520登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:29:25 ID:CUmEQ.Hs0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校

■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

521登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:30:08 ID:CUmEQ.Hs0
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

522大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:31:13 ID:CUmEQ.Hs0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

523大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:31:58 ID:CUmEQ.Hs0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用
525大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:34:12 ID:CUmEQ.Hs0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点
526第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:35:38 ID:CUmEQ.Hs0
【第6話:空間の揺蕩い】
 
 
 毒島が目を覚ましたとき、部屋にはほとんど音がなかった。
 カーテンの隙間から漏れる光は青白い。まだ六時か七時くらいだろうか、とぼやけた頭で毒島は考える。
 
 昨晩は遅くまで麻雀を打っていた。
 特に、初本と笑野は、毒島がベッドに入ったあとも卓に着いていたのを覚えている。
 最も早く寝たのは伊藤と椎名だった。
 
(*゚ー゚)「あ、ドっくんだ」
 
 毒島の身体は、一瞬大きく揺れた。
 朗らかな声が洗面所から飛んできたためだ。
 
(*゚ー゚)「おはよー」
 
('A`;)「お、おはよう」
 
 椎名は既に化粧を終え、制服に身を包んでいた。
 そのスタイルに毒島の視線は奪われかけたが、慌てて窓の方に逸らす。
 
(*゚ー゚)「みんなまだ寝てるね。遅くまで打ってたの?」
 
('A`;)「ぼ、僕は日付が変わる頃に寝たけど、初本さんと笑野さんは遅かったみたい」
 
(*゚ー゚)「そうなんだ。決勝に向けて気合入ってる感じだね!」
 
('A`;)「そ、そうだね」
 
 同学年であり、同部活でもある椎名に対し、毒島はまだ臆してしまっていた。
 ただしそれは椎名に限ったことではない。
 
 なんとか会話できているだけでも、毒島にとっては快挙に近かった。
 伊藤に対しては、椎名以上に壁を感じている。
 それ以外の女子など、もはや声の届く距離ではなかった。

527第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:37:12 ID:CUmEQ.Hs0
(*゚ー゚)「絶対勝たなきゃいけないもんね。みんなで、全国へ行くために!」
 
(*゚ー゚)「今日は私が先鋒らしいから、なんとか一位でドっくんにバトンを渡せるよう頑張るよ!」
 
 毒島の声は上手く出なかったが、代わりに強く頷いた。
 
 オーダーの変更が初本から伝えられたのは昨晩、椎名が寝る前のことだった。
 戦略上の理由、とだけ初本は言い、詳しい理由はいずれ説明すると語った。
 毒島は多少、訝しんだが、先鋒でも次鋒でもやるべきことは変わらなかった。
 
 自分の麻雀を打つだけだった。
 
(´・ω・`)「やぁ、二人とも早いね。おはよう」
 
(*゚ー゚)「初本さん。おはようございます♪」
 
('A`)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「いよいよ、か」
 
 その短い一言で、椎名にも、毒島にも気合が入った。
 思わず、姿勢を正してしまうほどに。
 
 その後、続々と部員たちが目を覚まし、支度を整え始めた。
 途中で伊藤が部屋から出て行き、皆が不思議に思っていると、カートを押して戻ってきたため全員が一驚を喫した。
 
('、`*川「朝ご飯ですよーっと」
 
( ^Д^)「マジか! ナイス!」
 
(´・ω・`)「いいのかい?」
 
('、`*川「許可は取りました。朝食バイキングはどうせいつも余りますし」
 
('、`*川「今にして思えば、昨日の晩ご飯もこうすれば良かったのかも。まぁいっか」
 
(*゚ー゚)「あのお店じゃなきゃブーンくんの胃袋の相手は務まらなかったと思うし!」
 
('、`*川「確かに、それもそうね」
 
( ^ω^)「ご飯ご飯ー♪」

528第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:38:38 ID:CUmEQ.Hs0
 昨日は雀卓と化していたテーブルに皿が並べられていく。
 一人当たりの量はさほど多くないものの、朝食としては程良かった。
 クロワッサンやバターロール、ベーコンやウインナーなどを皆が思い思いに口へと運ぶ。
 
 五分から十分ほどで全て平らげられ、その後は、それぞれ歯を磨いたり顔を洗ったりして準備を整えた。
 伊藤だけは朝食を載せてきたカートを返却していたこともあり支度が遅れたが、選手ではないため、試合に出る五人は先に出立することとなった。
 
('、`*川「あとでクルマで向かいます。試合開始に間に合うかどうか、ちょっと微妙ですけど」
 
(´・ω・`)「ゆっくりでいいよ。色々世話になってしまって申し訳なかったけど、本当にありがとう」
 
('、`*川「これくらいしかできないんで!」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃんありがとね! またあとで!」
 
 伊藤に一旦の別れを告げて、五人はホテルから出て駅へと向かった。
 日曜の七時台ということもあり、人通りはあまりない。
 角度をつけて冲天へと昇りつつある太陽からの光は柔らかかった。
 
 駅から電車に乗り、二十分ほど揺られたところで会場の最寄駅へと到着した。
 急行電車が止まらない駅であることも影響して、乗降する人はほとんど居ない。
 試合も、今日は決勝しか行われないため、尚更だった。
 
 駅から歩いて数分ほどで、会場の片影が五人の目に入った。
 
(´・ω・`)「行こう」
 
(´・ω・`)「必ず優勝して、全国へ」
 
 それぞれが頷く。
 そして、力強く足を踏み出した。
 
 
 ◇
 
 
('、`*川「すみません、学校寄ってたら遅れちゃいました」
 
(´・ω・`)「ああ、雀牌を戻しに行ってくれてたんだね。ありがとう」
 
('、`*川「いえいえ。試合のほうはどうなってます?」
 
( ^Д^)「まだ先鋒戦だよ。南三局だな」
 
 控え室へと入ってきた伊藤に、初本と笑野は首だけを返していた。
 身体は試合の様子を写すモニターへと向けられている。

529第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:40:10 ID:CUmEQ.Hs0
('、`*川「内藤と毒島は?」
 
(´・ω・`)「さっきトイレに行ったよ」
 
 伊藤が椅子に腰掛け、初本と笑野の背中越しにモニターを見た。
 そして、軽く首を捻る。
 
('、`*川「負けてます?」
 
(´・ω・`)「今のところは三位だね」
 
 県大会も決勝まで来ると強豪揃いだった。
 麻雀を始めて二ヶ月余りの椎名では、苦戦も致し方なし、と初本は割り切っていた。
 ただ、ここまで一度も和了れていないというのは予想から外れた出来事だった。
 
(´・ω・`)(緊張してるのかな)
 
(´・ω・`)(いつもの椎名に比べると、果敢さが足りない)
 
 愚直に和了りを目指せるのが椎名の強み。
 初本はそう思っており、事実、昨日は他者に優るスピードで一位をもぎ取った。
 
 既に南三局。
 もしも昨日と同じ半荘戦なら、あと二局しか残っていないのだ。
 ここまでほとんど何もできていない、というのは初本にとっては想定外のことだった。
 
 しかし、今の初本には、それ以上に想定外のことがあった。
 自分自身の判断を、大いに悔やむほどに。
 
(´・ω・`)(悔やんでも悔やみきれないな)
 
(´・ω・`)(余計なことをしなきゃ良かった。完全に誤算だ)
 
 悔いたところで時間は戻らない。
 初本は、二人が何とかしてくれることを願うしかなかった。
 
 信じて、戦況を見守ることしかできなかった。

530第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:41:48 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
 南三局、十二巡目にしてようやく、椎名は堂々と手牌を見せることができた。
 
(*゚ー゚)「ツモです」
 
 立直と、門前清自摸和。
 椎名が得られたのは2000点だが、それでもありがたかった。
 
 肯綮高校の盛岡を親番とする南三局が終わり、前半戦のオーラスとなる南四局へと突入した。
 
 親番は麦秋高校の松中。
 松中はここまであまり良いところがなく、最下位に沈んでいる。
 南二局で満貫に振り込んだのが手痛かった。
 
 尤も、それまでは芽院高校の椎名が最下位だったのだ。
 椎名からすれば、他力で何とか三位に上がった形だった。
 
(;゚ー゚)(緊張しちゃってるなぁ、私)
 
 実力的に、この中で最も劣っていることを、椎名は自覚していた。
 そして、いつもとは明らかに打ち筋が変わってしまっていることも、分かってはいた。
 
 緊張から生まれる焦燥と動揺が常に付き纏う。
 こんな経験は、今までになかった。
 仕事でテレビに出演したときでさえ味わうことのなかった感覚だ。
 
 いつもどおりに打たなければ。
 そう思えば思うほど、椎名の足は泥濘に嵌まっていく。

531第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:43:33 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)「ポン」
 
 十巡目、肯綮高校の盛岡がポンで手を進めた。
 椎名の中にはまた、焦りが生まれる。
 
(;゚ー゚)(私はまだ三向聴、和了りは厳しいかなぁ)
 
 そう考えながら、椎名は九筒を切った。
 盛岡が鳴いているため、断幺九狙いかもしれない、と考えた故の九筒切りだ。
 幸いにも、切った瞬間に盛岡から声が上がることはなかった。
 
 しかし、陶冶高校の江楠が二索を切った時は、そうはいかなかった。
 
(´・_ゝ・`)「ロン。断幺九、ドラ1」
 
(;゚ー゚)(わぁ、やっぱ断幺九だったんだ)
 
 椎名は、読みが当たっていたことに安堵していた。
 しかし、それが本当は自分らしくないことにも、気付いていた。
 
 子の盛岡が和了ったため、南場が終了。
 五分間の休憩時間に入った。
 
 ここまで、肯綮高校が57000点で首位を走っている。
 それに続く陶冶高校は54800点。次いで芽院高校が47700点、最下位の麦秋高校が40500点だった。
 
 盛岡と松中がトイレに行くため席を立ったが、椎名は席に座ったまま手元のタッチパネルを見ていた。
 首位との点差はおよそ一万点。易々と覆せる差ではなかった。
 安い手を素早く和了っていくタイプの椎名にとっては、尚更だ。
 
 大将戦に回さないように芽院高校は戦わなければならない。
 それは、副将戦が終わった時点で他校に100ポイント以上の差をつけている必要がある、ということだ。
 他を、圧倒するような勝ち方をしていなければならない、ということだった。
 
(;゚ -゚)(まだまだ実力が足りてないのは、分かってるんだけど)
 
(;゚ -゚)(それでも何とか勝たなきゃ。じゃないと、全国に行けなくなっちゃう)
 
(;゚ -゚)(先鋒戦で躓いたら後が苦しくなっちゃうし、どうにかして、私が――――)
 
<_プー゚)フ「緊張してる?」
 
(;゚ー゚)「えっ?」
 
 突然、声を掛けられたため、椎名の口から出た声は上ずっていた。
 陶冶高校の江楠は、両肘を卓に突いてリラックスした様子を見せている。
532第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:45:47 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「なんか、オドオドした打ち方してるなぁって思って」
 
<_プー゚)フ「昨日のほうが伸び伸びしてたよ。映像でちょっと見た程度だけどさ」
 
 対局中も、江楠は常に柔やかだった。
 元々そういう顔なのか、緊張とは無縁なのか、椎名には分からなかった。
 
<_プー゚)フ「牌の巡りが悪いと、どんどん自分を追いつめて、上手く打てなくなったりとか」
 
<_プー゚)フ「僕もそういうこと、よくあるけどね。大会だと、自分の後ろに先輩たちが控えてたりもするわけだし」
 
<_プー゚)フ「迷惑かけたくないのに、点が伸びなくて、自己嫌悪したりとかさ。そういうのってヤダよね」
 
 今の椎名の状況に、完全に合致する言葉、というわけではなかった。
 ただ、不思議と頷かされるような力があった。
 
<_プー゚)フ「あんまり点数のこととか、勝ち負けのこととか、気にしすぎると余計に上手く打てなくなっちゃうもんだよ」
 
<_プー゚)フ「だから、とりあえず一局一局のことだけ考えてたほうがいいんじゃない?」
 
<_プー゚)フ「じゃないとさ、楽しくないでしょ。せっかく麻雀打ってるのにさ」
 
<_プー゚)フ「その可愛い顔が楽しそうにしてるとこを見たいんだよ、僕は」
 
 椎名は思わず、笑みをこぼした。
 軽やかな言葉に、身と心を軽くしてもらった気分だった。
 
(*゚ー゚)「ありがとうございます」
 
 せめてもの笑顔を椎名は返した。
 同じように江楠も微笑み、手元のサイダーのキャップを開ける。
 
(*゚ー゚)(見た目も喋り方もちょっとチャラそうだけど、根はしっかりしてる人なんだろうなぁ)
 
 サイダーを二口、三口と飲む江楠の横顔を見ながら、椎名はそう思った。
 そして同じように、午後の紅茶を口に含んでから、しっかりと前を見据える。

533第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:47:59 ID:CUmEQ.Hs0
 盛岡と松中が対局場に戻り、休憩時間が終わった。
 山と手牌が雀卓の中から迫り上がって、先鋒戦の西場が始まる。
 
 親番は、陶冶高校の江楠だった。
 
<_プー゚)フ(うん、悪くない配牌だな)
 
 まずは二向聴。
 牌の多くは中張牌であり、手広く牌を待てそうな形だ、と江楠は考えていた。
 
 静かに牌が捨てられていく中で、江楠は下家の表情を確かめる。
 
<_プー゚)フ(いい顔になってきたじゃん)
 
<_プー゚)フ(やっぱ、そのほうがいいよね。こっちも、打ってて楽しいし)
 
 芽院高校の椎名が、明るさを取り戻しているように見えた。
 それが、江楠の気分までも明るくしていた。
 
<_プー゚)フ(よし、テンパイ)
 
<_プー゚)フ「立直」
 
 江楠がタッチパネルを軽く叩く。
 十巡目にして、五萬と八萬を待つ形で立直をかけた。
 
<_プー゚)フ(一発、もしくはツモ和了りなら6000点だ)
 
<_プー゚)フ(肯綮高校を抜いて、トップを奪い返――――)
 
(*゚ー゚)「チー」
 
<_プー゚)フ「!」
 
 朗らかな声で椎名が宣言した。
 江楠が横向きに捨てた牌を、そのままチーしたのだ。

534第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:50:28 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ(そういや、この子は昨日も、親の立直相手に突っ張ってたっけ)
 
<_プー゚)フ(南場までのこの子なら降りてたかもしれないけど、自分を取り戻したみたいだね)
 
 昨日、映像で見ていた打ち筋に比べると、今日の椎名は明らかに降りるのが早かった。
 江楠は、そう感じていた。
 
<_プー゚)フ(しかし、ここで鳴いたってことは、もうテンパイしてる可能性が高そうだ)
 
<_プー゚)フ(追い抜かれて和了られたらショックだし、なんとか当たりを引きたいなぁ)
 
 江楠が山から牌を取って、表を見た。
 当たりの牌ではない三索を、いったん卓上に置いてから河へと置き直す。
 
 そこで、椎名の手牌が倒れた。
 
(*゚ー゚)「ロン」
 
<_プー゚)フ「!」
 
(*゚ー゚)「4000点です、すみません」
 
<_プー゚)フ「いやいや」
 
 あっさりとかわされ、江楠は苦笑することしかできなかった。
 追い抜かれたくないと思った直後に追い抜かれてしまったのだ。
 
 果敢な打ち筋を、取り戻しつつある。
 それを、江楠ははっきりと感じ取っていた。
 
<_プー゚)フ(敵に塩を送っちゃったみたいだ。大将の杉浦さんに怒られるかも)
 
<_プー゚)フ(いや、あの人もそういうとこあるし、大丈夫だな、きっと)
 
 供託された立直棒と合わせて、5000点が椎名に加算された。
 江楠にとっては手痛い失点。それでも、笑みを失うことはなかった。

535第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:52:44 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
( ^Д^)「打ち筋が変わってきたっすね」
 
(´・ω・`)「そうだね。戻ってきた、と言ったほうがいいかもしれないけど」
 
 初本と笑野はじっと戦況を見守っていた。
 先鋒戦は西二局に移っている。
 
( ^Д^)「これで52700点。二位に上がったっすね」
 
(´・ω・`)「なんとかトップを取ってくれたら嬉しいけど、どうかな」
 
 西二局は椎名が親番だった。
 場は緩やかに進行していき、ほとんど誰からの声も上がらないまま終盤へ。
 残り二巡ほどのところで、ようやく椎名がテンパイしたが、和了ることはできないまま流局となった。
 
(´・ω・`)「麦秋もテンパイしてたね。うちと麦秋が1500点ずつか」
 
( ^Д^)「麦秋の松中、今日は全然いいところがないっすね。一人沈みっすよ」
 
('A`)「昨日のほうが明らかにいい麻雀してましたよね」
 
 松中と中学時代の同級生である毒島が、二人の後ろから声を出す。
 初本と笑野が座るソファーのやや後方に椅子を置いてモニターを観ていた。
 
(´・ω・`)「松中くんは牌の巡りが悪いね。満貫に振り込んだのも不運だった」
 
( ^Д^)「あの単騎待ちは読めないっすよね」
 
('A`)「松中がもうちょっと頑張ってくれないと、うちとしても苦しいですね」
 
(´・ω・`)「欲を言えば、肯綮高校から点を取り返してほしいところだ」
 
 肯綮高校の盛岡は、先鋒戦で図抜けた実力を持っている、というわけでもなかった。
 満貫を和了ったのも、苦し紛れの単騎待ちがたまたま上手く嵌まっただけだ。
 ただ、いずれにせよ肯綮高校にリードされる展開は苦しい、と初本は考えていた。

536第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:55:07 ID:CUmEQ.Hs0
(´・ω・`)(副将戦までで試合を終わらせるには、三校それぞれからリードを奪う必要がある)
 
(´・ω・`)(麦秋だけに沈まれたんじゃ苦しいのは毒島の言うとおりだ)
 
(´・ω・`)(できればどこかが、肯綮高校を直撃する形で出和了りしてくれるといいんだけど)
 
 無論、それが椎名によるものであれば、芽院高校にとっては最善だった。
 
 西二局一本場は早々に麦秋高校がテンパイする形となった。
 松中はとにかく和了りを目指しており、鳴きを使った断幺九のみのテンパイ。
 そしてテンパイ後、しばらくしてから、狙っていた牌を自ら引き当てた。
 
 ドラが一枚絡んで麦秋高校は2300点を得る。
 芽院高校からすれば1100点を失う形となったが、ツモ和了りでは避けようもなかった。
 
 西三局はトップの肯綮高校が親番。
 盛岡は連荘を狙って鳴きを多用するが、一向聴で足が止まった。
 逆に、他の三校は次々にテンパイへと至る。
 
( ^Д^)「ラッキーっすね」
 
 そのまま流局になったのを見届けて、笑野はそう言った。
 肯綮高校に親番で稼がれるのは避けたい展開だったからだ。
 
(´・ω・`)「トップが3000点の失点。うちとしては助かったね」
 
( ^ω^)「試合はどうなってるんですかお?」
 
 離れたところで麻雀の入門本を読んでいた内藤がモニターに近寄ってきた。
 口には昨日コンビニで買ったチーズおかきを咥えている。
 
(´・ω・`)「いま椎名が逆転してトップだ。頑張ってくれてるよ」
 
( ^ω^)「おお、凄いですお!」
 
( ^Д^)「序盤はかなり厳しい戦いだったけど、巻き返してくれた。このままいってもらいたいとこだな」
 
( ^ω^)「しぃには頑張ってほしいですお!」
 
(´・ω・`)「もちろん、僕たちも頑張るよ。なんとか副将戦で終わらせないとね」

537第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 16:58:31 ID:CUmEQ.Hs0
 椎名の戦い様は、南場までに比べれば明らかに改善されている。
 このままなら逆転も可能かもしれない、とは初本も感じていた。
 
 調子を取り戻しつつある椎名に対する期待は大きい。
 しかしそれは、別の不安が大きいからこそでもあった。
 
 今の初本が、最も憂慮しているのは――――
 
('A`)「僕も次鋒戦、できる限り点を稼げるように頑張ります」
 
 ――――毒島のことだった。
 
 
 ◇
 
 
 西場も四局目に突入していた。
 
 親番は最下位の麦秋高校。
 松中は、自分の牌を見て思わず目を伏せた。
 
,(・)(・),(ここで連荘して稼ぎたいのに、この配牌はなぁ)
 
 五向聴からのスタートに、肩を落としかける松中。
 それでも気丈に、北を切って自分の手番を待った。
 
,(・)(・),(ここのメンバーが強いのは分かってたけど、やっぱ昨日とは違うな)
 
,(・)(・),(緊張感もあるし、打ち手としては成長できそうな対局だけど、それにしても酷いやられ方だ)
 
,(・)(・),(せめて三位には上がらないと、次鋒戦以降がキツイよ)
 
 この大会では順位によるポイントの減算がある。
 四位より三位、三位より二位のほうが明らかに得なのだ。
 一つでも上に、と松中が考えるのは当然だった。

538第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:00:10 ID:CUmEQ.Hs0
,(・)(・),(それにしても、なんで芽院高校は先鋒と次鋒を入れ替えてきたんだろ?)
 
,(・)(・),(てっきり今日も毒島との対局だと思ってたのに、想定が狂ったなぁ)
 
 無論、そんなことは最下位の言い訳にもならない。
 ただ、対局場に入った瞬間、松中の意識が戦いから一瞬逸れたのも事実だった。
 
,(・)(・),(そういや肯綮高校も、今日はオーダーの変更があったみたいだ)
 
,(・)(・),(この盛岡って人は確か、次鋒戦で打ってたよなぁ)
 
 各校にそれぞれの戦略がある。
 意図までは探れないと分かっていても、松中の頭の中は思考が駆け巡っていた。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
 松中が九萬を捨てたところで、芽院高校の椎名が鳴いた。
 その表情は、前半戦に比べると明らかに輝きが違った。
 
,(・)(・),(やっぱこの子可愛いなぁ。うちにもこんな子が入部してこないかなぁ)
 
,(・)(・),(いや、駄目だ。ちゃんと対局に集中しないと)
 
 軽く頭を振って、河を見つめる。
 十二巡目だが、松中から見る限り、今のところは危険な気配もなかった。
 
 ただ、松中の身体が強張ったのは、陶冶高校の江楠が九索を捨てたときだった。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
,(・)(・),「!」
 
 椎名が再びの副露。
 しかもこれで、九萬と九索の刻子を完成させたことになる。
540第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:02:31 ID:CUmEQ.Hs0
,(・)(・),(やばいな。対々和狙いはほぼ間違いないと思うけど、問題は他の牌だ)
 
,(・)(・),(もし九筒の刻子まで完成させたら三色同刻。字牌もあんまり捨ててないから、混老頭まで可能性がある)
 
,(・)(・),(さすがに清老頭まではないと思うけど、対々和、三色同刻、混老頭でも跳満だ)
 
 跳満に振り込めば12000点を失う。
 最下位に沈んでいる麦秋高校にとっては致命傷となりかねなかった。
 
 松中は、すぐに現物の四萬を切った。
 
,(・)(・),(降りよう。親番は惜しいけど、ここは絶対に振り込んじゃいけない)
 
 仮に混老頭狙いならば、字牌と一九牌さえ切らなければ放銃する恐れはない。
 そして松中の手牌には、現物を含む中張牌がいくつもあった。
 
,(・)(・),(混老頭なしだと中張牌でも振り込むかもしれないけど、跳満に振り込むよりはマシだ)
 
 跳満ならツモ和了りでも6000点を失うが、それは避けようがない。
 とにかく、放銃しないことに専念すべきだ、と松中は即座に判断していた。
 
 肯綮高校も陶冶高校も明らかに降りる気配を見せ、場は静かに進んでいった。
 椎名が山から牌を取るたびに松中の心臓は鼓動を速めたが、椎名が手牌を押し倒すことはない。
 
 やがて、最後の牌が捨てられても、椎名から声が上がることはなかった。
 
(*゚ー゚)「テンパイです」
 
,(・)(・),(う、わ)
 
 椎名の手牌を見た瞬間、松中は思わず呻きかけた。
 既に三色同刻は完成しており、最後は西と南で待つ形だった。
 もし西家の椎名が西で和了っていたら、その手は倍満にまで発展していたのだ。
 
 親番が手から離れたことを悔やむよりも、失点しなかったことに安堵すべきだ。
 松中はそう気持ちを切り替え、最後の北場に臨んだ。
542第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:04:50 ID:CUmEQ.Hs0
 
 
 ◇
 
 
 先鋒戦が北入したとき、時計の針はおよそ十時半を示していた。
 
(´・ω・`)「毒島、ご飯食べなくて大丈夫?」
 
('A`)「はい。次鋒戦が終わってから食べます」
 
 次鋒戦は正午を跨ぐことになりそうだった。
 先に食べておいたほうがいいかもしれない、と初本は思ったが、昼食を取るには微妙な時間でもあった。
 
( ^Д^)「ま、朝飯も食べたんだし、大丈夫じゃないっすか?」
 
(´・ω・`)「それもそうだね」
 
 伊藤は机に伏せて眠っており、内藤は時々眠気に襲われながらも入門本を読んでいる。
 控え室内は静かなものだった。
 
( ^Д^)「それにしても、さっきの椎名は惜しかったっすね」
 
(´・ω・`)「見てるこっちがドキドキしたよ」
 
 安い手で和了ることの多い椎名が、珍しく倍満まで狙える手を作っていた。
 もし和了っていたら、二位に大差をつけてトップを確たるものにしていたところだ。
 
 テンパイした時点で山に眠っていた西は一枚、南は二枚で、当たり牌は合計三枚だった。
 あまり期待しすぎないほうがいい、とは初本も笑野も考えていたが、それでも和了りを願った。
 倍満で16000点を得ていれば、今後の戦いが相当楽になるためだ。
 
('A`)「跳満でも充分でしたけど、ほんと惜しかったですね」
 
(´・ω・`)「まぁ、とりあえず3000点は得られたわけだし、それで良しとしよう」
 
 西場は椎名が上手く立ち回り、遂にトップに立った。
 芽院高校が西場でおよそ一万点を稼ぎ、57100点。それに次ぐ肯綮高校は西場で加点が一切なく、50900点。
 三位の陶冶高校が47700点、四位の麦秋高校が44300点となっている。

543第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:06:39 ID:CUmEQ.Hs0
( ^Д^)「このまま終わってくれれば、先鋒戦としては大満足っすね」
 
(´・ω・`)「そうだね」
 
 初本の同意は本音だった。
 しかし、このまますんなりとは終わってくれなさそうだ、という曖昧な予感もあった。
 
 特に、西場でいいところがなかった肯綮高校の盛岡を、初本は不気味に思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 北一局、盛岡は三巡目で中をポンした。
 
(´・_ゝ・`)(よし、いい感じだ)
 
 早くも役がついた。
 この場は陶冶高校の親を流すためにも、なるべく早く和了っておきたい、と盛岡は考えていた。
 
(´・_ゝ・`)(西場はかなり苦しい戦いだった。このままじゃ士気が下がる)
 
(´・_ゝ・`)(何でもいいからまずは和了って、自分の士気を高めないと)
 
 その後も盛岡は鳴いて手を進める。
 役牌がある以上、もはや鳴けるのであればどんな形でもいい、という意識だ。
 幸いにもドラが一つあるため、最低でも2000点は得られる状況だった。
 
 七巡目にテンパイし、八巡目のツモ牌は手牌と共に奥へと倒す。
 
(´・_ゝ・`)「ツモ。役牌、ドラ1」
 
 狙ったとおりに和了ることができた。
 満足感を飲み込むように、ペットボトルのコーヒーを流し込む。

544第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:08:18 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(大将の水戸さんには、もう少し手を高めたほうがいいって言われるかもしれないけど)
 
(´・_ゝ・`)(いいんだ。ここは、これで充分だ)
 
 陶冶高校の江楠は掴みどころがないようにも見えるが、安定した実力を持っている。
 連荘されると手がつけられなくなるかもしれない、と盛岡は考えていた。
 だからこそ、親を流すことには拘った。
 
 そして、北二局はトップの芽院高校が親番。
 ここも、素早く流してしまうことを盛岡は狙っていた。
 
 ただ、南場までの椎名と西場からの椎名は、まるで別人のように打ち筋が変わった。
 今は生き生きとして打っている、一筋縄ではいかないかもしれない、というのが盛岡の抱いた印象だった。
 
(´・_ゝ・`)(だからこそ、ここも連荘されたくないんだ)
 
 配牌は二向聴。
 先ほどのようなスピードは出せなくとも、和了れる可能性は低くない、と盛岡は見ていた。
 
 しかし、六巡目にして早くも場が動いた。
 
,(・)(・),「立直」
 
(´・_ゝ・`)「!」
 
 最下位の松中が立直をかけた。
 手出しが多いとは盛岡も感じていたが、牌の配りも引きも良かったということになる。
 
(´・_ゝ・`)(どうする、和了りを目指すか?)
 
(´・_ゝ・`)(いや、ここは親が流れてくれれば充分。最下位の麦秋高校が和了るならそれでもいいや)
 
 尤も、六巡目では安牌の判断も難しかった。
 盛岡は回し打ちしながら、場の行方を見守る。
 椎名と江楠も明確に降りているような気配はまだなかった。
545第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:09:48 ID:CUmEQ.Hs0
 十巡目まで進んだが、盛岡はまだ一向聴だった。
 いつでもベタオリに回る準備はできていたが、どうせなら和了りを、という気持ちも捨てきれないでいる。
 
 十一巡目、盛岡は五筒を引いた。
 これでテンパイ。ただ、立直をかけなければ役がなかった。
 
 立直さえかけてしまえば、ドラが二つあるため、和了りで4000点が得られる。
 一発、ツモ和了り、裏ドラのいずれかで満貫。重複して跳満まで膨らむ可能性もあった。
 
 幾許かの逡巡の末、盛岡は口を開く。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
 追っかけ立直を仕掛けた。
 これでもう、盛岡の逃げ場はない。
 肚は逡巡の間に決めていた。
 
 しかし、次の上家の手番で発された言葉に、盛岡は驚かされる。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
(´・_ゝ・`)「!」
 
 盛岡の想定から完全に外れていた事態。
 芽院高校の椎名までもが立直をかけた。
 
(´・_ゝ・`)(いいね。嫌いじゃないよ、そういうの)
 
 これで三人が立直。
 四家立直での途中流局もないため、恐らくは誰かが和了るだろう、と盛岡は感じた。
 
 そしてその予感は、当たっていた。
 しかし、最も意外なところで牌は仰向けとなる。

546第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:12:06 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「ツモ」
 
 立直していた三人が、一斉に江楠を見た。
 まさか、という思いだった。
 
雀卓「北家、ツモです。一気通貫、混一色。三飜、1000・2000です」
 
 四人の中で唯一、立直をかけていなかった江楠が和了。
 立直をかけていた三人は全員、目を丸くした。
 
(´・_ゝ・`)(立直した後は捨て牌しか見てなかったけど、てっきり降りてるもんだと思ってたよ)
 
(´・_ゝ・`)(しかも、この和了形は回し打ちじゃない。ずっと和了りを狙ってたんだ)
 
(´・_ゝ・`)(僕たちは全員、ノーガードの殴り合いをしてたんだな)
 
 盛岡は思わず苦笑しそうになった。
 いかに先鋒戦とはいえ、全員がここまで愚直に和了りを目指せることも早々ない。
 全国行きを賭けた決勝戦とは思えない、とさえ盛岡は感じていた。
 
 だからこそ、楽しんで打てているのだ、とも。
 
(´・_ゝ・`)(いい面子に恵まれたなぁ)
 
(´・_ゝ・`)(こういう人たちの中でトップに立てたら、喜びも格別だな、きっと)
 
 目指すところは、先鋒戦の首位。
 それは最初からずっと、変わっていなかった。
 
 北二局は、結果的に親を流したいという盛岡の狙いは達成された。
 北三局、ようやく盛岡の親番が回ってくる。

547第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:15:53 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(北一局で稼いだ2000点を、北二局でそのまま失ってしまった)
 
(´・_ゝ・`)(今は僅差で陶冶高校が首位。僕は三位転落)
 
(´・_ゝ・`)(後ろの人たちが何とかしてくれるとは思うけど、少しでも点は稼いでおきたいところだ)
 
 力強く前を見据えて、盛岡は配牌を確認した。
 それを見て心が躍り、すぐさま、牌を掴んで横向きに捨てる。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
 幸運に恵まれた。
 盛岡は、両立直を仕掛けることができた。
 
(´・_ゝ・`)(ラッキー。役が他にないのは残念だけど、裏ドラに期待だな)
 
 他家は通常どおり打ち進めていく。
 両立直が相手では安牌の判断もほとんどつかないためだ。
 
 五巡目、盛岡の手に望んでいた牌が舞い込む。
 
(´・_ゝ・`)「ツモ、2000オール」
 
 手牌を倒してすぐ盛岡は手元のタッチパネルを確認したが、裏ドラは乗らなかった。
 しかし、6000点を得て連荘できただけでも良しとすべきだった。
 
 北三局の和了で、肯綮高校が首位を奪還。
 親番続行で、北三局は一本場へと移る。
 
 だが、ここは打って変わって、盛岡にとっては苦しい場となった。

548第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:17:34 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(うわ、キツイな)
 
 配牌が六向聴。
 しかも、面子を作りやすい中張牌があまりなかった。
 かといって、幺九牌だけで構成する役が狙いやすい形とも言えなかった。
 
(´・_ゝ・`)(かなりバラバラ。あんまり無理しないほうがいいかも)
 
 親番は大事にしたいが、無理に突っ張るべきではない。
 盛岡にとっては、できればテンパイまでは手を進めて、連荘の目を残したいところだった。
 
(´・_ゝ・`)(形聴でもいいから、とにかく形を作っていこう)
 
 そう考えていたが、十巡目にして、盛岡は連荘を諦めることとなる。
 
,(・)(・),「立直」
 
(´・_ゝ・`)(やばっ)
 
 最下位の麦秋高校、松中が立直。
 盛岡も、松中の手が進んでいることは感じていた。
 そしてそれが、決して安い手ではないだろう、ということも。
 
(´・_ゝ・`)(染め手っぽい。索子は捨てないほうが良さそうだな)
 
 河からそう判断し、盛岡はベタオリを選択した。
 三向聴からではどうしようもない、と考えたためだ。
 
 椎名と江楠が盛岡と同様に降りて、松中が当たりを引くこともないまま進行していく。
 やがて山が王牌のみとなっても、松中からツモ、ロンの発声がなされることはなかった。
 
,(・)(・),「テンパイ」
 
 松中が溜め息を吐きながら手牌を公にした。
 盛岡の思ったとおり、索子で染まっている。
 混一色と一盃口にドラが絡んで、和了っていれば跳満となっていた手だ。

549第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:19:33 ID:CUmEQ.Hs0
(´・_ゝ・`)(ツモ和了りかトップ直撃のロン和了りで逆転首位になれたんだな)
 
(´・_ゝ・`)(悔しいだろうけど、そういうこともよくあるのが、麻雀だ)
 
 最善を尽くしたとしても望んだ結果が得られるとは限らない。
 最悪の一手を放ったあとでも望外の結末を迎えられることもある。
 それが、麻雀だった。
 
 だからこそ楽しいのだ、とも盛岡は思っていた。
 
(´・_ゝ・`)(さぁ、オーラスだ)
 
 この楽しい時間も、あと僅か。
 最後まで全力で楽しもう。そう思って、盛岡は拳に力を込めた。
 
 
 ◇
 
 
 先鋒戦もいよいよ北四局を残すのみとなった。
 
( ^Д^)「椎名、ここまでよく頑張ってるっすね」
 
(´・ω・`)「ほんとにね。頭の下がる思いだよ」
 
 芽院高校は現在三位。
 トップとの差は5300点だが、二位との差は僅か100点だった。
 
 ポイントの減算がある三位ではなく、できれば二位に上がってほしい。
 そういう思いも初本と笑野にはあったが、それよりも、今は放銃に留意してほしいと考えていた。

550第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:20:54 ID:CUmEQ.Hs0
(´・ω・`)「テンパイしてれば流局でも二位に上がれる可能性があるし、落ち着いて打ち進めてほしいね」
 
( ^Д^)「そうっすね。配牌も悪くないですし」
 
(´・ω・`)「和了って終わりならそれが一番だ。そういや、毒島は?」
 
( ^ω^)「トイレ済ませておきたいから早めに出るって言って、さっき行っちゃいましたお」
 
(´・ω・`)「そっか。厳しい戦いになるかもしれないけど、毒島には何とか頑張ってもらいたいところだ」
 
( ^Д^)「ん? 次鋒戦って、そんなに強敵揃いっすか?」
 
(´・ω・`)「いや、面子の実力はさほど高くない。普段の毒島なら充分トップを狙える相手だけど」
 
(´・ω・`)「ただ、僕が余計なことをしたせいで、毒島を窮地に追いやってしまった」
 
(;^Д^)「ん、ん? どういうことっすか?」
 
 初本は前傾姿勢になって嘆息を吐く。
 先鋒戦が始まる前になって配られた、各校のオーダー表をポケットから取り出しながら。
 
(´・ω・`)「今日、椎名と毒島の順番を入れ替えただろう?」
 
( ^Д^)「そうっすね。椎名のほうが実力的に劣るから、相手の軽そうな先鋒戦に出したほうがいいってことっすよね?」
 
(´・ω・`)「それも一つ。ただ、最大の理由は、肯綮高校の先鋒だったんだ」
 
( ^Д^)「ん? 昨日の肯綮高校の先鋒って、誰でしたっけ?」
 
(´・ω・`)「一年生の渡辺彩」
 
(;^Д^)「あっ!!」
 
(;^ω^)「お!?」
 
 二人とも、すぐに気が付いた。
 事態の深刻さに。

551第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:23:20 ID:CUmEQ.Hs0
(;^Д^)「マジっすか!? やばいっすよ!!」
 
(;^ω^)「それは駄目ですお! 絶対に駄目ですお!」
 
(´・ω・`)「うん。本当にまずいんだ。まさか、肯綮高校もオーダーを変えてくるなんて思わなくて」
 
(;^Д^)「いや、初本さんの判断は正しいっすよ。それはしょうがないっすけど」
 
(;^ω^)「でも絶対にやばいですお。毒島は絶体絶命ですお」
 
(;^Д^)「先に言っといたほうが良かったんじゃないっすか? 毒島、多分何にも知らないっすよ」
 
(´・ω・`)「それも考えたんだけど、言った時点からずっと緊張するよりはいいかなと思って」
 
(;^Д^)「うーん、確かに。でも微妙なとこっすね」
 
(;^ω^)「多分、対局場に入ったらびっくりして動揺しまくると思いますお」
 
(´・ω・`)「そうだね。実は、うちの部員たちで打ってたときも、最初はそうだった」
 
(´・ω・`)「毒島は、椎名がいるとほとんどまともに打てなかったんだ」
 
 毒島の入部は、椎名から遅れること数日。
 男しかいないだろうと油断していた毒島は、椎名の存在に、怯えさえ抱いていた。
 
 一緒に卓を囲むだけで視線は泳ぎ、気は漫ろ。
 麻雀に全く集中できておらず、何度も最下位を繰り返した。
 特に、椎名が当たり牌を捨ててもロンの発声が出来なかったのは致命的だった。
 
(´・ω・`)「椎名のときは、一ヶ月くらいで何とか慣れてくれたけどね」
 
(;^Д^)「今度は初対面の相手。絶対やばいっす」
 
(´・ω・`)「椎名に慣れれたのも、椎名が普段から話しかけててくれたからこそだしね」
 
(;^ω^)「クラスの女子相手には今でも『あ』と『うん』しか言えないんですお。重症ですお」
 
(´・ω・`)「不安だらけだけど、今更オーダーの変更はできない。とにかく、頑張ってもらうしかない」
 
 初本は祈るようにそう言った。
 県大会でのオーダー変更など滅多にあることではない。それが、今回に限って起きた。
 肯綮高校の意図は初本には分からないが、不運としか言いようがなかった。

552第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:25:02 ID:CUmEQ.Hs0
 この決勝戦は副将戦までに終わらせなければならない。
 大将の内藤は、途轍もないポテンシャルを秘めてはいるが、今はただの素人だ。
 耳の力も、知識がなければほとんど役に立たない。
 
(´・ω・`)(だからこそ、できれば)
 
 椎名に、先鋒戦で稼いでもらいたかった。
 ここまで健闘している。多くを望みすぎるべきではない。
 分かっていても、初本は願っていた。
 
 先鋒戦の北四局は七巡目。
 椎名の手は、一向聴まで進んでいた。
 
 
 ◇
 
 
 八巡目、山から引いた一萬を椎名はすぐさま河に置いた。
 
(*゚ー゚)(二萬だったら良かったのに、惜しいなぁ)
 
 打牌の音が重なっていく。
 他家がテンパイに至っているのかどうか、椎名は読めなかった。
 ただ、ここ二巡ほど誰も手出しはしていない。
 
 椎名の手牌の左端には、三萬が一枚、四萬が二枚、五萬が一枚あった。
 面子が作れる可能性は高い形だった。
 
(*゚ー゚)(こういうのなんていうんだっけ。中ぶくれだっけ)
 
(*゚ー゚)(この形は好形だから大事にしたほうがいいって、初本さんが教えてくれたなぁ)
 
 それを初本から聞いていなければ、早い段階で四萬を切っていたかもしれない。
 まだ初心者に近く、待ちの効率もあまり分からない椎名だが、初本は着実に成長させようと少しずつ知識を教えていた。

553第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:27:46 ID:CUmEQ.Hs0
 断幺九狙いで既に鳴いている椎名は立直がかけられない。
 ただ、チーで作った順子にドラの六筒が入っているため、和了れば二飜はつく状態だった。
 
(*゚ー゚)(私はいま三位、だけどここで和了れれば二位にはなれる)
 
(*゚ー゚)(ポイント計算のことを考えると、絶対三位は抜け出したい!)
 
(*゚ー゚)(みんなで、全国へ行くために!)
 
 入部したときから、何かと椎名のことを気にかけてくれていた初本が、引退を控えている。
 今日、ここで全国への道が途絶えれば、それは即座に現実のものとなってしまうのだ。
 
(*゚ー゚)(まだ、初本さんが作ってくれる空気を味わっていたいよ)
 
(*゚ー゚)(その空間こそが、今の私の居場所だから)
 
 いつか初本が引退する日は必ず訪れる。
 引退後は恐らく笑野が部長となり、新しい麻雀部が作られていく。
 それはそれで、きっと楽しい空間だろうと、椎名も分かってはいるのだ。
 
 しかし、初めて見つけた居場所は、やはり特別だった。
 
(*゚ー゚)(五筒かぁ、外れだなぁ)
 
 九巡目も手が進まなかった。
 しかし、この時点ではまだ、椎名に焦りはなかった。
 
 焦燥と動揺が同時に押し寄せたのは、盛岡が横向きに打牌したときだった。
 
(´・_ゝ・`)「立直」
 
(;゚ー゚)(わっ、先越されちゃった)
 
 トップの肯綮高校が立直。
 椎名にとっては苦しい展開だった。
 
 それでも、焦燥と動揺は瞬時に払いのけた。

554第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:30:02 ID:CUmEQ.Hs0
(*゚ー゚)(相手の点数は分からないけど、ここは絶対降りない)
 
(*゚ー゚)(私も和了りたいし、少しでもポイント稼ぎたいもん!)
 
 チームのために、そして、自分のために。
 椎名は、最後まで突っ張ることを決めた。
 
 その強い決意に、ツモ牌が応える。
 
(*゚ー゚)(やった、六萬だ!)
 
 これで椎名もテンパイ。
 あとは、どちらが先に栄光を手にするか、だった。
 
(*゚ー゚)(えーっと、この形だと二萬と五萬で和了りだよね)
 
(*゚ー゚)(河にはどっちもないから、当たりは七枚かな?)
 
(*゚ー゚)(よく分かんないから計算はいいや、とにかく和了れますように!)
 
 南場までの自分を忘れたかのように、椎名は生き生きとして打っていた。
 和了りを目指しているときがやはり楽しいと思い出して。
 
 そして、最も楽しい瞬間が訪れる。
 
(*゚ー゚)「ロン!」
 
 十二巡目、肯綮高校の盛岡が五萬を捨てた瞬間に椎名は声を上げた。
 盛岡は堪らず目を伏せる。
 
雀卓「西家、ロンです。断幺九、ドラ1。二飜、2000です」
 
 椎名は軽く顎と目線を上げて、溜まったものを放出するように息を吐いた。
 その先に見えるものが何なのか、はっきりと意識することもないまま。
 
 先鋒戦が終了。
 オーラスでは立直棒の供託もあったため、僅差で芽院高校が逆転を果たした。
 
 最終的な得点は、芽院高校が53600点、肯綮高校が52900点、陶冶高校が50700点、麦秋高校が42800点。
 各校の獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、肯綮高校が98ポイント、陶冶高校が89ポイント、麦秋高校が69ポイントとなった。

555第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:32:36 ID:CUmEQ.Hs0
<_プー゚)フ「ありがとー、楽しかったよ」
 
(*゚ー゚)「こちらこそ!」
 
(´・_ゝ・`)「また打てたらいいね」
 
(*゚ー゚)「はい、楽しみにしてます!」
 
,(・)(・),「今度はリベンジします」
 
(*゚ー゚)「私だって負けないよー!」
 
 それぞれが椎名に一言、声をかけてから対局場を去って行った。
 椎名はペットボトルの紅茶を二口ほど飲んでから、しっかりとした足取りで出入り口へ向かう。
 
 廊下には既に肯綮高校、陶冶高校、麦秋高校の次鋒が揃っていた。
 ただ、毒島の姿だけがそこにない。
 
(*゚ー゚)(あれ? ドっくんどうしたんだろ?)
 
 次鋒戦の開始まではまだ少し時間がある。
 焦る必要はないものの、理由が分からず椎名は首を傾げた。
 
(*゚ー゚)(ま、出番のこと忘れてるわけないし、大丈夫かな)
 
(*゚ー゚)(控え室に戻る前にトイレいっとこっと)
 
 椎名が小走りでトイレへと向かう。
 休憩時間は席を立つ気にもなれず、しばらくトイレには行っていなかったのだ。
 尤も、そのおかげで陶冶高校の江楠と会話でき、復調のきっかけを掴むこともできた。
 
 トイレの入り口が椎名の視界に入ったあたりで、毒島の姿も同時に見えた。
 
(*゚ー゚)「ドっくん!」
 
('A`;)「あ、椎名さん」
 
(゚A゚;)「うおぁ!」

556第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:35:11 ID:CUmEQ.Hs0
 毒島に駆け寄り、椎名が毒島の両手を握りしめた。
 そして大きく手を上下させる。
 
(*゚ー゚)「勝ったよ! なんとか一位取れた!」
 
(゚A゚;)(手! 手! 手!)
 
(*゚ー゚)「ほんとはもうちょっと点差つけれたら良かったんだけど、私にはこれが精一杯かな」
 
(*゚ー゚)「でも大丈夫だよね、ドっくんも初本さんも笑野さんもいるし! 全国行けるよね!」
 
(゚A゚;)「そ、そうだね。なんとかして副将戦までで終わらせられるように、頑張るよ」
 
(*゚ー゚)「うん! 私も控え室で応援してるから、頑張ってね!」
 
 椎名は毒島の手から両手を離し、そのまま大きく振って笑顔のままトイレへと消えていく。
 毒島は背中に汗をかいていた。
 
('A`;)(椎名さんって、誰にでも分け隔てなくああいう風に接せるから、凄いよなぁ)
 
('A`;)(前世はマザー・テレサかナイチンゲールかなぁ)
 
 両手に感覚を残したまま、毒島は対局場へと向かう。
 次鋒戦は先鋒戦が終わってから十分後に始まることとなっている。
 
('A`)(もう少し時間あるかな)
 
 途中、自動販売機に寄って、ポカリスウェットを購入した。
 商品口から左手でペットボトルを取り出し、再び対局場へと足を向ける。
 
('A`)(椎名さん、俺が観てたときはトップとけっこう点差あったのに、逆転してくれたんだな)
 
('A`)(二位とのポイント差は分からないけど、次鋒戦でも100ポイントは絶対確保だ)
 
('A`)(そのうえで、二位以下にどれだけポイント差をつけられるか、だな)

557第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:38:25 ID:CUmEQ.Hs0
 気負いすぎることもなく、程よい緊張感を保って毒島は次鋒戦に臨もうとしていた。
 目指すべきものも、見失うことはないまま。
 
 自動販売機の設置場所から歩いて数十秒ほどで、毒島は対局場の前に到着した。
 
('A`)(他の人たちは、もう対局場に入ったみたいだな)
 
 入り口の外に誰も居ないのを見て、毒島はそう思った。
 次鋒戦の幕を開くように、毒島は扉を押して部屋へと入る。
 他校の三人は既に着座していた。
 
 それを見た瞬間、毒島の左手からペットボトルが滑り落ちる。
 
从'ー'从「よろしく〜」
 
 緩やかな調子の声で、そう挨拶している。
 肯綮高校の次鋒。
 
(゚A゚;)(お、お、女の子!?)
 
(゚A゚;)(え、え、えええ!?)
 
 想定外の出来事に、毒島は固まってしまった。
 直後、部屋に入ってきた係員に、着座するよう促される。
 
(゚A゚;)「す、すみません」
 
 慌ててペットボトルを拾って席に座る。
 肯綮高校の渡辺は、毒島の上家だった。
 
(゚A゚;)(そ、そういや昨日、駅で見たとき、この子もいたっけ)
 
(゚A゚;)(でも次鋒だなんて知らなかった! 初本さんも教えてくれなかったし!)
 
(゚A゚;)(ど、ど、どうしよう! 怖い! 怖すぎる!)
 
 毒島の頭の中を混乱が埋め尽くす。
 そんなことを知る由もない渡辺は、軽く鼻歌を口ずさみながら試合開始を待っていた。
559第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:40:44 ID:CUmEQ.Hs0
/^o^\(なんか芽院高校の人が、やけに動揺しているような?)
 
/^o^\(緊張してんのかな?)
 
( ・3・)(昨日のカワイコちゃんじゃなくて、今日は根暗そうな男だNE)
 
( ・3・)(でもま、肯綮高校の渡辺って子もなかなか可愛いから良しとするYO)
 
 それぞれがそれぞれを観察し終えた頃、試合開始の合図が鳴った。
 起家は麦秋高校の簿留だった。
 
(゚A゚;)(やばい、どうしよう)
 
(゚A゚;)(全然麻雀に集中できない。牌が見えない)
 
(゚A゚;)(こんな空間にあと一時間以上いなきゃいけないなんて、生き地獄すぎる!)
 
 毒島の恐怖と動揺をよそに、東一局は淡々と場が進んでいった。
 動きがあったのは八巡目。芽院高校の毒島が三索を捨てたときだった。
 
从'ー'从「あ〜、それポンします〜」
 
(゚A゚;)「あ! は、はい!」
 
从'ー'从「ありがとね〜」
 
 気の抜けるような声で渡辺がポンを宣言。
 その副露を見て、簿留は思わず舌打ちしかけた。
 
( ・3・)(ドラをポンされちったYO。もし和了られたらキツイNE)
 
( ・3・)(芽院もどうせなら最後まで抱えててくれればいいのにNE)
 
 渡辺の手がかなり進んでいる気配もある。
 ここは無難に打ち進めたほうが良さそうだ、と簿留は感じていた。

560第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:43:39 ID:CUmEQ.Hs0
 十二巡目、簿留は捨て牌に少し悩んだ。
 渡辺がテンパイしていることを考えれば、危険な牌は切れないためだ。
 
( ・3・)(ベタオリはまだしたくないYO。索子の染め手っぽいから、とりあえず萬子を切っておくYO)
 
 八萬を切ってその場を凌ぐ。
 簿留は一向聴だが、和了りの待ちは愚形になることが分かっていた。
 和了りを目指すよりも、渡辺に振り込まないことを目指すべきだ、と考えていたのだ。
 
 そして十四巡目、毒島が手出ししたとき、渡辺の牌が倒される。
 簿留は安堵したが、毒島は目を丸くしていた。
 
从'ー'从「ロンだよ〜。え〜っと、三飜で4000かな〜?」
 
(;・3・)「いや、跳満だYO!」
 
从'ー'从「あ〜、ドラがあったんだった〜。忘れてた〜」
 
(゚A゚;)(や、やっべぇぇぇぇぇ!!)
 
 役牌と混一色にドラが三つ。
 跳満となり、毒島は、いきなり12000点を失った。
 
(゚A゚;)(い、いきなり跳満に振り込むなんて、何やってんだ俺は!)
 
(゚A゚;)(ぜ、絶対勝たなきゃいけない勝負なのに!)
 
 女子がいようとも麻雀には関係ない。
 いつもどおりに打てばいい。
 
 毒島は、言葉として頭に思い浮かべることはできていた。
 ただ、それが毒島のなかに全く浸透していかないのだ。
 
 毒島の両手は、小刻みに震えていた。

561第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:45:26 ID:CUmEQ.Hs0
(゚A゚;)(と、とにかく点を取り返さなきゃ)
 
(゚A゚;)(いつものように、平常心で打てばいいんだ)
 
(゚A゚;)(大丈夫、きっと、やれるはず)
 
 言葉は、あまりにも虚しく空回りしていた。
 
 
 ◇
 
 
 急須から緑茶を淹れると、まるで寒い日の吐息のように湯呑から湯気が立った。
 それを水戸は右手で掴み、口元に運んで慎重に傾ける。
 左手はずっと、力なく垂れ下がったままだった。
 
(‘_L’)「いいスタートを切りましたね、渡辺さんは」
 
/ ゚、。 /「いきなり跳満なんて、期待以上だね」
 
 水戸が音を立てて緑茶を啜った。
 急須の取っ手を軽く握って鈴木にも勧めるが、鈴木は首を横に振る。
 
/ ゚、。 /「この時期に熱い緑茶なんて理解できない」
 
(‘_L’)「そうですか」
 
 好きなもの、嫌いなものは人によって様々だ。
 そして、得意なもの、苦手なものも。

562第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:48:17 ID:CUmEQ.Hs0
/ ゚、。 /「それにしても芽院の毒島って子、かなり無警戒だったね」
 
/ ゚、。 /「渡辺は明らかに染め手。索子を切るにしても筋なら放銃は避けられたのに、なんで筋を切らなかったんだろ?」
 
/ ゚、。 /「筋を理解してないとか?」
 
(‘_L’)「いえ、昨日の試合を見た限りでは、そういうわけでもなさそうです」
 
(‘_L’)「ただ、昨日に比べると明らかに様子が変ですね。心ここに在らず、といった感じです」
 
/ ゚、。 /「なんでだろ? 体調でも悪いとか?」
 
(‘_L’)「そうかもしれません。ただ、頻りに上家を気にしているようにも見えますね」
 
/ ゚、。 /「上家って、うちの渡辺だよね。なんでだろ?」
 
(‘_L’)「例えば、異性が苦手、とか」
 
/ ゚、。 /「まさか」
 
 女性にあまり慣れていないというのも、高校生であれば珍しい話でもなかった。
 しかし中には、女性に対するトラウマのようなものまで抱いている者もいるかもしれない、というのが水戸の意見だ。
 もしそうであれば、上手く打てなくなっているとしても合点がいく。
 
(‘_L’)「まぁ、可能性の一つに過ぎない話です。渡辺さんに一目惚れしてしまったとか、実は過去に会ったことがあるとか、そういうことも考えられます」
 
/ ゚、。 /「もし渡辺の影響だとしたら、オーダー変更は大正解だったね」
 
(‘_L’)「えぇ。本当は、渡辺さんと芽院高校の椎名さんをぶつけるためだったのですが」
 
/ ゚、。 /「あの子、かなり可愛いもんね」
 
(‘_L’)「大抵の男子は、気が漫ろになるでしょう。女性同士で戦わせるのがいい、と思ったのですが」
 
/ ゚、。 /「水戸は相手が絶世の美女でも平然としてそうだけどね。盛岡、どうだった?」
 
(´・_ゝ・`)「正直、確かに最初は少し緊張しました。徐々に慣れていけたとは思いますが」
 
 先鋒戦を終えた盛岡は控え室に戻っていた。
 トップは取れなかったが、僅差の二位。先鋒戦の結果としては上々だ、と水戸は考えていた。

563第6話 ◆azwd/t2EpE:2015/04/12(日) 17:51:59 ID:CUmEQ.Hs0
(‘_L’)「まぁ、毒島くんが対局に集中できていない理由が渡辺さんにあるとも限らないのですが」
 
/ ゚、。 /「単にお腹が痛いだけかもしれないしね」
 
(‘_L’)「えぇ。ただ、ひとつ確実に言えることは、他家の捨て牌もまともに見れない状態であるということ」
 
 水戸が再び湯呑を手に取る。
 軽く息を吹きかけ、ゆっくりと緑茶を口に含んだ。
 胸が、内側から熱くなる感覚を、水戸は堪能していた。
 
(‘_L’)「芽院高校から点を稼ぐなら、今が好機でしょうね」
 
/ ゚、。 /「だね」
 
(‘_L’)「できれば、根こそぎ奪ってしまいたいものです。点も、希望も、全国への切符も」
 
 湯呑を静かに置いて、水戸は再びモニターを観た。
 
 その瞳に、確かな情熱を宿しながら。
 全国への道程を見据えながら。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第6話 終わり
 
     〜to be continued

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