7 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:45:31.24 ID:K78a4q8a0


第二打 〜切掛〜



( ^ω^)「……甘いお」


甘い!味付けが!

新都藩の民草は甘味を好む。
変わって美府藩は塩味を好む。

新都藩で口に入れるもの全て、内藤には口に合わなかった。


( ^ω^)(出汁の効いた蕎麦が喰いたいお……)

10 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:47:25.57 ID:K78a4q8a0

平和だ。

だが、町全体から活気を感じる。
美府藩では感じなかった、貪欲さ、勢いを感じる。


( ^ω^)(戦に負けたから……かお)


負けを知り、強くなる。
自分に置き換えても同じことが言える。

村正に魂を折られ、現時点での敗北を認めたからこそ、
あれを超え得る刀を打とうと思える。

先の戦に負けた新都藩だからこそ、強い藩になろうと、
そういった思いがあるのだろう。


( ^ω^)(期待できるお)



11 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:49:04.13 ID:K78a4q8a0

自らが魂を、託すのに相応しい武士がいるだろうか。

まずは新都藩を知る必要がある。


( ^ω^)(素直家、とか言ってたか)


見知りのいない内藤にとって、
唯一の拠り所である、先日出会った女。

足を運んでみよう、そう考えた。




12 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:50:00.17 ID:K78a4q8a0





川 ゚ -゚)「はぁ……」


日の昇っている時間の遊処は、これといってする事が無い。

仲居でもなく舞妓である空は、二階の窓から肘を付きながら
ぼんやりと大通りを眺めていた。


川 ゚ -゚)(魚売り、お、あれは御侍さん)


様々な人達が、それぞれの意思を持って、通りを歩いていく。

重い物を持って辛そうな表情も、
考え事をしているような表情も、
空にとっては羨ましい限りだった。





13 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:50:58.99 ID:K78a4q8a0

川 ゚ -゚)(ん?あれは)



(^ω^ 三 ^ω^)




(; ^ω^)(参ったお……色々聞きたくて昨日言われた遊処に来てみたけど、
       こんな立派な遊処だったなんて……)


うろうろとお店の前を行ったり来たりしている、
大荷物を抱えた商人風の男。


(; ^ω^)(通りで道を聞いた人が、驚いた顔をする訳だお)

15 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:52:22.42 ID:K78a4q8a0

【素直家】は行商人如きが入れる遊処ではない。
入り口を一目見た時点で、内藤は理解した。

入り口の前で腕を組みながら、あれこれ考えていると、
店の中から一人の女が出てくる。


('、`*川「なんだいあんた!?店の前でうろうろして」

(; ^ω^)「えっ?あ、あのー」

('、`*川「ここはね、あんたみたいのが来れる場所じゃないんよ!
     さっさとどっかに行っちまいな!」

(; ^ω^)「いえ……空っていますかお?」

('、`#川「はぁ!?あんた空姐さんに何の用なんね!?
     言っとくけどね、空姐さんが相手するのは……クドクド」

(; ^ω^)「おー……」


凄まじい剣幕と、捲し立てるような説教に、
内藤は喋りだす事ができず、突っ立っている。


17 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:53:54.18 ID:K78a4q8a0

川 ゚ -゚)「はっはっは、おーい旅人さ〜ん」

( ^ω^)「お?」

('、`*川「え?」

川 ゚ -゚)「丁度暇してたんだ、いいよ上がってきな」

( ^ω^)「そうかお、悪いお」

('、`;川「ちょ、ちょっと姐さん」

川 ゚ -゚)「伊藤、私の客人だ。通してやってくれ」

('、`;川「……」


しぶしぶ、道を譲る伊藤と呼ばれた女。
先程の口ぶりから、空を慕っているのだろう。

そんな空が、こんなみすぼらしい男と会うなど、
納得がいかない、と言った様子だ。

19 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:55:23.61 ID:K78a4q8a0

( ^ω^)「それじゃ失礼するお」


店に入ると美しい屏風、漆塗りの柱など、
高級感を醸し出す作りになっている。

二階へと上がると、そこには両手を付いて
頭を深々と下げている空がいた。


川 ゚ -゚)「此度は素直家にお越し頂き誠に有難う御座います。
     未熟者ではありますが、私、空が御勤めさせて頂きます」

(; ^ω^)「……もう騙されんお」

川 ゚ ー゚)


顔を少し上げ、上目使いで笑顔を見せる。


(; ^ω^)「騙……されんお」


遊処に入り浸りになる男共の気持ちが、
少し分かった内藤だった。

21 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:56:14.29 ID:K78a4q8a0

川 ゚ -゚)「本当に暇だったんだ、なんか話をしてくれ」

( ^ω^)「お、悪いんだけど、話を聞きたいのはこっちなんだお」

川 ゚ -゚)「なんだ、つまらん」

( ^ω^)「期待してたんなら謝るお」


ごとり、と背に負っていた荷を降ろすと、
空が眼を輝かせてすり寄ってきた。


川 ゚ -゚)「なぁなぁ!これは何だ?これで人を殴るのか?」

(; ^ω^)「これは鉄を打つ鎚だお」

川 ゚ -゚)「じゃぁこれは?足を潰す台か?」

(; ^ω^)「これは鉄を打つときに使う、金床だお」

川 ゚ -゚)「なぁなぁ、なぁなぁ」
24 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:57:33.12 ID:K78a4q8a0





(; ^ω^)「だから僕が聞きに来たんだお!」

川 ゚ -゚)「ちぇっ」

(; ^ω^)「それに発想が物騒だお」

川 ゚ -゚)「私達舞妓はな、逃げようとすると足を潰されるんだよ」

(; ^ω^)「え?」

川 ゚ -゚)「一生、この篭からは出られないのさ」

26 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/27(火) 23:58:52.67 ID:K78a4q8a0

なるほど、合点がいった。

あの舞も、自分に興味を持ったのも、
全て自由に憧れてのものだったのだ。


( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「まぁそう湿るな、好きじゃないんだ同情とか」


掛ける言葉も見つからない。

そして慰める資格も無い。



何故なら自分自身も自由では無いのだから。
29 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:00:21.84 ID:v0ZdMnNF0


( ^ω^)ズズ


お茶を一口すすってから、話題を逸らした。


( ^ω^)「ところで聞きたい事があるんだお」

川 ゚ -゚)「そう言えばそんな事を言ってたな」

( ^ω^)「お、実は剣術道場を探してるんだお」

川 ゚ -゚)「剣術……」

( ^ω^)「?」


明らかに空の表情が曇ったが、構わずに話を進める。


( ^ω^)「新都藩の中でも腕の立つ道場を教えて欲しいんだお」

川 - )「……」
32 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:02:17.64 ID:v0ZdMnNF0




(; ^ω^)「……」

川 - )「……」

(; ^ω^)「こ、心当たり無いかお?」

川 - )「ない」

(; ^ω^)「……」


何故か機嫌を損ねてしまったようだが、
内藤に女のあやしかたなど分かる訳もない。

35 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:04:33.34 ID:v0ZdMnNF0


(; ^ω^)「えーっと、あのー……」

川 - )「聞きたい事とは其れだけか?」

(; ^ω^)「えっ、いや」

川 ゚ -゚)「本日はお越し頂きありがとうございました。
     美府の旅人の方ご機嫌よう」


表情を消し、無機質に頭を下げる空を見て、
内藤は何も言えなくなってしまった。


(; ^ω^)「ぁぅぁぅ」

川 ゚ -゚)「……」
37 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:07:13.11 ID:v0ZdMnNF0


仕方なく荷物を背負い直し部屋をでた。

階段を下り、遊処から出たところで女が一人出てくる。


('、`*川「ちょっとあんさん!」

( ^ω^)「?」

('、`*川「空姐さんの見知りか知らんがな、もう来んでくれへんか?」

( ^ω^)「安心しろお、二度と来るつもりは無いお」

('、`*川「ならええんや、また姐さんに剣術の話されたら適わんからな」

( ^ω^)「聴いてたのかお?」

('、`*川「阿呆ぅ!遊処の性質上、お席の会話は聴こえるようになっとるんや!」

( ^ω^)「お、そうなのかお」


38 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:09:49.72 ID:v0ZdMnNF0

('、`*川「姐さんは心の通ったお馴染みさんを、御前試合で亡くしとるんや」


御前試合?
その言葉で渋澤の試合を思い出した。

沸々と己の内の黒い物がざわめきつ。


( ^ω^)「……それは美府藩の御前試合でかお?」

('、`*川「なんや、知っとって姐さんに話したんかい!」

( ^ω^)「……」


御前試合なんてものは体のいい茂羅ノ助と村正の公開食事だ。


('、`*川「¢£%#&*@§☆!!」


美府藩の支配勢力下にある新都藩でも、
多くの餌を喰らったのだろう。



39 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:11:37.21 ID:v0ZdMnNF0


('、`*川「※%◎◆□☆!!」


( ^ω^)「なるほど……」

('、`*川「聞いとんのk」

『伊藤!!』


女は一瞬びくっとおののき、そろりと振り返る。


川# ゚ -゚)「……」


二階の窓から、明らかに怒りの表情の空が顔を出していた。


('、`;川「……」


その表情を見るや否や、伊藤と呼ばれた女は、
冷や汗を垂らしつつ遊処へと戻っていった。


2 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:14:29.40 ID:v0ZdMnNF0


( ^ω^)「空!」

川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「己が名は内藤、茂羅ノ助に仇なす刀鍛治だお」

川 ゚ -゚)「!!」

( ^ω^)「下町の鍛冶屋に房を借りるつもりだお」


川 ゚ -)


空は何も言わぬまま部屋へと消えた。


43 : ◆3m0SptlYn6 :2009/10/28(水) 00:17:26.20 ID:v0ZdMnNF0


( ^ω^)「ククク」


内藤は空のいなくなった窓を見上げ、久々の余韻に浸っていた。


義虎の時以来感じられなかった確かな予感。


刀を打つ日は近い。

と。





第二打  〜了〜

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