- 37 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:43:26.42 ID:GS4lQuNU0
- ふと。
誰かに呼ばれたような気がして、内藤は目を覚ました。
横になっている内藤の視界に広がるのは、黄ばんだ白い壁紙だ。自分が横になっていて、見
慣れた自室の壁を眺めているのだと気付くまでに、若干の時間を有した。
( ^ω^)「……夢、だったのかお?」
呟いてみるが、答える者は居ない。しかし、起き上がってみて、首筋に痛みを感じた。
部屋に置いてある姿見に自分の姿を映して、顎を逸らして首を見る。すると、ほんの僅かにだ
が、首に細い――――それこそ糸のような――――傷痕が走っていた。
昨日の出来事が、脳裏に蘇る。夜中に出掛けた事、吸血鬼に出会った事、そいつに襲われ
ていた少女を助けて、最後に十字架を使って吸血鬼を斃した事も。
忘れようとしても忘れられるものではない。その首の傷は、あの吸血鬼が最初に放った一撃
を、凄まじい幸運によって回避した際、ほんの少し爪が掠めた痕である。
しかし――――自力で家に帰った記憶だけが、すっぽりと抜け落ちているのだ。
考えていても仕方が無い。内藤は起き上がって擦り切れたジーンズとシャツを着込み、自室
から外に出る。自分を呼ぶか細い声は、まだ少し続いていた。
J('ー`)し「ねぇ、ホライズン? 何処に往ってしまったの?」
自分を呼ぶ母親の声に、内藤は漸くまともな返事を返す事が出来た。
( ^ω^)「今行くよ、母さん」
( ^ω^)「……母さんを置いて、何処かにいっちゃうなんて、出来るわけ無いよ」
- 39 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:44:13.57 ID:GS4lQuNU0
- 内藤の母は、今日もベッドの上から自分の事を見ていた。内藤は最近めっきり調子が悪くな
ったエアコンの電源を落とし、カーテンを開けて陽光を取り入れる。
( ^ω^)「おはよう、母さん。具合はどうだい?」
J('ー`)し「おはよう、ホライズン。えぇ、今日はとても調子がいいわ」
簡単な挨拶を交わしながらも、内藤の手は日々の習慣として、機械的に母の世話をこなす。
溶けた氷嚢を取り替え、汗に濡れた身体を拭き、服を着替えさせる。
母の前にいる時は、不思議と何時ものあの妙な訛りが出て来ない。多分、彼女の前に居る自
分は、一番自然に振る舞えるからだろう。或いは、逆かもしれないけれど。
内藤がハイスクールに上がった辺りで、彼女は肺を患ってしまった。父親は既に死んでいた
し、ヘルパーを雇う金は無い。内藤は彼女を養うために、板金工場で夜勤の仕事をしている。
自由な時間は、夜の十時以降になる――――辛い日々だが、苦しくはない。
J('ー`)し「昨日、夜中に出かけていったけど。どこに往って来たの?」
( ^ω^)「……小腹が空いたけど冷蔵庫に何も無かったから、買いに出ただけさ」
内藤は思う。今日も母さんは綺麗だ。顔色が悪いし頬も少しこけてしまったけれど、その美し
さは変わらない。昔の母を花に例えるなら、差し詰め今の彼女はドライフラワーか。
――――美しいまま、枯れて行く。
( ^ω^)「学校に往かなくちゃ。ごはんは作っておくから、薬飲んで、ちゃんと食べてね」
J('ー`)し「……えぇ。いつもありがとうね、ホライズン。最近、物騒だから、気を付けて」
自分を心配してくれる母親に軽く手を振って、内藤は鞄を手に家を出た。
- 40 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:45:12.31 ID:GS4lQuNU0
- バスで一時間ほどの郊外にあるニューソークハイスクールに、内藤は通っている。
可もなく不可もなく。平均的な成績で入れる平均的な高校で、ニューヨークと言う物騒な場所
に建っている事を考えなければ、ごく普通の、有り触れた学校だ。名前は別として。
内藤は自分のロッカーに鞄を放り込み、次の授業で使うノートや教科書を手に歩き出す。次
の授業は数学だったと思う。苦手では無いが、好きでも無い教科だ。
最近、夜勤が続いているせいで、授業を居眠りをしてしまう事が多い。教師達は内藤の境遇
を知っているからあまり強い態度は取らないが、流石にそれにも限界があるだろう。
( ^ω^)「今日はしっかり授業受けなくちゃだめだお……!」
決意を新たにする内藤の肩が、ぽん、と軽く叩かれる。振り向くと、そこには自分より二十セ
ンチは下に、少年が立っていた。細身で、肩までの長い黒髪をした日系人だ。
(+゚∀゚)「よっ。おっはよう、内藤!」
( ^ω^)「おはようだお、ジョルジュ」
元気良く挨拶をする少年に、内藤は笑顔を返した。
ジョルジュ長岡と言うこの日系人の少年は、高校入学以来の親友で、内気な内藤と正反対
にとても陽気な性格をしている。片頬に走った小さな十字架の刺青が特徴的だ。
この学校にも校則はある筈だが、何故か頬の十字の刺青を咎められた事は一度も無い。こ
こまでおおっぴらにやっているのに。どんな秘密があるのかと、何時も気になっている。
まぁ、それはともかく。二人は他愛も無い話をしながら、教室へと急いだ。
- 41 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:46:09.86 ID:GS4lQuNU0
- (+゚∀゚)「そういえば内藤。昨日、また"吸血鬼"の被害が出たらしいぜ!」
びくり、と内藤の足が止まった。無論、昨日の戦いを思い出したため、である。
(;^ω^)「……そう、なのかお?」 (+゚∀゚)「あぁ。ほら、これがその新聞記事だ」
ジョルジュが差し出したのは、彼がいつもネタで読んでいる三流新聞の一面だった。紙面で
は昨日の午前一時頃に殺されたと思われる、若い男性の死を報じている。
( ^ω^)「(……あの子じゃなかったお。時間からして、あの前に殺されたのかお?)」
(+゚∀゚)「全く、酷いよなぁ。殺人鬼も酷いけど、この新聞も面白半分に書き過ぎだ。現代に蘇っ
た吸血鬼――――だなんてさ。ホラー映画じゃーあるまいし」
内藤の心情を知ってか知らずか、ジョルジュはぺらぺらと正当な意見を述べている。彼はこ
う見えて、人の死を軽んじる連中を嫌っている。そういう所が妙に誠実なのだ。
お前もそう思うだろ、と同意を求めてくるジョルジュに、内藤は曖昧な笑みを返した。ジョルジ
ュの言い分はもっともだったが、否定も肯定も出来る立場ではない。
確かに人の死を面白がって記事にするのは、あまり誉められる事ではない。しかしこの記事
を書いた人だって、こんな話を書かないと喰っていけない筈なのだ。この町では、死人を食い
物にしないとやっていけない。それは、絶対的に仕方の無い事なのだ。
内藤はそんな事を考えながら、これから授業を受ける教室の扉を開けて――――
ξ゚听)ξ「……あら、おはよう内藤くん」
( ^ω^)「…………え?」
瞬間、目の前に立っていた少女に、思わず唖然とした表情を浮かべてしまった。
- 42 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:46:45.78 ID:GS4lQuNU0
- (;^ω^)「……………………」 ξ゚听)ξ「……………………」
内藤と、少女は、互いに見詰め合ったまま沈黙した。内藤としては許容量を超えた驚愕に固
まってしまったため、向こうが黙っている理由まで頭が回らなかったり。
(+゚∀゚)「おい、早く入ってくれないと困る」 Σ(;^ω^)「あ、あ。ご、ごめんだお」
ジョルジュに背中を叩かれて、内藤は漸く我に返った。取り落としそうになったノート類を抱え
直して、自分の席に着く。後ろの席にジョルジュが座る。何時もの形だ。
視線を巡らせる。やや右斜め前に座ったあの少女は、隣の席の友人と何やらお喋りをしてい
る。それは確かに、昨日吸血鬼の魔手から救い出した少女に間違いない。
( ^ω^)「うーん……あんな可愛い子、ウチのクラスに居たかお?」
(;+゚∀゚)「お前……三年生からの付き合いなのに、顔覚えていないのか?」
( ^ω^)「…………覚えていないお。よく考えると数人の顔と名前しか一致しないお」
(;+゚∀゚)「ちょwwwwwおまwwwwwどんだけだwwwwww」
内藤は自分でも、あまり記憶力が良い方だとは思っていない。と言うよりは、興味が無い事
柄に関して、殆ど驚異的なまでに覚えないタチなのだろう、と自己評価。
( ^ω^)「で、あの子は誰だお?」
(;+゚∀゚)「お前…………いや、いいけどさ」
ジョルジュは何かを諦めたような顔で、その少女についての説明を始めた。
- 44 :657
◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:51:18.65 ID:GS4lQuNU0
- 本名はガブリエレ・ツヴァイン・アルボガスト。十八歳。女性。おそらくフランス人。ミドルネー
ムのツヴァインを略し、ツンと言うニックネームで呼ばれている。
( ^ω^)「一年生の頃は居なかった気がするお……」
(+゚∀゚)「三年前に突然転校してきたんだよ。フランス系だって事以外はほぼ全部不明だがな。
何しろあのゴシカルな容姿だし、ファンも結構居るって噂だ」
( ^ω^)「よく知ってるんだお。ジョルジュもそのファンなのかお?」
(+゚∀゚)「俺が惚れるにゃ、若干おっぱいが足りねぇな!」
_ ∩
(+゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
( ⊂彡
| |
し⌒J
( ^ω^)「黙るお、この変態」
(+゚∀゚)「ちぇー。じゃあ、お前はあのぐらいが好みか?」
( ^ω^)「そういう問題じゃないお」
ちらり、とツンの方を見る。彼女は一度内藤の方を見て、またふいっと視線を逸らした。
( ^ω^)「そういう問題じゃないんだお……」
そう呟いた時、甲高いチャイムの音が響いて、担任教師が教室に入って来た。
- 45 :657
◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:52:16.62 ID:GS4lQuNU0
- ――――まぁ、そんなこんなで授業が終わって。
内藤は自分の荷物を纏めると、せかせかと焦るように学校を出て、バス停へと向かった。
(+゚∀゚)「じゃあな、内藤! 夜に工場で会おうぜ!」
これまた陽気に叫びながら、ジョルジュは自前の自転車(MTBモドキ)で帰って往った。
実は内藤とジョルジュは、同じ工場で働いている。まぁ、内藤が生活費を稼ぐための夜勤で
あるのに対し、彼の方は暇潰しを兼ねた小遣い稼ぎと言う話だが。
( ^ω^)「さて、僕も帰ろうk」 ξ゚听)ξ「ねぇ、内藤くん。ちょっといいかしら」
そうしてバスに乗り込もうとした内藤の背に、鈴の音のように綺麗な声が掛けられる。
振り返ると、そこには内藤が気にして止まなかった少女が、腕を組んで立っていた。
(;^ω^)「ツンさん……かお? 僕に何か用かお? カツアゲなら他を当たって欲しいお」
ξ゚听)ξ「そんな訳無いでしょう。話がしたいだけ。こっちに来てくれない?」
( ^ω^)「女の子からデートに誘われるなんて初めてだお。嬉しいお」
ξ///)ξ「そ、そんな訳無いって言ってるでしょ! 誰がアンタなんかと……」
( ^ω^)「それもそうだお。って事は、やっぱり昨日のことかお?」
ξ;゚听)ξ「えっと……そ、そうよ。判ってるなら早くしてよね」
ツンは怒ったような口調でそう言うと、内藤の手を引いてせかせかと歩き出した。
- 47 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 18:53:48.74 ID:GS4lQuNU0
- 内藤が連れて来られたのは、バス停から一ブロックほど言った所にあるレストランだった。特
に何の変哲も無いカフェで、味もウェイトレスの顔も普通(ジョルジュ評価)だ。
ツンがコーヒーを、内藤はシーフードピザとダイエットコーラを注文した。女の方が静かにコー
ヒーを啜っている前で、男がピザに食いつく光景は……まぁ、珍しかった。
( ^ω^)「ハムッ!!ハフハフッ!!ハムッ!!」
ξ;゚听)ξ「ちょwwwwwキメェwwwwww」
ツンにあんまりと言えばあんまりな言葉を投げ掛けられつつ、内藤はあっと言う間にピザを平
らげた。ダイエットコーラの缶を開けながら、ゆっくりとツンに向き直る。
ξ゚听)ξ「そういえば、こうして話をするのは初めてよね、私達」
( ^ω^)「そうかお? 正直言って、僕は君の名前を今日初めて知ったんだお」
ξ;゚听)ξ「えっと、それって……」 ( ^ω^)「でも、今日ジョルジュに聞いて覚えたお」
全く悪びれていない様子で、内藤は一息にコーラを飲み干した。炭酸飲料を一気飲み出来る
と言うのは中々に凄いと思うのだが、拍手は無かった。無念。
ξ////)ξ「ふ、ふん。覚えるのが遅いのよ。もう一年近い付き合いになるのよ?」
( ^ω^)「ごめんだお。でも、話もしない相手の顔なんて、中々覚えられないお」
ξ゚听)ξ「うーん……そういうものかしら?」 ( ^ω^)「そういうものだお」
自分だけだろうが――――と思っても絶対に言わない内藤。
- 48 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 18:54:50.37 ID:GS4lQuNU0
- ( ^ω^)「まぁ、いいお。それで、聞きたい事って何だお?」
ξ゚听)ξ「あぁ……そう、それよそれ。ねぇ、ちょっとこれを見てくれない?」
そう言って、ツンはその長い黒髪を持ち上げて、白いうなじを曝け出した。そこに妙な艶っぽ
さを感じて、内藤の目はついついそこに釘付けになってしまう。
(*^ω^)「凄く……綺麗、です」 ξ///)ξ「な……ほ、誉めたって何も出ないわよ!」
ξ゚听)ξ「じゃなくて。ほら、首のところに変な傷があるの、判る?」
確かに。ツンの言う通り、丁度頚動脈の所に二条の孔が並んでいる。そしてそれは、内藤に
とっては見覚えのある傷だった。昨日の夜にも同じものを見ている。
ξ゚听)ξ「この傷、ってさ……もしかして、最近この近くで起きてる……」
内藤は少し迷って。結局、真実は隠す事にした。知らなくても良い事実は、沢山ある。
( ^ω^)「さぁ…………どうしてそれを僕に聞くんだお?」
ξ゚听)ξ「昨日の事はよく覚えていないわ。けど、あなたが居た事は覚えているの――――お
ぼろげだけど、私を抱えて走っていたのは、あなただったんでしょう?」
内藤は沈黙した。ポーカーフェイスを崩さないようにしながらも、内心で臍を噛んでいる。あの
時、確かに彼女は気を失っていた。まさか自分の姿を見られてしまうとは。
ξ///)ξ「その……た、助けてくれて、ありがとう……」 ( ^ω^)「…………」
ツンの精一杯の礼に対して、内藤は沈黙で答えた。告げるべき言葉が浮かばなかったのだ。
- 49 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:55:42.13 ID:GS4lQuNU0
- ξ゚听)ξ「えっと……怖いのよ、私……本当にアイツが……アレ、なら。普通、逃した獲物をそ
のままにしておくなんて、考えられないでしょう? また狙われるの、怖くて……」
( ^ω^)「……それは大丈夫だお。もうアイツは襲って来たりしないお」
内藤は静かにそう答えて、自分の掌を眺めた。昨日の出来事は夢では無かったのだと言う事
実に、恐怖と不安が無い混ぜになった、名状し難い感情が襲って来る。
人を殴った事も無いこの手が、人の形をしたモノを殺した。それも唯殺したのではない。腕を
引き千切り足をもぎ取り、最後は胴体を真っ二つにすると言う残虐な殺し方だ。
怖いのだ。自分が殺戮者になってしまったのでは無いかと言う恐怖に、背筋が震える。
しかし――――その恐怖を目の前の少女に伝播させる必要は無いと、内藤は考えていた。
ξ゚听)ξ「どうして……言い切れる、のよ?」( ^ω^)「死人は……誰も殺さないお」
内藤はどこか意味深な言葉を呟いて、席を立った。ポケットの中の小銭を取り出し、伝票に
書かれているピザとコーラの代金を、一セントも違わずテーブルの上に置く。
( ^ω^)「今日は君と話が出来て良かったお。仕事があるから、そろそろ往くお」
ξ゚听)ξ「え!? あ、ちょっと! まだ話は終わってないのよ!」
( ^ω^)「僕からはもう話す事は無いお。それじゃ、また明日学校で」
ほとんど突っ放すように言うと、そのまま去っていく内藤。振り返らなかったのは――――ツ
ンを忘れる事で、昨日の惨劇を記憶から消そうと思っての事なのか。
ξ゚听)ξ「内藤……ねぇ、やっぱり、あなたが私を……」
コーヒーに映った自分の顔に呟くツンの声が、店内の喧騒に紛れて消えた。
- 50 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:56:20.88 ID:GS4lQuNU0
- ツンの顔を振り切ろうと殆ど躍起になりながら自宅に帰って来た内藤は、母親の世話を終え
ると、そのまま財布を持って家を出た。既に仕事の時間が迫っていたからだ。
前述した通り、内藤は郊外にある板金工場で働いている。内藤の家の家計は火の車なので、
余裕はあまり無いが……まぁ、それでも少しずつ貯金もしている。
働きに行くと思われる人々が大勢乗ったバスに、揺られる事三十分ほど。寂れた町の外れに
ぽつんと建てられた建物は、車のバンパーなどの板金製品を扱う工場だ。
トタンに囲まれたその建物からは、鉄を焼いたり叩いたりする音が聞こえてくる。内藤はあの
甲高い音は好きだったが、漂ってくる匂いには未だ慣れない。
( ^ω^)「おはようございますだおー」
(+゚∀゚)「おっす内藤! 元気にしてるか?」
工場の中へと足を踏み入れた内藤を、先に来ていたジョルジュが迎えた。その小柄な体躯
に似合わず、重たいトラックのバンパーを幾つも肩に担いでいる。
(+゚∀゚)「なぁ、さっきトムから聞いたんだけどよ。お前、ツンさんと話をしたんだって?」
(;^ω^)「ちょwwwwww情報ハヤスwwwwwありえんwwwww」
(+゚∀゚)「壁に耳在り障子に目在りってな。さ、話は仕事しながら聞こうか」
(;^ω^)「あんまり話したくないんだけど……仕方が無いお……」
内藤は肩を落としながら、作業員用のロッカールームへ荷物を整理しに往った。
- 51 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:57:24.16 ID:GS4lQuNU0
- 結局、内藤は仕事の効率を何時もより八割ほど落として、ジョルジュに事情を説明するのに
神経を使った。そのせいで工場長にこってり絞られたが、それはともかく。
仕事が終わって、内藤とジョルジュは徒歩で家に帰る途中だった。ジョルジュは何時も通り自
転車だったが、今は内藤に合わせて、ペダルをこがずに押している。
(+゚∀゚)「詰まり、お前にもツンさんに誘われた理由はさっぱりわかんねーんか?」
( ^ω^)「そういう事になるお。ジョルジュの期待するような事は何も無いお」
内藤の言葉を聞いて、ジョルジュは首を傾げた。彼には、突然誘われて他愛も無い話をさせ
られたと言ってある。無論嘘だが、まさか本当の事を言う訳にも往かない。
(+゚∀゚)「ま、お前が言うならそうだろ。一応、信じてやるよ」
( ^ω^)「そうだお。大体、僕とツンさんって組み合わせはおかしいって判るお?」
(+゚∀゚)「そうか? 人間の好みなんて、誰にもわかんねーだろ。お前、ガタイはいいし」
自分から話を振っておきながら、ジョルジュはあまり興味が無い様子だった。本人が言って
いた通り、貧乳には萌えないのかもしれない。難儀な性質である。
( ^ω^)「しかし意外だお。ジョルジュは面食いだから、彼女のファンでもおかしくないお」
(+゚∀゚)「そうでもねーよ。大体、ああいう体型の奴なら、毎日鏡の向こうに見てるからな」
何気無いジョルジュの言葉に、内藤は思わず彼の方を見た。確かに服装さえ適切ならば、男
にも女にも見える肉体を持っている。顔立ちも美形だし性格も悪くない。
腕を振り回して変な事を叫ぶのを止め、潜在的に何時も苛められている内藤ホライズンとの
付き合いを止めれば、男女共にかなりモテる容姿であるのは間違いない。
- 52 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:57:53.94 ID:GS4lQuNU0
- 未だに、彼が自分と友人関係を築いた理由が判らない。こうして毎日顔を合わせているから
気付かないが、実際、ジョルジュもツン以上にミステリアスだと思う。
(+゚∀゚)「それじゃ、俺はそろそろ帰るわ。っと、そうだ」
ジョルジュは自転車に跨ろうとして、ふと、思い出したように内藤の耳に口を寄せる。ブルネッ
トの細い毛先が鼻先をくすぐり、妙な感覚になったのは内緒である。
(+゚∀゚)「これは荒巻から聞いたんだけどな……ツンのファンがお怒りの様子だぜ」
(;^ω^)「え……? そ、それってどういう事だお?」
(+゚∀゚)「何時の時代も狂信者はいるって事さ。連中、何するか判らない感じだってよ」
意味が判らない。が、内藤はツンにファンが居ると言う事、ある日突然何の前触れも無く自分
と彼女が二人きりで食事をした事、狂信は暴力的である事を思い出した。
ツンのファンからしてみれば、ぽっと出の苛められッ子が、突如として学園のマドンナとデー
トをしたのだ。自分が彼女のファンの一人でも、面白いとは思えない。
( ^ω^)「僕とツンは何も無いお……そんな事になったら僕だってもっと喜ぶお」
(+゚∀゚)「連中にとっちゃ、彼女に少しでも近づく男は全部敵なんだろーよ。判るだろ?」
それは、好きな女優やスターに恋人が居ると知った時の気持ちに似ている。彼女は自分のも
のではない、のだが。どうしても、嫉妬心を抱いてしまうものだ。
(+゚∀゚)「ま。兎にも角にも、灯りの無い闇の中を歩く時は気を付けな。最近物騒だしな」
あっけらかんと言い放って、ジョルジュは自転車に乗って、自宅への道を帰っていった。
- 53 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:58:50.39 ID:GS4lQuNU0
- 内藤はジョルジュを見送って、自宅への道を重い足取りで歩き出した。
ツンとの出会いに凄まじく神経を遣い、ジョルジュの言葉に不安を感じ、更に今は何処に居る
かも判らないツンのファンとやらの襲撃を警戒しなければならない。
何時も以上に複雑でやる事の多かった一日を終えて、内藤はひどく疲れていた。早々に家へ
帰って、ベッドに転がって眠りたいと願うのは、生物としては当然の事だ。
しかし、時に疲労は判断力を鈍らせる。彼は背後で蠢く者達の気配に気付かず、あるビルの
間の路地に足を踏み入れるまで、自分が包囲された事に気付かなかった。
アスファルトを踏み締めて歩いていた時、突然目の前に何者かの影が立ち塞がった。五メー
トルほど前方に立ったその男は、革ジャンに突っ込んでいたポケットを抜いた。
顔はごつい骨格の上にニキビだらけで、お世辞にも綺麗とは言えなかった。しかし太っている
だけの内藤とは違い、無意味なまでに筋肉質な体躯をしている。
(;゚;ж;゚;)「……おい、お前が内藤か?」
ノイズの混じったバスが響く。男の乱暴で威圧的な態度に、内藤は既に逃げ腰だった。
(;^ω^)「え、あ、そ、そうですお。何か用ですかお?」
(;゚;ж;゚;)「ふん。思った以上に腰抜けみてぇだな……オレらが何者か、判るよな?」
オレ"ら"? と訊ねる前に、路地のあちこちから見知らぬ人影が現れた。何時の間にそれだ
けの数の人間が隠れていたのか。内藤は既にその数の恐怖に言葉を失っていた。
全員、バイクを忘れたバイカーのようなパンクファッションに身を包んだそいつらの濁った瞳
は、誰かを傷つける事を全く躊躇しない下衆の目であった。
- 54 :657
◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
18:59:22.62 ID:GS4lQuNU0
- あっと言う間に二十人ほどの物騒な男達に囲まれた内藤の胸倉を、最初の男が掴む。
(;゚;ж;゚;)「テメェみたいなホモデブ野郎が、何でツンちゃんに近付いてるんだよ!」
(;^ω^).・;'∴「げふぉっ!?」
内藤が何か言う前に、革ジャン男の拳が内藤の顔面に減り込んだ。昨晩の吸血鬼による打
撃よりは幾らか優しいものではあったが、痛い事に代わりは無い。
しかも昨日は戦闘時の昂奮で大量のアドレナリンが出ており、内藤の痛覚は麻痺していた。
だが、今の内藤にそんなモノは無く、痛みは痛みとして内藤を苦しめる。
(;゚;ж;゚;)「何とか言ってみろよ、あぁん? このデブが、このデブが、このデブがァ!」
(;^ω^).・;'∴「ごはっ、ぐふっ、ぐべっ」
ツンとの関係を否定しようとした内藤の腹に、続け様のアッパーが入る。胃液を撒き散らして
昏倒する内藤の背中に、別の男が放った蹴りが直撃する。
内藤は何度も説明の台詞を口にし掛けたが、その度に顔面を蹴り上げられるため、満足に
言葉を発する事が出来ない。或いは、喋らせる気が無いのかもしれない。
――――何なんだ、何なんだこいつら。話ぐらい聞けないのかお……
頭を庇う内藤を、容赦なく痛めつける彼等に、内藤は怒りより先に理不尽を感じていた。
彼等は聞くに堪えない言葉を吐きながら、蹴りや拳を何度も振り下ろしてくる。そこには既に
ツンをたぶらかした男への制裁と言う大義名分は無くなっている。
「ピザでも喰ってろ、このデブ野郎!」 「二度とツンちゃんに近寄るんじゃねぇ!」
何度も何度も殴られる間、内藤は何とか意識を保つだけで精一杯だった。
- 56 :657
◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金)
19:00:15.03 ID:GS4lQuNU0
- 一頻り殴って最早喋る事すらままならない内藤に、自称ファン達の腕が伸びてくる。
彼等は内藤の服に手を掛けると、腕力で、或いはナイフを使って、布を引き千切っていく。殴
る蹴るの暴行では飽き足らず、身包みを剥がして辱めようとでも言うのか。
何とか腕を振って彼等の暴挙を止めさせようとするが、その抵抗はあまりに弱々しく、むしろ
逆に暴徒達の怒りを買って、更なる打撃を叩き込まれるだけとなっている。
(;゚;ж;゚;)「おい、見ろ! こいつ、こんなちょっとしか持ってねーぜ!」
連中の一人が引き裂いた内藤のズボンから、彼の財布を取り出した。あまり高くない安物で
あり、中から出て来たのは十ドル札が一枚と硬貨が何枚かのみ。
これは内藤なりの節約術だった。余計に持たなければ余計に使わないと言う考えから、彼は
必要最低限以上の資金を持ち歩かないようになっていたのである。
それでも、内藤にとっては大切な所持金だった。連中にそれを嘲笑う権利は無い筈なのに。
(;゚;ж;゚;)「賠償金でも払って貰おうと思ってたのによ……シケてやがるぜ、このデブ!」
自分がどれだけ無茶な事を言っているのか、判っているとは思えない口調で言う男が、最早
ぴくりとも動けない内藤の腹に、駄目押しのような蹴りを入れる。
(#^;;ω^)「…………うぅ……………………」
内藤は、気が狂いそうな痛みの中で、かつてないほどの怒りを感じていた。それは昨晩の吸
血鬼との戦いでは得られなかった感覚であり、同時に未体験の感情でもあった。
それは目の前の不良達と、彼等を作り出したツン、或いは暢気に帰宅したジョルジュへの向
けたものであったが、何も出来ない不甲斐ない自分自身への怒りが最も強かった。
殺してやる自分は吸血鬼を殺したのだ弱い者を嬲るしか出来ないこいつらなんて本気になれ
ば殺してやれるそうだともこいつらは強くない強いならこんな真似はしないこんな下衆は死んだ
方がいいんだちくしょう殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる――――
- 57 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:00:52.18 ID:GS4lQuNU0
- (;゚;ж;゚;)「お? なんだぁ、デブ野郎?」
がくがくと足を震わせながら立ち上がってきた内藤に、連中が嘲笑を浴びせる。
(;゚;ж;゚;)「まーだ殴られたりねぇのか。マゾいな。変態過ぎるぜ」
(;゚;ж;゚;)「こっちだって殴り疲れてんのによー。面倒だったらありゃねーよ」
雑音が聞こえる。ぶんぶんと、まるで耳元で羽虫が舞っているような、耳障りなノイズ。
既に内藤は、彼等の言葉を聞いていない。ひたすら、呪文のように呪いを吐いている。
(#^;;ω^)「コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコ
ロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコ
ロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル――――」
連中が顔を見合わせた。確かに、傍目に見れば内藤の精神が壊れてしまったようにしか見え
なかったし、実際、この時の内藤はまともな精神状態とは言えなかった。
だが、彼等は誰一人として気付かない。開かれた内藤の右手が、白く輝き始めた事を。
内藤の右手が持ち上がる。何も握られていない掌。しかし、そこに今、力が――――
- 58 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:01:52.31 ID:GS4lQuNU0
- ( ,' 3 )「おい、お前等。いい加減にしろよ」
静かだがよく通る、低い男の声がした。叫んだ訳でも脅した訳でもなく、しかしその場に居た
全員が、思わず動きを止める程度のプレッシャーを備える声だった。
まず真っ先に、正気を取り戻した内藤が振り向く。一拍遅れて、他の者達もそちらを見た。
立っていたのは、黒い男だった。黒いロングのレザーコート、黒い肌、黒い髪に黒い靴。眼に
はサングラスを掛けていて、頭の天辺から爪先まで完膚無きまでに黒い男である。
( ,' 3 )「全く、最近の若いのは下衆で困るな。リンチなんて今時流行らないぞ?」
言いながら、黒い男は呆然と立ち尽くす内藤の傍まで――――まるで彼を取り囲む狂信者
達の姿が見えていないかのように――――歩いてくると、その身体を肩に担いだ。
そのままひょいひょいと。黒いコートの裾を翻すような軽い足取りで、彼等の間を擦り抜けて
いく。そうして、黒い男はあっと言う間に路地の向こう側に辿り着いた。
( ,' 3 )「こいつは借りていくぜ。じゃあな」
言った黒い男が踵を返す。そこで我に返った彼等の一人が、懐から銃を抜いた。四十五口径
のコルトガバメント。直撃すれば、唯では済まないだろう。
(;゚;ж;゚;)「ふざけんじゃねぇぞ、このにg」 (;゚;ж;゚;)「…………!」
最初に内藤を殴った革ジャンの男が、その手から銃を奪い取った。そして無言のまま、黒い
男の胸元に照準、何の躊躇いもせずに七発の銃弾を全て叩き込む。
男の胸に着弾した四十五口径のホローポイントが、男の身体から鮮血を噴き出し――――
はしない。それどころか、彼は僅かに身体を揺らしただけで衝撃に耐えた。
- 59 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:02:36.98 ID:GS4lQuNU0
- ( ,' 3 )「……ふん。狙いが甘いぞ、次は頭を狙うんだな」
黒い男は内藤を抱えていない方の手で、コートの胸元を軽く肌蹴た。上半身にややバラつい
て着弾した銃弾は、肉体を穿つ事無くぼろぼろと地面に零れていく。
コートの内側に着込んだジャケットは、殆ど鎧か装甲のようになっていた。当たった際に甲高
い金属音がしたぐらいなのだが、無論、そんな重い物を着る莫迦は普通居ない。
( ,' 3 )「じゃあな。もしも追ってきたら――――半殺しにしてやる」
黒い男は呆然とする自称ファン達を置き去りにして、路地の向こうに消えていった。
(#^;;ω^)「あ、あの、すいません……もう歩けますから」
暫く歩いてから内藤が声を掛けると、「そうか」と言ってあっさりと彼を解放した。突然の事だっ
たのでバランスが取れず、その場に尻餅を着く形になる。
(#^;;ω^)「あ、あ、あの、あ、あり、ありがとう、ご、ございますお……」
( ,' 3 )「礼には及ばん。しかし、まぁ……命を粗末にしてはいかんよな」
(#^;;ω^)「は、はぁ……そ、そうですお。すいませんだお」
内藤が謝ると、男は「違う違う」と手を振った。一度後ろを振り向き、彼等が追って来ていない
事を確認する。見た目は怖いが、中々に用心深い。
( ,' 3 )「オレが言ったのは、あいつらの事さ……殺す積もりだったんだろう?」
そう訊ねられ、内藤は言葉を失う。正しく、男の言う通りだったからだ。
- 60 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:03:28.06 ID:GS4lQuNU0
- 男は尻餅を着いた内藤の傍らの壁に、ゆっくりと背中を預けた。懐から取り出した煙草に火
をつけて吸う。薄暗い路地裏に、メンソールの香りが漂う。
( ,' 3 )「まぁ、連中もひどい事はしていたから、自業自得と言えなくも無いが、だ」
ふぅ、と紫煙を吐き出しながら、黒い男は半分独り言のように言ってくる。
( ,' 3 )「何も殺す事は無いだろ。そんな事をしても、楽しい事は何も無い。違うか?」
(#^;;ω^)「は、はぁ……確かにそうですお……」
男の言葉に頷きながら、内藤は自分の掌を見詰めた。最近、自分の手を見る事が多い。
しかし、自分は素手で何をしようとしていたのだろうか。魔法でも出す? そんな莫迦な。それ
でもこの人がそういうからには、相手を殺せる何かを放とうとしたのだろうか。
あの時の自分は、完全に通常の人格から分離していた。普段は人一人殴るのにも抵抗を覚
えるような内藤が、目の前に居る全員を殺したいと自然に考えていたのだ。
確かに黒い男が割り込まなければ、あの場に居た自分以外の全ての生物が死んでいたであ
ろうと言う奇妙な――――根拠の無く――――しかし絶対的な――――確信がある。
戸惑っている内藤を暫く見ていた黒い男は、す、とそのグローブのような手を差し出した。と言
うか、よく見たら真っ黒い革の手袋で覆われていたのだが。
( ,' 3 )「オレの名はブレイド。本名じゃなくて悪いが、よろしくな」
(#^;;ω^)「あ、ぼ、僕は内藤ホライズンだお……こちらこそよろしくだお」
内藤はびくつきながら、その手をしっかりと握った。一瞬、その背中に何か刀の柄のようなも
のが見えた気がしないでもないが、内藤は見なかった事にした。
- 61 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:04:12.24 ID:GS4lQuNU0
- ( ,' 3 )「……つっても、このままやられっぱなしってのも、何か癪だろう」
男――――ブレイドはそう呟いて、ごそごそと懐を探った。ポケットの中から無造作に出て来
たのは、プラスチックかセラミック製と思われる三段警棒だった。
( ,' 3 )「ああいう卑怯者達には、こんな武器ぐらい使ってもバチは当たらない」
(#^;;ω^)「え、こ、こんなものはいただけないおっ!」
( ,' 3 )「キニスンナ。拾い物だが、捨てようと思ってたんだ。貰って置けよ」
ブレイドは内藤の掌に強引に警棒を握らせると、壁から背中を剥がして立ち上がる。
( ,' 3 )「もう大丈夫だろう。オレはもう往くけど、一人で帰れるな?」
(#^;;ω^)「あ、は、はい。判りましたお。本当に、ありがとうございますお」
そのまま路地の向こうに消え掛けたブレイドは、立ち止まって、思い出したように言った。
( ,' 3 )「……夜中の外出は控える事だな。でないと……吸血鬼に襲われるから」
(#^;;ω^)「――――え? それって、どういう……」
訊ねようとした内藤は、しかしブレイドの姿を見付けられず、言葉を飲み込んだ。
暫く黒い恩人の姿を探していたが、諦めて一度かぶりを振ると、警棒をポケットに突っ込んで
歩き出した。もう二度と会う事は無かろうと思いつつ、もう一度会いたいと願って。
- 62 :657 ◆2hwVANPeHc :2006/03/17(金) 19:04:55.50 ID:GS4lQuNU0
- ( ,' 3 )「……これで良かったのか?」
去っていく内藤をビルの上から見下ろしながら、ブレイドは無表情に訊ねた。
(?????)「えぇ……あまり良くない手ではありましたが、これで確証が持てました」
それに答える相手は、ブレイドと似たコートを着た小柄な影で、顔はフードに隠れて見えない
のだが、声の質から昨晩内藤を助けた杭撃ち銃の黒コートと言う事が判る。
( ,' 3 )「しかし、あんな臆病な奴がなぁ……どうしてそんな事が判ったんだ?」
(?????)「"彼等"は……そして"俺達"は、対になる相手が必ず同時に生まれるんです。メキシコ
で滅ぼされた子の出生時刻とぴったり重なるのは、彼だけですからね。それでもそんな状況証
拠だけでなく、きちんとした物的証拠が欲しかったのですが……」
ちらり、と下を見る。既に暴徒達も去った後だったが、彼はそこに顔をぼこぼこにされながら
立ち上がり、エーテルを纏わせた右手を持ち上げる内藤の姿を幻視していた。
(?????)「先ほどのでよく判りました。あんな真似が出来るのは、"俺達"ぐらいです」
ブレイドは嘆息と共に紫煙を吐くと、吸殻を足元に捨て、踏み潰して揉み消した。
( ,' 3 )「……判っていると思うが、あいつはそれだけじゃない。監視は怠るな」
(?????)「重々承知しています。彼の精神構造は、若干"あちら側"に近いですから。慎重に扱う
つもりです――――えぇと、それでは、私はこれで失礼します」
少年が答えた瞬間、強い風が舞い上がり――――二人の姿は、跡形もなく消えていた。