379 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:29:43.60 ID:n4Y0plzf0
 内藤とツンが豪勢なリムジンで連れて来られたのは、ツンの住んでいたビルに負けずとも劣
らない背の高いビルだった。五十階は悠にあるであろうそれが、吸血鬼の住みかであるなん
て――――恐らく、誰も気付くまい。現に、誰も気付いていないのだから。
 ハンターのアジトである石鹸工場も、似たようなコンセプトから、目立たないが隠してもいな
いと言う場所に置いてある……どちらも考える事は大体同じか。

 内藤達はそのビルの入り口に入り、エレベーターへと乗せられた。狭い鉄の匣の中に十人近
い大所帯で乗り込んだため、何ともまぁ――――息苦しい。
 その際、受付の連中が銃を持った男達を見ても何とも思わない辺り、やはりこのビルの全て
が、コンラッド=ヴァルカンの所有物なのだろうか。

 エレベーターが二十五階に到着した所で、執事が何やら階層表示のボタンを適当に押した。
すると何かを承認するかのような音がして、再度エレベーターが動き出す。

( ^ω^)「(番号を入力しないと上に上がれないのかお。妙に凝った仕掛けだお)」

 内藤がそんな事を考えている内に、とうとう最上階まで到着してしまった。吸血鬼でありなが
ら太陽に近い場所を住処とするなんて、何と傲慢なのだろう。

(´ー`)「こちらでございます。足元に気をつけて」 ξ゚听)ξ( ^ω^)「…………」

 慇懃な態度を崩さない執事だったが、背後から銃を突き付けて来る兵士はみなこいつの下
僕なのだと思うと、その裏側にある感情が明け透けに見える気がした。

 ……扉を抜けて大理石の階段を下りたブーンとツンは、その光景に呆然とした。

 煌びやかな衣装に身を包んだ紳士淑女達が、ディナーを楽しみながら歓談を交わす。
 その向こう側のステージでは、オペラ歌手と思しき女性が、その歌声を披露している。
 天蓋に輝く金の掛かってそうなシャンデリアまで来ると、最早別世界のようだった。

380 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:30:31.18 ID:n4Y0plzf0
 そこはダンスホールだった。階層三つ分ぐらいを突き抜けており、縦にも横にも広い。その広
さは、ここがビルの屋上に位置していると言う事すら忘れさせるほどだ。

ξ;゚听)ξ「こんなトコでパーティとはね……流石にこれは予想してなかったわ」

 目の前の光景に圧倒されるツンだったが、内藤の方はクルースニクとして覚醒した知覚のお
かげで、言葉を返す余裕も無い。既にそれは違和感ではなく、最早……苦痛だ。

(||^ω^)「マズイお……あいつら全部吸血鬼だお」 ξ;゚听)ξ「……ウソでしょう?」

 そう。仕立ての良い服を纏った紳士淑女も、それに連れられてきたらしい少年少女も、一人
残らず吸血鬼だ。その数、目測でも三百には届くだろう。流石に……生きた心地がしない。
 内藤は執事に銃を取られていたが、まだ義手の存在には気付かれていない。いざとなれば
この仕込み刀で立ち回るぐらいの真似はする積もりだった――――が、これは無理だ。

 眼前に突き付けられた絶望に思わず黙り込んでいると、吸血鬼達のざわめきが収まった。奴
等は一様に――――内藤達から見て――――ホールの一番奥に注目する。
 そこは何段か高くなったステージのような場所で、壁の側に上座と下座がついている。内藤
はそれが、ブロードウェイの舞台に似ていると思った。

 この場の吸血鬼達全てが注目する、荘厳な雰囲気の中、現れたのは――――

(;^ω^)「――――コンラッド=ヴァルカン……! とうとう出て来たのかお……!」

(´ー`)「Yeah......あれこそ、正しく我が主人です」 ξ;゚听)ξ「……あれが、私の父」

 写真で見ただけの吸血鬼の大将格は、その病的なまでに青白い膚を見ても、黒髪を後ろに
撫で付けた作り物じみた顔を見ても、正しく死人のようだった。

( ´∀`)「よく来て下さいました皆様! パーティは、楽しんでおられますかな?」

381 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:31:03.42 ID:n4Y0plzf0
 壇上から降りたヴァルカンは、氷じみた笑みを浮かべながら、客の相手をしている。

( ´∀`)「こんばんわ、アーサ=ヴァイダ公爵夫人、今日も一段とお美しい……おや、こちらは
姪の、そうアニバス、あなたも負けてはいません。マーティン、それはフォン=クラトカが先に手
をつけていましたよ。ヨルガ将軍、食べ過ぎでそれ以上太ったら大事ですぞ」

 次々と話し掛けて来る吸血鬼達全ての名前を覚えているのか。明らかに楽しそうな様子で歩
くコンラッドは、やがてホールの中央に立つと、役者のように両手を広げた。

( ´∀`)「紳士淑女少年少女の皆様! 今日集まっていただいたのは――――まぁ、単にお
祭り騒ぎがしたかったと言うのもありますが――――重大な発表があるからです!」

 パッ、とコンラッドを投射していたスポットライトが、内藤の隣に立っていたツンにも当てられた 。
驚いて僅かに目を細めるツンに、吸血鬼達の興味深げな視線が集まる。

( ´∀`)「彼女はガブリエレ=ツヴァイン=アルボガスト! 母方の姓を名乗っているが、まず
間違いなく私の娘です! 長らく生き別れになっていましたが、つい最近になって漸く見付け出
す事が出来たのです! これで我等の神は蘇る事が出来るでしょう!」

 途端に、吸血鬼達が堰を切ったように歓声を上げた。その中心にいるツンを置き去りにしてそ
もそも内藤は完全に無視して。しかし、その意味ぐらいは判る。

ξ゚听)ξ「やっぱり、私はコンラッドの娘だったのね」 (;^ω^)「ツン……」

ξ゚听)ξ「心のどこかで思ってた。私の父は、もっと優しい人だったらって。私を生贄じゃなくて、
道具でもなくて。ちゃんと、娘として扱ってくれる人だったら良かったのにって」

 歓声は続く。殆ど狂乱の渦と化したココで、唯一、彼女だけが台風の目であった。

ξ゚听)ξ「でも、駄目ね。私の父は、あんな風に笑える下衆だった……最悪よ……」
383 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:32:25.55 ID:n4Y0plzf0
 ツンは泣いていなかった。唯、その瞳に憎悪の色を宿しているだけだ。

 ――――内藤はそれが許せなかった。自分が動くのに、それ以上の理由は要らない。

(#^ω^)「――――お前、何時まで嗤っているんだお」 ( ´∀`)「…………あぁ?」

 別段、何をしようと思った訳ではない。唯――――彼女の涙は、見たくない。否、涙は見たく
ない事も無いが、それがあんな父親のために流されるのは……我慢ならない。
 内藤は開きっ放しだった義手の指を、軽く握り込ませた。しゃん、と軽やかな音がして、強化
チタンの"ブレイド"の切っ先が、誰にも気付かれないように顔を出す。

( ´∀`)「……やれやれ、彼女の連れか。どうしてあんなのを連れて来たんだ?」

(;´ー`)「申し訳在りません。お嬢様が、奴が死んだら自殺すると言い出したもので……」

( ´∀`)「ふん、そうか。だがまぁ、「十字架の番人」の血を吸うのも、面白いかもな」

(#^ω^)「何をごちゃごちゃ言ってるんだお! お前、今直ぐぶっ殺してやるお!」

( ´∀`)「丸腰で何が出来る、小僧――――やれ」 (´ー`)「承知――――」

 激昂する内藤を、軽く顎で指し示す。途端、吸血鬼と化した初老の執事は、並外れた勢いで
内藤へと走り出した。その鋭い鉈じみた爪が、内藤の首を切り裂かんと跳ねる。
 内藤はこれを僅かに首を逸らして回避し、そのまま右腕で襟首を掴むと、その水月目掛けて
左のブローを叩き込んだ――――拳を握るのだから、左腕の仕込み刀も共に。

(´ー`)「――――――――え?」 (#^ω^)「お前、さっきから邪魔だお。死ぬお」

 執事は何が起こったのかも判らないまま灰になって消える。燃え易い服は共に焼けてしまっ
たが、ベルトに差していたらしい内藤のP226が、音を立てて地に落ちた。

384 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:32:57.36 ID:n4Y0plzf0
 右腕で銃を拾い上げる。弾はフル装填されている。何時でも撃つ事が出来る。
 が、その間にコンラッドは最初に出て来たステージまで下がってしまっていた。代わりに群が
ってきたのは、爛々と赤い瞳を光らせる、有象無象の吸血鬼達。

(;^ω^)「ちょっと調子に乗り過ぎたかお?」 ξ;゚听)ξ「何してるのよ、内藤!」

 ツンの声に振り向く。より、やや早く。内藤は身体を大きく右に振ると、首を薙ぎに来たヴィル
ヘルム=フォン=ボルヒェルトの胴を、左手の剣で切り落とす。
 同時、右腕を引き伸ばして、ツンを捕らえようと腕を伸ばしたオポルチェンスカ伯爵夫人とイゾ
ルドの心臓を、9mm×19の聖法儀済銀製弾頭が食い破る。

ξ;゚听)ξ「ち、ちょっと! こっち撃たないでしょ!」 (;^ω^)「ごめんだお!」

 内藤は周囲の吸血鬼達の驚愕――――「容易く喰らえる獲物である筈が、どうして一息に三
体もの吸血鬼を屠れたのか」――――を利する形で、ツンの隣に出戻った。
 吸血鬼達が彼等を見る眼に、怒りの色が混ざり始めた。既に彼等は、内藤と「戦おう」なんて
気分になっている。そして、本気になった吸血鬼は……強いのだ。

 内藤は怯まず、手持ちの得物を確認する。特に何の変哲も無いシグザウエルP226のノーマ
ルバージョンが一挺あり、予備のマガジンは二本、本体と合わせて約四十発前後か。
 左手の刀にはかなりお世話になるとしても、困難な闘いだ。身体能力では内藤を上回ってい
る吸血鬼達と戦うには、人数も経験も得物も何もかも劣っている。
 勝機と言えば、精々コンラッドを殺す事だろうか? だが、それだけでこの場が収まってくれる
とは思えないし、そもそも奴を殺せるかどうかもかなり疑わしい。

 だが――――ツンは逃げない。震えて、怯えて、視線を逸らすけれど、彼女はあくまでも、自
らの意志でそこに立っている。ならば、自分が逃げるのも情けない話だ。
 コンラッドが楽しそうに指を鳴らす。この小さな、しかし誰もが聞いた音が、引鉄になる。

( ´∀`)「仕方が無いね……女の子は生かせ。男は肉片になるまで殺せ」

385 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:33:21.30 ID:n4Y0plzf0
(#^ω^)「おおおぅぅうぅぅらああぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!」

 ツンへと襲い掛かる吸血鬼に向けてトリガーを引きながら、自らの心臓を貫きに来た紳士の
心臓に、握った左手を叩き付け、仕込み刀を突き刺す。引き抜いた刀を右足を支点にして振り
向き様に薙ぎ、背後から覆い被さってきた女の首を切る。

ξ;゚听)ξ「はぁ、はぁ……内藤、残りの弾は?」

 何時の間にか手にしたナイフ(ジョルジュが渡していたものだろうか)を構え、ツンは背中合わ
せになった内藤に向けて訊ねる。既に息が上がっている。

(;^ω^)「あと十発かそこらしか無いお……ちょっとばかしヤバイお」

 一々マガジンを抜かなくても、数えていたからそのぐらいは判る。ジョルジュから借りたマガ
ジン二個は、もう大分前に使ってしまった。残りは左手の仕込み刀だけだ。
 周囲を取り囲む吸血鬼の数は、相変わらず減った様子が無い。既に三十匹は屠っているの
だが、元々その十倍近い吸血鬼が居たため、大した被害になっていないのだ。

 内藤とツンは圧倒的に不利な状況ながら、コンラッドが最初に提示した条件――――ツンは
生かし、内藤は殺す――――と言うのを上手く利用して戦っていた。
 ツンを殺したらマグラを召喚する事は出来ないから、自然、魔術や銃器の類は使えない。彼
等は内藤のみを殺す為に、接近戦で致命傷を与えようと考えているのだ。
 そのため、内藤とツンは常に距離を離さないようにして戦った。おかげで三十に登る吸血鬼が
彼等に殺害された訳だが、仲間意識の薄い彼等に対する心理的作用は少ない。

(;^ω^)「このままじゃマズイお……せめて、ツンだけでも……」

ξ゚听)ξ「バカ。私は絶対に殺されないんだから、あなたが逃げるべきよ」

 既に何度も繰り返して来た議論だったが、流石に状況は切羽詰まっている――――

386 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:34:06.30 ID:n4Y0plzf0
 ――――流石に万事休すか、と思われたその瞬間だった。
 分厚いガラスの割れる甲高い音が響き、空から死神が舞い降りてきたのは。

 天井に据えられたステンドグラスを突き破り、無数の破片を纏いながら落下してくるのは、法
衣のような黒い外套に身を包んだ、黒髪の小柄な人影。
 内藤とツンは自分達の真上から落ちて来るソレに、頭を庇ってやり過ごす程度の事しか出来
なかったが、周りに居た吸血鬼達は飛び上がって迎撃に向かった。

 途端、人影の身体が独楽のようにくるくると回転を始め、手にした二挺のグロック17が銃火を
撒き散らた。撃ち出された法儀済銀製弾が、跳躍した吸血鬼五匹を撃ち抜く。
 着地点は内藤とツンの目前。コートの裾を翼の如く翻した少年は、両手の銃から弾倉を抜き
ながら、悠然と立ち上がった。振り返り、ほう、と太い息を吐く。

(;´∀`)「貴様は――――」

 その姿を逸早く捉えたコンラッド=ヴァルカンは、元々蒼かった顔を更に青くして呟いた。僅
かに遅れて、彼等の周囲を取り囲んでいた吸血鬼達が、口々に叫ぶ。

 「名無し――――」「悪魔祓い――――」「代行者――――」「殲滅人――――」「銃爪―――
―」「死天使――――」「ヴァチカンのゴミ処理係――――」

 少年は自らに向けられる殺意に関心を向けず、グロックの角で頭を掻く。

(;+゚∀゚)「うひー、死ぬかと思った」 (;^ω^)ξ;゚听)ξ「――――ジョルジュ!」

 全く予期していなかったゲストの登場に、内藤とツンは思わず声をカブらせた。

(+゚∀゚)ノシ「あ、ツンさん、内藤。おいすー」

 ジョルジュはそんな二人にたった今気が付いた様子で、片手を持ち上げて挨拶をした。

387 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:35:26.36 ID:n4Y0plzf0
(;´∀`)「真逆、貴様に我等の居場所がバレるとはな……ヴァチカンの狗め」

 やや困惑気味なコンラッドの言葉に、ジョルジュは首を傾げて一言。

(+゚∀゚)「ヒント:地道な捜査」 (;^ω^)ξ;゚听)ξ「ちょwwwwおまwwwww」

 突っ込みを入れた内藤の横から、突然飛び出した男――――ドラキュラとは血統を異とする
ルスヴン卿――――が、腰から剣を抜いてジョルジュに振り下ろす。
 ジョルジュはコンラッドから目を逸らさず、腕だけを真後ろに曲げて、トリガー――――初弾
は振り下ろされた剣の刀身を、二発目はルスヴン自身の心臓を喰い穿った。

(;^ω^)「結構有名なのかお、ジョルジュって」 ξ;゚听)ξ「そうみたいね……」

 何と言うか、知り合いが実はハリウッドスターだったと教えられたような感じである。

(+゚∀゚)「遅くなって悪いね……突撃の準備が中々整わなくてさ――――あ、後から応援が来る
と思うから、取り敢えず雑魚は放って置いてコンラッドから片付けようぜ」

 たった今殺した吸血鬼の事なんてすぐ忘れたかのように、ジョルジュは背負っていたゴルフ
バッグから、ずるり、と冗談みたいに巨大な口径のライフルを取り出した。
 鉄塊じみたマガジンを機関部上部に叩き込み、ボルトを引いて――――ツンに差し出す。

(+゚∀゚)「さぁ、こいつを以て吸血鬼共をぶっ殺してやれ」 (;^ω^)「ちょwwww」

 流石にそれは無いだろうと思った内藤だったが……ツンはそれをあっさりと受け取った。

(;^ω^)「だ、大丈夫なのかお」 ξ゚听)ξ「私は護られるだけのお姫様じゃない」

 決然とした口調で言い放ち、ツンは階上から見下ろす父親を、思い切り睨み付けた。

388 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:35:52.00 ID:n4Y0plzf0
(+゚∀゚)「よっしゃ! ここは俺に任せろ! 往け、内藤、ツンさん!」

 今にも死にそうなキャラの言いそうな台詞を吐きながら、ジョルジュはゴルフバッグから抜い
たベネリM3スーパー(紫外線ライト付き)とM4A1 S.I.R(銃剣付き)を撃ち鳴らす。通常の弾薬
では有り得ない明るさで噴き出る銃火は、強烈な聖光放射の一種か。
 内藤はジョルジュを囮には出来ないと言おうと思ったが、二十匹近い吸血鬼を相手にしなが
ら掠り傷一つ負う事無く捌き続けるのを見て、放って置く事にした。

( ^ω^)「往くお、ツン! しっかり捕まってるお!」 ξ;゚听)ξ「え、な、なに!?」

 戸惑うツンを抱きかかえると、内藤は手を広げて大股に走り出した。

⊂二二二(#^ω^)二⊃「覚悟を決めるお、コンラッドおおおぉぉぉぉぉっ!」

 左右から飛び掛かってくる吸血鬼達を迎撃しながら、内藤はコンラッドの立つステージへと
迫る。最初は呆然としていたツンだったが、すぐに握ったライフルを構えた。
 トリガーを引く――――途端、明らかに過剰な反動と共に巨大な空薬莢が飛び出し、これま
た常識ハズレな大きさの白木の杭が、コンラッド目掛けて飛んでいく。

 白木の杭で出来た弾丸は、襲い掛かって来たヴァケル=パシャの頭蓋を塵にしたものの、
狙いが若干甘かったのか、白木の杭はコンラッドの腕の辺りを掠めるだけに終わる。

ξ;゚听)ξ「外した!?」 (#^ω^)「まだだお! もっともっともっと撃つお!」

 言いながら、内藤はその場に柔らかく――――しかし殆ど投げるように――――ツンを放り
出すと、右手の銃を撃ちながら左手の仕込み刀を振り被った。

(;´∀`)「チッ――――」 (#^ω^)「遅いお! 死ねやああぁぁぁぁぁっ!」

 舌打ち一つ、コンラッドが手に魔力を集中させる。が、内藤の方が幾らか迅い。

389 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:36:34.08 ID:n4Y0plzf0
 内藤の左手が、今正にコンラッドの心臓を貫こうと――――

(;+゚∀゚)「――――やべぇ! 内藤、退け!」 ( ^ω^)「!!!!!!!」

 ジョルジュの警告を耳にして、内藤は言われた通りに急停止した。が、撃ち込んだシグの弾
倉に残っていた最後の一発が、コンラッドの心臓目掛けて飛んでいく。
 銃弾が吸血鬼の心臓を撃ち抜く――――誰もがそう思った次の瞬間、甲高い金属音と共に、
必殺の聖法儀済銀製弾は弾かれ、明後日の方角に飛んでいった。

 手にした錫杖で銃弾を弾き返したのは、頭に笠を被った虚無僧だった。粗末な袈裟を纏った
托鉢層のようだったが、腰に奇妙な鍔を付けた刀を差している。
 笠を外す。露になった顔は、頬のこけた長髪の東洋人だった。黒い瞳は限りなく虚ろで、自分
のした事に何を感じているのか、或いは何も感じていないのか。

(;^ω^)「……な、なんだお、こいつ」 (´・ω・)「……………………」

 東洋人は驚く内藤を尻目に、首だけを巡らせて背後のコンラッドを顧みる。

( ´∀`)「危なかったな。ありがとう、シズマ」 (´・ω・)「……………………」

 一度だけ頷いた東洋人は、手にした錫杖を放り投げると、腰の日本刀に手をやった。鯉口を
切り、ゆっくりと鞘から抜き放ったのは、これまた珍妙な刀だった。
 吸血鬼に詳しくなる内に色々と奇抜な武器に通じるようになった内藤だが、少なくとも、刀身
に文字通り毛が生えた刀なんて言うのは、一度も見た事が無い。

( ´∀`)「さて……流石にあのクルースニクが来たとなると、私もおちおち観戦していられない 。
悪いが、君達の相手はこの閑馬永空に任せて、私は帰らせて貰うよ」

 踵を返して去っていくコンラッドを、最早内藤は見ていない。唯、目前でゆらりと刀を構えるこ
の東洋人から、目を離しては往けないと言う事しか、判らなくなっていた。
391 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:38:17.52 ID:n4Y0plzf0
 その腐った魚を思わせる瞳に睨まれて、内藤は思わず後ずさった。
 今なら、ジョルジュが警告を発した理由も判る。あのまま後先考えずに突っ込んだら、自分
はあの珍妙な刀で以て、首なり胴体なりを真っ二つに断たれていた筈だ。

 どうしようかと思案していた内藤の目前に、背後に居た筈のジョルジュが着地した。

(+゚∀゚)「大丈夫か、内藤」 (;^ω^)「あ、ジョルジュ……」

 どうやってここまで来たのかと聞こうとして、後ろで響く轟音がそれを説明した。どうやら彼は
天井のシャンデリアを叩き落とし、隙を作って来たらしい。
 それはともかく。ジョルジュは内藤とツンに一瞬だけ流し見ると、すぐさま目前に立つ東洋人
――――エイクウ=シズマ、或いは閑馬永空――――を視線を向ける。

(;+゚∀゚)「騙り――――って訳じゃないよな。本物かよ、全く……」 (´・ω・)「…………」

 ばりばりと頭を掻いて、ジョルジュは目前で黙り込む閑馬を睨む――――と、閑馬が一瞬踏
み込んでくる素振りを見せ、同時、ジョルジュの手にしたベネリが吼えた。
 十二ゲージのダブルオーバックの直撃を受け、閑馬の身体が下に落ちていく。しかし、ジョル
ジュはそれでコンラッドを追うどころか、逆に閑馬が落ちた所を見下ろしに往った。
 内藤達から閑馬の姿は見えなかった。ジョルジュが舌打ちをしてベネリをバッグに戻す。

(;+゚∀゚)「やっぱり死なねーなぁ……おい、内藤、ツンさん。何ボーッとしてんだ?」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「え、な、何?」 (+゚∀゚)「追い掛けろ。奴は俺が食い止める」

 ……どうやら、閑馬永空はあれで死んでいないらしい。内藤とツンは顔を見合わせた。

ξ゚听)ξ「じゃあ、任せるけど、大丈夫?」 (;^ω^)「どっちか残った方が……」

(+゚∀゚)「んー……倒す積もりで往くけど、ね。まぁ、最低でも足止めぐらいは」

392 :('A`) ◆Vampja/kBo :2006/03/18(土) 21:38:41.48 ID:n4Y0plzf0
 ジョルジュがそう言った瞬間、ホールの唯一の出入り口であるエレベーターと非常階段の扉
から、手に手に銃や剣を携えたハンター達が突入してきた。

(+゚∀゚)「お、来たみたいだな」 (;^ω^)「ハンターの人達かお。どうして遅れたんだお?」

(+゚∀゚)「下で吸血鬼信奉者と戦ってて、な。何だか時間掛かりそうだから、俺だけ先に来た」

ξ;゚听)ξ「先に来たって……エレベーターや階段への通路は塞がっていたんでしょ?」

(+゚∀゚)「普通に壁を走ってきたんだけど」 (;^ω^)ξ;゚听)ξ「ちょwwwww」

 ジョルジュはこのビルの壁を登ってきたと言うのだ。垂直で取っ掛かりも殆ど無いようなビル
の壁は、切り立った崖なんて比べ物にならない険しさである筈だ。
 が、ジョルジュにとってはそれほど難しい所業ではないらしい。どんな脚力なのだ。

(+゚∀゚)「一応、内藤もツンさんも、訓練すれば出来るようになると思うけど」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「あるあr……ねーy……あるあr……いや、ねーよwwwwww」

 そんなコントをしている間にも、ハンターと吸血鬼達の戦いは続いている。既にジョルジュに
よって大分数が減らされていた連中は、彼等の手で次々と撃ち滅ぼされていく。

(+゚∀゚)「ほら、もうパーティは幕だぜ? 折角だから、主賓に礼でも言ってこい」

 そう言って、ジョルジュは懐から抜き出したレイジングブルと予備弾薬を内藤に手渡した。鈍
く輝く銃身は、すぐにでもバケモノ達の血を吸いたいと啼いているかのようだ。

(#^ω^)「よっしゃ、往くお!」 ξ゚听)ξ「えぇ。パーティは終わりよ」

 叫びながらステージの奥へと消える内藤とツンを、ジョルジュは手を振って見送った。
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