- 35 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:07:22.42 ID:5f1APAau0
第二打 妖の刀
カーン カーン
力強い鎚の音が一帯に響く。
カン高く綺麗な音色を奏でる鉄は、
見るまでも無く、良い出来に仕上がっているようだ。
鉄の鍛錬は、己のそれと同じである。
根気強く同じ作業を繰り返す事によって、
少しずつ、少しずつ磨かれていく。
- 37 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:10:00.99 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 (やはり……愛されておるの)
自分が倅と同じ位の時には、
こんな打音は出せなかった。
実際、倅に打たせたクワや包丁は、
十分に商品として扱える錬度であった。
刀も期待できる物が仕上がるに違いない。
(; ^ω^)「はぁはぁ」
カーン カーン
七日の間、工房には鎚の音が鳴り続いた。
- 38 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:11:37.61 ID:5f1APAau0
※
(; ^ω^)(さて……と)
いよいよ、仕上げの段階となったのだが、
ここで内藤の手が止まった。
ここまではなんら変哲も無い、純鉄の棒。
しかし、ここからは刀としての命が吹き込まれる場面である。
(; ^ω^)(刀……)
刀とはなんだ?
内藤は、そう自分に問掛ける。
- 40 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:13:29.42 ID:5f1APAau0
( ^ω^)(……刀とは、人を切る道具。
切れる……どんな物より、他の刀より切れる!)
内藤の出した答えはこうであった。
そうと決まれば、後は打つのみ。
他の刀より、どんな名刀より……師匠の打った刀より!
切り殺せる!
( ^ω^)「はあぁぁぁぁぁ!」
再び打音が響き渡った。
- 41 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:15:12.52 ID:5f1APAau0
※
明後日の朝、五代目内藤が目を覚ました時、
内藤の姿が消えていた。
/ ,' 3 (む?川にでも行ったか?)
朝食の支度をしながら、河原へと足を運んでみる。
しかし、息子の姿は見付からぬままだった。
/ ,' 3 (ふむ、まあ良い)
家へと戻ると丁度炊きあがった粟を器によそい、
口へと運んだ。
- 45 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:16:49.01 ID:5f1APAau0
後片付けを済ませ、昨夜まで息子の使っていた房を覗く。
研ぎ石がまだ湿っており、研ぎ終わってまだ時間は経っていないようだった。
/ ,' 3 (……良い刀は打てたのか?)
火が落ちている窯に、再度火を入れる。
久方ぶりに、何を打とうかと考えてみたが、
息子の事が気になり何も手に付かなかった。
- 46 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:19:48.36 ID:5f1APAau0
- 初めて打った刀。
戸惑いも、苦悩もあったであろう。
だが、あの息子なら
六代目内藤を継ぐ息子なら
きっと、すばらしい刀を打ち上げたはずだ。
それが刀としては欠陥品であろうとも、
使い物になあないような刀であったとしても。
魂の篭った刀に違いあるまい。
- 47 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:21:49.78 ID:5f1APAau0
※
三刻後、鍛冶道具の手入れをしていると、
不意に家の襖が、がらりと開いた。
/ ,' 3 「む?」
( ^ω^)「師匠、戻りましたお」
/ ,' 3 「なっ!」
戻った息子を見て、五代目は思わず立ち上がった。
血まみれなのである。
- 50 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:25:13.74 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「どうした!?襲われでもしたのか!?」
息子に駆け寄り、着物の袖を掴みながら言い寄る。
( ^ω^)「……」
そして息子の両手には、2本の刀が握られていた。
/ ,' 3 「……それは……」
( ^ω^)「師匠!これが僕の打った刀ですお!」
意気揚々と、右手に握っていた刀を差し出す。
受け取った刀の柄は血にまみれ、ベトベトとしていた。
- 51 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:27:23.50 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「……これ……は」
( ^ω^)「師匠すみませんお!打ちあがった刀をどうしても試し切りしてみたくて……」
そう言って、左手で差し出したもう一本の刀は、
半分に折れ、見るも無残な姿になっていた。
/ ,' 3 「貴様……人を斬ったのか!?」
(* ^ω^)「ちゃんと浪人を選びましたお!」
その言葉にハッとし、渡されたもう1本の刀を見たとき、
その刀身の根元には【内藤】と印打ってあった。
- 53 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:28:45.04 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「ま……まさか」
(* ^ω^)「そうですお!この前来てた浪人ですお!」
- 55 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:30:19.69 ID:5f1APAau0
ワナワナと震えが起きてくる。
恐らく、あの浪人は果し合いから生き残れたのだろう。
そして倅に斬られた。
/ ,' 3 「貴様……」
(* ^ω^)「師匠!僕の打った刀はどんな刀よりも強いんですお!」
息子の打った刀に眼を移す。
それは
- 57 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:31:49.43 ID:5f1APAau0
見事なまでに洗練されたその刀は
ただ、人を斬るためだけ
ただ、何よりも斬れるためだけ
ただ、人を殺すためだけ
に造られた刀だった。
- 58 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:33:08.22 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「……」
(* ^ω^)(wktk)
/ ,' 3 「……らん」
(* ^ω^)「お?」
/ ,゚ 3「貴 様 は 永 劫 二 度 と 刀 を 打 っ て は な ら ん!!」
(; ^ω^)「え?」
- 59 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:34:53.46 ID:5f1APAau0
褒めて貰えるとばかり思っていた内藤に、
信じられない言葉が投げかけられた。
/ ,゚ 3 「このような刀を打つとは……貴様は破門じゃ!」
(; ゚ω゚)「ええ?」
ザクッと、内藤の打った刀を地面へ突き刺すと、
突き放すかのように五代目が言い放った。
/ ,゚ 3 「まさか……このような邪な刀を打ち上げるとは」
(; ゚ω゚)「師匠!待ってくださいお!何故なんですかお!」
- 61 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:37:13.62 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「まだ……解らぬのか」
(; ゚ω゚)「……」
/ ,' 3 「刀とは、人を斬るためのものにあらず。
人を守るための物なのじゃ」
(; ω )「……」
/ ,' 3 「それを、このような妖刀を打ちおって……」
悔しそうに地面へと突き刺した刀を見つめながら、
五代目は歯軋りをする。
( ω )「……お」
/ ,' 3 「ぬ?」
- 63 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:39:32.57 ID:5f1APAau0
( ω )「……師匠の刀は、浪人を守れ無かったお」
/ ,' 3 「貴様……」
( ゚ω゚)「師匠の刀は浪人を守ってはくれず、僕の刀は僕を守ってくれましたお!!!」
/ ,' 3 「……」
( ゚ω゚)「僕の刀を振り下ろしただけで、師匠の刀をブチ折り!
浪人さえも二つに割ったんですお!!」
鬼の形相で問いかける内藤に、五代目は決して見せぬよう、
涙を流した。
/ ,' 3 「そうか……貴様は、二代目の兄上と同じなのだな」
( ゚ω゚)「何を!」
- 64 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:41:08.19 ID:5f1APAau0
/ ,' 3 「もはや、貴様と交わす言葉は無い。
早々にここを立ち去れい」
( ω )「……」
内藤に背を向け、五代目は家の中へと入っていく。
/ ,' 3 (稀代の刀匠に育てあげるつもりであったが……)
次の瞬間、ガラッと襖が再度開き、
現れたのは 鬼
そう、まさに鬼であった。
- 65 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:42:29.02 ID:5f1APAau0
( ゚ω゚)「ふーふー」
/ ,' 3 「……刀に取り憑かれたか」
右手には真っ赤に染まった、妖刀。
( ゚ω゚)「僕は……僕は……」
/ ,' 3 「良い、それ以上言うでない」
( ゚ω゚)「ああっ、あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
庵が赤に染まった。
- 66 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木)
00:44:08.64 ID:5f1APAau0
代々続く、内藤家の房。
そこから、南へ少し下ったところに、
内藤家、五代目が眠っている。
そこには、墓石代わりに
血塗られた妖刀が突き立てられていた。
四本目 〜了〜
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