644登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:02:46 ID:YtsJxGfY0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

645登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:03:40 ID:YtsJxGfY0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

646大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:04:42 ID:YtsJxGfY0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

647大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:05:58 ID:YtsJxGfY0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

648大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:07:39 ID:YtsJxGfY0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点
649第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:10:26 ID:YtsJxGfY0
【第8話:無双の果て】
 
 
 中堅戦も北場まで進んだ。
 ここまでの結果に初本は、満足こそしてないものの、決して悪くないとは思っていた。
 
(´・ω・`)(できれば、ここも連荘したいけど)
 
(´・ω・`)(麦秋が高めの手を張ってるみたいだし、降りたほうが良さそうかな)
 
 北一局、親番は芽院高校の初本。
 連荘狙いで一度鳴いたが、麦秋の船都が僅かに顔を紅潮させているのを見て、初本は現物を捨てた。
 最低でも満貫はあるだろう、と考えながら。
 
 その予感は、十一巡目に現実となる。
 
(’e’)「ツモじゃ」
 
 門前清自摸和、一盃口、混全帯幺九、混一色。
 綺麗な染め手だ。初本が感じたのは、その程度だった。
 
(’e’)「3000・6000じゃよ」
 
 子にツモ和了りされたことで、初本は6000点を失った。
 しかし、避けようのなかった失点。初本に点を惜しむ気持ちはなかった。
 
(´・ω・`)(昨日戦ったときに、心を折ったつもりだったんだけど)
 
(´・ω・`)(そう上手くはいかないか。みんな、全国へ向けて必死だね)
 
 初本と船都は昨日も対局している。
 そのときは初本が圧巻の麻雀を見せ、東二局で試合を終わらせていた。
 
 役者が違う。
 昨日の試合中に、船都はそう感じていた。
 それでもチームのために、心を無理やり奮い立たせていたのだ。
 
 ここまで、二位に大差をつけて芽院高校の初本がトップに立っている。
 しかし、南場まではいいようにやられていた肯綮高校と麦秋高校も黙ってはいなかった。
 それぞれ、三万点近いところまで点数を取り返してきている。

650第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:12:22 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(さすがに南場までは恵まれすぎてた。あんなに和了れたのは人生で初めてかな)
 
(´・ω・`)(みんなが早々に諦めてくれたら良かったんだけど、そうもいかないか。難しいな)
 
(´・ω・`)(なるべく点差を広げて終わらせたいところだけど)
 
 椅子の横にある小さなテーブルに、烏龍茶のペットボトルを置いていた。
 そのキャップを取って、初本は烏龍茶を二口分ほど流し込む。
 
 昨日、そして今日。
 初本は、あまりも出来過ぎている結果に、満足はしていなかった。
 
 実力のみで全てを引き寄せたならば、これ以上を望むこともなかっただろう。
 しかし実際には、幸運にも助けられている。
 だから決して満足できないのだ、と初本は思った。
 
(´・ω・`)(唯一、自分で自分を褒められるのは、ここまで一度も振り込んでないことかな)
 
(´・ω・`)(ただ、一度くらいは放銃があっても、おかしくはないな)
 
 先ほどの親番では麦秋高校の船都に6000点を奪われている。
 この先も充分に警戒が必要だ、と初本は気を引き締めた。
 
 しかし、警戒網を容易く乗り越えるような声が上がる。
 
( ∵)「立直」
 
 北二局、一巡目。
 肯綮高校の名瀬楢が、両立直をかけた。
 
(´・ω・`)(これは、事故に遭うかもしれないな)
 
 両立直の難点は安牌がほぼ読めないところだった。
 現物は九萬のみ。初本の手には一枚もない。
 どの牌を切っても振り込む恐れがあった。
 
(´・ω・`)(ないとは思うけど、仮に役満なら48000点か。逆転されるな)
 
(´・ω・`)(まぁ、現実的なところを考えれば、悪くても満貫から倍満の間くらいかな)
 
(´・ω・`)(それなら振り込んでもまだ大差だ)
 
 初本が西を切るも、名瀬楢がロンと発声することはない。
 一発は消えた。しかし、ここから先に、名瀬楢は何十回ものチャンスを残している。
 
 そのチャンスを、三巡目に初本が切った一筒で、掴まれた。

651第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:13:31 ID:YtsJxGfY0
( ∵)「ロン」
 
 仕方ないな。
 初本が真っ先に考えたことは、それだった。
 
( ∵)「両立直、ドラ4」
 
 跳満で済んで良かった。
 初本が次に考えたことは、その程度だった。
 
(´・ω・`)(何が安牌か分からないんじゃほとんど逃げられない。貰い事故みたいなものかな)
 
 できれば他の誰かが振り込んでほしい。
 初本はそう願っていたが、叶わなかった。
 尤も、それが麻雀というゲームだ。
 
 18000点を失った初本だが、それでも二位とは五万点以上の差があった。
 残りは最短で三局。例え和了れなくとも、大きな失点さえなければポイント計算で芽院高校は優位に立つ。
 初本にとって最重要なことは、なるべく良い形で笑野にバトンを繋ぐことだった。
 
(´・ω・`)(今の跳満はしょうがないけど、これ以上の失点は防ぎたいところだな)
 
 親の名瀬楢が和了ったため、場は北二局一本場へと移る。
 ようやく大きな点数を手に入れたことで、名瀬楢は本来の調子を取り戻し始めていた。
 
( ∵)(西場までは、燎原の火の如き勢いに、為す術なくやられてしまっておったが)
 
( ∵)(跳満で邀撃に成功した。この機、失うわけにはいかぬな)
 
 北二局、一本場の名瀬楢の手牌は、萬子が多かった。
 萬子九枚に、筒子が三枚、字牌が二枚。
 理牌を終えて、すかさず一筒を切る。
 
( ∵)(混一色を狙うより他あるまいよ)
 
 その後、六巡かけて名瀬楢の手牌は萬子と字牌だけになった。
 これで、あとは萬子を整えて手役を完成させるのみ。
 立直をかけた上での混一色ならば最低でも12000点。名瀬楢の士気は、上がっていた。
 
 しかし二巡後、その士気が下がる一声。
 
(´・ω・`)「立直」
 
( ∵)「!」
 
 初本が先制立直。
 西場までの苦々しい思いが、名瀬楢の中で再び目を覚まし始める。

 
707第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/17(日) 01:01:41 ID:x.MSalWI0
(;∵)(くっ。和了りを目指したいが、振り込むような大過も避けたい)
 
(;∵)(しかし、この手では回し打ちするのも厳しい)
 
 西場までの初本の勢いは凄まじく、名瀬楢は和了れる気がしないとさえ思っていた。
 北場に入ってようやく下火となり、反撃の糸口を掴んだが、その糸を断ち切るような先制立直。
 名瀬楢は臍を噛む思いだった。
 
 幸か不幸か、初本は萬子を多く捨てており、名瀬楢には安牌がいくつもあった。
 守備に使える字牌もある。ベタ降りすれば放銃の危険性は低かった。
 
( ∵)(親番は口惜しいが、ここは、失点を避けるべきか)
 
 一つ息を吐いてから、名瀬楢は一萬を切った。
 初本がどれほどの手を作っているのかは、読めない。
 それでも、点を守るべき場面だ、と名瀬楢は自分に言い聞かせて。
 
 しかし、四巡後に公開された初本の手牌を見て、名瀬楢は再び悔やんだ。
 
(´・ω・`)「ツモ。立直、門前清自摸和」
 
(;∵)「!」
 
 役が、立直と門前清自摸和のみ。
 初本が得たのは2300点、名瀬楢が失ったのは1100点だ。
 
(;∵)(これほどまでに安い手だったのか。それならば、突っ張ったほうが得策であった)
 
 初本は、安い手で和了ることはあまりない。
 名瀬楢は、大将の水戸からそう聞かされていた。
 それ故の警戒でもあったが、今回の初本の手は、ロン和了りならたったの一飜だった。
 
(;∵)(配牌は中々のもの。初本ならば満貫以上を狙いにいってもおかしくはない)
 
(;∵)(大差を保って迅速に試合を終わらせるために、あえて安い手で和了った、ということか?)
 
 名瀬楢にとって悔やまれるのは、ベタ降りを決めたあとに萬子がいくつも手に入ったことだ。
 ベタ降りしていなければ、初本よりも先に和了れていた可能性があった。
 
 悔しさを押し殺すように、名瀬楢は静かに牌を手前に倒した。
 非運を嘆くより他ない。心の中で、そう呟いて。
 
 尤も初本からすれば、決して運だけに左右された一局ではなかった。
653第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:17:18 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(あの表情を見るに、どうやら中々いい手が入ってたみたいだね)
 
(´・ω・`)(読みどおり、萬子染めで混一色狙いかな。立直をかけられれば最低でも満貫、一気通貫も加われば跳満の手だ)
 
 初本からは名瀬楢の手牌を確認できない。
 しかし、今日の試合で初本は名瀬楢の癖を見抜いていた。
 そしてそこから、手牌をある程度把握することができていたのだ。
 
(´・ω・`)(名瀬楢くん、君は理牌のときに必ず萬子を左に運ぶことから始める)
 
(´・ω・`)(次は筒子、次は索子、最後に字牌。この順序は絶対に崩さない)
 
(´・ω・`)(君は一巡目に一筒を切った。あの一手で、最初から萬子が九枚あることが分かった)
 
(´・ω・`)(ほぼ確実に手を染めてくることは分かってたし、和了りも早そうだった。だから安い手で潰しにいったんだ)
 
(´・ω・`)(本当は僕も、もう少し手を高めたかったけどね。満貫や跳満を潰せたなら充分だ)
 
 芽院高校は副将戦までに試合を終わらせなければならない。
 それを考えれば、初本としては、少しでも多く点を稼ぎたいところではあった。
 しかしそれ以上に、失点を防ぐことが大事だ、と初本は考えていた。
 
(´・ω・`)(河に萬子を多く流したのも、気持ちをベタ降りに傾かせるためだったけど)
 
(´・ω・`)(上手くいったのかな。思惑どおりになってたならいいけど)
 
 全てが思い描いたとおりになったのかは初本には分からない。
 しかし、全てを支配することなどできないのが麻雀だ。
 初本は、そう考えていた。
 
 それでも、思ったとおりに事を運べるよう、努力すべきだ、とも。
 
 北三局、親番は陶冶高校の旭。
 高い手に対する放銃こそないものの、和了りは一度に留まっていた。
 最後の親番で少しでも点を稼ぎたい。旭がそう考えているであろうことは、誰もが予想できていた。
 
 旭が素早く理牌を終えて、七索を切る。
 その時点で、初本は旭の狙いが読めていた。
 
(´・ω・`)(間違いないな。七対子狙いだ)
 
(´・ω・`)(対子が四つで二向聴。君なら間違いなく七対子を狙う配牌だろう)

654第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:18:27 ID:YtsJxGfY0
 陶冶高校の旭は理牌の際、同じ牌が二つあるといったん手前に引き寄せてから二枚同時に移動させる癖がある。
 それを初本は見抜いていた。
 
 そして、無類の七対子好きであることは、旭本人のツイッターから情報を得ていた。
 
(´・ω・`)(七対子は最後、必ず単騎待ちになる。当たり牌が何なのか、読みにくいのが怖いところだけど)
 
(´・ω・`)(狙ってる役が明らかなのは、戦いやすくもあるかな)
 
 北三局は淡々と場が進行していく。
 肯綮高校の名瀬楢、麦秋高校の船都はさほど手が進んでいなかった。
 
 一方、陶冶高校の旭は確実に七対子へと近づいていく。
 
(-@∀@)(ひひひ。テンパイしましたよぉ〜)
 
(-@∀@)「立直!」
 
 十一巡目に七対子テンパイにまで至り、旭が立直をかけた。
 七対子と立直とドラ2で満貫は確定。裏ドラ次第で跳満までありえた。
 旭の胸は期待で膨らむ。
 
(-@∀@)(私にもようやくチャンスが巡ってきました)
 
(-@∀@)(副将戦以降のことを考えると、ここで点差を詰めたいですねぇ)
 
 ブラックコーヒーを飲み、口を拭いながら旭は前を見据えた。
 当たり牌は二筒。序盤に一枚捨てられているものの、当たり牌は二枚残っている。
 
 旭は、立直をかける際に五筒を捨てていた。
 いわゆるモロ引っかけに誰かが嵌まってくれないかと期待していたのだ。
 
(-@∀@)(七対子モロ引っかけで出和了りしたときが最高に楽しいんですよねぇ〜)
 
(-@∀@)(ああ、早く誰か切ってくれませんかねぇ〜)
 
 思わず笑顔になりかけたのを必死で堪える旭。
 残る手番はさほど多くないものの、和了れる可能性は充分あると見ていた。
 
 しかし、十二、十三、十四と巡目が重なっても、一向に二筒は場に現れない。

655第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:20:35 ID:YtsJxGfY0
(;@∀@)(ん〜、王牌の中で眠っちゃってますかねぇ〜)
 
(;@∀@)(あるいは誰かが対子で持っちゃってますかぁ〜?)
 
 親の立直に対してベタ降りするならば、筋の二筒の対子落としがあってもいい。
 場に一枚切れているため生牌でもないのだ。
 旭はそう考えていたが、二筒が河に流されることもないまま、場は進んでいく。
 
 やがて最後の手番になっても、二筒は姿を見せなかった。
 
(;@∀@)「ん〜、テンパイです」
 
( ∵)「ノーテン」
 
(’e’)「ノーテンじゃよ」
 
(´・ω・`)「テンパイ」
 
 嘆息を吐きながら旭は牌を表にした。
 親番は続行。しかし、満貫確定の手を和了れなかったことには大きく落胆させられていた。
 
 それ以上に、芽院高校の初本が公開した手牌に、旭は落ち込まされることとなる。
 
(;@∀@)(二筒があるじゃないですか! 対子で!)
 
 旭の待ち望んでいた牌が、初本によって囚われていた。
 立直をかければ待ちは変えられない。初本がテンパイを維持する限り、旭の和了りは厳しかったということになる。
 
(;@∀@)(うーむ。初本が途中で切った牌は、二筒よりもよっぽど危険な牌が多いように思いましたがねぇ〜)
 
(;@∀@)(和了りのために突っ張ったことが、たまたま奏功したということですかぁ〜?)
 
(-@∀@)(運の良い人ですねぇ〜)
 
 七対子を和了ることはできなかった。
 それでも、連荘できたならば悪い結果ではない。
 今回の流局は、運が悪かった。致し方ない。
 
 旭は、そう思った。
 しかし実際には、初本は確信を持って二筒を止めていたのだ。

656第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:22:35 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(二筒か八筒で待ってると思ってたけど、やっぱりそうだったか)
 
 雀卓の中に吸い込まれていく雀牌を見送りながら、初本は僅かに頬を緩ませた。
 モロ引っかけで二筒もしくは八筒待ち。これも、初本が事前に仕入れていた情報どおりだった。
 
(´・ω・`)(七対子をモロ引っかけで和了るのが一番好きだって、何度もツイッターに書いてたね)
 
(´・ω・`)(大会でも自分らしさを貫くのは悪くないけど、不特定多数に見られてることは考慮しなきゃね)
 
 二枚の二筒が初本の手に来たのは立直後のことだった。
 事前に情報を得ていなければ、二筒は捨てていた可能性が高い。
 無筋の生牌である六索を先に切るというようなことは恐らくなかっただろう、と初本は思った。
 
 満貫以上が確定していた手を初本は上手く潰した。
 この中堅戦、大差を保ったまま終わらせられる見通しが立った、と初本は見ていた。
 
 
 ◇
 
 
 控え室はクーラーがついているものの、喉の渇きは早い。
 一本目の燕龍茶は既に半分以上なくなっている。
 念のため三本買ってきておいて良かった、と杉浦は思った。
 
<_プー゚)フ「惜しかったですね。旭くん、七対子和了れそうだったのに」
 
 江楠はチョコボールの包みを解きながら言った。
 その声は相変わらず軽い調子で、旭に同情している風でもない。
 
<_プー゚)フ「おっ、銀のエンゼルだ」
 
/^o^\「え、ほんと?」
 
<_プー゚)フ「ラッキー。久々に当たった」
 
( ФωФ)「集めているのであるか?」
 
<_プー゚)フ「だいぶ前に当たった銀のエンゼルが、確か二枚くらい家にあったような」
 
/;^o^\「それ、もう失くしちゃってるパターンじゃ?」
 
<_プー゚)フ「探してみるよ。どっかにあるはず」
 
 思いがけない幸運に恵まれた江楠。
 先ほどの旭とは対照的だった。

657第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:24:29 ID:YtsJxGfY0
<_プー゚)フ「それにしても、さっきの二筒待ちは不運でしたよね」
 
<_プー゚)フ「あんなにピンポイントで止められるなんてこと、滅多にあるもんじゃないのに」
 
( ФωФ)「まるで、二筒待ちが分かっているかのような止め方であったな」
 
<_プー゚)フ「完璧に読み切ってたんですかね?」
 
( ФωФ)「分からぬよ。しかし、初本という男は観察力に優れている」
 
( ФωФ)「かつて我輩が対局したときも、見事に当たりを止められたことがあったであるよ」
 
<_プー゚)フ「まるでホライゾンの『神の目』じゃないですか」
 
( ФωФ)「似ておるな。しかし、初本の場合は恐らく、相手の癖を見抜くのが上手い」
 
( ФωФ)「理牌や視点移動などを備に観察し、読みの力に活かしているのであろうな」
 
<_プー゚)フ「そんなの、観察するのも大変ですけど、覚えてるのも大変ですよねぇ」
 
( ФωФ)「うむ。正直、理屈が分かったとしても、簡単には真似できぬことであろうな」
 
 北三局の一本場、旭は思ったように打ち進められず、鳴きを使ったものの一向聴で手が止まった。
 初本もテンパイには至らなかったが、名瀬楢と船都はテンパイし、北三局の点をしっかり取り返した。
 
<_プー゚)フ「中堅戦もオーラスですね」
 
( ФωФ)「田中をそろそろ起こしてやるである。出番であるよ」
 
(゜3゜)「起きてますよー」
 
 寝ぼけ眼を擦りながら、副将の田中が杉浦の側に寄ってきた。
 髪は上下左右に跳ね、制服は皺だらけ。
 杉浦は、今更身だしなみを注意する気にもなれなかった。
 
(゜3゜)「どうなってます? 勝ってます?」
 
( ФωФ)「いや、厳しい戦いである。しかし、全国への道が潰えたわけではない」
 
(゜3゜)「ま、適当に打ってきますよ。気負いすぎると碌なことがない」
 
( ФωФ)「うむ。お主はそれくらいがちょうどいいである」
 
(゜3゜)「じゃ、行ってきまーす」
 
 その場に欠伸だけを残して、田中が副将戦の舞台へと向かった。
 およそ緊張とは無縁な性格。それが、長所でも短所でもある男だ、と杉浦は思っていた。

658第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:26:04 ID:YtsJxGfY0
( ФωФ)「責任感という言葉が最も遠い男であるな、田中は」
 
<_プー゚)フ「あれはあれで、けっこう良いやつなんですけどねぇ」
 
( ФωФ)「うむ。それに、実力も決して悪くはない」
 
<_プー゚)フ「ちゃんと副将らしい力はありますよね」
 
( ФωФ)「しかし、今年の副将戦は些か分が悪い」
 
<_プー゚)フ「あー、そっか。芽院高校の副将は笑野でしたっけ」
 
( ФωФ)「いかにも。まったく、恐ろしいオーダーであるな」
 
 県下最強の打ち手として真っ先に名の上がることが多いのは、間違いなく芽院高校の笑野だった。
 何しろ、高校生になってから公式戦では一度も負けていない。
 昨年の全国大会で、芽院高校は二回戦敗退に終わったが、笑野自身は勝利を収めているのだ。
 
<_プー゚)フ「実績を考えると、やっぱ県じゃ最強ですかねぇ。杉浦さんが最強だ、って信じたいですけど」
 
( ФωФ)「客観的に考えると、やはり笑野であろうな。肯綮の水戸、芽院の初本、麦秋の伊要も相当な打ち手であるが」
 
<_プー゚)フ「去年も県大会で大暴れして、全国でも烽火高校相手に勝っちゃったんですもんね」
 
( ФωФ)「あのあと烽火高校が全国三位になったことを考えると、快挙といっていい活躍であったな」
 
 その笑野が、副将戦に出てくる。
 本来ならば大将の器。その大将戦でも、トップに立つ可能性が高い男だ。
 
 副将戦を戦う面々のなかで図抜けていることは明白だった。
 
<_プー゚)フ「笑野ってどのへんが凄いんですかね? よく分かんないんですけど」
 
( ФωФ)「豊富な経験であろうな。昨年対局したときに少し話したであるが、物心ついた頃から毎日のように麻雀を打っているそうである」
 
<_プー゚)フ「うへー、そんだけ打ってて飽きないんですかね」
 
( ФωФ)「いつ見ても楽しそうに打っているである。心底、麻雀が好きなのであろうな」
 
 昨年の対局時、笑野は自分が和了ったときはもちろん、他家に和了られたときでも笑顔を絶やさなかった。
 純粋に、対局を楽しんでいる。動揺したり、焦燥に駆られたりすることがない。
 だからこそ、実力を出し切れずに終わるということがないのだろう、と杉浦は考えていた。

659第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:28:14 ID:YtsJxGfY0
( ФωФ)「笑野は、恐らく豊富な経験に裏打ちされた感覚が抜群に優れている。それこそが強みであろう」
 
<_プー゚)フ「計算で戦うというよりも、感性で戦うタイプですか」
 
( ФωФ)「そのように見える。無論、合理的な読みの力も人並み以上のものを備えているのであろうが」
 
 笑野は決してオカルト派の打ち手ではない、と杉浦は思っていた。
 しかし、常に緻密な計算をしながら打つタイプでもない。
 
 過去に経験した何千、何万という対局の記憶から、自然と答えを出せる。
 まるでベテランのような強みを持った打ち手だ、というのが杉浦の答えだった。
 
<_プー゚)フ「計算して打つタイプだと、制限時間も気にしなきゃいけないですもんね。経験則から瞬時に導き出せると強いなぁ」
 
( ФωФ)「それもそうであるな。ツモってから打牌するまで十五秒以内、というのは、意外と長いようで短い」
 
<_プー゚)フ「そういや、去年は二十秒以内だったのに、なんで今年は短くなっちゃったんですか?」
 
( ФωФ)「全国大会の全プレイヤーの平均時間を取ったところ、十五秒で充分という結論が出たそうである」
 
<_プー゚)フ「えー。勝負どころではじっくり考えたいのになぁ」
 
( ФωФ)「そういう意見もあるにはあったが、試合時間の短縮を図る意味でも制限時間を短くしたほうがいいという方向になったようであるな」
 
<_プー゚)フ「笑野みたいな天才型の打ち手はそれでいいんでしょうけど、僕みたいな凡人には厳しいですよ」
 
( ФωФ)「とはいえ、先鋒戦では全部五秒以内に切っていたようであるが?」
 
<_プー゚)フ「あっ、実はあんまり考えてないことがバレましたね」
 
 杉浦が江楠と談笑している間に、中堅戦の北四局は中盤まで進んでいた。
 親番の船都は手堅く進め、十巡目の時点で断幺九、三色同順、ドラ1の手がテンパイに至った。
 
 次鋒戦の簿留が首位を取った麦秋高校だが、中堅戦では最下位に沈んでいる。
 ここは是が非でも連荘したい。そう考えているであろうことは、モニター越しの杉浦でも分かった。
 
 しかし、船都がテンパイに持ち込んだ三巡前には、芽院高校の初本がテンパイしていた。
 そして、自らの手で最後の牌を引き当てた。
 
( ФωФ)「終わったであるな」
 
 中堅戦が終了。
 最後は、芽院高校の初本が断幺九のみの安い手で試合を終わらせた。
 
 中堅戦の最終得点は、芽院高校が103200点、肯綮高校が41100点、陶冶高校が29700点、麦秋高校が26000点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が297ポイント、肯綮高校が224ポイント、陶冶高校が189ポイント、麦秋高校が184ポイントとなった。

660第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:30:35 ID:YtsJxGfY0
<_プー゚)フ「トップの芽院高校からは結構離されちゃいましたね」
 
( ФωФ)「しかし、まだ逆転の余地は残っているである」
 
<_プー゚)フ「二位とは35ポイント差ですし、プレーオフ狙いも考えなきゃいけませんね」
 
( ФωФ)「現実的にはそうであるな。無論、首位を目指すことに変わりはないであるが」
 
 しかし、田中が笑野に勝つのは厳しいかもしれない、とは杉浦も考えていた。
 副将戦で芽院高校との点差が詰められなければ、陶冶高校の優勝の目は消える。
 その場合は二位を狙わなければならない。
 
( ФωФ)「とにかく、田中が1ポイントでも多く稼いでくれることを願うばかりである」
 
 ストレートでの全国行きを決めるにせよ、プレーオフに望みを託すにせよ、まずはポイントを得る必要がある。
 そして、陶冶高校の命運は、これから始まる副将戦が鍵を握っている。
 杉浦は、そう考えていた。
 
 
 ◇
 
 
( ^Д^)「初本さん、お疲れ様っす」
 
(´・ω・`)「疲れたよ、本当に。一荘戦は長いね」
 
 初本が対局場を出たところで、笑野が労いの言葉を掛けた。
 気負いはなさそうだ。そう思って、初本は安堵する。
 
( ^Д^)「圧勝っすね。さすが初本さん」
 
(´・ω・`)「いやいや、出来過ぎだよ。特に南場までは配牌が大いに味方してくれた」
 
( ^Д^)「配牌も良かったっすけど、それ以上にやっぱ、読みが冴えてたっすね」
 
 初本が相手の動きをどう読んでいたのか、笑野には分からないはずだった。
 それでも感じ取れることがあったのだろう、と初本は思った。
 笑野は、麻雀に対する嗅覚が人一倍優れている。
 
(´・ω・`)「今、肯綮高校との差が73ポイントだ。30ポイントくらい差をつければ大将戦には回らないで済む」
 
( ^Д^)「肯綮以外は、もう100ポイント以上引き離したっすよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。首位さえ取れれば、肯綮以外の点数は気にしなくてもいい」
 
( ^Д^)「了解っす。必ずここで勝負を終わらせるっすよ」
 
 緊張しているわけでもなく、気を抜いているわけでもない。
 笑野は、極めて勝負に適した精神状態だ、と初本は思った。
 だからこそ、あの背中は頼もしく見えるのだろう、とも。

661第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:33:00 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)(50ポイント差くらいにできたらと思ってたけど、73ポイント差か。上出来だね)
 
(´・ω・`)(何があるか分からないのが麻雀だけど、公式戦無敗の笑野が打つんだから、安心してもいいのかな)
 
 携えたペットボトルに残っていた烏龍茶を初本が飲み干す。
 そのまま自販機の横にあるゴミ箱に入れ、真っ直ぐ控え室に戻った。
 
(*゚ー゚)「初本さん、お帰りなさい!」
 
('、`*川「お疲れ様です!」
 
 二人の女子部員が飛び跳ねるように初本を出迎えた。
 ありがとう、と言葉を返して初本は椅子に腰を落とす。
 
('A`;)「すみません、僕がもっと稼いでたら初本さんも楽に打てたと思うんですけど」
 
(´・ω・`)「いやいや。さっきも言ったけど、僕のオーダー変更が原因だから」
 
 初本の中に残っていた悔しさは、中堅戦の圧勝で随分晴れている。
 しかし、全てが消えるのは全国大会行きを決めたときだ、と初本は分かっていた。
 
(*゚ー゚)「笑野さんなら大丈夫ですよね。昨日なんて東一局で終わらせちゃったくらいですし!」
 
(´・ω・`)「相手は軽めだけど、油断はできないよ。笑野ならやってくれると信じてるけどね」
 
 内藤に出番を回さないための、苦肉のオーダー。
 それが奏功して副将戦までに試合が終わるのであれば、芽院高校にとってはありがたいことだった。
 全国でも注目されるほどの打ち手である笑野が、副将戦に出てくるというのは、他校にとっては脅威的なことだ。
 
(´・ω・`)「そういや、内藤は?」
 
('A`)「昨日食べたものが出そうだって言って、さっきトイレに行きました」
 
(*゚ー゚)「中堅戦の間も昨日のお菓子の残りを食べてたもんね」
 
(´・ω・`)「まぁ、のんびりしてもらってて良さそうだね」
 
 初本がモニターに目を向けると、副将戦の選手は既に全員着席していた。
 肯綮高校の鈴木、陶冶高校の田中、麦秋高校の名織。
 いずれもやはり、県大会レベルの打ち手だ、と初本は思った。
 
 一抹の不安もなく、副将戦が始まる。
 
 
 ◇
 
 
 副将戦の東一局、起家は芽院高校の笑野だった。
 しかし配牌の悪さに苦しみ、途中で手が進まなくなる。

662第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:33:58 ID:YtsJxGfY0
( ^Д^)(んー、微妙だな)
 
 一索をツモ切りして、笑野は軽く首を捻る。
 配牌が悪く、ツモにも恵まれない。
 親番としてはもったいない展開だった。
 
( ^Д^)(ま、こういうこともよくあるけど)
 
 その思いは、陶冶高校の田中が手牌を倒しても変わらなかった。
 
(゜3゜)「ツモ、500・1000」
 
( ^Д^)(和了られたか)
 
 副露して手を進めていた田中が混一色のみで和了った。
 笑野の親は流れ、場は東二局へと移る。
 
( ^Д^)(麦秋の名織とは昨日戦ったし、肯綮の鈴木とは去年対局したけど、陶冶の田中は初めてだな)
 
( ^Д^)(掴みどころがなくて、やりづらい相手かもしれないって初本さんは言ってたっけ)
 
 副露していたとはいえ、手の進む気配が分かりにくいタイプの打ち手だ、と笑野は感じた。
 しかし、こういう手合いは笑野が通っていた雀荘にも何人か居た。
 
( ^Д^)(あんまり理屈で打つタイプじゃなさそうだ。捨て牌一つ一つを深読みすると損かな)
 
 東二局、親番は肯綮高校の鈴木に変わる。
 先ほどとは違い、笑野の配牌は悪いものではなかった。
 
( ^Д^)(ダマで断幺九、平和、三色同順が狙えそうだ。ここは点を稼ぎたいな)
 
( ^Д^)(長丁場を乗り切るためにも、序盤にリードを築いておきたい)
 
 決勝戦は全て一荘戦。
 まだ東一局が終わったばかりで、誰かが飛ばない限り最短でもあと十五局ある。
 集中力を切らさずに戦いきることが大事になる、と笑野は考えていた。
 
 その後、二巡で手が進み、笑野は一向聴にまで至る。
 この局は和了れる目途が立った。笑野がそう思った、三巡目。
 
 ツモ牌の九萬を、そのまま捨てようとした。
 しかし、不意にその手が止まる。

663第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:36:31 ID:YtsJxGfY0
( ^Д^)(ん? なんか、嫌な予感がするな)
 
 理屈はなかった。
 しかし、笑野は九萬を切りにくく感じた。
 
 勘だけに頼って打つつもりなどない。
 しかし、情報が少なく道も多い序盤ならば、勘を信じてみるのもいい。
 笑野は、そう考えていた。
 
( ^Д^)(ここは、七筒切りにしとくか)
 
 断幺九を狙うならば九萬は不要。それでも、笑野は自分の感覚を信じた。
 昨日の試合も、清一色まで手を高めても和了れる予感があったからこそ、笑野は狙いを切り替えたのだ。
 そして、対局を東一局で終わらせることができたのだ。
 
 しかし、四巡目。
 今度は一萬が笑野の手に入った。
 
 一萬を手牌の上に置き、笑野は動きを止める。
 
( ^Д^)(なーんか、これもあんまり切りたくねーなぁ)
 
( ^Д^)(でも、そんなこと言ってたら手が崩れるし、切れるもん無くなるよなぁ)
 
 感覚のみに頼るならば手に残す牌。
 しかし、理屈から言えば迷わず捨てるべき牌だ。
 
( ^Д^)(んー。まぁ、よほどのことがない限り大丈夫か。まだ序盤だし)
 
( ^Д^)(捨てとこう)
 
 ツモ牌の一萬を、河に流した。
 僅かな引っ掛かりを振り払うように、潔く。
 
 その瞬間、親の鈴木が手牌を掴む。
 
/ ゚、。 /「ロン」
 
(;^Д^)(あー、振り込んだか)
 
 嫌な予感は、やはり、当たっていた。
 笑野は、軽くそう考えた。
 
 奈落の底へと落ちていることには、気づけていなかった。
 
 
/ ゚、。 /「国士無双」
 
(;^Д^)「!?」

664第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:39:39 ID:YtsJxGfY0
 笑野の腰が、浮いた。
 思わず、鈴木の牌を覗き込んでしまっていた。
 
/ ゚、。 /「役満、48000」
 
 俄かには信じがたかった。
 僅か四巡目にして、役満を和了。
 
 あまりにも出来の悪い夢だ、と笑野は思った。
 
(;^Д^)(冗談だろ!?)
 
 笑野は何度も確認した。
 しかし、何度確認しても変わらなかった。
 
 全ての幺九牌が、一枚ずつ揃っている。
 国士無双、十三面待ちからのロン和了り。
 たった四巡で、鈴木はそこに到達していた。
 
 親の役満で48000点。
 笑野の持ち点は、49000点から、僅か1000点になった。
 
 よほどのことがない限り大丈夫だと笑野は考えた。
 その、よほどのことが、起きた。
 
(;^Д^)(やべぇ!! やべぇ!!)
 
(;^Д^)(これは、マジでやばい!! どうする!?)
 
(;^Д^)(たった1000点しかなかったら、簡単に飛ばされちまう!)
 
 放銃すればどんな手でも持ち点を失う。
 他家のツモ和了りでも、親なら二飜、子なら三飜の手で、笑野の息の根は止まるのだ。
 
 笑野は、動揺を隠しきれなかった。
 口の中は渇き切り、視点は定まらない。
 東二局一本場の配牌が終わっても、笑野は自分の手牌が頭に入ってこなかった。
 
 それでも時間は流れていく。
 笑野は、方向性が定まらないままに、錯乱しながら打ち進めていた。
 
 そこに、追い打ちをかけるような声。
 
(゜3゜)「立直」
 
(;^Д^)「!」
666第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:41:06 ID:YtsJxGfY0
 五巡目の立直。
 笑野が振り込めば、そこで副将戦は終わる。
 
 ここで試合が終了すれば、肯綮高校が100ポイントを得る一方、芽院高校は0ポイントに終わる。
 ポイント計算上で肯綮高校が逆転トップに立って、大将戦に回ることとなる。
 
(;^Д^)(大将戦に回ったら、うちは終わりだ。全国には行けない)
 
(;^Д^)(ここで何とかしなきゃいけねぇのに、くそっ、安牌が読めねぇ!)
 
 これほどまでに追いつめられた経験が、笑野にはなかった。
 役満に振り込んだことは過去に何度かあるものの、遊びで打っていたときの話だ。
 公式戦で、しかもチームの命運を握るような試合で、首の皮一枚になったことはなかった。
 
 早まる心臓の鼓動を、どうすることもできないまま、笑野が西を切る。
 田中の口は、開かなかった。
 
 開いたのは、三巡後だった。
 
(゜3゜)「ツモ」
 
(;^Д^)「!!」
 
(゜3゜)「立直、門前清自摸和で600・1100」
 
 田中が発声した瞬間、笑野は、思わず呼吸を忘れた。
 しかし田中の手は二飜。親ならば死んでいたが、笑野は子番のため失点は600点で済んだ。
 まだ、辛うじて生き延びていた。
 
(;^Д^)(あぶねぇ! なんとか、ギリギリ、首の皮は繋がったけど)
 
(;^Д^)(でも、更に点が減っちまった。もう、立直もかけられねぇ)
 
 笑野の手元のタッチパネルに表示された数値は、三桁。
 持ち点は、僅か400点にまで減っていた。
 
 親のツモ和了りならば無条件で敗北。
 子のツモ和了りでも生き延びられるのは一飜の手だった場合のみだ。
 
 当然、誰かに振り込めば即座に死に至るのは変わっていなかった。

667第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:43:20 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(虫の息、か)
 
(;^Д^)(でもまだ、点は残ってる。呼吸も、できる)
 
 たった一度の放銃が、笑野の命運を大きく変えた。
 絶体絶命の危機に陥った。
 
 それでも、笑野の心はまだ、折れきってはいなかった。
 
(;^Д^)(なんでもいいから、まずは、点を取り返そう)
 
(;^Д^)(やれるだけやってみよう)
 
 事の帰趨は分からなくとも、最後まで、全力を尽くす。
 そうでなければ、初本に顔向けができない。
 笑顔で初本を送り出すことができない。
 
 笑野は、そう思った。
 そして、ぼやける視界の曇りを晴らすように、目を擦った。
 
 
 ◇
 
 
 副将戦が始まるまでは、半ば、楽観的な空気さえ漂っていた。
 芽院高校の選手控え室。
 
 それが、たった三局で、まるで通夜のように静まり返っていた。
 
(´・ω・`)「読めない」
 
(´・ω・`)「あれは、絶対に読めない手だ」
 
 初本が呟く。
 頭の中に残って消えないのは、東二局の役満だった。
 
(´・ω・`)「誰であっても読めない。配牌時点で、国士無双の二向聴なんて」
 
('A`;)「しかも、そこからたった三巡で、十三面待ちのテンパイなんて」
 
 誰でも振り込む可能性があった。
 それが、たまたま芽院高校の笑野であった、というだけの話。
 初本は、分かっていた。それでも、割り切ることはできなかった。

668第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:45:15 ID:YtsJxGfY0
 笑野の持ち点は、僅か400点。
 もはや立直をかけることさえできない点数。
 
 立直がかけられないということは、作れる手も限られてくるということだ。
 その分、相手には読まれやすくなる。和了れる可能性が、低くなってしまうということだった。
 
(´・ω・`)(いや、仮に和了れたとしても、トップとの点差は96000点。逆転は厳しい)
 
(´・ω・`)(仮に逆転できたとしても、そこから更に点差を広げて、肯綮に28ポイント差をつけなきゃいけない)
 
(´・ω・`)(肯綮だけを狙い撃ちすれば他が浮く。そうなると陶冶や麦秋とのポイント差が縮まる)
 
(´・ω・`)(たった400点の持ち点で肯綮を逆転しつつ他も封じ込めるなんて、ほとんど無理だ)
 
(´・ω・`)(ほぼ、不可能だ)
 
 初本は、冷静に状況を分析すればするほど、絶望感に襲われていった。
 一度でも振り込めば瞬時に終わる。その状況から、逆転することなど、奇跡でも起きなければ成しえないことだ。
 考えれば考えるほど、それが分かってしまったからだった。
 
( ; -;)「ごめんなさい、初本さん、ごめんなさい」
 
( ; -;)「私が、私が、もっとポイントを取れていれば」
 
 椎名は、涙を流していた。
 この状況が絶望的であるということに、気づいていたからだ。
 
('A`;)「違う、椎名さんのせいじゃない!」
 
('A`;)「俺が、俺があんな、不甲斐ない結果に終わってしまったから」
 
 毒島が慌てて椎名を慰める。
 その毒島自身、自責の念は強くあった。
 
 しかし、初本は首を振って、二人を落ち着かせるように優しい声を出す。
 
(´・ω・`)「二人のせいじゃない。二人とも、本当によくやってくれた」
 
 本音だった。
 初本は、心からそう思っていた。

669第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:48:02 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「椎名は麻雀を覚えて数ヶ月、毒島は苦手なものが相手」
 
(´・ω・`)「二人とも楽な状況じゃなかった。それでも、本当に頑張ってくれた」
 
(´・ω・`)「ありがとう。今年の大会がここで終わったとしても、この経験を活かして、また来年頑張ってほしい」
 
(´・ω・`)「君たちなら、必ず全国に行けるはずだから」
 
 諦めるにはまだ早い。
 まだ、試合は終わっていない。
 
 そう分かっていても、初本の口からは、自然と来年に向けた言葉が出てきていた。
 
 この決勝を、副将戦で終わらせるという計画は、ほとんど潰えた。
 最後、まだルールを少し覚えただけの内藤が、大将として登場する。
 県下屈指の打ち手たちを相手に、戦わなければならない。
 
 水戸、杉浦、伊要。
 いずれも、大将に相応しい選手だった。
 いくら牌の音を聞き分ける力があっても、今の内藤に太刀打ちできる相手ではなかった。
 
( ^ω^)「ただいまですおー」
 
('、`*川「たっだいまー」
 
 初本が項垂れ、泣きじゃくる椎名が毒島の肩で顔を伏せていたところに、二人が戻ってきた。
 内藤はトイレへ、伊藤は飲み物を買いに行っていたのだ。
 
 ドアを開けた瞬間は朗らかだった二人も、すぐに控え室内の空気を察した。
 
('、`;川「え、え? なに、どうしたの?」
 
(;^ω^)「お? しぃは、なんで泣いてるんだお?」
 
(´・ω・`)「内藤、すまない。聞いてほしい」
 
(´・ω・`)「どうやら、ほぼ間違いなく君に出番が回りそうなんだ」
 
(;^ω^)「お!?」

670第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:49:22 ID:YtsJxGfY0
 椎名の嗚咽がずっと聞こえ続けている室内。
 初本も、本当は、今すぐ顔を伏せてしまいたかった。
 
 それでも、最後まで、部長としての責任を果たさなければならない。
 その思いは強く、何とか初本の両脚を支えていた。
 
(´・ω・`)「笑野に不運があって、今、大差の最下位に沈んでる」
 
(´・ω・`)「笑野は諦めずに頑張ってくれると思うけど、それでも副将戦で全てを終わらせるのは厳しい状況だ」
 
(´・ω・`)「現実的に考えると、ほぼ確実に大将として打ってもらうことになる」
 
 その現実から、初本は、逃避してしまいたいとさえ思った。
 しかし、目を背けたとしても、現実は現実として鎮座している。
 
(;^ω^)「で、でも僕はまだ、ほとんどルールも分からなくて」
 
(´・ω・`)「そうだ。だから、ただ打ってくれるだけでいい」
 
(´・ω・`)「もちろん負けても君のせいじゃない。気楽に打ってくれればいい」
 
(´・ω・`)「できれば、君にはこれから、麻雀を好きになってもらいたいからね」
 
 内藤の肩を、初本が軽く二度叩いた。
 そして、今の心理状況で出せる、精一杯の笑顔を見せた。
 
(;^ω^)「分かり、ましたお」
 
 内藤は、言葉に詰まりながら答えた。
 その言葉に初本は、再び笑顔を返す。
 
 内藤が麻雀部に入部してくれるかどうか、初本には分からない。
 しかし、もし麻雀を面白いと感じてくれたならば、可能性はあるだろう、と思っていた。
 
 『神の耳』とでも言うべき、牌の音を聞く力が内藤にはある。
 もし内藤が入部してくれれば、来年の大会で、必ず芽院高校の武器になる。
 初本は、そう確信していた。
 
(´・ω・`)(みんな、本当にありがとう)
 
(´・ω・`)(僕は、いい仲間に恵まれた。それだけでもう、充分だ)

671第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:53:10 ID:YtsJxGfY0
 椎名は大粒の涙を流し、毒島は悔しげに自責し、伊藤も涙ぐんでいる。
 麻雀部とは本来、関係がない内藤も、大将戦を戦ってくれる。
 
 この仲間たちと共に最後の夏を過ごせた、戦えた。
 それだけで、充分に満足できる。
 
 初本は、本心からそう思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 口の中の熱気を放出するように、水戸は息を吐いた。
 ちょうど、陶冶高校の田中がツモ和了りした直後だ。
 
从'ー'从「ざんね〜ん。もうちょっとで終わってたのに〜」
 
 気の抜けたような声で渡辺が言った。
 何が終わっていたか、といえば無論、この副将戦だ。
 
(´・_ゝ・`)「鈴木さんがツモ和了りしていれば、芽院は飛ばせてましたね」
 
(‘_L’)「ええ」
 
 田中に素早く和了られてしまったが、先ほどの東二局一本場、鈴木もテンパイしていたのだ。
 配牌とツモの良さは続いており、最後も四面張だった。
 しかし、カンチャン待ちの田中に先を越され、惜しくも副将戦を圧勝で終わらせることはできなかった。
 
从'ー'从「でもでもぉ〜、芽院の人はあと400点ですしぃ〜、次で終わっちゃうんじゃないですかぁ〜?」
 
(´・_ゝ・`)「水戸さんの出番、すぐに回ってきそうですよね」
 
(‘_L’)「いえ、そう楽観はできません」
 
 二人の甘い考えを、断ち切るように水戸は言った。
 奇妙な予感を拭いきれないまま。
 
(‘_L’)「何事においてもそうですが、好機というのはそうそう巡ってくるものではありません」
 
(‘_L’)「だからこそ、いつ好機が訪れてもいいように準備しておかなければなりませんし、確実に掴まなければなりません」
 
(‘_L’)「いま鈴木くんは、もしかしたら、最初で最後の好機を逃したかもしれないのです」

672第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:55:26 ID:YtsJxGfY0
 東二局、鈴木は強烈な幸運に恵まれた。
 親番で国士無双を和了。しかも、トップの芽院高校からの出和了りだった。
 
 降って湧いたような、千載一遇の機。
 一気に追い込み、息の根を止めなければならなかった。
 
 それが叶わなかったことを、水戸は口惜しく思っていた。
 そして、この逸機が笑野にとっては挽回の機になりかねない、とも感じていた。
 
 点差は十万点に近い。
 しかし、絶対に楽観してはならない、と水戸は考えていた。
 
(‘_L’)「芽院高校の笑野くんは、率直に言うと、この副将戦のメンバーの中では圧倒的な存在です」
 
(‘_L’)「引くときの潔さもありますが、攻め込むと決めたときの勇猛さは簡単に真似できるものではありません」
 
(‘_L’)「この点差であっても絶対に気を抜いてはいけない相手なのです」
 
 それを、果たして鈴木は分かってくれているだろうか。
 水戸の不安は、東三局、笑野が満貫の手をテンパイしたときから、次第に大きくなっていった。
 
 
 ◇
 
 
 誰かが打牌するたびに緊張感が走る。
 鈴木の手には汗が滲み始めていた。
 
/ ゚、。;/(立直をかけたのに六筒をツモ切りか)
 
/ ゚、。;/(降りる気ゼロで突っ張ってくるなぁ)
 
 県大会決勝、副将戦の北二局。
 鈴木に躙り寄ってくる、追い縋ってくる気配は、局を重ねるごとに強くなっていた。
 
/ ゚、。;/(立直してても全然和了れる気がしない)
 
/ ゚、。;/(リードしてるのはこっちなのに、まるでいいようにやられてる気分だ)
 
/ ゚、。;/(いや、実際、国士無双以降はいいようにやられちゃってる、か)

673第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:57:04 ID:YtsJxGfY0
 鈴木の待ちは三面張。
 手広く堅く当たり牌を待てている。それでも、和了りは遥か彼方のように感じていた。
 
 十一巡目、鈴木が山から引いた牌は八萬。
 待ち望んでいる牌ではなく、そのまま静かに河へと置く。
 
 その瞬間、鈴木の心はざわめいた。
 
(;^Д^)「ロン」
 
/ ゚、。;/「!」
 
(;^Д^)「混一色、役牌、ドラ1で8000」
 
 また、振り込んだ。
 鈴木は、掌の汗を全て拭うように、右手を強くズボンに擦りつける。
 
 これで何回目の放銃だ。
 何回、直撃を喰らった。
 鈴木は、自分に聞いたが、答えは返ってこなかった。
 
/ ゚、。;/(はっきり分かることは、一つ)
 
/ ゚、。;/(笑野は、やっぱり格が違う。この面子の中じゃ、明らかに上手だ)
 
/ ゚、。;/(それも、一枚どころじゃなく、二枚も三枚も)
 
 この副将戦、鈴木は今後の人生で二度とないほどの配牌に恵まれた。
 東二局、最初から国士無双の二向聴。
 しかも、たった三巡で十三面待ちのテンパイにまで至った。
 
 ツモ和了りでもいいが、可能ならば芽院高校から出和了りしたい。
 そう思っていたところに、笑野が一萬を切った。
 全てが思い描いたとおりに進み、この次鋒戦、確実に圧勝できると鈴木は楽観さえしていた。
 
 しかし、怒涛の逆襲を鈴木は喰らった。

674第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 17:58:45 ID:YtsJxGfY0
 一時は持ち点を400点まで減らしていた笑野が、幾度もの和了りを経て、今は49400点にまで回復している。
 直撃を受け続けた鈴木は、50900点だ。
 
 南場あたりまで、鈴木は多少の失点を気にしていなかった。
 まだ大差がある。再び大きな手を和了れば笑野を沈めることができる。
 そう考え、事態を深刻に捉えていなかったのだ。
 
/ ゚、。;/(慢心があったのも事実だけど、ここまでやられるとは思ってなかった)
 
/ ゚、。;/(二巡前に他家が切った牌でロンされたりとか、もうほんと僕から出和了りすることしか考えてない)
 
/ ゚、。;/(トップとの点差でポイント計算されるから、当然といえば当然のことなんだけど)
 
 それでも、ここまで一人を狙い撃ちしつづけることができるものなのか。
 鈴木はそう考え、戦慄していた。
 着席していなければ、恐らく足が竦んでいただろう、と思うほどに。
 
 国士無双で得た大差を、ここまでにほとんど奪い返された。
 笑野が、これほどの化け物とは思っていなかった。
 鈴木の両手は微かに震えている。
 
 しかし、鈴木は理解しがたい違和感も覚えていた。
 
/ ゚、。;/(この副将戦、笑野は、何故かやけに焦ってる)
 
/ ゚、。;/(まるで、ここで全部終わらせようとしてるみたいに)
 
 笑野は国士無双に放銃し、大きく点を奪われた。
 それを取り戻そうとすること自体は、何ら不思議なことではない。
 
 しかし、あまりにも無茶な攻めが多すぎる。
 まるで、逆転したうえで更に点差をつけ、大将戦へ回さないように戦っているかのようだ。
 鈴木は、そう感じていた。
 
/ ゚、。 /(となると、もしかして、水戸の仮説が当たってる?)
 
/ ゚、。 /(可能性、あるなぁ。じゃなきゃ程々のポイントで大将にバトンを渡してもいいはずだもんね)
 
/ ゚、。 /(なるべく大将戦に回さないように。そう考えてるんだとしたら、やっぱ、大将戦に不安があるってことだ)
 
/ ゚、。 /(これは、ウチの優勝の可能性が高くなってきたかも)
 
 場は北三局へと進む。
 鈴木が思考を巡らせている間も、笑野は焦燥に駆られていた。

675第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:00:04 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(くそっ、五萬での和了りなら一盃口とドラがもう一つ乗って跳満だったのに。安いほうで和了るしかなかった)
 
(;^Д^)(直撃を取れたのは良かったけど、もうあと二局しかねぇ)
 
 ここまで笑野は、徹底した鈴木への直撃狙いで点差を詰めてきた。
 派手な和了りこそないものの、着実に点を重ねることで、ようやく背中に触れそうなところまでは来た。
 
 しかし、残るは二局。
 速度を優先した打点の低い手では、逆転こそ可能であっても引き離すことは難しい。
 
(;^Д^)(ここまで来たらもう、鈴木もほとんど無理はしないだろうな)
 
(;^Д^)(直撃はかなり厳しくなってきたと考えるべきだ)
 
 既に笑野も鈴木も親番はない。
 仮に鈴木からロン和了りできないとすれば、笑野が鈴木から一局で奪える最大点数は8000点だった。
 しかし、それは役満という、決して簡単には作れない手を作り上げたときの話だ。
 
(;^Д^)(くっそぉ、あんとき一萬を切らなきゃこんなことには)
 
(;^Д^)(嫌な予感はしてたんだよなぁ。自分の勘を信じてりゃ良かった)
 
 国士無双への放銃を今更悔やんでも時間は戻らない。
 しかし、切り替えの早い笑野といえど、48000点もの失点には傷が残った。
 そう簡単に忘れられるはずもなかった。
 
 北三局、笑野の配牌はまずまずだった。
 しかし、役満が狙えるような手ではない。
 
(;^Д^)(上手くいっても倍満くらいか?)
 
(;^Д^)(倍満ツモなら16000点で鈴木からは4000点が取れる。逆転でトップにも立てるけど)
 
(;^Д^)(それじゃあポイントが足りねぇ。大将戦に回っちまう)
 
(;^Д^)(オーラスで和了れればいいけど、傷を広げないための速攻を決められたら終わりだ)
 
(;^Д^)(ウチの大将は内藤。水戸や杉浦、伊要らを相手にしちゃ絶対勝てない)
 
(;^Д^)(くそっ、どうする)
 
 考えがまとまりきらないまま、場は進行していく。
 笑野の手は緩やかに、しかし確実に高まっていった。

676第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:01:32 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(三色同順、混全帯幺九、ドラ1まで一向聴)
 
(;^Д^)(立直すれば跳満。一発、ツモ和了り、裏ドラの次第じゃ倍満までありえるか)
 
(;^Д^)(でも立直すれば逃げ場がない。どんな危険牌でも切るしかなくなっちまう)
 
(;^Д^)(放銃は絶対避けたい。けど、リスクを取って攻め込むべき場面でもある、か)
 
 東三局以降の副将戦はほとんど笑野が支配している。
 この状況で立直をかければ、他家は降りてくれるかもしれない、という期待も笑野にはあった。
 
 そして、次巡で三索を引いた。
 これで笑野はテンパイ。しかし、立直をかけるべきかどうか、十秒ほど迷った。
 
 やがて答えを出したとき、河に置かれた牌は、横に曲がっていた。
 
(;^Д^)「立直」
 
 リスクの高い賭けであることは笑野も分かっていた。
 それでも、あまりにも不確実な、次局という未来に賭けるよりはいい、と笑野は考えたのだ。
 
 安全策を取っても負けることはある。
 無謀な手に出ても勝てることもある。
 
 それが麻雀だった。
 あとは、事の成り行きに身を任せるしかない、と笑野は思っていた。
 
 その笑野の立直を見て、心が弾んだのは麦秋の名織だった。
 
('(゚∀゚∩(やっぱりこの局も強気に攻めてきたよ! この人スゴイよ!)
 
('(゚∀゚∩(でも、ここは僕が和了るよ!)
 
 名織の手は萬子染めの五面張。
 当たり牌は五萬、六萬、七萬、八萬、九萬で、名織は萬子を捨ててもいる。
 これならば出和了りも期待できると見て立直をかけずに待っていた。
 
 役は混一色、ドラ3で跳満が確定。
 四人の点数がほぼ五分になっているため、跳満を和了すれば名織は大きく抜け出せる状況だった。
 
 例え笑野が萬子染めに気づいていたとしても、立直している以上、当たり牌以外は捨てるしかない。
 名織は、先に和了られないことだけを祈っていた。
 
 そして三巡後、笑野の手が止まる。
 捨てるしかないと分かっているはずの牌を、中々捨てられずにいたのだ。
 
 数秒後、名織の目当ての牌がこぼれる。

677第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:04:17 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩(立直したのは失敗だったね!)
 
('(゚∀゚∩「ロンだよ!」
 
(;^Д^)「!!」
 
 笑野の落胆は、誰しもに伝わった。
 国士無双に振り込んだときよりも落ち込んでいるのではないか、とさえ名織は思った。
 
 麦秋の名織がトップに立ち、笑野は再び大きく沈んだ。
 残すは、一局。
 このままトップをキープしたい。そう考える名織にも疑問点があった。
 
 芽院高校の笑野が、トップに固執しすぎている、という点。
 
('(゚∀゚∩(どんな手だったか知らないけど、安全に行くならダマで仕掛けるべきだったよ! 染め手にも気づいてたみたいだし!)
 
('(゚∀゚∩(無敗記録を守りたくてトップに拘ってるのかなー?)
 
 芽院高校の事情を知る由もない名織は的外れな予測を立てる。
 それにしても、笑野の絶望の色は尋常ではない、と名織は感じていた。
 
(;^Д^)(リスクを取って、攻め込んだが)
 
(;^Д^)(最悪の結果だ。ここにきて、跳満に振り込むなんて)
 
 立直せずに仕掛けるべきだっただろうか。
 笑野は、そう振り返る。
 しかし、和了りを目指すならば、先ほどの七萬は切らなければならない牌だった。
 
 名織の染め手にも、笑野は、薄々気づいてはいた。
 七萬を切るときには、思わず手も止まった。
 それでも、立直している以上、避けようがない放銃だったのだ。
 
 オーラスを前にして、笑野は改めて得点を確認し、目指すべき未来を冷静に考え始めた。

678第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:05:23 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(鈴木から出和了りが期待できないとすれば、オーラスでは三倍満以上の手が必要)
 
(;^Д^)(でも、多分鈴木も名織もオーラスはスピードを上げてくる。この点差で充分だろうからな)
 
(;^Д^)(陶冶の田中もじっくり手を高めるタイプじゃない。三倍満を狙ったら速さで負ける)
 
(;^Д^)(それでも、親番がない以上、狙うしかない。三倍満以上の役を)
 
 北四局。
 副将戦、最後の一局。
 笑野は、祈るような気持ちで配牌を確認した。
 
(;^Д^)(対子が四つ、か)
 
 対子が四つあること以外は、牌種に統一感もなく、ドラもなかった。
 単純に和了りを目指すだけでは三倍満への到達が難しい配牌だ。
 
 ならば、目指すべき役は一つだった。
 
(;^Д^)(四暗刻。それしかないな)
 
 役満、32000点の手。
 ツモ和了りでもロン和了りでも確実に副将戦で決勝が終わる。
 芽院高校の優勝が、確定する役。
 
(;^Д^)(ポンもできないのに刻子を作っていくのはキツイけど、やるしかない)
 
(;^Д^)(じゃなきゃ、ウチは県大会敗退だ)
 
 芽院高校の命運を、この手牌が握っている。
 四暗刻を和了れるかどうかに掛かっている。
 
 進むべき道は、単純明快。
 他家に振り込まないよう留意しつつ四つの暗刻を作るのみだった。

679第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:08:52 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩(うーん。親番だけど、この局はちょっと和了るのが難しそうだよ!)
 
('(゚∀゚∩(ここはあんまり無理せず、運が良ければ連荘、くらいの感じで進めるよ!)
 
(゜3゜)(酷い配牌。形式聴牌に漕ぎつけられれば御の字かな)
 
(゜3゜)(大失点がなきゃ大将戦に望みが繋がる。あとは杉浦さんに丸投げしよっと)
 
/ ゚、。 /(このオーラス、僕の場合は和了ることよりも笑野に振り込まないことが最重要)
 
/ ゚、。 /(ちょっとでも怪しい気配があったらすぐベタ降りだ。放銃さえしなければ、あとは大将の水戸が何とかしてくれる)
 
 それぞれの思いを乗せた北四局が進む。
 脚が鈍い三人に比べれば、役満狙いでも笑野の手は着実に頂きへと向かっていた。
 
 四巡目に暗刻が一つ、十巡目に暗刻が二つ。
 笑野の胸は否が応にも高鳴る。
 
(;^Д^)(頼む、和了ってくれるな)
 
 他家の動向に目を光らせながら、笑野は打ち進めていた。
 先に和了られてしまえば全てが終わる。
 それより先に役満を完成させるしかなかった。
 
 そして、十五巡。
 一萬を引いて暗刻が三つ、揃った。
 
(;^Д^)(来た! 四暗刻テンパイ!)
 
(;^Д^)(四暗刻単騎じゃねーからツモ和了りしかねーけど、上等だ!)
 
(;^Д^)(残りの手番で引き当てる!)
 
 笑野の手牌、二つの対子は八筒と發だった。
 どちらもまだ、笑野の手牌の外には一枚も見えていない。
 四枚の当たり牌が期待できる状況だった。
 
 このまま順調に進んだとして、笑野の手番は残り三回。
 望みは薄い。それでも、絶たれているわけではない、と笑野は思った。
 
 十六巡目、笑野が引いた牌は三萬。
 当たり牌ではないため、笑野はすぐさまツモ切りしようとした。
 
 しかし、一瞬手が止まる。

680第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:10:55 ID:YtsJxGfY0
(;^Д^)(ん? 危険牌か?)
 
 理由の見つからないブレーキ。
 笑野は、何故自分が手を止めてしまったのか、答えを探そうとして他家の捨て牌を見回した。
 しかし、振り込みそうな気配もない。
 
 少しだけ首を傾げながら、笑野が三萬をツモ切りする。
 
 そして、十七巡目は再び三萬。
 笑野は、微かな心のざわめきを打ち捨てるように、すぐさま牌を河に置いた。
 
(;^Д^)(ツモは、あと一回だけ、か)
 
(;^Д^)(最後まで、望みを捨てずに待つしかないな)
 
 笑野は、不安を抱えながら自分の手番を待っていた。
 その途中、思わず身が固まる。
 
 陶冶高校の田中の捨て牌が、八筒だった。
 
(;^Д^)(くそっ!)
 
 手元のタッチパネルには『ロン』の文字が表示されている。
 しかし、ここでロン和了りすれば役は三暗刻と対々和のみ。
 たったの8000点にしかならない。
 
 それでも、笑野の心は揺らいだ。
 
(;^Д^)(もし最後に望みを託すなら、ここで少しでも点差を詰めといたほうがいいのか?)
 
(;^Д^)(麻雀は運次第で初心者が勝つこともあるゲーム。奇跡が起きれば、内藤が勝つことも)
 
 一瞬、笑野はそう考えた。
 しかしすぐさま、光のない思考を振り払う。
 
(;^Д^)(ダメだ! 大将戦の相手はそんな甘い奴らじゃない!)
 
(;^Д^)(椎名や毒島ならまだしも、ルールさえ怪しい内藤じゃ勝てるわけねぇ!)
 
(;^Д^)(ここで試合を終わらせるしかないんだ!)
682第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:13:38 ID:YtsJxGfY0
 笑野は、目を伏せて八筒を見送った。
 四暗刻のみを目標にして。
 
 例え流局でも、親の名織がテンパイしていれば一本場へと続く。
 しかし、途中から不穏な気配を感じた名織は笑野の現物を切っていた。
 これが最後になる。笑野は、そう確信していた。
 
 十八巡目。
 海底牌に、笑野が手を伸ばし、掴んだ。
 
 そして、ゆっくりと牌の角度を変えていく。
 
(;^Д^)(来い!)
 
 心の中で叫んだ。
 そして、牌の顔を確認した。
 
 
 三巡連続の、三萬だった。
 
 
雀卓「終局です」
 
 雀卓が終わりを告げる。
 それは、副将戦の終焉。しかし、笑野は、芽院高校そのものが終わったと言われているように感じていた。
 
 仮定を考えても詮無いこと。
 分かっていても、笑野は、悔しさが収まらなかった。
 
 最初に三萬を引いた時点で手を変えていれば、最後に四暗刻をツモ和了りできていたのだ。
 
 その選択肢に合理性はない。
 しかし、笑野の選択は、和了りに繋がらなかった。
 重く苦しい事実が、その背中に圧し掛かっていた。

683第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:16:31 ID:YtsJxGfY0
('(゚∀゚∩「ノーテンだよ!」
 
(゜3゜)「テンパイ」
 
/ ゚、。 /「テンパイ」
 
(;^Д^)「テンパイ」
 
 最後の気力を振り絞って、笑野は手牌を倒す。
 それを見て表情を変えたのは、名織と鈴木だった。
 
('(゚∀゚;∩(四暗刻テンパイしてるよ! この人、ほんとに恐ろしいよ!)
 
/ ゚、。;/(ここまで手を高めてたなんて、全然気づかなかった。やっぱり、笑野は凄い)
 
/ ゚、。;/(でも、これは明らかにおかしい。なんで、田中が八筒を捨てたときにロンしなかった?)
 
 陶冶高校の田中はすぐに席を立ち、部屋の出口へと向かっていった。
 笑野も腰を上げる。しかし、その足取りは重かった。
 
/ ゚、。;/(八筒でロンだと三暗刻と対々和。8000点にしかならないけど、それでも最下位は脱出できた)
 
/ ゚、。;/(でもロンせず四暗刻に拘った。これは、つまり、逆転トップを狙ったってこと)
 
/ ゚、。;/(そして、この副将戦で優勝を決めるつもりだったってこと)
 
 いや、決めざるを得なかったのか。
 鈴木は、そう考えた。
 
 ならば、鈴木に考えられる理由は一つだった。
 
/ ゚、。 /(間違いない。芽院高校は大将戦に不安を残してる)
 
/ ゚、。 /(じゃなきゃ、役満に拘って流局するような真似は絶対にしない。するはずないんだ)
 
/ ゚、。 /(勝てる。今年は、ウチがストレートで全国行きだ!)
 
 プレーオフに回ることの苦しさを鈴木は知っている。
 昨年も厳しい戦いを強いられ、結局、肯綮高校は全国大会出場を逃した。
 
 そして、鈴木以上に、プレーオフを避けたいと思っているのが大将の水戸だ。
 一年生のときからレギュラーだった水戸は、二年連続でプレーオフを戦っている。
 今年こそ県大会で優勝して真っ直ぐ全国へ向かいたい、という思いは強いのだ。

684第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:19:38 ID:YtsJxGfY0
/ ゚、。 /(国士無双で築いたリードをほとんど吐き出したのは申し訳なかったけど、悪くない形で繋げた)
 
/ ゚、。 /(あとは全部、大将にお任せだ)
 
 副将戦が終了。
 最終的な得点は、麦秋高校が59400点、肯綮高校が51900点、陶冶高校が51300点、芽院高校が37400点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が349ポイント、肯綮高校が311ポイント、麦秋高校が284ポイント、陶冶高校が270ポイントとなった。
 
 全ての学校に優勝の可能性を残して、県大会決勝は、大将戦へと舞台を移す。
 
 
 ◇
 
 
 名織が麦秋高校の控え室に戻ると、ちょうど大将の伊要が部屋を出ようとしているところだった。
 
(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だよう」
 
('(゚∀゚∩「お疲れだよ! ほんとに疲れたよ!」
 
 すぐさま名織はソファーに身を投げた。
 そして、まるで活魚のように体を弾ませる。
 
(=゚ω゚)ノ「正直、あの面子の中でトップを取ってくれるとは思わなかったよう」
 
('(゚∀゚∩「僕も思ってなかったよ! 運が良かったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「笑野が国士無双に振り込んでくれたのが大きかったよう」
 
('(゚∀゚∩「でもそのあとの巻き返しは凄かったし怖かったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「確かに、最後も役満まであと一歩だったよう」
 
('(゚∀゚∩「四暗刻を和了られてたら大将戦がなくなるとこだったよ! 危なかったよ!」
 
(=゚ω゚)ノ「本当だよう。出番があって良かったよう」
 
 昨日の試合では大将の伊要が打たないままに終わった。
 決勝でも同じ目に遭えば悔いが残る。そう伊要は思っていたが、まずは大将戦が行われることに一安心していた。

685第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:21:13 ID:YtsJxGfY0
( ・3・)「ここまで来たら全国に行きたいNE。期待してるYO」
 
(’e’)「悔いのないよう頑張ってくるんじゃぞ、伊要」
 
,(・)(・),「応援してます!」
 
('(゚∀゚∩「きっと全国行けるよ! 大丈夫だよ! ファイト!」
 
(=゚ω゚)ノ「みんな、ありがとうだよう」
 
 皆が、大将戦に繋いでくれた。
 信じて、最後の戦いに託してくれた。
 
 それが、伊要は嬉しかった。
 
(=゚ω゚)ノ「行ってくるよう」
 
 部員たちの期待を背に、麦秋高校の大将、伊要が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 控え室に戻ってきた田中の肩を、杉浦は二度ほど叩いた。
 
( ФωФ)「奮戦してくれたであるな、田中」
 
(゜3゜)「んー。ま、あんなもんですかね」
 
 田中は、相変わらず恬淡としていて、勝敗への拘りがない。
 だからこそ、どんな相手にも平常心で打てるのだろう、と杉浦は思っていた。
 
( ФωФ)「笑野が怒涛の反撃に出ても、和了れるところでは着実に和了ってくれたであろう」
 
( ФωФ)「あれが最終的には大きかったである。オーラスの八筒切りには肝を冷やしたであるが」
 
(゜3゜)「あー、芽院の奴が見逃してくれたっていう、よく分かんない幸運」
 
( ФωФ)「どうやら逆転トップを狙っていたようであるな。おかげで助かったである」
 
(゜3゜)「ま、やれる限りやったんで、あとは頼みますよ」
 
( ФωФ)「うむ」
 
 燕龍茶を脇に抱え、杉浦が席を立った。
 大将戦が始まるまで、あと五分。

686第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:23:47 ID:YtsJxGfY0
 ここまで、陶冶高校は獲得ポイントで最下位に沈んでいる。
 しかし、二位までは41ポイント、首位までは79ポイントの差。
 全国大会への道は、充分見えている。杉浦は、そう考えていた。
 
( ФωФ)(全国への希望を持って最終戦を戦える。これほどありがたいことはないであるな)
 
( ФωФ)(皆に感謝せねば)
 
 昨年の陶冶高校は、決勝で中堅の杉浦が奮闘したものの、副将戦で大きく躓いた。
 結果、大将戦が始まったときには二位に大差をつけられており、全国への望みを絶たれていたのだ。
 
 杉浦は、昨年の大将を応援はしていたが、否が応にも熱は入らなかった。
 控え室の空気も重苦しかったことを杉浦はよく覚えている。
 
 しかし、今年は違う。
 最下位ではあっても、希望のある最下位だ。
 
 それだけでも、心持ちは全く違っていた。
 
<_プー゚)フ「頑張ってください、杉浦さん!」
 
(-@∀@)「応援してますよぉ〜」
 
/^o^\「みんなで頂上へ登りましょう!」
 
(゜3゜)「行ってらっしゃーい」
 
 希望と期待の込められた声が、杉浦の背中に降り注ぐ。
 杉浦は、親指を立てて上に向けた。
 
( ФωФ)「行ってくるである」
 
 他の部員の、誰よりも希望を抱きながら、陶冶高校大将の杉浦が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 急須から最後の一滴まで淹れ終えた緑茶を啜る。
 既に温くなっていたが、それでも、味わい深さは変わっていない、と水戸は思った。
 
/ ゚、。 /「ごめん、とんでもないラッキーがあったのにあんま活かせなかった」
 
(‘_L’)「いえいえ、充分ですよ」
 
 溜め息まじりにそう言う鈴木に、労いの言葉をかける水戸。
 その充分という言葉は、本心から出たものだった。

687第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:25:04 ID:YtsJxGfY0
(‘_L’)「国士無双で笑野くんを直撃したのは偶然、とはいえ最下位に沈めたのは確かなことです」
 
(‘_L’)「全国大会でさえ個人としては無敗だった相手ですから、誇っていい結果だと思いますよ」
 
/ ゚、。 /「実力で撃ち落としたならともかく、もう一生ないほどのラッキーがあってのことだからね。素直に喜べない」
 
(‘_L’)「それが麻雀です。実力だけではどうにもならないことはあるのです」
 
 国士無双を和了したあと、鈴木は笑野に滅多打ちにされた。
 もし役満で築いたリードがなかったら、と思うと、水戸もぞっとするほどの猛攻だった。
 
 本来ならば大将として戦っていておかしくない打ち手。
 それが副将戦に出ていた。最初は、大差も覚悟しなければならない、と水戸は思っていた。
 しかし、結果的に笑野は逆転を果たせなかった。
 
 笑野の点数を残り僅かのところまで追い込んだときに、とどめを刺せなかったことで、大きく差を詰められた。
 あのとき、鈴木にはいくらか油断もあっただろうと、水戸は分かってはいた。
 そのことを不満として挙げることも、できなくはない。
 
 しかし、決勝戦を大将として戦える。
 それを思えば、副将戦での鈴木の働きには、水戸が文句をつけられるはずもなかった。
 
(‘_L’)「皆さん。この決勝戦、奮戦していただきありがとうございました」
 
(‘_L’)「最後、私が負ければ全て水泡に帰すことは分かっています。全ての責任は負います」
 
(‘_L’)「皆さんが獲得してくれたポイントを決して無駄にはしません。必ず、期待に沿う働きをしてみせます」
 
(‘_L’)「どうか、見守っていてください」
 
 全員の、期待に満ちた眼差しが、水戸に注がれる。
 水戸は湯呑に残っていた緑茶を飲み干して、控え室の扉へと向かった。
 
 肯綮高校の部員たちが、立ち上がってその背中を見送る。

688第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:27:22 ID:YtsJxGfY0
从'ー'从「応援してますねぇ〜、ファイトぉ〜♪」
 
(´・_ゝ・`)「信じて待ってます!」
 
( ∵)「必ずや、ともに勝利の盃を傾けようぞ」
 
/ ゚、。 /「頑張って。みんなで、全国に行こう」
 
 水戸は、振り返って一度、頷いた。
 左脇に水筒を挟んでから、ドアノブに右手を掛ける。
 
(‘_L’)「行ってきます」
 
 決して重荷にはならない責任感を背負いながら、肯綮高校の大将、水戸が歩み出す。
 
 
 ◇
 
 
 控え室に戻ってきた笑野は、まず何かを言おうと口を開いた。
 しかし、そこから言葉が出てこず、力なく椅子に腰を下ろす。
 
 数秒後、項垂れるように初本に頭を下げた。
 
(; Д )「初本さん、本当にすみませんでした」
 
(; Д )「全部、俺のせいっす。初本さんの最後の大会なのに、こんな」
 
(´・ω・`)「謝らないでほしい。最後まで諦めずに、本当によく戦ってくれた」
 
 俯いた笑野の顔を覗き込むように、しゃがんで初本は声をかけた
 笑野の顔は、ゆっくりと上がっていく。

689第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:30:32 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「あの国士無双は避けようがなかったし、そこからの追い上げは凄まじかった」
 
(´・ω・`)「三倍満以上の手が必要な状況で四暗刻テンパイまで持って行けたのも、笑野だからこそだ」
 
(´・ω・`)「僕が同じ立場だったら400点になったあと飛ばされて終わってる。飛ばされなかったとしてもあそこまで戻せない」
 
(;^Д^)「でも、結局」
 
(´・ω・`)「最強の打ち手が最善を尽くしても勝てないことがある。それが麻雀だよ」
 
(´・ω・`)「去年も今年も笑野には散々助けられてきた。だから、どうか謝らないでほしい」
 
(´・ω・`)「君なしじゃここまで来れなかった。本当に感謝している」
 
(´・ω・`)「ありがとう」
 
 笑野は、何かを言いかけて押し黙った。
 そして自責するように、拳を額に押し付けた。
 
(´・ω・`)「内藤」
 
(;^ω^)「は、はいですお」
 
 大将戦が始まるまで、あと五分。
 コーラのペットボトルを渡して、初本は内藤と向き合った。
 
(´・ω・`)「まず、君に負担を強いてしまうことを謝らせてほしい。本当に申し訳ない」
 
(;^ω^)「いや、そんな」
 
(´・ω・`)「なんとか出番が回らないようにと思っていたけど、回ることになってしまった」
 
 初本が頭を下げる。
 内藤が慌てて、頭を上げてほしいと言おうとするも、初本はすぐに言葉を繋いだ。
 
(´・ω・`)「さっきも言ったけど、大将戦で何が起きても君のせいじゃない」
 
(´・ω・`)「だから、気楽に打ってきてほしい。麻雀を、楽しんできてほしい」
 
(´・ω・`)「ただ、ひとつだけお願いがある」
 
(;^ω^)「?」
 
 出番が終わった初本は、もう、自分の手で優勝を掴むことはできない。
 それでも、打てる手は全て打っておくべきだと考えていた。
 そうでなければ、必ず悔いが残る、と。

690第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:33:25 ID:YtsJxGfY0
(´・ω・`)「昨日も言ったけど、君が本物のホライゾンじゃないこと、バレないようにしていてほしいんだ」
 
(´・ω・`)「自分から『僕はホライゾンだ』って言う必要はないけど、聞かれても明確には否定しないでほしい」
 
 その意図は、既に初本の口から説明済みだった。
 他校の選手が内藤をホライゾンだと思い込んでくれれば、いつものようには打てなくなるかもしれない。
 そうすれば、僅かながら奇跡の確率が上がるかもしれない。
 
 そんな、あまりに儚く淡い希望を、初本は抱いていた。
 
(;^ω^)「もし聞かれたらどうするのがいいですお?」
 
(´・ω・`)「無視するのが一番かな。質問に応じる義務はないから」
 
(;^ω^)「なんか、それも相手に悪い気がしますお」
 
(´・ω・`)「対局に集中しているふりをしてくれればいいと思う。相手も気を遣ってくれるだろうし」
 
( ^ω^)「なるほどですお、それなら」
 
(´・ω・`)「あとは、堂々と振る舞うことかな。不遜な態度を取る必要はないけど、何が起きても動じずにいてほしい」
 
(;^ω^)「上手くできるかどうか分からないけど、やれるだけやってみますお」
 
(´・ω・`)「こっちの事情に付き合わせてしまって申し訳ない限りだ。他のことは気にせず、自由にやってきてほしい」
 
 決して口にすることはないが、初本は、今年の大会はもう終わったものだと考えていた。
 他校のエースたちを相手に、素人同然の内藤が対抗できるはずはないのだ。
 
 しかしそれは、あくまでも、『今は』だった。
 
 この大将戦が、来年に繋がればいい。
 内藤に秘められた力は、全国のどんな猛者たちも薙ぎ払えるほどのものだ。
 そのための踏み台になるのであれば、この試合も決して無駄にはならない。
 
 初本は、そう考えていた。
 
(;^ω^)「まともに打てるかどうか、不安だけど」
 
( ^ω^)「僕なりに、精一杯やってみますお」
 
 内藤が立ち上がり、そう言った。
 変に気負いすぎていることはないようだ、と初本は思った。
 それでいい。それだけでいい、とも。

691第8話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/16(土) 18:36:02 ID:YtsJxGfY0
('、`;川「なんか厳しい戦いみたいだけど、全力で応援してる!」
 
(*゚ -゚)「私も、最後まで信じる!」
 
('A`;)「すまん、内藤。でも、頑張ってくれ!」
 
(;^Д^)「迷惑かけて本当に悪い。俺たちのことは気にせず打ってきてくれ!」
 
(´・ω・`)「どうか、麻雀を楽しんできてほしい。僕から言えるのは、それくらいだ」
 
 祈りと不安が、複雑に入り混じる声が、内藤に掛けられた。
 内藤は全員に対し、一度ずつ頷く。
 そして、せめて少しだけでも、皆の不安を和らげられればと思い、笑顔で明快な声を出した。
 
( ^ω^)「行ってきますお!」
 
 その笑顔とは裏腹な、大いなる不安を抱えたまま、芽院高校大将の内藤が歩み出す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第8話 終わり
 
     〜to be continued

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