127 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 19:55:32.12 ID:DEKAF8T90

第三打 幻赤花




大釜が煮えたぎっている。

中には赤い液体がぼこぼこと泡立ち、
房の中は異臭で満たされていた。


( ,,゚Д゚)「……」


一人の男は、膝をかかえその様子を黙って眺めている。

131 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 19:56:37.14 ID:DEKAF8T90

( ゚ω゚)「……」


もう一人の男は、火を絶やさぬよう薪をくべ続けた。


やがて釜の中の液体が完全に無くなり、
黒い炭が残った。


内藤はその炭を布にくるみ、清流から汲んできた水でこし始める。

あっという間に、水が赤黒く濁った。
134 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 19:57:30.09 ID:DEKAF8T90

そして、布に残ったのは少量の黒い砂のようなもの。

血の鉄だった。


( ゚ω゚)「フヒヒ」


刀には切れ味、強度、以外にも何かがある。

単純にそれを比べるならば、無限刀の時点であのような結果にはなり得ない。

であるとすれば、何が?


( ゚ω゚)(魂だお)

137 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 19:58:37.52 ID:DEKAF8T90

内藤はその赤黒い砂を、溶かした鉄に練り混んでいく。


鉄はまず、打ち手の魂が込められ出来上がる。

その後、使用者が少しずつ、少しずつ魂を上塗りしていくのだ。


( ,,゚Д゚)「……」


何度も何度も、練っては叩き、練っては叩く。

鉄に、血の持ち主の魂が馴染むまで、何度も。


147 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:07:21.56 ID:DEKAF8T90

鍛冶屋と侍。
その間柄には魂の繋がりは薄く脆い。

だが、元々深い繋がりのある魂同士を、
鉄を媒体に結び付けた場合、
どの様な反応を示すのか?

そしてそれを、義虎のような才溢るる剣士が振るった場合、
どれ程の効果があるのか。


純粋に内藤は、村正への復讐を抜きに、
刀鍛冶として興味があった。


150 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:10:33.62 ID:DEKAF8T90



( ゚ω゚)「ふんっ!」


鎚が振り降ろされる度に、鉄から発する気が増える。

それから幾日にも渡り、朝も昼も夜も、
鎚の音が鳴り響いた。
152 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:11:46.62 ID:DEKAF8T90





研ぎ水が灰色ではなく、赤い。

刀を研ぎ石に当て、前に押し出す。

もはや、殆んどの摩擦は感じられず、
すうっ と滑るのみだった。


( ゚ω゚)(良し)
157 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:12:42.62 ID:DEKAF8T90

内藤が天井に向けて、持ち上げたそれは、
黒に赤の褐色がかかった、見たことも無い刀であった。


( ^ω^)「義虎殿」

( ,,゚Д゚)「……」


義虎が内藤から刀を受け取る。


その瞬間、刀が放っていた気は膨大に膨れ上がった。


(; ^ω^)(これほどの反応を示すのかお)


予想以上の刀の反応に戸惑いながらも、
内藤は嬉々として語った。

165 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:18:57.47 ID:DEKAF8T90



( ^ω^)「名は幻赤花、その刀には令殿の魂が込められているお。
       その刀で人を斬り、血を吸った時にのみ、
       令殿の存在を感じられるだろうお」

( ,,゚Д゚)「令……」


虚ろな表情のまま、刀を受け取った義虎は、
両手で柄を握りながら歩きだした。


( ^ω^)(妖刀に亡者……何人が犠牲になるかお……ククッ)


167 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:21:30.65 ID:DEKAF8T90





遠くよりふらふらと歩いて来る人影が見える。


(-_-)(あれは……)


道場の門下生。

義虎が道場を飛び出した、十日以上前の事、
彼らも意を決し、賊の根城へと義虎を追って出た。

だがそこで目にしたのは、いくつもの賊の死体で血塗られた、
凄惨なる屋敷があるだけだった。

門下生達はその後、義虎と令を探し回っていたのだった。

171 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:22:34.34 ID:DEKAF8T90

(*-_-)(義虎さんだ!間違いない!)


着物は乞食のようにボロボロに、
顔は虚ろでホホが痩けていたが、間違いなく義虎であった。


(*-_-)「義虎さ〜ん!」


意気揚々と駆け寄る門下生に


( ,,゚Д゚)


188 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:28:10.37 ID:DEKAF8T90


義虎は、黒いそれを斜めに振った。


(*-_-)「え……?」


まずは振っていた手の肘から先が落ちた。

次いで左肩から右の腰にかけて一本の線が走る。


(-_-)「な……あ……」


192 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:29:29.78 ID:DEKAF8T90

そしてその線から、溢れんばかりに赤い液体が飛び出した。

息ができなくなり、膝を付こうとした青年は、
自らの体がズレ落ちるのを見た。

地に伏し、手を伸ばした先には、己の足。

奇妙な光景を目にしながら、青年は目を閉ざした。
197 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:31:21.05 ID:DEKAF8T90

飛び散った血が、刀に……義虎に振りかかる。

温い液体を浴びた義虎は、確かに、

絶命した直後の、
温かい令を抱いた、
あの時のぬくもりを感じていた。


( ,, Д )「ああ……令…令…」


いとおしい感覚に包まれながら、
義虎は今しがた己が斬り捨てた青年を目にした。
199 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:32:30.03 ID:DEKAF8T90

(-_-)


自分を兄のように慕ってくれた青年だった。

剣の才は無かったが、自分が目標だと常々語っていた。

彼を、木の葉を斬るが如く斬り殺した。


令へのいとおしさと、青年への罪悪感が入混ざる。


(;, Д )「あ……あああぁぁぁぁぁ」
203 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:35:11.95 ID:DEKAF8T90

抑えきれない願望が溢れ出す。


令に会いたい、令に会いたい、令に会いたい、
人を斬りたい、人を斬りたい、人を斬りたい、
血を浴びたい、血を浴びたい、血を浴びたい、


僅かな自我が反発する。


人を殺した 弟のような少年を
言葉も掛けず 己の欲望のためだけに


(,, Д )「うう……」


義虎は町へと向かっていた足を止め、
山へと歩いていった。

209 : ◆3m0SptlYn6 :2008/05/07(水) 20:37:51.89 ID:DEKAF8T90






その後、南の山に鬼が住み着いた、と町人達の間で噂になった。

首を刈られ、血を抜かれるらしい。


そして



その鬼は、涙を流しているという




三本目   〜了〜

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