7 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:19:51.30 ID:dvOuNauN0
五本目  凛麗


第一打  〜揺り篭〜



美府藩は広い。

天下を統一した流石家が治める国であり、
五代目将軍が統治する今も平和な時代が続いていた。

しかしそれが、内藤を美府藩から出させる原因となる。

道楽や商業の発展により、剣を志す者が減ってしまったのだ。
もちろん、武家がたしなむ程度の文化は残っているのだが。

そんな中、名高い斎藤家の茂羅ノ助を討とう、
などという兵は軽々しく見つかるはずもない。

藩内の剣術道場を渡り歩いてみたが、
結局この一年で、これはと思える収穫は無かった。

12 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:21:47.16 ID:dvOuNauN0

今持っている鉄で、打てる刀は後二本。
今後、これほどの良質な鉄が手に入る確証も無いため、
むやみやたらに打つ訳にもいかない。

そして、内藤が目を付けたのが、
隣の新都藩だった。


新都藩

尾渡家が治める藩。
先の戦で美府藩に敗れてから、何やら武芸者を集めているらしい。

美府藩内での新たな刺客獲得を諦めた内藤は、
住み慣れた工房を閉め藩を出た。
16 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:23:44.21 ID:dvOuNauN0

(;^ω^)「考えが短絡的すぎたかお……」


最低限に抑えたつもりの荷物も、
鉄塊や鎚など、重量感があるものばかり。

それらを背負って歩くのは中々の重労働だった。


( ^ω^)「前途多難だお……」


街道を、西へ。
20 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:26:22.54 ID:dvOuNauN0




新都藩


侘びと趣をこよなく愛し、
伝統的な文化をひたむきに守ってきた藩。

町人達の暮らしもまた、その様相を反映していた。



川 ゚ -゚)「……」


心地良い三味線の音に合わせて、舞う女。
洗練されたそのたたずまい、容姿、雰囲気。
その全てから「美」を感じることができる。

ひらりと扇子を反し、目だけを覗かせる彼女は、
御見人の心を捕らえて放さなかった。

23 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:27:56.36 ID:dvOuNauN0

( ゚д゚ )(美しい……)


いかなる理由があろうとも、
舞妓に手を出してはならない。

鉄の掟とも言える約定があるが故に、
男共は指を加えて見る事しかできなかった。


川 ゚ -゚)「……」


女は舞終えると、足早に客間から出ていく。

「もっと見たい」と思わせる事で、男達はまた足を運ぶ。
満足させ切る事なく、素っ気なさすぎず。

28 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:29:51.68 ID:dvOuNauN0

J( 'ー`)し「空、良くやったよ」

川 ゚ -゚)「……はい」


御座敷【素直家】
舞妓を使い高官をもてなす遊処だが、
ここ最近は他を寄せ付けぬ程、高級遊処としての地位を固めていた。


川 ゚ -゚)「母上、少し風に当たってきます」


それも全て、この空と呼ばれた女が、
看板舞妓として座敷に立つ様になってからだった。
31 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:31:42.09 ID:dvOuNauN0

日の落ちた賑わう町中を、黒髪の舞妓が歩く。

すれ違った男共が、1人の例外も無く振り返るほど、
空は美しかった。


川 ゚ -゚)「ふぅ……」


夜風が心地良く体を伝う。

金に溺れた親に、色に狂った男共。

俗世の中心とも言える遊処にいて、
唯一心休まるのは一人の時だけだった。

33 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:34:01.37 ID:dvOuNauN0




川 ゚ -゚)(今日も綺麗だな)


町を見下ろせる丘から、月を眺めるのが好きだった。

自分が抜け出す事の出来ないこの町を、
月は悠然と見下ろしている。


川 ゚ -゚)(お前はいいな、自由で)


足袋とわらじを脱ぎ、着物の帯を取る。

はだけた真っ白な襦袢と素足で、空は舞う。

観客は月。


34 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:35:03.52 ID:dvOuNauN0











と、もう一人いた。


(; ^ω^)「……」

36 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:37:52.02 ID:dvOuNauN0


( ^ω^ )「今見た事を有りのまま話すお。
       宿銭が無くて、野宿してたら、
       見知らぬ美しい女が着物を脱ぎ始めて、
       僕の下半身も色んな意味で脱ごうとしたら、
       良いところで女が踊り始めたんだお。
       何を言ってるか分かんないと思うけど、
       とにかく凄く損した気分になったお」


月明かりに照らされ舞う女は、
力強く跳ねては、くるりと廻ったり、
まるで、もがいているかの様な、印象を受けた。


( ^ω^)(だが……美しい)


内藤は、不可思議な事態と認識しつつも、その女から目を離せないでいた。
38 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:40:21.86 ID:dvOuNauN0

川; ゚ -゚)「はっ……はっ」


想い、憤りを己の舞いへと昇華させていく中で、
空は聞き慣れない音を聞いた。




( ^ω^) グゥゥゥゥ


川; ゚ -゚)「え?」

(; ^ω^)「あ……」

40 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:42:36.69 ID:dvOuNauN0

音のした方を見やってみれば、
草むらから月光に照らされた内藤の顔が、
ぼんやりと浮かび上がっていた。


川; ゚ -゚)「ひっ!」




パァン!


渇いた音が丘中に響いた。
42 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:43:59.28 ID:dvOuNauN0





川; ゚ -゚)「本当に済まない」

( #)ω^)「いえいえ、黙って覗いていた己が悪いんですお」

川; ゚ -゚)「あぁ……反対側までぶくぶくと腫れて」

( #)ω^)(この女……わざとか?)


女の持っていた手ぬぐいを川水で濡らし、冷やしていると、
女が口を開いた。
44 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:45:54.55 ID:dvOuNauN0

川 ゚ -゚)「その格好、旅の者なのか?」

( #)ω^)「お……まぁそんなとこですお」

川 ゚ -゚)「どこから来たんだ?」

( #)ω^)「隣の美府藩ですお」

川 ゚ -゚)「…………美府藩」

( #)ω^)「?」

川 ゚ -゚)「何をしに?一人で?いつから?」


当たり障りの無い会話の中に、
女の外界への興味がちらほらと見て取れる。

どうやら先刻感じた舞の印象は間違いでは無さそうだった。
48 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:48:31.78 ID:dvOuNauN0

( ^ω^)「それにしても」

川 ゚ -゚)「?」

( ^ω^)「あの状況で平手打ちをしてくるなんて、
      勇気があるんですおね、普通だったら逃げそうなもんですけど」

川 ゚ -゚)「昔から男の子と遊んだり、喧嘩をしていたからな、
     不思議とこういうのは怖くないんだ」


舞を見ても分かる。
力強く活発な女性なのだろう。

それから質問攻めにされたが、
不思議と不快にならず、一時の楽しい時間が続いた。

51 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:50:01.95 ID:dvOuNauN0

川 ゚ -゚)「む、大分話し込んでしまったな。
     そろそろ店に戻らねば」

( ^ω^)「店?」

川 ゚ -゚)「はい、新都下町で遊処【素直家】へ出入りさせて頂いております空と申します。
     もし、お立ち寄りの際は御指名下さいますよう」

(; ^ω^)「うへっ!」


突然、しおらしく女の表情を見せた空。

今まで、男勝りの口調や嬉々とした眼をしていたのが、
女らしい口調、とろんとした上目使いの眼になる。

面喰った内藤は、何故か顔を紅潮させてしまった。
55 : ◆3m0SptlYn6 :2009/05/26(火) 18:55:11.77 ID:dvOuNauN0

川 ゚ ー゚)「ははっ、じゃぁまたな」

(; ^ω^)「ぁぅぁぅ」


してやったりと笑みを見せ、
そのまま空は走り去っていった。


(; ^ω^)「……敵わんお」


鉄の扱いは右に出る者がいないと自負する内藤であったが、
こと女の扱いは童以下であった。




第一打 〜了〜

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