733登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:02:01 ID:p9NXuClk0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

734登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:02:55 ID:p9NXuClk0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

735大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:04:41 ID:p9NXuClk0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

736大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:06:26 ID:p9NXuClk0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

737大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:07:28 ID:p9NXuClk0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点
738第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:08:29 ID:p9NXuClk0
【第9話:初歩の足音】
 
 
 大将戦の開始時間が迫っている頃。
 対局室に向かう道順が分からず、内藤は階段を昇ったり降ったりしていた。
 
(;^ω^)(ど、どこにあるんだお)
 
(;^ω^)(もっと詳しく聞いておけば良かったお)
 
 階段を昇りきって内藤が周囲を見渡すも人影はなく、それらしい部屋も見つからない。
 昨日は対局しなかったため、内藤は対局室に行ったことがないのだ。
 そのことを、初本も忘れてしまっていた。
 
 対局室の場所を詳細に伝える、などということにまで、頭が回らなかったのだ。
 
 芽院高校の控え室には、絶望感が漂っていた。
 通算獲得ポイントでトップに立っている高校の空気では、なかった。
 
 当然のことだ。これから大将として打つのは、内藤。
 昨日ルールを覚え始めたばかりの、ずぶの素人だった。
 
 まともに打てるかどうかさえ分からない。
 勝てる見込みなど、あるはずがない。
 その事実に直面してしまい、芽院高校の部員たちは沈んでいたのだ。
 
 内藤も、勝てるとは思っていなかった。
 昨日、ホテルで何度か対局したものの、ルールどおりに打つのが精一杯。
 それも、初本が後ろで指南しながら打って何とか、だった。
 
(;^ω^)(勝てるわけないのは分かってるんだお)
 
(;^ω^)(でも、最後までやりきらないと、優しくしてくれたみんなに申し訳ないお)
 
( ^ω^)(あの人たちと過ごした二日間が楽しかったのは、間違いないことなんだお)
 
 麻雀部の人たちと、知り合えた。
 友達に、なれた。
 
 内藤は、そう思っていた。

739第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:09:40 ID:p9NXuClk0
 最初は勘違いで、今は単なる穴埋めとして存在しているだけ。
 それも分かってはいた。しかし、ここは良い場所だった。
 
 居心地の良い二日間を、過ごさせてもらった。
 その恩義に、報いるためにも。
 
 やれるだけやってみよう。
 内藤の意志は、内藤なりに固かった。
 
(;^ω^)(しかし、対局室が分からなかったらどうしようもないお)
 
(;^ω^)(時間もヤバイ気がするお。スマホ置いてきちゃったから連絡も取れないお)
 
(;^ω^)(こうなったら、いったん控え室に戻るしか)
 
(=゚ω゚)ノ「ん?」
 
 不意に、内藤の後ろで優しい声が発された。
 内藤が振り返るとそこには、麦秋高校の制服に身を包んだ生徒。
 
 伊要は、芽院高校のブレザーを見て、すぐに勘付いた。
 
(=゚ω゚)ノ「もしかして、これから対局室に行くのかよう?」
 
(;^ω^)「あっ、そ、そうですお!」
 
(=゚ω゚)ノ「早く行かないと試合が始まっちゃうよう。急ぐよう」
 
(;^ω^)「わ、分かりましたお!」
 
 助かった、と内藤は思った。
 対局室を知っている者に偶然出会えたのだ。
 対局開始時間に間に合わず失格、となれば皆を失望の底に突き落とすこととなる。
 
 伊要の背中についていく内藤。
 先ほどまでは焦燥感に支配されていたが、まずは人心地つけていた。
 
 しかし、伊要が歩く速度を落とし、声を掛けてきたことで、再び額には汗が浮かぶ。

740第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:10:51 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ「本当は、喜んじゃいけないことかもしれないよう」
 
(;^ω^)(お?)
 
(=゚ω゚)ノ「でもやっぱり、心が躍るんだよう。決勝の舞台で、君と戦えること」
 
(=゚ω゚)ノ「ネット上で圧倒的な強さを誇るっていう、ホライゾンと、戦えること」
 
(;^ω^)(お、おお)
 
 この人も、やはりそうなのか、と内藤は思った。
 インターネット麻雀の世界で最強とも言われる『ホライゾン』と、勘違いしている。
 まともに麻雀を打ったこともない、内藤を。
 
(=゚ω゚)ノ「正直、僕の実力じゃ君に及ばないことは明白だよう。そんなことは、分かってるんだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、僕は僕なりに全力で打たせてもらうつもりだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「この試合が、高校生としての集大成。それくらいのつもりで」
 
 優しげな声と、特徴的な語尾。
 そこに意識を持っていかれそうだった。しかし、内藤ははっきりと感じ取っていた。
 
 伊要の、この試合にかける、猛き思いを。
 
(=゚ω゚)ノ「よろしくお願いしたいよう」
 
(;^ω^)「こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 伊要が差し出した右手に、内藤も右手で応える。
 手汗で緊張が感じ取られてしまわないだろうか、と内藤は不安に思った。
 
 それから二十秒ほど歩いて、二人は対局室に到着した。
 
(=゚ω゚)ノ「遅くなってごめんよう」
 
 二人が部屋に踏み入ると、肯綮高校の水戸と陶冶高校の杉浦は既に卓に着いていた。
 待たせては悪いと、内藤は慌てて雀卓に向かう。
 右に水戸、左に杉浦を見ながら打つことになる席だった。

741第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:11:56 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「対局を心待ちにしておりました。水戸と申します。皆さん、よろしくお願い致します」
 
( ФωФ)「我輩は杉浦。大将戦に相応しい打ち様を心がけるである。よろしくお願いするであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「僕は伊要だよう。胸を借りるつもりで打たせてもらうよう。よろしくだよう」
 
(;^ω^)「内藤といいますお。よろしくお願いしますお」
 
 挨拶を交わした。
 普通ならば多少、空気が和んでもいい、と内藤は思った。
 
 しかし、室内の空気はむしろ、張り詰めていく一方だった。
 
 気楽に打っていい、と内藤は言われていた。
 楽しんできてほしい、とも言われていた。
 
 実際にここに座ると、内藤は、とてもそんな気分にはなれなかった。
 
 まざまざと、伝わってくるのだ。
 水戸、杉浦、伊要の真剣味が。
 この対局にかける、思いの丈が。
 
 三人の気迫に、内藤は、押し潰されてしまいそうだった。
 
(; ω )(や、やるしかないんだお)
 
(; ω )(どういう結果になっても、精一杯やってみるしか)
 
 対局前にも考えていたことを、内藤は今一度思い出す。
 しかし、頭の中で再生される声は、震えていた。
 
 やがて、試合開始を告げる合図が鳴る。
 
(=゚ω゚)ノ(勝ちたいよう、みんなで全国に行くんだよう)
 
( ФωФ)(絶対に勝利してみせるである)
 
(‘_L’)(今年こそ、優勝して全国へ)
 
 それぞれの強い思いが、卓上でぶつかり合い、弾ける。
 内藤は、一人、取り残されていた。
 
 東一局の起家は、その内藤だった。

742第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:13:27 ID:p9NXuClk0
(;^ω^)(お? 東家、親番って書いてあるお?)
 
 内藤は、初本に言われていたとおりに手元のタッチパネルを見ていた。
 そこに様々な情報が出ており、その情報を元に打てばミスすることもないだろうと教えられていたのだ。
 
(;^ω^)(えっと、確か親番だと、最初は山から牌を取らずに一枚捨てなきゃいけないんだお)
 
(;^ω^)(で、でも、何を捨てればいいのか、全然分かんないお!)
 
 四面子一雀頭のことは内藤の頭にもあった。
 しかし、何を捨てればそれに近づくのか、咄嗟に判断できないでいる。
 
 そして、迷っている間に、手元のタッチパネルの数字は減っていった。
 
(;^ω^)(あ、制限時間が来ちゃうお! やばいお!)
 
(;^ω^)(よく分かんないから適当に捨てるお!)
 
 内藤は慌てて、仄かに光る右端の牌を掴み、河に置いた。
 手元のタッチパネルからはカウントダウンが消える。それを見て、内藤は胸を撫で下ろした。
 
 しかし、他の三人は一様に刮目させられていた。
 僅かな動揺を、隠せないでいた。
 
(=゚ω゚)ノ(一巡目でいきなりドラの五萬切りかよう?)
 
(=゚ω゚)ノ(どういうことだよう?)
 
( ФωФ)(例え浮いている牌だとしても、普通ならば真ん中のドラはとりあえず残すである)
 
( ФωФ)(しかし内藤は初巡で切った。これは確実に五萬を使わないということ。つまり)
 
(‘_L’)(恐らく内藤くんは相当な好配牌。筒子か索子の染め手、もしくは幺九牌を使った手が考えられますね)
 
(‘_L’)(ほとんど不要牌もない、一向聴か二向聴あたりと推測されます)
 
 内藤の初手で、東一局は一気に混沌とした。
 水戸も杉浦も伊要も、内藤を警戒して思うように牌を切れない。
 特に索子、筒子、幺九牌は捨てにくいと感じ、窮屈な打ち方を強いられていた。
 
 そのとき内藤は、初本に教えられたとおり、四面子一雀頭を作ることのみに専念していた。

743第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:14:47 ID:p9NXuClk0
(;^ω^)(しまったお。二巡目で適当に九筒を捨てたあとに七筒と八筒が来てしまったお)
 
( ^ω^)(あ、でも西が三枚集まったお。捨てずに持ってて良かったお!)
 
( ^ω^)(これで二面子はできたお。雀頭もあるから、あと二面子作れば和了りだお!)
 
 内藤の手牌に統一感はなく、立直をかけなければ和了れない形だった。
 そうとは知らない他家は警戒を続けていたが、徐々に違和感に気づく。
 配牌が良ければそれほど手出しは多くならない。しかし、内藤は手出しを繰り返しているのだ。
 
 その違和感が強まったのは、内藤が九筒をチーしたときだった。
 
( ^ω^)(やったお、チーで面子がもう一個作れたお!)
 
( ^ω^)(かなり和了りが近くなってきたお!)
 
 内藤は、自分の犯したミスに気づけないでいる。
 だからこそ、他の三人は内藤の手が読めずに悩んでいた。
 
( ФωФ)(九筒をチーしたということは、混全帯幺九や純全帯幺九などの老頭牌を使った手であるか?)
 
( ФωФ)(しかし、最初からその狙いならば、序盤に九索を捨てたのは不可解である)
 
( ФωФ)(途中から狙いを変えたであるか? 読めないであるな)
 
(‘_L’)(かなりの好配牌かと思いましたが、副露ですか。手出しもやけに多いですね)
 
(‘_L’)(筒子も索子も幺九牌も捨てている。どういう手作りをしているのか、全く読めません)
 
(‘_L’)(初巡の五萬切りは、ただの撹乱ですか?)
 
 それもホライゾンならばありえる話だ、と水戸は思った。
 水戸は、ホライゾンと対局したことはないものの、噂はよく耳にしている。
 ホライゾンは、人を喰ったような、意地の悪い手を打つことでも知られていた。
 
(‘_L’)(自分を追い込みかねないような意地悪な手も、勝つ自信があればこそでしょうが)
 
(‘_L’)(こちらとしては、つけ込まなければならない隙ですね)

744第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:16:27 ID:p9NXuClk0
 しかし、ただの撹乱と思わせておいて、相手の放銃を誘うのもホライゾンの手口だ。
 まだ大将戦の先は長い、慎重に打たなければならない、と水戸は気を引き締める。
 
 それから東一局は静かに進んでいった。
 副露の声も、立直の声も、和了の声も上がらない。
 やがて山は少なくなり、遂には流局に至った。
 
(‘_L’)「ノーテンです」
 
( ФωФ)「ノーテンである」
 
(=゚ω゚)ノ「テンパイだよう」
 
(;^ω^)「えっと、テンパイですお」
 
 流局したとき、テンパイしていれば牌を見せるという手順を、内藤は辛うじて思い出した。
 何とかテンパイには至ったものの、和了ることはできなかった内藤。
 落胆していたが、当然のことだった。内藤の手には、役がなかったのだ。
 
(;^ω^)(断幺九が狙えると思ってチーしちゃったけど、一と九の牌は駄目だったのを忘れてたお)
 
(;^ω^)(もうちょっとで和了れそうだったのに、もったいないことをしちゃったお)
 
 内藤が嘆息を吐く。
 しかし、その内藤の内心を知らない三人は、内藤の手牌を凝視していた。
 
(=゚ω゚)ノ(形式聴牌かよう? 全然いい配牌じゃなかったみたいだよう)
 
( ФωФ)(配牌は六向聴くらいであるか? それならば連荘のために形式聴牌を狙うのも理解はできるであるが)
 
( ФωФ)(しかし、一巡目のドラ切りは不可解であるな。それよりも一枚しかなかった西を切るべきであろう)
 
(‘_L’)(初巡はノータイムでオタ風の西を切るべき。ですが、内藤くんはその後、自力で西を三枚集めた)
 
(‘_L’)(他方、最初に五萬を切ったあと、内藤くんは三萬から七萬までを一枚も引かなかった)
 
(‘_L’)(結果的に、一巡目でドラの五萬を切ったのは正解だった、とも言えますが)
 
(‘_L’)(神の目で見通していた、ということですか?)
 
 そうでもなければ最初のドラを切るのは初心者くらいのものだろう、と水戸は思った。
 同時に、牌山まで全て見通せるはずがない、とも。

745第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:17:29 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(もし牌山まで把握できる力があったら、私たちにはほとんど勝ち目がありません)
 
(‘_L’)(上手く掌の上で転がされ、嬲るように甚振られるだけです)
 
(‘_L’)(しかし、そんな超常的な力は存在するはずがありません)
 
 麻雀はオカルトではない。
 全て理屈で説明がつけられるゲームだ、と水戸は思っていた。
 不確実な要素はあるものの、それも全て確率で論じることができる、と。
 
 インターネット麻雀でホライゾンが見せる神懸かり的な和了りも、図抜けた読みの鋭さを活かしたものだ。
 決して人外の能力ではない、と水戸は確信していた。
 
(‘_L’)(一流のプロさえも超越するような読みの力があることは事実でしょうが)
 
(‘_L’)(果たして、この場で実力の全てを遺憾なく発揮できるかどうか、見ものですね)
 
 水戸が内藤を見遣り、僅かに口角を上げた。
 親の内藤がテンパイしていたため、場は東一局一本場へと移る。
 
 ここで配牌を味方につけたのは、麦秀の伊要だった。
 
(=゚ω゚)ノ(この配牌なら、絶対に和了らなきゃいけないよう)
 
 三色同順が既に揃いかけている。
 おまけに純全帯幺九、一盃口までが狙えそうな手牌だった。
 
(=゚ω゚)ノ(鳴かずに和了れれば最低でも跳満。絶好のスタートと言えるよう)
 
(=゚ω゚)ノ(ここまで繋いでくれたみんなのためにも、ここは絶対に和了ってみせるよう!)
 
 決勝戦が始まる前、伊要は冷静に戦力を分析した。
 麻雀は時の運に左右される競技。しかし、単純に実力だけを見れば、麦秋が劣っていることは明白だった。
 三年生が四人いるものの、名織や船都は安定感がなく、一年生の松中もまだ充分な実力を有しているとはいえなかった。
 
 大将戦の頃には、もう、全国行きの目がないかもしれない。
 その覚悟さえ伊要にはあった。しかし、今は優勝さえ狙えるポイント差だ。
 次鋒戦と副将戦でのトップが大きかった。
 
 麦秋高校の麻雀部が創設されたのは二十二年前のこと。
 全国大会に進んだことは、一度もない。
 決勝戦まで勝ち上がったことは何度かあっても、いつも大事なところで躓き、全国行きを逃してきたという。
 
 過去最大の好機、とまではいえない。
 しかし、全国に手が届くところまで麦秋高校が来たことは間違いなかった。

746第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:19:47 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ(この大将戦に全てをぶつけて、その結果が全国行きになるなら、最高の形だよう)
 
(=゚ω゚)ノ(麦秋のみんなと過ごす夏を、一日でも長く伸ばせるように、頑張るよう!)
 
 伊要の強い気持ちに、牌が応える。
 僅かな手番で次々に必要牌が山から降りてきた。
 そして六巡目にはもう、牌を横向きに捨てていた。
 
(=゚ω゚)ノ「立直だよう!」
 
 高らかにそう宣言する。
 ここは、和了れる気しかしない、とさえ伊要は思った。
 
 仮に内藤に神の目があり、手牌を読むような力があるとしても、振り込みが避けられるのみ。
 自力で和了れば神懸かり的な力も意味を成さない。
 伊要はそう考え、放銃には期待せず、ただツモのみに集中していた。
 
 そして、最後まで牌は、伊要に味方した。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモだよう!」
 
 山から取った牌をそのまま置いて、手牌を全て仰向けにする。
 見せびらかすように。
 
(=゚ω゚)ノ「立直、門前清自摸和、一盃口、三色同順、純全帯幺九!」
 
(=゚ω゚)ノ「4100・8100だよう!」
 
 綺麗な和了形だ、と伊要は自分で思った。
 この上ないスタートが切れた、とも。
 
 何よりも、トップの芽院の親番で倍満を和了れたことが、伊要にとっては大きかった。
 全国へ進むためには、どうしても蹴落とさなければならない相手だからだ。
 
 決勝の大将戦、まずは麦秋の伊要が機先を制した。
 しかし、試合はまだ始まったばかりだった。
 
 先の長い戦いを見据え、それぞれの思いが交錯する。

747第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:20:57 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(今のはどうしようもありませんが、かなり良い手を和了られてしまいましたね)
 
(‘_L’)(伊要くんはムラのある打ち手ですが、気持ち良く打たせてしまうと厄介なことになりそうです)
 
( ФωФ)(先ほどの倍満、手痛い失点ではあるが、芽院高校の点を削ってくれたのはありがたいことであるな)
 
( ФωФ)(しかし、いかに神の目があろうとも、ツモで和了られてはどうしようもないであるか)
 
(=゚ω゚)ノ(このまま勢いに乗って東二局も和了りたいよう)
 
( ФωФ)(麦秋高校に調子を与えたくはないである。ここは、速攻を仕掛けるべきであるか)
 
 東二局、親番は肯綮高校の水戸。
 しかし、真っ先に動いたのは陶冶高校の杉浦だった。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 二巡目、白をポンして刻子を作った杉浦。
 真っ白で、行き先の書かれていない特急券を、親の水戸が一瞥して首を振る。
 杉浦を捲って和了るのは難しい、と判断したからだった。
 
 その後、杉浦は更に一索をポン。
 テンパイに至り、最後は六索、七索、八索で待つ形となった。
 
( ФωФ)(当たり牌は十枚残っているである、和了れる可能性は高いであるな)
 
 ホライゾンのような、神懸かり的な力など持ち合わせていない。
 だからこそ堅実に、手広く当たりを待てるように打ち進めるしかないのだ、と杉浦は考えていた。
 
 部長として、杉浦は同級生のいない麻雀部を率いてきた。
 後輩たちは個性豊かで、打ち筋も様々。まとめるのは一苦労だった。
 
 後進の育成にあたりつつ、自分の実力も底上げしなければならない日々を杉浦は送った。
 唯一の三年生として、背にかかる重圧は大きかったが、それに嫌気が差したことはない。
 二年生たちがいつも杉浦を気遣い、そして、最後は必ず全国へ送り出そうと努力を重ねてくれたからだった。
 
 そして今、全国への希望を持って杉浦は卓に着けている。
 
( ФωФ)(皆が獲得してくれたポイントのおかげで、我輩は今、かつてないほど楽しんで打てているである)
 
( ФωФ)(その礼として、必ず皆を全国へ連れていくであるよ)
 
 楽しんで打てれば、実力を出し切れる、と杉浦は思っていた。
 そしてそれが、全国へ最も近づける道筋だと信じていた。
 
 その道筋に、光が当たる。
748第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:22:04 ID:p9NXuClk0
( ФωФ)「ロンである」
 
 冷静に発声し、牌の絵柄を露わにした。
 それほど高い手ではない。しかし、まずは一撃浴びせることができたと、杉浦は満足感を漂わせる。
 
( ФωФ)「役牌、混一色。4000である」
 
 杉浦にとっての僥倖は、芽院高校の内藤が振り込んでくれたことだった。
 染め手は勘づかれているだろうと思い、杉浦はツモ和了りしかほとんど考えていなかったのだ。
 しかし、内藤は無防備にも六索を河に流した。
 
 もし他家の手牌を見通す力があるとすれば、立直していない状態での放銃はほぼありえない。
 つまり、内藤が振り込んだということは、やはり他家の手牌までは分からないということだ、と杉浦は思った。
 
 しかしふと、杉浦はホライゾンとの対局を思い出す。
 
( ФωФ)(そういえば、雀王道で戦ったときも、同じようなことがあったであるな)
 
( ФωФ)(ホライゾンがまるで無警戒な放銃をし、口ほどにもない相手だと思ってしまったである)
 
( ФωФ)(しかし後半戦に入った途端に逆襲され、最終的には敗北を喫してしまったである)
 
 インターネット上でのホライゾンは、ほとんどの対局で序盤は他家にリードを許すという。
 相手の打ち筋を見極めているからとも、序盤はあまり調子が出ないからとも言われている。
 中には、わざと振り込んで自分を追い込み、最後に逆転するのが好きだからだ、と推測する人もいた。
 
( ФωФ)(もし、今のが差し込みだとすれば、あまり調子には乗らないほうがいいであるな)
 
( ФωФ)(最後は計ったようにきっちり逆転してくることも想定しておかなければならないである)
 
( ФωФ)(――――それに、手強いのはホライゾンだけではない、ということも忘れてはならないであるよ)
 
 杉浦が対面を見遣る。
 冷静に、虎視眈々と頂点を目指している男が、配牌を見つめていた。
 
( ФωФ)(肯綮高校の水戸。この男、間違いなく全国レベルの打ち手である)
 
( ФωФ)(警戒は怠れないであるな)
 
 杉浦は気を引き締め直して、東三局に臨む。
 親番は麦秀高校の伊要。
 しかし、配牌を確認して右手に力を込めたのは、水戸だった。

749第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:23:27 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)(手広く牌を待てそうな二向聴ですね)
 
 ここまでの和了りは伊要と杉浦。
 未だに加点がないのは水戸だけだった。
 
(‘_L’)(長い一荘戦を思えば、東場も終わっていない状態での収支などさほど気にする必要はありませんが)
 
(‘_L’)(なるべく早く最初の和了りが欲しいのも事実です)
 
 四巡目に七萬を引いたところで水戸の手が止まる。
 向聴数が変わるツモではない。しかし、他の牌と入れ替えることで少しでも道が広がるかどうかを考えていた。
 
(‘_L’)(ここは、やや迷いどころですが)
 
(‘_L’)(三萬切りとしたほうが、受け入れが増えますね)
 
 確信を持って水戸は三萬を打つ。
 例え裏目に出たとしても、効率を重視した結果ならば悔やむ必要はない、と思いながら。
 
 逆に、七萬を残したことが奏功すれば、自信に繋がるだろう、とも。
 
 水戸は、全ての要素に理屈を求めるタイプだった。
 それでも、人が感情に左右される面があることは否定できないでいる。
 何度も和了りを逃せば自信を失い、導き出せるはずの答えを導き出せないこともある、と思っているのだった。
 
 勢いや流れなどというものは、本来、この世に存在しない。
 しかし、自分に疑いを持たなくなった人間は、強い。
 だからこそ、自信を持つことは大事なのだ、と水戸は思っていた。
 
 これほどの強敵たちを相手にしても、水戸の自信が揺らぐことはなかった。
 
(‘_L’)「立直です」
 
 手堅く打ち進めていた水戸が、八萬を引いた八巡目に立直。
 手が整っていない伊要、杉浦はすぐさまベタ降りに回った。
 動じる様子も見せずに牌を捨てているのは内藤のみだ。
 
 しかし、その内藤から、水戸の当たり牌が齎される。

750第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:24:53 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「ロン、4000です」
 
 水戸が右手の親指で、牌を左から順に軽く押していく。
 流れるように手牌は倒され、公となった。
 
(=゚ω゚)ノ(相変わらず、綺麗な蛍返しだよう)
 
( ФωФ)(生まれつき不自由な左手は一切使わずに倒牌。見事なものであるな)
 
 他家に和了られたとは思えない表情で、二人が水戸を見つめていた。
 当の水戸は、点数が確かに増えたことを確認して、軽く息を吐く。
 
 完全自動雀卓ならば、手元のタッチパネルのボタンをタップするだけで自動的に倒牌される。
 手で倒す必要はないが、水戸は昔からそうしてきたように、右手で牌を仰向けにした。
 癖は簡単には抜けないものだったのだ。
 
( ФωФ)(ついつい蛍返しに目を奪われがちであるが、最後はピアノ待ちで三面張)
 
( ФωФ)(とにかく待ちを広くする打ち筋は極めて合理的で、隙はほとんどないである)
 
(=゚ω゚)ノ(もしかしたら、今年の水戸くんは笑野くん以上に手強い相手かもしれないよう)
 
 杉浦と伊要は一様に警戒心を強めた。
 肯綮高校の水戸。立ちふさがる壁としてはやはり高い、と考えながら。
 
 そして水戸は、4000点を失ったばかりの内藤を見ていた。
 東四局が始まっており、内藤は自分の手番に山から牌を取って河に捨てる。
 その一挙手一投足を、じっと、水戸は観察していた。
 
(‘_L’)(先ほどの放銃はあまりにも呆気なく、不気味でさえありましたが)
 
(‘_L’)(ぎこちないツモ、打牌、理牌を見る限り、どうやら間違いなさそうですね)
 
(‘_L’)(やはり、内藤くんはリアル麻雀に慣れていない。ほとんど初心者と言ってもいいくらいに)
 
 そのことに、水戸は昨日から察しがついていた。
 ホライゾンが芽院高校のメンバーになったとの噂が流れ出した頃から言われていたことでもあるのだ。
 
(‘_L’)(ホライゾンはネットでしか麻雀を打ったことがない。どうやら、真実のようですね)
 
(‘_L’)(ここまで一方的に点を減らし続けているのも、リアル麻雀に戸惑っているからと考えれば納得がいきます)
 
(‘_L’)(わざと振り込んで楽しんでいる可能性も、ないわけではありませんが)
 
 リアル麻雀とインターネット麻雀では、情報の見え方が違う。
 ホライゾンの図抜けた読みの力も活かしきれないかもしれない、と水戸は考えていた。
 
 もしそうならば、リアル麻雀に慣れる前に叩き潰すべきだ、とも。

751第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:26:04 ID:p9NXuClk0
(‘_L’)「ロン」
 
 再び、水戸の右手は手牌を流れるように押し倒す。
 上家の内藤が牌を捨てた直後のことだ。
 右手親指のみの倒牌でも、両手での倒牌と遜色ない速度だった。
 
(‘_L’)「三色同順、ドラ2で4000です」
 
 子の水戸が和了ったことで、まずは東場が終わった。
 ここまでのトップは麦秀高校の伊要で67800点。
 次いで肯綮高校の水戸が52400点、陶冶高校の杉浦が48400点。
 
 そして、芽院高校の内藤が31400点。
 誰の目にも明らかな沈み方で、最下位となっていた。
 
(‘_L’)(ここまでの点で通算獲得ポイントを計算すると、うちが逆転を果たしてトップですね)
 
(‘_L’)(芽院はまだ二位ですが、三位の麦秀との差は僅かに1ポイント)
 
(‘_L’)(このままなら、いずれ間違いなく全国への道を絶たれることと思いますが)
 
 このまま大人しく、一方的にやられてくれるだろうか、ホライゾンは。
 水戸は、内藤の顔を見ながらそう考える。
 
 最下位の内藤は、トップの伊要から既に大差といっていい点差をつけられている。
 親番で倍満を和了られたことは避けようがなかったとしても、そのあとの放銃はあまりにも無警戒。
 これは、果たしてリアル麻雀に不慣れという理由だけで納得していいのだろうか、と水戸は自問した。
 
 自問せざるをえない理由があったのだ。
 内藤の、表情に。
 
( ^ω^)
 
 これほど点差をつけられても、内藤は全く動じていないからだった。
 柔らかな笑みを、崩していないからだった。

752第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:28:08 ID:p9NXuClk0
(=゚ω゚)ノ(最下位なのに全然、余裕綽々って感じだよう)
 
( ФωФ)(やはり、不気味であるな。先ほどの放銃も、差し込みと思っておくべきであるか)
 
(‘_L’)(決して楽観はできませんね。例え本調子ではないとしても、相手はあのホライゾンなのですから)
 
 それぞれが決して気を緩めることなく、内藤を警戒しつづけている。
 当の内藤は、錯乱を表に出さないことで必死だった。
 
( ^ω^)(やばいお。なんかめっちゃ点数が減ってるお)
 
( ^ω^)(なんとか四面子一雀頭を作ろうとしてるけど、それより先にみんなが和了っちゃってるお)
 
( ^ω^)(多分、僕ひとりだけボロ負け状態だお。よく分かんないけど恐らくピンチだお)
 
( ^ω^)(でも、何があっても動じちゃいけないんだお。初本さんにそう言われてるんだお)
 
 雀卓中央のディスプレイには大きく『南場』と表示されている。
 大将戦の四分の一が終わった、ということだけは内藤にも分かった。
 
 
 ◇
 
 
 僅かな期待さえ抱くべきではない。
 そう分かっていたにも関わらず、初本は目を伏せてしまった。
 
(´・ω・`)「ポイントで、肯綮に逆転されたみたいだ」
 
 ぽつりと呟く。
 言うべきことではなかったかもしれないと、初本はすぐに後悔した。
 
(;^Д^)「よくやってくれてるっすよね、内藤は。ここまでミスもないし」
 
(´・ω・`)「そうだね。内藤が打ってくれるおかげで、棄権する破目にはならなかった。感謝しないと」
 
 厳しい戦いであることなど分かっていた。
 それでも、落胆を隠しきれない。
 初本だけでなく、誰にとってもそうだった。

753第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:29:27 ID:p9NXuClk0
('A`;)「あとで内藤に、なんか奢ってやらないと」
 
('、`*川「だね。よく分かんないけど、頑張ってくれてるみたいだし」
 
 毒島の独り言に、伊藤が言葉を繋ぐ。
 どちらも、力ない声だった。
 
 先鋒として戦った椎名は、ただじっと、顔の前で両手を組んでいる。
 
 大将戦は南入し、再び内藤の親番が回ってきた。
 ここで安い手でも和了ってくれれば、まだ望みを繋げる。
 初本はそう考えたが、現実は非常に厳しいものとなった。
 
(´・ω・`)「速いね」
 
 七巡目にして陶冶高校の杉浦がテンパイし、立直をかけた。
 最低でも満貫となる手。
 振り込めば、内藤は更に窮地へと追い込まれる。
 
 現物などの安牌に頼ってベタ降りすれば、しばらくは逃げられるだろう。
 初本はそんな、意味のない仮定を考えた。
 
 今の内藤は、現物という言葉さえ知らないのだ。
 
 なんとか振り込まずに済ませてほしい。
 そう祈りながら皆が試合の映像に視線を注ぐ。
 
( ^Д^)「伊要が当たり牌の三筒を掴んだ!」
 
(´・ω・`)「そのまま切ってくれれば、伊要くんが放銃だけど」
 
 伊要はすぐに打牌せず考え込んでいた。
 しかし、他に安牌らしい安牌も存在していない。
 そのままツモ切りしてくれれば、と芽院高校の面々は願った。
 
 やがて、芽院高校の願いは通じ、杉浦は伊要が捨てた三筒を見て手牌を傾けた。
 
(;^Д^)「あっぶねー。助かった」
 
(´・ω・`)「トップの伊要くんから8000点か。ありがたいね」

754第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:31:30 ID:p9NXuClk0
('A`)「肯綮の水戸さんは、途中の八索切りが裏目に出ましたね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、あそこは八索切りで正解だよ。そのほうが受け入れが増える」
 
( ^Д^)「あの人なら何度同じ局面に遭遇しても八索を切るっすね、きっと」
 
(´・ω・`)「そのブレのなさが、水戸くんの強さだ」
 
 南二局は、その水戸が着実に打ち進め、テンパイに至った。
 一盃口と役牌しかない手でも立直をかけずに当たり牌を待っている。
 それが奏功し、伊要が六筒を捨てた瞬間、右手で牌を倒した。
 
(´・ω・`)「待ちが悪いときはダマで構える、か。手堅いね」
 
('A`)「そういえば、大会の推奨マナーでは片手倒牌を控えるよう書いてありましたけど、水戸さんの蛍返しはいいんですか?」
 
(´・ω・`)「生まれつき左手が動かなくて、小さい頃からやってきたことらしいしね。運営本部も了承してるよ」
 
( ^Д^)「今でこそ完全自動雀卓があるから、手で倒牌しなくてもいいっすけどね」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓の倒牌と変わらない速さだし、いいんじゃないかな。見事な技だし」
 
 親の水戸が3000点を得て、南二局は一本場に入る。
 連続で振り込み、点を減らしつづけていた伊要が逆襲し、早々にテンパイ。
 十巡目には四筒を自ら引き当てて、4300点を取り返した。
 
 南三局はその伊要が親番。
 ここは内藤を除く三者が鳴きを使って手を進める激しい展開となった。
 
(;^Д^)「さっきから展開早いっすよね」
 
(´・ω・`)「一人がスピードを上げると、それに負けじとスピードを上げる。そういう流れだね」
 
('A`)「打点も低めですね。大きかったのは最初の倍満くらいで」
 
(´・ω・`)「三人の点はほぼ横並びだ。細かく稼いで、少しずつリードしていく作戦かな」
 
 副露によって様々な牌が卓上に顔を並べた。
 賑やかな場となった南三局、一足早く制したのは陶冶高校の杉浦。
 一気通貫、混一色で水戸から4000点を得た。
 
(´・ω・`)「前半戦のラストだね」
 
 大将戦は南四局に差し掛かった。
 ここまで、最初の持ち点からマイナスになっているのは内藤のみ。
 他の三者はそれぞれが実力を発揮し、拮抗した点数で並んでいた。

755第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:32:59 ID:p9NXuClk0
(´・ω・`)「なんとか、最後まで」
 
(;^Д^)「トラブルなく打ち終わってほしいっすね」
 
 直接的な言葉は誰も出さない。
 しかし、もはや全国への希望が持てる状況ではなかった。
 県内屈指の打ち手たちを相手に、内藤はひとり、置いていかれてしまっている。
 
 内藤は、孤独さを感じているだろうか、と初本は考えた。
 麻雀を楽しんできてほしいと言って送り出したが、孤立していては楽しめるはずもない。
 
 初めてのまともな麻雀が、県予選の頂点だった。
 内藤が楽しもうとしても、周りの打ち手が醸し出す空気は、それを許さないかもしれない。
 そういった場に送り込んでしまったことの責任は、無論自分にある、と初本は考えていた。
 
( ^Д^)「初本さんは」
 
 不意に、聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、笑野が言った。
 もし、芽院高校がトップに立っていたら、きっとこんな声にはならなかっただろう、と初本は思った。
 
( ^Д^)「大学に行っても、麻雀つづけるんすか?」
 
 その言葉を聞いて、やはり笑野は自責しているのだろう、と初本は考える。
 初本にとってのラストチャンスがなくなったことで、麻雀をやめてしまわないか心配しているのだろう、と。
 
(´・ω・`)「そのつもりだよ。進学予定の大学には、麻雀サークルがあるみたいだからね」
 
( ^Д^)「そうなんすね。もしかしてまた、囲碁に戻るんじゃないかと」
 
(´・ω・`)「あぁ、そういや、その話をしたこともあったね」
 
('、`*川「あれ? 初本さん、昔から麻雀やってたわけじゃないんですか?」
 
(´・ω・`)「麻雀を始めたのは中学の途中からだね。それまでは囲碁ばっかりだった」
 
 囲碁を始めたのは小学生の頃で、囲碁を打てる担任に誘われたことがきっかけだった。
 ルール自体はさほど難しくなかったため、すぐ対局できるようになり、徐々に熱中していったのだ。
 当時は、囲碁というゲームが持つ果てしない奥深さも、あまり分かっていなかった。
 
('A`)「昔は囲碁をやってたなんて、全然知りませんでした。囲碁部に入ってたんですか?」
 
(´・ω・`)「いや、中学のときは地元の碁会所に通ってたんだ。囲碁部はなかったし」
 
('、`*川「でも、なんで途中でやめて麻雀に?」
 
(´・ω・`)「凄く強い相手に、どうしても勝てなくてね。心を、折られてしまったんだ」
 
 否が応にも、初本の声は小さくなった。

756第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:34:05 ID:p9NXuClk0
 今となっては、その当時のことを言葉にできる。
 しかし当時の初本は、どうしても勝てないという事実を認めたくない気持ちが強かった。
 
 人生で、初めてといっていい挫折。
 初本なりに努力し、もがいたが、それでも勝てなかった。
 何度挑戦しても、変わらなかった。
 
(´・ω・`)「囲碁ってゲームは偶然性がなくて、ある程度の実力差があると、弱い人は強い人にまず勝てないんだ」
 
(´・ω・`)「もちろん、諦めずに努力を続ければ実力差を埋められたかもしれない。だけど、当時の僕は諦めてしまった」
 
(´・ω・`)「囲碁なんてもう打ちたくない。そんなことさえ考えていた頃に出会ったのが、麻雀だったんだ」
 
 麻雀にのめりこんだことも偶然だった。
 たまたま打った麻雀ゲームで、ルールも覚束ないまま初本は圧勝したのだ。
 まさに、偶然性が最大限活かされた結果だった。
 
(´・ω・`)「麻雀は上手く打てたつもりでも勝てないことが多々あるけど、それも面白いなって思ってね」
 
(´・ω・`)「中学卒業までどっぷりハマって、高校でも麻雀部に入ることしか考えてなかった」
 
 初本が芽院高校を進学先として選んだのも、麻雀部があるから、という理由は大きかった。
 中学時代の学力を考えれば、もう少しレベルの高い進学校に行くべきだったのかもしれない。
 しかし、初本の家からさほど遠くなく、麻雀部がある高校となると、芽院高校くらいしか選択肢はなかった。
 
 それでも、初本は進学先を後悔したことなど一度もない。
 麻雀部に入ったことで、素晴らしい仲間たちと出会えた。
 入部してよかったと、心から、何度も何度も思ったのだ。
 
(´・ω・`)「入部してからここまで、どれくらい成長できたのか分からないけど」
 
(´・ω・`)「自分なりには頑張ってこれたかな」
 
 入部してからの二年と少しを、初本は曖昧に思い返し始めていた。
 
 高校一年生のとき、まだ県大会にさえ出られるレベルでなかった初本を、先輩たちは鍛えてくれた。
 理論派の上級生から叩き込まれた牌効率は、今の初本の基礎となっている。
 無論、一年生のときに夏の大会に出ることはできなかったが、秋の新人戦では悪くない成績を収めることができた。
 
 二年生になってからは先輩を凌ぐほどの実力を身につけ、レギュラーの座を掴んだ。
 一年生の笑野が目覚ましい活躍を見せたこともあり、初本はそれほど目立たなかったものの、県大会ではチームに貢献できた。
 しっかりとした実力を得れば、ある程度安定した成績を収めることができる、という確信も持てていた。
 
 しかし、全国大会ではその確信が脆くも崩壊した。
757第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:35:38 ID:p9NXuClk0
 全国という大舞台で、初本は自分を見失い、一回戦で大きなマイナスとなる敗北を喫する。
 その後に打った笑野が取り返してくれたおかげでチームは二回戦に進んだが、そこでも初本は惨敗した。
 打ち始めに躓いたことで、早く点を取り返そうとして大きな手を狙いすぎ、逆に相手に振り込むという失態を繰り返したのだ。
 
 その結果、芽院高校は二回戦敗退。
 戦犯は誰の目にも明らかだったが、先輩たちは決して初本を責めなかった。
 その心遣いがなければ、初本の心は再び折れていたかもしれない。
 
 今年は、全国でも悔いのない戦いをしたい。
 そう思っていたが、進級前に初本と同学年の部員が一人抜け、メンバーが足りなくなったことが結果的には響いた。
 いま内藤が大将戦を戦っていることも、それが原因といえなくもない。
 
 ただ、部長として充分なメンバーを揃えられなかったことの責任は大きい。
 それも、初本は分かっていた。
 
(´・ω・`)(結局、僕のせいだ。だから、誰かを責めることなく終えられる)
 
(´・ω・`)(そのほうがいい。随分、気は楽だ)
 
 結局、全国大会では良績を残せないままとなってしまった。
 それが、初本にとっては心残りと言えば心残りだ。
 しかし、今となってはそれも致し方ないことだった。
 
 ここまで完璧によく頑張ったと自賛することはできない。
 だが、全てを否定するつもりもない。
 麻雀部で過ごした時間、ここで得たもの、その全てが初本にとって大きな糧となった。
 
 その点については、何ら、疑いの余地もなかった。
 
(*゚ -゚)「あれ?」
 
 初本が過去を振り返りながら、ぼんやりとそんなことを考えていたとき。
 ずっと顔の前で両手を組みながら、内藤を見守っていた椎名が、不意に声を出した。
 
 南四局は、四巡目まで進んでいた。
 
(´・ω・`)「どうしたの?」
 
(*゚ -゚)「今、もしかしたら」
 
 椎名の目は、ずっとモニターに向いている。
 ちょうど、内藤が九筒を捨てたところ。
 一見、何の変哲もない打牌だ、と初本は思った。
 
 しかし。

758第9話 ◆azwd/t2EpE:2015/06/01(月) 00:36:46 ID:p9NXuClk0
 誰よりも内藤を信じ、内藤を静かに見守り続けてきた、椎名。
 
 その椎名だからこそ、すぐに気づけたのだろうか、と後に初本は思った。
 
 
 
(*゚ -゚)「もしかしたら、ブーンくん、『聞こえた』のかもしれません」
 
 
 
 ――――内藤の、小さな、しかし確かな、第一歩に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第9話 終わり
 
     〜to be continued

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