刑事には安心して別行動を委せられるし、
垢抜けた才能をもつ若手刑事はショボーンも認めた腕だ。
伊藤は、誘拐犯と対決する際の切り札として温存してある。
主犯格が男である可能性もあるため、もしそうなら対決の時は伊藤に一任するつもりだ。
真山田刑事は―――
と、ここへきてショボーンの思考が止まった。
真山田について、特筆すべき才能が浮かんでこなかったのだ。
(´・ω・`)「お前、特徴ないな」
( ;`ー´)「えっ? ひどい!」
(´・ω・`)「はは、冗談だ」
ほかのショボーンに仕える刑事は、皆別の事件を当たっている。
最近、いやに大掛かりな事件が多いのだ。
所轄と協力しあって、事件に臨んでいる。
(´・ω・`)「読み合いになるだろうから、壁あたりがほしいが……」
('、`*川「その徒名で呼び続けてると、そのうちまた泣きますよ彼女」
( ゚д゚)「あと一年もしたら慣れるだろうよ」
('、`*川「ミルナさんは、何年ぎょろ目って言われてるんですか?」
( ゚д゚)「片手じゃ足りん」
('、`;川「そ、そうですか……」
.
- 302 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:06:31 ID:rjvPOAeIO
-
十九時十分をまわって、若手が帰還した。
いつも通り平静を装っており、汗ひとつかいていない。
最初に戻ってきて、ショボーンに一度頭をさげた。
( <●><●>)「私としたことが、無駄に時間を浪費しました」
(´・ω・`)「無駄じゃないよ。害者がお稽古事をしていない、という事実がわかったんだから」
ショボーンは若手を宥めた。
実際、意外性を突き、習い事に着眼した若手の案はすばらしいものだった。
誘拐犯も、習い事にまでは目をつける筈もなかろう、と。
友人の線から辿れなさそうな今、有効だった案と言える。
ただ、運が悪かっただけだ。
ショボーンは、御前モカの写真の貼られた黒板の前に立った。
チョークをもって、箇条書きで書き出された犯人像を、ひとつずつ追って説明していった。
(´・ω・`)「害者の自宅からは、長い茶髪が一本発見されたんだ。
. 御前モカが天涯孤独、交友関係もそうなかった以上、この髪の持ち主が犯人で間違いない」
( ゚д゚)「また、コンビニ弁当の箸に付着しただ液からも
犯人がA型である、と特定されましたね」
(´・ω・`)「そうだ。フィレンクトさんから、この髪もA型のものだ、と報告がきた。
. だから、おそらくこれらは同一人物のものだと見ていい」
.
- 303 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:10:38 ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「一方で、二度目の受け渡しの際、犯人は荷物車両を使って
. 運び出しに成功した。これができるのは車掌だけだが――」
( `ー´)「三人とも、茶髪ではないです」
(´・ω・`)「ここで、現段階で最低でも二人、誘拐犯は残っていることがわかるな」
( <●><●>)「しかし、そもそも『あさやけ4号』から
身代金を奪い出すのに、仲間が地上で控えていたはず」
(´・ω・`)「そうだ。そこで、回収に出向いたのがこの茶髪の女ではないのか、という点だ」
爆弾騒動があり、列車が停止したのは、ラルトロス大橋という鉄橋の手前だ。
あそこは河原となっており、長い川を横切るように列車が走るために、ラルトロス大橋が掛けられている。
停車の隙に河原にボストンバッグを投げ落とし、それを回収するのは楽だ。
だが、ラルトロス大橋で回収せずに、ほとぼりが醒めてから回収を試みたかもしれない。
それを踏まえてこの会議をするのは、その点を考慮している暇がなかったからだ。
(´・ω・`)「目撃証言がでて、その内容が茶髪でないとするなら、誘拐犯は三人はいることになる」
( <●><●>)「人数はこの際どうでもいいはずです。
実際に我々が対面するのは、誘拐犯グループの下っ端ですから」
(´・ω・`)「捕まえる際、人数を把握するのは大事なことだぞ」
若手がショボーンに意見をするのは、よくある光景だった。
頑なに自分の意見を押し通そうとする時さえある。
決して博打を挑まない、慎重派な若手は、よくショボーンと捜査方針で対立することがある。
.
- 304 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:15:23 ID:rjvPOAeIO
-
( ゚д゚)「そうだ。それに、もし逮捕時に我々のほうが
人数が不足していたら、全員逮捕は難しいしな」
( <●><●>)「そうですか」
(´・ω・`)「河原での目撃証言は」
真山田を見て訊いた。
すると真山田は首をかしげた。
( `ー´)「我々は未だに『あさやけ4号』での一件すら把握しきれてないので」
(´・ω・`)「聞き込みもしてないってことか」
東風なら、自主的に聞き込みに回っていただろう。
やはり、真山田に自主行動を委せるのは不適かもしれない。
だが、刑事にとって自主行動とは、基本であり重要な事である。
緊急事態になれば、自分で決断して捜査方針を立てなければならなくなる。
なんとか、早いうちにそういった判断力を身につけてほしかった。
真山田の足を使った捜査には一目置いているところだが、ほかの面で少々頼りないのだ。
だが、ショボーンは決して真山田を凡人とは思っていない。
(´・ω・`)「一人が車掌。一人がA型で茶髪の女。
. そして、誰かはわからないが几帳面な奴がいる。
. 今のところ、まだこれだけしか情報がないんだ」
( <●><●>)「やはり、受け渡しの時に捕らえるのが」
(´・ω・`)「二度機会があったのに、両方ともみすみす逃がしたのは誰だ?
. 紛れもない、僕たち自身だろ」
( <●><●>)「………………ええ」
若手はわかりづらく肩をすくめた。
言われてみれば、チャンスは何度かあったのだ。
.
- 305 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:17:49 ID:rjvPOAeIO
-
−4−
捜査本部は、静かになった。
ここまで誘拐犯に翻弄されるとは、思ってもみなかったのだ。
だいたいの誘拐犯なら、受け渡しの際に逮捕できることが多い。
だが、精鋭の二人が二度も挑んで、両方完敗している。
巧みに誘拐犯に騙されたのだ。
ショボーンにも責任がある。
一度目の受け渡しの際、二手に分かれ、若手に身代金の保護、ショボーンが犯人の追跡。
こうすれば、犯人の捕獲は別にして、身代金だけでも死守できたのだ。
これをすぐに指示できなかったのが、敗因となった。
(´・ω・`)「交友関係から洗えず、目撃証言も期待できず、
. 犯人が残した手がかりが髪の毛一本………。
. とてもじゃないが、さすがに厳しいぞ」
( <●><●>)「次こそは捕らえてみせます」
( ゚д゚)「イツワリさん、次は自分も同行します。
三人いれば、捕らえるのは楽でしょう」
(´・ω・`)「次の受け渡し場所次第、だな」
ショボーンは笑った。
どいつもこいつも、根性だけは無駄にある。
士気をあげるまでもなく、常に熱意だけは人一倍だな、と。
.
- 306 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:20:19 ID:rjvPOAeIO
-
('、`*川「私たちは、明日も引き続き交友関係を洗うべきですかね」
(´・ω・`)「いや、いつなにが起こるかわからないから、
. いつでも出動できるように待機してほしい」
それだけ言って、ショボーンは黙った。
そろそろ、時計の長針が真南をさそうとしていた。
それを見て、五人は伊達邸へ向かうことにした。
伊達に電話で尋ねると、まだ指示はきていないそうだ。
それを聞いて安心したが、それ以上に電話をかけただけで
伊達の息遣いが尋常でなかったのが、おもしろかった。
いまから向かう旨のみを告げ、電話をきった。
若手の運転する覆面パトカーにゆられ、ショボーンはうつらうつらとしていた。
一日中動き回り精神を働かせすぎたのと、睡眠不足がダイレクトに響いてきた。
上司である自分がこんなのでどうする、と思って頬を二、三回たたいた。
横を見ると、若手はしっかりと運転していた。
まだ疲労は溜まっていないようで、安心した。
すぐに疲労が積もり、睡眠不足が敵となるのは歳のせいか、と自嘲した。
.
- 307 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:21:46 ID:rjvPOAeIO
-
|(●), 、(●)、|「そろそろ来そうで、おろおろしているのだ」
(´・ω・`)「それはしかたがありません」
来るというのは、言うまでもなく誘拐犯からの指示のことだろう。
身代金はまんまと奪われたが、昼間はなにもなかったため、来るとするなら今晩か翌朝だ。
伊達の神経が過敏になるのも、いわば必然だった。
必死に脳内でイメージを練る。
どんな質問が来るかを予想し、適切な答えを瞬時に返せるよう。
メモとペンも用意して、指示にはすぐ対応できるようしてあった。
持ってきたレコーダーを繋いで、記録の準備もできた。
昨晩、今朝と立て続けに慌ただしかったため、用意できなかった物だ。
ひょっとすると、相手の口調やちいさな物音を分析すれば、なにかが掴めるかもしれない。
極端にいえば、猫の鳴き声が微かに聞こえるだけでかなり有益な情報となりうるのだ。
二〇時になるまで、十分はあった。
今までの指示の時刻からすると、次もおそらく〇分きっかりにかかってくる。
それが二〇時なのか、それ以降なのかはわからないが。
.
- 308 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:24:37 ID:rjvPOAeIO
-
|(●), 、(●)、|「言われた通り、金をバッグに詰めておいたよ」
(´・ω・`)「お疲れ様です」
念のため、予め金はバッグに詰めておいた。
ボストンバッグは四つにしたが、五つになるかもしれないし、
逆に三つを指定するかもしれないので、チャックを開き、すぐに移し替えができるようにした。
ショボーンの指示だ。
次に、一度に二億を運ぶかもしれないと思い、その分の金も用意してもらっている。
迅速な行動のためには、緻密な準備が必要となるものだ。
電話を待つべく静かにし、焦っている自分を落ち着かせようと瞑想をしていた。
集中力が高まるとは思えないが、少しでも落ち着きを取り戻せればよかった。
そんなショボーンの横から、東風が何か閃いたような顔をした。
( ゚д゚)「イツワリさん、ひとつ奇策が」
(´・ω・`)「なんだ」
( ゚д゚)「大きなボストンバッグを用意し、それらのうち
一つに自分が潜るという、古典的な罠です。
しかし、確実に仕留めることができます」
(´・ω・`)「さすがにわかるんじゃないか? バッグの膨らみ様で」
.
- 309 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:28:00 ID:rjvPOAeIO
-
( ゚д゚)「しかし、そうでもしなければ相手の裏はかけないでしょう」
( <●><●>)「バッグに潜んでどうするのですか?」
( ゚д゚)「すぐに銃で牽制をな。怯んだところをすぐに捕らえて、手錠をかける」
(´・ω・`)「成功しないと思うが――」
ショボーンは、まず成功しないな、と思った。
だが、東風の心境を考えると、奇策をだしたくなる気持ちにも肯けた。
ショボーンと若手が挑んで、二度も逃した相手なのだ、
今までと同様に一筋縄ではいかない、とわかるだろう。
更に、誘拐犯は東風を知らない。
そこを突けばどうにかなりそうだが、
さすがにバッグに身をひそめるのは相当な博打だ、と思った。
第一、大きいバッグでも、東風が自然に入れるかはわからないのだ。
( ゚д゚)「ならば、発信機を付けるとか」
(´・ω・`)「それもだめだ。向こうもそれくらいの対策は用意しているはずだ」
この男にしては珍しい、とショボーンは思った。
警部になり、長らく東風と捜査を共にしてきたが、
東風は用心にも用心を重ねるタイプの刑事なのだ。
石橋を叩いたあとも、渡ることがないのがしばしばである。
そんな東風が、どう考えても成功率の低そうな案を出している。
.
- 310 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:30:16 ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「誘拐犯は、二度の勝利で多少ながらも油断しているに違いない。
. 寧ろ、そこを突いて、正面から堂々と向かいたいものだ」
( <●><●>)「もう逃がす事はないですよ」
(´・ω・`)「ああ、当然だ」
ショボーンは笑った。
伊達からいただいた紅茶を啜り、天井を見上げてみた。
壁紙も天井も、格調高い模様が美しかった。
吊されたちいさなシャンデリアは、雪のように白く美しい。
少し、心が安らいだ気がした。
( ゚д゚)「犯人像ですが」
東風に声をかけられ、はっとして視線をおろした。
( ゚д゚)「茶髪の女ですが、御前モカの交友関係からは掴めなかったんですよね」
(´・ω・`)「ああ」
と言って、真山田と伊藤のほうをみた。
しっかりとした顔で肯いた。
( ゚д゚)「一方で、誘拐犯のひとりは車掌だと睨んでいる」
(´・ω・`)「そうだ」
( ゚д゚)「すると、どうも誘拐犯グループの共通点が掴めないですよ」
(´・ω・`)「………ああ」
.
- 311 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:32:51 ID:rjvPOAeIO
-
それはショボーンも薄々感づいていたことだ。
誘拐犯グループを結成する以上、なんらかの共通点を持っているはずなのだ。
共通の目的のため集まったのか、偶然集ったメンバーかはわからないが、共通点がないことはおかしい。
更に、関わりの薄い者同士だと、なんらかのかたちで裏切りが起こる。
周りも肯けるような、よほどの共通点を持つ必要があった。
( ゚д゚)「三十に満たないフリーターの御前モカ、三十を超えている車掌、
そして茶髪の女。とても、共通点があるとは思えません」
(´・ω・`)「まず、モカ以外の誘拐犯が不鮮明だ。
. あと一人、誘拐犯が割れればいいのだがな」
すると、若手が横から口を挟んだ。
( <●><●>)「しかし、考えてもみてください」
(´・ω・`)「ん?」
( <●><●>)「確かに、誘拐犯は共通点があります。
しかし、そんななか、裏切りが発生したではありませんか」
(´・ω・`)「モカ殺しだな?」
( <●><●>)「ええ。 裏切り、仲間割れは、もっとも危険な行為なのに」
(´・ω・`)「それで、なにが言いたい」
( <●><●>)「誘拐犯グループの共通点は、あっさり裏切りが起こるほどの
薄っぺらいものなんですよ。ふつうの共通点ではないでしょう」
.
- 312 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:38:59 ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「つまり、普通に捜査していては、その共通点も
. 見つからないだろう、と言いたいんだな?」
( <●><●>)「はい。もっとも手っ取り早いのが、
誘拐犯の一人を捕まえることです」
(´・ω・`)「じゃあ、捜査方針を切り替えるか」
ショボーンは、自分が誘拐犯を追うなか、真山田や伊藤に
御前から誘拐犯のしっぽを捕らえようとさせていた。
御前が誘拐犯グループである以上、必ずなにか不審な動きが見られてきたであろうからだ。
しかし、若手はその捜査を無駄だと感じていた。
そう簡単に見つかるものでないのだから、
誘拐犯の直接逮捕に臨むほかないだろう、と。
.
- 313 名前:名も無きAAのようです:2012/02/04(土) 19:39:47 ID:CF6vdp6EO
- 来てた、今から読む
- 314 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:39:52 ID:rjvPOAeIO
-
(´・ω・`)「だが、誘拐犯グループの車掌と茶髪。
. この二人にかかった霧を払う必要はあるぞ」
( <●><●>)「承知しております」
(´・ω・`)「だといいんだがな」
ショボーンは不機嫌な声で言った。
二口目に啜った紅茶は、早速冷めかかっていた。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第五章
「 浮かばない犯人像 」
おしまい
.
- 315 名前:名も無きAAのようです:2012/02/04(土) 19:44:15 ID:P/X9HIJ20
- 乙
- 316 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/04(土) 19:45:05 ID:rjvPOAeIO
- 第五章 >>272-314
少し短かった気もしますが、これで五章を終えます。
折り返し地点にきました。
今までは退屈なパートでしたが、第六章より、
漸くサスペンス小説らしい展開になると思います。
行頭を空けたため、どこかで空け忘れがあるかもです。
ほかにも駅名や時間、人物名などで「これ誤字?」というのが
あれば、それは恐らく誤字で間違いないです。ごめんなさい。
とりあえず、今回も読んでいただきありがとうございました!
番外編のプロット製作もはじめました。ではまた来週。
- 317 名前:名も無きAAのようです:2012/02/05(日) 12:31:38 ID:/T9T8yWs0
- 乙ー
- 318 名前:名も無きAAのようです:2012/02/05(日) 21:14:22 ID:pxhDokU6O
- 乙ー
なんかちょっと見えた気がする
- 319 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:29:10 ID:mRtbd39YO
- 土曜サスペンス劇場はじまりー
- 320 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:31:09 ID:mRtbd39YO
-
第六章
「 三度目の衝突 」
−1−
二〇時きっかりに電話が鳴った。
きっかりというのをみて、相手は誘拐犯だとわかった。
やはり、誘拐犯のひとりは几帳面な性格を持つようだ。
伊達が一瞬顔を歪めたが、慣れたのか、すぐに落ち着きを取り戻した。
レコーダーは回りはじめている。伊達もペンを持ち、電話に応じた。
|(●), 、(●)、|「…………もしもし」
『次の指令だ』
|(●), 、(●)、|「言ってくれ」
伊達は落ち着いて言った。
誘拐犯の、ボイスチェンジャーを通した声が続けた。
.
- 321 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:35:15 ID:mRtbd39YO
-
『次は二〇時二〇分、VIPの北にあるホテル「ひるがさき」のクロークにボストンバッグ三つに一億を詰めて預けろ。
交換札をもって、向かいのコインランドリーの入って右手、上段の四つ並んだ右から二番目に札を置け』
|(●), 、(●)、|「誰が持っていけばいいんだ」
二度目の例があったので、伊達は訊いてみた。
すると、誘拐犯はくすっと笑った。
『言うまでもない、そこにいる刑事だ』
(´・ω・`)「!」
|(●), 、(●)、|「わかった。今日の二〇時二〇分だな?」
『そうだ』
肯いて、誘拐犯はすぐに電話を切った。
伊達が、メモをとった紙をショボーンに渡した。
その紙に目を通す前から、ショボーンの顔はゆがんでいた。
なぜ、あんなに堂々と警察と張り合えるのかがわからなかったのだ。
確かに二度、ショボーン率いる警察は見事なまでに負けた。
だが、だからといって、警察を相手にとるのは何度目であってもリスクが高いはずだ。
余裕に満ちているだけなのか、次も逃げきれる自信があるのかはわからない。
わからない分、ショボーンは腹がたっていた。
.
- 322 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:39:08 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「完全に僕を嘗めているな」
( <●><●>)「チャンスです、早速いきましょう」
ショボーンは不機嫌を顕わにした。
若手は早速と言って立ち上がったが、ショボーンはそれをいったん止めた。
(´・ω・`)「バッグを……三つだと?」
相手の要求したバッグの数が、三つになっていた。
それが、気にかかったのだ。
金を移し替えるぞと言って、皆で手分けしてボストンバッグに向かった。
三つに一億を分配だから、端数がでる。
札一枚一枚を分ける余裕もないため、三千万と四千万で分けて詰めた。
均等な量ではないが、文句はないだろう。
(´・ω・`)「『ひるがさき』と言えば近いな。
. 信号もあるけど、十分もありゃ着くだろう」
バッグに金を移し終えて、ショボーンは言った。
二〇時〇八分。
バッグを持って、ショボーンと若手は伊達邸を飛び出した。
( ゚д゚)「イツワリさん、自分はどうしましょう」
(´・ω・`)「レコーダーを持って、ドクオ一課長に首尾を報告してくれ」
( ゚д゚)「わかりました」
.
- 323 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:42:16 ID:mRtbd39YO
-
東風も受け渡しに連れていきたいが、連れていくには二人がぎりぎりだった。
伊達邸に、伊達の保護および連絡係として真山田と伊藤を残す。
緊急で行動が必要になった場合にも、彼らが動かなければならない。
すると、ドクオ捜査一課長にレコーダーを届け、また
現状を伝えるのに、東風をつかうしかなかったのだ。
レコーダーを分析し、手がかりがあれば報告しろと東風には伝えてある。
若手はアクセルを踏み、覆面パトカーを走らせた。
( <●><●>)「ホテルのクロークでしたら、協力を要請すればいいのでは」
(´・ω・`)「時間がないんだ、こっちは」
指令をよこしてきたのが二〇時きっかりで、二〇分に金を持ってくるよう言われた。
さすがに時間的猶予がなさすぎるのだ。
ショボーンは、口惜しく思った。
すっかり、道という道は暗くなっていた。
月が雪雲に隠れているので、街灯だけが頼りだ。
また、雪も少しずつだが降ってきている。
その雪は、徐々に強さを増してくるように思えた。
暖房の効いた車内だが、どこか寒く感じられた。
窓なんかを触るだけで、外はかなり寒いだろうと予測できる。
.
- 324 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:46:35 ID:mRtbd39YO
-
VIPの中央部ではそれほど雪は降らないが、北のほうでは、シベリアと山を
ひとつしか隔てていないことも関係がありそうだが、よく雪が降る。
この国で寒い地域と言えばキタコレ、アルプス、シベリアが
名前に挙がるが、シベリアは乾燥地域である分、冬場はつらかった。
一方アルプスには水源涵養林が多く、水が豊富である。
シベリアは、それとは対照的に鉱山資源が豊富である。
そのせいで、寒さでは一緒だが、アルプスとは真逆のイメージを受けた。
特徴的なのは、シベリアの寒さがVIPにも押し寄せてきているということだ。
アルプスとはアルプス山脈と呼ばれる標高の高い山脈で仕切られており、
雪雲がやってくることはないが、シベリアとの境はそうでもなかった。
一つの山を境にしているので、よく雪雲や乾燥した風が吹いてくる。
VIPの北端にいれば、それのつらさがよくわかるのだ。
底冷えするような寒さだった。
それは車に乗っていようがいまいが、関係なかった。
通過する街路樹の葉を見ていくが、風に煽られているのがよくわかる。
枯れ木が多くなっていた。
残った僅かな葉のどれもが、必死に枝にしがみついている。
.
- 325 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:50:03 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「………」
若手は、いつの間にか無心になっていた。
運転に際しての意識はむろん働いているが、それ以外はなにも機能していないようだった。
ペダルを踏む足の感覚さえ疎かになってきている。
警察官が、しかも任務中にわき見運転をするなどもってのほかだが、視線は宙を泳いでいた。
伊達邸をでてから二つ目の信号に差し掛かり、はっとしてブレーキをかけた。
(´・ω・`)「ホテルのクロークは、一見すれば都合の良い受け渡し場所だ。
. だが、実はいくつものリスクをかかえているんだ」
( <●><●>)「監視カメラに映るし、顔を覚えられ、更にホテル側が逮捕に協力しかねない」
(´・ω・`)「だから、まさかとは思うが――いや、まさかではない。おそらくだ。
. おそらく、このホテルにも罠を張っているに違いない」
( <●><●>)「所轄にも連絡をいれますか。
ホテル『ひるがさき』はVIPの管轄のため、ある程度は融通が利きます」
(´・ω・`)「いや、まずい。向こうはよほど寛大なココロの持ち主のようで、
. 警察に通報したとわかってもどうにもしてこないが、だからといって
. 下手にでると、なにをされるかわからん。僕らだけで立ち向かうんだ」
.
- 326 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:53:38 ID:mRtbd39YO
-
若手はいったん黙った。
エンジン音がうるさかった。
( <●><●>)「警部は、主犯格自身が直接受け取りにくるとお考えですか?」
(´・ω・`)「わからないな」
ショボーンの一声で、若手は静かになった。
警部にも想像しにくい事が、自分にもわかるはずがないと思ったのだ。
信号が青になったので、再びアクセスを踏んだ。
(´・ω・`)「なんとしても、今回で捕まえなければならない。
. 四度目の指示で、誘拐犯にとっては僕らはもう用なしとなるんだから。
. 逆に言うと、四度目には必ず逃げきれる策を用意している筈なんだ。
. ……今回が、ラストチャンスと思っておけ」
( <●><●>)「方針としては、クロークから出てくる怪しい者がいれば職務質問に応じさせる、
そして誘拐犯であるならば逮捕する、ということでよろしいですかね」
(´・ω・`)「もとより、ほかに法がないだろうな」
(´・ω・`)「ただ、正面玄関からだけではだめだ」
( <●><●>)「私が職員用出入り口を押さえます」
(´・ω・`)「いや……『ひるがさき』の構造を知らないから断定はできないが……」
( <●><●>)「?」
.
- 327 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 17:58:00 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「トイレや通路の窓、また中庭から……。
. いくつも脱出ルートはあるだろう? それをどうしようか、と思ってたんだ」
( <●><●>)「所轄から数人寄越してもらいましょう」
(´・ω・`)「ただ、張らせるのがばれると、相手はホテル内でバッグを処分して、
. そのまま何食わぬ顔で出てくるだろう。そうなるとおしまいだからなあ」
なかなか決断ができない、優柔不断な一面が見られた。
だが、ここは絶対に逃してはならない場面であるのは間違いなかった。
慎重に慎重を重ねるのが第一である、ということは若手も承知している。
起こり得そうなありとあらゆるパターンを想定し、
それらを片っ端から潰していくと、どうしても回避できない関門が立ちはだかる。
ショボーンの場合、今回のこれが数で挑めない勝負であることが、その関門だった。
誘拐犯にとって、いくらでも脱出口はあるのだ。
また、誘拐犯グループには、茶髪の女と車掌、と最低二人は残っている。
車掌は任務を終え、自由に行動できる身となっているだろうか。
仮にショボーンが数で挑んだとすると、二人のうち一人が身代金を
受け取りにきて、警察が張ってるのがわかれば相方に連絡、そして人質を殺す。
こんなストーリーが、目に見えるように浮かんでくるのだ。
.
- 328 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:06:14 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「時間がないのが痛い。せめて一時間の猶予があれば、
. 全ての脱出口を調べた上で対策ができたんだけどな」
( <●><●>)「それも向こうの作戦でしょう。バッグの数を変えることで、詰め替えさせる。
この動作に費やす時間も向こうの計算の内とすれば、してやられたものです」
ショボーンがあらかじめ金を四つのボストンバッグに詰めたとして、
あえてそれを三つと指定すれば、ショボーンたちは無駄に詰め替えなければならない。
誘拐犯は、そんなところまで見越してバッグを三つに指定したのだろうか。
そうだとすると、非常に先の見通しができる、厄介な相手となる。
(´・ω・`)「検問を張る準備をさせておこう」
( <●><●>)「効きますかね」
(´・ω・`)「わからん。ここらはシベリアのすぐ南というだけあって、多くの森が点在している。
. その気になれば、車で森の中を走ることくらい、訳ないからな」
( <●><●>)「まあ、準備に越したことはないでしょう」
そう言うと、ショボーンは肯いた。
無線を使って、検問の件について話をつけた。
無駄なことをいっさい省き、要点だけを簡潔に手早く
言っているのを見て、さすがショボーン警部だ、と若手は思っていた。
無線機を置いてショボーンが溜息をもらすと、話を変え、若手に質問をした。
.
- 329 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:11:04 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「一度目ではまんまと出し抜かれたが、その理由はなんだったと思う?」
( <●><●>)「私たちが動転してしまい――」
(´・ω・`)「その元凶だ」
( <●><●>)「……? 御前モカ氏が殺害されて――」
(´・ω・`)「そのハプニングのせいで、出遅れた。
. あれがなければ、問題なく誘拐犯を逮捕できた」
( <●><●>)「なにを仰りたいのでしょう」
(´・ω・`)「わからんか?」
(´・ω・`)「……今回も、またあのときのように事件が起こってしまえば、僕らの負けなんだよ」
.
- 330 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:14:39 ID:mRtbd39YO
-
若手は言葉を失った。
誘拐犯を追う以前に、自分は一警察官なのだ。
事件が起これば、否応なく応対せざるを得ない。
今まで何度か考えたことだが、今回は特にショックが強かった。
というのも、次の現場はホテルなのだ。
人の多くが出入りしており、殺人事件から食中毒事件まで、
ありとあらゆる事件が起こり得そうな場所だからこそ、特にそれらが懸念されることとなる。
なにも人を殺さなくていい。
腹痛を起こす薬を食事にばらまくだけで、食中毒となり警察が出動するはめになる。
そうすれば、自ずと誘拐犯グループの勝ちとなるわけだ。
これから十分後に、なにか事件が起こるのではないか。
それが、ショボーンが一番恐れていることのようだった。
次に若手が口を開こうとすると、先にショボーンが開いた。
交差点の先に、おおきなホテルが見える。
どうやら、あれがホテル『ひるがさき』のようだ。
.
- 331 名前:名も無きAAのようです:2012/02/11(土) 18:22:44 ID:lPCr8X2QO
- 待ってたんだけど
予想してた時間よりはやかった
C、今から読む
- 332 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:43:45 ID:mRtbd39YO
-
−2−
VIP県警は、今晩も忙しいようだ。
警官という警官が走り回っている。
最近は暴力団も台頭してきつつあり、捜査四課が特に忙しい、と知り合いの刑事に聞いた。
だが、仕事量で言えば捜査一課が一番多い、という自負はあった。
悲しいことだが、現代において、刑事事件の起きない日は必ずない。
必ず、人が殺されたり、強盗が起きたり、傷害事件が発生するのだ。
しかも、どれも規模はしゃれにならない。
そのせいで、常に捜査一課はたいへんだ。
時に、倦怠感に見舞われる事もある。
でも、だからこそ、のやりがいを見いだせるのもよかった。
( ゚д゚)「(久々に帰ってきた気がするな)」
毎日のように出勤しているここVIP警察本部だが、なぜか今日は新鮮味が増していた。
.
- 333 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:46:37 ID:mRtbd39YO
-
東風は、かれこれ二十年以上は刑事を勤めている。
彼をベテランと称しても、別段差し支えは生じないだろう。
彼は警部でもないのに、よく上司と打ち合わせをすることもある。
それは、実地経験をショボーンよりもかなり積んでいるからだ。
持ってきた、誘拐犯との会話を録ったレコーダーを片手に、廊下を歩いていく。
窓の外では、木枯らしが枯れ木を虐めていた。
風の奏でる音を聞くだけで、寒気がする。
陽が暮れている以上、予想以上に寒いに違いない。
( ゚д゚)「ドクオ一課長」
('A`)「ん? ああ、ミルナ君か」
東風は、なぜこのような痩身が捜査一課長に上り詰めたのか、わからなかった。
別に策士でもなく、行動力があるわけでもない。
人徳の面で言っても、支持されているかは微妙なところだった。
ショボーンはドクオ捜査一課長を好く思っているが、東風はそうでもなかった。
ベル刑事部長に、ぜんぜん意見しようとせず、保身に走りがちな人ではないか、と。
.
- 334 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:49:07 ID:mRtbd39YO
-
東風が用件を言う前に、ドクオが先に言い寄ってきた。
例の誘拐事件かと思えば、オオカミ鉄道の件だった。
今はそれどころではないのに、と東風は思った。
しかも、東風はその事件を直接扱ったわけではないので、
新聞で読んでわかる程度のことしか知っていない。
('A`)「――で、ショボーン君についでだがねぇ」
( ゚д゚)「なんでしょう」
ドクオが溜息を吐いた。
東風は嫌な予感しかしなかった。
('A`)「新聞、特に朝曰新聞を見たか?」
( ゚д゚)「ええ、ざっと」
('A`)「ひどいバッシングされていたことが、上の人の癇にさわったようだよ」
( ゚д゚)「あの新聞社は話を盛るのが好きなんです。
見たところ、ほとんどが憶測で書かれていました」
('A`)「だろうとは思うけど、ショボーン君が居ながら
みすみす爆弾事件を起こしてしまったのは事実なんだから」
( ゚д゚)「あれは誘拐犯が設置したものと思われます。防ぎようがないです」
('A`)「だが、世間的には誘拐事件は隠されている。
国民は、特にシベリア住民はVIP警察を悪く思うだろうね」
( ゚д゚)「で、用件はなんでしょうか」
.
- 335 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 18:53:24 ID:mRtbd39YO
-
ごたごたと能書きを並べ、更に自分に八つ当たりをしようと
しているふしが見られたので、ムッとなって東風は訊いた。
ドクオは苦い顔をしながら言った。
('A`)「ショボーン君にペナルティーが下されると思うんだよ」
( ゚д゚)「ぺ……」
('A`)「そうしないと、住民に示しがつかないだろうからさ。
爆弾事件のせいで、シベリアは少なからず迷惑を被らせたわけなんだから。
しかも、誘拐犯の仕業だとして、その誘拐事件を担当しているのは我々VIPだ。
どのみち、ショボーン君には処罰が下るかもしれない」
( ゚д゚)「……」
ドクオの言い分はもっともだった。
因果関係はどうであれ、シベリアで起こった爆弾騒動にはショボーンが乗っていた。
ショボーンの追う事件の道中で発生した騒ぎだ、と睨まれているが、強ち間違ってはいない。
その爆弾騒動のせいで、シベリアは交通面でも人事面でも多大な損害を受けたことになる。
ショボーンがこのたびの騒ぎを引き起こした、と思われているのだ。
ショボーンは誘拐事件を追っている。
その誘拐事件は、公表するわけにはいかない。
オオカミ鉄道にショボーンが乗っていた理由は、この誘拐事件のためだ。
記者たちがショボーンに乗っていた理由を聞いても、答えられない。
それが更に怪しさを伴い、住民の癇にさわるのだろう。
.
- 336 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:34:33 ID:mRtbd39YO
-
('A`)「話が長くなったね。用はなに?」
ようやく本題に漕ぎ着けられて、東風はほっとした。
( ゚д゚)「その誘拐事件についての首尾の報告と――」
ドクオの目の前に、持っているレコーダーを見せた。
ドクオは顔色を変えずにそれを見ている。
( ゚д゚)「これの音声分析を」
('A`)「それは、もしかして」
東風は顔をあげた。
( ゚д゚)「誘拐犯と、伊達氏との通話の記録です。
ボイスチェンジャーを通されてますが、僅かなイントネーションの違いや
方言などを解析すれば、なにかの手がかりになるかもしれません」
('A`)「……」
( ゚д゚)「正直言って、望みはかなり薄い」
('A`)「ある意味で言えば、前代未聞だな」
( ゚д゚)「我々には証拠が足りなさすぎる。
微かでもいい。藁にも縋りたい一心で、動いています」
('A`)「らしいね」
( ゚д゚)「そんななか、警部は皆の士気を保ち、率先して犯人探しに努めています」
レコーダーを握る東風の手に、チカラが籠められた。
ドクオは、それを視認するのに少々時間がかかった。
( ゚д゚)「警部への処罰は、いささか理不尽ではないのでしょうか」
('A`)「……」
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- 337 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:37:46 ID:mRtbd39YO
-
しばらくドクオは黙った。
窓の外から聞こえる風の音だけが聞こえる。
('A`)「……分析は委せなさい。僅かな手がかりでも見つかれば、ショボーン君に連絡するよ」
( ゚д゚)「はい」
東風は、レコーダーをそっと手渡した。
細いドクオの腕が、レコーダーを抱え込むようにして持った。
そして、苛立ちが積もってばかりの東風は、ドクオから離れたい一心でその場を去った。
彼の背中を見送って、ドクオは踵を返した。
彼には彼の執務が残っているのだ。
('A`)「(おれが進んで処罰を与えるわけがないだろう……!)」
('A`)「(オオカミ鉄道や住民からの反発を抑えきれない上司が悪いんだ……)」
('A`)「(……なんとしてでも誘拐犯を捕まえてくれよ……ショボ……!)」
ドクオも、レコーダーを握る手にチカラが籠もった。
東風の苛立ちも、おおかた理解できる。
まず、誘拐犯に二度も逃げられ、軽くあしらわれたことだ。
士気は下がるだろうし、自信もなくす。
また、オオカミ鉄道に乗っていただけで受ける、世間体の冷たい批判。
これが、今の東風にとって理不尽以外の何物でもないのだろう。
一方では、同乗していた若手の名前はぜんぜん挙がっていない。
警部という、責任を追及される立場の人間がいたからこそ、
怒りの矛先に、と皆がよってたかってショボーンを責めるのだ。
.
- 338 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:41:26 ID:mRtbd39YO
-
一応、報告ではショボーンにも非があるように思える。
オオカミ鉄道から予め爆弾についての報告がなされたはず
なのに、事前にパニックを防げなかった、ということだ。
オオカミ鉄道の総裁、大神フォックスはこのことを理由に警察を叩く一面も見られたそうだ。
その際、ショボーンの名は出していなかったそうだが、記者たちはショボーンに目をつけるだろう。
しかし、報告と言っても、五分前に報告がきたのだ。
いたずら電話かと思い、楽観視していたのはいただけないが、それでも時間的猶予がなさすぎる。
五分前に報告がきたと言って、パニックを未然に防げとは不可能な話だ。
それができるものであると前提にして、大神は語った。
ドクオは、そのことが気に喰わなかった。
いま、シベリアとVIPで合同捜査本部が置かれている。
合同捜査に際して、なにか亀裂が生じないか。
少し、この点についても不安はあった。
だが、フィレンクト警部は芯のしっかりした人材だ。
うまくショボーンをサポートし、御前モカ殺人事件の犯人を割り出してくれるだろう。
ショボーンたちが誘拐事件の線から犯人を追う一方で、
フィレンクトたちは現場や害者の情報から犯人を追っている。
互いがそれぞれ別方向に向かって走っているので、
きっと近いうちに犯人を捕まえることができるだろう。
ドクオはそれを信じて、早足で目的地に歩いていった。
.
- 339 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:43:57 ID:mRtbd39YO
-
( ゚д゚)「捜査一課……」
おそらく、ショボーンは一人でも人材がほしいところだろう。
二人で行くとは言っていたが、おそらく人手不足が裏目にでる。
若手も侮れない人材であることは、東風もよく知っている。
三十にでもなれば、警部補に上れる才能は充分持っているだろう。
しかし、若手も、身長は百八十ほどしかない。
手も二本しかないし、片腕の長さは一メートルもない。
量と質の問題だが、今回は量が要る事態なのだ。
東風の読みでは、今頃ショボーンはホテルを囲めないでいるに違いないと思っている。
手が空いた者がいれば、連れていこうと思っていた。
室内に入ると、人陰が見えた。
/ ゚、。 /「!」
( ゚д゚)「鈴木、いたのか」
/ ゚、。 /「はい」
.
- 340 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:49:06 ID:mRtbd39YO
-
東風は驚いた。
まさか、もう例の事件が解決したのか、と。
ショボーンが唐突に私的な事情で誘拐事件を担当して
しまったため、捜査一課は一度統率が保てないでいた。
ショボーン、若手、東風、伊藤、真山田の五人は誘拐事件を
担当したが、残りのメンバーは発生した別の大きな事件を扱っていた。
確か、彼らは今朝が他の通り魔事件を扱ったはずだが。
その残りメンバーのうちの一人、鈴木ダイオードが帰還していた。
短い黒髪がきれいな、すらっとした女性だ。
若手のようにドライな性格で、同期の若手の陰に隠れて
目立たないが、彼女も十年に一度と言っていい逸材だった。
腕力や体力は劣っているが、頭の良さは若手に匹敵する。
( ゚д゚)「通り魔事件はどうした」
/ ゚、。 /「罠を張ったらあっさりひっかかりました」
(;゚д゚)「罠、ねぇ」
彼女は、罠を張ったり心理戦に強いなどと、読みの要素で抜きん出ていた。
足の捜査が自慢の真山田、尋問に秀でた伊藤たちとはまた違う刑事だ。
将棋好きの東風は一度鈴木と一局指したが、端にひっそりと
残していた角行で、土壇場で逆転勝利されたこともある。
.
- 341 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:50:46 ID:mRtbd39YO
-
/ ゚、。 /「ミルナさんはどうしたんですか? 確か、誘拐事件が――」
( ゚д゚)「そのことなんだが、人手が足りんから来てほしい」
/ ゚、。 /「あ、はい」
冷静な性格ではあるが、これでも彼女は二十後半の独身女性だ。
早いうちに、好い人と籍を入れたいところだろう。
捜査一課内では、しばしばそのネタでいじられている。
というより、ショボーンが率先していじっている。
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- 342 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 19:53:26 ID:mRtbd39YO
- 二節まで投下
いけるとこまでいくか明日に回すか悩んでます
とりあえず十分ほど席を外します
- 343 名前:名も無きAAのようです:2012/02/11(土) 19:55:54 ID:Uh00.ofgO
- 一旦乙です
- 344 名前:名も無きAAのようです:2012/02/11(土) 20:09:33 ID:is39/HIk0
- 面白い。支援。
- 345 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 20:15:26 ID:mRtbd39YO
- / ゚、。 /「二十分経ちましたね」
(;゚д゚)「……」
というわけで発狂投下開始しますうらああああああ!!
- 346 名前:名も無きAAのようです:2012/02/11(土) 21:30:42 ID:Ms.TSCqoO
- 投下は
- 347 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:34:01 ID:mRtbd39YO
- 謎のアクセス障害にかかってしまい投下できませんでした
今から再開します
- 348 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:34:56 ID:mRtbd39YO
-
−3−
指さした先に在るホテルは、立派な佇まいだった。
おとなしい外装でありながら、存在感を存分に放っている。
街灯に照らされ、自然な明るさを伴っている。
ホテルを囲むように植えられた木々が、ホテルの肌を隠そうとしている。
葉がなくなっているので、犯人が植え込みに隠れて逃げ出す心配はないが、
煉瓦造りの壇だけで一メートルはあるため、屈めば見つからなさそうだ。
とにかく、相手の心理を読みきる必要がある。
(´・ω・`)「十六分。充分……ではないが、間に合った」
.
- 349 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:37:05 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「行きましょう」
ふと、ホテルの向かいに目がいった。
暗くて、且つ街灯も遠いので見えづらいのだが、そこにコインランドリーがあるのが見えた。
洗濯機が二段であるので、おそらく誘拐犯の指示したコインランドリーとは、これのことだろう。
横断歩道があるので、信号にひっかかれば
移動に一分費やすことになるが、近いといえば近かった。
ボストンバッグを持って、ホテル「ひるがさき」に向かった。
なかなか交通量が多い。
深夜も、車が減ることはないだろう。
宿泊客への配慮ができているか心配だった。
彡 l v lミ「いらっしゃいませ!」
( l v l)「ませ!」
受付嬢と、カウンターの近くに立っているボーイに挨拶をされた。
だんだん夜が近づいているのに、元気がいっぱいだった。
彼らの活力を分けてほしい、そう思うほどに。
.
- 350 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:41:09 ID:mRtbd39YO
-
と、そこで刑事の二人の動きが止まった。
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「しまった、預け方を聞いてない」
( <●><●>)「……やっぱり」
ショボーンと若手は、ここに泊まるつもりはない。
別に泊まってもいいのだが、それよりも誘拐犯を捕まえる使命がある。
とはいえ、泊まりもせずに荷物だけ預かってくれとは、なかなか言えなかった。
警察と明かしてもいいが、無駄にホテルのクルーに混乱を招きたくなかった。
ただでさえショボーンたちは、新聞で叩かれている身なのだ。
もし朝曰新聞の購読者がいれば、ショボーンの顔がわかるだろう。
そうなると面倒だな、と彼は思った。
しかし、受付嬢は意外なことを言った。
不安げな顔をして、ショボーンを見つめて。
彡 l v lミ「もしかして、お荷物を預けにいらしたお客様ですか?」
(´・ω・`)「!」
彡 l v lミ「先程、とあるお客様がチェックインなされたと
同時に、お聞きしました。ショボーン様、ですね?」
(´・ω・`)「……!」
( <●><●>)「(既に手回しは済んでるってわけか)」
若手は目を細めて、受付嬢を睨んだ。
受付嬢は動じず、ショボーンに説明している。
彡 l v lミ「ボストンバッグ三つを預かるよう、仰ってました」
(´・ω・`)「……」
.
- 351 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:45:16 ID:mRtbd39YO
-
どうやら、若手の思った通り、誘拐犯はあらかじめホテル側に手を回したようだった。
先にチェックインしておいて、同時に受付嬢に指示を与える。
「ボストンバッグ三つを提げた者がいたら、荷物を預かって私に渡せ」などと。
つまり、相手はチェックインしているから、名簿にも載るわけだ。
まあ名前も電話番号も、両方でたらめだろう。
だが、本人がここにいるというのなら、その部屋番号を
聞いてすぐに押し掛ければ、その場で即座に逮捕できる。
ショボーンは手錠に一瞬触れた。
(´・ω・`)「………」
だが、そんな簡単でいいのだろうか。
そんな不安が、ショボーンの胸中には潜んでいた。
おかしい。なにか、罠を仕掛けているはずである。
そうでないと、やすやすとここで捕まることになるのは、さすがに誘拐犯もすぐわかる。
一度目は御前モカの殺害、
二度目はチリーン大橋に仕掛けた爆弾と、
両方とも大がかりな罠で警察の追撃を避けた。
三度目も、同じように、なにかとんでもない罠を仕掛けているに違いない。
そう思うと、ショボーンは焦燥を隠しきれなかった。
すっかり黙ってしまったショボーンに代わり、若手が受付嬢に訊いた。
.
- 352 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:47:37 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「その宿泊客ですが、男でした? 女でした?」
受付嬢は一瞬悩む素振りを見せた。
男か女かなど、すぐわかるのではないか。
そう思ったが、帽子などを深くかぶっていれば別か。
彡 l v lミ「茶髪の女性、でした」
(´・ω・`)「!」
( <●><●>)「髪の長さは」
彡 l v lミ「肩にかかるかなーって程度です」
誘拐犯グループの一人に、A型の茶髪の女若しくは
長髪の男がいることは間違いない、とわかっている。
その人物が、このホテルに、いる。
それがわかっただけで、かなりショボーンは息が苦しかった。
胸が圧迫される。
昂揚ではない。急激な不安だ。
嫌な予感しか、しなかったのだ。
手から滲み出る汗が止まらなかった。
微量の手汗がボストンバッグに染み込んでいく。
ホテルの放火か。
宿泊客の殺害か。
ホテル前での交通事故か。
火災報知器を手動で作動させるか。
狂言の叫び声か。
可能性を挙げればきりがない。
しかし、決してなにも起こらないわけがない、とは確信していた。
してはいけない確信だが、事実だ。
.
- 353 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:50:35 ID:mRtbd39YO
-
( <●><●>)「客室は、何号室――」
(´・ω・`)「札を」
彡 l v lミ「はい」
何号室かを尋ねようとした若手を制し、ショボーンは札を貰った。
戸惑いを隠せない若手を引っ張って、ホテルをでた。
いまの受付嬢の話からすると、札は別に渡さなくてもいいはずだ。
それを承知で渡してきたとすると、誘拐犯がそれを受付嬢にしっかり言っておいたのだ。
しなくてもいいことを、するように指示してきた。
このことが、ショボーンのなかで引っかかっていた。
(´・ω・`)「(なぜ札をコインランドリーに隠す?
. 受付嬢にそのまま渡してもらって、逃げればいい話じゃないか。
. そもそも、受付嬢に顔を見られているのに、平然と身代金受け渡しに
. 関する頼みをしている。これだと、さすがに不自然すぎないか?)」
( <●><●>)「警部」
(´・ω・`)「ん?」
ホテルを出て、ホテル前の信号で立っていた。
どうも不敏にしか思えない。
しかし、このたびの誘拐犯の行動に、誘拐犯にとって
無駄だったりマイナスになるようなことがあっただろうか。
いや、全て誘拐犯の思惑通りに事が動いている。
この、札の隠し場所にコインランドリーを選んだのも、
言わば、彼らが有利になるなんらかの意味があるはずなのだ。
しかし、理由が見いだせないでいる。
.
- 354 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:52:46 ID:mRtbd39YO
-
それをずっと考えていると、若手に呼び止められた。
どうしたのかと思うと、若手の後ろのほうから、手を降って走ってくる二人の人影が見えた。
すぐに、一人は東風だとわかった。
( ゚д゚)「レコーダーを押しつけてきました」
(´・ω・`)「ご苦労。それで――」
ショボーンは怪訝な顔をして、人影のもう一人、鈴木を見た。
今は別の事件を扱っているはずではないか、と。
すると鈴木は首を振った。
/ ゚、。 /「その事件が解決したので、きました」
( ゚д゚)「車はイツワリさんの覆面パトカーの後ろに停めてます」
(´・ω・`)「そうなの」
ショボーンは、突如として現れた鈴木に少し驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
そして、「丁度よかった」と呟いて、二人に指示を出した。
(´・ω・`)「壁はそこからホテルのフロントを、ぎょろ目はホテルの裏口を
. こっそり見張っておいてほしい。相手に気づかれないように、だ」
/ ゚、。 /「壁、はだめです」
.
- 355 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:55:47 ID:mRtbd39YO
-
鈴木ダイオードには、弱点があった。
すらっとした体格で顔も整っており、
眼は大きくくりっとしている、美少女といえば美少女。
しかし、胸囲が小、中学生並になかった。
本人がかなり気にしていることで、このことに言及を入れると怒り狂うか泣き出す。
ショボーンは、そのギャップを面白がり、彼女に「壁」というあだ名をつけた。
東風にはぎょろ目、鈴木には壁と、あだ名というよりほぼ悪口に近かった。
東風は了解して、ホテルを挟んで今いる位置と反対方向に向かった。
それを見て、鈴木もしぶしぶ見張りについた。
煉瓦造りの壇から顔を出して、植え込みの陰に潜んで正面からは見えないように張った。
鈴木は一応誘拐事件のあらすじは知っている。
なにか、ボストンバッグに関して動向が見られたら報告するよう伝えた。
東風には裏口や駐車場から怪しい者が出てこないかを見張るよう言った。
千里眼の異名があるだけあって、眼はすごく良い。
夜盲症になりがちなショボーンと対照的に、夜でも遠くまで見渡せる視力の持ち主だ。
.
- 356 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 21:59:19 ID:mRtbd39YO
-
彼らに見張りを委せ、ショボーンと若手はコインランドリーに向かった。
入ってみると、四方向に洗濯機が並んでいて、二段である。
指示された洗濯機には衣服が詰め込まれているが、おそらくカムフラージュだろう。
わかりやすいようにぽつんと札を置いて、ショボーンと若手はコインランドリーをでた。
信号待ちしている間に、若手が話しかけてきた。
若手がずっと気になっていたことだ。
( <●><●>)「しかし、わざわざ札を置かなくても、
直接部屋に押し掛ければいいじゃないですか」
(´・ω・`)「あくまで、向こうの指令はコインランドリーに札を置け、だ。
. それを破ると、なにか誘拐犯にとってまずいことがあるんじゃないかなって思う。
. 今は、素直に相手の言うことを聞くんだ。……今は、な」
( <●><●>)「はあ……」
若手は納得がいかなかった。
いかなかったというより、自尊心を愚弄されるような気分になっていた。
誘拐犯は目の前にいるのに、丁重に扱い、
指示にいちいち従わないといけないのが、気に喰わなかったのだ。
もし自分が単身で挑んだ事件なら、警察の組織力と数の多さに物を言わせ、
ホテルを大勢で囲み、半ば強引に誘拐犯を逮捕しようとしているだろう。
どうも、下目に見られるのが嫌なのである。
.
- 357 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:02:03 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「……」
若手は、若い。
誘拐事件における、人質の命の尊さを知らないでいる。
ショボーンは、それを知っていた。
若手が人質の命を軽んじていることも、おおかた忖度している。
だからこそ、東風ではなく若手を相棒に、事件に臨んだのだ。
人質の命は、最優先事項で、一番死守すべきものだ。
それを、若手にわかってほしかった。
( <●><●>)「我々はどこで待機しますか」
(´・ω・`)「トイレや通りの窓も見張りたいところだが、正面玄関から
. 逃走してきた場合が怖い。壁が捕まえるのは難しいだろうからな」
( <●><●>)「では……」
ショボーンは肯いた。
(´・ω・`)「裏口は、ぎょろ目がいるから大丈夫だ。
. 僕らは表通りで待っておこう」
と言って、横断歩道を渡った。
鈴木がそわそわしている。
彼女は、足こそ速いが、犯人との一騎打ちは苦手なのだ。
そこに今時の女性らしい淑やかさを感じさせる。
.
- 358 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:05:22 ID:mRtbd39YO
-
(´・ω・`)「(ペニーだったら……)」
伊藤ペニサスは、彼女とは対照的に、犯人、特に男との勝負にはめっぽう強かった。
なんの躊躇いもなく発砲するし、取っ組み合いで何度か犯人の男を失神させたこともある。
ひどい時は、マウントポジションをとり、拳銃の柄で連打するか拳のシャワーを浴びせるのだ。
(´・ω・`)「(………それはそれでだめか)」
ここまで考えて、軽く笑った。
うちの部下には個性的なやつが多い、そう思った。
(´・ω・`)「誘拐犯は、札を取りにくる。それを見張るんだ」
( <●><●>)「罠があると思いますが――」
/ ゚、。 /「警部」
(´・ω・`)「動いたか?」
横断歩道を渡り終え、ホテルに着くと、鈴木が走り寄ってきた。
/ ゚、。 /「フロントの様子がおかしいんです」
(´・ω・`)「おかしい?」
.
- 359 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:08:23 ID:mRtbd39YO
-
−4−
落ち着きを保って、鈴木が言った。
しかし、おかしいの意味がショボーンはわからなかった。
ショボーンも一緒に、壇に身を隠してフロントを見た。
受付嬢とボーイが、話している。
どこか、狼狽しているように見えた。
/ ゚、。 /「ボーイがエレベーターから出た途端に
ダッシュして、受付嬢のところに行ったんです」
(´・ω・`)「……ほう」
/ ゚、。 /「ボーイが身振り手振りを交えて受付嬢と
話したところ、受付嬢もあからさまに驚いて――」
(´・ω・`)「行ってみよう」
.
- 360 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:10:08 ID:mRtbd39YO
-
/ ゚、。 /「私は」
(´・ω・`)「ワカッテマスがここに残ってくれ。壁が着いてこい」
/ ゚、。 /「はい」
ショボーンが数段の階段に足をかけ、鈴木も後ろについた。
振り向いて、若手には残るよう言った。
( <●><●>)「ボストンバッグを持った人が現れたら、捕らえたらいいですかね」
(´・ω・`)「ああ。一つでも持っていたら、制止を呼びかけろ。
. ボストンバッグが入りそうな、とても大きな鞄やダンボールを抱えていても、同様だ」
( <●><●>)「発砲は――」
(´・ω・`)「無実の人がいる可能性もあるが……呼びかけて背を向けるようなら、躊躇わず撃て」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「走れ」
ショボーンが駆けだして、鈴木も同じく走り出した。
嫌な予感が的中しそうで、ショボーンの胸中は不安でしか満たされてなかった。
自然と、前へ前へと踏み出す足の動きが速くなる。
重力が半減したかのように、身体が軽くなっていた。
地を踏むたびに、その振動が心臓にまで伝わってくる。
(´・ω・`)「(まさか、もう――)」
.
- 361 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:11:45 ID:mRtbd39YO
-
気が付けば、玄関に立っていた。
自動ドアを半ば押し開くようにして、強引に中に入った。
二つ目の自動ドアも抜けて、受付嬢とボーイのもとに歩み寄った。
オレンジ色のカーペットが、雪のように柔らかく感じる。
受付嬢とボーイの顔色は、よろしくなかった。
ショボーンの存在に気づき、二人がショボーンの顔をじっと見ていた。
顔を見て、蒼い顔が更に蒼くなった。
挙動が些か不審に見られた。
(´・ω・`)「どうしました」
彡;l v lミ「……」
( ;l v l)「……」
(´・ω・`)「あのー」
ショボーンが尋ねたが、二人は硬直したままだった。
ボーイの頬を伝う汗が、顎から垂れた。
それがカーペットに付着した時、ショボーンは再び尋ねた。
(´・ω・`)「もう一度お聞きします。なにか、あったのですか?」
彡;l v lミ「えっと……その…」
受付嬢は話そうとする素振りこそ見せるものの、吃ってなかなか第一声を発しない。
ボーイも落ち着きがなく、ショボーンの顔をただじっと見つめている。
ショボーンがいよいよ苛立ちを覚えはじめてきた。
(´・ω・`)「なにかあったのですね?」
彡;l v lミ「……」
.
- 362 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:14:54 ID:mRtbd39YO
-
ショボーンは、もしや、と思った。
誘拐犯がなにかしでかしたのではないか。
たとえば、殺人だ。
それをボーイがたまたま見つけ、慌てて受付嬢に説明した。
そうだとすると辻褄があう。
ホテル側にとって、ホテル内での殺人は決して好ましくないものだからだ。
受付嬢が吃っているのも、話すべきかどうか、を悩んでいるのだろう。
だとすると、誘拐犯のとった部屋のフロアで事件があったと見るのが自然だ。
ショボーンは脅かすように言った。
(´・ω・`)「例のボストンバッグの女性ですが――」
彡;l v lミ「!」
(´・ω・`)「その人の泊まった部屋を教えてください」
彡;l v lミ「お教えするのは決まりでだめと――」
恐らくはこの発言は虚偽だろう。
それは顔色を見るだけでもわかる。
受付嬢の声を遮るように、ショボーンは警察手帳をだした。
受付嬢の顔に突きつけて、声を止めさせた。
(´・ω・`)「警察だ。答えてもらおう」
彡;l v lミ「けっケーサツ!?」
( ;l v l)「ひゃ……」
/ ゚、。 /「!」
.
- 363 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:17:38 ID:mRtbd39YO
-
ボーイのほうが、玄関に向かって走り出した。
ショボーンは、受付嬢にのみ注意がいっていたため
反応は遅かったが、後ろにいた鈴木がいち早く押さえにかかった。
ボーイに飛びついて床に押し倒し、警察手帳を鼻先に突きつける。
/ ゚、。 /「例の客の部屋番号を。隠そうとするなら――」
( ;l v l)「さ、三〇四号室です!」
鈴木がボーイの手首を握り、三六〇度以上に
捻ろうとしたので、怖くなったボーイは白状した。
ボーイを離して、鈴木が走り出した。
/ ゚、。 /「警部、三階です!」
(´・ω・`)「わかった!」
鈴木に続いて、ショボーンも走り出した。
エレベーターは使用中だったため、階段を使うことにした。
三階程度なら、階段でもエレベーターと同じ速さでたどり着ける。
それが刑事となれば、尚更だ。
通行人のじゃまにならないよう注意を払って、二階、三階へと上っていった。
ボーイの慌て様をみる限り、ただ事でないのは容易に予想がでいた。
その原因が何なのかが、ショボーンは不安だった。
.
- 364 名前:名も無きAAのようです:2012/02/11(土) 22:17:43 ID:5GyugBwsC
- C
- 365 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:19:41 ID:mRtbd39YO
-
最悪なのは殺人だ。
誘拐犯のせいで、無実の一般人が殺される。
それが、刑事としても、人間としても許せない。
/ ゚、。 /「四号室だから……」
(´・ω・`)「こっちだ」
階段を上って、壁にかかった案内板を見てショボーンが右に走った。
正面玄関が南にあり、裏口は北にある。
三〇四号室は、東にあるようだった。
曲がり角を曲がると、一室だけ部屋の扉が開いて、スリッパが散らばっていた。
ショボーンは一瞬血の気がひいた。
部屋の中の光景が、見なくても脳裏に浮かんだからだ。
/ ゚、。 /「!」
(;´・ω・`)「……ちっ!」
扉を蹴り飛ばし、中に入った。
スリッパが散らばっており、足の踏み場に困るが、
それ以上に彼らの目に飛び込んできた光景が、異常だった。
和室の部屋の襖も開いており、その畳の上に、血だまりができていたのだ。
無我夢中で、和室に飛び込んだ。
ショボーンは驚愕した。
.
- 366 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:21:37 ID:mRtbd39YO
-
(;´・ω・`)「な……なにッ!?」
/;゚、。 /「警部、どうしましょう」
畳の上に、男が倒れていた。
彼が生死のどちらに立っているかは、背中の傷を見るだけですぐわかった。
鈴木は、突然死体のある現場に出くわしたことで驚いているようだった。
うつ伏せになって倒れている死体は、背中から血が溢れてきている。
包丁が近くに置かれており、これで背後から刺したのだろう。
刺されたはずの包丁は抜かれてあったため、血がとめどなく流れてきている。
しかし、ショボーンが驚いたのは、死体があったことではない。
むしろ、死体は予想していたと言って、いいのだ。
それなのに平静を崩すほどに驚いたのは、その死体に見覚えがあったからだ。
後ろ姿だけで、それが誰だか判った。
だが、近くに歩み寄って、顔を確認して、ショボーンの予想が確信へと変わった。
(;´・ω・`)「なぜ……なぜあなたが、ここに……!」
( ゙ゞ)
.
- 367 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:23:04 ID:mRtbd39YO
-
死体の顔は、相変わらず無表情だった。
口からも血が流れている。
息は、当然だがしていない。
ショボーンの推測で言うと、死後十分も経ってない様子だった。
先程まで、ここに誘拐犯がいたのだろうか。
わからないが、とにかく鈴木に通報をするよう指示した。
一刻も早く捜査に踏み出す必要がある。
すると、ショボーンの電話が鳴った。
ポケットから乱暴に電話を取り出してでると、若手が大声でなにかを言ってきた。
ショボーンは、今日何度目になるかわからない嫌な予感がした。
.
- 368 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:25:09 ID:mRtbd39YO
-
−5−
ショボーンと鈴木がホテル内に入っていって、ずっと二人の動向を見守っていた。
周囲に払う警戒を絶えさせず、常に全神経を働かせている。
( <●><●>)「……おや」
二人を見ていると、ボーイがこちらに向かって駆けだしてきた。
なにかがあって、逃げだそうとしたのだろう。
すぐに鈴木が追いかけ、ボーイは自動ドアの三メートル手前で捕らえられた。
鈴木がボーイの動きを押さえ、なにかを聞き出している。
( <●><●>)「なにか…あったな」
.
- 369 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:27:27 ID:mRtbd39YO
-
そう思うと、自然と手が動いていた。
携帯電話を取り出し、裏口を見張っている東風に電話するのだ。
( <●><●>)「そろそろ、向こうが出てきそうですよ」
『なにかあったのか?』
( <●><●>)「警部と鈴木さんがホテルに向かったのち、
ボーイと鈴木さんが争って、直後鈴木さんと警部が駆けだしたのです」
『コインランドリーも見ておけよ』
( <●><●>)「わかってます。現在、ホテルの玄関からでてくる者、
及びコインランドリーに近づこうとする者はいません」
『気を抜くな。向こうでは、なにか進展があったんだろうからな』
( <●><●>)「それもわかって……、……?」
『どうした?』
若手が電話していると、ホテルの三階付近、東のほうで動く陰が見えた。
暗いせいでよく見えない。
窓から顔を出し、夜の風に当たる宿泊客かと思っていたが、どこか不自然だ。
直後、目を疑う光景が見られた。
.
- 370 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:30:35 ID:mRtbd39YO
-
窓から、誰かが飛び降りた。
あそこは三階のはずだ、飛び降りると大変なことになる。
気が付くと、電話を切って、その飛び降りの着地点に向かっていた。
(; <●><●>)「おい!」
呼びかけながら走ったが、直後に若手は目を疑う光景を目の当たりにした。
飛び降りした人は、脚を伸ばしている。
その先を見ると、高さがホテルの二階ほどの電灯が立っていた。
まさかと思い見ていると、その人は電灯の電球に足をつけたのだ。
そのまま電球を蹴り、更に遠くへと跳躍した。
若手は呆気にとられた。
なぜなら、その先にはライトバンがあったからだ。
そして、その人はライトバンの屋根に飛び込んだ。
直後に、背後から足音がした。
(; <●><●>)「おい、そこ!」
若手は、停止しているライトバンに上から激突した人に
ばかり意識がいって、背後に注意がまわらなかった。
コンクリートの上を走ってくる足音が聞こえたのに、若手は気づかなかった。
ただ、飛び降りた人の様態が心配だったのだ。
( )
( <●><●>)「……ん?」
( <○><○>)「――ッ!」
.
- 371 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:32:39 ID:mRtbd39YO
-
ようやく足音に気が付き、振り向いた。
最初は鈴木か誰かか、と思っていたが、いたのは違う人物だった。
そして顔を認識する前に、顔面を強く殴られた。
不意を突かれて、若手は倒れ込んだ。
コンクリートの地面に後頭部をぶつけ、そこで意識を失ってしまった。
( )
若手を殴った人は、そのままライトバンへと向かった。
手にはボストンバッグを二つ持っている。
後ろから追いかけてくる人は、バッグを一つ持っていた。
ライトバンの上に落ちた人はむくっと起き上がり、降りる。
二人組と合流し、急いでボストンバッグを後部の荷物室に投げ入れた。
一人が同じく荷台に乗り、二人が座席に乗り込んだ。
急いでアクセルを踏む。
( ゚д゚)「ワカッテマス?」
( ゚д゚)「……っ! おい!」
.
- 372 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:35:53 ID:mRtbd39YO
-
いきなり電話を切った若手を案じ、東風がその場にやってきた。
そして、走りだそうとしているライトバンとすれ違った。
はっとしてライトバンを見ると、窓からボストンバッグのような、黒いかばんが見えた。
暗くて詳しくはわからなかったが、東風はそのライトバンを限りなく不審に感じた。
それは、刑事のカン、というものだけがそう言っていたのだ。
道路に飛び出し、急いでライトバンを追いかけるも、
向こうはアクセルをべた踏みしているようで、いきなり加速していった。
ナンバープレートを見たが、東風の視力をもってしても、この距離と暗さでは視認ができなかった。
諦めず追いかけようとしたが、すぐ先にある一つ目の
曲がり角を曲がったため、深追いはできないと思った。
( ゚д゚)「あれはいったい……」
( ゚д゚)「……! ワカッテマス!」
はっとして、若手のところに戻ってきた。
若手の巨躯が、地に伏している。
身体を揺すったが、最初は反応がなかった。
.
- 373 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:37:44 ID:mRtbd39YO
-
(;゚д゚)「ワカッテマス、起きろ」
( < >< >)
( < >< >)「ん……く…」
( ゚д゚)「起きろ、おれだ」
しばらく揺すり、声をかけてやると、意識を取り戻したようだった。
後頭部を強く打っているが、幸い目に見える傷はないようだ。
ただ気を失っただけとわかって、東風は少し安心した。
(; < ><●>)「……う」
( <●><●>)「………」
( ゚д゚)「気がついたか」
( <●><●>)「……………」
起きあがって、しばらくは放心状態だった。
東風が変に思うと、若手はようやく目をさました。
そして、がばっと立ち上がり、辺りを見渡した。
( ゚д゚)「ワカッテマス?」
(; <●><●>)「あ……あああああッ! 逃げられた!」
( ゚д゚)「逃げ…? なんの話だ」
.
- 374 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:40:44 ID:mRtbd39YO
-
若手は道路に飛び出して、きょろきょろしている。
やがて、その場に跪き、顔を蒼くしていた。
東風はなにがあったのか、わからなかった。
( ゚д゚)「どうしたんだ」
(; <●><●>)「……逃がしテシまいました」
( ゚д゚)「なにを」
(; <●><●>)「……誘拐犯グループ、ですよ!」
( ゚д゚)「!」
(; < >< >)「ちくしょう……ぉぉおおおッ!」
静かな道路の上で、若手は手を地につけ、四つん這いの
姿勢になり、やがて街中に聞こえるような大声をだした。
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第六章
「 三度目の衝突 」
おしまい
.
- 375 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/11(土) 22:49:31 ID:mRtbd39YO
- 第六章 >>320-374
恋人イベントをぶち壊すかのような投下祭りが開催されると聞いたのですが
ミステリーやサスペンスが可なら、自分も参加したいなと思いました。
嘗て没ネタになった佐々木一徹を使おうかなと思ってたら紅白で使用済みだった。しかもギャグで。
( ´∀`)「んふふ、わかりましたよ、この事件の真相が」
从'ー'从「あれれ〜? ねえ佐々木のおっちゃ……」
( ´∀`)「ガキはすっこんでろ!」
「作風変わった?」と思われるかもしれないですが
丁度第六章を書いていた頃にアルファにはまってたのです。
おそらくはそれの影響でしょう。お許しください。
なにはともあれ、今回も読んでいただきありがとうございました!
また来週ー
- 376 名前:名も無きAAのようです:2012/02/12(日) 17:36:39 ID:nvn5FD2.O
- 今更だけど乙
ドクオは辛い立場だな
- 377 名前:名も無きAAのようです:2012/02/13(月) 00:46:38 ID:mKE1nDPg0
- 話の内容が内容だからあんまりレスつかないけど面白いよ
個人的に現行の中でかなり上位
- 378 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/14(火) 21:32:27 ID:INsqFe1oO
- ジャンルがジャンルなので、好んで読んでいただける人は少ないかなーとは思ってます。
そんななかで、この偽りシリーズを読もうと思っていただいた方全員に
満足していただけるような作品を手がける、というのが今の私の望みでもあり目標でもあります。
そのために、現在も番外編と三作目の製作を頑張っています。
伏線の総数が二桁なんてもう慣れた。
というわけで訂正です…
>>334
×('A`)「――で、ショボーン君についでだがねぇ」
○('A`)「――で、ショボーン君についてだがねぇ」
>>338
× フィレンクトたちは現場や害者の情報から犯人を追っている。
○ フィレンクトたちは現場や被害者の情報から犯人を追っている。
>>351
× 二度目はチリーン大橋に仕掛けた爆弾と、
○ 二度目はラルトロス大橋に仕掛けた爆弾と、
気づくのに遅すぎました。すみません。
また発見すれば、その都度訂正します。
- 379 名前:名も無きAAのようです:2012/02/18(土) 08:46:08 ID:vEqF/TSoO
- 週末の楽しみ
- 380 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 19:09:29 ID:l4xeNaLMO
- 今週の土曜サスペンス劇場は20〜22時に放送しはじめると思います
たまにはVIPで投下したいよ
- 381 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:29:02 ID:l4xeNaLMO
- というわけで第七章投下します
- 382 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:31:23 ID:l4xeNaLMO
-
第七章
「 霧が晴れる 」
−1−
(;´・ω・`)「ちくしょう……!」
/;゚、。 /「警部。すぐに応援が駆けつけます」
(´・ω・`)「あ、ああ…。ありがとう」
ショボーンは、畳を力強く殴った。
殺人事件が起こってしまったことに苛立っているのではない。
若手が誘拐犯グループを逃がしたからでもない。
事件が起こるだろうと予測はできていたのに、
またしても未然に防ぐことができなかった
自分の未熟さに対して、いかっているのだ。
三度にわたり、誘拐犯に逃げられてしまった。
事件という、非道な置き土産を残して。
.
- 383 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:33:54 ID:l4xeNaLMO
-
若手の言うとおり、最初からこの部屋に押し掛ければよかったのではないのか。
応援を呼んで、ホテルを囲んでおけばよかったのか。
ホテルに協力を要請し、誘拐犯逮捕に貢献してもらうべきだったのか。
彼の脳内を、さまざまな後悔が駆けめぐる。
だが、どれも瞼の内側にだけ映るだけで、目を開くと、命を失った男の躯しか残っていなかった。
ショボーンは、自分の無力さを痛感した。
(´・ω・`)「ワカッテマスもしくじった、か」
先程の電話で、若手が口惜しがっていた。
誘拐犯グループを逃がしてしまった、と。
戻ってこいとだけ言って、電話をポケットに入れた。
やはり、誘拐犯はここでこの男を殺して、うまく逃げ出したのだろう。
この部屋を捜査すれば、一つや二つは犯人の遺留品が
見つかりそうだったが、とても今はそんな気になれなかった。
いまは、ぼうっとしていたい気分だったのだ。
.
- 384 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:36:07 ID:l4xeNaLMO
-
/;゚、。 /「警部……」
鈴木が、ショボーンを案じた。
ショボーンがあまりにも取り乱しているので、不安になったのだ。
鈴木の知っているショボーンとは、普段は飄々とした人柄で、自称女好きの中年だ。
だが、事件が起こると、恐るべき才能と執念を見せて
次々と解決していく、ある意味では冷静な男だった。
そんなショボーンが取り乱しているのが、かなり奇妙に見えたのだ。
(´・ω・`)「ん……」
/;゚、。 /「お疲れのようですね」
(´・ω・`)「まあ……三連戦で、三連敗だからな」
/ ゚、。 /「三……」
(´・ω・`)「まさか、四人で挑んでも勝てないとはなぁ」
/ ゚、。 /「……」
ショボーンは自嘲気味に笑った。
かける言葉が浮かばず、鈴木は黙った。
少しの静寂が生まれた。
窓から吹いてくる風が、部屋全体を冷やしていた。
特に死体から熱を奪ってゆくため、既に死体の身体はずいぶんと冷たかった。
.
- 385 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:41:07 ID:l4xeNaLMO
-
( <●><●>)「戻りました」
(´・ω・`)「報告しろ」
( <●><●>)「はい」
少しして、若手と東風が戻ってきた。
若手は落ち着きを取り戻していて、普段通りの沈着な姿になっていた。
先程電話線を通して聞こえた声の主と同一だとは、思えなかった。
( <●><●>)「三階のとある部屋……
と言っても、おそらくここからでしょう。誰かが飛び降りたのです」
(;´・ω・`)「と、飛び降りた?」
ショボーンは声を上擦らせた。
彼の抱いていた予測よりも、随分と斜め上だったのだ。
( <●><●>)「ええ。私も驚いてあとを追いかけると、白のライトバンの上に乗りました。
声をかけようとすると、後ろから殴られて――」
( ゚д゚)「ワカッテマスは、そこで意識を失いました」
(´・ω・`)「じゃあ、それが――」
( <●><●>)「誘拐犯です」
若手は、ずばっと言い切った。
それ以外には考えられないようだ。
ショボーンは腕組みをして、しばらくなにかを
考えていたが、やがてため息を吐き、立ち上がった。
(´・ω・`)「続きは戻ってから、だ」
.
- 386 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:43:00 ID:l4xeNaLMO
-
皆が声を揃えて肯いた。
すると、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
窓の外に顔を出すと、県警のパトカーが数台並んでいた。
手を振り居場所を示して、彼らの到着を待った。
(‘_L’)「ショボーン警部」
(´・ω・`)「フィレンクト警部、いらしたのですか」
(‘_L’)「そちらの一課長から一報が届きまして」
( ゚д゚)「(ドクオ一課長が…?)」
VIPの刑事以外に、シベリア県警の人も訪れていた。
というのも、鈴木の通報を受けた際、ドクオ捜査一課長が
気を利かせて、シベリア県警に連絡をまわしたそうだ。
この事件が誘拐犯の犯したものである以上、
シベリアでの御前モカ殺人事件と関連性があるとみて当然だろう。
やがては、シベリアの捜査本部で、合同で捜査することになる。
ここにフィレンクト警部が来るほうが、都合がよかった。
.
- 387 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:47:24 ID:l4xeNaLMO
-
(‘_L’)「いったい、今度はどうされたんですか」
(´・ω・`)「えっとね、我々が誘拐犯の指令を仰ぎ、
. 次の受け渡し場所に、とここにやってきたのですよ」
(‘_L’)「で、その矢先で死体と出くわした、と」
(´・ω・`)「ええ。犯人は逃げましたが」
(‘_L’)「……そうですか」
VIPの鑑識が、あれやこれやと証拠を集め始めた。
検死官も動き始め、簡単な検死結果をショボーンに報告した。
まず死因だが、背後から、鋭利な刃物で深く刺された事による失血死だ。
かなり深くにまで入ってきており、刺してから凶器を抜けば
一瞬にして大量の血を吹き出させることができる。
死後間もないようで、いまから三十分以内に絶命したものと見ていい。
致命傷となった背中の傷以外には、特に外傷は認められなかった。
被害者と同室していた犯人は、背後からいきなり襲って、逃げ出したのだ。
だが、その脱出ルートをフィレンクトに告げると、彼も眉をひそめた。
(;‘_L’)「窓から飛び降りて逃げたんですか!?」
( <●><●>)「ええ。そこの電灯を踏んで跳躍、
外に停めてあったライトバンで逃走しました」
(‘_L’)「それを見ていて、なぜあなたは追いかけなかったのですか?」
.
- 388 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:49:23 ID:l4xeNaLMO
-
フィレンクトは、皮肉る様子もなく、純粋な疑問として訊いた。
そこまで見ていたのなら、刑事なら追いかけるのが当然だろう。
だから、みすみす逃した若手の考えがわからなかったのだ。
( <●><●>)「お恥ずかしながら、背後からやつの仲間に襲われ、気絶しまして」
(‘_L’)「仲間?」
( <●><●>)「跫音からして、二人。
誘拐犯には、あと二人仲間がいたのです」
あの時、コンクリートを蹴る音から判断するに、二人の人間がいた。
片方が若手を殴りつけ、地に叩きつけることで気絶させることに成功したのだ。
誘拐犯と無関係なら、若手を襲う意味合いは薄い。
後ろから駆けてきた二人は、誘拐犯グループの一味と見ていいだろう。
フィレンクトはそのことを聞いて、残念そうな顔をした。
(‘_L’)「頭は大丈夫ですか? なんなら治療を」
( <●><●>)「大丈夫です。私の身体は特別頑丈ですので」
(‘_L’)「それなら」
フィレンクトは微笑した。
.
- 389 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:51:29 ID:l4xeNaLMO
-
そして若手は、東風に加わって捜査に荷担しはじめた。
和室から奥の襖を抜けると、外の景色を一望できるベランダがある。
ベランダの窓を開いて、犯人は二メートルほどの
デッキを駆け、柵に乗り、外の電灯に向かって跳躍したのだ。
東風がベランダを出て、デッキの上を歩き、窓の外に顔を出し、下を覗き込んだ。
白髪交じりの髪が、風でぐしゃぐしゃに乱される。
目を細め、地面を見つめた。
目の前には灯台があり、そこから三メートルほど右に若手が倒れていた場所がある。
( ゚д゚)「(よく、こんなところを跳ぼうとしたな)」
手をついていた柵を見ると、持ち手の幅は十センチほどで、ここを踏み台に跳ぼうとは到底思えなかった。
何の気なしに手すりを見ていると、雨によって付着した水垢が、一部だけ擦れ落ちているのを見つけた。
( ゚д゚)「鑑識」
(`・д・)ゞ「はい」
( ゚д゚)「ここも調べておけ」
そう鑑識に指示して手すりから離れ、和室に戻った。
.
- 390 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:53:34 ID:l4xeNaLMO
-
畳のスペースだけで十二畳はある広めな部屋で、
玄関から和室に入った先に、テーブルが置かれている。
テーブルのちょうど隣に死体が倒れており、血はテーブルの脚にも付いてしまっていた。
膳には急須や葉茶が置かれていて、緑茶が注がれていたり使われた形跡のある湯呑みが三つあった。
( ゚д゚)「(誘拐犯グループは三人……数としては合うな)」
鑑識が指紋を採取しているが、一向に指紋の報告はあがってこない。
湯呑みにも指紋はなかったので、手袋などをはめて慎重に飲んだものと思われる。
被害者も手袋をはめているので、当然といえば当然か。
( ゚д゚)「(……ん? 被害者にも手袋?)」
( ゚д゚)「イツワリさ――」
/;゚、。 /「警部、大変です!」
(´・ω・`)「どうした?」
.
- 391 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:57:22 ID:l4xeNaLMO
-
東風が、気になった点があったのでショボーンの意見を
聞こうとすると、先に玄関から鈴木がショボーンを呼んだ。
彼女が、一階に向かって名簿をもらい、従業員に話を伺おうとした矢先での出来事だった。
かなり息を弾ませており、焦りが顔面に張り付いた様子であったため、
ショボーンも思わず不安げな顔つきになった。
/;゚、。 /「あの受付嬢が、いないのです!」
(´・ω・`)「……ほう」
.
- 392 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 21:59:46 ID:l4xeNaLMO
-
−2−
事の異変にはすぐ気が付いた。
一階に降り、フロントへ向かったところ、従業員が皆騒いでいたのだ。
当初は、殺人事件発生のために引き起こったものだと思っていたが、違った。
いや、それも理由の一つとしては加わるのだろうが、
彼らが慌てふためく理由は、もう一つあるように思えた。
そして、事件発生までにはフロントに立っていた受付嬢が
いないのを見て、鈴木はすぐにそれが何かを理解した。
/ ゚、。 /「(まさか……逃げた?)」
.
- 393 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:01:40 ID:l4xeNaLMO
-
突然のスタッフの失踪に、驚きを隠せないでいる人ばかりだった。
ほかの宿泊客への呼びかけだったり、事を知らないスタッフへの 現状報告だったりと
ただでさえ忙しいのに、その上スタッフが一人消えたとなると、それはもう大問題だ。
彼らも薄々気が付いているだろう。
この状況で姿を消すということは、その人物が犯人である、ということだ。
従業員が殺人犯となると、もうおしまいだ、と皆が騒いでいるわけである。
( ;`ハ´)「各所でホテルの支配人を勤めて早二十五年、はじめての大事件アルよ!」
/ ゚、。 /「(あの人に聞こう)」
/ ゚、。 /「すみません、警察です。お話を伺ってもよろしいですか?」
( ;`ハ´)「よろしくないアル! 朕の華々しいホテルオーナー生活が崩れたアルよ!?」
/ ゚、。 /「応えないなら署に連行しますが」
( `ハ´)「謹んでお応えします」
.
- 394 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:06:11 ID:l4xeNaLMO
-
このホテル「ひるがさき」のオーナーを捕まえ、話を聞いた。
どうやら、鈴木の読み通り、受付嬢が一人、逃げ出したようだ。
それは、丁度鈴木とショボーンが三階の誘拐犯の部屋に向かった直後の事だったらしい。
自分だけでも一階に残っておけばよかったと、鈴木は反省した。
だが、オーナーの落ち着きがなかったのは、別の事件があったからだ。
( ;`ハ´)「お客様のお荷物を持って行くなんて最低アルよ!
どうするアルか、損害賠償を請求されたら!」
<;ヽ`∀´>「そうニダ! 損害賠償を請求されるニダ!」
( ;`ハ´)「おお、朕とともにホテル事業を転々としていくなかで
常に朕を支えてきてくれた副支配人、ニダーでアルか!」
<;ヽ`∀´>「ウリはいつでも補佐するニダ、シナー支配人!」
/ ゚、。 /「(……大して焦ってないみたいだ)」
.
- 395 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:10:23 ID:l4xeNaLMO
-
頬が痩けた中年が、どこからともなくやってきた。
ホテルの副支配人のようで、支配人と同じく落ち着きがない。
身体が大きく、威厳のある支配人とはいいコンビだ、と思った。
/ ゚、。 /「荷物が奪われた、とは?」
( ;`ハ´)「十分ほど前にバッグを預けにきたお客様がいたアルが、
そのバッグを持って、彼女は逃走したアルよ!」
鈴木は嫌な予感がした。
そしてはっとして、先程まで忘れかかっていたことを思い出したのだ。
/;゚、。 /「もしかして……それは、黒っぽい、三つのボストンバッグですか?」
鈴木は恐る恐る聞いた。
もしそうだとすると、またまんまと身代金が奪われたことになる。
それだけは避けたかったし、信じたくなかった。
なにか、別のバッグであってほしかった。
しかし、そんな鈴木の望みを、悪意をもって
壊すかのように、支配人は大きく肯いた。
( ;`ハ´)「そうアル! 大変アルよ!」
/;゚、。 /「………嘘…」
鈴木は呆然とした。
自分はこれが一度目の対決だが、ショボーンたちにとっては三度目の対決なのだ。
誘拐事件については、鈴木もある程度は聞いている。
一度ならず二度までも出し抜かれて、ショボーンたちは三度目である今回に賭けていた。
その三度目で負けてしまったのだ。
今度こそ、と意気込んでいた矢先での敗北だ、
心理的に負うダメージも、相当大きいに違いない。
.
- 396 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:14:01 ID:l4xeNaLMO
-
すぐにショボーンにそのことを報告した。
ショボーンは、鈴木とは違い別段ショックを見せなかった。
(´・ω・`)「受付嬢はマークしてなかったからな……」
( <●><●>)「自分があの時、背後にも警戒を配っていれば――」
(´・ω・`)「やめろ。そういう後悔は、したって一文の価値にもならん」
しかし、彼にも苛立ちが募っている事には違いないようだった。
言葉の一つ一つに、威圧感が感じられる。
( <●><●>)「しかし、そうなるとすると、
私を襲ったのはあの女性なのですかね」
(´・ω・`)「いや、もう一人いたんだろ。そいつに殴られたに違いない」
受付嬢の腕は細かったと記憶している。
いくら不意を突いたからといって、若手ほどの巨漢を気絶させられるとは思えない。
二人でボストンバッグを分けて持ち、逃げたと考えれば問題はないだろう。
.
- 397 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:17:43 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「これで、三億が奪われたわけか」
( <●><●>)「残るチャンスは……」
(´・ω・`)「……考えるな。いまは、捜査を続けろ」
( <●><●>)「はい」
そう言うと、若手と鈴木も散った。
なにか手がかりがあればいい、そう思うのだが、どうもそんな気はしなかった。
悲しきかな、事件を起こすタイミング、逃げ出すタイミングは、全て誘拐犯側に委ねられている。
当然、万端の準備をし、穴を全て塞いでいるからこそ、決行に挑むのだ。
逃げられて当然、という考え方の方が自然だ、と思っているのだろう。
この被害者の殺害、そして逃走。
ショボーンと鈴木により早期発見はできたものの、やはり結果は変わらなかった。
とは言え、若手の働きで、誘拐犯グループに少なくとも三人いることはわかった。
が、逆に言うと、主立った収穫はそれだけなのだ。
あまりにか細い、頼りない情報だ。
ショボーンは、上に立つ者として、この心許ない情報だけを
頼りに次の相手の出方を推理し、先回りしないといけない。
ショボーンの口癖のひとつに「データが足りない」がある。
が、今の状況では、この口癖すら呟けないようだった。
.
- 398 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:19:56 ID:l4xeNaLMO
-
( ゚д゚)「イツワリさん」
(´・ω・`)「さっき呼びかけてたな、悪い。なんだ?」
相変わらず、焦慮の片鱗が感じ取れる口調だった。
東風は別段気にしない様子で、言おうとしていたことを言った。
( ゚д゚)「害者ですが、手袋をつけていますね」
(´・ω・`)「ああ。指紋を隠そうとしていたのだろう」
ショボーンは平然と答えた。
既に予測はついているのだろう、と東風は思い、続けた。
( ゚д゚)「とすると、この死体も誘拐犯の一人だ、ということになりますね」
(´・ω・`)「ああ」
( ゚д゚)「……このことで、なにかが引っかかるんですよ」
東風は、被害者がはめている手袋が、どうも気になっていた。
その正体だが、脳内で実体を形成できず、ただ眼前が霞がかっていて。
手袋が不思議な気こそするのはわかるのだが、その理由がわからなかった。
.
- 399 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:23:22 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「概ね言いたいことはわかる。キーポイントは、人数だ」
( ゚д゚)「……人数?」
(´・ω・`)「ああ。ワカッテマスの証言からすると、
. 誘拐犯は三人、身代金を持って逃げてきたよな?」
( ゚д゚)「はい」
ショボーンは、視線を卓上に遣った。
膳の横に、湯呑みが三つ並んでいる。
(´・ω・`)「一方で、この部屋にも、三人いたという形跡が残っている」
( ゚д゚)「湯呑みの数からして、そうかもしれません」
(´・ω・`)「まあ、湯呑みなんぞはいくらでも工作できるとして、だ。
. 仮に三人がここにいたとするなら、矛盾が生じるんだ」
(´・ω・`)「三人いたうちの一人が、死亡。もう一人が、窓から逃走。
. じゃあ、もう一人はどこに行ったのか? 数が合わないんだ」
( ゚д゚)「しかし、湯呑みが必ずしも犯人の数を指し示すとは限りません」
(´・ω・`)「仮に湯呑みの一つがダミーとして、だ。
. すると、この部屋には二人しかおらず、うち一人は死亡、もう一人が逃走したこととなる。
. 一階からは受付嬢が逃走したが、若手は二人を認知している」
(´・ω・`)「受付嬢と一緒に走ってきた、というのはいったい誰なんだ?」
.
- 400 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:27:26 ID:l4xeNaLMO
-
( ゚д゚)「……」
東風は黙った。
誘拐犯は、一階に受付嬢が一人、三階に殺人犯と被害者の二人。
更にもう一人だけ、いたはずなのだ。
そのもう一人は、いったい何なのか。
それがわからず、東風の胸中には霧が広がっていたのだろう。
( ゚д゚)「一階のトイレとかにでも、待機していたのでは」
(´・ω・`)「問題は、この死体が誘拐犯の一味であるということだ」
( ゚д゚)「?」
(´・ω・`)「三階にいる二人のうち片方が死んだのがハプニングなら、一階にいる二人には伝わらないだろう?
. 携帯電話を使うにも、受付嬢は勤務中だから携帯電話は無理、
. 一方もう一人の男に連絡をしたところで、結局は受付嬢に直接報告しに向かわなければならない」
(´・ω・`)「しかも、三階で害者死んだ頃には、既に僕らが
. 受付嬢を見張っていた。部外者は絡んでいないと断言できる」
( ゚д゚)「つまり、害者の死は前もって計画されていたものと?」
(´・ω・`)「いや、それも違う」
( ゚д゚)「……?」
.
- 401 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:31:29 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「仮に殺すタイミングを定め、その時間に一階の二人が逃げ出すとして、だ。
. 害者は、背後から不意を突かれ、一撃で殺されている。
. 害者が背を向けない限りは殺せない現状で、
. 決められた時間に殺すというのは不安定な要素なんだ。
. 誘拐犯としては、計画しての仲間割れも決行しないだろうよ」
( ゚д゚)「では、どういう事ですか?」
(´・ω・`)「まあ最後まで聞け。
. 今の僕の話は、『湯呑みの一つがダミーなら』と仮定した上での話だ」
(´・ω・`)「湯呑みが本物だったら、一階にいた男も
. ここにいたことになる。殺すタイミングもわかる」
( ゚д゚)「解せません。
それでは『窓から一人逃げ、一階から二人逃げた』という逃走状況と矛盾します」
(´・ω・`)「それが、あんたの胸中に広がっていた霧の正体だ」
( ゚д゚)「……!」
東風は薄めていた眼を開いた。
なるほど、そういうことか、と。
ショボーンに言われて、はじめて原因に気が付いたのだ。
霧が晴れて、誘拐犯を捕らえられない事によって
積もっていった鬱憤までをも、ある程度は払えた。
つくづくこの男はすごいな、と感服もした。
.
- 402 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:35:05 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「だけど、これは矛盾でもなんでもないんだ」
( ゚д゚)「え?」
思わず、予測していなかった声をあげた。
この入り組んだ矛盾が、矛盾でないとはどういうことなのか。
東風が説明を促すと、ショボーンは笑った。
(´・ω・`)「結論から言おう。誘拐犯グループは、この男を
. 殺害してすぐに逃走を図ったわけじゃないんだよ」
( ゚д゚)「……ッ」
それは、単純なことだった。
東風が、どころか、この現状を知る者は、皆が皆同じ推理をするだろう。
「犯人が殺害後、すぐに彼らは逃走を図ったのだろう」と。
その推理自体が、間違いだった。
犯人は、殺害後すぐに逃げだそうとはしなかったのだ。
(´・ω・`)「順を追って説明しよう。まず、ここに
. 犯人と一階から逃げた男と害者が三人でいた」
(´・ω・`)「そして、どういうことか、犯人は害者を殺した。
. 男は驚いただろう、なぜ殺したのか、と」
(´・ω・`)「まあ、動機はどうでもいいんだ。
. 身代金の分け前を増やすためか、ただ邪魔だったからか」
(´・ω・`)「そして、男はすぐに一階にいる受付嬢に事情を説明しにきた」
(´・ω・`)「そこで僕と壁が突入、三階に向かっている間に受付嬢と男が逃走する、と」
.
- 403 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:37:24 ID:l4xeNaLMO
-
( ゚д゚)「では、その間に誘拐犯がなにかしようとしていたのですね?」
(´・ω・`)「まあ、僕がすぐに突入してきたせいで、
. なにもせず結局逃げ出したのだろうけど」
( ゚д゚)「じゃあ、部屋を隈無く探せば、どこかに、誘拐犯にとって致命的な証拠が――」
東風が、若干興奮して言った。
今の流れで言うと、誘拐犯が、捕まるリスクを抱いてまで
部屋に固執した理由が、まだ残っているということになるからだ。
しかし、ショボーンのほうはというと、そうでもなかった。
(´・ω・`)「まず、主犯格がそんな致命的な足跡をつけるわけがない。
. おおかた、害者から手袋をとろうとでもしたのだろうな」
( ゚д゚)「なぜです?」
(´・ω・`)「だってさ、部屋に指紋がない以上、手袋がなかったら
. 通りすがりの哀れな被害者――と考えられるかもしれないじゃん。
. 足掻き程度に過ぎないけど、捜査の錯乱ができるんだよ」
( ゚д゚)「まあ、そうですが――」
.
- 404 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:38:11 ID:l4xeNaLMO
-
腑に落ちない様子ながらも、東風は納得した。
若手と鈴木が捜査するなかで、未だにそのような
報告がない以上、ショボーンの見解で正しいのだろう。
東風にとっては、あまりおもしろくなかった。
(´・ω・`)「それよりも」
(´・ω・`)「これで、もう一人の誘拐犯の正体がわかったな」
.
- 405 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:39:19 ID:l4xeNaLMO
- 二節まで投下完了
ちょっとだけ休憩
- 406 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 22:58:58 ID:l4xeNaLMO
-
−3−
( ゚д゚)「わかったのですか」
東風が感心したように言った。
まだ、自分はわかってないのにそれを突き止めるとは、さすがだ、そう思った。
するとショボーンは、不遜な態度をとるでもなく言った。
(´・ω・`)「違うよ。あんたは知らないだろうけど、
. 僕はみたんだ、誘拐犯の最後の一人を」
( ゚д゚)「自分が見ていない、ということは」
(´・ω・`)「さて、ここで語弊を解くとするならば、僕は、
. 殺人事件発生後、受付嬢に部外者は近づかなかった、と言った。
. それはほんとうだ。だが、一人だけ、近づいた者がいた」
( ゚д゚)「その人は?」
(´・ω・`)「部外者ではない、ボーイだ」
.
- 407 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:01:45 ID:l4xeNaLMO
-
( ゚д゚)「ボーイ、ですか」
東風は、ショボーンと合流してすぐに裏口の見張りに就いた。
ボーイの存在はおろか、受付嬢すら知らないでいるのだ。
東風が、ボーイという誘拐犯の存在に気づかないのは、当然と言える。
(´・ω・`)「ボーイは、慌てた様子で受付嬢と話をしていた。
. それを見て、僕と壁は突入したんだ」
( ゚д゚)「そりゃあ、ボーイは怪しいですね」
(´・ω・`)「いま思うと、犯人が害者を殺してしまったから、
. それを報告し、逃げる準備をするよう促していたのかもしれんな」
( ゚д゚)「まあ、誘拐犯のうち二人がここの従業員なら、身元を割るのも容易ですね」
(´・ω・`)「いくか」
一階まで降り、受付嬢とボーイについて調べることになった。
正式に雇用されている以上は、身元の特定はできたも当然だろう。
問題は、今更身元を割っても、何らメリットは見られないことだ。
家宅捜査をすれば、なにか手がかりは出てくるかもしれないが、御前モカの時と同様に、何も出ないだろう。
あの時は髪の毛を見つけられたが、そう何度も幸運は続かないものだ。
一階に着くと、支配人と副支配人が未だにあたふたしていた。
急遽チェックアウトを要求する宿泊客でもちきりだったのだ。
当然、宿泊客全員に事情聴取を行わなければならないため、
今晩は否応なくこのホテルに彼らを拘束するはめになる。
支配人は、それを恐れているようだった。
.
- 408 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:03:40 ID:l4xeNaLMO
-
無実の身で拘束を受けるというのは、実に耐え難いことだ。
しかし、警察を恨むわけにいかないので、
彼らは自然とホテルに逆恨みをするようになる。
そして、評判が下がり始めるというわけだ。
事件速報により注目を集めることもあるだろうが、
マイナス効果のほうが大きいのは言うまでもない。
ホテルにとっては迷惑な話である。
ホテルにはなんの非もないわけであるからだ。
支配人が受ける精神ダメージも、さぞ大きいだろう。
( ;`ハ´)「こうなったら年末ジャンボをするアルよ!」
<;ヽ`∀´>「ニダ! 三億円当ててチョーセン国に帰るニダ!」
( `ハ´)「あ?」
<ヽ`∀´>「ニダ?」
( `ハ´)「当然、チューゴク国のほうがいいアル」
<ヽ`∀´>「なにを言うニダ、チョーセン国ニダ」
( `ハ´)「チューゴク国」
<ヽ`∀´>
( `ハ´)
<ヽ`∀´>「どうやら……決戦はすぐのようニダ……」
( `ハ´)「カカカ……チョーセンに挑戦するアル……」
(´・ω・`)「(……割とノーダメージのようだ)」
.
- 409 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:05:40 ID:l4xeNaLMO
-
独特な雰囲気を醸し出している二人に、ショボーンが
近寄っても気づかなかったほどに、二人は白熱していた。
捕らぬ狸の皮算用、という言葉を教えてやりたかった。
二人が話し終えるのをのんびり待てるほど時間はないため、あえて二人の間に割り込んで話を止めた。
少し申し訳ない気もしたが、事件のためだ、と割り切った。
二人は少し戸惑ったが、警察手帳を鼻先に突きつけると、おとなしくなった。
( ;`ハ´)「こ、今度はなにアルか!」
(´・ω・`)「逃走したのって、例の受付嬢だけではないですよね?」
( `ハ´)「え?」
ショボーンがやや脅し気味に訊くと、支配人はまの抜けた顔になった。
繰り返し訊くと、支配人は副支配人に話を振った。
が、副支配人もわからなかったようで、首を傾げた。
( `ハ´)「実を言うと、さっきまで裏で将棋をしていたアル。見てないアルよ」
<ヽ`∀´>「ウリの勝ちニダよ」
( `ハ´)「まだ終わってないアル」
.
- 410 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:06:51 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「では、どなたか首尾を見ていた人に確認をとってください」
( `ハ´)「わかったアル」
支配人が話を聞きに行って、すぐに戻ってきた。
顔に焦燥が浮かんでいる。
( ;`ハ´)「仰った通りアル!」
(´・ω・`)「というと?」
( ;`ハ´)「むねおが……ボーイが、逃げ出していたアル!」
<;ヽ`∀´>「むねおもニカ!?」
( ;`ハ´)「そうアル!」
<;ヽ`∀´>「むねおって誰ニダ! スパイニダ!?」
( `ハ´)
(´・ω・`)「(やはり、あのボーイか)」
.
- 411 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:09:40 ID:l4xeNaLMO
-
バッグを預けに向かった際、受付嬢の隣にボーイもいた。
少ししてボーイがどこかに行ってしまい、受付嬢が一人になったところ。
鈴木ダイオードが、焦って駆けてくるボーイを発見した。
ボーイが受付嬢と話し、受付嬢も顔を蒼くさせていたのを覚えている。
あれは、ボーイが三階にいる犯人のもとに
身代金が届いたという報告をしに行っていたのだろう。
そして、犯人は被害者となった男を殺した。
焦ったボーイは、犯人の指示かはわからないが、
すぐに受付嬢のもとにそのことを知らせに行った。
そこに鈴木とショボーンが突入し、殺人事件で彼らを
引きつけている間に、ボーイと受付嬢がバッグを持って逃走した、と。
( ゚д゚)「イツワリさんの推理は合ってましたね」
(´・ω・`)「合ったところで、どうしようもないんだけど」
(‘_L’)「やはり……」
(;´・ω・`)「のわッ! ……フィレンクト警部!」
ショボーンの背後に接するように、シベリア県警のフィレンクト警部が立っていた。
息を殺し、気配を感じ取らせないようにいたため、ショボーンは思わず驚いた。
フィレンクトは笑いながら詫び、そしてすぐに真面目な顔つきに戻った。
.
- 412 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:12:50 ID:l4xeNaLMO
-
(‘_L’)「シベリアでの殺人事件と、今回の殺人事件。
同一の者による犯行とみて、大丈夫ですよね」
(´・ω・`)「そうなるでしょう。VIPで起こった事件ですが、
. シベリアの捜査本部で一緒に扱うことになりますね」
(‘_L’)「仕事が増えて嬉しい悲鳴がでます」
(´・ω・`)「ご迷惑をかけ、申し訳ない。
. ほんとうは、僕らが今回で止めるべきだったのですが――」
ショボーンは心の底から申し訳なく思い、頭を下げた。
それを見て、フィレンクトは手をぶるんぶるんと大袈裟に横に振った。
(‘_L’)「そんな。誘拐犯グループのうち二人が判明しただけで、充分な収穫ですよ」
フィレンクトは、柄にもなく朗らかに言った。
普段の彼からは予想もできなさそうなほどのリアクションだ。
ショボーンはこの真意に気づかなかったようだが、隣で東風は笑っていた。
ショボーンの持つ苛立ちをなんとかカバーしよう、軽減させてみよう。
そう思っているのだろうな、と東風がわかるのに、そう時間はかからなかった。
会って数日しか経ってないショボーンにここまで接する
フィレンクトは、やはりショボーンを案じているようだ。
ショボーンが密かに隠し持つカリスマ性に、自然と惹かれているように見えた。
.
- 413 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:14:58 ID:l4xeNaLMO
-
(;´・ω・`)「そう言ってもらえると、助かりますが……」
(‘_L’)「こちらで出た情報や手がかりは、全部そちらに
電送しますから、気兼ねなく犯人逮捕に精をだしてください」
(´・ω・`)「……はい」
ショボーンとフィレンクト。
という括りでは語弊が生じる。
VIPとシベリア。
この共同戦線で捕らえるべき相手は、ただ一人だ。
伊達つーを誘拐し、御前モカを殺し、
ラルトロス大橋に爆弾を取り付け、
またしてもこのホテルで殺人を犯した、一連の事件の主犯格だ。
誰に言わせても、目にはその人物しか映ってないようなものだった。
士気が高まり、刑事も皆、それだけを目標に動いてくれている。
そして、ここに来て警部二人が意気投合し、事件も大詰めを迎えている。
今からが本番だ、と自分に言い聞かせ、ショボーンはその場を去った。
.
- 414 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:16:56 ID:l4xeNaLMO
-
フィレンクトの捜査を軽視しているわけではないが、やはり捜査を一任するのは不安があった。
己の眼で現場を見、己の掌に手がかりを収めないと、どこか落ち着けないのだ。
一度目のコンビニでの事件の時と同じように、
自分たちはすぐに伊達邸に戻って作戦を練り直したいところではあったが、
そういった不安は拭いきれないため、刑事を残すことにした。
ショボーン、若手、東風、鈴木、伊達邸にはあと真山田と伊藤が残っている。
二人。残す人数としては、それがちょうどいいだろう。
だが、誰を誘拐犯逮捕から抜けさせるかが、決まらなかった。
決まらなかったというより、迷いが生じたと言っていい。
(´・ω・`)「……鈴木ダイオード、真山田ネーノだな」
( ゚д゚)「はい?」
(´・ω・`)「二人をここに残して、僕らは最終決戦に臨むぞ」
.
- 415 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:19:36 ID:l4xeNaLMO
-
−4−
呼ばれたのは急だった。
いつまでも続く伊達の話を聞かされ、うんざりしていた時だ。
最初は、ただの昔話だった。
孫の生い立ちや、息子夫婦のエピソード。
息子に嫁いでくる女が美しく、なぜか
伊達のほうから断ろうとした、という話だけは少し笑えたが。
.
- 416 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:22:00 ID:l4xeNaLMO
-
伊達の息子は、あまり誠実な息子ではなかったらしい。
やはり伊達が富豪なのと、伊達が仕事でよく自宅を空けていたのが問題だったようだ。
伊達の家内は息子を産んで早々に亡くなり、男手ひとつで育て上げた
と本人は言うが、メイドなど世話係をつけた程度に過ぎないのだろう。
もし真っ向から向き合い、つねに全力で子育てに
励んでいれば、息子がやんちゃな人間になることはないはずだ。
真山田はそう思っているが、まだ独身である自分がそう言い切れないのは口惜しい。
とは言っても、自分はまだ二十台だ、まだまだこれからだろう。
そう信じて、今はただ駆け出し刑事として毎日を過ごしている。
不思議な話だが、あの捜査一課には、自分、若手、鈴木、伊藤と、同年代が頗る多い。
いや、同年代ではなく同年齢であることが最近判明した。
皆が独身であるのも奇妙な一致で、動機は不純だが、
親睦を深め、チームプレイをよりこなせるようになった。
既婚者も、年輩で上司のショボーンと東風だけで、
独身ばかりだから、家庭を顧みる必要もなく凶悪犯にも挑めた。
その凶悪犯という括りに、今回における誘拐犯も加えられるのは言わずもがなだ。
.
- 417 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:23:20 ID:l4xeNaLMO
-
( `ー´)「(あれ、警部って独身じゃなかった?)」
( `ー´)「(まあ、いいか)」
そんな凶悪犯に、対決を挑む。
ショボーンからの電話で、そう告げられた。
今回も敗北に終わった戦いだが、警察にとっても誘拐犯にとっても、次の接触が最後だ。
だからこそ、今から策を講じ、万全の体勢で挑むという。
その万全には、捜査面での万全も入ってくる訳なので、その捜査に自分が選ばれた。
ただ、それだけだ。
ただ、伊達から逃げる口実ができたのが、救いだったのだ。
当初の、孫に関するエピソードはまだよかった。
事件につながってくるかもしれないのだから。
しかし、気がつけば愛犬の話や天気予報の話になっていたという。
真山田がいやになる理由も、肯けたものだった。
.
- 418 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:26:28 ID:l4xeNaLMO
-
伊藤を残し、タクシーを拾った。
あの時の伊藤の顔を思い出すだけで、申し訳なく
思う反面、つい噴き出してしまいそうだった。
タクシーでホテル「ひるがさき」の場所を告げ、走らせてもらった。
別に走ってもすぐに着けないわけではないが、一刻を争う
事態だからこそ、迅速さを優先しなければならなかった。
( `ー´)「……雪?」
乗り始めて気づいたのは、さんさんと雪が降り始めていたことだ。
牡丹雪がゆっくり落ちてきては、道路の上に乗っかって、溶けてゆく。
寂しくなった街路樹の枝の上に乗っかった雪は溶けずに、
更に続けてやってくる同志たちを、迎え入れていた。
街灯に照らされ、光が各所に散らばってゆく。
万華鏡でも見ているかのような美しさを、信号待ちの間に見て楽しんでいた。
シベリアは全面的に寒く、VIPの北部はその弊害に悩まされることが多い。
シベリアに雪が降る時は、決まってVIPにも降雪が襲いかかるのだ。
今のような優しい雪なら構わないが、酷い時はとことん過酷な思いを強いられる。
もとより雪の経験が浅い真山田は、既に雪化粧をはじめている歩道を見て、ぞっと寒気を感じた。
この寒気が、事件によって起こる悪寒に変わらぬことを祈り、そっと目を瞑った。
考え事をするのではない。眠いのだ。
.
- 419 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:28:16 ID:l4xeNaLMO
-
(´゚ω゚`)『寝るなぁぁぁぁぁぁぁっ!!
. 死ぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉッぉお!!』
( ;`ー´)「っ!!」
[ Д`]「どうしたんだいあんちゃん」
瞼を下ろし、俯いた。
そして、意識が遙か彼方に飛んでゆく瞬間だった。
耳のそばで、ショボーンに怒鳴られる夢をみたのだ。
かなり現実味を帯びていて、ほんとうに怒鳴られたようだった。
がばっと起き、しばらく無心で居たあと、自分の脈を確かめた。
運転手も驚いたようで、真山田の様子を気にした。
.
- 420 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:29:46 ID:l4xeNaLMO
-
( ;`ー´)「なんでもないっす」
[ Д`]「寝るのもいんけどな、あんさの目的地、もう着くぜ」
( ;`ー´)「どもっす」
訛りの強い運転手が言うので、前方をみると大きなホテルが見えた。
近いとは言っていたが、ほんとうにすぐだったとは。
渋滞気味だったが、十分弱で到着していた。
しかし、嫌な夢を見た。
ショボーンはあらゆる意味においてコワいのだ。
真山田にとって、プライベートでは一番会いたくない人物である。
また、一瞬しか寝てないはずなのに、全身が汗塗れである。
いま外にでると、間違いなく風邪をひきそうだった。
信号を抜けて、ホテルの前で下ろしてもらった。
足を地につけた途端、自分を寒さが襲いかかった。
ハンカチでなるべく汗を拭ったが、それでも寒かった。
数段ある階段を上り玄関に向かうと、コートを羽織った三人が立っていた。
遠目でもわかる。ショボーン、若手、東風だ。
.
- 421 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:31:08 ID:l4xeNaLMO
-
( `ー´)「お疲れ様です」
開口一番にそう言うと、ショボーンも返してくれた。
顔を見た瞬間、夢が脳内で復元され、顔がひきつった。
ショボーンはそれを見逃さなかったようだ。
(´・ω・`)「失礼なやつだな、人の顔をみて」
( ;`ー´)「いや、いざ現場を前にすると緊張して」
(´・ω・`)「ふーん」
「それならいいんだけど」とだけ言い、早速用件を述べ始めた。
事件の概要とフィレンクト警部がいることだけ、簡潔に伝えた。
真山田たちには、事情聴取、聞き込み、目撃証人の捜索と、残務は山ほど残っている。
全部をシベリアに委せるのも悪く思ったのだ。
なにより、シベリアからはフィレンクトともう一人の刑事しか来ていない。
( `ー´)「ダイオード、ですか」
(´・ω・`)「ん? 嫌か?」
ショボーンは、意地悪ではなく純粋に訊いた。
慌てて真山田は首を振った。
( `ー´)「ミルナさんじゃないんだなって」
( ゚д゚)「?」
.
- 422 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:33:30 ID:l4xeNaLMO
-
捜査と言えば、東風の十八番である。
嫌煙者の家のトイレから煙草の吸い殻を見つけるし、
こたつの脚の下からシールを見つけたりもする。
誰もが目をつけないようなところに率先して出向き、成果を挙げるのがこの男なのだ。
千里眼の異名は伊達じゃあない。
それなのに東風ではなく自分を指名したのか、わからなかったのだ。
(´・ω・`)「なに、参謀だ。それに、あんたは物を探すのが苦手じゃないか」
核心を突かれた。
反論のしようがない事実を言われては、どうしようもないと思った。
( `ー´)「まあ、微力を尽くします」
(´・ω・`)「頼んだぞ」
ショボーンは手をぶらぶら振りながら、ホテルの敷地からでた。
覆面パトカーに乗って出て行ったのを見送り、真山田はホテルに入っていった。
どうやら、受付嬢がボーイと一緒に逃げ出したのだという。
すると、いまフロントには誰がいるのか、気になった。
可愛い娘だったらいいのに、と胸を膨らませて。
受付は――
<;ヽ`∀´>「アイゴー、申し訳ないニダ! まだ帰れないニダよ!」
( `ー´)「なんだあのムサいの」
嬢ですらなかった。
.
- 423 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:35:49 ID:l4xeNaLMO
-
−5−
雪が積もってきたようだ。
穏やかな牡丹雪だったのが一転、風音が混じって勢いも増してきた。
そして、雪煙が見えてきていた。
音だけでなく、実際に風が強く吹き始めたのだ。
吹いたのが車に乗り込んでからでよかった。
とは言っても、十分弱しかこの暖房にはあたれないが。
事件の解決次第、温かいものを頬張りたいが、なにを食そう。
呑気にも、若手はそんな風に思考を巡らせていた。
しかし、それも仕方がなかった。
多忙に多忙を重ねる責務を背負っている以上、心安らぐ時間は僅かしかないのだ。
こうした、移動の時間の間だけでもリラックスしないと、過労で倒れては元も子もない。
( <●><●>)「(結局は事件のことを考えてしまうわけですが)」
.
- 424 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:38:44 ID:l4xeNaLMO
-
いつかは自然と事件のことを考えるでだろう事は、予測ができていた。
そもそも、刑事になってから、無駄に一度も休んでいない。
有給休暇が溜まりに溜まっていると聞いたが、使う予定もない。
気がつけば、起きているうちは常に仕事のことしか考えないようになっていたのだ。
( <●><●>)「(あのときのしなやかな動き……)」
思考は、三十分ほど前。
あの、若手が気を失う直前まで遡っていた。
ホテル前の電灯に照らされ、影だけが若手の網膜に映し出されていた。
逆光だったため、姿や顔までは視認できなかった。
しかし、動きや身体の形状を見るだけで、充分だ。
細い脚が伸びていた。
ただ、これだけのことが判れば、そいつが
いったい誰なのか、大凡の見当はついた。
.
- 425 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:41:04 ID:l4xeNaLMO
-
( <●><●>)「(誘拐犯は、少なくとも四人。
うち一人が車掌で、残りが今し方ホテルを出た者たちか)」
その三人のうち、二人の情報は掴めている。
一人は受付嬢で、住所から名前から戸籍から全てを調べ上げた。
もう一人のボーイも、同様である。
ここから洗えないこともないが、御前モカの前例を
踏まえると、洗ってもなにもでない気がした。
そして、三人の最後の一人。
ショボーンたちはまだ掴めてないだろう。
しかし、若手だけは薄ら人格が見えてきていた。
というのも、その最後の一人は殺人犯だ。
その殺人犯を、自分は一瞬だが見た。
それで、わかったことがある。
( <●><●>)「茶髪の女性……ですね」
.
- 426 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:43:20 ID:l4xeNaLMO
-
すっかり静かだった車内で、若手は言った。
普段は、推理を繰り広げたり犯人の動向を
予測したりするのだが、いまはそうではなかった。
疲れが、今頃になって襲いかかってきたのかもしれない。
やはり、というわけではないが、聞き逃したのか、
将又言葉の真意を汲み取れなかったのか、助手席にいたショボーンは聞き返した。
(´・ω・`)「なにがだ?」
( <●><●>)「いまになって漸く思い出しましたが」
( <●><●>)「例の殺人犯です」
(´・ω・`)「例の、というとホテルの」
( <●><●>)「ええ」
若手は、目を輝かせた。
普段、彼が自信に満ちている時は、決まって目を見れば判る。
目は口ほどに物を言うというが、若手の場合は、目は口以上によくしゃべる、と言ったところだった。
平静を保てない時に驚愕すれば、たちまち白眼を剥く。
逆に、犯人を追い詰める時なんかは、目の奥底の輝きが違う。
黒い水晶が一際輝くので、ショボーンは期待した。
.
- 427 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:45:49 ID:l4xeNaLMO
-
ショボーンだけでなく、ほかの誰もが知り得ない情報を若手が掴んでいる。
若手だけが、犯人を見ることのできた人物なのだ。
( <●><●>)「部屋から飛び出したのが殺人犯で間違いない
なら、という仮定の上で成り立つのですが」
( ゚д゚)「間違いない。そいつが犯人だ」
と、後部座席にいる東風が言った。
犯人をみることは叶わなかったのにそう言い切れるのは、
自分があの部屋を捜査したことによって、その確証を得ているからだ。
確かに、手すりにはなにやら擦れた後が残っていた。
( <●><●>)「でしたら、茶髪の女性が殺人犯です」
(´・ω・`)「根拠は」
( <●><●>)「自信で言えば五分五分なのですが、脚が女性らしく
細かったのです。スリムだったと記憶しております」
(´・ω・`)「まあ、それだけじゃあ根拠としては弱いけど……」
( ゚д゚)「現状で、その条件に当てはまるのは、茶髪の女しかいないですね」
絶対的自信があるわけではない、と言ったが、実際はそうは思っていなかった。
論理的思考を排除し、直感だけで物を言うなら、女性で間違いないと言えたのだ。
だが、そんな当てずっぽうがショボーンに通じるはずはない。
だから、若手はあえて自信はないと言ったのだ。
.
- 428 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:47:46 ID:l4xeNaLMO
-
( <●><●>)「これで、誘拐犯は四人ですね。
車掌、茶髪の女性、受付嬢にボーイ」
( ゚д゚)「……?」
東風は疑問符を浮かべた。
若手の発言を変に思ったのだ。
すかさずショボーンは言及した。
(´・ω・`)「ワカッテマス、お前わからないのか?」
( <●><●>)「大丈夫です。警部の仰りたいことはわかってます」
( <●><●>)「車掌は、あの時殺されていた被害者だ……そうでしょ?」
( ゚д゚)「ッ!」
東風は、すぐに身を乗り出した。
ショボーンの顔色を窺うも、否定するような様子ではなかった。
とすると、今の言葉は真実なのか。
唖然とする東風とは対照的に、ショボーンは口角をつり上げた。
(´・ω・`)「やはり、気づいていたか」
( <●><●>)「当然です。服装には多少惑わされましたが……」
被害者の服装は、どう見ても車掌の制服ではなかった。
普通のスーツだったため、最初はぱっとしなかったのだ。
しかし、顔を見ると、若手は驚いたことだろう。
まさか、ここで対面するとは。
そして、
(´・ω・`)「まさか、車掌長が誘拐犯の一人だったとはな……」
.
- 429 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:50:11 ID:l4xeNaLMO
-
ショボーンも多少は疑っていた。
関ヶ原デルタが、誘拐グループの一人ではないか、と。
だが、爆弾の存在を知らせたのも彼で、荷物車両を直接案内してくれたのも彼だ。
そして、大神フォックス総裁の言動からすると、彼が関ヶ原を任命したと思われる。
疑わないほうがいいだろう、と油断していた。
若手がそのことに言及しようとしたが、丁度その時に伊達邸についた。
車を停め、伊達邸に入った。
やはり、外はとんでもなく寒くなっていた。
石畳には早速雪が積もっていて、足を滑らせそうだった。
伊藤が出迎え、首尾を伝えた。
ショボーンがふと気にかかったのが、伊藤がぐったりしていたのだ。
どうしたのかと聞くと、伊達の長話に付き合わされたと言っていた。
お気の毒に、とショボーンは胸中で呟いた。
|(●), 、(●)、|「どうだったかね」
伊達は、当初と比べ、ずいぶんと平静を保っていた。
事件当初は焦りに焦っていたのだが、成長したようだ。
慣れた、と言っては失礼な気もするが、実際そうなのだろう。
.
- 430 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:52:51 ID:l4xeNaLMO
-
|(●), 、(●)、|「しかし、その顔を見ればだいたいは察しがつくよ」
(´・ω・`)「チカラが及びませんでした」
ショボーンは深く頭を下げた。
首尾の報告に近い遁辞を弄しようとしたが、すぐに口を噤んだ。
今更なにを言っても、死んだ者は蘇らないし、奪われた金は返ってこない。
唯一返ってくる虚勢のためだけに、徒に自尊心を傷つけたくなかったのだ。
|(●), 、(●)、|「まあ、あと一回チャンスはあるのだろう? 私はなにも口出しできない。
後方支援は私に委せて、思う存分誘拐犯を追ってくれ」
(´・ω・`)「………はい」
ショボーンの言霊に覇気がみられなかったのは、決して三連敗を喫したからではない。
伊達の言葉で、思い出した事があったのだ。
まだ、機会がある、ということだ。
至極当然のことを、忘れていた。
.
- 431 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:54:50 ID:l4xeNaLMO
-
四つに分けられた身代金、その三つは既に奪われた。
どれも別個の手段で、しかも何らかの事件を盾に。
四度目の駆け引きで、更なる犠牲が生まれるのが、
想像するだけで、もう耐えられなかったのだ。
今度は、部隊を三つに分けて挑むよりほかに仕方がない。
一部隊を監視に、一部隊をカムフラージュになる事件の処理に、
そして、最後の一部隊で、誘拐犯と対決。
どうしてこの策が最後まで浮かばなかったのか、自分で自分を責めたかった。
夜が明けた頃に帰還するであろう鈴木と真山田をくわえると、丁度六人となる。
三部隊で挑むのが確実で、最善だった。
やはり格調高い電話がぽつんと置かれているテーブルに、伊達が紅茶を用意した。
だが、ショボーンだけは呑む気にはなれなかった。
( <●><●>)「次で最後、ですか」
カップのなかに映る自分の顔を乱して、若手が呟いた。
思えば、三連敗しているなかで、最後の一戦だけ
勝たなければならない事態へと発展しているのだった。
.
- 432 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:58:09 ID:l4xeNaLMO
-
策は、前述した通りあった。
だが、誘拐犯は特例なく、決まってこちらの思考を
遙かに超越するような奇策で挑んでくるのだ。
正攻法で攻めて、勝ち目などはたしてあるのか。
それは、考えたくなかった。
考えるよりも、信じるべきだ。
最後に勝つのは、必ず自分たちである、と。
最初に若手に言った言葉を、気がつけば自分が噛みしめていた。
(´・ω・`)「ワカッテマス、さっきの続きだけど」
( <●><●>)「はい」
カップをテーブルの上に置いて、向き合った。
緊張と不安が身体を形成しているショボーンと、
顔に余裕の色が微かにだが見られる若手とで、随分と空気が違っていた。
二つのオーラの混じった中間色が広がっていくも、
ショボーンのオーラが若手を侵蝕していき、
ショボーンの色に染まりきったところで、彼は口を開いた。
.
- 433 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/18(土) 23:59:47 ID:l4xeNaLMO
-
(´・ω・`)「根城を、突き止める必要がある」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第七章
「 霧が晴れる 」
おしまい
.
- 434 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 00:03:50 ID:/z1.yYOI0
- 乙です!
- 435 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/19(日) 00:07:25 ID:xS3f1gb2O
- 第七章 >>382-433
次回「偽りを突き止める」より、本作品クライマックスです。
が、申し訳ない事に、来週、再来週はリアル多忙のため、投下はおそらく不可能です。
第八章の投下は三月以降になると思われます。ごめんなさい。
二月中に投下ができそうなら、予告編スレに書いておきます。
番外編は、登場人物的にも三月中に投下したい。
というわけで第七章でした。
今回も読んでいただき、ありがとうございました!
- 436 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 09:11:16 ID:D55jwGBMO
- 乙でした
無理せずゆっくり投下してくれ
- 437 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 12:05:35 ID:SjUAslowO
- 読み終えた、二週分は読みごたえあった
佳境に入って面白くなってきた
投下乙かれでした
- 438 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 13:34:45 ID:vhA8GtQMO
- 乙。面白かった。次回も楽しいだが3月か…待ち遠しいぜ
- 439 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 13:37:00 ID:vhA8GtQMO
- >438
×楽しい
○楽しみ
誤字った失敬。携帯の予測変換のバカ…
- 440 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 15:23:42 ID:9c2SdEcAO
- 乙!
- 441 名前:名も無きAAのようです:2012/02/19(日) 23:08:34 ID:sv/HPMYMO
- 乙でした
- 442 名前:名も無きAAのようです:2012/02/20(月) 01:41:34 ID:vMBAmAX6C
- 面白い、乙です
- 443 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/02/21(火) 14:34:07 ID:P6BSKNO.O
- 投下翌日にインフルエンザでぶっ倒れました。鬱だ。
というわけで訂正報告。
>>400
×(´・ω・`)「しかも、三階で害者死んだ頃には、既に僕らが
○(´・ω・`)「しかも、三階で害者が死んだ頃には、既に僕らが
タッグバトルとか言う企画があるらしいけど
エアー新参の私に参加資格なんかなかったんや
- 444 名前:名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 16:26:05 ID:i9v3qg0.0
- 次も楽しみにしてます
- 445 名前:名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 16:27:11 ID:i9v3qg0.0
- 次も楽しみにしてます
- 446 名前:名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 16:29:23 ID:i9v3qg0.0
- 次も楽しみにしてます
- 447 名前:名も無きAAのようです:2012/02/24(金) 20:31:25 ID:oSgGR4tQ0
- どんだけたのしみなんだよwww
- 448 名前:名も無きAAのようです:2012/02/27(月) 06:40:16 ID:08WoSqRgO
- あ、こういうの好き
きたいしてる
- 449 名前:名も無きAAのようです:2012/03/03(土) 07:40:53 ID:Xz0hmNawO
- 3月になったよ
- 450 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:28:11 ID:T3EDqDlwO
- 三週間ぶりになるのか…お久しぶりです
ぼちぼち投下します
- 451 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:31:00 ID:T3EDqDlwO
-
第八章
「 偽りを突き止める 」
−1−
( <●><●>)「根城……」
若手は聞き返した。
いきなり言われたのはいいが、いったい何を突き止めるのか、わからなかった。
(´・ω・`)「いいか、今回の事件を振り返ってみろ」
ショボーンはソファーの背凭れに体重を預け、腕を組んだ。
不遜な態度だと思われるかもしれないが、これが楽だった。
見下ろすように、若手の眼をみて。
やはり、捕らえるべきものは決して逃がさない、強烈な眼光だった。
.
- 452 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:35:16 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「まず、一度目の事件だ」
全ては、ある一本の電話からはじまった。
漸く事件が片づいて、一息つけるタイミングで、だ。
あの時のけたたましい着信音は、未だに耳から離れない。
そしてそこから、幾度に渡る惨劇が、芋づる式に発生していくのだ。
(´・ω・`)「伊達さんに呼ばれ、急遽出動した矢先での事件だ」
コンビニで、店員が泡を吹いて倒れていた。
その光景がどれだけ苦痛だったか、語るまでもない。
(´・ω・`)「被害者は?」
( <●><●>)「御前モカ、フリーターです」
( <●><●>)「……そして、誘拐犯グループの一人」
(´・ω・`)「ああ。仲間割れか、程度に思っていたのだがな」
紅茶を一口啜った。
しゃべり続けると、喉がひっつく。
その紅茶は、既に若干冷めていた。
(´・ω・`)「さて、事件現場のコンビニだが、
. 最初そのことを聞いたとき、なにを怪訝に思った?」
( <●><●>)「コンビニには店員がいるのに……です」
(´・ω・`)「わかるか? その店員が仲間だったら――」
( <●><●>)「絶対的に有利な環境となります」
.
- 453 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:39:22 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「そう、そこなんだよ!」
背凭れから上体を起こし、膝を乗り出した。
手を叩き、表情が一変する瞬間だった。
ショボーンの眼光だけが際だって見えるようになった。
(´・ω・`)「今までの受け渡し場所を思い返せ!」
( <●><●>)「はい、御前モカが店番をしていたコンビニ」
( <●><●>)「……関ヶ原デルタが車掌長を勤めた『あさやけ4号』」
( <●><●>)「そして、受付嬢とボーイが誘拐犯だった、ホテル『ひるがさき』………!!」
(; <●><●>)「あ…あああッ!」
指折り数えながら言っていくうちに、若手の顔からは焦燥が浮かび上がるようになってきた。
言い終えてから、言葉にできようのない衝撃が彼を襲った。
考えもしなかったことだ。
若手は、まさかそんなはずがない、と思っていた。
乾坤一擲やハイリスクハイリターンなんてものではないのだ。
言わば、自分の人生を賭して、今回の事件に臨んだことになる。
ショボーンに言われたとき、若手は信じられなかった。
だが、誘拐事件を起こすとなれば、もう家族も地位も平和もなにもかも賭する必要がある。
ショボーンに気づかされ、少しすると、先程までの考えとは逆に、
寧ろそうしたほうが合理的で確実性が高い、とすら思えるようになっていた。
.
- 454 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:41:59 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「今までの事件は、すべて奴らの根城で行われていたんだ」
若手は、当時の情景がフラッシュバックしていた。
手を伸ばせば、死体の御前モカに触れられそうだった。
(´・ω・`)「第一の事件では、コンビニのバックスペースを根城に置いて、身代金を要求した」
あの時、バックスペースに誘拐犯、もとい御前殺人事件の犯人がいたことは間違いない。
室内灯のスイッチの指紋の有無、及び御前の死体発見状況から、そう言える。
メンバーにコンビニでのアルバイターがいたから、コンビニでの受け渡しを想定してみたのだろうか。
誘拐事件を起こすに際して、メンバーの一人をコンビニに遣わせたのだろうか。
とにかく、根城に敵を誘い込めるというのは、この上ないメリットとなり得る。
自然な様子で振る舞え、且つ確実に身代金を奪うことができるのだ。
.
- 455 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:45:23 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「しかし、考えてみろ」
( <●><●>)「はい?」
(´・ω・`)「たとえトイレに身代金を置いたって、向こうだって見張られていると
. わかっているに違いない以上、回収は難しいはずなんだよ」
( <●><●>)「ボストンバッグは大きい。
トイレから持ち出すのはみれば一発で判りますね」
(´・ω・`)「しかし、奪われた」
瞼を下ろせば、すぐに情景が再現できた。
急に店内が暗くなったので、ショボーンと若手は慌てて飛び出した。
そして、店内で横たわる御前を見つけ、殺人事件が発覚した。
( <●><●>)「当然と言えるでしょう、まさか殺人事件が起こるとは」
(´・ω・`)「逆に言えば、一度目の身代金奪取は、
. 殺人事件があってこその成果と言えるんじゃないか?」
( <●><●>)「と、いうと?」
(´・ω・`)「やれやれ、それくらいわかれよ」
と言って嘲笑してみせた。
だが、目は決して笑っていない。
(´・ω・`)「もし仲間割れがなければ、いったい向こうはどうやって身代金を奪ったんだと思う?」
.
- 456 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:49:36 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「それは…………むぅ……」
この男にしては珍しく、言葉を詰まらせた。
誘拐犯本人でないのだから、返答に窮するのはおかしくない。
だが、若手の窮余の理由は、ほかのところにもあった。
考えたくない仮定だが、一つあり得そうなストーリーが浮かんだ事は浮かんだ。
しかし、それは残忍すぎるため、想定するべきか躊躇いが生じたのだ。
いくら誘拐犯といえど、さすがに限度がある冷酷さ。
クチにするのも躊躇するほど、だ。
すると、若手が言おうかと躊躇してる間に、ショボーンが先に言った。
(´・ω・`)「答えは、なかったんだ」
('、`*川「無策で挑んできた、ということですか?」
(´・ω・`)「いや、誘拐犯のなかの主犯格は、策をひとつ
. 用意するだけで、確実に身代金を回収することができたんだ」
( <●><●>)「しかし、その策に『仲間割れがなかったら』というイフは当てはまらない、と」
(´・ω・`)「わかってきたようだな」
.
- 457 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:52:46 ID:T3EDqDlwO
-
にやりとショボーンは口角を上げた。
しかしと言わんばかりに、咄嗟に言うことの多い口癖を、久々に若手は言い上げた。
( <●><●>)「ちょっと待ってください」
(´・ω・`)「お?」
( <●><●>)「警部の言わんとする事は、大方予測はつきます」
(; <●><●>)「しかし……人である以上は、その……」
若手は、生き生きと反論を持ちかけたのはいいものの、言葉を濁した。
彼はその名の通りまだ若い、というのは言わずとも皆の知るところである。
ショボーンがあり得ると思う事を、若手はあり得ぬと判断している。
よって、主犯格の行動から導き出される結論は、ショボーンの意見と一致するだろう。
一方で、伊藤はまずわかっていないようだったが。
('、`*川「仲間割れを前提に組まれた作戦だった、というわけですか?」
(´・ω・`)「厳密に言えば、違う」
(´・ω・`)「語弊を生じさせないために、丁寧に言うなら、主犯格は仲間割れの気すらなかった」
('、`*川「仲間割れを前提にした作戦だが、根本的に言うと
仲間割れですらない――意味がわからないです」
(´・ω・`)「端的に言おう」
(´・ω・`)「初めから、主犯格は御前モカを殺すつもりで策を練ったのだ」
.
- 458 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:54:56 ID:T3EDqDlwO
-
('、`;川「っ!」
( <●><●>)「……ッ…!」
わかっていた。
予測のできていた事だ。
だが、まさか、という言葉が必ずどこかについてきていた。
ショボーンが堂々と言うまでは、疑いたい気持ちでいっぱいだった。
だが、どうやら若手の予測は合っていたようだ。
視線を落とし、拳を強く握りしめた。
あまりにも人道に反した思考だ。
誘拐犯グループではなく、コマとしてしかみておらず、
言わば目的のためだけに徒に命を摘み取った。
その目的というのも、所詮、金だ。
( ゚д゚)「やはり、そうでしたか」
若手と違い、犯行に直面していなかった東風はそう思っていたようだった。
両腿に拳を載せて、床と垂直になるよう頭を下げた。
(´・ω・`)「予感はあったみたいだね」
( ゚д゚)「殺害方法が毒針だった、というだけで大凡の見当はついていました」
(´・ω・`)「僕も、その報告を聞いて、確信に至った」
('、`*川「そういえば、毒針でしたね……」
伊藤は、後日東風とともに現場を訪れている。
当時の情景を思いだしながら、静かに二度、肯いた。
.
- 459 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 08:58:18 ID:T3EDqDlwO
-
( ゚д゚)「ペニーも利口だからわかるだろ。
小瓶に入った青酸カリとかならまだ何かと説明がつくが、
毒針となると確たる殺意がなければ用意されるべきものではない」
(´・ω・`)「針でなかったのなら弁当にでも仕込ませる必要があるが、
. 万が一モカが弁当に手をつけなかった場合、殺しようがない。
. そんな不確定要素に頼るくらいなら、自ら死で出迎えてやるほかないからな」
('、`*川「まあ、そうですが」
伊藤は腑に落ちない様子だった。
普段ならわかるまで教えるところなのだが、彼女も実感が
湧かないだけに過ぎないだろうから、ショボーンは詳述を控えた。
というのも、いまは一刻を争う局面に差し掛かっているのだ。
(´・ω・`)「まず、電気を消し、モカを殺す。
. そこへ、僕とワカッテマスが乗り込んだ」
( <●><●>)「辛うじて見えたのが、死体でしたね」
(´・ω・`)「あとは簡単だ。裏口の扉を開くフリをして、
. 刑事のどちらかを現場から遠ざけるんだ」
(´・ω・`)「たまたま僕ら二人とも移動してしまったから、結果易々と逃亡を許したけど」
(´・ω・`)「まあ、そうする事で、ほぼこの作戦は成功するんだ」
.
- 460 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:00:23 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「刑事が何人いても、ふつうの心理で言うと、
. 一人を残して残りで手分けして犯人を捜すのが道理だ」
(´・ω・`)「そしてモカの側に残ったのが刑事一人となるが、
. 一人だけなら背後を突いて襲うことも容易だ」
(´・ω・`)「刑事としても、すぐそこに犯人がいるものとは思ってないからな」
御前モカの時と同様に毒針などで刑事を殺す。
そしてトイレから金を回収して、ほかの刑事が裏口に
向かっている隙に予め反対側に停めていた車で逃走。
おそらく、最初からこの策で挑む気でいたのだろう。
口惜しげに、ショボーンはそう言った。
('、`#川「人の命を囮にするなんて……!」
( ゚д゚)「落ち着け、ペニー。まだ怒る時ではない」
恐ろしい、というほどではないも剣幕を露わにする伊藤を、東風が宥めた。
今更いかったところで、何の解決にもならない。
.
- 461 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:02:34 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「これが、第一の事件の真相だったんだ」
( <●><●>)「ちょっと待ってください」
(´・ω・`)「なんだ」
若手が、ショボーンの推理に待ったをかけた。
( <●><●>)「過程はいいとして、その前に主犯格は呑気に弁当を食っています。
そして、実際それによって手がかりも得られたのです。
頭のキレる主犯格が、そんなへまを残すとは思えません」
(´・ω・`)「そこでミスデダクションだ」
( <●><●>)「ミス……?」
(´・ω・`)「僕らがあそこで最初に抱いた勘違い、それはなんだ?」
( <●><●>)「もったいぶらずに」
(;´・ω・`)「僕もあんたも、最初は弁当が原因で毒殺された、と思っただろ!」
( <●><●>)「………あ……」
.
- 462 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:04:05 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「一瞬一瞬が勝敗を分ける場面でのミスリードは、時に命取りだ。
. たまたま自分が食っていた弁当を使って、誤解を誘おうとしたのだろうな」
( <●><●>)「……そうでしたか」
若手が納得したのを見計らって、ショボーンは紅茶にクチをつけた。
すっかり冷めてしまっているが、紅茶は冷めても充分呑める。
それが高級な紅茶なら、尚更ではないのだろうか。
紅茶をあまり呑まないショボーンにとってはわからない話ではあったが。
.
- 463 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:06:40 ID:T3EDqDlwO
-
−2−
(´・ω・`)「そして第二の事件だ」
( <●><●>)「オオカミ鉄道での爆弾騒動ですね」
オオカミ鉄道の多くの列車は、こうして夜も更けてゆくいまも、レールの上を走っている。
そして、車庫に収まってゆくなかのひとつが、「あさやけ4号」である。
この列車での事件が、ショボーンと若手だけでなく、VIP県警や
シベリア県警、そしてオオカミ鉄道の顔に泥を塗るはめになった。
あの時のインパクトは、決して薄れやしないだろう。
関ヶ原が息を弾ませて告げた情報、それは爆弾だった。
半日も経ってないのに、随分と昔のことであるかのように思い出して、ショボーンは溜息を吐いた。
(´・ω・`)「オオカミ鉄道と協力して、の追い詰めが失敗した理由は、ただ一つだ」
(´・ω・`)「協力してくれる筈のオオカミ鉄道側に、誘拐犯の仲間が潜んでいた」
( <●><●>)「それが関ヶ原デルタ、ですね」
(´・ω・`)「しかし、当初は全く疑ってすらいなかった」
.
- 464 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:09:54 ID:T3EDqDlwO
-
ショボーンが車掌に疑惑の眼を向けたのは、実際に受け渡しが終わってからだ。
それまでは、誰かが身代金に近づくものとして、見張っていた。
受け渡し場所が寝台列車と、充分あり得そうで不自然のない
ところだったからこそ、乗客に誘拐犯がいるものだと思っていた。
実際は、重要なのは寝台車両ということではなくて、
最後尾に近い列車である、ということだったのだ。
最後尾でなかったのは、空きベッドがなかったのだろうか。
出入り口が一つしかないため、そこを塞ぎさえすれば、
ゆっくり安全に、複数個のボストンバッグを運び込めた。
その塞ぐのに用いるギミックが、またも過激すぎたのだ。
(´・ω・`)「問題は、関ヶ原デルタに悠々と運ばせる原因を
. つくったのが、紛れもない僕らである、ということなんだよ」
( <●><●>)「………」
若手は黙った。
ショボーンが言い終える前から、既に口を閉ざしていた。
.
- 465 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:13:08 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「あのとき、ワカッテマスがつい爆弾の話を漏らしてしまった」
( ゚д゚)「ほう」
(´・ω・`)「問題はそこじゃない」
( <●><●>)「え?」
若手は、責められるものだと思い覚悟をしていたが、
ショボーンは若手の予想とは全く別のことを言っていた。
(´・ω・`)「たまたまワカッテマスがとちったから運べたものの、
. もしワカッテマスがとちってなかったら、どうするつもりだったと思う?」
( <●><●>)「どういうことですか」
(´・ω・`)「向こうは、ワカッテマスがミスするものと仮定して作戦を練る筈はない。
. 偶然そうなっただけで、ほんとうはワカッテマスのミスは
. 想定されてないんだ。すると、他に運ぶ方法を用意していたに違いない」
(´・ω・`)「運ぶ方法というより、人を惹き付ける方法だな」
( <●><●>)「そうですね……」
あの時は時間がなく、大して車内の捜査はできなかった。
切り上げざるを得なかったのだ。
ベル刑事部長に迅速な帰還を要求され、それどころではなかった。
若手の現在の心境にも、自責の念に駆られるところはある。
だが、ショボーンたちがそれを追及することはなかった。
.
- 466 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:15:46 ID:T3EDqDlwO
-
( ゚д゚)「あの後列車内を捜査したが、怪しいものはなかったぞ」
( <●><●>)「そうなのですか」
東風が憮然として言った。
それが、あたかも自分を責めているかのように聞こえて、若手は息苦しかった。
同時に、なにもなかったという報告を聞いて、怪訝に思いもした。
ショボーンの言うとおり、誘拐犯サイドとしては、乗客や警察を
例の車両から引き離すなにかを用意していたに違いないのだ。
だが、それの実体が掴めず、思わず静かに唸ってしまった。
見かねたショボーンが、言った。
(´・ω・`)「答えだが、ワカッテマスの過失と一緒なんだよ」
( <●><●>)「は、私の?」
(´・ω・`)「推理がこの結論に至ったときから、僕は苛立ちが抑えきれなくなったんだ」
ショボーンは、事件を追うにつれて、苛立ちの頭角を徐々にに見せていった。
畏怖を感じさせさえする気迫に、若手は萎縮してばかりだった。
その原因のひとつが、オオカミ鉄道での一件にあるという。
.
- 467 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:17:01 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「私の過失といえば、デルタ氏から
爆弾の情報を聞いて、声を発してしまって――」
そこまで言って、若手ははっとした。
冗談じゃない。さすがにあり得ない。
はっとした直後に生まれた心境は、その二点だった。
(´-ω-`)「そうだ」
(#´・ω・`)「………あいつらは、列車を爆破するつもりでいたんだよ!!」
.
- 468 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:19:31 ID:T3EDqDlwO
-
('、`;川「ばッ……!?」
(; <●><●>)「さ、さすがに冗談でしょ!」
咄嗟にショボーンは、若手の浮かんだ結論と同じ推理を言った。
この男には珍しく、かなり冷静さを欠いて怒鳴った。
怒りの矛先を向けられたわけではないのに、若手も伊藤もこの上ない恐怖を覚えた。
それは、ショボーンの怒りの度量にくわえ、誘拐犯のその計画の恐ろしさに対しての恐怖だ。
当然だが、ショボーンの推理には確証があるわけでなく、独り善がりな推測に過ぎない。
だが、他には考えられなかった。
実際、爆弾は本物であり、列車が上を通過すれば爆破するようになっていたそうなのだ。
通報自体は狂言だろうと思った刑事二人だが、それが本物と聞き、誘拐犯の仕業と睨んだ。
若手の過失により、爆弾の存在意義は有耶無耶のままで終わったが、
改めて考察し直すと、ショボーンの推理にしかたどり着かないのだ。
.
- 469 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:21:50 ID:T3EDqDlwO
-
ショボーンも馬鹿な男ではない。
他のありとあらゆるケースを想定し、それを当てはめていったのだが、
どのピースもはまらなかったから、この推理に至ったのだ。
彼が胸中で耐えていた怒りが、ついに放出された。
それが示すところ、この度の事件がどれだけ大変なものかを表していた。
( ゚д゚)「やはり……」
慌てる若手、伊藤とは違い、東風だけは冷静を保っていた。
そしてこの言いぐさから、寧ろ想定の範疇にあったと言えるのだろう。
腕を組んで、視線を宙に泳がせていた。
そこになにかが映っているかのように、東風は形のないそれを見ていた。
(´・ω・`)「仮にワカッテマスがなにもしなかったとすると、だ。
. 遠隔操作なりして爆弾を爆破させ、前方の車両を乗客ごと吹き飛ばす。
. 当然、皆はパニックに陥るし、僕らも人命の救出に向かわないといけない。
. その隙に身代金を運ぶ予定だったのだろう」
(; <●><●>)「―――ッ」
.
- 470 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:24:52 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「だが、運良くあんたがミスをしでかしてくれた。
. お陰で、爆弾を使うまでもなくパニック状態を作り出すことができた。
. それを利用して、デルタはバッグを持って荷物車両に向かったんだよ」
(´・ω・`)「当然だが、爆弾はなるべく使わないほうがいい。
. 回収役のデルタにまで火の粉が降りかかれば大変だからな。
. だから、使う予定だった爆弾は、使わず仕舞だった」
信じられなかった。
自分が犯した過失が、逆に最善だったのかと思うと、恐ろしくて身震いした。
逆説を弄するわけではないが、他に方法がなかったのだろうか。
過失などなくても、他に解決策があったのではないのだろうか。
考えてみたが、自分がミスをしていなければ、間違いなく
列車は爆破され、目も当てられない惨状となっていた。
何気ない捜査で、知らぬ間に死と隣接していたと思うと、今更になって畏れるのだ。
警察とはそういうものだ。殉職する刑事など、数え切れないほどいる。
だが、若手はそれがわからなかった。
天才の彼に、今まではそんな危険は及ばなかったのだ。
ショボーンが、自分を相棒に事件に臨んだ理由がわかった気がした。
.
- 471 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:26:18 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「ぎょろ目はわかってたのか」
( ゚д゚)「なんとなくは。爆弾を設置せずとも、狂言だけで
パニック状態など容易く引き起こせますしね」
さすがに東風は落ち着き払っていた。
冷静に物事を分析し、事件のその先を見定めようとしている。
若手は苦悩する傍らで、さすがは東風刑事だと思っていた。
才能と経験では、圧倒的に経験のほうが勝るのだと、その時初めてわかった。
(´・ω・`)「以上が、『あさやけ4号』における事件の真相だ」
( <●><●>)「……」
(´・ω・`)「爆弾の入手経路を調べれば、ある程度は誘拐犯に
. ついて特定できそうだが、どうせ主犯格の手駒だ」
( ゚д゚)「そうでしょうね」
(´・ω・`)「あんたはどう思う?」
( ゚д゚)「爆弾の入手経路なんかで割れるようなら、モカの段階でもう掴めてますよ」
.
- 472 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:27:35 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「つまり、この推理を弄しても意味はない、と」
( ゚д゚)「……いや、意味はありましたよ」
(´・ω・`)「え?」
東風が身を乗り出して、伊藤や若手に聞かれないように耳打ちをした。
( ゚д゚)「刑事のなんたるかを教えるのに、いい刺激だったでしょうからね」
(´・ω・`)「……そうか?」
( ゚д゚)「ワカッテマスなんか、才能こそあれど、右も左も知らない新米にすぎません」
(´・ω・`)「本物の誘拐事件で新人教育か。やってらんないな」
ショボーンは柔らかく笑んだ。
東風もあわせて肯いた。
この時だけは、事件に対する焦燥を忘れられた。
.
- 473 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:29:41 ID:T3EDqDlwO
-
−3−
(´・ω・`)「ところが、だ」
( <●><●>)「はい」
若手も元のポーカーフェイスに戻っていた。
いや、どこかに執念を感じさせられた。
(´・ω・`)「当の関ヶ原デルタは、殺されてしまった」
( <●><●>)「ホテル『ひるがさき』でですね」
(´・ω・`)「えらい衝撃を受けたもんだったなあ……。なんで彼がここに、って」
( <●><●>)「同じく」
ホテル「ひるがさき」では、今もフィレンクト警部やVIP県警の精鋭たちが捜査を続けてくれている。
今のところ、唯一証拠の眠っている可能性が残っている現場だ。
被害者は、関ヶ原デルタだった。
(´・ω・`)「また、殺されたんだよ」
( <●><●>)「モカも殺されたのをみると――」
(´・ω・`)「結論はひとつ、だな」
御前モカの殺害について思考を巡らせていた時は、まさかな、程度にしか思っていなかった。
ただの仲間割れか、御前に良心が芽生えてしまい、自首するとでも言い出したか。
だが、続けて二人目も殺されるとなると、以前抱いたまさかが、確信へと変わった。
(´・ω・`)「身代金の独り占めだ」
.
- 474 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:31:43 ID:T3EDqDlwO
-
( ゚д゚)「……!」
(´・ω・`)「予言してやる。次の受け渡しの時、受付嬢とボーイは殺される」
(; <●><●>)「……ッ。どうにかならないのですか!」
(#´・ω・`)「そのための会議だろうが!」
一瞬、ショボーンが声を荒げた。
直後に室内に静寂が生まれ、時計が針を刻む音しか耳に入らなかった。
はっとして、ショボーンは頭を下げた。
(´・ω・`)「……悪い」
( <●><●>)「いえ、私も迂闊でした」
(´・ω・`)「とにかく、今のうちになんとかして根城を突き止めないと、
. 犠牲は更に増え、主犯格には堂々と逃げられるんだよ」
( <●><●>)「主犯格だけが、未だになにも掴めていないのが痛いですね」
(´・ω・`)「ああ。相当うまく立ち回られているぞ」
今までに、微少ながらも情報は集まってきた。
関ヶ原を殺した茶髪の女、御前を殺したA型の人間、ボーイと受付嬢に、几帳面な人間。
これらの情報のうちどれかは同一人物のものである可能性もあるが、
依然として、相手の総人数と、その頭だけはわからないのだ。
.
- 475 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:33:44 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「この際、主犯格にかかった霧を払わないままで挑まないとだめだな」
ショボーンは、半ば妥協を悔やまないかのように静かに言った。
先程までの怒声からの静まり様が、不気味さを醸し出した。
( ゚д゚)「向こうとしても、一番ばれちゃだめなのが主犯格の実態です」
(´・ω・`)「今までのケースから言って、主犯格もどこかに根城を持っていて、
. そこが誘拐犯グループのアジトなのかもしれない。
. その線から推理したほうが早いかもな」
( ゚д゚)「しかし、最後の受け渡しで相手が主犯格の根城を舞台にするとは思えません」
(´・ω・`)「そこなんだよ」
( ゚д゚)「と言いますと」
(´・ω・`)「今まで三度に渡って受け渡しが行われた理由、わかってるか?」
この問いかけには、東風も首を傾げた。
それぞれの受け渡し場所が誘拐犯グループのメンバーの根城だった、とはわかっている。
だが、その真意となれば、一つしか浮かばなかった。
若手も言ったように、「圧倒的に有利だから」だ。
しかし、それを踏まえた上での問いかけなのだから、他にも真意が隠されているのだろう。
何より、ショボーンの眼は、東風の視線の先より更に向こうの景色を見据えていたのだ。
.
- 476 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:37:38 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「足跡を残さないためだよ」
( ゚д゚)「足跡……?」
(´・ω・`)「この根城を用いた身代金奪取は、言わば使い捨てだ。
. 一方で、遂行には多人数が必要となる」
( ゚д゚)「ほう」
(´・ω・`)「一度きりの受け渡しとなると、奪取後に面倒な事が起こる。
. 主犯格の他に、大勢のメンバーが残っているんだ」
(´・ω・`)「主犯格は身代金独り占めを目論んでいるだろうから、一度きりの受け渡しだと、あとあと困る。
. そんな状況下じゃあ、どうしても独り占めなんてできやしないからな」
(´・ω・`)「そこで、回数分けだ」
( ゚д゚)「あ!」
そこで、漸く東風も反応した。
ショボーンの言わんとする事を掴めたのだ。
(´・ω・`)「一回毎に、舞台に選んだ根城の主を殺す。
. それを繰り返せば、自然と最後に残るのは主犯格だけなんだ」
( ゚д゚)「な、るほど……。敵ながら、巧く考え込まれた作戦ですな」
言葉を詰まらせながら、東風が感服した。
この中で一番刑事の年期が長い東風だが、そんな彼でさえ感心したのだ。
それがどれほどの事なのか、容易に予想がつく。
.
- 477 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:40:15 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「そこで、だ」
(´・ω・`)「最後の根城は、果たして手駒の根城か、主犯格の根城か」
ここで、意見が二つに分かれた。
珍しく意見を主張した伊藤と、静かだった若手で、だ。
('、`*川「どうせ手駒でしょ。そういう卑怯な奴は、決まって自分の手を汚しません」
( <●><●>)「それはどうでしょう。
既に二人殺されていて、ホテルの二人も殺されると思われるのです。
そこで、最後の手駒が平静を保っていられるでしょうか」
伊藤の考えは、主犯格の性分を考慮したものだった。
決まって、ボスというものは自らの手を汚したくないものだ。
また、それがきっかけで計画の失敗、自身の逮捕へと繋がるかもしれない。
それが、四度続いて行われるハイリスクな誘拐事件となると、だ。
一方で、若手は、主犯格が手駒の思考を読んでいるかと考慮した上での意見だ。
幾度となく警察の捜査の手を振りきり、今の所全勝の主犯格なのだ。
最後の最後で手駒が逃げ出す事など、想定していないと思う方が難しい。
.
- 478 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:42:17 ID:T3EDqDlwO
-
自身が対決に望むか使い捨ての手駒を使うか、リスクの重さで天秤にかければ、後者が沈むのは必至だ。
手駒あってこその受け渡しで手駒を失えば、主犯格は敢え無く逮捕される。
ショボーンとしては、どちらの意見にも賛同し、どちらの意見にも反対せざるを得なかった。
全く以て判断が難しいところなのだ。
どちらの意見も理に適っており、どちらもあり得る。
(´・ω・`)「手駒の根城なら、手駒が亡命するなり自首が考えられる」
( ゚д゚)「しかし、主犯格の根城だと今まで以上に厳しい戦いになりそうですぞ。
なんせ、時間があった。幾らでも罠を張れたのですからな」
(´・ω・`)「だから、難しいんだ」
東風は腕を組み、唸った。
相手にもう駒がないなら、次の根城で周りを囲めばチェックメイトだ。
だが、駒が残っている場合はこの判断は危ない。
二人いれば、片方を受け渡しに遣え、片方を人質の生殺与奪を握れる。
そして、駒を残しているかどうかについては、ご覧の通りだ。
駒の有無がわからないため、最後の受け渡しの際に周囲を包囲するかの判断も渋らざるを得ない。
.
- 479 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:43:26 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「どちらでしょう」
(´・ω・`)「…………」
ショボーンは、すっかり長考に耽る事に徹していた。
彼の刑事生活で、犯人の動向を読む事は何度もあった。
そのたびに的中し、犯人逮捕に貢献もした。
だが、それは順序を踏んだ推理があってこそなのだ。
今回は、完全に五分五分である。
論理的推理ではなく、あくまで心理戦なのだから。
論理や理屈の通用しない、主観的で独り善がりな心理が大いに関わってくる。
だから、論理的思考を一切排除し、相手の気になって考えないとだめなのだ。
ショボーンは、誘拐犯の気になんかなれなかった。
.
- 480 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 09:44:09 ID:klguzVUoO
- 8時30分たしかに午前中には違いないな
追いついたのでCのレス書き込み
- 481 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:44:56 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「……だめだ。考えれば考えるほど推理が纏まらん」
( ゚д゚)「こんな事態、はじめてですからね」
(´・ω・`)「主導権を握られているから、振り回されるんだ」
あくまで可能性が高いのを考えれば、主犯格の単独で臨んでくるだろう。
だが、一概にはそう言えないのが、判断を下せない原因だった。
駒に説得を施したり、また仲間割れの真相を知らなかったりしているのかもしれない。
一手先、一手先を読むときりがなかった。
( ゚д゚)「まるで将棋ですね」
(´・ω・`)「将棋と言えば、壁だっけ」
( ゚д゚)「彼女は読みがうまいですから」
(´・ω・`)「捜査させずに連れてくればよかったかな」
( <●><●>)「しかし、警部でも判断が下せないのですね」
(´・ω・`)「馬鹿言え、主犯格の気になって考えてみろ」
( <●><●>)「私が主犯格なら、ですか」
.
- 482 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:46:32 ID:T3EDqDlwO
-
若手は困った顔をした。
いきなり言われても、どうしろと言うのだ、と。
(´・ω・`)「あくまで、合理的な判断だ」
( <●><●>)「………ふむ」
(´・ω・`)「僕らの追跡を完全に振り切れる作戦を、
. 最初から用意していたことには違いない」
(´・ω・`)「それが、手駒の有無に大きく関わるのだが―――」
( <●><●>)「そうですね、私が主犯格なら……」
(´・ω・`)「……どうだ?」
.
- 483 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:47:13 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「私が主犯格なら、海外に飛びますね」
.
- 484 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:48:37 ID:T3EDqDlwO
-
−4−
(´・ω・`)
( ゚д゚)
('、`*川
( <●><●>)
( <●><●>)「………」
( <●><●>)「ど、どうされました? 何か変なことでも言った―――」
.
- 485 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:50:12 ID:T3EDqDlwO
-
若手が、自分の考えを述べた時。
室内が、完全に凍り付いた。
若手以外が固まり、呼吸すらしてないようだった。
(´・ω・`)「……………あ」
(;´゚ω゚`)「ああああああああああああああああああッ!!
. し、しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッぁあ!!」
(; <●><●>)「な、なんですか?」
(;゚д゚)「そ、その手があったか!」
(; <●><●>)「ミルナさんまで、どうしたと言うのです!」
そこでは、先程まで落ち着いていたショボーンだけでなく、
普段冷静で取り乱す事の少ない東風までもが、狼狽していた。
伊藤は、ぽかんと口を開き、唖然としている。
ただ、若手だけが事態を呑み込めないでいた。
.
- 486 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:51:39 ID:T3EDqDlwO
-
(;´・ω・`)「おい、今で身代金はいくら向こうの手に渡っている!?」
( <●><●>)「……三億ですが、それがなにか」
(;´・ω・`)「ばか、気づけ!」
(;゚д゚)「特に四億に固執してない限り、充分すぎる程の金なんだぞ!」
( <●><●>)
( <●><●>)「………」
(; <○><○>)「……あッ!! あぁぁぁぁぁッ!」
ここにきて、漸く若手も意味を理解した。
そして、同じく周章した。
自分で言い出した事なのに、自分で愕いている。
そして、そこから時計の針が進むのは速くなっていた。
.
- 487 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:52:57 ID:T3EDqDlwO
-
(;゚д゚)「ここから近い飛行場だけで、VIPに一つとシベリアに二つありますよ!」
('、`;川「シベリアなら船も多くあります!」
(;´・ω・`)「そんな一遍にマークできるか!」
四人の考えは、やがて若手の何気ない一言により、一つに纏まった。
それは、手駒を使うでも、逆に単独で挑むでもない。
主犯格の、海外への高飛びだ。
三億という大金があれば、容易く高飛びなどでき、隠居も可能となる。
近年の円高により、海外で通貨に換金すれば更に所持金は増えるだろう。
つまり、高飛びに何ら懸念事項は発生しない。
それを、今の今まで考慮していなかったのだ。
.
- 488 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:55:42 ID:T3EDqDlwO
-
(;´・ω・`)「やられた……。
. 四回に分けた理由、四億という額を要求した
. 理由が、全てここに集約していたとは、な……」
( ゚д゚)「四回に分けた本当の理由は――」
(´・ω・`)「……最後の一回は、フェイクだ」
(; <●><●>)「―――ッ!」
元々、四回に分けた受け渡しを、ショボーンは不審に感じていた。
一度で受け渡しを行えばいいものを、と。
そのたび、金が足手纏いになる、人数の節約と理由を考えてきたが、どれもぴんとこなかった。
先程になって、誘拐犯メンバーの、殺害による人数調整のために四回に
分けたと推理したばかりだったが、真実はその更に上を上回っていたと思われる。
四度と言うだけで、道中の三度目までは警察側もまだチャンスはあると油断する。
実際、彼らにもその節が時々垣間見られていた。
そして、主犯格に言わせてみれば、警察側は四度目に
全てを賭して挑んでくるだろうと予測もつくだろう。
そこを突いた、まさに計算尽くされた作戦だったと言える。
.
- 489 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 09:59:18 ID:T3EDqDlwO
-
(;゚д゚)「時間がありません! イツワリさん、検問を!」
(;´・ω・`)「待て、それはだめだ!」
(;゚д゚)「どうしてですか!」
東風がショボーンの了解を得ず電話をかけようとした時だ。
狼狽したショボーンが更に狼狽して、東風を止めた。
今にも発信したそうに指をむずむずさせている。
(;´・ω・`)「あくまで、高飛びは推理に過ぎない。
. 本当に四度目の受け渡しが起こるかもしれないんだ。
. そうだとすると、警察の動きがばれて忽ち人質は殺される」
(;゚д゚)「しかし……」
(´・ω・`)「ああ……現段階で高飛びを決行する確率は、極めて高い。僕だってそう思う。
. でも、だからといって人質の命が危ぶまれるような捜査方針はたてられないんだ」
('、`;川「そんな……」
ショボーンも大変口惜しがっていた。
彼も、検問を張るなりして、何としてでも高飛びを防ぎたいのだ。
もう主犯格を乗せた飛行機が出たとするなら、きっと
各国に国際指名手配として協力を要請する事も惜しまないだろう。
だが、警察という立場上、それはできなかった。
確率は極めて高い、他に可能性は考えられない。
なのに、確たる証拠がなければ、人質を無視した捜査方針には切り替えられないのだ。
歯痒い思いが募って、ショボーンは二の腕を膨らませていた。
.
- 490 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:01:50 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「まだ、ホテルでの受け渡しが終わって
. 少ししか経ってない。きっと高飛びはまだだろう」
(;゚д゚)「しかし、こうして喋っている間に逃げられますよ!」
(´・ω・`)「検問はだめだ。僕たちだけで乗り込む」
(; <●><●>)「見当はついてるのですか!?」
(´・ω・`)「あったら真っ先に飛び出してるさ!」
(; <●><●>)「それでは――」
若手は言葉を発せなくなった。
一刻を争う事態で、それこそ一秒でも早く誘拐犯に追いつかなければならない。
しかし、ここから近い飛行場だけで三つ、船も含めると二桁を優に超すのだ。
一度それらのうち一つ向かってみて、外れだった場合は引き返すしかない。
その引き返すうちに、誘拐犯は間違いなく逃げるのだ。
つまり、チャンスは一度きり。
なんの手掛かりも無い。
なんの見当もついてない。
判断を誤れば、誘拐犯を逮捕する機会は永久に失われる。
考えられない事態だ。
たとえ、ショボーンがあのイツワリ刑事と呼ばれるお方であっても、
さすがにこの状況下で誘拐犯が使う逃走ルートを当てられる筈もない、と。
.
- 491 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:05:46 ID:T3EDqDlwO
-
それなのにショボーンはその挑戦に挑んでいる。
無茶だ、明らかに奇跡に頼るしかない勝負なのだ。
若手は、ただそれだけを思い、不安に感じていた。
(´・ω・`)「一発で、当ててみせるさ。誘拐犯の逃走ルートを、な」
(; <●><●>)「無茶です! 当てられっこありません!」
(´・ω・`)「できるかどうかが、問題じゃない」
(; <●><●>)「あなたは、奇跡を起こそうっていうのですか!」
(´・ω・`)「起こしてやろうじゃないの」
(; <●><●>)「―――ッ」
(´・ω・`)「幸い、外は見ての通り豪雪だ」
( <●><●>)「……雪?」
言われて初めて、外の環境の変化に気がついた。
窓を打ち付ける程の凄まじい風に混じって、大量の雪が降っていた。
先程までとは比べものにもならない大雪だ。
もう何十センチも積もっている。
(´・ω・`)「シベリアやVIPの北部、キタコレと言った我が国の北部は、
. 基本的に大雪の警報が入れば船は出せないんだ」
(; <●><●>)「それはそうですが……でも、飛行場が三つ残ってます!」
(´・ω・`)「その三つから、僕が刑事人生の全てを賭けて、突き止めてみせる」
(; <●><●>)「………!!」
.
- 492 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:08:35 ID:T3EDqDlwO
-
またも若手は言葉を失った。
彼の心境を表すなら、無茶だ、無謀すぎる、だ。
飛行場の三つとは、あくまでこの近辺に限った話だ。
VIP、シベリアに限らず近辺の地区全域を考えれば、やはり十は超える。
地下鉄でどこか遠くに行ってから、別の飛行場を使うかもしれない。
それなのに、ショボーンはやる気でいたのだ。
若手は更に食ってかかろうとした。
だが、それを止めたのは東風だった。
( ゚д゚)「……ワカッテマス」
(; <●><●>)「ミルナさんからも言ってくださいよ!
強情張って検問を捨てないよう――」
( ゚д゚)「イツワリさんは、こういう人なんだ」
( <●><●>)「……?」
( ゚д゚)「偽りを見抜くだけが、イツワリ警部――ショボーンの仕事ではない」
( ゚д゚)「時には、偽りを突き止めるんだ」
.
- 493 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:10:45 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「突き、止め――」
( ゚д゚)「偽りの根城を駆使して我々を翻弄してきた
という偽りを持つ主犯格を、突き止める」
( ゚д゚)「イツワリさんは、偽りを見抜く事ができるから、
見抜けば、自ずと突き止めたも同然だろ?」
( <●><●>)「……」
( ゚д゚)「あくまで俺らはイツワリさんの部下だ。
上司である彼の指示に従う、それが警察なのだぞ」
( <●><●>)「………」
若手は、自分で自分を叱責した。
ショボーンを信じず、それどころか刃向かいもした。
警察である以上、検問を張ったが故に人質を殺されてはならない。
一方で、警察である以上、上司であるショボーンの指示は絶対だ。
組織で動くが故の、絶対的な規則なのである。
その警察としての本質の両方を、破っていた。
これこそが、考えられないことだ。
知らずのうちに、若手は黙ってショボーンをみていた。
その眼の色は、尊敬の一色で染まっていた。
.
- 494 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:12:44 ID:T3EDqDlwO
-
−5−
(´・ω・`)「(思い出せ……今回の事件の全てを……)」
(´・ω・`)「(主犯格は、身代金の独り占めを目的に、仲間を次々殺していった)」
(´・ω・`)「(それは、モカとデルタをみれば明らかな事だ)」
(´・ω・`)「(しかし)」
(´・ω・`)「(一方で、四回と指示した受け渡しで三回しか
. 応じない理由は、不意を突いて逃げるためだろう)」
(´・ω・`)「(すると、もう仲間はいないのか?)」
(´・ω・`)「(逃げる以上、仲間はいないと思われるが……
. 他にもう一つ、何か根拠が欲しい)」
.
- 495 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:13:59 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「……ワカッテマス」
( <●><●>)「はい」
(´・ω・`)「今回で、誘拐犯グループはもう主犯格の一人だけだと思う?」
眼を細め、静かに訊いた。
豪雪が窓を打ち付ける音が煩く、ほとんどがかき消されて聞こえなかった。
だが、それでも若手は応えた。
( <●><●>)「そりゃそうでしょう」
(´・ω・`)「なぜだ?」
( <●><●>)「仲間が残っている場合、逃げそのものに危険が生じます」
(´・ω・`)「他には?」
( <●><●>)「……む」
ショボーンが真っ先にたてた仮説と、同じ見解を若手が述べた。
ショボーンの欲しかった答えではないので、更に聞き出した。
当然若手も戸惑い、一瞬言葉が詰まった。
( <●><●>)「………私にはなんとも」
(´・ω・`)「そうか」
いきなり訊いて、そうポンと出てくるものではない。
ショボーンは、半ばこれを予想していたかのほうに、肩を竦めた。
腕を組み、絨毯をじっと睨んで思考を巡らせた。
すると、伊藤が横から口を切った。
.
- 496 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:15:25 ID:T3EDqDlwO
-
('、`*川「あの……警部」
(´・ω・`)「なんだ」
('、`*川「気になってる事があるんですけど……」
(´・ω・`)「言ってみろ」
('、`*川「でも、本当にどうでもいいことなんです」
(´・ω・`)「構わないさ。なんだい?」
ショボーンは、なるべく明るく振る舞った。
伊藤は滅多に自分の意見を口にしないのだ。
そんな彼女が推理を並べようとしているのに、拒む筈はない。
多少、ショボーンはオーバーに彼女の話を受け入れた。
('、`*川「ボストンバッグが、誘拐犯の数と合致しているんじゃないかなーって……毎度毎度……」
.
- 497 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:17:11 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)
言われて、ショボーンは一瞬黙った。
いや、言葉を失ったと言ったほうがいい。
伊藤は、それがショボーンの導火線に火を点けてしまったのか
と思い、なにも言われてないのにも関わらず、萎縮した。
一方のショボーンは、伊藤の言っている言葉の意味をひとつひとつ理解していった。
(´・ω・`)「………」
(´・ω・`)「……ばかな」
長考の末、漸く絞り出せた言葉がそれだった。
怒りもなく呆れもせず、無意識的に漏れてきたものだった。
周章を隠せない捜査陣のなかで、ショボーンは逆に落ち着きを取り戻しさえもしつつあった。
それほどまでに、伊藤の考えが奇抜で、また合理的にも思えたものだったのだ。
(´・ω・`)「……待て、ボストンバッグの数は――」
.
- 498 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 10:19:10 ID:idOxTSog0
- 支援
初遭遇
- 499 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:19:53 ID:T3EDqDlwO
-
身代金を詰める物にボストンバッグを選んだのは、当然の思考だ。
形が一定で保たれている硬いトランクケースよりかは、幾分か扱いやすい。
当初問題にしたのは、分け方だった。
なぜかボストンバッグを五つに分け、なぜか御前と主犯格のいるコンビニに置くことになった。
場所がコンビニである謎は解けたのだが、思い返せば個数については論議は交わしてななかった。
大人数で運ぶのに適しているからではないか?という意見も当然でた。
だが、あの時コンビニには御前含め二名しかいなかったのだ。
五、という数字の謎は未だ明かされないままだった。
次のオオカミ鉄道にて、四つと指令が下った。
ベッドの上に五つを載せると、一つが通路に落ちるものだと
わかったため、四つにした意味を押さえる事ができた。
と、思っていた。
考え直すと、その思考が既におかしいのだ。
限界まで詰めている訳でもないボストンバッグを不用意に
複数個に分けただけでは、かさばるため逃走にも不向きな筈なのだ。
だが、「五つでは難しい」という事実があっただけで、
いつの間にか四つである事に違和感を示さなくなっていた。
気がつくと、複数個のボストンバッグが当たり前のものだと思っていたが、
伊藤に言われて、はじめてその事に思考が、そして推理が行き渡った。
(;´・ω・`)「まさか、まさか……まさか!」
.
- 500 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:22:12 ID:T3EDqDlwO
-
ショボーンは徐々に顔色を悪くしていった。
顔が蒼白くなったが、室内を照らす小型のシャンデリアで
元々肌が白く見えるので、焦燥は色を見ては窺えなかった。
だが、滲み出る脂汗、強く握られた拳、食い込む爪を見る限り、
決して平常心でいられてないのはわかった。
|(●), 、(●)、|「作戦会議中すまない、客人のようだ」
先程まで席を外し、私事に時間を費やしていた伊達が急に室内にやってきた。
ソファーから腰をあげた東風が出迎えると、それよりも早く伊達が口を切った。
|(●), 、(●)、|「ショボーン君の部下という刑事が二人、やってきたよ」
( ゚д゚)「是非ここに来るように、と――」
/ ゚、。 /「いますけどね」
( `ー´)「いるけどな」
(;゚д゚)「いたのかよ!」
.
- 501 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:24:28 ID:T3EDqDlwO
-
伊達の後ろから、鈴木ダイオード刑事と真山田ネーノ刑事がやってきた。
伊達の事は教えており、自宅も教えていたため、自主的に帰ってきたのだろう。
ショボーンも東風も、帰還の要請はだしていない。
唐突に現れ啖呵を切ったので、東風は若干たじろいだ。
( ゚д゚)「捜査はどうしたんだ」
( `ー´)「その事ですが」
東風が訊こうとする事を先取りし、その答えを早速持ち出してきた。
どうやら、手ぶらで帰ってきた訳ではなかったようだ。
なにか目的があっての、自主帰還ととることができる。
( `ー´)「あの支配人コンビに話を聞くと、面白い事がわかったのでお知らせに」
( ゚д゚)「電話で言えばいいだろう」
/ ゚、。 /「これ以上なにもでない、とシベリアの
フィレンクト警部が仰っており、帰還を推奨されたのです」
( ゚д゚)「……まあいい。報告を聞こう」
.
- 502 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:26:57 ID:T3EDqDlwO
-
先程の若手の推理により焦燥していた東風とは
対照的に、この若い二人は落ち着き払っていた。
まだこの事を伝えていないから、当然といえば当然だろう。
報告を聞いてから、半ば脅しつけるかのように伝えるつもりだった。
報告をする時になって、真山田は僅かだが狼狽をみせた。
( `ー´)「一週間」
( ゚д゚)「は?」
真山田が、意味深な一言を呟いた。
聞き取れず、東風がすかさず聞き返した。
( `ー´)「誘拐犯の受付嬢とボーイがホテル働き始めたのが、なんと一週間前なんですよ」
( ゚д゚)「一週間?」
一週間という言葉に、過敏に反応した。
どこかで聞き覚えがあったのだ。
東風の表情に気を取られず、真山田は続けた。
( `ー´)「第一の被害者である御前モカが、例のコンビニで
働き始めたのも一週間前でしたよね?」
( ゚д゚)「あッ―――」
.
- 503 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:28:52 ID:T3EDqDlwO
-
思い出した、あのコンビニオーナーの八東ススムが言っていたのだった。
胸中でそう叫び、八東の気の抜けた声が再現されていた。
実にあやふやで、日数を数えるだけで戸惑っていたのが思い出される。
これは中々な手掛かりだ。
だが、受付嬢もボーイもメンバーと判明している今、その情報はあまり必要ではなかった。
真山田も、それを理解しているようだった。
( `ー´)「それで、もう一つ」
( ゚д゚)「なんだ」
/ ゚、。 /「こっちを知らせたくて、駆けつけたようなものだそうですが」
補足説明してお膳立てでもするかのように、鈴木は控えめに言った。
真山田をみると、彼はそわそわしている。
余程の収穫があると見て、問題ないだろう。
( ゚д゚)「聞こう」
( `ー´)「受付嬢もボーイもなんですが、この二人は御前モカと共通点があるんですよ」
( ゚д゚)「共通……」
( `ー´)「随分昔に失業を喰らった、とか」
( ゚д゚)「! モカの時と一緒じゃないか」
( `ー´)「そうなんです」
.
- 504 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:31:44 ID:T3EDqDlwO
-
御前モカは、失業したとみて間違いはなさそうだった。
年齢的に大学の浪人生でも留年生でもなく、アルバイトするには不釣り合いな歳だったからだ。
就職難と呼ばれる時代でも、フリーターで何年も食べていく者は思いの外少ない。
八東は言葉を濁していたが、御前はおそらく不況の煽りを受けた失業者の一人だ。
( ゚д゚)「じゃあ主犯格も――」
( `ー´)「報告はこっからが凄いんですよ」
( ゚д゚)「――?」
真山田は息を荒くした。
三段階に分けて報告するものだから、東風もテンポを合わせるのはできていなかった。
( `ー´)「受付嬢もボーイも、昔はとある宝石商の社員だったみたいなんですよ」
.
- 505 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:33:14 ID:T3EDqDlwO
-
( ゚д゚)「宝せ――」
(´・ω・`)「――なんだって?」
東風が聞き返そうとすると、より早くショボーンが聞き返した。
考えに耽っていたショボーンが急に立ち上がったので、東風は自然と押し黙っていた。
眉間に皺を寄せ、眼を見開いている。
真山田は、なぜショボーンが食いつくのかわからなかった。
( `ー´)「詳しくは知らないんですが、あの二人は元宝宝石商のようなんです」
(´・ω・`)
( `ー´)「で、凄いってのが、あの御前モカも元宝石商らしいんですよ」
(´・ω・`)
( `ー´)「車掌長のデルタ氏も、昔は宝石商って――」
(´・ω・`)「おい」
真山田の言う凄い報告を淡々と続けると、ショボーンが随分低い声で言い放った。
表情を見ると非常に厳つくなっており、拳をわなわなと震わせていた。
とてつもない畏怖を感じ取り、真山田は動揺していた。
なぜショボーンからこのようなオーラを感じるのか、わからなかったのだ。
ショボーンが口を切ろうとすると、先に若手や伊藤が飛び出してきた。
.
- 506 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:35:10 ID:T3EDqDlwO
-
(; <●><●>)「今の話、ほんとうなのか!?」
('、`;川「ホテルの二人も宝石商ですって!?」
( ;`ー´)「え? そ、そうだけど……たぶんな」
伊藤はともかく、あの若手ですら狼狽えていたので、真山田は更に動揺した。
すると、後ろからショボーンがのしのしと歩み寄って、ついに怒りを爆発させた。
(´-ω-`)「………どうして」
(;`ー´)「は……はい?」
(#´・ω・`)「どうして、もっと早くに言わなかったんだと言ってるんだ!! 答えろ!!」
(;゚д゚)「落ち着いてください!」
( ;`ー´)「え……え?」
制止すべく、東風は歩み寄ったショボーンと真山田の間に無理やり割り込んだ。
退室しようとした伊達が、魔物を見るような眼でショボーンを見つめていた。
長年コンビを組んできた東風でさえ、ショボーンがこれほど激怒したのは見たことがなかった。
それほどまでに、ショボーンは怒っていたのだ。
髪が逆立ち天を突きそうな勢いで、引き続き怒声を浴びせていた。
真山田は、なぜ叱責を浴びるのかわからなかった。
.
- 507 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:36:35 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「知らないなら教えてやろう」
(´・ω・`)「伊達さん、ご職業をお教え願えますか?」
なんとか声を落ち着かせ、逆立つ髪を押さえた。
そして、なんだと思い近寄ってきた伊達に話を振った。
伊達はよくわからないと言いたげな顔をして
|(●), 、(●)、|「……? 宝石商を営んでいるが」
( ;`ー´)「なッ!? ……なんですって!?」
真山田が、すぐに狼狽した。
真山田は、ただの偶然程度にしか思ってなかったのだ。
共通点と言えるほどの物ではないと判断し、笑い話にしていた。
といっても、この元宝石商という下りにおいて、四人のうち二人は先程知ったばかりである。
関ヶ原と御前の失職前の職業が一緒というだけでは、不審には思わなかったのだろう。
.
- 508 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:39:14 ID:T3EDqDlwO
-
真山田に言わせても、まさか、被害者の保護者の職業と
誘拐犯メンバーの元職業が一致するとは、夢にも思ってなかったのだ。
心臓の高鳴りが、今までに味わった事のない程に連打されて聞こえてきた。
真山田が焦燥を抑えきれないうちに、ショボーンは伊達を見て口を開いた。
先程まで怒っていたかと思うと、今度はまた焦燥を露わにしていた。
(´・ω・`)「伊達さん、ここ十年ほどで、ご自身の手で馘首に処した社員は何名ですか?」
|(●), 、(●)、|「急に聞かれてもなあ……」
|(●), 、(●)、|「まず、私は滅多な事じゃ解雇しないのだよ。
不況になった時に数人は解雇したが……」
「少し待ちたまえ」と言って、伊達は書斎に向かった。
少しと言っても、一分もせず戻ってきてくれた。
手にはファイルが持たれており、仕事関連の物だ、と瞬時に把握できた。
それを開きながら、伊達は説明した。
|(●), 、(●)、|「解雇者のリストだよ」
.
- 509 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:40:58 ID:T3EDqDlwO
-
リストには、着服などの不祥事で逮捕された人物が多くを占めるなか、
ただの経営不振で馘首された社員が数名、載っていた。
リストの下段のほうに、経営不振と説明書きが添えられ、名前が書かれてあった。
経営不振による馘首された人数は、四人だった。
(;´・ω・`)「………」
それをみた瞬間、ショボーンの顔が真っ青になった。
他の刑事も群がるが、反応は一緒だった。
|(●), 、(●)、|「関ヶ原君といい、若い御前君といい、皆本当にいい人ばかりだった。
解雇などしたくなかったのだが……あの頃は経営が本当に苦しくてねえ……」
伊達が昔を思い返しながら感傷に浸り、ただ詫びの気持ちを述べていた。
だが、ショボーンはそんな事はどうでもよかったのだ。
リストに載っていた名前を見て、絶句するほかなかったのだから。
関ヶ原デルタ
御前モカ
鈴木すず
鈴木むねお
.
- 510 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:42:01 ID:T3EDqDlwO
-
(;´・ω・`)「………ッ」
|(●), 、(●)、|「……どうしたのだね、ショボーン君?」
伊達が心配そうに見つめた。
見つめたのは、ショボーンだけではない。
刑事が、皆狼狽えているのだ。
なにが起こっているのか理解できず、自分だけが浮いていた。
(;´・ω・`)「ま、まさか……とは思っていたが……今ので、確信した」
( ゚д゚)「なにをですか?」
(´・ω・`)「この事件の奥底に眠る本当の偽り≠フ存在だよ」
( <●><●>)「偽り……」
('、`;川「本当のって……まだあったのですか!?」
(´・ω・`)「ああ。教えてやろう」
(´・ω・`)「この事件の本当の偽り≠ヘ―――」
.
- 511 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:44:21 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「この、誘拐事件だったんだ」
イツワリ警部の事件簿
File.2
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
第八章
「 偽りを突き止める 」
おしまい
.
- 512 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:50:58 ID:T3EDqDlwO
- >>502
× 先程の若手の推理により焦燥していた東風とは
○ 先程のショボーンの推理により焦燥していた東風とは
別に若手の推理 でも大丈夫ですが、一応。
というわけで第八章でした。
本当はラストまで一気に投下しようと思ったけど、
三週間ぶりに来てしかも呆気なく終わるのもあれですから、一旦休憩します。
「一気に終わんなやハゲ」って人がいらしたら終章は来週、
「早く終わらせろやハゲ」って人がいらしたら今夜二〇時頃に終章を投下します。
とりあえず、今回も読んでいただきありがとうございました!
誤植の報告だけでなく、終章投下についての意見があれば是非お願いします。
- 513 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 10:52:27 ID:T3EDqDlwO
- 第八章 >>451-511
- 514 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 11:46:50 ID:YArJFR0Y0
- 早く続きを読ませろやハゲ
- 515 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 12:55:44 ID:klguzVUoO
- 鈴木むねお……
「早く終わらせろや、ハゲ」
- 516 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 14:09:31 ID:fO/8eANE0
- 早く終わらせろや、フサ
- 517 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 14:37:37 ID:aKQ1ex6sO
- 早く終わらせろや、サゲ
- 518 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 15:45:19 ID:O.hHm1y60
- 乙です
続きが気になるので今日お願いします
- 519 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 16:30:43 ID:ydsIgiaAO
- 早くハゲろよ、終わらせろ
- 520 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 18:40:50 ID:0V6KNgNEO
- ( <●><●>)「私が作者なら、早く終わらせますね」
- 521 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 18:47:00 ID:qLqDLtNk0
- ハゲ終わらせろ早く
- 522 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 18:49:31 ID:gltfGvPY0
- ハーゲ! ハーゲ! ハゲ!
- 523 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 19:33:54 ID:td4Dm0E.O
- 皆ツンデレだとわかっているがだんだんと悪口にしか見えなくなってきたw
投下しろー!
- 524 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 19:53:35 ID:T3EDqDlwO
- 絶対ハゲないからな!
先にお風呂入る事にしたので八時半頃に投下すると思います
三十分じゃ延期のうちには入りませんよね
- 525 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 20:45:16 ID:0V6KNgNEO
- しかし、こう見るとやっぱ見てる人多いんだな
作者のハゲみになればいいね
- 526 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 20:46:43 ID:HTPNdc3YO
- ハゲしい展開の最終回ときいて
- 527 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 21:11:45 ID:klguzVUoO
- ゴ○ブ○は一匹見かけたら30匹はいるといわれる
その理論からいくと360人が読んでると推測される
- 528 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:26:33 ID:T3EDqDlwO
- 親父とその親父がハゲだけど俺はハゲないからな!
予定より一時間も遅れましたが別に気にしないで最終章投下します。
日を跨ぐ気がしてならないのですが、皆様がもしよければリアタイで読んでくれると嬉しいです。
では、コンパに間に合うように急いで投下します。
- 529 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:30:47 ID:T3EDqDlwO
-
終章
「 雪がくれの誘拐事件 」
−1−
( <●><●>)「……ッ」
(;゚д゚)「ば、ばかな!」
ショボーンの言葉を聞いて、若手と東風だけが反応を示した。
若手は眉をぴくりと動かせ、東風はがばっと身を乗り出した。
だが、彼ら以外の者は、理解できていないようだった。
.
- 530 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:32:12 ID:T3EDqDlwO
-
/ ゚、。 /「この誘拐事件そのものが偽りとは、いったいどういう事ですか」
('、`*川「人質はいなかった、という事ですか?」
それも考えられない事ではなかった。
現在に至るまで、誘拐犯は一度も人質、伊達つーの声をショボーン達に聞かせていない。
聞かせておかないと、ただの悪戯と思われてしまう可能性があり、誘拐犯としても分が悪い。
この本来とるべき行動を未だとってなかっため、伊藤がそう思うのも無理はなかった。
だが、ショボーンはそういう事を言いたかったのではない。
もっと、根本的な部分での問題だった。
(´・ω・`)「もっとわかりやすい言葉で説明するとだな」
(´・ω・`)「主犯格は―――」
一旦トレンチコートを入念に羽織ったのは、彼の緊張感が高まったのを表している。
寒くなったのではなく、これから起こり得る事態に備えた、彼なりの気付けである。
.
- 531 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:33:01 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「主犯格は、伊達つー」
(´・ω・`)「これは、狂言誘拐だったのだよ」
.
- 532 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:34:45 ID:T3EDqDlwO
-
/;゚、。 /「!」
( ;`ー´)「!」
('、`;川「!」
|(●), 、(●)、;|「な………なんだと!? 本気で言っているのか!!」
窓を打ち付ける雪の音でかき消されそうな程
静かに言い放ったその言葉で、
ついにその場にいる皆が周章を見せた。
物分かりの悪い伊達までもが、見てわかる程に狼狽した。
いや、狼狽せざるを得ない。
今し方ショボーンが告発した主犯格の名は、紛れもない被害者の名なのだ。
伊達つー、その名をショボーンは言い間違えて言ったようには見えない。
ショボーンは、この推理で間違いない、と自信を持っているようだった。
(´・ω・`)「彼女自身が被害者を装い、唯一の身寄りである伊達さんから三億≠フ金を奪う」
(´・ω・`)「これは歴とした、狂言誘拐だ」
.
- 533 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 21:36:07 ID:0V6KNgNEO
- ならば支援だ
- 534 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:37:30 ID:T3EDqDlwO
-
|(●), 、(●)、;|「ばかな! 論拠を示したまえ!」
まさか、被害者であり孫娘であるつーが。
そのあまりに意外な事態に、伊達は未だ混乱を隠せないでいた。
徒に怒声をあげるが、ショボーンは涼しい顔をしていた。
他の刑事たちにも説明すべく、眉を伏せて重い口を切った。
(´・ω・`)「いいか。問題は、誘拐犯の数、そして動機だ」
( <●><●>)「グループの人数は、御前モカ。関ヶ原デルタ。
受付嬢とボーイ。そして、主犯格。この五人です」
(´・ω・`)「誘拐犯グループの共通点は?」
( <●><●>)「伊達氏の営む宝石商の、元社員という点で一致しています」
落ち着いた様子で、問われた事柄について答えていった。
伊達も、ショボーンの言わんとする事がわかったようだった。
|(●), 、(●)、;|「……ま、まさか、彼らが……!?」
(´・ω・`)「これで、各人の動機ははっきりした」
(;゚д゚)「自分を馘首した伊達氏への、復讐――と言うのですか!」
.
- 535 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:40:24 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「各人は、不況の煽りにも負けず自社のために頑張ってきた。
. それなのに、経営不振を理由にいきなりクビにされては、恨まれても仕方がないだろうよ」
|(●), 、(●)、;|「ばかげている、それは会社のために仕方のない事だ!」
伊達は、ショボーンの推理が、筋が通ってないというよりは
寧ろ信じたくないがために否定しているようだった。
次第に、ショボーンには苛立ちが募りはじめていた。
なにかと理由をこじつけ、保身に走る伊達を見ていられなかったのである。
(´・ω・`)「……この、社長への復讐という動機を持つ人数と、
. 誘拐犯グループの五人。一致しないだろう?」
/ ゚、。 /「確かに、リストラ組だけで組まれたグループなら、
四人でなければ辻褄が合いません」
(´・ω・`)「また、一方でA型、セミロング、茶髪の
. 女という主犯格の正体が掴めていなかった」
( <●><●>)「グループで女性は例の受付嬢だけ。
そして関ヶ原デルタ殺人事件においては、彼女には決定的なアリバイがあります」
(´・ω・`)「では、最終的に辿り着く女の正体は?」
|(●), 、(●)、;|「……嘘だ……」
.
- 536 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:43:17 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「また、今回の受け渡しにおいて、奴らは根城を転々としていた」
( <●><●>)「コンビニからオオカミ鉄道、そしてホテル『ひるがさき』ですね?」
(´・ω・`)「ふつうの誘拐犯なら、どこかに根城を持って、そこに人質を監禁するものだ。
. だが、今回は誘拐犯グループの皆が、受け渡しを担当する時も常に出勤している」
(´・ω・`)「人質を監禁したところで、監視する人間がいないんじゃあ誘拐として成り立たない」
(´・ω・`)「これもまた、本件が狂言誘拐である事を示しているのだよ」
御前も関ヶ原も、鈴木という名のホテルの従業員二人も、欠勤はしていない。
それどころか、出勤し仕事場に立ち会った上で、受け渡しを請け負ってきたのだ。
もし伊達つーが真の人質だとしても、主犯格の存在が明かせず、
主犯格が監視していると、オオカミ鉄道での身代金の回収役が存在しない事になるのだ。
誘拐犯グループが六人以上である可能性は、やはり考えられなかった。
その理由は、少し前にショボーンが怒りを垣間見せながら言った通りである。
.
- 537 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:44:45 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「シベリアのコンビニで、仲間である筈のモカ氏を毒殺し、我々を翻弄したのも。
オオカミ鉄道『あさやけ4号』にて爆弾騒動を引き起こし、身代金を回収したのも。
ホテル『ひるがさき』で仲間である筈のデルタ氏を殺し、受付嬢らを連れて逃走したのも」
(´・ω・`)「………全部、伊達つーと見ている」
|( ), 、( )、;|「…………ッ!!」
伊達は、拳を震わせた。
孫に対する怒りか、若しくは孫を信じていたい気持ちか。
そのどちらかが、伊達の精神と身体の両方を支配していた。
.
- 538 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:46:19 ID:T3EDqDlwO
-
(;゚д゚)「ならば、海外への高飛びは尚更考えられます!
早く手を打たなければ、大変な目に遭いますよ!」
(´・ω・`)「待て、既に目星はついている」
東風は事の重大さを痛感し、声を張り上げた。
怒っているのか平静を保とうとしているのか、
至って冷静なショボーンは東風に対してそう言った。
東風はおろか、ほかの刑事も皆、ショボーンの思考が掴めなかった。
えらく落ち着いているのだ。
それだけでなく、つーの居場所まで掴めていると言っている。
( <●><●>)「どこに彼女がいると仰るのですか」
(´・ω・`)「思い出せよワカッテマス」
( <●><●>)「……?」
.
- 539 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:49:58 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「今までの犯行は、全て根城で行われてきた」
(´・ω・`)「根城というが、それはどれもメンバーの職場なんだ」
(´・ω・`)「この、職場を選んだ≠チてのも、伊達さんに対する抗議の表れなのだろう。
. 今までの自分らの職場を潰してきた伊達さんに対する、な」
( <●><●>)「しかし、それが彼女の居場所とどう――」
「関係があるのですか」と言おうとした瞬間、
東風が何やら閃いたのか、「あっ」と声を発した。
( ゚д゚)「伊達つーも、その職場≠ナ逃亡を図ると仰るのですか?」
(´・ω・`)「ああ、そうだ。……さて、伊達さん」
実に作り込まれた、まさに劇的な計画だった。
狂言誘拐を起こす際に組まれたグループは、
主犯格伊達つーの祖父、伊達クールによって馘首に処された四人だ。
その彼らが身代金受け渡しに臨んだのが、現在の職場である。
我々の本来の職場を取り上げた伊達に対する、抗議の気持ちの表れと見て、間違いはなかった。
狂言とは言え孫娘のつーを誘拐する事で伊達に復讐をし、
一方で、職場を受け渡し場所にする事で訴えかける。
「よくも解雇してくれたな」と、意思表示をする。
双方の面から、復讐を試みるものだった。
以上を踏まえると、主犯格はつー以外に考えられなかった。
だが、それでも伊達は信じていなかった。
.
- 540 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:51:51 ID:T3EDqDlwO
-
推理に基づいて、ショボーンがつーの職業を尋ねようとした。
ここまで作り込まれた事件だ、つーも職を使って逃げると想定していいだろう。
あとは、その逃走ルートを先にショボーン達が防ぐか、つーが逃げ切るかの勝負である。
|(●), 、(●)、|「私は信じないぞ!」
(´・ω・`)「!」
伊達は、ショボーンを睨んで言った。
真剣な眼をしており、今までのやや軟弱だった伊達の姿は、すっかりどこかへ消え失せていた。
|(●), 、(●)、|「確かに、つーは私を恨んでいたと思う。非行にも走っていたし、金が欲しいのもわかる。
だけど、それでも私の孫なんだ。狂言誘拐だの、孫が主犯格だの、信じられるか!」
(´・ω・`)「伊達さん……」
.
- 541 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:55:11 ID:T3EDqDlwO
-
|(●), 、(●)、|「幼い頃に両親を亡くし、いくら非行に走っていても、狂言誘拐だの連続殺人だの、犯す訳がなかろう!
身代金についてもだ。金なら好きな分だけ与えてきた!
当時、非行に走ったのは思春期特有の思考だからだろう、と執事長も言っていた。
だから、金を与え、好きなようにさせた。ほとぼりが醒める頃には、きっと更正もするだろうと」
|( ), 、( )、|「……つまり、動機がないのだよ、動機がァ!」
伊達は、胸中に溜まってった想いを、全て吐き出した。
孫にかける想いが、どれほど強いかが思い知らされた。
最終的には目も虚ろになり、ふるえた声で叫んでいるようなものだった。
どうしても、孫を信じていたいのだろう。
孫が被害者である事を、今も尚信じている。
ここで、伊達つーを主犯格として認めれば、連続殺人を犯した犯罪者であると認める事になる。
伊達としては、それだけは、決して認めるつもりはなかったのだ。
たとえ、如何に合理的で筋の通った推理でも。
ショボーンが導き出した、ひとつの真実だとしても。
大切な人を、犯罪者と思うことはできなかったのだ。
.
- 542 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 21:57:56 ID:T3EDqDlwO
-
(#゚д゚)「甘ったれるな!!」
|(●), 、(●)、;|「ッ!」
伊達が肩を竦め、ショボーンが黙って伊達を見守っていた時だ。
東風が、急に怒声を浴びせた。
普段、寡言ながらも気さくな東風が大声を発したせいで、
伊藤や若手はおろか、ショボーンまでもがびっくりしていた。
伊達は腰を抜かし、後ろに倒れ尻餅をついた。
歩み寄って、胸倉を掴み上げ、なおも東風が怒りを見せた。
(#゚д゚)「やれ金を与えただの、やれ親が亡くなったからだの……
それが、保護者としてとるべき保身なのか!」
|(●), 、(●)、;|「事実は事実だ! 私は祖父として……
いや唯一の肉親として、最善の行動をとり続けた筈だ!」
(#゚д゚)「唯一の肉親なら、金よりも同情よりも、もっと与えるべき物があっただろ!」
(#゚д゚)「……なぜ、愛≠与えなかった!!」
.
- 543 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:00:55 ID:T3EDqDlwO
-
|(●), 、(●)、;|「………ッ……!」
東風には、仲の良い嫁がいる。
二人の子供にも恵まれた。
二十年以上も勤めているのに未だに出世していない彼だが、現在に至るまでも円満な家庭を築けている。
嫁は夫の給料に文句を付けず、息子たちは反抗期を迎えながらも立派に成長していっていた。
そんな家庭を持つ東風だからこそ、伊達が許せなかったのだ。
制止しようとするショボーンの説得を振り切って、伊達のみを視界に据えていた。
被害者として説得すべき相手を、いつしか同じ親として説得していた。
(#゚д゚)「両親を喪っているからこそ、金じゃなくて愛を与えるべきじゃないのか!」
|(●), 、(●)、;|「―――ッ」
東風は、止まる気配を見せない。
それどころではない、と見かねた若手が飛び出し、二人の間に割り込んだ。
( <●><●>)「今はそれどころじゃないです。
早く主犯格の居場所を突き止めないと」
(#゚д゚)「………」
( ゚д゚)「…………ああ」
.
- 544 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:02:24 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「伊達さん、お孫さんの職場はご存じですか?」
伊達は、若手に訊かれてもやはり言い渋った。
ここで言ってしまえば、孫を主犯格として認める事になるのではないか。
そして、それで孫が捕まってしまえば、自分は逮捕を助長したことになるのではないか、と。
口を噤んでいると、彼の心境を察したのか、
ショボーンが歩み寄っては、伊達にちいさく言った。
(´・ω・`)「……伊達さん」
|(●), 、(●)、;|「……」
伊達は応えない。
彼の額に浮かべた脂汗が、頬を伝ってゆく。
(´・ω・`)「我が子が、悪さをしでかした。
. それを叱り、然るべき罰を与えるのも、
. 保護者としてとるべき最善の行動なんですよ」
|(●), 、(●)、|「!」
.
- 545 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:04:29 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「確かに、今回は逮捕される。
. でも、現段階では二人しか殺してないから、死刑は免れるんですよ。
. が、もし一瞬でも遅れ、残り二人のメンバーを殺してしまうと、もう間違いなく死刑です。
. 躾をする意味でも、伊達さんが償うチャンスを得る意味でも、今ここで、伊達さんの口から仰ってください」
|(●), 、(●)、|「………」
|( ), 、( )、|「……………」
伊達は、ショボーンに見えない程度に、涙を一滴流した。
.
- 546 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:05:48 ID:T3EDqDlwO
-
−2−
シベリアでは、豪雪に見舞われていた。
空を切る風の音が響き、雪が斜めに降り注ぐ。
数十分でここまで気象が変わるのも、シベリアでは日常茶飯事だった。
.
- 547 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:08:27 ID:T3EDqDlwO
-
街路樹には、寂しい枝にこれでもかと言う程雪が積もっている。
電灯が照らす辺りにも雪が降り、光が何重にも反射している。
道路では地元の警察官が忙しなく動き回り、除雪機がフル稼動されていた。
除雪しても、一秒後には降り注ぐ雪の上を、乗用車が走る。
それによって溶け、水になった雪はスリップの危険性を残して去る。
慣れた人間でなければ、雪の日に車を走らせるのは至難の業なのだ。
ショボーンたち警察官にとって、このような道路を運転するのは困難極まりなかった。
事故になる可能性が普段に比べて倍以上にも跳ね上がって
おり、
事故を起こせば、それこそ二重の意味において大惨事だ。
ハンドルを握る若手の手は、かなり汗で湿っていた。
ハンドルをきるのが難しいのだ。
だが、それよりも、一刻も早く現場に辿り着かなければならない焦燥に駆られている方が大きかった。
助手席から聞こえる道案内を頼りに、若手はただひたすらにハンドルを捌いていった。
.
- 548 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:10:58 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「あとはまっすぐだ」
( <●><●>)「はい」
ビルが並んでいた景色は見えなくなり、前方に延びる
右に緩やかなカーブを描いた一本道を走っていた。
対向車線からは時々乗用車やバスが見えるが、前を走る車は見えなかった。
左を森で覆われ、右方面には海が見えている。
等間隔で置かれた街灯が、前方に延びる道を淡く照らしていた。
そして、やがてその一本道はYの字の分岐点を迎えた。
右だと言われ、更に走らせること十分、前方に港が見えた。
豪雪により、出港が断念された漁船が錨に繋がれていた。
激しい波が、漁船を大きく揺らしているのがわかる。
すると、後部座席にいた伊達が声を張り上げた。
|(●), 、(●)、|「あッ!」
(´・ω・`)「あの船は……」
港には、ひとつの人影と小さめの船が見えた。
身を乗り出した伊達の荒い鼻息が、煩わしかった。
( <●><●>)「あの船、ですか」
(´・ω・`)「………よかった、間に合ったようだな」
港に浮かぶ高速艇を見て、安堵の息が漏れた。
伊達の言っていた高速艇が、本当にあったのだ。
.
- 549 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:12:49 ID:T3EDqDlwO
-
伊達がつーの職業を問われた時、散々言い渋ったが、最終的には執念に負けた。
空港を繋ぐ高速艇を操っていると聞いたことがある、と言ったのだ。
だが、職場に出向いているのかどうかすら怪しいと言っており、
まして船だ、もしショボーンの推理通りだとすると、つーは船で逃亡を図る事になる。
この凄まじい風と石のような雪という悪天候の中で、果たして本当に高速艇を出すのか。
それが、捜査陣のなかで生まれた不安だった。
生まれた不安はそれだけではない。
つーの所属する会社は、この天候と時刻とが相まって、
高速艇の出港は断念され、引き揚げられているに違いない。
それを、つーが会社の目を盗んで運び出す事ができたのか。
また、それほどのリスクを背負ってまで、船に固執するものか。
一人乗りの競技用のホバークラフトなら、小さいため可能性としては考えられた。
音もこの天候下ではないに等しく、半海里も出せばすっかり人目にはつかなくなる程の視界の悪さだ。
だが、それが高速艇となると、大きさという問題が生まれる。
一海里離れようが、うっすらと影が見える事が懸念されるのだ。
.
- 550 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:14:16 ID:T3EDqDlwO
-
頭のいいつーが、果たしてわざわざ高速艇に固執して逃亡を図るものか。
賛成意見と反対意見に分かれたが、その会議は五分もしないうちに打ち切られた。
たとえ違ったところで、行ってみないと正誤の判断はつかないし、逮捕の機会を永久に失う事になる。
なにもしないで失うよりかは、なにかをして失った方が、皆共通で悔やむ事もないということだった。
間違いなく、あれは高速艇だ。
小型のフェリーのようなこの外装は、悪天候でも視認できた。
伊達が思い詰めた表情をしたが、ショボーンはそれを見ようとしなかった。
拳銃に触れる。
いざとなれば躊躇いなく撃つつもりだった。
ショボーンがここに連れてきたのは、若手と、伊達だけだった。
主犯格が女である以上、伊藤に説得は難しい。
それに、向こうは一人であろうと確信している以上、
大人数で向かうと却ってかさばるのではないか、と思っていた。
若手が居れば、それで充分だったのだ。
.
- 551 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:16:01 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「……おかしいぞ」
( <●><●>)「逃げようとしませんね」
犯罪者の心理的に考えて、逃亡を図る際に近くに人がいると
わかれば、すぐに姿を隠し、やり過ごすというのが一般的だ。
人目に憚らずに逃亡をすれば、間違いなくのちに追っ手がやってきて敢え無く捕まる。
ところが、高速艇とその前に立つ人は、動かなかった。
周囲を警戒していれば、間違いなくショボーンたちの乗る覆面パトカーの存在に気が付く筈なのだ。
路をはずれ、港の手前にまできている。
目を配っていれば、港からは嫌でも車体が目に入る。
ここにきて、二人は再び不安に包まれた。
(´・ω・`)「もしかして……主犯格じゃないのか?」
( <●><●>)「まさか。出航の禁じられている天候下で、高速艇を出す一般人などいません」
(´・ω・`)「とりあえず、ここらで停めろ」
.
- 552 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:18:11 ID:T3EDqDlwO
-
言われるがまま、港の手前で覆面パトカーを停めた。
伊達を車内に残し、若手とショボーンが外にでた。
極寒の大気を、身をもって実感した。
が、寒い事など承知の上での捜査だ。
今更、寒いなどと思う気持ちはなかった。
顔にかかった雪だけを払いながら、ゆっくり歩いていった。
ここはシベリアだ、一般人ならVIP県警の刑事が
なんの用だと思い、アクションは起こさないだろう。
そのため、どちらかと言えば、高速艇に乗り込みすぐさま逃げる体勢をとってほしかった。
( )
(´・ω・`)「ワカッテマス、一瞬の隙も見せるな。確保の事だけを考えろ」
( <●><●>)「艇に乗り込むようなら、どうしますか」
(´・ω・`)「僕が発砲する。脚でも撃てば、嫌でも乗り込めないだろう。
. 足を踏み外し落下しそうなところを、受け止めでもすれば充分だ」
( <●><●>)「はい」
.
- 553 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:19:57 ID:T3EDqDlwO
-
高速艇、そしてその前の人物まで、二十メートルほどに迫った。
数十センチにも積もる雪に足をとられ、歩きにくい。
が、それ以上に気になったのが、高速艇の前に立っている人物に、雪が積もっているのだ。
最初は当然ダミー人形の可能性も考えた。
だが、時折雪を払う仕草が見られたため、その筈はないと考えている。
現に、悴んだ手をポケットに突っ込んだり、息で温めたりしていた。
雪でよく見えないが、白い吐息も口元に見えたような気がした。
(´・ω・`)「(……さすがに、おかしいな)」
もう、十五メートルも迫った。
ここで声をかけるべきかと思ったが、この悪天候に
かき消されると思い、あと数歩、歩み寄るつもりだった。
が、ここにきて、やはり不安がショボーンを襲った。
一般人でも犯罪者でも、必ず他人の存在に気づく距離である。
それなのに、高速艇の前に立つ人物は、振り向きも背を見せもせず、無反応だったのだ。
.
- 554 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:21:07 ID:T3EDqDlwO
-
見上げるように、船首に目を遣っている。
白い船体が雪で映え、群青の船底は黒い海と月明かりのない夜で一層澱み暗くなっている。
間違いない、これはつーが日頃乗るであろう高速艇だ。
なのに、未だにアクションをとらないのは、犯罪者としてもどうか、と思った。
自然と、十メートルに迫る前に足が止まった。
数歩足を進めてから、それに気づいた若手も止まった。
( <●><●>)「呼びかけますか?」
(´・ω・`)「……待て。不安になってきた」
( <●><●>)「どうしたのですか、急に」
悪天候と夜の暗さに助長され、ショボーンの顔色は窺えなかった。
だが、数度首を傾げ、視認できない程度に顔を歪めているであろうことは空気で伝わってきた。
(´・ω・`)「罠かもしれない、って思ってね」
.
- 555 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:23:46 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「さすがにそれは……。
それに、ここで彼女が我々のどちらかに発砲などしてきても、
片方で撃ち返して確保すれば、それで終了なのはわかっている筈です」
(´・ω・`)「なんか、なにかが引っかかるんだよ」
かき消されそうな程に小さな声で、やりとりを交わしていた。
この声が、目の前のいる人物に届くことはないと思っていても、不安だった。
(´・ω・`)「僕の推理のなかで、推理を急かしすぎたせいで
. 肝心ななにかを飛ばしていたような――そんな、不安だ」
( <●><●>)「考えすぎです。おそらく、彼女も年貢の納め時だ、と思い感傷に耽っているのでしょう。
たまには、そんな情の深い犯人もいますよ。とにかく、一応声だけはかけてみましょう」
(´・ω・`)「………」
数歩前に出て、若手はその人物をみた。
こちらをちらりと見ようともしないが、襟から横目を覗かせているのはわかった。
深くかぶった帽子に立てた襟で、顔は疎か髪型すら視認できない。
若手は、その人物に向かって、一際大きな声を発した。
.
- 556 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:24:55 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「そこの人、なにをやっているのですか」
若手の持ち味の一つ、よく通る大きな声で呼びかけてみた。
警察官として、何らおかしくない行動である。
別段、怪しまれる必要はないだろうと思っていた。
だが、目の前の人物は反応しない。
( )
( <●><●>)「寒いですから、早く自宅に帰――」
そんな時だ。
ショボーンが、高速艇から覗かせていた黒光りする銃口に気づいたのは。
.
- 557 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:26:05 ID:T3EDqDlwO
-
−3−
(;´・ω・`)「ッ!」
( <○><○>)「ッ!!」
叫ぼうとした時には既に遅かった。
ショボーンが叫ぶ前に、若手に向けられていた銃口が光り、直線上に立っていた若手を襲ったのだ。
.
- 558 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:28:05 ID:T3EDqDlwO
-
左肩から血飛沫が小さく跳んだのがわかった。
同時に、目の前の、先程までアクションをとらなかったあの人物が、若手に襲いかかってきた。
右手に、予めナイフを握っていたようで、それを突き立ててきた。
間一髪でそのナイフを握る手を押さえたが、肩に激痛が走った。
弾丸が骨に埋まったのだろう。左手には力が入らなかった。
右手だけで抑えるも、両手でナイフを握るその人物には適わず、徐々に押されていくのが見てわかった。
(; < ><●>)「……くッ」
ナイフが、徐々に腹の方に近づいている。
こうしているうちに、先程自分を撃った銃が、二発目を撃ってくる事だろう。
また、ナイフを一旦引き、バランスを崩させた所を狙ってくるかもしれない。
無心でナイフを握る手を掴み、押さえていた。
.
- 559 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:31:04 ID:T3EDqDlwO
-
もうだめか、そう思った瞬間だった。
ショボーンが拳銃を握り、大声を発していた。
(´・ω・`)「止まれ。止まらないと、伊達つーを撃つぞ」
( )
ショボーンの握る拳銃の銃口は、若手に襲いかかっている者にではなく、高速艇の上に向けられていた。
例の銃口が若手の方に向いているが、銃身が長い。
これはライフルだとショボーンは判断していた。
そのため、二発はすぐには飛んでこないと思ったショボーンが、高速艇に乗り込んでいたのだ。
若手に手を貸していると、その隙に再び発砲される。
若手の護身の強さに託した、一種の賭けだった。
高速艇に足をかけ、拳銃をライフルの持ち主に
向けているのが、若手にも若手を襲う人にもしっかりと視認できた。
そのためか、若手と組み合っていた者の動きはぴたりと止まった。
その隙に、若手がここぞとばかりにその人を押し倒した。
ナイフを海に投げ捨て、自らの体躯で上からその人を押さえ込んだ。
.
- 560 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:32:49 ID:T3EDqDlwO
-
瞬間、その人のかぶっていた帽子が飛んでいった。
顔を見て、若手は少しばかり驚いた。
(;l v l)「……ッ」
( <●><●>)「あなたは、確か……!」
若手が驚いたのは、二つの理由だ。
一つは、ナイフを持ち自分を襲ったのは、てっきり伊達つーと思っていたのだ。
それが、伊達つーがいたのはこの港ではなく高速艇の上だった、ということだ。
ライフルを放ったのは別の誰かだ、程度に思っていた。
もう一つが、ナイフを持ち襲いかかってきた人物に、見覚えがあったのだ。
誘拐犯グループのメンバーの一人、ホテル「ひるがさき」のボーイだった。
そのことが、なによりも意外だった。
彼はてっきり殺されたものだ、とばかり思っていた。
だが、驚いたとは言え、ボーイを押さえる力に変化は見られなかった。
自分が窮地に立たされている時ほど、冷静になり集中力が増す男なのだ。
もし暴れなど抵抗にでたら、ひたすら頭突きをかますつもりでいた。
.
- 561 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:34:27 ID:T3EDqDlwO
-
高速艇に足をかけていたショボーンが、乗りあがった。
銃口を逸らさず、引き金に指をかけたまま、ゆっくり歩み寄っていった。
高速艇からライフルで若手を撃ったのは、やはり、伊達つーだった。
ちいさな体躯と茶髪のセミロングヘアー、そして不遜な態度を
見せる顔が、嘗て見せられた写真と同一人物であると認識させた。
(´・ω・`)「ようやくお会いできましたね……伊達つー」
(*゚∀゚)「………」
体躯を伏せており、ライフルを抱え銃口を覗かせたままの姿勢だが、動きは見せなかった。
明らかに、銃身の大きなライフルよりも、片手で操作できる拳銃のほうが速い。
下手に動くと却って危ういと、つーもわかっているのだ。
つーは、じろっと視線だけをショボーンに寄越したが、言葉は発しなかった。
- 562 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:36:14 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「罪状は様々にあるが……手錠を掛けさせていただこうか」
(*゚∀゚)「……断る、と言ったら?」
はじめて、つーは口を切った。
まだ高校生くらいにとれる、若々しくて愛らしい声だった。
そんな彼女がライフルを抱えている姿は、極めて異常に思えた。
(´・ω・`)「情勢的に見て、そんな猶予はない筈だ」
依然銃口を向けたまま、ショボーンは言った。
荒ぶる気候とは対照的に、非常に静かな会話だった。
(*゚∀゚)「私は、死ぬ事には恐れを抱いていない」
(´・ω・`)「僕は君を殺さない。手を撃ち、ライフルを封じるまでだ」
ショボーンの拳銃を握る手に、力が籠められた。
僅かな変化だったが、つーはそれを視認できたようだ。
だが顔色は変わっていない。
(*゚∀゚)「四肢を封じられれば、舌を噛み切って死ぬ。自決のいろはなど、既に学んでいる」
つーの眼を見る限り、嘘を吐いている様子ではなかった。
本気で、死に対する恐怖を持ち合わせていないようだった。
.
- 563 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:37:25 ID:T3EDqDlwO
-
だが、ショボーンがそれを聞いて考えを改めるつもりも毛頭なかった。
(´・ω・`)「まずライフルを捨てろ。聞かない場合は――」
(;l v l)「いててッ! ……ぁあああああッ!!」
ショボーンが言うと、まるで打ち合わせでもしたかのように若手が動いた。
手首を捻り、本来曲がらないであろう方向に曲げようとしていた。
それに合わせ、ボーイは悲鳴をあげた。
つーは、舌打ちもせず顔色も変えなかったが、素直に言うことに従った。
ライフルを落とすように海に捨て、手を挙げて立ち上がった。
それを確認したショボーンは、右手で拳銃を向けたまま、左手で手錠に触れた。
(´・ω・`)「よけいな動きはするなよ」
(*゚∀゚)「……」
二つの輪が鎖で繋がれた手錠を取り出した。
だが、ショボーンは気を抜けなかった。
.
- 564 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:38:50 ID:T3EDqDlwO
-
靴の先に針を仕込み、蹴ってくるかもしれない。
手錠を片手にかけた瞬間、もう片手で襲ってくるかもしれない。
そうした場合はすぐに発砲するつもりだが、それでも不安を拭う方が難しかった。
距離が三メートルになった。
アクションを起こすには微妙な間合いのため、つーが何かを 企んでいたとしても、それを行動に移す事はできない。
その間合いで、ショボーンは説得を試みる事に決めていた。
諦めて、自ら手首を差し出してくれるのが一番だからである。
(´・ω・`)「聞かせてくれないか。
. どうして、金に不自由しないのに狂言誘拐にでたのか」
ショボーンとしても、一番の謎はその一点だった。
動機がないのは、伊達の言う通りだった。
逮捕するにしても、その点だけは把握しておきたかったのだ。
.
- 565 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:41:34 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「……当初、金を四億要求した意味がわかるか?」
(´・ω・`)「四回に分ける事で、最後の一回で逃亡を狙えるようにするためだろう?」
銃口はやはりつーに向けたままで、言った。
すると、標的は首を横に振った。
(*゚∀゚)「あの四億は、退職金だよ」
(´・ω・`)「……意味がわからんな」
今度は、ショボーンが首を傾げた。
退職金と言われ、いまいちぴんとこなかったのだ。
(*゚∀゚)「ジジィの会社を、理不尽な理由で無理矢理馘にされた四人に配る、退職金だよ」
(*゚∀゚)「経営不振か知らんが、ジジィは金を持っている癖に、経営が傾いていっても
自分の金には触れず、あくまで人件費や空調に費やす金をけちった。
可哀想に、そこにいるむねおも、満足に退職金も貰えず馘になったんだ」
そういって、港で若手に押さえ込まれているボーイに目を遣った。
ボーイは困り顔のまま、つーに視線を返した。
.
- 566 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:43:23 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「それに――本当は、四億全部いただくつもりだったんだよ」
(´・ω・`)「……! 初耳だな……」
ショボーンは、捜査陣に「四度目の受け渡し」に希望を託している隙に
こっそり逃亡を図る作戦ではなかったのか、と思っていたのだ。
それが違うとされ、ショボーンは少し眉を顰めた。
なぜ四度目の受け渡しを臨まなかったのか。
ショボーンにとっては皮肉だが、このつーなら、
あと一度くらいは捜査陣から身代金を奪取するなどできたと思われる。
それをせず、なぜ逃亡を図ったのかがわからなかった。
三億よりかは、四億のほうが当然だが分け前も多く、またきれいに分割できる。
途中から、逃亡を狙った方が成功確率が高いと思い直したのだろうか。
考えていると、つーの方から口を切った。
.
- 567 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:46:16 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「私は莫大な金には興味がない。
生きていくための金と少しばかしの遊ぶ金があれば、充分だ。
大金は人を変える」
(´・ω・`)「随分と、頭がいいんだな」
(*゚∀゚)「ジジィみたいに金に目が眩んでるとな、
人生が腐るんだって、ガキの頃から知っていた」
(´・ω・`)「それなのに、次々とメンバーを殺していったじゃないか。
. 身代金の独り占めが目的でなかったのなら、なぜ仲間割れをしたんだ」
すると、つーは笑った。
(*゚∀゚)「さあ、なんでだろうね」
(´・ω・`)「答えろ。署で言うよりかは、ここで言う方が楽だろ」
(*゚∀゚)「私が逮捕される、って思ってんの?」
(´・ω・`)「……ッ……」
この時、はじめてつーの顔に悪人という色が浮かんだ。
悪魔のような薄ら笑いに、細めた目と上がった右の口角。
ショボーンに警戒心と緊張感が沸き上がってきた。
なにか、アクションを起こす。
直感的に、そう察したのだ。
.
- 568 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:47:56 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「今、ここにいる刑事は二人だ。
. だが、時間がかかれば、新しく刑事がここに来るんだぞ」
ショボーンははったりをかました。
本当は、若手とショボーンしか刑事はいないし、誰も来ない。
ああ言うことで、多少は脅しにならないか、と思ったのだ。
だが、更につーは笑った。
今度は、この悪天候下でも聞こえる大きさの笑いだった。
(*゚∀゚)「それなら、こっちの方が早いな」
(´・ω・`)「早い……? なんの話だ」
(*゚∀゚)「あんたらが乗ってきた車、見てみろよ」
(´・ω・`)「?」
言っている意味がわからなかったので、言われるがままにそちらに視線を遣った。
自分たちが乗ってきた覆面パトカーで、伊達を残してきている。
視線がその覆面パトカーに向かう道中で、視線が止まった。
瞬間、ショボーンは背中に冷たいものを感じた。
.
- 569 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:49:22 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「ホテルには、このむねおともう一人、いたよな?」
それを聞いた瞬間、ショボーンは全身に鳥肌が立った。
言われるまで、考えてもみなかった。
ここにいるのは、ボーイとつーだけだ、と思っていた。
だが、思い返せば、ボーイは単身ではなかった。
受付嬢が、一緒にいたのだ。
彡 l v lミ「………」
|(●), 、(●)、;|「ぐッ……」
(;´・ω・`)「伊達さん!」
乗ってきた覆面パトカーの方から、あの受付嬢が歩いてきていた。
彼女が連れている人物を見て、顔が真っ青になった。
その人物とは、こめかみに銃口を向けられた伊達である。
.
- 570 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:50:22 ID:T3EDqDlwO
-
−4−
迂闊だった。
ショボーンは、当初ここにはつーしかいないものだと思っていた。
今までの例に従って、受付嬢とボーイも殺害したのだろう、そう見積もっていた。
だから東風も連れてこなかったし、応援なんて用意していなかった。
.
- 571 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:52:00 ID:T3EDqDlwO
-
用心すべきだったのだ。
最初に罠かもしれないと疑った時点で、自分の推理を信じて歩みを止めておけばよかった。
現状を若手と共に検討し、罠である可能性が高いと見れば応援を呼ぶ。
保険をかけておくのを、ショボーンは忘れていた。
相手は、三度も県警の精鋭を出し抜き、二人を躊躇いなく殺した凶悪犯なのだ。
一筋縄でいかないのは知っていた。
必ずどこかに罠があると、心の隅ではわかっていた。
だが、伊達が人質にとられる事は想定していなかった。
誘拐犯グループは、伊達に恨みを持つ者同士で組まれているのだ。
伊達に護衛をつけるのは、必然だった。
なぜそれを怠ったのか、ショボーンは自責の念に駆られていた。
(*゚∀゚)「すずを見なよ。ジジィを殺したくてウズウズしてんのがわかるだろ?」
(;´・ω・`)「………貴様……ッ」
.
- 572 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:53:57 ID:T3EDqDlwO
-
伊達に恨みを持つグループだからこそ、その可能性は大いにあり得た。
寧ろ、最終的に伊達を殺す計画を立てていたって不思議ではない。
受付嬢の顔を見ても、曇りは窺えなかった。
こめかみに、ぴったりと銃を突きつけている。
一寸の隙間もない。
この状態で撃てば、間違いなく伊達は絶命する。
(*゚∀゚)「そこの刑事をどかせろ」
( <●><●>)「……」
依然ボーイを押さえていた若手に指をさして、言った。
当然、従わなかったら伊達を射殺するつもりだろう。
向こうにとっては、伊達を殺そうが殺さまいが、情勢に変化は生じない。
従うしか、なかった。
若手は背中を沿って立ち上がり、数歩後ろに下がった。
コートに積もった雪を払って、眉間に罅をつくりながらボーイを睨んだ。
ボーイは慌てて受付嬢の下に駆けて、同じく雪を払った。
(*゚∀゚)「銃を捨てろ。そこの刑事もだ」
(´・ω・`)「…………」
.
- 573 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:55:27 ID:T3EDqDlwO
-
先程までつーに向けていた拳銃を睨んで、言った。
最初は顔色には表さず胸中にて戸惑ったが、選択肢など無かった。
腕の力を抜き、手を下ろしてから、海に拳銃を投げ捨てた。
自棄になったような動作で、力なく。
それを見た若手も、拳銃を取り出しては海に捨てた。
隙を突いて受付嬢を撃てない事はなかったが、受付嬢は
間違いなくその動作に反応して、反射的に引き金を引くだろう。
人命には替えられなかった。
刑事に銃が無くなったのを見て、つーは挙げていた手を下ろした。
不遜な態度をとって、にんまりと靨をつくった。
そして、背後に手を回した。
ショボーンは嫌な予感がした。
.
- 574 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 22:56:29 ID:klguzVUoO
- 支援
犯人は判明したけどここからいろいろあるわけね
- 575 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:57:07 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「形勢逆転、だな」
予め装備していたようで、つーは背中から包丁を取り出した。
銃刀法で規制されない長さのもので、家庭用のものだとわかった。
だが、なぜかショボーンにとっては、つーには
ライフルなんかよりも包丁の方がしっくりきているように思えた。
それほど、自然に握り、自然な構えをとっているのだ。
間違いなく、ナイフ等短刀を用いた剣術は得手だ。
咄嗟に、ショボーンはそう思った。
つーは、じりじりと歩み寄ってきた。
隙を見せない歩き方を身につけている。
(*゚∀゚)「私たちは逃走を図る」
(´・ω・`)「そうか」
(*゚∀゚)「私は、ここであんたに致命傷を与える。
が、殺しはしない」
(´・ω・`)「ほう」
.
- 576 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:58:39 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「ゲームだ。私たちは海外へ飛ぶが、
それを果たして逮捕できるかどうかの、な」
(´・ω・`)「随分と馬鹿げたゲームだな」
(*゚∀゚)「時効が成立しない事はわかっている。
だが、私たちはもうこの国へは戻ってこない。
私たちが逃げ切る前に逮捕できなかったら、それは今生の別れを意味するぞ」
(´・ω・`)「……」
尚も、つーは歩みを続けている。
三メートル程に入った。
二メートルになれば、飛びかかって、包丁でショボーンの身体を引き裂くつもりだろう。
当然、ショボーンも警察官だから格闘のいろはを学んでいるが、以前に、学生時代では柔道も鍛錬してきた。
その経験もあり、犯人との取っ組み合いでは主立った負傷は得たことがない。
.
- 577 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 22:59:50 ID:T3EDqDlwO
-
だが。
(´・ω・`)「(……はじめて致命傷を得るかもな……)」
ショボーンは、弱気になっていた。
つーの動きが慣れているからではない。
向こうには、伊達という最強の人質がいるからだ。
ショボーンが抗う事によって、伊達の命に危機が迫るのではないか。
そう思うと、自然と頬に筋をつくりながら汗が垂れていった。
(*゚∀゚)「腹を裂こうか、脚を抉ろうか」
二人の距離が、二メートルになった。
.
- 578 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:00:56 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「決めた」
(´・ω・`)「ッ!」
最後の一歩が踏み出されて、ショボーンは咄嗟に跳んで後退した。
相手が突きだした包丁を見てからでないと、つーを押さえるのは困難だと思ったのだ。
ところが、つーは予想外の行動にでた。
(*゚∀゚)「顔!」
最後の一歩を踏み出した瞬間、迷いなく持っていた包丁をショボーン目掛けて投げつけたのだ。
的確に、ショボーンの眉間を狙っていた。
ノーモーションから包丁を投げられ、ショボーンは一瞬反応が遅れた。
反射的に膝から力を抜き、後方に倒れた。
甲板に後頭部をぶつけながらみた光景は、自分の残像を包丁が突き抜けたものだった。
.
- 579 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:02:59 ID:T3EDqDlwO
-
つーはそれすらをも見透かしていたようで、投げた直後に
二本目の包丁を右の逆手で持ち、倒れ込むショボーン目掛けて突進した。
逆手のまま左に振り払おうとしている。
ショボーンは掌を甲板につけ左に転がり、つーから距離をとるのを優先させた。
転がりながら片足を甲板につけ、立ち上がる。
すると、彼女は右手を包丁から離し、包丁を滑らせるように投げた。
まるで、最初からショボーンが左に避けるとわかっていたかのように。
避けては間に合わないと思い、左手で顔面を覆った。
瞬間、左上膊の丁度真ん中を包丁が通り抜けた。
包丁は骨まで到達こそしなかったが、血飛沫が散った。
咄嗟に包丁を払いのけると、目の前に三本目の包丁を構えたつーがやってきていた。
.
- 580 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:04:33 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「腹――」
(#´・ω・`)「ふんッ!」
(*゚∀゚)「!」
つーは、ショボーンの腹部に包丁を突き立てようとした。
避けるであろうと思っていたつーだが、数秒経っても
目の前から消えないショボーンに、違和感を覚えた。
その次の瞬間に、つーは仰天した。
(; <●><●>)「警部!」
(*゚∀゚)「あ……あんた、正気か?」
顔色には表さないが、つーの声が一瞬震えた。
包丁を突きだしたつーだが、ショボーンはそれを避けようとはしなかった。
お望み通り、自らの腹でつーの凶刃を出迎えたのだ。
包丁がやや深めに刺さり、血が少し飛び出した。
この状況で包丁を抜けば、多量失血に加えこの気温のせいで、間違いなくショボーンは危篤に曝される。
それを承知で、この男は凶刃を迎え入れたのか。
つーが動揺するには、充分すぎる事態だった。
.
- 581 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:06:05 ID:T3EDqDlwO
-
そして、顔面に脂汗を浮かべるショボーンが、ちいさくつぶやいた。
(;´・ω・`)「……捕まえたぞ……!」
(*゚∀゚)「!」
包丁でショボーンを負傷させた以上、つーは目の前にいる。
包丁を突き立てた場合、間違いなくつーは一瞬身動きがとれないのだ。
その瞬間を好機ととり、敢えてショボーンは刺される事を妥協した。
痛みのする左腕でつーの身体を押さえ、嘗ての若手のように体躯を用いてつーにのし掛かった。
抜け出そうにも抜け出せないつーの左手に、強引に手錠をかけた。
(*゚∀゚)「……ッ」
つーの左手首が拘束されたのを見て、ショボーンは勝った、と思った。
(´・ω・`)「……僕の勝ちだ」
つーを押さえる左腕が悲鳴を上げる。
それを無理矢理抑え、つーの右手にも手錠を向けた。
.
- 582 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:07:44 ID:T3EDqDlwO
-
(* ∀ )「すず、ジジィを撃て!」
(;´・ω・`)「ッ!!」
直後、銃声が鳴った。
.
- 583 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:08:26 ID:T3EDqDlwO
-
−5−
(;´゚ω゚`)
つーが叫んだ直後に鳴った銃声で、ショボーンは失意に見舞われた。
一瞬時が止まった気がして、全身から血の気がひいた。
体感時間のストップウォッチが停止され、聴覚が機能しなくなった。
.
- 584 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:10:06 ID:T3EDqDlwO
-
この場面で、伊達を撃つとは思えなかったのだ。
つーがゲームに敗れたのを見て、若手が咄嗟に受付嬢に飛びかかったことだろう。
受付嬢とボーイも、つーとショボーンの戦いを見ていた。
後ろから忍び寄れば、救出は不可能ではない。
易くもない事は承知だが、若手はそれをもやってのける男だ。
そして、急に指示され、即座に発砲できるほどの肝っ玉が受付嬢にあると思えなかった。
だが、ショボーンの意識が追いつくよりも早くに、銃声が鳴ってしまった。
生まれてはじめて、誘拐事件で人質を殺された。
それも、ショボーンの知人であり被害者でもある伊達を、だ。
(* ∀ )「勝っ………た……」
銃声を聞き、つーは安心したのか、急にうなだれた。
力が籠められておらず、生気がまるで感じられない。
豪雪を交えた暴風に長らく当たっていたため、体力も無いに等しかったのだろう。
つーとは真逆の感情のままで、ショボーンもがくっとうなだれた。
.
- 585 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:10:49 ID:T3EDqDlwO
-
少しして、受付嬢が倒れた。
その後に、聞き慣れた渋い声が、ショボーンの耳にやってきた。
( ゚д゚)「警察を出し抜ける、なんて思うなよ」
.
- 586 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:12:16 ID:T3EDqDlwO
-
白髪混じりの刑事が、煙をあげる拳銃をもってその場に立っていた。
両手で握られた拳銃は、この天候下でもぶれる事なく、宙で停止している。
(; <●><●>)「ミルナさん!」
(;*゚∀゚)「………なんだと!?」
若手、そして東風の声を聞いて、ショボーンは立ち上がった。
そして、その目に飛び込んできた光景は、ショボーンの想像していたものと真逆だった。
受付嬢が右手を押さえて倒れ込んでいた。
積もった純白の雪が、鮮血で汚されている。
伊達は彼女の近くで尻餅をついており、あたふたしている。
そして、ボーイは撃たれた受付嬢を見て、パニックに陥っていた。
.
- 587 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:14:00 ID:T3EDqDlwO
-
彡;l v lミ「あああ……あああぁ……っ」
(;*゚∀゚)「すず!」
受付嬢の姿を見て、つーは高速艇から身を乗り出した。
手錠で繋がれているため飛び降りるのは無理だが、乗り出す事はできた。
声をかけるが、受付嬢は呻き声をあげたまま、返そうとしない。
そして、伊達はなにが起こったのかを漸く理解したようで、悲鳴をあげながら逃げ去ろうとした。
東風や若手、ショボーンの目には勿論、それはつーにも窺えた。
それを視認したつーは右手を後ろに回し、四本目となる包丁を取り出した。
|( ), 、( )、;|「うわあああああッ!!」
(*゚∀゚)「逃がすか!」
(;´・ω・`)「ま、待て!」
慣れた手つきで包丁を投げ飛ばした。
ショボーンがそれを阻止できなかったのは、
ショボーンの動きよりも圧倒的に素早くつーが動いたからだ。
まるで野球ボールでも投げたかのように、包丁の軌道は一直線に伸びる。
背を向ける伊達の首筋に、刃先は向けられていた。
.
- 588 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:15:31 ID:T3EDqDlwO
-
(;´・ω・`)「伊達さ―――」
( ゚д゚)「伏せろ!」
|(●), 、(●)、;|「っ!?」
ショボーンが声を出すよりもはやく、東風が伊達に言った。
訳も分からずに伊達は伏せた。いや、頭から雪に向かって飛び込んだ。
伊達の姿勢は低くなったが、徐々に放物線を描き始めている包丁は、伊達の背中に向かっていた。
それに狙いを定め、東風は発砲した。
硬い金属音が、皆の耳に突き刺さった。
速度を殺された包丁は、回転しながら近くに落ちた。
包丁、銃声、そして孫が自分を狙った事に、伊達は
いよいよ恐怖を感じ、腹這いで喚きながら身体を震わせた。
顎をがたがたと震わせ、顔は青ざめている。
(*゚∀゚)「チッ……」
つーは、東風の機転が働き助かった伊達を見て、またも背後に手を伸ばした。
まだ、包丁を隠しているとでも言うのか。
さすがの東風も周章を感じた時だった。
.
- 589 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:16:08 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「自ら後ろ手錠を望むのか」
(*゚∀゚)
後ろに回った右手に、ショボーンはすかさず手錠の空きを突きつけた。
手錠の存在を忘れていたのか、呆気なく背後で鎖に繋がれるつーの手首が見られた。
掴もうとした五本目の包丁は、甲板の上に音を立てて落とされた。
.
- 590 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:17:19 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)
後ろ手錠をかけられたつーは、暫く唖然としていた。
手を縛られるという経験がないが故の動揺か、
まさか自分が逮捕されるとは、という過信によるショックか。
とにかく、ただ呆然と立ち尽くし、鎖の音を少し鳴らした。
手に自由がない。
なるべく用意してあった包丁の予備を、ショボーンが調べてすぐに甲板の上に放り投げられた。
今までに使ったもの、ショボーンの腹に刺さっている分も合わせて八本発見された。
(´・ω・`)「よくこんなに持ってきたな」
(*゚∀゚)「……」
.
- 591 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:18:42 ID:T3EDqDlwO
-
高速艇にあがってきた東風が、なによりもまず真っ先にショボーンの腹について問うた。
顔を真っ青にした東風を前に、ショボーンもそろそろ顔が蒼くなってきた。
致命傷になり得る程深くは刺さってないのが幸いしたが、それでも大怪我には変わりない。
東風は若手に救急車とパトカーの要請を指示した。
(;゚д゚)「イツワリさん、大丈夫なのですか!」
(´・ω・`)「ちょっと……まずいかもね……」
比喩ではなく、事実としてショボーンの顔から血の気がひいていた。
滴り落ちてゆく血、腹から伝わる激痛にはじっと耐えていたが、
この氷点下の気温と風が、確実にショボーンから体温と体力を奪っていった。
この時、普段この男が言う冗談とは違い、本気でショボーンはそう思っていた。
.
- 592 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:19:55 ID:T3EDqDlwO
-
つーに手錠をかける事ができたが故の安堵が、ショボーンの足取りによろめきを与えているような気がした。
今までは、緊張感が身体を縛っていたからこそ、減りゆく体力や襲いかかる睡魔にも勝てたが、
それが解けた瞬間に、目に見えてショボーンから体力が消え去っていったのだ。
東風が心配しない筈がなかった。
東風は、灰色のコートを脱ぎ、ショボーンに被せた。
大して防寒性のないコートだが、無いよりかはましだろうと思ったのだ。
(´・ω・`)「つー」
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「……なに」
やはり不遜な態度を見せつつ、つーは返事した。
つーの前に、ショボーンも胡座を掻いて座った。
ショボーンは時折吐血をするが、つーは気にしてなかった。
.
- 593 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:21:25 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「下の二人も観念した。直にパトカーも到着する」
(´・ω・`)「あんたの計画は、終わったんだよ」
(*゚∀゚)「……」
つーは反応を見せない。
だが、ショボーンはそれが普通と思って、話を続けた。
(´・ω・`)「詳しくは向こうで聞くが……二点だけ、どうしても教えてほしいんだ」
(*゚∀゚)「……」
(´・ω・`)「一つ目。どうして、狂言誘拐なんかした」
(*゚∀゚)「……リストラ組に――」
(´・ω・`)「君自身の動機だ」
(*゚∀゚)「!」
ショボーンは、つーの言うリストラ組云々と言った話はどうでもよかった。
つーが狂言誘拐に臨む動機としては成り立っていないからだ。
それだと、つーはただ手を貸しただけとなる。
手を貸しただけで、殺人を犯すなど考えられない。
どうしても、彼女自身にも別の動機がある、そう思っているのだ。
.
- 594 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:22:22 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「君もまた、伊達さんに対して何らかの恨みはあったはずだろ」
(*゚∀゚)「……」
(*゚∀゚)「………知りたいか?」
(´・ω・`)「ああ」
ショボーンは即答した。
その速さに、つーは遂に観念した。
(*゚∀゚)「いいだろう。もう、全てが終わったんだ」
(´・ω・`)「……」
(*゚∀゚)「私の動機? 簡単だ、復讐だよ」
(*゚∀゚)「ジジィの―――いや」
(* ∀ )「――親父に対する、復讐だよ」
.
- 595 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:23:25 ID:T3EDqDlwO
-
つーの、苦痛をかみ殺した上で放たれた小さな声を、ショボーンは聞き逃さなかった。
最初は、自身の聞き違いかと思った。
だが、この近距離で聞き違える筈がない。
ショボーンは二重の意味で顔が蒼くなった。
察したのか、通報を終えた若手が伊達を連れてきた。
若手としては、警察と救急車の到着までの間に、話をさせるつもりだったのだろうか。
それでも、ショボーンにとっては都合がよかった。
|(●), 、(●)、|「つー……」
(*゚∀゚)「近づくな」
|(●), 、(●)、|「……」
近寄ろうとする伊達に一声、辛辣なものをかけた。
伊達も慣れており、言われてすぐ止まった。
伊達と若手もショボーンの隣にやってきて、つーは眼の色が変わった。
.
- 596 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:24:40 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「刑事さん」
(´・ω・`)「僕かい」
(*゚∀゚)「警察の者であるあんたなら、わかるであろう質問をするよ」
まどろっこしい物の言い方だな、と思った。
だが、思っただけで、口にも顔にも出さなかった。
(*゚∀゚)「とある夫婦のもとに生まれた息子、そこに嫁いでくる女がいるとする。
ここで、息子の父親と嫁いでくる女の関係はなんだ?」
(´・ω・`)「正式に籍を入れたなら、義理の親子関係となる」
(*゚∀゚)「じゃあ、その二人が男女の関係を持つことを、なんという?」
つーがこの質問をした瞬間、伊達の顔がみるみる蒼くなった。
だが、つー以外の誰もがそれには気づかなかった。
伊達の顔など、見てないのだ。
ショボーンは少し動揺したが、落ち着いて答えた。
(´・ω・`)「いろいろと問題はあるが―――近親相姦だ」
(*゚∀゚)「さすがだね。それの復讐だよ」
(´・ω・`)「……」
(;´・ω・`)「……!」
.
- 597 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:26:02 ID:T3EDqDlwO
-
落ち着きを保っていたショボーンだが、急に顔をしかめた。
先程のあの言葉は、やはり聞き違いでなかったのか。
色々、問いたい事があった。
だが、それよりも前につーが重い口を切った。
(* ∀ )「私のおばあちゃんの血液型がAB型で、親父はB型なんだよ」
(;´・ω・`)「―――ッ!」
この時、ショボーンは、伊達クールの血液型がAB型である事を思い出していた。
|(●), 、(●)、;|「つー、お前は――」
( ゚д゚)「黙ってもらおう。取調の一環なのでね」
|(●), 、(●)、;|「……」
.
- 598 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:29:18 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「それがどうしたと言うのでしょうか」
(;´・ω・`)「……」
(;´・ω・`)「血液型には、A型という括りの更に深いところに、遺伝子がある。
. 優性の法則だ、学生の頃に習っただろ」
( <●><●>)「はあ」
(;´・ω・`)「伊達さんが、AB型。同じくAB型の女性と結婚し、B型の息子さんを産んだ。
. これの意味するところが、わかるか?」
( <●><●>)「あまりわかりません」
若手は、そんな学生の頃の無駄知識など忘れていた。
大学に合格するために知識を詰め込んだだけにすぎないのだ。
仕方がない事なので、ショボーンが補足説明をしようとした。
それより前に、つーが高い声を張り上げた。
(* ∀ )「A型の私は、産まれないんだよ!」
( <●><●>)「!」
言われてすぐ、若手は気が付いた。
AB型同士の間で産まれたB型の子がいたとする。
その人が産む子供は、決まってAB型かB型のみなのだ。
それを理解し、若手も絶句した。
.
- 599 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:31:34 ID:T3EDqDlwO
-
(* ∀ )「私の母に手を出したんだ、この糞ジジィは!」
(* ∀ )「私の本当の父は、親父じゃなくてこのジジィなんだよ!」
(* ∀ )「わかるか!? 祖父として引き取られ、ある日その事を知ったときの、
奈落の底に突き落とされたかのような私のショックが!」
(* ∀ )「毎日を複雑な心境で過ごして!
親父とは本当は兄弟で!
日々を劣等感を抱いて過ごしてきた、私の苦痛が!」
(* ∀ )「許されざる関係のもとつくられた、許されざる存在が、ほかの誰でもない、私なんだ!」
(* ∀ )「そ、そんな! 私の気持ちが!」
(*;∀;)「わかるのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッぁあ!!」
.
- 600 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:32:52 ID:T3EDqDlwO
-
つーは、目から大粒の涙を、雪にも負けない程に流した。
顔をくしゃくしゃに歪めて、そのまま甲板に突っ伏した。
肩を震わせ、かなり大きく嗚咽を漏らしている。
鼻水を啜る音、止まない嗚咽に混じって、泣き声を未だに漏らす。
胸底に溜まっていた澱みを、彼女は全て吐き出した。
それらを全て汲み取って見て、ショボーンは居た堪れない気持ちになった。
胸に五寸釘を刺されたかのように、胸が痛んだ。
未だに血を流す腹よりも、胸の方が痛みが強いように思えた。
(´・ω・`)「……」
ショボーンが黙っていると、遠くの方から二種類のサイレンが聞こえてきた。
同時に、赤いランプもぼんやりと視認する事ができた。
漸くパトカーと救急車が到着したとわかり、若手はショボーンを見て、その事を言った。
ショボーンはぼうっとしていた。
.
- 601 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:33:48 ID:T3EDqDlwO
-
( <●><●>)「きましたよ、シベリア県警と救急車が」
(´・ω・`)「……伊達さんを連れて、ぎょろ目と
. ワカッテマスは先にシベリア県警と落ち合ってくれ」
( <●><●>)「警部の怪我を見てそんな事はできません」
(´・ω・`)「なに、ちょっとつーちゃんとお話するだけさ」
(*;∀;)「…………ッ……っ…!」
.
- 602 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:35:11 ID:T3EDqDlwO
-
−6−
嗚咽はまだ止まない。
目元をひどく濡らしている。
つーは、限りのない苦痛の窮地へと立たされているのだ。
ショボーンは、警察官としてより、一人の人間として、つーと二人きりで話をしたかった。
腹の傷はどんどんひどくなっている。
正直、意識も朦朧としつつあった。
この気温がまずかった。
だが、署でも病院でもなく、あくまでここで話をしておきたかったのだ。
担架をここまで持ってくるよう伝えろと指示し、若手も高速艇から降りさせた。
伊達は東風に引っ張られ、呆然としたまま高速艇を降りていった。
.
- 603 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:36:39 ID:T3EDqDlwO
-
(´・ω・`)「つーちゃん」
(*;∀;)「ッ……っ…」
(´・ω・`)「二つ目の質問、いいかな」
(*;∀;)「……っ…」
(*;∀;)「……なによ………ッ」
(´・ω・`)「最初にここで聞いた事だよ」
(´・ω・`)「……どうして、仲間割れなんかしたんだい?
. 君の話じゃあ、寧ろ仲間割れなんてしちゃいけないと思ったんだけど」
(*;∀;)「……」
(*;∀;)「ほんとうは……仲間割れなんて計画にすらなかったよ……」
肩で、濡れた目を擦ろうとするが、うまくできなかった。
それをみたショボーンは、そっとハンカチでつーの目を拭ってあげた。
嗚咽も収まってきつつあった。
つーは、一度咳払いをして、本調子に戻った。
.
- 604 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:37:56 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「モカだって、デルタさんだって。
みんなでジジィから金を搾り取って復讐をしようって誓ったんだ」
(*゚∀゚)「私に分け前はいらないから、丁度四人でうまく分けれる金額にしたし……」
(*゚∀゚)「でも……最初のコンビニでの受け渡しの時……」
(*゚∀゚)「モカが、私に言ったんだ」
(*゚∀゚)「『……自首したい』って」
(´・ω・`)「!」
(*゚∀゚)「自首なんてされたら、それで私たちは皆、ぱあだ。
なにもかもおしまいだ。だから、自首だけは防がなくてはならなかった」
(´・ω・`)「それで……殺したのか?」
(*゚∀゚)「刑事に使うつもりだった毒針を、モカに使っちゃって、正直どうしようか悩んでた。
その瞬間に刑事がきたから……もうパニックになって……」
(*゚∀゚)「モカの死体を囮に……私は逃げた」
.
- 605 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:39:51 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「結果としてうまく行ったけど、あの後デルタさんと合流すると、再三疑われて……」
(*゚∀゚)「最終的に、デルタさんは私を疑ったままだった。
身代金に目が眩んだから、独り占めを狙ったのだろうって」
(*゚∀゚)「だから……あの日」
(*゚∀゚)「ホテルで、デルタさんは私を殺そうとしたんだ」
(´・ω・`)「なんだって?」
黙って聞いていくつもりだったが、思わず声をあげてしまった。
それほどまでに、今の言葉に驚いたのだ。
つーは目を細めて、続きを言った。
(*゚∀゚)「私は、短刀なら誰よりもうまく扱える。
気が付けば、デルタさんの背後をとってて、ぶすりって刺してた」
(*゚∀゚)「一緒にそこにいたむねおが、驚いて……あいつは根っからの臆病者だし」
(*゚∀゚)「急いで一階のすずに近況を伝えに行った。ボーイとして」
(*゚∀゚)「その隙に、私は逃走しようとしたけど……
あまりにも突発的な一件だったから、部屋に証拠が残りすぎていた。
回収してるうちに刑事がやってきそうだった。
エレベーターは使用中だったし、階段から下りるにもリスクがある。
一か八かでベランダから飛び降りて……」
.
- 606 名前:名も無きAAのようです:2012/03/10(土) 23:40:52 ID:isFWesnQO
- もう終わり近いんだっけ? 支援
- 607 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:41:31 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「結果、モカもデルタさんも無駄に殺しちゃって……
復讐どころじゃなくなったんだ」
(*゚∀゚)「だから……仕方がないから三人で逃亡を図ろうとした」
(*゚∀゚)「けど、ジジィだけは殺しておきたい。
せめて、一矢報いる程度はしておきたい」
(*゚∀゚)「刑事さんなら、高速艇に私たちがいるって突き止めるって気がして、張り込んでた。
本当に来たときは、ちょっとだけ嬉しかったな」
(´・ω・`)「……」
(*゚∀゚)「予め物陰に隠れていたすずが伊達を殺せば、あとはどうでもよかった。
まあ、言ってた応援の刑事さんのせいで、負けちゃったけど……」
(´・ω・`)「……」
(*゚∀゚)「完璧にこなせば、絶対に私たちの勝ちだった。
なのに、二人も死んじゃって、負けるゲームになってたんだなって、さっき気づいた」
(´・ω・`)「それは違うよ」
黙っていたショボーンだが、ここで急に口を挟んだ。
優しさと共に、厳しさも垣間見せていた。
.
- 608 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:42:24 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「……違うって、なにが?」
つーは、無垢な瞳でそう訊いた。
(´・ω・`)「モカもデルタも、最初っからこんな計画など成功する筈がない、ってわかってたよ」
(*゚∀゚)「まさか。完璧に完璧を積み重ねた作戦なんだ」
不遜ではなく、それは本音だった。
実際に三度も警察を出し抜いた以上、確かなものだろうと言える。
しかし、ショボーンは言った。
(´・ω・`)「証拠があるんだ」
.
- 609 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:44:11 ID:T3EDqDlwO
-
つーは首を傾げた。
証拠などと言われようが、今更そのようなことを証明できる筈がない、と。
しかしショボーンは嘘を吐いたつもりではなかった。
(´・ω・`)「コンビニで、御前モカの身元があっさりばれた理由、知ってる?」
(*゚∀゚)「さあ」
(´・ω・`)「雇用登録の申請書が、書かれてあったんだ」
(*゚∀゚)「……! あのバカ……」
(´・ω・`)「一方で、デルタ。
. 十一号車を用いたトリックも、存外早く突き止めたし、裏付けもできた」
(*゚∀゚)「裏付け?」
(´・ω・`)「電話に、デルタの指紋が付いてた。
. 普通付くはずのないところに付いた指紋が、ね」
すると、つーは溜息を吐いた。
がっくりと肩を落としているようだった。
(*゚∀゚)「デルタさんも……。みんなが不甲斐なかったら成功したのに」
(´・ω・`)「………」
(*゚∀゚)「……」
(*゚∀゚)「刑事さん?」
.
- 610 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:45:44 ID:T3EDqDlwO
-
つーが後悔をした直後、ショボーンは黙り込んだ。
なんだと思い、つーはショボーンの身を案じた。
腹に刺さった包丁が、遂に致死に至らしめたのかと思ったのである。
が、ショボーンは口を開いた。
(´・ω・`)「まだ、わからないのかい?」
(*゚∀゚)「?」
(´・ω・`)「みんな……モカもデルタも、敢えて証拠を……
. 足跡を残す事で、間接的につーちゃんに伝えたかったんだよ」
(´-ω-`)「『こんな計画なんて、無理だ、やめようよ』………ってね」
.
- 611 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:47:33 ID:T3EDqDlwO
-
(*゚∀゚)「……ッ」
(*゚∀゚)「……」
(* ∀ )「………」
つーは、静かに涙を流した。
その涙は、甲板の上に積もった雪の上に落ちて、その上からまた雪が積もった。
数秒もすれば、涙などすぐに消えてしまう。
そして、この狂言の誘拐事件も、そのうち雪によって埋もれていくのだ。
.
- 612 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:48:24 ID:T3EDqDlwO
-
.
- 613 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:49:43 ID:T3EDqDlwO
-
―― END ROLL ――
.
- 614 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/10(土) 23:58:30 ID:T3EDqDlwO
-
―― (´・ω・`)「ご迷惑をかけ、申し訳ない。 ――
――. ほんとうは、僕らが今回で止めるべきだったのですが――」 ――
―― (‘_L’)「そんな。誘拐犯グループのうち二人が判明しただけで、充分な収穫ですよ」 ――
―― (;´・ω・`)「そう言ってもらえると、助かりますが……」 ――
――― フィレンクト警部 ―――
(‘_L’)「元々犯罪件数の少ないシベリアですからね、
久しぶりに刑事らしい事ができましたよ」
(‘_L’)「それにしても、噂通り彼はすごい人でしたね」
(‘_L’)「なんかこう、事件を追う執念が段違いというか……」
(‘_L’)「聞けば、片腕を負傷した状態で今回の犯人と互角に戦ったとか」
(‘_L’)「もし、自分に片腕が使えないとなると、発狂しますよきっと」
(‘_L’)「推理力、行動力だけでなく、精神力も抜きん出ているのですね」
(‘_L’)「イツワリ警部……彼の名は、決して忘れない事でしょう」
.
- 615 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:05:21 ID:6eG89uCkO
-
―― ( ゚д゚)「そういえば、年齢はいくつなのでしょうか?」 ――
―― (´Д`)「私は三十七です」 ――
―― (;゚д゚)「いや、被害者のほうです」 ――
―― 八東ススム ――
(´Д`)「先代からコンビニを引き継いで早九年、
まさか殺人事件が起こるとは思いませんでした」
(;´Д`)「気味悪く思ったお客様たちが減って、
経営不振になるんじゃないか……!と」
(;´Д`)「恐る恐る、報道された次の日の
売り上げを確認したんですよ。……すると」
(´Д`)「なんと、七割増!
サスペンスに飢えていたシベリア民の皆さんが、
野次馬魂で次々とお買い物にきてくれたのですよ!」
(´Д`)「クルーの皆さんに臨時収入を配っても、まだ余ってるんです」
(;*´Д`)「イチサンっていう……チューゴク国のアイドルがいるのですが……ハァハァ……
……そうだ……グッズを買いあさろう……ハァハァ……」
.
- 616 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 00:06:20 ID:uVsuBfHw0
- フィレンクトさん片腕で警部さんとやりあったじゃないすか
- 617 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:10:17 ID:6eG89uCkO
-
―― ('、`*川「人間、気が弱そうな人ほど、裏の顔は凶暴なのよ」 ――
―― ( `ー´)「ペニーの裏の顔は、お姫様か?」 ――
―― ('、`*川「言ってる意味がわからんね」 ――
―― 伊藤ペニサス ――
('、`*川「今回の事件で一番の驚き?」
('、`*川「やっぱり、主犯格が、人質の筈の伊達つーだったことかしら」
('、`*川「私のイメージだと、もっとごつくて、
筋肉隆々で、睨んだ者を金縛りにしてしまいそうな……」
('ー`*川「それで、顔は割とハンサムなんだけど、
悪人を演じるためにわざと顔をしかめてる影の苦労人で……」
('ー`*川「……カンペキ……。
そういう人が犯人だと、取調もきっと楽しいのに……」
('、`*川「ま、実際は女だったから、私の出番はないんだけどね」
('、`*川「あほらし。週刊誌でも読んでおこうかしら」
.
- 618 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 00:11:36 ID:hPMtsvXkO
- >>616
>>616
- 619 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:14:47 ID:6eG89uCkO
-
―― 爪'ー`)y‐~~ ――
―― 爪'ー`)y‐「ふぅ。これがないと、ね」 ――
―― (´・ω・`)「(やれやれ、臭いな)」 ――
―― 大神フォックス ――
爪;'ー`)「なに? 悪いけどね、いま君にかまってらんないの。忙しいのよこっち」
爪;'ー`)「爆弾騒動を終えて一週間も経つのに、未だにほとぼりが醒めてないんだよ」
爪;'ー`)「乗客数は急降下の一途を辿るし、キャンセルの人も少なからずいるわけなんだ」
爪;'ー`)「提携を組んでる旅行会社のエラい人にも愚痴を言われてね……提携を切られそうだし」
爪'ー`)「悔やんだって仕方がないさ。キセルでも喫もうかな」
爪;'ー`)「……なに! 鮭弁で食中毒事件!?」
爪;'ー`)「すまないが、更に用事ができた。悪いが帰ってくれ!」
.
- 620 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:20:35 ID:6eG89uCkO
-
―― ('A`)「(おれが進んで処罰を与えるわけがないだろう……!)」 ――
―― ('A`)「(オオカミ鉄道や住民からの反発を抑えきれない上司が悪いんだ……)」 ――
―― ('A`)「(……なんとしてでも誘拐犯を捕まえてくれよ……ショボ……!)」 ――
―― ドクオ捜査一課長 ――
('A`)「ショボーン君のペナルティーについてだけど、なんとか助かったよ」
('A`)「最後の最後で、犠牲を出さずに犯人を捕獲できたのが効いたみたいだ」
('A`)「というより、腹の傷口を見て、誰も降格を言い渡せなかったというのが本音らしいけどね」
('A`)「僕としても、彼が戦線から抜けられると困るわけなんだよ」
('A`)「あ、それと」
('A`)「ミルナ君から渡されたレコードだけど、男がに嗚咽を
漏らす音が、ほんとうに微かにだけど聞こえたんだ」
('A`)「連絡する頃には既にショボーン君は犯人と張り合ってたし……
そのせいで連絡が遅れて……なぜかおれが怒られて……」
('A`)「鬱だ……」
.
- 621 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 00:24:22 ID:atY4S5wY0
- 今更ながら支援
- 622 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:31:23 ID:6eG89uCkO
-
―― (-@∀@)「爆弾騒動のことでお話を伺ってもよろしいですかね?」 ――
―― (´・ω・`)「答えられることはありません」 ――
―― (-@∀@)「隠してるだけじゃないんですか」 ――
―― 朝曰新聞アサピー記者 ――
(-@∀@)「私が取材させていただいたオオカミ爆弾襲撃事件ですが……」
(-@∀@)「大変反響を受けまして、私も出世コースが見え始めました」
(-@∀@)「文丸新聞の台頭のなかで、朝曰新聞を支えているのは間違いなく私ですね」
(-@∀@)「ショボーン警部が姿を見せた事件は、
必ずと言っていいほどサスペンスが盛り沢山なのですよ」
(-@∀@)「ご存じだと思いますが、二十年ほど前の通り魔事件、あれも私の担当なのですよ。
やはり、担当刑事はショボーン警部です」
(-@∀@)「やはり、ここは売れっ子記者として、
これからも様々な事件を追っていきたいと思う所存です」
(-@∀@)「まずはオオカミ鉄道での食中毒事件ですな。では、いってきます」
.
- 623 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:33:15 ID:6eG89uCkO
-
―― リコ-○ー○)リ「ああいう子がね、もっと増えてほしいから、あたしも目くじらたてて ――
―― じゃんじゃん悪ガキを叱ってんだよ。ほんとう、可愛い悪ガキどもだわ」 ――
―― ('、`*川「あなたも叱られたら?」 ――
―― ( `ー´)「ごめんだい」 ――
―― リコ ――
リコ-○ー○)リ「モカちゃんが仏さんになったのは悲しいけど、さ?」
リコ-○ー○)リ「お陰で、と言っちゃなんだけど、ほかの子供たちに連絡をとるいいきっかけになったんよ」
リコ-○ー○)リ「今度遊びに行くって言ってくれる子ばかりでねぇ……嬉しくて目頭が熱いんよ……」
リコ-○ー○)リ「昔話に花を咲かせて、うんと笑いたいところだねぇ」
リコ-○ー○)リ「……おっと、いらっしゃいませ」
リコ-○ー○)リ「お客さんが来たのでこれくらいで」
リコ-○ー○)リ「どうもありがとうございましたぁ」
.
- 624 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 00:36:48 ID:8I8hU9EY0
- しえ支援
- 625 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:39:54 ID:6eG89uCkO
-
―― (゚、゚トソン「どうしたのですか、こんなところで」 ――
―― パセ*゚ー゚)リ「だから、私たちを尾行してたんだよ!」 ――
―― (゚、゚トソン「黙ってて、お願い」 ――
―― 岡津パセリ ――
パセ*゚ー゚)リ「トソンちゃんったら、シャイなんだから」
パセ*゚ー゚)リ「ちょっとハグしたくらいで、耳まで真っ赤にして怒っちゃって……」
パセ*>ー<)リ「きゃー! 思い出すだけできゃー!」
パセ*゚ー゚)リ「……え? 金魚の被り物をとれ、ですって?」
パセ*゚ー゚)リ
パセ;゚ー゚)リ「だ、だめ! だめだめ! だめだかんね!」
パセ;゚ー゚)リ「ちょ、待って離し―――」
パセ;///)リ「きゃああああああああああッ!」
.
- 626 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:41:28 ID:6eG89uCkO
-
―― <;ヽ`∀´>「アイゴー、申し訳ないニダ! まだ帰れないニダよ!」 ――
―― ( `ー´)「なんだあのムサいの」 ――
―― 真山田ネーノ ――
( `ー´)「まあ、なにはともあれ事件は解決したんだけど……」
( ;`ー´)「宝石商という共通点を言うのが遅くて、減給処分喰らっちまったぜ」
( ;`ー´)「警部は未だに怒ってるし……」
( `ー´)「まあ、捜査の時に買ったままだった鮭弁もあるし、これ食って元気取り戻すか!」
( `ー´)「オオカミ鉄道の鮭弁は旨いって言ってたしなぁ」
( `ー´)「じゃ、いっただっきまーす!」
.
- 627 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:47:16 ID:6eG89uCkO
-
―― <ヽ`∀´>「どうやら……決戦はすぐのようニダ……」 ――
―― ( `ハ´)「カカカ……チョーセンに挑戦するアル……」 ――
―― (´・ω・`)「(……割とノーダメージのようだ)」 ――
―― シナー支配人 ――
―― ニダー副支配人 ――
<;ヽ`∀´>「ニダァァ!」
( `ハ´)「どうした、朕と将棋で散々に負けた腹いせに年末ジャンボを買いまくった我が右腕、ニダーよ!」
<ヽ`∀´>「……当たったニダ」
( `ハ´)「え?」
<ヽ*`∀´>「当たった、当たったニダ! 年末ジャンボが当たってるニダ!」
( ;`ハ´)「本当アルか! どれ、いくらアル!」
<ヽ*`∀´>「三百円も当たってるニダ!」
( `ハ´)
<ヽ*`∀´>
( `ハ´)
<ヽ`∀´>
( `ハ´)
.
- 628 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:49:37 ID:6eG89uCkO
-
―― ( ゚д゚)「通り魔事件はどうした」 ――
―― / ゚、。 /「罠を張ったらあっさりひっかかりました」 ――
―― (;゚д゚)「罠、ねぇ」 ――
―― 鈴木ダイオード ――
/ ゚、。 /「途中から捜査に加入しただけあって、あまり事件に関する感想はないですね……」
/ ゚、。 /「え、私の『壁』という徒名の由来ですか?」
/ ゚、。 /
/ ゚、。 /「いい天気ですね。私、休みの日にはおじいちゃんの家の縁側でおじいちゃんと対局するんです」
/ ゚、。 /「はい? 徒名? なんですかそれ」
/ ゚、。 /「言っときますけど、胸は関係ないですからね。
見ないでください。刑務所にぶち込みますよ」
/ ゚、。 /「違います。まだ成長期なんです。まだ二十――あ、ちょ……」
/ ゚、。 /「ったく、もう……」
.
- 629 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:56:33 ID:6eG89uCkO
-
―― (#゚д゚)「唯一の肉親なら、金よりも同情よりも、 ――
―― もっと与えるべき物があっただろ!」 ――
―― (#゚д゚)「……なぜ、愛≠与えなかった!!」 ――
―― 東風ミルナ ――
( ゚д゚)「間一髪でしたね、あの時は」
( ゚д゚)「咄嗟に拳銃を構えたのはいいものの、
正直最近視力が落ちてきてて、不安だったのですよ」
( ゚д゚)「歳には抗えないってやつかな、老眼になりつつあるって実感がするんです」
( ゚д゚)「お陰で、目測を誤って伊達氏に当たるのではないかとどきどきしてました」
( ゚д゚)「結果としては、睨んだ場所に銃弾が向かってくれてよかったのですが……」
( ゚д゚)「若い頃に比べ、格段に眼は悪化の一途を辿ってますね」
( ゚д゚)「……千里眼、か……」
.
- 630 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 00:59:54 ID:6eG89uCkO
-
―― (; <●><●>)「あなたは、奇跡を起こそうっていうのですか!」 ――
―― (´・ω・`)「起こしてやろうじゃないの」 ――
―― (; <●><●>)「―――ッ」 ――
―― 若手ワカッテマス ――
( <●><●>)「今回の事件を通して、私は刑事という立場の重要性を改めて知りました」
( <●><●>)「今までは何の気なしに逮捕できていたからと言って、自惚れていたようですね」
( <●><●>)「世の中には殺し屋だの、通り魔だの凶悪な罪人がいるというのに……」
( <●><●>)「今回だけで、警察官としてあるまじき失態を、私はいったいいくつ重ねたことか」
( <●><●>)「つくづく、あの人には適わないと実感させられます」
( <●><●>)「一年。一年もすれば、きっとこの度のようなミスは犯さないでしょう」
( <●><●>)「それまで、私は精進を絶やさず続けるつもりです」
( <●><●>)「……来年の今頃は、私は無能な部下でも持っているのでしょうかね?」
.
- 631 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:00:39 ID:6eG89uCkO
-
.
- 632 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:05:06 ID:6eG89uCkO
-
◆
腹を襲った包丁による傷は思っていたより深刻で、担当医に無茶をしないよう注意を受けた。
だが、ショボーンは申し訳なさそうに笑むだけで、反省の姿は見られない。
担当医もあっさりとした淡泊な人で、一通り検診を終えるとすっかり寡黙になった。
担当医と看護士に連れられ、病室に安置されると、彼女もすぐに病室を退室していった。
〈::゚−゚〉「あくまで幾針も縫った傷だ。無茶をしないよう頼む」
(´・ω・`)「すみませんね」
〈::゚ー゚〉「だが、あれほどの傷で危篤に曝されないというのは、なかなかのタフネスだ」
(´・ω・`)「包丁を抜かなかったのが、幸いしたのでしょう」
〈::゚ー゚〉「いや、医師は、あなたの意志が強かったが故に、身体もそれに応えてくれたのだろうと思っている。
日頃から身体を顎使するようでは、身体も応えてくれないものだ」
(´・ω・`)「はは、そうかもしれませんね」
.
- 633 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:06:30 ID:6eG89uCkO
-
視認できるかわからない程微かに笑んで、担当医は言った。
思わずショボーンも笑い、口を手の甲で軽く覆った。
少しの間は現場には戻れないが、それでも従来より早くは復帰できるだろう、とは担当医の言葉だ。
とはいえ、腹の傷の痛みも収まっており、それ以外はいたって健全なため、
今すぐにでも新しい事件の捜査に向かいたくて身体がうずうずしてしまう。
自分を根っからの刑事肌だとはわかっていたが、却ってそれのせいで歯痒い気持ちになるのは、少し皮肉なものだ。
ショボーンが苦笑いして腹の包帯をさすっていると、担当医が真面目な顔になって、話を切り出した。
〈::゚−゚〉「それと、面会に来たという人がいるので、通してもいいだろうか」
(´・ω・`)「? かまわないですよ」
誰だろうと思ったショボーンだが、許諾した。
「どうぞ」と担当医が言っている間に首を傾げていると、扉が開かれ、顔馴染みの人物が入ってきた。
その人物と入れ替わりに、担当医は足早に病室を去っていった。
.
- 634 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:08:49 ID:6eG89uCkO
-
( ゚д゚)「おかげんはいかがですか」
(´・ω・`)「ぎょろ目か」
扉の向こうから、東風がやってきた。
灰色のコートは血の色に染まっていない。
彼は、今回は血を見せずにいられたのだ。
その彼の後ろから、更に身体の大きい若手が入ってきた。
東風とは違い、悲しくも傷を負ってしまっている。
だが、顔色を窺う以上は大した傷ではなさそうだった。
( <●><●>)「私もいますよ」
(´・ω・`)「ワカッテマスも。銃創は大丈夫なのか?」
( <●><●>)「弾丸は無事摘出できたし、警部ほどの重傷じゃあないです」
(´・ω・`)「このやろう」
隣に立っていた東風が、思わず噴き出した。
「手術直後なんか、脂汗びっしりでしたよ」と東風が言うと、
若手は「ちょっと、ミルナさん」と無表情で制した。
ショボーンも笑い、一段落した所でショボーンが口を切った。
(´・ω・`)「それはそうと、なぜあんたはあの時高速艇まできたんだ。
. 結果としては助かったけど――」
( ゚д゚)「なんと言いますか」
.
- 635 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:11:02 ID:6eG89uCkO
-
少し焦らして、東風は言った。
( ゚д゚)「長年の刑事のカン……ってやつですかね」
(´・ω・`)「カンか」
( ゚д゚)「自分とイツワリさんにあって、ワカッテマスには無いものですね」
( <●><●>)「精進します」
(´・ω・`)「よく言うよ」
再び、ショボーンは笑った。
声はあげずに、口角を吊り上げていた。
いったい、若手にカンが身につくのはいつ頃か。
考えてみると、年老いた若手の姿が浮かんだのだ。
今回の事件では、若さについていくつもの苦悩が若手を襲っていた。
キャリアに物を言わせる東風とは対照的で、戦果も対照的に違っていた。
若手も、彼のミスのお陰でオオカミ鉄道の爆弾事件を未然に防げ、
また高飛びの可能性も真っ先に考慮できたため、決して成果なしという訳ではなかったが。
すると、急に若手は態度を改め、堅い口調で話を切り出した。
( <●><●>)「それよりも警部」
(´・ω・`)「なんだい」
( <●><●>)「伊達クール氏の公判の日が決まりました」
.
- 636 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:14:17 ID:6eG89uCkO
-
(´・ω・`)「………ああ、そうか」
( <●><●>)「それで、警部に証言台に立っていただきたいと、検事が――」
若手が話している途中で、病室の扉が開かれた。
ノックもなかったので三人はなんだと思った。
その人物を見て、若手は「丁度来たようです」と言った。
(´・ω・`)「……あなたは」
_
( ゚∀゚)「ども」
暗い紅色のスーツで、茶の長髪を揺らす男がやってきた。
不遜な態度で歩き、短く挨拶を交わした。
途端にショボーンも不機嫌な表情になった。
今の若手の話の流れ、そして紹介からするに、件の検事だろうと予測がついた。
だが、容姿を見るだけではとてもそのような人間には見えなかった。
( ゚д゚)「あなたは、確か」
_
( ゚∀゚)「『法廷のナイト』こと、検事をしている長岡ジョルジュです。ま、何卒よろしく」
三十路前に見える容姿の長岡は、東風にも不遜な態度を見せて挨拶をした。
歳で言うと、二十程は違うように思われる。
が、東風は表情を変えなかった。
.
- 637 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:16:45 ID:6eG89uCkO
-
_
( ゚∀゚)「エース、どこまで言った?」
( <●><●>)「まだなにも言ってないですよ」
_
( ゚∀゚)「そっか」
( ゚д゚)「……エース?」
(´・ω・`)「そうだ、思い出した」
長岡は、若手の事を「エース」と呼んだ。
当人がそれに違和感を示さなかった事から、公認のニックネームのようだ。
しかし、ショボーンや東風はその徒名を知らなかった。
東風がなんだと思っていると、ショボーンが手を打った。
長岡の事をまじまじと見ながら、ゆっくり言葉を並べた。
(´・ω・`)「長岡検事とワカッテマス……。
. 確か、『法曹界のブラックジャック』と呼ばれていたっけな」
( <●><●>)「ご存じでしたか」
(´・ω・`)「理論派のワカッテマスと行動派の長岡検事のコンビ、何度か法廷で見たことがある。
. 有罪判決への黄金パターン、と呼び声が高い」
_
( ゚∀゚)「あの『偽りを見抜く敏腕刑事』さんに褒められると、さすがに嬉しいもんですわ」
(´・ω・`)「して、そんな検事が僕になんの用でしょう」
.
- 638 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:18:44 ID:6eG89uCkO
-
ショボーンは先を促した。
特に長岡と雑談を交わすつもりはないのだ。
凛々しい眉を顰めて、長岡は言った。
_
( ゚∀゚)「伊達氏が、準強姦罪及び戸籍の偽造の容疑で公判にかけられるのはご存じですね?」
それは、ショボーンの入院が決まった初日に知らされたニュースだった。
さすがのショボーンも、これには驚きを隠せなかった。
つーの公判はもう少し先だが、伊達はあまりにも早すぎる。
何か裏がありそうだ、と思っていたのだ。
_
( ゚∀゚)「実を言うと、密輸や裏帳簿の噂もあったんですよアイツには。
なかなか捜査のメスを入れられなかったところ、
奴に拘留させる理由をつくっていただいて、感謝しますよ」
(´・ω・`)「………」
無論、ショボーンはそんなつもりは全くなかった。
つーを追い詰める上で明かされた真実だが、伊達をいたぶるつもりは毛頭なかった。
.
- 639 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:20:43 ID:6eG89uCkO
-
まるで、最初から伊達を捕まえる理由をつくるためにショボーンが
出向いたかのような物の言い方だったため、ショボーンも東風も不機嫌になった。
よく法廷で共にする若手は、こんな長岡に慣れているのか、平生のままでいる。
(´・ω・`)「それで、どうかしましたか」
_
( ゚∀゚)「伊達をよく知る人物として、証言台に立ってもらいたいのですよ。
さんざん黒い事をしでかしてきた、伊達の素性を明かすつもりで、ね」
眉ひとつ動かさず、ショボーンは聞いた。
同じ顔色のままで、ショボーンは冷静に言った。
(´・ω・`)「生憎ですが、そんな事実など存じてませんから」
_
( ゚∀゚)「頼みますよ、イツワリ警部」
(´・ω・`)「ワカッテマスだけで事足りるでしょ」
( <●><●>)「そうですよジェイ。警部は見ての通り、怪我人ですから」
若手が長岡の事をジェイと言った時、東風はまたも不思議な気分になった。
だが、ジェイとエースでブラックジャックか、と思って、独りでに納得していた。
.
- 640 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:23:20 ID:6eG89uCkO
-
_
( ゚∀゚)「そうかいそうかい。またブラックジャックで挑む法廷か」
( <●><●>)「悔しそうですね」
_
( ゚∀゚)「俺とお前がでると、ぜってー有罪判決もぎ取れるからつまんねーんだよなあ」
( <●><●>)「法廷はゲームじゃないですよ」
_
( ゚∀゚)「わかってら。まあ、イツワリ警部さんも考えといてくださいね」
(´・ω・`)「………」
ショボーンは、始終黙っていた。
個人的に、長岡を好きになれないというのもあるが、
どこか、長岡が怪しい人物のように感じられたのだ。
その、脳内の霞がかって実体の見えない何かを考えていると、自然と無口になっていた。
長岡がショボーンのベッドを離れ、病室を出た。
去り際に「頼みますよ」と言い残して。
.
- 641 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:27:59 ID:6eG89uCkO
-
「きゃっ!」
_
( ゚∀゚)「いてッ」
長岡が病室を出ようとすると、出入り口で人とぶつかった。
声の高さからして女性、しかも高校生とみた。
急いでいたようで、室内の様子を確認する事がなかったため
結果長岡に体当たりするはめになってしまったようだった。
_
( ゚∀゚)「……ちっ」
(゚、゚;トソン「ごご、ごめんなさい……」
舌打ちだけをして、長岡は帰って行った。
揉め事には至らずに済んだようだったが、後味が悪い。
ぶつかった女子高生は、頭を何度か下げた。
上下に揺れるポニーテールを見て、若手は「あッ」と言った。
( <●><●>)「あなたは、確か」
(゚、゚トソン「あ、刑事」
( ゚д゚)「ん……? 客人ですかな?」
(´・ω・`)「あ、僕の知り合いだよ。まさかお見舞いにきてくれたの?」
.
- 642 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 01:32:53 ID:atY4S5wY0
- C
- 643 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:34:54 ID:6eG89uCkO
-
オオカミ鉄道の「あさやけ4号」にて出会した都村トソンが、ショボーンの病室までやってきていた。
東風には面識がないようだったが、若手とショボーンは何度か彼女と会っている。
なぜか不幸を招く体質で、よく身の回りに厄介な事や事件を引き起こすらしい。
ショボーンが腹に怪我を負ったと聞いて、やってきたそうだ。
見舞いの品はなかったが、ショボーンにとっては来てくれるだけでありがたかった。
中年の男と話すよりかは、女子高生と話したいのだ。
(゚、゚トソン「暇だったから来てみました」
(´・ω・`)「愛の旅行は?」
(゚、゚;トソン「だから愛なんかじゃないです! 私は男の人とお付き合いしたいのです」
( <●><●>)「なんか凄いこと言ってますが」
(´・ω・`)「この子にカレシなんてむりむり」
(゚、゚;トソン「どういう事でひゅ…すか!」
(´・ω・`)
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃ! 噛んでやんの!」
(゚、゚;トソン「その笑い方、直したらどうですか!?」
.
- 644 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:41:26 ID:6eG89uCkO
-
( <●><●>)「そういえば、久々に警部が笑う姿みましたね」
( ゚д゚)「ん……? あ、ああ……言われてみれば」
(´-ω-`)「ひゃひゃ……え、そうだっけ?」
(゚、゚トソン「あ、そうなんですか」
ショボーンは、ここ数日間、今のように笑った試しがなかった。
普段の彼なら、捜査一課内でも鈴木や若手をからかって嫌な笑い声をあげる筈なのだ。
それが、最近ではその真逆となっていた。
(´・ω・`)「どうしてかな。結構笑ってるつもりなんだけど」
( <●><●>)「寧ろ笑わないでくれるとありがたいです」
(゚、゚トソン「さんせーい」
(;´・ω・`)「どういう意味だ!」
( ゚д゚)「ま、笑うのは健康にいいですがね」
(´・ω・`)「だけどなぁ……そっか、笑ってないか……」
自分でも、笑ってないなという自覚は、薄々はあったに違いない。
しかし、その原因をショボーン自身は見いだせなかった。
思い当たる節が見あたらなかったのだ。
だが、それもその筈である。
冒頭でも言ったように、ショボーン警部は疲れていたのだ。
.
- 645 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 01:52:39 ID:6eG89uCkO
-
………。
疲れたぁぁぁぁぁぁッぁあ!
というわけで、(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです はおしまいです。
「え、これで終わり?」と不完全燃焼な方がいるのではと思われますが、このお話を書く前から
>冒頭でも言ったように、ショボーン警部は疲れていたのだ。
で締めくくろうと決め、冒頭で最初の伏線を張ってたので、変えるつもりはありませんでした。
「ぶひゃぶひゃ笑ってたショボーンはどこ行った」との声を頂戴したので、
急遽後日談の内容を変更しましたが…(本当は長岡が去るところで切ってた)。
そんな後日談で萎えてしまった方、申し訳ありません。
後書きと言っても特に私からは言うことはないので、代わりに
「○○ってあれの伏線だった?」とか「パセリの被り物の中身は?」とか、
質問あれば答えて、それを後書き代わりにしたいです。質問ください。お願いします。
あと、序盤から常に伏線を敷き詰めた感があるので、読み返していただくと「ああ、これか」となるところがあるかもです。
なにはともあれ、香りから続けてまとめてくださったブーン芸さんと文丸さん、
香りよりよくなったと褒めてくださった皆様、ツンツンデレデレしつつも投下を待ってくださった皆様、地の文について指摘してくださった皆様、
そして偽りの根城を読んでくださった皆様方に、全身全霊を籠めてお礼申し上げます。
まことにありがとうございました!
- 646 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 01:55:21 ID:atY4S5wY0
- 乙でした!
一気に読んだけど、徐々にテンポが良くなって、読みやすくもなっていき、好印象でした。
伏線も丁寧に張られていて面白かったです。
- 647 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 02:06:20 ID:oQxUADHo0
- 乙
- 648 名前:予告 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 02:16:27 ID:6eG89uCkO
-
この世には、様々な「恐ろしいもの」がある。
それは殺害だったり放火だったり、近代ではインターネットを用いたサイバーハックなんかがそれに当たる。
人為的なものであろうと恐ろしいものは恐ろしいが、自然界に巣くう魔物がそれに劣る事は、決してない。
雷、地震、津波。
天災がちょうどその例に挙げられるだろう。
だが、あくまで一人の人間を仮想対象にするならば、
更に上をゆく「恐ろしいもの」が存在するのを、ご存じだろうか。
その名は―――
(メ._,)「毒……」
(´・ω・`)「はい?」
(メ._,)「害者は……毒を呑まされたに……違いないのだ……」
.
- 649 名前:予告 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 02:18:19 ID:6eG89uCkO
-
―――VIP県警、捜査一課のショボーン警部が辿る、もうひとつの物語。
冬季の寒冷化はシベリアに並ぶ、風土に恵まれた地区 アルプスを舞台に、
アルプス県警、VIP県警、そして警視庁の警部が三人集い、
人の力ではどうしようもない「恐ろしいもの」に立ち向かってゆく。
ノパ听)「料理に毒を仕込むなど、できるわけがありません」
ある者は無知で
( -_-)「基本的に、ずっと自分の部屋にいたよ」
ある者は見向きもせず
ζ(゚ー゚*ζ「家にいたし、わざわざここに来る用事なんてないですし」
ある者は、ただ楽を求める。
(メ._,)「このなかに……犯人がいると言うのか……」
(´・ω・`)「当然です。これは、他殺に違いない」
ショボーンは、そんな「恐ろしいもの」に真っ向から立ち向かう。
なぜなら、真実というものは得てして関門の向こうでぽつんと落ちているものだからだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「ならば、聞きたいもんだな。ショボの推理を、よ」
(´・ω・`)「……いいだろう」
―――そしてアルプスの風が吹き、葉桜が舞う。
.
- 650 名前:予告 ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 02:19:07 ID:6eG89uCkO
-
イツワリ警部の事件簿
Extra File.2
(´・ω・`)アルプスの風に吹かれるようです
今月公開
.
- 651 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 02:22:36 ID:6eG89uCkO
- 一応予告はしたけど、実際は投下するかは未定。
というのも、長さが香り番外編の二倍以上で、根城でいうと五章分はあるのです。
長すぎるから、このままお蔵入りにしようか悩んでる所存でございます。
というわけで五時間もの間おつきあいいただき、ありがとうございました!
目に膜が張り始めてやばいので寝ます。
- 652 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 02:23:28 ID:uVsuBfHw0
- いい男がチラっと見えた
- 653 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/11(日) 02:25:33 ID:6eG89uCkO
- さっきのは番外編の予告です
終章 >>529-611
後日談 >>613-644
- 654 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 06:03:42 ID:a0afvA6MC
- 乙です、次回作も是非みたい!
- 655 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 10:55:32 ID:65c3yfnsO
- 昨日は途中で寝てしまったぶひゃひゃひゃ
面白かった、乙かれ様
- 656 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 11:34:42 ID:ZomfGiLoO
- 後日談のところで寝落ちしてしまった
後日談もおもろかった
>>616には笑わせてもらったよ
- 657 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 12:43:47 ID:oIxujdZE0
- 乙です
ミステリをきっちり完結させる作者には感心させられる
- 658 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 22:11:13 ID:h.hWcrJk0
- 乙
毎日続きを楽しみにして呼んでいた
次回作があれば絶対読む
- 659 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:56:20 ID:gVnY48xY0
- 乙です!
続きも楽しみだ
- 660 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 10:55:28 ID:.E3gt4ksO
- 乙
つーに包丁か…。前回のしぃ→でぃ→びぃの流れも含めて作者はAAの元々の設定を大事にしてるね
その辺り個人的には好感度高いわ。次回以降も楽しみに待ってます
- 661 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 11:52:31 ID:vWLCzyx6o
- 乙
次回作も楽しみにしてるよ
- 662 名前:名も無きAAのようです:2012/03/13(火) 16:46:37 ID:sP4YjD7.0
- なんか犯人のAAが全員似てる気がする
- 663 名前:名も無きAAのようです:2012/03/19(月) 18:45:20 ID:rMO8nWSYO
- 一人ぼっち旅にいったんだね
- 664 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/20(火) 01:18:06 ID:TXOodm4kO
- 今更ながらもたくさんの乙ありがとうございます。
ひとつの支援・乙のレスにつき10分、具体的な感想なら50分発狂できます。
次回作ですが、思いのほか案が纏まらず、投下は夏以降になるかもしれません。
半分ほど書きためができたら、このスレに予告編を投下しておきます。
>>616
勘のいい人は、香り冒頭の「ラウンジ県警に異動したショボーン」ってのを見て既にピンと来ているかもしれません。
>>660
しぃとでぃは別個に存在しますが、でぃ→びぃは狙いました。
つーがショボーンとの格闘時に包丁を投げたのも、それです。
>>662
犯人役に統一性を持たせているつもりはないので、気軽に読んでくれるとありがたいです。
>>663含む皆様
誠にすみません。
予告していたのにも関わらず、結局投下できず仕舞いでした。
4月を迎えるまでには前編だけでも投下するので、お許しください。
- 665 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:07:56 ID:Z.nGAT9YO
- 前編だけで一章と半分程はある番外編の投下をはじめます
- 666 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:09:00 ID:Z.nGAT9YO
-
◆
お前の妻を盗む男がいたら、彼女をずっと
その男のものにしておくのが最善の仕返しだ。
――サシャ・ギトリ
.
- 667 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:10:52 ID:Z.nGAT9YO
-
−1−
暗い山道を走っていたかと思うと、木々の屋根は徐々に
開かれていき、やがて太陽がフロントガラスと向かい合った。
思わず目を細めるが、その太陽は次の山の陰に隠れ、穏やかな青空が谷底にまで見えている。
山奥から抜け、暫くは峡谷とガードレール一枚のみを隔てた山道を走る事になるだろう。
両側の窓を下げると、アルプス特有の涼しい風が吹き込んでくる。
爽やかな涼しさであり、それが車内を横切るため、掻いている汗もひいていくことだ。
アルプスと言えば、シベリアと同等に寒冷な土地として有名だ。
だが、それは冬だけに限った話であり、冬以外だとシベリア以上に風土に恵まれている。
本来の目的を忘れていた擬古フッサールが、思い立ってアルプスに車を
向けた理由のひとつは、ここが五月晴れをこの国で一番心地よく味わえる土地だからだ。
実際に、何重にもスーツを着込んでいようが、窮屈さを感じさせない。
.
- 668 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:13:25 ID:Z.nGAT9YO
-
十四時三七分。
峡谷の向こうの方に滝が見えた。
だから車を停めた訳ではなく、擬古はただ煙草が吸いたかったのだ。
それに際して、荒々しい滝の様を目に焼き付けようと思っただけだ。
轟々と響く音を聞くだけで、それの存在はわかった。
今いる切り立った崖から見下ろしてみると、流水の着地点は
足下の木々に視界を覆われ見ることができなかった。
擬古は、肺に溜まった汚れた空気を吐き出し、再び車に乗り込んだ。
水が水を打つ音が後方に遠のいてゆく。
そして、そのうちに轟音はエンジン音に負けた。
峡谷と隣り合わせの道路は、その先に設けられたトンネルを境に終わりを告げた。
オレンジの照明が点々としている隧道を抜けると、再び木々の屋根が青空を見せぬよう覆い被さってきた。
標識を見た。
あと数十分で、目的地の旅館「葉桜館(はざくらやかた)」に着く。
擬古の旧友が営み、近場に海や山もある風土に恵まれた宿だ。
そこで、擬古は一度自分を見つめ直したいと思うのだ。
喧噪で満ち溢れたVIPにいては、頭が狂気に満ちてくる。
人を殺して≠オまった自分も、例外ではないのだろう、と。
車は、葉桜館を前にして停まった。
近くの駐車場の位置を確認してから、そちらに車を移した。
徒歩で葉桜館の前に立った。
庭園に葉桜が咲き誇る、それは美しい旅館だった。
.
- 669 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:14:38 ID:Z.nGAT9YO
-
同日、十九時〇七分。
擬古は、悪い気分のまま旅館に戻ってきた。
頬に付いていた米粒を摘んで、ごみ箱に捨てた。
粘着力が強く、なかなか指から離れなかった米粒に苛立ちを感じることもなく、擬古は自室に戻った。
知り合いの男が、偶然か必然か、この旅館に泊まった。
兼ねてからの知人であり、よく仕事柄一日を丸ごと共にする事も多い。
とある事柄について追っている者同士、報告も兼ねて食事をとる事になった。
擬古が気分が悪い旨を告げると、男は錠剤をひとつ、差し出した。
ミ,, Д 彡「……これはなんだ?」
( )「風邪薬だよ。呑んでおけ」
ミ,, Д 彡「そうか。……助かった」
風邪薬と呼ばれた錠剤を、口に放り込む。
冷水で錠剤を胃の方に通し、ひとまず落ち着いた。
.
- 670 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:16:08 ID:Z.nGAT9YO
-
目の前に並べられている豪華な和の料理に、擬古は一瞬怠さを忘れて箸を手にとった。
向かいの男はそれの始終を眺めている。
そんな事にはお構いなしで、擬古は最初に漬け物に箸をのばした。
一口目に、と胡瓜の酢漬けを口に運ぶ。
男は黙って見ている。
数回噛んで、その歯応えの良さと唾液を生み出させる酸味、
そしてさっぱりとした後味が擬古の食欲を増幅させた。
「風邪薬ありがとな、ちょい気分よくなった気がする」と擬古が言って、次は茄子の漬け物に箸をのばした。
「すぐに効くわけないだろう」と男は笑うが、手に箸はなく、おしぼりを握りしめている。
ミ,,゚Д゚彡「漬け物には目がねぇんだわ」
( )「そうか」
擬古は茄子もうまそうに食った。
最初のうちはよかったのだが、それを見ていて怪訝な顔をした男は、膝を乗り出しては擬古に言った。
.
- 671 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:17:01 ID:Z.nGAT9YO
-
( )「お前……気分はどうだ?」
先程交わしたばかりの会話を、再び切り出した。
その事を擬古は不思議に思った。
ミ,,゚Д゚彡「?」
その瞬間だ。
ミ;, Д 彡「ッ! ゲホッ、……げぇっ!!」
.
- 672 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:18:22 ID:Z.nGAT9YO
-
擬古は、御新香を掴んでいた箸を畳の上に落とし、その場に横たわった。
呼吸ができない。四肢も痺れ、視界が暗転している。
締め付けられる呼吸器官に手を当て、必死に押さえる。
だが、喉も肺も、既に機能しようとはしていなかった。
苦悶し、ばたつかせた脚も、徐々に勢いは殺されていった。
男の、喉の辺りを押さえる手が、ゆっくり離れてゆく。
白眼を剥き、数秒全身が硬直した後、だらんと五体は畳の上に載っかった。
男はその一部始終を眺めてから、立ち上がって、擬古の脈をとった。
そして何かを確信し、屈めた腰を戻して、ポケットから携帯電話を取り出した。
( )「もしもし」
通話先の相手は、ワンコールしてでた。
受話音量が低いため、会話先の声はここまでは届いてこない。
動かなくなった擬古を見下ろしながら、男はゆっくり言った。
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- 673 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:19:50 ID:Z.nGAT9YO
-
( )「大変なことになったんだ」
( )「真面目な話だ」
( )「お前、まだアルプスにいるな?」
( )「至急、『葉桜館』にきてほしい」
( )「なにがあったって?」
( )「……死んじまったよ。俺の目の前でさ、男が」
( )「……ああ。ああ、そうしてくれ」
( )「急いでくれよ、戦友」
言うことを言って、男は窓の外の庭園を眺めた。
散りゆく葉桜を見て、風情を感じる。
電話を切る際に、漸く男は通話相手の名前を言った。
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ。待ってるぜ、ショボーン」
五月十三日の十九時一二分、男の携帯電話に通話履歴が残った。
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- 674 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:21:05 ID:Z.nGAT9YO
イツワリ警部の事件簿
Extra File.2
(´・ω・`)アルプスの風に吹かれるようです
.
- 675 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:22:20 ID:Z.nGAT9YO
-
−2−
五月十三日、十四時頃。
アルプスの気候が心地よい事を、ショボーン警部は隣を歩く阿部高和(あべたかかず)に告げた。
阿部も同意し、このアルプスの市街地を歩く。
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- 676 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:23:59 ID:Z.nGAT9YO
-
VIP県警の警部であるショボーンと警視庁の警部である阿部がアルプスにいる理由は、至極単純だ。
各警察本部の警部以上の地位である者に、アルプスへの召集がかかっていたのだ。
年に一度、この時期に行われる講義が、今年はなぜか
首都のアスキーアートではなくアルプスで行われる事になっていた。
しかし、それは講義の内容に準じた場所の取り決めであり、他意はない。
退屈な講義も終わったので、ショボーンと阿部はぶらりとアルプスの街を歩いていた、という訳だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「いい男がホシだと、つい捕まえて一発やりたくなるんだよ」
(´;ω;`)「まぁーだそんな事言ってんのかよ! ぶひゃひゃ!」
アルプスの街について、取り立てて話す事はないらしく、ただ無駄話で時間を潰していた。
ショボーン警部の同期であり、今や警視庁の警部にまで上り詰めた
優秀な刑事である阿部は、言動からはそのような威厳を感じさせない。
同窓会で久々に会った二人、というイメージの方が強かった。
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- 677 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:26:27 ID:Z.nGAT9YO
-
そしてもう一つ、阿部には特徴があった。
彼は、刑事らしからぬ服装を身に纏っている。
仕事中でも、薄めの、青のツナギを着ているのだ。
当然、彼の上司は服装について注意を促す。
だが、自由奔放な阿部は決まってツナギを着ているのだ。
警察界一自由な男、それが阿部高和だ。
捜査方針に従う事なく、一匹狼を貫いて孤高で事件に臨む。
格闘技は人一倍強く、銃撃戦もうまい。
その上、ショボーンには無い並外れた体力もあるため、犯人との勝負には滅法強かった。
N| "゚'` {"゚`lリ「な、いいだろ? ショボもそろそろ俺に身を委ねて……」
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃ!
. 僕は可愛い女の子しか興味がないんだよ! ぶひゃひゃ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「つれない事を言うなよ」
(´;ω;`)「あれだ、ひっさびさに会うけど相変わらずだなあんた! ぶひゃひゃ」
.
- 678 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:28:13 ID:Z.nGAT9YO
-
嘗て、ショボーンと阿部は同じ戦場を共に生き抜いてきた。
ショボーンと阿部の持つ並外れた才能に、彼らが
三十になる頃には警察の黄金期とすら呼ばれていた。
当時は阿部もVIP県警の一刑事で、ショボーンと組んで捜査に臨んでいた。
ショボーンの推理力と阿部の行動力で、どんな凶悪犯も次々に刑務所に送られてゆく。
ショボーンが警部になり、阿部も異動するまでの間は、
VIPでの凶悪な犯罪の件数は降下の一途を辿っていった。
図にするまでもなく、それは明白だった。
その天才二人が別れてからも、たまに会うことがあれば、
このように他愛もない話で数時間は盛り上がっている。
そして、その話はショボーンの一言からはじまった。
(´・ω・`)「ところでさ、阿部さん」
N| "゚'` {"゚`lリ「なんだ」
ショボーンが阿部のことを敬称を付けて呼ぶ事に深い理由はない。
そちらの方が言いやすいだけだ。
.
- 679 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:30:57 ID:Z.nGAT9YO
-
(´・ω・`)「なんで、今日の講義はアルプスなのさ」
N| "゚'` {"゚`lリ「別に警視庁でもよかったそうだが、講義のメインの『DAT』、
あいつの原料である『カコロ草』はアルプス特有の植物だ。
本場アルプスの方がよかったんだろうな」
本日の講義は、ある項目に限り珍しくショボーンも聞き入っていた。
昨今において、様々な毒物が世に蔓延っているが、中でも一番危険とされる
毒物が発見され、それについて各警察本部にて理解を広めるべく、この講義が開かれたのだ。
その毒物は、アルファベット三文字でDATと言う。
阿部の言う通り、DATの主成分であるカコロ草は、ここアルプスでしか手に入らない。
理解を深める以上、諸悪の原産地で講義を開く方が都合がよかったのかもしれない。
(´・ω・`)「DATって、何の頭文字?」
N| "゚'` {"゚`lリ「『抱いて あんたを 天に召す』
……今宵も、公園のトイレで交わされてる言葉さ」
(´・ω・`)
ショボーンは、一瞬黙った。
(´・ω・`)
(´・ω・`) !
(´;ω;`)「そういう事かぶひゃひゃひゃ!
. 一瞬真に受けちゃったじゃねーか!」
N| "゚'` {"゚`lリ「今夜はDATな」
(´;ω;`)「ぶひゃ、ひゃひゃひゃひゃ!」
.
- 680 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:32:41 ID:Z.nGAT9YO
-
−3−
そして下町をぶらりと散策し、アルプスの幸を堪能して二人が別れたのは、十八時頃の話だ。
ショボーンも阿部も、今日のアルプスでの講義に出席するために、事実上休暇を与えられている。
自由奔放な阿部と飽きっぽい性格のショボーンが講義後に
街に繰り出すのは、想像するのも易い未来だっただろう。
その証拠に、十八時を少し回った頃合いに、ショボーンに電話がかかってきた。
近年において、折り畳み式ですらないショボーンの携帯電話は、逆に珍しかった。
(´・ω・`)「もしもし」
『イツワリさん、講義の方はどうでしたか?』
懐かしく感じれる声だった。
いつにも増して渋みを加えた低い声の主は、ショボーンの様子を窺った。
この二人称だけで、ショボーンは通話先が誰なのかすぐに言い当てられる。
白髪混じりの刑事を網膜に浮かべ、ショボーンは口を切った。
(´・ω・`)「とっくに終わってるよ。今日は毒の話だった」
『珍しいですね。犯罪心理学とか、逮捕学とかじゃないなんて』
(´・ω・`)「だからアルプスまできたんだけどね」
『それもそうですな』
.
- 681 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:34:38 ID:Z.nGAT9YO
-
電話越しに、男が軽く笑った。
その後に、男は気を取り直して、言った。
『終わったなら終わったで、帰還した方がいいですよ』
(´・ω・`)「ばか言え、今日は一日のんびりするつもりさ。
. 明日の朝、こっそり捜査一課に戻っておく」
『ベルさんに叱られても知りませんよ』
(´・ω・`)「アルプスにくる機会なんて滅多にないんだ。
. アルプスの幸を幾つか買って帰ったら大丈夫だろ」
アルプスの恵まれた風土は、我々に海の幸も山の幸も選り取り見取りに与えてくれる。
その中にはアルプス限定の食材もあって、それらを総称してアルプスの幸と呼ばれている。
鍋の材料セットなんかは、人気が高いのだ。
『まあ、健闘を祈りますよ』
男は、苦笑を浮かべたような声で言った。
数秒挟み、続いて聞こえたのは電子音だ。
携帯電話をポケットに仕舞って、ショボーンはビジネスホテルに向かった。
先に部屋を取っておいて、あとは日が暮れるまで遊び呆けるつもりだった。
.
- 682 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:36:42 ID:Z.nGAT9YO
-
(´・ω・`)「(いくらアルプスでも、ビジネスホテルは高いな)」
値段を確認して、溜息を吐いた。
だが、ここで金を出し渋っていると、泊まれる場所が旅館くらいになり、更に出費が懸念される。
ぶつくさ文句を言いながら、ショボーンはビジネスホテルを利用する事にした。
扉を抜けて、ベッドとスタンドライト付きの簡素な机。
ベッドに身を委ねて、トレンチコートを脱いだ。
煙草を取り出して一服していると、急に眠気が襲ってきた。
朝早くにVIPをでて、講義中の三時間、神経を常に働かせていた。
気になる項目の時なんかは、貧血で倒れてしまいそうな程に。
その反動が襲ってきたとでも言うのだろうか。
素直に眠気に従って、ショボーンは半分ほどの煙草を
灰皿に押しつけ、大の字に寝転がって瞼をおろした。
(´-ω-`)「一遍でいいから、なにも事件が起こらない日が来て欲しいよ」
VIPでは、今日も頼れる部下たちが凶悪犯と戦っている。
一日くらい、暇だなと笑いあえる日が欲しかった。
そんな事を思っているうちに、夢の世界へといざなわれていた。
.
- 683 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:39:38 ID:Z.nGAT9YO
-
次に目を醒ましたのは、十九時を少し回った頃だ。
三十分強寝ただけであるため、疲れが中途に残っている。
だが、それでも起きなければならなかった理由は、電話がかかっていたからだ。
眠い目を擦ってでると、阿部からだった。
(´-ω-`)「もしもし、僕だよ」
(´-ω-`)「………」
(´・ω・`)「……っ!」
阿部がショボーンに電話をしてしまった事。
これが、今回の事件に、この男を参入させてしまう事に繋がったのだ。
現場に隠された、どんな小さな偽りをも見抜く、このショボーンを呼んだがために
またひとつ、新たなドラマが生まれる事になっていた。
.
- 684 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:41:49 ID:Z.nGAT9YO
-
−4−
葉桜館に向かうと、既に葉桜館の周辺をアルプス県警のパトカーが囲んでいた。
内部で事件が起こっているであろう事は、部外者でも容易に想像がつく。
ショボーンにとってもそれは同様で、なにがあるのかと内心どきどきして現場にむかった。
拒まれるかと思ったが、自分をアルプス県警の者だと思っているのか、
近場の警官たちはショボーンをあっさりと通していった。
葉桜の並木が左手に見える廊下を歩いていく。
ところどころに、紺の制服を着た鑑識が忙しなく動いている。
掻き分けるようにそこを抜ける。
そして、一番騒がしい部屋に辿り着いた。
(`・д・)ゞ「お疲れ様です!」
(´・ω・`)「お、おう」
言われ慣れた言葉も、自分の直属の部下でないと思うと、嫌に新鮮に聞こえた。
どう返していいか浮かばず、浮いた声で応える事になっていた。
別にVIP県警の者とばれても鑑識たちは態度を
変えないだろうが、ショボーンに対する心持ちは変わる筈だ。
人からの評判を結構気にするタイプの人間である
ショボーンは、そういった細かな変化でさえ煩わしく感じられるという。
.
- 685 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:44:33 ID:Z.nGAT9YO
-
現場に着くと、若い刑事が青のツナギを着る男に詰め寄っていた。
ショボーンの入室を知った阿部が、ハンドサインで近寄るよう促す。
それに気が付いた刑事が、ショボーンの顔を見て怪訝に思った。
伝・ー・)「あ、あれ。お前誰だ?」
(´・ω・`)「VIP県警のショボーンです」
;`・ー・)「VIP? これはアルプスの扱う事件だけど、なにかあったのかー?」
(´・ω・`)「近くを寄ったものですから。
. それより、なにがあったのですか?」
敬語が苦手そうな、水須木(みずすき)と名乗ったその若い刑事は
ショボーンの言うことを聞いてみても、さほど釈然としなかったようだった。
アルプス管轄下の事件に、近くを寄ったというだけで
VIPの刑事がやってくるという話は考えにくい。
もっと、問いただすべき事は山ほどある筈なのだ。
だが、水須木は深く考えるのは嫌いな性格のようで、「まあいいや」と言い、状況を説明した。
伝・ー・)「見ての通り、毒殺――未遂だぜ」
(´・ω・`)「と、言うと」
.
- 686 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:46:50 ID:Z.nGAT9YO
-
床を畳、インテリアに巻物と壺が映える和室にて、中央にテーブルが置かれている。
テーブルの上には豪華な和の料理が並べられており、ほとんど手付かずのままだ。
倒れた男の方にある料理は、漬け物類を中心に少し食べられた形跡が
残るだけで、その向かいの料理は箸すら手がつけられていない。
湯豆腐の入った鍋は、未だに淡い炎を直に受け、昆布出汁の効いた煮汁が煮立っている。
喉の傍に手を近づけたまま横たわる男は、泡を吹いたり、
食ったであろう漬け物類を嘔吐している様子はなかった。
黙って見ていれば、それが死んでいるとは思えない。
仕事用と思われるスーツを着込んでおり、それは乱れていないからだ。
犯人と争う事なく、一方的に物言わぬ身に成り果ててしまったととるべきか。
ショボーンは、その死体状況を見ていて、不審に思った。
(´・ω・`)「……本当に毒殺なのか?」
少しだけ手のつけられた料理、目立った外傷は無く争った形跡も見られないのだ。
この場合、水須木の言ったように自然と毒殺が真っ先に浮かぶ死因だろう。
だが、青酸系の毒物で既に見られているように、泡を吹いて倒れたり、死に際に嘔吐をする事が多々だ。
男は、その前例を悉く覆しているため、本当に毒が原因で絶命したのか、掴めないでいた。
.
- 687 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 19:53:38 ID:Z.nGAT9YO
-
伝・ー・)「おー。さすが、人の狩場に来るだけあるな」
(´・ω・`)「?」
水須木は、ショボーンの顔をじろじろ見て、言った。
あまりいい気分ではないので、「なにがですか」と問う。
水須木は笑った。
伝・ー・)「その通り。この仏さんの死因は――」
(´・ω・`)「仏さん? 死んでるのですかね」
;`・ー・)「おっと! また間違えた」
「また」と言ったのを、ショボーンは聞き逃さなかった。
またという事は、先ほども間違えたという事だ。
毒殺未遂とは言ってみたが、死亡寸前といったところだろうか。
今なにかを言おうとしたが、先に今の点をすっきりさせておきたい。
大まかな推測を予め立てておき、ショボーンは口を開いた。
(´・ω・`)「害者は重体ではあるが、死亡は確認されず――
. といったところかな?」
伝・ー・)「ああ。見た感じ死んでるのになー。妙だろ?」
(´・ω・`)「……確かに、妙だ」
.
- 688 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 20:00:00 ID:Z.nGAT9YO
-
−5−
伝・ー・)「だけど、まだ生きてるって――」
(´・ω・`)「たとえ絶命せずとも、泡くらいは吹く筈だ」
伝・ー・)「……!」
水須木は、妙だろうとショボーンに同意を求め、ショボーンも肯いた。
毒殺事件において、生存者が出たなどそうそう聞かない話だ。
ショボーンが肯いたところで水須木が話を続けようとしたのを、ショボーンは遮った。
彼が妙に感じたのは、なぜまだこの世を去ってないのか、という点ではなかったのだ。
(´・ω・`)「確かに絶命してないのも妙だが、それ以上に
. 中毒死に見られる症状が全く見られないのも妙な話じゃないか?」
伝・ー・)「……」
(´・ω・`)「唇が蒼くなったり、同様に顔が青ざめたり。
. はたまた、筋肉の硬直など」
(´・ω・`)「中毒死に見られる症状が見られず、司法解剖にまわした
. わけでもないのに、よく中毒死と判断できたな、若いの」
ショボーンにその気はないのだが、まるで水須木を責めているような口振りだった。
ただ自らの推理を展開しているだけに過ぎないが、その内容が自然と水須木と相反してしまう。
近くにいる鑑識からも、一瞬手を止めてショボーンの推理に耳を傾ける者がいたほどだ。
尤も、語尾のそれは、ただ水須木が敬語を使えないのを皮肉って言っただけに過ぎないのだろうが。
.
- 689 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 20:02:18 ID:Z.nGAT9YO
-
少し黙った水須木が、口を切った。
伝・ー・)「まあ、検死官が言ったことですから」
(´・ω・`)「尚更おかしいですね」
伝・ー・)「……!」
(´・ω・`)「検死官が検死をするにしても、中毒死の際に当てはまる症状が
. 無いのに、毒殺と断定するのは不自然な話だろ」
(´・ω・`)「寧ろ、ショック死や病死など、ほかの死因を挙げるだろうに――」
腕を組んで、ショボーンは頭上の照明に目を向けた。
考え事をするとき、自然ととってしまう仕草だ。
照明が思いの外眩しかったため、すぐに首は元に戻したが。
そんな時だ。
入室してきた刑事が、ショボーンの後ろから声をかけた。
「さすがだな……ショボ……」
すごく低い、掠れた小さな声だった。
だが、その裏に秘める威厳の大きさに、思わず圧倒されてしまいそうな声だ。
はっとして、ショボーンは振り向いた。
そこに、低い背の刑事が立っていた。
(メ._,)「推理力は健在……か」
(´・ω・`)「三月殿!」
.
- 690 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 20:05:21 ID:Z.nGAT9YO
-
立っていた男は、裾が破け、蝙蝠傘のようになっている黒のコートを羽織っている。
腕を組んでおり、紅い眼でショボーンの事をぎろりと睨んでいた。
その眼光は鋭く、三月(さんがつ)と呼ばれた男が入室してから、
気が付けば、室内の鑑識の動きは際立つ物になっていた。
(メ._,)「如何にも……我の名は三月ウサギ……」
(メ._,)「……真実の求道者」
;`・ー・)「真実!? 力じゃないんですか!?」
三月ウサギは、アルプス県警で警部を勤めている、超がつくベテラン刑事だ。
現在で御歳五十九という定年間近の警部であり、威厳も権威も兼ね備えている。
目立った成果もなくノンキャリア故に、いま以上昇進するのは
難しいとされたらしいが、それを言われる前に三月は既に現場を選んでいた。
真性の刑事、という訳だ。
厳つい、堅い性格と思われがちだが、本人はそう思ってないらしい。
時折ジョークを挟むこともしばしばで、部下の刑事はよく振り回されている。
(メ._,)「なぜ……ショボがここにいるかは……さて置き……」
短い歩幅で、ショボーンに歩み寄る。
(メ._,)「この状況をどう見るか……推理を聞きたいところだな……」
(´・ω・`)「三月殿……」
(メ._,)「他殺か……自殺か……。まずはそれを考える事だ……」
間髪入れず、ショボーンは答えた。
(´・ω・`)「間違いなく他殺です」
(メ._,)「………ほう」
.
- 691 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 20:16:02 ID:Z.nGAT9YO
- どうしよう
投下の途中で致命的な欠陥に気がついてしまった
- 692 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 20:18:55 ID:Z.nGAT9YO
- 書き直すのでしばしお待ちください
- 693 名前:名も無きAAのようです:2012/03/28(水) 21:18:28 ID:L9qaDj8A0
- がんばれ
- 694 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/03/28(水) 21:36:45 ID:Z.nGAT9YO
- 今日中に投下しきれそうにないので、まだ5節しか投下していないですがここで切ります。
予定では前編は17節程……つまり三分の一も投下できておらず、まことに申し訳ない所存です。
校正入れ直していろいろ編集するので、まともに投下できる日はいつになるかわかりません。
前編だけでも、今週中を目標に投下し終えたいところです。
投下の延期、中断、と手前の度重なる失態をお詫び申し上げます。
- 695 名前:名も無きAAのようです:2012/03/28(水) 22:54:31 ID:f./5zMhMO
- そうかそれは残念だ、また投下待ってる
- 696 名前:名も無きAAのようです:2012/03/29(木) 17:26:00 ID:x44C8FBM0
- 致命的な欠陥気になるなあwwww
- 697 名前:名も無きAAのようです:2012/04/14(土) 00:33:11 ID:eHFzSA6Y0
- 致命的な欠陥が発覚してから何週間経ったんだろうか
- 698 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/16(月) 17:11:04 ID:RyrQf0tAO
- >>697
はたしてこれを投下すべきかどうか、で悩んでいるってところですね。
別の番外編を作り直すか、このまま投下するか。
致命的な欠陥というか、非現実的要素が入っている事に気がついたっていうか。
香りの段階で非現実的要素については様々なご意見を頂戴しております故、悩んでます。
- 699 名前:名も無きAAのようです:2012/04/16(月) 17:16:56 ID:D/UR.wC60
- ベルトから出して蹴ったボールがホーミングして犯人に当たる推理物もあるし
多少なら別にいいんじゃないかな
- 700 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/16(月) 17:28:25 ID:RyrQf0tAO
- 一応、さすがに霊媒して犯人の名前を言わせて解決とかそういうレベルではないのですが、
それでも、この進行や結果では賛否両論が出そうだなあ、と悩んでました。
とりあえず投下するという方針で、校正を入れておきます。
リアルの方が多忙になってきたのと、他の現行・短編・偽り新作と並行して書きためを行っている故
作業スピードが格段に落ちているので、まだ「○月○日に投下できるよー」とは言えないです。
今月中の投下を目標に頑張ってはみますが……
投下する時は、予告なし+sage進行でひっそり投下するので
「あ、来てるやん」な感じで読んでもらえると嬉しいです。
- 701 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:07:46 ID:rxw3yPP.O
- ひっそりと投下します
- 702 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:10:11 ID:rxw3yPP.O
-
−6−
三月は、ショボーンをじっと睨んだ。
怯むことはないが、若干畏まったように見えた。
(´・ω・`)「さすがに、この状況下で自殺とは考えられませんね」
(´・ω・`)「旅館で死ぬ意味。漬け物を少しだけ食った理由。
. まして、投身や首吊りを選ばないところを見るだけで、明白です」
ショボーンは、別段推理に詰まる様子もなく、板に
流した水のようにすらすらと自分の見解を述べていった。
その迷いのなさに感心したかのように、三月は少し笑った。
(メ._,)「なら……わかるだろう……」
(メ._,)「食事中に倒れ……真っ先に疑われる死因……」
(メ._,)「……毒殺だ……」
(´・ω・`)「ショック死じゃないんですね」
憮然として聞き返す。
(メ._,)「食事中に考えられるショック死……アレルギーだろう……」
(メ._,)「だが……その場合は……防衛反応が働き……嘔吐など起こるのが当然だ……」
(メ._,)「まして……漬け物しか食っておらず……
箸を調べる限り……やっこさん進んで食っている……」
(メ._,)「辛うじて……四肢が痺れていた形跡は確認されたしな……」
.
- 703 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:13:56 ID:rxw3yPP.O
-
(メ._,)「消去法で言えば……毒殺だ……」
(´・ω・`)「妙ですな。毒殺にしても、症状が――」
(メ._,)「それは……死亡が確認されたのち……解剖して調べるつもりだ……。
今大事なのは……死因ではないからな……」
(メ._,)「尤も……現段階では『中毒』ではなく『不明』としておいたが……」
伝・ー・)「へ?」
(´・ω・`)「え?」
三月が自嘲気味に言うと、水須木とショボーンの二人が声を揃えて驚いた。
なんだと思いショボーンを見つめ返すと、そのショボーンは水須木を睨んだ。
(´・ω・`)「おい、毒殺未遂ってまだ決まってないじゃないか」
;`・ー・)「えっと……」
(メ._,)「! ……まさか……また早とちりしたな……?」
;`・ー・)「もも、申し訳ないっす! つい、刑事(デカ)としてのカンが――」
(メ._,)「あとで……重い一発を覚悟しておけ……」
;`・ー・)「勘弁!」
.
- 704 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:17:56 ID:rxw3yPP.O
-
三月が言うと、丁度同じタイミングで横たわる男が運ばれていった。
撮るべき写真は撮り終え、一通りの調査は終えたので、男は運ばれた。
男がいなくなった後の現場は、どこか寂しげに見えた。
被害者を見送った後、三月は思い出したかのように水須木を呼んだ。
重い一発を与える様子は見られない。
ただ、指示を与えるだけのようだ。
(メ._,)「容疑者を……呼んでもらおうか……」
伝・ー・)「はッ!」
三月の指示で、水須木が動いた。
若い水須木は、敬礼した後急いで別室に飛んでいった。
漲る若さ故の力を感じさせ、ショボーンも少し微笑ましく見ていた。
そして、現場に残されたショボーンと三月、そして詰め寄られていた阿部が向かい合った。
ぴりぴりとした空気が、ショボーンは嫌だった。
.
- 705 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:19:29 ID:rxw3yPP.O
-
(´・ω・`)「阿部さん、これはどういう事だ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「見たままだ」
(メ._,)「殺人未遂となるか……殺人となるか……。
お前の命運は揺らいでいるな……」
N| "゚'` {"゚`lリ「だから俺じゃないって言ってるだろう?」
おどけた様子で、阿部は否定した。
この事件を楽観視している節が見られる。
ショボーンが来るまでは水須木に詰め寄られていて、また三月にこう言われる以上、
二人いるとされる容疑者のうち一人は阿部なのだろう、と予想はついていた。
阿部はショボーンの同期で、仲も頗る良い。
そんな彼が容疑者であるのが、俄には信じられなかった。
.
- 706 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:20:44 ID:rxw3yPP.O
-
(メ._,)「警察きっての天才と呼ばれたお前が……まさか容疑者になるとは……な」
N| "゚'` {"゚`lリ「三月さんも冗談がキツいぜ」
「ふん」と言って、三月はそっぽを向いた。
相変わらず腕は組んでいる。
三月は、ショボーンや阿部と違って抜きん出た才能を持っていたわけではない。
その長いキャリアのなかで、得てきた経験。それが三月の糧となっているのだ。
まあ、経験というこの上ない武器を持っているのは、三月だけではない。
ショボーンも同様に持っているのだ。
ただ、三月は、それを大きく上回っているだけである。
これが、彼から漂う威厳の正体だった。
(´・ω・`)「当時の状況を詳しく聞こうか」
N| "゚'` {"゚`lリ「ショボは俺を疑っているのか?」
(´・ω・`)「データが足りないんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「……ああ、そうだな。データが足りない。俺もだ」
(´・ω・`)「?」
ショボーンは思わず首を傾げた。
.
- 707 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:24:08 ID:rxw3yPP.O
-
N| "゚'` {"゚`lリ「俺も、なにが起こったのか把握しきれていない。
なんせ、事件が起こって十五分しか経ってないんだ」
(メ._,)「現場には……あのデカブツしか連れてきてない……。
残りのメンバーで……仏さんの人間関係を洗っているところだ……」
ショボーンは、「まだそれだけしか経ってないのか」と思った。
阿部から電話がきて、急遽タクシーを拾って葉桜館までやってきた。
事態を呑み込めずにいて、時間が進むのが速く感じられたが、実はそうでもなかった。
よくあることだ。
本当に急いでいる時は、時の流れは思いのほか経っていないことが多い。
(´・ω・`)「……お?」
伝・ー・)「おやッさん、連れてきましたよ」
ノパ听)「……」
.
- 708 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:25:51 ID:rxw3yPP.O
-
−7−
水須木が、一人の女性を連れて部屋に戻ってきた。
紫がかった桃の和服を着ている女性が、後ろにいる。
容姿で見れば、被害者の男より若く見えるも、三十後半は喰っているだろう面だった。
伝・ー・)「葉桜ヒート、この葉桜館の女将です」
ノパ听)「……」
葉桜ヒートと呼ばれた女将は、ぺこりと頭を下げた。
暗い茶髪と桃の和服とが相まって、若く見えるのは前述の通りだ。
だが、女将となると四十は喰っているだろう。
短い歩幅で、水須木と共に三人のもとに寄った。
三月の放つ威圧感に怯んでいるようだった。
(メ._,)「なぜ……容疑者なのか……説明をしてやれ……」
伝・ー・)「はッ!」
三月に敬礼をして、水須木はショボーンの方に顔を向けた。
清々しい顔つきで、晴れやかに説明を施した。
.
- 709 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:27:33 ID:rxw3yPP.O
-
伝・ー・)「この葉桜ヒート氏だけどな、動機・機会ともに揃ってるんだぜ!」
(メ._,)「女将である以上……犯行の機会は聞くまでもない……。動機とは……なんだ……?」
伝・ー・)「彼女は、仏さんと同級生なんだ」
(´・ω・`)「……ほう」
ノハ;゚听)「確かに彼とは高校時代の同級生ですが……」
葉桜がおどおどしながら言った。
語尾を濁したが、伝えたい意思は伝わっただろう。
水須木は、眼をくわっと開いた。
伝・ー・)「シャラップ! 同級生というだけで犯行動機などあるも同然なんだぜ」
ノハ;゚听)「ええ……?」
(´・ω・`)「三月殿、そうなのですか?」
(メ._,)「それを……警部補を筆頭に目下検討中だ……」
(´・ω・`)「警部補、ねぇ」
ショボーンは笑った。
アルプス県警の警部補と言えば、一人しか浮かばなかったのだ。
アルプス県警の警部と警部補が親子である事から、巷では親子警部と呼ばれている。
.
- 710 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:29:12 ID:rxw3yPP.O
-
N| "゚'` {"゚`lリ「現状から言って、寧ろ俺以外に容疑者がいる事が驚きだな」
(´・ω・`)「言ってる場合か。……それよりも、僕にもその現状を教えてくれないか」
(メ._,)「デカブツ……教えてやれ」
伝・ー・)「はッ!」
躯の大きな水須木は、どうやらデカブツと呼ばれているようだった。
言われるがままに、また敬礼してショボーンと向き合った。
中肉中背、いや少し背の低めなショボーンから見ると、水須木は若いのもあってか通常より大きく見えた。
伝・ー・)「仏さんの名は擬古フッサール。VIPの検事です」
(´・ω・`)「VIP?」
(メ._,)「ああ……。だからショボには悪いが……しばらくは知恵を借りさせてもらうぞ……」
ショボーンは言うまでもないがVIPの警察官である。
被害者の擬古もVIPの者と聞いて、親近感に近い感情が湧いたのだ。
検事が狙われた以上、VIPは総力を挙げて犯人を極刑に処すだろう。
そのためにも、同じVIPの人間であるショボーンの協力は、ないよりかはあったほうがよかった。
.
- 711 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:32:07 ID:rxw3yPP.O
-
(メ._,)「話を逸らして悪かったな……続けてくれ」
伝・ー・)「はッ。容疑者であり第一発見者でもある阿部高和氏は、それを十九時十分頃に目撃」
伝・ー・)「呼吸器官が悉く停止してるけど、脈は動いてんだ。
でも、現状から考えてアルプス県警では――」
(´・ω・`)「さっきも思ったんだが……、
. 呼吸は止まっているのに心臓は動いているって、どういう事だ?」
;`・ー・)「それが……」
生き生きとしていた水須木が、言葉を濁した。
ショボーンの疑問は尤もなのだ、当然反論の術は用意しておくものだろう。
なぜすんなり言えないのか、不思議に思った。
すると、横から三月が口を挟んだ。
(メ._,)「検死官も大層驚いていたが……」
(メ._,)「死体状況が……限りなくおかしいのだ」
.
- 712 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:34:18 ID:rxw3yPP.O
-
−8−
三月は、そう言い切った。
死因について不審に思うところ、ショボーンも同じである。
三月が言った後で、ショボーンが言葉を返した。
(´・ω・`)「気になっていたのですが、毒物反応などは」
(メ._,)「箸……飯……手……碗……。
考えられそうな箇所の毒物反応を調べたが……無反応だ」
(´・ω・`)「じゃあ、食事に混入させた訳じゃないんですね」
「ああ」と肯いて、三月は続けた。
(メ._,)「珍しい方法だが……芋なんかの中に注入するか……
錠剤なんかで毒を与えた……。……そう見ていいだろう」
N| "゚'` {"゚`lリ「……」
(´・ω・`)「?」
錠剤という言葉を三月が言った瞬間、阿部が視線を泳がせたような気がした。
ショボーンが横目でちらっと阿部を見るが、別段平生を取り乱している訳ではない。
気を取り直して、ショボーンは死体状況についての説明を促した。
.
- 713 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:35:49 ID:rxw3yPP.O
-
伝・ー・)「呼吸器官は停止。なのに脈は弱いけど動いている。
いわゆる、無呼吸と一緒なんだぜ」
(メ._,)「敬語を……弁えろ……」
;`・ー・)「おっと!」
;`・ー・)「とにかく、変死体なんです」
(´・ω・`)「なぜ?」
(メ._,)「言っただろう……。検死官が……自分でもはじめて見た……と言っているのだ……。
我々にわかる訳がない……」
ショボーンは鼻を鳴らした。
これ以上聞いても、なにもないと思ったのだ。
ただ呼吸器官を止めるだけなら、生きていてもできる。
だが、瞳孔は開ききり、呼びかけても反応を示さない。
失神と無呼吸の合併症ではないか、と検死官が言っていたと三月。
ショボーンも肯くよりほかなかった。
.
- 714 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:37:33 ID:rxw3yPP.O
-
(´・ω・`)「では、犯人はなんらかの方法で毒物を害者にのませた、
. その媒体が未だに解明できず、と」
伝・ー・)「概ねそうだぞ」
水須木が鼻息を荒くさせた。
自分のなかでは、既にこの事件のストーリーができあがっているようだった。
ほうっておけば、今からでも容疑者を逮捕しかねない行動力が感じ取れた。
阿部のほうを向き、続けて葉桜のほうを見た。
にんまりと笑んで「わかったぜ」と言った。
これからの彼の行動を察したのか、三月は拳をもって制止した。
(メ._,)「捜査も充分してないのに……逮捕しようとする馬鹿がどこにいる……!」
;`・ー・)「痛っ!」
(´・ω・`)「まあ、毒殺となれば女将や給仕が疑われるのは必然として……。
. ほかに容疑者はいないのですか?」
(メ._,)「……デカブツ」
.
- 715 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:39:35 ID:rxw3yPP.O
-
「教えてやれ」と続くであろう言葉を、三月は呑み込んだ。
じろっと水須木を見た途端、水須木は顔が蒼くなったのだ。
「もしかして」と言うと、水須木は頭をさげた。
;`・ー・)「さっぱりです!」
(メ._,)「……」
(;´・ω・)「……」
水須木は、毒殺と聞いて真っ先に女将である葉桜のもとに向かい、
擬古と知り合いと聞いて衝動的に容疑者扱いにしたようだった。
逆に言えば、彼女以外についての宿泊客の情報はさっぱりで、
それを調べなければならない水須木は、その任務をすっぽかしていた。
ショボーンが心配したのは、水須木の来月の給与だ。
三月が、拳を震わせているのだ。
怒った時の三月が怖いということは、有名である。
(メ._,)「調べてこい……!」
;`・ー・)「失礼します!」
三月の鉄拳を恐れた水須木は、星をみる前に、と素早く部屋を出ていった。
溜息を吐く三月を少し見つめてから、ショボーンは口を開いた。
(;´・ω・`)「なんというか……若いですな」
(メ._,)「馬鹿な刑事は……走ることしか脳がないのだ……」
(´・ω・`)「若いうちは走らせるのが一番ですな」
三月は目に見えぬ程度に笑った。
.
- 716 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:40:35 ID:rxw3yPP.O
-
−9−
十数分すると、水須木が帰ってきた。
思っていたよりも早く、ショボーンは感心した。
伝・ー・)「容疑者が増えました!」
(メ._,)「……ほう」
伝・ー・)「来るんだッ!」
(;-_-)「……」
水須木は、後ろに立っていた痩身の男を室内に招き入れた。
挙動不審で、きょろきょろし、特に三月の眼を見た途端に、「ひっ」と小さく悲鳴をあげていた。
浴衣ではなくジャージ姿で、比較的若い様に見える。
彼の蒼い唇を見て、三月が問うた。
(メ._,)「誰だ……」
伝・ー・)「小森マサル、無職。一時間ほど前に宿泊しています」
(;-_-)「小森……マサルです」
おどおどして、小森も言った。
やはり、三月の放つ威圧感にねじ伏せられているようだ。
.
- 717 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:42:14 ID:rxw3yPP.O
-
(メ._,)「擬古とは……どういう関係だ……」
小森に睨みを一層利かせて、訊いた。
すると、小森ではなく水須木が先に答えた。
生き生きとしていて、活力が満ち溢れているようだった。
伝・ー・)「彼ですが、女将に続き、やはり被害者と知り合いなんですよ!」
(メ._,)「……またか」
ショボーンの眉が、ひくと動いた。
(メ._,)「知り合いだけって理由じゃ……ないだろうな?」
伝・ー・)「もちろんです、刑事は同じミスを繰り返しません!」
(メ._,)「言ってみろ……」
伝・ー・)「この小森さんですが、擬古に多額の借金をしているようなのですよ!」
(メ._,)「…………なるほど」
(´・ω・`)「借金?」
黙っていたショボーンが、ここで水須木に尋ねた。
聞き慣れない言葉が言われたからだ。
小森は顔を一層蒼くさせた。
.
- 718 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:45:21 ID:rxw3yPP.O
-
伝・ー・)「その借金を苦に、つい――」
(;-_-)「借金って言っても、ちょーっとだけなんですよ?
全く関係ないです!」
水須木に食らいつくように、小森が否定した。
かぶりを振って、水須木が更に主張を強める。
伝・ー・)「ビークワイエッツ! 借金を苦に殺っちまうケースなんざ、星の数ほどあるんだぜ。
答えろ、いったいいくら借りちまったんだ?」
(;-_-)「で、でも……」
小森は口を開こうとせず、もごもごとだけさせた。
言い出しにくいことなのだろう、言う勇気を持ち合わせていないようだ。
(メ._,)「訊かれた事には……答えろ……!」
(;゚_゚)「答えます答えます!」
しびれを切らした三月が、小森に詰め寄った。
明らかに小森より低い身長なのに、三月の背後に龍が居るかのように見えたのだ。
どうも、三月の周囲三十センチの空気は、ほかと違う。
萎縮し、小森は早速観念した。
声を震わせ、すっきりしない口調で言った。
(;-_-)「三百万だけ、です! ほんとそれだけです!」
(´・ω・`)「三百万……」
;`・ー・)「三百万だと!? 逮捕だ逮捕!」
.
- 719 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:46:42 ID:rxw3yPP.O
-
ショボーンは声を籠もらせ、水須木は手錠を取り出した。
それほど、出された額が予想外だったのだ。
大した額ではないと前置きするには、不調和な数字だった。
鉄の輪を振り回す水須木を制止して、三月が小森から数歩離れた。
(メ._,)「それで……返せないと踏んだお前は……殺っちまったのか……」
(;-_-)「殺したの、ぼくじゃありませんよ!
それに、借金ったって、たったの三百万じゃないですか!」
(メ._,)「話を聞く前に……その腐った金銭感覚を鍛え直してやろうか……?」
(;゚_゚)「ちょ、苦じいでず!」
三月は再び歩み寄っては小森の喉元を締め上げ、小森は喘いだ。
よほど彼の態度が気に喰わなかったようで、三月の剣幕は恐ろしかった。
あたかも借金が動機でないように振る舞おうとしているのが、見ていて見苦しかったのだ。
.
- 720 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:47:59 ID:rxw3yPP.O
-
少しして手を離した三月は、咳き込む小森をよそに、水須木に問いかけた。
お気の毒そうな目で小森をみる水須木は、額に冷や汗を浮かべていた。
(メ._,)「えらく早かったが……全員調べたのか……?」
伝・ー・)「ええ、簡単な作業でした」
(メ._,)「そして……怪しい人物はこいつだけだったのか……?」
伝・ー・)「その事ですが」
(メ._,)「……?」
伝・ー・)「もう一人、挙動不審すぎる人を連れてきました」
(´・ω・`)「挙動不審すぎる?」
伝・ー・)「来いッ!」
ショボーンが首を傾げていると、廊下の方から騒ぎ声が聞こえてきた。
警官が、一人の女性を連れて室内にやってきた。
喚いている彼女を見て、ショボーンは目を丸くさせた。
.
- 721 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:49:10 ID:rxw3yPP.O
-
−10−
(`・д・)ゞ「彼女です」
伝・ー・)「うム、ごくろうッ!」
敬礼したままの警官が、女性と初老の男性を連れてきた。
女性の方を水須木に引き渡すと、水須木は声高らかに言った。
警官が帰ったのち、水須木が彼女に詰め寄ったのだが、やはり彼女は騒がしかった。
伝・ー・)「さて、お嬢さん」
(゚、゚;トソン「違うんです! 私なにもしてません! ほんとです信じてください!」
(´・ω・`)
女性は、水須木に睨まれただけで、すっかり混乱していた。
首を縦に横にぶるんぶるん振るい、手取り足取り使って自らの潔白を証明しようと振る舞う。
そのたびにポニーテールが揺れ、文字通り馬が尻尾を振るわせるかのような動きに見えた。
ショボーンは笑いを堪えていた。
(メ._,)「確かに……落ち着きのない嬢さんだな……」
三月は呆れ気味に言った。
.
- 722 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:50:30 ID:rxw3yPP.O
-
(゚、゚;トソン「私はただおじいちゃんとアルプスに旅行に来てて……。
あ、ほらおじいちゃんも言って!」
( )
(゚、゚;トソン「黙ってちゃ捕まるよ! おじいちゃん!」
(´・ω・`)
女性は、祖父と思われる初老の男性にそう訴えかけた。
だが、男性は首を傾げもせず、沈黙を貫いていた。
悲痛の叫びをものともせず、そよ風を顔面で受け止めているかのような、堂々たる姿だった。
見かねた三月が、水須木に説明を求めた。
いまの彼女に尋ねても、まともな答えは返ってこないだろうと思ったのだ。
伝・ー・)「彼女は――」
(´・ω・`)「都村トソン?」
笑いを堪えているせいで顔が歪んだショボーンが、言った。
抑揚が安定しておらず、平生の彼ではない。
その語調を聞いて、先程から落ち着きのない彼女は振り向いた。
(゚、゚トソン
(゚、゚トソン「警部!」
.
- 723 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:52:17 ID:rxw3yPP.O
-
伝・ー・)「知り合いなのか?」
水須木があっけらかんとした顔で訊いた。
ショボーンは、彼女が知人である都村トソンと認識すると、再び固まった。
偶然の再会は、望ましくないかたちのように思えた。
再会が事件によるものだと、その再会を心の底から喜べないからだ。
しかし、ショボーンにとっての都村は、別だった。
ショボーンは、担当する事件の先々で、しょっちゅう彼女に出くわしてしまうのだ。
(´・ω・`)「そこでなにしてんの?」
(゚、゚;トソン「そこの刑事さんに取り押さえられて……」
(´・ω・`)
ショボーンは、一瞬黙った。
(´・ω・`)
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃ! ば、ばーっかでねーの!
. ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!」
(゚、゚;トソン「笑わないでください! ピンチなんです私!」
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃ……げほっ!げほっ! ひゃひゃ!」
ショボーンは腹を抱え、自分でも考えられないほどに大笑いした。
彼の笑いのつぼには、常人には理解し難いものがあるのだ。
そして、一度つぼが押されると、暫くは笑いが止まらない。
(メ._,)「どうやら……ショボのまわりだけ空気が違うようだが……」
N| "゚'` {"゚`lリ「ショボ、その子は?」
.
- 724 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:53:17 ID:rxw3yPP.O
-
緊張が走る筈の事件現場にて、明らかにショボーンと都村の間だけがほかと違っていた。
完全に周りから浮いており、鑑識も二人を見つめる始末である。
だが、ショボーンはそんな事はどうでもよかった。
ただ、都村が慌てているのが、愉快だったのだ。
さすがに放っておく訳にはいかないので、阿部が仲介に入った。
三月も阿部を咎めはしなかった。
いつもの飄々とした口振りで、ショボーンに問いかけた。
咳き込み、息を整えるショボーンは、涙を拭いていた。
(´・ω・`)「都村トソン。いろいろと残念な女の子だ」
(゚、゚;トソン「残念ってなんですか!」
ショボーンが彼女と知り合う事になったのは、今から一年ほど前となる。
出会った当初から彼女のインパクトは強く、ショボーンの脳に印象を深く刻み込んでいた。
その彼女が、なんの変わり映えなく現れ、予想通りの動きを見せるので、たまらなくおかしかったのだ。
.
- 725 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:54:20 ID:rxw3yPP.O
-
(メ._,)「とにかく……今は捜査中だから黙ってろ……」
(゚、゚;トソン「ごご、ごめんなさい! ほら、おじいちゃんも謝って!」
( )
(メ._,)「うるさいのは……お前だけだ……!」
(;、;トソン「ごめんなじゃい……許じで……!」
(´;ω;`)「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
.
- 726 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:55:51 ID:rxw3yPP.O
-
−11−
ショボーンが抱腹絶倒すると、さすがに阿部も痺れを切らしたようだった。
自分が容疑者である事を、忘れているかのように見えたほどだ。
やれやれと言って、視線を都村から逸らした。
彼女は、三月の剣幕に驚いて、ひたすら頭を下げている。
騒がしく、現場の空気じゃないな、と思った。
N| "゚'` {"゚`lリ「で、ショボよ」
(´;ω;`)「ひー…ひー…」
(´・ω・`)「……うぉっほん!」
N| "゚'` {"゚`lリ「この四人が持つ、害者との関係とかは――」
四人と言うのは、阿部、葉桜、小森、都村という容疑者を指したのだろう。
自ら進んで、捜査の指揮をとろうとするのが窺えた。
刑事としての癖なのだろう。
ショボーンが都村に気をとられている今、自分が引率しないと、
捜査そのものが食い止められるような気がしたのだ。
すると、ショボーンは顔を上げた。
少し首を傾け、口角をあげて、不遜さが滲んでいる。
(´・ω・`)「彼女、トソンちゃんは無実だ」
(メ._,)「……?」
.
- 727 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:57:53 ID:rxw3yPP.O
-
勝ち誇った顔で言うのだから、三月も疑問符を浮かべた。
普段のショボーンなら、根拠のない推理や結論は、必ず出さない。
なぜ無実と言ったのか、わからなかった。
伝・ー・)「知り合いだからって、根拠のない贔屓はどうかと思うぜ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうだぜ」
N| "゚'` {"゚`lリ「仲のいい知人が犯人である――
そういうケースも……あるんだからな」
(´・ω・`)「違う違う」
反論する水須木と阿部だが、表情を変えないショボーンをみて、つい押し黙ってしまった。
この顔は、彼がなにか決定的なものを隠し持っている時にでる余裕ゆえに表れるものだ。
手札を持っている時のショボーンは、こういった嫌な笑みを浮かべる事が多い。
(´・ω・`)「こんなバカな子に、殺しなんてできないよ」
(゚、゚;トソン「え! できますよ殺人くら――」
(´・ω・`)「っていうのは冗談で……。毒薬の入手経路。犯行動機。犯行機会。
. どれひとつとして、釈然としないんだよ、彼女が犯人だと」
(メ._,)「……ほう」
.
- 728 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 22:58:55 ID:rxw3yPP.O
-
(´・ω・`)「まして、祖父を連れて殺人する犯人はいないだろうしね」
N| "゚'` {"゚`lリ「それはそうだが――」
憮然とした態度で、阿部が言葉を濁した。
どうもしっくりこなかった。
というのも、ショボーンが他人に肩入れするなんて、昔の彼には見られなかったのだ。
その事が、古くからショボーンを知る者として、釈然としなかったのだと思われた。
伝・ー・)「でも、いま『できますよ、殺人くらい』とか言わなかったか?」
(゚、゚トソン「言ってません」
伝・ー・)「こいつぁ自白の匂いがするぜ……!」
(゚、゚;トソン「してません!」
(´・ω・`)「とにかく。トソンちゃんは隅っこの方で座っておきなさい。邪魔だから」
(゚、゚;トソン「警部ひどい!」
.
- 729 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 23:00:07 ID:rxw3yPP.O
-
ショボーンが言うと、ぶつくさ文句を言うも、言われるがまま部屋の隅に向かった。
その道中で、鑑識の邪魔をしてしまい、都村は涙目で謝っていた。
やはり、どこまでもどじを踏む様子は、昔と変わっていなかった。
一方で、彼女の祖父と思われる男性は、依然として同じ場所に立っている。
(´・ω・`)「まあ、彼女にはあとでよおく言っておくよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それはいいとして……だ」
ノハ;゚听)
(;-_-)
阿部は、後ろの方で呆然と立ち竦む葉桜と小森を見た。
彼らは、移りゆく空気のなかで、すっかり取り残されたようだ。
都村に構い過ぎて、彼らの存在を忘れていたと言ってもいいだろうか。
慌ててショボーンが本題に戻った。
(;´・ω・`)「えっと……じゃ、三月殿。あとは委せました」
(メ._,)「……この野郎」
.
- 730 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/21(土) 23:02:18 ID:rxw3yPP.O
- まだ前編まで五節ほど及びませんが一旦切ります。
明日にでも前編を投下し終えます。
- 731 名前:名も無きAAのようです:2012/04/21(土) 23:58:21 ID:SikpxFVE0
- ひっそりと乙
致命的な欠陥含め展開が楽しみだ
- 732 名前:名も無きAAのようです:2012/04/22(日) 02:25:37 ID:h1hN.Zy20
- トソンちゃんキター
相変わらず各人のキャラが立ってていいな
乙です
- 733 名前:名も無きAAのようです:2012/04/22(日) 03:43:18 ID:G.cK8i4U0
- ひっそりとおつんつん
ただ一つだけ気になったのでお節介承知で言わせてもらうと
>~よりかは
という表現は存在しなくて、>~よりは、が正しい表現
どうも気になってしまう
スレ汚しスマン
- 734 名前:名も無きAAのようです:2012/04/22(日) 13:26:20 ID:JlT8jXBMO
- たぶん致命的な欠陥は見抜けないだろうな
犯人予想に集中することにしよう
- 735 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:22:53 ID:X2jUawsoO
- >>733
そうなのですか! 初耳です。
ご指摘ありがとうございます、以後確認できれば直していきます。
眠くなるまで投下します。
- 736 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:27:38 ID:X2jUawsoO
-
−12−
三月はぎろっとショボーンを睨んだ。
ここで一つ補足を入れておきたい事がある。
VIPのある刑事をも彷彿とさせる、このどんな凶悪犯でも
怯えさせる三月の眼だが、唯一威圧が効かない人間がいるのだ。
三月といえば、ぼろぼろのコートに腕組み、そして充血でもしているのか、真っ赤な眼である。
その眼で睨んでも、全く震え上がらない人間がいる事に気づいたのは、十年以上も前の話だ。
(;´・ω・`)「はは」
(メ._,)「……」
その唯一の男は、ショボーン。またの名を、イツワリ警部だ。
噂は当時はからっきしで、所詮一介の刑事にすぎないと思っていたのだが、
実際に初めて会った時、三月は驚いたものだった。
まさか、自分が睨んで怯えない人間がいるなど、思ったこともなかったのだ。
それは、今でも相変わらずである。
.
- 737 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:30:42 ID:X2jUawsoO
-
(メ._,)「……電話か」
ショボーンが照れ隠しにへらへらと笑っていると、電話の着信音が室内に響いた。
自分のそれに似ていたのでショボーンは携帯電話を取り出したが、違った。
音の発生源を辿ると、三月ウサギ警部の黒いコートからだった。
ショボーン同様に、受話音量が大きく設定されていて、通話先の声が他の者にも筒抜けだった。
意識せずとも、通話先の相手の声が認識されてしまう。
(メ._,)「……我の名は……三月ウサギ……。力の求道――」
『いい加減そのばかなセリフはやめてください』
(メ._,)「…………すまん」
(´・ω・`)「あらあら」
三月は持ち前の啖呵を切ったのだが、それが言い終わる前に
比較的高い女の声が聞こえ、三月にくってかかった。
逆上するかと思えば、三月はしょぼんとして押し黙ってしまった。
どうやら、彼にも頭の上がらない人物はいるようだ。
そしてショボーンは、声を聞き、三月の態度を見て、すぐにそれが誰かを理解できた。
.
- 738 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:34:16 ID:X2jUawsoO
-
『被害者の妻を重要参考人として
そちらの方に遣わせました事を報告します』
(メ._,)「妻……だと?」
『擬古フッサールの家族関係は妻だけで、子はいません。
夫婦ともに両親は他界しており、被害者は彼女にとって唯一の身よりだったようです』
(メ._,)「……そうか……。ご苦労……」
(´・ω・`)「(調べるのが速すぎるな)」
しかし、手回しが驚くほどよすぎるのが彼女だったな、とショボーンは思い出していた。
現場に警部補を連れてこなかった三月の意図も、わかった気がした。
被害者、擬古フッサールについてのざっくりとした情報を聞き、三月は電話を切った。
擬古は地元の中学校を卒業後、VIPでも上位に入る高校へ入学、毎度のように好成績を叩き出していたようだ。
そこでとある女子生徒と恋に落ち、擬古は幸せな学生生活を送っていた。
卒業後、都立大学の法学部に入学、検事になるために研鑽を積んだ。
法学院をでて、VIPで検事に就職、様々な裁判を経験して立派な検事になった。
高校の時に付き合っていた彼女とはそのまま結婚したらしい。
まさに、平凡ながらも誰もが羨む幸福な人生を送っていたのだ。
.
- 739 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:35:31 ID:X2jUawsoO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「フサ……」
(´・ω・`)「どうした」
三月が電話を仕舞う頃に、阿部はぼそっと擬古の名を言った。
その姿が感傷的に見えたので、ショボーンも不思議に思えた。
N| "゚'` {"゚`lリ「何度も法廷で共に戦った仲だったんだぜ」
(´・ω・`)「そうなのか?」
初めて聞いた情報だった。
てっきり、阿部は被害者とは無関係だと思っていたのだ。
だが、考えてみると食事を同席しているため、寧ろそれは当然だった。
ショボーンが訊くと、「ああ」と言って阿部は続けた。
N| "゚'` {"゚`lリ「今日も、ある件について話をするつもりだったのさ」
(メ._,)「つまり……動機はあると……」
N| "゚'` {"゚`lリ「まあな。否定はしない」
(´・ω・`)「ある件、って?」
ショボーンはごく自然に尋ねたのだが、阿部は口ごもってしまった。
視線を逸らし、頭を掻いて唸っている。
長いこと唸った上で発した言葉が、「極秘事項だ」の一言だった。
.
- 740 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:36:23 ID:X2jUawsoO
-
(メ._,)「それが動機につながる事もある……正直に吐く事だな……」
N| "゚'` {"゚`lリ「三月さん相手でも言えないなぁ。
警察でも極秘裏で調査されてる事だから」
(´・ω・`)「僕も知らない、ってか」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ」
ショボーンはすぐに納得したが、三月は諦めなかった。
何度か同じ事を阿部に訊き、白状させようとした。
だが、阿部は言えないの一点張りで、情勢が動こうとは思えなかった。
だから、三月も諦めるほかなかった。
.
- 741 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:37:50 ID:X2jUawsoO
-
−13−
(`・д・)ゞ「水須木刑事!」
伝・ー・)「なんだっ!」
後ろから、威勢のいい警官に呼ばれ、水須木も威勢よく返事した。
駆け寄ると、先程三月が報告を受けていた擬古の妻が到着したと言われた。
警官の後ろには、桃色のコートが華やかな女性が立っていた。
警官に連れられ怯えているのを察した水須木は、「ご苦労」とだけ言って警官を帰した。
伝・ー・)「奥さんとやらの到着だぜ!」
(メ._,)「……早いな」
とだけ言って、三月はすぐその女性を招いた。
女性はおどおどしていて、葉桜や小森とは違った緊張の色を顔一面に張り巡らせていた。
ぺこりとお辞儀をして、女性は名乗った。
ζ(゚ー゚;ζ「……ぎ、擬古デレです」
(;-_-)「奥さん!」
ノパ听)「……」
.
- 742 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:39:05 ID:X2jUawsoO
-
デレの姿を見て、小森はオーバーに驚いた。
日頃から面識があると思われる。
葉桜ヒート同様に彼女も姥桜で、美しかった。
セットするのに手間がかかるであろう巻き髪が、より若さを演出していた。
しっかり化粧しているが、ファンデーションの上からでもその強張った顔色は窺えた。
(´・ω・`)「小森さんの知り合――」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな事よりも、夫は大丈夫なのですか!?」
(´・ω・`)「……」
デレにとって、憂慮すべきは夫の安否だった。
ショボーンにすがりつき、身体を揺すってそう言った。
夫を案じる様子は、妻として当然の態度だ。
彼女の問いに、三月が答えた。
(メ._,)「現在……病院に搬送されている……。生死不明だ……」
ζ(゚ー゚;ζ「そんな……そんな!」
(´・ω・`)「………」
.
- 743 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:40:58 ID:X2jUawsoO
-
デレは焦り、落ち着きを失っていた。
俄には信じられない、そう言いたげに。
声が震え、今にでも泣きだしそうな顔をしていた。
一方ショボーンは、彼女の様子を観察していた。
服装から容姿、言動から態度まで、全てを。
上から下までじっくり眺めてから、時計を見、口を切った。
(´・ω・`)「……お気の毒ですが、まずは犯人を押さえるのが先決です。
. 奥さんも、ご協力願えますか」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(´・ω・`)「奥さん?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
事務的にショボーンが協力を求めると、デレは黙った。
何だと思っていたところで、デレは口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱり」
(´・ω・`)「?」
.
- 744 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:42:39 ID:X2jUawsoO
-
ζ(;ー;*ζ「やっぱり、夫は……殺さ……れたのですか……?」
(´・ω・`)「…」
そう言うと、デレはしゃがみ込み、顔を手で覆った。
指の隙間から、大粒の涙が零れ落ちる。
せっかくの化粧が流れ落ちるな、とショボーンは思っていた。
静かな部屋の中で、嗚咽が止みそうになったのは三分後だった。
辛辣そうな顔をする水須木が手をさしのべると、デレがその手を借りて立ち上がった。
やはり、化粧が少し乱れていた。
ノパ听)「デレ、化粧し直しなさいな。案内してあげるから」
ζ(;ー;*ζ「……」
(´・ω・`)「(ん?)」
葉桜が低い声で言い、デレは肯いた。
手を引かれ、現場を後にした。
容疑者である手前、気弱そうな警官が一人ついていった。
(メ._,)「彼女にとって……遺憾な出来事だな……」
伝・ー・)「彼女、すごい泣いてましたね」
三月は肯きはしなかったが、否定しなかった。
この男は肯定を口にする事があまりない。
否定をしない事が、彼なりの応答なのだ。
.
- 745 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:43:57 ID:X2jUawsoO
-
(´・ω・`)「………」
(メ._,)「……どうした……ショボ」
(´・ω・`)「あ、いや……」
デレが来てから、ショボーンはすっかり寡言になっていた。
脳内にある粘土を、只管練っているようだった。
三月に声をかけられ、はっとしてショボーンは我に返った。
(メ._,)「とにかく……」
伝・ー・)「小森さんよ、お話を聞かせていただくぜ」
(;-_-)「話と言っても、なにを……」
三月と水須木に睨まれて、小森は萎縮した。
小森は、比較的神経の細い人と思われた。
気丈そうな葉桜とは対照的だった。
(´・ω・`)「デレさん」
( -_-)「?」
(´・ω・`)「デレさんとは、どういう人物ですか?」
.
- 746 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:46:43 ID:X2jUawsoO
-
−14−
( -_-)「奥さん……ですか?」
(´・ω・`)「はい」
小森は虚を衝かれたような顔をした。
自分と擬古との関係や、アリバイを問われると思っていたからだ。
そのように思っていたのは、小森だけではなかった。
水須木も、問われた訳ではないのに豆鉄砲でもくらったかのような顔をしていた。
伝・ー・)「ちょいとあんた、なんでここで彼女が出るんだ?」
(メ._,)「……」
(´・ω・`)「ちょっと気になる事があってね」
伝・ー・)「別に弁護する訳じゃないけどよー、彼女を探ってもなにもでないと思うぞ?」
.
- 747 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:49:07 ID:X2jUawsoO
-
思って当然の事を水須木は言った。
夫に献身的に見える彼女に疑念を抱く理由が、水須木や小森にはわからなかったのだ。
いや、ショボーンが彼女を疑っているのかは、まだわからないが。
すると、ショボーンが答えないうちに先に阿部が口を開いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「若造にはわからないだろうな、ショボの思考は」
伝・ー・)「へ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「訳の分からないところから訳の分からない可能性を見出す、
そんな訳の分からない奴がショボなんだぜ」
(´・ω・`)「こンにゃろ……」
(メ._,)「……ふん」
このようにショボーンに冗談を浴びせる事ができる人間も減ったものだ、と後ろで三月は思っていた。
しかし、言っている事は紛れもない真実である事も、同時にわかっていた。
一見価値があるのかわからない石ころがごろごろある山から
ダイヤの原石だけを見抜き拾う事があるのだ、ショボーンは。
三月も、ショボーンの言う気になる点とやらを聞いてみたかった。
.
- 748 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:51:24 ID:X2jUawsoO
-
(´・ω・`)「とにかく、デレさんとも知り合いなのでしょ?」
( -_-)「まあ……。フサさんの家におじゃますると、
決まって豪華な手料理を振る舞ってくれる、いい奥さんですよ」
(´・ω・`)「彼女は、夫に献身的でしたか?」
すると、小森は饒舌になった。
( -_-)「ええ、そりゃあもう。
フサさんも、奥さんの家事はカンペキだ、と絶賛してたし」
(´・ω・`)「その二人の間に、愛はありましたか?」
( -_-)「あ、愛?」
変な質問をするものだ、と小森は思った。
互いが互いを尊重しあう夫婦間に、愛が無い訳ないだろう、と。
だが、この時のショボーンの眼を見ると、とても冗談を言っている様子ではなかった。
本気で、ショボーンはそう尋ねたのだ、とわかり、小森も緊張して答えた。
( -_-)「そりゃあ……ラブラブだったんじゃないのでしょうか」
(´・ω・`)「夫が死ねば、哀しむような人なのですね?」
.
- 749 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:53:31 ID:X2jUawsoO
-
その質問があまりにも変だったため、水須木は待ったを入れた。
答えるまでもない、どころではなかったからだ。
伝・ー・)「どうみてもそうだろ? さっきもわんわん泣いてたし」
(´・ω・`)「いい事を教えてやる」
伝・ー・)「?」
(´・ω・`)「涙と哀しみというのは、密接に見えて実は無縁なものなんだ」
伝・ー・)「……ど、どういう意味だ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「哀しくなれば涙はでるが、哀しくなくても涙はだせる、という事だろうよ」
補足するように、阿部が言った。
ショボーンは肯かなかったが、おそらく意味は同じと思っていいだろう。
だが、水須木はどうも腑に落ちないようだった。
腕を組み、うーんと唸っている。
水須木が若いからわからないのか、水須木が賢くないからわからないのか。
.
- 750 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:55:45 ID:X2jUawsoO
-
(メ._,)「詮索を入れるのはいいが……
まずは全員のアリバイを確かめるのが先決だ……」
三月が、静かに言った。
(´・ω・`)「しかし」
(メ._,)「捜査権は……お前に委ねた訳じゃない……」
(メ._,)「知恵を貸してもらっているところで悪いがな……」
(´・ω・`)「………」
ショボーンは一瞬黙った。
自分の直感を信じるべきか、三月に従うべきか、で迷いが生じたのだ。
だが、意志は二通りあっても行動は初めから一つに絞られていたようだ。
(´・ω・`)「……そうですね」
ショボーンはちいさく肯いた。
.
- 751 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:57:08 ID:X2jUawsoO
-
−15−
ショボーンが身をひいたところで、デレと葉桜が戻ってきた。
デレも漸く落ち着いたようで、目は腫らしているも化粧の整った美しい顔となった。
だが、場の空気は相変わらず重く、張りつめている。
足を踏み入れた瞬間、デレは実体の掴めない威圧感に圧倒されそうになった。
ショボーンの顔を見ても、筋肉が解れ柔和にこそ見えるが、
決して彼に笑顔を見せられそうにはなかった。
ζ(゚ー゚;ζ「――」
伝・ー・)「落ち着いたか?」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ええ――少しは」
(´・ω・`)「(落ち着いた……か)」
表立って悪態を吐くことはなかったが、ショボーンはぶすっとした。
当然、ショボーンも有能である以上、意図的にポーカーフェイスを維持事はできる。
デレに自分の心情を読まれる心配はなさそうだった。
.
- 752 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 20:58:49 ID:X2jUawsoO
-
(メ._,)「早速で悪いが……」
三月が前に出た。
阿部、葉桜、小森、そしてデレの四人を前にして、腕組みを解いた。
その両手を腰にあて、視線をあげた。
三月の背は低いのだ。
(メ._,)「十九時一〇分頃に……ここで毒殺未遂の事件が起こった……」
(メ._,)「死亡は確認されてないが……呼吸困難を起こし……
いつ亡くなってもおかしくない……そんな状況だ」
(メ._,)「……被害者と面識のあるあなたたちには……犯行当時のアリバイと……
被害者……擬古フッサールの関係を……教えていただこうと思う」
伝・ー・)「別室で、個別に聞くべきですか?」
三月の事務的な口調に、水須木の個性的な声が載っかってきた。
もし犯人がこの中にいる場合、そしてその人物が話をする順序が後半だった場合だと、
先に他人が話した内容を聞き、証言を変えてくる可能性がある。
それを考慮した上で、ここでまとめて聞くべきか別個で聞くべきかを、水須木は訊いたのだ。
.
- 753 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:00:19 ID:X2jUawsoO
-
三月は首を少し俯かせた。
(メ._,)「ショボは……どう考える」
(´・ω・`)「アリバイはともかくとして、関係を聞くのは
. 別にどこで聞こうが差し支えないでしょう」
(メ._,)「……そうだな」
三月が肯くと、まず彼から見て左端に立っている阿部の方を見た。
精悍な面構えであり、刑事というより俳優という印象を持たせる。
三月が見ても、阿部は別段アクションを起こす事はなかった。
(メ._,)「阿部……まずはお前から聞こう……」
N| "゚'` {"゚`lリ「さっき言っただろ? 俺とあいつは、よく法廷で共にする仲だ、って」
(メ._,)「日頃の……奴の行動で不審な点……気になった点……そういったものもないのだな?」
.
- 754 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:02:29 ID:X2jUawsoO
-
すると阿部は黙った。
口を開いたのは、三月が頭を少しだけ下げた時だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「最近、でかい事件を検察と協力して
追ってるんだがなぁ……どうだろうな」
(メ._,)「お前は……倒れる直前の奴を見ていた……。
首尾を一から詳しく聞かせてもらおうか……」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺は面倒な事は嫌いなんだけどなァ」
N| "゚'` {"゚`lリ「……俺は、今日も大事な話があって、
フサの泊まると聞くここにやってきたんだ」
(メ._,)「それは……何時頃だ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「十九時前じゃないかな?」
(メ._,)「それで……?」
N| "゚'` {"゚`lリ「事件の話もほどほどに、フサの部屋で既に飯が
用意されてるとの事だから、俺もフサと一緒に飯を食ったんだ」
(メ._,)「……」
N| "゚'` {"゚`lリ「で、気がつけば倒れてた、という訳だ」
.
- 755 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:03:55 ID:X2jUawsoO
-
刑事というものは、総じて記憶力がいい。
三月はメモをとらず、阿部の証言を脳に叩き込んでいるようだった。
一方の水須木は、必死にメモをとっていた。
(´・ω・`)「順を追って言うと、十九時前、ここ葉桜館に宿泊手続きをとって害者と接触、
. 十九時すぎ頃にここで食事をとって、十分弱すると害者が倒れたんだな?」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうだ」
(´・ω・`)「そのときの害者の様子は」
N| "゚'` {"゚`lリ「風邪をひいてそうだったな」
(´・ω・`)「……風邪?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ。本人も調子が優れないと言ってたぞ」
(´・ω・`)「じゃあ、その時には既に毒がまわってたのかもしれないんだな?」
.
- 756 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:06:01 ID:X2jUawsoO
-
−16−
伝・ー・)「な、なにを言うかと覚えば……。
食事に毒が混ざってなかったとでも言うのか!?」
水須木は、ショボーンの言葉に食いかかった。
おかしいと突っ込むよりかは、驚いたような言いぐさだった。
それを宥めるように、ショボーンは答えた。
(´・ω・`)「可能性として無い訳では無い」
(メ._,)「……」
(´・ω・`)「どこかで擬古氏が毒物を摂取し、それが食事時になって
. ようやく体内に回ってきた――考えられない事ではない」
伝・ー・)「そんな遅効性の毒薬なんて……」
(´・ω・`)「DAT」
伝・ー・)「は?」
「思い出した事がある」と、続けてショボーンが言った。
腕を組み、渋い顔をして、今し方放った言葉について補足をいれた。
.
- 757 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:07:10 ID:X2jUawsoO
-
(´・ω・`)「……今日、アルプス県警で、各県警の警部以上の者が
. 集う講義が行われたのは、あんたも知ってるだろ?」
伝・ー・)「知ってるけど……」
(メ._,)「講義内容は……毒物=v
伝・ー・)「毒……?」
そこで、水須木ははっとした。
まさか、とは思ったが、ショボーンの推理が少しわかったような気がしたのだ。
今日、アルプス県警では講義が開かれた。
その内容を、ショボーンは必死に思い出していた。
テーマは毒だった。
しかし、その毒について気になる点があったため、
講義に無関心だったショボーンでも全内容を理解できた。
その内容とこの事件に、共通点が見いだせそうだったのだ。
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- 758 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:09:59 ID:X2jUawsoO
-
(´・ω・`)「主題に取り扱われた、DAT。
. 過去の毒物には無かった、ある特徴が挙げられている」
(´・ω・`)「……類を見ない、効き目の遅さだ」
伝・ー・)「遅効性……」
;`・ー・)「あ! ああああああッ!
まさか、この男が食事を採る時にはもう――」
(メ._,)「あり得ない」
伝・ー・)「へ?」
ショボーンが提示した可能性に、三月が即答した。
それも、否定だ。
真っ向から、ショボーンの可能性を否定した。
それも、はっきりと言い切るかたちで、である。
彼が言葉を言い切る事は、滅多にない。
何だと思い、思わず水須木も押し黙った。
(メ._,)「講義を受けていたなら……覚えているだろう」
(メ._,)「……DAT……摂取量に関わらず……摂取すれば間違いなく死ぬらしいのだ」
(´・ω・`)「……」
猛毒、DATは、呼吸困難を引き起こす毒だ。
かなり珍しい毒で、つい最近になってようやく実体が判明された。
現在もDATについての研究がなされている。
つまり、情報はぜんぜん行き渡っていない。
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- 759 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:14:01 ID:X2jUawsoO
-
また、今回の意識不明の重体になった被害者、擬古も呼吸困難になっている。
もしDATが死因だとすると、検死官が死因を特定できなかった理由にも合点がゆく。
検死官も、DATについてはあまり知らないのだ。
可能性としては、大いにあり得た。
だが、DATには特徴があった。
ひとつ、体内に取り入れてから、効き目が表れる――死に
至らしめられる――まで、三時間ほどの時間を要する事。
今し方、ショボーンが提示したのはこの特徴だ。
別の特徴として、DATには致死量は存在しないのではないか、とされているのだ。
あくまで仮説だが、致死量は限りなく少量か、もしくは瀕死という概念が存在しないのか。
とにかく現段階で判明している事は、
ひとたび摂取してしまえば、三時間後には必ず息を引き取ってしまうという事だ。
そして、その事がDATがもっとも恐れられている要因となっている。
遅効性ゆえに、摂取当初は症状は出ないため、早期発見は至難の業となる。
運がよくない限り、時間差をおいて、相手は間違いなく死ぬのだ。
三月は、この点を突いてきた。
(メ._,)「……最初は……DATの可能性を考慮したが……」
(メ._,)「DATに関する報告では……意識不明の重体になるとは……聞いてない」
(メ._,)「そのような症状があれば……検死官もDATとすぐに特定できるだろうしな……」
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- 760 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:15:49 ID:X2jUawsoO
-
(´・ω・`)「………」
伝・ー・)「じゃあ……」
三月は肯いた。
(メ._,)「DATではあり得ないため……奴が毒を摂取したのは……
どんなに早めに見ても三十分以内……」
(メ._,)「つまり……十八時半以降だ」
伝・ー・)「それが、犯行時刻ですか!」
(メ._,)「毒物が即効性である可能性もあるが……」
(メ._,)「この時間帯の……お前らの行動を――」
導かれる推理をもって、三月が当時のアリバイを訊こうとした。
真っ赤な眼が四人を捕らえようとした時だ。
小森が、急に焦燥を見せた。
三月が小森を睨むと、彼は一際大きな声を発した。
(;-_-)「ま、待ってください!」
.
- 761 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:17:32 ID:X2jUawsoO
-
−17−
(メ._,)「なんだ……?」
(;-_-)「あの人、十九時少し前まで、葉桜館をでてました!」
(´・ω・`)「なんだって?」
(メ._,)「……ほんとうなのか……?」
(;-_-)「ほんとうですよ! ちょ、首はだめ――」
また小森が訳の分からない事を口走ったのかと思い、三月が小森を攻めた。
しかし、それを止めたのは小森でもショボーンでもなかった。
女将の葉桜ヒートが、控えめに口を挟んできた。
ノパ听)「刑事さん、彼の言っている事はほんとうです」
(メ._,)「……なに?」
手に籠めている力を緩めた。
三月は、どうも小森を好きになれなさそうだ。
解放された小森が、ぜえぜえと呼吸を整える。
ノパ听)「散歩に行くと言って、十八時二〇分頃にここを出て行ったのを見送りましたから」
(´・ω・`)「散歩……観光ですか?」
ノパ听)「そんなところかと……」
(メ._,)「戻ってきたのは……?」
.
- 762 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:20:01 ID:X2jUawsoO
-
ノパ听)「おっしゃるとおり、十九時少し前です」
(´・ω・`)「!」
ショボーンは驚いた。
擬古が外出し、戻ってきたのは彼が倒れる十分前なのだ。
帰還して阿部と合流し、食事を採る。
そして、すぐに倒れ、意識不明になってしまった。
席をはずしている間になにがあったのかも、調べる必要がある。
ショボーンは、そう考えていた。
( -_-)「ぼく、ずっと自室で籠もってました」
( -_-)「だから、ぼくに犯行は無理なんですよ」
(メ._,)「……」
身の潔白を訴える小森を前に、三月は黙ってしまった。
十八時半以降に毒が与えられた、と考えられる一方で、当の擬古はそれより十分ほど前に外出した。
自分は旅館を出てないという嘘は、葉桜を前にはいえないだろう。
つまり、小森のアリバイは成立した事になる。
それに気がついた小森は、堂々と無実だ、と言ったのだ。
尤も、ショボーンはそうは思っていなかった。
(´・ω・`)「へえ、さすがですね小森さん」
( -_-)「動機はあれど、チャンスがなかっ――」
(´・ω・`)「おもしろい偽りを述べるものだ」
( -_-)「!」
.
- 763 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:21:42 ID:X2jUawsoO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「ほう、偽りか」
阿部が半ば感心するように言った。
かまわず、ショボーンは小森だけを見ている。
小森の額から、脂汗がにじみ出てきた。
(´・ω・`)「おかしいな。『部屋に籠もっていた』のに、どうして
. 『擬古が旅館を出ていった』事を知っている?」
(;-_-)「っ!」
(´・ω・`)「葉桜さん、擬古さんが旅館を出ていくとき、お供はいました?」
ノパ听)「いいえ」
(´・ω・`)「つまり、小森さん、あなたは部屋から一歩も出ずに、
. 擬古さんが外出することを知り得た超能力者なのですかね?」
ショボーンが、かなり皮肉った口調で言った。
むろん、正気で言っているのではない。
こう言って逆上を狙い、更なる証言を生もうとするショボーンの作戦なのだ。
矛盾した小森の言い分から、なにかを手繰り寄せようとしていた。
.
- 764 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:23:05 ID:X2jUawsoO
-
(;-_-)「……!」
(メ._,)「……答えろ」
(;-_-)「へ、部屋の窓から玄関口が見え――」
ノパ听)「玄関口は南向きに位置しますが、宿泊部屋に南向きに窓がある部屋は無いですよ」
(;-_-)「っ!」
(´・ω・`)「………」
小森は、つい余計なことを口走ってしまった己を悔やんだ。
アリバイが成立すると思って、矛盾を生んでしまった。
その事が、やがて自分の首を絞める事になると知らずに。
(´・ω・`)「あなたが証言したあとに葉桜さんによって裏付けされた以上、
. 擬古さんの外出をみたのは間違いないでしょう。
. あなたは、本当に擬古さんの外出をみたのだ」
(;-_-)「………」
もし擬古の外出の目撃が虚偽なら、葉桜との間に食い違いが起こる。
だが、葉桜が肯いている以上、それは本当に起こりえた事で、小森が目撃したという事も本当なのだ。
.
- 765 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:24:01 ID:X2jUawsoO
-
ならば、なぜ小森がそれを知っているのか。
ショボーンは、それを見抜こうとしていた。
(´・ω・`)「ここで問題が生じる。どうして外出を知っているのか、と」
伝・ー・)「でも、部屋から出なかったらわからないし、
玄関口に潜んでいたら葉桜さんに嫌でもばれちゃうぜ?」
(´・ω・`)「いや、何も旅館をでるところを見なくたっていい」
伝・ー・)「へ?」
(´・ω・`)「擬古さんが自室をでたところ……そこを目撃すれば、いいんだよ」
.
- 766 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/04/22(日) 21:31:48 ID:X2jUawsoO
- 以上十七節、中途半端なところで前編終了です。
他に切るところがなかったんです。
欠陥のせいで無理やり物語を修正したので
どこか歪なところがあるかもですが、ご了承ください。
この番外編ですが、今まで出し渋っていた理由は、起承転結の承がないからだったりします。
「気がつけばなんか凄いことになってた」のを予めご留意いただけると、中編を気兼ねなく投下できます。
リアルが多忙になってきたので次回の投下予定日は未定ですが、例によってsage進行でひっそり投下します。
偽り三作目ですが、二章まで書き終えました(全七章構成の予定)。
トソゲキは【ツンギレ】を半分ほど書きました。
ブログを持ってないのでここで報告します。
――と、久々に来たので長々と書きましたが、なにはともあれ
今回も読んでいただきありがとうございました!
- 767 名前:名も無きAAのようです:2012/04/22(日) 21:56:29 ID:FJyiHpUE0
- 乙です
もうここまでで既に致命的な欠陥は修正されてるのか…
次回も楽しみにしてます
- 768 名前:名も無きAAのようです:2012/04/24(火) 19:11:25 ID:r76Rj6VU0
- 乙です
楽しみに待ってるよ
- 769 名前:名も無きAAのようです:2012/04/25(水) 11:04:25 ID:CGqNXdBgO
- 知らないうちに投下あってた……
- 770 名前:名も無きAAのようです:2012/06/08(金) 20:04:44 ID:Bm8kT2xgO
- age
- 771 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/06/11(月) 23:33:28 ID:FWQ3EQ0kO
- 創作板で影の薄さランキングは常にトップテン入りしている私です。こんばんは。
偽り、トソゲキ以外に現行を投下し始めたので、その旨だけを報告しておきます。
また、投下途中のアルプスですが、欠陥を直したせいで後半ですんごい
不自然なところが出てきたので、こちらはしばらく先送りとなります。
ひょっとするとアルプスを先送りにしてまず第三部を投下してるかもしれません。
モチベーションを優先したい次第ですので何卒ご理解よろしくお願いします。
トソゲキはお題待ちという現状ですが、お題が無理gorない状態が続けば最終回を投下する予定です。
以上、ブログがないのでこちらで生存報告させていただきました。失礼しました。
- 772 名前:名も無きAAのようです:2012/06/14(木) 10:13:04 ID:dtLnUkGo0
- 報告乙age
- 773 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 19:48:56 ID:LZDxDK9MO
- 風呂あがったら寝るまで投下します。
- 774 名前:名も無きAAのようです:2012/07/30(月) 20:00:28 ID:/uGFzsbU0
- キターー!!
- 775 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:55:04 ID:LZDxDK9MO
-
−18−
伝・ー・)「どういうことなんだぜ?」
水須木がすかさず聞いた。
(´・ω・`)「旅館は各個室にトイレがあるし、館内にたばこの自販機などは置いてないだろうし……。
. 自室を出ることは、すなわち外出する、に等しいんだよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それはそうだがよ、ショボ」
(´・ω・`)「ん?」
嫌煙家の阿部が、擬古が愛煙家なのを思い出して苦笑いしていた。
顔を戻し、阿部はショボーンの推理にけちのひとつでも付けようとした。
N| "゚'` {"゚`lリ「いつフサが外出するかなんて、わかるわけないだろ?
こいつが電話で呼び出した訳でもないし、不確定要素が強すぎやしないか?」
(´・ω・`)「逆に考えるんだ。その疑問と小森さんの目撃の矛盾が、彼の次なる行動を導き出すんだよ」
小森は、自室に引きこもっており、玄関口まで出向いたようには見られない。
一方で、十八時二〇分に外出したという擬古の動向を目撃している。
この二点から、ショボーンは「小森は旅館からではなく自室から出ていく擬古をみた」と推理した。
だが、阿部の言うとおりだ。
出ていくタイミングがわからないのに、それを見計らって
どこかに潜んでおく、というのはなかなか考えにくかった。
.
- 776 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:56:56 ID:LZDxDK9MO
-
それを阿部が言うと、ショボーンは
けろっとした顔で更なる推理を展開していった。
(´・ω・`)「出ていくタイミングなんて、見計らう必要はない。常に見張っておけばいいんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「なんのためだ?
そんなことしたら、不審にみられるもとだぞ」
(´・ω・`)「小森さんは、害者を追いかけなかった。
. じゃあ、見張っていた理由は?」
ここで少し、阿部は考える様子をみせた。
彼はあまり推理は得意としてないのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「フサ本人に用がなかったなら――」
(メ._,)「――用があったのは……この部屋……か」
(;-_-)「!」
考えられるひとつの可能性を、先に思いついた三月が後ろから言った。
続けて阿部が「そうだな」と、意見をあわせた。
そして、小森がまたもオーバーに驚きを見せた。
それを見て、ショボーンは推理に確信を持ったようだった。
.
- 777 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 20:58:25 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「ああ。小森さんは、この部屋に侵入する機会を窺っていたに違いない」
ショボーンは、そんな推理を自然としていた。
侵入するだけなら、扉と面した廊下からでなく、中庭からでもできる。
ここが縦に連なるホテルではなく、横に平らに広がる旅館だからこそできる荒技だった。
(;-_-)「ち、ちが……」
N| "゚'` {"゚`lリ「しかし、侵入するったって、理由が――」
と言いかけたのを、阿部ははっとしてとめた。
言っている途中で、侵入しようとしていた理由に心当たりができたのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「小森さんよ、確かおまえ……フサに借金してたな?」
(;-_-)「ッ!」
(´・ω・`)「検事である擬古フッサールは、きっと借用証をつくったに違いない。そして額が額だ」
(´・ω・`)「小森さんは無職。……とても返せそうにないですね」
(;-_-)「あ、最近借金を返すアテができて……」
小森は遁辞を弄しようとした。
それは、図星だからだろうか。
かなり焦りをみせ、とにかくショボーンの推理による追跡を拒もう、という思いで必死にみえた。
だが、ショボーンも阿部もそれを許さない。
.
- 778 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:02:19 ID:LZDxDK9MO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「フサは穏和だが、検事としての腕は俺が保証する。
借金を踏み倒したりなんかしたら、有罪にされちまうぜ」
(´・ω・`)「それを恐れたあなたは、借用証の奪還を企んだ」
(;-_-)「ぐ……っ」
小森は言い逃れしないようになっていた。
彼が静かになったところで、三月が追い討ちを仕掛けた。
胸倉を掴みあげようという訳ではない。
あくまで言葉による追い討ち、だ。
(メ._,)「それがばれて毒をのませた……というわけか」
(;-_-)「ち、違う! まだばれてないぞ!」
(メ._,)「!」
N| "゚'` {"゚`lリ「おっ……」
(;-_-)「……?」
言うと、阿部と三月が反応を示した。
何だと思い二人を見やると、ショボーンは
(´・ω・`)「ほー。じゃあ、借用証を奪ったのは認めるわけだ」
( -_-)「?」
( -_-)
(;゚_゚)「……あ……ああああああああああッ!」
(´・ω・`)「ばっかじゃねーの」
(´;ω;`)「……ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃ!」
そこで、小森は地にゆっくり膝をつけた。
自らの身の潔白、アリバイを訴えたつもりが、気がつけば自分の別の罪を認めていたのだ。
それを理解し、小森は目の前が真っ暗になった。
見事に、ショボーンの作戦にひっかかった訳だ。
知らぬ間に焦燥が強まっていき、つい口を滑らせてしまった、と。
.
- 779 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:04:58 ID:LZDxDK9MO
-
−19−
伝・ー・)「あとで署にきてもらうぜ」
( -_-)「………」
(´・ω・`)「……すっかり寡黙になったな」
( -_-)「………」
見事に見破られた小森は、すっかり口を閉ざし、自分の殻に籠もってしまった。
やれやれと思ったショボーンは、視線を小森から葉桜に向けた。
小森とは違い、目をあわせただけでも緊張の色を見せない。
それどころか、営業スマイルと思わせる柔和な笑みを見せてきた。
さすがは旅館の女将だ、と思った。
閑話休題、と言わんばかりに、ショボーンは訊いた。
(´・ω・`)「このお料理ですが、害者が帰ってくる頃には既にできてたんですよね?」
ノパ听)「ええ」
(´・ω・`)「厳密に言うと、できあがったのはいつ頃でしょうか」
すると彼女は笑みをやめて、渋い顔で考え始めた。
料理を運んだ細かな時間など、覚えている方が珍しいだろう。
あまりはっきりとはせず、申し訳なさそうな顔をして言った。
ノパ听)「あの人のお帰りのほんの少し前だったから……十八時の五十分頃だったかと思います」
(´・ω・`)「じゃあ、小森さんが毒を仕掛ける余地はあった訳だ」
( -_-)「………」
( -_-)「……もうなにもしゃべらないぞ」
.
- 780 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:06:44 ID:LZDxDK9MO
-
小森に、当時の事について話させるのは難しそうだった。
また同様に話す事によって、余計な事を言ってしまうのを恐れているようだった。
しかし、それは言い換えると、まだ他に後ろ暗い話があるという事になる。
それを聞き出せるのが一番なのだが、ショボーンは聞き出そうとしなかった。
仮に小森が毒を盛った犯人だとして、証拠はないからだ。
窃盗の罪で逮捕はできても、毒殺事件の犯人としては逮捕は、現段階では不可能だ。
それをショボーンは理解していた。
しかし、ショボーンの刑事としての勘をもってすると、小森は犯人なのか。
当然候補の一人ではあり、行動や動機が非常に怪しく感じられる。
ショボーンも、小森が犯人と考えてみて推理を広げていった。
だが、どこか釈然としなかった。
殺人動機が借金ならば、借用証を奪う必要はないのだ。
借り主を殺めれば、借金など在って無い物となる。
しかし、小森は借用証を奪った。
そして、それを隠そうとしていた。
小森が擬古を殺そうとしていたのであれば、
侵入などと怪しまれるような行為はとらないし、
旅館内という自分に疑いがかかる事が必至である場所を犯行現場にとらない。
それらの事が、どうも小森は犯人でない、と思わせるに至ったのだ。
(´・ω・`)「(まだ捜査しきれてないから、なんとも言えないがな)」
と結論づけて、ショボーンは推理を止めた。
小森が犯人でないと決めるには早すぎるのだ。
.
- 781 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:08:37 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「三月殿、捜査のほうはどうなのですかな?」
(メ._,)「……鑑識」
(`・д・)ゞ「はッ! この部屋の指紋は既に採り終えました!」
(メ._,)「……報告しろ」
(`・д・)ゞ「はッ!」
元気のいい鑑識は、敬礼を解いてなにも見ずに報告をはじめた。
記録した書類等を見る事はなく、すらすらと言っていった。
(`・д・)ゞ「テーブルからは被害者と阿部氏の指紋が。
一方、食器や箸からは被害者の指紋のみが発見されました!」
(´・ω・`)「なんだって?」
(`・д・)ゞ「はい?」
(´・ω・`)「阿部さんの指紋は?」
報告の後半で阿部の名がなかったので、ショボーンは不思議に思った。
その点を聞くと、鑑識は表情を崩さずに続けた。
(`・д・)ゞ「食器からは一切検出されませんでした。
食事を採らなかったのですかね」
.
- 782 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:11:57 ID:LZDxDK9MO
-
−20−
N| "゚'` {"゚`lリ「そうか、無かったか」
(メ._,)「……どういう事か……聞かせてもらおうか……」
報告を受けてもけろっとしている阿部に、三月が説明を促した。
通常、食事を採っていたならば箸や食器に指紋が着く筈である。
それがないというのは不自然だ。
N| "゚'` {"゚`lリ「そりゃあそうさ。俺は食欲がなかったからなァ」
(´・ω・`)「でも湯呑みにお茶が入ってるぞ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「フサが注いでくれたんだ。飲まなかったがな」
(メ._,)「毒を盛ったから……自分が毒を喰らわぬよう……敢えて食わなかった事も考えられる……」
N| "゚'` {"゚`lリ「箸には毒物反応が検出されなかったのは、三月さんとこのデータだ。
俺が毒を盛ったとは言えないはずだぜ」
(メ._,)「……ふん。ただの……推理だ……」
三月はそっぽを向いた。
それほど阿部に固執している訳ではなさそうだ。
実際に、毒物反応の検査はアルプス県警が担当している。
それを疑う必要性はまるでなかった。
.
- 783 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:14:13 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「毒物の混入経路は、おそらくこの料理からか、もしくは散歩中だ」
伝・ー・)「散歩はどこまで行く、とか言ってたか?」
葉桜に水須木がそう訊いた。
葉桜は「知りませんが」と答えたあとに、こう続けた。
ノパ听)「ただ……」
伝・ー・)「ただ?」
ノパ听)「彼……よく当旅館を利用してくれるのですが、
そのたびに近くのカルピス海を眺めに行くんですよね」
伝・ー・)「カルピス海と言えば、『白潮』とも呼ばれるあそこだっけ」
ノパ听)「はい。カルピス海へ直通している遊歩道もありますし、
たぶん、そこまで行ったのかなあ、と……」
(メ._,)「何人か……その遊歩道の捜査に向かわせろ」
伝・ー・)「がってん!」
.
- 784 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:16:20 ID:LZDxDK9MO
-
指示されて、水須木は電話を取り出し部屋の隅に向かった。
部下か同僚がでたのだろうか、元気のいい声で檄を飛ばしている。
そんな水須木をみて、三月が水須木に聞こえないようにつぶやいた。
(メ._,)「あいつは……うちじゃあアルプスのハンナバルと呼ばれてな……」
(´・ω・`)「アルプスのハンナバル?」
(メ._,)「いまはまだ若いが……根気……行動力……そういったものはずば抜けているのでな……」
(メ._,)「そのメンタルの強さが……古代ヴィップの名将ハンナバルになぞられ……肖った異名だそうだ……」
(´・ω・`)「だから『アルプスのハンナバル』ですか」
ショボーンは笑った。
何百年も、何千年も昔の我が国では、戦が絶えなかった。
ショボーンの属するVIPは、元はヴィップとカタカナ表記で、当時から栄えるひとつの国だった。
語り継がれている当時の名将の伝説と水須木とが、重なって見えるらしい。
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- 785 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:18:29 ID:LZDxDK9MO
-
そしてショボーンは、三月のその話し様が可笑しく思えた。
表向きには表さないが、胸中では三月は彼に期待を寄せているように窺えたのだ。
今日の彼に対する扱いも、言わば愛情の裏返しなのだろう、と思えた。
伝・ー・)「手回し、済みました!」
(メ._,)「さあ……無駄話はここまでだ。
ショボ……カルピス海近辺を調べたところで……
なにか出ると思っているのか……?」
水須木が戻ってきた事により、三月も話を止めた。
話を聞かれたくなかったのか、自分が部下を褒める姿を恥じらったか、それは考えなかった。
聞かれた通り、ショボーンは自分の考えを述べた。
(´・ω・`)「それは、これから検討してみるつもりです」
(メ._,)「検討……か」
(´・ω・`)「とりあえずは、事件以前の害者の行動を洗うのが先決でしょう」
(メ._,)「……そうだな」
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- 786 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:19:18 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「……葉桜さん?」
ノパ听)「 はい?」
ショボーンが葉桜をみると、彼女は視線が泳いでいた。
そのため呼びかけてみると、少し、葉桜が言葉に詰まったように見えた。
気のせいだろうと思い、ショボーンは話をうかがった。
(´・ω・`)「十五時頃に訪れた擬古さんですが、
. 知っている範囲で彼の行動をお教え願えますか」
ノパ听)「え…ええ」
少し、葉桜の動きが堅いように見えた。
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- 787 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:21:34 ID:LZDxDK9MO
-
−21−
ノパ听)「十五時頃にあの人をこの部屋に案内しましたね。
旧友というのもあって他愛もない話は交わしましたが、
重要そうな事は話そうとしていませんでした」
(´・ω・`)「今までにも宿泊経験があるとの事ですが、
. 今までと違っていた点とかは?」
ノパ听)「特に」
(´・ω・`)「そうですか。続きを」
ノパ听)「えっと…。十五時二〇分頃に散歩に出かけなさいましたね」
(´・ω・`)「散歩?」
ショボーンはすかさず詳細を促した。
擬古は、十八時二〇分にも散歩に繰り出しているのだ。
ちょうど三時間前に散歩と聞いて、なにか関係があると思えたのだ。
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- 788 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:23:16 ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)「森の遊歩道を散策する、だとか」
(´・ω・`)「カルピス海の方へ?」
カルピス海とは、アルプスの東端の窪みに位置する海を指す。
水須木が先に言ったように、白潮とも呼ばれる事で有名だ。
珊瑚の死骸が多く浮かんでいて、海の表面が乳白色に見える事からその名がついたとされる。
アルプスの海の幸は、ほぼこのカルピス海があってこその賜物と言われている。
栄養価の高い魚が、更に肥える事で脂ののった馳走となるそうだ。
ノパ听)「いえ、ここから西にある小さな森です。藤がきれいなんですよ」
(´・ω・`)「藤はちょうど季節ですからな。擬古さんはそれを観光に?」
ノパ听)「あの人は花とか、自然が好きですから」
(´・ω・`)「ほう。で、戻ってきたのは――」
ノパ听)「十六時少し前かと」
(´・ω・`)「……!」
.
- 789 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:24:17 ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「二度目の散歩と……時間がまったく一緒……か」
(´・ω・`)「どういう事だ……」
葉桜の証言では、擬古は十五時二〇分から十六時まで、散歩に出かけていたと言う。
ショボーンや三月が妙に思ったのは、更に三時間後の
十八時二〇分から十九時まで、散歩にでていたという事だ。
単なる偶然かもしれないが、脳の片隅に置いておく必要はあるな、と思っていた。
渋い顔をするショボーンをみて不安になった葉桜は、「時間はうろ覚えなのですが」と、後から補足していた。
ショボーンは顔を戻し「そうですか」と言ってから、その十六時以降の擬古の行動を聞いた。
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- 790 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:25:53 ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)「十六時すぎに、当旅館の名物でもある大浴場に向かいましたね」
(´・ω・`)「大浴場?」
ノパ听)「源泉かけ流しの天然温泉です。
ずいぶんと広くて、肩こりが解れたりと効能も充実していますの」
(´・ω・`)「ずいぶんと人気がありそうですな」
すると、葉桜は苦い顔をした。
まずい事を聞いたかなと思っていると、葉桜は「実は……」と言った。
ノパ听)「せっかくだから、と私も当時の大浴場の様子を窺ったのですが、ほかに誰もいなくて……。
人気が無いのかな、と不安に」
どうやら、葉桜は旅館の誇りにしている大浴場が
不人気ではないのか、と心配している様子だった。
だが、いつの時代でも温泉とは人の心を癒すもので、
おそらくそれは葉桜の考えすぎだろう、と結論づけた。
まして、十六時だとまだ日も暮れてない。
入ろうと思う人が少なくてもおかしくないのだ。
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- 791 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:26:59 ID:LZDxDK9MO
-
葉桜がしゅんとしたのを慰めようとすると、部屋の隅にいた都村が声をかけてきた。
どうやら今のショボーンと葉桜の話を聞いていたようで、それに言及する内容だった。
(゚、゚トソン「大浴場は私もいきましたが、すっごく気持ちよかったですよ」
ノハ;゚听)「! そ、そう?」
(゚、゚*トソン「葉桜がとてもきれいでした」
都村は大浴場に入ったようで、とても満足していた。
急に話しかけられたからか、葉桜は動揺した。
そんな事には気にせず、都村は笑顔で感想を述べていった。
湯加減だの、景色だの、温泉の香りだの、と。
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- 792 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:28:00 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「混浴か」
(゚、゚;トソン「私以外は誰もいなくって、ちょっと不安でしたが……」
都村は絶賛していたが、その時も人がいなかったとすると、
もしかすると葉桜の憂慮のとおり、人気はないのかもしれない。
ショボーンは少し気の毒に思ったため、話を逸らそうとした。
(´・ω・`)「事件が終わったら僕も浸かりたいな」
ノハ;゚听)「………」
(;´・ω・`)「あ、だめでした?」
ノハ;゚听)「…………」
(´・ω・`)「……葉桜さん?」
ノハ;゚听)
ノパ听)「あ、なんでしょう」
(´・ω・`)「どうしました?」
ノパ听)「いえ……人気、ないのかなって」
(´・ω・`)「そんな事ないですよ」
しかし、励ましたところで葉桜の顔色は優れなかった。
.
- 793 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:29:16 ID:LZDxDK9MO
-
−22−
(´・ω・`)「擬古さんが大浴場をでた時刻はご存じですか?」
ノパ听)「そこまでは……」
(´・ω・`)「そう、ですか……」
肩を竦めたものの、さほどショボーンはショックを受けてなかった。
葉桜も女将である以上、仕事が大量にあるはずだ。
擬古が大浴場を出る時間帯まで、把握できている訳がないだろう。
すると、阿部が「おい、ショボ」と呼びかけた。
N| "゚'` {"゚`lリ「そこのお嬢ちゃんが大浴場に入った頃にはフサはいなかったんだ。
そっちの線から割り出した方がいいだろうよ」
(´・ω・`)「そうだな。トソンちゃん、いいかい?」
(゚、゚;トソン「え……えっとですね」
急に問われ、都村は動揺した。
風呂に入る時間など、いちいち確認する人のほうが少ないだろう。
まして、都村は見て呉れとは裏腹に割と大ざっぱな性格を持っているのだ。
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- 794 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:31:08 ID:LZDxDK9MO
-
(゚、゚トソン「十七時くらいに入ったかなーって……」
(´・ω・`)「じゃあ、擬古さんは十六時すぎから
. 十七時までの間に入浴していた事になるな」
(゚、゚;トソン「あ、自信はないですよ!
もしかしたらもっと遅かったかも――」
(´・ω・`)「わかった、わかったから」
(゚、゚トソン「むぅ……」
偽証を疑われたくない都村は、必死に説得を試みた。
煩わしく感じられたショボーンは、慌てる彼女を制止した。
記憶があやふやなど、仕方のない事なのだ。
たとえ本当は十七時半の間違いだったとしても、ショボーンは都村を叱らないだろう。
証言とは、得てしてそんなものなのだ。
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- 795 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:32:29 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「十七時に出て、十八時二〇分には外出、か」
(メ._,)「だいぶ……動きがわかってきたな……」
(´・ω・`)「犯人が毒を仕掛ける時間は、たっぷりあった訳ですね」
(メ._,)「まあ……未だに毒物反応は挙がってない訳だが……」
(´・ω・`)「それが不審に思うところなのですよ」
ショボーンは口を尖らせた。
気持ちは、三月も一緒だった。
本来なら、毒物はすぐに検出される筈なのだ。
それが検出されない以上は、通常の方法で毒が盛られなかったという事につながる。
その方法が、ショボーンにも三月にも見当すらつかなかった。
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- 796 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:33:49 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「まとめると、十五時に擬古が葉桜館に到着。二〇分から十六時まで散歩。
. 帰還後、十七時までの間入浴、十八時二〇分から十九時まで散歩。
. 阿部さんと合流し、食事をとる。一〇分に倒れる――と」
(メ._,)「毒の出所にもよるが……確実なのは阿部との食事時だ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「証拠はないぜ?」
(メ._,)「わかっている……」
三月は、徐々に焦慮に駆られるようになってきた。
それはオーラだけで察する事ができる。
三月の苛立ちをぶつけられぬようにと、捜査員は動きをより機敏にしはじめた。
だが、報告は挙がらない。
その事が、ショボーンにある可能性を提示させていた。
.
- 797 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:35:00 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(毒は、この部屋で盛られた訳じゃないのか?)」
阿部は、実は本当に擬古と食事を採っただけなのかもしれない。
もし毒殺していたなら、その毒物を入れていた容器は、
阿部が持っているか部屋のどこかに隠された事になる。
むろん持ち物の検査はなされるが、容器を隠し持っていると
その時に確実に見つかってしまい、言い逃れはできなくなる。
阿部が犯人だとすると、果たしてそのようなリスクの高い行動にでるだろうか。
ショボーンがまずひっかかったのは、その点なのだ。
阿部は、内面は沈着で頭の回転が速い男だ。
もし毒殺するならば、真っ先に自分が疑われるような方法をとる筈がないのだ。
.
- 798 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:36:18 ID:LZDxDK9MO
-
しかし、阿部がショボーンをこの場に呼んだ。
そのことが、ひっかかっていた二つ目の点だ。
ショボーンが阿部をよく知るように、阿部もショボーンをよく知っている。
「ショボーンは『自分が真っ先に疑われるような方法はとらないだろう』
という推理を展開させるだろう」という事くらい、阿部にも推理ができるのだ。
それを見越して、敢えて阿部は自分に疑いがかかるように殺したのだろうか。
考え始めると、きりがなくなった。
人を信じる事は簡単で、単純だ。
が、人を疑う事は千差万別に広がる世界なのだ。
果たして、長年ともに捜査していた阿部を信じるべきか疑うべきか。
ショボーンは、それを悩んでいた。
捜査に私情を挟むのがよくないとは知っているが、
どうしても私情が浮き彫りになっていた。
.
- 799 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:38:01 ID:LZDxDK9MO
-
−23−
(メ._,)「じゃあ……擬古デレ……話を聞かせていただこう……」
三月は、次の標的をデレに定めた。
デレは、夫の擬古フッサールの様態を案じ、飛んできたとの事だ。
おそらく、刑事が自宅に向かった矢先でデレと遭遇、
擬古の件を告げると――というところだろう。
しかし、もう顔に悲しみはなかった。
ようやく、現状に慣れたようだった。
ζ(゚ー゚*ζ「話って、私なにも知らないのですが……」
(メ._,)「……」
笑顔で、なにも知らないと言い切った。
それが虚偽なのか真実なのかを見極めるのが
三月の仕事でもあるのだが、三月は黙った。
最初は何だと思ったが、三月が腕を組んだまま
ショボーンに目配せしたのをみて、ショボーンは察した。
一歩前に出て、デレの顔を見つめる。
デレはそれだけで萎縮した。
初対面の時から、どうも苦手意識が拭えないな、とデレは思っていた。
.
- 800 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:39:36 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「デレさん、ちょっと」
ζ(゚ー゚;ζ「なんでしょう」
(´・ω・`)「その巻き髪ですが――毎日、セットなさるのは大変でしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?」
デレは、自分と擬古の事について探りを入れられるのかと思っていた。
なのに、ショボーンの口から放たれた言葉は、意外なものだった。
虚を衝かれたようで、ぽかんと口を開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「え、ええ……」
(´・ω・`)「家に帰ったあとも、髪はそのままで?」
ζ(゚ー゚*ζ「いや……邪魔なのですぐ解きます」
(´・ω・`)「わかりますよ。僕の妻も、帰宅後はすぐに化粧を落としていましたからね。
. 家のなかでまで化粧っ面だと、息が苦しくなるんでしょう?」
ζ(゚ー゚*ζ「まあ。でも、最近いい化粧落としが販売されて、重宝してますけどね」
.
- 801 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:41:01 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「いやあ、便利ですよね」
ζ(゚ー゚*ζ「……それで?」
デレは、呆気にとられた。
なにを言い出すかと思えば、現場の空気にそぐわない話ばかりをしている
当然、無策で世間話をする筈などなかろう。
デレもそれはさすがに理解できるため、なんのために
ショボーンがこの話をしているのかがわからなかったのだ。
するとショボーンは世間話も程々に、目を細め口角を吊り上げた。
(´・ω・`)「今のでわかった」
ζ(゚ー゚;ζ「はい?」
(´・ω・`)「あなた、今ここに来る前にも一度、葉桜館に来てましたね?」
ζ(゚ー゚*ζ
.
- 802 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:42:14 ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,;)「な……なんだと!?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ほう……」
デレは、夫の訃報を聞きつけ、こうして現場の葉桜館まで駆けつけた。
だが、数時間前にも一度、擬古が生きているうちにデレは
ここまでやってきた、とショボーンは言ったのだ。
さすがの三月も、腕組みが崩れてしまうほど驚いた。
ショボーンの推理には突飛なものが多いのだが、
この度の推理は飛躍しているどころではないからだ。
なにを根拠にそんなことを言うのか。
また、どうしてそうだとわかったのか。
いろいろと、ショボーンに聞きたい事があった。
だが、それよりも前に、デレが口を切った。
ζ(゚ー゚*ζ「なにを証拠に?」
(´・ω・`)「そのセットされた巻き髪と化粧がキーポイントだ。
. あなた、家に帰るたびにセットを解くと言いましたね?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
.
- 803 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:43:43 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「ふつう、夫の訃報を聞いて、いちいち化粧をし直す妻はいません。
. なのに、ここを訪れた時のあなたはばっちり化粧なされていた」
ζ(゚ー゚*ζ「お買い物に行ってましたの」
(´・ω・`)「買い物にいくのに、そんなスーツを?」
ζ(゚−゚*ζ
デレは、薄い桃色のスーツを着こなしている。
ただの買い物なら、化粧や髪のセットは考えられるとして、
服装に関してで言えば、デレはあまりにも不自然だ。
言ってから、デレは僅かに顔をゆがめた。
それを見て、ショボーンは確信した。
(´・ω・`)「また、あなたはあくまで夫の様態を案じてここにきた、そうですよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「妻として、当然です」
(´・ω・`)「妻ならば、搬送された病院に向かうのが当然でしょう?」
ζ(゚、゚;ζ「!」
ここにきて、デレはあからさまに態度が豹変(かわ)った。
その様子は、傍らから見ている阿部にも三月にも伝わった。
.
- 804 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:45:55 ID:LZDxDK9MO
-
−24−
(メ._,)「確かにそうだ……」
(メ._,)「うちの警部補が……参考人相手であれ報告をし損ねることなど……あり得ない」
(メ._,)「なぜ……病院ではなく……現場であるこちらにやってきた?」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
ショボーンが常に不審に思っていた事、
それはずばりデレが現場に来てしまった事そのものだ。
夫を案じる妻が、どうして病院に、夫のもとに向かわなかったのか、不思議で仕方がなかった。
そして、セットされた髪と化粧、着こなされた桃色のスーツの問題点がある。
本来、訃報を受けてそのようなよそ行きの恰好に着替え、化粧をするとは考えにくい。
まして、家ではすぐに化粧を落とすような主婦が、
そこいらに出かけるのにスーツを着用するとは思えない。
墓参りの帰りに買い物に出向き、帰宅直後に訃報を受ける。
などして言い逃れはできそうだが、そこに先程の
ショボーンの指摘――病院ではなく現場にきたのは
なぜか――が加われば、別のある可能性が浮かぶのだ。
.
- 805 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:47:26 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「生前の擬古さんに毒を与え、帰宅。
. 訃報を聞きつけ、あくまで悲劇の未亡人を演じる」
(´・ω・`)「だが、その計画の途中で自分の足跡を残してしまった事に気づき、
. 隠滅を図るため病院ではなく現場に――と」
(´・ω・`)「そんなストーリーができあがるのですよ」
;`・ー・)「な、なるほどー! 辻褄があうな!」
驚き言葉を失っていた水須木だが、ショボーンの推理を
聞いてから考えてみると、そのどれもが合理的に感じられた。
感嘆の声をあげ、思わず敬語を使うのも忘れてしまうほどのようだ。
だが、水須木の性格をもってしてもすぐに逮捕に動かなかったのには理由があった。
あくまでそれは推理。
確実性のある話ではなく、証拠はなにひとつない空論だからだ。
.
- 806 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:48:14 ID:LZDxDK9MO
-
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(´・ω・`)「むろん、あなたが犯人だと言うわけではありませんが――」
(´・ω・`)「デレさん、あなた、一度ここに擬古さんに会いにきたのでしょ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……会って…ない…」
力なく、言った。
今にも泣き出しそうな声で、簡単に拉げそうな顔で。
.
- 807 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:49:27 ID:LZDxDK9MO
-
伝・ー・)「鑑識! デレさんの指紋は検出されてねーのか!?」
デレの否定を聞き、すぐさま水須木が鑑識に問うた。
室内や廊下を忙しなく動き回るうちの一人が、かぶりを振った。
やはり、室内からは阿部と葉桜、そして擬古の指紋しか検出されていないようだ。
いや、まずデレの指紋が検出されていれば、
水須木が聞くずっと前に報告されている筈である。
聞くまでもない報告を聞いて、水須木が苦い顔をした。
伝・ー・)「これじゃあ証明できねーぞ!」
(´・ω・`)「慌てるな。……そろそろだ」
伝・ー・)「そろそろ?」
(メ._,)「……ん?」
.
- 808 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:51:02 ID:LZDxDK9MO
-
ショボーンが「そろそろだ」と言った次の瞬間、
三月の持つ携帯電話がけたたましい着信音を響かせた。
出てみると、どうやらカルピス海への遊歩道を
調べていた刑事からの報告のようだった。
どこか落ち着きがなかったので、三月が
平静を取り戻せと注意するが、聞かなかった。
しかし、その理由も直後にわかった。
『茂みの奥に、真新しいランチボックスが発見されました!』
(メ._,)「…! それは……ほんとうか?」
『いまそちらに向かってます! おそらく、捨てられてまだ新しいです』
(メ._,)「どうして……そう言える?」
『中におにぎりとか惣菜が入ってたら、そりゃあそうでしょう』
(メ._,)「……わかった。こっちに来ることに集中しろ……」
と言って、三月は電話を切った。
無駄に話して到着を遅らせるより、まずこちらに来てもらう方が得策だった。
向こうも了解したようだ。
電話を仕舞ったあとにふとデレを見ると、顔が真っ青だった。
.
- 809 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:52:29 ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「さあて……指紋と毒物の検出の準備でもしておこうか……」
伝・ー・)「おい、そこのお前! 検出の準備だ!」
(`・д・)ゞ「はっ!」
ζ( ー ;ζ「………」
(´・ω・`)「(弁当、か……)」
ショボーンは腕を組み、俯き気味の姿勢で思考を練ってみた。
なにかが引っかかる気がしたのだ。
.
- 810 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:54:37 ID:LZDxDK9MO
-
−25−
ξ・д・)「ミズ、持ってきたぞ!」
伝・ー・)「きたか!?」
なにやら騒がしいなと思うと、凛々しい眉の刑事が駆けつけていた。
手には、ピクニックなんかに用いられそうな竹製のランチボックスが提げられていた。
言われずとも、それが例の遊歩道の茂みの奥に
捨てられていたというランチボックスだろう、と誰もが認識できた。
水須木が駆け寄ると、鑑識も群がってきた。
ランチボックスのなかは散乱しており、おにぎりも形を崩していた。
箱の四面の壁に惣菜が飛び散っている事から、この刑事が
粗末に扱ったか、捨てられる際に散らばった事が考えられる。
前者だと、三月の怒りの片鱗に触れる事になる。
(メ._,)「ずいぶんと……散らかっているな……」
ξ・д・)「見つけたときも横倒しでした。おそらく、持ち主が投げ捨てたのでしょう」
(´・ω・`)「茂みの奥だっけ?」
ξ・д・)「え? あ…はい」
.
- 811 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:55:42 ID:LZDxDK9MO
-
雨の関係から、それが今日捨てられた、というのはわかっている。
問題は、どうしてそのような位置に、しかも中身があるまま捨てられていたのか、だ。
これには、ショボーンもすぐに答えを導き出せなかった。
が、わかった事もあった。
デレの態度がかなり豹変っているのだ。
(´・ω・`)「(もしや……)」
ζ(゚ー゚;ζ
(´・ω・`)「(あれに毒がはいっていた、というわけじゃないだろうな……)」
ショボーンは、ランチボックスに毒が盛られているのではないか、と憂慮していた。
憂慮する理由は至極単純だ。
自分の推理とまったく異なったものだからだ。
.
- 812 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 21:57:16 ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,)「……どうだ?」
(`・д・)ゞ「反応、ないですねー。あとおにぎり調べるだけなんですが」
(メ._,)「急げ……」
(`・д・)ゞ「はーい」
三月も、珍しく平静を失っていた。
彼は、このランチボックスの中身のどれかに毒がみつかるのではないか、と考えているのだ。
一方で、付着しているであろう指紋の持ち主にも心当たりがあった。
それは、誰かに言うまでもなかった。
(メ._,)「(……年貢の納め時だ……デレさんよ……)」
(´・ω・`)「………」
徐々に騒がしくなってきた。
指紋を検出している鑑識が、機械にかけて照合を
試みる一方で、毒物反応をみている鑑識は首を傾げる。
三月は不敵な笑みを浮かべ、水須木は今し方やってきた刑事と情報交換をしている。
.
- 813 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:00:00 ID:LZDxDK9MO
-
擬古のとった一連の行動、葉桜の目撃証言、小森の借用証の奪還計画、
阿部との食事の流れ、そしてデレが擬古と会ったのではないかという可能性。
話を聞いた刑事は、「みんながみんな怪しいな」と言っていた。
伝・ー・)「俺の刑事のカンって奴で言えば――」
ξ・д・)「お前の勘に頼るなら鉛筆でも転がすわ」
;`・ー・)「なッ!」
(メ._,)「……騒がしい」
ξ;・д・)「は、はい!」
;`・ー・)「すまねえです!」
アルプスの刑事三人がそわそわしていると、指紋の照合を終えた鑑識が報告にやってきた。
期待に胸を膨らませた若い二人、目を細めた三月は、報告を聞いて思わず笑みがこぼれた。
(`・д・)ゞ「こちらのランチボックスより、被害者擬古氏の
. 指紋と、その嫁のデレ氏の指紋が検出されました!」
(メ._,)「!」
伝・ー・)「お!」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ
思わず水須木はちいさく吠えた。
一方の三月は「やはり」と呟いている。
.
- 814 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:01:32 ID:LZDxDK9MO
-
だが、デレとショボーンは別段アクションを見せなかった。
それに気づかなかった三月は、デレに詰め寄った。
(メ._,)「この指紋……説明をしてもらおうか……」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「……朝、仕事で出かける夫に手渡ししましたの」
一瞬口ごもってから、デレは答えた。
その一瞬の間が怪しく感じられた水須木はすかさず
伝・ー・)「見え透いた嘘は吐くもんじゃねーぞー?」
ζ(゚ー゚*ζ「なら、私がこれを持ってアルプスまで来た、と?」
伝・ー・)「そりゃあ――」
ζ(゚ー゚*ζ「刑事さんが、証拠もないのにそのような事を?」
;`・ー・)「……!」
水須木は、デレから感じられた強い拒絶のオーラに屈しそうになった。
なぜか、疑惑の眼で見られている筈のデレが、かなり強気になっているのだ。
水須木は、思わず身をひいてしまった。
(´・ω・`)「確かに……妙だな」
ζ(゚ー゚;ζ「……?」
.
- 815 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:03:23 ID:LZDxDK9MO
-
−26−
伝・ー・)「みょー?」
(´・ω・`)「葉桜さん、当旅館に飲食物の持ち込みは?」
ショボーンの質問を聞いて、デレがぎょっとした。
葉桜は意図がわからず首を傾げるも、答えた。
ノパ听)「まず、持ち込み自体ないものですから。当旅館は三食ついてきますし」
(´・ω・`)「なのに、デレさんはお弁当を?」
ζ(゚ー゚;ζ「葉桜館に行くって知らなくて――」
(´・ω・`)「ふつう、泊まりがけの仕事なら、
. その旨を奥さんであるあなたに告げますよ。
. 一日戻ってこないのだから」
N| "゚'` {"゚`lリ「まして、俺はフサが愛妻弁当を
持ってきたところをみたことがない。
俺と一緒に昼を食うときもあるしな」
ζ(゚ー゚;ζ「おかしくったって、実際は作ったんです!」
デレは声を荒げた。
どんなに状況が不自然でろうが、確たる証拠がない限りは認めそうになかった。
.
- 816 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:04:59 ID:LZDxDK9MO
-
それはそうだろう。
もし朝に作らなかった、となれば、なぜランチボックスが
アルプスに在るのか、というのが問題となる。
朝でないなら昼間持ってきた事になるが、そのタイミングは限られてくるのだ。
カルピス海への遊歩道の傍(わき)に在った以上は、十八時二〇分から
十九時までの散歩の間に、デレが擬古と会って手渡ししたとしか考えられない。
また三月の推理――考えられる現状――では、その時間帯に
毒が盛られたのではないか、と睨まれているのだ。
ここでもし認めると、状況証拠だらけではあるが逮捕されるかもしれない。
デレは、少なからずそう思っていた。
(メ._,)「お前がつくったとすると……全てに辻褄があう……」
(メ._,)「推測される犯行時間……
この部屋からあがらない毒物反応……
弁当が無造作に捨てられていた意味……全てにな」
.
- 817 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:06:51 ID:LZDxDK9MO
-
伝・ー・)「どうして捨てられていたのですか?」
(メ._,)「食っている途中に……毒にあたり……
苦しくなって……急いで旅館に戻ろうとしたなら」
(メ._,)「……持っていたランチボックスを投げ出して……
慌てて帰ってくるだろうからな……」
伝・ー・)「……あ!」
説明され、水須木も納得した。
手を叩き、顔が自信に満ち溢れていくのが判る。
.
- 818 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:09:21 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(デレさんは、弁当をつくったことには違いないんだ。
. 問題はそれを渡した時間だが……。
. おそらくそれを渡したのは朝ではなく……十九時より少し前)」
(´・ω・`)「(病院にではなく現場にまで訪れた理由は、
. 弁当箱の回収のため……だろうな)」
(´・ω・`)「(ただ……彼女が犯人だとすると、少しおかしくないか?)」
(´・ω・`)「(弁当に毒を盛れば、間違いなくデレさんが逮捕されるんだ)」
(´・ω・`)「(回収に出向くなんてのもリスクが高すぎる。
. それくらいなら、最初から回収に出向く必要のない方法をとれば……)」
(´・ω・`)「……三月殿」
(メ._,)「なんだ……?」
しばらく推理を広げてみたが、どうも釈然としなかった。
デレが犯人でないとは言い切れないし、
だが一方では限りなく怪しいとも思うのだが、
ランチボックスの件に関しては、毒を盛ったとは思えなかったのだ。
.
- 819 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:10:48 ID:LZDxDK9MO
-
ランチボックスに手紙を同封し、遅効性の毒を塗る。
「読んだ後は燃やすように」とでも書いておけば、証拠は消える。
そのように、ランチボックスをカムフラージュに、別の方法で殺害を
狙う方がより合理的で、自分に降りかかる火の粉は払えそうなものなのだ。
ショボーンが口を開いたのと、鑑識が報告にきたのは同時だった。
(´・ω・`)「おそらく、そのランチボックスに――」
(`・д・)ゞ「――毒は見当たりませんね」
(メ._,)「……!」
三月が動揺した。
すっかり、毒はあるものだと思っていたのだ。
三月が「むぅ」と低く唸る一方で、ショボーンは「やはり」と思った。
.
- 820 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:11:58 ID:LZDxDK9MO
-
ζ(゚ー゚;ζ「ほ、ほらご覧なさい」
(メ._,)「惣菜に……ピンポイントで仕込む……
そういうのも考えられそうだが……」
(´・ω・`)「ランチボックス内は揺れが激しい。
. 粉末状でも、内壁に毒が付くでしょう」
(メ._,)「……そうか」
(´・ω・`)「(弁当に毒はなかった。じゃあ――)」
(´・ω・`)「(―――毒は、どこからでてきたんだ?)」
.
- 821 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:16:01 ID:LZDxDK9MO
-
−27−
現場には毒の痕跡が残っていない。
デレのランチボックスからも見つからない。
毒の居場所はどこか。
やはり、どの推理を展開するにしても最終的にぶつかるのはこの謎だった。
逆に、毒の居場所さえわかれば、この事件は瞬く間に解決するだろう、そのような予感もあった。
見つかってないのは、それがショボーンたちの想像だにしない方法で毒が擬古に行き渡ったからである。
今日一日の中に、擬古が毒を摂取せざるを得なかった場面≠ヘ、果たしてどこにあったのだろうか。
ショボーンがそちらの線で推理を進めていくと、ふと気になった事があった。
毒の居場所と直接リンクするような点ではないため
重要視はしなかったが、一度気になりはじめると集中が散る。
仕方がないため、ショボーンはその点について、唸る三月に意見を求めてみた。
(´・ω・`)「三月殿」
(メ._,)「……なんだ?」
(´・ω・`)「小森さんの事なのですが」
( -_-)「……?」
.
- 822 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:19:22 ID:LZDxDK9MO
-
今まで、本当に自分の世界に引きこもってしまったかのように
微動だにしなかった小森が、不意に名が呼ばれて反応を示した。
だが、ショボーンが話をしたいのは三月だ。
小森本人には触れないでいるようにした。
(´・ω・`)「彼が借用証の奪還を実行したのは違いないですが……変に思いませんか?」
(メ._,)「変……だと?」
(´・ω・`)「ええ。仮に外出しようとしても、もし擬古さんが自室に引き返してたら……
. 小森さんはどうしたつもりだったのか。気になりませんか?」
(;-_-)「!」
(メ._,)「……そうだな。奪還を試みる以上……
それについての対策も講じる筈だ……」
(´・ω・`)「小森さんの荷物のなかに、毒物――でなくとも、なにか
. 殺傷能力のあるものを忍ばせていたのかもしれませんね。
. もし鉢合わせしたら殺してやろう、とか」
.
- 823 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:21:15 ID:LZDxDK9MO
-
言われて納得した三月は、小森をみた。
小森の鞄と思われるそれはない。
自室に置いてきているのであろう。
三月は水須木を呼び、小森の部屋に向かわせようとした。
容疑者である以上、鞄を持ってきて中身を調べるのは当然だ。
水須木が了解して駆けだそうとすると、それを小森がすがりついて押さえた。
;`・ー・)「な、なんだ!」
(;-_-)「待ってくれ! そんなものないから! 鞄はだめだ!」
水須木の脚を掴み、思い切り首を横に振った。
足を動かせず、前へ進めない。
なぜ小森がそのような行動をとろうとしたのか、水須木にはわからなかった。
ただ、煩わしく感じられただけだ。
(メ._,)「鬼瓦!」
ξ・д・)「はッ」
限りなく不審に感じた三月は、鬼瓦(おにがわら)と、刑事の名を呼んだ。
「代わりに行ってこい」と後ろに省略されているのだろう。
察した鬼瓦が、一瞬にして駆けだした。
.
- 824 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:22:38 ID:LZDxDK9MO
-
(;-_-)「待て!」
伝・ー・)「行かせるかっての」
(;-_-)「! 離せ!」
今度は鬼瓦を制止しようとしたであろう小森を、逆に水須木が押さえた。
両腕を後ろから押さえ、身動きを封じる。
やんやと喚きながら、自身の鞄の捜査を頑なに拒んでいる。
そして、割とすぐに鬼瓦が戻ってきた。
ξ・д・)「こいつか?」
(;-_-)「…! それは俺のじゃ――」
(メ._,)「それだ……」
鬼瓦は、茶色のリュックサックを持ってきた。
中身にはあまり物が詰まってないようで、軽そうに持っていた。
小森は否定したが、その顔を見て、嘘を吐いていると
確信した三月は、鞄を調べるよう指示した。
水須木が小森を取り押さえているため、抗おうにも抗えない。
ホックを外し、逆さまにして中身を下に落とした。
ショボーンは乱暴なやり方だなと思ったが、別段気にしなかった。
.
- 825 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:23:38 ID:LZDxDK9MO
-
中からは、財布や携帯電話、そして奪ったであろう借用証。
そして、なにやら小瓶が転がってきた。
小森がそれに狙いを定め蹴飛ばそうと脚を伸ばしたが、それを三月が蹴った。
そのまましゃがみ込んで茶色の瓶を拾う。
拾った瞬間、三月の顔がゆがんだ。
(メ._,;)「―――ッ!」
(;-_-)「待て! 違う!」
三月は、小森の声には耳を傾けず、ただラベルを凝視していた。
そして、近寄ってきたショボーンにも聞こえるように、
そのラベルに書かれている名を口にした。
(メ._,;)「………」
(メ._,;)「………DAT……ッ!」
.
- 826 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:24:58 ID:LZDxDK9MO
-
−28−
(;´・ω・`)「なッ! ……なんだと!?」
一瞬にして、場が騒然とした。
予想にだにしなかった展開に、ショボーンは思わず大声を張り上げた。
阿部も三月も、驚きを隠せないようだった。
それもそのはずだ。
近代においてもっとも危険と判明された猛毒、DAT。
これについては、数十分前にも話に挙がった。
体内に取り入れてしまえば、三時間という前例を見ない異常な
長さの時間を費やして呼吸器官を蝕み、命をも奪い去ってしまう。
そして、その危険性ゆえに、警察と医学協会とが協力し、
人類の叡智を結集させて早急な解明を進められている。
その事の重大さは、本日の午前頃からアルプス県警にて講義でショボーンたちに知らされていた。
.
- 827 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:25:58 ID:LZDxDK9MO
-
すぐに阿部が駆け寄り、瓶を見せてくれと三月に言った。
このときばかりは、阿部が容疑者の一人である事も忘れて、言われた通り瓶を見せた。
N| "゚'` {"゚`lリ「……ほう」
片手で覆えるおおきさの瓶を、上から下からじっくり眺めている。
いよいよ自分の逮捕が余儀なくされるだろうと思った小森は、一層うるさくなった。
(;-_-)「違うんだ! 聞いてくれ! 違うんだ!」
伝・ー・)「とりあえず、危険物取締法違反ってとこかな?」
ξ・д・)「そんな法律はない。それを言うなら、毒物及び劇物取締法だ」
;`・ー・)「あっれー。そうだっけか?」
平の刑事である鬼瓦と水須木は、三月やショボーンほどはショックを受けていなかった。
講義に参加していないのだ、当然と言えた。
だが、それにしても、あまりにも空気に馴染めていなかった。
.
- 828 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:26:51 ID:LZDxDK9MO
-
(;-_-)「認める! 擬古のヤローを殺そうとしていた! だがな、結局使わなかったんだ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「それ、本当か?」
あまりに焦ったのか、殺意を認め、小森は自白をした。
だが、その上から殺人の事実はない、と言葉を被せてきた。
阿部が不思議に思い、聞き返した。
やはり、小森はおおきく肯いた。
(;-_-)「すんなり借用証を奪えたんだ、使うのをやめ――」
N| "゚'` {"゚`lリ「使ってないもなにも」
(;-_-)「?」
N| "゚'` {"゚`lリ「この瓶、からっぽだぜ?」
.
- 829 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:28:04 ID:LZDxDK9MO
-
( -_-)「―――へ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「お前は空の容器を持ってきたってのか?」
( -_-)「いや、そんな筈は――」
(メ._,)「ごまかすな……。現状から言って……
こいつで擬古を殺した。……そうなんだろ?」
( -_-)「いや、え――?」
小森は途端に静かになった。
ショボーンも瓶の中身を見ると、向こうが透けて見えていた。
DATのラベルがあるだけで、ほかはふつうの小瓶と言っても差し支えなかった。
やかましく否定を繰り返していた小森が、信じられないといったような顔をしている。
どうも、阿部にはなにがどうなっているのかわからなかった。
.
- 830 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:29:21 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「! 小森、あんたいつ頃にここに来た?」
(;-_-)「十八時くらいじゃねーの? 覚えてねーよ!」
(´・ω・`)「十六時にはどこに?」
(;-_-)「擬古がこっちに来るっていうのを聞いて、俺もここに来る準備をしてたよ!」
嘘を言っているような表情ではなかった。
少々気になる事を言ったが、今はそれに構わず、ショボーンは三月に言った。
(;´・ω・`)「三月殿、擬古さんが喰らった毒はそれじゃない!」
(メ._,)「……どういう事だ?」
またしても急に声を張り上げたため、三月は動揺をみせた。
いや、大声だったからだけではない。
ショボーンが、あからさまに動揺しているのだ。
(;´・ω・`)「DATの特徴、それは効き目までに三時間を要する超遅効性!」
(メ._,)「なにが……言いたい?」
(;´・ω・`)「擬古さんが倒れたのは、十九時なんですよ!?」
(メ._,)「……」
(メ._,;)「ッ!」
.
- 831 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:30:17 ID:LZDxDK9MO
-
ようやく、三月はショボーンの言いたい事がわかった。
小森が葉桜館にやってきたのは、十八時くらいと言った。
少なくとも十六時にはここには来る事ができない状況だった。
そして、擬古が倒れたのは十九時なのに大して、仮にDATで倒れたとすると、十六時に摂取する必要がある。
DATに限って言うなれば、小森には絶対的なアリバイがあるのだ。
だが、そんな事が問題なのではなかった。
別の方面で、問題が生じるのだ。
(;´・ω・`)「誰かがDATを呑んでしまったかもしれないぞ!!」
.
- 832 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:31:49 ID:LZDxDK9MO
-
−29−
(メ._,;)「………!」
;`・ー・)「誰だ、誰が呑んだってんだ!」
小森の持つDATは、犯行には使われていない。
だが、中身はなくなっている。
誰かが呑んだのかもわからない。
いや、呑んだという言い方では語弊が生じる。
呑まされた、が適切な表現だろうか。
小森のDATを、この件における犯人が誰かを殺めるために奪う。
DATが粉末状か液体状か、瓶を見るだけではわからないが、
ショボーンは講義では両方存在する、と聞いた。
液体になら、DATを盛る事ができる場所は数多く存在する。
DATのタイムリミットまでの時間に毒の盛られた場所を調べ上げ、
摂取してしまった人を特定し、病院に運ぶというのはもはや不可能だ。
つまり、被害者に自覚がない場合、次なる被害者を生む。
ショボーンは、擬古殺人事件の犯人を特定すると同時に、
その被害を食い止めなければならない。
ショボーンには、それを行う自信はなかった。
.
- 833 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:32:48 ID:LZDxDK9MO
-
(;´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「……!」
ショボーンは苦い顔を一転させた。
目を見開いて、ちいさく「あ」と言った。
(メ._,)「……どうした?」
(´・ω・`)「……小森」
(;-_-)「なんだよ……」
(´・ω・`)「借用証を奪還した時、まだDATはあったんだな?」
(;-_-)「当たり前だろ!」
(´・ω・`)「で、水須木刑事に連れてこられるまではずっと自室に?」
(;-_-)「あ、ああ……。帰ろうと思ったけど……」
(´・ω・`)「!」
ショボーンはみるみるうちに顔が蒼くなってきた。
だが、小森は、どうしてショボーンが
そのような質問をしたのか見当すらつかなかった。
それは、三月も一緒だった。
.
- 834 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:34:03 ID:LZDxDK9MO
-
だが、状況を整理すれば簡単な話だった。
DATは、小森が擬古の部屋から帰ってきた時にはまだ残っていた。
その後小森は自室を出なかったため、この間第三者が小森のDATを奪う事はできない。
小森が鞄から離れればDATを奪うことができるが、その機会がやってくるのは警察の到着後なのだ。
名前すら挙がってない第三者が小森の毒を奪う事はない。
事情聴取も受けていることだろう、その可能性はなかった。
だが、警察の到着後に、しかも小森以外の事件の
関係者――阿部、葉桜、デレ――が、DATを奪うだろうか。
また、奪う動機があったとして、奪う機会はあったのだろうか。
そこまで考えて、ショボーンは全身に鳥肌がたっていたのがわかった。
(´・ω・`)「……!」
.
- 835 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:38:05 ID:LZDxDK9MO
-
ノパ听)『デレ、化粧し直しなさいな。案内してあげるから』
ζ(;ー;*ζ『……』
(´・ω・`)『(ん?)』
(;´・ω・`)「――――ッ!」
(メ._,)「……ショボ?」
彼のなかにたまっていた驚愕が、ついに態度に表れてしまった。
彼が、小森にDATについて推理をする途中で、ある事にようやく気が付いた。
いや、推理を展開させるにあたり判明した事実、というべきだろうか。
とにかく、冷や汗がどんどん溢れてくるのがわかった。
.
- 836 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:39:17 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「(……僕は……重大な勘違いをしていたかもしれない)」
(´・ω・`)「(『彼女』は、あの人の事を想っていた。だから――)」
(´・ω・`)「……ん?」
ショボーンが我に返ると、部屋の隅にいるトソンが目についた。
先程までは律儀に正座していて、「実に彼女らしい」と
笑っていたものだが、それが崩れてきている。
壁に寄りかかり、額から汗を流して、呼吸が荒くなっている。
様態が、どこかおかしいのだ。
ショボーンは、彼女に歩み寄り、しゃがみ込んで肩をたたいた。
( 、 ;トソン「………」
(´・ω・`)「トソンちゃん?」
荒い息遣いがちいさく聞こえた。
その後に続けて、ひゅー、ひゅーと。
額に手を当てるが、熱はない。
不審に感じたショボーンは、言葉のスピードをはやめた。
.
- 837 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:41:23 ID:LZDxDK9MO
-
(´・ω・`)「トソンちゃん、どうした?」
( 、 ;トソン「………」
( 、 ;トソン「息……苦しい………」
(´・ω・`)「?」
そのときだ。
ショボーンの脳内に散らばっていたロジックの紐が、一本に繋がったのは。
(;´゚ω゚`)「―――ッ!」
(メ._,;)「ショボ!」
(;´・ω・`)「三月殿、至急『彼女』を―――」
(メ._,;)「そんな事はどうだっていい!
奴らが……逃げた!」
(´・ω・`)「……奴ら?」
.
- 838 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:42:06 ID:LZDxDK9MO
-
(メ._,;)「容疑者の四人が……同時に消えたと言っているんだ!」
.
- 839 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/07/30(月) 22:48:56 ID:LZDxDK9MO
- 以上二十九節で中編おしまいです。やっぱこの酉が一番落ち着けます。
裏話がはいりますが、この文章を書いたのは五ヶ月前なんですよね。
当時は何とも思っていなかった文体が、今から見るととても稚拙なものに見えます。
時が経つのって、かくも早いものなんですね。
閑話休題。
久々の投下で、校正できていないor欠陥を引き継いでいる箇所が残っているかもしれません。
そういうときはすぐにご指摘お願いします。割と本気でまずいミスの可能性が高いので。
今回も読んでいただきありがとうございました。
作品ではなく、中の人事情に関する質問は受け付けます(後編の
投下予定日など。ちなみに三ヶ月以内に投下したいと思っています)。
- 840 名前:名も無きAAのようです:2012/07/30(月) 22:57:11 ID:QFIwLx8w0
- 乙
- 841 名前:名も無きAAのようです:2012/08/02(木) 22:29:15 ID:/45rhQeQ0
- 乙
- 842 名前:名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 19:34:42 ID:0AMgc3/UO
- きていたのか…!
- 843 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/08/05(日) 23:17:19 ID:c0/n2jWsO
- あがってるついでにどうでもいい報告。
前々から言ってましたが、私的な都合で、向こう数ヶ月(少なくとも四ヶ月以上)は投下不可となります。
よって、以下の偽りの自作品の投下はその来るべき日まではないものと思ってください。
もしかしたら時間が空いてちょちょっと投下できるかもしれませんが、そのときはそのとき。
○対象作品
(´・ω・`)アルプスの風に吹かれるようです(根城番外編)
(゚、゚トソンちゃん、ゲキ萌え大作戦のようです
( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
(´・ω・`)ごちそうさま、のようです
逃亡、打ち切りの予定はないのですが、その数ヶ月のせいで熱が冷めるかも。そのときもそのとき。
もののついでに完結作品も載せておくので、機会があれば読んでいただけると作者としてはうれしい限りです。
(というのも、青空ホライゾンさんの作者まとめに載ってなかったので一応書いておこうかなと。)
○完結作品
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです
(´・ω・`)とある忘れられた事件のようです(香り番外編)
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです
( ><)「兄ふんじゃった……。」
ξ゚听)ξは画面の世界の住人のようです
( ´∀`)昭和の名探偵「モナーロック・モナーズ」のようです(紅白)
( ・∀・)悪る日はスイカを悪ようです(芸百行)
▲というわけで冬眠に入ります。
半年ほどで目覚められたら幸い。
では失礼しました。
- 844 名前:名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 23:24:47 ID:ENpJPAfw0
- 百行はまだ言うには早くないか……まあいいかわかりやすかったし
首を長くして待ってるよ
- 845 名前:名も無きAAのようです:2012/08/05(日) 23:27:28 ID:0AMgc3/UO
- ショボン警部が虚構の城を崩すようですも同じ人っぽい感じだったから同じ作者かと思ってたら違っていたのか…
- 846 名前:名も無きAAのようです:2012/08/06(月) 00:24:18 ID:N3QCFuYAO
- (´・ω・`)ごちそうさま…も読めなくなるのか
(´;ω;`)ショボーンだよ
- 847 名前:名も無きAAのようです:2012/08/13(月) 21:17:22 ID:8/5xUebk0
- スイカ悪りあなただったのか…面白かったよ!
- 848 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2012/08/19(日) 00:44:48 ID:fkYZChIgO
- 「はいはい構ってちゃん乙」と言われるのが恐ろしくて言いづらいですが、どうでもいい報告です。
私が懸念していたよりも比較的時間的猶予が生まれることが発覚したので、とりあえずちまちま書きためだけでも進めることにしました。
残念ながら投下できるほどの時間的猶予はさすがにとれそうにないので、冬眠していることに代わりはないのですが。
そこで書きための進行状況などをまとめたブログでも立ち上げようかと思ったのですが、
如何せんオータム車の意味すらわからない私にそのような技術がないことなどわかってます。
いろいろ悩んだ結果、ツイッターとやらでそれっぽいことはできないのか、と思ったので、
ブログが作れる(もといパソコンを手に入れる)ようになるまではこちらに生存報告等していこうかと思います。
http://twtr.jp/user/__itsuwari
但し、プライベートな事を呟いたりすることは全くなく、本当に報告以外なにもないつまらないものになるとおもわれます。
ですが、面白さの追求など考えないで、「生きてるんかいな」的な心持ちで覗く程度で大丈夫です。
未だ仕様がさっぱりでフォロー、フォロワーとは何ぞやという状態なのですが、頑張ります。
※無断でアカウント削除する可能性は、朝目が覚めた時口が臭くなっている可能性と等しいです。
- 849 名前:名も無きAAのようです:2012/08/19(日) 01:58:47 ID:0OWOvstU0
- こういうのありがたいよ
投下楽しみにしてるよ
- 850 名前:名も無きAAのようです:2012/08/20(月) 01:47:44 ID:H5gQ4CgQ0
- 投下あったの気づかなかった
話が進むにつれ鳥肌が沸き立つわー
楽しみに待ってる
- 851 名前:名も無きAAのようです:2012/10/03(水) 12:47:45 ID:A0komE0A0
- 投下待ってる
楽しみだ
- 852 名前:名も無きAAのようです:2012/10/26(金) 02:11:40 ID:K97csK0E0
- いつまでも待ちましょう
- 853 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 16:49:10 ID:vmjBNyck0
- 俺も投下待つよ
- 854 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 17:59:41 ID:26P0bvosO
- 三ヶ月以上経ってるからもう落ちてると思ってた…作者です。ごめんなさい
時間に余裕ができてきたので、三部(新作)をプロットなしで書いたりしてます。公開は、来夏までにはきっと…
アルプスですが、改めて読むとオチとかがひどかったのでどうしようか考えてたのですが、
叩かれるのを承知で今年中に投下しようと決めました。久々にage投下となりますが、お付き合いください
(明言しておきますが、批評は歓迎します。
する際は、ひどいところを具体的に挙げて、いろいろ指摘お願いします)
- 855 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 18:06:58 ID:26P0bvosO
- あと、前までは「作者」としてばか丁寧な対応を続けていたけど
ごリッパな活動をしてるわけでもないのにそれはないだろうと思ったので、初心にかえることにしました
投下に出くわしたりしたら、そのときはよろしくお願いしますー
- 856 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 18:12:06 ID:u2hx4BBQ0
- >>854
きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
待ってたよー!!
- 857 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 21:27:50 ID:E9KfjcH20
- >>854
待ってたぞおおぉぉぉお‼
- 858 名前:名も無きAAのようです:2012/12/21(金) 22:08:58 ID:Z6h2W.yA0
- 逆裁vsレイトンやりながらもチラチラあんたを思い出してたんだぜ
- 859 名前:名も無きAAのようです:2012/12/25(火) 23:41:06 ID:.Ev1aAVYO
- 去年同様12/24というただの月曜日に投下しようと思ってたんですが、
謎解きパートを書き下ろしてると時間がなくて…いま、書き終えたところです
本日25日も25日でフツーの火曜日には変わらないんですが、夜も遅いので、投下は明日にしようと思います
夕方以降になると思うので、寒さのせいで寂しさを感じるなんて人は、是非リアルタイムで読んでほしいです
では、夜遅くに失礼しました…
- 860 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 00:35:40 ID:UMTC05ag0
- >>859
把握した
ただの火曜日もついに終わりを告げた
- 861 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:00:33 ID:ydbUYnjQO
-
−30−
三月ウサギ警部がショボーンと出会ったのは、ずいぶん昔の話となる。
当時のショボーンはまだまだ若く、才気溢れる刑事とは到底思えない風格だった。
捜査一課に加わった当初のショボーンは、無能と言われていた事を、自分が知っている。
最初から偽りを見抜けるような、敏腕刑事ではなかったのだ。
だが、いわばそれは必然と言えた。
自分だって、最初は動ける能なしと呼ばれていたではないか、と。
自分を引き合いに出すことで、ショボーンには救いようがあるように思えた。
昔から三月はアルプス県警に所属しているが、どういった因縁かショボーンとは交流がしばしばあった。
アルプスとVIPの共同前線で捜査を進める時は、決まってショボーンが三月にコンタクトをとりにくる。
十以上も歳が離れているため、当然三月の方が上司で、彼がイツワリ警部と
呼ばれるようになるまでは、会うたびにショボーンを叱っていた記憶がある。
というのも、自身で下すべき判断に迷いが生じ、それが伴って犯人を逃がす事が多かったのだ。
が、彼には推理力に栄えるところがあり、執念だけは決してほかの誰にも劣る事はなかった。
そして今、彼は推理力も行動力も兼ね備えた立派な警部だ。
だが長年の先輩である以上、ショボーンにいくら才能があっても、三月にもプライドがある。
推理力は認めるとして、他の面では必ずショボーンを上回っているつもりだった。
四十を超えた辺りから部下の育成に精をだし、捜査力はこの国で一番を誇っていた。
その部下もここにおり、二重のプライドがある以上、己のミスは決して見せる訳にはいかなかった。
その矢先で、決して見せてはいけないミスを見せてしまったのだ。
.
- 862 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:04:13 ID:ydbUYnjQO
-
鑑識も徐々に引き上げ、場には阿部を含む容疑者の四人、
都村トソン、ショボーン、水須木、鬼瓦、そして自分しかいなかった。
都村の祖父は警官の案内で外へ追い出されたようだ。
事情聴取でも受けているようだが、興味が無かった。
それよりも、自分と部下の二人の刑事は、都村の様態に気が向かい、隙だらけだった。
水須木も、自然と小森から手を離していた。
すっかりおとなしくなっていたからだろう。
だが、それを叱るつもりは毛頭なかった。
いや、叱る権利すらないように思えたのだ。
;`・ー・)「おやッさん!」
(メ._,;)「追え!」
指示を出す前に、既に鬼瓦は走り出していた。
水須木は走り出す姿勢をみせ、顔だけをこちらに向けていた。
三月から言われ、水須木も走り出した。
そして、三月は二人と反対方向に向けて走りだそうとした。
歳のせいか、だんだん走るのが億劫になりつつあるが、この時は怠さなど感じられなかった。
というのにすぐに走り出せなかった理由は、迷いが生じたからだ。
二人のうち鬼瓦は、玄関口に通じる方へ走っていった。
水須木は、その手前に在る、中庭に向かって。
三月が向かう先は客室が集い、犯人が逃げるのに相応しいとは思えない。
また、容疑者には阿部もおり、仮に彼が犯人だとすると、あの若い刑事が単身では必ず逮捕できやしない。
加勢すべきか、三つ目のルートに向かうべきか、それを一瞬悩み、駆け出すのを躊躇った。
すると
(´・ω・`)「三月殿」
(メ._,;)「……なんだ?」
焦慮しきっている三月とは対照的に、落ち着き払った声でショボーンが呼んだ。
振り向くと、彼はすました顔で、特に笑みもせず、しかし気持ちの高ぶりが感じられる態度で言った。
(´・ω・`)「犯人が、わかりました」
.
- 863 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:07:45 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,)「……!」
(´・ω・`)「僕はその人を捕まえにいくので……」
そっと、ショボーンは目を閉じた。
(´-ω-`)「この子の保護を……お願いします」
(メ._,;)「……」
名を言われる前に、三月は彼女を見た。
壁に寄りかかり、様態の異変を見るまでもなく感じさせてくる都村を。
そしてその時の声は、今まで三月が聞いたことのない、温かみがある声だった。
犯人がわかったと言うショボーンに、三月はその名を尋ねなかった。
自分が踏み込んではいけない領域のような気がしたのだ。
既にショボーンは自分をも凌駕する人間である。
それを、今、彼の態度と言葉をもってして証明された。
そのため三月は、ショボーンを補佐するのが何よりも有益であるとわかったのだ。
(メ._,)「……わかった。委せたぞ……ショボ」
(´・ω・`)「……では」
頭を下げた後、ショボーンは部屋を出ていった。
すっかり、先ほどまで騒がしかったこの部屋が、静かになった。
三月は、それも相俟って、耳鳴りがしそうだった。
頭を振り、それを振り払おうとするのと同時に自分に気付けもいれる。
そして、三月は都村の隣に座った。
様子を見ようと、彼女の顔を覗き込む。
すると、どこか、彼女が己の娘に似ているように見えた。
.
- 864 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:10:27 ID:ydbUYnjQO
-
−31−
葉桜館は、桜という国花が咲き誇る旅館だ。
この時期になると、美しい桃色の花を散らし始める。
その散り行く姿がなお美しいとされ、昔は花と言えば桜を指していたほどだ。
そんな、花が散って若葉が見え始めた桜を、葉桜と言う。
この時期の葉桜館は、この国でもっとも葉桜を美しく見られる旅館とされ、人気である。
それだけあって、桜の木は玄関口から中庭、はたまた大浴場とされる温泉にまで植えられている。
どこにいても葉桜が楽しめるのは、風情が好きなショボーンにとってはうれしいものだった。
葉桜の木がまた一枚、葉を散らせた。
桃色混じりの葉桜の木から、ゆらゆらと。
それが水面に落ち、波紋が広がっていった。
その波紋を遮る物はなにもなく、水面の端にたどり着くまでそれはきれいな円を保っていた。
今度は、葉桜が二枚散った。
交錯しあう波紋にもまた、趣があった。
だが、複雑に絡み合った円を、端にたどり着くまで見届ける事はできなかった。
自分の後ろの方から、扉の駒が桟を擦る音が聞こえてきたのだ。
風が葉桜を揺らす音しか聞こえない場にて、この音を聞いて聞かぬふりはできまい。
あくまで平生を保った様に振る舞い、振り向いて入ってきた人物をみた。
( )「……?」
(´・ω・`)「やはり、ここにいましたか」
.
- 865 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:16:05 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーン警部が、普段と何ら変わらぬ様子で歩み寄ってきた。
コートが風で揺らめき、それで彼が内側に着込んでいるスーツが見えた。
警官らしく、スーツもびしっと着こなしている。
スーツなど、果たして自分が着れるべき代物だろうか。
考えていると、静寂をつくらないようにとショボーンが口を切った。
(´・ω・`)「必ず、ここにいる……そう思ってね」
( )「……どうして?」
(´・ω・`)「簡単ですよ」
少しばかし時間を稼ごうとしたが、思いの外即答された。
ショボーンは少し笑い、腰に手を当てた。
この様子では、全てを見透かされているかもしれない。
彼は、噂では偽りを見抜く敏腕刑事として名高い、イツワリ警部なのだから。
(´・ω・`)「ここが、本当の犯行現場だからです」
( )
なんの躊躇いもなく、確信しているような口振りだった。
そして腰に当てた手を解き、片方を顎に手をあてた。
(´・ω・`)「わからないのは、どうしてここで犯行を企んだのか、だが――」
( )「……」
相手が、黙る。
犯人であれ無実であれ、それに返答することはできないからだ。
前者なら自白を意味し、後者ならショボーンと同じくやはりわからないからだ。
( )「それで」
(´・ω・`)「ん」
( )「どうして、ここに」
「来たんだ」それが、後ろに隠されているのだろう。
先ほどの「どうして」とは、ニュアンスが違っていた。
.
- 866 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:22:26 ID:ydbUYnjQO
-
言い換えれば、「どうして自分に会いに来た」となるのかもしれない。
それを訊いても仕方がないのだが――その人は、とにかく、訊いた。
沈黙が持つ有毒性を恐れたのか、単なる疑問か――
(´・ω・`)「犯人が誰か、を教えようと、ね」
(´・ω・`)「優しいでしょ、僕?」
ショボーンが不敵に笑み、ピースサインを送る。
実に場に合わない――しかし、ショボーンらしい――振る舞いではあったが、
しかしどうしてか、その振る舞いを見ても、おどけている、なんてとることはできなかった。
( )「……」
だから、敢えて、その人はそっぽを向いてみた。
こうなっては、足掻きが無駄であろう事は既に知っている。
せめて、悪党は悪党らしく無駄に抗ってみたかったのだ。
ショボーンに、その虚勢は伝わったのだろうか。
表情を変えず、彼は続けた。
(´・ω・`)「急に阿部、小森、デレ、葉桜という四人が消えたのが驚いたが……
. 少なくとも、ここに逃げ込む人が一人、いることには違いなかったのですよ」
( )「どうして」
(´・ω・`)「結論から先に言ってもしゃーない。それを、今からじっくり教えてあげるよ」
( )「……へぇ」
素っ気ない返事を返したが、ショボーンと向き合っている人物は内心焦っていた。
どんどんと話が進んでいき、終着点がもう見えてきたからだ。
終着点とは、事件の終焉である。
.
- 867 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:25:11 ID:ydbUYnjQO
-
−32−
(´・ω・`)「思えば――奇妙な事件だった」
ショボーンは腕を組み、そこらを歩き始めた。
気を抜けば滑ってしまいそうな床だったが、別の意味で
気を抜くつもりのないショボーンの闘志が、彼をしっかりと支えていた。
(´・ω・`)「事件を振り返ろう。順を追ってね」
(´・ω・`)「被害者、擬古フッサールさんは、十九時の十分頃に毒の症状で倒れた。目撃者は、阿部さんだ」
(´・ω・`)「不思議なことに、阿部さんは料理に手をつけてなかった。だが、被害者は箸を進ませていたね」
(´・ω・`)「当時の現状からしてみれば、この料理に毒が混入されていたと見るのが自然だ――しかし」
(´・ω・`)「料理はおろか、部屋のどこにもそれらしき毒は見当たらなかったんだ。
. 捜査力は全国一のアルプス県警が出した結果だから、信頼に値する」
(´・ω・`)「料理を作った、葉桜さん。相席した、阿部さん。
. この二人は、このタイミングに限って言えばシロとなるね」
( )「………」
向かいの人が、黙る。
邪魔をされずに済む、ショボーンはそう思い安堵した。
.
- 868 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:29:25 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「視野を広くよう。
. 三月殿の見解で言えば、被害者が散歩に出かけた十八時二十分頃から
. 毒を仕込まれたという線が濃厚だそうだし、実際そうかもしれない、と僕も少しは思っていた」
(´・ω・`)「この時間帯、彼はどこにいたか。『白潮』とも呼ばれる、カルピス海付近だ」
(´・ω・`)「旅館にずっといたであろう葉桜さんは、シロ。借用証を奪還していた小森さんも同様」
(´・ω・`)「このタイミングでは、十八時頃に僕と別れた阿部さん、そしてデレさん。
. この二人が、毒を仕込むことができる」
(´・ω・`)「だが、阿部さんは、あくまで県警帰りだ。僕と別れた時間から考えても、旅館に寄り道せずにきたと思う。
. つまり、彼が犯人なら毒は最初から持っていた――なんてなるけど、県警に足を運ぶ以上、あまりそれは考えにくいだろう」
(´・ω・`)「そしてデレさんも。デレさんがこのタイミングに毒を、
. しかもランチボックスに仕込んで殺害を試みたとなると、いろいろとおかしいことになるんだ」
(´・ω・`)「まずその一。毒の出所が自分だと、すぐにばれる。
. その二に、デレさんはランチボックスを回収しなかった。
. その三、何より、毒は検出されなかった。
. ……ここまでは、いいかな?」
やはり平生のようなおどけた口調で、ショボーンは訊いた。
しかし、これもやはり、おどけていたのは口調だけだ。
醸し出されるオーラも、顔色も。
実際は、そのどれもが、彼が怒った時に見せるものだった。
そのため、相手は答えられなかった。
事の如何を別にして、ただ、ショボーンに知らずのうちに圧倒されていたのだ。
その無言を肯定と見なして、ショボーンは続けた。
.
- 869 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:32:46 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「そう。ランチボックスにも、被害者の部屋にも、その料理にも。
. 考えられる限り全てのタイミングにおいて、彼を殺した毒は存在していなかった≠だ」
(´-ω-`)「このまま、迷宮入りか――? そう思っていたときだ」
(´・ω・`)「トソンちゃんに、異常が起こった。『息が苦しい』んだと」
(´-ω-`)「僕は咄嗟に思ったよ。これは―――」
(´-ω-`)「――DAT=v
( )「……!」
相手が、反応を見せる。
それがどういう意味か、言われずともわかったのだろう。
(´・ω・`)「DAT、とわかったまではいい。問題は―――」
(´・ω・`)「それがDATだとして……
. 『なぜ』、更に、『どこで』彼女はDATを呑まされたのか、だ」
(´・ω・`)「言うまでもなく、トソンちゃんが毒を呑まされる理由はない。
. ならば、僕はそのとき『どうして呑まされたのか』なんて考えないんだ。
. 僕なら、こう考えるよ」
(´・ω・`)「―――『誰か』の『とばっちり』を受けた≠ニ」
.
- 870 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:37:10 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「『誰か』……すなわち、擬古さんだ。
. しかし、問題は『どうしてトソンちゃんがとばっちりを受けなければならなかったのか』――だ」
(´・ω・`)「当然、トソンちゃんと擬古さんに繋がりはない。
. いや、実はあったのかもしれないけど……まあ、彼女の反応からして、ないだろう」
(´-ω-`)「繋がりがないなら、トソンちゃんがとばっちりを受けられる唯一の場所は……公共の場=v
(´・ω・`)「そう!」
(´・ω・`)「こんな、混浴温泉場≠ンたいな――ねぇ!」
――ショボーンが、声を張り上げる。
山に囲まれているためか、ショボーンの声はやまびことなってその場、大浴場にちいさく反響した。
そして、その反響の度合いが、今の彼の精神状態――もとい、今の彼の「怒り」を表していた。
(´・ω・`)「彼女と擬古さんの間にある唯一の共通点……それは、温泉。
. ここしか、ないんだよ、二人を繋ぐ場所は。それが根拠さ」
(´-ω-`)「そして、擬古さんが入浴したのは、十六時頃。
. DATの時間とも―――合う。
. 阿部さんには完璧なアリバイがあるし、
. 小森さんはそもそも旅館にきていない」
(´-ω-`)「しかも、そもそも温泉とはさっき言ったように公共の¥黶B
. すぐに誰かに――入浴客に見つかってしまいそうなこの場所で犯行をするのは、一般人には、無理なんだ」
(´-ω-`)「しかし、一人だけ。
. 温泉を犯行現場に選ぼう、なんて思えるのだよ」
.
- 871 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:38:00 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「葉桜、ヒート!」
(´・ω・`)「あなただけは、ねぇ!」
.
- 872 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:47:06 ID:0X7svkyw0
- 待ってた!
すげー待ってた!嬉しいぜ!
- 873 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 18:54:16 ID:ydbUYnjQO
-
−33−
ノハ )
葉桜ヒートは、そこでクチを閉じた。
いや、はじめから、閉じてはいた。
元から両唇が合わさっていたのを、更に力を籠めたのだ。
先ほどからずっと落ち着き払っていたが、ショボーンの
その告発の瞬間、葉桜は更に払う落ち着きの量を増やした。
そして、閉じている瞼に籠める力も、増やす。
呼吸の一度一度にかける時間も、増える。
その動作の一つひとつが、今の彼女の心理状態を表しているように、ショボーンは見てとった。
葉桜は、捜査をして把握できている限りで言えば、元から冷静な人だ。
そんな人がより冷静になろうとすれば、このようになるのは半ば致し方あるまい。
ノハ )
ノハ )「………」
最後に大きく鼻から出した息を最後に、葉桜はゆっくりクチを開いた。
それを伴って声が放たれることはない。
クチを開いた上で呼吸を整え、言葉を放とうとするのだろう。
しかし、ショボーンは、長年の経験のせいであろうか、
今から放たれる言葉が、決して潔いものではないであろうことを、何となくで察した。
ここで葉桜が肯いてくれれば、全てが丸く収まっていたのだ。
ショボーンが葉桜に手錠をかけ、都村が治療され、時が流れて。
だが、葉桜はショボーンの推理を否定した。
確かに、擬古の入浴中に毒を与えるのは、簡単だ。
気化する毒ならば温泉に忍ばせる事もできる。
風呂桶や手拭いに毒を仕込ませる事もできる。
また、温泉に毒が混入されようが、時間が経てばどこかに流れて行くのだ。
その先にいる動植物のその後はわからない。
そもそもDATが人体にのみ効く薬なのかすら、判明していないのだ。
現在も、様々な状況下の元でモルモットに実験を施しているところだろう。
.
- 874 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:02:03 ID:ydbUYnjQO
-
わからないからこその、温泉での犯行だ、とも思っていた。
少なくとも人体には絶対的に有害なのだから、個室やトイレなんかに
盛るよりかは、まだ、ヒトに対象を絞った温泉のほうが救いようがあるように思えた。
全てを考えた上で、随分身勝手な犯行だ、と再び顔面に剣幕が宿った。
垂れ眉毛、柔和な顔つきのまま、雰囲気だけを剣幕として兼ね備える。
ショボーンにしかできない芸当だ。
――しかし、それでも葉桜は否定した。
ノハ )「確かに筋が通る……しかし、それらは全て『トソンさんがDATを呑んだ』と仮定した場合ですよね?」
(´・ω・`)「それは目下追究中だ」
ノハ )「目下? 確定してないのに、それで犯人確保に名乗りを上げるおつもりですか」
ショボーンの行動に憤りを感じたのか、葉桜が強気に出る。
平生の接客時に用いる高い声ではなく、腹から放たれたような、重く、耳に残る声だ。
それが、彼女の心情を表しているのか。
二人とも、自分の心情は顔に出さず、声にそれを出して、
あたかも牽制し威嚇しあうかのように自己主張しあっていた。
(´・ω・`)「逆に訊くが……犯人が逃げたってのに、確たる証拠がないから――
. とか言って真実を逃す警察官のほうが正しいと、思うのか?」
ショボーンも負けじと、刻みきざみでゆっくり言葉を紡ぐ。
彼は彼で、どうしようもない程の憤りを感じているのだ。
それも、彼の言葉に塗られた色から、掴み取れた。
.
- 875 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:13:16 ID:ydbUYnjQO
-
ノハ )「それとこれとは――」
(´・ω・`)「違わねーんだよ、バーカ」
ノパ听)「!」
ショボーンの――いや、一刑事の、自分に対する扱いが思いの外杜撰で、葉桜は呆気にとられた。
いくら自分が殺人を犯していたとしても、だからと言って相手を貶すことなど、それも警官が、果たしてするのだろうか。
そう思うと、いつものショボーン警部≠ヘ、クチを開いた。
互いの感情が実に掴み取りやすい会話であるためか、彼女の言わんとすることがすぐわかるのだ。
(´・ω・`)「みんな、みーんなが勘違いするんだがな、よーく聞けよ」
(´・ω・`)「僕は、刑事だ」
(´・ω・`)「検事じゃあ、ない」
ノパ听)「……」
葉桜が、黙る。
しかしショボーンは黙らない。
(´・ω・`)「それに、DATかどうか一生わからないまんま――ってわけじゃない。いつか、わかるんだ」
(´・ω・`)「DATじゃないってなれば、そのときはあんたの言うとおり、釈放される」
(´・ω・`)「ロジックを辿った結果、行き着いた結論が、今、だ。
. 逮捕することに至っては、なんら問題が――」
荒っぽい言葉に荒っぽい感情を載せて、ショボーンが言う。
ショボーンの言っていることはその通りなのだが、そうわかっていても、葉桜は同意しがたかった。
が、事実がそうである以上、この件に反論はできない。
そう考えた葉桜は、彼の言葉を遮るように、自分の声を――感情を、放った。
それは、彼女が今、苦境に立たされていて、焦燥が尋常ない現状を表していた。
ノハ )「それに!」
(´・ω・`)「…っ」
.
- 876 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:19:00 ID:ydbUYnjQO
-
言いすぎたか――そう思い、ショボーンはクチを閉ざす。
葉桜はすぐには続きを言おうとしない。
動揺がもたらす胸の圧迫感が、それをさせまいとしていたのだ。
ノハ )「それに―――」
そこで、葉桜はもう一度黙った。
大浴場で何かが起こった訳ではない。
彼女が、今から話す何かに躊躇を感じ、言葉が喉の奥で詰まっていたように見えた。
ショボーンが警戒し、じっと睨むなか、葉桜は次は言葉を呑み込まず、全て吐き出した。
その言葉に、感情の吐露は見られなかった。
ノハ )「赤目の警部さんが今のあなたの推理を否定した理由、ご存じで?」
(´・ω・`)「……!」
ショボーンは途端に目を細めた。
今回は言葉で感情を表すより前に、顔にそれが出てしまったようだった。
彼の、今回の推理における唯一の弱点を突かれた際の、動揺が。
そして、それは葉桜もずっと前から知っていた。
目の前で三月とショボーンとのやり取りを見ていたのだから、当然だ。
ショボーンが刹那的に彼女を逮捕しなかった理由は、ここにあった。
ノハ )「擬古フッサール……。彼はまだ、死んでないのです」
ノパ听)「………そう」
ノパー゚)「絶対に死ぬとされる、DATを呑んで……」
「彼はまだ、死んでないのです」
.
- 877 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:23:51 ID:ydbUYnjQO
-
(;´・ω・`)「………っ!」
衝かれるかもしれない、と懸念していた「そこ」を衝かれ、ショボーンは若干取り乱したように見えた。
葉桜の様子に陰りが見えるように、ショボーンにも、衝かれたくない陰りはあったのだ。
今回の事件における最初の謎、それは擬古の生命の揺らぎ様だった。
水須木も三月も、アルプスの検死官も口を揃えてこう言っていた。
擬古の様態が、「なにかがおかしい」と。
脳死の如何もわからず、呼吸器官や心臓の動き。
毒を採ったであろう筈の症状すらでていない。
青酸系の毒物における症状が出ない理由は、説明がつく。
そもそもDATは、呼吸器系の機能を悉く停止させてゆく効き目のみを持っている。
だから、唇の変色や泡を吹くといった症状が見られないのは別段不思議ではなかった。
だが、擬古の様態をDATの所為だとすると、別の方面で謎が生まれた。
DATを摂取した場合、必ず命をも落としてしまうとされる。
しかし、擬古は辛うじて生きていた。
擬古の様態が、悉く、矛盾してしまっているのだ。
そして、これが。
葉桜ヒートの用意していた、自分を守る最後の壁だった。
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- 878 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:28:11 ID:ydbUYnjQO
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ノパ听)「その謎が解けない限り、状況証拠による私の逮捕も、できません」
ノパ听)「尤も、そもそも私は犯人じゃないから、謎で当然なので、す――が―― ?」
葉桜は、言っている途中で脱衣場のほうが騒がしいな、と思った。
誰かが脱衣場にいるのだ。
事情聴取を受けている宿泊客の筈がない。
すると、応援にかけつけた刑事であろうか。
そう思うと、妙な胸騒ぎが、葉桜を襲った。
なぜかはわからない。
どうしようもない絶望感が、自分を迎えんとしていたように思った。
扉に影が映った。
かなり大柄の男のようだった。
その男の隣で喚いている男がいるため、二人いるのだな、とわかった。
ショボーンも漸くそれに気がつき、振り向く。
すると、扉の向こうから声が聞こえた。
「その謎、俺が晴らしてやろうじゃないの」
ノハ;゚听)「!?」
(´・ω・`)「……この声。……そうか」
直後に、扉が強く開かれた。
扉の向こうには、青いツナギを着た男が立っていた。
ラフな服装の男、小森の首を腕で押さえて。
N| "゚'` {"゚`lリ「警視庁捜査一課、この阿部がな」
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- 879 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:34:55 ID:ydbUYnjQO
-
−34−
昔から、阿部は本当に大切な事は土壇場まで言わない事が多かった。
事件における重要な情報も、捜査陣がピンチになるまで出さない事などよくあった。
だいたいは出さずともショボーンがいたので事件は終わっていたので、出す必要すらなかったのだが。
ショボーンが解けない事件は、だいたいが裏でイレギュラーな事が起こっている。
「存在が既にイレギュラー」と呼ばれている阿部は、どうした因縁か
そういったイレギュラーな情報、証拠を見つけるのがうまかった。
だから、ショボーンと阿部が組むと、難事件であればあるほど解決が容易となっていたのだ。
そのたびに、捜査一課長や刑事部長から咎められる。
捜査妨害だの、方針に反するだの、と。
だが、阿部は決まってこう言う。
「逐一俺が動いていたら、ほかの連中の出る幕がない」と。
むろんこれは単なる遁辞なのだ。
だが、強ち間違ってはおらず、また戦力である阿部に処分を
言い与えるつもりは上層部には無かったらしく、ずっとお咎めはなかった。
結果「警察界一自由な男」と呼ばれるようになった。
阿部は、なにかと縛られるのが嫌いなのだ。
(;-_-)「離せ! 逃げないから、離せ!」
首を阿部の腕で固定された小森は、脚をじたばたさせ必死に抵抗していた。
だが、阿部は涼しい顔で小森を拘束し続けていた。
小森とは対照的に朗らかな笑みを浮かべるので、その光景が少し不気味に思えた。
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- 880 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:44:02 ID:ydbUYnjQO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「悪いな、ショボ。小森が急に逃げるもんだから、追いかけてたら遅れちまった」
(´・ω・`)「小森が……ねぇ」
ショボーンは小森に一瞥を与えた。
相当焦燥に駆られているようで、阿部に食ってかかっていた。
だが、それでも阿部は依然涼しい顔のまま、腕に力を籠めるだけだった。
N| "゚'` {"゚`lリ「――で、犯人が女将さんかい?」
ノパ听)「……」
葉桜は、つい先ほどまで見せていた様子とは打って変わり、表情を全く変えようとしなかった。
疑うなら勝手に疑え、と眼で言っているようだった。
阿部が、そこで疑うような安い人間ではない、とわかっているのだろうが。
(´・ω・`)「薄々気づいていたんだろ? あんたは、さ」
N| "゚'` {"゚`lリ「さぁ、どうだろうね。俺には興味がない」
(´・ω・`)「それよりも、謎を解く……だって?」
興味深そうに、ショボーンが訊いた。
というより、阿部の登場以降、その事しか気になってならなかったのだ。
自分が解けない謎を、阿部が解く。
昔からよく見られた光景だった。
それが、十数年間もの歳月をおいて、再現されようとしているのだ。
ショボーンに感傷に浸る心地はないけれども、阿部の用意しているであろう切り札が気になっていた。
一方で葉桜は、阿部のその切り札について、充満された疑心を持っていた。
そんなものがあるはずない、この謎は謎のままで事件は終わるのだ、と信じていたからだ。
そしてその時の自分は、涼しい顔で旅館を運営しているだろう、とも。
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- 881 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:47:14 ID:ydbUYnjQO
-
ノパ听)「いいですか? 今回の事件では、DATは関係ないのですよ。
あなたも、警視庁の人なら、ご存じなんでしょう?」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、俺は警視庁の人間だ。だが、知らないなァ」
少し、葉桜はムッとした。
こちらは容疑をかけられ真剣なのに、阿部がまるでその気になっていないからだ。
ペースを握られていると実感するも、葉桜は続けた。
ノパ听)「DAT摂取すれば、間違いなく、死。警察のみなさんが口を揃えておっしゃるのです。
なのに、被害者はまだ死んでいない」
ノパ听)「この矛盾がある限り、私を逮捕だなんて――」
ノハ )「ばかげてますよね」
いまの葉桜の主張に、おかしい点は何一つなかった。
ショボーンの推理通り話を進めると、最終的に行き止まりとなるのは擬古の様態の謎である。
聞こえが悪くも、ここでもし絶命していれば、葉桜を逮捕できたのだ。
だが、被害者の擬古は辛うじて堪えており、死亡の報告はまだ届いていない。
しかし、大浴場でのDATの毒殺以外では、事件のピースがはまらないというのも事実だ。
ショボーンは、この矛盾が指し示す先を、明かせないでいた。
だが、阿部はけろっとしていた。
それがまるで謎でも何でもないかのように、ただ涼しい顔をしていた。
登場当初から何一つ変わらぬ、阿部の顔だった。
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- 882 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:48:06 ID:ydbUYnjQO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「死んでない? そりゃあ当然だ」
(´・ω・`)「……なに?」
阿部が、壁を打ち崩した。
N| "゚'` {"゚`lリ「俺が、風邪薬を与えてやったからな」
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- 883 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:50:30 ID:ydbUYnjQO
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−35−
彼女は、世界の誰よりも彼を愛していた。
それは自分たちが高校生だった頃から、永久に変わらぬ誓いとして、残ってきた。
彼以外の唇を許さず、彼以外を上に載せる事もなかった。
それが当たり前だと思っていたし、それが贖罪だとも思っていた。
出会ってから数十年の間、常に夫に尽くしてきた。
多忙である夫を、家では完全にもてなそう、と思っていた。
料理の腕を磨き、常に美しく在って、夫にとって誇れる妻を目指していた。
夫はそれを止めはしなかったが、促しもしなかった。
あるがままのお前でいい、と何度言われても、彼女は考えを改めなかった。
彼女にとって、夫が全てなのだ。
貪愛を見せていた。
世間の視点から言えば、俗にいう重い女と称されるところだったに違いない。
だが、それを夫は拒まなかった。
夫は夫で、彼女を世界一愛していたのだ。
不器用な夫は、そんな自分の愛を打ち明ける事がなかなかできなかった。
どうも語彙に乏しく、「愛してる」以外の言葉がわからなかった。
それでいつか愛想を尽かされるのではないか、と思う日々が続いていた。
仕事も大変なもので、一般のサラリーマンの抱える何倍ものストレスを抱えていたと自負していた。
だが、妻は献身的だった。
決して自分を裏切らず、いつまでも隣にいてくれていた。
それが引き裂かれるなど平行世界でしか起こりえないものだと思っていた。
いつの事か、現実世界と平行世界が入れ替わっていたのだ。
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- 884 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:52:40 ID:ydbUYnjQO
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愛していた妻を失い、自分がわからなくなった。
自分が有していた愛とは、なんだったのか。
いつも隣にいてくれていた彼女は、誰だったのか。
これが、妻よりも仕事に専念した彼に対する、天からの唯一の罰だったのだろうか。
では、それまでに彼は罪を重ねてきたのだろうか。
自分で考えてみようが、答えは明らかにならなかった。
天に、神などいないのだ。
かつてない明度を誇る太陽も、陰までは照らせないのだ。
この宇宙の遙か彼方に在るとされるゼウスなど、生きていた事すらなかったのだ。
放心状態のまま、次なる生きる術を探した。
両目を神によって塞がれ、手探りで電灯のスイッチを探した。
指先にそれが当たる感覚がしたのに、一日もかからなかった。
それは次なる女でも酒でもない。
己の考える限り唯一思い浮かぶ罪の元凶、仕事だった。
仕事に打ち込む、凶悪犯に臨む。
苦しむ人々を、自分が救い出す。
それが、己が愛する女をなくしてしまった事に対する、唯一にして絶対的な贖罪なのだ。
彼は、そうわかった。
妻は、自分の働く姿をなによりも好いていた。
平和のために、極悪人と戦う姿が、彼女は好きだった。
天にいるであろう彼女に、それをこれからも見せ続ける。
そして、彼女が待ちわびていた平和をいつか見せてやる。
そうすることで、自分のなかに蓄積された悔やみ、哀しみは晴れるだろう。
言葉以外で、彼女に愛を伝える事ができるだろう。
双方で見て、これがなによりも相応しい贖罪だった。
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- 885 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:53:54 ID:ydbUYnjQO
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その贖罪の先に待ち受けているのが、白い光か黒い光か。
分岐点の手前に、二人の男が立っていた。
片方の男は、黒い光に向かって歩んでいった。
もう片方の男は、足を踏み出さなかった。
待ち受けているものがなんだろうと、現実から逃れたかったのだ。
足を踏み出して、色の違う二つのうち片方でも手にしてしまえば、
彼女が本当に消えてしまう――そんな気が、片方の男にはあったのだ。
その二人の男は、いまもなお、違う形で戦い続けている。
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- 886 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 19:59:26 ID:ydbUYnjQO
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−36−
(´・ω・`)「か……」
(;´・ω・`)「風邪薬ィ?」
ショボーンは呆気にとられた。
いったい、どのような切り札を放つのかと思いきや、
出てきた単語はこの場に不釣り合いな言葉だったからだ。
阿部は、どのような空気であっても平気で冗談を言える男だ。
しかし、このたびの発言は、とてもそれらと一緒のものとは思えなかった。
本当に、阿部が風邪薬を呑ませたというのだろうか。
また、いったいそれがどうしたというのか。
訊きたい事は山ほどあったが、それを言う前に阿部が口を開いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「風邪薬ってのはジョークだ。ほんとうは『モリタポ50』と言う」
(´・ω・`)「『モリタポ50』?」
ノパ听)「…?」
思わずショボーンは復唱した。
はじめて耳にする単語だったのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「知らないのも当然だ。
機密事項で、ここらじゃ俺とフサしか知らんブツだしな」
(´・ω・`)「…へぇ……」
(;´・ω・`)「………ッ!」
最初は話半分に、半ば聞き流すかのようにして阿部の言葉を受け取っていたのだが、
そうする前に、ショボーンはあることに気がついた。
急に、汗が噴き出してくる。
このときの彼は、胸中で「まさか」と連呼していた。
その「まさか」を、クチに出す。
(;´・ω・`)「まさか……『風邪薬』ってことは……!」
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- 887 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:03:51 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンは、なんとなくではあるが、阿部の言わんとする事が伝わってきたような気がした。
長年の仲であるため、五感では説明できない何かを共有しているのだろうか。
非科学的なものではあるが、ショボーンはそれで「風邪薬」の真意を理解した。
意味がわからず葉桜は落ち着きを無くすも、阿部はショボーンにのみ説明をするように、言った。
N| "゚'` {"゚`lリ「察しがいいな。そうだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「――これは、DATの特効薬だ」
(´・ω・`)「やっぱり……!」
ノハ;゚听)「っ! うそッ!」
阿部が持っていたというもの、それはDATの特効薬だった。
必ず人命を奪う悪魔の猛毒と、真っ向から戦えるものだ。
DATが体内にまわった後でも、これを呑ませれば死は免れる、というものだった。
なぜ阿部がそれを持っているのか、最初はわからなかった。
しかし、ショボーンはあることを思い出していた。
「阿部警部と擬古検事は、ある事件を追っている」と。
また、「機密事項について、二人で話し合っていた」と――
N| "゚'` {"゚`lリ「まだ実験段階で、世間一般にお披露目できやしない。
そもそも、モリタポ50の名を出すこと自体に、箝口令が出されてたんだよ」
(´・ω・`)「そうだったのか……」
箝口令、すなわち、DATやモリタポ50についての情報や漏洩は、堅く禁じられていた。
秘密裏で進めている事柄である以上、それは必然だ。
また、相手が非常に厄介な、しかも対策不可能な猛毒である。
警視庁の警部クラスでないと知り得ないのにも合点がゆく。
ショボーンにさえ話せなかった訳を今把握し、ショボーンは申し訳なく思った。
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- 888 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:06:51 ID:ydbUYnjQO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「超遅効性のDATに効き目を与えるには、同じく薬も遅効性にするしかなかった。
しかも、フサに薬を呑ませたのは死ぬ直前だ。
だから、一見死亡したと思われてたし、三月さんも検死官も奴を死んだものだと思っていた」
N| "゚'` {"゚`lリ「だが、俺に、フサの搬送にケチつける事はできなかった。
そうだろ? あくまでこれは明かしちゃならない、パンドラの箱なんだからなァ」
(´・ω・`)「じゃあ、害者――擬古さんは?」
阿部は間髪入れずに答えた。
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、生きてるぜ。試作段階とはいえ、特効薬は特効薬だ」
(´・ω・`)「……よかった」
ショボーンはほっと胸を撫で下ろした。
事件における犠牲を減らす事ができて、安堵したためだ。
警官として、人命をひとつでも多く救えるのは大変喜ばしい事なのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「あの嬢ちゃんいるだろ?」
(´・ω・`)「嬢ちゃん……、ポニーテールのかい?」
ショボーンは網膜に都村トソンを浮かべて言った。
「ああ」と阿部が肯いたので、彼女で間違いないと思った。
N| "゚'` {"゚`lリ「俺の風邪薬、彼女にも分けといてやったぜ。
おかげで、三月さんにもコイツの事がばれちまった」
(´・ω・`)「! ……そうか。ありがとう」
N| "゚'` {"゚`lリ「? 礼を言われるような事はしてないさ。
むしろ、早いうちに助けられなかったのを、こっちが詫びるくらいさ」
(´・ω・`)「そうか」
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- 889 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:08:07 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンはにっと笑んだ。
そのとき、阿部の今の姿が、昔の姿と重なって見えた。
やはり、阿部は阿部だ――そう思えた。
そして、阿部が葉桜のほうを見た。
ショボーンもつられ、彼女を見る。
N| "゚'` {"゚`lリ「――さて。女将さん?」
ノハ )
.
- 890 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:09:36 ID:ydbUYnjQO
-
−37−
葉桜は固まり、俯いていた。
肩を震わせもせず、涙を落とすこともなく。
ただ、今のショボーンと阿部の会話を聞いていた事には違いなかった。
それによって、自分がどのような状況下に置かれたかも、理解しただろう。
葉桜が頼みにしていた壁は、「存在が既にイレギュラー」な阿部に、簡単に崩されてしまった。
おかしなところで力を発揮する、おもしろい男だ。
葉桜は、抗う気力が喪失したのか、しばらく二言目は発しなかった。
ノハ )
(´・ω・`)「葉桜……ヒート、さん」
ノハ )
.
- 891 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:14:23 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「これで、全ての犯行が証明されました」
(´・ω・`)「十六時頃に入浴した擬古さんに、DATを盛ったなにかを渡し、毒をまわらせる。
. あとは他の雑務に精を出し、アリバイでも作れば完璧だ」
(´・ω・`)「わざと擬古さんの食事を用意する事で、ご自分に一度は容疑をかける。
. しかし、食事で毒殺した訳ではない、とすぐにわかるので、容疑は晴れる」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうすれば、二度目に疑われる事はないしな」
(´・ω・`)「また、警察が到着するという三時間後の大浴場では、毒は洗い流されるから検出されないし、
. 死因がDATとわかろうが当時の擬古さんがどこにいたのか証明できない」
(´・ω・`)「これで他の誰かが捕まるか迷宮入りになって、この事件は終了――それを企んだんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「しかし、『イレギュラー』が起こったんだな?」
わざと語調を強め、阿部は補足した。
「ああ」と肯いて、ショボーンは続けた。
(´・ω・`)「そうだ。阿部さんが擬古さんに特効薬を与えてしまい、死因がうやむやになった。
. そこで、ヒートさん。あなたは、油断してしまったんじゃないかなって思う」
ノハ )
(´・ω・`)「DATとばれなくなった、と知らずのうちに思ったのかな。
. つい三時間前の行動も言ってしまったんだ。そう、入浴の事です」
(´・ω・`)「しかし、迷宮入りしたと思われた死因は、呆気なく特定されてしまった」
(´・ω・`)「こうして、あなたの犯行そのものまでもが、特定されてしまった」
(´・ω・`)「……観念していただけましたか?」
ノハ )
(´・ω・`)「……」
.
- 892 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:17:12 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンは、自分が思いつく最大限の推理を述べた。
おそらくは現状で真実に最も近い推理だろう、と自負できる。
葉桜が毒を盛った、そんな証拠はなかった。
だが、時間差トリックを用いた彼女が、足跡を残すとは思えなかった。
だから、ショボーンは彼女の自白を狙っていた。
むろん、ここで自白せずとも、状況証拠で逮捕はできる。
全宿泊客の話を総合させて、事件当時葉桜も擬古とともに大浴場にいた、と証明する事もできる。
しかし、ショボーンはそれをしたくなかった。
自白で、きれいに終わってほしかったのだ。
なぜなら
(´・ω・`)「……トソンちゃんが入浴したと知ったとき、あなたは随分と取り乱しました」
ノハ )「!」
(´・ω・`)「先ほど、トソンちゃんがDATを食らった旨を聞いた時も、動揺しましたね」
ノハ )「……」
彼女は、都村の様態について、自らの平静を崩すまでに案じた。
擬古以外を殺めるつもりはなかったのだ。
部外者を、しかもまだ若い女性を殺めたくはなかったのだ。
それを察したショボーンは、どうしても強引な手で彼女を捕まえたくなかった。
殺人を犯したとはいえ、他人を思いやれる人だったからこそ
自分ができる範囲内だけでも、ショボーンは事を穏和に済ませたかった。
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- 893 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:19:31 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「……予想外だったのでしょう、毒が消えぬうちに大浴場に他の人がくることが」
(´・ω・`)「あなたは、大浴場の評判を気にしていた。それは本当でしょう。
. すると、最近大浴場の利用客が減っているのを、知っていたのでしょ?」
(´・ω・`)「だから大浴場を利用した……のかな? 誰も来ないだろうから、と。
. なのに、あろうことかトソンちゃんが――」
ノハ )「やめて!」
(´・ω・`)「っ……」
まだ自白してくれなかったため、ショボーンが優しく追撃を試みた時だ。
黙っていた葉桜が、ついに口を開いた。
女性特有の金切り声に近い声で、制止した。
ノハ )「もう……いいです」
(´・ω・`)「!」
ノハ )「もう……」
ノハ;凵G)「………もう……いいんです」
葉桜は、その場にしゃがみこんだ。
そして両手で顔を覆って、声のない嗚咽と止め処ない涙を流した。
はじめて彼女が、言葉でなく、全身を使って感情を吐露した時だった。
ショボーンは、それ以上はなにも言わなかった。
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- 894 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:20:40 ID:ydbUYnjQO
-
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- 895 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:22:11 ID:ydbUYnjQO
-
−38−
葉桜に、手錠はかけなかった。
状況証拠はあるが、決定的な証拠がなかったため、任意同行という形をとった。
だが、あくまでそれは建て前であり、ショボーンの本音としてみれば、
ただ単に、彼女の手首を拘束するのが嫌だったのだ。
他人を思いやれる人だった事、悪賢さなど見せない姿だったというのもある。
が、加えてショボーン個人としての勝手な私情も混じっていた。
(´・ω・`)「……」
ノハ;凵G)「……ッ…」
N| "゚'` {"゚`lリ「どうした、ショボ」
(´・ω・`)「ん? ああ……」
少し、葉桜を見つめていた。
見惚れていた、と言うべきかもしれない。
涙を流し続ける彼女の横顔を見ていると、阿部に声をかけられた。
少し応対に詰まったが、阿部のほうをちらりと見た。
N| "゚'` {"゚`lリ「どうしたんだ?」
(´・ω・`)「いや、ね」
もう一度、葉桜を見る。
そして、阿部にも聞こえるかわからない程度に囁いた。
(´・ω・`)「……妻に……似てる気がしてね」
.
- 896 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:24:35 ID:ydbUYnjQO
-
N| "゚'` {"゚`lリ「ん?」
(´・ω・`)「なんでもないよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうか――」
大浴場から出、脱衣場から抜けようとした時だ。
目の前に、見慣れた黒いコートの男が、ぬっと顔を出した。
どうやらその男は、ショボーンを探していたようだった。
(メ._,)「……ここにいたか……」
(´・ω・`)「三月殿! トソンちゃんは――」
(メ._,)「問題ない……。先ほど……擬古と一緒の病院に搬送した」
N| "゚'` {"゚`lリ「発見が早かったおかげでな、フサほど苦しむ事はないだろうよ」
(´・ω・`)「そ、そうか」
三月が言おうとしたセリフを阿部が全部奪ったため、ショボーンは少したじろいだ。
苦笑を浮かべ、三月と合流して葉桜をパトカーに送りにいく。
その最中、廊下でショボーンはちいさく言った。
(´・ω・`)「三月殿……ありがとうございます」
(メ._,)「……?」
(´・ω・`)「本当なら、彼女は僕が介抱すべきだったのですが……」
(メ._,)「……気にするな」
声が弾んでいたため、ショボーンが顔を覗きこむと、三月は、珍しくも笑っていた。
照れ隠しか、ぷいとそっぽを向くも、ショボーンも笑った。
.
- 897 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:26:51 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,)「……むしろ……こちらが謝るべきなのだ」
(´・ω・`)「三月殿?」
廊下を抜けると、水須木と鬼瓦がいた。
その片隅には、擬古の嫁のデレが座り、しょぼんとしている。
泣きじゃくる葉桜を刑事二人に預け、二人が葉桜を連れ出した矢先で三月が口を切った。
阿部と同様に、三月もなにかを謝ろうとしていた。
(メ._,)「……ショボは……真っ先にDATの可能性を示した……。実際……事件はDATを中心にまわっていた。
というのに……それを我は……いや」
(メ._,)「オレは……信じられないがあまりに……否定した」
(´・ω・`)「!」
.
- 898 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:29:13 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,)「DATだと考えて捜査をすれば……より早く女将を連行できた……。
というのに……オレは……容疑者四人を逃がすという不祥事まで……しでかしてしまった」
N| "゚'` {"゚`lリ「あんただよ、あんた」
(;゚_゚)「うぎぎぎぎ!」
阿部は、三月に合わせるように小森の首を絞めた。
随分と懲りたようで、今では阿部に許しを請うている。
だが阿部は許そうなどとは思ってなさそうだった――
いや、どちらかといえば、小森を苛めて楽しんでいるようだった。
(´・ω・`)「……三月殿」
(メ._,)「上に立つ者として……申し訳なく思う」
(;´・ω・)「あ、頭をあげてください! 気にしてませんから!」
三月は、ショボーンに頭を下げた。
彼は警部になってから、頭を下げる事など一度もなかった。
捜査一課長や、刑事部長でさえ三月には低姿勢で接しているため、そのような事はなかったのだ。
本来ならプライドが許さないだろう。
だが、三月は存外抵抗なく頭を下げる事ができた。
ショボーンはすっかり動揺して、謝罪を止めるよう頼んだ。
数秒視線を床に垂直に向けてから、三月は顔をあげた。
.
- 899 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:30:13 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,)「……これで……事件は終わったのだな」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうなんのかな? ああ、そうか」
(メ._,)「お前というやつは……」
阿部は低く笑った。
三月も頭を掻き、顔には安堵が満ちている。
しかし、ショボーンは依然、張り詰めた様子だった。
(´・ω・`)「なにをおっしゃる」
(メ._,)「……?」
(´・ω・`)「この事件は、まだ完全に終わってはいない」
.
- 900 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:31:58 ID:ydbUYnjQO
-
−39−
(メ._,)「……なに?」
落ち着いた様子で、三月がショボーンを見た。
顎に手を当て、彼は三月を見ることなく、視線をどこかへ向けていた。
網膜には旅館の光景はなく、ただ脳内で練っている推理が目の前を駆けていくだけだった。
N| "゚'` {"゚`lリ「まだなんかあったか?」
(´・ω・`)「忘れてるのも仕方がないと思うが……よく聞け」
(´・ω・`)「小森の持っていたDATの行方だけが、まだわかってないんだ」
(メ._,)「……」
(メ._,;)「…………ッ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「確かに、そりゃー事件だ」
.
- 901 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:33:45 ID:ydbUYnjQO
-
容疑者四人が逃げ出す前では、別の一件があって場が騒然としていた。
小森が、中身がないDATの小瓶を所持していたのだ。
誰かがDATを呑まされてしまった可能性がある、そう言ってショボーンは焦っていた。
はやくその人物を見つけだし、特効薬とされるモリタポ50を呑ませなければならない。
徒に命を落とさせるのは、あってはならない事なのだ。
伝・ー・)「とりあえずオニに女将さんを連行させといたぜ」
(´・ω・`)「……あんた、間が悪いな」
伝・ー・)「へ?」
(メ._,)「デカブツ……! 小森のDATの行方は当然調べたんだろうな……ッ!?」
N| "゚'` {"゚`lリ「早くしねぇと、しばらくケツから痛みがとれないようにしてやるぜ?」
伝・ー・)
;`・ー・)「ええぇぇぇぇぇぇッ!? 聞いてない!!」
.
- 902 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:36:26 ID:ydbUYnjQO
-
へらへらした水須木が戻ってくるやいなや、三月と阿部に開口一番で怒声を聞かされた。
当然だが、三月からそのような指示は受けていない。
優秀な刑事なら言われなくとも調べるだろうが、そもそも当時、彼は逃げた四人を追っていた筈だ。
調べられる筈も、ない。
(メ._,;)「……我々も急いで……」
(´・ω・`)「その必要はありません」
(メ._,)「……なに?」
阿部と三月が駆けだそうとするのを、ショボーンが冷静な口振りで止めた。
二人ともぴたりと足を止め、ショボーンのほうに向いた。
ショボーンには、心当たりがあるようだった。
(´・ω・`)「DATの効き目がでるまで、少なくとも二時間はある」
(メ._,)「しかし……」
DATは何度も言われてきたように、効き目が出るまで三時間を要する。
当時に展開した推理からして、まだ時間的猶予は残っている。
焦燥に逸る三月を宥め、萎縮していた水須木のほうを見た。
(´・ω・`)「まあ待ってください。それよりも、おいあんた」
;`・ー・)「なんだよー」
もはやショボーンに対する敬意など微塵にも感じさせない水須木が、困り顔で応じた。
水須木からの敬意など既に求めすらしてないショボーンは、別段気にせず話をきりだした。
.
- 903 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:38:23 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「逃げた四人のうち、ヒートさんは大浴場へ。阿部さんは逃げた小森を追って。
. じゃあ、あんたともう一人は、誰を追ったんだ?」
「なんだ」と言って、水須木は受付カウンターの近くで座っているデレを指した。
俯いていて、生気がまるで感じられない。
夫の被害に友人の犯行と、よほどショックが強かったのだろうか。
伝・ー・)「オニの奴は途中で阿部警部と合流したって言ってたけどよ、俺は奥さんを追ってたぜ」
ζ( ー *ζ「……」
(´・ω・`)「あんたは確か玄関口に向かって走っていった。ということは、デレさんも外に出ようと?」
伝・ー・)「裸足で逃げようとしたところを押さえてやったんだ」
ショボーンは再び顎に手を当てた。
思い当たる節があったのだろうか。
伝・ー・)「捕まえると観念したみたいで、ずっとそこに」
デレは、受付カウンターの斜め横、丁度廊下からは陰になるところで座っていた。
その後逃げる様子はなかったそうだが、鬼瓦が戻ってくるまで水須木もそこで待機していたという。
結果、その間に怪しい動きを見せようとはしなかったということだ。
.
- 904 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:40:30 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「……」
ショボーンはそれを聞いて、途端に黙り込んだ。
その目には、哀れみのようなものが映っている。
そんな彼を見て、三月は、はッとした。
もしやと思い、声を若干荒げ、低い声を出した。
(メ._,;)「ま……まさか……彼女が……」
(´・ω・`)「……デレさん」
ζ( ー *ζ
(´・ω・`)「……僕の推理がただしければ」
(´・ω・`)「彼女は、自分でDATを呑んだんだ」
.
- 905 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:42:22 ID:ydbUYnjQO
-
−40−
;`・ー・)「なんだって!?」
ζ( ー *ζ
これは、容疑者の四人が逃げ出す前から、薄々感づいていた事だ。
一度この手の推理を巡らせていくと、この結論以外には考えられなかった。
なによりも合理的で、全てに説明がいくのだ。
ショボーンは、その経緯を話し始めた。
(´・ω・`)「小森。何度も聞くが、DATは勝手に使われたんだな?」
( -_-)「そうだっつってんだろ!」
(;゚_゚)「――ぐぎぎぎぎっ!」
生意気な態度をとったためか、阿部が小森の首を絞めた。
すぐに阿部の腕をとんとんと叩いた。
(´・ω・`)「で、擬古さんから借用証を奪う際に使わなかった」
(;-_-)「……はい」
(´・ω・`)「警察がきて、そこの刑事に連れてこられるまでは部屋で待機」
(´・ω・`)「その時は、まだ中身のあるDATの瓶もあったんだな?」
(;-_-)「そりゃ……そうだろ」
N| "゚'` {"゚`lリ「ほう」
N| "゚'` {"゚`lリ「―――待て。それじゃあ……」
.
- 906 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:45:00 ID:ydbUYnjQO
-
阿部は、ある事に気がついた。
その反応を見て、ショボーンも肯いた。
阿部が言うまでもなく、ショボーンは阿部が理解した事を、見てわかったのだ。
(´・ω・`)「他の宿泊客は警察からの事情聴取に追われていた、だからDATの紛失は外部犯の仕業じゃあない」
(´・ω・`)「すると、小森のDATを奪うのは、本来なら不可能なんだよ」
小森が確認している以上、擬古から借用証の奪還を試みるより以前にはDATは奪われなかった。
その後は部屋に引きこもっていたため、やはりDATを奪うのは不可能だ。
奪うためには小森を部屋から追い出す必要があったが、彼が次に
部屋を出たのは、警察が到着し、水須木が引っ張り出した時である。
また、それ以降に小森の部屋に入るのは、ショボーンの言った通り、本来は不可能。
だから、小森のDATが消えたのは、おかしい事なのだ。
;`・ー・)「でも、実際に中身は消えたんだぜ!?」
(´・ω・`)「『本来なら』って言ったろ?
. ここにイレギュラーが加われば、不可能が可能になるんだ」
;`・ー・)「なんだ、イレギュラーって!」
(´・ω・`)「事件後、あの部屋を出なかった人はいなかったか?」
.
- 907 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:51:17 ID:ydbUYnjQO
-
伝・ー・)「……部屋?」
;`・ー・)「あ……ああああああああああああッ!! そっか! それだ!」
(´・ω・`)「えらいぞ、単細胞でも理解できたか」
(メ._,;)「確かに……」
(メ._,;)「あの時……女将と擬古の嫁は部屋を出たが……。
まさか……その時にッ!」
――あの時、デレは泣きじゃくっていた。
三月が心を痛めた程に泣いたのだ、化粧も当然崩れるだろう。
それを気遣った葉桜が、デレに化粧を直すよう促し、部屋をでた。
当然、容疑者ゆえ、警官が付き添う。
しかし、向かう先は女性の化粧室。
その内部にまで警官は付き添えないし、相手は号泣している、しかも女性だ。
そのため、当時の彼は、思いもしなかっただろう。
――その隙を、衝かれる、などとは。
.
- 908 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:54:02 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,;)「あの時の警官はどこだ……!」
;`・ー・)「たぶん帰ってます」
(メ._,)「あとで処分を与えるよう伝えとけ……」
伝・ー・)「わっかりましたァ!」
(´・ω・`)「(そういう時だけ生き生きするんだ…)」
(´・ω・`)「……うぉっほん。しかし、ここで問題が起こる」
N| "゚'` {"゚`lリ「どうして彼女らが、小森がDATを持っていることを知っていたか、だな?」
(´・ω・`)「そうだ。しかし、考える必要もない。ここに当事者がいるからな」
(;-_-)「! 俺はなにも――」
ショボーンが小森を見ると、小森はなおも阿部の腕のなかだった。
首を振る素振りを見せ無実を訴えてきた。
しかし、阿部がヘッドロックの構えのまま力を入れると、すぐに小森は折れた。
N| "゚'` {"゚`lリ「言おうぜ?」
(;゚_゚)「あがががァァ! 言います言います!」
ζ( ー *ζ
(;-_-)「元々は奥さんと手を組んでたんですよ!」
(;-_-)「擬古のヤローをブッ殺そう、ってな!」
.
- 909 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:56:00 ID:ydbUYnjQO
-
−41−
(メ._,;)「なんだと……!」
N| "゚'` {"゚`lリ「いいタマもってんじゃねーか」
小森は、殺意を認めはしていた。
だが、そこに妻のデレが絡んでくるとは、微塵にも思ってはいなかっただろう。
いま驚きを隠せないでいる、阿部、三月、水須木は。
だが、ショボーンは。
彼は眉ひとつ動かす事すらせず、じっとデレのみを見ていた。
彼女は垂れた前髪で目が見えず、伸びた口角だけが窺える。
(;-_-)「俺が擬古のヤローから借用証を奪う時、奥さんが電話して旅館の外に出すっつー作戦だよ!」
;`・ー・)「……一応、辻褄はあうなー」
(;-_-)「当然だろ! それを実行したんだから!」
N| "゚'` {"゚`lリ「ここで彼女を巻き込もうってハラじゃねぇよな?」
(;-_-)「本当だっての! なぁ奥さん、もうだめだ! 諦めよう!」
ζ( ー *ζ
嘘を吐いているようには見えないが、阿部に首を絞められるのをおそれ、小森は必死にデレに肯くよう促した。
だが、肝心のデレは俯いたままで、巻き髪すら揺らす事はなかった。
阿部が小森を更にいたぶろうとするのを、ショボーンが制止した。
小森の身を案じた訳ではない。
.
- 910 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 20:58:14 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「まあ待て、小森よりもデレさんに聞く方がいいだろ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「……ま、そうっちゃそうだな」
これ以上小森を問い詰めても埒が明きそうになかったので、ショボーンはデレから話を聞くのを考えた。
歩み寄って、デレに手を差し伸べる。
気づいたデレが三十秒ほどその手を見つめ、そして自分の右手を載せて立ち上がった。
生後間もない馬のように足が覚束なく、今からでも倒れそうだった。
デレの手は、柔らかく、そして非常に冷たかった。
涙を受け止めていたのか、若干湿っていた。
ζ( ー *ζ
(´・ω・`)「デレさん、お話をいいですか……?」
ζ( ー *ζ
ζ(゚ー゚*ζ
下ろしていた瞼を開いて、ショボーンの澄んだ瞳をじっと見つめた。
ショボーンの黒い瞳にはデレしか映ってないのを確認して、デレはにっと笑った。
邪悪ななにかを感じさせない、屈託のない無垢な笑顔だった。
(´・ω・`)「……デレさん?」
――少し、落ち着きすぎてやいないか。
それが、最初に彼女に抱いた感想だった。
あくまで、自分は小森によって告発されている身。
少しくらいは取り乱したっていいのに。ショボーンは、そう思った。
.
- 911 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:02:27 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンが不思議に思って見つめていると、漸くデレは口を開いた。
耳を澄まさなければ聞こえない、囁き声だった。
ζ(゚ー゚*ζ「夫は……」
(´・ω・`)「?」
ζ(゚ー゚*ζ「夫は……もう助からないのですよね……」
N| "゚'` {"゚`lリ「ん? フサならも――」
事情を知っている阿部が、口を挟もうとした。
しかし、ショボーンが強引にそれを遮った。
(´・ω・`)「助からないなら?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「わかっちゃった……んです」
ζ( ー *ζ「ヒーちゃんが、夫を殺したんだろうな、って……」
(´・ω・`)「!」
デレは瞼を伏せて、ショボーンの手を両手で握った。
思いっきり力を籠め、必死に握っている。
ショボーンは何だと思っているところ、デレの手は小刻みにだが震えていた。
精神が安定せず、一人で話すには不安なのだろう。
ショボーンは黙って、握り返してあげた。
ζ( ー *ζ「でも……それは私とあの人のためにしてくれる事……」
ζ(゚ー゚*ζ「ヒーちゃんは……私を気分的に楽にさせてくれたの」
(´・ω・`)「……」
ζ( ー *ζ「ですが、件の毒を呑んだの、私じゃありません」
ζ( ー *ζ「私、そんなの呑んでません。呑んでませんから」
.
- 912 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:04:57 ID:ydbUYnjQO
-
デレは、DATの件を否定した。
現状ではデレしか考えられず、また否定の仕方も怪しく見える。
今の言葉は嘘なのだろう、とショボーンはすぐに理解した。
だが、それを嘘と見抜くには検査をするしかない。
しかしながら、本人が否定するなか強制的に検査に臨めば、人権問題が付きまとうのは必至だ。
第一、いまの彼女に症状などないのだ。
健康体の彼女に特効薬を与えるには、本人がDATを呑んだ事を認めさせなければならない。
万事休す、か――そう、捜査陣は思った。
――と、そこで、三月の電話が鳴った。
動じずに出ると、部下からの報告だった。
(メ._,)「どうした……?」
『きッ吉報です!』
『被害者が……擬古氏が、意識を取り戻しました!』
.
- 913 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:09:19 ID:ydbUYnjQO
-
−42−
(メ._,)「それは……本当か!」
『はい! たった今、確認されました!』
それは、歓喜に満ちた刑事の声だった。
擬古が、VIPの検事だから、などという他意はない。
ただ純粋に、被害者が命を取り留めた。
その事が、限りなく嬉しいのだ。
三月も口調が少し速くなり、昂揚しているのが手に取るようにわかった。
その他擬古に関する報告を受け、喜ばしい結果のまま三月は電話をきった。
三月がそれらの事をショボーンたちに伝えようとするが、言うまでもなかった。
三月の電話の受話音量が大きく、意識せずとも聞き取れたのだ。
また、加えて三月の語調を聞くだけで、もはや確信できる。
N| "゚'` {"゚`lリ「ひやひやしたぜ」
(メ._,)「実に……喜ばしい事だ」
伝・ー・)「今夜、赤飯食べるぜ!」
(;´・ω・)「……」
ショボーン以外の刑事三人は、形は違えど喜びを示した。
必ず死亡するとされるDATから、世界初の生還者が生まれたのだ。
存命が絶望されていたさなかからの、奇跡といっていい帰還である。
阿部が特効薬を与えるのが、もう少し遅ければ。
その時は、また、違った結果となっていたのだろうか。
しかし、それを考える必要はなかった。
事実として、擬古は蘇った。
その一点のみが存在していれば、あとはどうでもよかったのだ。
―――ショボーンを除いて。
.
- 914 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:13:16 ID:ydbUYnjQO
-
(;´・ω・)「………」
(メ._,)「……どうした?」
ショボーンは、固まっていた。
いや、予想はできていた事であり、それによりショボーンに害が及ぶ事などない。
素直に喜んでいい筈なのに、ショボーンは顔の筋肉を固めていた。
不審に感じた三月が、尋ねた時だ。
ショボーンの目の前にいたデレの瞳が、色を宿さなくなっていた。
ζ(゚ー゚*ζ
(;´・ω・`)「あ、はは……。おめでとうございます! ご主人はご存命ですよ!」
ζ(゚ー゚*ζ
デレは眉すら動かさなかった。
先ほどまでのか弱そうな印象から一転、他の印象を全く受け付けさせない無表情となっていた。
ショボーンはその真意がわかりなんとか宥めようとするのだが、既に二重の意味で遅かった。
ζ(゚ー゚*ζ「夫は、無事なのですか?」
(;´・ω・`)「はい、はい。とっても」
ζ(゚ー゚*ζ
口を開いたかと思うと、再び閉ざした。
三月、阿部、水須木が次第に静かになってきた。
なにが起こるのかと思い、ショボーンの陰から顔をだしている。
.
- 915 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:17:17 ID:ydbUYnjQO
-
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「……やだ」
(;´・ω・`)「やだ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……死ぬの、やだ」
(メ._,;)「ッ!」
ダムが、崩壊した瞬間だった。
ζ(;Д;*ζ「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッぁあ!!」
.
- 916 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:31:57 ID:ydbUYnjQO
-
(;´・ω・`)「デレさん、落ち着いて!」
ζ(;、;*ζ「死にたくない! やだ! 助けて!
刑事さん助けて! お願い!! 死にたくないよおおおおおおお!!」
デレは、混乱した。
絶叫し、悲願し、号泣した。
ショボーンにすがりつき、常に悲鳴をあげ続けている。
全身から汗が噴き出し、鼻水が出て、涙がショボーンのトレンチコートを湿らせる。
他の三人には、何のことか訳がわからなかった。
デレにすがりつかれ動けないショボーンを察し、阿部が歩み寄った。
一体どうしてしまったのか、尋ねるとショボーンは大声を放った。
(;´・ω・`)「考えろ、デレさんがDATを呑んだであろう理由を!」
N| "゚'` {"゚`lリ「常識的に考えると……罪意識による自殺か?」
(;´・ω・`)「違う、もっと単純なんだ!」
(;´・ω・`)「……愛した夫が、死ぬ筈だった。とるべき行動はひとつだけだろ!」
(メ._,;)「ッ! 後追い自殺ッ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「……っ!」
ζ(;Д;*ζ「呑んだ! DATとか言う毒、呑んだ! 認めるからあああああああッ!」
.
- 917 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:32:54 ID:ydbUYnjQO
-
呑めば百パーセントの確率で絶命。
DATを呑む以上は、それを承知だろう。
死を呑んだデレが、存命を望む。
それがどれだけ難しい事か、言うまでもない。
その、難しい理由の最たるものは、阿部の発言にあった。
というのも、阿部が、今日ではじめて焦りを見せたのだ。
N|;"゚'` {"゚`lリ「……もう、モリタポ50はないんだぞッ!」
.
- 918 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:39:02 ID:ydbUYnjQO
-
−43−
(;´・ω・`)「…………な、……」
(´・ω・`)「―――な」
(;´゚ω゚`)「なにィィィィィィィッィイ!?
. さっきまでの余裕はどこ行ったんだよバカ!!」
N| "゚'` {"゚`lリ「例の嬢ちゃんにやったのを、忘れてたんだ!
あれで、最後だったってことだよ!」
(メ._,;)「救急車を呼べ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「無駄だ、ふつうの病院に送ったところでDATの対処ができず、そのままお陀仏さ」
ζ(;、;*ζ「あの人を残して死にたくない! 生きたい! 生きたい!」
(;´゚ω゚`)
ショボーンは頭のなかが真っ白になった。
せっかく救えた一つの命が、別のところで消えかかっているのだ。
それも、犯人でも被害者でもない、第三者が、だ。
絶対に救わなければならないのだが、普通の病院では治療は不可とされている。
ではどうすればいいのか、考えても考えても、思いつく事はなかった。
医療に関しては、乏しいのだ。
ζ(;Д;*ζ「息が、息が苦しいよぉぉぉぉぉッぉお!」
(メ._,;)「落ち着け……まだ症状がでる時間じゃないぞ……!」
デレは、喉を押さえて、苦悶しはじめた。
心なしか、声も枯れて聞こえる。
だが、まだDATの効き目が現れるにしては早すぎる時間だ。
つまり、どう足掻いても死ぬとわかったデレが混乱しきって、そのように錯覚しているのだ。
病院に搬送するにしても、まずは落ち着かせるしかなかった。
.
- 919 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:42:46 ID:ydbUYnjQO
-
ζ(;ー;*ζ「怖い、死ぬのが怖い……助げでぇぇ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「搬送するにはまず混乱を解け。俺がその間に車を手配する」
(;´・ω・`)
(´・ω・`)「っ! あ……ああ」
ショボーンが、我に返る。
病院への搬送は不可だとしても、まだあてはあったようだった。
それを手配するため、まずはデレを落ち着かせるよう阿部に頼まれた。
だが、いまのように崩壊した精神に説得を試みるなど、抵抗感が強かった。
死者に鞭を打つような心地だった。
いま、ここで現実に向き合わせるような厳しい言葉を、自分はかける事ができない。
それを自覚しているショボーンは、内心焦りながらデレと向き合った。
ショボーンが心を鬼にする時だった。
(´・ω・`)「……デレさん」
ζ(;ー;*ζ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな
さいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ
んなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
(´-ω-`)「……」
(´・ω・`)「……さっさと、死ね」
ζ(;ー;*ζ「ッ!」
(メ._,;)「ショボ! なにを――」
.
- 920 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:45:21 ID:ydbUYnjQO
-
開口一番で、ショボーンは言った。
正気の沙汰とは思えない、言葉だった。
最初言葉の意味がわからず、デレも三月も戸惑った。
三月に至っては制止しようとしていた。
だが、ショボーンはそれをよしとしなかった。
これは、説得とは名ばかりの、ショボーンのエゴだったからだ。
(´・ω・`)「夫が死ぬからといって勝手に毒を呑んで、生きているとわかれば生きたい? わがままを抜かすな」
ζ(;、;*ζ「だって!! あの人のいない世の中じゃあ生きていけない!!」
(´・ω・`)「それがわがままだと言ってるんだ。擬古さんは、あんたを愛してなかったのか?」
ζ(;ー;*ζ「世界で一番愛し合っていたわよ! だから、死ぬ時も一緒なの!」
(´・ω・`)「男が、愛する女の死を知って喜ぶと思うか?
. それが、己が原因で招いた死だとしたら、なおさらだ」
ζ(;ー;*ζ「………!」
(´・ω・`)「あんたの言ってる死ってのは、自分が依存できる人が消えた事による、甘えだ。この上なく最悪の現実逃避だ」
(´・ω・`)「自分が死を受け入れられないから逃れようとする、身勝手な行動だ。この世で最も重い罪だ」
(´・ω・`)「もし擬古さんが本当に死んだとして、彼は絶対に、絶対にあんたの死を快く思わない。
. 浮かばれない気持ちになるんだ」
ζ(;ー;*ζ「でも私はあの人に一生を賭して尽くすって決めたもん!
そのあの人が死んだら、私に生きる価値なんてない!」
(#´・ω・`)「生きる事に価値なんてつけるなッ!」
ζ(;、;*ζ「ッ!」
.
- 921 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:46:39 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンには、苦い過去がある。
それが元で、彼は自殺を図った事があった。
丁度、デレと全く同じ心境下で、だ。
今の、ショボーンがデレに言った言葉は、嘗てショボーンが信頼する人物に言われたものだった。
デレに当時のショボーンを投影して、自分で過去の自分を更生させよう――
気が付けばショボーンはそんな利己的な考えでデレに説得をしていた。
だから、滅多に怒鳴るなんてしない彼が、本気で怒鳴っているのだ。
自分の過去を払うために。
同じ経験を、デレにも味わってほしくがないために。
.
- 922 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:48:42 ID:ydbUYnjQO
-
−44−
(´・ω・`)「仮に夫が死んだとしたって、絶対に後追い自殺なんてしちゃだめなんだ」
ζ(;ー;*ζ「ひっ……えぐッ……」
(´・ω・`)「死んだ愛する人のために、死んだ愛する人の分も、自分が精一杯生きる」
(´・ω・`)「それが愛する人への愛の示し方であるし、唯一の、罪を償う方法なんだよ」
ζ(;ー;*ζ「…っ……?」
(´-ω-`)「『図々しくも私なんかが生き延びてしまった。身代わりになれずごめんなさい』という罪意識があるなら。
なおさら、生き続けなければならない」
(´・ω・`)「愛する人の存命時以上に幸せになる事が、天に召された人に愛を届け、許しを請う唯一の方法。
. 覚えておくんだ」
(´・ω・`)「愛する人を持つ者にとっての最大の幸せは、愛する人の幸福なんだから、な」
ζ(;、;*ζ「でッも……、あの人ッのい、ない世界で幸せなんて……」
(´・ω・`)「……」
ショボーンは、一瞬目を伏せた。
その時浮かんだ顔は、名物である筈の葉桜の見える温泉の不人気で悩んでいた、葉桜ヒートの顔だ。
どうして、人々が葉桜の見える温泉を避けるのか、少しわかった気がしたからだ。
.
- 923 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:50:43 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「……この旅館、葉桜館って言いますよね」
ζ(;ー;*ζ「…?」
(´・ω・`)「本来は、サクラという木が一番美しいのは花が満開となる四月です。
. でも、女将のヒートさんは、敢えて葉桜を売り物にした」
ζ(;ー;*ζ「葉桜……って名字、だからじゃないの……?」
(´・ω・`)「僕が思うに、ヒートさんは葉桜が大好きなんだ」
話していると、どこか、デレの泣き顔が葉桜と重なって見えはじめてきた。
やはり、通じるものがあるのだろうと彼は思った。
(´・ω・`)「桃色のきれいな花びらを落として、なんの変哲もない
. 緑色の木になってしまった桜のほうが、彼女は好きなのです」
(´・ω・`)「すっかり容姿が変貌してしまうけど、それでも葉桜を好む人はいるのはなぜか」
(´・ω・`)「……葉桜は、花びらという大事な物を失っても、必死に生きてゆく」
(´・ω・`)「そしていつかは、また美しい花びらを手に入れる事ができるからなんだ、と思います」
(´-ω-`)「……これは、今のあなたと全く同じのように思えませんか?」
.
- 924 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:52:27 ID:ydbUYnjQO
-
ζ(;、;*ζ「…」
ζ(;ー;*ζ「…」
ショボーンが話すのを止めると、丁度サイレンの音が聞こえてくるのが聞こえた。
音からして、救急車とパトカーが一斉にきているのだろう。
アルプス県警は既に葉桜館にいることから、別のところからの応援なのだ、とわかった。
そして、それが誰からの要請なのか、もすぐに見当がついた。
N| "゚'` {"゚`lリ「まさかと思って待機させていた分が、役にたったぜ」
(メ._,)「この音は……」
N| "゚'` {"゚`lリ「警視庁から、何人か寄越すよう言ってたんだ。ついでに小森も検挙する名目でな」
(;-_-)「だから、俺は奥さんと手を組んで――」
さすが警部になった男だ、と三月は思った。
平の刑事だった頃は、彼に従おうなんて人間は一人としていなかったのだ。
それが今では、まともな警部として日々を過ごしている。
少し、阿部が誇らしく思えた。
小森を苛めたりさえしていなければ。
.
- 925 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:54:11 ID:ydbUYnjQO
-
(メ._,)「……擬古の嫁は……どうするんだ?」
N| "゚'` {"゚`lリ「うちのDATの研究チームが、医学協会と協力して治療に臨むだろうってさ」
(´・ω・`)「……だ、そうです。あなたは、生きる事ができる」
ζ(;ー;*ζ「……」
(´・ω・`)「これからは自殺を考えず全うに生き続け、愛を誓うのか。
. それとも、ここでのこのこ自殺するのか。……決めるのは、あなたです」
ζ(;ー;*ζ「……」
ζ(;ー;*ζ「もう……自殺なんてしません……夫を愛し続けます……謝り続けます……
命絶える日まで、ずっと……」
.
- 926 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:57:12 ID:ydbUYnjQO
-
(´・ω・`)「……」
(´-ω-`)「……フ」
彼女の、自殺に至った経緯。
捨てられたランチボックスの謎。
擬古に、なにを謝罪するのか。
彼女の語る愛に、どんな障害があったのか。
ショボーンが知りたい事はまだまだあったが、それを聞く事はなかった。
人の恋路に手を出す、そのような権利など存在しないからだ。
これ以上を知る事ができるのは、アルプスの刑事だけ。
そう考え、彼は見せた歯から息を漏らすだけだった。
やがて救急車が到着しデレを乗せ、阿部とショボーンが警視庁のパトカーに乗った。
アルプスの刑事を残し後にする葉桜館では、葉桜はいつまでもその葉を天に向けていた。
そして、アルプスの風が吹いたかと思うと、桃色の花びらは嬉しそうに散っていった。
.
- 927 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 21:58:01 ID:ydbUYnjQO
-
.
- 928 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:00:00 ID:ydbUYnjQO
-
−45−
五月十日、検事の擬古フッサールは一週間ほどの出張に出る筈だった。
DATについて、調べる事があったからだ。
まずは警視庁でDATについて情報を集める。
そして十三日に阿部がアルプスで講義に出るため、午後から合流し、以降はアルプスでDATの調査を行う予定だった。
だが、十三日の朝になると、葉桜ヒートから電話がかかった。
午後から予約は入れていたが、何らかの不都合で満室にでもなったのかと少し不安になって出た。
すると、葉桜の用件は至って単純なものだった。
久々に会うのでアルバムでも見て語らいたい、という。
擬古は別に文句はなかったし、阿部との会議が一段落ついたところで、肴でもつまみながら話すのもいいだろうと思った。
午前中は喫茶店で時間を潰すつもりだったので、その時間に一旦帰宅する事にした。
コンビニで朝食でも調達しようと思っていたところなので、ならば愛する妻の手料理を食べてから行こう、と閃いた。
ここ数日の間は声も聞いてなかったため、愛妻家としてはありがたい事だ。
連絡をせず驚きを持って出迎えてあげたほうが、喜びも一入だろう。
快い気分のまま帰路について、その最中は妻が嬉しそうに朝食をつくる姿を想像し、微笑んだ。
.
- 929 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:02:06 ID:ydbUYnjQO
-
だが家についておかしかった事があった。
一階に電灯が点いていないのに対し、二階、寝室には明かりがあるのだ。
七時をまわっており、普段の妻なら一階でニュース番組でも見ながら朝食をつくっているだろう。
不思議な気持ちになったが、自分が居ないためたまにはのんびり寝よう、
という腹なのだろうと考え、気にせず玄関に向かった。
なるべく音が聞こえないように施錠を解き、ゆっくり扉を開いた。
泥棒になった気分だと微笑を浮かべていたが、ふっとその微笑は消えた。
ミ,,゚Д゚彡「……?」
靴を脱ごうとする前に、その異変に気が付いた。
妻の靴の隣に、大きな革靴があるのだ。
むろんそれが自分の靴ではないとすぐにわかったし、
大きさを見る限り女性物ではないというのも同時にわかった。
一瞬妻を呼ぼうとしたが、限りなく不審に感じたため、その声を引っ込めた。
まさかとは思うも、妻に対してある疑心を抱きはじめていたのだ。
階段に体重を載せると、ぎぃと軋む音が聞こえる。
だから、手すりと壁に力を籠め、なるべく階段を軋ませないように、一段一段を上っていった。
明かりからするに、妻が二階にいるのは間違いないのだ。
全ての段差を上り終え、寝室に向かった。
足音を忍ばせて扉の前に立ち、耳を当てて中の音を確認した。
静かだ、なにもおかしい音はない。
すると、玄関にあった革靴は、自分へのプレゼントなのだろうか。
そうだとすると申し訳ない事をした、と詫びる気持ちのまま、扉に手をかけ、平生と変わらず開いた。
.
- 930 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:03:58 ID:ydbUYnjQO
-
ミ,,゚Д゚彡「デレ、早く起きな――」
ζ(゚ー゚;ζ「ッ!?」
ミ,,゚Д゚彡「!」
寝室に足を踏み入れ、ベッドを見ると、デレと目があった。
シーツを上にかけたまま、上体を起こしている。
そして、なぜかその上体に纏われる衣服は、無かった。
また、彼女の陰にも一人、男がいることが一目見てわかった。
同時に、玄関にあった大きな革靴が、彼のものであるのだろうとも予測がついた。
(・∀ ・)「誰?」
ζ(゚ー゚;ζ「あなた!?」
(・∀ ・)「え、まじ?」
ミ,,゚Д゚彡
擬古は、その光景を五秒ほど見つめていた。
いや、その時の擬古の目は機能していなかった。
網膜が灰色に濁っており、妻の姿を認識するのは無理だったのだ。
デレが慌ててシーツを蹴り、毛皮のスリッパを履こうとした。
その頃には、擬古に感情などなかった。
ただ無意識のうちに、扉を蹴破り、玄関へと階段を駆け下りていっていた。
妻のなにかの叫び声が聞こえる。
しかし、聴覚にも神経は宿っていなかった。
玄関で靴を履こうとすると、階段を下りてきた擬古にデレがすがりついた。
だが、その事に気づくのも、自分が立ち上がろうとした時あった。
妻の柔らかい肌が、自分を覆っていたのだ。
ようやく聴覚が蘇ったが、聞こえたのは同じ言葉だらけだった。
ζ(゚ー゚;ζ「待って、違う! 聞いて!」
ミ,, Д 彡
身体を揺すり、自分が外へ出て行くのを必死に押さえている。
殴り飛ばす事などできた筈だが、当時の擬古にはそのような気力すらなかった。
ただ妻の悲願を、受け流していた。
.
- 931 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:05:13 ID:ydbUYnjQO
-
−47−
ζ(゚ー゚;ζ「聞いて! あなたを裏切ったとかそういうのじゃないの!」
ミ,, Д 彡
ζ(゚ー゚;ζ「話を聞いて! 行かないで!」
ミ,, Д 彡
ζ(;ー;*ζ「許してって言わないから! 行かないで! お願い!」
デレは、只管そう叫んでばかりだった。
一糸纏わぬ姿を恥じらいもせず、ただ夫と離れ離れになりたくないがために、必死に許しを請うていた。
その言葉が真実なのか、言霊には本音が含まれているのか、平生の擬古ならわかっただろう。
だが、今の擬古は頭のなかが真っ白だった。
愛した妻が、自分を裏切った。
ただそれだけで、なにもかもを失ったような心境になった。
たった一瞬見た光景だけで、妻を信じられなくなった。
自分が愛した妻はどこに行ったのか、見失ってしまった。
擬古デレは隣にいる。
だが、それは擬古の知っている彼女ではなかった。
.
- 932 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:06:37 ID:ydbUYnjQO
-
なにが悪かったのか。
気が付けば、デレの言葉など門前払いしてその事を考えていた。
検事と言う凶悪な人間と戦う職業柄、仕事に明け暮れる日が続いた。
資料に目を通して一晩中自宅に帰らない事もあった。
時には現場に出向きビジネスホテルに一泊する日もあった。
そのたびに、家に一人にするデレに申し訳なく思っていた。
だから、その詫びる気持ちを愛として示していた。
妻を心から愛し、慕い、敬い、護ってきた。
デレも自分を慕ってくれていたため、なにもかもが円満であるのだ、とばかり思っていた。
だが、それは自分の思い過ごしだったのだろう。
擬古はそう思った。
ζ(;ー;*ζ「ごめんなさい! ごめんなさい! 行かないで!」
また、擬古は精神面で非常に脆い人なのだ。
情緒不安定になりがちで、薬に頼る事もある。
なにかに依存しがちで、一度信頼が壊れてしまっては二度と当人を信じる事などできない。
多忙で、いつ精神病で倒れるかわからない日々のなか、デレだけが生き甲斐だった。
家に帰ればデレが笑顔で迎えてくれる、そう思っていなければ倒れてしまうだろう日ばかりだった。
そのデレが、自分から離れてしまった。
ただそれだけで、生きる気力をなくしてしまった。
なにを目標に掲げればいいのかも、わからなくなってしまった。
.
- 933 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:08:19 ID:ydbUYnjQO
-
ミ,, Д 彡「……」
擬古は、一旦溜息を吐いた。
自分の死ってるデレが死んだものだと割り切ると、存外気が軽くなったのだ。
目の前の彼女は、デレではない。
そうとしか思えなくなっていた。
ミ,, Д 彡「お前の心を満たせなかった、俺が悪かった」
漸く絞り出せた声が、それだった。
嫌みや別れの口上ではなく、本心だった。
デレが死んだのは、自分があまりにも仕事に打ち込みすぎて、デレを守りきれなかったからだ。
退屈、倦怠、空虚という魔の手からデレを救えなかった、己が不甲斐なかったのだ。
日常における己から得る事のない刺激欲しさに、デレは自分を捨て、平和や愛を捨てざるを得なかった。
デレに非はない。あるとしたら、自分だ。
擬古の結論は、それだった。
ζ(;ー;*ζ「違う! あなたは全然悪くない!」
ミ,, Д 彡「そうか、この期に及んでこんな俺を庇ってくれるのか」
ζ(;д;*ζ「自分を責めないで! 悪くないの! 全部私が悪いの!」
ミ,, Д 彡「……こんな良妻を殺したのは……」
ミ,,゚Д゚彡「……俺だ」
.
- 934 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:10:36 ID:ydbUYnjQO
-
そう言って、擬古は目を見開いた。
完全に吹っ切れて、現実を受け入れる事にしたのだ。
擬古の思う理想から、擬古の思う現実へ、と。
擬古は、自意識過剰な点があった。
被害妄想に明け暮れてしまう点があった。
何か事が起こると、全て自分が原因だと勘違いし、形のない罪の意識に苛まれてしまうのだ。
デレは、そんな擬古を知っていた。
結婚後にも、彼女は自分を闇雲に追いつめる擬古の姿を、幾度となく見てきた。
だからこそ、放っておけば擬古は本当にデレは死んだ物だと思いこんでしまうのだ、と知っていた。
デレは、その誤解をなんとしてでも解きたかった。
しかし、デレは擬古を本当に愛していたのか。
当時では、本人以外わからなかった。
だから、擬古はデレの制止空しく家を飛び出したのだ。
すがりつくデレを振り払い、独り車に乗って出して。
アルバムも忘れた。
阿部と会う約束も脳から消えていた。
旅館にとった予約など、初めからなかったかのようになっていた。
そんなとき、ふと車を向けた先が、偶然そのアルプスだった。
都会の喧噪から逃避できる場所、アルプス。
擬古は、気がつけばその山道を走っていたのだ。
.
- 935 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:11:25 ID:ydbUYnjQO
-
.
- 936 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:13:01 ID:ydbUYnjQO
-
−47−
ショボーンと阿部を乗せたパトカーは、首都アスキーアート、通称AA(エーエー)に着いた。
その後真っ直ぐ、警視庁の近くにある警察病院に走らせ、十分もするとショボーンはパトカーから降りていた。
首都というだけあって、ショボーンの故郷のVIPとは建物の多さや高さがまるで違う。
久々に来るため、その街並みに圧倒されていると、続けてパトカーから降りた阿部に肩を叩かれた。
N| "゚'` {"゚`lリ「なにやってんだ」
(´・ω・`)「ひっさびさに来たもんだからなぁ……」
頭を掻きながら、阿部に続いて病院の自動扉をくぐり抜けた。
やはり大きな造りで、受付カウンターの向かいの待合室だけでVIPの病院の何倍もの広さがあった。
通りかかった看護師がちらりと阿部を見ると、急に畏まった姿勢を
とったので、後ろにいたショボーンは何があったのだと思った。
从*・_・从「阿部警部! いらっしゃいませ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「らっしゃいって、ここは八百屋か何かか?」
(´・ω・`)
すると、その小柄で小顔の女性が、黄色い声で阿部を呼び止めた。
阿部の名を聞くと、受付カウンターの向こうからも声が聞こえてきた。
だが、どれも内容は似たようなものだった。
.
- 937 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:15:36 ID:ydbUYnjQO
-
「阿部さん!? キャァァァっ!」
「こっち見てください阿部警部!」
「警部、今日はなにをなされにいらしたでございますか!?」
N| "゚'` {"゚`lリ「仕事に集中しろってんだ、ったく」
受付カウンターの向こうで大騒ぎが起こり、近くにいた他の看護師や事務員なども集まってきた。
老若を問わぬ女性が多かったが、がたいのいい男も多かった。
皆、阿部目当てで集まり、人集りができている。
从*・_・从「どうなさいました?」
N| "゚'` {"゚`lリ「例の葉桜館の患者を三人連れてこさせただろ? そこに行くんだ」
从*・_・从「東棟の三階です! 案内します!」
N| "゚'` {"゚`lリ「いや、いいさ。ありがとう」
从*>_<从「ははは……はいッ! お気をつけて!」
(´・ω・`)
(´・ω・`) …。
阿部がさっと手を振ると、人集りは尚も黄色い視線を阿部に向けながら、散っていった。
エレベーターに乗る頃には、元のショボーンと阿部の二人だけとなっていた。
.
- 938 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:17:32 ID:ydbUYnjQO
-
エレベーターに乗って一息吐くと、阿部はショボーンが不機嫌そうにしているのに気が付いた。
ムスッとしていて、目を細めている。
どうしたんだと尋ねると、低い声で「別に」と言った。
だが、眼の色を見れば、なにか言いたげであるのには違いなさそうだった。
阿部は軽く笑った。
N| "゚'` {"゚`lリ「あれか、嫉妬か?」
(´・ω・`)「はんッ! どーして僕が野郎なんかの人気に」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうか、やっぱりショボは俺のことが……」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」
微笑を声にして、阿部は階数表示をみた。
もう三階に着くようだったので、開くのを待つ。
ショボーンが何やら小声でぶつぶつ言っていたが、気にせずエレベーターから降りた。
言われた場所に向かう道中で、やはりショボーンは阿部を睨んでいた。
N| "゚'` {"゚`lリ「言っとくけどな、俺はオンナには興味がないんだぜ?」
(´・ω・`)「どうだかね!」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺はオトコしか興味がない、って言ってんのになァ」
(´・ω・`)「あんたのせいで、僕にホモ疑惑がたってるんだ。
. おかげで部下の女刑事には変な目で見られるし……」
N| "゚'` {"゚`lリ「お前、男好きじゃなかったのか?」
(;´・ω・`)「んなわけあるか!」
.
- 939 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:19:12 ID:ydbUYnjQO
-
病院では静かにするものだが、それを忘れてショボーンは大きな声を出してしまった。
はっとして口を塞ぐと、阿部が立ち止まった。
丁度、搬送された被害者がいる、とされた病室だ。
つまり、都村のいる病室である。
(´・ω・`)「……トソンちゃんと擬古さんもこっちにやってたのか」
N| "゚'` {"゚`lリ「嬢ちゃんはともかく、フサはあくまで死ぬ寸前だった。
しばらくの間は後遺症が残るぜ。だから、こっちにいるほうが都合がいい」
(´・ω・`)「ふーん」
素っ気なく肯いたところで、廊下の向こうから病院食を載せたワゴンがやってきた。
もう夜も更けてくる頃合いだから、だろう。
特に気になる事もなく、ほっておいた。
振り向き、ショボーンは都村のいる扉をノックした。
応答がないので、声をかけようとした時だ。
川;┐_┐)「きゃっ!」
(´・ω・`)「?」
N| "゚'` {"゚`lリ「危ないっ!」
.
- 940 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:20:34 ID:ydbUYnjQO
-
−48−
(´・ω・`)「っ!」
ショボーンが振り向くと、目の前に銀色のワゴンが飛んできていた。
その向こうには、転びかけた看護師が、「しまった」と言いたげな眼でショボーンを見ている。
看護師が、誤って足を躓かせてしまい、ワゴンを突いてしまったのだ。
慌てて避けようとしたところ、先に気づいた阿部がショボーンの前に出た。
だがワゴンを押さえる時間はなかったため、真正面にいたショボーンに覆い被さり、阿部が身代わりになった。
ワゴンは阿部の腰にぶつかり、倒れて食事が散らばってしまった。
また、その瞬間だ。
事の騒ぎを聞きつけたのか、それとも漸く応対に出たのか、病室の扉が開かれた。
(゚、゚トソン「はい?」
(;´・ω・)
N| "゚'` {"゚`lリ
(゚、゚トソン
.
- 941 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:22:14 ID:ydbUYnjQO
-
気が付くと、知らずのうちに、阿部がショボーンを抱いていた。
太い腕でショボーンを包んでおり、あまり体躯の大きくないショボーンは苦しそうだった。
そして、病室からでた都村と阿部の、目があった。
(゚、゚トソン
(゚、゚;トソン
N| "゚'` {"゚`lリ「おっ。起こして悪いな」
(゚、゚;トソン
(゚、゚;トソン「こここ、こちらこそ、おジャマしましたッ!」
(;´・ω・`)「待って、これには深ぁいワケが!」
都村は、慌てて扉を閉めた。
その頃には阿部が腕を解いていたため、ショボーンは動けるようになっていた。
都村を追いかけるように病室に入ろうとする。
(;´・ω・`)「あのね、なにか勘違いしてない?」
(゚、゚;トソン「そんなことないです。警部が男好きってのは知ってますし」
(;´・ω・`)「違う、その時点で勘違い!」
(゚、゚;トソン「さよーならー…」
(;´・ω・`)「待ちなさい!」
N| "゚'` {"゚`lリ「病院ではお静かに」
(;´・ω・)「うっせ! あんたが言うな!」
.
- 942 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:23:36 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンと阿部が騒ぐ一方で、看護師も漸く我に返った。
散乱した病院食を見て狼狽えていたのだが、阿部のもとへ駆けてきた。
ワゴンによる痛みはさほどしないとは思われたのだが、ぶつけてしまった事には違いないのだ。
川;┐_┐)「阿部警部すみません!」
N| "゚'` {"゚`lリ「ああ、大丈夫だから気にするな。俺の腰は特別強いからな」
川;┐_┐)「ごはんがかかったかも……」
N| "゚'` {"゚`lリ「これか? スペアが六着あるからいいさ」
川;┐_┐)「ごめんなさい、ごめんなさい!」
N| "゚'` {"゚`lリ「いいってことよ。イイ経験もできたしな」
(´・ω・`)「……てめえ……」
看護師が慌てて、近くを通った別の看護師を呼んだ。
事情を説明するまでもなく、その看護師は現状を把握した。
同じく顔を蒼くし、どこかへ走っていった。
雑巾でも取りにいくのだろう、と思われた。
.
- 943 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:25:31 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンが阿部を汚物を見る目で睨む。
声高らかに笑い声をあげて、部屋に入っていった。
扉の向こうには、布団のなかにくるまっている人が見えた。
言うまでもなく都村だろう、とショボーンは思った。
N| "゚'` {"゚`lリ「あらら、モリタポ50の副作用か?」
(;´・ω・)「あんたのせいだあんたの!」
「私なにも見てませーん…」
布団のなかから、可愛らしい声が聞こえた。
低く、別の意味でショボーンを案じているようだった。
誤解を解こうとしても無駄だろうなと思い、ショボーンは肩を竦めた。
(´・ω・`)「うちの若いのに知られたらえらいこっちゃ……」
N| "゚'` {"゚`lリ「ま、嬢ちゃんには後遺症がないってだけ、良かったじゃないか」
(´・ω・`)「人事だと思って……」
ショボーンは深い溜息を吐いた。
すると阿部が「おや」と思い、ショボーンと向き合った。
ショボーンの顔は曇っていた。
N| "゚'` {"゚`lリ「まさかショボ、女学生に……」
(;´・ω・`)「ばか言え、貞操は守ってるわ」
N| "゚'` {"゚`lリ「じゃあ、どうした? 彼女にご執着みたいだが」
(´・ω・`)「うーん……」
.
- 944 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:26:51 ID:ydbUYnjQO
-
ショボーンは、よく会うという理由もあるだろうが、どこか都村に惹かれる部分があった。
阿部に言われるまでもなく自覚しているだろうが、改めて訊かれると返答に窮した。
考えた結果出した声は、えらく小さかった。
(´・ω・`)「似てるから、かな?」
N| "゚'` {"゚`lリ「似てるって、嫁にか?」
(´・ω・`)「違うよ」
否定する時の顔は、さして困ったような顔はしていなかった。
どちらかというと、この時の顔は比較的柔らかいものだった。
(´・ω・`)「やっぱり、娘に似てるな、ってね」
そう言って、布団から顔を出さずなにかを唱え続ける都村をみた。
確かにその眼は、下心のあるものでもなく愛する人を見る眼でもなく、
まるで娘を見守っているような、温かい眼だった。
.
- 945 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:27:47 ID:ydbUYnjQO
-
イツワリ警部の事件簿
Extra File.2
(´・ω・`)アルプスの風に吹かれるようです
おしまい
.
- 946 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 22:31:46 ID:ydbUYnjQO
- とりあえず、種明かしパートを除く全ての分を投下しました
一旦風呂に入ってくるのですが、ひとつだけ先に訂正を
>>931の節番号は47ではなく46です
種明かしパートは20レス程度と思います
三十分から一時間はお待ちください…
- 947 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:29:35 ID:ydbUYnjQO
- 都合上本編に組み込めなかった種明かしパート(後日談)を投下します
芸さんと文丸さんへ、まとめの際はお手数となりますが、今から投下する分は「後編」とは別の括りとしてでまとめをお願いします
- 948 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:30:43 ID:ydbUYnjQO
-
−49−
暗い部屋に灯りが点けられた。
なんてことはない、暗くなったから刑事が電灯を点けただけなのだ。
空気、顔色も相乗して一層暗く、重かった場のそれが、少し和らいだかのように思えた。
もう随分と話は聞いた。
犯人の葉桜との関係、夫の擬古との馴れ初め。
小森との交流はいつからはじまっているのか、またその原因
――ただ、擬古との繋がりから知り合っただけなのだが――。
――そうだ、小森。
刑事はふと、ここにきて報告に聞いていた彼のことを思い出した。
今回の事件において、小森が残した言葉。
(;-_-)『元々は奥さんと手を組んでたんですよ!』
(;-_-)『擬古のヤローを、ぶっ殺そうってな!』
担当刑事の三月や、捜査に荷担したショボーン。
彼らは、一見全ての謎を解決したように見えて、しかしその実、解決していないのだ。
捜査報告が、それを物語っている。
今更、羅列する必要性もあるまい。
刑事は椅子に座り、彼女と視線をあわせた。
整った顔は、異性にはやはり好かれる要因となるのであろう。
冷たい性格、冷たい仮面が、それを拒んではいるが。
.
- 949 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:32:04 ID:ydbUYnjQO
-
相手――デレは、もう話すこともなくなったと言いたいのか、しんみりとしていた。
DATの恐怖はその実体を伴ったものだけでなく、実体を伴わない精神的なものをも持ち合わせているようだ。
というのも、デレは、治療終了後もしばらくはクチを聞けなかったのだ。
自殺する意味のなくなった時になって襲いかかってきた、死の恐怖。
治った、と言われても、その有無なんて把握のしようがない。
だからしばらくの間は、治療前と同様に震え、形のないなにかに怯えてばかりだった。
カウンセラーに通わせ続けた結果が、今の彼女である。
漸く、平生のデレに戻ったのか、クチを利くことができるようになったのだ。
心の重荷が下ろされたことを漸く実感できたようで、存外なんのつっかえにも引っかからず、すらすらと身の上話を話した。
――だが、まだ、心の傷は癒えてないに違いない。
刑事はそう自分に念押しして、ふう、と溜息を吐いた。
俯いていたデレが、顔を上げる。
「………さて」
ζ(゚ー゚*ζ「おしまい、ですか」
屈託のない表情を浮かべる。
事の如何を問うておきながら、否と言わせないものの言い方だ。
刑事は、少し戸惑った。珍しく、言葉を濁らせる。
「いや、」
ζ(゚ー゚*ζ「まだ……なにか?」
「……」
.
- 950 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:33:20 ID:ydbUYnjQO
-
「なにか」と問うもあれやこれやと返答を許さない裏が感じられる。
だが、刑事も一警官だ。
相手の心情にばかり付き合っていては、このまま夜中になってしまう。
壊れたのを修復したばかりの裸の壺を棒でつつくと
それはまた簡単に壊れてしまうため、刑事は布を巻いてつつくことにした。
「………事件」
ζ(゚ー゚*ζ「 ……」
デレが反応を見せる。
ひびが残っているところをつついてしまったか。
「事件の犯人、そのトリックは明かされました」
「しかし、あなたの行動に、不自然なところが多すぎる」
「……それを話していただければ、おしまいです」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
クチを閉じ、デレは静かに刑事を見る。
笑顔は崩していない。ということは、悩んでいる――というところだろうか。
デレに拒否権があると思いがたい状況ではあるが、躊躇するのは自由だ。
刑事を少し焦らしたところで、デレの笑顔はそのまま、口元の筋肉だけが動いた。
笑顔を形成する筋肉は、どこか、固まっているように見えた。
ζ(゚ー゚*ζ「………あの日。夫は、私の『裏切り』を知って……失意のまま、家を出ました」
『裏切り』――。
刑事は、先ほどまでの話を振り返る。
彼女は、ある事情があって、夫以外の男と情を交わすことになった。
彼女はそれを望んでいなかったようで、『裏切り』と表現しているのもその心の表れなのであろう。
刑事の相槌も待たず、デレは続ける。
やはり、筋肉の自由がまだ利かないとはいえ、クチは軽くなったようだ。
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- 951 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:35:14 ID:ydbUYnjQO
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ζ(゚ー゚*ζ「ヒーちゃん……昔は恋敵だったけど、気がつけば私の相談相手になってて。
あの日も、すぐにヒーちゃんに電話したんです。仕事中だってのに」
ζ(゚ー゚*ζ「悪いのは、私。
『裏切り』をどうしてもはねのけることができなかった、私が悪いんです。
それはわかってる」
刑事は、それを何度も聞かされた。
狂ったかのように、彼女が繰り返すのだから、その気がなくとも自然と覚えてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「でも……いや、だからというのか……。
とにかく、夫にどうすればわかってもらえるんだろう、私にはわからない。
それの助けを、ヒーちゃんに求めたんです。
仕事中だからってあしらわれそうだったのを、事の成り行きを言うと、声色が変わって」
ζ(゚ー゚*ζ「後日、話を聞く。それじゃあ間に合わない。せめて、週末。
そんなやり取りをして、そのとき、電話は終えました。
でも、正直、気が気でなかった。夫は、精神が非常に弱いから。
私の『裏切り』に精神を壊されて、今にも自殺しちゃうんじゃないか――って」
「でも」と挟んで、彼女は少し視線を下に向ける。
電灯の眩いほどの光が、彼女の顔に影をつくる。
その姿がどこか、抽象的な悲しさを刑事に与えたように思えた。
ζ( ー *ζ「少しして――一時間くらい、でしょうか。
ヒーちゃんから、電話がきたんです。
夫からの連絡を信じて、電話は握りしめていたので……すぐに、応対できました」
ζ( ー *ζ「その第一声を聞いて、私は……目が飛び出そうになった」
『落ち着いて、聞いて』
『フサ君が、うちにきたの』
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- 952 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 23:37:38 ID:ydbUYnjQO
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デレは視線を戻す。
ζ(゚ー゚*ζ「すぐに葉桜館に来て――そう言われました。
仲直りの場を、設けてくれるんだ。そう思って、焦燥が募る反面、期待も生まれて」
ζ(゚ー゚*ζ「少しでもまじめな恰好で行こうと思って、お化粧して、
一張羅のスーツ……桃色のを、着てはすぐに葉桜館にいきました」
「だから、不自然にも正装していたのか」と刑事が目を細める。
その細まった目を、デレはピントを合わせて見れたのだろうか。
ζ(゚ー *ζ「旅館に着いた時……私は、最初、入るのが怖かった。
夫に会うのが……その、なんでだろ、……怖く…て」
滴を落とすかのように、デレが呟く。
若干、声が震えつつある、刑事はそれを感じ取った。
「事件」に関わってくるから、だろうと一人で結論づけて、刑事は続きを促した。
ζ(゚ー゚*ζ「……それを察してたんだと思う。ヒーちゃんが、向こうから出迎えてくれたの。
私が、夫に見つかるのが怖いって言うと、それを前以て考えてたみたいで」
『フサ君は、少しの間は帰ってこないから』
『デレ………まず、なにがあったのか、全部話して』
少し、静寂が生まれる。
思い出したくない『裏切り』、またその結末が、嫌でも脳裏に浮かぶのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「すごい複雑そうな話なのに、話してみると、思ってたよりもすらすら話せて。
……話の終わり際は、泣いてたけど、私。
とにかく、助けを求めたの」
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- 953 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 23:39:28 ID:ydbUYnjQO
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ζ(゚ー゚*ζ「でも、そこでヒーちゃん、一つ『勘違い』をしたみたい」
「勘違い?」
予想していなかった言葉に、思わず刑事が復唱する。
デレは「ええ」と肯いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、夫って検事だから。このいざこざで、私に何か災いが降り注ぐだろうから、それを助けてほしい――
そんな風に受け取ったんだって、後から聞きました」
ζ(゚ー゚*ζ「そこで踏みとどまっておけばいいのを、ヒーちゃんは更に一歩、事を悪い方向に進ませちゃいました」
「……殺、人」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ。そこから、歯車は狂い始めた。
私の『裏切り』が原因で錆びた歯車を、ヒーちゃんが欠かせてみせたんです」
ζ(゚ー゚*ζ「最初から、DATで殺すつもりだったのか、夫の知人の、小森さんに濡れ衣を着せようと企んだみたいで。
『フサ君に恨みを持ってるような人を、ここに呼んで』って――」
ζ(゚ー゚*ζ「今思えば、この言葉の時点で、『勘違い』の溝は埋められそうだったのに。
本当に精神が弱いのは、実は私だったのかもしれません」
ζ(゚ー゚*ζ「で、呼ぶときに、私はヒーちゃんに『その人にこれを渡して』って言われて。
それが毒薬ってわかったのは、少し後の話です」
「毒薬……DAT、ですか」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
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- 954 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 23:41:45 ID:ydbUYnjQO
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「じゃあ、彼が共犯≠勘違いしたのは?」
ζ(゚ー゚*ζ「わざわざ夫の泊まる旅館に呼んだこと。そして、黙って毒薬を渡したこと――
これで、彼は確信に至ったようです」
刑事は合点がいった。
話を戻して。そう言って、先を促した。
ζ(゚ー゚*ζ「小森さんは葉桜館の場所を知らないから、私が迎えにいくことにしました。
夫が帰ってくるとまずいから、ヒーちゃんとはその場でいったん別れて、私は帰宅しました。
小森さんと駅で落ち合うまでの時間は、家に」
ζ(゚ー゚*ζ「その間はずっと、夫のことしか考えていませんでした。
仲直りの方法を考えもしたし、昔のことを思い出したりもしたし……」
ζ(゚ー゚*ζ「さっきの昔話のときにも言いましたけど、
夫と結ばれるようになったきっかけが、手作りのお弁当だったこと。
それを、ふと思い出したんです」
ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、お弁当をつくって、それをきっかけにして――
そう思って、滅多につくらなくなったお弁当を、一生懸命つくりました。
そのときだけ、焦燥とかを忘れていられましたね。昔はこうだったなあ、なんて思いながら」
ζ(゚ー゚*ζ「時間になって、小森さんと駅で落ち合って、そのまま葉桜館に。
ランチボックスは……そのときは殺人計画なんて知らなかった私は、
それを見られるのが、その……恥ずかしく…って。
始終、小森さんにそれを見られることはありませんでした」
ζ(゚ー゚*ζ「向かっている途中、いつ、どのタイミングで謝ろう、誤解を解こう――
そんなこと考えていると、小森さんが言ったんです」
『先に入って、部屋をとっておきます』
『少ししたら、奥さんは電話でアイツを呼び出しといてください』
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- 955 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 23:42:57 ID:ydbUYnjQO
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ζ(゚ー゚*ζ「私は、ピンときました。電話で呼び出して、謝る――そうしよう、って」
ζ(゚ー゚*ζ「小森さんにとっては、呼び出して時間を稼ぐ必要があったみたいで。
カルピス海の方まで呼び出して――など、事細かに指示されました。
でも、不思議と、疑問なんて持たなかった。いや、持てなかった」
黙って聞いていた刑事だが、すっかり話に聞き入っていたようで、無意識のうちに肯く。
相槌をもらえて嬉しかったのか、デレの声色は若干高くなった。
ζ(゚ー゚*ζ「そして………呼び出しました。
今思えば、『裏切り』を受け家を飛び出しておいて、よく応じてくれた……って、思います」
ζ(゚ー゚*ζ「お弁当は受け取ってもらえた――といっても、道中で捨てたみたいだけど。
でも、そのときの私は嬉しくなって、そのまま二人とも帰りました。
さっきの今で、仲直りは難しいし、都合が良すぎる。
少し時間を置いて、考える時間もあげないと。私も、思い切りがつかなかった…し」
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- 956 名前:名も無きAAのようです:2012/12/26(水) 23:44:16 ID:ydbUYnjQO
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そこで、デレは二、三回呼吸を挟んだ。
精神がつらくなってきたのだろう、どこか、苦しそうだった。
刑事は心中を察し、先を促したりして急かしはしない。
そうでなくとも、ランチボックスを渡して別れた――となれば、次の展開は言わずとも予測できるからだ。
ζ( ー *ζ「次に会ったときの夫は………」
デレが、言葉を濁す。
濁されすぎて、それが元々言葉であったことすらわからなくなりそうなほど、それは濁っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「泣いてると、ヒーちゃんが化粧室まで連れてってくれて。
お巡りさんの目を盗んで、ヒーちゃんと話をしました」
ζ( ー *ζ「―――そして、全てを知りました」
ζ(;、;*ζ『あ…ッ……あの…、人が…シっ………死ん…――』
ノハ )『……』
ζ(;、;*ζ『……ぅあッ…あぁぁぁ………!』
ノハ )『……デレ』
ζ(;、;*ζ『………ヒぐっ…ぅぅううう…』
ノパ听)『昼間渡したビン、あるだろ』
ζ(;、;*ζ『……?』
ノパ听)『あれは、な』
ノパ听)『毒薬なんだ』
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- 957 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:46:19 ID:ydbUYnjQO
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刑事が、思い詰めたような表情を浮かべる。
自身を案じたのではない、当時のデレに自己を投影していた結果、そうなったのだ。
デレは、そっとまぶたを伏せた。
ζ( ー *ζ「付き添いのお巡りさん、隙だらけで。
小森さんの部屋はまだ誰もいなくって。
安全に毒薬が――夫と一緒の場所に向かわせてくれるものが、手に入る。
そう思ったら、気がつけばお巡りさんの目を盗んで……小森さんに渡した毒を………呑んだ」
ζ( ー *ζ「………あとは、先ほどお話した通りです」
「………そうだったのですか」
刑事もデレも、静かになる。
長い沈黙のあと、刑事が、それだけを返した。
他に返せる言葉がなかったのだ。
デレの心境、勘違いした小森、そして殺人に決行した葉桜。
その、複雑に絡み合い食い違った三人の意思が引き起こした、悲劇。
劇作家が泣いて飛びつきそうな、ドラマ。
その背景に夫婦愛や借金話、恋敵が広がっていた、とまで言われれば、
尚更、彼らはこれを目の当たりにしては「事実は小説よりも奇なり」とクチを揃えて言うだろう。
そんな事件を前に、刑事が何ら発せられる言葉はなかった。
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- 958 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:47:39 ID:ydbUYnjQO
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ζ(゚ー゚*ζ「……そろそろ」
「あ、ああ」
デレが終わりを促す。
長時間話をさせられて、もう、心身ともに疲れ切ったのだろう。
しかし、どこか彼女の表情には安らぎが見えた。
根底に広がっていた泥が全部拭われた、そんな肌を見せていた。
顔の筋肉も、どうやらほぐれてきつつあるようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「……やっぱり」
「なんですか」
椅子から立ち上がると、背骨や膝の関節が鳴った。
デレは、うん、と背伸びをして、先ほどまでとはまた違った様子で刑事に話しかける。
ζ(゚ー゚*ζ「私……夫に許されることは、もう一生ないんですね」
「どうして」
ζ(゚ー゚*ζ「お弁当……捨てられちゃったし」
「……」
刑事が、黙る。
嘗ての上司は、こんなときは気の利いた、
それも詩的な表現を用いて、相手を慰めていた。
しかし、自分は口べたなのだ。
こんなとき、自力で彼女を慰めることなど、到底できるはずもなかろう。
さて、どうしようか―――
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- 959 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:49:02 ID:ydbUYnjQO
-
――などと、悩むことはなかった。
上司のような気の利いた言葉こそ言えないが、
ただ漠然とした事実を伝えることだけは、できるからだ。
記録書に隅々まで目を通しておいてよかった――
刑事はそう思い、最初の頃からずっと抱いていた疑問を、
それに対する答えに向けて、彼女に投げかけた。
「たぶん……もう許されていると思いますよ」
ζ(゚ー゚*ζ「慰めは――」
「記録に残っていました」
ζ(゚ー゚*ζ「記録……?」
「はい」と肯いた。
続けて、短く
「被害者、擬古フッサールさんは」
「どうやら、米粒を頬につけていたようですから」
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- 960 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:49:50 ID:ydbUYnjQO
-
ζ(゚ー゚*ζ「!」
「この事実をどう捉えるかは、あなた次第です、デレさん」
ζ(゚ー゚*ζ「――――ぁ――」
「……さて。長引かせて、失礼。もういいですよ」
ζ(;ー;*ζ「ああ―――っ――」
「………ふう」
一度立ったのに、デレはまたもその場に座り――むしろ、くずおれて――
大粒の涙を、出し惜しみなく、流し始めた。
両手で顔を覆っても、指の隙間から流れてくるそれは、
確実に、この事件の終わりを、示唆していた。
だからか、刑事は、彼女を部屋に残して、先に部屋を出た。
廊下にたっては周囲にだれもいないのを確認して、電話を取り出す。
取調の報告を、上司にするためだ。
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- 961 名前:後日談 ◆wPvTfIHSQ6:2012/12/26(水) 23:51:32 ID:ydbUYnjQO
-
「もしもし」
「次そのふざけた挨拶をしたら、もう利きませんから、クチ」
「……わかりましたから、そんなに露骨に凹まないでください」
「はい、……はい。そうです。報告します」
「例の事件の背景ですが、まず、擬古デレは――――」
.
- 962 名前:名も無きAAのようです:2012/12/27(木) 00:01:42 ID:vFFRSiFgO
- 訂正 >>948
冒頭の節番号の書かれた行は不要です…すみません
ということで、以上で「偽りの根城」のカップリング作品、「アルプス」はおしまいです
長らくお待たせして、本当にすみませんでした…
これ書いたの10ヶ月ほど前なので、今の文体と比べるとなにかしら変なところはあると思います
それも踏まえ、いろいろやらかした感はありますが、何はともあれ一年間もの間お付き合いありがとうございました!
シリーズ新作はパラレルワールドと並行して書いているのでまだお披露目するのに時間はかかりますが、頑張ります
オムニバスか先か、長編が先かは決まり次第ツイッター(→__itsuwari)などでお知らせするつもり
- 963 名前:名も無きAAのようです:2012/12/27(木) 00:04:47 ID:vFFRSiFgO
- あと、ここで頼むべきことかわかりませんが…
アルプスにはいろいろアレな点があったと思うので、もしよければ、どなたか(人数不問)批評をお願いします
- 964 名前:名も無きAAのようです:2013/01/15(火) 01:33:38 ID:z/e7OCRw0
- 今読んだ
ともあれ乙。いい作品だった
特に偽り警部の私情の深いところまで書かれたのはこれが初めてで、なんというか、よかった
もっとこのシリーズの続きが読みたいと素直に思う。ていうかこんだけ含みを持たせてるんだから、書く…んだよな?な?
しかし何故ツイッター垢が消えているのはどうしてなんだぜ
- 965 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2013/01/15(火) 21:43:13 ID:pWvE/35oO
- >>964
チラ裏では続いてますよ。元々自己満足で書き出した話なので
更新するものがパラレルワールドしかなくなったし、新作もたぶん投下しないだろうから、別になくてもいいやあ、と
偽りシリーズを打ち切る際の、けじめとして消したって意味もありますが
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