2 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:42:47.40 ID:bsrF0+Jv0

第一打  片鱗


/ ,' 3 「……」

(; ^ω^)「……」

/ ,' 3 「まぁ……よかろう」

(; ^ω^)ホッ


いつもこの瞬間が一番緊張する。

父……もとい師匠に玉鋼を見せる瞬間。

師匠は厳格な職人だった。

6 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:45:08.30 ID:bsrF0+Jv0


話は変わるが、現当主の師匠は五代目。
下の名前は無い。

内藤は当時、実の父より「童」や「小僧」と呼ばれ、
内藤自身、下の名前の存在すら知る由も無かった。

内藤家自体、当主になって初めて内藤と名乗れる。


二代目内藤が才溢れる鍛冶職人で、
当時の地方豪族に刀を納めていたのだと言う。


現当主の五代目も才ある職人であったが、
性格からであるのか、名を残すような物ではなく、
質の良い鉄品を町人に提供していた。


勿論、刀も含めてである。
9 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:46:34.10 ID:bsrF0+Jv0

/ ,' 3 「ぬんっ!」

( ^ω^)「はっ!」


師匠が入れた鎚に続き、内藤も相鎚を叩く。

力加減を間違えると、鍛錬の偏った鉄になってしまい、
品にも影響を及ぼす。


幼き頃より鉄のいろはを叩き込まれた内藤ですら、
集中力と神経を使うのであった。


/ ,' 3 「よし、後はそこで見ておれ」

( ^ω^)「はい……」


だが刀を打つ時には、手を付ける事を許されず、
師匠の作業を見る事しかできなかった。
11 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:48:27.08 ID:bsrF0+Jv0





( ^Д^)「おう、受け取りに来たぜ」

/ ,' 3 「仕上がってますよ」


男が五代目から刀を受け取ると、
すらり と鞘から引き抜いた。


( ^Д^)「……」


日が刀身に反射し、ギラリと光る。
13 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:49:59.66 ID:bsrF0+Jv0

男は片手で、刀を上下左右に振ると、
一言呟いた。


( ^Д^)「……悪くねぇ」

/ ,' 3 「ありがとうございます」

( ^Д^)「つりはいらねぇ」


ちゃりん と三両を床に置くと、
男は早々と歩き出した。


/ ,' 3 「またご贔屓に」


五代目は深く頭を下げた。


14 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:51:24.78 ID:bsrF0+Jv0

( ^ω^)「今のは……」

/ ,' 3 「ん?」


やり取りを工房の陰より見ていた内藤が、
ぼそりと喋り出す。


( ^ω^)「素浪人ですかお?」

/ ,' 3 「ああ」


五代目は床に置かれた三両を、
拾いながら答える。

18 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:53:25.35 ID:bsrF0+Jv0

/ ,' 3 「明日、果たし合いがあるそうだ」

( ^ω^)「……」

/ ,' 3 「あの刀が彼の身を守ってくれるといいんだが」

( ^ω^)「守る……ですかお」

/ ,' 3 「……」


ふう と息を吐き、ひとつ伸びをすると、
五代目は内藤に言った。


/ ,' 3 「童、おまえも十と五つ。
そろそろ刀を打ってみるか?」

(* ^ω^)「ほ、本当ですかお!?」

20 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:54:33.99 ID:bsrF0+Jv0

/ ,' 3 「わしは一切、口を出さん。自分一人で打ち上げてみるがいい」

(* ^ω^)「あ、ありがとうございますお!頑張りますお!」

/ ,' 3 「支度は明日から始めい」


クワや包丁などは打った事がある。
そして、いよいよ刀が打てるのだ。

師匠を一番間近で見てきた。

行程は頭の中に叩き込んである。

必ず、師匠に誉めてもらえるような、
刀を打ち上げてみせる。


逸る気持ちが邪魔をしたのか、

内藤はその日、なかなか寝付く事ができなかった。

24 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:55:54.61 ID:bsrF0+Jv0






内藤が朝起きてまず始める事。

炉に火を入れ、熱する事から始まる。

いつもなら師匠がいつでも作業を始められるようになのだが、
今日は自分自身のために火を入れた。


一通りの作業を終えると、今度は朝食の準備に取り掛かる。


( ^ω^)(粟が切れそうだお……)


朝食の分は大丈夫そうだが、買い出しに行かねばならない。


25 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:57:10.85 ID:bsrF0+Jv0

( ^ω^)「師匠、今日は買い出しに行って参りますお」

/ ,' 3 「む……」


下座で朝食を旨そうに食べる息子を見て、
父親らしい言葉がふいに口から出た。


/ ,' 3 「よい、わしが行くでの」

(; ^ω^)「えっ?」


あまりにも意外な言葉が出てきたため、
内藤は戸惑ってしまった。


27 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/01(水) 23:58:48.68 ID:bsrF0+Jv0

/ ,' 3 「今日より数日の間、お前が房を使うのだから、そちらに集中せい」

(; ^ω^)「で、でも……」

/ ,' 3 「何、心配するな。わしもお前位の頃は奉公しておった」


物心が付いた頃には、家事をやっていた気がする。

父が家事をしている姿など想像も出来なかったが、
今は確かに鍛冶に集中したい。


( ^ω^)「じゃあ……お願いしますお」

/ ,' 3 「いいか、鉄には打ち主の魂が宿る。鉄の声を聞け」


そう言い放つと、五代目は金の入った麻布を持ち、
房から出ていった。
30 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木) 00:00:16.91 ID:5f1APAau0

( ^ω^)「……」




( ^ω^)(器……そのまんまだお)


普段やりなれてない家事の、のっけからつまづいていた。



内藤は器を洗い終えると、すぐに工房へと篭り、
まずは考え出した。


( ^ω^)(刀……)


どんな刀に仕上げるか。


侍が使う事になるのか、浪人が使う事になるのか。

まだ見ぬ刀に期待を抱き、内藤は作業に没頭していった。

32 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木) 00:01:37.73 ID:5f1APAau0





/ ,' 3 「粟を10合」

店主「へい、毎度!って、おんやぁ〜?」


粟を木升ですくいながら、店主は珍しい物でも見たかのような声を上げた。


店主「内藤さんでねぇか!久しぶりだなぁ」

/ ,' 3 「ご無沙汰しておった」

店主「今日は息子さんはいねぇのけ?」

/ ,' 3 「倅は房に入っとります」

店主「ほー……立派な息子さんですなぁ。
    それに比べうちの野郎ときたら……」

/ ,' 3 「そんな大層なもんでも無いですわ。
     まだ早い気もするんですが……」


33 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木) 00:03:07.94 ID:5f1APAau0

年を考えれば、確かにまだ早い。

だが、息子は才がある。

幼き頃から鉄を触らせてきたためか、
鉄をよく知り、鉄に愛されている。

自分に無い才を持って産まれた事に、少しの嫉妬を感じながらも、
内藤家随一の職人に育て上げる事が定めだと悟った。

歴代に伝わる技と知恵を、倅に叩き込むのだ。

やがて、自立したのなら早々に家名を譲ろう。

そう思っていた。


34 : ◆3m0SptlYn6 :2008/10/02(木) 00:05:01.93 ID:5f1APAau0

店主「あいよ、粟10合だ!1合ほどおまけにしといたぜ」

/ ,' 3 「かたじけない、ありがたく」


重い。

倅はこんな重い物を、幾度と買い出しに来ていたのか。

だが、考えれば自分も奉公している時には、
同じ荷を運んでいたはずなのだ。


/ ,' 3 (時は記憶をも風化させる……か)


伝えよう。

風化することの無い技術と、鍛冶屋の魂を。



第一打  〜了〜

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