629 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:16:24.17 ID:yDWVaCRG0
 ――――西暦二○○五年、十二月二十四日、午前十一時四十五分。


(*)^ω^)「ハム! ハフハフッ! ハムッ! このハンバーガー美味いお!」

(+゚∀゚)「そりゃそうだ。俺が挽肉から作った牛百パーセントのハンバーグと、これまた自家製の
パン! 無農薬とは言わないが、微農薬のトマトで作ったケチャップだぜ?」

 運転席で決行の時を待つジョルジュの後ろで、内藤は手作りのハンバーガーを頬張った。噛
む度に肉汁の飛び出るそれは、マックのバーガーとは比べ物にならない。

(*)^ω^)「こんな美味しいバーガーは喰った事が無いお!」

(+゚∀゚)「アメリカ人は料理がトチ狂ってるからなぁ……味覚壊れてないのに、勿体無ぇ」

 これでも、先刻まで何も喰いたくないと言っていたのである。それをここまで沸かせるジョル
ジュの料理が、どれほど美味いかと言うのは筆舌に尽くし難い。
 内藤はここ最近、食堂の太った親父とジョルジュの作った料理しか喰っていない。だが、む
しろここ数年前よりも、身体の状態はずっと良くなっている。

 ジョルジュは作戦行動に出ている時以外は、大抵厨房に立っている。何処で覚えたのかそ
の腕前は大したものだった。レシピのストックが無いのでプロとは呼べないが、栄養バランス
と味を考えて作られた食事が、疲れたアメリカ人の身体を癒しているのは確かだ。
 それでなくても、外見が愛らしく性格も良い……とは言えないが厭味な所の無いジョルジュ
は、石鹸工場のマスコットのような存在になっている。これで鬼のように強いと来たら、これ以
上無いぐらいの完璧超人と言って良いだろう、とはブレイドの談だ。

 まぁ、内藤にとっては今でもあの「おっぱいおっぱい」のジョルジュなのだが。しかし、最近彼
のその挙動を見ていないから、矢張り石鹸工場の彼が本当なのだろう。


630 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:17:15.43 ID:yDWVaCRG0
 儀式が実行される直前の日、これ以上待てないと言うギリギリのタイミングで、内藤達はそれ
ぞれのポイントについていた。昼に作戦を行うのは、対吸血鬼戦の基本である。

 儀式が始まるのは二十五日だが、彼等が二十五日の明朝にこれを行う予定であるのは、誰
もが承知していた。だから、連中が確実に中に居る前日を狙ったのである。
 空は青く澄み渡っており、時刻は午前十二時になる直前。作戦開始時刻は十二時ジャストと
決められていたから、昼飯を喰う内藤は実際かなり切羽詰っている筈だ、が。

( ^ω^)=3「GLUP! ご馳走様だお!」

 ハンバーガーを包んだ紙を投げ捨てる内藤の横で、ジョルジュが主への祈りを捧げる。

(+-∀-)「天にまします我らの父よ、願わくば御名の尊まれん事を」

 御国の来たらん事を。御旨の天に行なわれる如く、地にも行なわれん事を。
 我等の日々の糧を、今日も我等に与えたまえ。我等が人に赦す如く、我等の罪を赦し給え。
 我等を試みに引き賜り、我等を悪より救いたまえ。国と力と栄光は、限り無く貴方の物。

(+゚∀゚)「……アーメン」

 閉じられていた赤い瞳が、ゆっくりと開かれる。既に何度も聞いているが、これだけの長文を
苦も無く唱えられるジョルジュに、少しばかり感心していた。

( ^ω^)「ふーん……ジョルジュって、実は結構凄いのかお?」

(+゚∀゚)「適当だけどな。あ、今の、食後の祈りと一緒にこれからの事も祈ったから」

(;^ω^)「そんなついでみたいなのでいいのかお?」

(+゚∀゚)「いーの。それに、こんなのは気休め以下の景気付けだし」

631 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:17:50.83 ID:yDWVaCRG0
 よく映画では「教会の教えなんて役に立たない」と言うが、それは嘘らしい。無論、大抵の聖
職者が行う聖行は効果を為さないが、強力な信仰心を持った者や、何らかの形で信仰を補強
している者は、その力で以って悪魔や吸血鬼に対する効果があるのだと言う。
 ジョルジュはヴァチカン直参の聖職者であり、彼の力は敬虔な神父の祈りに匹敵する。それ
はあのラウンジビルの闘いで、彼が放つ銃弾が大量の聖光を纏っていた事からも判る。

 人間を相手にする場合なら兎も角、吸血鬼と言う主に祝福されないバケモノ達を相手にする
なら、これ以上の味方は在り得ない……内藤はそれを、頼もしく思う。


 内藤達が乗るハンマー(軍用払い下げ)が停めてあるのは、周りを家屋に囲まれた古いアパ
ートの正面だった。当然、周りの家屋も含めて、人間の姿は全く見当たらない。日差しは当た
るが何処もかしこも目張りがしてあり、吸血鬼の気配だらけで、何が何やら判らない。

 座標を細かく確認して言った結果、目的地へ続く経路の入り口があるのは、この場所に違い
ない。正確にはここから地下に往った場所らしいが、あのアパートの中に入って、入り口を探
さなければならないのは同じだ。内藤は突入を考えて緊張していたのだが……

(+゚∀゚)「作戦開始まであと数分……さてと、今の内に準備でもしておくかな」

 ジョルジュは気軽な調子で車外に出ると、後ろのトランクを開けて中からあのゴルフバッグを
取り出した。何を詰めるのかは見ていないが、どうせライフルやら刀やら色々入っているのだ
ろう。ジョルジュはそれを傍らに立て掛け、何か巨大な包みを取り出す。

 抜き出されたそれは、何か巨大な鉄パイプのようなものだった。無論、そう思ったのはシルエ
ットだけで、周囲には何やらグリップや照準装置が付けられている。

(;^ω^)「って、それ、もしかしてRPG-7かお!?」

(+゚∀゚)「おうよ。ここら一体封鎖してもらったから、全部吹っ飛ばそうと思ってな」

632 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:18:40.33 ID:yDWVaCRG0
 U.S.S.R. Rocket Propelled Grenade 7――――旧ソ連が六十年代に開発した、個人携行が可
能な肩付け式のロケット推進式榴弾砲である。その構造はパンツァーファウストのソビエト版で
あるRPG-2に改良を施し、命中率と射程の向上を図った物とされる。
 弾頭と発射器の二つで構成され、弾頭発射後は発射器に再度弾頭を装着する事で何度も発
射可能。弾頭も、目的に応じて榴弾や対戦車成形炸薬弾などが用意されている。

(;^ω^)「だ、大丈夫なのかお……誰か人間とかに当たったら大変だお」

(+゚∀゚)「こんな場所に人間が居るのか? 悪いが、俺は何も感じないぜ」

 一瞬、人間なんてどうでも良いと言ったのかと錯覚したが、どうやら額面通りの意味は無い
らしい。ジョルジュは内藤よりも優れたクルースニクであるのか(本人曰く「お前が慣れていな
いだけだろ」との事)、吸血鬼以外の存在も"嗅ぎ取る"事が出来るのだ。

(;^ω^)「ジョルジュがそういうなら、大丈夫だと思うけど……」

(+゚∀゚)「何を暢気に構えてんだ? 運転するの俺なんだから、お前が撃つしかねーだろ」

(;^ω^)「mjsk」 (+゚∀゚)「マジでマジで」

 救いを求めるようにジョルジュの顔を見るが、どうやら本気らしい。内藤は眩暈がした。

(;^ω^)「な、何だか突然現実感が無くなって来たお……」 (+゚∀゚)「元からねぇだろ」

 元々軍用車両であるハンマーの上には、機銃などを撃てるようにルーフが空いている。ジョ
ルジュは、どうやらここから顔を出してRPG-7を撃てと言っているらしい。確かに内藤には車
を運転するようなスキルは無いから、消去法で撃つのは自分になるのだろうが……

 逡巡する内藤の横で、ジョルジュは既に予備の弾頭まで用意していた。じーざす。

633 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:19:02.20 ID:yDWVaCRG0
 ジョルジュが取り出したのは、中心の膨らんだ対戦車成形炸薬弾では無く、赤い空き缶から
棒を伸ばしたような、対歩兵用/市街戦用のサーモバリック弾頭だった。燃料気化爆薬を発展
させたもので、長時間持続する衝撃波と高温によって人員や施設に被害を与える。

 これが六発ある。そして、アパートの階層も六……詰まり、ジョルジュはこれで中に居る吸血
鬼を全て焼き殺してしまう腹積もりらしい。容赦は、欠片も無い。

(+゚∀゚)「後方確認よーし、左右確認よーし。何時でもいいぜ」

 そうしてジョルジュがRPG-7を持つ内藤の後方を確認したのは、このランチャーが強烈な後
方爆風を噴き出すからだ。説明書では、後方四十五度、三十メートルが危険域である。

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待つお……まだ装填してないお」

 内藤は大慌てで弾頭を本体に押し込み、照準装置を持ち上げた。これで、後は安全装置さ
え外せば、何時でも撃てるようになっている。当たるかどうかは別として。



 そうして、内藤達はその時を待ち――――


                            時計の時針が、十二を差した。



(+゚∀゚)「Let's start our party!!」

 ジョルジュの掛け声を合図にして、内藤はRPG-7のトリガーを弾いた――――

634 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:19:37.59 ID:yDWVaCRG0

( ゚∀゚)「始まったな。全く、待ちくたびれちまったぜ」

( ,' 3 )「そのようだな……往くか」

 赤いコートを靡かせた銀髪の男と、黒いコートを着込んだ黒人の男が、寄り掛かっていた車
から背を離した。その両手がコートの裾を捲り上げ、各々の得物を取り出す。

 ダンテの用いるは黒白の二挺拳銃、四十五口径の芸術家の残した遺作、双子の銃。

 ブレイドが握り締めるは形の違う二挺の短機関銃、かつての相棒が作った殺戮機械。


( ゚∀゚)「しっかしなー……お前と組むぐらいなら一人で行った方が気楽なんだがな」

( ,' 3 )「何度も繰り返すな。俺だってお前と一緒に戦うのは願い下げなんだ」

 それぞれ携えて二人が歩いていくのは、打ち捨てられた古い劇場。その中から漂ってくる無
数の気配を前にして、石鹸工場史上もっとも仲の悪い二人が嗤う。

( ,' 3 )「フン。まぁいい……付いて来れるか、ハーフブリード」

( ゚∀゚)「冗談。お前がついて来いってんだ、クソッタレのニグロが」

 駆け出す二人の銃が同時に吼え、突き破った弾丸がバケモノ達に悲鳴を上げさせる。

 劇場の扉を蹴り開けた役者達は、演壇に登る前に観客を薙ぎ倒す積もりのようだ。

635 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:20:19.62 ID:yDWVaCRG0
 大上段から叩き付けるように振り下ろされたガンブレードが、迫って来たヴァンパイアを脳天
から股間まで真一文字に切り裂いた。瞬間、既にそれは灰燼と化している。

(*゚∀゚)「うーん、今宵のコテツは血に餓えておるわ!」

 新しい玩具を手に入れた子供のように、レインは教会から供与されたガンブレードを振り回し
ていた。聖句を刻まれた刀身は、それだけで一級の概念武装として機能する。

(*゚ー゚)「それコテツじゃないし……ほら、ちょっと避けて」

 呆れたように言ったトリッシュが、白銀の銃を握る手で、レインに身体を傾けるように指示する。
射線が空くと同時にもう一挺の漆黒の銃が持ち上がり、一度の三匹の喰人鬼を屠る。

(*゚ー゚)「埒が明かないわね……レイン、飛んで!」 (*゚∀゚)「りょーかい!」

 トリッシュが叫ぶや否や、レインの身体が物理法則を無視したように飛び上がる。直後、トリ
ッシュは背に負っていた雷鳴の大剣を、文字通り放り投げて見せた。
 銃弾が雨ならば、大剣は嵐かカマイタチに近い。その刃に触れる度に、人の形をした動く死
体達が肉塊と崩れ落ちる様は、凄惨と言うよりは矢張り爽快だ。

 辛うじてその刃から逃れた喰人鬼が、無手のトリッシュに襲い掛かろうとするも、

(*゚∀゚)「私を忘れるんじゃないわよ、ってね!」

 上空から落ちて来たレインのガンブレードが、たちまち生存者達を卸していく。

 暴れさせてはいけない女の比較的上位に居る彼女達が、その力を如何無く発揮するのだ。
 この場に居る者達がその刃と銃口から逃れ得る方法など、この世の何処にも存在しない。

636 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:20:57.11 ID:yDWVaCRG0

 ドアを蹴り開けた秋山ノブの目前に、数え切れない量の喰人鬼が犇いていた。

( `Д´)「うっへぇ……これだけ数が多いと、正直、やる気も萎えるぜ」

 肩を竦めるウルフカットの青年に、随伴者は居なかった。ノブは目前で口を開ける喰人鬼の
顔面にコルトガバメントの銃口を突き付け、無造作に銃爪を弾いた。

 撃ち出されたのは、吸血鬼とその眷属に効果を為さないと言われる鉛の弾丸である。だが、
その銃弾は本来有り得ない力を伴い、照準された喰人鬼のみならず、その背後に居た別の喰
人鬼を二匹喰らっている。それが詰まり――――ノブの"力"なのだろう。

( `Д´)「さーて。来いよ、オルトロス」

 左手に掲げられたのは、一見すると携帯電話に見える端末だった。少しその筋に詳しい者が
見れば、それがどの会社でも発売されていない機種である事に気付いただろう。

 液晶画面に奇妙な文様が浮かび上がり、やがてそれは携帯電話から投射され、何も無い空
間に光の線を紡ぎ出す。血みどろのこの場には相応しくない、幻想的な光景。

 やがてその場に、硫黄の息を吐く巨大な魔獣が現れていた。金色の鬣を靡かせるそれは、一
見すると獅子のように見える上、同じ形をした頭が二つあり――――即ち、ソレがこの世界の
何処にも存在しない獣である事は、誰の目から見ても瞭然である。

( `Д´)「往こうぜ、相棒」

 太い笑みを浮かべるノブに、黄金色の魔獣が答え――――殺戮の嵐が始まろうとしていた。

637 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:21:40.77 ID:yDWVaCRG0
(;゚д゚)「のおおおぉぉぉぉぉっ」 (;゚Д゚)「うひゃああああぁぁっ」

 顔の違う双子の処刑人が、手にしたH&K MP5F短機関銃を、矢鱈滅法に撃ち捲る。明らかに
狙っていないのにその銃弾が命中するのは、彼等も一応一端の騎士であるためか。
 彼等に割り振られた場所はマンホールから入る下水道だった。狭い通路での戦いは、武器を
持たない連中が相手の場合、少数で単体の戦闘能力が低い彼等でも分はあると思ったのだ。

 だが、相手がこちらの予想を上回る数であった場合は別だ。目測でも二十倍ぐらい。

(;゚д゚)「なンッッだこれ! なンッッだこれ! ざっけんな、数多すぎ!」

(;゚Д゚)「何処のサム=ライミだ!? って、コ、コナー! 後ろ、後ろ!」

(#メ・∀・)「ギャーギャーうるせえぞ! いいから黙って撃ち捲れ!」

 若い二人をカヴァーするように、フリッツ=ハールマンのM4A1が吼える。適当に撃っている
(ような)マクマナス兄弟と違って、彼の射撃は正確で冷静だ。

(#゚;;-゚)「……莫迦ばかりだな。どうしてこいつらが生き残ったんだろう」

 肩を竦める日向夕介は、右手の義手を軽く握り込み、突き出した仕込み刀を振り向き様に薙
いだ。背後から襲い掛かろうとしていた喰人鬼が、頸を斬られて崩れ落ちる。
 かつて東京の夜を支配していた吸血種「夜刀の神」――――これを滅ぼした片割れである夕
介が、殿を務めるのは自然な成り行きだ。目の前のコントを否応無しに見るのを除いて。

(#゚;;-゚)「まぁ、いいさ。仕事は仕事、俺はやる事をやるだけだ」

 SPAS15セミオートショットガンを構えて、夕介は詰まらなさそうに銃爪を弾く。

638 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:22:11.21 ID:yDWVaCRG0
(;^ω^)「おおおおおおおおっ!?」 (;+゚∀゚)「あはっ、あははは、はははははっ!」

 狂ったように笑い続けるジョルジュの上で、内藤は四発目の弾頭を発射部にセットした。

(;+゚∀゚)「内藤ォ! 四階にMG42だ!」 (;^ω^)「り、了解だお!」

 言われた通りの場所に照準を合わせ、トリガーを引く。サーモバリック弾頭は、噴射煙の帯
を引きながらアパートに向かっていき――――着弾、凄まじい爆発を起こした。
 目張りされていた窓から大量の炎を噴き出し、そこから炎に包まれたテーブルや椅子、ベッ
ドなどの家具、果ては明らかに人間の形をしたモノが落ちて来る。無論、中に居るのは吸血鬼
や喰人鬼である訳だから、外に出た途端、日光に焼かれて灰になるが。

(;+゚∀゚)「ブラァァヴォオオォッ!」 (;^ω^)「ちょwwwwwアブナスwwwwww」

 内藤達が一発目を発射して一階を破壊した途端、アパートや周りの廃墟から大量の銃弾が
撃ち込まれた。車内のジョルジュは兎も角、内藤には生きた心地がしない。
 おまけに最初は拳銃弾や小口径ライフル弾程度がぱらぱらと断続的に当たる程度だったが
、何時の間にか連続する機銃弾などに代わり、気の抜けない状況になっていた。
 にも関わらず、ジョルジュはげらげらと笑い続けていた。真逆、狂ったのか――――思わず
そう思った内藤だったが、目尻に涙が浮かんでいるのを見て、どうやら本人なりにこの絶望的
な状況で己を奮い立たせようとしているらしく、声も掛けられなくなった。

(;^ω^)「さ、最後の弾頭だお! 一階を狙うお!」

(;+゚∀゚)「よっしゃあああぁぁっ! ぶちかませ、内藤おおおぉぉっ!」

 ジョルジュが凄まじいハンドル捌きで辺りから撃ち込まれる銃弾を避けつつ、四回ほど横に
回転してから目標のアパートを正面に捉えた。一瞬、時間が止まったような錯覚を覚える。

 内藤はその止まった時間の中で、アパートの一階にぴたりと照準を合わせ――――

639 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:22:35.93 ID:yDWVaCRG0
Σ(;+゚∀゚)「内藤、待て! 右手の廃屋にゲパード!」 Σ(;^ω^)「!!!!!!!」

 ジョルジュの叫び声を聞き、その照準を右手方向に合わせた。クルースニクとして強化され
た眼球が捉えたのは、巨大な五十口径対物ライフルの銃口。

(;^ω^)「のおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ」

 発射。前方から叩きつけるような反動と共に、発射された弾頭が指定された家屋に直撃、内
部に居た吸血鬼達を焼き尽くし、或いは焼き出して行く。

(|||^ω^)「お、お、お…………」

(;+゚∀゚)「あ、危なかったなー」

 内藤のやや右手側に五十口径弾が着弾していた。焼夷弾では無かったのか、車内が焼か
れた様子は無かったが……だが、ジョルジュはむしろ慌てた顔をしている。

(;+゚∀゚)「やべぇ、ガソリン漏れてる」 Σ(;^ω^)「mjsk!!!!!?????」

 ジョルジュの手元には、明らかに異常な速度で減っていくガスメーターがある。

(;+゚∀゚)「かくなる上は……内藤、一度中に戻れ! このまま突っ込むぞ!」

(;^ω^)「ちょwwwwwwおまwwwwww」

 内藤が返事をするより先に、ジョルジュがアクセルを踏んでいた。ぐん、と言う加速と共に内
藤の手からRPG-7が離れていったが、既にアパートは眼前に迫っている。

(;+゚∀゚)「掴まれえええぇ――――――――っ!」

640 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:23:08.52 ID:yDWVaCRG0
 がくん、と言う衝撃と共に、車内の二人の身体が揺れる。ジョルジュの操るハンヴィーはアパ
ートの中に突っ込んで、そこで迎撃をしていた吸血鬼を二匹轢き殺した。

 ……一瞬の静寂。ジョルジュより先に身体を起こした内藤が、辺りを見回した。

 埃が降り積もり、足元は崩れた漆喰の破片が転がっている。何処からどう見ても、人が住ん
でいるとは思えない廃墟である。そこに吸血鬼とかさえ居なければ。

(;^ω^)「じ、ジョルジュ……?」 (;+゚∀゚)「おー、生きてるぞー……」

 運転席に座るジョルジュが、頭を振りながら起き上がった。怪我をしている気配は無く、

(;^ω^)「うわあぁぁあっっ!」

 ばん、と言う音と共に、内藤の眼前に牙を剥き出す吸血鬼の顔がドアップになった。そいつは
車のフロントガラスに阻まれて、内藤に襲い掛かる事が出来ない。
 吸血鬼がガラスを叩き割ろうと片手を振り被り――――心臓を剣先で貫かれて灰になる。

(+゚∀゚)「騒ぐなよ、内藤。こういうのはクールに往くもんだぜ?」

 隣に座っているジョルジュが、十字架を模していると思しき細身の剣を、フロントガラスに――
――正確には、その向こうに居た吸血鬼の身体を突き刺している。

(;^ω^)「あ、ありがとうだお……その剣、何だお?」

(+゚∀゚)「教会の武装だよ。黒鍵って言う摂理の鍵……基督教徒じゃないと心臓以外に刺しても
効かないから、そんな物欲しそうな顔をしてもお前にはやらない」

 だったらどうしてソレを使うのかと疑問に思いつつ、内藤は車外に出た。

641 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:23:36.92 ID:yDWVaCRG0
 強引に車のドアを開けて(ジョルジュは蹴り飛ばして壊した)外に出た内藤は、自分達を取り
囲む喰人鬼の数に、思わず身震いがした。その数、十や二十では足りまい。

(+゚∀゚)「内藤、こいつを使え!」

 車の向こうから飛んで来た鉄塊を受け取る。それはラウンジビルでジョルジュが振り回して
いた、ダットやレーザーを取り付けた軍用のM4A1カービンだった。
 受け取って、セイフティを外し様、銃爪を弾く。立て続けに放たれる5.56mm×45弾が、部屋か
ら出て来る喰人鬼達を薙ぎ倒す。鴨撃ちとかシューティングゲームのようだ。
 喰人鬼の群れを抜けて、吸血鬼が襲い掛かって来るのが見える。数日前までは捉える事す
ら出来なかったその動きも、今では何とか追い付ける程度に判っていた。
 しかし、放っておく。何時でも対処出来るから、目前まで来た瞬間に倒してやればいい。
 そう思っていた内藤の真横から、突然喰人鬼の腕が突き出し、手にしたライフルを掴んだ。

(;^ω^)「し、しま」 (+゚∀゚)「あーらよっと」

 振り払おうとする内藤の目前を、ジョルジュの握るグロック17が通過した。ダン、と耳に残る銃
声を発して、喰人鬼の腕がだらりと垂れ下がり、動かなくなる。

(+゚∀゚)「来るぞ、内藤!」 (;^ω^)「ま、任せてくれだお!」

 喰人鬼の群れを盾にしていた吸血鬼が、漸う内藤達の居る方に襲い掛かって来た。内藤は
左手のセイフティを外し、拳を握り込み――――突き出す。ぞぶり、とあまり好ましくない手応
えと共に、耳を弄する悲鳴が響く。顔を上げると、苦悶の表情を浮かべる吸血鬼が。
 そう思った次の瞬間には、既に吸血鬼は灰と化していた。その命の残滓を感じる暇も無く、内
藤とジョルジュは手にした銃を撃ち鳴らし、遅い来る喰人鬼達を殺していく。

(+゚∀゚)「さぁて、皆々様方。ようこそ、この素晴らしき殺戮空間へ――――」

642 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆Vampja/kBo :2006/03/19(日) 16:24:51.24 ID:yDWVaCRG0
 ジョルジュがそんな台詞を口にしながら、コートの内側から十字架を模した長剣――――黒
鍵を取り出す。投げて、取り出し、投げて、取り出す。銀光は哀れな喰人鬼達を屠り、燃やして
潰して灰にする。銃弾と黒鍵の雨に襲われて、喰人鬼達は壊滅していく。

(+゚∀゚)「内藤、あったぞ! 多分あれで下に往ける!」

 黒鍵を全て撃ち尽くしたジョルジュが、ベネリを撃ちながら叫ぶ。見ると、銃弾だか先刻の爆
撃だかで壊れた壁の向こうに、不自然なまでに綺麗な鉄扉が見える。
 ジョルジュの援護射撃を背中で聞きながら、壁を完全に叩き壊して中に入る。扉には鍵が掛
かっていたが、内藤は容赦なくM4A1のトリガーを引いて、その扉を破壊した。
 扉を開いた先には、薄暗い非常灯に照らされた階段が続いている。先は暗くて見えない。

(;^ω^)「入るお、ジョルジュ!」 (+゚∀゚)「よっしゃ! 喰らえ、喰人鬼共!」

 内藤が階段に入るのを確認したジョルジュが、扉に入ろうとして、反転、懐から何かを取り出
した。空き缶のようなソレのピンを抜き、喰人鬼達の只中に思い切り投げ付ける。

(+゚∀゚)「何ボーッとしてんだ! 早く逃げるぞ!」

 ジョルジュが叫びながら扉を閉め、内藤の横を擦り抜けて階段を下りていく。ジョルジュの投
げ付けたモノが何かを思い出した内藤は、慌ててその後を追った。



 ――――――――数秒後。

 喰人鬼の只中で爆発したテルミット手榴弾が、その場に居た喰人鬼達を焼き尽くし、更にハ
ンマーから漏れていたガソリンに引火し、最後の爆発を起こした。
 爆薬でも積み込んであったか、その爆風はその付近にあった吸血鬼の住む建物の殆どを根
こそぎ吹き飛ばし、翌日の新聞に「新手の自爆テロ!?」と言う見出しを作る事になる。
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