53 :1:2008/03/29(土) 21:28:48.69 ID:Ax4fpBXf0

第2打 無限刀




渋澤道場


( ,,゚Д゚)「師範、おかえりなさい」
  _、_ 
( ,_ノ` )「あぁ、ただいま」
  _
( ゚∀゚)「いよいよ、十日後には試合ですね」
  _、_ 
( ,_ノ` )「うむ」

( ,,゚Д゚)「頑張ってくださいね!」
  _、_ 
( ,_ノ` )「あぁ、大丈夫だ。心強い味方もできた」
  _
( ゚∀゚)「心強い?俺達の事っすか?」
  _、_ 
( ,_ノ` )「ふふ、さぁな」
56 :1:2008/03/29(土) 21:30:49.63 ID:Ax4fpBXf0





熱しては叩き、また熱しては叩く。

この作業を延々と繰り返し、鉄の中から不純物を取り除いていく。


(; ^ω^)「はっはっ」


腕が痙攣し、指先の感覚も無くなってくる。
それでも内藤は叩く事を止めようとはしない。

約十五年ぶりに刀を打つ内藤は、
ただただ純粋に楽しかった。

最高の鉄に、充実した気合い。
最高の物を打ちあげる自信があった。

やっと鍛冶屋として生きてる気がする。


だがこの時まだ内藤は、何故父が刀を打つことを禁止したのか。

その理由を知る由はなかった。

58 :1:2008/03/29(土) 21:33:30.94 ID:Ax4fpBXf0





爽やかな朝だった。
二日後に試合を控えた気負いもない。

両手を伸ばし、軽く伸びをする。

この日を楽しみにしていた。

新刀を受け取る日。

内藤に依頼することを決めたのは、
実はある料亭での出来事が原因であった。

62 :1:2008/03/29(土) 21:35:42.81 ID:Ax4fpBXf0

ある日の夕刻、渋澤は【毒田屋】という料亭に来ていた。

そこで見た、鯛の刺身の切口を見て驚愕した。

素晴らしい切口、分かる者にだけ分かる凄さ。
魚の身を切ったのでは無く、身が避けていったかの様な切り口。

すぐにツケ場の料理人を読んだ。


('A`)「お武家様、お呼びでしょうか?」


現れたのは、とても細い男。
腕を見てみたが、力があるようには見えなかった。

  _、_ 
( ,_ノ` )「ん、すまんな。してこの刺身の事なんだが」

('A`)「へぇ、近海で上がりました物ですが?」
  _、_ 
( ,_ノ` )「いや、この切口の事なのだが」

68 :1:2008/03/29(土) 21:39:05.09 ID:Ax4fpBXf0

男は一瞬、手を顎に当て考えたようだったが、
ポンッと手を叩き嬉しそうに話しだした。


('A`)「あぁ!先日包丁を仕入れましてね!
   これが良い品なんです」


やや、無理押しをしてその包丁を見せて貰った。

次の瞬間には鍛冶屋の所在を聞いている自分がいた。


('A`)「お武家さんの期待には応えられないと思いますぜ」


その言葉の意味は後に町民から聞いた。

70 :1:2008/03/29(土) 21:40:08.32 ID:Ax4fpBXf0

刀は打たない。

だが、自分の依頼は受けてもらえた。


その刀が今日出来上がる。


内藤の工房へと向かう渋澤の足取りは、自然と速歩きになっていた。
73 :1:2008/03/29(土) 21:41:30.75 ID:Ax4fpBXf0

渋澤が内藤の工房に着いたのは、まだ日が登り始めた頃だった。

  _、_ 
( ,_ノ` )「流石に早すぎるか……」


はやる気持を抑え、その辺を散歩する事にした。


内藤の工房からすぐ近くには川が流れており、
景色を楽しみながら上流へと歩く。

ザアァと流れる滝のふもとに、ふんどし一丁の人影を見つけた。

遠目からでも内藤と認識でき、声を掛ける。

  _、_ 
( ,_ノ` )「おーい、内藤殿ー」
75 :1:2008/03/29(土) 21:44:21.96 ID:Ax4fpBXf0

その声に振り返った男の顔は


(,,゚ω゚,,)


ススに汚れ、感情の言い表し難い目をしていた。

  _、_ 
(; ,_ノ` )「ッ!」


その表情に渋澤が一瞬驚き、立ち止まったが、
内藤は滝の中へと入っていった。


バシャバシャと顔を洗っている内藤。

渋澤はその様子を黙って見続けていた。


76 :1:2008/03/29(土) 21:46:46.79 ID:Ax4fpBXf0

( ^ω^)「ふー」


と内藤が川から上がってくる。

濡れたまま服を纏い、内藤が口を開いた。


( ^ω^)「渋澤さん、早かったおね」
  _、_ 
(; ,_ノ` )「うむ、気が早ってな」(気のせいか…)

( ^ω^)「仕上がってますお、さ、工房へ」


内藤と共に工房まで歩くが会話は一言も無かった。




77 :1:2008/03/29(土) 21:48:18.45 ID:Ax4fpBXf0

やがて内藤はのそのそと工房の中へ入っていくと、
一本の刀を持ち出してきた。

抜き身のままの刀を内藤は差し出す。


( ^ω^)「これですお」


その刀を受け取ると、持った手から電流が体を駆け上がる感覚を覚えた。

魅入ってしまいそうな程、美しい刃文と、
掌にしっかりと収まる柄。

鉈程の重さが安定感を生み出している。

  、_ 
(; ,゚_ノ゚ )「お……おぉ」


プルプルと震えが止まらない。

81 :1:2008/03/29(土) 21:50:17.53 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
(; ,_ノ` )「た、試し振りをしても?」

( ^ω^)「勿論ですお」


工房から外へ出、空の下で剣を構える。


先程までの震えがピタリと治まり、
正面に構えた。

そのまま、真上に振り上げては真っ直ぐに振り降ろした。

  _、_ 
(; ,_ノ` )「ッ!!」


自分の目の前の世界が、真っぷたつに斬れた錯覚に陥った。

実際にはそんな事もなく、ただ刀を振り降ろしただけの侍がいるだけ。

83 :1:2008/03/29(土) 21:51:55.55 ID:Ax4fpBXf0

  _、_ 
( ,_ノ` )「な、内藤殿……」

( ^ω^)「?」
  _、_ 
( ,_ノ` )「某は正直恐ろしい……」

( ^ω^)「……」
  _、_ 
( ,_ノ` )「この刀があれば、なんでも斬れてしまう気がする」


その言葉に内藤が口を開いた。


( ^ω^)「実は……」
  _、_ 
( ,_ノ` )「?」

87 :1:2008/03/29(土) 21:54:28.52 ID:Ax4fpBXf0

( ^ω^)「今まで刀を作った事が無かったので、
   鞘師の知り合いがいないんですお……」
  _、_ 
( ,_ノ` )「……」


二人で腹を抱えて笑った。

  _、_
( ,_ノ` )「ははは、して内藤殿、この刀の銘は?」

( ^ω^)「収まらない刀、無限刀と」
  _、_ 
( ,_ノ` )「無限刀……確かに受け取った」

( ^ω^)「御前試合、頑張って下さいお」
  _、_ 
( ,_ノ` )「ああ、必ず勝つ。見に来てくれよ?」

( ^ω^)「わかりましたお」
90 :1:2008/03/29(土) 21:55:59.66 ID:Ax4fpBXf0

そうお互いに約束すると、内藤に五両を渡し、
刀を蓙(ござ)にくるんで持ち帰った。


誰にも負ける気がしない。


この刀があれば。



第2打  〜了〜

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