428登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:20:39 ID:ueJ0zPsY0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生


◇肯綮高校

■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生

■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生

■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生

■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生

■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

429大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:21:29 ID:ueJ0zPsY0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

430大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:22:35 ID:ueJ0zPsY0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

431大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:23:57 ID:ueJ0zPsY0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

432第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:25:31 ID:ueJ0zPsY0
【第5話:天穹に向かって歩く音】
 
 
 非接触型の認証機にICカードを翳し、室内を目にした瞬間、椎名が声を上げた。
 
(*゚ー゚)「すごーい! 部屋広い! 広すぎ!」
 
 鞄をソファに投げ出し、椎名がベッドに身を投じる。
 小麦の生地を伸ばす延べ棒のように、白い毛布の上を転がっていた。
 
(´・ω・`)「このベッド、シーリーのクラウンジュエルだね。全室そうなの?」
 
('、`*川「よく分かんないですけど、ここはいいベッド置いてあるみたいです」
 
( ^Д^)「テレビでけー。60インチくらいあるんじゃねーか?」
 
('A`)「これくらいないと、部屋の端からは観にくいですよね」
 
 軽く小走りできる程度の広さの部屋に、ベッドが三つ並べられている。
 更に、小さな階段を昇った先にはロフトがあり、そこにもベッドが二つあった。
 
( ^ω^)「テーブルの上のお菓子、食べていいかお?」
 
('、`*川「いいわよー。でも、みんなの分も残しといてね」
 
 卵型の黒いテーブルの前に座り、内藤はフィナンシェに手をつける。
 それを見た椎名もテーブルに駆け寄り、マドレーヌの包みを開いた。
 
( ^ω^)「それにしても本当に凄い部屋だお。泊まっちゃっていいのかお?」
 
('、`*川「運良く空室だったのよ。土曜の夜は大抵埋まってるって聞いたことある気がするけど」
 
( ^Д^)「親父さんにか?」
 
('、`*川「そうです、そうです」
 
 直後、伊藤の笑みが顔に貼りついたままとなる。
 ダース・ベイダーの登場シーンに使われる音楽が、伊藤のスマートフォンから鳴り出したためだ。
 
('、`;川「あっ、お父様。奈々です」
 
 椎名以外の全員が、目を見開いて伊藤を見た。
 声だけでは、誰が喋っているのか分からなかったためだ。
 上げた髪に和服が似合いそうな、淑やかな声だった。

433第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:29:48 ID:ueJ0zPsY0
('、`;川「はい。無事にホテルに到着致しました。ご心配をおかけし、申し訳ございません」
 
('、`;川「何かありましたらすぐに連絡致します。はい。失礼します」
 
 父親が見ていないにも関わらず、伊藤は自然と膝を折って床に正座し、頭を下げていた。
 スマートフォンを耳から離したあと、長く呼吸を止めていた後のように大きく息を吐く。
 
('、`;川「あーびっくりした。仕事中だから電話来ないだろうって油断してた」
 
(;^Д^)「ってか今の声は何だよ! 誰だよお前!」
 
('、`;川「誰も何も、私ですよ。家に居るときは、いつもあの声です」
 
(´・ω・`)「こっちがびっくりだったよ。躾が厳しいとは聞いてたけど、相当なものみたいだね」
 
('、`*川「家での振舞いには、もう慣れましたけどね」
 
(*゚ー゚)「私も初めて聞いたときはびっくりしたな〜。ペニちゃんじゃないみたいだった」
 
( ^ω^)「親父さんはそんなに怖い人なのかお?」
 
('、`*川「最近はあんまり怒られてないけどね、怒ると本当に怖い。こんな私が眠れなくなるくらい」
 
(;^Д^)「おいおい、そんな親父騙してんのかよ。やばいだろ、今の状況」
 
('、`*川「大丈夫ですよ。成田さんが上手くごまかしてくれてますから」
 
(´・ω・`)「ここの支配人だね?」
 
('、`*川「そうです。今まで何度も助けてくれた、良き理解者ってやつです」
 
(´・ω・`)「後でお礼を言いに行きたいな。会えるかな?」
 
('、`*川「大丈夫です、私のほうから伝えときます!」
 
(´・ω・`)「そっか、悪いね。じゃあ、よろしく頼んだよ」
 
('、`*川「はーい♪」

434第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:31:15 ID:ueJ0zPsY0
 皆が荷物を部屋の片隅に置いて、思い思いに寛いだ。
 笑野と毒島はテレビの前に座り、チャンネルを切り替えている。
 内藤と椎名はベランダに出て、伊勢湾を一望できる景色に目を輝かせていた。
 
(´・ω・`)「まずは夕飯だね。ここのレストランは、多分使わないほうがいいかな」
 
('、`*川「そうですねぇ、うーん。あんまり従業員の目につくと、父親にバレるかもしれないです」
 
(´・ω・`)「伊藤だけ別行動ってのも寂しいし、みんなで外に食べに行こうか」
 
('、`*川「気を遣っていただいて、すみません」
 
(´・ω・`)「いやいや、伊藤が謝ることなんて一つもないよ」
 
 初本が皆を呼び集め、外食に行くことを伝えた。
 加えて、行きたい店があるかどうかを初本が皆に尋ねると、真っ先に内藤の手が挙がる。
 
( ^ω^)「ここの近くにあるはずの『大和』ってお店、行ってみたいですお!」
 
(*゚ー゚)「あ、確かビュッフェ形式のお店だよね」
 
('、`*川「内藤らしいチョイスねぇ」
 
('A`)「一回行ったことあります。かなり混んでましたけど、美味しかったです」
 
( ^Д^)「俺も何回か行ったよ。揚げ物が多めで嬉しいんだよな」
 
(´・ω・`)「へぇ、なるほどね。僕は行ったことないけど行ってみたいな。そこでいいかな?」
 
 皆が賛成の意を示し、夕食を取る店はあっさりと決まった。
 時間は、まだ十八時になったばかりで、今の時間ならさほど混んでいないだろうと笑野は言った。
 財布やスマートフォンなどの最低限の荷物だけを持って、伊藤を除く五人が部屋を出る。
 
('、`*川「アタシはちょっと遅れて行きます。一緒に居るところ、見られるとマズイかもしれないんで」
 
('、`*川「クルマで送ってってもらうんで、お店には先に着いてると思いますけど」
 
(*゚ー゚)「じゃあ、また後でね!」

435第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:33:05 ID:ueJ0zPsY0
 事情を知らない従業員に見られると、父親に嘘が発覚するかもしれない、ということだった。
 もし父親の耳に真実が入ってしまった場合、一体どうなるのか、というのは全員が少なからず抱いた不安だ。
 
( ^Д^)「みんなで土下座っすよ、初本さん」
 
 初本が不安を口にしたところ、笑野は朗らかにそう言った。
 相変わらずだね、と初本は呟く。
 
(*゚ー゚)「内藤くんのときと一緒ですね。ダメだったら謝る!」
 
( ^ω^)「きっと伊藤のお父さんも僕みたいな紳士だお。だから大丈夫だお」
 
('A`)「どこの誰がだよ、おい」
 
 椎名と毒島は、明日が決勝だということを全く意識していないようだ、と初本は思った。
 変に固くなるよりは、そのほうがよほどいい、とも思っていた。
 
( ^ω^)「それより、バイキング、バイキング〜♪ 楽しみすぎるお!」
 
('A`;)「どんだけ食うのか見させてもらうよ」
 
 五人でホテルから出て、徒歩で店に向かった。
 ホテルは幹線道路に面しており、その道路を上り方面へ十分ほど歩いたところに店はある。
 クルマの往来は激しく、バンパーが夕日を照り返して道路に多くの光が生まれていた。
 
( ^Д^)「ホテルに帰ったら早速特訓っすか?」
 
(´・ω・`)「そうだね。少しでも内藤を鍛えないと」
 
( ^Д^)「椎名と毒島も、もっと強くなってほしいっすよね」
 
(´・ω・`)「特に伸び代が大きいのは、椎名かな。すぐ強くなるとしたらね」
 
( ^Д^)「そうっすね。まだまだ伸びる余地があるっす」
 
(´・ω・`)「今日は内藤をメインで鍛えるけど、椎名にも適宜指導していこう」
 
( ^Д^)「了解っす」

436第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:34:53 ID:ueJ0zPsY0
 その後、店の看板が見えると内藤はダッシュで店内に駆け込んだ。
 苦笑して他の四人も後を追う。
 
 店内の待機席には既に伊藤が座っていた。
 
('、`*川「順番待ちの紙に名前書いときましたよー」
 
( ^Д^)「ナイス!」
 
 店内は、入り口から向かって左側に料理が並び、右側に席が並ぶ構造だった。
 三十ほどあるテーブルは全て埋まっており、席が空くのを待っている客も十人ほどいる。
 料理を運ぶ店員、料理を取りに行く客と、人が忙しなく動いていた。
 
 内藤たちが到着したとき、既に順番待ちの紙は伊藤より上の名前に線が入っていた。
 程なくして名前を呼ばれると、内藤がすぐにプレートを持って料理コーナーへと向かっていく。
 
(;'A`)「あいつあんなにコテコテのデブキャラだったのか、知らなかった」
 
('、`;川「必死すぎでしょ」
 
(*゚ー゚)「太りすぎないように注意だよね。今はちょっとぽっちゃりくらいだけど」
 
('、`*川「アンタも食べ過ぎちゃダメよ。スタイルキープしないと」
 
(*゚ー゚)「大丈夫! そのへんはちゃんと気をつけるよ」
 
 それぞれがプレートを持って料理コーナーへと向かう。
 既に内藤は牛肉コロッケ、鶏の唐揚げ、春巻き、ローストビーフ、グリーンサラダ、南瓜の煮物をプレートに載せながら歩き回っていた。
 
('、`*川「意外と野菜も食べるんですねぇ、内藤」
 
(;^Д^)「とは言っても肉が多いけどな」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃん! お寿司取りに行こう! 美味しそう!」
 
('、`*川「お、いいね。行こう行こう」

437第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:36:09 ID:ueJ0zPsY0
 それぞれが思い思いに料理をプレートに載せ、最後にドリンクをグラスに注いで席に着く。
 最後に着席した毒島が箸を手に取る頃には、既に内藤はほとんどの料理を胃袋に収めていた。
 
(;'A`)「食うの早すぎだろ」
 
( ^ω^)「時間制限がある以上、のんびりはしていられないんだお」
 
(´・ω・`)「よく噛んで食べなよ、消化に悪いから」
 
( ^ω^)「高速咀嚼を会得してるから大丈夫ですお!」
 
(;^Д^)「あの小刻みな顎の動きは、そういうことだったのか」
 
( ^ω^)「最小限の動きで素早く食べ物を噛み砕いてるんですお」
 
('、`*川「食に対する情熱は半端じゃないわね」
 
 その後も内藤は皿が空になる度に席を立ち、山を築き上げては席に戻って山を崩す。
 四つ目の山が炒飯のみだったときは、周りの部員たちの呆れを誘っていた。
 
(´・ω・`)「よくあれだけ食べられるもんだね」
 
( ^Д^)「胃下垂っすよ、きっと」
 
('、`*川「アタシもうお腹いっぱいです。なんか、内藤の食べっぷり見てたらこっちが満腹にさせられた感じで」
 
(*゚ー゚)「凄いよね、ほんと。私はもう少し食べたい気もするけど、このくらいにしとこっかな」
 
('A`)「僕はもうちょっと取ってきます」
 
(´・ω・`)「僕もあっさりしたものなら食べれそうだ。取りに行ってくるよ」
 
 毒島の後を追うように初本は席を立ち、料理が並べられたコーナーへ向かった。
 揚げ物が揃っている大皿の近くには内藤が陣取り、またも山を作ろうとしている。
 初本は苦笑して、ポテトサラダとコールスローを皿に盛りつけた。

438第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:37:10 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)(あとは、ビーフンでも食べようかな)
 
 豚肉や玉ねぎなどと一緒に焼かれたビーフンを取るべく、初本は麺類コーナーへ足を向ける。
 その途中、ふと目をやったドリンクバーに、見覚えのある横顔があった。
 
 初本は麺類コーナーから足先を逸らして、ドリンクバーへ向かう。
 そして、やや丸まった背中を二度ほど人差し指で突いた。
 
(´・ω・`)「杉浦くん」
 
( ФωФ)「む。なんと、初本殿であるか」
 
 明日の決勝で芽院高校と戦う、陶冶高校の大将を務める、杉浦浪漫。
 初本にとっては、昨年の県大会で戦った相手でもある。
 攻守のバランスが良く、先を見通す力に長けた、県内屈指の打ち手だ。
 
( ФωФ)「芽院高校も、麻雀部での会合のようであるな」
 
(´・ω・`)「ってことは、陶冶高校も他の部員が来てるんだね」
 
( ФωФ)「そのとおりである。明日の決勝に向けて英気を養っているところであるよ」
 
 低く渋い声に、芝居じみた台詞がよく似合う。
 同い年とは思えないな、と初本は感じた。
 
( ФωФ)「芽院高校は今日の試合、大将が打たずして終わったそうであるな。完勝であるか」
 
(´・ω・`)「いやぁ、運に恵まれただけだよ。そっちも、副将戦で終わったみたいだね」
 
( ФωФ)「肯綮高校には上手く打たれてしまったである。明日は雪辱戦であるな」
 
(´・ω・`)「杉浦くんが副将だったら、間違いなく大将戦まで回ったんだろうけどね」
 
( ФωФ)「仮定の話をしても詮無きことである。二位でも決勝に進出できたことを良しとするである」

439第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:38:10 ID:ueJ0zPsY0
 陶冶高校は、杉浦の力が抜けている。
 そのため、副将戦までは水戸率いる肯綮高校に上手くやられてしまっていた。
 初本の言葉は、月並みな世辞ではなく、本心だった。
 
( ФωФ)「ただ、明日は出番が回ってきそうである。どこかが単独で抜け出すことは、想定しにくいであるよ」
 
(´・ω・`)「同感だね」
 
 初本は、そう嘯いた。
 実際には、陶冶高校大将の杉浦が打つ展開になると、芽院高校にとっては絶体絶命の危機だ。
 杉浦と同じ卓には、内藤が座ることになるためだ。
 
 死に物狂いで、何としてでも、他校を蹴落とす。
 副将戦までに全てを終わらせる。
 それが、芽院高校が全国へと歩を進められる唯一の道だった。
 
( ФωФ)「初本殿は、明日も中堅であるか?」
 
(´・ω・`)「まだ分からないけど、その可能性が高いかな」
 
( ФωФ)「対局が叶わぬのであれば、誠に残念であるよ」
 
(´・ω・`)「僕もだよ、杉浦くん」
 
 初本はそう答えたが、自分の気持ちが判然としなかった。
 昨年の県大会決勝では、杉浦に満貫を振り込まされ、一時は逆転を許したのだ。
 最終的には辛くも再逆転し、先輩にバトンを渡したが、相当に拮抗した戦いを初本は強いられた。
 
 再び対戦するとなれば、喉が乾き切るほどの緊迫した試合となるだろう。
 だからこそ初本は、杉浦と再戦したいのかどうか、自分でも分からないでいた。
 
( ФωФ)「しかし、今回は別の楽しみができたであるよ」
 
(´・ω・`)「ん?」
 
( ФωФ)「大将に据えるのであろう? 『ホライゾン』を」

440第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:39:35 ID:ueJ0zPsY0
 初本が思っている以上に、広まっていた。
 一年生の内藤が、ネット界最強雀士の『ホライゾン』であるという噂が。
 
 初本は、なんとか苦笑を堪える。
 
(´・ω・`)「杉浦くんも知ってたんだね、『ホライゾン』の話」
 
( ФωФ)「無論であるよ。そちらとの再戦も、心待ちにしていたである」
 
(´・ω・`)「ん? 再戦?」
 
( ФωФ)「ネットで一度、戦ったであるよ。およそ二か月ほど前に」
 
(´・ω・`)「へぇ」
 
 初本にとっては意外なことだった。
 しかしすぐ、そういう人がいてもおかしくないな、と思い直す。
 周りに打てる人がそう多くない高校生は、ネットの麻雀に対局の場を求めることが多いからだ。
 
( ФωФ)「神懸かり的な読みの力でほとんど放銃せず、自分が和了れるときは確実に和了る」
 
( ФωФ)「自分の当たり牌を他者が抱えて放さないと悟ると、待ちを変えて和了ることもある」
 
( ФωФ)「どこにどの牌があるのか、全て見通しているような打ち方は、正に噂通りであった」
 
(´・ω・`)「神の目、か」
 
( ФωФ)「いかにも」
 
 神の目を持つ打ち手。
 ホライゾンがそう呼ばれていることは、初本も知っていた。

441第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:40:25 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「その口ぶりだと、負けたみたいだね、杉浦くんでさえ」
 
( ФωФ)「完膚無きまでに叩きのめされたである。清々しいほどに」
 
(´・ω・`)「それほどの完敗を喫しても尚、再戦を望むのかい?」
 
( ФωФ)「無論であるよ」
 
 杉浦が口元を緩めて笑った。
 しかし、猫のような目は鋭いままだ。
 
 初本はそんな杉浦を、少し、羨むような目で見つめる。
 
( ФωФ)「同輩が待っているである。そろそろ失礼するである」
 
(´・ω・`)「明日はよろしく。いい勝負をしよう」
 
( ФωФ)「血が躍るような熱戦を心待ちにしているであるよ」
 
 手に持った烏龍茶を軽く呷って、杉浦が初本に背を向けた。
 歩いて行った先は、ちょうど初本たちの席からは反対側に位置し、壁に遮られて見えない席だった。
 
( ^ω^)「おっ。初本さん、締めのサラダですかお?」
 
 初本も席に戻ろうとしたとき、チキンカツやメンチコロッケ、白身魚のフライなどを皿に載せた内藤が傍に寄ってきた。
 そのまま初本の隣にあった、透明なプラスチックのコップを手に取り、コーラを並々と注ぐ。
 
(´・ω・`)「まだ食べられるなんて、驚きだよ。お腹壊さないようにね」
 
( ^ω^)「ちゃんとセーブしてますお」
 
 満面の笑みでそう答える内藤。
 これでも極端に太っていないということは、笑野の言うとおり胃下垂なのだろうか、と初本はぼんやり考える。

442第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:41:33 ID:ueJ0zPsY0
( ゚ω゚)「はっ! 厨房のほうからトンカツの揚げ終わった音が聞こえましたお!」
 
( ゚ω゚)「揚げ物コーナーで待機してきますお!」
 
(´・ω・`)「程々にね」
 
 食のことになると、エスパーじみた能力さえ発揮するのだろうか。
 初本はそう考え、苦笑しながら席に戻る。
 ビーフンを食べる気力は失っていた。
 
 初本が席に戻ると、芽院高校の面々は既に食べ終え、雑談しているところだった。
 
(´・ω・`)「さっき、陶冶高校の杉浦くんに会って、少し話してきたよ」
 
( ^Д^)「あ、初本さんも会ったっすか? 俺は話してないっすけど」
 
(*゚ー゚)「陶冶高校の大将ですよね。ちょっと猫っぽい目の」
 
(´・ω・`)「そうだね。『ホライゾン』と戦うのを楽しみにしてるってさ」
 
('A`;)「その期待は裏切っちゃいますね」
 
( ^ω^)「おっおっおっー、トンカツトンカツ〜」
 
 渦中の人物は陽気な歌声と共に戻ってきた。
 皿の上は絶妙なバランスによって揚げ物の城が築かれている。
 
(´・ω・`)「それを食べ終わったら、ちょうど時間制限くらいかな」
 
( ^ω^)「了解ですお! ちゃんと制限は守りますお!」
 
( ^Д^)「ホテル帰ったら明日のために特訓始めるぞー。内藤だけじゃなくて、椎名も毒島も」
 
(*゚ー゚)「頑張ります! ぜったい優勝して全国に行きましょう!」
 
('A`)「僕も、何としてでも優勝したいです。特訓頑張ります」
 
(´・ω・`)「うん、一緒に頑張ろう」

443第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:42:51 ID:ueJ0zPsY0
 十分から十五分ほどで内藤が揚げ物を食べ終え、最後に全員がドリンクを一杯飲んでから店を後にした。
 入店した頃は夕日が眩しかったが、既に日は落ち、車のヘッドライトで歩道が照らされている。
 
( ^Д^)「あー、腹パンパンだ。もう米一粒さえ入んねー」
 
('A`)「笑野さんもかなり食べてましたもんね」
 
( ^Д^)「けっこう食うほうなんだけどな、俺も。内藤がいたら霞むけど」
 
( ^ω^)「あんまり食べ過ぎたらお腹壊しちゃいますお」
 
(;^Д^)「なんつー説得力のなさだよ」
 
(*゚ー゚)「あれだけ食べたら満腹すぎて身動きできなくなりそう」
 
( ^ω^)「動けなくなるほど食べてみたいもんだお」
 
(*゚ー゚)「私が同じくらい食べたとしたら、もう一歩も動けなくなって、お風呂にも入れず、メイクも落とさないまま――――」
 
(;゚ー゚)「あっ」
 
 幹線道路の歩道を五人で並び歩き、ホテルの入り口が見えてきた頃だった。
 椎名は、不意に思い出したように、声を上げた。
 
(;゚ー゚)「メイク落とし、家に忘れちゃいました」
 
( ^Д^)「マジか。家に戻るのか?」
 
(*゚ー゚)「や、コンビニで買ってきます! みんなは先に戻っててください!」
 
 ホテル近くのコンビニは歩いて数分のところにあった。
 ただし、既に見えているホテルまでの道のりからは逸れてしまう。

444第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:44:55 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「いやいや、こんな夜道を女の子一人で歩かせるわけにいかないよ」
 
( ^Д^)「そうっすね、椎名なら尚更っす」
 
(;゚ー゚)「や、ほんとに大丈夫です! 一緒に来てもらうのはとっても気が引けます!」
 
('A`;)「で、でも、そうは言っても」
 
( ^ω^)「じゃあ僕が一緒に行きますお。みんなは先にホテルに行っててくださいお」
 
 夕方よりも少し膨らんだお腹を弾ませながら、内藤が手を挙げた。
 意外だな、と初本と笑野は感じたが、毒島にはすぐ理由が分かった。
 
('A`)「お前、またコンビニで買い食いしたいだけだろ」
 
(;^ω^)「うっ。い、いや、可憐で麗しい椎名さんが暴漢に襲われないかと、生まれついての紳士である僕は心配で堪らなくて」
 
(*゚ー゚)「あはは。なんだ、そっか。じゃあ、ブーンくん一緒に行こう!」
 
(*゚ー゚)「それから、私のことは『しぃ』って呼んでね。今朝約束したのに、忘れてたでしょ」
 
( ^ω^)「おっ、そうだったお。ごめんだお、しぃ」
 
(´・ω・`)「じゃあ、よろしく頼んだよ、内藤。僕たちは先に戻ろう」
 
(*゚ー゚)「あ、ついでにお菓子買っていきます! 楽しみにしててください!」
 
(´・ω・`)「ありがとう。それじゃ、また後で」
 
 それぞれ手を振って、一旦別れた。
 内藤と椎名は道を逸れ、まっすぐ進めば駅に到達する道を歩いていく。
 街灯は多く、人通りもあるため、それほど危なくはない道だった。
 
(*゚ー゚)「ブーンくん、この前は、ほんとにごめんね」
 
( ^ω^)「おっ?」
 
(*゚ー゚)「ブーンくんを騙すような形で、無理やり引き入れちゃったこと」
446第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:46:51 ID:ueJ0zPsY0
 既に一度謝っていることではあった。
 それでも椎名は、まだ心に引っ掛かりが残っていたのだ。
 手の指にできた、小さなささくれのような、微かな痛みを伴う引っ掛かりだった。
 
(*゚ー゚)「昨日まで引越しの手伝いで大変だったのに、今日明日は私たちに付き合わせちゃってるしさ」
 
(*゚ー゚)「私たちの都合で振り回しちゃってるのに、碌にお礼もできてないから、申し訳ないなって」
 
( ^ω^)「気にしなくていいお。僕は僕なりに、けっこう楽しんでるんだお」
 
(*゚ー゚)「ほんと?」
 
( ^ω^)「麻雀のことはまだよく分からないし、覚えるのは大変だけど、麻雀部の人たちはみんな良い人だお」
 
( ^ω^)「突然加わった僕のことも、まるで昔からの部員みたいに親しく接してくれるから、居心地抜群だお」
 
 無理やり引き込んでしまったという負い目がある。
 それ故の優しさも混じっているのだろう、と内藤は理解していた。
 ただ、それを差し引いたとしても、麻雀部の五人は気兼ねなく接せる相手だったのだ。
 
( ^ω^)「まだまともに打ったこともない麻雀を、好きだとはとても言えないお」
 
( ^ω^)「でも、みんなと一緒に打つならきっと、楽しくなるんじゃないかなって」
 
( ^ω^)「今は、そう思ってるんだお」
 
 湿気の多い夜道の空気を、涼風が駆け抜ける。
 暗闇に溶け込む内藤の髪と、ほのかに茶色がかった椎名の髪が揺れた。
 
( ^ω^)「だから、頑張って覚えてみるお。僕なりに、精一杯やってみるお」
 
(*゚ー゚)「うん。本当に、ありがとね、ブーンくん」

447第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:47:46 ID:ueJ0zPsY0
 見合って、自然と笑顔を浮かべる二人の足は、やがてコンビニへと辿り着いた。
 店内に入ってすぐ、椎名は日用品などのコーナーに行き、化粧落としを探す。
 そこをスルーした内藤は、すぐさま買い物カゴにアイスとサンドイッチとおにぎりを入れた。
 
( ^ω^)「夜食の補充は完璧だお。あとはお菓子だお」
 
(*゚ー゚)「メイク落としもあって良かった。お菓子いっぱい買おう!」
 
 椎名が買い物カゴに化粧落としを入れたあと、二人並んでお菓子を物色した。
 ポテトチップス、じゃがりこ、ポッキー、トッポ、カントリーマアム、アルフォートなど、二人の好きなお菓子が次々に買い物カゴに投入される。
 
(*゚ー゚)「あとは、ペニちゃんが好きなメルティキッスと、初本さんが好きなキャラメルコーンと、笑野さんが好きなブラックサンダー!」
 
( ^ω^)「毒島は確かハッピーターンとかチーズおかきとかが好きだったお。ついでに買ってってやるお」
 
(*゚ー゚)「あ、きのこの山とたけのこの里も買おう! ブーンくんはどっちが好き?」
 
( ^ω^)「言わずもがな、きのこの山だお」
 
(*゚ー゚)「なんで? チョコ部分が多いから?」
 
( ^ω^)「カロリーは美味しさを表す数値なんだお。カロリーの高いきのこの山のほうが上を行くんだお」
 
(*゚ー゚)「あはは。私はたけのこの里の食感が好きだなー。人それぞれだよね」
 
( ^ω^)「だおだお。じゃあ、そろそろレジに行くお」
 
 もうほとんどお菓子が入りそうにない買い物カゴを持って内藤がレジへ向かう。
 合計金額は三千円をいくらか超える程度で、二人で二千円ずつを出して会計し、お釣りは内藤が椎名に全額を渡した。
 どうせ僕のほうがいっぱい食べるから、と内藤が朗らかに笑って言うと、椎名も納得して財布にお釣りを収める。

448第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:48:46 ID:ueJ0zPsY0
(;^ω^)「おっ、しぃってモデルなのかお?」
 
 コンビニを出て、再びホテルへと向かいだした二人。
 中学の時はどういう部活をやっていたか、という話になったとき、内藤は思いもよらぬ事実を知った。
 
(*゚ー゚)「そうだよー。小学生になったくらいのときから、ずっとやってるの」
 
( ^ω^)「ってことは、もう十年くらいかお?」
 
(*゚ー゚)「うん、それくらいかな」
 
( ^ω^)「全然知らなかったお。だから、中学のときは部活に入ってなかったのかお」
 
(*゚ー゚)「ほんとは、どっかに入りたかったんだけどね。平日も休日も、いつ仕事になるか分からなくて」
 
( ^ω^)「あんまり練習できそうにないから入るのをやめた、ってことかお?」
 
(*゚ー゚)「うん。中途半端は嫌だったから」
 
(*゚ー゚)「でも、別に部活に入ってなくても、クラスのみんなは話しかけてくれるし、学校休んだときはノートを取ってくれたりしてたの」
 
(*゚ー゚)「なかなか一緒に遊びに行ったりはできなかったけど、休み時間はみんなと楽しく喋ったりもできてたし、友達も多いほうだって思ってたんだ」
 
(*゚ー゚)「そのときは、まだ」
 
( ^ω^)「お? そのときは、って」
 
(*゚ー゚)「中学三年生になって、私、進路に悩んだの。仕事に対して理解のある私立にするか、普通の公立に行くか」
 
(*゚ー゚)「で、誰かに相談しようって思ったときに、気づいちゃったんだ」
 
(*゚ー゚)「真剣に悩みを話せる友達なんて、一人もいないってことに」

449第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:50:41 ID:ueJ0zPsY0
 夜道を歩く二人の頭上にある街灯が、明滅を繰り返していた。
 時間をかけて、ゆっくり明るくなったかと思えば、瞬時に光が消える。
 再び明かりを灯すまでには、少し時間がかかっていた。
 
(*゚ー゚)「改めて思い返してみると、みんな、モデルとして活動してる私と仲良くしたかっただけだったの」
 
(*゚ー゚)「もちろん、それはそれで嬉しいことではあるんだけどね」
 
(*゚ー゚)「一人の中学生、椎名愛実と仲良くしたかったわけじゃないってことに、気づいちゃって」
 
(*゚ー゚)「なんか、一気に世界が変わったっていうか。どうしようもない孤独感に襲われちゃって」
 
(*゚ー゚)「学校での振る舞いは変えなかったけど、それからは、仕事だって嘘ついて学校休んだことも何回かあったかな」
 
(*゚ー゚)「今更、落ち着ける居場所なんて、きっと作れないんだろうなぁって思っちゃったし」
 
(;^ω^)「おっおっ。その感じだと、もう仕事一筋でいくことに決めたのかと思っちゃうお」
 
( ^ω^)「でも、公立の芽院高校に来たってことは」
 
(*゚ー゚)「うん。やっぱ、ちゃんと友達作って、部活とか遊びとかもしっかり楽しむ学校生活を送りたいって思ったんだ」
 
(*゚ー゚)「だから、仕事は少しセーブしてほしいって事務所に頼んで、もし仕事するとしてもなるべく土日だけにしてもらうようにしたの」
 
(*゚ー゚)「それだったら、放課後の部活には参加できるでしょ?」
 
( ^ω^)「おっおっ、確かにだお」
 
(*゚ー゚)「でもね、芽院高校でも危うく中学と同じことになりかけたの」
 
( ^ω^)「お?」

450第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:52:34 ID:ueJ0zPsY0
(*゚ー゚)「当時、というか今もだけど、ネット広告のモデルとして起用してもらっててね。その広告画像が、Yahooとかに載ってたの」
 
(*゚ー゚)「で、うちの高校でもけっこう早い段階で、私のことが知れ渡っちゃって」
 
(;^ω^)(全然知らなかったお)
 
(*゚ー゚)「中学のとき、仕事があるから部活やってなかったって話も、上級生にまで広まっちゃって」
 
(*゚ー゚)「入学したあとの部活勧誘でも、どこも声かけてくれなかったんだ。みんなに、遠慮されてたみたいで」
 
(;^ω^)「それは、辛すぎるお」
 
(*゚ー゚)「もちろん、自分から入部したいって言えばそれで済む話なんだけどね」
 
(*゚ー゚)「でも、一度遠慮されちゃってると中々踏み出せないし、仮に入部しても壁ができちゃうんじゃないかって思って」
 
(*゚ー゚)「どうしよう、どうしようって悩んでたんだけどね」
 
(*゚ー゚)「そんなときに、初本さんと笑野さんが声をかけてくれたんだ」
 
 
 ◆
 
 
 前日の雨で作られた、桜の花びらの絨毯の上を椎名は歩いていた。
 一時間前には、期待と不安の入り混じった気持ちを持って進んだ道。
 今は、期待だけを失ったまま引き返していた。
 
(*゚ -゚)(どうしよう)
 
 一通り、部活の勧誘ブースは見て回った。
 ソフトボール部、バレーボール部、吹奏楽部、演劇部などは活気があり、大声で勧誘していた。
 そのいずれにも、椎名は声を掛けられることがなかった。

451第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:53:22 ID:ueJ0zPsY0
(*゚ -゚)(周りの子は、声かけられてたのになぁ)
 
 椎名の姿を見ると、大声が小声に変わり、何かを囁きあっていた。
 その光景は、椎名を委縮させるには充分すぎた。
 
 ネットの広告に使われたことが、やはり影響としては大きかった、と椎名は思った。
 ほとんどの学生が所持しているスマートフォンで、簡単に見ることができるからだ。
 会ったこともない上級生までが、椎名の顔を知っていた。
 
(*゚ -゚)(土日に部活できないのも厳しいのかな)
 
 手に持った、部活紹介のパンフレットに視線を落とす。
 そこには部活の活動時間一覧が載っており、ほとんどの部活は土日に練習の可能性があるとのことだった。
 特に運動部は、原則的に土曜日の練習があると記載されている。
 
 椎名の仕事は、毎週あるわけではないものの、休日の練習を頻繁に休むとなれば軋轢も生じかねない。
 何より、部活を心から楽しむことができない、と椎名自身が思っていた。
 
 自分の居場所を作ることなんてできない、と感じていたのだ。
 
(*゚ -゚)(やっぱ、仕事と学校の両立なんて、諦めたほうがいいのかな)
 
(*゚ -゚)(どっちも中途半端になるくらいだったら、いっそ、平日もお仕事入れてもらったほうが――――)
 
(´・ω・`)「ごめん、ごめん。ほんとごめん」
 
(;^Д^)「やばいっすよ! もうほとんどの新入生取られちゃってる頃っすよ!」
 
(´・ω・`)「いや、ほんとに申し訳ない」
 
(*゚ -゚)(うん?)
 
 慌ただしく二人の男子が昇降口から飛び出してきた。
 胸の校章の色は、青と緑。二年生と三年生だった。

452第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:54:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「突然電話がかかってきてさ。早く切りたかったんだけど、なかなか切らせてくれなくて」
 
(;^Д^)「こんな大事なときに電話なんて、ありえないっす! あとで掛け直せば良かったじゃないっすか!」
 
(´・ω・`)「いや、すぐ出ないと怒ってくる相手でさ。なるべく早く終わらせようとはしてたんだけど」
 
(*゚ -゚)(新入生の勧誘に行くのかな?)
 
 二人が何部なのかは椎名には分からない。
 しかし、ほとんどの部活が部員総出で勧誘していたが、この部活にはあまり人が居ないようだ。
 恐らくはマイナーな部活だ、と椎名は曖昧に推測する。
 
(;^Д^)「ブースの準備はしたっすけど、まだ全然声かけてないっすよ! マジでヤバイっす!」
 
(´・ω・`)「これはもう、ダメかもわからんね」
 
(;^Д^)「いやいや、諦めるの早すぎですって! まだ決めかねてる一年生も少しくらいは――――」
 
( ^Д^)「おっ!」
 
(;゚ー゚)「え?」
 
 二人の上級生は足早に椎名の側を駆け抜けようとした。
 しかし、すれ違いざまに椎名の校章を確認した二年生が急ブレーキを掛ける。
 慌てて三年生も足を止めた。
 
( ^Д^)「一年生! 一年生っすよ!」
 
(´・ω・`)「ほんとだ。でも、もう勧誘ブースに行った後じゃないかな?」
 
( ^Д^)「とりあえず声かけてみるっす! おーい!」
 
(;゚ー゚)「あっ、はい」
 
 大声に呼応して、椎名も歩み寄る。
 先ほどは、誰も掛けてくれなかった声に。

453第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:55:38 ID:ueJ0zPsY0
( ^Д^)「一年生みたいだけど、どの部活に入るか決めた?」
 
(;゚ー゚)「や、まだ決めてなくって」
 
( ^Д^)「チャーンス! 俺は笑野、こっちの先輩は初本さんっていうんだけど、君は?」
 
(;゚ー゚)「えっと、名前は、椎名っていいます」
 
 椎名は一瞬、名乗るのを躊躇いかけた。
 しかし、そのことを思考する間もなく笑野は声を弾ませる。
 
( ^Д^)「椎名! 燃え滾るほどの熱き戦いが君を待っている!」
 
( ^Д^)「俺たちと一緒に『麻雀』の世界で全国制覇を目指そう!」
 
(;゚ー゚)「ま、麻雀?」
 
 椎名にとってはあまりにも予想外な単語が出てきた。
 麻雀。今までに打ったことはなく、誰かが打っているところを見たことさえなかった。
 
(;゚ー゚)「私、麻雀のルール知らないですよ? 戦力になれそうもないですし、全国制覇なんて、さすがにちょっと」
 
( ^Д^)「そんなの全然OKだ! 素人だってプロに勝てるのが麻雀だぜ!」
 
(*゚ー゚)「えっ、そうなんですか?」
 
( ^Д^)「おう! やってみれば楽しさは分かる! 何なら早速」
 
(´・ω・`)「ちょっと笑野、強引すぎるってば。落ち着いて」
 
(´・ω・`)「ごめんね、椎名さん。突然こんな、無理やりな勧誘しちゃって」
 
(*゚ー゚)「あ、いえ」
 
 優しい声の三年生、初本が笑野と椎名の間に入る。
 それでも笑野はまだ興奮している様子だった。

454第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:56:54 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「笑野が言ったとおり、僕たちは麻雀部だ」
 
(´・ω・`)「去年、三年生が抜けて、部員が足りなくてね。何としても新入生に入ってもらいたいところではあるんだけど」
 
(´・ω・`)「もちろん椎名さんの意思が一番大事だから、とりあえずは、候補の一つに入れてもらえたら」
 
( ^Д^)「そんな悠長なこと言ってたら絶対他に取られちゃいますって! こんなチャンスはもうないと思わないと!」
 
(´・ω・`)「いや、そうは言っても」
 
( ^Д^)「椎名、明日からの君は今日までとは違う君だ! 新しい世界に踏み出そう!」
 
 
( ^Д^)「君の居場所がそこにある!」
 
 
(*゚ー゚)「!!」
 
 ――――それは、笑野が勢いに任せて放っただけの一言。
 しかし、ぴたりと当てはまる一言だった。
 
 椎名の心の隙間に嵌まるピースだった。
 
(´・ω・`)「まったく、強引すぎるよ。ごめんね椎名さん」
 
 初本の、本来ならば心が落ち着くような声も、今の椎名には全く意味がなかった。
 羽のついた心は、今にもふわりと浮かび上がりそうだったのだ。
 
(´・ω・`)「ただ、本当に麻雀部は部員が足りなくてピンチだ。もし入部を検討してもらえるなら嬉しい」
 
(´・ω・`)「もちろん、検討に時間はかけてくれていいし、今度よかったら見学にでも――――」
 
(*゚ー゚)「いえ、私、もう決めました」
 
(´・ω・`)「ん?」

455第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:57:58 ID:ueJ0zPsY0
 羽ばたきだしそうな心を抑えるように、椎名は胸元に手を置いた。
 そして、意を決して発した言葉は、少し上ずりながらも、はっきりと二人に向かっていった。
 
(*゚ー゚)「私、入ります。麻雀部に、入部させてください」
 
(´・ω・`)「!!」
 
( ^Д^)「マジか!?」
 
 いつか、心に生えた羽が、背中に移るような。
 そして、背中の羽をいつでもそこで、心置きなくゆっくり、休められるような。
 
 そんな予感が、椎名にはあった。
 
(´・ω・`)「いや、笑野が強引に誘ってしまって、断りづらくて無理をしてるようなら」
 
(*゚ー゚)「そういうんじゃなくて、本当に入りたいんです。完全に素人ですし、ご迷惑をおかけするとは思いますけど」
 
( ^Д^)「大丈夫だ! ルールなんてすぐ覚えられるし、すぐ強くなれる!」
 
(´・ω・`)「そうだね、ルールは僕たちが教えるよ。6月に大会があるから、とりあえずそこを一つの目途にして頑張ろう」
 
(*゚ー゚)「あっ、でも私、土日は部活に参加できないかもしれないんですけど、大丈夫ですか?」
 
(´・ω・`)「基本的には大丈夫。僕も土日は大抵バイトだし」
 
( ^Д^)「俺も家の店の手伝いがあるしなー」
 
(´・ω・`)「ただ、6月の県大会は土日だ。そこは大丈夫?」
 
( ^Д^)「毎週とかじゃなくて、二日間で終わるけど」
 
(*゚ー゚)「あ、それなら全然大丈夫です! 空けてもらえるように調整します!」
 
(´・ω・`)「良かった。じゃあ、これからよろしく」

456第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 20:58:41 ID:ueJ0zPsY0
 初本が大きな右手を差し出した。
 椎名が握り返すと、程よい暖かみが伝わる。
 
( ^Д^)「よろしく頼むぜ!」
 
 笑野が無骨な右手を前に出す。
 椎名も右手で応じると、力強さが伝わってきた。
 
(*゚ー゚)「よろしくお願いします!」
 
 
 ◆
 
 
(*゚ー゚)「初本さんと笑野さんは、私がモデルやってること知らなくて」
 
(*゚ー゚)「新入生にそういう子がいるって、噂では聞いたことあったらしいんだけど、顔までは分からなかったって言ってた」
 
( ^ω^)「なるほどだお。だから、遠慮なく声かけたのかお」
 
(*゚ー゚)「まぁ、笑野さんは『知ってても声かけたかも』って言ってたけどね」
 
(;^ω^)「笑野さんらしいお」
 
 二人が話に夢中になっていると、いつの間にかホテルの入り口まで到達していた。
 ラウンジを抜けてエレベーターに乗り込み、『12』と書かれたボタンを押す。
 動き出した瞬間は少し揺れたが、そのあとは微動さえ感じずに十二階へと二人を運んだ。
 
 コンビニで買ったお菓子などが入った袋を内藤が握り直し、フロアの奥にある1201号室へと向かう。
 椎名がノックすると、すぐに内側から扉が開かれた。

457第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:04:27 ID:ueJ0zPsY0
( ^Д^)「おー、お帰り。遅かったな」
 
(*゚ー゚)「すみません。お菓子選ぶのに時間かかっちゃって」
 
('、`*川「あ、もう買ってきてくれたの?」
 
(*゚ー゚)「うん、コンビニ行ったついでにね」
 
( ^Д^)「あとで割り勘だな」
 
 内藤と椎名が部屋に入ったとき、まず目に付いたのは雀牌だった。
 正方形のテーブルにマットが敷かれ、その上に整然と雀牌が並べられている。
 夕食前にはなかったものだ。
 
(´・ω・`)「ご飯を食べた後、伊藤が学校に戻って取ってきてくれたんだ」
 
(*゚ー゚)「さすがペニちゃん!」
 
('、`*川「マネージャーとして、これくらいはやんないとね」
 
(´・ω・`)「早速だけど始めよう、内藤」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
 テーブルの周りに四脚の椅子が置かれ、初本、内藤、椎名、毒島が座った。
 笑野と伊藤は側にあるベッドに腰掛けてトッポを摘んでいる。
462第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:37:52 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「改めてルールの基礎から説明していくよ。復習も兼ねてね」
 
(´・ω・`)「まず、麻雀は四人でやるゲームだ。それぞれが得点を競い、最終的に最も得点を稼いだ人の勝利になる」
 
(´・ω・`)「ゲームに使うのは麻雀牌。略して雀牌とも言うね」
 
(´・ω・`)「雀牌には様々な絵柄が彫られている。つまり、雀牌には色んな種類がある」
 
(´・ω・`)「色んな雀牌を組み合わせて、『四面子一雀頭』を作ることが麻雀の基本になる」
 
(´・ω・`)「麻雀は牌を組み合わせて『役』を作る必要があるんだけど、ほとんどの役は四面子一雀頭の形に沿ってるんだ」
 
(´・ω・`)「内藤、雀頭と面子については説明されたかい?」
 
( ^ω^)「確か、雀頭っていうのは全く同じ絵柄の牌を二枚集めた形ですお」
 
( ^ω^)「面子っていうのは、全く同じ絵柄の牌を三枚集めた形か、同じ種類の牌で連続した数字を三枚集めた形ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおりだね、正解だよ。よく覚えたね」
 
(´・ω・`)「つまり、四雀頭一面子っていうのは、面子の形になった三つの牌の組み合わせを四つ、雀頭の形になった二つの牌の組み合わせを一つ作るってことだね」
 
(´・ω・`)「もう少し具体的に例を言うなら、五萬を二枚集めた形は雀頭、三枚集めた形は面子だ」
 
(´・ω・`)「面子にはもう一つ形があって、例えば三萬、四萬、五萬というような形だね」
 
(´・ω・`)「同じ牌を三枚集めた形を刻子、同じ種類で連続した数字を集めた形を順子というんだ。どちらも面子であることに変わりはないけどね」

463第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:39:12 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「実は、まだ雀牌の種類がいまいち覚えられてないんですお」
 
(´・ω・`)「説明するよ。大雑把に言うと雀牌には四種類ある」
 
(´・ω・`)「萬子、筒子、索子、字牌だ」
 
(´・ω・`)「分かりやすいのは萬子だね。漢数字で一とか二とか三とか書かれてるのが萬子だ」
 
(´・ω・`)「筒子も分かりやすいかな。丸い絵が描かれてるやつだ。丸が一個なら一筒、二個なら二筒だね」
 
(´・ω・`)「分かりにくいのは索子だ。竹串みたいなのが描かれてるのが索子なんだけど、何故か一索は鳥の絵が描かれてたりする」
 
( ^Д^)「何でなんすかね? 分かりにくいっすよね」
 
(´・ω・`)「まぁ、文句を言ってもしょうがない。とにかく一索はこういう柄なんだと覚えるしかない」
 
('A`)「索子は八索もちょっと分かりにくいですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。とはいえ、よく見るとちゃんと竹串が八本描かれてる」
 
( ^ω^)「じゃあ、それ以外は全て字牌ですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。漢字一文字だけが描かれてる牌と、何も描かれてない牌は字牌だ」
 
(´・ω・`)「厳密に言うと字牌にも二種類あって、方角が描かれてるのは風牌、それ以外は三元牌だ」
 
(´・ω・`)「字牌の注意点としては、字牌で面子を作るときは順子が作れないってことだね」
 
( ^ω^)「同じ牌を三つ集める形じゃないと駄目ってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。例えば、東と北と西を一枚ずつ集めたからといって順子になったりはしない」

464第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:40:33 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「ってことは、字牌だと面子が作りにくいですお!」
 
(´・ω・`)「筋がいいね、そのとおりだよ。ただし、字牌も悪いことばかりじゃない」
 
( ^Д^)「三元牌だと、それを三枚集めるだけで役になるからなー」
 
(´・ω・`)「笑野の言うとおり、字牌は集めにくいけど集めたときはメリットがあったりもする」
 
(´・ω・`)「麻雀は役がないと和了れないからね、役を作る上で三元牌は大いに役立ってくれるよ」
 
( ^ω^)「実はその、役がないと和了れないってのがまだよく分かんないんですお」
 
( ^ω^)「単に四面子一雀頭を集めるだけじゃ駄目なんですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね、そこが麻雀の難しいところであり、初心者に分かってもらいにくいところでもある」
 
(*゚ー゚)「私も一回そこで躓いたな〜」
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおり、麻雀の基本は四面子一雀頭を集めることだ」
 
(´・ω・`)「でも、単に集めただけじゃ駄目で、集めたときに何らかの役の形になっていないと和了りにならないんだよ」
 
(´・ω・`)「ちなみに、役の形は今回の大会で採用されているものだけでも三十種類以上ある」
 
(;^ω^)「そんなにたくさん、覚えられる気がしませんお」
 
(´・ω・`)「全てを覚えようとする必要はないよ。今は、そのうちの三つだけを覚えていてくれたらいい」
 
( ^ω^)「おっ、たった三つなら何とかなりそうですお」

465第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:41:32 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「特に、今の内藤に覚えててもらいたい役は、立直だ」
 
(´・ω・`)「さっきの説明と矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、この役は単に四面子一雀頭を集めるだけでいい」
 
(´・ω・`)「四面子一雀頭の完成まであと一つ、ってときに『リーチ』と宣言すればそれで役がつくから、あとは最後の一牌を手に入れるだけで和了りだ」
 
( ^ω^)「おお、簡単ですお!」
 
(´・ω・`)「そうだね、一番簡単と言ってもいい。ただし、条件がある」
 
(´・ω・`)「ポンやチーをしていると立直はできないんだ」
 
( ^Д^)「初本さん、ポンとチーの説明がまだじゃないすか?」
 
(´・ω・`)「あ、そうか。忘れてた」
 
( ^ω^)「確か、お昼に説明してもらいましたお。他の人が捨てた牌を貰えるやつですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。詳しくは後ほど説明するけど、面子を揃える手助けになるのがポンとチーだ」
 
(´・ω・`)「とても便利だからこそデメリットもある。立直ができなくなることは代表的なデメリットだね」
 
( ^Д^)「四面子一雀頭を揃えるだけでいい立直にポン・チーまで出来たら簡単すぎるからなー」
 
( ^ω^)「自分で頑張って四面子一雀頭を揃えたときだけ立直できるってことですお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。まぁ、自分の点棒次第じゃ立直できないこともあるんだけど、レアケースだから気にしなくていい」
 
('A`)「完全自動雀卓なら立直できないときはボタン押せないですしね」
 
(´・ω・`)「そうそう。だからこそ、内藤には一つ、覚えていてほしいことがある」
 
(´・ω・`)「明日は内藤に回さないように頑張るけど、万一内藤に回してしまった場合だ」
 
(;^ω^)「恐ろしい事態ですお」

466第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:42:58 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「もし打つことになったとしたら、立直できるときは必ず立直してほしい。必ずだ」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、手元のタッチパネルに『リーチ』のボタンが表示されたら迷わず押してほしいんだ」
 
( ^ω^)「和了れるかもしれないからですかお?」
 
(´・ω・`)「それもあるけど、立直の宣言は和了りの一歩手前であることをみんなに教えることでもあるんだ」
 
(´・ω・`)「すると、相手が内藤を警戒して降りてくれるかもしれない。こうなれば儲けものだ」
 
( ^ω^)「降りる?」
 
(*゚ー゚)「和了りを諦めるってことだよ〜」
 
(´・ω・`)「本当は、状況次第じゃ立直しないほうがいいときもあるんだけど、今は考えなくていい。とにかく、立直できる場合は必ず立直だ」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「よし、次の役の説明に移ろう。次は役牌だ」
 
(´・ω・`)「この役は分かりやすい。さっき三元牌の説明をしたけど、覚えてるかい?」
 
( ^ω^)「確か、方角じゃないタイプの字牌ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。具体的に言うと、白・中・發の三つだ」
 
(´・ω・`)「その三つのうち、どれかを三枚揃える。つまり、三元牌で刻子を作ると役牌は完成する」
 
( ^ω^)「例えば、發を三枚揃えるとかですかお?」
 
(´・ω・`)「そうだね、それであとは麻雀の基本である四面子一雀頭を作ればいい」
 
(´・ω・`)「言い換えると、四面子のうち一つが三元牌で作られた刻子であればいいってことだね」
 
( ^ω^)「お手軽ですお!」

467第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:44:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「役牌のいいところは、ポンをしてもいいってところだ。自分が發を二枚持っているときに誰かが發を捨てたら、それを貰って役牌を完成させてもいい」
 
( ^Д^)「和了りが早くなるから、特急券って呼んだりもするな」
 
(´・ω・`)「字牌は他人に捨てられやすい面もあって、最初から發を二枚持ってたりしたらポンで揃えられる可能性は低くないよ」
 
(´・ω・`)「あと、本当は風牌も場合によっては役牌になりえるんだけど、これは説明してない要素が絡むから、また後で説明するよ」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「分かってもらえたところで、最後の役、断幺九の説明だ」
 
(´・ω・`)「断幺九も四面子一雀頭を作るっていう基本は変わらない。特殊な要素としては、まず、字牌を使っちゃいけない」
 
( ^ω^)「ふむふむ。でも、確か字牌は面子を作りにくいから、そんなに大きなデメリットじゃなさそうですお」
 
( ^Д^)「いや、雀頭にも使えねーからな」
 
(;^ω^)「おお、そう考えたら結構きつい気がしますお」
 
(´・ω・`)「使っちゃいけないのは字牌だけじゃない。数牌の一と九もダメなんだ」
 
( ^ω^)「どういうことですお?」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、一萬と九萬、一索と九索、一筒と九筒が使えないんだ」
 
(´・ω・`)「同じ牌を三つ揃える刻子はもちろん、連続した三つの数牌を集める順子もダメだ」
 
( ^Д^)「つまり、七萬と八萬と九萬みたいな形の順子があると断幺九では和了れないってことだな」
 
(;^ω^)「かなりハードル高い気がしますお」
 
(´・ω・`)「ただ、断幺九はポンもチーもしていい。配牌次第じゃ結構簡単に和了れたりもするよ」

468第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:46:15 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ポン・チーをせずとも四面子一雀頭が作れそうなら立直狙い、そうじゃなければ断幺九狙いっていう作戦がいいかもしれないね」
 
( ^ω^)「役牌が出来そうなら、それがいいですお!」
 
(´・ω・`)「そうだね。三元牌が最初から多いようなら役牌を狙っていくのが一番楽かな」
 
(´・ω・`)「さて、麻雀の基本と簡単な役を紹介したところで、次は実際にゲームをしながら流れを教えていくよ」
 
(´・ω・`)「と、行きたいところだけど、いったん休憩しよう。みんなまだお風呂に入ってないし、サッパリしてから続きをやろうか」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
('、`*川「あ、最上階に大浴場があるんで、それ使って下さい。私は部屋のお風呂使いますけど」
 
(´・ω・`)「そっか、伊藤は人目につかないほうがいいのか。仕方ないね」
 
(*゚ー゚)「ペニちゃんがここに残るなら私も残るよ。二人で入れそうな広さだし」
 
('、`*川「そう? ありがとね」
 
( ^Д^)「伊藤、あとで感想よろしく」
 
('、`*川「はーい」
 
(;゚ー゚)「やー、多分期待に沿えないですよ」
 
 部屋に置いてある浴衣を男子部員が抱えて大浴場に向かった。
 時計の短針は水平へと近づきつつある頃だ。
 最上階は大勢で賑わっていた。
 
 脱衣所に入るや否や、すぐさま笑野は服を脱ぎ捨て湯けむりに包まれていった。
 内藤と毒島は股間のアルファベットを比べている。
 そんな三人を苦笑いで見送りながら初本も後に続いた。
 
 大浴場は近場の温泉から汲み上げた湯を使っており、熱め、温めなどに温度が分けられている。
 寝湯や足湯などもあり、入り口近くのサウナでは何人もの男が汗を絞り出していた。

469第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:47:37 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「うひー、気持ちいいお!」
 
('A`)「先に身体洗えっつの」
 
 浴場に入るや否や、真っ先に温泉に飛び込んだ内藤を毒島が窘める。
 内藤は渋々従って洗い場へと足を向けた。
 
( ^ω^)「けっこう人が多いお。土曜の夜だからかお?」
 
('A`)「だろうなぁ」
 
( ^ω^)「なかなか繁盛してるみたいだお。伊藤さんと結婚したら逆玉の輿だお」
 
('A`;)「そんなこと、妄想さえ出来ねぇ」
 
 髪と身体を洗い終えた内藤と毒島が寝湯へと向かう。
 ちょうど壮年の男性二人が去った後だった。
 
( ^ω^)「それにしても、毒島が麻雀部に入ってるなんて全然知らなかったお」
 
('A`)「前に言ったことあると思うけどな」
 
 寝湯から顔だけを出して、二人は天窓を眺めていた。
 梅雨の時期だが雲はなく、小さな窓に星々が犇めき合っている。
 
( ^ω^)「昔から麻雀やってたのかお?」
 
('A`)「元々、親父が麻雀やっててな。八歳くらいから付き合わされてたかな」
 
('A`)「親父の麻雀仲間の子供とかとも一緒にやったりして、普通のゲームより楽しんでたなぁ」
 
('A`)「中学に上がる前に、親父の仕事の都合でこっちに引っ越してきたから、麻雀やってた子たちとは疎遠になっちまったけどな」
 
('A`)「親父も麻雀仲間が居なくなってから全然打たなくなって、俺も一時期は麻雀から離れてたけど」
 
( ^ω^)「そういや、中学のときはテニス部だったって言ってた気がするお」
 
('A`;)「いや、卓球部だけどな」
471第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:49:32 ID:ueJ0zPsY0
('A`)「まぁ、中学に麻雀部はなかったし、あの頃は卓球のほうが面白くてさ。高校でも卓球部に入ろうと思ってたんだけど」
 
('A`)「でも、中学三年生のときに何気なくネットの動画サイト観てたら、見つけたんだよ」
 
('A`)「昔、一緒に麻雀打ってた友達が、全国大会で打ってるときの動画を」
 
( ^ω^)「おお!」
 
('A`)「一緒にやってた友達の三人のなかで一人だけ年上が居てさ、その人が去年の全国大会に出てたんだ」
 
('A`)「その人、めちゃくちゃ強くなってるしさ、めちゃくちゃ楽しそうに打ってるしさ」
 
('A`)「俺も全国大会に行けば、あそこで打てる、あの人と打てる、って思って」
 
('A`)「だからこそ、卓球部じゃなくて麻雀部にしたんだ。全国大会で、またあの人と打つために」
 
( ^ω^)「そうだったのかお。じゃあ、明日は絶対に勝たなきゃだお!」
 
('A`)「ああ。お前のこと、巻き込んで悪かったと思ってるけど、全国には絶対行きたい」
 
('A`)「そのためにも明日は俺が頑張んなきゃな。今日よりも、もっと」
 
( ^ω^)「いざというときは僕に任せてくれお」
 
('A`;)「その事態を避けるためにこそ頑張るんだよ」
 
 全身が温まる寝湯から二人は空を見上げ続けている。
 小さく見える星々が、本当は巨星なのだと、意識することもないまま。
 
(´・ω・`)「あの二人、ずっと寝湯にいるね。のぼせないといいけど」
 
( ^Д^)「大丈夫っすよ、子供じゃないんすから」
 
 初本と笑野は濁り湯に浸かっていた。
 あまり人は多くなく、心置きなく脚を伸ばして身体を癒せている。

472第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:51:06 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「さっき、ネットで確認したんだけどね」
 
( ^Д^)「ん?」
 
(´・ω・`)「神奈川は烽火高校が全国行きを決めたらしい」
 
( ^Д^)「おっ」
 
 自然と笑野の全身が反応し、濁り湯に波紋が広がった。
 烽火高校。初本にとっても、笑野にとっても、忘れられない校名だった。
 
( ^Д^)「来てもらわなきゃ困るっすよね。勝ち逃げなんて許さないっす」
 
(´・ω・`)「そうだね。去年の雪辱は、是が非でも晴らしたいところだ」
 
( ^Д^)「去年からメンバーは変わってるんすか?」
 
(´・ω・`)「一年生が二人レギュラーになってるけど、他は同じだね。去年は一年生と二年生が主体だったし」
 
( ^Д^)「それなら、尚更楽しみっすよ」
 
 笑野の口角が吊り上がった。
 昨年、全国制覇の道に立ち塞がった強豪校。
 超克しなければならない壁は、依然として、壁でありつづけていた。
 
 何かを超えるたびに、打ち手として、少しずつ成長していく。
 それを楽しめる自分が、笑野は好きだった。

473第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:52:20 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「他の県も少しずつ決まってきてるよ。兵庫は順当に地久高校が優勝したし、去年一回戦で戦った天弓大学付属高校も全国行きを決めてる」
 
( ^Д^)「毎年何校も全国に送り込んでくる歩家グループの高校は?」
 
(´・ω・`)「今のところ二校が全国に歩を進めたね。あと一校か二校くらい全国に行きそうだし、今年も勢いあるね」
 
( ^Д^)「ま、どんな相手でも勝たなきゃいけないっすね」
 
(´・ω・`)「だね。よし、そろそろ上がろう。のぼせちゃまずい」
 
( ^Д^)「内藤と毒島に声かけてくるっす」
 
(´・ω・`)「ああ、よろしく」
 
 一足先に初本が脱衣所に戻る。
 ドライヤーや扇風機などの音で騒がしい中、身体を拭いていると、後から笑野たちが現れた。
 内藤と毒島は足元が軽くふらついている。
 
(´・ω・`)「やれやれだね」
 
 のぼせかけた内藤と毒島を、初本と笑野が支えながら部屋に戻った。
 椎名と伊藤は既に風呂から上がり、二人でポッキーを食べていた。
 
 内藤と毒島はポカリスウェットを飲んで復活し、アルフォートの包みを解いた。
 初本と笑野も同じようにブラックサンダーの袋を裂いて口に放り込む。
 
(´・ω・`)「さて、麻雀講座の続きといこうか」
 
( ^ω^)「了解ですお!」
 
(´・ω・`)「ここからは実際に雀牌を使いながら説明するよ」
 
 正方形のテーブルを四つの椅子が囲む。
 窓際の椅子に笑野が座り、そこから時計回りに毒島、内藤、椎名が腰かけた。
 初本は内藤の後ろに立っている。

474第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:53:18 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ゲームの流れを説明していくよ。まず、麻雀には親番というものがある」
 
(´・ω・`)「この親番が反時計回りに変わっていく。つまり、最初の親が笑野だとしたら次は椎名だね」
 
(´・ω・`)「四人それぞれが親番を経験するのが一つのゲームの塊になる。麻雀では『場』というんだけどね」
 
(´・ω・`)「場には方角の名前がつけられていて、最初は『東場』だ。全員が親を経験するまでは東場だ」
 
(´・ω・`)「東風戦と呼ばれるルールだと、東場が終わると試合終了。そこで決着がつく」
 
(´・ω・`)「今日僕たちが戦ってたのは半荘戦。東場の次に南場があるルールだ」
 
(´・ω・`)「この場合は親番が一巡したあと、もう一回親番が一巡するまで試合が続く」
 
(´・ω・`)「明日僕たちが戦うのは一荘戦。東場、南場、西場、北場という流れで親番が四巡するまで続くよ」
 
(;^ω^)「けっこうややこしいですお」
 
(´・ω・`)「まぁ、今はこのへんのことはあんまり意識しなくてもいいかな」
 
(´・ω・`)「親番が持ち回りで変わっていくってことくらいを覚えていてくれればいい」
 
( ^ω^)「親番は一局打つごとに変わるんですかお?」
 
(´・ω・`)「原則的にはね。ただし、親番が変わらない場合もある」
 
(´・ω・`)「具体的に言うと、親が和了った場合と、親がテンパイしたまま流局した場合は親番が変わらない」
 
(´・ω・`)「これを連荘というんだ。極端な話、親がずっと和了りつづけたらいつまでも試合は終わらないってことになる」
 
(´・ω・`)「まぁ、その場合は他の誰かの持ち点がなくなって試合終了になるはずだけどね」
475第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:54:17 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「逆に言うと、子が和了ったときは親番が変わるってことですお?」
 
(´・ω・`)「そうだね。あとは親がテンパイできないまま流局になった場合もそうだ」
 
(´・ω・`)「テンパイっていうのは和了りまであと一手の状態だね。欲しい牌があと一枚来たら和了れるってことだ」
 
(´・ω・`)「和了りまであとちょっと、惜しいとこまで来てるから、もう一回親番をさせてあげるって感じかな」
 
( ^ω^)「親番のほうが嬉しいんですかお?」
 
(´・ω・`)「親番にはメリットとデメリットがある。まず、親番のときに和了ると、貰える点が増えるんだ」
 
(´・ω・`)「具体的には1.5倍になる。状況次第じゃ一気に逆転も可能だね」
 
( ^ω^)「美味しいですお!」
 
(´・ω・`)「ただし、自分が親番のときに他の人にツモ和了りされると、たくさんの失点がある」
 
(´・ω・`)「例えば子番が4000点の手をツモ和了りしたら、親番の人が2000点、他の子番が1000点ずつを払うんだ」
 
(´・ω・`)「たくさん点を得られる可能性も、たくさん点を失う可能性もあるのが親番ってことだね」
 
( ^ω^)「ツモ和了り?」
 
(´・ω・`)「和了りにはツモ和了りとロン和了りがあるんだけど、そのへんのことは、また後で説明するよ」
 
(´・ω・`)「ここからは実際にゲームをやりながら説明しよう。完全自動雀卓でやるときと同じように、既に配牌まで終わった状態からスタートだ」
 
(´・ω・`)「ここでは笑野の親番から始めることにしよう。親番の人は『東家』だ」
 
( ^ω^)「東家?」

476第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:55:25 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「ゲームが始まると、それぞれが自分の方角を持つんだ。ただし、ずっと同じ方角なわけじゃない」
 
(´・ω・`)「親番が変わるにつれて人が持つ方角も変わる。親番の人が必ず東家、そこから反時計回りに南家、西家、北家となる」
 
( ^ω^)「ってことは、今の僕は西家ですお」
 
(´・ω・`)「そのとおり。麻雀では方角という言い方より『風』という言い方のほうが一般的だけど、あまり気にしなくていい」
 
(´・ω・`)「ともかく、ゲーム中は必ず何らかの方角の家に属するってことだ」
 
( ^ω^)「どの方角が得とかあるんですかお?」
 
(´・ω・`)「いや、ないよ。基本的には平等だ」
 
(´・ω・`)「ただ、方角次第で役牌の条件が変わる。さっき説明した役のことだ」
 
( ^ω^)「確か、白・發・中のどれかを三枚揃えるだけの役ですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、実はそれ以外にも役牌になりえる牌がある。それが自分の方角の風牌だ」
 
(´・ω・`)「つまり、東家だったら東を三枚集めることでも役牌が成り立つんだ」
 
( ^ω^)「おお! 可能性が広がりますお!」
 
(´・ω・`)「ちなみに、さっき説明した『場』の風牌も役牌になる。南場だったら南を三枚集めると役牌だ」
 
( ^ω^)「役牌って和了りやすそうですお!」
 
(´・ω・`)「まぁ、比較的完成させやすい役であることは間違いないね」
 
(´・ω・`)「さて、ゲームを進めよう。配牌が終わったら、まず親番の人が牌を一枚捨てる」
 
(´・ω・`)「親番だけは最初から十四枚の牌が配られてるからだね。他の人は十三枚だから、自分の番が来たら山から一枚取る」
 
(´・ω・`)「牌を一枚取った後、不要な牌を一枚捨てる。この繰り返しでゲームは進んでいくよ」
 
(´・ω・`)「山のどこから牌を取ればいいのかは知らなくてもいい。完全自動雀卓の場合、取るべき牌の背が少し光るようになってるからね」
 
( ^Д^)「あれも凄い技術っすよねー」

477第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:56:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「自分の番かどうかは手元のタッチパネルで分かる。『あなたの番です』って表示されるからね」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓のタッチパネルには色んな情報が表示されるから、それを見ていれば基本的にはチョンボせずに済むと思う」
 
(;^ω^)「助かりますお」
 
(´・ω・`)「さて、笑野と椎名が一枚ずつ捨てたから内藤の番だ。山から一枚取って」
 
( ^ω^)「白ですお!」
 
(´・ω・`)「実際のゲームじゃ取った牌が何なのかは言わないようにね。さて、牌を一枚捨てようか」
 
(;^ω^)「何を捨てればいいのか全然分かんないですお」
 
(´・ω・`)「基本的には、面子が作りにくそうな牌だね。今の手牌で言うと、北とかかな」
 
( ^ω^)「確かに、字牌は面子が作りにくいから不要っぽいですお」
 
(´・ω・`)「一枚しかないなら尚更だ。あとは孤立してる九筒も候補だね」
 
( ^ω^)「とりあえず北を捨てますお」
 
(´・ω・`)「次に毒島が牌を取って捨てると一巡だね」
 
('A`)「普通に打てばいいんですか?」
 
(´・ω・`)「そうだね。和了れそうなら和了ってもらっても構わない」
 
('A`)「了解です」
 
(´・ω・`)「お、毒島が良い牌を捨ててくれたね。好都合だ」
 
(´・ω・`)「いま毒島が捨てた八索、内藤は二枚持ってるね」
 
( ^ω^)「あの一枚があれば三枚揃うから面子が作れますお!」
 
(´・ω・`)「その一枚を貰うことができる。それが『ポン』だ」
 
(´・ω・`)「自分が同じ牌を二枚持ってるときに、他人の捨て牌を貰えるんだ。貰ったあとはまた不要な牌を捨てる」

478第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:57:56 ID:ueJ0zPsY0
( ^ω^)「じゃあ、今度は九筒を捨てますお」
 
(´・ω・`)「ついでだからチーの説明もしておきたいな。椎名、四萬か七萬持ってる?」
 
(*゚ー゚)「あ、ちょうど七萬があります!」
 
(´・ω・`)「手番が来たら切ってほしい。チーができる」
 
( ^ω^)「チーも相手の牌が貰えるんですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。いま椎名が七萬を切ってくれたから、それを貰おう」
 
( ^ω^)「面子がまた出来ましたお!」
 
(´・ω・`)「チーは連続する三つの数牌、順子を作るときに使える。今回みたいに五萬と六萬があったときとかね」
 
(*゚ー゚)「あと、六萬と八萬があるときに七萬が切られた場合も使えますよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、注意点があって、チーの場合は左隣の人が捨てた牌にしか使えない」
 
(´・ω・`)「ポンは誰が捨てた牌でもいいんだけどね。ここが少しややこしいところだ」
 
( ^ω^)「なんで左隣だけなんですお?」
 
(´・ω・`)「ポンは同じ牌を揃えるためのものだから、ポンできる牌は一種類しかないんだ」
 
(´・ω・`)「それに対してチーできる牌は二種類ある場合がある。今回もそうだったね」
 
(´・ω・`)「つまり、誰からでもチーできると簡単に面子が作れ過ぎてしまう。だから左隣に限定されてるんだと思う」
 
( ^ω^)「なるほどですお!」
 
(´・ω・`)「ちなみに、ポンやチーなどのことを俗に『鳴く』と表現する。『副露』という言い方もするけど、鳴きのほうが耳にする機会は多いかな」

479第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 21:58:57 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「さて、ゲームを進めよう。内藤の手には今、面子が二つできてるね」
 
(´・ω・`)「順調に手が進めば和了れる可能性もありそうだけど、どうかな」
 
('A`)「あ、すみません、ツモです」
 
(´・ω・`)「ありゃま」
 
(;^ω^)「和了られちゃいましたお」
 
('A`)「門前清自摸和、平和、ドラ1」
 
(;^ω^)「しかも謎の呪文を唱えてますお」
 
(´・ω・`)「あんまり気にしなくていいけど、ドラだけは説明しておこう」
 
(´・ω・`)「牌山の中に一枚だけ表向きの牌がある。あれをドラ表示牌というんだ」
 
(´・ω・`)「いま三索が表向きになってるから、ドラは四索だ」
 
(´・ω・`)「和了ったとき、手牌の中に四索があると、得点が上がる。それがドラだ。言わばボーナスみたいなものだね」
 
( ^ω^)「表向きになってる三索を持ってたらじゃなくて、その次の牌の四索を持ってたら、ってややこしいですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。なんでこんなルールなのか、正直分からないけど、そういうものだと割り切って覚えるしかない」
 
(´・ω・`)「とはいえ、完全自動雀卓の場合、ドラは牌の表面が青く光るから分かりやすい。今回で言うと四索が光る」
 
(´・ω・`)「もちろん、あんまり強い光だと他の人に四索を持っていることがバレてしまうから、ほんの少し光るだけだけどね」
 
( ^ω^)「親切設計ですお!」
 
(´・ω・`)「ちなみにドラが何枚も手牌にあれば、そのぶん点数は上がっていく。たくさん持ってればラッキーだね」

480第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:00:01 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「そうそう、ついでにもう一つ説明しておくよ。さっき毒島が和了るときにツモって言ったことについて」
 
(´・ω・`)「麻雀は手牌に役がつけば和了れるんだけど、和了り方には二つある。ツモとロンだ」
 
(´・ω・`)「さっきみたいに自分で引いた牌で役が完成すればツモ和了り。他の人が捨てた牌を貰って役が完成すればロン和了りだ」
 
( ^ω^)「ロンは誰からでも出来るんですかお?」
 
(´・ω・`)「チーみたいな制限はないよ。基本的には誰からでもロンできる」
 
(´・ω・`)「ちなみに、ツモもロンも和了りであることに変わりはないんだけど、点の貰い方に違いがある。ツモは他の三人から、ロンは一人からだ」
 
( ^ω^)「ロンは和了りに至った牌を捨てた人から貰えるってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。捨て牌で誰かにロンされることを『振り込む』というんだけど、振り込みは失点がキツイから極力避けるべきだね」
 
(´・ω・`)「それと、ツモの場合は親番か子番かで少し点の貰い方が違う。例えば12000点の役を和了った場合、親番なら全員から4000点ずつ貰うんだけど、子番の場合は親から6000点、他の子から3000点ずつ貰うんだ」
 
(;^ω^)「親番怖いですお」
 
(´・ω・`)「さっきも言ったとおり、親番はハイリスクハイリターンだ。とはいえ、少しリターンのほうが多いかなと思うけどね」
 
(´・ω・`)「あと、流局についても説明しておくよ。誰も役を完成させることができず、和了れなかった場合のことだね」
 
( ^ω^)「山を全部取りきったら終わりですかお?」
 
(´・ω・`)「いや、麻雀では必ず牌山を十四枚残すことになってるんだ。つまり、残り十四枚になった時点で流局だね」
 
(´・ω・`)「ついでに言うと、流局になったときも点のやり取りが発生する場合がある。テンパイしてるかどうかで変わってくるんだけど」
 
( ^ω^)「テンパイって確か、和了りまであと一歩の状態ですお」
 
(´・ω・`)「そうだね。流局になった場合、テンパイしてない人はテンパイしてる人に点を支払わなければならない」

481第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:01:10 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「テンパイしてないことをノーテンって言うんだけど、一人テンパイで三人ノーテンなら、三人が1000点ずつ支払う」
 
(´・ω・`)「二人テンパイで二人ノーテンなら、ノーテンの二人が1500点、三人テンパイで一人ノーテンなら一人が三人に1000点ずつを支払う」
 
( ^ω^)「つまり、必ず3000点のやり取りがあるってことですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。ただ、全員テンパイや全員ノーテンの場合は点のやり取りが発生しないけどね」
 
(´・ω・`)「ちなみに、親がテンパイしてれば親は変わらずに次局へ移るけど、その次局は『一本場』と呼ばれる」
 
(´・ω・`)「一本場でまた親が和了ったりテンパイしたまま流局したりすれば、今度は二本場に移る。そうやって、三本場、四本場、と続いていく場合もある」
 
( ^ω^)「一本場とか二本場とかは、何かが得なんですかお?」
 
(´・ω・`)「和了ったときにボーナスがつく。一本につき300点。二本場なら600点だね」
 
(´・ω・`)「と、ここまでで一応、基本的なことは説明できたつもりだよ」
 
(´・ω・`)「他に説明しておくべきこと、何かあるかな」
 
(*゚ー゚)「役の飜とか点数とかは説明しないんですか?」
 
(´・ω・`)「うん。説明すると長いし、色んな役の説明もしなきゃいけないしね」
 
(´・ω・`)「とりあえず今は立直、役牌、断幺九のことだけ覚えてくれてればいい。何点貰えるか、とかまでは知らなくてもいい」
 
('A`)「フリテンの説明は?」
 
(´・ω・`)「それも、とりあえずパスだ。本当はすごく大事なことだけど、完全自動雀卓ならフリテンのときはロンの表示が出ないわけだし」
 
(´・ω・`)「とにかく、手元のタッチパネルにツモかロンの表示があったら迷わず押す。それを徹底してくれればいい」
 
( ^ω^)「了解ですお!」

482第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:02:40 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「じゃあ、ゲームを続けよう。さっき子の毒島が和了ったから、ゲームは東一局から東二局に移る」
 
(´・ω・`)「東場は親が一巡するまで続くから、東四局まである。とりあえず、東場が終わるまで続けようか」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
( ^Д^)「了解っす」
 
 一通りの説明を終えて、初本はその場から離れる。
 冷蔵庫の前まで歩き、中から緑茶のペットボトルを取り出した。
 ずっと喋り続けていたため、喉の渇きは限界に近かった。
 
 ペットボトルを持ったまま再び雀卓と化したテーブルに戻る。
 椎名を親番とする東二局が進んでいた。
 
(´・ω・`)(内藤は三向聴か)
 
 とりあえず、牌を取って捨てるという基本的な動作はできている。
 仮に明日、内藤まで回ったとしても、棄権する羽目にはならなさそうだ、と初本は安堵した。
 
( ^Д^)「ツモ。役牌、一盃口、ドラ2」
 
(*゚ー゚)「さすがですね、笑野さん」
 
(;^Д^)「点棒のやり取りがないから、何となく虚しいけどな」
 
( ^ω^)「次は僕の親番ですかお?」
 
(´・ω・`)「そのとおり。最初に山から牌を取らないようにね」
 
( ^ω^)「気をつけますお!」
 
 完全自動雀卓ならば、手番になると手元のタッチパネルにその旨が表示される。
 それさえ見てくれればチョンボすることもないだろう、と初本は希望を込めて思った。

483第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:03:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)(内藤がとりあえず打てるようになってきたことは、喜ばしいことだけど)
 
(´・ω・`)(まともな対局は望めない。やっぱり、副将までで終わらせないと、全国行きは厳しいな)
 
 明日のことも初本は不安だった。
 しかし、先々のことまで考えておくならば、他にも不安は山積している。
 最大の悩みの種は、五人目のメンバーをどうするか、ということだった。
 
(´・ω・`)(元々出てもらう予定だった前田くんは、今後も受験優先だろうからアテにしないほうが良さそうだな)
 
(´・ω・`)(前田くんが駄目なら他の人を探すつもりでいたけど、それも見つかるかどうか不確定だ)
 
(´・ω・`)(そうなると、このまま内藤を鍛えてメンバーになってもらうのが最善なのかな)
 
 無論、最大限尊重されるべきは内藤の意思だ。
 それを初本は充分に理解していた。
 
 内藤が麻雀を好きになれず、明日限りで離れるというのであれば、それも致し方ない。
 初本の中では、そう割り切れていることではあった。
 
(´・ω・`)(全国は、覚えたての初心者が戦えるほど甘くはない)
 
(´・ω・`)(仮に内藤を鍛えて全国に連れていくとしても、かなり厳しい戦いになるだろうな)
 
(´・ω・`)(ただ、メンバーを選り好みできるような余裕がないのも事実だし)
 
(´・ω・`)(どうしたものかな)
 
 元を辿れば、部員の勧誘を上手くできなかった初本の責任だった。
 伊藤が打てない以上、打てるメンバーをもう一人部員として引き入れるべきだったが、それを果たせなかったのだ。
 そのツケを今更、払わされている。内藤に、迷惑をかけてもいる。
 
(´・ω・`)(部長である僕に全ての責任がある。当然のことだ)
 
(´・ω・`)(だからこそ、最大限の努力をしなきゃいけないんだ)

484第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:05:11 ID:ueJ0zPsY0
 全国制覇のためなら何事も惜しまない。
 その覚悟が、今の初本にはあった。
 部長として臨んだ初めての大会で、ようやくしっかりと芽生えてきた覚悟だった。
 
 だからこそ、まず全国へと進むために、今は少しでも内藤を鍛え上げなければならない。
 初本の意思は確然としていた。
 
(´・ω・`)(ん?)
 
 思考しながら、初本はぼんやりと卓上を見ていた。
 東三局。内藤の親番で対局は進んでいる。
 内藤の手牌は三向聴で今のところ役はないが、白を対子で持っており、役牌が狙える状況だった。
 
 白は既に一枚切られている。
 残る白は一枚。山に眠っているか、誰かが持っているかは、内藤からは分からないはずだった。
 
 
 しかし、内藤はずっと、笑野の手牌の背を見ていた。

 しかも、左端の牌だけを、ずっと。
 
 
(´・ω・`)(なんで、そんな)
 
 極めて限定的なところを見ているのか。
 初本は、そう思った。
 不思議な予感の正体が、分からないままに。
 
 自然と初本の足が笑野の許へと進む。
 後ろへと回って、笑野の手牌を確認した。

485第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:07:07 ID:ueJ0zPsY0
 笑野の配牌は相当に酷いもので、一枚しかない孤立牌を淡々と捨てているところだった。
 だが、それもようやく少なくなり、無思考で捨てるべき牌はあと一枚だった。
 
 手牌の右端にいる、白だけだった。
 
(;^Д^)「今回はかなり酷いな、和了れる気がしねー」
 
( ^ω^)「あっ!」
 
 笑野が、白を切った。
 しかし、内藤が反応を示したのは、笑野が白を掴んだ瞬間だった。
 白が、表向きで河に置かれる前だった。
 
( ^ω^)「えっと、ポン? ですお!」
 
(*゚ー゚)「あ、役牌完成だね! やったね!」
 
( ^ω^)「だおだお! もしかしたら和了れるかもだお!」
 
(´・ω・`)「ちょっと待って」
 
 初本は、堪らず制止の声を出した。
 皆の視線が一斉に初本へと向く。
 
 そんな、馬鹿な。
 いったい、どうして。
 
 初本の頭の中を、疑問符が埋め尽くす。

486第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:08:47 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「内藤、何故いま、白のことが分かってたんだい?」
 
(;^ω^)「お?」
 
(´・ω・`)「君は今、明らかに、笑野が白を捨てる前から白の場所を知っていた」
 
(´・ω・`)「笑野の右端の牌が白であると、分かっていたはずだ」
 
 でなければ、あの反応の速さはあり得ない。
 初本がそう考えていることに、他の部員たちも気付き始めていた。
 
(´・ω・`)「そうだろう?」
 
(;^ω^)「えっと、確かに笑野さんが白を持ってることは分かってましたお」
 
(;^Д^)「マジか? 俺、なんかチョンボしたか?」
 
(;^ω^)「いや、あの、そうじゃなくて」
 
( ^ω^)「笑野さんは一巡目で白を引いて、自分の手牌に取り込んだと思いますお」
 
(;^Д^)「そうだけど、なんでそれが分かるんだ?」
 
( ^ω^)「それは、その」
 
 
 
 
( ^ω^)「笑野さんが前局で白を置いたときと、『同じ音』が聞こえたからですお」
 
 
 
 
 その一言で、室内からは、音が消えた。
 口を開きかけた毒島の声も、伊藤の口から響いていたお菓子の咀嚼音も。

487第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:10:21 ID:ueJ0zPsY0
 前局と、同じ音。
 内藤は、確かにそう言った。
 
 そんな、まさか。
 そう思う初本の脚は、微かな震えをカーペットに伝えている。
 
(´・ω・`)「本当に、分かるのかい?」
 
 声を発すると同時に、初本は無造作に牌山を崩した。
 そこから二つの牌を掴む。一筒と南だった。
 
(´・ω・`)「内藤、よく聞いててほしい」
 
(;^ω^)「お?」
 
 初本は、内藤に表を見せた状態で二つの牌を卓に置いた。
 手も微かに震えている。それでも、なるべく均等の力になるように、慎重に。
 
 三度ほど、同じ動作を繰り返したあと、再び牌は初本の手中に収まる。
 そして、今度は内藤に背を向ける形で、二つの牌が置かれた。
 
(´・ω・`)「どっちがどっちか、分かるかい?」
 
 複雑な気持ちのまま、初本はそう言った。
 当ててほしい気持ちと、当てられるはずがない、という気持ち。
 綯い交ぜになって、浮遊して、沈着しない思い。
 
 ただ、確実なことは、一つ。
 もし、内藤がこれを当てられたならば――――
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒ですお」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 当ててきた。
 ほとんど、迷いもなく。
489第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:11:41 ID:ueJ0zPsY0
(;^Д^)「マジか!?」
 
(;゚ー゚)「え、え? ほんとに?」
 
('A`;)「で、でも、一回くらいなら、たまたま当たったってことも」
 
(´・ω・`)「あぁ」
 
 毒島の言うことは尤もだった。
 今のところは、二分の一で当たる賭けでしかないのだ。
 
 初本がもう一度、牌を置く。
 手の中で、内藤に見えないように混ぜた後で。
 
 二分の一の勝負であることに変わりはない。
 それでも、連続で当てられる確率となれば当然、回を重ねるごとに下がっていく。
 ただの勘に頼った勝負ならば、大抵、三回目か四回目までに敗北を喫するだろう。
 
 その、勝負に――――
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が一筒、右が南」
 
( ^ω^)「左が南、右が一筒」
 
(´・ω・`)「!!」
 
 ――――全て、勝利した。
 間違いなかった。

490第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:12:27 ID:ueJ0zPsY0
 牌を置いた音で、牌種が分かる。
 もはや、疑いようもない事実だった。
 
(;゚ー゚)「ペニちゃん、分かる?」
 
('、`;川「分かるわけないでしょ、そんなの」
 
(;^Д^)「ありえねぇ。でも、ありえてるんだよなぁ」
 
(;'A`)「なんでだ? 音がどう違うっていうんだ?」
 
( ^ω^)「そう言われると難しいけど、なんか、重みが違う気がするお」
 
(´・ω・`)「重み、か」
 
 初本が再び牌を手に取る。
 絵柄の彫られた表面をじっと見つめたあと、自分で自分に呆れるような声を出した。
 
(´・ω・`)「仮定を言うよ。僕自身、信じられないけど」
 
 牌を仰向けにして、皆に見えるように初本が置いた。
 そして、牌の表面を軽く撫でる。
 
(´・ω・`)「みんな雀牌に触ったことあるから分かると思うけど、牌の表面には絵柄がある」
 
(´・ω・`)「その絵柄は、牌を削って描かれたものだ」
 
(´・ω・`)「つまり、絵柄が違えば、削られた量も違う。牌によって、重さが違うんだ」
 
 馬鹿げたことを口にしている。
 その自覚が、初本にはあった。
 しかし、それ以外には考えられなかった。

491第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:13:45 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「牌によって重さが異なる、だから牌を置いたときの音にも違いが出るんだ」
 
(;^Д^)「いやいやいや! そんなの誤差くらいの違いっすよ!」
 
(;゚ー゚)「重さの違いは確かにあるんでしょうけど、多分、数グラムくらいですよね?」
 
(´・ω・`)「もっと少ないかもしれない。もしかしたら、数ミリグラムの世界かもね」
 
(;'A`)「それを聞き分けられるなんて、正直、信じられません」
 
(´・ω・`)「僕もだよ。だけど、内藤が音を聞き分けているという事実はあるんだ」
 
 皆の視線が内藤に向く。
 渦中の人物は、困惑の表情を浮かべていた。
 
(;^ω^)「あの、えっと、一つ教えて下さいお」
 
(;^ω^)「確かに僕は牌の音を聞き分けられるかもしれませんお。確実ではないにせよ」
 
(;^ω^)「でも、それって麻雀で役に立つんですかお?」
 
(;^Д^)「役に立つなんてもんじゃねーよ!」
 
(;'A`)「お前、この力があったら、世界のトップだって目指せるぞ!」
 
(;^ω^)「お、お、お?」
 
(´・ω・`)「内藤、さっきの局面、内藤は白を待ってただろう?」
 
 初本は、あえて落ち着いた声を出した。
 本当は、初本も動揺が残っている。

492第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:14:38 ID:ueJ0zPsY0
(´・ω・`)「そして、笑野が一枚持っていることも分かっていた」
 
(´・ω・`)「白が一枚しかないんじゃほとんど役に立たない。だから笑野が捨てるかもしれないと思っていたはずだ」
 
( ^ω^)「確かに、そのとおりですお」
 
(´・ω・`)「だけど、もし笑野が白を二枚持っていると分かっていたら? どうする?」
 
( ^ω^)「お? 笑野さんもあと一枚白が欲しいのかなって思いますお」
 
( ^ω^)「笑野さんが白を捨てそうになかったら、役牌は諦めてたと思いますお」
 
(´・ω・`)「そう。だけど、普通はそんなこと分からなくて、最後まで白を待ってたりする」
 
(´・ω・`)「作れる可能性がほとんどない役を狙い続けるのは無駄なことだ。それなら、他の役を狙ったほうがいい」
 
(´・ω・`)「そういう判断ができる。普通じゃできない判断を」
 
(´・ω・`)「これが一つの大きな武器。そして、もう一つの武器も強力だ」
 
(´・ω・`)「さっき説明したけど、誰かが捨てた牌で和了ることをロン和了りという」
 
(´・ω・`)「ロンの場合、その牌を捨てた人が和了った人に全ての点を支払わないといけない。大きな失点があるんだ」
 
(´・ω・`)「だから麻雀では自分で捨てた牌でロンされないように打たなきゃいけない。最も技量が問われる部分でもある」
 
(´・ω・`)「だけど、もし相手の牌がある程度分かるんだったら、ロンされる確率はかなり低くなる」
 
(´・ω・`)「失点を極力抑えつつ得点を重ねることができるんだ」
 
(;^ω^)「えっと、それって、つまり」
 
(´・ω・`)「全国のどんな強豪さえ、打ち負かせるほどの力になりえるってことだ」

493第5話 ◆azwd/t2EpE:2015/03/29(日) 22:16:23 ID:ueJ0zPsY0
 内藤は、まだ実感が湧いていなかった。
 本当にそれほどの可能性を秘めた力なのか、と懐疑的に見てしまっていた。
 
 しかし、他の部員たちの表情を見て、ただごとではないのだと気づく。
 
(´・ω・`)「もちろん、万能な力じゃないことは確かだ」
 
(´・ω・`)「配牌は読みようがないし、相手が牌を強く置いたら音が変わるし、そもそも、音を覚えるまでに多少の時間もかかるだろう」
 
(´・ω・`)「それでも、間違いなく、有利に働く。麻雀を打つうえで、必ず」
 
 自然と、初本の拳には力が入っていた。
 力を緩めようとしても、自分の意思では緩められないほどに。
 
 先ほどまで抱いていた、全国大会への不安など、消し飛んでいた。
 
(´・ω・`)「勝てる」
 
(´・ω・`)「僕たちは、間違いなく、全国でも勝ち進んでいける」
 
 初本の口から、自然とこぼれた言葉。
 椎名がゆっくりと、笑野がはっきりと、頷く。
 遅れて毒島も、小さな呻きを漏らしながら頭を縦に振った。
 
(´・ω・`)「僕たちはきっと、全国を制覇できる」
 
 また、初本は意識しないまま口にしていた。
 
 全国の頂きへと至る階段の、一段目を上がったときの音が、初本には聞こえた気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第5話 終わり
 
     〜to be continued

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