324 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:01:37 ID:zp5q7Op.0
◇芽院高校

■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生

■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生

■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生

■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生

■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生

325 名前:大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:02:25 ID:zp5q7Op.0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。

一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。

例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。

どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。

326 名前:大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:03:15 ID:zp5q7Op.0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

327 名前:大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:04:13 ID:zp5q7Op.0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点

■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

328 名前: ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:05:14 ID:zp5q7Op.0
【第4話:駆け出す二本の矢】
 
 
 控え室に戻った椎名は、半分ほど残っていたペットボトルの紅茶を一気に飲み干した。
 
(*゚ー゚)「あー緊張した。疲れたぁ」
 
( ^Д^)「お疲れさん。よくやったな」
 
(*゚ー゚)「ありがとうございます。でもやっぱり麦秀高校、強いですね」
 
( ^Д^)「決勝に上がってくるだろうな。まぁ、今のところはウチの敵じゃないけど」
 
 椎名が次鋒戦に臨む前は、笑野が内藤を指導していた。
 しかし今は既に試合を終えた毒島に変わっている。
 
(*゚ー゚)「明日の決勝って一荘戦なんですよね」
 
( ^Д^)「あぁ。すげー疲れるぞ、公式戦での一荘戦は」
 
(;゚ー゚)「集中力、続くかなぁって。今から心配です」
 
( ^Д^)「ま、なるようになるさ」
 
('、`*川「そんなこと言って今日の二回戦で敗退しちゃったらどーすんですか」
 
( ^Д^)「あれ? 起きたのか、伊藤」
 
('、`*川「ぐっすり寝ちゃってましたね。初本さんは?」
 
( ^Д^)「今から対局開始だよ」
 
('、`*川「危ない! 寝過ごすとこでした!」
 
 控え室の壁際に設置されたテレビの前にすかさず陣取る伊藤。
 他の選手が戦っているときと、初本が戦っているときでは、熱の入れようは全く違った。

329 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:07:20 ID:zp5q7Op.0
('、`*川「大丈夫だって信じてますけどね。精一杯応援します!」
 
(*゚ー゚)「一緒に応援しよー、ペニちゃん」
 
( ^ω^)「隣、座ってもいいかお?」
 
(*゚ー゚)「あれ? お勉強終わり?」
 
(;^ω^)「ちょっと休憩だお。頭が疲れちゃったお」
 
('A`;)「教える側も大概キツイぜ、これ」
 
( ^Д^)「ま、いいんじゃねーか。一気に覚えられるようなもんでもねーし」
 
 五つの椅子がテレビの前に並べられる。
 中堅戦の起家が豊稔農林高校に決まったところだった。
 
(*゚ー゚)「中堅戦も、やっぱり警戒するのは麦秀ですか?」
 
( ^Д^)「だなぁ。麦秀の中堅は船都ってやつなんだが、こいつがけっこう曲者なんだよ。手が読めないっつーか」
 
('A`)「去年の戦い、ネットで確認しましたけど、いい麻雀でしたね」
 
( ^Д^)「卒業したウチの先輩と戦ったけど、互角だったな。ただ、確実に初本さんのほうが強い」
 
('、`*川「初本さんが負けるわけないです!」
 
(*゚ー゚)「うんうん、初本さん強いもん。大丈夫!」
 
 全国へと続く戦いの、緒戦。
 相手がどうあれ、負けるわけにはいかない。
 
 初本はそれをよく分かっているはずだ、と笑野は思っていた。
 こんなところで躓くようでは、とても全国制覇など成し得ないと。

330 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:09:54 ID:zp5q7Op.0
( ^Д^)「毒島と椎名は、勝ち方を見といてくれ」
 
 それだけを言い、笑野は腕を組んで背凭れに体重をかけた。
 
 
 
 東一局、十一巡目に麦秀高校の船都が立直をかけた。
 
(´・ω・`)(立直か。降りたほうが良さそうだね)
 
 二位の麦秀高校には振り込めない。
 初本も一向聴だが、すぐさま形を崩して現物を切った。
 
(´・ω・`)(船都は萬子染めかな。まぁ、放銃することはなさそうだ)
 
 初本の手には、安牌が五枚。流局まで逃げ切れそうだ、と考えていた。
 十三巡目、現物の四筒を切る。
 
 無論、その牌は通った。
 しかし、凌雲高校の多賀崎が切った牌は、船都の当たり牌だった。
 
(’e’)「ロンじゃよ」
 
 船都の手牌は、綺麗に一萬から九萬までが並んでいる。
 一気通貫だった。
 
 手は一気通貫と立直のみで、それほど高い手ではない。
 しかし、船都の待っていた牌を見て、初本は思わず苦笑してしまった。
 
(´・ω・`)(当たり牌が七索だったとは、怖いね)
 
 船都は六索と八索を立直前に切っている。
 そして河には萬子が一枚もない。七索は、安牌に見えても仕方がない状況だ。

331 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:11:18 ID:zp5q7Op.0
 牌の捨て方を初本が見る限りでは、最初から七索は対子で持っていたようだった。
 しかし、六索を引いた時点で両面待ちにしていれば八索でツモ和了りだったのだ。
 
 確率を重視した打ち方なら、七索待ちはありえなかった。
 だからこそ、凌雲高校の多賀崎は振り込んでしまったのだ。
 
(´・ω・`)(こんな愚形での待ちを選択したのは、僕の放銃に期待したからかな)
 
(´・ω・`)(何にせよ、読みにくい相手だ)
 
 麦秀高校の船都が4000点を得て、親が変わる。
 芽院高校が東家となった。
 
(´・ω・`)(親番、ここが大事だな)
 
 初本は船都に視線を送った。
 何を考えているのか、表情からは読みにくい。
 
(´・ω・`)(船都くん、君はいい打ち手だ。麦秀高校じゃ大将の伊要くんに次ぐ実力者だと思ってる)
 
(´・ω・`)(だけど、ここで蹉跌を踏みたくはない。侮るわけじゃないけど、うちの目標は全国制覇だ)
 
(´・ω・`)(遠慮なくやらせてもらうよ)
 
 雀卓が東二局の開始を告げる。
 初本は自分の手牌を見やり、西を切った。
 
 それからしばらく、淡々と牌が捨てられていく。
 声が発されたのは八巡目、初本が一筒をポンしたときだった。
 
(’e’)(鳴いてくるのかい。こりゃあ、警戒しといたほうがよさそうじゃのう)
 
 初本が鳴くのは、喰い下がりがないときか、喰い下がっても問題なく点を稼げるとき。
 昨年の打ち方を分析した伊要はそう言っていた。

332 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:13:15 ID:zp5q7Op.0
 船都はまだ二向聴。しかも、立直をかけなければ役がつかないような手だ。
 無理をして突っ張る必要はない場面だった。
 
(’e’)(鳴いたから立直はかからない。いつ和了ってもおかしくないのう)
 
 怪しい匂いのする牌はなるべく切らないよう気を配りながら、船都は打っていった。
 特に幺九牌は危ない、と船都の経験は囁く。一筒のポンが危険度を加速させていた。
 
 そして不意に、初本の手牌は倒される。
 
(´・ω・`)「ツモ。4000オール」
 
(’e’)(満貫じゃったか)
 
 純全帯幺九にドラが二つ乗っている。
 喰い下がりのある手だが、門前でも満貫だ。
 船都の読みどおり、喰い下がっても問題ない手、ということだった。
 
(’e’)(やはり手強いのう。しかし、そう思い通りにはさせんぞい)
 
 船都が意気込み、臨んだ東二局一本場。
 雀卓から迫り出されてきた船都の手牌は、三向聴だった。
 上手くすれば三色同順が狙えそうな配牌でもある。
 
 それから十巡目までに、三種の数牌が同順で三つ、綺麗に並んだ。
 これでテンパイ。あとは当たり牌を待つだけだった。
 
 ただ、初本が既に白をポンし、役牌を確定させている。
 なるべく早めに和了りたいところだ。
 
 そう船都が思い、發を切ったとき。
 
(´・ω・`)「ポン」
 
 初本の手に、發が渡る。
 船都の額から、汗が噴き出した。

333 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:15:05 ID:zp5q7Op.0
(’e’;)(三元牌の二副露。これは、まずいのう)
 
 誰がどう見ても、大三元狙い。
 場に緊張感が走った。
 
(’e’;)(大三元を和了られたら、ツモであれロンであれ、どこかが0点になる。中堅戦が終わってしまうぞい)
 
 可能性としては、既に大三元が確定していることも考えられる。
 そうなると、何に注意すべきかがほとんど掴めない。
 三元牌以外を自由に組めるのが大三元の怖いところなのだ。
 
(’e’)(まだ十一巡目じゃが、放銃は絶対に避けなければならんのう。ここで飛ばされたら決勝進出が絶望的になるぞい)
 
 果たして、凌ぎきれるかどうか。
 テンパイを捨てて現物の二索を切りながら、船都は必死で思考を続けた。
 
 船都の視界には、中は一枚も見えていない。
 既に初本が揃えている可能性は充分ある、と見ていた。
 
 残る面子と雀頭は何を揃えようとしているのか。
 十二巡目は既に現物がない。船都は、雀牌に汗を滲ませながら北を切った。
 
(’e’)(通ったか)
 
 初本からロンの声が発されることはない。
 北は既に二枚切られていたため、これを待っている可能性は低いと考えながらも、船都は心から安堵していた。
 小さく息を吐き、船都は次の手番で現物をツモることを祈る。
 
 しかし、初本の手番。
 ツモった牌の表が見えるように卓上に置かれた。
 船都の体が、膠着する。
 
 だが、ツモ牌に続いて倒された初本の手牌は、船都にとって意外な形で並んでいた。

334 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:16:55 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ツモ、8100オール」
 
 倍満。
 船都たちは、相当の痛手を被った。
 それは間違いない。しかし、大三元ではなかったのだ。
 
(’e’;)(大三元を待たずに小三元で和了じゃと!?)
 
 初本の手に、中は二枚しかない。
 大三元を和了るためには、中が三枚必要なのだ。
 
 中が出てくるのを待っていれば、そこで中堅戦を終わらせることができた。
 しかし初本は、七萬で和了りを宣言した。
 
雀卓「東家、ツモです。役牌2、小三元、対々和、ドラ3。倍満、8000オールは一本場につき8100オールです」
 
 倍満を和了ったことで、芽院高校の初本の得点は60000点を超えた。
 中堅戦で圧倒的優位に立ったことは間違いない。
 
(’e’)(それで良しとする、か? 大三元まで手を上げなくても充分じゃと)
 
(’e’)(あるいは中で和了ることをほとんど諦めておったか)
 
 最後は中と七萬を待つ形だった。
 周囲に中を警戒されていては出和了りは絶望的。ならば七萬で、という判断か。
 現実的な男だ、と船都は思った。
 
(’e’)(なんにせよ、これ以上は点を減らさないように打たんといかんのう)
 
 仮に今、終局したとすれば、麦秀高校にはたったの27ポイントしか入らない状況だった。
 しかしそれでも、凌雲高校や豊稔農林高校よりはポイントを稼げるのだ。
 
 二位の維持。
 船都は、それだけを目標に打とうと決めた。
 
 
 
( ^Д^)「小三元で和了りか。初本さんらしいな」
 
 中堅戦は東二局の二本場。
 引き続き、芽院高校の初本が親だった。

335 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:18:28 ID:zp5q7Op.0
('A`)「結果的には最高の判断ですよね。大三元は絶対に和了れなかったわけですから」
 
 初本は中と七萬を待つ形でテンパイしていたが、中は凌雲高校の多賀崎が二枚抱えていた。
 多賀崎の気が狂わない限り、中が出てくることは絶対になかったのだ。
 
( ^Д^)「見抜いてたのかもな。誰かが中を抱えてるって」
 
(*゚ー゚)「初本さんなら、ありえますね! 観察眼すごいから!」
 
('A`)「相手の視線や理牌から推測できてたとしても不思議じゃないですね」
 
( ^Д^)「ただ、中が出る可能性を信じてたとしても、あの場面は小三元で和了るよ。そういう人だ、初本さんは」
 
(*゚ー゚)「後ろに笑野さんが控えてるから、ですか?」
 
( ^Д^)「いや、それもあるかもだけど、あんまり高目は狙わないんだよ。野球でいうなら中距離バッターって感じだ」
 
('A`)「笑野さんは長距離砲ですもんね」
 
( ^Д^)「まぁ俺なら大三元目指してただろうな。つーか毒島もそうだろ」
 
('A`)「和了れるチャンスがあるときに和了っておきたいっていうのはありますね」
 
(*゚ー゚)「私なら、役満は和了ってみたいですけど、跳満確定、裏ドラ乗って倍満ならそれで満足しちゃいます、きっと」
 
( ^Д^)「ま、そんな感じで人それぞれなわけだ」
 
 大三元を和了していれば、この中堅戦は圧勝で終わっていた。
 しかし、初本は小三元を選択した。
 
 初本はそれでいいのだ、と笑野は思っていた。
 昨年の全国大会のような、自分を見失った打ち方をしなければ、初本は堅実に勝利を収める。
 
 麻雀は運の要素が絡むからこそ、自分の軸を崩してはならない。
 自分のスタイルを、保たなければならないのだ。

336 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:20:01 ID:zp5q7Op.0
 この戦いに関してはまず安泰と見ていい。
 そう思った笑野は立ち上がって、飲み物を買うべく控え室を出た。
 出番は、遠くないうちに回ってきそうだった。
 
 
 
 東二局三本場。
 配牌を確認した初本の鼻から息が漏れた。
 
(´・ω・`)(さすがに二局連続で好配牌とはいかないか)
 
 三元牌に恵まれた先ほどのような配牌ではない。
 五向聴。普通に打ち進めれば和了りはかなり遠いだろう。
 
 だが、今度は逆に字牌が一枚しかない。
 鳴きを利用して断幺九を狙うという手があった。
 
(´・ω・`)(既に40000点以上のリードがある。このまま固く守っても、問題ないんだろうけど)
 
(´・ω・`)(麦秀と決勝で再び戦うことを考えると、ここでなるべく圧倒しておきたい)
 
 基本的に、この二回戦のポイントは決勝には影響しない。
 もし決勝で同点の高校が出た場合、二回戦のポイントで上位が決まることもある、という程度だ。
 
 しかし、ここで力量差を見せつけておけば、決勝でも対局を優位に進められる。
 麦秀高校は、どうしても相手の手を窺って打たざるを得なくなるためだ。
 
 無理に攻める必要はないものの、手を緩めるつもりなど初本には全くなかった。
 
(´・ω・`)「チー」
 
 鳴いて手を進める。
 断幺九のみでも、とにかく連荘できればそれでいい、というスタンスだった。
 
 しかし、ここで機先を制するべく上がった声があった。

337 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:22:04 ID:zp5q7Op.0
(’e’)「立直じゃ」
 
 麦秀高校の船都が九巡目に立直。
 初本はようやく一向聴に達したばかりだった。
 
(´・ω・`)(そんなに高い手じゃなさそうだ。とにかく親を流そうってとこかな)
 
 もし勝利を得るつもりならば、高目を狙うはずだ。
 更に理想を求めるならば、初本からの出和了りに期待してダマテンで仕掛けるべき場面だった。
 しかし、船都は立直をかけた。
 
(´・ω・`)(姿勢としては、悪くないんだろうけどね)
 
(´・ω・`)(でも、それが簡単に通じる相手だと思われたくはないな)
 
 初本はまず、立直時に船都が切った六索をポンして手を進めた。
 これで、初本もテンパイ。
 
 降りる気など全くなかった。
 ここは仕掛けるべき場面だ、と初本は判断したのだ。
 
 既に他校とは圧倒的な点差があった。
 仮にここから多少の失点があったとしても、確実に首位をキープできる。
 トップにさえ立っていれば、あとは県下最強の笑野に全てを託せばいいだけなのだ。
 
 初本は、多少のリスクを負ってでも、徹底的に他校を叩く作戦に出ていた。
 
(’e’)(ポンじゃと? 降りる気はない、ということか?)
 
 無論、初本の意思は船都にも伝わっていた。
 この局の展開について楽観視していた船都に、焦りが生じる。

338 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:24:14 ID:zp5q7Op.0
(’e’)(低い手ならすぐ降りるはずじゃがのう。この親番では充分稼いだことじゃし)
 
(’e’)(ドラも絡めて、かなり高い手になっておる、か?)
 
 船都の手は、今のところ立直と平和で二飜のみだ。
 自分があまり高い手ではないと読まれているのかもしれない、とは船都も思っていた。
 
 ただ、初本は既に二回鳴いており、手牌が限られてきている。
 回し打ちには厳しい状況だ。
 
(’e’)(まぁ、立直はかけておらんし、危なくなればすぐに降りるつもりなんじゃろうがのう)
 
 次の手番で船都に回ってきた牌は一筒。
 当たり牌ではなく、そのまま切り捨てる。
 
 その後に巡ってきた芽院高校の手番、初本はツモ牌を一瞥する。
 そして、即座に河へと捨てた。
 
 余裕を、持って。
 
(’e’;)(確信しているかのような、捨て方じゃのう)
 
 ツモした三萬で、振り込むことはない、と。
 そう確信しているかのようだった。
 初本は、船都の様子を窺うこともなく淡々と三萬を捨てたのだ。
 
 三萬は、生牌だった。
 生牌でなくとも、河を見れば決して安全と言えるはずのない牌だ。
 なのに何故、あれほどあっさり捨てられるのか。
 
 船都には、分からない。
 握り締めた拳に、爪が食い込んだ。
 
 立直をかけて、優位な立場にいるはずなのに、逆に追い詰められているような感覚さえ船都にはあった。
 そしてそれは、間違っていなかったのだと知る。

339 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:26:13 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ツモ」
 
 初本が、ツモ牌の五筒と共に手牌を倒した。
 単純な役としては断幺九のみ。しかし、船都が読んだとおり、ドラが絡んでいた。
 
(´・ω・`)「断幺九、ドラ3。4200オール」
 
 もはや、中堅戦の最下位である凌雲高校には4700点しか残っていない。
 二位の麦秀高校さえ、首位の芽院高校とは70000点以上の点差があった。
 
(’e’)(役者が、違うのう)
 
 対局中でなければ、自嘲的な笑みさえ漏らしていたかもしれない。
 船都は、あってはならないことだと分かっていながらも、自分の率直な思いを抑え込むことはできなかった。
 
 この中堅戦は、もうどうにもならない、と。
 
 続く東二局の三本場。
 否応なく漂う厭戦感のなかで、初本に立ち向かえる者は、一人もいなかった。
 
(´・ω・`)「ロン」
 
 凌雲高校の多賀崎が、不用意に危険牌を切った。
 呼応して和了りを宣言した初本が、手牌を公にする。
 
(´・ω・`)「立直、平和、断幺九。6000は6900」
 
 凌雲高校が、全ての点数を奪われた。
 しかしもはや、多賀崎は反応を示せずにいる。
 
 0点となった高校があったため、中堅戦は東二局の三本場をもって終了。
 初本の、圧勝だった。

340 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:27:54 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「ありがとうございました」
 
 軽く頭を下げて、初本が最初に対局室から退出する。
 しかし、他の三名はすぐに席を立つことができなかった。
 
 
( ^Д^)「お疲れっす」
 
 ペットボトルを持たないほうの手を振って、笑野が初本を迎えた。
 初本は軽く手を挙げて応える。
 
( ^Д^)「楽勝っすね」
 
(´・ω・`)「いやぁ、牌に恵まれただけだよ。ドラもいっぱい乗ってくれたし、できれば決勝に取っておきたかったくらいだ」
 
( ^Д^)「大丈夫っすよ。決勝じゃあ麦秀は縮こまってるだけっす」
 
 さすがに、笑野は初本の意図を見抜いている。
 だからこそ、この男は頼もしいのだ、と初本は思った。
 
( ^Д^)「あ、そういえば今ポイント差はどんな感じっすか?」
 
(´・ω・`)「二位の麦秀とは133ポイント差だね。34ポイント以上の差をつけられて麦秀に負けると、大将戦に回ってしまう」
 
( ^Д^)「そんな事態を起こしたら伊勢湾に沈めてもらっていいっすよ」
 
 そう答えた笑野に、初本は微笑んだ。
 例え半荘戦であろうと、負けてはならない。それを、笑野も分かっているのだ。
 
(´・ω・`)「僕より早く終わらせてくれることを期待してるよ」
 
( ^Д^)「まじっすか? じゃあ頑張ってみるっすけど」
 
 後ろ手を振りながら笑野は対局室へと消えて行った。
 それを見届けてから、初本は控え室に戻る。

341 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:29:45 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「みんな、お疲れ様」
 
 控え室は、対局室よりエアコンが効いていて涼しかった。
 初本は、廊下を歩く間に噴き出た汗を、鞄から取り出したタオルで拭う。
 
(*゚ー゚)「お疲れ様です! 凄かったです!」
 
( ^ω^)「圧勝したってことは何となく分かりましたお!」
 
(´・ω・`)「ありがとう。まぁ、会心の麻雀かな」
 
 壁際のテレビには副将戦の模様が映し出されている。
 まだ着座したばかりで、これから親が決まるところだった。
 
('A`)「小三元で和了ったときは、中が出ないことを読んでたんですか?」
 
(´・ω・`)「僕が發をポンしたとき、凌雲の多賀崎くんだけがあまり焦ってないように見えてね」
 
('A`)「なるほど。だから中を対子で持ってるんじゃないかと推測できたんですね」
 
(´・ω・`)「ま、小三元で充分と思ってたから、いずれにせよ七萬で和了る場面だけどね」
 
(*゚ー゚)「麦秀の船都さんが立直したあとに三萬を自信満々で切ってましたよね。あれは?」
 
(´・ω・`)「いや、自信満々ってほどじゃないよ。ただ、他者の牌が捨てられたとき、萬子と筒子でちょっと船都くんの反応が違う気がしてね」
 
(´・ω・`)「萬子のときは、捨て牌から目を切るのが早い。筒子だとちょっと遅い。だから筒子を待ってるのかなって思ったんだ」
 
(´・ω・`)「確証はないから、自分のなかでは『放銃もやむなし』って感じだったんだけどね。そんなに高い手じゃなさそうだったし」
 
(*゚ー゚)「そんな細かいところまで観察してるなんて、やっぱり初本さんは凄いです!」
 
 晴れやかな笑顔を浮かべてそう言う椎名に軽く礼を言って、初本はテレビの前の椅子に腰掛ける。

342 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:32:02 ID:zp5q7Op.0
 笑野のように、高い手を狙う勇気が持てない。
 毒島のような徹底したダマテンでの攻めも単騎待ちもできない。
 椎名のように常に和了りを目指せるような果敢さもない。
 
 自分に足りないものを、初本は自覚していた。
 だが、ないものをねだっても致し方ない。
 自分は自分らしく打たなければならないのだ、と昨年の全国大会で痛いほど思い知らされた。
 
 観察力も、図抜けているものだとは初本自身、思っていなかった。
 ただ、武器らしい武器はそれしかなかったのだ。
 決して捨ててはならない。自分らしくあるために。
 
 どこまで通用するかは分からないが、携えて戦っていこうと初本は決めていた。
 自分を、見失ってしまわないように。
 
('、`*川「あ! 初本さん帰ってきてる!」
 
(´・ω・`)「お疲れ様」
 
 トイレに行っていた伊藤が、初本の姿を見つけて急いで駆け寄った。
 初本は思わず苦笑いを浮かべる。
 
('、`*川「麻雀のルールはよく分かんないですけど、完勝だったんですよね!」
 
(´・ω・`)「うん。今回は上手く打てたよ」
 
('、`*川「もうウチが決勝進出でほぼ決まりですよね! さすが初本さんです!」
 
(´・ω・`)「まだ油断はできないよ。何が起きるか分からないのが麻雀だからね」
 
(*゚ー゚)「でも、副将戦に笑野さんが出るっていうのは凄いですよね。磐石すぎます!」
 
(´・ω・`)「それは、確かにそうだね。他の高校からしたら、笑野が大将じゃないことに戦々恐々って感じかな」
 
 県内では、どの高校でも大将を務められる実力の持ち主だ。
 副将戦に出てくるとは思わなかった、というのが他校の思うところだろう。

343 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:33:41 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「さ、みんなで笑野を応援しようか」
 
 そう言いつつも、初本の意識は別の高校の試合に向いていた。
 
 
 
 副将戦で、初めて芽院高校が起家となった。
 
( ^Д^)(おっ。かなりの好配牌だ)
 
 迫り出されてきた牌を見て、笑野の心は弾んだ。
 十四枚のうち、九枚が索子。
 字牌が二枚。混一色を狙うべき配牌だった。
 
( ^Д^)(できれば一気通貫も乗せたいところだな。足りないのは二索と九索か)
 
( ^Д^)(喰い下がってでも鳴いていくか?)
 
 まず不要牌の五萬を切ってから、笑野は他家の捨て牌を待った。
 無難に字牌が切られていく。
 
 二巡目、いきなり九索が笑野の手に入った。
 
( ^Д^)(よし、鳴くのはやめよう)
 
 混一色も一気通貫も、鳴いた瞬間に喰い下がりが発生する。
 合計で二飜下がるとなると、得点への影響は大きかった。
 
 圧倒的な首位に立っている現状では、点が下がろうとも和了りを優先すべきかもしれない。
 笑野はそうも思っていたが、やはり、自分のスタイルを変えるべきではないだろうという思いのほうが強かった。
 部長の初本が、中堅戦で貫いたように。
 
( ^Д^)(二索はなかなか出てこないな)
 
 七巡目まで進んだが、笑野の手に二索は入って来ず、他家から捨てられることもなかった。
 しかし、その間に一索が二枚入ったのだ。
 笑野はここで、混一色を狙うこともやめた。

344 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:35:09 ID:zp5q7Op.0
( ^Д^)(ここまで来たら、清一色狙いだ)
 
 役満を除けば、単体の役としては最高の六飜を得られる清一色。
 ツモに恵まれている今こそ狙うべきだ、と笑野は考えた。
 
 清一色と一気通貫を鳴かずに完成させれば倍満となる。
 この副将戦を、磐石のものとできるのだ。
 笑野は、牌を強く握って發を切った。
 
 直後、二索が河に捨てられた。
 
 麦秀高校の名織は、いつものように素早い打牌だった。
 
( ^Д^)(どこまで考えてんだかな、この人は)
 
 考えて打っているのか、考えずに打っているのか。
 それさえ、笑野には分からない。
 
 上家の捨て牌であるため笑野はチーできないが、索子が河に少ないことは一目見れば分かる。
 多少は警戒したほうがいい場面だ。
 しかし、名織に躊躇はなかった。
 
( ^Д^)(高目を狙ってんのかもな、麦秀の名織も)
 
( ^Д^)(幺九牌がほとんど捨てられてねーけど、もしかして国士無双か?)
 
 一瞬、そう考えたが、一索は笑野が三枚握っている。
 可能性としては低い、とすぐ考え直した。
 
( ^Д^)(あんまりデカイのに振り込むとマズイけど、この局はなるべく突っ張っていきたいところだな)
 
 その後、十一巡目までは不要牌ばかりが回ってきたものの、十二巡目で七索を引いた。
 これで笑野は、清一色と一気通貫のテンパイ。
 出和了りを待つべく、立直はかけなかった。
 
( ^Д^)(さぁ、和了れるか)

345 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:37:09 ID:zp5q7Op.0
 ダマテンでの二索の単騎待ち。
 まるで毒島みたいだな、と笑野は思った。
 
 途中の字牌の引きを組み合わせると、混一色狙いならもう和了れていた計算になる。
 もしこの清一色を和了れないとなると、笑野の打ち方は裏目に出たこととなるのだ。
 
( ^Д^)(裏目上等、望むところだ)
 
 自分を信じて、打つ。
 結果的に奏功しなかったとしても、それでいい、と笑野は考えているのだ。
 和了りを捨てていたとしても、自分を捨てるよりはいい、と。
 
 二索は麦秀高校の名織が既に一枚捨てているため、残り三枚。
 決して分が悪い勝負ではない、と笑野は思っていた。
 
 そして、笑野がテンパイした直後、名織の手には再び二索が入ってきていた。
 
('(゚∀゚∩(また二索だよ。これ、大丈夫かな?)
 
 いつもは打牌の早い名織も、さすがに手が止まった。
 首位を独走する芽院高校の笑野が、まだ一枚も索子を切っていないためだ。
 
 先ほど二索を切ったときは、笑野から声が上がることはなかった。
 刻子として揃えたいわけではない、ということだろうか、と名織は考える。
 順子の要員として既に手に入れている可能性も、そもそも二索が必要ではない手という可能性もあった。
 
('(゚∀゚∩(うーん、考え出すとキリがないよ)
 
 笑野がテンパイしていることは充分に考えられる。
 そう思っている名織も、既にテンパイしているのだ。
 珍しい形だが、混老頭と七対子の組み合わせだった。
 
 名織にとっては、和了りたい局面。
 しかし、笑野の染め手に振り込んでしまうと、決勝進出が厳しくなる。

346 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:38:52 ID:zp5q7Op.0
 逡巡の後に、名織は対子になっていた中を切った。
 事実上の、降参だ。
 
('(゚∀゚∩(とっても和了りたいよ! でもそれ以上に、振り込みたくないよ!)
 
 普段、そう簡単には降りない名織が、降りることを選択した。
 絶対に決勝に進むという強い決意を持って。
 
 それが好判断であったと、名織はすぐ知ることになる。
 
( ^Д^)「ロン」
 
 名織が中を捨て、豊稔農林高校に手番が移った。
 ツモを取り込んだ後に捨てた牌が、二索だったのだ。
 
 笑野が仰向けにした手牌は、見事に索子が並んでいた。
 
雀卓「東家、ロンです。清一色、一気通貫、ドラ2。三倍満、36000です」
 
 二回戦は全て25000点持ちで始まる。
 36000点を失った豊稔農林高校は持ち点が0となり、雀卓の中央の画面には『終局』の文字が表示されていた。
 
( ^Д^)「終わりか」
 
 東一局のみで、笑野は副将戦を終わらせた。
 あまりに迅速な、完勝だった。
 
 副将戦では、まず一位の芽院高校が100ポイント、二位の麦秀高校が40ポイントを得た。
 それから三位の凌雲高校が35ポイントを獲得し、三倍満に振り込んで飛ばされた豊稔農林高校はポイントなしに終わった。

347 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:40:23 ID:zp5q7Op.0
 合計ポイントとしては、芽院高校が400ポイント、麦秀高校が207ポイント。
 ここまでが決勝に進み、170ポイントの凌雲高校と99ポイントの豊稔農林高校は二回戦敗退が決定した。
 
( ^Д^)「要らなかったな、これ」
 
 笑野が対局中に飲むために用意したファンタは、結局、キャップさえ開けないままだった。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「お帰りだよう」
 
 普段とあまり変わらない表情で帰ってきた名織を、伊要が出迎えた。
 
(=゚ω゚)ノ「二位をキープできて良かったよう。これで決勝に進めるよう」
 
('(゚∀゚∩「決勝に行けて嬉しいよ! 明日はもっと頑張るよ!」
 
 飛び跳ねるように名織は喜んでいる。
 敗戦のショックを抱えているわけではなさそうだ、と伊要は胸を撫で下ろした。
 
,(・)(・),「二索を引いたときは、実はみんなでちょっと心配してたんですよ」
 
( ・3・)「振り込むんじゃないかと思ったYO」
 
('(゚∀゚∩「さすがの僕でも降りるよ! 放銃には気をつけてたよ!」
 
(’e’)「ツモ和了りなら他も同時に沈むからのう。振り込んだら凌雲に逆転されてるところじゃった」
 
(=゚ω゚)ノ「決勝進出のことだけを考えるなら、豊稔農林が振り込んで試合が終わったのはラッキーだったよう」
 
('(゚∀゚∩「そういえば、何で豊稔農林は最後に二索を切ったの?」
 
(=゚ω゚)ノ「二索を切って跳満のテンパイだったんだよう」
 
( ・3・)「豊稔農林が逆転するためにはとにかく和了ってかなきゃいけない状況だったYO。だから無理に突っ張ったんだYO」
 
,(・)(・),「でも、振り込んで悔いなしって感じでしたね。ある程度は覚悟してたんでしょうね」

348 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:42:13 ID:zp5q7Op.0
 中堅戦で初本に圧勝されたときは、絶望感が伊要を覆ったが、辛くも二回戦を突破できた。
 この二回戦では芽院高校に敵わなかったものの、明日は何が起きるか分からない。
 麦秀高校の歴史上、一度としてない全国への道が、おぼろげながら見えてきていた。
 
(=゚ω゚)ノ「今日はみんなゆっくり休んでほしいよう。明日は7時に集合だよう」
 
 今日出番のなかった伊要にも、精神的な疲労はあった。
 そしてそれは、明日になっても消えないだろう。
 
 肯綮高校の水戸、陶冶高校の杉浦。
 明日の大将戦に出てくるであろう相手は、いずれも県内では五指に入る打ち手だ。
 
 そして、何よりも。
 
(=゚ω゚)ノ(ネット界最強の、『ホライゾン』)
 
 芽院高校が用意した最終兵器。
 恐らくは、大将戦で出てくる。
 
 強敵に対する恐れか、喜びか。
 今、襲い来る感情がいったい何なのか、伊要自身にもよく分からなかった。
 
 しかし、決して悪い気分ではなかった。
 
 
 
( ^Д^)「誰も待っててくれないなんて寂しい限りだぜ」
 
('A`;)「いやいや、勝つの早すぎです」
 
(;゚ー゚)「東一局で終わるなんて予想できませんよ、笑野さん」
 
 対局室を出たところに誰も居なかったことを、笑野は冗談めかして責めていた。
 もちろん、笑野自身も東一局で終わらせられるとは思っていなかったのだ。

349 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:45:01 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「僕より早く、とは言ったけどね。まさかヨーイドンで終わらせるとはね」
 
( ^Д^)「ドラにも恵まれたっすね。こっちは運が良かっただけっすけど」
 
(´・ω・`)「清一色まで狙いを高めたところが、さすがだよ。僕なら混一色で和了ってる」
 
( ^Д^)「それも、運に恵まれた感じはあるっすよ。どうしても運が絡むのが麻雀っすから」
 
 笑野は、オカルト派の打ち手ではないが、麻雀の偶然性の高さはよく分かっていた。
 次も同じように上手くいくとは限らない。それが、麻雀だ。
 
( ^Д^)「内藤、見てたか? 俺の華麗な打ち筋を」
 
( ^ω^)「なんか同じような牌がいっぱい並んでて綺麗だなって感じでしたお!」
 
(;^Д^)「そーいや、まだ役はほとんど教えてないんだったな。清一色も分かんないか」
 
(´・ω・`)「そうそう、それについては笑野に話があるんだよ」
 
( ^Д^)「話っすか?」
 
 二回戦が終わったため、今日は帰宅していいと運営側から連絡が入っていた。
 既に内藤や毒島、椎名などは帰り支度を始めている。
 
(´・ω・`)「明日の決勝も、今日みたいに副将戦までで終わらせる。その方針に変わりはない」
 
(´・ω・`)「だけど、やっぱり内藤をできる限り鍛えておきたい」
 
( ^Д^)「そうっすね、万が一に備えて」
 
(´・ω・`)「このまま帰宅してまた明日、だとちょっと時間が足りないかなって思ってね」
 
( ^Д^)「確かに。内藤なかなか覚えてくんないっすもん」

350 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:46:58 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「だから、できれば今晩もみんなで集まって内藤を鍛えたいんだ。時間は大丈夫?」
 
( ^Д^)「ん? 時間はいいっすけど、場所がなくないっすか? 学校はダメでしょうし」
 
(´・ω・`)「僕もそう思ったんだけどね。伊藤の力を借りることにした」
 
('、`*川「任してくださいよ!」
 
 鞄を肩に掛け、帰宅準備を終えた伊藤が、右手の親指を自分に向けていた。
 その伊藤に向けて拍手を送る椎名を、笑野は不思議そうな目で見る。
 
(;^Д^)「んん? どういうことっすか?」
 
(´・ω・`)「伊藤のお父さんがホテルを何軒か経営してるっていうのは、知ってると思うけど」
 
( ^Д^)「ストリングホテルっすよね」
 
(´・ω・`)「そうそう。それでね、電車で20分くらい行ったところにも観光用のホテルがあって」
 
('、`*川「何とか空室を確保しました!」
 
( ^Д^)「マジで!?」
 
(´・ω・`)「時間の許す限り内藤を鍛えて、明日はホテルからそのまま会場に向かおう」
 
(;^Д^)「伊藤マジですげーなお前」
 
('、`*川「ただし、麻雀部の活動ってことがウチの親にバレたらとんでもないことになるんで、そこだけ要注意です」
 
(*゚ー゚)「華道部の人たちとコミュニケーションを取るために部屋を借りたって言い訳してるみたいなので」
 
(;^Д^)「そーいや華道部に入ってるって嘘ついてるんだったな」
 
 机の上に散らばっていた雀牌を片付け、皆が自分の鞄を抱えた。
 初本が頷き、最初に控え室を出る。

351 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:48:38 ID:zp5q7Op.0
 県民会館から駅までは徒歩五分程度だった。
 小さな駅のため、急行電車は止まらない。
 ホテルのある駅へ早く行くためには、途中の駅で急行電車に乗り換える必要があった。
 
('A`*)「なんかホテルに泊まるのってわくわくしますね。しません?」
 
( ^Д^)「確かに。滅多にないもんなぁ」
 
 県民会館から出て、駅に向かって六人が歩きだした。
 同じように試合を終えた高校の生徒が疎らに同じ道を進んでいる。
 
('、`*川「ご飯は出ないんで、ホテルの近場で済ませましょ」
 
(*゚ー゚)「お菓子買って持ち込もうよ、ペニちゃん!」
 
('、`*川「いいね、いいね。わくわくしてきた」
 
( ^ω^)「いっぱい買い込むお!」
 
('、`*川「内藤、あんた食い過ぎちゃダメよ。すぐ太りそうだから」
 
( ^ω^)「僕は糖分を摂取しないと知識が頭に入らないんだお。だからたくさん食べるお」
 
('A`;)「本当かよ。それで覚えられるんなら苦労はないんだけどなぁ」
 
(´・ω・`)「みんな、楽しむのもいいけど、あんまりはしゃぎすぎないようにね」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
 芽院高校の一行が駅に到着し、二十分に一回しか来ない電車をプラットホームで待った。
 ホテルで一泊するとあって皆の気持ちは既に弾んでいる。
 いつもとさほど変わらないのは初本くらいのものだ。
 
 その初本に、歩み寄ってくる男がいた。

352 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:50:28 ID:zp5q7Op.0
(´・ω・`)「水戸くん」
 
(‘_L’)「お疲れ様です」
 
 プラットホームは島式で、初本たちは上りの電車を待ち、水戸たちは下りの電車を待つところだった。
 それぞれ、電車が到着するまでは五分以上の時間がある。
 
(‘_L’)「さすがに強いですね。圧勝ですか」
 
(´・ω・`)「そっちこそ、この時間に帰ってるってことは、副将までで終わったんだろう?」
 
(‘_L’)「自分も打ちたい気持ちはありましたが、早く終わらせるに越したことはありません」
 
(´・ω・`)「全くだね。計算上の最速である中堅戦で終わらせられればベストだよ」
 
(‘_L’)「しかし、無論のことながら明日はそうもいきません。こちらにとっても、そちらにとっても」
 
 芽院高校を相手に、副将戦までで終わらせられるはずがない。
 水戸は、そう考えていた。
 
(´・ω・`)「厳しい戦いになるだろうね」
 
 初本も同じ気持ちだ。
 肯綮高校は決して易い相手ではない。
 昨年も、一昨年も、シャツが湿るほど緊迫感に満ちた戦いだった。
 
(´・ω・`)「今日もそっちの試合を見てたけど、いい麻雀だった。去年より強いね、間違いなく」
 
(‘_L’)「そちらこそ、でしょう。貴方の麻雀も、笑野くんの麻雀も力強かった」
 
(‘_L’)「そして何より、大将に『ホライゾン』が控えているのですから」
 
 漏れかけた苦笑を、初本は堪えた。
 その大将が打つようなことがあれば、芽院高校の全国への道は閉ざされるだろう。
354 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:54:07 ID:zp5q7Op.0
(‘_L’)「先鋒と次鋒を務めた二人の一年生も、いい打ち筋でした。明日は、最初から難しくなりそうです」
 
 それを聞いて初本は、不意に肯綮高校の先鋒のことを思い出した。
 
 今年から加入した一年生。飛びぬけた実力があるわけではなさそうだ。
 抱いた印象は、その程度だったが、大事なことを忘れていた。
 
(´・ω・`)(やばいな。最初から苦戦するのは、こっちのほうかもしれない)
 
 手を打たなければ。
 しかし、相手に悟られたくはない。
 初本は必死で平静を保った。
 
(‘_L’)「内藤くん」
 
 しまった、と初本は思った。
 
 動揺を心で押し留めていた初本の脇を通過し、水戸が内藤に近づいた。
 初本は、間に割って入りたかったが、そうすることの合理性がない。
 何も余計なことは言わないでくれ、と願うことしかできなかった。
 
(‘_L’)「肯綮高校の水戸です。お会いできて光栄ですよ」
 
 水戸が差し出した右手を、内藤は躊躇いながら握り返した。
 内藤に警戒心を抱かせる、不思議な握手だった。
 
(‘_L’)「明日は対戦することになると思います。胸を借りるつもりで挑ませていただきますので、よろしくお願いします」
 
( ^ω^)「よろしく、お願いしますお」
 
 水戸が内藤の手を離し、背中を向けてようやく、初本は安堵した。
 内藤は、何も余計なことは喋らなかった。

355 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:57:13 ID:zp5q7Op.0
(‘_L’)「今年はもう、プレーオフには回りたくありません。ストレートで全国行きを決めるつもりです」
 
(´・ω・`)「僕たちも一緒さ、水戸くん」
 
(‘_L’)「えぇ、そうでしょう。そうでなければ、面白くありません」
 
 すれ違いざまに、初本に見せた、水戸の自信。
 全身から横溢するようだった。
 
(‘_L’)「例えどんな展開になろうと、最後まで諦めずに戦い抜きます。お覚悟を」
 
(´・ω・`)「充分、警戒させてもらうよ」
 
 初本の声を掻き消すような音を立てながら、上りの電車がプラットホームに到着した。
 肯綮高校の五人のメンバーから送られる視線を背に受けながら、芽院高校の面々は電車に乗り込む。
 
 電車が発車した直後、水戸は軽く頭を下げて電車を見送った。
 
/ ゚、。 /「相変わらず初本って落ち着いてるよね。同い年とは思えない」
 
 一歩引いたところで見ていた鈴木が、水戸に近づきながら言った。
 首を捻りながら喋っているように見える鈴木だが、単に癖としていつも身体が傾いているのだ。
 
(‘_L’)「彼は昨年、既にリーダーシップを発揮しつつありましたからね」
 
( ∵)「彼奴が中堅として戦場に出陣してくるわけか。血が滾るな」
 
(‘_L’)「相当に手強いことは間違いありません。名瀬楢くん、相応の覚悟を」
 
从'ー'从「でもでもぉ〜、初本って人は今日で運を使い果たしちゃったんじゃないですかぁ〜?」
 
(‘_L’)「運とはただの確率です。使い果たすなどどいうことはありえないのですよ、渡辺さん」
 
(´・_ゝ・`)「僕と当たることは、ないですよね?」
 
(‘_L’)「えぇ。盛岡くんは初本とも笑野とも内藤とも当たらないでしょう」

356 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE:2013/01/12(土) 22:59:28 ID:zp5q7Op.0
 水戸の後ろで初本との会話を見守っていた他の部員たちが、次々に水戸へ声をかけた。
 肯綮高校の麻雀部は五人しか居ないため、これでフルメンバーだ。
 
/ ゚、。 /「でもさ、初本も笑野も怖いけど、やっぱ一番は『ホライゾン』でしょ?」
 
从'ー'从「そうそう〜。ネット界では凄いんですよね〜。私は今日初めて知りましたけど〜」
 
/ ゚、。 /「水戸を信頼してないわけじゃないけどさ、かなり厳しい相手だと思う。どうするの?」
 
(‘_L’)「今さら小手先に頼っても奏功するとは思えません。私は私らしく打つだけです」
 
(‘_L’)「ただ、実のところ、それほど内藤を恐れる必要はないかもしれないと思っています」
 
/ ゚、。 /「えっ?」
 
 電車の音が遠来し、プラットホームにまで届いた。
 下りの電車が到着する時間だった。
 
/ ゚、。 /「何それ、どういうこと?」
 
(‘_L’)「つまり、内藤が最強の雀士とは限らないということです。詳しくは、また後ほど」
 
 二両編成の電車が到着し、五人が電車に乗り込んだ。
 電車は南の方面へ向かって、ゆっくりと動き出す。
 
 やがて加速し、規則正しい音を立てながら、駅から遠ざかっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第4話 終わり
 
     〜to be continued

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