94 :1:2008/03/29(土) 21:57:40.22 ID:Ax4fpBXf0


第3打 開眼




美府城演習場

将軍の観覧席を上座に、下座が一般開放された。

物見好きな町人や、剣客なども集まっていた。


( ∵)「此より斎藤茂羅ノ助と、渋澤権兵衛の御前試合を始める」

( ・∀・)
  _、_ 
( ,_ノ` )


( ∵)「互いに礼」


99 :1:2008/03/29(土) 21:59:34.91 ID:Ax4fpBXf0

渋澤の腰には長刀も脇刺もない。
左手に蓙に巻かれた長物があるだけだった。


(; ^ω^)(鞘を作らなかったのかお……)


( ・∀・)「なんだいその蓙は?まさか鞘もない刀で試合をするつもりなのかな?」


茂羅ノ助が、内藤以外の会場全員の気持ちを代弁する。

  _、_ 
( ,_ノ` )「如何にも」

( ・∀・)「あはっ!じゃあこの村正でその妄言ごと、叩き折ってやるからな!」
  _、_ 
( ,_ノ` )「やれるものならば……」

103 :1:2008/03/29(土) 22:01:56.97 ID:Ax4fpBXf0

バッと蓙を投げ捨て渋澤が構える。

抜き身のまま、あらわにされた刀は、
素人目でみても名刀とわかる物だった。

「おお〜」

と見物人から歓声が上がる。


( ・∀・)「……素晴らしい!実に素晴らしい刀だ!名を伺おう」
  _、_
( ,_ノ` )「無限刀!」

( ・∀・)「無限刀……か。この村正の餌食になった刀として覚えておいてやるからな!」
107 :1:2008/03/29(土) 22:05:12.73 ID:Ax4fpBXf0

茂羅ノ助もスラリと刀を抜き出し、構えた。

数多き見物人の中で、内藤だけが感じとった。

茂羅ノ助が抜いた刀から発する、
ドス黒く濁った気を。


(; ^ω^)(なんだお、あの刀は……)

( ∵)「いざ尋常に、始め!」


歓声がシンと止んだ。



112 :1:2008/03/29(土) 22:07:27.48 ID:Ax4fpBXf0




なるほど流石は指南役と言うことか。
隙が見当たらない。

  _、_ 
( ,_ノ` )「……」


切っ先や、目線で虚を入れてもまるで反応しない。
実を視きっているようだ、ならば

  _、_ 
( ,_ノ` )「……」

( ・∀・)「ッ!」


チャリン!


殺気を込めずに放った突きには、反応が若干遅れた。

完全に待ちの剣。

豪剣を振るい、攻めを得意とする自分としては、
やり難い相手だ。
114 :1:2008/03/29(土) 22:09:28.19 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
( ,_ノ` )(ラチがあかんな)


待ちの相手の出方を伺っても仕方が無い。
自分らしく行くか。


  、_ 
( ,゚_ノ゚ )「ぜああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


見物人の肌を、ビリビリと振動が伝わるほどの怒号。

と共に駆け出す。
116 :1:2008/03/29(土) 22:10:54.81 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
( ,_ノ` )「せりゃぁぁぁぁぁ!!」

( ・∀・)


茂羅ノ助の左側から刀を横薙ぎに走らせる。

良い踏み込みだ、体が軽い。
このまま世界を上下に切り分けてしまおう。


ギャキン!

と重い金属音が響く。

茂羅ノ助が刀を縦に斬撃を受け止めている。

だがそれ如きで防げるとは思うな。

120 :1:2008/03/29(土) 22:12:33.81 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
(#,_ノ` )「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

(; ・∀・)「ッ!!」


そのまま力任せに刀を振りぬく。
茂羅ノ助の体が浮き上がる。


( ・∀・)「チッ!!」


しかし、茂羅ノ助は自分の刀の腹に両足を乗せると、
斬撃の勢いに任せ、そのまま宙へと飛んだ。
123 :1:2008/03/29(土) 22:15:18.23 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
(; ,_ノ` )「!!」


なんと身軽な、まるで猫のようにフワリと宙を舞うと、
そのまま地へと着地する。

だが、このまま見惚れている場合ではない、
体勢は崩している。


  _、_ 
( ,_ノ` )「はっ!ふっ!せいっ!」

( ・∀・)))

((( ・∀・)


突き、薙ぎ、打ち。
矢継ぎ早に斬撃を繰り出すが、茂羅ノ助は紙一重で避けていく。

128 :1:2008/03/29(土) 22:18:15.69 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
(; ,_ノ` )(捕らえられん!?)


剣速も並では無い、受けられるならまだしも避けられている。
その事実に自分自身が信じられなかった。


( ・∀・)「!」
  _、_ 
(; ,_ノ` )「ッ!!」


その動揺を突かれた。
一瞬の迷いの間に鋭い突きが襲ってくる。

  _、_ 
(; ,_ノ` )「ぬうっ!」


辛うじて直撃は避けるが、頬をザックリと持っていかれた。
131 :1:2008/03/29(土) 22:21:38.87 ID:Ax4fpBXf0

後ろに飛び、距離を取る。

以外にも茂羅ノ助は詰めて来なかった。

  _、_ 
(;メ,_ノ` )(動きが読めん……)

( ・∀・) ヒュンヒュン


茂羅ノ助は刀を上下に振りながら、何かを確認している。

自分はと言うと、今の一連の攻撃で大分息が上がってしまった。

  _、_ 
(;メ,_ノ` )(想像以上の手鍛だ)

( ・∀・)「よーし」


久々に発声した茂羅ノ助に対し、再度構えを取る。

133 :1:2008/03/29(土) 22:24:12.01 ID:Ax4fpBXf0

( ・∀・)「体も温まってきたし、そろそろ攻めてやるからな」
  _、_ 
(;メ,_ノ` )「ッ!!」


言葉を言い終わると同時に間合いを詰めて来た。



速い!



  _、_ 
(;メ,_ノ` )「ぬっ!」

( ・∀・)「ほいほいほい」


目にも止まらぬ突き。
避けるどころか受け流しで精一杯な程。

少しずつ裂傷を受けていく。
135 :1:2008/03/29(土) 22:26:30.37 ID:Ax4fpBXf0


( ・∀・)「ほほほほほほほほほほほい!!」
  _、_ 
(;メメ,_ノ` )「うおあああぁぁぁ!!」


待ちの剣?

根本的に間違っていた。
こいつは……茂羅ノ助は……

137 :1:2008/03/29(土) 22:29:29.60 ID:Ax4fpBXf0





歓声が上がっている。

誰の目にも優劣は明らかだ。


(; ^ω^)(渋澤さん……)


着物が、至るところから流れ出る血で真っ赤に染まっている。

それでも茂羅ノ助は攻撃を止めようとしない。


(; ^ω^)(もう止めるお!降参するんだお)


だが、渋澤は致命傷を避け続けては、血達磨になっていく。
この試合の結果は火を見るよりも明らかだった。

138 :1:2008/03/29(土) 22:30:49.32 ID:Ax4fpBXf0

( ・∀・)「どしたい?もう終わりなのかな?」
   _、_ 
(メメメ,_ノ`メ)「……まだまだ」

( ・∀・)「そう来なくっちゃ!でもそろそろ終わらせてやるからな」


渋澤さんが殺されてしまう。

試合ならそんな事があっても致し方ない事なのだろうが、
客であり、知人が切られる様はもう見たくなかった。


(; ^ω^)「もう止m」


声を上げた瞬間、渋澤が動いた。

143 :1:2008/03/29(土) 22:32:54.20 ID:Ax4fpBXf0

   _、_ 
(メメメ,_ノ`メ)「うおぉぉぉぉぉ!」

( ・∀・)「ふん!」


まだこんな力があったのか、と思わせられる程、
力の篭った魂の一撃。

左からの袈裟切り、それを茂羅ノ助が右からの袈裟切りで迎え撃つ。

刀と刀が火花を散らし、ぶつかり合った瞬間。



パキィィィン!


光り輝く鉄が空へと舞い


男がその場へ崩れ落ちた


144 :1:2008/03/29(土) 22:34:16.70 ID:Ax4fpBXf0


   、_ 
(メメメ,_ノ メ)



( ∵)「勝負あり!」


( ・∀・)「無限刀、敗れたり」


渋澤は正座の形でうな垂れたまま、絶命した。

茂羅ノ助は村正の血を和紙で拭くと、そのまま鞘へと収めた。




( ゚ω゚)


149 :1:2008/03/29(土) 22:36:13.84 ID:Ax4fpBXf0

見物人がゾロゾロと去っていく中、
渋澤の弟子であろう者達が、渋澤に駆け寄る。


( ,,;Д;)「先生ぇ!先生ぇ!!」
  _
( ゚∀゚)「……そんな……先生が……」


渋澤の亡骸を抱きかかえると、泣いている青年が渋澤を背負い、
演習場を後にする。

その場に残るのは、茂羅ノ助と内藤、そして眉毛の濃い青年だけだった。

  _
( ゚∀゚)「……茂羅ノ助……」

( ・∀・)「ん?」
  _
( ゚∀゚)「必ず……近い将来……討ち取ってやる」

( ・∀・)「はは、いつでもお相手するからな」


青年は力こぶしを、血が滴るほど握り締めると、
そのまま去っていった。
155 :1:2008/03/29(土) 22:37:50.59 ID:Ax4fpBXf0


( ゚ω゚)


一人の男が折られた刀の半分を見つめている。


( ・∀・)「……ん?」

( ゚ω゚)

( ・∀・)「お兄さん、試合は終わりだ」

( ゚ω゚)「……や…お」

( ・∀・)「何?」

( ゚ω゚)「その刀……必ずヘシ折ってやるお」

158 :1:2008/03/29(土) 22:39:19.27 ID:Ax4fpBXf0

その台詞でピンと来たのか、
茂羅ノ助は意気揚々と楽しそうに話しかけた。


( ・∀・)「そうか!君が無限刀の!」

( ゚ω゚)「……」

( ・∀・)「アレは実に素晴しい刀だった、今後にも期待しているよ!
     また村正に餌をよろしく頼むんだからな」

( ゚ω゚)「……」


そのまま内藤は黙って立ち去った。

渋澤が負けた事よりも、刀を折られたのがショックでしょうがなかった。

161 :1:2008/03/29(土) 22:40:58.17 ID:Ax4fpBXf0

刀が勝敗を分けた訳ではない。

明らかに実力の差が大きかった。

しかし渋澤が斬られる直前、刀が折られたのも事実。



内藤の鍛冶屋としての自尊心に火がついた。




その後、1月ほど


内藤の工房から、鎚音が鳴り止むことは無かった。






1本目  〜無限刀〜  完

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