582登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:43:36 ID:xdkgJMfU0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

583登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:44:36 ID:xdkgJMfU0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生
585大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:45:57 ID:xdkgJMfU0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

586大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:47:03 ID:xdkgJMfU0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

587大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 19:49:20 ID:xdkgJMfU0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点
593第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:22:21 ID:xdkgJMfU0
【第7話:跳ね回る海底】
 
 
 前半戦が終わると同時に、毒島はすぐさま対局場から飛び出した。
 
('A`;)(や、やっと解放された)
 
 行く場所もなく、毒島は階段の踊り場まで走ってしゃがみこむ。
 窓から射し込む日差しは上階を照らしていた。
 
('A`;)(でも、また五分後に戻らないといけないなんて、辛すぎる)
 
('A`;)(なんで、こんなことに)
 
 毒島にも、想像はついていた。
 恐らく初本は、渡辺との対局を回避させるために、オーダーを変更したのだ、と。
 毒島の女性恐怖症を知っている初本が、わざと渡辺にぶつけるはずはなかった。
 
('A`;)(多分、向こうもオーダーを変更してきたんだ。だから、俺とあの子が当たってしまった)
 
('A`;)(それは分かるけど、こんな不幸が起きるなんて、ツイてなさすぎだろ!)
 
('A`;)(元々は俺が悪いんだけど、こんな事態がよりによって決勝で起きるなんて!)
 
 東場、南場が既に終わった。
 毒島が一度も和了れないまま。
 
 自分の手牌も、他家の捨て牌も、毒島はほとんど見えていなかった。
 振り込みは二度に留まったが、高い点の奪い合いに取り残されたことは事実だ。
 何よりも、前半戦終了時の点数が、それを物語っていた。
 
('A`;)(確か、俺の点数は26900点)
 
('A`;)(トップは63200点だっけ。倍以上の差がついちゃってる)
 
('A`;)(何とかして取り返さないと、みんなに迷惑がかかる! 何とかしないと!)
 
('A`;)(とりあえず、一度でもいいから和了ってリズムを取り戻すんだ!)
 
 階段を駆け下り、大きな音を立てながら廊下を走って毒島は対局場に戻った。
 他の三人は席に着いたままだ。

594第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:23:25 ID:xdkgJMfU0
 毒島は、意識して渡辺のほうを見ないようにしながら自席に腰掛けた。
 西場の開始を告げる合図が鳴る。
 
('A`;)(とにかく、和了るぞ!)
 
 動揺を残したまま、毒島が配牌を確認する。
 面子はあまりない。それくらいしか、今の毒島には判断できなかった。
 
 西一局は毒島が親番。
 点を取り返すためには、ここで少しでも長く連荘する必要がある。
 毒島は、その思いとは相反するように進まない手に焦りを感じていた。
 
 そして、他家から先に声が上がる。
 
从'ー'从「立直だよ〜」
 
('A`;)(やばっ!)
 
 是が非でも連荘したい場で、先制立直をかけられた。
 毒島の手には汗が浮いている。
 
('A`;)(俺はまだ一向聴、追い抜いての和了りは難しいか?)
 
('A`;)(でも、ここは絶対に和了りたい。でも、振り込むわけにもいかないし)
 
 意思が定まらないまま手番を迎え、毒島は七萬を切った。
 和了りに向かうためとも言えない、放銃を避けるためとも言えない、半端な一手だった。
 
 幸いにも、その手で毒島が渡辺に振り込むことはなかった。
 しかしすぐさま、渡辺の手牌は公となる。
 
从'ー'从「一発だ〜」
 
('A`;)「!」
 
从'ー'从「え〜っと、満貫だよ〜」
 
 立直、一発、平和、門前清自摸和。
 親の毒島は4000点を失うこととなった。

595第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:24:48 ID:xdkgJMfU0
('A`;)(連荘できなかった上にツモ和了りされた)
 
('A`;)(ヤバイ、どんどん点差が開いてく。早く取り返さないと!)
 
 焦燥は視界を曇らせる。
 そのことにも、今の毒島は気づけないでいた。
 
 
 ◇
 
 
 祈りと諦めと悔しさが入り混じった、不思議な気持ちで初本はモニターを観ていた。
 
(´・ω・`)「これで、トップとは五万点近い差か」
 
 ぽつりと呟く。
 隣に座る笑野は力なく頷いた。
 
(;^Д^)「厳しい戦いになるかもとは思いましたけど、想像以上っすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。全体的に打点が高いことも相俟って、完全に一人沈みだ」
 
 西二局の親番は陶冶高校の富士。
 静かに場は進み、陶冶高校と麦秋高校のみテンパイで流局となった。
 
('、`*川「あいつの女性恐怖症、少しはマシになったんだと思ってました」
 
 眠りから目を覚ました伊藤が、起き抜けの声を出した。
 麻雀が分からない伊藤でも分かるほど、毒島とトップの点差は開いている。
 
('、`*川「変わってなかったんですね」
 
(´・ω・`)「やっぱり、初対面の相手はダメみたいだ。全く対局に集中できてない」
 
(;^Д^)「重症すぎるな」
 
(;゚ -゚)「ドっくん」
 
 先鋒戦を終えて控え室に戻ってきた椎名が不安げな声を漏らす。
 椎名は、誰よりもモニターに近い位置に座って戦況を見守っていた。

596第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:26:00 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「毒島は、麻雀の勉強よりも女性恐怖症の克服が最優先だね」
 
(;^Д^)「今後も女の子と当たる可能性はあるっすもんね」
 
(;^ω^)「でも、毒島の女性恐怖症って簡単には治らないと思いますお。女の子と遊んだこともないのに」
 
(;゚ー゚)「や、女の子と遊んだことはあるよ。っていうか、私だけど」
 
( ^ω^)「お!?」
 
(´・ω・`)「え、そうなの?」
 
('、`*川「二人で? 知らなかったんだけど」
 
(;゚ー゚)「あれ? 言ったことなかったっけ?」
 
(*゚ー゚)「遊んだっていうか、ドっくんの家で麻雀教えてもらって、帰りにちょっと買い物行ったくらいかな」
 
(;^Д^)「部屋で二人とか、そこまで経験してたら治っても良さそうだけどな」
 
(´・ω・`)「椎名と他の子じゃ違うのかもね。椎名は接しやすいしさ」
 
(;゚ー゚)「どうなんでしょう。でも、こんなことなら遠慮せずもっと遊びに誘っておけば良かったかなぁって、だいぶ後悔です」
 
(´・ω・`)「それは椎名のせいじゃないし、いま悔やんでもしょうがないよ」
 
(´・ω・`)「今の僕たちはただ、毒島を信じて応援することしかできないんだ」
 
 自戒を込めて、初本はそう言った。
 忸怩たる思いを最も抱えた者として。
 
 西二局、毒島は辛うじてテンパイに至り、1500点を得た。
 親の陶冶高校が一向聴止まりだったため、次鋒戦は西三局へ。
 
 ここは配牌の良かった陶冶高校の富士が手早く役を作り、七巡目でツモ和了り。
 立直、門前清自摸和、断幺九で4000点を取り返した。

597第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:27:02 ID:xdkgJMfU0
(;^Д^)「どうでもいいけど、あの富士ってやつめっちゃデカイな」
 
('、`*川「巨人ですね。2メートルくらいありそう」
 
(´・ω・`)「実際、2メートルあるらしいよ。本人がツイッターで呟いてたからね」
 
( ^Д^)「そんなのチェックしてるんすか?」
 
(´・ω・`)「大して役に立つことはないと分かってるけど、念のためにね」
 
(*゚ー゚)「さすが初本さん! 情報収集に余念がないですね!」
 
(´・ω・`)「いやいや、そんな大したもんじゃないよ。ツイッターもたまたま見つけただけだし」
 
( ^Д^)「でも、本人が打ち筋とか呟いてたら、参考にはなるっすよね」
 
(´・ω・`)「残念ながら富士は麻雀に関するツイートがほとんどなかったけど、陶冶高校の中堅の旭は結構情報を出してくれてたよ」
 
(´・ω・`)「もしかしたら、中堅戦は優位に立てるかもしれない」
 
 次鋒の毒島は苦戦しており、逆転は相当に困難な状況だった。
 中堅戦は圧勝したい、という思いを初本は強めている。
 
(´・ω・`)(いや、圧勝しなきゃいけないんだ)
 
 思いは、決意へと変わった。
 それこそが、部を率いる者としての責務だと考えて。
 
 西四局、親番はトップを直走る肯綮高校の渡辺。
 配牌はそれほど良くなかったものの、二度の鳴きを使って断幺九のみで和了った。
 500オールで渡辺は1500点を加点し、西四局は一本場へ。
 
(;゚ー゚)「女の子少ないから、頑張ってるのを見ると嬉しい気持ちもあるんですけど」
 
 複雑な気持ちを抱えたまま、椎名はそう言った。
 もし第三者として観戦していたら、純粋に渡辺を応援していただろう、と考えながら。

598第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:28:41 ID:xdkgJMfU0
( ^Д^)「でもほんと、あの子頑張ってるっすね。そんなに上手いとも思えないんすけど」
 
(´・ω・`)「配牌に恵まれている感はあるね。でも、七万点は出来過ぎかな」
 
( ^Д^)「最初に跳満を和了って、波に乗ったのもあるかもっすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。毒島は、余計に厳しくなったのかもしれない」
 
(*゚ー゚)「大丈夫です! ドっくんならきっと巻き返してくれます!」
 
(*゚ー゚)「ほんとは次鋒戦のメンバーの中で一番強いんです! 私はそう信じてます!」
 
(´・ω・`)「全くもって、椎名の言うとおりだ」
 
 そう信じて応援するしかない。
 初本は、中堅戦のことを視野に入れつつ、次鋒戦の希望も捨てないまま戦況を見守っていた。
 
 
 ◇
 
 
 次鋒戦、西四局一本場は陶冶高校が七対子を肯綮高校から出和了り。
 西場が終わり、残すは北場のみとなった。
 
 ここまで、芽院高校が単独で沈んでおり、点数は僅か19900点。
 トップの肯綮高校が65900点、二位の麦秋高校が60000点、次いで陶冶高校が54200点となっている。
 
('A`;)(北一局。ここが最後の親番だ)
 
 毒島が雀卓中央のディスプレイに視線を向ける。
 二万点を切る点数を見て、まるで現実から逃避するように目を伏せた。
 
('A`;)(ここまで俺は一回も和了ってない。この親番は簡単に失っちゃいけない)
 
('A`;)(ここで点を取り返すぞ!)
 
 心に置いた言葉だけは、ずっと力強いままだった。
 そして、その言葉は毒島の気持ちを鼓舞することもないまま、ずっと留め置かれているだけだ。
 
 北一局、毒島の配牌は悪くなかった。
 刻子が一つと、両面で待てる塔子が既に三つ完成している。
 他は整っていないものの、迷わず和了りを目指せる手牌だった。
 
('A`;)(いつもみたいにヤミで構えてるわけにはいかない。鳴いてでも進めていかないと)
 
 そう考えた直後の二巡目。
 渡辺の捨て牌に、毒島が固まる。

599第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:30:05 ID:xdkgJMfU0
('A`;)(うっ)
 
 一萬。二萬と三萬を持っている毒島の手元のタッチパネルに、チーのボタンが表示された。
 しかし、毒島の意識は、チーよりも渡辺に向いている。
 
 一萬をチーすれば断幺九では和了れなくなる。
 しかし、既に作られている刻子は九筒によるものであり、塔子も一九牌に近い。
 一萬をチーしても混全帯幺九が狙える状態だった。
 
('A`;)(ど、どうする。混全帯幺九狙いで鳴くか?)
 
('A`;)(で、でも、まだ二巡目だし、早まりすぎか?)
 
 大会では、試合時間短縮のため、上家が打牌したあと十秒以内にツモか副露を実施する必要がある。
 もし十秒を超えてしまうと、他校に1000点ずつ支払うというペナルティが科せられるのだ。
 
 毒島の手元のタッチパネルに表示された時間は、あと四秒。
 その数字が、毒島を消極的な方向へと導く。
 
('A`;)(喰い下がりもあることだし、ここはやっぱ、様子見だ!)
 
 毒島は、そう自分を納得させた。
 本当は、渡辺からチーすることに抵抗があるだけだという事実を、握り潰すようにして。
 
 その姿勢が災いしたのは、十二巡目のことだった。
 
( ・3・)「ツモだYO」
 
('A`;)「!」
 
( ・3・)「役牌、三色同順、ドラ2で2000・4000だYO」
 
 毒島の最後の親番は、麦秋高校の簿留によって蹴られた。
 これでもう、和了りによる連荘で点を取り返すことは、できなくなった。
 
 結果として、十二巡目までに幺九牌が絡んだ三面子一雀頭ができていた。
 しかし、一萬と四萬が一向に捨てられず、自分で引くこともできなかった毒島は、和了りを逃した。
 
('A`;)(二巡目で一萬をチーしてれば、先に混全帯幺九で和了れた可能性が高い)
 
('A`;)(あのとき鳴いてれば、逆転の望みも繋げられたかもしれないのに、くそっ)
 
 そんなことは、結果論に過ぎない。
 毒島は、そう分かってはいた。
 ただ、結果的に副露を避けたことで和了りが遠のいたのも事実なのだ。

600第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:31:06 ID:xdkgJMfU0
 残すは三局。
 親と毒島のみでテンパイして流局しつづければ点棒を大きく取り戻せるが、現実的ではなかった。
 実質的には、挽回のチャンスは三回程度しか毒島には残されていない。
 
 毒島は改めて点数を確認した。
 15900点。トップの麦秋高校が68000点。
 思わず目を覆いたくなるほどの点差だ、と毒島は思った。
 
 しかしそのとき、不意に、気づいた。
 
('A`;)(あれ? ちょっと待てよ?)
 
 もう一度、各校の点数を毒島が見た。
 
 現在、毒島は最下位で、トップとの点差は52100点。
 仮にこのまま次鋒戦が終わったとすれば、芽院高校の獲得ポイントは僅か13ポイントだ。
 
 対局場の出入り口近くにあるホワイトボードに記載された、先鋒戦の結果を毒島は確認した。
 芽院高校は現在、100ポイント。二位につける肯綮高校は98ポイント。
 今の点数のまま次鋒戦が終了したとすれば、芽院高校は113ポイント、肯綮高校は191ポイントで、その差は78ポイントとなる。
 
('A`;)(うちは副将戦が終わった時点で二位に100ポイント差をつけてないといけない)
 
('A`;)(ってことは、中堅戦と副将戦で、89ポイントずつ引き離さないといけないってことか?)
 
(゚A゚;)(やべぇ! それってほとんど不可能だろ!!)
 
 芽院高校が100ポイントを取ったうえで、肯綮高校を11ポイントに抑える。
 仮に肯綮高校が二位ならばポイントの減算もないため、大きく引き離して勝つ必要があった。
 
 肯綮高校のみを狙い撃ちすれば他校がポイントを稼ぐ。
 そうなれば陶冶高校、麦秋高校に対して100ポイント以上の差をつけられない可能性があった。
 しかし、親番のツモ和了りで万遍なく点を奪いつづけることも困難だ。
 
 毒島は、ようやく気付いた。
 このまま不甲斐ない結果で次鋒戦を終えれば、ほぼ確実に大将戦まで回ってしまう。
 まだルールも覚束ない内藤が打つことになってしまうのだ。

601第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:32:31 ID:xdkgJMfU0
(゚A゚;)(あいつには耳の力があるけど、まだほとんど役に立たないよな)
 
(゚A゚;)(内藤が打つことになったら絶対負ける。全国に行けなくなる)
 
(゚A゚;)(俺のせいで、初本さんの最後の大会が、ここで終わっちまう!)
 
 初本の引退が、毒島の戦いによって、現実味を帯びてきた。
 その事実に直面し、毒島の手は小刻みに震える。
 
 毒島が麻雀部の門を叩いたとき、同じく一年生の椎名が既に入部していた。
 女子部員がいることを知って、毒島は、入部の決心が鈍りかけた。
 
 それを全力で引き止めたのが、初本だった。
 
 初本が毒島を離したくないと思った最大の理由は、無論、部員が足りていなかったためだ。
 それは、初本も包み隠さず正直に話していた。
 ただ、初本は毒島の今後のことも考えていたのだ。
 
 
 ◆
 
 
(´・ω・`)「毒島、君にどんな過去があって女子を避けるようになったのか、僕は分からないし、あえて聞かない」
 
(´・ω・`)「過去はともかく、今の君が大きな問題を抱えていることは事実だ」
 
(´・ω・`)「その事実からは逃れられない。これから生きていくうえで、何度も壁に突き当たるだろう」
 
(´・ω・`)「だからここで、壁と向き合ってみてほしい。乗り越えようとしてみてほしい」
 
(´・ω・`)「それがきっと、今後の人生で役に立つ。たとえ乗り越えられなくても、正面から向き合った事実は糧になるはずだよ」
 
(´・ω・`)「椎名はいい子だ。言葉の裏の意味を探る必要がない。少しずつでもいいから会話してみてほしい」
 
(´・ω・`)「大丈夫。ここで過ごす時間のなかで、きっといつか、壁を乗り越えられる日が来るよ」
 
(´・ω・`)「僕は、そう信じてる」
 
 
 ◆
 
 
 初本は、入部を躊躇う毒島にそう言った。
 当時の毒島の思いは、完全に晴れたわけではなかったが、入部を拒む気持ちはなくなったのだ。
 
 麻雀部の一員として過ごす日々のなかで、毒島は、椎名や伊藤と会話ができるようになった。
 打ち解けた、とまでは言えなかったが、言葉のキャッチボールができただけでも毒島にとっては大きな前進だったのだ。

602第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:33:40 ID:xdkgJMfU0
 前に進んだことで、毒島は、また壁に突き当たった。
 女子と雀卓を囲み、まともに麻雀を打たなければならないという壁だ。
 椎名のときは、一ヶ月ほどかかって乗り越えた壁だった。
 
 たった一日で、乗り越えられるはずがないと毒島は思った。
 それでは駄目だと分かっていながら、首が痛くなるほど高く聳え立つ壁を見ると、勝手に足は竦んでいたのだ。
 
 県大会の決勝という、大事な局面で向き合うべきではない壁だった。
 毒島はそう感じ、初本もそう考えたからこそ、オーダーの変更で何とか避けようとしていたのだ。
 
 だが、毒島は向き合うことになってしまった。
 
 逃げ場はない。壁しかない。
 ならば、やるべきことは決まっていた。
 
 壁に手をかけて登るか、壁を打ち壊すか、だ。
 
(゚A゚#)(やってやる)
 
(゚A゚#)(ここでやらなきゃ、全部終わってしまうんだ!)
 
(゚A゚#)(雀牌だけを見ろ! 麻雀だけに集中しろ!)
 
 北二局が始まる。
 毒島の双眸は、力強い光を放ち始めていた。
 
 
 ◇
 
 
 北二局の親番は、陶冶高校の富士。
 五万を超える点数を得ているが、三位という順位には不満げだった。
 
 肯綮高校としては、最大のライバルと目していた芽院高校が沈みきっている現状に、満足すべきだった。
 このまま終われば芽院高校はポイント上でも最下位に転落。
 プレーオフ進出さえ危うくなるほどの沈み方だった。
 
 とりあえず、次鋒戦に関しては楽観してもいいだろう。
 そう考えていた鈴木が水戸を見て、不意に気づいた。
 
 湯呑を持つ右手が、不自然な位置で止まっていることに。

603第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:35:20 ID:xdkgJMfU0
 机から持ち上げたところなのか、机に置こうとしているところなのか。
 鈴木には分からない、中途半端な状態だった。
 
/ ゚、。 /「どうしたの?」
 
 首を傾げて鈴木は水戸に声をかけた。
 水戸の視線はモニターへと向いており、逸れることがない。
 
/ ゚、。 /「なんか、変なことでもあった?」
 
 鈴木もモニターに近づく。
 北二局は九巡目まで進んでいた。
 
/ ゚、。 /「渡辺の手牌は微妙だね。和了りは厳しいかな?」
 
/ ゚、。 /「形式聴牌でもいいから、なんとか手を進めてほしいけど」
 
(‘_L’)「そんなことよりも」
 
 鈴木の言葉を遮るように、水戸は口を開いた。
 そして、右手の湯呑を置いてから、モニターを指さす。
 
 人差し指の先にあったのは、毒島の捨て牌だった。
 
(‘_L’)「気づきませんか?」
 
/ ゚、。 /「ん? なにが?」
 
(‘_L’)「毒島くんはさっき、ツモった三萬をそのまま捨てました」
 
 八巡目の捨て牌だった。
 確かに三萬が捨てられている。しかし、それがどうしたというのか。
 鈴木は分からず、再び首を傾げる。
 
/ ゚、。 /「毒島は五萬と六萬を持ってて、四萬はドラ表示牌と河に二枚、麦秋の簿留のチーで一枚、既にもう全部出ちゃってる」
 
/ ゚、。 /「四萬が引けないんじゃ三萬を使うことはまずない。だから切った、それだけでしょ?」
 
(‘_L’)「ええ、恐らくそのとおりでしょうね」
 
/ ゚、。 /「何も問題ないじゃん。何を気にしてるの?」
 
(‘_L’)「大問題です。これは、あまり良くない展開になるかもしれません」

604第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:36:44 ID:xdkgJMfU0
 水戸の右手の人差し指は再び捨て牌を指した。
 ただし、今度は毒島の河ではなく、渡辺の河だ。
 
(‘_L’)「分かりませんか? 四萬を二枚捨てたのは、渡辺さんなのです」
 
/ ゚、。 /「!」
 
(‘_L’)「つまり、今の毒島くんは、渡辺さんの捨て牌が見えているということです」
 
 鈴木もようやく気付いた。
 これまで毒島は、他家の河が視界に入っていないとしか思えない打ち方をしていた。
 しかし、突如としてこの北二局で、変わった。
 
(‘_L’)「そうでなければ、とりあえず三萬は残すでしょう。捨て牌を考慮しなければ、八筒のほうが価値は低い」
 
/ ゚、。 /「四萬を引けば良い形で待てるしね」
 
(‘_L’)「ええ。北一局までの毒島くんなら、そうしていたはずです。しかし、打ち方が変わりました」
 
(‘_L’)「今日の次鋒戦、一番上手く打っているのは麦秋の簿留くんです。渡辺さんは運に恵まれている感が強い」
 
(‘_L’)「しかし、毒島くんが本領を発揮すれば、簿留くんを上回っても不思議はありません」
 
/ ゚、。 /「その本領が、発揮されるかもしれないってことだね」
 
 水戸はモニターを見たまま頷いた。
 どうやら簡単には終わってくれなさそうだ、という思いを抱きながら。
 
 不穏な空気を漂わせたまま、北二局は進んでいく。
 
 
 ◇
 
 
 十五巡目にして、ようやく毒島はテンパイに至った。
 
(゚A゚#)「立直!」
 
 力強く宣言した。
 普段、出和了り狙いで立直をかけることの少ない毒島にとっては、珍しいことだ。
 尤も、点差を考えれば当然のことだった。
 
(゚A゚#)(立直をかけなきゃ単なる断幺九ドラ1で2000点、ツモ和了りでも4000点にしかならない)
 
(゚A゚#)(立直をかけた上で一発かツモ和了りなら満貫、裏ドラ次第じゃ跳満までありえるんだ)
 
(゚A゚#)(出和了りが期待できなくなったとしても、ここは打って出るべき場面だ!)

605第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:38:04 ID:xdkgJMfU0
 大差による焦りではなかった。
 毒島は、かつてないほど麻雀に集中している。
 卓上の雀牌だけを見ることができているのだ。
 
 残る手番は少ない。
 それでも毒島は信じていた。
 必ず、当たり牌を引くことができる、と。
 
(゚A゚#)(一発はないか)
 
 十六巡目、毒島が引いたのは一萬。
 確認してすぐさま河に流した。
 
 このまま場が進んだとすれば、毒島に残された手番はあと二回。
 確率的に厳しいことは、毒島も分かっていた。
 それでも、芯は揺るがなかった。
 
(゚A゚#)(俺が立直をかけたあと、すぐさま現物を切ってきたのは対面と上家)
 
(゚A゚#)(下家は降りてるのかどうか分からない捨て方だけど、真ん中付近は切ってこないな)
 
(゚A゚#)(やっぱりロン和了りは期待できない。あとの二巡で引き当ててやる!)
 
 毒島は二筒と七索のシャンポン待ちだった。
 どちらも河には一枚もない。
 山に眠っているのか、誰かが対子で持っているのか、毒島には分からなかった。
 
 山が少しずつ減っていく。
 十七巡目。毒島のツモ牌は、發。
 軽く息を吐いてから、毒島は河に捨てた。
 
 毒島に残されたのは、海底牌だけだった。
 
(゚A゚#)(絶対に諦めない!)
 
 例え最後の一牌しか可能性がなくとも、ゼロではない。
 ならば、和了りを信じるべきだ。毒島の思いは、固かった。
 
 今日の次鋒戦、毒島はここまで、訳も分からずに打ち進めてきた。
 視界はぼやけ、心は揺れる。麻雀を打っている感覚さえ毒島にはなかった。
 それが、北二局になってようやく、変わった。
 
 変えることが、できたのだ。
 
 残り三局、全て和了りを目指すしかない。
 そう、強く決意することができたのだ。
607第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:39:49 ID:xdkgJMfU0
 十八巡目。
 北二局、最後の一枚。
 
 毒島の右手が、牌を掴む。
 そして、一瞥の直後、牌を表返した。
 
(゚A゚#)「ツモ!」
 
 声高に宣言して、手牌を全て傾ける。
 
(゚A゚#)「立直、門前清自摸和、断幺九、海底摸月、ドラ2!」
 
(゚A゚#)「3000・6000!」
 
 海底から当たり牌を引き当てた。
 更に裏ドラが一枚乗ったことで、その手は跳満にまで膨らんだ。
 
 これで毒島は12000点を奪還。
 残り二局。まだ、挽回の機会は残されていた。
 
(゚A゚#)(海の底からでも這い上がってやる)
 
(゚A゚#)(みんなで、全国へ行くために!)
 
 毒島の両目は、雀牌だけを見据えたままだった。
 
 
 ◇
 
 
 北二局の跳満に、芽院高校の控え室は沸いた。
 ようやく毒島が息を吹き返したのだ。
 
( ^Д^)「よっしゃあー! よくやったぞ!」
 
(*゚ー゚)「凄い凄い! ドっくん凄い!」
 
('、`*川「一気に点増えたね、やるじゃん」
 
( ^ω^)「かなり盛り返した気がしますお!」
 
(´・ω・`)「ああ。でも、まだこれからさ」
 
 初本も喜びは隠しきれない。
 中堅戦と副将戦のハードルはかなり高い、と考えていたが、先ほどの一撃で大きく下がった。
 精神的に余裕が持てるだろう、という安心感もあった。
 
 ただ、これで終わりではない、と初本は感じていたのだ。
 毒島はまだ、決して満足していない、と。

608第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:41:19 ID:xdkgJMfU0
 打てる反撃は、最大でもあと二発。
 その二発が、今の毒島ならば期待できる。
 初本は、北三局が進むにつれ、その思いを強めていった。
 
( ^Д^)「いい感じっすね」
 
 七巡目、毒島が的確に不要牌を切ったのを見て笑野が呟く。
 北二局から、ようやく毒島は河が見え始めた。
 それを確信したためだ。
 
 九巡目、毒島がテンパイ。
 一気通貫、混一色、ドラ1がつく手牌だった。
 
( ^Д^)「立直しないのは出和了りに期待してるからっすかね?」
 
(´・ω・`)「それもあるだろうけど、やっぱ、ダマテンのほうが自分らしいと考えてるんじゃないかな」
 
( ^Д^)「それも、大事なことっすね」
 
 毒島の待ちは三筒か南。
 テンパイの気配を他家が感じていなければ、出和了りには充分期待できる。
 その認識は初本と笑野の間で共通していた。
 
 そして、芽院高校にとって、最も放銃を願っていた者が、南を捨てた。
 
(´・ω・`)「よし」
 
 すかさず毒島が手牌を倒す。
 振り込んだ渡辺は、しばらく固まって動かなかった。
 
(*゚ー゚)「凄い! 二局連続で跳満!」
 
( ^Д^)「しかも肯綮高校を直撃だ。これはポイント計算を考えるとかなりデカイ!」
 
(´・ω・`)「どうやら、オーラスも期待できそうだね」
 
 初本が席を立つ。
 次鋒戦は遂に最終局。中堅戦は間近まで迫っていた。

609第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:42:37 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「行ってくるよ」
 
 小さな声でそう言い残した。
 ずっと抱えている悔しさを、押し殺すようにして。
 
 
 ◇
 
 
 北二局あたりから、芽院高校の毒島が急に目つきを変えた。
 まるで、全ての牌を眼光で射抜くような鋭さだ、と簿留は思った。
 
( ・3・)(おっかないNE)
 
 何が切っ掛けで変わったのか、簿留には分からない。
 ただ、いずれにせよ、今の毒島は簿留にとって脅威だった。
 二局連続で跳満を和了ることは、決して容易なことではない。
 
( ・3・)(特に、北三局の和了り方は怖かったYO)
 
( ・3・)(正直、テンパイしてるとは思ってなくて、僕も危うく振り込むとこだったYO)
 
 毒島は三筒と南で待っていた。
 肯綮高校の渡辺が南を切ったことで簿留は放銃を避けられたが、簿留も不要牌として三筒を持っていたのだ。
 渡辺が振り込まなければ、12000点を失っていた可能性が高かった。
 
 二位の肯綮高校が直撃を受けたことで、麦秋高校の簿留は他を大きく引き離した首位となった。
 肯綮高校との点差は16100点。このまま終わらせることができれば、麦秋高校は全国へと望みを繋げる。
 簿留にとって、このオーラスは正念場だった。
 
( ・3・)「チーだYO」
 
 三巡目、簿留は八索が捨てられたところでチーを宣言。
 さほど恵まれていない配牌を一目見た瞬間に、喰い断狙いは決めていたのだ。
 
( ・3・)(とにかく和了ればトップをキープできるんだから、一巡でも早く和了ることを目指すYO)
 
 その後、五巡目に四萬をポン。
 簿留は一向聴に至った。
 
 六巡目に山から簿留の手に降りてきたのは、先ほどポンした四萬。
 数秒ほど迷ってから、簿留は四萬を右端に寄せた。
 
( ・3・)「カンだYO」
 
 簿留は加槓を選択し、嶺上牌を取得。
 そして八索を捨てたあと、最も幸運な形で槓ドラ表示牌が表になる。

610第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:44:15 ID:xdkgJMfU0
( ・3・)(運が向いてるNE)
 
 槓ドラ表示牌は三萬。
 つまり、槓子の四萬がドラになったのだ。
 
( ・3・)(これで和了れば満貫は確定。ポイント計算でもトップに立って中堅戦に繋げるNE)
 
( ・3・)(芽院高校も肯綮高校も陶冶高校も、ここから先のメンバーは強そうだし、ここでトップに立てたら大きいYO)
 
( ・3・)(麦秋高校史上初の全国行きを達成するためにも、絶対和了るYO!)
 
 二位以下にここまでの差をつけられるとは簿留も考えていなかった。
 肯綮高校の渡辺が跳満に振り込むなど、運に恵まれた面もあったが、それでも良かった。
 元より、運に左右される面もあるのが麻雀だ。幸運を素直に喜ぶべきだ、と簿留は思っていた。
 
 その後、簿留が八巡目に引いたのは七筒。
 六筒と組み合わせて塔子となるため、不要牌の三索に三本の指をかけて、持ち上げようとした。
 
 そのとき不意に、簿留は躊躇った。
 
(;・3・)(あるぇー?)
 
 簿留の右手の、三本の指が、不自然な位置で止まった。
 
 何故、打牌を逡巡してしまっているのか。
 簿留は、自分でも分からなかった。
 
 七筒を引いたことで、簿留は両面待ちのテンパイに至るところだった。
 八筒は一枚捨てられているものの、五筒は河に一枚もない。
 つまり、七枚の当たり牌を期待できる状態に達せるのだ。
 
 簿留は、毒島の捨て牌を改めて確認し、捨て方を思い出した。
 一巡目から手出しは多かった。しかし、序盤に手出しが多いのはよくあることだ。
 ここ三巡ほどの毒島はツモ切り。テンパイしているとは、簿留には思えなかった。
 
( ・3・)(確かに北三局もテンパイの気配は薄かったけど、今回は更に薄いYO)
 
( ・3・)(ここで三索を捨てないと和了りが遠のくし、巡目が積み重なるほど放銃の危険性も高まるYO)
 
( ・3・)(捨て牌から考えればそれほど危険な牌でもなさそうだし、ここはやっぱり三索切りだNE!)
 
 引っ掛かりを振り払うように、簿留は三索を手にかけて河に置いた。
 あとは五筒と八筒を待つだけだ、と考えながら。
 
 その思考が固まったのは、毒島が手牌の両端を掴んだときだった。
 
(゚A゚#)「ロン」
 
 狙い澄ました的を、射抜くように。
 ただ、三索だけを見て、毒島は手牌を倒す。

611第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:45:43 ID:xdkgJMfU0
(゚A゚#)「役牌、一盃口、混全帯幺九、ドラ2」
 
(;・3・)「!」
 
(゚A゚#)「跳満、12000」
 
 簿留は思わず肩を落とした。
 渡辺が跳満に振り込んだことを幸運と感じていた簿留も、跳満に振り込んでしまったのだ。
 
 立直をかけてツモ和了り、もしくは裏ドラが一枚でも乗れば倍満にまで膨らんでいた可能性がある。
 しかし毒島は、トップの簿留に一撃を浴びせることを狙っていた。
 簿留には、そうとしか思えなかった。
 
 三索を捨てるときの逡巡の理由が、今更ながら簿留には分かったからだ。
 他家が牌を捨てるときと、簿留が捨てるときでは、毒島の目つきが違っていた。
 できれば直撃を、と毒島が考えていたためだろう、と簿留はようやく気づけた。
 
(;・3・)(最後の最後で跳満は、かなり痛いYO)
 
( ・3・)(でももう済んだことだし、なんとかトップは保てたから、それで良しとするYO)
 
 三局連続で芽院高校の毒島が跳満を和了し、次鋒戦が終了。
 最終得点は、麦秋高校が53000点、芽院高校が51900点、肯綮高校が48900点、陶冶高校が46200点。
 各校の通算獲得ポイントは、芽院高校が197ポイント、肯綮高校が185ポイント、麦秋高校が169ポイント、陶冶高校が166ポイントとなった。
 
('A`;)(なんとか少し、盛り返せた)
 
('A`;)(でも、初本さんと笑野さんの負担が大きいことに変わりはないよな)
 
 続々と対局場を後にする他校の選手に続いて、毒島も出口へ向かった。
 近くのホワイトボードにはまだ次鋒戦の結果が記載されていない。しかし、獲得ポイントは毒島も分かっている。
 芽院高校は、通算獲得ポイントでトップをキープできたが、二位とのポイント差は僅かだった。
 
('A`;)(くそっ、最初からいつもどおり打ててれば、中堅戦と副将戦を楽にできたかもしれないのに)
 
('A`;)(今更悔やんでも遅すぎるけど、情けないよな、本当に)
 
 芽院高校は、最悪の状況からは脱することができた。
 それでもまだ、厳しい戦いは続く。
 
 戦いの場から出た毒島を出迎えたのは、初本だった。

612第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:48:16 ID:xdkgJMfU0
('A`;)「初本さん!」
 
(´・ω・`)「毒島、すまなかったね、本当に」
 
('A`;)「いえ、すみません! トップ取れなくて、ポイントが」
 
(´・ω・`)「毒島のせいじゃないよ。僕がオーダーを変更してしまったことが原因だから」
 
('A`;)「でも、それは本当は、あの子との対戦を避けるために」
 
(´・ω・`)「そのつもりだったけど、結果的に対戦させることになってしまった。申し訳ない」
 
(´・ω・`)「でも、ありがとう。対局場から声が聞こえたよ。最後も跳満を和了ってくれたみたいだね」
 
('A`;)「本当は、なんとか逆転までできたら良かったんですけど」
 
(´・ω・`)「充分さ。あとは僕と笑野に任せて、ゆっくり休んでてほしい」
 
(´・ω・`)「必ず、全国行きを決めてみせるから」
 
 毒島の肩を軽く叩いて、初本は対局場へと踏み入った。
 肯綮高校の名瀬楢、陶冶高校の旭、麦秋高校の船都は既に入室している。
 
 雀卓が自動で決めた席に、初本は座った。
 上家には麦秋高校、下家には肯綮高校、対面には陶冶高校が座ることとなっている。
 
( ∵)「同じ戦場に立つのは初めてのことだな」
 
 初本から見て右側の席には、既に肯綮高校の名瀬楢が着席している。
 戦国時代からタイムスリップしてきたような喋り方だ、と初本は思った。
 
(´・ω・`)「毎年同じ大会に出てるのに、試合で当たったことはなかったね」
 
( ∵)「法悦に浸れるような果し合いとなることを期待しておるよ、くく」
 
(´・ω・`)「命を懸けるつもりはないけどね。取り合うのは全国行きのチケットだ」
 
( ∵)「戦いの中に身を置く者にとって、敗北は絶息と同義であろう」
 
(´・ω・`)「懸ける思いはそのとおりだ。だから全校、潰すつもりで戦うよ」
 
 あえて、名瀬楢と視線を合わせないようにしながら初本は言った。
 名瀬楢は、愉快そうに笑みをこぼしているが、それが初本の視界に入ることはない。

613第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:49:32 ID:xdkgJMfU0
( ∵)「随分な尖り声を出すではないか。よほどの業腹と見える」
 
(´・ω・`)「ああ、そうだね」
 
 再び、名瀬楢のほうを見ないまま初本は言葉を返す。
 
 初本にはずっと、悔しさが残っていた。
 毒島を窮地に追いやってしまったこと。そのことで、芽院高校も苦境に踏み込みかけていること。
 いずれも、部長である自分の責任だ、と初本は考えていたのだ。
 
 最善を尽くしてもどうにもならないことはある。
 まさにこれから初本が打とうとしているものも、そうだ。
 しかし、後悔は初本の中から消えなかった。
 
(´・ω・`)「悔しくて、悔しくて、堪らないんだよ」
 
(´・ω・`)「勝つことでしか、この悔しさは晴らせないのかもしれないね」
 
 独り言のように、小さな声で初本はそう言った。
 名瀬楢が再び口を開きかけた瞬間、試合開始を告げる合図がスピーカーから鳴る。
 
 全員が着座し、十数秒後に雀卓から牌が迫り上がってきた。
 決勝戦の中堅戦が、始まった。
 
( ∵)(初本は冷静さを欠いておるか?)
 
( ∵)(然すれば、一気呵成に攻め立てるのが定石であろうな)
 
 東一局の親は芽院高校の初本。
 肯綮高校の名瀬楢としては、早めに東一局を終わらせて、自らが親番となる東二局に移りたいところだった。
 
 配牌に恵まれた名瀬楢は望んでいた牌を次々に手中へと収める。
 そして七巡目、一筒を横向きに打牌した。
 
( ∵)「立直」
 
 自信を持って名瀬楢が立直をかけた。
 一盃口、断幺九、平和、立直が確定しており、一発や門前清自摸和、裏ドラ次第では跳満から倍満まで望める手牌だった。
 
 出だしとしては最高の形。
 ここで一気に点を稼ぎ、次の親番に繋ぎたい。
 そうすれば、この中堅戦も有利に進められるだろう。
 
 名瀬楢が、そう考えていた、次の瞬間。
 
(´・ω・`)「ツモ」
 
 初本の牌の顔が、上向きとなる。
 名瀬楢の顎も、弾けるように上がった。

614第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:51:10 ID:xdkgJMfU0
(´・ω・`)「断幺九、三色同順、ドラ1」
 
(´・ω・`)「4000オール」
 
 極めて冷静に、淡々と初本はそう言った。
 名瀬楢は、思わず右手を卓に叩きつけそうになった。
 
(;∵)(泰然としておるな。冷静さを欠いているように見えておったが)
 
 力強く握りしめていた右手を、名瀬楢は自分の膝に置いた。
 そして今度は、膝を潰すように再び力を込める。
 
 最低でも満貫、運による上乗せがあれば倍満まで見込める手を潰された。
 それが名瀬楢にとって悔しかったことも事実。しかし、それ以上の悔しさを、名瀬楢は植えつけられた。
 
 初本は、名瀬楢が立直をかけても、全く焦っていなかった。
 テンパイに至ったのはほぼ同時。しかし、立直をかけていない点と、当たり牌の多さで、初本が上回っていた。
 先に和了れるという自信があったからこその、余裕だったのだ。
 
 立直をかけた時点で和了った気になっていた名瀬楢は躓き、膝を擦りむいた。
 痛みそのものは、小さい。しかし、全力で走れるかどうか、名瀬楢は分からなくなっていた。
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおりさ」
 
 雀卓が初本の役を読み上げている途中で、初本の声が被さった。
 その声は、名瀬楢だけに向けられているものではなかった。
 
(´・ω・`)「悔しさがあってね。悪いけど、ここでぶつけさせてもらう」
 
(´・ω・`)「何もかもを、潰すつもりでね」
 
 横から聞こえているはずの声が、何故か、上から圧し掛かってきたように名瀬楢は感じていた。
 
 
 ◇
 
 
 猫のように狭い額から、汗が流れた。
 それを手ぬぐいで拭き取りながら、杉浦は陶冶高校の控え室の扉を開く。
 
<_プー゚)フ「お帰りなさーい」
 
 部長を迎える陽気な声を発したのは、先鋒戦を戦った江楠。
 手すさびのように、幾つかの雀牌を掌の上で転がしていた。

615第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:53:06 ID:xdkgJMfU0
( ФωФ)「すまなかったであるな。思ったよりも時間がかかってしまった」
 
<_プー゚)フ「あったんですか? 何とか茶っていう謎のお茶」
 
( ФωФ)「謎ではない。燕龍茶という血圧の低下に寄与するお茶である」
 
 ペットボトルをテーブルの上に置いて、杉浦は椅子に腰かけた。
 ポケットの中の小銭入れは鞄へと仕舞う。
 
<_プー゚)フ「血圧が高い家系だって言ってましたもんね」
 
( ФωФ)「うむ。しかし事前に用意しておかなかったのは失敗であった」
 
<_プー゚)フ「そんな珍しいお茶じゃなくても、血圧下げる飲み物なら他にもあるんじゃ?」
 
( ФωФ)「味が好きなのであるよ。それに、これを飲んで戦った試合は中学時代からほとんど負けなしである」
 
<_プー゚)フ「験担ぎですか」
 
( ФωФ)「そのようなものであるな。尤も、一番大事なのは自分の実力を出し切ることである」
 
 ペットボトルのキャップを捻り、燕龍茶を少し口に含んだ。
 杉浦の喉が小さく鳴る。
 
( ФωФ)「結局、一時間半ほどかかってしまったであるか。最寄りのコンビニには置いてなかったである」
 
<_プー゚)フ「どこまで行ったんですか?」
 
( ФωФ)「駅を過ぎてしばらく歩いた先のスーパーである。ついでに、まがりせんべいも買ってきたであるよ」
 
<_プー゚)フ「わーい。いただきます」
 
/^o^\「僕も食べていいですか?」
 
( ФωФ)「無論であるよ」
 
 富士のように確認することなく江楠は煎餅の袋を裂いた。
 遠慮がなく、他人に壁を作らないところは、江楠の長所でも短所でもあった。

616第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:54:50 ID:xdkgJMfU0
( ФωФ)「次鋒戦はどうなったであるか?」
 
/;^o^\「すみません。僕が最下位です」
 
<_プー゚)フ「でも、大して離されなかったですよ。トップの芽院とはトータルでも31ポイント差ですし」
 
( ФωФ)「む? 芽院はもっと沈んでいておかしくなかったはずであるが」
 
<_プー゚)フ「北二局からガラっと変わって、三局連続で跳満を和了られちゃって」
 
/^o^\「怒涛の巻き返しでしたね。途中から目つきが全然違いましたもん」
 
( ФωФ)「途中までが、あまりにも不甲斐ない打ち様であった。上手く切り替えたのであろうな」
 
/^o^\「そうみたいですね。最後の二局で肯綮と麦秋から出和了りしてくれて助かりました」
 
<_プー゚)フ「次鋒戦よりも、今の中堅戦のほうがヤバイですね。最後までいかないかも」
 
( ФωФ)「む?」
 
 試合はいくつかのカメラで撮影されており、定期的に映像が切り替わる。
 今は俯瞰の映像であり、点数は確認できなかった。
 杉浦に分かるのは、試合が西二局まで進んでいるということだけだ。
 
( ФωФ)「手酷くやられてしまっているであるか? 我が校の旭は」
 
<_プー゚)フ「いや、ウチはまだマシです。肯綮と麦秋のほうがヤバイです」
 
/^o^\「このままいくと、飛ばされるかもしれませんね」
 
 モニターの映像はようやく雀卓の中央ディスプレイに切り替わった。
 そこには、杉浦が信じがたいと思うほどの点数が表示されている。
 
( ФωФ)「なんと、十万点を優に超えているであるか」
 
 トップの芽院高校は123800点。
 二位の陶冶高校は39600点。これは確かに、まだいいほうだ、と杉浦は思った。
 三位の麦秋高校は19100点、最下位の肯綮高校は17500点まで持ち点を減らしている。

617第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:56:57 ID:xdkgJMfU0
<_プー゚)フ「芽院の人、ここまで八回も和了ってるんですよ。ヤバくないですか?」
 
( ФωФ)「初本であるか。確かに、去年も手強い打ち手であった」
 
/^o^\「昨日も凄かったですよね。東二局で試合を終わらせてましたし」
 
( ФωФ)「去年の全国では些か物足りなかったであるが、進化を遂げたようであるな」
 
 肯綮高校と麦秋高校が沈んでいることは、陶冶高校にとって悪いことではなかった。
 この県大会では最終的に二位でも全国へ行ける可能性がある。
 どの高校も優勝を目指していることは間違いないが、二位で踏み留まるための方策も考えておかなければならないのだ。
 
 しかし、このままでは、県大会が副将戦までで終了する可能性がある。
 それは、杉浦にとっては思わしくない事態だった。
 チームとしても、杉浦個人としても、だ。
 
<_プー゚)フ「マズイですよね。下手すると、杉浦さんがホライゾンにリベンジできなくなっちゃいます」
 
 軽い口調で本質を突く。
 そういうところが面白い男だ、と杉浦は江楠について思っていた。
 
( ФωФ)「まぁ、それもそうであるな。主将としても、個人としても、大将戦は逃したくないである」
 
<_プー゚)フ「ネットでホライゾンと戦ったときって、どうだったんですか? 惨敗ですか?」
 
( ФωФ)「この試合のように一荘戦で戦ったであるが、南場までは我輩のほうが優っていたであるよ」
 
<_プー゚)フ「おぉ〜」
 
( ФωФ)「しかし、西場からはほとんど支配的で、我輩は為す術なく逆転されてしまったであるな」
 
 そのときのことは、今でもすぐに思い出せるほど杉浦の記憶に深く刻まれていた。
 前半は互角以上に戦えたからこそ、後半で手も足も出なかったことが杉浦にとって衝撃だったのだ。
 
<_プー゚)フ「そういや、聞いたことある気がします。ホライゾンは、前半戦は手を抜くことが多いって」
 
( ФωФ)「手を抜くというよりも、相手の打ち筋を見極めているのであろうな」
 
( ФωФ)「前半で相手を知り、後半で一気に攻め立てる。そういう戦い方を好んでいるようである」
 
<_プー゚)フ「うわー、戦いたくないなぁ」
 
 『神の目』という大仰な名の付いた力も、相手を見極める力のことを指すのだろう。
 杉浦は、そう考えていた。
 しかし、麻雀という偶然性の高いゲームで高い勝率を誇っていることは、誰にとっても脅威的だった。

618第7話 ◆azwd/t2EpE:2015/05/06(水) 22:58:01 ID:xdkgJMfU0
<_プー゚)フ「せっかくの直接リベンジの機会、逃したら心置きなく卒業できないですよね」
 
( ФωФ)「いや、それは些末なことである。陶冶高校が十二年ぶりに全国大会へ進出すること、それが最重要であるよ」
 
<_プー゚)フ「そっか。じゃあ、旭くんには頑張ってもらわないと、ですね!」
 
( ФωФ)「うむ。そして、副将戦、大将戦でもいい試合をして、全国へ行くである」
 
( ФωФ)「皆で、最高の夏を迎えるであるよ」
 
 茶色い髪を揺らしながら、江楠が頷く。
 杉浦は暗闇にいる猫のような鋭い目をモニターへと向けた。
 
 県大会決勝、中堅戦は西二局まで進んでいる。
 心に期するものを感じながら、杉浦は試合を見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第7話 終わり
 
     〜to be continued

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