- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/29(土) 20:54:28.92 ID:Ax4fpBXf0
幕開
わいわいと賑わいを見せる城下町。
時代は美府、泰平の世であった。
その城下町から、北に離れること1里半。
川のほとりに、小さくたたずむ家がある。
カーン!カーン!
カン高い音を鳴らし続けるその家には、
内藤という名も通らぬ鍛冶屋が住んでいた。
時代は美府、泰平の世である。
町人にとっては。
( ^ω^)ブーンは刀匠のようです
- 4 :1:2008/03/29(土) 20:56:12.10 ID:Ax4fpBXf0
カーン!カーン!
力強く鎚が振り落とされる度に、
火花が飛び散り微かに身を焼く。
だが、全く気にする事なく男は鎚を振り続けた。
( ^ω^)「ふー」
打ち上がった薄い鉄を、横から、縦から、
回しながら吟味する。
そしてそのまま、鉄を持った手を横に一線。
はらり、と和紙が半分に分かれて落ちた。
( ^ω^)「よし」
- 5 :1:2008/03/29(土) 20:57:37.30 ID:Ax4fpBXf0
男はその鉄に木の柄を着けると、
今度は研ぎ石で研ぎ始めた。
近今の鍛冶屋は研師に依頼しているのが殆どだが、
内藤の場合、最終工程まで自分でこなしていた。
間も無く、ドンドンと引き戸を叩く音が聞こえ、
男が一人、房へと上がりこんできた。
('A`)「やあ内藤。頼んだ品は出来てるかい?」
細目のひょろっとした背格好。
手には麻袋を持っていた。
( ^ω^)「今しがた、仕上がったとこだお」
内藤はそう言うと、今、研ぎあがったばかりの鉄を男に手渡した。
(;'A`)「ほう……これは見事な……」
刃文が綺麗に浮き出、出来栄えの良さを表している。
- 8 :1:2008/03/29(土) 20:59:43.43 ID:Ax4fpBXf0
('A`)「見事な刺身包丁だ!」
( ^ω^)「毎度」
内藤は鍛冶屋ではあるが、刀は打たない。
町民の包丁やクワ、生活用品などの作成を生業としていた。
('A`)「これはお代だ、いつもすまんな」
男はジャラッと麻袋を内藤に手渡した。
( ^ω^)「ありがとうございますお、手入れをしっかりお願いしますお」
('A`)「これで出刃も合わせて3本目だからな、慣れてるよ」
( ^ω^)「また、ご贔屓に」
包丁でも、クワでも自分が作った物は大事に使って欲しい。
殆どの職人がそう思うであろう。
- 9 :1:2008/03/29(土) 21:01:36.25 ID:Ax4fpBXf0
('A`)「お前が刀を作ったら名刀になるんだろうがなぁ」
( ^ω^)「……」
('A`)「おっと悪い、事情があったな」
「またよろしくな」と男は一言言い残し、颯爽と房から出て行った。
( ^ω^)「……」
内藤は箱から砂鉄をすくうと、ざぁーっと再び箱に戻した。
- 11 :1:2008/03/29(土)
21:03:13.69 ID:Ax4fpBXf0
鉄と付き合い始めて20余年。
この世に生れ落ちても20余年。
人生の中で、刀を打ったのは
だだの一度きりだった。
幕開 〜了〜
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