313 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:00:00.27 ID:n4Y0plzf0
 内藤とツンの間に色々あってから――――四十九時間五十二分が経過した。
 それは、平和な時間ではあった。しかし、或いは嵐の前の静けさでもあった。

 ジョルジュ達は何度も外に出て"狩り"をしてきたし、会議室に張り出された情報は日々多く
なっていく。ヴァルカンの一派とハンター達がぶつかるのも、時間の問題だろう。


(*^ω^)「しかし凄いお、この義手……カッコイイお!」

 そうして慌ただしく動いていく状況を見る内藤は、新しい腕を付けられて御満悦だった。顔は
笑っているものの、これで数時間に渡る手術を終えた直後だ。タフである。
 見た目は黒く塗装されたスチール製の腕で、人間の腕とは似ていないものの、内藤の腕に
残った筋肉の動きと共に指が動く。まぁ、別々に動かす事は出来ないようだが。

彡*゚ー゚)「手袋でもすれば、義手である事は隠せるわね……ところで、手首のところにレバー
があるでしょう? そう、その銃のセイフティみたいな奴」

 手術をしてくれたカレン――――元は血液学者だが、どうやらこのアジトで暮らす内に外科
手術も身に付けたらしい――――に言われて、内藤はそのレバーを切り替えた。

( ^ω^)「これかお? 特に何も起こらないお……?」 彡*゚ー゚)「掌を握ってみて」

 その通りにする。途端、シャキン、と軽やかな音と共に、中指の付け根から刀の切っ先が突
き出した。驚く内藤の手元で輝く鈍い強化チタンの煌きには、何処か見覚えがある。

(;^ω^)「な、なんだおコレ! どうしてこんなもの付けたお!?」

彡*゚ー゚)「何でって言われても……義手に武器は基本ってジョルジュが言ってたわよ」

(;^ω^)「ちょwwwwwそれ映画の話wwwwwwアリエナサスwwwwww」

314 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:00:36.65 ID:n4Y0plzf0
( ^ω^)「ありがとうだお、カレンさん!」 彡*゚ー゚)「どういたしまして」

 内藤とカレンは手術室から退出しながら、そんな会話を交わした。手術室と言ってもギリギリ
衛生面に注意しただけの代物で、病院の施設とは比べるべくも無い。それでも、腕の皮を削っ
て剥き出した筋肉と義手側のワイヤーを繋げて皮を被せるぐらいの事は出来る。

ξ゚听)ξ「それにしても、こんな性能の良い義手が作れるなんてね。驚きだわ」

 遅れて手術室から出て来たツンが、汚れた手を洗浄しながら呟いた。彼女もまた、内藤の手
術を手伝ったのだ。まぁ、医学の知識は無いので、簡単な助手だけだったが。

彡*゚ー゚)「ほら、いつも無表情の若い東洋人が居たでしょう? ユースケとか言う。彼の右腕に
ついている奴を参考に作ったのよ。仕込んだカタナは違う奴だけど」

( ^ω^)「日本は進んでるお……ところで、この刀ってどこかで見たような」

 訊ねようとした内藤は、目の前に立ち塞がっていた男の身体にぶつかり、たたらを踏んだ。鼻
を抑えながら視線を向けると、そこには長身の黒人男性の姿。

( ,' 3 )「おっ、と。何だ、内藤か。何してるんだ?」 (;^ω^)「あ、ブ、ブレイドさん……」

 流石に先日の事を思い出して戸惑う内藤だったが、ブレイドは特に頓着した様子も無く、内藤
を無視してカレンに向き直っている。恨み辛みぐらい無いのだろうか。

( ,' 3 )「おい、カレン。俺の剣はどうした? 修理したって聞いたんだが」

彡*゚ー゚)「あぁ、アレ。内藤くんのお腹から引き出す時に折っちゃったわ」

( ,' 3 )「え………………え? ギャグ?」 彡*゚ー゚)「何を言っているのかねキミは」

315 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:01:02.37 ID:n4Y0plzf0
( ,' 3 )「おまwwwwwどうすんだよ、アレは俺の大事な得物なんだぞ!」

彡*゚ー゚)「別にいいじゃない、また作り直せば。柄は残ってるし。あ、そうそう。刀身は半分ぐら
い残っていたから、ソコに入れて有効活用させて貰ったわ」

 そう言ってカレンが指差したのは、先刻取り付けた内藤の左腕だった。それを見て、まるで内
藤を無視していたブレイドの目の色が変わり、内藤の首を掴みに掛かる。

( ,' 3 )「お前か! お前が俺のおおぉ!」(;^ω^)「ちょwwwwwマテwwwww」

( ,' 3 )「返せ! 返して直せ!」 (;^ω^)「うはwwww冤罪wwwww」

彡*゚ー゚)「そうは言ってもねぇ。もう取り外すなんて無理よ」 ξ;゚听)ξ「ヒデェwwww」

 て言うか、殺され掛けたのは良くて、自分の得物を他人に取られるのは駄目って何だろう。


(;^ω^)「あぁ、びっくりしたお……あぁ、それはともかく、ブレイドさん」

( ,' 3 )「なんだよ」 ( ^ω^)「……先日は、大変な事をしてすいませんでしたお」

 神妙な面持ちで謝った内藤に、ブレイドは一瞬、(え? なんだっけ?)みたいな顔をしていた
が、かなり長い沈黙の後に何をされたのか思い出したのか、

( ,' 3 )「お前に殺され掛けた事か。まぁ、あんまり気にしなくていい。慣れてる」

(;^ω^)「でも、それじゃ僕の気がすまないお……!」

( ,' 3 )「別にお前の心の平穏のために言っている訳ではない。それにな、許す積もりは無い
ぞ? 貸しにしとくだけだ。後で、三倍にして返してくれれば良い」

316 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:01:26.16 ID:n4Y0plzf0
(;^ω^)「しかし――――」 (+゚∀゚)「お、内藤ー、ひさしぶりー」

 尚も食い下がろうとした内藤の肩に、白磁のような手が載せられた。振り返れば、自分の同
類だと言う話のジョルジュが、嬉しそうに笑いながら立っている。

(+゚∀゚)「へー、左腕つけてもらったんだ。あ、ブレイドさんもお久しぶりです」

 ぺこり、と頭を下げるジョルジュは、場の空気を乱す程度に、気分が昂ぶっているようだ。

(;^ω^)「テンション高いお……」 ξ゚听)ξ「機嫌いいわね。何かあったの?」

(+゚∀゚)「応。今日は収穫が多くてね。戦利品も、情報も、沢山手に入ったんだ」

 なるほど。狩りの成果がそれなりにあれば、普通に嬉しくもなるというものだ。

( ,' 3 )「そんなことより聞いてくれよジョルジュ……カレンが俺の大事な刀を折って、よりによ
ってこんなピザデブの腕に仕込みやがったんだぜ?」

(+゚∀゚)「ピザデブって……でも、あれって二代目でしょう。簡単に直す事が出来るなら、折れた
ぐらい大した事無いんじゃないですか? 武器に愛着持つ方でも無いでしょう」

( ,' 3 )「しかし、それではオレの気が済まん!」

ξ;゚听)ξ(;^ω^)「ちょwwwwwさっきと言ってることチガスwwwwww」

 まるでどこかの某ジャイアンの如く横暴なブレイドにツッコむ内藤とツンを無視して、ジョルジ
ュは考えるように腕を組み、ぶつぶつと何やら呟いて、

(+゚∀゚)「ふーむ、そうですねぇ……じゃあ、こうしましょう。内藤のリハビリを兼ねてブレイドさん
と模擬試合をしてもらい、まぁ、思う存分痛めつけて貰う、と」

317 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:01:57.52 ID:n4Y0plzf0
(;^ω^)「ちょwwwヒドスwww」 ( ,' 3 )「おい……いいのか? そんな事して」

 流石にジョルジュの提案に難色を示す二人。痛めつけられる内藤は勿論、ブレイドだって怪
我人を苛めるような真似に、快感を覚えるようなタチではないのだ――――が。

(+゚∀゚)「大丈夫ですよ、内藤はタフだし。最初から頼む積もりだったんですよ。リハビリしなくち
ゃいけないのも、義手の訓練をしなくちゃいけないのも同じですから」

(;^ω^)「でも、そんな……刃物で斬り合うなんて、凄い危ないお」

 ブレイドの使っていた刀は、切れ味の良いステンレス鋼材を、強化チタニウムでコーティング
して強度と持続性(つまり錆び難さ)を補強した、非常に優れた剣なのだ。
 と――――内藤の心配を他所に、ブレイドが突然突っ掛かって来た。

( ,' 3 )「内藤、それは俺に言っているのか? 俺がお前に負けるとでも?」

(;^ω^)「え……? いや、そういう訳では無いんだお……」

( ,' 3 )「いいや、お前は俺が負けると思ってるね。この間の事を言ってるんだろ」

 ……確かに彼の言う通り、内藤は自分がブレイドに負けるとは思って居なかった。何しろ、先
日の戦いでは殆ど互角か内藤が上だったのだから、そう思うのも仕方ない。

( ,' 3 )「ふん……ナメられるのは気に喰わん。内藤、お前に俺の本当の力を見せてやる」

(;^ω^)「うはwwwしまったwwww」 ξ゚听)ξ「……迂闊よね、内藤って」

( ,' 3 )「……それとジョルジュ」 (+゚∀゚)「あ、はい。何でしょうか?」

( ,' 3 )「例の奴、一本俺にくれ。いいだろ?」 (+゚∀゚)「え……はぁ、判りました」

318 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:02:30.22 ID:n4Y0plzf0
 そういう訳で。内藤とブレイドは、リハビリを兼ねた模擬試合をする事になった。工場の中に
そこまで広いスペースは無いため、全員が外に出る事にする。
 ぞろぞろと五人連なって廊下を歩きながら、ふと、ジョルジュは隣を行くツンに訊ねた。

(+゚∀゚)「ところでツンさん」 ξ゚听)ξ「なぁに?」

(+゚∀゚)「内藤のテクって、正直どうだった? ちゃんと上手にヤれてた?」

 そう言った瞬間、振り上げられた拳がジョルジュの後頭部にクリーンヒットした。

ξ////)ξ「な、そ、そんな……ち、ちが……」 ( ^ω^)「……(思考停止)」

彡*゚ー゚)「あ、やっぱり二人ってヤッてた?」 ( ,' 3 )「へぇ。内藤もやるな」

ξ////)ξ「な、何で判ったのよ……覗いてた?」 ( ^ω^)「(思考停止中)」

(;+゚∀゚)「痛ぅ……いや、覗いてはいませんけど。でも、お二人がヤッてた部屋って、俺やフリッ
ツさんが仮眠に使ってる部屋で。壁も凄い薄くて、隣の音が筒抜けで」

ξ////)ξ「うううぅぅううぅぅ……恥ずかしくて死にそう……ねぇ、内藤?」

( ^ω^)「……………………」 (;+゚∀゚)「死んでる…………」

ξ;゚听)ξ( ,' 3 )彡;゚ー゚)「ちょwwwwwwwwwwねーよwwwwww」

(+゚∀゚)「いや、生きてますけどね。おーい、内藤。起きろー、起きろー」

Σ( ^ω^)「ハッ…………何か悪い夢を見ていたような気がするお」

( ,' 3 )「お前、それは……いや、夢と思いたいなら、それでもいいが」

319 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:03:23.39 ID:n4Y0plzf0
 そうして工場の屋上に出ると、ジョルジュは拾った角材をブレイドに差し出した。全長一メート
ル、三センチ角の、特に何の変哲も無い木材である。素材は杉辺りだろうか。

(+゚∀゚)「まさか刀使うわけにも往きませんからね……あ、内藤は別にその義手でいいよ」

(;^ω^)「ちょwwwブレイドさんと僕って、そんなに差があるのかお?」

 先日の戦いを思い返す限り、そこまで強いとは思えないのだが。しかし、ジョルジュがそこま
で認めている以上、やはり強いと言う事なのだろう。

(+゚∀゚)「そうだよ。この間は、俺が殺さないでって頼んだから本気でやらなかっただけで。まぁ、
本当に殺し合いをしたら、ブーンとか一分保たないんじゃないか?」

( ,' 3 )「ジョルジュ……そういうのは、あまり大っぴらに言うものではないだろう」

(;^ω^)「否定はしないのかお……つーか、そんなのと手合わせするの辛いお」

(+゚∀゚)「お前に拒否権は無い」 (;^ω^)「ちょwwwwwテラヒドスwwwww」

 内藤は泣きそうになりながら、左手の仕込刀の具合を確かめた。しゃきん、しゃきん、と開閉
する鋏のように鋭い音を立てて飛び出す刀は、初めて取り付けたとは思えないほど――――
それこそ内藤の手の延長であるかのように――――よく、馴染んだ。
 ギリギリまで仕込んだ刀身を長くするため、普段は手首が曲がらないのが、刃を全部引き出
すと手首の関節も曲がるようになるから、若干使いやすくなる。

 ブレイドもジョルジュから渡された角材を二度三度と振り回し、具合を確かめて内藤に向き直
った。既にその顔は、先刻の緊張感の無い顔では無い。
 知らず、内藤の心は震える。それが恐怖によるものか、歓喜によるものかは判らない。

( ,' 3 )「…………こっちは準備が出来た。いつ来てもいいぞ」

320 :腹痛の吸血鬼狩人 ◆2hwVANPeHc :2006/03/18(土) 15:03:49.73 ID:n4Y0plzf0
ξ゚听)ξ「内藤ー、がんばってー」 彡*゚ー゚)「ブレイドー、内藤くんを殺しちゃだめよー」

 ツンの比較的一般的な声援と、カレンの不吉な言葉を背に受けて、内藤は嘆息した。

 あまり争い事はしたくないと考えながらも、内藤は既に構えを取っていた。尤も武器を構えて
いる以上、やはりこんな真似がしたかったのかもしれないとも思う。

 ブレイドが右側に得物を降ろした脇構えであるのに対し、内藤は左足を出して半身になり、左
腕を前方に掲げたボクシングのようなスタイルを取っている。
 無論、内藤は格闘技なんてやった事は無い。しかしこの仕込み刀を使う以上、このスタイル
が一番適している――――と言う勘から、その形を取ったのだ。

(+゚∀゚)「まぁ、いきなり始めるってのも芸が無いんで。コインでも投げますか」

 ジョルジュが暢気にそう言って、ポケットから五十セント硬貨を取り出した。この極限の緊張
の中で、よくそんなのんびりしていられるものだ。それだけ大物なのかもしれない。

( ^ω^)「………………………………」 ( ,' 3 )「………………………………」

 とは言え、既にそんなジョルジュの態度を気に掛けるほど、内藤もブレイドも余裕は無い。既
にその意識は、完全に目前で敵意を向けてくる相手に集中している。

(+゚∀゚)「じゃ、往きますよー……えいっ」

 緊張感の無い声で、ジョルジュが五十セント硬貨を放り投げる。着地点は、相対する二人の
丁度中心に位置していた。狙った訳では無いだろうが、何とも意味深な位置である。
 内藤の研ぎ澄まされた知覚は、ゆっくりと回転しながら落ちていくハーフダラーコインの表面
に描かれた、第三十五代アメリカ合衆国大統領の顔すら識別出来た。

 キィン――――と。甲高い音と共に、内藤の知覚が戻る。戦いが――――始まった。
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