105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:04:03.55 ID:BvFhMvL/0
 
 

 
 
爪'ー`)「お前が馬車に乗れ。久しぶりに、馬に乗りたくなった」
 
 食事会を終え、ネーヨ公と城前で別れた後、父は無茶なことを言いだした。
 
(;・∀・)「いや、危険ですよ。だめです」
 
爪'ー`)「堅いことを言うな。それとも、白騎士団は馬に乗る一人の人間も護衛できんのか?」
 
 酔っているせいか、普段以上に口が悪い。
 城内では変なことを言わされたし、そんなに機嫌がいいのか。
 しかしここまで言われたら、騎士団長として退くわけにはいかない。
 
( ・∀・)「……わかりました。全力で護衛致します」
 
爪'ー`)「うむ」
 
 満足し頷いた後に、父は私の馬にまたがり、先陣を切った。
 各部隊長達に何が何でも父に怪我をさせるなと告げて、馬車に乗り込む。
 
爪'ー`)「では、出発!」
 
 張り切った父の声が、馬車の中にまで聞こえた。
 

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:06:53.51 ID:BvFhMvL/0
 
ξ゚ー゚)ξ「……楽しそうですね、お父様」
 
( ・∀・)「あぁ……まったく……」
 
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ」
 
( ・∀・)(…………)
 
 無理をしている。
 
 食事の時から、そう感じていた。
 間違いなく、ブーン=ラダトスクのことを思っていたのだろう。
 私達に隠し事をしている事実と、ネーヨ公の心算を計った上で。
 
 その華奢な体には重すぎる重圧を、感じていたのだろう。
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
 兄として、私にできることはなんだ。
 
( ・∀・)「…………」
 
 愛する妹が、重圧に押し潰される前に。
 部下が間違いを犯し、罰せられる前に。
 

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:09:02.25 ID:BvFhMvL/0
 
 彼の方は、一応の手を打った。
 何か動きがあれば、即座に私に伝わるはずだ。
 それに……信じても、いる。ツンが愛した男だ。私自身、見極めているつもりだ。
 
 ならば、ツンに私がしてやれることは。
 
ξ゚听)ξ「お兄様?」
 
 重い悩みを背負った彼女に、してやれることは。
 
( ・∀・)「……ツン」
 
 馬車が音を立て、揺れる。
 しかし、確かに聞こえる虫の音が、心を落ち着かせた。
 
 一つ息を吐いて、強く、ツンを見つめる。
 彼女もまた、私の雰囲気を察して神妙な面持ちになっていた。
 
( ・∀・)「……石は」
 
 私に、できること。

 
( ・∀・)「宝石は、見つかったか?」

 
 それは、重圧の、共有。
 
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:11:18.80 ID:BvFhMvL/0
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
 ツンは言葉を発しなかった。
 発せない、が、正しいのかもしれない。
 まさか私が知っていようとは、夢にも思っていなかっただろう。
 
( ・∀・)「……知ってるよ、全て」
 
 ああ。今のツンの心は、私の言葉一つ一つに抉られるている事だろう。
 ツンの顔が、青ざめていく。それはきっと、彼の事を考えて。
 
( ・∀・)「心配するな……私は、どうするつもりもない」
 
ξ;゚听)ξ「お兄……様……」
 
( ・∀・)「ブーン=ラダトスクのことは、知っている。彼もそのことは、知っている」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
 もっと早く、話すべきだったのだろうか。
 ツンの心の中で、彼がここまで大きな存在になる前に。
 ……それも私の甘さだ。今更悔いても、仕方がない。
 
ξ;゚听)ξ「……いつから……知っていたのですか」
 
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:14:44.83 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「わりと最初から、気付いていたよ」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
 ツンは大きく息を吐いた後に俯いて、また私を見た。
 お前には悪いが、こちらも遊びでやっているわけではない。
 世間知らずのお姫様のお忍びなど、すぐに私の耳に入ったよ。
 
 真相を知った直後は警備を強化したが……それも無駄だった。
 この事を知られないようにと、衛兵達の口止めにも苦労した。
 最も信用できるものを配備するようにもした。それは全て、私の感情一つでだ。
 
ξ;゚听)ξ「お兄様……! ブーンには罪はありません!」
 
( ・∀・)「落ち着きなさい。私は何もしないと言っただろう」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
( -∀-)「……どれほどのことしているのかは、自覚しているようだな」
 
ξ;゚听)ξ「……はい」
 
 それは信じていた。単なる遊びではないとツンの口から聞け、少し安堵する。
 その直後に、私の危惧が確たる物になったことを、嘆いた。
 やはり、後戻りはできないのか。
 
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:18:00.60 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「……どうするつもりなんだ?」
 
ξ; )ξ「…………」
 
 沈黙。
 
 やはりツンも、わかっていながら感情が歯止めをかけているのだろう。
 終わらせなければいけない事だが、どうしてもそれができない。
 それはきっとブーン=ラダトスクも、そして私も、同じことだ。
 
( ・∀・)「すまなかったな」
 
ξ; )ξ「いえ……」
 
 答えられるなら、とうにそうしているはずだろう。
 我ながら馬鹿な質問をした。予想していたツンの胸中は、見事的中していた。
 だからこそ、どうしようもないのだが。
 
( ・∀・)「ツン」
 
ξ; )ξ「……はい」
 
( ・∀・)「私は───俺は、どうするべきか答えは見えている」
 
ξ; )ξ「…………」
 
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:20:05.30 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「お前も、わかっているはずだ」

 
ξ; )ξ「……はい」
 
( ・∀・)「しかし感情が、そうさせない。その答えを、選ばせない」
 
 
 
( ・∀・)「違うか?」
 
 
 …………。
 
 
ξ; )ξ「……違いません」
 
( ・∀・)「……そうか」
 
( ・∀・)「……私も、そうだよ」
 
 考えていたことは、寸分違わず、合致してしまった。
 
 ならばもう、これ以上口を閉ざす道理はない。
 

118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:23:31.19 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「ツン」
 
ξ )ξ「……はい」
 
( ・∀・)「俺が何故、今まで傍観していたか、わかるか?」
 
ξ; )ξ「……いえ」
 
( ・∀・)「…………」
 
( ・∀・)「……お前を」
 
( ・∀・)「愛しているからだよ」
 
ξ゚听)ξ「……お兄様……」
 
( ・∀・)「お前を愛しているから、ブーンを追放しなかった。罰しなかった。
      父にも進言しなかった。それをすれば、お前が泣いてしまうから」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
( ・∀・)「全て、俺の甘さだ」
 
( -∀-)「……国を背負う者ならば、そこに私情を挿むべきではない」
 
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:26:01.99 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「しかし、どうにもならなかった」
 
( ・∀・)「お前の心に生まれた物が、ここまで膨れ上がる前に、対応できたのに、だ」
 
( -∀-)「……」
 
ξ;゚听)ξ「……」
 
( ・∀・)「……逆に、酷なことをしてしまった。すまなかった」
 
ξ;゚听)ξ「そんな……全ては私の勝手で……」
 
( ・∀・)「物事とは、結果が全てだ。こうなった責任は、俺にもある」
 
ξ;゚听)ξ「お兄様……」
 
( ・∀・)「だから───ツン」
 
 
 
( ・∀・)「お前の負担を、少しでも、俺に預けてくれ」
 
 それで、少しでもお前の心が軽くなるのなら。
 
 許せ。未熟な兄の、全てを背負えぬ器量の無さを。
 

121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:28:11.82 ID:BvFhMvL/0
 
 
:ξ )ξ:
 
 ツンは俯き、小刻みに震えていた。
 辛かっただろう。ずっと一人で、悩んでいたはずだ。
 
 遅れて、すまなかった。
 
 向かいに座していた私は、ツンの隣へ移動し、座る。
 そして静かに、肩を抱いた。小さな肩は壊れそうな程に、震えていた。
 
ξ;凵G)ξ「おにぃ……さま……っ……」
 
 私の胸で泣くツンの頭を、優しく撫でた。
 
 
 存分に泣け。
 
 
 この時ばかりは、全てを忘れて、泣けばいい。
 
 
 ───………
 
 

122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:30:48.32 ID:BvFhMvL/0
 
 
 ───………
 
 
( ・∀・)「……落ち着いたか?」
 
 身に感じる揺れが、馬車によるものだけになったことを感じた。
 ツンはどうやら、泣き止んだようだ。
 
 少しは彼女の負担を軽減することができただろうか。
 問題は何も解決していないことは、重々承知している。
 だが、彼女が少しでも楽になってくれたのなら、今の自分はそれで満足だった。
 
 本当に、情けない兄だ。
 
ξ゚听)ξ「……はい」
 
 顔を上げたツンの目は少し、充血していた。
 ハンカチを取り出し、顔を拭ってやる。
 
ξ゚听)ξ「……ありがとう……ございます……」
 
( ・∀・)「大丈夫か?」
 
ξ゚ー゚)ξ「……はい」
 

123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:33:36.26 ID:BvFhMvL/0
 
ξ゚听)ξ「お兄様。ご迷惑をおかけして本当に……」
 
( ・∀・)「気にするな。何度も言うが、起きてしまったことは仕方がない」
 
 自分で言っていることが、冷静に考えればおかしいことは承知の上だ。
 ツンに言ったように、私の責任もあることは事実だ。
 それを含めて、自分に対する甘えも露呈させた言葉だった。
 
 行いを、甘さを、何を悔いても先へは進むことはできない。
 後悔も反省も、それが済んでからいくらでもできるのだ。
 
 するべきことは、例え牛歩であろうとも、確実に進むことだ。
 
( ・∀・)「ツン」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
( ・∀・)「行動に移すことは、今はいい」
 
( ・∀・)「……それを踏まえて、お前はもう、答えを見つけているか?」
 
ξ )ξ「……」
 
 少しの、沈黙の後。
 

124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:36:24.01 ID:BvFhMvL/0
 
 その後に。
 
ξ )ξ
 
 こくりと、頷いた。
 
( ・∀・)「……そうか」
 
 口で肯定をできないのは、まだ決心がついていない証明だ。
 だが、ツンに覚悟があるのなら、自分はもう、それで十分だった。
 
ξ゚听)ξ「……お兄様」
 
( ・∀・)「どうした?」
 
ξ゚听)ξ「……ブーンは」
 
( ・∀・)「あぁ」
 
ξ゚听)ξ「ブーンは……私の事を、どう思っているのでしょうか……」
 
( ・∀・)「……」
 
 まさかブーン=ラダトスクと同じ台詞を吐くとは、思わなかった。
 惹かれ合い、ブーンも彼女のことをよく理解している事は感じていたが……。
 

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:39:01.37 ID:BvFhMvL/0
 
 二人はそこだけ、ピンポイントに鈍感なのだろうか。
 普通に考えたらわかりそうなものなのに。
 恋愛をしたことがない自分でも、話を聞くだけでそれが本気である事は解る、が。
 
( ・∀・)「それは、俺から言ってもいいことなのか?」
 
ξ;゚听)ξ「そ、それは……」
 
( ・∀・)「違うだろう、な?」
 
ξ;゚听)ξ「……はい」
 
 それは私が告げることではない。
 しかし、不安な気持ちも少しは理解できる。
 
( ・∀・)「ブーン=ラダトスクは……」
 
ξ゚听)ξ「……?」
 
( ・∀・)「二年前のあの夜は、偶然あそこの見回りを担当していた」
 
ξ゚听)ξ「……そう……なんですか?」
 
( ・∀・)「そうだ」
 

126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:42:03.04 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「そしてその夜から、あいつは青騎士団の団長に、
      今後も夜の見回りをしたいと、進言した」
 
ξ゚听)ξ「え……」
 
( ・∀・)「最初は宝石を探す為だったとは思うが……」
 
( ・∀・)「まぁ、お前に会うためだろうな」
 
ξ*゚听)ξ「…………」
 
( ・∀・)「……俺から話せるのは、このくらいだ」
 
ξ*゚听)ξ「……はい」
 
 ツンの瞳は見る間に潤いを増していき、頬は桃色に紅潮していた。
 そんな顔は今までに見たことがないぞ……まったく。
 ともあれ、これで少しは不安は拭われただろう。
 
 互いの気持ちを知ることが恐ろしい事の理由は、二つあるのだろう。
 一つは、片想いであることだ。自分のわがままで、相手を振り回しているのではないか。
 もしかしたら相手は、そんな感情を抱いていないのではという、不安と怖さ。
 
 どこからどうみても片想いではないから、それは払拭されたはずだ。
 実際そんなものは、大した問題ではない。問題なのは、もう一つの理由だ。
 
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:45:48.25 ID:BvFhMvL/0
 
 互いが愛していることを知ったら、余計に歯止めが効かなくなる。
 気持ちが繋がり成就しても、関係は成就しないのだ。
 それにより突き付けられる、明確な破局。
 
 今の時点でも二人が結ばれることはないと、理解しているはずだ。
 それを色濃く感じてしまう上に、気持ちを知れば尚更引っ込みがつかない。
 男と女……いや、感情というものは、本当にややこしく、面倒だ。
 
 それに気がついた時、ツンはまた気落ちしてしまうのだろう。
 しかし、既に答えは出ていると聞いた時、ツンは頷いた。
 
 それならば、俺はお前を信じよう。
 
 だから今は、笑っていてくれ。
 
 馬車の揺れと、身を寄せる妹の温かさが、心地良かった。
 
 
 
 その時。
 
( ・∀・)「……」
 
 馬車の外に突然気配が生まれ、窓の隙間から一枚の紙切れが差し込まれた。
 深い赤色をしたその紙は、ドクオからの伝令を報せる物だ。
 
130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:49:03.30 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「ツン、すまない」
 
 軍部の伝令と知り、ツンは即座に私から離れた。
 四つ折りにされたその紙を丁寧に開く。
 
 
 =================================
 
           伝令
 
 
   ブーン=ラダトスクを監視中
   虫を一匹捕獲しました
   薬で眠らせ、拘束してあります
 
 
                       D
 
 =================================
 
 
( ・∀・)「…………」
 
 
 『虫』とは即ち、侵入者。
 言い知れぬ悪寒が、背を走る。
 

131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:50:46.55 ID:BvFhMvL/0
 
( ・∀・)「…………」
 
 即座に筆を取りだし、手を走らせた。
 
 『全て吐かせろ 決して殺すな』
 
 簡単にそう書いて、窓の隙間に紙を差し込んだ。
 すぐに紙は外側から引き抜かれ、気配は消えた。
 
( ・∀・)(……どういうことだ)
 
 城の警備は、怠ってはいない。
 ドクオの部隊には、絶対の信頼を寄せている。
 普段の衛兵に加え、彼の部隊も常に目を光らせているはずだ。
 
 相当の手練れでない限り、彼らの目を欺くことはできない、はずだ。
 それが、今まで影さえ見えなかった者が突然現れ、捕獲された。
 
 影、さえ───………
 
( ・∀・)(ネーヨ公の……あの言葉……)
 
 『不穏な噂を耳に……ヴィップに内通者が……』
 
 あれは本当に、初耳だった。
 

132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:53:35.33 ID:BvFhMvL/0
 
 ブーン=ラダトスクを監視している時に、捕まえた?
 どういう、ことだ。何故あいつの周囲に、そいつは居た。
 
(;・∀・)(…………)
 
ξ゚听)ξ「……お兄様?」
 
 落ち着け。落ち着け、白騎士団団長、モララー=ヴィップ。
 あいつが担当しているのは、警備が最も手薄な、城の裏側だ。
 目的はわからないが、城へ侵入するならあそこしかないはずだ。
 
 ……しかし、あそこを警備すると進言したのも、あいつだ。
 
 偶然、私がブーンの監視をドクオに指示をしたから。
 偶然、私達が留守にした日に、内通者がいると聞いた、その日に……
 偶然、それらが重なった日に現れた侵入者を、その場で捕らえた……?

 ……そんなことが、あるのか。
 
 ともあれ、侵入者はドクオによって捕獲されている。
 事実究明は、城に戻ってからでいい。慌てるだけでは、結果は出ない。
 
 一転して、心地良かった馬車の揺れが、不快感に変わっていた。
 
 ───………
 
133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 19:59:48.75 ID:BvFhMvL/0
 
 

 
 
爪'ー`)「あぁ、気持ち悪いな」
 
 ヴィップ城について、お父様は開口一番にそう言った。
 酒に酔った上で馬に乗ればそうなるだろうに。
 今日は色々と、お父様の意外な一面を見てしまった。
 
 ……そして、兄と話したことも、わたしの心に深く届いた。
 不安は随分と軽くなり、久しぶりに、解放された気分を味わった。
 それでもまだ、終わってはいない。
 
 
 でも、もう決めた。
 
 
 これから、どうするか。
 これ以上、ブーンにも、兄にも、迷惑をかけることはできない。
 宝石がついに見つからなかったことが、心残りだったけど。
 
 答えをついに掴むことができたから……それで、よかった。
 結局、最後までわたしのわがままで終わることだったのだ。
 

134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:02:50.06 ID:BvFhMvL/0
 
 それにしても、兄の様子が急変した事には驚いた。
 軍からの伝令らしき紙を見た途端に、表情が変わった。
 何か大事な事が起きたのだろうか。
 
 それは兄達、騎士団に任せていればきっと大丈夫だと思う。
 ついでに、今日はブーンと会うなと言われてしまった。
 やっと覚悟が決まったというのに、でも何かあったのなら、仕方がない。
 
爪'ー`)「ツン。部屋までエスコートをしてあげよう」
 
ξ゚ー゚)ξ「はい。お願い致しますわ」
 
( ・∀・)「おい。数名、お二人に付き添え」
 
爪'ー`)「なんだ? 私なら大丈夫だぞ」
 
( ・∀・)「念のためです。というかふらふらしてるじゃないですか」
 
爪'ー`)「なんのこれしき。私はまだ若い」
 
(;・∀・)「……まぁ、付き添いは少し離しますから……」
 
 兄も今日のお父様は、扱いきれないようだった。
 

135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:05:34.70 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)「騎士団長」
 
( ・∀・)「はい」
 
爪'ー`)「用が済んだら、私の部屋に来い」
 
( ・∀・)「……は」
 
爪'ー`)「……」
 
爪'ー`)「……無理はするなよ」
 
 そんな会話を交わした後、兄は軍の宿舎へと駆けていった。
 やっぱり、何かあったのだろうか。
 
 浮かんだのはまた、ブーンの姿。
 今はもう、夜の警備を始めているはずだ。
 あの時のネーヨ公の言葉が重なり、少し不安になった。
 
爪'ー`)「ツン。お前は、心配するな」
 
 わたしの様子に気付いたのか、お父様が優しく頭を撫でてくれた。
 それだけで幾分か、心が落ち着いた。
 
137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:07:44.76 ID:BvFhMvL/0
 
爪'ー`)「では、行こうか」
 
ξ゚ー゚)ξ「はい」
 
 お父様が僅かに肘を浮かせる。わたしはそこへ腕を絡めた。
 こうして二人で歩くのも、久しぶりのことだ。
 というか本当にふらふらしているのだけど、大丈夫だろうか。
 
爪'ー`)「ツンよ」
 
ξ゚听)ξ「はい?」
 
爪'ー`)「ネーヨ公は、どうだ?」
 
ξ゚听)ξ「……どうだ、とは?」
 
爪'ー`)「わかってるだろう。婚約者候補として、どうだ?」
 
ξ;゚听)ξ「う〜ん……」
 
 タガが外れたのか、直球を投げられてしまった。 
 突然そんなことを言われても、困る。
 何度も思ったことを、無難に口に出すことにする。
 

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:10:55.15 ID:BvFhMvL/0
 
ξ゚听)ξ「……素敵な方だと思いますわ」
 
 それは本心だったから、問題はないはずだ。
 
爪'ー`)「そうかそうか」
 
 それで満足したのか、お父様はにっこりと笑った。
 あまり急がずとも良い、ということだろうか。
 
爪'ー`)「一つ、教えてやろう」
 
ξ゚听)ξ「何をですか?」
 
爪'ー`)「人は、二種類の嘘をつく」
 
ξ;゚听)ξ「へ?」
 
爪'ー`)「愛のある嘘と、愛のない嘘の二つ、だ」
 
爪'ー`)「そして、男は後者をよく使う」
 
爪'ー`)「……私もその内の一人だ」
 
ξ;゚听)ξ「お、お父様……」
 
爪'ー`)「ははは」
 
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:14:03.65 ID:BvFhMvL/0
 
 何を言いたいのだろう、ただ自虐したいだけなのだろうか。
 でも、無意味な事を話す人ではない。……酔ってるけど。
 
爪'ー`)「見極めろ」
 
爪'ー`)「愛のある嘘をつける男は、イコール、愛に溢れた男だ」
 
ξ゚听)ξ「……愛のある……嘘……」
 
爪'ー`)「という話を昔、王妃にしてな」
 
ξ゚听)ξ「お母様、ですか」
 
爪'ー`)「そうだ。自分の嘘を正当化するなと、怒られたよ」
 
爪'ー`)「ははは」
 
ξ;゚听)ξ「…………」
 
爪'ー`)「……どんな物でも愛は測れる。本質を見抜け」
 
ξ゚听)ξ「……」
 
爪'ー`)「わかったな?」
 
ξ゚ー゚)ξ「……はい」
 

141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:18:14.80 ID:BvFhMvL/0
 
 愛のある嘘……か。
 そんな嘘なら、つかれてもいいなと思う。
 
 二年の間、わたしは嘘をついてきた。
 それがお父様の話の中で、どちらの嘘かは、わからない。
 
爪'ー`)「さぁ、今日は疲れただろう」
 
 わたしの部屋につき、扉を開け優しく背中に手を添えた。
 今日は兄に加えて、お父様の温かさまで感じることができた。
 こんなにも優しい二人を、わたしは今まで騙してきた。
 
 ごめんなさい、二人とも。
 
 もう少しで、わたしはわたしの、決着をつけます。
 
爪'ー`)「おやすみ。良い夢を、な」
 
ξ゚ー゚)ξ「おやすみなさい。お父様」
 
 ゆっくりと、扉が閉まる。
 いつもならやっと彼に会えると喜んでいた。
 だけど今日は、久しぶりにゆっくりとできる、というか、そうするしかない。
 
 着替えを済ませ、ベッドに腰掛けた。
 枕元に置いてあった本を手に取り、お気に入りのページを開く。
 
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:21:04.25 ID:BvFhMvL/0
 
 本の内容は、貴族の娘に恋をした平民の男のお話。
 よくある物語だけど、わたしはこの本が特に好きだった。
 
 この本では、二人は悲恋の終末を迎える。
 
 思いは、成就した。
 だけど周囲が、許さなかった。
 悲しみに暮れた二人は、ついに互いの命を絶ってしまう。
 
 実はこれが初めて読んだ本で、そのシーンが強く印象に残っていた。
 愛故に死を選ぶということに、幼いながら感動を覚えた。
 それはとても悲しいことで、絶対に死にたくないと思った。
 
 今は少し、考え方が違う。
 死にたくないという答えは変わらないのだけど。
 物語は、そこで終わる。でも現実は、まだまだ続く。
 
 わたしが死んでも、お父様と兄はこの世界で生き続ける。
 そしてきっと、わたしの死は二人を悲しませてしまう。
 だからわたしは、絶対に死は選ばないと誓った。
 
 それに近い事で、ブーンと遠くの国へ逃げることを、考えた事があった。
 でもそれは、彼にも迷惑がかかるし、二人が悲しむことにも違いはない。
 
 何をどうしようが、わたし達は結局、どうしようもないのだ。
 

144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:24:10.70 ID:BvFhMvL/0
 
 ページをめくる。
 物語は、ヒロインの胸に短剣を突き立てる所だ。
 
 兄の話を聞く限り、ブーンもわたしと同じ気持ちを抱いてくれている。
 でもやっぱり、それは本人の口から聞きたい。
 わたしもこの気持ちを、伝えたい。彼の顔を、真っ直ぐに見て。
 
 その時わたしは、どうなってしまうのだろう。
 決心は、鈍らないだろうか。彼は、怒らないだろうか。
 
 ……ううん、彼は絶対に、怒らないはずだ。
 あの笑顔で、全てを受け入れてくれるに、違いない。
 
 ──ぽたりと、本に水滴が落ちた。
 
 物語に感動してしまったのだろうか。涙が、溢れて、くる。
 
 終わる。終わって、しまう。
 彼の笑顔を、もう、見られなく、なってしまう。
 
 彼の温もりを、もう、感じ、られな……く……。
 
 あれ、おかしいな。
 
 もう、決めた、はずじゃない。
 ついさっき、決めた、ばかりで、まだ彼にも、会って、な……。
 
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/17(土) 20:27:33.70 ID:BvFhMvL/0
 
 止まらない。涙が、止まらない。
 全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ。
 明日全てが、終わってしまう。
 
 ブーンとお別れしたら、将来は、違う人と結婚して。
 ブーンとは、完全に、会うことはなくなって。
 
 
 この先にあるわたしの世界から、ブーンはいなくなって……。
 
 
 いやだ……やだよ……そんなの……無理だよ……。
 ブーンが……いないなんて……会えないなんて……。
 やだよ……やだ……お父様……お兄様……ごめんなさい……。
 
 
 明日もう……お別れなんて……やだよ……。
 
 せめて、会うなと言われたけど、今日だけは一緒に……居たい。
 
 
 行こう。彼に会いに。今夜だけは、彼を愛した、わたしのままで───……。
 
 
 ───………
 

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