- 192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 21:46:22.62 ID:BvFhMvL/0
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腰に帯刀していた剣を抜く。城外で剣を抜いたのは、久しぶりのことだった。
( ^ω^)「誰だお」
(:::::::::)「…………」
一応聞いてはみたが、やはり、答える気はないようだ。
だが言わなくても何が目的かは、わかる。
そして『黒ずくめ』は、無言のまま駆け出した。
( `ω´)「……!」
僕も前へ駆け、迎え撃つ。
この場はツンに近い。それだけは、避けなければ。
『黒ずくめ』の外套から覗く両手には、逆手に持たれた短刀が握られていた。
殺気の通り、ということか。
恐らくはツンの命を狙いに来たのだろうが、先に僕を消すつもりのようだ。
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
初撃同士の、邂逅。
月の下、鋼と鋼が交錯する甲高い音が響いた。
- 195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 21:50:15.44 ID:BvFhMvL/0
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右下方から切り上げられた短剣。体を右に寄せ、剣で受ける。
思った通り、左手を止めたら今度は右手で斬りかかってきた。
( `ω´)「おおおおッ!」
読み、動き出していた僕の方が、速い。
右に体を寄せたのは、あちらからの斬撃を遠ざけるためだ。
互いが繰り出した攻撃が当たるのは、僕の左足の方が早かった。
(:::::::::)「───ッ?!」
左足が『黒ずくめ』の腹を捉える。
感じた衝撃から、どうやら鎖かたびらを仕込んでいるようだ。
しかしこちらとて、鉄の靴での回し蹴り。
衝撃は十分に、内臓まで達したはずだ。
『黒ずくめ』はよろめきながら後方へと下がり、距離を取った。
なめられていたのか、慢心なのかは知らないが、慎重になったようだ。
三年前に山賊に不覚をとってから、利き腕を変えた。
剣は両手で握れないが、左手で扱えるようにはなっている。
尤も、実戦は久しぶりだが……。
- 196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 21:53:15.34 ID:BvFhMvL/0
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後ろには、ツンがいる。
そして前には、僕しかいない。
王女は、愛する人は、僕が守る。
少しの対峙が続き、先に動いたのはまたしても『黒ずくめ』。
初撃は右手を振りかぶり、短剣を投げつけてきた。
それを即座に剣で叩き落とす。
その隙に眼前まで迫った『黒ずくめ』は、左上方から斬撃を放つ。
僕はそれを剣を振り上げ、止める。
二度目の交錯の刹那、『黒ずくめ』の右手には三本目の短刀が握られていた。
素手と思い込み、軽視していた。その分、反応が遅れる。
がら空きの脇腹目掛け、凶刃が迫った。
(;`ω´)「こっ……おおおッ!」
『黒ずくめ』が放ったのは、『突き』。
上方の短刀を受け止めた剣を引き、突きに沿うように体を捻る。
(:::::::::)「ッ?!」
- 198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 21:56:57.33 ID:BvFhMvL/0
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脇腹を、短刀が掠る感触。
僕も鎖かたびらを仕込んでいる。掠った程度では、ダメージはない。
そのまま突きを脇腹でいなし、半身を押される形で体を回転させた。
途中、視界の端に捉えたのは、僕の後方へと体を泳がせる『黒ずくめ』。
旋回。遠心力を全て、左手の剣へ。
( `ω´)「はあああッ!」
振り向きざまに、『黒ずくめ』の背を目掛け斬撃を放つ。
しかし、反響したのは、鋼と鉄の音だった。
位置が高すぎたか、肩胛骨の辺りは軽鎧で覆われていたようだ。
そのまま前方に押し出された『黒ずくめ』は……。
(;゚ω゚)「! しまっ!」
ツンが、いる。
体の回転を意地で止め、僕はすぐに駆け出した。
ダメージはあるだろうが、構わず『黒ずくめ』も駆けていた。
ツンが、危ない。
急げ。追いつけ。あいつを、止めろ───
- 201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:00:21.28 ID:BvFhMvL/0
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脳に次々と指令を送り、足を必死に前へと出した、その時。
白い影が、僕の視界を横切った。
それが通り過ぎた後。
『黒ずくめ』は地に倒れ、二度と動かなくなっていた。
(;^ω^)「…………」
白い影は『黒ずくめ』と交差した時に、首を飛ばしていたのだ。
慣性を止めたそれは振り返り、こちらを見た。
( ・∀・)
ヴィップ白騎士団団長、モララー様。
団長専用の白の外套は月の下でも眩しく、存在感に満ち溢れていた。
(;^ω^)「……モララー……様……」
( ・∀・)「はぁ……ひやひやさせるなお前達は。ほんと……」
ξ;゚听)ξ「お、お兄様……」
ツンの声に、モララー様は彼女を射すように見つめた。
- 202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:03:10.00 ID:BvFhMvL/0
-
( ・∀・)「ツン。今日は部屋を出るなと、言ったはずだ」
ξ;゚听)ξ「すみません……」
( ・∀・)「まったくお前達は……もう少し自覚してくれ」
(;^ω^)「申し訳ありません!全て私の責任です!」
剣を置き、地に伏せて詫びた。
元々、ツンをここへ連れてきたのは僕だ。
普通なら処刑されて当然のことをしてしまった。
( ・∀・)「……まぁ、無事だったのならいい」
モララー様はツンの隣へと歩き、切り株に腰を下ろした。
( ・∀・)「さて、面倒なことになったぞ」
(;^ω^)「……お?」
( ・∀・)「ソレだ」
剣で指したのは、事切れた『黒ずくめ』。
そういえば、一体こいつは……。
- 204 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:06:12.61 ID:BvFhMvL/0
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( ・∀・)「狙われたのはお前だよ、ブーン」
(;^ω^)「……え?」
( ・∀・)「今日、こいつの仲間を捕まえて、全部吐かせた」
( ・∀・)「まったく……とっとと吐かないから……足止め食ったじゃないか」
( -∀-)「はぁ……」
(;^ω^)「……」
どうやらモララー様は相当機嫌が悪いようだ。
こんな姿は初めて見た。ツンも面を食らったような顔をしている。
( ・∀・)「……ひとまず、それはいい」
( ・∀・)「……お前達。どうするつもりなんだ?」
( ^ω^)「今日で、終わりにしようと……」
ξ゚听)ξ「……はい」
( ・∀・)「……今日で終わり、か」
- 206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:09:09.38 ID:BvFhMvL/0
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( ・∀・)「で、ツン」
ξ゚听)ξ「はい」
( ・∀・)「そうしてお前は、その先をどう生きる」
ξ;゚听)ξ「先……?」
( ・∀・)「先、だ」
ξ゚听)ξ「……王女として、国に尽力する所存です」
( ・∀・)「ああ、当然だな」
ξ゚听)ξ「……お兄様?」
( ・∀・)「ネーヨ公と、結婚するつもりはあるのか」
ξ;゚听)ξ「…………」
ネーヨ公。素晴らしいお方だと、軍内部でも良く聞く名だ。
ツンも二日後には、十八。つまり結婚が許される歳になる。
そういう話も、あるのだろう。
ネーヨ公なら、それ以上ない人選だと、僕も思う。
- 209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:11:49.57 ID:BvFhMvL/0
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ξ゚听)ξ「……今は……考えられないです」
( ・∀・)「……ま、順当にいけば、そうなるだろうとは思っている」
ξ )ξ「……」
( ・∀・)「嫌か?」
ξ;゚听)ξ「え……」
モララー様は、一体どうしたと言うのか。
僕らのことには、この方も悩んでいたはずだ。
それはこれが、決して叶わぬ関係だから。
未来にあるのは、ツンが悲しむ世界だけ。
だから兄として、悩んでいたはずだ。
しかし今の口振りを見ると、これでは、まるで。
( ・∀・)「ブーン=ラダトスク」
( ^ω^)「……は」
( ・∀・)「ツンと離れるのは、嫌か?」
- 212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:15:26.36 ID:BvFhMvL/0
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何故、そんなことを聞く。
今日で終わると、さっき告げたのに。
( ω )「……」
答えたら、すべてがまた元通りになりそうで。
明日のことは考えず、ツンと今日を最後まで感じていようと思っていたのに。
何故また、そんな事を聞くのですか、モララー様。
( ・∀・)「……『今のお前』は、どうなんだ」
今。今の自分。
明日の自分は、ツンを諦めた自分。
でも今は、今は───……
( ω )「……嫌ですお」
( ・∀・)「……」
ξ゚听)ξ「ブーン……」
( ω )「本当は離れたくなんか、ないですお」
( ω )「ずっと一緒に、彼女と共に、この空の下を生きていきたいですお」
『今の自分』が感情を吐き出すことを止める術は、なかった。
- 215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:18:21.33 ID:BvFhMvL/0
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ξ゚听)ξ「……私も、同じです」
( ・∀・)「…………」
ξ゚听)ξ「明日のことなんて、考えたくない」
ξ )ξ「叶うのなら……今日が永遠に続けば……どんなにいいか……」
ツンも僕と、同じ気持ちだった。
そしてこれもきっと同じ。互いの口からそれを聞くのが、辛い。
二人の終わりを最も突き付ける物は、互いの言葉だからだ。
貴方はそれを、わかっているでしょう。
何故、二人の心を揺らすのですか。
ツンを悲しませたくなかったのではないのですか。
今までの言葉は、全て仮初だったのですか。
貴方は彼女の兄であり、将来は国を背負う方。
だからこそ、苦悩していたのでは───
…………国を、背負う。
- 216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:22:14.17 ID:BvFhMvL/0
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そうか。
貴方も悩み、苦しみ抜いた末に。
軍の頂点の立つ者として、決意したのですね。
ならば僕らと、同じ答えに辿り着いたという事だ。
国を思い、国の為に生きようと選択をした、僕達と。
至極真っ当。それが本来の、当然の行動だ。
今の僕は、国の宝を奪おうとした反逆者。
決意を固めたモララー様に、最早私情などありはしない。
貴方の真意は、解りました。
それならば、僕はそれに、応えましょう。
静かに、モララー様が立ち上がる。
月光を帯びた白の外套と、柔らかな銀髪が風に靡いた。
大陸に名を馳せる大国、ヴィップ。
色を冠した騎士団の中で、精鋭のみを集められた王直属部隊、白騎士団。
その、頂。最強の中の、最強。ヴィップ白騎士団団長、モララー=ヴィップ。
その男が、僕に剣を突き付けた。
- 218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:25:08.13 ID:BvFhMvL/0
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( ・∀・)「ブーン=ラダトスク」
( ・∀・)「剣を抜け。お前が我が国に忠誠を誓った、剣を取れ」
( ・∀・)「最早言葉はいらん。お前がツンを、国の宝を」
( ・∀・)「俺の妹と、生きたいというのなら───」
( ・∀・)「その剣で、語ってみせろ」
- 221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:27:07.99 ID:BvFhMvL/0
-
静かに、剣を抜いた。
背を見せることは、許されない。
それは全ての裏切りを意味するからだ。
ξ;゚听)ξ「ブーン!お兄様!」
ξ;゚听)ξ「お兄様!やめて!明日からもう、会わないから!」
ξ;凵G)ξ「……そう……誓ったから……お兄様……!」
夜の丘に、風の音と、ツンの嗚咽が木霊する。
明日からは元通りに。
二人の関係は、それでいい。
でも違う。それではけじめに、ならないのだ。
僕がしてきたことは、王女を騙し、欺き、裏切り……。
万死に値する罪を、重ねてきた。
そしてそれは、償わねばならない。
もう、引き返すことは、できないのだ。
- 224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:30:08.28 ID:BvFhMvL/0
-
それでも僕は、剣を抜き、モララー様の前に立った。
抵抗でも、悪足掻きでもない。
モララー様は、剣で語れと言った。
それは自分の志を、剣で証明しろという意味だ。
罪の代価は、己の命。
それを賭して戦うことで、己の誓いを見せてみろ、と。
前線に立つ事ができない僕を、騎士として見てくれた。
騎士ならば、最期まで主君の為に戦ってみせろと。
裏切り者としての処刑ではなく。
最期まで忠誠を誓った騎士として、果てる。
ツンが悲しむ事を、恐れていた。
しかし今は、それすらも厭わない。
ツンもこの先生きていく為には、乗り越えなければならないのだ。
そしてそれは礎となり、受け入れることで、彼女もまた大きく成長する。
これでいい。あの夜から、決まっていた結末だ。
- 226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:33:26.60 ID:BvFhMvL/0
-
風が、
止んだ。
(# ・∀・)「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああッ!!!」
(# `ω´)「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!!!」
駆け、全身全霊をのせた剣を、振り下ろした。
- 228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:36:01.69 ID:BvFhMvL/0
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刃と刃が、ぶつかり合う音がした、直後に。
「ブーーーーーーーン!!!!」
彼女の声が、耳に飛び込んだ。
- 229 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:37:59.31 ID:BvFhMvL/0
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一瞬の邂逅の後、すれ違う。
( ω )「…………」
がっくりと、膝を折った。
左手には、剣の柄。
その先にある刀身は、中間から先が、無くなっていた。
( ・∀・)「……お前の忠義は、折れた」
わかっていた。
モララー様には、僕が命を賭しても、届かないことは。
国に生涯を尽くすと誓った僕の剣は、あっけなく両断された。
もう、僕には何も、残っていない。
- 230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 22:41:08.90 ID:BvFhMvL/0
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ξ;凵G)ξ「ブーン……お兄様……やめて……」
ああ、ツン。どうか泣かないで。
最期は君の笑顔を、連れて行きたいのに。
背中に感じる、モララー様の気配。
僕の真後ろに立っている。
次にモララー様が動いた時、僕の首は胴から離れ。
最期までツンを愛した今日という日に、永遠に留まるのだろう。
風を切る、音がした。
( ^ω^)
ツンを見て。
せめて、と、いつもと変わらぬ笑顔を、向けた。
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