216 名前:登場人物 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:12:15 ID:GkQY0Mg20
◇芽院高校

■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生

■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生

■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生

■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生

■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生

217 名前:大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:13:56 ID:GkQY0Mg20
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。

一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。

例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。

どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。
219 名前:大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:15:40 ID:GkQY0Mg20
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用

220 名前:大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:17:48 ID:GkQY0Mg20
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点

■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

221 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:20:32 ID:GkQY0Mg20
【第3話:踏み出す二本の矢】
 
 
 静かに打牌の音が積み重ねられていた。
 
 東一局は凌雲高校が親番だったものの、豊稔農林高校が速やかに役牌のみでロン和了り。
 豊稔農林高校を親とする東二局へと差し掛かっていた。
 
<メ´Θ`>(配牌は三向聴か)
 
 豊稔農林高校の近藤は、先ほど上手く凌雲高校の親番を流した。
 点差は小さいとはいえ現時点では首位。この順位を守っていきたい気持ちは強い。
 
<メ´Θ`>(正直、この面子じゃあウチの決勝進出は厳しい。芽院と麦秀が抜けてる)
 
<メ´Θ`>(でも諦めるわけにはいかない。運次第で何とでもなるのが麻雀だ)
 
<メ´Θ`>(まずこの先鋒戦、トップに立ってバトンを渡す。それが俺の役目だ)
 
 五巡目。
 近藤の手は一向聴まで進んでいた。
 
 四萬か六筒を引けば三色同順をテンパイ。
 三色同順がつかなくとも断幺九、平和は実質的に確定している。
 喰い下がりをやむなしとすれば、更に手が進むのは早くなるだろう。
 
 八巡目、近藤は四萬を引いた。
 
<メ´Θ`>「立直」
 
 近藤が雀卓の立直ボタンを押すと、卓上に立直棒の画像が表示された。
 物理的な点棒のやり取りが存在しないのも、完全自動雀卓の特徴だ。

222 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:23:44 ID:GkQY0Mg20
<メ´Θ`>(さて、どう出る?)
 
 近藤は他の三人の様子を窺った。
 まだテンパイの気配はない。
 
<メ´Θ`>(凌雲のやつは降りそうな気配だ。麦秀はまだ仕掛けてきそうだが、芽院は全然手が進んでないみたいだな)
 
<メ´Θ`>(まぁ、立直しちまったから後はツモ切りするだけだ)
 
 九巡目、近藤が引いた牌はドラの八萬。
 当たり牌の六筒ではなかった。
 
 そして、近藤が静かにツモ牌を捨てた直後、声が上がる。
 
('A`)「ロン」
 
 近藤は、呻き声を漏らしかけた。
 最も和了りの気配が薄いと感じていた芽院高校の毒島が、ロンを宣言したのだ。
 
('A`)「満貫」
 
 牌が倒される。
 それを読み取った雀卓から音声が流れた。
 
雀卓「西家、ロンです。平和、一盃口、ドラ2。満貫、8000です」
 
 得点を表示する画面に変化があった。
 まず毒島が8000点を得て33000点に、近藤が8000点を失って18000点となる。
 それから立直棒供託の計算がなされ、最終的に毒島が34000点、近藤が17000点となった。

223 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:26:52 ID:GkQY0Mg20
<メ´Θ`>(くそっ、いきなり満貫に振り込んじまった)
 
<メ´Θ`>(捨て牌を見る限りだと配牌時点で一向聴だったか。読みが甘かったな)
 
<メ´Θ`>(まぁ、まだ始まったばっかりだ。切り替えて行くぜ)
 
 東三局。
 麦秀高校の松中を親とする局面へと移ろった。
 
<メ´Θ`>(おっ、二筒と八筒以外の筒子が揃ってる。一気通貫狙うっきゃねーな)
 
<メ´Θ`>(ツモに恵まれれば混一色も望める。鳴かずに進めりゃ満貫だ)
 
<メ´Θ`>(とはいえ和了りも重視したい。無理せず鳴いていくか)
 
 その近藤の思惑どおり、四巡目に八筒が切られ、近藤は声高にチーを宣言する。
 六巡目には対子となっていた白を引き、一気通貫、混一色、役牌の一向聴。
 既に鳴いているものの、当初の狙いどおり満貫となる手だった。
 
 そして九巡目。
 近藤は二筒を引き、これでテンパイ。
 南を引けば和了りという形に持ち込んだ。
 
<メ´Θ`>(誰か切ってくれねーかな)
 
 近藤は捨て牌を見回した。
 南はまだ一枚も切られていない状況だ。
 
 ツモ和了りもロン和了りも期待できる。
 揚々と十巡目のツモを切って、近藤は他家の捨て牌を待った。
 
 しかし、南家が牌をツモしたとき、ツモ牌は捨てられずに手牌と共に倒された。

224 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:29:50 ID:GkQY0Mg20
('A`)「ツモ、500・1000」
 
<メ´Θ`>「ッ!」
 
雀卓「南家、ツモです。断幺九、三色同順。二飜、500・1000です」
 
<メ´Θ`>(くそっ!)
 
 東三局を終えた時点で、芽院高校が36000点でトップ。
 二位が凌雲高校で24500点、三位が麦秀高校で23000点。
 最下位が16500点の豊稔農林高校となった。
 
 
 
(*゚ー゚)「ドっくん凄い! 順調ですね!」
 
(´・ω・`)「うん。まだ油断できないけどね」
 
 内藤の指導役は笑野が担当し、初本と椎名は毒島をテレビ越しに応援していた。
 伊藤は朝が早かったことによる眠気に襲われ、机に頭を伏せて寝息を立てている。
 
(´・ω・`)「この面子じゃ毒島の実力がひとつ抜けてる感じだね。緊張もしてないみたいだし」
 
(*゚ー゚)「初めての公式戦なのにあそこまで堂々と打てるって凄いですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。でも、椎名もきっと大丈夫だ。毒島がリードを奪ってくれてるし」
 
(*゚ー゚)「はい。いつもどおりに打ってきます」
 
 椎名が右手を握り締めた。
 腕に嵌められたオレンジのブレスレットが光を撒きながら揺れている。
 初本は、微笑を浮かべながら頷いた。

225 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:33:07 ID:GkQY0Mg20
(´・ω・`)「また子が和了ったね。もう南場だ」
 
 東四局は毒島が親番だったが、麦秀高校の松中が立直、一発、門前自摸で和了。
 毒島は2000点を支払い、34000点となった。
 
(*゚ー゚)「展開早いですね。このままだとすぐに次鋒戦になりそう。準備しなきゃ」
 
(´・ω・`)「対局室に携帯は持ち込めないから、ここに置いていくように」
 
(;゚ー゚)「あ、そうですよね。危ない、持ち込んじゃうとこでした」
 
(´・ω・`)「まぁ、仮に対局室に持ち込んじゃったとしても、係員に預ければいいんだけどね」
 
(*゚ー゚)「あとは飲み物を用意して、トイレにも行っておけば万全! ですよね!」
 
(;´・ω・)「仮にもモデルなんだし、もうちょっと慎ましく『お手洗い』とかの表現にしたほうがいいんじゃないかなぁ」
 
 椎名が慌しく準備を始めたところで、先鋒戦は南一局で初めての流局。
 芽院高校と麦秀高校がノーテン罰符を支払った。
 
 南一局一本場は親の凌雲高校が安い手を和了って1800点を加算。
 しかし続く二本場では豊稔農林高校が親から出和了りし、2600点を取り返した。
 
(*゚ー゚)「どうなりました?」
 
(´・ω・`)「今は南二局だよ」
 
 紅茶のペットボトルを携え、椎名が控え室に戻ってきて、再びテレビの前に座る。
 内藤と笑野はテレビに視線を向けることなく懸命に練習を重ねていた。

226 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:36:17 ID:GkQY0Mg20
(*゚ー゚)「最下位の豊稔農林が親番ですね」
 
(´・ω・`)「うん。これ以上トップから離されまいと必死になってるよ、豊稔農林」
 
(*゚ー゚)「そういうときって、けっこう怖いですよね」
 
(´・ω・`)「そうだね。無理に攻めてしまって、逆に振り込んじゃったりする」
 
(;゚ー゚)「あ、今まさに初本さんの言ったとおりになりましたね」
 
 決して安全ではない牌を豊稔農林高校の近藤が切り、立直していた麦秀高校の松中がロン。
 4000点のやり取りがあった。
 
(*゚ー゚)「南三局が終わったら対局室に向かいます」
 
(´・ω・`)「うん」
 
 南三局はまず流局があり、親のみテンパイで一本場へ。
 この時点で、僅差ながらも麦秀高校がトップに立ち、芽院高校は二位に転落した。
 
(;゚ -゚)「ドっくん、二位になっちゃいました」
 
(´・ω・`)「大丈夫だよ」
 
 南三局一本場は再び流局。
 親がノーテンだったため、南四局へと局面は移った。
 
(*゚ー゚)「逆転してくれることを信じて、行ってきます」
 
(´・ω・`)「うん、頼んだよ」

227 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:39:18 ID:GkQY0Mg20
 先鋒戦がオーラスとなったため、椎名が控え室から対局室へと向かった。
 初本は一人、毒島の戦いを見守る。
 
 
 
('A`)(よし、一向聴)
 
 八巡目、毒島は西を引いて八萬を切った。
 一向聴だが、トップの麦秀高校の松中も手が進んでいる気配がある、と思っていた。
 
('A`)(一位とは1000点差、このままだとウチは90ポイントだ)
 
('A`)(副将戦までで二回戦を終わらせるためには、先鋒から副将まで一人あたり25ポイントのリードを取っておく必要がある)
 
('A`)(易しい条件じゃない。でも、やるしかない)
 
 毒島が気合を入れ直したところで、雀卓中央の画面の表示に変化があった。
 
,(・)(・),「立直」
 
 トップの麦秀高校、松中が立直。
 これまで一枚も索子を捨てておらず、皆が染め手を疑うのは当然だった。
 
 実際、松中の手には索子が並んでいる。
 しかし、待っているのは東と中であり、シャンポン待ちの混一色だ。
 これなら出和了りを期待できる、と松中は心を躍らせていた。
 
,(・)(・),(中は一枚切られてる。でも、東はまだ自分の手にしか見えてない。誰かが抱えてる?)
 
,(・)(・),(毒島が切ってくれたら一番いいけど)

228 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:43:00 ID:GkQY0Mg20
 十一巡目、その毒島が手出し。
 松中の警戒心が高まった。
 
,(・)(・),(テンパイしたかな)
 
 この半荘戦で松中が感じたことは、毒島はあまり立直をしないタイプだ、ということだった。
 鳴きも少ない。そのため、どこまで手が進んでいるのか読みづらい、と感じていた。
 
,(・)(・),(しかも何を待ってるのか分かりづらい。序盤の和了りは単騎待ちだったし)
 
,(・)(・),(親の毒島に振り込んだら一気に不利だ。自分のツモが毒島の当たりじゃないことを願うしかない)
 
 既に松中は立直しているため、降りることはできない。
 どれほど危険な牌だとしても切るしかないのだ。
 
 立直をかければ、皆が降りてくれるかもしれない。
 そう考えて松中は立直したが、トップを安全に守るためには、立直せずダマテンで行くべきだったのだろうか。
 
 松中がそう考えながらツモした牌は、一筒。
 切るしかないと分かっていながらも、一瞬手が止まった。
 
,(・)(・),(毒島は、幺九牌と字牌を一枚も捨ててない)
 
,(・)(・),(混全帯幺九と混老頭、最悪は国士無双まで考えられる場面だ)
 
,(・)(・),(二筒も三筒も捨ててないから、できれば切りたくないけど、立直してるからしょうがないな)
 
 一抹の不安を抱えながら、松中が一筒を河に置いた。
 そしてその不安が、毒島の手牌を押し倒す。

229 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:46:47 ID:GkQY0Mg20
('A`)「悪いな、松中。ロンだ」
 
,(・)(・),(あぁ、やっぱり読みどおりか)
 
雀卓「東家、ロンです。混全帯幺九、ドラ1。三飜、6000です」
 
 毒島がトップの松中を直撃。
 これで、順位が入れ替わり、芽院高校がトップに立った。
 
,(・)(・),(立直は早まったかな。最低でも三飜あったんだし、様子を見たほうが良かったのかも)
 
,(・)(・),(まぁ、後は先輩たちに託すとしようかな)
 
 南四局一本場は豊稔農林高校が凌雲高校から七対子を出和了り。
 先鋒戦は終局となった。
 
 先鋒戦の最終的な得点は、芽院高校が37900点、麦秀高校が24900点、凌雲高校が20900点、豊稔農林高校が16300点。
 各校の獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、麦秀高校が65ポイント、凌雲高校が50ポイント、豊稔農林高校が33ポイントとなった。
 
,(・)(・),「毒島ありがとう、楽しかったよ」
 
('A`)「こっちこそ。まさか、こんなところで会うことになるとは思わなかったけど」
 
,(・)(・),「実は中学のときからやってたんだけど、接点なかったね」
 
('A`)「そうだな。まぁ、また決勝で打てたらいいな」
 
,(・)(・),「楽しみにしてるよ」
 
 軽い握手を交わし、二人は対局室を後にした。

230 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:49:33 ID:GkQY0Mg20
 他の三人を通してから、毒島は最後に対局室から出る。
 そこに、椎名が待っていた。
 
(*゚ー゚)「試合見てたよ! 凄かった!」
 
(;'A`)「椎名さん」
 
(*゚ー゚)「逆転するって信じてた! さすがだね!」
 
(;'A`)「何とか逆転できて、本当に良かった」
 
(*゚ー゚)「うん、凄い凄い! 全然緊張してないみたいだったし!」
 
(;゚ー゚)「私なんて喉カラカラになるくらい緊張してて、いつもどおりに打てるかどうか、ちょっと不安だよ」
 
('A`)「大丈夫だよ、きっと、いつもどおりやれば」
 
('A`)「椎名さんなら、勝てると思う」
 
(*゚ー゚)「ありがとう! 頑張ってくるね♪」
 
 華やかな笑顔を振りまきながら、椎名は対局室へと駆け込んでいった。
 その背中を見届けてから、毒島はブレザーの袖で額の汗を拭う。
 
(;'A`)(椎名さんと会話するときの緊張に比べたら、対局は全然気楽だなぁ)
 
 その緊張が篭った息を大きく吐き、毒島は控え室に戻った。
 
 
 
(*゚ー゚)「よろしくお願いしまーす♪」
 
(;=_)=)「よ、よろしく」
 
( ・_i・)「よろしくー」
 
( ・3・)「よろしくだYO」

231 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:52:38 ID:GkQY0Mg20
 四人が雀卓の前に着座する。
 この完全自動雀卓では親も席順もランダムで決定されるため、サイコロを振ることはない。
 予め雀卓中央の画面に表示された情報に従って座るだけだった。
 
 しかし、着座したあとも、次鋒戦の四人は誰一人として落ち着いていなかった。
 
(;゚ー゚)(やっぱ緊張するなぁ。ドっくんが35ポイントのリード作ってくれたけど、私もやっぱりトップで100ポイントを取らなきゃだよね)
 
(;=_)=)(なんか、麻雀に似つかわしくないくらい、すげー可愛い子がいるんだけど。勘弁してよ、まともに打てないよ、俺)
 
( ・_i・)(モデルの椎名愛実が参加してるって本当だったんだー。まだそんな有名じゃないけど、将来絶対もっと売れると思うんだよなー、この子)
 
( ・3・)(オゥワー、この女の子いいカラダしてるNE。まるでモデルみたいだNE)
 
 雀卓がランダムで親を決めた。
 先鋒戦と同じく、起家は凌雲高校。
 四人の前に迫り出されてきた牌から凌雲高校の菱田が一枚捨てて試合が始まる。
 
(*゚ー゚)「ポン」
 
( =_)=)(うわ、いきなり?)
 
 菱田の七萬を椎名がポン。
 椎名が手元の副露ボタンを押すと同時に、菱田の河から七萬が消えて、椎名の手牌の傍に現れた。
 
( =_)=)(完全自動雀卓じゃなかったら、牌を手渡しするチャンスだったのになぁ)
 
 淡々と東一局は進み、四巡目。
 豊稔農林高校の萩本が五筒を切ったところで、椎名が再び鳴いた。
 
(*゚ー゚)「チー」
 
( =_)=)(二副露か、喰い断かな。やばいな)

232 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:55:25 ID:GkQY0Mg20
 椎名の河には字牌と幺九牌が溜まっている。
 菱田から副露で見えている牌にも中張牌はなかった。
 
 菱田は、自身の読みが正しかったことを六巡目に知る。
 
(*゚ー゚)「ツモ。断幺九のみです」
 
(;=_)=)(あーあ、親番流されちゃった)
 
( ・_i・)(早いなー。速攻型の打ち手なのかなー)
 
( ・3・)(エェー、その配牌から喰い断かYO! リードを堅く守る戦法でも堅すぎるYO!)
 
 麦秀高校の簿留は、自分なら鳴かずに門前で進めただろう、と思った。
 立直、平和、断幺九、門前自摸なら満貫になる。それを目指していい配牌だったはずだ、と。
 
( ・3・)(ガチガチに守られたら困るYO。早めに反撃したいところだNE)
 
 東二局の親は豊稔農林高校の萩本。
 麦秀高校の簿留は配牌時点で対子が五つ揃っていた。
 
( ・3・)(素直に七対子目指すとするYO)
 
 簿留の対子は、現時点では字牌と幺九牌が絡んでいない。
 立直した上で断幺九がつけば満貫となる手だった。
 
 七巡目、簿留は五索を引いて、六つ目の対子を揃えた。
 運に恵まれた流れ。ここは落とせない、と強く感じていた。
 
( ・3・)「立直だYO」

233 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 21:58:18 ID:GkQY0Mg20
 立直棒が中央の画面に表示された。
 しかし、次巡の芽院高校の椎名も、手元のタッチパネルのボタンを押下する。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
 中央の画面に、立直棒が二つ。
 早い段階から、二校が立直をかけた。
 
( ・3・)(追っかけ立直かYO)
 
 簿留は七対子のため単騎待ち。
 待ち牌の四筒は読まれていないと簿留は確信しているものの、そもそも当たり牌が三枚しかない状況は楽観視できなかった。
 
( ・3・)(芽院の子の待ちは読めないYO。ボクと共通している現物も少ないし、凌雲と豊稔農林はかなり降りづらい状況だNE)
 
( ・3・)(まぁ、立直してる以上、考えたところでどうにもならないNE。なるようになるYO)
 
 自分の手番になり、簿留は牌をツモする。
 生牌の八筒。簿留の当たり牌ではないため、そのまま河に置いた。
 
 それと同時に、簿留の上家が牌を倒す。
 
(*゚ー゚)「ロンです。立直、一発」
 
(;・3・)「オゥワー」
 
雀卓「北家、ロンです。立直、一発。二飜、2000です」
 
 簿留は天を仰いだ。
 避けようがなかった放銃ではあるものの、追っかけ立直に一発で和了されるとは思ってもみなかったのだ。

234 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:00:59 ID:GkQY0Mg20
(;・3・)(っていうか一発じゃなかったら役が立直しかないYO!)
 
(;・3・)(いくらなんでも手堅すぎるYO!)
 
 二局連続で芽院高校の椎名が和了り、29100点でトップ。
 二位の豊稔農林高校が24700点、三位の凌雲高校が24500点、四位の麦秀高校が21700点となった。
 次鋒戦はトップの芽院高校を親番とする東三局へ突入する。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「また芽院高校がトップだよう。悔しいよう」
 
 麦秀高校の控え室で、伊要は左手で頭を押さえながらテレビを見ていた。
 次鋒として出場している簿留が芽院高校の椎名に振り込み、最下位に転落したところだった。
 
('(゚∀゚∩「ツキがないけど、大丈夫だよ! きっと持ち直すよ!」
 
 音を立てて煎餅を頬張りながら、副将の名織が伊要の後ろから声を出した。
 決してネガティブなことを言わない前向きさは是非見習いたい、と伊要は思いながら、何も言わずにテレビへと視線を向けつづける。
 
(’e’)「それにしても、この芽院の女子は本当に可愛ぇのう。アイドルみたいじゃのう」
 
(=゚ω゚)ノ「アイドルじゃなくて、モデルらしいよう」
 
(’e’)「なんと。本当かの」
 
('(゚∀゚∩「『Glitter』っていうティーン雑誌でモデルやってるんだってさ! さっきGoogleで調べたよ!」
 
(’e’)「ワシが次鋒になればよかったのう。打ちたかったのう」
 
('(゚∀゚∩「ショートカットが似合うのは本当に可愛い子だけだよ! この子は凄いよ!」
 
,(・)(・),(毒島はこの子と一緒に部活やってるのかぁ、うらやましいなぁ)

235 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:03:27 ID:GkQY0Mg20
 次鋒戦の東三局は親の椎名のみテンパイで流局し、一本場に変わった。
 その椎名が早々と鳴いて役牌を揃え、再びテンパイする。
 
(=゚ω゚)ノ「椎名って子は、とにかく和了りを重視するタイプみたいだよう。高い手が狙えそうでも狙ってこないよう」
 
(’e’)「今の手も、混一色を狙って良さそうじゃったんじゃがのう」
 
(=゚ω゚)ノ「役牌だけで終わらせるには、ちょっともったいない手牌だよう」
 
('(゚∀゚∩「混一色を和了されたらもっと差が開くよ! だからウチにとってはありがたいよ!」
 
,(・)(・),「そのとおりですけど、なかなか崩しにくいタイプの打ち手ですよね」
 
(=゚ω゚)ノ「ウチが決勝に進出できれば、決勝でまた当たることになるよう。何か対策したほうがいいかもしれないよう」
 
 椎名が早々とテンパイしていた東三局一本場は、立直をかけていた凌雲高校の菱田がツモ和了り。
 凌雲高校が4300点を得て東四局に突入する。
 
('(゚∀゚∩「ウチの親番だよ!」
 
 麦秀高校の簿留は、配牌時点で三向聴。
 手は伸び悩みながらも、九巡目には一向聴に達した。
 
 しかし簿留にテンパイの気配はなく、豊稔農林高校が先に立直する展開となる。
 親流れは避けようと簿留は回し打ちするも、結局テンパイには至らず流局。
 テンパイしていた芽院高校と豊稔農林高校が1500点を得ることとなった。

236 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:06:14 ID:GkQY0Mg20
(;゚ω゚)ノ「今のは痛いよう」
 
(’e’)「一向聴から全然進まなかったのう」
 
('(゚∀゚∩「そういうこともあるよ! 南場で逆転すれば大丈夫だよ!」
 
,(・)(・),「信じましょう」
 
 次鋒戦は南入し、後半戦へと突入する。
 
 
 
 南一局、配牌を見て椎名は小さく首を捻った。
 
(*゚ー゚)(あんまり綺麗な配牌じゃないなぁ、断幺九狙いでいいかな?)
 
 風牌が三枚あるものの、幺九牌はない。
 南一局の椎名の配牌は、断幺九の四向聴だった。
 
 三手かけて風牌を全て河に流し、途中でツモした一萬も捨てた。
 これで、椎名の手は三向聴。
 
(*゚ー゚)「チーです」
 
 五巡目、上家から出た八筒をチーして、手が進む。
 九巡目には六索をポンし、一向聴となった。
 
(*゚ー゚)(早くテンパイしたいな。他の人はどうなんだろ?)
 
 椎名は河を見回してみるが、手の進み具合はほとんど把握できなかった。
 ツモ切りが続いている豊稔農林高校が苦しんでいるかもしれない、ということが考えられた程度だ。
 
 しかしそこで、はっきりとテンパイを示した者がいた。
238 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:08:37 ID:GkQY0Mg20
( =_)=)「立直」
 
 親番の凌雲高校、菱田が立直を宣言。
 立直棒が中央の画面に表示されると同時に、場には緊張感が生まれた。
 
(;゚ー゚)(わぁー、何が安牌なのか全然分かんない。現物で降りたほうがいいのかな? 降りないほうがいいのかな?)
 
(*゚ー゚)(悩みどころだけど、私も和了りたいし、ここは思い切っていってみよう!)
 
 九巡目の椎名のツモ牌は、不要牌の一索。
 そのまま捨てたが、立直をかけている菱田の当たり牌ではなかった。
 
 十巡目、椎名は五萬を引く。
 生牌だった。
 
(;゚ー゚)(大丈夫かな、これ。筋じゃないけど、捨てていいかな)
 
 現物は手牌に三枚あった。
 それを切れば放銃することはないが、和了りを放棄することとなる。
 
(*゚ー゚)(もう一枚の不要牌は三筒だけど、これも生牌だから危ないよね。どっちも変わらないかな?)
 
(*゚ー゚)(怖いけど、切っちゃおう!)
 
 五萬を河に置いた。
 直後、無情にも菱田から声が上がる。
 
( =_)=)「ロン」
 
(;゚ー゚)「あっ」
 
 凌雲高校の菱田の牌が奥に倒された。
 順子が並んでいる。
240 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:10:40 ID:GkQY0Mg20
雀卓「東家、ロンです。立直、平和。二飜、3000です」
 
(;゚ー゚)(振り込んじゃった。やっぱ降りたほうが良かったのかなぁ)
 
(;=_)=)(できれば君からは和了りたくなかったんだけど、ごめん!)
 
 二位の凌雲高校が一位の芽院高校から出和了りしたことで、順位が入れ替わった。
 親が和了ったため、南一局は一本場となる。
 
(;゚ー゚)(一位を取らなきゃいけないのに、逆転されちゃった。再逆転できるかなぁ)
 
(*゚ー゚)(とにかく、頑張ろう!)
 
 自動的に配牌が行われ、四人の前に牌が姿を現した。
 ここで牌に恵まれたのは、豊稔農林高校だった。
 
( ・_i・)(よし、一向聴)
 
 役はないものの、立直をかければ和了れる手だった。
 現時点で豊稔農林高校は23100点で三位。萩本は、確実に和了っておきたい気持ちが強かった。
 
 それからしばらくツモ切りが続くも、五巡目の四索を引いたとき、萩本は手元の九筒を横向きにして捨てた。
 
( ・_i・)「立直」
 
 自信を込めて、萩本が立直を宣言する。
 既にドラが一枚絡んでいるため、和了すれば二飜つくことは確定していた。
 
( ・_i・)(裏ドラも乗ってくれたら嬉しいんだけどなー)
 
 期待を抱きつつ、ツモ切りを繰り返す。
 萩本から見て、他家が明確に降りている気配はなかった。

241 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:13:20 ID:GkQY0Mg20
( ・_i・)(さっきの放銃からするに、芽院の椎名って子はあんまり守備が得意じゃなさそうだなー)
 
( ・_i・)(僕にも振り込んでくれないかなー)
 
 この大会では、一位の得点から離されていればいるほど獲得ポイントが下がる。
 上位者から点を奪うのは重要なことだった。
 
 十巡目、萩本のツモ牌は三索。
 ドラだが、当たり牌ではない。
 
( ・_i・)(んー、来ないなー)
 
 萩本が三索を捨ててすぐ、芽院高校の椎名が山から牌を一枚引いた。
 椎名は一瞥して、牌をそのまま捨てる。
 
( ・_i・)(中かー、それも違うんだよなー)
 
 中は立直後に麦秀高校の簿留が切った牌だ。
 椎名からすれば、まず振り込む恐れのない安牌だった。
 
 凌雲高校の手番となり、菱田はツモした牌をすぐに河へ流した。
 六萬。これも、萩本の当たり牌ではなかった。
 
 簿留の当たり牌だった。
 
( ・3・)「ロンだYO」
 
 淡々と、しかし達成感に満ちた表情で、簿留は手牌を仰向けにした。
 
雀卓「北家、ロンです。断幺九、平和、三色同順。満貫、8000で一本場につき8300です」
 
(;=_)=)(うわっ、やっちゃったなぁ)

242 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:16:25 ID:GkQY0Mg20
 凌雲高校は、トップから一気に最下位へと転落した。
 点数に変動のなかった芽院高校が首位に返り咲き、僅差で麦秀高校が続いている。
 
(;・_i・)(僕の関係ないところで大きい点のやり取りされちゃったなー)
 
 立直をかけていながら他家に和了られた豊稔農林高校の萩本は、嘆息を吐きながら手牌を雀卓の中へと落とした。
 
 
 
(´・ω・`)「今のところ椎名がトップだけど、今後どうなるか分からないね」
 
 袋の上からキットカットを二つに割り、初本がひとつを口に入れた。
 もう半分を毒島に差し出すと、軽く頭を下げて毒島が受け取る。
 
('A`)「麦秀の簿留は、やっと運が巡ってきたって感じですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。そもそも、この中じゃ一番強いはずの打ち手だし」
 
('A`)「椎名さんはやっぱり、経験不足ですか」
 
(´・ω・`)「筋はいいと思うんだけどね、まだ上手く降りられない」
 
('A`)「さっき振り込んだ場面も、親が立直してるんだから、それだけでベタ降りしてもいいんですけどね」
 
(´・ω・`)「そうだね。椎名自身がテンパイしてるならともかく、まだ一向聴だったし。経験不足が表に出ちゃったかな」
 
('A`)「でも、この次鋒戦をトップで終わらせられたら、きっと自信になりますよね」
 
(´・ω・`)「うん、そうなってほしいね」

297 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:39:00 ID:ANbQtjOY0
 次鋒戦、南二局。
 ここは豊稔農林高校が親番だったが、先ほど満貫に振り込んだ凌雲高校の菱田が奮戦した。
 立直からのツモで4000点を取り返すことに成功したのだ。
 
 南三局は、芽院高校の椎名が親となる番だった。
 しかし、配牌時点から麦秀高校が不穏な空気を漂わせる。
 
(´・ω・`)「上手く凌いでくれるといいんだけど」
 
 麦秀高校の簿留は、南一局一本場で満貫を和了した勢いそのままに、この局も立直をかけた。
 三面張で、待っているのは二萬と五萬と八萬だ。
 
(;'A`)「振り込むかもしれないですね」
 
 椎名は簿留の当たり牌を予測できていないだろう、というのが初本と毒島の考えだった。
 簿留の当たり牌を引けば捨ててしまう可能性がある、と考えているのだ。
 
 簿留の手は立直と平和だが、ドラが既に二枚ある。
 裏ドラが乗らなくとも、振り込めば満貫だ。
 
(´・ω・`)「満貫に振り込んだら8000点。逆転は厳しいだろうね」
 
 椎名も既にテンパイしている。
 四萬を引けば三色同順がつき、一盃口と断幺九を合わせてこちらも満貫となる手だ。
 
(´・ω・`)「椎名にしては珍しく高い手だ。和了りたいだろうね」
 
('A`)「ただ、四萬は簡単には出そうにないんですよね。凌雲の菱田が対子で持ってますし、麦秀の簿留も一枚持ってますから」
 
(´・ω・`)「山に眠ってるのは一枚のみなんだけど、椎名からは四枚残ってるように見えてしまう」
 
('A`)「そうなると降りる判断ができるかどうか」
 
(´・ω・`)「ベタ降りすれば振り込まずに済みそうだけど、どう出るかな」

298 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/10/07(日) 21:41:09 ID:ANbQtjOY0
 簿留の立直後の、椎名の手番。
 ツモ牌は九萬で、簿留の当たり牌ではない。
 ただし、椎名からすれば安牌とも言えない牌だった。
 
(´・ω・`)「ツモ切りか」
 
 少し考える素振りを見せたあと、椎名は九萬をそのまま切った。
 降りるのならば現物も安牌もある。ツモ切りしたということは、和了りを目指していくということだ。
 
(´・ω・`)「素直な子だね、椎名は」
 
('A`)「とにかく和了りを目指して打とうって、教えたとおりに打ってますね」
 
(´・ω・`)「教えただけじゃ中々実践できないんだけどね、普通は。どうしても放銃を恐れてしまう」
 
('A`)「それも、悪いことじゃないと思いますけど」
 
(´・ω・`)「うん。ただ、愚直に和了りを目指せる果敢さは、椎名の大きな武器だ」
 
('A`)「仮に失敗があっても、団体戦なら他のメンバーがカバーできますもんね」
 
(´・ω・`)「そのとおり。仮に振り込んで負けたとしても、僕と笑野が取り返せばいいだけだ」
 
 テンパイしているとはいえ、カンチャン待ちで先制立直を相手に突っ張ることは、危険な賭けだった。
 後は、どちらがツモ牌に恵まれるか、という点が勝負を左右することになる。
 
 しかし、簿留が立直をかけた三巡後、勝負は意外な形で決着した。
 
(´・ω・`)「あれ? ロン?」
245 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:25:38 ID:GkQY0Mg20
 豊稔農林高校の萩本が、簿留の八索切りに応じてロンを宣言した。
 役牌のみだ。
 
('A`)「テンパイしてたんですね、気づきませんでした」
 
(´・ω・`)「椎名と簿留ばっかり見ちゃってたね」
 
 芽院高校からすれば、助かったと言っていい展開だった。
 親番は流されてしまったが、豊稔農林高校が麦秀高校の点数を削ってくれた。
 
('A`)「しかし、簿留が立直してるのに萩本は降りなかったんですか」
 
(´・ω・`)「立直時点では二向聴だったみたいだけど、不要牌が簿留の現物ばっかりだったね」
 
('A`)「で、そこからのツモで必要牌ばっかり来て、一気に和了りですか。かなり運に恵まれましたね」
 
 豊稔農林高校の萩本からすれば望外の和了りだった、ということになる。
 控え室で対局を見守っていた初本と毒島にとっても、だ。
 
(´・ω・`)「さぁ、オーラスだ」
 
 次鋒戦も残すところ、あと一局。
 初本は中堅戦の準備を始めた。
 
 
 
 雀卓の中から迫り上がってきた手牌を見て、簿留は右手に力を込めた。
 
( ・3・)(まだ運はそっぽ向いてないみたいだYO)

246 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:28:53 ID:GkQY0Mg20
 先ほどは満貫を和了れそうだったところで、豊稔農林高校の萩本に潰された。
 2000点を失い、もはや逆転は不可能かと簿留自身も半ば諦めていた。
 
 しかし、オーラスとなった南四局の配牌。
 刻子が一つ、対子が二つ揃っている。対々和と三暗刻を狙える手だった。
 
( ・3・)(四暗刻なんて欲張りはやめとくYO。とにかくトップを取れればそれで良しとするYO)
 
 次鋒戦、麦秀高校は現在三位。
 決勝に進むためにはトータルポイントで二位以上になる必要があるが、このままだと厳しい状況だ。
 何しろ、芽院高校はこの後、初本と笑野が控えている。
 
( ・3・)(なるべくここでポイントを稼ぐYO!)
 
 次鋒の自分が踏ん張らなければ。
 強い決意を持って臨む、親の南四局。
 
 簿留の気持ちが萎むのは、芽院高校の椎名が横向きに打牌したときだった。
 
(*゚ー゚)「立直です」
 
(;・3・)「!」
 
 第一巡での立直。
 両立直だった。
 
(;・3・)(最悪としか言いようがないYO!)
 
 簿留は配牌に恵まれた。
 しかし、芽院高校の椎名はそれ以上だったのだ。
 
(;・3・)(しかも両立直じゃ安牌も何も全く分からないYO!)

247 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:31:24 ID:GkQY0Mg20
 捨て牌は北のみ。
 あまりに情報が少なく、何を切るべきかの判断がつかない状況だ。
 
 上手く切り抜けられれば簿留は高目を和了ることができる。
 しかし、振り込んでしまえば最下位への転落は必至だ。
 
 幸か不幸か、椎名が切った北を簿留は三枚持っていた。
 これを捨てていけば、三巡は安全を確保できる。
 しかし、同時に和了りを放棄することとなる。
 
 簿留の手番。
 幾許かの躊躇いの後、簿留は北を切った。
 
( ・3・)(ここで両立直の相手に突っ張るのはやっぱり無謀すぎるYO。振り込まないことに専念するYO)
 
 役が立直と両立直だけならいいが、他の役やドラが絡んでいた場合は取り返しのつかないことになる。
 簿留は、最終的な勝利のために、次鋒戦での勝利を捨てた。
 
 その判断が正しかったと、簿留は三巡目に知る。
 
(*゚ー゚)「ロンです」
 
 凌雲高校の菱田が七索を切ったところで、椎名がロンを宣言した。
 役は、立直と両立直のみだ。
 
( ・3・)(降りて正解だったYO)
 
 椎名の当たり牌である七索は、簿留も二巡目に引いていた。
 和了りを目指していたら、間違いなく捨てていた牌だ。
 
 芽院高校と凌雲高校の間で2000点が遣り取りされる。
 簿留にとっては、二位だった凌雲高校が振り込んでくれたことは幸いだった。

248 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:34:59 ID:GkQY0Mg20
 子の椎名が和了ったため、そこで次鋒戦は終了となった。
 
 最終的な得点は、芽院高校が29500点、麦秀高校が24400点、凌雲高校が24000点、豊稔農林高校が22100点。
 獲得ポイントは、芽院高校が100ポイント、麦秀高校が82ポイント、凌雲高校が76ポイント、豊稔農林高校が64ポイントとなった。
 
(*゚ー゚)「ありがとうございました!」
 
 晴れやかな笑顔を振りまいて、椎名が席を立つ。
 敗戦に落ち込んでいた萩本と菱田は、それだけで気分が明るくなっていた。
 二位に終わった麦秀高校の簿留だけは、気持ちの整理がつかない顔でまだ雀卓の前に座っている。
 
 椎名が対局室から出ると、中堅戦に出場する初本が待っていた。
 
(´・ω・`)「お疲れ様」
 
(*゚ー゚)「初本さん! 何とか勝てました!」
 
(´・ω・`)「よくやってくれたね。文句なしだよ」
 
(*゚ー゚)「本当はもうちょっと差をつけられたら良かったんだと思いますけど、ごめんなさい。精一杯です」
 
(´・ω・`)「充分すぎるほどさ。二位の麦秀高校とはトータルで53ポイントの差をつけられたからね。後は任せてほしい」
 
(*゚ー゚)「そうですよね、初本さんと笑野さんなら安心ですよね。ゆっくりモニタ越しに応援します」
 
(´・ω・`)「うん、ゆっくり休んでていいからね」
 
 軽い握手を交わし、控え室に戻る椎名を見届けてから、初本は対局室に入った。
 椎名と話している間に、他の三校の面子は既に対局室入りしている。
250 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:36:58 ID:GkQY0Mg20
 初本は、席に座りながら右側に座る男に視線を送った。
 麦秀高校の船都。警戒するなら、やはりこの男だろう、と考えていたのだ。
 
 
 
(=゚ω゚)ノ「お疲れ様だよう」
 
 次鋒戦を終えて戻ってきた簿留に、伊要が労いの言葉をかける。
 簿留は小さく口を尖らせていた。
 
( ・3・)「勝てそうで勝てなくて悔しいYO」
 
 ほとんど口をつけなかったオレンジジュースのペットボトルを投げ出し、簿留は雑に椅子に腰掛けた。
 最善を尽くしたが、勝てなかった麻雀。よくあることとはいえ、すぐに納得できるほど器用ではなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「最後の降りはファインプレーだったよう。あそこで無茶攻めして振り込んでたらかなり厳しかったよう」
 
( ・3・)「その前に満貫を和了れなかったのがとにかく痛かったYO。最後のは傷口を最低限小さくしただけだYO」
 
('(゚∀゚∩「でもウチが今のところ二位だよ! この順位をキープすれば決勝進出だよ!」
 
 名織の言うとおり、麦秀高校は現在のところ二位。
 しかし、三位との差は僅かに18ポイントだ。
 決して決勝進出を楽観視できる状況ではない。
 
 何しろ、今年の芽院高校は中堅に初本を据えている。
 これはあまりに脅威だ、と伊要は感じていた。
 
(=゚ω゚)ノ(大将でもおかしくない初本が中堅、明らかに苦しい戦いになるよう)
 
 この二回戦を首位通過できるとしたら、先鋒戦と次鋒戦で芽院高校に大差をつける必要があった。
 しかし、それは叶わず、むしろ大差をつけられている状況だ。
 伊要は完全に二位狙いへと気持ちを切り替えていた。

251 名前:第3話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/29(土) 22:40:09 ID:GkQY0Mg20
 だが、ここから芽院高校の真価が発揮される。
 県内屈指の打ち手である初本、昨年の全国大会でも目覚しい活躍を見せた笑野。
 それに加えて今年は、ネット界最強の『ホライゾン』までいるのだ。
 
 下手に振り込んでしまうと一気に順位を落とす可能性がある。
 伊要は、中堅の船都に"放銃だけは気をつけてほしい"と言ったが、上手く凌いでくれるかどうかは分からなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(信じるしか、ないよう)
 
 祈るように手を合わせて、試合を映すモニタに目を向けた。
 起家は、豊稔農林高校だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第3話 終わり
 
     〜to be continued

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