809登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:11:00 ID:3IPfqjZQ0
◇芽院高校
 
■( ^ω^) 内藤文和
15歳 一年生
 
■(´・ω・`) 初本武幸
18歳 三年生
 
■( ^Д^) 笑野亮太
16歳 二年生
 
■(*゚ー゚) 椎名愛実
15歳 一年生
 
■('A`) 毒島昇平
15歳 一年生
 
 
◇肯綮高校
 
■(‘_L’) 水戸蓮人
17歳 三年生
 
■/ ゚、。 / 鈴木王都
17歳 三年生
 
■( ∵) 名瀬楢雄大
17歳 三年生
 
■(´・_ゝ・`) 盛岡満
16歳 二年生
 
■从'ー'从 渡辺彩
15歳 一年生

810登場人物 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:12:09 ID:3IPfqjZQ0
◇陶冶高校
 
■( ФωФ) 杉浦浪漫
17歳 三年生
 
■(゜3゜) 田中邦正
16歳 二年生
 
■(-@∀@) 旭太郎
16歳 二年生
 
■/^o^\ 富士三郎
16歳 二年生
 
■<_プー゚)フ 江楠時哉
16歳 二年生
 
 
◇麦秋高校
 
■(=゚ω゚)ノ 伊要竹光
17歳 三年生
 
■('(゚∀゚∩ 名織洋介
17歳 三年生
 
■(’e’) 船都譲
17歳 三年生
 
■( ・3・) 簿留丈
18歳 三年生
 
■,(・)(・), 松中斜民
16歳 一年生

811大会の勝敗ルール ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:13:16 ID:3IPfqjZQ0
半荘戦では25000点、一荘戦ではそれぞれが50000点を持つ。
終局時、あるいは誰かが0点未満になった場合、一位が100ポイントを得る。
 
一位から見た得点の割合で他のポイントが決まるが、順位による減算があり、
二位は割合そのままだが、三位はマイナス5ポイント、四位はマイナス10ポイントとなる。
 
例えば、一位が70000点で二位が50000点だった場合、二位は71ポイントとなる。
一位が70000点で三位が45000点だった場合、三位は59ポイントとなる。
一位が70000点で四位が40000点だった場合、四位は47ポイントとなる。
端数は切り捨て。
 
どこかの一位が確定した時点で、あとの戦いは全て打ち切られる。
例えば、副将戦が終わった時点で一位と二位が100ポイント以上の差がついていた場合、大将戦はなし。
残りの順位はその時点のポイントで決まる。
813大会の競技ルール ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:14:22 ID:3IPfqjZQ0
喰い断あり
後づけあり
赤ドラなし
喰い替えあり
空聴リーチあり
数え役満あり
流し満貫あり
途中流局なし
単体の役満は待ちに関わらずダブル役満にならない
ダブルロン、トリプルロンなし
責任払いは大三元と大四喜に適用
815大会の点数表 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:15:46 ID:3IPfqjZQ0
■子の場合
1飜:1000点(ツモ:1100点)
2飜:2000点
3飜:4000点
満貫:8000点
跳満:12000点
倍満:16000点
三倍満:24000点
役満:32000点
 
■親の場合
1飜:1500点
2飜:3000点
3飜:6000点
満貫:12000点
跳満:18000点
倍満:24000点
三倍満:36000点
役満:48000点

816第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:17:06 ID:3IPfqjZQ0
【第10話:五重奏の行き先】
 
 
 リズムよくチョコボールを口に運んでいた江楠の手が、不意に止まった。
 それを富士は訝しげに見る。
 
/^o^\「どうしたの?」
 
<_プー゚)フ「んー」
 
 江楠が首を傾げる。
 口の中のキャラメルは溶けきっていないが、それを噛むこともしていなかった。
 
<_プー゚)フ「今なんか、変じゃなかった?」
 
/^o^\「え、何が?」
 
<_プー゚)フ「ホライゾン。名前は、内藤だっけ?」
 
/^o^\「あぁ、芽院高校の」
 
 大将戦の前半戦が終わろうとしている。
 ここまで、陶冶高校の大将である杉浦は善戦していた。
 強敵たちを相手に、五分に渡り合う活躍だった。
 
/^o^\「正直、パっとしないよね。ネットで最強のホライゾンも、リアルじゃこんなもんなのかな? って感じで」
 
<_プー゚)フ「ぶっちゃけ、僕もそう思ってたよ。でも、油断もできないよなーと思って注目してたんだ」
 
<_プー゚)フ「で、さっきの塔子落とし。あれ、明らかに変でしょ」
 
/^o^\「え? よく見てなかった」
 
(-@∀@)「あぁ、私も変だと思いましたよぉ〜。こんな序盤で、降りるわけでもなくドラ含みの辺塔子落としなんて」
 
 四巡目にして、内藤は配牌時から持っていた八筒、九筒を捨てた。
 ドラ表示牌は七筒。つまり、八筒はドラだったが、その塔子から順子を作ることを諦めたのだ。
 
/^o^\「ほんとだ。これ確かに変だね。まだ序盤なら普通は七筒待つはず」
 
<_プー゚)フ「染め手狙いでも断幺九狙いでもないみたいだしさ。なんでここで、って疑問だったんだけど」
 
<_プー゚)フ「七筒ってもう、ほぼ確実に出ないんだよね。肯綮の水戸が暗刻作っちゃってるから」
 
/^o^\「あ、ほんとだ」
 
/^o^;\「え?」
 
 納得しかけて、富士はすぐに気づいた。
 事態の、異常さに。

817第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:18:37 ID:3IPfqjZQ0
<_プー゚)フ「しかも、ホライゾンは今、水戸が七筒で暗刻を作った直後に八筒と九筒を捨てた」
 
<_プー゚)フ「まるで、七筒が場に出ないってこと、分かったかのように」
 
/^o^;\「うわっ、マジで?」
 
<_プー゚)フ「これって、いよいよ発揮されちゃう感じなのかな」
 
<_プー゚)フ「ホライゾンの、『神の目』ってやつが」
 
 相手の打ち筋を見極める力。
 それが神の目なのだろうと杉浦が言っていたことを、江楠は思い出した。
 
 理屈が何であれ、もし相手の手牌が分かるようになってきているのだとしたら。
 これは、後半戦が相当に荒れるかもしれない。
 江楠はそう感じていた。
 
/^o^\「ドラの八筒はとりあえず残すって手もありそうだけどね」
 
<_プー゚)フ「いや、伊要と杉浦さんが一枚ずつ持ってるんだよ。それも見えてるとしたら」
 
/^o^;\「あー、ほんとだ。ってことは、どう頑張っても雀頭にしかならないのか」
 
(-@∀@)「しかし、本当に分かるんですかねぇ〜。そんな非科学的な力、あるとは思えませんけどねぇ〜」
 
<_プー゚)フ「でもさ、水戸は理牌読み対策までやってるんだよ。わざわざ七筒を左端に置いてさ」
 
<_プー゚)フ「もし癖を見抜いただけだとしても、理牌から推測せずに読めるなんて脅威的じゃない?」
 
(-@∀@)「う〜む、確かにそうですねぇ〜」
 
 机に頭を伏せて眠っている田中以外の三人が唸る。
 原理は分からない。それでも、内藤には七筒の刻子が見えているとしか思えない。
 そんな、理解しがたい状況に遭遇してしまったからだった。
 
(-@∀@)「後半戦は、ホライゾンを抑え込めるかどうか、が鍵になるかもしれませんねぇ〜」
 
<_プー゚)フ「だね」
 
 既に出番の終わった者には、ただ待つことしかできない。
 そして三人は、杉浦をひたすら信じていた。
 ホライゾンの力を脅威に感じつつも、大将の勝利を疑うことなど、決してなかった。
 
 南四局は進んでいく。
 陶冶高校の大将、杉浦は、徐々に手が高まっていた。
 
 
 ◇

818第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:19:45 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「立直である」
 
 十二巡目、親番の杉浦が立直をかけた。
 断幺九、三色同順、一盃口、ドラ2で跳満以上が確定している手。
 ここで18000点以上が得られるのは非常に大きい、と杉浦は心を弾ませる。
 
 大将戦が始まる前の獲得ポイントでは、陶冶高校が最下位。
 しかし、ここで和了ることができれば、ポイント計算でも一気にトップに立てるのだ。
 それを考えれば、期待で地に足がつかなくなるのも致し方ないことだ、と杉浦は思った。
 
 ただ、決して良い待ちではない。
 三索のカンチャン待ちで、既に一枚捨てられているため、当たりは三枚しかなかった。
 
( ФωФ)(しかし、六索を捨てているため、筋引っかけは期待できるであるな)
 
( ФωФ)(一番いいのは、自分で引いて倍満に高めることであるが)
 
 もし倍満で8000オールならば、他を大きく引き離すこととなる。
 陶冶高校のストレートでの全国行きが、現実味を帯びてくる。
 杉浦の中には、もはや期待しかなかった。
 
 しかし徐々に、その期待が、薄れゆく。
 
( ФωФ)(三索は、出てこないであるな)
 
 十六巡目まで進んでも、杉浦の望む牌は姿を見せない。
 現物を捨てるなど、明確に降りているのは水戸と伊要。
 芽院高校の内藤は、現物を捨てることもなく、平気で中張牌を河に流していた。
 
( ФωФ)(芽院の内藤は突っ張っているようであるな)
 
( ФωФ)(親が立直していても諦められないほど高い手であるか?)
 
( ФωФ)(こっちがあっちに振ってしまうと厳しいかもしれんであるな)
 
 期待しか抱いていなかった杉浦に、不安が押し寄せる。
 牌をツモし、河に流すたび内藤の動きを確認した。
 しかし、内藤の手牌が仰向けになることはない。
 
 そしてそのまま、南四局は流れていった。
 
( ФωФ)「テンパイである」
 
 最後まで当たり牌を引けなかった杉浦が、諦念と共に牌を晒す。
 そしてすぐさま、内藤の手牌のほうを見遣った。
 果たして内藤は、どれほど高い手を作っていたのだろうか、と。
 
 しかし、内藤が見せた牌姿は、杉浦の想定とは全く違っていた。

819第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:21:05 ID:3IPfqjZQ0
( ^ω^)「えっと、テンパイですお」
 
( ФωФ)「!?」
 
 役が、断幺九しかない。
 内藤の手は、ただの喰い断に過ぎなかった。
 
 しかし、杉浦にとって驚きだったことは、それだけではなかった。
 内藤は、杉浦の当たり牌である三索を掴んでいたのだ。
 
 しかも、杉浦の記憶が正しければ、内藤は四索を捨てて三索を手に取り込んだ。
 両面待ちの塔子を崩して対子に組み替えることなど、普通はあまりない。
 三索が危険牌であることを、読み切ったかのような打ち方だ、と杉浦は思った。
 
 杉浦の脳裏には、過去の記憶が俄かに蘇る。
 かつて、ホライゾンに蹂躙された記憶が。
 
( ФωФ)(もし、このカンチャン待ちを読んでいたのだとすれば、いよいよであるか)
 
( ФωФ)(いよいよ、真価を発揮するであるか、ホライゾン)
 
 心に生まれた感情が何なのか、杉浦自身も分かっていない。
 名前をつけるならば、恐らくは不安だろう。
 しかし、決して悪くはない気分だ、と杉浦は思った。
 
( ФωФ)(強者と相対するのは、いつも心が震えるであるな)
 
 ホライゾンの強さの、中枢までは杉浦には分からない。
 それでも、恐怖で身が固まることはなかった。
 
 南四局一本場。
 親番でも、内藤の動きには注視して打たなければならない、と杉浦は考えていた。
 
( ФωФ)(大きめの手を和了れば、どの高校にも機がある状況である)
 
( ФωФ)(だからこそ、それに放銃するようなことがあってはならないであるよ)
 
 特に、内藤の捨て牌には気を配らねばならない。
 そう考えていた杉浦の手は、七巡で一向聴まで進んだ。
 
 鳴いても三色同順がある手牌。
 例え喰い下がろうとも、二本場があることを考えれば悪くない。
 内藤の手を潰す意味でも、ここは、速度を優先していくべきか。
 
 杉浦がそう考えながら、八萬を切ったとき。
 
(=゚ω゚)ノ「ロンだよう」
 
( ФωФ)「!」

820第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:22:12 ID:3IPfqjZQ0
 しまった、とすぐに杉浦は悔いた。
 内藤を気にしすぎるあまり、伊要の河が見えていなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「2300だよう」
 
 杉浦にとっての救いは、伊要の手が安かったこと。
 傷は小さく済んだ。充分な希望を持ったまま、後半戦に臨める、と杉浦は思った。
 
 対局室に、休憩の合図が鳴る。
 
( ^ω^)「失礼しますお」
 
 合図とほぼ同時に内藤が立ち上がり、対局室から退出した。
 試合開始から一時間が経っている。トイレにでも行くのだろう、と三人はほとんど同時に考えた。
 
 南場が終わった時点でのトップは麦秀高校の伊要で、61900点を得ている。
 二位は陶冶高校の杉浦で58500点。三位に肯綮高校の水戸で47800点。
 そして最下位は、東場終了時点と変わらず芽院高校の内藤で、31800点だった。
 
( ФωФ)(最後にトップを奪われたであるが、悪くはない点数である)
 
( ФωФ)(大きい手に振り込むような大過だけは、絶対に避けねばならないであるな)
 
(‘_L’)(トップからはやや離されましたが、満貫直撃でひっくり返るような点差)
 
(‘_L’)(あまり強気に攻めすぎないよう留意すれば、自ずと全国は見えてくると信じたいですね)
 
 杉浦と水戸が、それぞれ、全国への思いを胸に後半戦を見据えていた。
 そのとき不意に、二人の思わぬところから声がかかる。
 
(=゚ω゚)ノ「二人は、どう見てるんだよう?」
 
 麦秀高校の伊要。
 平素、高めのトーンの声が僅かに低くなり、そのぶん重みを二人に感じさせていた。
 
( ФωФ)「どう、とは?」
 
(‘_L’)「なんの話、でしょうか」
 
 本当は、二人とも感じ取っている。
 ただ、少しの間を欲しただけだった。
 
(=゚ω゚)ノ「もちろん、決まってるよう」
 
(=゚ω゚)ノ「ホライゾンのことだよう」
 
 それ以外にはありえない。
 分かっていても、二人は、無意識のうちにその話を避けたがっていた。
 
 理由は、南四局にあった。

821第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:23:18 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ「僕は正直、よく分からないんだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「ここまでホライゾンは一度も和了ってない。点数だけを見れば、拍子抜けって感じだよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、何だか不気味で、全然心が落ち着かないんだよう」
 
 伊要は、正直な気持ちを吐露していた。
 元来、小賢しい駆け引きなど得意としていないタイプだと、水戸も杉浦も分かっている。
 
(‘_L’)「彼は恐らく、ネットで麻雀を覚え、ずっとネットで打ってきた人です」
 
(‘_L’)「ですから、リアル麻雀に戸惑っていたのだと考えれば、前半戦の不振は納得できます」
 
( ФωФ)「それもあるかもしれぬ。しかし、ホライゾンは元々、前半戦はあまり和了らないことが多いであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「それは僕も聞いたことあるよう。だけど」
 
( ФωФ)「後半戦できっちり逆転してくる。我輩が雀王道で対局したときも、そうだったである」
 
(‘_L’)「過去に対局したことがあるのですか、ホライゾンと」
 
( ФωФ)「たまたま、フリー対局で同卓になったである。幸運であったな」
 
 雀王道にはランク対局とフリー対局の二つがある。
 ランク対局では同ランクのプレイヤーと対局し、獲得ポイントに応じてランクが上昇していく。
 また、全ての対局が記録され、戦績も自由に閲覧できるのが特徴だった。
 
 一方、フリー対局では対局相手が完全にランダムでマッチングされる。
 全くの初心者もいれば、最上ランクに属する強力なプレイヤーもいる、玉石混交の場だ。
 戦績が残らないため、勝敗を気にせず自由に打てることから、ランク対局を避けてフリーのみで打つ者もいた。
 
(‘_L’)「ホライゾンは確か、雀王道に登録直後から一気にSランクまで昇り詰め、その後は専らフリーに潜るようになったそうですね」
 
( ФωФ)「うむ。どうやら、ランク戦に飽きてしまったようであるな。対局依頼も多かったようであるし」
 
(=゚ω゚)ノ「偶然フリーで対局できたときも、前半戦は杉浦くんがリードしてたってことかよう」
 
( ФωФ)「いかにも。しかし、後半戦からこちらの手を見透かしたような打ち方をされ、為す術なく逆転されてしまったであるよ」
 
(=゚ω゚)ノ「『神の目』、やっぱりあるのかよう?」
 
( ФωФ)「二人も気づいたかもしれないであるが、先ほどの南四局、まさに『神の目』が使われたようであるな」
 
 水戸の視線が鋭く杉浦に向いた。
 杉浦は思わず口元を緩める。

822第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:24:30 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「南四局、我輩は三索のカンチャン待ちであった。あの待ち、二人は読めていたであるか?」
 
(‘_L’)「索子の若い牌が危ない気はしていましたが、はっきりとは分かりませんでした」
 
(=゚ω゚)ノ「僕は正直、他に安牌がなかったら三索を捨ててたと思うよう。生牌でもない筋の牌なら、それなりに安全性はあるよう」
 
( ФωФ)「我輩が逆の立場なら振り込んでいたかもしれないである。しかし、ホライゾンは違った」
 
(‘_L’)「三索を捨てずに、四索を捨てた」
 
(=゚ω゚)ノ「しかも、塔子を崩して対子に組み替える形で、テンパイを維持したまま」
 
( ФωФ)「うむ」
 
 さすがに二人とも見えていたようだ、と杉浦は思った。
 テンパイをキープしつつ、相手の当たり牌を止める。決して容易なことではない。
 しかし、内藤はそれをやってのけた。
 
( ФωФ)「相手の手が見えるなど、俄かには信じがたいことであるが、そうとしか思えない止め方であった」
 
( ФωФ)「それほど癖のあるほうだとは思っていないであるが、どうやら、ホライゾンには何かを見抜かれているのであろうな」
 
(‘_L’)「いえ」
 
 自虐気味に、杉浦が小さく笑った。
 それを、真剣な顔で水戸が遮る。
 
(‘_L’)「どうせ、後で映像を見れば分かることですから、お伝えしておきます」
 
(‘_L’)「南四局、私は配牌時点で七筒の対子を持っており、二巡目に七筒は暗刻となりました」
 
(‘_L’)「その直後、三巡目と四巡目に、内藤くんは八筒と九筒を捨てたのです」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「南四局って、確かドラ表示牌も七筒だよう」
 
(‘_L’)「えぇ。つまり、内藤くんの辺塔子は順子になる見込みが限りなく薄かった」
 
(‘_L’)「それを見越したかのような塔子落とし。正直、戦慄しました」
 
(‘_L’)「あれこそ正に、手牌が見えているとしか思えない捨て方でした」
 
 対局室を包む、静寂。
 壁に掛けられたアナログ時計の秒針の音が、三人にはっきりと聞こえるほどだった。
 
 幾許か続いた静謐を破ったのは、水戸の小さな吐息。
 それから続く、推測だった。

823第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:25:37 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「どうやら、ホライゾンは相手の手が分かるようになるまで、いくらか時間がかかるようです」
 
(‘_L’)「今回も、およそ折り返しに差し掛かったあたりで手が見え始めた。どうやって見ているのかは、やはり、分かりませんが」
 
(=゚ω゚)ノ「そう考えれば、ネット上で後半に逆転することが多いのも納得だよう」
 
( ФωФ)「しかし、東一局でいきなりドラを捨てたことも引っ掛かってはいるである」
 
( ФωФ)「あのときホライゾンが捨てたのは五萬。そしてその後、ホライゾンに五萬周りの牌は一度も入らなかった」
 
( ФωФ)「そして残したオタ風の西では暗刻を作った。もしや牌山が見えているのでは、と思わされたであるが」
 
(‘_L’)「えぇ。私もそこは引っ掛かっていますし、謎のままです」
 
(‘_L’)「ただの偶然や攪乱であればいいですが、もし、牌山まで見える術があるとするならば」
 
 その先の言葉を、水戸は飲み込んだ。
 言わずとも、杉浦と伊要には伝わっていた。
 
 そして、杉浦が不意に、思い出したように口を開く。
 
( ФωФ)「ネット上で、まだホライゾンがランク対局をメインに戦っていた頃の戦績」
 
( ФωФ)「確か、異常に多かったのが、西一局での和了」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
( ФωФ)「後半戦の開始早々に、大きな手を和了って反撃の狼煙を上げる」
 
( ФωФ)「我輩が雀王道でホライゾンと打ったときも、そうであった」
 
(‘_L’)「そのときの、ホライゾンの手は?」
 
( ФωФ)「確か、数え役満」
 
 伊要の肌が粟立ち、水戸は思わず持ち点を確認した。
 親番の内藤が数え役満を和了れば48000点。47800点の水戸が振り込めば、一瞬で飛ばされ県大会敗退が決定する。
 他の二人にとっても、ほぼ全国への道が途絶える一撃となる。
 
 例えツモ和了りでも16000オール。
 ストレートでの全国行きは、ほとんど諦めざるをえないような展開になる、と三人はすぐに理解した。
 
 数え役満など、そう簡単に和了できる手ではない。
 しかし、和了されない保証もない。

824第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:26:43 ID:3IPfqjZQ0
( ФωФ)「この卓に着いている以上、全員が敵である。結託することなどはありえないこと」
 
( ФωФ)「しかし、各々が最大限にホライゾンを警戒すること。それこそが、各々のためであるよ」
 
(‘_L’)「ええ。恐らく、杉浦くんの言うとおりでしょうね」
 
(=゚ω゚)ノ「やっぱり、気を抜いちゃいけない相手ってことかよう」
 
 三人がそれぞれ表情を硬くした頃、内藤が対局室に戻ってきた。
 立ち振る舞いは堂々としており、とても最下位に沈んでいるとは思えない、と水戸は感じた。
 
 能力の真価は掴みきれておらず、不気味という伊要の言葉にも頷ける。
 それでも臆せず戦わなければならないのだ、と水戸は決意し、口を開いた。
 
(‘_L’)「後半戦も力の限り戦い抜きます、よろしくお願いします」
 
(=゚ω゚)ノ「僕も力を出し切るつもりだよう。よろしくだよう」
 
( ФωФ)「この後半戦に身命を賭す覚悟である。よろしくお願いするであるよ」
 
( ^ω^)「よろしく、お願いしますお」
 
 水戸の声に続いて、それぞれが決意を口にする。
 場に横溢するは、皆の気迫。
 
 後半戦の開始を告げる合図が、鳴り響く。
 それぞれの命運を定める、決勝の大将戦の後半戦が、始まった。
 
 西一局、親番は、芽院高校の内藤。
 
(‘_L’)(さて)
 
(‘_L’)(杉浦くんの話では、ホライゾンは西一局の和了率が異常に高いとのこと)
 
(‘_L’)(鵜呑みにして縮こまる必要はないものの、あまり強気には出ないほうが良さそうですね)
 
 水戸の配牌は四向聴。
 ここから和了りを目指すならば鳴きを使うべきだろう、と水戸は思った。
 
 しかし、手牌が減ると、いざというときに降りにくい。
 他家がテンパイに至るよりも前に和了れば関係ないが、際どい勝負になる。
 
 四巡目、内藤が捨てた二筒で水戸はポンが可能だったが、声は上げなかった。
 
(‘_L’)(もし手牌を見透かしているならば、鳴ける牌をわざと捨てたということになります)
 
(‘_L’)(鳴かせることで降りにくくし、私から直撃を取る作戦かもしれませんね)
 
 仮に役満の直撃を受ければ、水戸の持ち点はなくなる。
 その瞬間、芽院高校の優勝が決まることとなるのだ。

825第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:27:48 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)(三位であっても、まだ焦るべきではありません)
 
(‘_L’)(恐らく、焦燥に駆られた者から順に、脱落していく戦いですから)
 
 西一局は穏やかに進行していった。
 誰の声も上がることのないまま、九巡目まで到達。
 水戸、杉浦、伊要は、それぞれ警戒しながらも焦ることなく打ち進めていた。
 
 手が進まないことに焦っているのは、内藤だけだった。
 
(;^ω^)(うう。同じ牌が二枚までは来るのに、三枚目が全然来ないお)
 
(;^ω^)(誰かが捨ててくれればポンもできるのに、それもないお)
 
(;^ω^)(これじゃこの局も和了れそうにないお)
 
 まず一度、和了ってみたい。
 内藤はそれを目標にして打っていたが、ここまで一度も和了りには至っていなかった。
 何度かテンパイまでは漕ぎ着けたものの、最後の一牌が引けないでいたのだ。
 
( ^ω^)(牌の音は、ようやくちょっとずつ分かるようになってきたお)
 
( ^ω^)(僕がいま二枚持ってる三索は、どうやら伊要さんも一枚持ってるみたいだお)
 
( ^ω^)(もしかしたらそのうち捨ててくれるかもだお)
 
 内藤は、音の聞き分けと、その記憶力には自信があった。
 僅かな音の違いを、しばらくならば正確に憶えていられる。
 中身の見えないお菓子の箱に入った玩具も、昔からほぼ確実に当てることができた。
 
 ただし、雀牌の音の違いは極僅か。
 聞き分けることに自信を持つ内藤でも、容易ではなかった。
 実際、聞き違えていたことで当てが外れ、和了りを逃したこともある。
 
 それでも、何度も繰り返し聞いていくうちに、確実性は増していた。
 
( ^ω^)(いま杉浦さんが引いた牌は、多分北だお)
 
( ^ω^)(あ、やっぱりそうだったお)
 
 十巡目、杉浦は北をツモ切り。
 牌を確かに聞き分けられたと、内藤は充足感を覚える。
 
 しかし、やはりまだ確実ではない。
 十一巡目に水戸が引いた牌が何かは、判然としなかった。

826第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:28:53 ID:3IPfqjZQ0
(;^ω^)(うーん。二萬か八萬かお?)
 
(;^ω^)(あっ、八萬だったお。この二つは音がかなり似てるお)
 
( ^ω^)(もっと、音の重心を聞き分けられるようにならないとダメだお)
 
 音の把握のためには、一局たりとも、一巡たりとも無駄にできない。
 内藤は、そう思っていた。
 
 初本は、楽しんできてほしいと内藤を送り出した。
 勝ち負けなど気にしなくていい、という意味だろうと、内藤も分かってはいた。
 
 それでも、やれるだけやってみたい。
 例え勝てなくとも、勝とうとする姿勢は失いたくない。
 内藤は、強く決意していた。
 
 そうでなければ、皆との縁を保てるはずがない、と思っていたのだ。
 
( ^ω^)(前半戦の、最後から二番目の一局)
 
( ^ω^)(あのときは、牌の音を上手く聞き分けて、なんとかピンチを回避できたお)
 
( ^ω^)(もし牌の音を聞けてなかったら、間違いなく僕の捨て牌でロンされてたお)
 
 内藤が振り返ったのは、南四局。
 杉浦が立直をかけたときのことだ。
 
 内藤は、杉浦が二索と四索を持っていることが分かっていた。
 四面子を完成させるためには三索が必要なのだろうと、雀牌の音から推測できていたのだ。
 
 それ故に、三索ではなく四索を捨てた。
 内藤が二枚の三索を手に抱えたことで、杉浦の和了りの目は限りなく小さくなったのだ。
 
( ^ω^)(もしロンされてたら、もっと点が減ってたお。危なかったお)
 
( ^ω^)(水戸さんが七筒を三枚集めたことも聞けたおかげで、テンパイして点を稼げたお)
 
( ^ω^)(この調子でどんどん音を憶えていけば、僕も和了れるようになるかもだお!)
 
 最下位でも、内藤の士気は高かった。
 しかし、その心持ちとは裏腹に、内藤が待ち望む牌は中々手に入らない。
 対子で止まってしまう牌ばかりだった。
 
(;^ω^)(うう、どんどん山が減っていくお)
 
(;^ω^)(他の人に和了られる前に、なんとか面子を作って)
 
(‘_L’)「立直です」
 
(;^ω^)「!」
828第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:30:00 ID:3IPfqjZQ0
 懸命に和了りを目指していた内藤の、心を挫くような立直。
 水戸が機先を制するべく声を上げた。
 
(‘_L’)(待ちは三筒、四筒、七筒の三面ですが、これも神の目で見えているのでしょうか?)
 
(‘_L’)(染めていることを勘付かれないよう、筒子を何枚か捨ててもいるのですが)
 
(‘_L’)(ホライゾンからの出和了りは期待できないとしても、この待ちならば是が非でも和了りたいところですね)
 
 水戸の手は立直、混一色で満貫が確定している。
 現在三位に甘んじている水戸にとって、内藤の親番を満貫で潰せれば、後半戦の滑り出しとしては上々の結果だった。
 
 そのころ内藤は、水戸の音を必死で思い出していた。
 
(;^ω^)(やばいお。何の牌か分からない牌が結構あるお)
 
( ^ω^)(でも、どうやら二筒を三枚持ってるのは間違いなさそうだお)
 
( ^ω^)(残りの牌も何となく筒子が多そうだお。ただ、字牌も混じってるようだお)
 
( ^ω^)(とりあえず、この三筒は捨てないほうが良さそうだお)
 
 内藤はツモ牌の三筒を手牌に取り込み、代わりに五萬を河に流す。
 この局は和了れなくとも仕方ない、と考えながら。
 
( ФωФ)(ここは和了りが遠い。大人しく降りるであるよ)
 
(=゚ω゚)ノ(うーん、一向聴だけど高い手にはなりそうもないよう。リスクは冒せないよう)
 
 杉浦と伊要はベタ降りを選択。
 当然、水戸にとっては想定できていた展開だった。
 染め手を読まれていないとしても、出和了りにはさほど期待していなかったのだ。
 
(‘_L’)(当たり牌は残り八枚。好形といえるでしょう)
 
(‘_L’)(不安があるとすれば、ホライゾンに先を越されることですが)
 
(‘_L’)(相変わらず、突っ張っているのか降りているのかが分かりにくい打ち方ですね)
 
 立直したことで、水戸に降りるという選択肢はなくなった。
 もし内藤がテンパイしていれば、容易に振り込んでしまう可能性もあるのだ。
 そのリスクを分かった上で水戸は立直をかけたが、不安も拭いきれないでいた。
 
 その内藤は、再び水戸の当たり牌である三筒を引いていた。
 
( ^ω^)(また三筒かお。うーん)
 
( ^ω^)(やっぱり捨てないほうが良さそうかお? よく分かんないお)
 
( ^ω^)(まぁ、さっき残したのをここで捨ててロンされたら後悔しちゃうから、やっぱ残すお)

829第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:31:34 ID:3IPfqjZQ0
 内藤は三筒を残し、四萬を捨てた。
 当たり牌を的確に止められていることなど、今の水戸に気づけるはずはない。
 
 そして内藤も、大事なことに、気づけないでいた。
 
 そこから更に一巡を経ても、水戸の前に当たり牌は現れない。
 山は目に見えて少なくなっている。
 水戸に残された手番は、あと二回のみだった。
 
(‘_L’)(中ですか)
 
 山から手にした中をそのまま河に捨て去る。
 水戸の心の内には、徐々に諦念が生まれ始めていた。
 
(‘_L’)(ここまで当たり牌が出てこないということは、誰かに握られてしまっている可能性がありますね)
 
(‘_L’)(ホライゾンに神の目で見抜かれているとすれば、その可能性はかなり高い、とも思えます)
 
 それでも全ての当たり牌を止められるはずがない、とも水戸は思っていた。
 故に仕掛けた立直でもあったが、和了りのみを信じることはできないでいる。
 
(‘_L’)(もしホライゾンが当たり牌を止めているとすれば、恐らくテンパイではないはず)
 
(‘_L’)(連荘を防いだだけでも良しとすべき、でしょうか)
 
 自分を納得させるように、心の中で水戸はそう呟く。
 当然、勘づけているはずはなかった。
 
 次巡に内藤が取る、予想外の行動に。
 
 牌山は残り二十枚を切っていた。
 内藤のみが二回の手番を残し、他の三者はそれぞれ一度のみ山から牌を取ることができる状況。
 
 内藤が牌を一枚取る。
 先ほど水戸が捨てた牌と同じ、中だった。
 
( ^ω^)(うーん。これが危ないのかどうかなんて全然分からないお)
 
( ^ω^)(でもまぁ、そのまま捨てるしか――――)
 
 不意に、内藤は気づいた。
 手元のタッチパネルが、僅かに光っていることに。
 
 『リーチ』の文字が、現れていることに。
 
(;^ω^)(お!? 『リーチ』!?)
 
(;^ω^)(な、なんでだお!? 四面子一雀頭なんて全然できてないお!)
 
(;^ω^)(いったい、どういうことなんだお!?)

830第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:32:42 ID:3IPfqjZQ0
 錯乱する頭で、内藤は何度も手牌を見直す。
 しかし何度見ても、同じ牌は二枚までしかない。
 一つとして三枚は揃っていないのに、立直できるはずがない、と内藤は思った。
 
 初本は、麻雀の基礎を理解してもらうために、あえて教えなかったのだ。
 四面子一雀頭の形に沿わない、例外的な役を。
 
 その役の存在さえ知らない内藤は、ただ混乱する一方。
 それでも、初本に言われていたことを、しっかり思い出していた。
 
(;^ω^)(な、何がなんだかよく分からないけど)
 
(;^ω^)(初本さんに言われてるんだお。『リーチ』のボタンが押せるときは必ず押すようにって)
 
(;^ω^)(なんで押せるようになったかは分からないけど、ここは押すしかないお!)
 
 内藤が勢いよく、手元のタッチパネルをタップする。
 それから、手に持っていた牌をそのまま河に置いた。
 
 雀卓から、機械の声が流れる。
 
 
雀卓「東家、立直です」
 
 
 内藤の立直が成立した。
 同時に、他の三人は大きく目を見開く。
 
 全員が、はっきりと、動揺した。
 
(;ФωФ)(ツモ切り立直!?)
 
(;゚ω゚)ノ(ど、どういうことだよう!?)
 
 内藤は、ツモ牌をそのまま捨てた。
 つまり、先巡は立直できる状況で立直しなかったということなのだ。
 
(;‘_L’)(彼に残されたツモは海底牌しかない。その状況まで待って立直をかけたというのですか?)
 
 既に水戸が先制立直をかけている局面。
 しかし、残りはたったの一巡しかない。
 振り込む恐れもほとんどないと見て内藤は立直をかけたのか、とも水戸は思った。
 
 だが、一つの推測が水戸の思考を変える。
 
(;‘_L’)(もし、牌山まで神の目で見えているのだとすれば)
 
(;‘_L’)(海底牌での一発ツモ和了りを狙って、このタイミングまで待ったとも――――)
832第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:33:47 ID:3IPfqjZQ0
 そう考えられることに気づき、水戸に戦慄が走る。
 やや遅れて杉浦と伊要も、同じ考えに行き着いた。
 
 三人に走った動揺は、明らかに顔から出てしまっている。
 隠せる状況でもなかった。
 
 水戸は内藤を窺いながら、山から牌を取る。
 九索。結局、最後まで水戸は当たり牌を自力で引けなかった。
 
(;゚ω゚)ノ(杉浦くん、これで鳴いてくれないかよう)
 
 伊要が四索を捨てる。
 誰かが副露すればツモがズレるため、内藤が海底牌を引くことはなくなる。
 それを期待しての打牌だったが、杉浦から声が上がることはなかった。
 
 残るは、二枚。
 
(;ФωФ)(ホライゾンの手は読めないである。しかし、相当に高い手であると思っておかねば)
 
(;ФωФ)(いっそ水戸に差し込んだほうがいいであるか? しかし、水戸の当たり牌も読みにくいである)
 
 杉浦は不安に駆られながらツモ牌を確認した。
 八索だった。
 
(;ФωФ)(この牌はホライゾンの現物。振り込むとすれば水戸)
 
(;ФωФ)(何点の手なのかは分からないであるが、振り込んでも致し方ないとするであるか)
 
 杉浦の頭にはずっと、ホライゾンと対局した際の数え役満が残っていた。
 もし同じことが起きれば、この大将戦はほぼ決着がつく。
 あとは神の目で終局まで逃げ切られるだろう、と杉浦は思っていた。
 
 杉浦が、八索を捨てる。
 しかし、誰の声も杉浦の耳には届かなかった。
 
 残るは、海底牌のみ。
 
(;‘_L’)(ようやく、分かるのでしょうか)
 
(;ФωФ)(ホライゾンの神の目は、牌山まで見通せるのか否か)
 
 内藤の右手が、牌を掴んだ。
 
 三人が、その一挙手一投足を見守る。
 不安と好奇が綯い交ぜになったような、複雑な気持ちで。
 
 内藤は、牌をいったん手牌にくっつけた。
 十四枚の牌が、整然と並ぶ。
 
 そして、その右手がゆっくり、タッチパネルに近づく。

833第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:34:54 ID:3IPfqjZQ0
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 牌を取った後にタッチパネルで選択できる操作は、二つしかない。
 『リーチ』、そして『ツモ和了り』。
 
 
 しかし内藤は、既に立直をかけている。
 
 押せるボタンは、たった一つだった。
 
 
雀卓「東家、ツモです」
 
(;ФωФ)「!!」
 
 雀卓が、内藤の牌を自動で倒す。
 徐々に露わになる牌の絵柄を、三人は真っ白な頭で注視していた。
 
 そして、その手に三人は愕然とする。
 
雀卓「立直、一発、門前清自摸和、断幺九、海底摸月、七対子、ドラ4」
 
(;‘_L’)「!!」
 
雀卓「三倍満、12000オールです」
 
 淡々と、事実を伝える。
 雀卓の声。
 
 それが、あまりに冷徹な宣告のように、三人は感じていた。
 
(;‘_L’)(間違い、ない。ホライゾンは、牌山が、見えている)
 
(;‘_L’)(でなければ、この狙い澄ました一撃は、ありえません)
 
 水戸は思わず立ち上がっていた。
 二度も三度も内藤の手牌を確認する。しかし、何度確認しても同じだった。
 
 親番の内藤が三倍満を和了。
 三人を牛蒡抜きし、トップに立った。
 
(;ФωФ)(やはり、西一局で本領を発揮してきたであるか。恐ろしい男であるな)
 
(;゚ω゚)ノ(た、たったの一局で逆転されたよう。これが、ホライゾンの力かよう)
 
(;‘_L’)(これほどの打ち手を相手に、いったい、どう勝機を見出していけというのでしょうか)

834第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:36:18 ID:3IPfqjZQ0
 三人はそれぞれ慄き、戦意の芯を抜かれかけていた。
 それほど、西一局の三倍満は、三人にとって痛烈だったのだ。
 
 しかし、三倍満を和了った当の本人は、ずっと戸惑っていた。
 
(;^ω^)(な、なんであれが和了りになるんだお?)
 
(;^ω^)(面子なんて一個もできてなかったのに、和了りなんて、わけ分かんないお!)
 
(;^ω^)(なんか、やっぱり、麻雀って難しいお)
 
 初めての和了りを経験したにも関わらず、内藤の心には靄がかかったままだった。
 
 
 ◇
 
 
 内藤が海底牌を引き、タッチパネルのボタンを押した瞬間。
 芽院高校の控え室は、歓喜に沸いた。
 
(*^Д^)「来た!! 来たぁぁ!! 来たぞぉぉぉ!!」
 
(*^Д^)「すげぇ!! 内藤、あいつマジすげぇ!!」
 
(゚A゚;)「さ、三倍満!? 内藤が!?」
 
('、`;川「逆転したの!? ほんとに!?」
 
(*;ー;)「凄い! ブーンくん凄いよ!」
 
 控え室内の誰も想像できなかったほどの、奇跡が起きた。
 ほとんど素人の内藤が、県内屈指の打ち手たちを相手に、三倍満をツモ和了り。
 36000点を得て、一気にトップへ躍り出た。
 
(´・ω・`)「本当に、凄い」
 
 初本も、思わずそう溢した。
 無論、三倍満を和了った強運もそうだ。しかし、それ以上に。
 
 内藤の力の凄まじさを、初本は思い知っていた。
 
(´・ω・`)「今の三倍満」
 
(´・ω・`)「恐らく僕があの場で打ってたら、和了れてない」
 
(´・ω・`)「その前に、水戸くんに振り込んで終わってたと思う」
 
 本心を、初本は言葉にした。
 半ば、呆然としながら。

835第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:37:23 ID:3IPfqjZQ0
( ^Д^)「三筒っすよね?」
 
(´・ω・`)「うん。あの局面、和了りを目指していたら三筒は捨てていただろうね」
 
 内藤が和了った西一局、先に立直をかけたのは肯綮の水戸だった。
 最後の待ちは手広く三面に構えており、三筒は当たり牌の一つだったのだ。
 
(´・ω・`)「水戸くんは染め手だったけど、字牌を六枚使ってたこともあって、捨て牌からは染め手に見えなさそうだった」
 
('A`)「確かに。立直後に六筒が捨てられてたから、後引っ掛けにもなってましたね」
 
( ^Д^)「あの状況なら、三筒は捨てちゃう可能性あるっすね」
 
(*゚ -゚)「やっぱり、牌の音が聞こえてたんでしょうか?」
 
(´・ω・`)「恐らくは。でければ、あの状況で三筒を残すという選択が初心者にできるはずはないからね」
 
 内藤は、筒子が多いことに気づいていたのだろう、と初本は思っていた。
 それ故に何となく、筒子を捨てないほうが良さそうだと考えたのだろう、と。
 
(´・ω・`)「内藤がテンパイしてすぐ立直しなかったのは単に気づいてなかったからだろうし、一発や海底摸月はただの偶然だ」
 
(´・ω・`)「相当な運に恵まれた三倍満だったことは間違いない。だけど、あの和了り方は――――」
 
 初本の両腕には鳥肌が立っている。
 それは、山の頂に近づけば近づくほど気温が下がることに似ているのかもしれない、と初本は思った。
 
(´・ω・`)「どうやら、途轍もない人を、僕たちはメンバーに引き込んだみたいだ」
 
 内藤の三倍満で、芽院高校はトップを奪還した。
 胸の高鳴りを、部員たちは抑えきれなくなっていた。
 
 
 ◇
 
 
雀卓「西一局一本場です」
 
 雀卓の声だけが冷静だった。
 卓上には整然と雀牌が並んでいる。
 
 それを見つめる水戸の視界は、霞んでいた。
 
(;‘_L’)(たったの一局で、この大差)
 
(;‘_L’)(もしかしたら私は、心のどこかで侮っていたのかもしれません。しかし、ようやく分かりました)
 
(;‘_L’)(ホライゾンは、明らかに、二枚も三枚も上手の相手です)

836第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:38:35 ID:3IPfqjZQ0
 隔絶的な差を、水戸は感じさせられていた。
 それほどの威力が、先ほどの三倍満にはあったのだ。
 
 親の三倍満で内藤は36000点を得てトップに立った。
 そして、再び内藤を親とする西一局一本場が始まっていた。
 
(;‘_L’)(配牌は、あまり良くありませんね。鳴いていったとしても和了れるかどうか)
 
(;゚ω゚)ノ(うーん。ツモに恵まれてくれないと厳しそうだよう)
 
(;ФωФ)(どうにも巡りが良くないであるな。できれば親を蹴りたいところであるが)
 
 それぞれ、内藤に大差をつけられた。
 半荘しか残されていないことを考えれば、一局たりとも無駄にできない。
 それゆえ、安い手で和了りたくないという思いもあったのだ。
 
 しかし、その思いは西一局一本場が終わる頃、一様に消え去ることとなる。
 
( ^ω^)(おっ、今回は筒子がたくさんあるお!)
 
( ^ω^)(筒子は牌が分かりやすいから好きだおー♪)
 
 内藤は暢気なことを考えていた。
 手元にある牌が、どれほど恵まれたものであるかなど、気づきもしなかった。
 
 内藤以外の三者は不安を抱えながら打ち進めていった。
 特に、内藤に当たり牌を止められた経験のある水戸と杉浦は、不安が大きい。
 例えテンパイしても和了れないかもしれないと考えてしまっていた。
 
 トップに立った内藤は、望外の和了りに恵まれた。
 誰よりも点が多いことは中央のディスプレイを見れば内藤にも分かる。
 このまま点差をキープすれば、恐らく芽院高校は全国へ行けるのだろう、ということも。
 
 それでも内藤には、どうしてもやってみたいことがあった。
 
( ^ω^)(さっきの和了りは、なんかよく分かんなくて、実感がないお)
 
( ^ω^)(一回くらい、自分の力で和了ってみたいんだお)
 
 自力による和了り。
 それはきっと、どこかから転がり落ちてきたような和了りとは違う。
 喜びが、明らかに違っているはずだ、と内藤は思っていた。
 
 その内藤の手は、一向聴まで進んでいた。
 
( ^ω^)(うーん。一筒から三筒までが二枚ずつ揃ったお)
 
( ^ω^)(これって二つの面子としてカウントしていいのかお? 同じ組み合わせはダメとかあるのかお?)
 
( ^ω^)(よく分かんないから二つの面子だってことにしておくお)

837第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:39:40 ID:3IPfqjZQ0
 八巡目。
 誰も鳴かないまま、ここまで進んでいた。
 親番の内藤が引いた牌は、八筒。
 
( ^ω^)(あ、同じ組み合わせでも二つの順子としてカウントするなら、これでまた二つ面子ができたお)
 
( ^ω^)(七筒から九筒までが二枚ずつ。これで面子が四つだお!)
 
( ^ω^)(いま西が一枚だけあるから、西がもう一枚来ればこれが雀頭になって和了りかお?)
 
( ^ω^)(あっ、でも西は既に一枚捨てられてて、あとの二枚は伊要さんが持ってるみたいだお)
 
(;^ω^)(ってことは西じゃ雀頭は作れないお。他の牌に変えなきゃダメだお)
 
 九巡目、内藤は山から發を引いた。
 すぐさま西を捨て、發を手牌に取り込む。
 
 そこで、内藤の対面から声が上がった。
 
(=゚ω゚)ノ「ポンだよう」
 
 手役作りに苦しんでいた伊要が副露で役牌を得た。
 内藤は、自風が役牌になることを忘れている。
 
(=゚ω゚)ノ(神の目で手牌が見えているはずなのに、役牌を鳴かせてくれたのはラッキーだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(これで一向聴。役牌のみでいいから和了りたいよう)
 
 伊要は、手が進んだことの喜びしかなかった。
 しかし、水戸と杉浦は先ほどの打牌に、強烈な違和を感じている。
 
(‘_L’)(神の目があれば、伊要くんが西を二枚持っていたことも読めていた可能性が高い)
 
(‘_L’)(伊要くんは西家。三枚目の西を捨てれば、それを副露されることも当然、考慮はしていたはずですが)
 
( ФωФ)(皆が親番を蹴ろうとしていることは分かっているはずである。それなのにホライゾンは特急券を与えた)
 
( ФωФ)(あまりにも不可解に思える行動であるが――――もし、わざと鳴かせたのだとしたら?)
 
 水戸と杉浦は同じ結論に達しつつある。
 役牌を他家に与えても構わないとするならば。
 
 先局の一発ツモが、二人の脳裏に蘇る。
 
(;ФωФ)(もしや、ホライゾンは既にテンパイに至っているであるか?)
 
(;‘_L’)(既にテンパイしているならば、もしや)
 
(;‘_L’)(先ほど伊要くんに役牌を鳴かせたのは、ツモ順を、ズラすために――――)

838第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:40:45 ID:3IPfqjZQ0
 十巡目。
 親の内藤は、六萬を引いた。
 
 そこで不意に、内藤が気づく。
 
( ^ω^)(あれ?)
 
( ^ω^)(僕はまだ一回も鳴いてないお。でももう四面子が完成してるお)
 
( ^ω^)(ということは、あとは雀頭さえ作ればいいんだから、今ってもう立直できる状況じゃないかお?)
 
 ずっと自分の手牌と他家の音に集中していた内藤は、手元のタッチパネルを確認し忘れていた。
 そして、内藤の思ったとおりそこには、『リーチ』のボタンが表示されている。
 
(;^ω^)(し、しまったお。またしても立直を見逃してしまっていたお)
 
( ^ω^)(えーっと、この六萬をそのまま捨てて立直すれば良いのかお?)
 
 内藤の右手は河に、左手はタッチパネルに伸びる。
 内藤を除く三人には、その瞬間、再び緊張が走った。
 
雀卓「東家、立直です」
 
(;‘_L’)「!!」
 
(;゚ω゚)ノ(ま、またツモ切り立直かよう!)
 
(;ФωФ)(来たであるか、ここも)
 
 親番の内藤が立直をかけた。
 三人は横向きの牌に視線を注ぐ。
 
 その胸中は、共通していた。
 
(;ФωФ)(ツモ切り立直ということは、ほぼ間違いなく一発狙いであろうな)
 
(;゚ω゚)ノ(次のツモで和了られる可能性が高いよう。何とかしないといけないよう)
 
(;‘_L’)(恐らくホライゾン以外は誰もテンパイさえしていない。となれば、現実的な対抗策は――――)
 
 副露によってツモをズラす。
 それしかない、という思いも三人は共通していた。
 
(;‘_L’)(どの牌が鳴けるのかは、非常に読みにくいところですが)
 
(;‘_L’)(この牌でどうでしょうか)

839第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:41:55 ID:3IPfqjZQ0
 水戸が五索を河に置いた。
 内藤に振り込む可能性もあることを考えれば、真ん中の牌はなるべく捨てたくはない。
 それでもここは誰かに副露させることを優先すべきだ、と水戸は考えていた。
 
 しかし、誰からも副露は宣言されない。
 水戸の不安は、大きく膨らんだ。
 
 残るは二人。
 内藤の対面にいる伊要は、手牌を改めて確認した。
 
(;゚ω゚)ノ(ううん、誰かに鳴いてもらえる牌を捨てたいけど、何を捨てるべきかよう)
 
(;゚ω゚)ノ(難しいけど、ホライゾンの現物でもあるし、三索でどうかよう)
 
 伊要も誰かに鳴かせるべく牌を捨てた。
 祈りを込めて、伊要はまず上家の水戸を見る。
 しかし、落胆を隠しきれないかのように、水戸は僅かに頭を下げた。
 
 この牌も駄目なのか。
 伊要はそう考えながらも、一縷の希望は捨てずに、下家を見た。
 
 他家のポンがないかどうかを一瞬待ってから、声を上げた男がいた。
 
( ФωФ)「チーである」
 
(‘_L’)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 杉浦が一索、二索と共に、三索を右に寄せた。
 そしてすぐさま、九索を捨てる。
 
(=゚ω゚)ノ(ありがとうだよう!)
 
( ФωФ)(助かったである。これで、ツモが一つズレたであるな)
 
(‘_L’)(一発は消えましたね。さすがにこの副露はホライゾンでも予測できなかったでしょうし)
 
 三人に安堵が広がる。
 杉浦は一向聴で、立直をかけなければ役もないような手だった。
 一索を含む順子を作ったことで、和了りはほぼ絶望的となったが、それでも杉浦は最善を尽くせたと納得できていた。
 
 そして、内藤が山から牌を取る。
 しかし手牌が傾けられることはない。
 
(‘_L’)(ツモがズレたためでしょうか、やはり和了れませんでしたね)

840第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:43:18 ID:3IPfqjZQ0
 水戸も牌を取った。
 杉浦のチーがなければ、本来は内藤が取っていた牌。
 
 發だった。
 
(‘_L’)(これがもし、ホライゾンの当たり牌であったならば)
 
(‘_L’)(やはり我々は、遥か高みにいる怪物を相手にしていることとなりますが)
 
 当然のように、水戸は發を手牌に取り込み、内藤の現物を捨てた。
 水戸は發を初巡に捨てており、内藤が發を待っているのであれば、国士無双でない限り役に立たない牌だ。
 即ちベタ降りとなるが、それも致し方ないと水戸は割り切れていた。
 
 そこで不意に、内藤の視線に水戸は気づく。
 
(;‘_L’)(ずっと、見ていますね)
 
(;‘_L’)(私が手牌に取り込んだ、發を)
 
 顔は向けずに、内藤は視線だけを注いでいる。
 まるでそれが、どうしても諦めきれないものであるかのように。
 
(;‘_L’)(この發が当たり牌だったのかどうか)
 
(;‘_L’)(願わくば、流局時に確かめたいものですね)
 
 西一局一本場はその後、静穏に包まれたまま流れていった。
 流局時、内藤以外の三人は牌を手前に倒し、手牌を仰向けにしたのは内藤のみ。
 
 そしてその手牌を見て、三人の目は大きく開く。
 
( ^ω^)「テンパイですお」
 
(;‘_L’)「!!」
 
 一筒、二筒、三筒、七筒、八筒、九筒が二枚ずつ。
 そして、最後まで水戸が捨てなかった發が、一枚。
 
(;ФωФ)(立直、混全帯幺九、二盃口、混一色、ドラ2!)
 
(;゚ω゚)ノ(ま、また三倍満かよう!)
 
 二人の額から汗が噴き出す。
 再び三倍満を和了られるまで、あと一歩のところだったのだ。
 
 しかし、額だけでなく、手からも汗を掻いている男が、一人。
 
(;‘_L’)(当たり牌がやはり發だった、ということは)
 
(;‘_L’)(もし杉浦くんのチーがなければ、一発と門前清自摸和がついていた)

841第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:44:28 ID:3IPfqjZQ0
 内藤が公にした手牌についている飜数は、十一。
 しかし、ここに二つ役が乗れば、合計十三飜となる。
 
 つまり――――
 
(;‘_L’)(ホライゾンの本当の狙いは、三倍満ではなかった)
 
(;‘_L’)(数え役満だった、ということですか)
 
 その事実を知ってしまったのは、水戸。
 そして、戦局を見守っている、各校の控え室の面々だった。
 
 
 ◇
 
 
 肯綮高校の控え室内は、静まり返っていた。
 
 ここまでの獲得ポイントで二位となり、優勝も見えている状態で大将戦に臨んだ肯綮高校。
 実際、前半戦の水戸は堅調であり、優勝に手が届くと全員が期待していた。
 
 その水戸は、トップの内藤から、四万点近く離されている。
 
/ ゚、。;/「ここまでとは、思わなかった」
 
 鈴木の本音は、小さな声で零れる。
 前半戦までとは全く違う空気が、そうさせていた。
 
(;´・_ゝ・`)「正直、想像以上です。ホライゾンが、ここまで強いなんて」
 
从;'ー'从「た、たまたまなんじゃないですかぁ〜? 偶然に偶然が重なりまくってるだけかもぉ〜」
 
(;∵)「ただの偶然とは思えぬことが何度も起きている。あらゆる牌を、見透かしているかのような」
 
/ ゚、。;/「だね。西一局では水戸の当たり牌を完璧に止められたし」
 
 鈴木は、恐怖心さえ覚えた。
 決して読みやすいとも思えなかった、水戸の当たり牌である三筒を、内藤は捨てなかった。
 先制立直をかけた水戸を止めた上で、内藤自身は三倍満を和了したのだ。
 
 これほどの相手とは思わなかった。
 鈴木は、先ほども零した本音をもう一度、頭のなかで繰り返した。
 
(;´・_ゝ・`)「本当に、あるんですね。神の目ってやつが」
 
/ ゚、。;/「バカバカしい、と思ってたけどね。大将戦が始まるまでは」
 
(;∵)「理屈は分からぬが、牌が見えている可能性は極めて高い。恐ろしい男よ」

842第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:45:37 ID:3IPfqjZQ0
从;'ー'从「き、きっとズルしてるんですよぉ〜! 絶対ヘンですぅ〜!」
 
/ ゚、。;/「ズルはないだろうけど、ガン牌の可能性はあるかもね。ただ、それもほぼありえないとは思うけど」
 
(;´・_ゝ・`)「牌に目立つ傷なんて一つもなかったですもんね。普通じゃ見えない小さな傷が見えるのかもしれないですけど」
 
(;∵)「しかし、それが神の目なのだと言われても、得心とはいかぬな」
 
/ ゚、。;/「可能性はゼロじゃないかもしれないけどね」
 
(;´・_ゝ・`)「でも、それだと牌山を見透かすのは厳しいですよね。半分は背が隠れてるわけですし」
 
/ ゚、。;/「うん。どのみち、信じられないようなことだけどね」
 
 現状、内藤の猛攻を防ぐ手立てが四人には思い浮かばない。
 尤も、思い浮かんだところで水戸に伝える術はない。
 
 その水戸の顔が、ちょうどモニターに映った。
 
(´・_ゝ・`)「水戸さん」
 
 水戸は、最下位に沈んでいる。
 このままでは優勝どころか、プレーオフ行きとなる二位さえ危うい状況だった。
 
 それでも、水戸の目は死んでいなかった。
 
/ ゚、。 /「まだ、諦めてないね、水戸は」
 
( ∵)「実力差は痛感させられたはず。それでも心を奮い立たせておるか」
 
从'ー'从「水戸さんゴ〜ゴ〜! 絶対逆転できるって信じてますぅ〜!」
 
 渡辺の緩い声に、鈴木は思わず笑ってしまった。
 しかし、その姿勢は見習うべきだ、とも鈴木は思った。
 
/ ゚、。 /「一番キツイはずの水戸が諦めてないのに、僕らが勝手に諦めちゃいけないね」
 
(´・_ゝ・`)「はい。最後まで勝利を信じます」
 
 西一局は二本場に入った。
 力強く牌を見据える水戸を、四人は信じつづけている。
 
 
 ◇
 
 
 もし内藤が数え役満をツモ和了りし、16100オールとなっていたら、勝負はほぼ決まっていた。
 杉浦のチーに感謝するしかない、と水戸は思っていた。

843第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:46:42 ID:3IPfqjZQ0
 ただ、内藤がテンパイしていたことで親番は続行。
 内藤以外の三人は、底なし沼に片足を突っ込んでいるような心境だった。
 
(‘_L’)(先ほどの一局、まさに首の皮一枚繋がったというところですね)
 
(‘_L’)(これを機と捉えねばなりません。この西一局から、絶対に脱出しなければ)
 
(‘_L’)(ホライゾンの思うがままに打たせていては、西一局のまま大将戦が終わることにもなりかねません)
 
 水戸の持ち点は33800点。
 トップの内藤が71800点であり、大差といっていい点差をつけられている。
 
 残る局数を考えれば、あまり安い手では和了りたくない。
 水戸はそう思っていた。
 
 先ほどの数え役満未遂を見るまでは、だった。
 
(‘_L’)(ここはどんな手であっても、とにかく和了りを優先すべきです)
 
 どれほど安い手でもいい。
 とにかく内藤の親番を、終わらせなければならない。
 
 その思いのみで、水戸は声を上げる。
 
(‘_L’)「ポン」
 
 伊要が捨てた六筒をポンで取り込む。
 その二巡後には杉浦の捨て牌を再びポンで手に入れた。
 
 そして五巡目にして、水戸の親指は手牌を撫でる。
 
(‘_L’)「ツモ。断幺九のみ、500・700」
 
 その和了りに安堵したのは水戸だけではなかった。
 僅かとはいえ、失点した杉浦、伊要もようやく視界が明るくなった気分だった。
 
 そして、西二局の親番は、最下位に沈んでいる水戸。
 
(‘_L’)「チー」
 
 ここも、水戸は鳴きを使って速度を上げた。
 内藤がツモ順を操作しようとしている可能性があり、できればチーはしたくない、という思いも水戸にはある。
 それでも、水戸にできる内藤への対抗策は、これしかなかった。
 
(‘_L’)(ホライゾンよりも先にテンパイし、和了る)
 
(‘_L’)(この試合に勝つためには、最早それしかありません)
 
 誰よりも先にテンパイすれば振り込むことはない。
 和了られる前に、和了る。単純なことだが、それしかない、と水戸は考えていた。
845第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:48:02 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「ツモ。1000オール」
 
 三色同順、ドラ1で水戸は素早く3000点を得た。
 勢いに乗って、西二局一本場も手作りを速める。
 
(‘_L’)(この配牌ならば、本当は鳴かずに進めたいところですが)
 
(‘_L’)(ホライゾンが相手では、そんな甘い考えは捨てるべきですね)
 
(‘_L’)「ポン」
 
 副露なしで手作りすれば跳満や倍満さえ望めそうな配牌だった。
 それでも水戸は、とにかく和了ることだけを優先した。
 
 全ては、肯綮高校を優勝させるために。
 ここまで繋いでくれた、仲間たちのために。
 
(‘_L’)「ツモ。4100オール」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 役牌、混一色、ドラ1で和了った水戸が更に12300点を得た。
 持ち点が50800点となり、肯綮高校は二位まで浮上。
 トップとの点差も15200点となった。
 
 無論、伊要と杉浦もそれを良しとはしなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(トップを削ってくれたのはありがたいけど、好き放題はさせないよう!)
 
( ФωФ)(水戸にばかり稼がれてはどのみち苦しいである。我輩も反撃に出ねば)
 
 水戸の三連続和了に伊要と杉浦も発奮する。
 そして西二局二本場、すぐに動いたのは伊要だった。
 
(=゚ω゚)ノ「チーだよう!」
 
 配牌が良かったこともあり、一度のチーですぐさま伊要はテンパイに至った。
 そして四巡目には早くも手牌の両端を掴む。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモ、1200・2200だよう!」
 
 一気通貫、混一色で水戸の親番を流した伊要。
 西三局はその伊要が親番だった。

846第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:49:13 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ(ここは僕が稼ぐよう!)
 
 そう意気込み、伊要が確認した配牌は悪いものではなかった。
 断幺九や平和、一盃口などが狙えそうな手牌。
 できれば鳴かずに進めたい、という欲も伊要には生まれた。
 
 しかしすぐさま、その欲を杉浦がかき消す。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 水戸、伊要と同じく、杉浦も副露で手を早めてきた。
 親番を失いたくない伊要は負けじと鳴きによる加速を狙うが、思うようには進まない。
 焦りに支配されている間に、更に杉浦がポンで刻子を作る。
 
 やがて杉浦が倒した牌の面子は、全て刻子で構成されていた。
 
( ФωФ)「ツモ。対々和、ドラ2、2000・4000である」
 
 杉浦が満貫を和了し、伊要の親番は流れた。
 大将戦は足早に西四局へと移る。
 
 西一局で内藤が場を制圧しかけたものの、他の三人も容易くは膝を折らなかった。
 副露して素早く和了ることで、内藤の和了りを防ぐ作戦に全員が出ていたのだ。
 それこそが優勝への唯一の道だと信じて。
 
 実力差が歴然としていようとも、勝利のみを目指せば、必ず活路はあると信じて。
 
 
 ――――その決意が、西四局で再び、揺らぐ。
 
 
( ^ω^)「ポン、ですお」
 
(;‘_L’)「!」
 
(;ФωФ)「!」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 内藤が、副露。
 立直ではなく、ただのポン。
 それでも、三人の体は硬直した。
 
 理由は二つあった。
 一つは、後半戦に入ってから一度も鳴いていなかった内藤が鳴いた、という事実。
 一発ツモの記憶も色濃く残る三人は、それほど副露の多いほうではない、という印象を内藤に抱いていたからだ。
 
 もう一つは、内藤がポンした八萬がドラである、という事実。
848第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:50:34 ID:3IPfqjZQ0
(;‘_L’)(和了られれば、最低でも満貫、ですか)
 
(;゚ω゚)ノ(満貫で済めばいいけど、また三倍満でも和了られたら、かなり厳しいよう)
 
(;ФωФ)(最大限に警戒し、絶対に放銃を避けねば。例え親番を失うことになろうとも)
 
 内藤から離された三者にとって、最悪の事態は内藤に振り込むことだった。
 ツモ和了りはほとんど避けようがない。避けられることは、放銃のみだ。
 満貫に振り込んでトップから更に16000点の点差がつけば、どの高校にとっても全国行きは一気に遠のく。
 
 ほぼベタ降りを選択した三者は慎重に打ち進めた。
 できればテンパイを残しておきたい、と考えた杉浦のみが回し打ち気味に立ち回る。
 十四巡目には、役こそないものの一向聴にまで至っていた。
 
 杉浦の不要牌は二萬。
 あとは五索か八索、もしくは二筒か五筒を引けばテンパイだった。
 
 そこで、内藤が手出しした。
 
( ФωФ)(三萬切り、であるか)
 
 嫌な予感が、杉浦の中で息づいた。
 
( ФωФ)(我輩の不要牌である二萬は二巡前に水戸が捨てている。故にこれは安牌と思っていたであるが、しかし)
 
( ФωФ)(もし神の目で我輩の手牌が見えていて、不要牌が二萬であることに気づいているとしたら?)
 
 一巡前、もしも内藤が二萬と三萬を持っていて、一萬と四萬の両面待ちだったとしたら。
 その状態で二萬を引き、三萬を捨てて単騎待ちに切り替えているとしたら。
 
 内藤は、不要牌が河に出るのを待っているのかもしれない、と杉浦は気づいた。
 
 そして、次の杉浦のツモ牌は、五筒。
 待ち望んでいたはずの牌が、杉浦には霞んで見えた。
 
(;ФωФ)(五筒を残して二萬を切れば、テンパイであるが)
 
(;ФωФ)(切れないであるな、二萬は)
 
 杉浦の読みが当たっていた場合、二萬を捨てることで負う傷は致命的となる。
 両面待ちを捨てて単騎待ちにするなど、常識では考えられないことだが、常識など通じない相手なのだ、と杉浦は思った。
 
(;ФωФ)(連荘を諦めるのは悔しい限りであるが、読みどおりだった場合の一撃は手痛い)
 
(;ФωФ)(ここは、ベタ降りに回るより他ないであろうな)
 
(;ФωФ)(いつでも神の目で見られているという事実を、忘れてはならないであるよ)

849第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:51:59 ID:3IPfqjZQ0
 杉浦は現物でもある五筒をツモ切りした。
 残りの手番を考えれば、なんとか逃げきれそうだ、と考えながら。
 
 そして杉浦は、自分の読みが正しかったことを流局後に知る。
 
( ^ω^)「テンパイ、ですお」
 
( ФωФ)「!」
 
 内藤は、二萬と四萬と七萬待ちだった。
 しかし七萬はドラ表示牌であり、序盤に伊要が一枚捨ててもいる。
 つまり、実質的には二萬と四萬待ちだったが、両面待ちを保っていれば一萬も当たりだったのだ。
 
(;ФωФ)(当たり牌を減らしてまで、我輩の二萬を狙ったであるか)
 
(;ФωФ)(形式聴牌狙いで、いずれ二萬を捨てるであろうことを、完璧に読まれていたのであろうな)
 
(;ФωФ)(しかも、二萬による和了りならば、手役は断幺九、対々和、清一色、ドラ3で再びの三倍満)
 
(;ФωФ)(全くもって、空恐ろしい男である)
 
 二萬を捨てていたら、杉浦は24000点を奪われていた。
 間違いなく、息の根を止められていた、と杉浦は恐怖する。
 同時に、凌げたことへの安堵もあった。
 
 他方、杉浦が二萬を止めたことを知らない二人は、別の恐怖を抱いていた。
 
(;゚ω゚)ノ(な、何回三倍満を和了れば気が済むんだよう。恐ろしいよう)
 
(;‘_L’)(もし二萬をツモっていたら三暗刻もついて、今度こそ数え役満だった、ということですか)
 
 いかに神の目があろうと、配牌までは操作できない。
 そのことを水戸は確信していた。つまり、内藤はかなり運に恵まれてもいる。
 しかし、相手に振り込むことがないぶん、自由に手を高められるのが強みだ、と水戸は思っていた。
 
 そして、相手の手が見えていれば、直撃を狙うことも容易いだろう、とも。
 
(‘_L’)(ノーテンでは手牌を公開しないため、詳細は分かりませんが)
 
(‘_L’)(もしかしたらホライゾンは、伊要くんや杉浦くんから出和了りしようとしていたのかもしれませんね)
 
(‘_L’)(となれば、私たちの最大の危機は、このあと訪れるということになります)

850第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:53:18 ID:3IPfqjZQ0
 親の杉浦がノーテンだったため、西場が終わった。
 大将戦はいよいよ北場を残すのみとなっている。
 
 最初の北一局の親番が、内藤だった。
 
 その内藤は、またも和了れなかったことに落胆している。
 思うようにはいかないものだ、と。
 
(;^ω^)(杉浦さんは二萬が不要っぽかったから、捨ててくれるかと思ったのに)
 
(;^ω^)(なんで捨ててくれなかったのかお。よく分からないお。難しいお)
 
 未だ和了りの喜びを感じられないままに、内藤は北一局に進む。
 配牌を確認して、内藤は首を捻りかけた。
 どこからどう面子を作っていけばいいのか、分からなかったのだ。
 
(;^ω^)(なんか、ぐちゃぐちゃな組み合わせだお。和了るのは大変そうだお)
 
( ^ω^)(だけど、やっぱり一度くらいは自力で和了ってみたいお。頑張るお!)
 
 意気込んで内藤は發を切る。
 しかし、内藤以上に意気込んでいるのは他の三者だった。
 
(‘_L’)(ここは、とにかく親番を流すことが最優先です)
 
( ФωФ)(差し込んででも親番を蹴る。それが最善であるという考えに疑いの余地はないである)
 
(=゚ω゚)ノ(誰でもいいから和了らなきゃいけないよう。西一局みたいなことが起きたら絶望的だよう)
 
 ここは最速で和了るしかない。
 三人が同じ思いで打ち進める。
 
 内藤は、思うように揃わない牌をもどかしく感じていた。
 副露して面子を作っていきたい。そう思っていたところに、杉浦から二索が捨てられる。
 
( ^ω^)「チーですお」
 
 三索と四索を右に寄せて、内藤がチー。
 そして手牌から八筒を取り、河に置いた。
 
 その捨て牌に対し、内藤と同じ声が上がる。
 
(‘_L’)「チーです」
 
 水戸が加速すべく、八筒を取り込んだ。
 その動きを注視しながら、伊要と杉浦も和了りを狙っている。
 
 しかし、考えを変えることになるのは、次に再び水戸が発声したときだった。

851第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:54:31 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)「チーです」
 
( ФωФ)「!」
 
 内藤が九萬を捨てたところで、水戸がチー。
 水戸の狙いが、杉浦にははっきりと伝わった。
 
( ФωФ)(三色同順狙いであるか。水戸はドラを一枚捨てているから、ドラが絡んだ手ではなさそうである)
 
( ФωФ)(混全帯幺九や純全帯幺九が絡んでいなければ、僅か一飜の手、ということであるな)
 
( ФωФ)(それならば――――)
 
 杉浦は手を崩した。
 五索、六索と共に順子を作っていた七索を、河に流す。
 
 申し訳ない、と心の中で杉浦に謝ってから、水戸は倒牌した。
 
(‘_L’)「ロン。三色同順のみです」
 
 水戸が軽く頭を下げる。
 杉浦は僅かに笑って、手牌を前に倒し、燕龍茶に口をつけた。
 
(‘_L’)(意図を汲み取っていただき、心から感謝します)
 
( ФωФ)(たった1000点でホライゾンの親番を流せたである。貴公には感謝しているであるよ)
 
 あえて手を安くし、振り込みやすい形を作った水戸。
 それに応えた杉浦。
 二人が、他の誰のためでもなく、それぞれ自分自身のために最善を尽くした。
 
 水戸は、思った通りの形で北一局を終わらせられたことに、満足はしていた。
 しかし、引っかかりも残っている。
 
(‘_L’)(和了れたことは良かったのですが、ホライゾンは随分あっさり鳴かせてくれましたね)
 
(‘_L’)(手牌が見えているなら三色同順狙いも分かっていたはず。それなのに二度もチーさせるとは)
 
(‘_L’)(あえて、なのでしょうか。意図は分かりませんが)
 
(‘_L’)(術中にハマってしまった可能性などは、あまり考えたくありませんね)
 
 大将戦、尚もトップに立つのは芽院高校の内藤。
 最短では、あと三局で決着がつく。

852第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:55:44 ID:3IPfqjZQ0
 決して一局も無駄にできない。
 特にこの親番は、簡単には失えない。
 水戸はそう決意して、北二局に臨んだ。
 
 
 ◇
 
 
 祈ることしかできない。
 ただ、祈りながらじっと戦局を見守ることしか、できない。
 芽院高校の誰しもが、同じだった。
 
(;^Д^)「あと三局っすね」
 
(´・ω・`)「なんとか、持ち堪えてほしい」
 
 期待と不安が交互に顔を覗かせる。
 まさか、内藤がトップをキープしたまま北二局まで来れるとは思ってなかった、というのが初本の本音だ。
 だからこそ、期待も不安も大きい。
 
('A`;)「陶冶の杉浦の七索切りは、差し込みですよね」
 
(´・ω・`)「うん、間違いないね」
 
(;^Д^)「やっぱ杉浦は見るべきところを見てたっすね。視野が広いというか」
 
(´・ω・`)「状況判断能力に長けてるね。先々を見通すこともできるし、相当な打ち手であることは間違いない」
 
(´・ω・`)「ただ、あの差し込みは内藤を警戒しすぎてたね。うちとしてはありがたいことだけど」
 
 北一局、内藤の配牌は六向聴だった。
 可能な限り鳴いていったとしても、テンパイが精々、というような手牌。
 ツモの巡りも悪く、水戸が和了ったときはまだ四向聴だったのだ。
 
 じっくり手を高められていたら芽院高校としては苦しかった。
 親番を蹴るためだけの三色同順が、結果的には芽院高校を助けてもいた。
 
(´・ω・`)「神の耳のおかげだね」
 
(´・ω・`)「内藤が牌を見透かしたような待ち方をしたことで、他の三人は警戒を大いに強めた」
 
(´・ω・`)「内藤に神の耳がなければ、この点差はありえなかった」
 
 自然と、初本は内藤の力を『神の耳』と名付けていた。
 ホライゾンの『神の目』のような、超常的とも言える力だった。

853第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:56:49 ID:3IPfqjZQ0
(;^Д^)「かなりラッキーだったことは間違いないっすけど、それだけじゃないっすもんね」
 
('A`;)「大将戦が始まる前はほとんど諦めてましたけど、あいつのおかげで、もしかしたら――――」
 
(*゚ -゚)「あと三局、凌げるでしょうか?」
 
(´・ω・`)「分からない。肯綮も麦秀も陶冶も親番を残してる、連荘されると苦しい」
 
(´・ω・`)「幸運もあって内藤は今トップだけど、本当は、内藤より遥かに実力も経験もある打ち手ばかりだからね」
 
 本来ならば、初心者ではどう足掻いても敵わない相手。
 幸運と、神の耳で内藤は立ち向かっていた。
 ここまでは、上手く行きすぎているとさえいえた。
 
 しかし、内藤以外の三人も必ず逆転を狙ってくる。
 内藤にとっての正念場が、やってくる。
 初本は、そう思っていた。
 
(´・ω・`)「最後まで、信じて応援しよう」
 
 自分に言い聞かせるように、初本は呟いた。
 その声に、皆が頷く。
 
 水戸を親番とする北二局は、不穏さを漂わせながら進んでいた。
 
 
 ◇
 
 
 できれば大きな手を和了りたい。
 ツモ和了りでも跳満以上ならばトップに立てる。
 しかしやはり、まずは小さな手でも和了ることを優先すべきだ。
 
 水戸は、そう考えながら打ち進めていた。
 
(‘_L’)「ポンです」
 
 杉浦が捨てた四筒をポンし、九索を捨てた。
 水戸が右手を肘掛に置いて体重をかけ、深く座り直す。
 
(‘_L’)(手を高めようとしてホライゾンに先を越される展開だけは、避けねばなりませんが)
 
(‘_L’)(これまでホライゾンがヤミで通したことはない。立直か副露が入るまではさほど警戒せずとも良さそうです)
 
 水戸は、警戒しすぎて委縮してしまうことを恐れていた。
 放銃してはならない、しかし内藤を恐れすぎて動きが鈍ればいずれにせよ優勝の目はなくなる。
 そう考えた水戸は、安全に加速できる間は加速しつづけるつもりでいた。
 
(‘_L’)「ポンです」

854第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:58:27 ID:3IPfqjZQ0
 二度目の副露でテンパイに持ち込んだ水戸。
 役は対々和と断幺九のみ。しかし、暗刻の一つはドラだった。
 
 恐らく杉浦と伊要も同じだろう、と思っていることが水戸にはある。
 それは、内藤からの出和了りにはもはや期待できない、ということだ。
 神の目で牌を見透かされていれば、立直していない限り放銃はありえないだろう、と。
 
 伊要は守備が甘いところもあるが、杉浦は放銃率が低い。
 つまり、この局面においては、自力で最後の牌を引けるかどうかが鍵になる、と水戸は考えていた。
 
(‘_L’)(今更、手替わりはありえません。あとはツモの巡りに託すのみです)
 
 運に任せる、という言葉を水戸は嫌った。
 人の運とはただの確率であり、人が生まれ持つものではない。
 単に悪運だった、で事を済ませてしまえば、人は確率を上げる努力さえ怠るようになるだろう、というのが水戸の持論だった。
 
 今局、水戸は配牌から可能な限り最善を尽くし、跳満のシャンポン待ちを作り上げた。
 万人にとって十全なものではないとしても、今の持てる力を使える限り使った結果だ。
 どちらに転んでも、今の自分を納得させることはできる、と水戸は自分に向けて呟いた。
 
 その水戸の努力が、静かに報われる。
 
(‘_L’)「ツモです」
 
( ФωФ)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「!」
 
 七萬を仰向けにして卓上に置いてから、水戸は右手で手牌を撫でた。
 
(‘_L’)「対々和、断幺九、ドラ3。6000オールです」
 
 背中を、捉えた。
 一時はあまりにも遠く、霞んでいた内藤の背中を、ようやく捉えた。
 水戸は、そう思った。
 
 この大将戦での持ち点で、水戸は内藤を逆転していた。
 
 ポイント計算を考えれば、水戸が稼ぐべき点はまだ多い。
 しかし、逆転可能な範囲だった。
 
(‘_L’)「一本場です」
 
 凛とした声でそう告げた。
 この親番で必ずポイント計算上もトップに立つ。その強い思いを込めて。
 
 しかし、制服の袖を捲って水戸を見る男が、一人。

855第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 14:59:34 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ(今の一撃で、ウチはプレーオフさえ厳しい状況になったよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だけど、絶対諦めないよう!)
 
 大将戦、抜け出したのは内藤と水戸。
 杉浦と伊要はトップから二万点以上離されている。
 
 それでも、今の伊要は何も恐れていなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(ウチはここにいるだけでも充分な成績。だから何も失うものはないんだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(やれるだけやって、結果的に駄目でも、それはしょうがないことなんだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だから、悔いだけは絶対残さないように打つんだよう!)
 
 北二局一本場。配牌を確認して、伊要は小さく拳を握りかける。
 ドラを含む索子が豊富に揃った手牌。
 普段ならば当然のように門前で進めることを選択するだろう、と伊要は思った。
 
 だが、この場には神の目がある。
 悠長に構えていれば必ず、その眼光に射抜かれる、と伊要は考えていた。
 
 だからこそ、五巡目に水戸が捨てた一索は見逃さなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「チーだよう!」
 
 これで、伊要の手牌には一索から九索までが全て入った。
 一気通貫には喰い下がりがある。数巡待つだけで一索を自分で引けたかもしれない。
 そんな甘い考えを、伊要は切り捨てていた。
 
 和了りのために、やれることは全てやる。
 好配牌でも、その思いは決して変わらなかった。
 
 芯の強い思いは、やがて和了りという形で露わになる。
 
(=゚ω゚)ノ「ツモだよう!」
 
(‘_L’)「!」
 
(=゚ω゚)ノ「一気通貫、清一色、ドラ1! 3100・6100だよう!」
 
 あまりにも貴重な12300点を、伊要が得た。
 トップとの差も、一気に縮まった。
 
(=゚ω゚)ノ(行ける、行けるよう! プレーオフどころじゃなく、優勝まで狙えるよう!)
 
(=゚ω゚)ノ(次の親番で更に稼いで、なんとしてもトップを奪い返すよう!)
 
 意気揚々と伊要は親番となる北三局へ向かった。

856第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:00:53 ID:3IPfqjZQ0
 ひとたび勢いづけば、手がつけられないほど苛烈な攻めを見せる。
 それが伊要という男の怖さでもあった。
 
 だからこそ、食い止めなければならない、と考える男がいた。
 
( ФωФ)(残るは最少で二局。トップとの点差はおよそ二万点)
 
( ФωФ)(伊要が親番でトップを削ってくれるならばありがたいことであるが、その場合は伊要を捲るのが難しい)
 
( ФωФ)(ここは、他の誰にも譲れぬ局面であるな)
 
 北三局、杉浦の配牌は、絶好とはいえなかった。
 それでも北場に入ってからの配牌の中では、最も恵まれたものだった。
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 杉浦の考えも、水戸と伊要に近かった。
 残る局数を考えれば安い手では和了れない。しかし、手をじっくり高める余裕もない。
 際どいところで均整を取って打ち進めなければならない、と思っていたのだ。
 
( ФωФ)(他家にテンパイの気配はない。ホライゾンも動かないである)
 
( ФωФ)(この機は、逃せぬであるな)
 
( ФωФ)「ポンである」
 
 杉浦が二度目の副露。
 どちらも老頭牌のポンだった。
 
 この鳴き方では、ほとんど出和了りを期待できない。
 当然、杉浦はそれを分かっていた。
 
 ここまで、孤独な戦いを強いられてきた。
 誰しもが自分のために、自分のチームのために戦っている。
 他家に差し込むこともあった杉浦だが、決して共闘ではなく、最後は自分自身がトップへ昇るために最善を尽くした結果だった。
 
 ならば、最後の牌も自分で引き当ててみせよう。
 そう心の中で呟いた杉浦の手に、舞い込んだ牌。
 
 他家の背中に、追いつくための牌だった。
 
( ФωФ)「ツモである」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 親番の伊要が思わず右手を固く閉じた。
 杉浦はそれを一瞥することもなく、手牌を倒す。
 
( ФωФ)「対々和、三色同刻、混老頭、ドラ2。4000・8000である」

857第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:01:59 ID:3IPfqjZQ0
 喰い下がりのない役で、倍満を作り上げた。
 杉浦は、平静を保てていないことに、自分の心音で気づく。
 
 トップの水戸には、まだ少し届かない。
 しかし、点差は僅か2900点だった。
 
 北三局が終了し、遂に、北四局へと戦いの場は移る。
 
 県大会決勝、大将戦の、オーラスがやってきた。
 
(‘_L’)(遂に、オーラスですか)
 
(=゚ω゚)ノ(オーラスになっちゃったけど、頑張るしかないよう)
 
( ФωФ)(オーラスが親番であるか。逆転するまで和了りつづけるしかないであるな)
 
(;^ω^)(中央のディスプレイに『オーラス』って書いてあるけど、どういう意味か分かんないお)
 
 ここまでトップは肯綮高校の水戸で、54500点。
 二位は芽院高校の内藤で、52700点。
 三位は陶冶高校の杉浦で、51600点。
 そして最下位は麦秋高校の伊要で、41200点だった。
 
 全員の点数を見て、水戸が改めて現況を頭の中で確認する。
 
(‘_L’)(トップには立っていますが、オーラスのハードルは意外と高い)
 
(‘_L’)(ポイント計算で逆転優勝を果たすためには三倍満ツモが必要、ですか)
 
(‘_L’)(杉浦くん、伊要くんからの出和了りならば、役満でなければならない、ということになりますね)
 
(‘_L’)(ホライゾンから直撃を取れれば楽ですが、それには期待しないほうがいいでしょうし)
 
 水戸は自分の点数と内藤の点数を交互に見比べ、一度目を伏せた。
 それから今度は、杉浦の点数を確認する。
 
(‘_L’)(杉浦くんは親番ですから、小さな手でも連続和了で逆転優勝の可能性があります)
 
(‘_L’)(ある意味、最も逆転優勝の可能性が高いともいえるのが杉浦くんですね)
 
 水戸がすぐさま杉浦の持ち点から目を切る。
 そして、水戸の下家にあたる伊要の持ち点を見た。
 
(‘_L’)(伊要くんはかなり厳しい状況。ホライゾンから役満の直撃を取るしか優勝の可能性がなく、かなり難しいでしょう)
 
(‘_L’)(二位でプレーオフ狙いならば伊要くんのハードルも下がって、私から倍満を取る程度で済みますね)
 
(‘_L’)(ツモ和了りならば三倍満でも1ポイント足りずに三位ですから、やはり役満が必要ですが)
 
 水戸がそこまで考えていたとき、不意に、炭酸の弾ける音がした。

858第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:03:08 ID:3IPfqjZQ0
 コーラのペットボトルが、開いた音。
 水戸の左耳から入ってきた。
 
 そうだ。
 まずは、この男をなんとかしなければならない。
 水戸だけではなく、杉浦も伊要も、そう改めて思わされた。
 
( ^ω^)
 
 内藤が喉を鳴らしてコーラを流し込む。
 何もかも全て飲み込むと、そう宣告されているかのように水戸は感じていた。
 
(;‘_L’)(当然のことながら、優勝に最も近いのは、芽院高校)
 
(;‘_L’)(僅か1000点の手であろうとも、とにかく和了るだけで優勝ですね)
 
(;‘_L’)(親がノーテンで流局でも優勝。圧倒的優位に立っていることは間違いありません)
 
 仮に芽院高校が優勝したとしても、水戸が内藤に大きな手を振り込まない限り、肯綮高校も二位は確保できる。
 しかし、プレーオフから全国へ進むには険しい道のりを歩む必要があるのだ。
 まだ経験の浅いメンバーを全国までじっくり育てるためにも、やはり優勝を狙うべきだ、と水戸は考えていた。
 
雀卓「オーラスです」
 
 中央ディスプレイに表示された情報を、雀卓が読み上げる。
 水戸、杉浦、伊要が一様に気を引き締めた。
 
 四人の前に、牌が並ぶ。
 
 複雑な表情が顔に出かけたのは、陶冶高校の杉浦。
 
( ФωФ)(厳しい配牌であるな。鳴いて断幺九か、三色同順か)
 
( ФωФ)(ツモや他家の捨て牌にも恵まれなければ、和了りは厳しいであるな)
 
 親番の杉浦は、どんな手でも和了りつづける限り可能性がある。
 あるいはテンパイしたうえでの流局も悪い展開ではないものの、甘い考えかもしれない、と杉浦は思っていた。
 単に和了ればいいという状況は、ポイント計算でトップに立つ内藤も同じだからだ。
 
 他方、これならば、と思ったのは麦秋高校の伊要。
 
(=゚ω゚)ノ(最低でも倍満が必要だけど、なんとかなるかもしれないよう)
 
 既にドラが二枚。
 対子がいくつかあり、ツモ次第では四暗刻さえ狙えるかもしれない、と伊要は思った。
 仮に四暗刻に至らずとも、立直をかけた上で対々和、三暗刻が組み合わされば倍満は充分狙える、とも。
 
(=゚ω゚)ノ(倍満なら水戸くんから出和了りが必要だよう。ベタ降りされれば厳しいかもしれないけれど)
 
(=゚ω゚)ノ(水戸くんも逆転優勝のために無理をするはず。直撃を取れる可能性はゼロじゃないよう)

859第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:04:22 ID:3IPfqjZQ0
 もし伊要が役満をツモ和了りすれば、肯綮高校はプレーオフにさえ進めない。
 その可能性を、水戸ならば充分に考慮しているはずだ、と伊要は思っていた。
 
 暗槓でドラを増やすなどすれば数え役満もありうる。
 とにかくここは、手を高めることに集中すべきだ、と伊要は気合を入れた。
 
 そして、誰よりも配牌に恵まれたのは、肯綮高校の水戸。
 
(‘_L’)(三元牌が、既に六枚)
 
(‘_L’)(これならば、目指すべきゴールは、一つですね)
 
 大三元。
 最も役満が欲しい局面で、役満の片影が見える配牌を、水戸は手に入れた。
 
 三元牌以外のみを見れば酷い配牌だが、水戸はそれも全く気にならなかった。
 大三元は、三元牌以外の面子と雀頭は何でも構わない。鳴きを使えば簡単に作れるだろうと水戸は思っていた。
 
 何よりも大事なことは、内藤、杉浦という早和了りを狙うはずの者たちよりも先に和了ること。
 一瞬たりとも気は抜けない。必ず厳しい戦いになる。
 そう考えながら水戸は、水筒の緑茶で喉を潤した。
 
 一巡目。
 最初の杉浦の捨て牌で、いきなり白が出た。
 
(‘_L’)「ポンです」
 
 良すぎるほど幸先の良いスタートを水戸が切った。
 これで、あとは發と中を一枚ずつ集めれば三元牌は揃う。
 いい風が吹いている、と水戸は思った。
 
 次の内藤は西を河に流す。
 何も反応せずに水戸は見送ったが、そういえば、と不意に気づく。
 
(‘_L’)(神の目ならば当然、私が既に三元牌を七枚集めたことは分かっているはず)
 
(‘_L’)(大三元狙いも見透かしていると考えるべき。つまり、ホライゾンは絶対に三元牌を出さない)
 
(‘_L’)(もしホライゾンに三元牌を引かれたら非常に苦しいですね。ホライゾンにとっては流局でもいいわけですから)
 
(‘_L’)(配牌には恵まれましたが、三元牌を集めることは相当に難しいかもしれません)
 
 既に水戸は白を三枚見せている。
 もし中か發をポンすれば、誰しもが大三元狙いに気づくだろう、と水戸は思っていた。
 
 全てをポンで集めることは難しい。
 最低でも一つは自力で引き寄せなければならない。
 
 そう思っていた水戸の四巡目に、中が舞い込む。

860第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:05:25 ID:3IPfqjZQ0
(‘_L’)(これで、三元牌が八枚)
 
 既に小三元の条件は満たした。
 ここまでは順調に手が進んでいる。
 本当に、逆転を果たせるかもしれない、という期待は水戸の中で徐々に膨らんでいた。
 
 尤も、その期待が大きくなりつつあるのは水戸だけではなかった。
 
(=゚ω゚)ノ(刻子が一つ、対子が四つ)
 
(=゚ω゚)ノ(四暗刻、本当に狙えそうだよう)
 
 伊要は配牌にも恵まれたが、ツモにも恵まれていた。
 このまま順調に進めば、本当に奇跡が起きるかもしれない。
 そんなことさえ考えてしまい、伊要は高揚が抑えきれなくなりつつあった。
 
 しかし、伊要が最も懸念しているのは、速度だった。
 
(=゚ω゚)ノ(みんな一巡でも早く和了ろうとしているはずだよう。となると、鳴けない僕は明らかに不利だよう)
 
(=゚ω゚)ノ(だけど、先に和了れると信じてツモっていくしかないよう)
 
 その伊要が、七巡目には二つ目の暗刻を作った。
 この調子ならば、テンパイも近い。そう思いながら伊要が六索を捨てた。
 
 そのとき。
 
( ^ω^)「ポンですお」
 
(;゚ω゚)ノ「!」
 
 聞きたくない声を、聞いてしまった。
 伊要は、そう思った。
 
(;゚ω゚)ノ(やっぱり、加速してくるかよう)
 
 ポイント計算でトップに立つ内藤が副露。
 いずれ起きうる、と分かっていた他の二人にも、動揺が走った。
 
(;ФωФ)(来たであるか、やはり)
 
(;‘_L’)(今のポンで恐らく、最低でも一向聴。場合によってはテンパイに至った可能性もあります)
 
(;ФωФ)(ホライゾンより先に和了らねばならないであるが、なかなか手が進まない。もどかしいであるな)
 
(;‘_L’)(私は大三元の二向聴。果たしてホライゾンの先を越せるかどうか)
 
 ツモを飛ばされた杉浦には焦燥もあった。
 連荘のみを目指して断幺九を狙っていたが、未だ二向聴。
 鳴ける牌が思うように捨てられないことも誤算だった。

861第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:06:38 ID:3IPfqjZQ0
(;ФωФ)(ホライゾンに手牌を見透かされているならば、鳴ける牌を取り込まれている可能性もあるであるな)
 
(;ФωФ)(伊要からチーできる牌が捨てられればいいのであるが)
 
 伊要のツモ切りはさほど多くない。手は進んでいるようだ、と杉浦は思っていた。
 しかし、伊要は必ず大きい手を狙う。伊要よりは早く和了れる可能性も高い、という期待も杉浦は抱いている。
 
 巨大な障壁は、やはり、杉浦の右隣に座る男だった。
 
( ФωФ)(いっそ、開き直って構えてみるであるか)
 
( ФωФ)(早和了り狙いはホライゾンと同様。つまり、同じ土俵の上に立っているといえるである)
 
( ФωФ)(ここでやられるようなら、我輩も所詮、その程度だったということ。諦めもつくであるよ)
 
 焦ったところでツモ牌が良くなるはずもない。
 どっしりと構えて、鳴ける牌があったら鳴いていけばいいだけのこと。
 最初からやるべきことは何も変わっていない、と杉浦は思った。
 
 杉浦が泰然と構えだした頃、水戸の手は更に一つ、先へと進んでいた。
 
(‘_L’)(これで、一向聴)
 
(‘_L’)(しかし、まだ最後の發が出ていませんね)
 
 できれば發で待ちたくはない、と水戸は思っていた。
 オーラスで高い手が必要だということは誰しもが分かっている状況。
 そして水戸は白をポンしている。大三元を、誰もが思考の端には置くだろう、というのが水戸の推測だった。
 
(‘_L’)(發ではなく、二筒の単騎待ちのほうが和了れる可能性は高いでしょう)
 
(‘_L’)(できれば發も、ツモで引きたいものですが)
 
 次巡の水戸のツモ牌は、九筒。
 落胆を表に出さないよう、冷静に牌を河へ置いた。
 
 もしかしたら、もう誰かが發を二枚抱えてしまっているかもしれない。
 水戸はそうも思った。しかし、確かめる術はない。
 今は、愚直に大三元を目指していくしかない、とも思った。
 
 ――――直後、水戸の思考が、固まる。
 
(;‘_L’)「!?」
 
( ^ω^)っ
 
(;‘_L’)(發を手出し!?)
 
 念願の牌が、捨てられた。
 しかし、まさか、という思いが水戸の全身を瞬時に駆け巡る。

862第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:07:43 ID:3IPfqjZQ0
 上家である内藤からこぼれた、發。
 この男から捨てられることだけは、絶対にないと水戸は思っていた。
 
(;‘_L’)(神の目で私の大三元狙いも分かっているはず、なのに何故ですか? 何故、發を?)
 
(;‘_L’)(罠でしょうか。ここでポンすれば、次巡はホライゾンがツモ和了り?)
 
(;‘_L’)(しかし、ここで發を見逃せば大三元が――――)
 
 錯乱しつづける頭。
 それでも水戸はすぐに答えを出した。
 ポンは三秒以内という時間制限があり、それを過ぎれば権利を失うためだ。
 
(;‘_L’)「ポンです」
 
 罠の可能性に恐れを抱きつつ、水戸がポンを選択した。
 發を持つ手は、微かに震える。
 
 三元牌の二副露。
 これで、水戸は大三元のテンパイ。
 しかし、水戸の心は見えない糸に絡め取られていた。
 
(;‘_L’)(役満を和了れば肯綮高校の逆転優勝。それをホライゾンが分かっていないはずもありません)
 
(;‘_L’)(手牌が見えていなかったのでしょうか。神の目といえど完璧ではない可能性は、もちろんありますが)
 
(;‘_L’)(このまま副露なくホライゾンのツモ番となれば、そこで試合が終わってしまうのでしょうか)
 
 ツモ牌をずらすことで、ツモ和了りを狙う。
 牌山を見通していれば可能な芸当だ、と水戸は思っていた。
 実際、そうとしか思えないような局面に水戸は何度も遭遇している。
 
 同じ頃、水戸の下家である伊要は、内藤よりも水戸を警戒していた。
 
(;゚ω゚)ノ(水戸くんは明らかに大三元狙い。中が場に一枚も出ていないことを考えると、もう三元牌は全て揃えた可能性が高いよう)
 
(;゚ω゚)ノ(もし三元牌以外で待ってるとなると、当たり牌はかなり読みにくいよう)
 
 伊要も四暗刻の一向聴までは手が進んでいた。
 水戸が北を捨てたあと、伊要も牌を取るが、一萬。
 テンパイには至らず、そのまま河へ牌を置く。
 
 しかし、落胆するでもなく、伊要は前だけを見ていた。
 
(=゚ω゚)ノ(水戸くんに先を越されるかもしれないけど、僕がやるべきことは一つだよう)
 
(=゚ω゚)ノ(四暗刻を和了って、最低でも二位を確保。あわよくば優勝、だよう)

863第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:08:48 ID:3IPfqjZQ0
 伊要は、一枚しかない二筒を見遣り、それから杉浦を見た。
 その手があまり進んでいないことは、水戸も伊要も感じている。
 実際、杉浦はようやく一向聴にこぎつけたところだった。
 
( ФωФ)(どうやら水戸は大三元のようであるな。役満が必要な状況で、狙いどおり手を進めるとは、やはり相当な打ち手である)
 
( ФωФ)(他方、伊要も全く鳴かずに手を進めている。かなり高い手を組んでいると見て間違いないであろうな)
 
( ФωФ)(ツモの巡りもあるとはいえ、二人に比べれば我輩はあまりにも情けない。立直をかけなければ役もないような手である)
 
( ФωФ)(それでも、最善は尽くしてきた。例え和了れなかったとしても悔いなどないであるよ)
 
 オーラスでの気の緩みなど一瞬もなかった。
 だからこそ杉浦は、晴れ晴れとした気持ちのまま打てていたのだ。
 
 その杉浦が、ようやく必要牌を手に入れる。
 
( ФωФ)「立直である」
 
 思っていたよりは遅くなってしまった、と杉浦は思った。
 結局、副露して手を進めることもできなかったためだ。
 
 それでも連荘に手はかけた。
 ここから出来ることは何もない。ただ、牌を信じるしかない。
 杉浦は、そう考えていた。
 
 一方、同じくテンパイしている水戸は、杉浦の立直よりも内藤のツモを警戒していた。
 
(;‘_L’)(先ほど發を鳴かせたのがツモ牌をズラすためならば、ここでツモ和了りがあってもおかしくありませんね)
 
(‘_L’)(ただ――――)
 
 もし、ここで内藤がツモ和了りできないならば。
 そのときは、神の目が不完全であるという推測も生まれる、と水戸は思っていた。
 
 無敵とさえ思えた内藤にも、付け込む隙はあるのだ、と。
 
 杉浦が立直したあと、淡々と内藤は山から牌を取る。
 その牌を、どうするか。水戸は注目していたが――――そのまま、河に置かれた。
 
 この勝負、勝てる可能性は大いに高まっている。
 水戸は、そう確信した。
 
(‘_L’)(鳴かれて再度ツモ牌がズレる可能性があるのですから、数巡先のツモのために發を鳴かせたとは考えにくい)
 
(‘_L’)(牌山が見えていなかったか、私の牌が見えていなかったか。いずれかでしょう)
 
(‘_L’)(ならばこの勝負は、互角に戦える。いや、きっと勝てます)
 
 自分を鼓舞するように水戸は心の中で呟いた。

864第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:09:57 ID:3IPfqjZQ0
 最後まで自分の選択を信じ抜く。それができなければ、自分を保つことはできない。
 自分を保つことができなければ、試合に勝つこともできない。
 水戸は、そう思っていた。
 
 十四巡目の、水戸のツモ牌。
 当たり牌の二筒ではなく、九筒。
 仕方がない、と自分を納得させてから水戸は牌を捨てた。
 
 そして、伊要のツモ番。
 
(=゚ω゚)ノ(五索が、来たよう!)
 
 三つの暗刻と二つの対子が完成。
 四暗刻のテンパイに至った。
 
 しかし、不要牌の二筒に手をかけたところで、伊要は逡巡した。
 
(=゚ω゚)ノ(この牌は、決して安牌とはいえないよう)
 
 まだ場に一枚も出ていない。
 誰かが待っている可能性は、低くない。
 
 伊要はそう考え、右手が止まる。
 それでも、すぐさま二筒を三本の指で掴み、持ち上げた。
 
(=゚ω゚)ノ(ここで五索を捨てたら四暗刻を諦めることになる。それは絶対ありえないよう)
 
(=゚ω゚)ノ(ここまで自分なりに頑張ってこれた。可能性を持つこともできた)
 
(=゚ω゚)ノ(最後まで自分らしく打って、それで駄目ならしょうがないよう)
 
(=゚ω゚)ノ(これで、勝負だよう!)
 
 
 伊要が、二筒を、置いた。
 
 瞬間、水戸の右手が、動いた。
 
 
(‘_L’)「――――ロン!」

865第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:11:38 ID:3IPfqjZQ0
 力強く発される声。
 伊要は、弾けるように顔を上げた。
 
(‘_L’)「大三元!」
 
 水戸の右手親指が、牌を倒していく。
 三元牌で構成された面子と、そうでない面子と、二筒。
 
(‘_L’)「役満、32000です!」
 
 勝った。
 大将戦を、決勝戦を、制した。
 
 水戸は、その思いに満ち溢れ、思わず大声で点数を申告していた。
 
 長い戦いだった。
 苦しい戦いだった。
 特に、内藤に支配されていた後半戦は、どう戦えばいいのか分からないとさえ水戸は思っていた。
 
 それでも、勝つことができたと、水戸は右手を握り締める。
 
(‘_L’)(この素晴らしい面子のなかでトップを取れたこと、誇りに思います)
 
(‘_L’)(そして、我が校のメンバーの奮戦に報いれたことも)
 
 優勝により、ようやく全国へストレートで進出できる。
 それが何よりも嬉しい、と水戸は思った。
 
 プレーオフは厳しい戦いがおよそ一ヶ月つづく。
 全国へ進める可能性も高くはない。
 それを避けて全国へ行くことが水戸の宿願であり、部長として果たすべき義務だと思っていたのだ。
 
 戦いから解放され、水戸の身体からは力が抜ける。
 そこに、機械の声がゆっくりと入ってきた。
 
雀卓「南家、ロンです」
 
 雀卓の自動判定機能が働き、スピーカーから声が流れる。
 水戸は充足感に浸りながら、その声に聞き入った。
 
 
 ――――しかしすぐ、水戸は耳を疑うこととなる。
 
 
雀卓「断幺九。1000です」
 
(‘_L’)「!?」

866第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:13:48 ID:3IPfqjZQ0
 おかしい。
 大三元のはずが、断幺九と判定されてしまっている。
 雀卓の自動判定機能の不具合か。
 
 水戸は、そう思った。
 しかし、おかしいところはそれだけではないと気づく。
 
 水戸は、西家。
 しかし雀卓は、南家がロンだと言った。
 
 はっとして、水戸は左を向く。
 
 
(;‘_L’)「!!」
 
 
 ――――今度は、耳ではなく、目を疑った。
 
 そこで起きていた、事態を。
 
 
( ^ω^)
 
 
 内藤が、牌を倒している。
 三つの面子と、一つの対子と、一つの塔子。
 
 塔子は、両面待ち。
 足りない牌は、二筒と五筒だった。
 
 水戸は、ようやく現実を理解した。
 
 
(;‘_L’)(頭ハネ――――)
 
(;‘_L’)(――――と、いうことです、か)
 
 
 水戸の右手は、力なく垂れ下がる。
 
 水戸と同じく、内藤も二筒を待っていた。
 そこに、伊要から二筒が捨てられた。
 
 待ちが同じだった場合、ロンの優先権は上家にある。
 つまり、内藤のロンが優先され、水戸の和了りはなかったこととなったのだ。
 
 そこまで理解して、水戸は大きく項垂れた。
 
雀卓「終局です」
868第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:15:38 ID:3IPfqjZQ0
 改めて、全員の最終得点が表示された。
 トップの内藤が54700点、二位の水戸が54500点。
 三位の杉浦が50600点、最下位の伊要が40200点だった。
 
 自分の点が増えたことを見て、ようやく内藤は、和了りの実感を掴んでいた。
 
( ^ω^)(どうやら、最後の最後で和了れたみたいだお)
 
( ^ω^)(自分が思ったとおりに断幺九で和了れたのは、ちょっと不思議な感覚だお)
 
( ^ω^)(でも、なんだか凄く、気持ちよかったお!)
 
 水戸が張りのある声を上げたとき、内藤は大いに混乱した。
 オーラス、内藤は水戸の牌を読みきれておらず、二筒を不要牌として持っていると思っていたのだ。
 同じく伊要にとっても不要と見ていた。つまり、どちらかが二筒を捨てることに期待していたのだ。
 
 水戸が同じ待ちであることは読めておらず、何故内藤のみが和了れたのかも分かっていない。
 先にロンのボタンを押したからだろうか、などと的外れなことを内藤は考えていた。
 
 いずれにせよ、ようやく内藤は自力で和了ることができた。
 その喜びを、誰にも知られないようにひっそりと噛み締める。
 
 緊迫感を否が応にも感じさせられる戦いの中で、最後に、内藤は知った。
 麻雀の楽しさの、ほんの一部を。
 
 それが、内藤の前に続く道へ踏み入る第一歩だと、内藤はまだ気づけないでいる。
 
( ФωФ)「この大将戦の場で貴公と戦えたこと、誇りに思うであるよ」
 
 三位に終わった杉浦が、内藤に手を伸ばしながらそう言った。
 オーラスでは立直をかけたものの、和了ることができなかった。
 それでも、杉浦の口元は緩んでいた。
 
( ФωФ)「残念ながら陶冶高校の夏も、我輩の夏も、ここで終わりである。しかし、貴公に負かされたならば致し方ないと納得できる」
 
( ФωФ)「我輩も最善は尽くした。それでも遠く及ばなかった。まだまだ精進せねばならぬと教えてもらった気分である」
 
( ФωФ)「願わくば、またどこかで、再戦を」
 
( ^ω^)「こちらこそ、是非。よろしくお願いしますお」
 
 杉浦の右手を握り、内藤はそう言葉を返した。
 礼儀的な返答ではなく、本心だった。
 
 先に部屋から退出する杉浦の背中を見送った内藤に、続いて近寄ったのは、最下位に終わった伊要。

869第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:17:17 ID:3IPfqjZQ0
(=゚ω゚)ノ「胸を借りるつもりで挑ませてもらったけど、やっぱり君には全然敵わなかったよう」
 
(=゚ω゚)ノ「だけど、僕なりにベストは尽くしたつもりだよう。悔いはないよう」
 
(=゚ω゚)ノ「またいつか、一緒に打たせてもらえたら嬉しいよう」
 
( ^ω^)「はいですお。こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 伊要が上げた左手に、ハイタッチするように左手を合わせた内藤。
 その背中を見送ったあと、内藤は前に向き直る。
 
(‘_L’)「ありがとうございました」
 
 雀卓から立ち上がった水戸が、内藤に握手を求めながら言った。
 その表情は、悔しさこそ拭いきれていないが、笑みもあるものだった。
 
(‘_L’)「点差こそ僅かですが、正直に申しまして、今の私では百回やっても勝てないと思うほど隔絶的な差を感じました」
 
(‘_L’)「麻雀を打っていて心を挫かれそうになったのは初めてのことです。一瞬は、恐怖さえ覚えました」
 
(‘_L’)「ですが、永遠に勝てないとは思っていません。肯綮高校は、必ずプレーオフを勝ち抜いて全国に行きます」
 
(‘_L’)「そこで再び君と戦い、今度こそ勝利してみせます。そのために、もっと強くなってみせますよ」
 
( ^ω^)「僕も、もっと強くなりますお。また水戸さんに、勝てるように」
 
 今度は、自分の実力で勝ちきれるように。
 その言葉は、内藤の中に留まった。
 
(‘_L’)「楽しみにしております。次は、全国の舞台で」
 
( ^ω^)「また、お会いしましょうお」
 
 水戸の右手を握り返し、内藤は笑った。
 同じように水戸も笑みを見せ、それから対局室を後にした。
 
 三人が退出した部屋で、内藤は大きく息を吐き、やがて立ち上がった。
 雀卓に背を向ける。しかし、部屋を出る前に一度、振り返った。
 
 あそこで、内藤は初陣を終えた。
 分からないことばかりで、困惑し、楽しみきれたとはいえない。
 それでも、最後まで打ちきることができた。
 
 そして、トップを取ることができた。
 
( ^ω^)(僕の実力なんかじゃないんだお。きっと、ただ運が良かっただけなんだお)
 
( ^ω^)(だけど、とにかく勝てたんだお。芽院高校が、全国に行けるんだお)
 
( ^ω^)(きっとみんな喜んでくれるお。控え室に戻るのが楽しみだお!)

870第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:18:35 ID:3IPfqjZQ0
 素人の内藤に出番が回った時点で、皆が全国行きを諦めていたことも内藤は分かっていた。
 だからこそ、形はどうあれ、皆が全国大会へ進めることを、内藤は心から嬉しく思っていた。
 
 内藤が足早に対局室の出入り口に近づき、芽院高校の控え室に戻ろうとしたところ、向こうからひとりでに部屋の扉が開く。
 内藤の視界に真っ先に飛び込んできたのは、椎名だった。
 
(*;ー;)「ブーンくん! ブーンくん!」
 
(;^ω^)「おっ、おっ?」
 
(*;ー;)「すごい! すごいよブーンくん! 本当にすごい!」
 
(*;ー;)「ありがとう! ほんとにありがとう!」
 
 抱きつくような勢いで走り寄り、椎名が内藤の手を掴んで上下に振った。
 その目には涙が浮かんでいる。
 
 椎名に遅れて、毒島と伊藤が対局室に入ってきた。
 
(;A;)「内藤ぉぉぉぉぉぉ!! お前ってやつはぁぁぁぁぁぁ!!」
 
(;^ω^)「な、なんだお!?」
 
(;A;)「とんでもねぇやつだぁぁぁぁぁ!! 全部お前のおかげだぁぁぁぁぁ!!」
 
(;^ω^)「グシャグチャの顔で来るなお! 気持ち悪いお!」
 
('、`*川「よく分かんないけど勝ったんでしょ!? 全国行けるんでしょ!?」
 
('、`*川「内藤なに欲しい!? なんでも買ってあげる! スマホ? ゲーム機? パソコン? クルマ? 家?」
 
(;^ω^)「いやいや、いやいや」
 
 落涙しながら近寄ってくる毒島に内藤は引いてしまい、突進を軽く避ける。
 伊藤が発する途方もない発言には思わず苦笑いしてしまっていた。
 
 そのあとに対局室に来たのが、笑野と初本。
 二人とも、内藤が今までに見たことがないほどの笑顔だった。

871第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:19:54 ID:3IPfqjZQ0
(*^Д^)「内藤! お前はすげぇよ! 本当によくやってくれた!」
 
(*^Д^)「お前には感謝してもしきれねぇ! お前じゃなきゃマジで終わってた! 本当にありがとう!」
 
(´・ω・`)「本当に君のおかげだ。言葉だけじゃ感謝を伝えきれないくらいに」
 
(´・ω・`)「ありがとう。どうか僕たちの気が済むまでお礼をさせてほしい」
 
( ^ω^)「いやいや、みんなの嬉しそうな顔を見れただけでも充分ですお!」
 
('、`*川「何そのイケメン発言。かっこよすぎでしょ」
 
(*゚ー゚)「でもでも、そんなこと言ったってたくさんお礼しちゃうんだけどね! とりあえずみんなの奢りでご飯!」
 
( ^Д^)「だな! 寿司でも焼肉でもなんでも好きなとこ連れてくぞ! いくらでも食え!」
 
(;^ω^)「いやいや、そんなの悪いですお。勝てたのも単に運が良かっただけなのに」
 
(´・ω・`)「いや、単なる幸運じゃないことは分かってる。君の『耳』がなければ絶対に勝ちえなかった勝負だ」
 
 初本が雀卓に近づき、伊要が最後に捨てた二筒を持ち上げた。
 そしてそのまま置く。鳴った音は、微かなものだった。
 
(´・ω・`)「最後に二筒を待ったのも、伊要くんの手牌が読めてて、いずれ河に出ると思ったからだろう?」
 
( ^ω^)「本当は、水戸さんも捨てるんじゃないかって思ってたんですお。水戸さんも二筒を狙ってたとは分からなくて」
 
(´・ω・`)「全ての手牌が分かるわけじゃなくても、一部だけでも、相当な武器だ」
 
(´・ω・`)「耳の力がなければ七対子での三倍満も和了れなかった。最後の断幺九も和了れてたかどうか分からない」
 
(´・ω・`)「もし僕が打ってたとしても、笑野が打ってたとしても、勝つことは難しかったかもしれない試合だ。それを君は制してくれた」
 
(´・ω・`)「もちろん幸運があったことも事実。だけど最後まで、出せる力を全て出し切ってくれたおかげで勝てたんだ」
 
(´・ω・`)「改めて言わせてほしい。本当に、ありがとう」
 
 初本が内藤の手を握り、軽く頭を下げた。
 
 感謝してもしきれない。
 笑野が言ったとおりだ、と初本は思っていた。
 昨日ルールの一部を覚えたばかりの内藤が、県内屈指の打ち手たちを相手に、勝利を収めたのだ。
 
 そのおかげで、まだ夏は続く。
 初本にとっての、高校生活最後の夏が。
 
 再びあの激戦の地へ戻れる夏が、続こうとしていた。
873第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:21:27 ID:3IPfqjZQ0
(´・ω・`)「もう一つ、改めて」
 
( ^ω^)「?」
 
(´・ω・`)「君が部活に所属していないことは毒島から聞いている。だから、今は助っ人に過ぎないけれど」
 
(´・ω・`)「どうか、麻雀部に入ってほしい。そして全国でも、共に戦ってほしい」
 
 内藤の手を握りしめたまま、初本は言った。
 この手に、雀牌はどれほど馴染んだのだろうか。そんなことを、考えながら。
 
 内藤の顔に浮かんだ笑みは、柔らかいままだった。
 
( ^ω^)「正直、僕は麻雀のルールもまだよく分かってなくて、複雑で難しいから、今でもあんまり自信がありませんお」
 
( ^ω^)「でも、今日の試合、最後の最後でようやく、僕が思ったとおりに和了ることができましたお」
 
( ^ω^)「麻雀って、面白い。そんな風に自然と思えたんですお」
 
( ^ω^)「だから――――」
 
 右手同士が組み合わさっていたところに、内藤が左手をかぶせた。
 両手で、初本の手を包み込んだ。
 
( ^ω^)「こちらこそ、よろしくお願いしますお」
 
 初本は、その言葉を聞いた瞬間、思わず空いた左手で内藤の肩を抱いた。
 ありがとう。そんな言葉と共に。
 
 椎名や伊藤らからは歓声が上がり、皆が内藤を取り囲んだ。
 
(´・ω・`)「絶対に、全国でも優勝しよう。僕たちならできる。絶対にできる」
 
( ^Д^)「やってやるっすよ! 内藤がいれば俺も後先気にせず大暴れできるっす!」
 
('A`)「僕も、全国までにもっともっと強くなってみせます!」
 
(*゚ー゚)「私もです! みんなに追いつけるように、全国でも勝てるように、頑張ります!」
 
('、`*川「私も可能な限りみんなをサポートします!」
 
 それぞれが、決意を新たに。
 視線をはっきりと全国へ向けた。
 
 力強く、その足を踏み出していた。
 
 全国高校麻雀選手権、三重県大会。
 最終的に449ポイントを獲得した芽院高校が、二位の肯綮高校に39ポイント差をつけ優勝を果たした。

874第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:23:31 ID:3IPfqjZQ0
 その後、芽院高校の部員たちは焼肉屋で祝勝会を実施した。
 数時間にわたって繰り広げられた祝宴は盛り上がりつづけ、何度も全国制覇を誓い合った。
 しかし決して浮ついているだけではなく、全国制覇のために必要なことを語り合う時間もあった。
 
(´・ω・`)「とにかく、全国までに個々のレベルアップ。それに尽きる」
 
(´・ω・`)「たくさん打つことも大事だし、牌理を勉強することも大事だ。やるべきことはたくさんある」
 
( ^ω^)「僕はどうしたらいいですお?」
 
(´・ω・`)「まずはルールを完璧に覚える。あとは基本的な戦術も知っておいたほうがいい」
 
(´・ω・`)「相手の持ってる牌が分かってるとき、相手が何を切りそうかっていうのも分かれば更に有利だろうからね」
 
( ^ω^)「なるほどですお、頑張りますお!」
 
(´・ω・`)「君の存在は大きな鍵になる。どうか頼りにさせてほしい」
 
 それぞれが高いモチベーションを保ったまま、祝勝会は幕を閉じた。
 全国制覇に向けて、レベルアップを果たすために、何をすべきか。
 皆が頭のなかで考えながら、家路を辿った。
 
 全国大会までは一ヶ月以上ある。
 しかし決して長くはない。芽院高校の誰しもが、そう思っていた。
 
 
 ◇
 
 
 試合が終わって自校に戻った肯綮高校の水戸と鈴木は、インターネット上に公開された試合の映像を観ていた。
 水戸はすぐさま、オーラスの場面へと映像を進める。
 
(‘_L’)「やはり、最後の二筒待ちは読まれていたと見るべきでしょうね」
 
/ ゚、。 /「同じ待ちにされた時点で、うちの負けは決まってたってこと?」
 
(‘_L’)「立直していない単騎待ちですから待ちを変えることは容易でしたが、そのために二筒を捨てれば当然ホライゾンがロンして終局です」
 
/ ゚、。 /「水戸が待ちを変えても変えなくても、あの状況からは絶対に和了れなかったってことだね」
 
(‘_L’)「えぇ。それと、終局後に確認したことですが、仮に伊要くんが二筒を捨てなかったとしても次の杉浦くんが二筒をツモっていました」
 
/ ゚、。 /「!」
 
(‘_L’)「杉浦くんにとって二筒は当たり牌ではなく、立直しているため捨てるしかない」
 
(‘_L’)「つまり、あの局面では誰がどう足掻こうが芽院高校の優勝だったということです」
 
 想像の上の、更に上をいっている。
 それが鈴木にもようやく分かった。

875第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:25:13 ID:3IPfqjZQ0
/ ゚、。;/「ホライゾンがそこまで全部見えてたんだったら、僕らには最初から勝ち目なんかなかったってことになる」
 
(‘_L’)「悔しい限りですが、そうです。単なる幸運では済まないことが何度も起きましたから」
 
/ ゚、。 /「プレーオフを勝ち抜いて全国に進めたとしても、また当たる可能性がある。どうするの?」
 
(‘_L’)「今の私にはホライゾンの対策をする余裕はありません。まずはプレーオフです」
 
(‘_L’)「ですが、ホライゾンも完全無欠ではないはず。前半戦ではほとんど良いところがなかったことからも、それは分かります」
 
/ ゚、。 /「神の目が効くまでに、時間がかかるかもしれないってことだね」
 
(‘_L’)「もし今日、勝機を掴みたかったのなら、前半に畳み掛けなければならなかった。そこまで考えは及びませんでしたが」
 
(‘_L’)「しかし、永遠に勝てない相手ではない。そう思います。いえ、そう思いながらやっていかなければ」
 
(‘_L’)「プレーオフを勝ち抜いた先に再びホライゾンが待っているならば、これほどモチベーションの向上に繋がることはありません」
 
/ ゚、。 /「うん。僕ももっと強くなって、今度は笑野を実力で捻じ伏せたいな」
 
(‘_L’)「全国制覇という最終目標に変更はありません。皆で、更なる高みへ」
 
/ ゚、。 /「頑張ろう。まずは、みんなで全国へ」
 
 鈴木が左手を差し出すと、水戸は右手を軽く合わせた。
 まるで火花が散ったような、小さな音が鳴る。
 まるで、口火が切られたような。
 
 まずは、プレーオフを勝ち抜く。
 視界を塞ぐ壁を、一つ一つ、打ち壊しながら先へ進もう。
 水戸は、そう思った。
 
 
 ◇
 
 
 陶冶高校の送別会は、その日のうちに開かれた。
 唯一の三年生である杉浦の、最後の大会が、終わった。
 
( ФωФ)「敗れたことは無念極まりない。皆にも申し訳ない」
 
( ФωФ)「しかし、晴れ晴れとした気持ちである。恐らくは、完敗だったからこそであろうな」
 
 陶冶高校の側にある洋食屋にはあまり人が入っていなかった。
 そのためか、杉浦の声ははっきりと他の四人の耳に入っていく。

876第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:26:33 ID:3IPfqjZQ0
<_プー゚)フ「完敗じゃないですよ、惜敗です!」
 
/^o^\「っていうか、負けたのは僕のせいです! 杉浦さんはホライゾン相手に互角でした!」
 
( ФωФ)「いや、あの場に居たからこそ分かったであるよ。確かに点差だけ見れば惜敗であるが、実際には大敗である」
 
( ФωФ)「ネットで戦ったときにも恐ろしい打ち手だと思ったであるが、今日は、それ以上だったであるよ」
 
( ФωФ)「恐怖を抱いた時点できっと、負けていたのである。我輩も、水戸も、伊要も」
 
 ポークジンジャーを口に運びながら杉浦は言った。
 淡々としていて、悔いはないように見える。
 隣に座っている江楠はそう思った。
 
<_プー゚)フ「杉浦さんともう一緒に戦えないなんて、寂しいなぁ。もっと長く戦いたかったです」
 
( ФωФ)「そう言ってくれるのは、ありがたい限りであるよ」
 
/^o^\「来年、杉浦さんの意志を継いで頑張ります! 必ず全国へ!」
 
( ФωФ)「うむ。我輩も、それを心から願っているである」
 
(-@∀@)「来年は私がホライゾンを倒してみせますよぉ〜。仇は取りますからねぇ〜」
 
( ФωФ)「そうなれば陶冶高校の全国行きも現実的になってくるであろうな。頑張ってもらいたいであるよ」
 
(゜3゜)「ま、お疲れさんでした。ゆっくり休んでください」
 
( ФωФ)「うむ、そうさせてもらうであるよ」
 
 良い仲間たちに恵まれた。
 決して金銭では得られない、かけがえのない仲間たちに。
 
 全国の地を踏むことは叶わなかった。
 しかし、全てを出しきったからこそ、杉浦には悔いなどなかった。
 いま心にあるのは、充足感のみだ。
 
( ФωФ)「とりあえず今年の夏は、芽院高校の応援に回るとするであるか」
 
<_プー゚)フ「どうせなら全国で圧勝してほしいですよね。そしたらウチの評価も上がります!」
 
( ФωФ)「それもそうであるな。芽院高校の戦いが楽しみである」
 
 杉浦自身が戦いの場に立つ夏は終わった。
 それでもまだ、心躍る戦いは残っている。
 
 全国の舞台で、内藤がどこまで活躍するのか、という期待が残っている。
 
 
 ◇

877第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:27:43 ID:3IPfqjZQ0
 甲高い音が断続的に鳴り響く。
 伊要は、自分が投じたボールの行方を途中まで見守り、音が鳴る直前で背を向けた。
 そして、左手を掲げる。
 
(=゚ω゚)ノ「完璧だよう」
 
('(゚∀゚∩「すごいよ! さすがだよ!」
 
(’e’)「ボウリングでは敵いそうもないのう」
 
 十本のピンが倒れ、レーン近くのディスプレイには『ストライク』の文字が表示されている。
 その文字が消えたあとに示されたスコアで、二百を超えているのは伊要だけだった。
 
( ・3・)「ボウリングならきっとホライゾンにも勝てたNE」
 
(=゚ω゚)ノ「いや、もしかしたら神の目で完璧なラインを見極めるかもしれないよう」
 
,(・)(・),「そんなことできたら無敵すぎますね。完璧超人じゃないですか」
 
 伊要の冗談に皆が笑みを浮かべた。
 松中を除けば全員が三年生。今日が引退の日となる。
 しかし、未練がましい表情をしている者はいなかった。
 
(=゚ω゚)ノ「まぁ、さすがにそれはないとしても、麻雀においてはやっぱり脅威的だったよう」
 
(=゚ω゚)ノ「どうやっても勝てそうにないと思わされたのは初めてだよう。完敗だよう」
 
( ・3・)「ま、最後はよく頑張ったと思うYO。役満テンパイまでいったわけだしNE」
 
(=゚ω゚)ノ「いや、不要牌で待たれてたんだから、やっぱり完敗だよう」
 
(=゚ω゚)ノ「でも、あれくらい完璧に負けると、悔しさよりも清々しさが出てくるよう。楽しかったとも思えたよう」
 
(’e’)「良い思い出になったのならば良かったのう。最後の大会じゃったわけじゃし」
 
('(゚∀゚∩「楽しかったよ! このメンバーで決勝を戦えて良かったよ!」
 
,(・)(・),「みんな居なくなっちゃうんですね。寂しくなっちゃいます」
 
(=゚ω゚)ノ「二年生がいなくて、一年生が三人。ちょっとアンバランスな構成だけど、頑張ってほしいよう、松中部長」
 
,(・)(・),「あれ、部長は僕でいいんですか?」
 
( ・3・)「実力的にも適任だNE。佐々木は間が抜けてるし、榊原はまだほとんど初心者だYO」
 
(=゚ω゚)ノ「どうか部を盛り立てて、来年はせめてプレーオフに進んでほしいよう。応援してるよう」
 
,(・)(・),「来年もホライゾンがいることを考えるとかなり大変そうですけど、精一杯頑張ります!」
 
 部長を引き継いだことで、伊要は少し、肩が軽くなったような気がした。

878第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:29:05 ID:3IPfqjZQ0
 最終フレーム、ここまでの二投はともにストライク。
 ボールを軽く拭いてから穴に指を入れ、レーンに向かって歩き、伊要が投じる。
 
 曲線を描きながらピンに向かっていくボールを、最後まで見ることなく、伊要は再び左腕を高く突き上げた。
 
 
 ◇
 
 
 六月中旬。
 全国高校麻雀選手権の県大会は各地で進んでいた。
 
 選手権の運営側が所有している完全自動雀卓は全国でも数が少なく、一つの県で大会が終わると次の県に運ばれる。
 そのため、県大会が終わった県もあれば始まってさえいない県もあるなど、地域によって進行度は様々だった。
 
 三重での県大会が終わった翌週には、青森や福井などでも全国進出校が決まっていた。
 そんな中、ひとつのインターネット番組が放送を開始する。
 
(実・Д・)「今年も青春を麻雀に捧げる高校生たちの熱き戦いをジャンジャンお届けしてまいります、『ジャンジャン雀道』です!」
 
(実・Д・)「解説は実力派アイドル雀士として人気の芹尾プロです! よろしくお願いします!」
 
リ|*‘ヮ‘)|「よろしくお願いします♪」
 
(実・Д・)「今年も暑い夏がやってきましたね。県大会の様子はご覧になられましたか?」
 
リ|*‘ヮ‘)|「注目の神奈川県大会の決勝は会場まで見に行きました。やはり烽火高校、強いですね!」
 
(実・Д・)「神奈川以外にも続々と代表校が決まっています。果たして全国を制するのはどの高校か!」
 
(実・Д・)「本日は芹尾プロに解説していただきながら、全国進出を決めた注目校をご紹介いたします!」
 
リ|*‘ヮ‘)|「頑張ります!」
 
(実・Д・)「それでは早速まいりましょう! まずは青森県代表、大神高校!」
 
 
 ◇
 
 
 県大会くらいは危なげなく勝ち抜きたい。
 大将を務める見奈はそう思っていたが、決して楽勝ではなかった。
 今のままでは全国制覇と気軽に口にするなどできない、とも見奈は感じていた。
 
( ゚д゚)「優勝はできた。まずは一安心だな」
 
 試合が終わったあとの控え室で見奈がそう言うと、賀秀は深く頷いた。
 不流はじっと前を見ており、大久保は何も考えていない様子で椅子に腰かけている。
 そして古田は黙って眼鏡の蔓を上げるだけだった。

879第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:30:29 ID:3IPfqjZQ0
〔´_y`〕「県大会といえど手強い相手が多い中、500ポイントで優勝できたことには価値があると思います」
 
( ゚д゚)「まぁ、確かにそうだな」
 
| `゚ -゚|「しかし、大差をつけられたわけではありません。ひとつ間違えば負けていた試合もあります」
 
( ゚д゚)「お前の言うことも尤もだ。際どい勝負もあるにはあった」
 
(ゝ○_○)「特に次鋒戦はほとんど負け戦でしたね。オーラスでたまたまトップを直撃できたから良かったものの」
 
〔;´_y`〕「それは」
 
( ゚д゚)「論うな、古田。お前が戦った副将戦とて、西三局で放銃していればどうなっていたか分からん」
 
(ゝ○_○)「相手の当たり牌は読めていましたから。放銃はありえないことです」
 
( ゚д゚)「だったらベタ降りする必要はなかっただろう。七索を止めたままでも和了りを目指せたはずだ」
 
(ゝ○_○)「それは、念には念を」
 
( ゚д゚)「ただの偶然を必然のように喋るより、もっと練習に励むべきだろう、古田」
 
 古田の笑みは引きつっていた。
 これでいて、試合前は必ず『自分を大将に』と主張してくるのが古田という男だ。
 今更どうしようもないのだろう、と見奈は思っていた。
 
( ゚д゚)「大久保、何か意見はあるか?」
 
《 ´_‥`》「いえ、何も」
 
( ゚д゚)「そうか。まぁ、今日はそれぞれ疲れもあることだろうし、解散としよう」
 
(ゝ○_○)「失礼します」
 
| `゚ -゚|「失礼致します」
 
〔´_y`〕「失礼します」
 
《 ´_‥`》「します」
 
 それぞれが控え室から退出したあと、見奈は大きく息を吐いた。
 表立っていがみ合うわけではない。しかし、四人それぞれに距離感がある。
 協調性という言葉から最も遠い四人だろう、と見奈は思った。

880第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:32:07 ID:3IPfqjZQ0
( ゚д゚)(昨年につづいて県大会で優勝することはできた)
 
( ゚д゚)(しかし、それぞれがそれぞれを補う気持ちがなければ、全国の舞台で勝ち進むことは難しい)
 
( ゚д゚)(あいつらの仲が改善されるような手を、何か打てればいいんだが)
 
( ゚д゚)(考えるだけ無駄かもしれんな)
 
 見奈が吐いた大きな溜め息は、音だけを残して消え去った。
 
 青森ではほとんど敵なしといっていい大神高校。
 しかし、全国の猛者たちは県大会の相手とは比べものにならない。
 どの高校が相手でも厳しい戦いとなることは間違いなかった。
 
 果たして、勝ち進んでいけるだろうか。
 見奈は、今後の戦いに不安を抱きつつ帰路についた。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「大神高校は青森では抜けていますね。決勝で大将戦まで回ったことは驚きでしたが、きっちり500ポイント勝利を収めるあたりはさすがです」
 
(実・Д・)「昨年は全国大会の準決勝まで進出。そのときと全く同じメンバーで挑む今年こそ全国制覇を期しているはずです」
 
リ|*‘ヮ‘)|「特に大将の見奈くんがかなり力をつけています。全国屈指の打ち手ですし、見奈くんの出来次第で優勝も狙えるはずです」
 
(実・Д・)「あとは見奈を支える四人がどこまでやれるかですね。大神高校の戦いが今から楽しみです!」
 
(実・Д・)「さて、次にまいりましょう。福島県代表、東別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 五本用意された缶コーヒーをそれぞれが手に持ち、合わせた。
 缶と缶がぶつかる音は小さい。あまりにもささやかな戦勝祝い。
 
 ここはまだ、通過点に過ぎない。
 更なる高みがこの先に待っていると、それぞれが理解しているからこそだった。
 
(,,゚Д゚)「まずは無難に勝ち抜けましたね」
 
( ><)「良かったんです! また全国へ行けるんです!」
 
( <●><●>)「プレーオフでの全国行きなど私たちには許されない。確実に優勝する必要があったと分かっています」
 
(个△个)「でも、県大会とはいえ嬉しいです! というか負けたらどうしようって怖かったんでホっとしました!」
883第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:34:06 ID:3IPfqjZQ0
 四人がそれぞれ様々な笑顔を見せている。
 しかし、大将戦で圧勝してみせた男だけは、笑っていなかった。
 
( ・∀・)「確かに勝てた。結果だけ見りゃ圧勝といっていい」
 
( ・∀・)「でも、全国の舞台は甘くねーぞ。今日のような打ち様じゃ一勝もできずに終わると思ったほうがいい」
 
 厳しい言葉で場の空気を引き締める。
 大将を務める、茂羅の言葉だった。
 
( ・∀・)「俺も含めて全員、もっと強くなる必要がある。全国大会まであと一ヶ月ちょっとだ、余裕はねーぞ」
 
(,,゚Д゚)「そうですね。全国の打ち手たちは、県大会の相手とは比較になりませんし」
 
( ><)「でも、どうやれば強くなれるのかよく分かんないんです!」
 
( <●><●>)「とにかく勉強して一局でも多く打つ。それしかないと分かっています」
 
(个△个)「どこまで強くなれるか分からなくて不安ばっかりですけど、自分なりに頑張ります!」
 
 誰よりも強くなりたい。
 全国を制し、敵などどこにもいない状況を作り上げたい。
 茂羅はそう思っていた。それについてくる者たちの気概も、悪くはなかった。
 
( ・∀・)「目指すは全国制覇、ただ一つのみ。絶対に気を緩めるなよ」
 
 四人が頷く。
 それを見てから茂羅は缶コーヒーを傾け、一気に飲み干した。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「東別府高校も県大会決勝では500ポイントでの勝利です。特に大将戦は圧巻でした」
 
リ|*‘ヮ‘)|「大将の茂羅くんだけでなく、今年は他の選手も力をつけましたし、一年生の流芝くんも意外性を秘めています」
 
(実・Д・)「昨年は決勝の舞台にあと一歩届きませんでしたが、今年は挽回を狙っているでしょうね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「最後の全国制覇から十年以上遠ざかっていますし、近年では今年が最大のチャンスだと思います。期待したいですね」
 
(実・Д・)「では、続いてまいりましょう。島根県代表、西別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 網の上で香ばしい匂いを放ちながら、牛のカルビが焼けていく。
 程よく焦げ目がついたところで、荷田は手際よく空いた皿に肉を振り分けていった。

884第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:35:52 ID:3IPfqjZQ0
<ヽ`∀´>「じゃんじゃん食べるといいニダよ。アボジとオモニが今日はタダでいいって言ってくれたニダ」
 
ミ,,゚Д゚彡「ありがとうございます! 遠慮なくいただきます!」
 
( ´_ゝ`)「全国では勝つたびにご馳走してもらえるって考えていいのかな?」
 
(´<_`;)「いくらなんでも厚かましすぎるだろう、兄者」
 
(-_-)「全国制覇できたときに期待するくらいが、ちょうどいい」
 
 言葉どおり遠慮なく肉を貪る布佐。
 厚かましい兄と窘める弟の流石兄弟。
 そして物静かな飛木。
 
 部活のメンバーでもあるが、荷田にとっては、それぞれがかけがえのない親友でもあった。
 
<ヽ`∀´>「去年はプレーオフからの全国行きをあと一歩のところで逃して、本当に悔しかったニダ」
 
<ヽ`∀´>「でも今年は違うニダよ。チームとしての力は確実に上がってるし、本気で優勝を目指せると思ってるニダ」
 
(-_-)「そうですね、今年は去年とはかなり違います」
 
( ´_ゝ`)「なんといっても布佐の加入が大きいよな。このフッサフサの髪に相手がビビってるし」
 
(´<_`;)「純粋な実力での勝利だろう。髪は関係ないぞ」
 
ミ,,゚Д゚彡「勝てりゃなんでもいいんです。全国にどんな相手がいるか分からないですけど、負ける気はしません!」
 
<ヽ`∀´>「そうそう、そういう自信も大事ニダ。あんまり警戒しすぎると却って実力を発揮しきれないニダ」
 
 敵を分析することや、対策を練ることなどは自分がやればいい、と荷田は思っていた。
 自信満々で打っているときが一番強い流石兄弟と布佐には、なるべく余計な情報を与えたくない、と。
 下手に敵の凄さを伝えて委縮させてしまうことだけは、絶対にしてはならない、とも考えていた。
 
 西別府高校より強い高校は何校もあるだろう。
 それでも勝てる可能性がある。それが、麻雀だ。
 荷田は口角を吊り上げさせながら、タレにつけたカルビを口に運んだ。
 
<ヽ`∀´>「まぁ、とりあえず今日は試合のことを忘れて楽しむニダ!」
 
<ヽ`∀´>「カンパーイ! ニダ!」
 
 烏龍茶やオレンジジュースなどが入ったジョッキをそれぞれが掲げ、軽くぶつける。
 そして何人かが飲み干すと、その場には屈託のない笑顔が広がった。
 
 
 ◇

885第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:37:52 ID:3IPfqjZQ0
リ|*‘ヮ‘)|「西別府高校は二年ぶりの全国ですが、実力的にはかなり勝ち進めてもおかしくありませんね」
 
(実・Д・)「特に、大将を務める荷田の守りの力は相当なものです。県大会では放銃が一度しかありませんでした」
 
リ|*‘ヮ‘)|「それに、今年からチームに加入した布佐くんも攻守のバランスに優れています。他の三人も全国レベルですね」
 
(実・Д・)「四人の三年生と一人の二年生で全国に挑みます、西別府高校。その戦いぶりに期待しましょう!」
 
(実・Д・)「さて、次は西東京代表の数歩家高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 種田がかき氷を一気に口に含んだあと、頭を押さえる。
 その光景を見て呉路と鬼鳥は揃って苦笑した。
 
《μ`ー´》「種っち、そんなに一気に食ったらそりゃキーンってなるっス」
 
彡`・ >「さっきも同じことやってたス。学習能力がないスね」
 
( o∂ー∂o)「だって美味しいから! しょうがない!」
 
 県大会が終わったあと、試合会場の近くにあるコンビニでそれぞれがアイスを食べていた。
 そのなかでかき氷を食べているのは副将の種田と、大将だった氷鳥だ。
 種田とは違って氷鳥は淡々と食べつづけている。
 
ゞ< _☆_>p「氷鳥さんみたいにゆっくり食べればいいネ」
 
( o∂ー∂o)「だって、我慢できない!」
 
 誰が窘めても聞く耳を持たずに種田はかき氷を掬いつづけた。
 そんな種田に嘆息を向けながら、氷鳥は呆れ声を出す。
 
|ミ゚<>゚〉「そんなに急がなくても簡単に溶けやしないよ。焦らず食べな」
 
(;o∂ー∂)「うっ。氷鳥さんに言われると逆らえないなぁ」
 
 氷鳥の言うことに大人しく従い、種田はかき氷をゆっくり食べ始める。
 しかし、その頃にはかき氷もほとんどなくなっていた。

886第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:39:22 ID:3IPfqjZQ0
彡`・ >「しかし、熱戦のあとのアイスは美味いスね。最高の一言に尽きるス」
 
( o∂ー∂o)「頑張ったもんね! 全国に行けて良かった!」
 
|ミ゚<>゚〉「結局アタシの出番はナシかい。拍子抜けだね」
 
《μ`ー´》「県大会では上手くいったっスけど、全国では絶対に氷鳥さんの力が必要になるっスよ」
 
ゞ< _☆_>p「全国でもなんとか勝てればいいネ」
 
|ミ゚<>゚〉「楽しめる相手がいればいいんだけどねぇ」
 
 不敵に笑う氷鳥を、頼もしげに見る四人。
 全国中学麻雀選手権で残した、伝説的な実績を、誰もが知っているからこそだった。
 
彡`・ >「おっ、ガリガリくん当たりス。もう一本貰ってくるスよ」
 
( o∂ー∂o)「ラッキーだね。なんか幸先いい感じ!」
 
|ミ゚<>゚〉「吉兆ってやつかい。そんなので勝てたら苦労はしないけどねぇ」
 
( o∂ー∂o)「でもでも、外れるよりはいいよ!」
 
|ミ゚<>゚〉「ま、それもそうかい」
 
 無邪気な種田に小さな笑みを向ける氷鳥。
 全国でこのチームがどこまでやれるかは分からないが、つまらない夏として終わることはなさそうだ。
 氷鳥はそう考えながら、かき氷の最後の一掬いを口に入れた。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「数歩家高校は県大会の全試合を副将戦までに終わらせました。県では敵なしでしたね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「これは凄いことですね。数歩家高校は氷鳥さんが圧倒的なエースなのに、エースが出るまでもありませんでした」
 
(実・Д・)「中学生時代の全国大会で、歴史に名を残すほどの活躍を見せましたね、氷鳥は」
 
リ|*‘ヮ‘)|「あまりにも冷徹に相手の攻めを封じることから、そのプレイスタイルは『氷壁』と呼ばれていました」
 
(実・Д・)「その氷鳥なしでも全国行きを決めた数歩家高校、全国での戦いが楽しみです!」
 
(実・Д・)「さぁ、続いてまいりましょう。埼玉県代表、不義歩家高校です!」
 
 
 ◇

887第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:41:04 ID:3IPfqjZQ0
 鉄板を挟んでシェフと向かい合った五人は、表情を輝かせながら岩のようなステーキを見ている。
 そこにブランデーが注がれ、チャッカマンで小さな火をつけると、鉄板から一気に炎が上がった。
 
Σ=(*・∇・)「おおおぉぉぉー!!」
 
*〜(*〒W〒)「フランベやー!! どえらい迫力やでー!!」
 
(゚ν゚炎「騒がしいやっちゃのう、螺田」
 
*〜( 〒W〒)「なんでワイだけ注意やねん! 人影かて同じぐらい騒いどったで!」
 
Σ=(;・∇・)「すみません火鳥さん、興奮しちゃって」
 
(゚ν゚*炎「人影はええんや、いくらでも騒ぎぃな!」
 
*〜(#〒W〒)「相変わらず人影ビイキが酷いやっちゃな!」
 
 騒がしい三人をよそに、白竜と打保は切り分けられた肉を頬張る。
 口の中に広がる旨味をじっくりと堪能していた。
 
τ/゚◎ ゚/凵uいやぁー、美味しいっすねぇー。自分のカネじゃ食えない味だぁー」
 
ζ^・_)「ニホンのお肉、品質高い」
 
(゚ν゚炎「おっ、和牛の良さが分かるとは中々やな、白竜」
 
ζ^・_)「美味しい。謝々、火鳥サン」
 
τ/゚◎ ゚/凵uほんとにタダでいいんすかねぇー。なんか申し訳なくなっちゃうっすねぇー」
 
(゚ν゚炎「全国への進出祝いやからな。どんだけ食うても全部払とくって親父が言うとったわ」
 
*〜( 〒W〒)「自分がオーナーを務める店とはいえ、気前のええ話やなー。ありがたいこっちゃでー」
 
(゚ν゚炎「親父も喜んどったからのう。麻雀から心が離れとったワイが今まで心配やったみたいで」
 
Σ=( ・∇・)「螺田さんが麻雀部を作ったおかげですね!」
 
*〜( 〒W〒)「まぁ麻雀部を作ったんは白竜のためやけどな」
 
(゚ν゚炎「わぁっとる。しかし、中国からの留学生やから麻雀って安直すぎやろ」
 
Σ=(;・∇・)「しかも、螺田さんも白竜さんも完全に麻雀未経験だったっていう」
 
*〜( 〒W〒)「そんなもんやってみりゃなんとかなるんや! 実際なんとかなったしな!」
 
(゚ν゚炎「こんな寄せ集めみたいな集団が創部一年目で全国行きなんて驚きやけど、なんとかなるもんやなぁ」

888第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:42:51 ID:3IPfqjZQ0
(゚ν゚炎「せやけど、全国はかなり厳しい戦いになるやろ。県大会と同じ感覚でいったらエライ目に遭うで」
 
Σ=( ・∇・)「数歩家高校の氷鳥さんも全国に出てくるんですよね、確か」
 
(゚ν゚炎「そのはずやな。あいつの強さは俺が一番よう知っとるわ」
 
*〜( 〒W〒)「どんなもんか知らんけど目指すとこは一つや! 全国の頂点や!」
 
(゚ν゚炎「相変わらず意気込みだけは頼もしいのう」
 
 火鳥と打保以外は、まだ麻雀を初めて数ヶ月。
 初心者を三人も抱えて全国へ行けた理由は、ひとえに火鳥の力によるところが大きい。
 
 人影と螺田と白竜は、まだ怖さを知らない。
 それが、吉と出るか、凶と出るか。
 
 もし吉と出れば、かなりいいところまで勝ち進める可能性もある。
 このチームのことを、火鳥はそう分析していた。
 
Σ=( ・∇・)「ふー、ごちそうさまです。ココア飲みたいなー」
 
(゚ν゚*炎「そう言うと思って用意してもろといたで!」
 
Σ=(*・∇・)「ホントですか!? わーいわーい! ココアココアー!」
 
*〜(;〒W〒)「高校生にもなってココアでそんなテンション上がるやつ他におらんで、ホンマ」
 
 和やかな空気のまま、不義歩家高校の全国進出祝いは終わった。
 この雰囲気を保ちつづけられれば、このチームはきっと強い。
 火鳥はそう信じていた。
 
 そしてできる限り長く、このチームと共に過ごしたい、とも火鳥は思っていた。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「不義歩家高校は創部一年目とは思えない強さでした。特に大将の火鳥くんの力は抜けていますね」
 
(実・Д・)「中学生時代には数歩家高校の氷鳥と共に全国で活躍しました。圧倒的な火力の持ち主ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「県大会で和了った手は全て満貫以上。高い打点で場を支配することから『炎渦』の異名を取りましたね」
 
(実・Д・)「中国からの留学生である白竜も、センスを感じさせる打ち筋と評価が高い」
 
リ|*‘ヮ‘)|「安定感に欠ける選手が多いのですが、勢いに乗ったときの爆発力は相当なものです。全国でどこまで勝ち進めるか、楽しみですね」
 
(実・Д・)「では次にまいります。昨年の全国大会で準優勝、独歩家高校です!」

889第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:44:41 ID:3IPfqjZQ0
 ◇
 
 
 太陽の光を反射し、海面は輝く紐を撒いたように煌めいていた。
 日差しを遮るものはなく、五人の肌には自然と汗が浮かぶ。
 
(※( ・ー・)「まだ六月なのに暑いねー」
 
《●`ー)「でも海開きしてないからか、全然人がいねぇナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「しかし、潮騒の穏やかな音は戦いで昂った心を静めてくれる」
 
 海岸沿いを歩く五人の足跡が、砂浜に点々と続いていた。
 
 時折、誰かが貝殻を踏んだときに固い音が鳴る。
 その音が誰の耳にも届くほど、波の音は静かだった。
 
|メ`・−Ю「砂浜にいるとついつい走りたくなるな、昔みたいに」
 
(※( ・ー・)「お父さんと一緒にボクシングの練習してたんだっけ?」
 
|メ`・−Ю「あぁ。よくこういう場所を走ったんだ、懐かしいな」
 
(○'ー')о「うわー、走りにくそう」
 
ヾ(¬`・∧)¬「それが下半身の強化に適しているのであろうな」
 
 水平線に身を沈めつつある太陽の光はオレンジ色で、五人の横顔を優しく照らす。
 潮風は海の匂いを伴いながらそれぞれの髪を揺らした。
 
(※( ・ー・)「暑いけど落ち着くね。来て良かったなぁ」
 
《●`ー)「試合が早く終わりすぎて、時間を持て余しちまったからナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「手の内は隠しておくに越したことはない。中堅戦で試合が終わったことは最上の結果だ」
 
《●`ー)「でも、戦い足りなくて身体は疼いてるんじゃネーカ?」
 
(※(;・ー・)「結局、頭戸の出番なかったもんね。七瀬が頑張りすぎちゃって」
 
《●`ー)「普通に打っただけなんだけどナ」
 
ヾ(¬`・∧)¬「客観的に見て、拙者たちは県では頭一つ抜けた存在。しかし全国では昨年同様、過酷な戦いを強いられよう」
 
|メ`・−Ю「でも負けるつもりはねぇぜ。去年の準優勝はマジで悔しかったからな」
 
(○'ー')о「みんな今年がラストチャンスだもん。何がなんでも優勝、だね!」
 
 打ち寄せる波が砂を掠い、再び押し戻す。
 揺蕩う光もまた、何度も五人に近づいたり離れたりしていた。

890第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:46:06 ID:3IPfqjZQ0
ヾ(¬`・∧)¬「拙者たちなら必ず成し遂げられる。そう信じて戦わねばならぬな」
 
(※(*・ー・)「みんなで頑張ろー!」
 
 瀬荷と七瀬と針谷は笑みを見せながら。
 頭戸と蛯原は引き締まった表情のまま。
 
 それぞれ、砂浜に確かな歩みの証を残しつづけた。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「言わずと知れた昨年の準優勝校。県大会では敵なしでしたね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「茨城のレベルがさほど高くないこともありますが、決勝が中堅戦で終わったのは驚異的でしたね」
 
(実・Д・)「エースの頭戸が出るまでもありませんでした。中堅の七瀬の存在が非常に大きい」
 
リ|*‘ヮ‘)|「七瀬くんは、頭戸くんの『連続斬り』を彷彿とさせる連続和了で三校まとめて飛ばしましたからね。ちょっと格が違いました」
 
(実・Д・)「脇を固める他の選手たちも力をつけています。昨年はダークホースでしたが、今年は堂々の優勝候補です!」
 
(実・Д・)「さて、次も歩家グループの高校ですね。千葉県代表、文歩家高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 所狭しと並べられたスイーツに、客はほぼ全員が一様に目を輝かせている。
 ショートケーキやカップケーキ、ティラミス、ミルクレープなどが次々に姿を現しては消えていった。
 
 そんな中、特設プリンコーナーに陣取り、次々にトレイへ載せていく女子が一人。
 
ξ*++)ξ「これはクレマカタラーナね! 『スイーツ・バレンシア』から仕入れているという噂は本当だわ! 仕上げ方を見れば分かる!」
 
ξ*++)ξ「そしてこのクリームブリュレ! 『ホテル・グレン』のパティシエを引き抜いただけあるわね! 以前とは輝きが全然違うじゃない!」
 
ξ*++)ξ「あぁ、今日はプリン大福まであるのね! 正統派の私でもここのプリン大福には逆らえないわ! ちゃんとプリンが主役だもの!」
 
 電光石火の勢いでプリンの山を築く。
 トレイがいっぱいになると光井はすぐさま席に着き、一瞬で平らげてはプリンコーナーに戻る。
 その光景を他の四人は呆然と見ていた。

891第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:47:51 ID:3IPfqjZQ0
†;゚‐゚†「相変わらず光井様のプリン愛は凄いですね」
 
Σ`・゚・〉「食べすぎ」
 
〔◇`゚¬〕フ「あれだけ食べても太らないのは大したものだな」
 
ヽ〈┓` 八〉┓
 
† ゚‐゚†「ほら、蓮見さんも言葉を失ってます」
 
〔◇;`゚¬〕フ「いや、それはいつものことだが」
 
 他の四人は程々にベイクドチーズケーキやクッキーシュークリームなどを取り、席でゆっくり食べている。
 時折、驟雨のように光井がやってきて、激しくプリンを食べては去っていったが、途中からは誰も気に留めなくなっていた。
 
〔◇`゚¬〕フ「試合に勝つたびにお祝いと言ってスイーツビュッフェに来たがるが、単にプリンが食べたいだけだな」
 
† ゚‐゚†「試合に勝ちたいのかプリンを食べる口実が欲しいのか、よく分からなくなりますね」
 
〔◇`゚¬〕フ「まぁ、決勝でも力は発揮してくれた。実力を出し切れるならば理由はなんでもいいが」
 
 甘味が充満した口内を元に戻すように、袋井はブラックコーヒーを飲んでいる。
 旗振はダージリンティーをゆっくり啜っては、熱を放出するように息を吐くことを繰り返していた。
 
ξ*゚听)ξ「あー美味しかった。ごちそうさま」
 
 時間制限いっぱいまでプリンを食べる光井を待ってから、全員で店を出る。
 光井は名残惜しそうに何度も振り返りながら帰っていた。
 
ξ*゚听)ξ「また来たいなぁー。お金さえあれば毎日来るんだけどなぁー」
 
†;゚‐゚†(正気の沙汰とは思えない)
 
〔◇`゚¬〕フ「また全国大会で勝ったときに来ればいいだろう。勝利のあとに味わうからこその格別だ」
 
ξ゚听)ξ「言えてるわ。単に食べるだけじゃ美味しさ二割減ね。去年の全国大会で負けたあとのプリンは、どことなく寂しげな味がしたもの」
 
Σ`・゚・〉「気のせい」
 
ξ#゚听)ξ「違うわよ! やっぱり勝ったあとの味が最高なの!」
 
〔◇`゚¬〕フ「プリンの味はともかく、やはり敗北は悔しいものだ。同じ辛酸を舐めたくはない」
 
ξ゚听)ξ「えぇ。今年こそ全国制覇、その目標はブレないわよ」

892第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:49:01 ID:3IPfqjZQ0
†*゚‐゚†「今年は去年よりみんな強くなってます! 優勝しちゃいましょう!」
 
ξ゚听)ξ「厳しい戦いが続くだろうけど、揺るがない気持ちがあればきっと大丈夫。私たちならできると信じましょう」
 
〔◇`゚¬〕フ「あぁ、そうだな」
 
Σ`・゚・〉「頑張る」
 
ヽ〈┓` 八〉┓
 
ξ゚听)ξ「ダルも蓮見も気合ばっちりね。私には分かるわ」
 
ξ゚听)ξ「絶対優勝するわよ!」
 
†*゚‐゚†「おー!」
 
ξ*++)ξ「そして全国制覇した暁にはみんなで『スイーツキャッスル』の九十分食べ放題コースへ!」
 
†;゚‐゚†(結局それ!?)
 
〔◇;`゚¬〕フ(やれやれ)
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「昨年は準々決勝で敗退した文歩家高校ですが、今年は昨年より力をつけていますね」
 
(実・Д・)「突出した選手こそいませんが、逆に言えば隙のないチームです」
 
リ|*‘ヮ‘)|「そのなかでも光井さん、袋井さんの女子二人が見せる果敢な攻めは光ります。歩家グループの中では独歩家高校に次ぐ総合力ですね」
 
(実・Д・)「旗振、蓮見、ダルも昨年全国で健闘しました。今年は昨年を超える成績を収められるか、注目です!」
 
(実・Д・)「では次にまいりましょう。昨年の全国三位、神奈川県代表の烽火高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 夜闇をかき消すライトは、誰もが眩しく感じるほどだった。
 横浜スタジアムは多くの人で熱気に満ちている。
 
 試合はちょうど、一回の裏が終わったところだった。
 
彡 ´ー`)「まだ始まったばかりですね」
 
 一塁側の内野スタンド中段の席に腰かけ、榊は飲み物のストローに口をつけた。
 夏の暑さに水分を奪われた喉は、瞬時に潤されていく。

893第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:50:31 ID:3IPfqjZQ0
[`↓´]「まだどっちも点入ってないですね」
 
(^・J・^)「今日は投手戦になりそうだな」
 
(ムΘラ)「ホームラン見たいんで、多少は打ってほしいですけど」
 
(◎´∵`◎)「弁当いただきまーす」
 
彡 ´ー`)「ユニフォーム弁当ですか、いいですね」
 
(^・J・^)「いつの間に買っていたんだ、井蓋」
 
(ムΘラ)「僕も何か食べようっと。すみませーん」
 
 若い売り子を呼び止め、村者がシウマイ弁当を購入した。
 同時に古者が唐揚げ弁当を買い、二人ともすぐさま頬張り始める。
 
 その間に榊と畑は売店へ行き、ピザやポテトフライ、フライドチキンなどを買ってきていた。
 
(ムΘラ)「おっ、ホームラン」
 
彡 ´ー`)「いいスイングですね。内角の捌きが上手い」
 
[`↓´]「やっぱ野球の観戦は生に限りますね。早めに決勝終わらせてきて良かったです」
 
(^・J・^)「榊さんは打ち足りないのでは?」
 
彡 ´ー`)「いえ、そんなことはありませんよ。麻雀では何が起きるか分かりませんから、大将戦に回るよりいいでしょう」
 
(◎´∵`◎)「県大会で出番がなかった分、全国で存分に打てばいいだけですもんね」
 
彡 ´ー`)「さすがに全国では副将戦までに終わるようなことはほぼないでしょうからね」
 
(^・J・^)「昨年戦った芽院高校なども全国行きを決めているようです。楽しみですね」
 
彡 ´ー`)「不穏な噂がありますね、あそこは。ネット界を賑わせている『ホライゾン』がいるとか」
 
[`↓´]「本当ですか? もしそうなら、かなり手強い相手ですね」
 
(◎´∵`◎)「去年でさえ厳しい戦いを強いられた。今年当たるかどうかは分からんが」
 
(^・J・^)「個人的には独歩家の瀬荷にリベンジしたい。あの人に振り込んだ倍満が今でも悔やまれる」
 
(◎´∵`◎)「俺もあそこの七瀬には借りがあるな。どこかでまた当たりたいものだ」
 
彡 ´ー`)「まぁ、どんな相手だろうと勝ち抜くのみです。最初から優勝しか目指していないのですから」

894第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:52:08 ID:3IPfqjZQ0
 榊は泰然としており、風格さえ漂わせている。
 自他ともに認める、全国屈指の打ち手であるからこそだった。
 
 その榊が自信を漲らせている限り、他の四人も、ただ信頼してついていくだけでいい、と思っていた。
 
彡 ´ー`)「今年こそ、全国制覇を」
 
 四人がその言葉に頷くと同時に、グラウンドからは球音が響いた。
 白球は空高く舞い上がり、観客はただそれを見上げる。
 
 やがて打球は見えなくなったが、ライトの光に紛れたのか、夜の闇に紛れたのか、榊には分からなかった。
 
 
 ◇
 
 
リ|*‘ヮ‘)|「一昨年は準優勝、昨年は三位。全国での成績はかなり安定していますね」
 
(実・Д・)「大将の榊は全国でも五指に入る打ち手と評されます。しかし、県大会はその榊なしでも圧勝しました」
 
リ|*‘ヮ‘)|「榊くん以外もかなりの爆発力を秘めた選手ばかりですね。一年生の村者くん、古者くんはやや守りが甘いものの、魅力的な一発がある打ち手です」
 
(実・Д・)「三年前の優勝校でもあります、烽火高校。今年は優勝賜杯を取り戻せるでしょうか。その戦い様に注目が集まります!」
 
(実・Д・)「さぁ、つづいてまいりましょう。福井県代表、元別府高校です!」
 
 
 ◇
 
 
 四隅にライトがあるだけの薄暗い公園で、五人はそれぞれ身体を休めていた。
 
 茂名と荒巻はベンチに座って団扇で風を送り、瀬知と長岡はジャングルジムの最上部から公園を見下ろしている。
 そして範名は、蛇口のバルブを何度も捻っては喉を鳴らしていた。
 
(*`・ー・)「うめぇぇぇぇー!! 水うめぇぇぇぇー!!」
 
(;゚∀゚)(うっせーなアイツ)
 
(;´∀`)「対局中だけで2リットルのペットボトルを飲み干したのに、まだ喉が渇いてたんですか」
 
(`・ー・)「熱戦だったしな! 3リットルにすりゃよかったと後悔したぜ!」
 
 茂名と荒巻は苦笑させられている。
 水の飲み過ぎで身体を壊さないだろうか、と周囲が心配するほどの給水量だった。

895第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:53:38 ID:3IPfqjZQ0
/ ,' 3「本当は副将戦で終わらせられればよかったのですが、申し訳ありません」
 
(`・ー・)「いやいや、気にすることねーよ。あの放銃は誰でもやらかすって」
 
( ´∀`)「範名さんなら迷わず振り込む場面ですね」
 
(;`・ー・)「おいおい。俺でも二秒くらいは迷う場面だぞ」
 
(,,;’」’)「たった二秒ですか、大将」
 
(`・ー・)「大将じゃねーって、瀬知。総大将だ!」
 
( ゚∀゚)「そんなポジションありませんよ」
 
(`・ー・)「分かってるけどさ、かっこいいだろ! 総大将のほうが!」
 
 長岡と瀬知は顔を見合わせてから首を振った。
 あまりにも自由気まま。しかし、まるで裏表がなく、誰に対しても同じ態度を取る。
 そんな範名のことを、皆が信頼していた。
 
( ゚∀゚)「じゃあ、その大仰な名に相応しい活躍をお願いしますよ、総大将」
 
(`・ー・)「おう! 俺が全国一のデジタル打ちであることを証明するチャンスだな!」
 
( ´∀`)「恐らく、日本で一番デジタルから遠い打ち手であることが証明されますね」
 
( ゚∀゚)「証明するまでもなく、全国一のオカルト派でしょうね」
 
(;`・ー・)「おいおい。俺だって色々考えてんだぜ? これ捨てたら流れが悪くなりそうだなーとか」
 
/ ,' 3「それを世間ではオカルトと言うのですよ、範名さん」
 
 範名以外の四人の笑い声がこだました。
 その中心にいる範名は首を傾げながら頭を掻いている。
 
(`・ー・)「デジタルでもオカルトでも、勝てりゃなんでもいいんだ。一個団結して、目指すは優勝のみ!」
 
( ´∀`)「一致団結の間違いですね、総大将」
 
(;`・ー・)「あれ、そうだったか?」
 
(;゚∀゚)(ほんと相変わらずだな、あいつ)
 
(`・ー・)「とにかく今年こそやってやるぜ! みんなで全国制覇だ!」
 
 どんなときでも明るく前を向く。
 だからこそ範名の背中は頼もしく見えるのだ。
 四人はそう考えながら、範名の突き上げた拳を見ていた。

896第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:56:20 ID:3IPfqjZQ0
 ◇
 
 
(実・Д・)「昨年の全国大会で決勝に進出し、四位の成績を収めた元別府高校ですが、エース範名を欠いての四位です」
 
リ|*‘ヮ‘)|「今年は範名くんがいますし、新人の長岡くんがかなりの打ち手です。昨年いなかったこの二人を中心に回ると思います」
 
(実・Д・)「堅実に立ち回る茂名や瀬知、常に落ち着いて打てる荒巻など、総合力は全国屈指ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「今年も間違いなくいいところまで勝ち進むでしょうし、優勝が充分に狙えるメンバーを揃えましたね」
 
(実・Д・)「範名と荒巻が引退する年に悲願の優勝なるか、元別府高校。勇戦を期待しましょう!」
 
(実・Д・)「さて、次がいよいよ最後です。昨年の全国覇者である、香川県代表、羅雲寺高校!」
 
 
 ◇
 
 
 風鈴の音が小さく鳴る軒下の縁側で、深成兄弟が身体を冷やしていた。
 そこに、風呂から上がった狩名が浴衣姿で近づく。
 
( ’ t ’ )「お風呂ありがとうございました、浴衣もお借りしました」
 
(`∠´)「あぁ」
 
 狩名を一瞥だけして、深成鈴は月に視線を戻した。
 左手に持ったグラスには麦茶と氷が入っている。
 
( ’ t ’ )「実時さんと義留さんは?」
 
( ̄⊥ ̄)「コンビニへ行くと。軽く摘めるお菓子などを買ってくるそうです」
 
( ’ t ’ )「そうか」
 
 狩名も縁側に腰を下ろした。
 弟の深成春路の隣だ。
 深成鈴の隣に座ることは、気が引けていた。
 
( ’ t ’ )「二人で、どんな話を?」
 
( ̄⊥ ̄)「今日の試合の、反省点などを」
 
(`∠´)「まだまだ甘い手が多い。全国でも同じように勝てるとは思うな、と」
 
 弟のみへ向けた言葉ではない。
 狩名はそう感じた。
 今年からメンバーとなった、狩名にも同じことを思っているのだろう、と。

897第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 15:58:51 ID:3IPfqjZQ0
( ’ t ’ )「全国の相手は、県とは比較になりませんか?」
 
(`∠´)「あぁ」
 
( ̄⊥ ̄)「警戒すべき相手は?」
 
(`∠´)「両の手では数えられないほどいるが、特に名前を挙げるならば、榊や頭戸、範名や茂羅、火鳥や氷鳥などか」
 
 いずれも知った名だ、と狩名は思った。
 特に、榊と頭戸は昨年、深成鈴が決勝で戦った相手だ。
 
 昨年の決勝の大将戦、映像は狩名も観た。
 思わず瞬きを忘れるほど目まぐるしい攻防戦。
 最終的には羅雲寺が勝利を収めたが、決して楽勝とはいえない戦いだった。
 
( ’ t ’ )「火鳥と氷鳥は、中学時代に伝説的な活躍をしたそうですね」
 
(`∠´)「その中学時代に対局したことがある。かなりの苦戦を強いられた相手だ」
 
( ’ t ’ )「そうだったのですか。元別府の範名も、中学時代に打ったことがあると仰っていましたね」
 
(`∠´)「あぁ。いずれも全国屈指の打ち手であることは間違いない」
 
 深成鈴が名を挙げて警戒するほどの相手。
 それだけでも、恐ろしい打ち手なのだと狩名には分かる。
 一昨年も、昨年も、一度たりとも負けていない深成鈴の言葉だからこそだ。
 
 今の自分では恐らく、敵わない相手なのだろうと、狩名は分かっていた。
 それでも、気持ちは挫けるどころか、むしろ高揚が抑えきれなくなっている。
 
(`・ι・´)「ただいま戻りました」
 
( `゚ e ゚)「ぬぅ、暑いですな。夜になって、多少は気温が下がったとはいえ」
 
 実時と義留がコンビニから戻ってきた。
 手に提げた袋にはチョコレートや煎餅、クッキーなどが入っている。
 
(`∠´)「揃ったな。じゃあ、早速だが始めよう」
 
(`∠´)「東風戦で、最下位が控えと交代。最初の控えは、春路だ」
 
( ̄⊥ ̄)「はい」
 
(`∠´)「しっかり記録を取っておいてくれ。あとで検討の材料にしよう」
 
 卓上には既にマットと雀牌が置かれていた。
 こうやって深成家に集まり、深夜まで練習することは度々ある。
 両親が仕事で海外に行っている深成家ならば、気兼ねなく打てるためだった。

898第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 16:00:52 ID:3IPfqjZQ0
 深成春路を除く四人が、卓につく。
 そしてサイコロを振る前に、深成鈴が口を開いた。
 
(`∠´)「我々は確かに全国へ進出した。しかし、全国で二連覇していることを考えれば当然の結果だ」
 
(`∠´)「過去、幾度もの優勝を羅雲寺は成し遂げている。だが三連覇は一度も達成されていない」
 
(`∠´)「今年こそやり遂げるのだ。そして、この五人の名を羅雲寺の歴史に刻もう」
 
(`∠´)「全国の歴史に、刻もう」
 
 深成鈴の言葉で、これから打つ東風戦にも、緊張の糸が張られた。
 まるで、絶対に負けられない戦いへと臨むような気分に、それぞれがなっていた。
 
(`∠´)「さぁ、始めよう」
 
 深成鈴の手からサイコロが滑り落ちる。
 賽は、投げられた。そんな言葉が、狩名の頭の中に浮かんだ。
 
 
 ◇
 
 
(実・Д・)「やはり今年も強かった、羅雲寺高校。三連覇へ向けて、視界は良好ですね」
 
リ|*‘ヮ‘)|「深成鈴くんの力は際立っていますね。これまでの実績も圧倒的ですし、高校生としては最強といっても過言ではないでしょう」
 
(実・Д・)「昨年の三年生が抜けたことによる戦力の低下も懸念されましたが」
 
リ|*‘ヮ‘)|「一年生の深成春路くんと狩名くんが、むしろ戦力を向上させましたね。特に狩名くんからは類稀なセンスを感じます」
 
(実・Д・)「今年は昨年以上に強い、羅雲寺高校! 果たして三連覇は達成されるのでしょうか! 注目です!」
900第10話 ◆azwd/t2EpE:2015/07/26(日) 16:02:11 ID:3IPfqjZQ0
(実・Д・)「まだまだ県大会は続いていますし、これからプレーオフもあります。そこからダークホースが現れることも考えられる、今年の全国高校麻雀選手権」
 
(実・Д・)「全国大会は七月下旬より開催予定! 全試合をこの番組にて放送予定です!」
 
(実`・Д・)「果たして栄冠を手にするのはどの高校でしょうか! 高校生たちの熱き戦い、今から待ちきれません!」
 
(実`・Д・)「視聴者の皆様、どうかお楽しみに!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第10話 終わり
 
     〜to be continued

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