372 :腹痛の吸血狩人 ◆VAMP37WI2w :2006/03/29(水) 17:09:58.34 ID:09B6Gqe90
 内藤は意識の無いツンの傍らで、彼女の父親と殺し合いを演じている。

(#^ω^)「オラァッ!」

 食い縛った歯の間から鋭い息を吐きながら、握り締めた拳がコンラッドの顎目掛けて突き上
げられる。当然、その拳からはブレイドの刀から作られた仕込み刀が生えている。

(;´∀`)「チッ! こざかしい――――」

 コンラッドは僅かに身体を逸らし、顎先を掠めた仕込み刀の切先を回避する。眼前に突き立
った仕込み刀がこちらに倒れ込んで来るのを見て、それをレイピアで受け止める。

(#^ω^)「無駄無駄無駄無駄無駄(ryだお!」

 僅かに遅れて心臓に突き出されたレイジングブルの銃剣を、むき出しの左手で逸らす。銀で
コーティングされた刀身はコンラッドの手を焼いたが、切り落とすには至らない。
 内藤の身体がかしぎ、コンラッドの懐に潜り込む。同時に繰り出された前蹴りが内藤の腹を
穿とうとするが、内藤の動きはそれより一瞬速く、直撃を避ける。

(;^ω^)「はぁ、はぁ……ハッ……ハッ……」 (;´∀`)「侮りすぎたか……」

 荒い呼吸を繰り返す内藤とは異なり、コンラッドは苦々しく表情を歪めるだけだ。
 既に何合打ち合ったか判らない。恐らく二十は打ち合ったと思われるが、その間にどちらもあ
る程度傷付いている。但し内藤は、目の前の敵に負けると言う気が起きなかった。

 魔術師は分隊支援火器を凌駕し得る凄まじい火力を発揮するが、詠唱時間の短縮だけは中
々難しかった。特にここまで接近しての白兵戦ならば、その時間は殆ど無い。
 確かに彼の魔術や召喚術は、内藤が太刀打ちし得るものでは無い。しかし剣技のレベルだけ
を見れば、コンラッドはそれほど技量の高い方では無かった。実際ここまで近寄れば、ジョルジ
ュでも三合打ち合えば倒せてしまう程度の腕前でしか無いのである。

373 :腹痛の吸血狩人 ◆VAMP37WI2w :2006/03/29(水) 17:10:21.25 ID:09B6Gqe90
 無論、吸血鬼との間にある身体能力の差だけは、如何ともし難い。継続した速度ならコンラッ
ドが僅かに上程度だが、瞬間的な破壊力ともなれば、内藤には及びもつかない。
 それでも性能が拮抗しているのは、内藤の技量がコンラッドを上回り始めていたからだ。元々
才能もあったのだろうが、内藤の戦闘技能は今も尚成長を続けている。

(;^ω^)「(感覚が研ぎ澄まされていくみたいだお――――)」

 得物を比べた場合、コンラッドの方が間合いは長い。本来、得物が長くなればそれだけ攻撃
回数は少なくなるが、レイピアはナイフを凌ぐ連続攻撃を放つ事が出来る。
 対して内藤の武器は仕込み刀とレイジングブル。レイピアの四分の一程度の長さしか無く、
左右のバランスも異なっている。二刀にする事でコンラッドの猛撃を辛うじて躱す事しか出来な
かった――――それが、あのラウンジビルの頃の自分なら。

 しかし今は、コンラッドの攻撃が見えていた。放たれれば目にも留まらぬ動きも、来るのが判
っているなら捌けない筈が無い。相手の膂力も横に逸らせば無いも同然だ。

 内藤は確信を抱き始めている。自分は、自分の力でコンラッドを殺す事が出来る。

( ^ω^)「僕はお前を殺せる――――ツンを助ける事が出来るお!」

(#´∀`)「ナメるなよこの――――!」

 怒りに駆られたコンラッドが、高速の踏み込みと共に剣先を突き出す。確かにその速度は不
可避と言い切れたが、その動きを読んでいた内藤に、それを躱すのは容易い。

 ほんの少しだけ掠るように突き出した銃剣が、レイピアの軌道を逸らす。波刃が生み出す衝
撃を腕に感じながら、振り被った右腕を叩き付ける。切先はコンラッドの心臓、の前に差し出さ
れた掌を突き刺して止まる。同時、繰り出した爪先が股間を蹴り上げる。

(;´∀`)「ぬうあっ!?」 (;^ω^)「うわ、イヤなもの蹴っちゃったお」

374 :腹痛の吸血狩人 ◆VAMP37WI2w :2006/03/29(水) 17:10:56.59 ID:09B6Gqe90
 急所を蹴られて蹈鞴を踏んだコンラッドの顔面に、バヨネットを突き立てる。咄嗟に掲げられ
たレイピアが銃剣の軌道を変えたが、代わりに銃口部分のスパイクを直撃させられる。

(;´∀`)「ぐおおおおぉぉぉ――――ッ!?」

 渾身の力で殴りつけられたコンラッドが、文字通り宙を舞う。

(#^ω^)「いい加減――――」

 それを追撃して、上段から首を狙って銃剣を、下段から背中を通して心臓を刺すように右腕
を繰り出す。獣が牙を噛み合わせるように二刀が交錯しようとして、

(#^ω^)「――――死ねおッ!」

(#´∀`)「ぐ……まだだッ! まだ終わらんよ!」

 コンラッドが空中で身を捻り、文字通り皮一枚で内藤の剣を躱した。銃剣と仕込み刀はコンラ
ッドの着ていた仕立ての良いスーツを切り裂いたのみに終わる。

 同時に着地。五十センチも離れていない間合いで、三つの刃が跳ね上がり――――

(;^ω^)「しまっ――――」 (#´∀`)「シャアッ!」

 コンラッドの膂力に耐え切れず、前に出していたレイジングブルが弾き飛ばされる。内藤の手
から離れた愛銃は祭壇の床を滑り、その淵から落下していった。
 一瞬それに気を取られた内藤の鳩尾に、コンラッドの爪先がめり込む。とても蹴られたとは言
えない高度まで打ち上げられた内藤が、弧を描いて地面を転がる。
 転がりながら、すぐさま立ち上がる。血反吐が零れたが、致命傷には至っていない。

(;^ω^)「くっ……いいのを貰っちゃったお……」

375 :腹痛の吸血狩人 ◆VAMP37WI2w :2006/03/29(水) 17:11:29.49 ID:09B6Gqe90
( ´∀`)「ハァーッハッハッハッ……いやいや、"成り立て"のクセに頑張るね」

(#^ω^)「その"成り立て"にここまで翻弄されるお前は、相当な雑魚だと気付けお」

 立ち上がった内藤は、左手を前に半身の構えを取った。剣技と言うよりは、何らかの体術を
思わせるような構えを見て、コンラッドもまた構えを取り直す。
 内藤は武器を一つ失った事に関して、然程危機感を抱いては居なかった。「保険」が無くなっ
ただけの事だ。例え刃は一つでも、奴を倒せない道理は無い。

( ´∀`)「……フン。そうまでして、私を殺したいのか」 ( ^ω^)「?」

( ´∀`)「果たしてそれは、それとも、私と言う存在に対する憎悪かね? それとも――――貴
様が成った、クルースニクの使命とやらに引き摺られてか?」

 嘲るような口調で訊ねるコンラッドに、内藤は自分の本心を吐き捨てる。

( ^ω^)「どっちも不正解だお」

 実際、そこまで殺したがっているかと言えば、そうでもなかった。彼は確かに世界を滅ぼそう
としているのかもしれないが、そんな正義の味方になりたがっている訳では無い。

( ´∀`)「ほう……ならば、見逃してくれても良いのではないか?」

(#^ω^)「だから。そうしたらツンを見殺しちゃうじゃないかお」

 自分に世界を救うなんて大層な事は出来ない。唯、一人の女を救えればそれでいい。

( ´∀`)「クッ……例えばここで私が彼女を解放すると言ったら?」

( ^ω^)「僕はツンを連れて逃げるお。その後はジョルジュが何とかするお」

376 :腹痛の吸血狩人 ◆VAMP37WI2w :2006/03/29(水) 17:11:57.76 ID:09B6Gqe90
( ´∀`)「投げ遣りだな。私が彼を倒すとは思わないのか?」

( ^ω^)「そんなの無理だお。アイツはっきり言って強過ぎだお」

( ´∀`)「ふん……信じている、とでも言う積もりかね?」

 臭い台詞を期待しているらしいコンラッドに、内藤は思わず鼻で嗤ってしまった。

( ^ω^)「事実だお。アレに勝てるなら――――世界を殺せる」

 ツンが攫われてからの十日間、内藤は何度かジョルジュの戦いを目にしていた。最初はやや
遠くから、何時しかその背中を追うように、彼の"狩り"を見学した。
 確かに彼には、コンラッドのような異能は無い。閑馬永空のような度外視の不死でも無い。悪
魔のようにこの世界の次元から逸脱しているとも言えないだろう。

 しかし……彼は強い。何の工夫も何の細工も無く、唯只管に――――強かった。

 そして彼は、コンラッドを照準に合わせた。一度彼に狙われたら最後、逃げ切る事など出来
やしない。何しろ彼は、遺伝子レベルまで"狼"なのだから。

 ――――其は全ての悪しきものを狩る走狗。彼の牙から逃れ得るもの無し。


( ^ω^)「ま、そんな事はどうでもいいお。ツンを返してくれるのかお?」

( ´∀`)「冗談では無い。私は彼女を使ってマグラを降臨し、世界を滅ぼす」

(;^ω^)「世界を――――」

( ´∀`)「そうだ。私はそのために――――そのためだけに生きてきた。」
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