203 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:25:42.26 ID:n4Y0plzf0

 ――――浅いまどろみの中で、内藤は夢を見ていた。

 その夢は内藤の人生を狂わせた三日前の夜から始まり、後ろから追ってくる吸血鬼から逃
げている夢だったが、その吸血鬼は何時の間にか母親の顔をしていた。
 そうして左手にレイジングブルを持ち、腹には十字架が突き刺さっている。右手に抱えている
少女は項垂れて動かないが、生きているのだけは確かだった。

(;^ω^)「はぁ、はぁ……に、逃げ切ったみだいだお……」

 そうしてちらほらと雪の舞い降りる中、内藤が辿り着いたのは学校の教室だった。

 レイジングブルのシリンダーを開いて空薬莢を落とし、エクスプローダーを詰める。銃剣にへ
ばり付いた血を拭いながら、内藤は足元の少女に話し掛けた。

( ^ω^)「もう起きても大丈夫だお……」

 そもそも気絶している人間に起きろと指示をするのは奇妙であったが、その指示に従って少
女は目を覚ましたのだから、つくづく夢と言うのは都合が良いものだ。
 内藤はそれを見届けてから振り返ったのだが、そこは既にジョルジュが住んでいるガンショ
ップになっており、或いは錆びた匂いのする板金工場だったりした。

(;^ω^)「――――――――ッ!」

 取り返しのつかないミスをした事に気付いて、内藤は少女の方を振り返るのだが、そこに居る
のは黒髪の美少女ではなく、牙を剥いて襲い掛かる母であった。

 悲鳴を上げてレイジングブルの銃口を引いた内藤の目前で吹き飛んだ頭があの少女のもの
に変わり、これが夢なのだと気付いた内藤は漸く目を覚ました。
205 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:26:06.73 ID:n4Y0plzf0
 最初に目に飛び込んできたのは、どこか馴染みのある、黄ばんだ天井だった。

 一瞬、自分の部屋で寝ているのかと思ったが、首だけ回して視界を巡らせてみると、テレビど
ころかタンスの一つも置いてない、殺風景な風景が広がっている。
 内藤はベッドから身体を起こそうと試みたが、腹の辺りに激痛が走って起きられない。

( ^ω^)「何がどうなってるんだお……」

ξ--)ξ「ん……内藤……」

 自分の置かれている状況に首を捻っていると、突然自分の横で女の子の声がした。

(;^ω^)「え、あ、あ、あれ? ど、ど、どどど、どちらさまま、だ、だお?」

 寝起きに美少女が横に居ると言うのは何度も夢想した内藤だが、無論それが現実に起こる
と軽いパニックを起こしてしまっていた。哀しいかな、十八歳童貞である。

Σξ゚听)ξ「内藤……起きたのね? 身体はどう? 傷む?」

( ^ω^)「あ、お、おなかが痛い以外は大丈夫だお」 ξ゚听)ξ「そう……左腕はどう?」

 言われて、初めて内藤は自分の左腕が無くなっている事に気が付いた。肘からやや先の部
分がすっぱりと消失し、真っ赤に染まった包帯が巻かれている。
 自分の傷を認識した内藤は、その左腕から感じる違和感に戸惑いを覚えた。痛みよりも熱さ
が勝っているのだが、何と言うか、腕が何倍にも膨らんだような気分だ。

ξ゚听)ξ「良かった……あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと……」

 その場に崩れる少女を見ながら、内藤は彼女の名前と昨晩の記憶を思い出していた。

206 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:26:29.99 ID:n4Y0plzf0
ξ゚听)ξ「びっくりしたわよ。私に弾の無い銃を突きつけて、そのままばたん、きゅう」

( ^ω^)「あぁ、弾、入ってなかったのかお……」

 その言葉に安心した。一歩間違えば、殺してしまっていたかもしれないのだから。
 残っている右腕を使い、内藤は身を起こした。内藤が身じろぎするたびに、ベッドのスプリン
グが軋む。相当古いシロモノらしいが、上に乗れるのなら問題は無い。

( ^ω^)「ここはどこなんだお……見た事の無い場所だお……」

ξ゚听)ξ「郊外にある廃墟よ。元は石鹸工場だったみたいだけど……」

 つまり、この部屋は従業員用の休憩室とか、そんな感じの部屋だったのだろう、とツンは言っ
た。だったら多少殺風景なのも、こんなに古いベッドがあるのも頷ける。

ξ゚听)ξ「ジョルジュくんがね、連れて来てくれたの。ここに隠れるといいよ、って」

( ^ω^)「ジョルジュが……どういうことなんだお?」 ξ゚听)ξ「それは……」

 ツンが言い掛けたその瞬間、部屋の小さなドアが、静かな音を立てて開く。
 扉から入って来たのは、今話そうとしていたまさにそのジョルジュ本人だった。

(+゚∀゚)「あら? おじゃまだったかしら」 ξ゚听)ξ( ^ω^)「そうでもないよ(お)」

( ^ω^)「それより、ここは一体何なんだお……それにキミは一体……」

 問い掛ける内藤の傍まで歩み寄ると、ジョルジュは内藤の胸を軽く押した。
 元々あまり力を入れていなかったためか、何の抵抗もなくベッドに倒れこむ内藤。

(+゚∀゚)「あと二時間寝たら教えてやるよ」 ( ^ω^)「…………わかったお」

207 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:27:09.09 ID:n4Y0plzf0
 もう一度起きた時、今度はジョルジュもツンも居なかった。人の気配はしない。

 内藤は上半身だけを起こして、辺りを見回した。取り合えず、自分の腰から上が包帯一丁の
セクハラ装備であるのに気付いたので、棚の上に置かれていたシャツを取る。
 シャツを着ながら、自分の身体の状態を確認した。腹の痛みは幾らか治まっているが、腕の
痛みはまだ残っている。動く事は出来るので、内藤は起きてみる事にした。

(;^ω^)「うー……ニューヨークの寒さはとみに冷えるお」

 冬の寒さに両腕を擦りながら、内藤はシューズを履いて発ち上がった。先刻ジョルジュが入
って来た扉から外に出ると、どうやら二階に居るらしいのが判る。
 辺りには石鹸を作るのに使うと言う事以外よく判らない機材が散らばっていたが、どれも錆び
ていて使い物にならない。ここが廃墟なのは間違いなさそうだ。

 壊れて寂れて、誰からも見向かれなくなったものの孤独と寂寥に、内藤の心が震える。

( ^ω^)「誰かいないかおー……」

 誰かに気付いて欲しいが居たら怖い、と言う微妙に控えめな声で呼び掛けると、

ξ゚听)ξ「いるわよー」 (+゚∀゚)「いるぞー。こっちだー」

 ツンとジョルジュの声がそれに答えたので、内藤は早足にそちらへと向かった。

 壊れた機械の山を押し退けるように進んでいくと、やがて開けた場所に出た。その光景を目
の当たりにした内藤は、一瞬、自分がどこに居るのか判らなくなった。
 突然肩を叩かれて振り向いた内藤の前に、ツンとジョルジュの二人が立っていた。

(+゚∀゚)「おはよう内藤。元気か?」 (;^ω^)「えと、あの、う、うん……」

208 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:27:33.90 ID:n4Y0plzf0
 内藤が現在居るのは二階だが、そこから吹き抜けになったやや広いホールのような場所に、
最早見ても何だかよく判らない機材が運ばれ、今も稼動している。
 それらはここまでに見付けたものとは異なり、磨かれたように綺麗だ。内藤に判ったのはパソ
コンらしいものだけで、他は大学の研究所とかにありそうなとしか判らない。
 一見して受ける印象は――――「秘密結社の秘密基地」って所だろうか。

(+゚∀゚)「すげーだろ。これだけ揃えるのは、結構大変だったんだぜ?」

 ジョルジュの言葉に、内藤はただただ頷くしかない。こんな場所がこのニューヨークにあった
なんて。そして、ジョルジュがこれに関わったと言うのも驚きだ。
 訳が判らない。判らないが……取り合えず、ジョルジュには自分の知らなかった秘密がある
と言うのだけは、鈍感な内藤でも流石に気付いていた。

( ^ω^)「キミは一体何だお……何がどうなって……?」 (+゚∀゚)「一片に聞くなよ」

 内藤の呆然とした問い掛けに、ジョルジュは何時に無く真剣な表情で訊ねた。

(+゚∀゚)「そうだなぁ……教えてやるのは、吝かでも無いんだけどよ。聞いたら後には戻れないし、
俺とお前の間の友情も崩れる。それでも良ければ――――」

 聞かせてやる、と言って、内藤は壁際の階段から降りていく。付いて来いと言う事か。
 内藤は一度ツンの方を見た。彼女は、どこか不安げな面持ちで内藤を見詰めている。

ξ゚听)ξ「内藤……どうする積もりなの……?」 ( ^ω^)「…………」

 逡巡は、一瞬だった。内藤はジョルジュの去っていた方を睨み付けると、

( ^ω^)「…………往くお。このまま、何も知らないなんて厭なんだお」

 確固たる決意の下にそう言って、ジョルジュの後を追った。ツンもこれに続く。

209 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 00:27:58.59 ID:n4Y0plzf0
 散らかっているのはどこも同じなのか、入り組んだ迷路のような機材の間を擦り抜けて、内
藤(とそれについて来たツン)はジョルジュが待つ場所に到着した。
 そこはホワイトボードや横長の机が並べられた簡易会議室のような場所で、あちこちに写真
やメモが貼り付けられている。中には正視に耐えないグロ画像も幾つかあった。

(+゚∀゚)「来たか……まぁ、座れよ」

 ジョルジュは長机の一つに直接腰掛けて、内藤達を待っていた。指示通り、内藤はその正面
の机に、ツンは内藤の隣に、それぞれ置かれていたパイプ椅子に座った。

(+゚∀゚)「それで……何から聞きたい?」

( ^ω^)「え?」

(+゚∀゚)「答えてやるよ。お前が知りたい事、全部」

 隠し事をしてそれがバレた人間とは思えない堂々とした態度に、内藤とツンは顔を見合わせ
た。聞きたい事は山ほどあるが、ここまで開き直られると却って困る。

(+゚∀゚)「って、いきなり言われてもわかんねーか……」

 何かを考えるように言いながら、ジョルジュはぶらぶらと足を揺らしている。

(+゚∀゚)「取り敢えず、連中に関する事から話してみるけどいいか?」

ξ゚听)ξ「連中?」

(+゚∀゚)「便宜上、そう呼ぶなら――――吸血鬼、って奴等の事だ」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「!!!!!!!」
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