332 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:37:27.46 ID:n4Y0plzf0
ξ゚听)ξ「これでどう? キツくない?」 ( ^ω^)「大丈夫だお。ありがとうだお」

 内藤は腹の包帯をツンに解いて貰いながら、片手で銃の整備をしていた。私物であるレイジ
ングブルは解体掃除を終え、既に別の銃の掃除に取り掛かっている。

 堅実なデザインの黒いセミオートはスイスのシグザウエル社製P226である。9mm×19弾を使
用する銃で、一度は米軍の制式採用拳銃のトライアルにも参加した。しかし当時他に参加した
銃よりも値段が高く、そのためベレッタに制式採用の座を明け渡した。
 しかしU.S.9mmM9は信頼性に乏しく、特にS.E.A.L.S.などの特殊部隊では、.45ACP以上のS.O.
C.O.M.Mk-23と、このP226を使い分ける所が多い。決して安い銃ではない筈だが、ジョルジュは
「戦利品だから好きに使っていいよ」と言って渡してきた。
 バレルなど部品を組み込んだスライドをフレームに噛み合わせ、スライドストップを掛けて弾
薬を詰めたマガジンをグリップに押し込む。チェンバーに弾薬を装填しておこうかと考えたが、
安全性を考慮して止めておくと、放っていたホルスターに突っ込んだ。

ξ゚听)ξ「しかし、やっぱり治りが早いわね……これも、クルースニクの力なのかしら」

( ^ω^)「昔からこんな感じだったお」 ξ;゚听)ξ「ちょwwww気付けよwwww」

 呆れるツンを他所に、内藤は自分の頬に触れた。流石に角材で思い切り殴りつけられた箇所
は、湿布を貼っていてもじんじんと鈍い痛みがあった。

ξ゚听)ξ「そっちはまだ治らない?」 ( ^ω^)「そうみたいだお……でも、大丈夫だお」

 ……二日前にブレイドと手合わせた時、内藤は殆ど手も足も出せずに敗北した。
 一度目は剣筋を捉える事すら適わず。それ以降は何とか初動を目で追える程度にはなった
が……結局、内藤はブレイドに掠り傷すら負わせる事は出来なかった。

 よもや、あの黒人があそこまで強いとは。最初はヤムチャの如く単に前評価ばかり高いだけ
のコケオドシかと思っていたが……ジョルジュの言った事は正しかった訳だ。

333 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:37:55.37 ID:n4Y0plzf0
(+゚∀゚)「慣れれば、もっと早く治る。その程度の怪我なら一瞬で、な」

 唐突に。部屋に入り込んできたジョルジュは、そう言ってニッと笑った。何時か着ていた黒い
コートを羽織り、左手に大きなゴルフバッグ、右手に何かの衣類を抱えている。
 ジョルジュはバッグを肩に掛け、右手に持っていた衣類を内藤に向かって放り投げた。

 それは鮮血の如き真紅に染め上げられたロングコートと、これまた赤い帽子だった。コートは
鋲の打たれたベルトが巻かれ、帽子はつば広のテンガロンハットである。

(+゚∀゚)「古い知り合いが衣装を新調した時に貰ったお古だ。お前に貸してやるよ」

(;^ω^)「ちょっと派手すぎる気がするお」 ξ゚听)ξ「いいじゃない。着てみたら?」

 あまりファッションに気を遣わない内藤からすれば、ここまで派手な衣装を着るのは躊躇わ
れたが、結局はツンの薦めに促され、着てみる事にする。
 サイズは胴回りが若干細いが、身長からするとぴったり同じ。ついでに帽子も被って、似合
わないと思いつつも、ツンとジョルジュの方に振り返る。

(+゚∀゚)「いいじゃん。別に変じゃないぜ」 ξ゚听)ξ「うん……何時もより男前ね」

(*^ω^)「ツンがそう言うなら着るお!!」 ξ////)ξ「え? べ、別にそういう訳じゃ……」

(+゚∀゚)「(……バカップルめ)……まぁ、折角だからそれ着てデートでもしてこい。いつまでもこ
んなほこりっぽい部屋に居たら、不健康極まりないからな」

( ^ω^)「でも、僕は指名手配されてて……」 (+゚∀゚)「故の変装だろうがよ」

ξ゚听)ξ「そうね……私もたまには外に出たいわ。着替え取りに家戻りたいし」

 まぁ、ツンがそう言うなら仕方が無い、と。そういう事になった。

334 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:38:59.09 ID:n4Y0plzf0
 この世界が滅ぶまであと何日も無いと言うのに、ニューヨークの町並みは去年の今頃と全く
変わる事なく、クリスマスを待ち侘びる人々で賑わっていた。
 それを暢気と罵る事は出来ない。一歩間違えれば、自分もこの中に居たのだから。いや、母
親の世話に追われて、そんな余裕は無かったかもしれないが。

 しかしこれだけ目立つ格好をしているのはマズイのではと思ったが、クリスマスなので赤い格
好の人は多い。むしろ何時ものVIPシャツよりも街の風景に溶け込んでいる。

ξ*゚听)ξ「何してるの内藤! ほら、早く行こう!」 (;^ω^)「ひ、引っ張ったら危ないお」

 街の空気にあてられたのか、ツンはハイテンションな調子で内藤の手を引いていた。そうして
手を繋いで歩く二人は、こうして見るとどこまでも普通のカップルだ。
 が、自分達はそんなに平和ではない。いや、カップルではあるのだろうけど――――普通に
恋愛らしい事をするには、色々と邪魔な要素が多い、筈なのだが。

( ^ω^)「そういえば、ツンって何時の間にか僕の事呼び捨てにしてたお」

ξ゚听)ξ「えぇ、っと……でも、それは内藤の方が先だったじゃない?」

( ^ω^)「過去ログ嫁。最初に呼び捨てたのはツンだお」 ξ゚听)ξ「あら、ホント」

 まぁ、内藤は別にそれを嫌がっている訳ではない。むしろ彼は、互いに呼び捨て合う仲になっ
ても、それがあまりに自然過ぎて中々気付かなかったほどだ。
 きっと自分と彼女が親しくなるのは、大人になるのと同じぐらい自然な事だったのだろう――
――とここまで書いてみて、ふと、脳裏をよぎる事がある。

( ^ω^)「それ以前にここ英語圏だから、敬称とかあんまり関係無い気がするお」

 ……それもそうだお(´・ω・`)

335 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:39:17.49 ID:n4Y0plzf0
 そんな感じで、内藤達はツンの住んでいるビルにやって来た。よくあるオフィスビルに見える
のだが、このビルそれ自体がツンの持ち物だと言うから驚きだ。

ξ゚听)ξ「別に大した事無いわよ。大体広過ぎて、殆どの部屋を使ってないんだから。いっそ
ハンターのアジトを、あの石鹸工場からこのビルに移してもいいぐらい」

(;^ω^)「そうは言っても、まぁ……やっぱり、お金持ちはやる事が違うお」

ξ゚听)ξ「不快だった?」 ( ^ω^)「羨ましいとは思うけど、別に憎いほどではないお」

 その答えに安心したのか。ツンは、そう、とだけ短く答えて、ビルの中に入っていった。

 ツンが血管配置照合式の認証装置に手を置く。扉は、一見すると単なるガラスの自動ドアだ
が、軽く触れてみてそれがかなり丈夫な耐弾製だと言う事が判った。
 天井には各種センサーと監視カメラが仕込まれており、なるほどあのアジトより安全性に優
れているのは確かなようだ。殆ど病的なまでの警備システムである。

 が。内藤は認証装置付きの扉を潜りながら――――懐に手を突っ込んでいた。

 脇下のホルスターからシグザウエルP226を抜き出し、スライドを引いて、マガジンの天辺に
押し込まれた聖法儀済銀製弾を、チェンバー内に送り込む。

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと内藤! どうしたのよ!?」

 どうやらツンは気付かないらしい。あまり濃い"におい"では無いからか。
 内藤は心配そうに駆け寄ってくるツンを無視して、腕の仕込み刀のセイフティを外した。

(;^ω^)「……吸血鬼、だお。このビルの中に、吸血鬼が居るみたいだお」

 ツンが息を呑む気配がする。内藤は両手で銃を保持しつつ、慎重に歩を進めた。

336 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:39:41.89 ID:n4Y0plzf0
 まぁ、人間相手の警備システムなのだ。吸血鬼相手にはあまり意味がない。

 ツンの案内で警備室へとやってきた内藤は、彼女一人のために雇われた四人の警備員が、
殆ど肉片じみた屍となって転がっているのを見て、そんな事を考えた。

(;^ω^)「ツンはこっち見ちゃ、駄目だお……」 ξ;゚听)ξ「そんなに酷いの?」

 流石の内藤も顔色が悪くなっていたが、それでも何とか部屋の中に入り、死体の様子をあら
ためた。既に死後硬直すら終わった死体は、死後三日か四日経っている。
 詰まり、ツンが石鹸工場で内藤らと過ごしていた頃には、既にこの警備員達は吸血鬼の並外
れた膂力だか、カマイタチじみた魔法だかで、斬殺されていたのだろう。

 血は、殆どない。辛うじて壁に残っているものを覗けば、液体の流れていく場所の無いこの部
屋に存在する筈の血液は、殆ど飲みつくされてしまったようだった。

ξ;凵G)ξ「ウゥッ……そんな……どうしてこの人達が……」

 死体を見ては居ないものの、内藤は死体の様子を教えていた。現物を見たら、泣く余裕も無
く嘔吐していただろう。幸いにも、内藤は板金工場に勤める前にこういう死体処理関連のアル
バイトを行っていたため、気分は悪いが吐くほどでもなかった。

( ^ω^)「きっと理由なんて無いんだお。殺さなくても済んだ筈なんだお」

(#^ω^)「この人達は、吸血鬼の娯楽で殺されたんだお。単に殺すだけだったら、こんなに惨
い殺し方をする必要は無いお。奴らは――――楽しんで殺したんだお」

 内藤は彼等の無念を感じた。既にその肉体から魂は失われていたが、内藤はこの部屋で殺
された警備員達の無念を、自分のものとして感じる事が出来た。

(#^ω^)「犯人を捜すお。まだここに居る筈なんだお」 ξ;凵G)ξ「ゥッ……えぇ」
338 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:40:01.41 ID:n4Y0plzf0
 犯人は、初老の紳士だった。黒いスーツを着て、灰色の単発を撫で付けている。

(#^ω^)「お前が下の人達を殺したのかお」 ξ#゚听)ξ「許さないわよ……!」

 未熟とは言え、どちらも人ならざる強者である。向けるだけで人を射殺すような視線を真っ向
から受け止めながら、人の形をした魔物は慇懃な礼をする。

(´ー`)「初めまして、ツン様。私はあなたの父の遣いでやって来た――――」

(#^ω^)「聞いてないお。つーか、むしろもう黙れだお」

 名乗ろうとした吸血鬼の心臓目掛けて、内藤はトリガーを引いた。乾いた音とも共に吐き出さ
れた必殺の一撃は、しかし、回避運動を取った執事の肩を掠めるに留まる。

(#^ω^)「三日だか四日だか、ずっと待ってるなんて大したものだお」

(´ー`)「あなた達が何時まで経っても来ないから、待ちぼうけを喰らっただけですよ」

 内藤はその言葉に唖然とした。確かにツンはずっと家を空けていたかもしれないが、だからと
言って、彼女が来るまでずっと待ち続けると言うのは異常だ。

ξ゚听)ξ「私の父っていったわね……それは、やはりコンラッドなの?」

(´ー`)「ほう……察しが良いですな」 ξ゚听)ξ「世辞は要らない。用件だけ言いなさい」


(´ー`)「いかにも。あなたの御父君は"プリンス"コンラッド=ヴァルカン様にございます」


( ^ω^)「ここまで引っ張った割には、何とも捻りの無い展開だお」 ……スマンネ
340 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:40:53.75 ID:n4Y0plzf0
 ツンはその答えに、どこか皮肉げ笑みを返した。好意的には取れない嗤いである。

ξ゚听)ξ「それで? ずっと私を放って置いた御父様が、今更何の用?」

(´ー`)「私は、ヴァルカン様の下でもう何百年も執事を勤めさせて戴いております。私は、あな
たをヴァルカン様の所へ連れていくよう命じられているのです」

 そうして手を伸ばす執事の間に、内藤がツンを護るようにして立ち塞がった。

(#^ω^)「何のために連れてくお? マグラとか言う奴の生贄にするためかお?」

 その名前が出た途端、一瞬だけ執事の顔に動揺が浮かんだ。それは間違いなく「どうしてそ
れを知っているのか」と言う顔だったが、執事はすぐ顔を元に戻した。

(´ー`)「ふん、何とも思慮の無い……ガブリエレ様、このような下賎な輩の言う事に、耳を貸す
必要はございません。あなたは彼奴よりも私達の側に近いはずです」

ξ゚听)ξ「……勝手に決められると不快だわ」 (;^ω^)「ツン……」

ξ゚听)ξ「帰ってヴァルカンに伝えなさい。そんなに会いたけりゃそっちから来いって」

 決然とした様子で言い放つツン。内藤はそんな彼女の行動に尊敬の念を覚えつつ、しかし目
の前の執事がまるで動じていない事に、警戒を強めていた。

(´ー`)「仕方が在りませんね……手荒な真似はしたくなかったのですが」

 パチン、と執事の指が鳴る。途端、扉を蹴破って雪崩れ込んで来た特殊部隊風の男達が内
藤とツンに数え切れないだけの銃口を向けてきた。人間相手なら、百度殺して余りある。
 ……全員人間である。おそらく吸血鬼になりたがっている吸血鬼信奉者だろう。"魔"ではな
いが故に、内藤は彼等が潜んでいる事に気付けなかったのだ。

341 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:41:29.90 ID:n4Y0plzf0
(´ー`)「私の下僕達は好戦的でね……これ以上、暴れないで戴きたい」

(;^ω^)「くっ……流石にこれは捌けそうも無いお」

 前に殺し合った時は、彼等が銃を抜く前に動いたから勝てたのだ。既に銃口が突き付けられ
ていて、しかもここまで訓練された動きをする連中から逃れる術は、ちょっと思い付かない。

ξ;゚听)ξ「な、内藤……どうしよう……?」

(;^ω^)「仕方が無いお……ここは素直に従っておくお」

 どの道、選択肢は無いのだ。今死ぬか後で死ぬかなら、後で死ぬと答えて生きる道を模索す
る方が正しい。命があり肉体が動くなら、チャンスは必ずある。

ξ゚听)ξ「判ったわ。女を銃で脅すしかないタマ無しあなた達に、ついていってあげる」

(;^ω^)「(ツンって、最近ちょっと容赦が無い気がするお……)」

 内藤は内心で明らかに今の状況と関係ない事を考えながら、近寄ってくる執事に右手のシグ
ザウエルを手渡した。武器を持ったままにはさせとかないだろう。

ξ゚听)ξ「ただし、内藤に手を出したら、私も死んでやるわ。判ったら往きましょう」

 これまた(ハッタリだと判っていても)トンデモナイ台詞を吐いて、ツンは内藤の手を引いて部
屋を出た。手を握る握力が、何時もより強かった。悔しかったのかもしれない。

(´ー`)「(愚かで無知ガキのお守りも浮世の戯事も、心底うんざりさせられる。だが、それももう
終わる。これで我等の計画は成功する)……では、参りましょうか」

 心中で様々な本音を並べ立てながら、執事は慇懃な礼で二人を車のドアに案内した。
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