137 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:19:52.89 ID:/HxwEU6v0
【第4話『危殆』】


(実`・Д・)『井蓋、先頭打者ホームラン! ライトスタンドにライナーで突き刺さりました! 内藤のプロ初球を打ち砕きました!』

 井蓋がホームを踏んだとき、内藤ははじめてホームランを打たれたのだと気付いた。
 1−0。わずか一球で、点を失っていた。

(実・Д・)『この大事な一戦に高卒ルーキーを持ってきた喪名監督、それが裏目に出た形でしょうか』
(解´Д`)『当然ですよ。プロ初登板は誰だって緊張する。それが、優勝決定戦ですから。制球なんて定まるわけがない』
(実・Д・)『やはり無謀、ということですか……』
(解´Д`)『こんなもん、上手くいくわけがないんです。喪名監督みたいな若い監督は得てして奇策に走りやすい。それが嵌まらなかったときの怖さを分かってないんでしょう』
140 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:21:44.14 ID:/HxwEU6v0
 内野陣がマウンドに集まる。全員、当惑顔だった。

(;^Д^)「大丈夫だ、内藤。たった一点、すぐに取り返せる」
(;゚ー゚)「うん。だから落ち着いて。打たせていけばいいから」
<;`∀´>「ウリたちがしっかりカバーするニダ。堂々と投げればいいニダ」
ξ゚听)ξ「どんなボールでも取ってみせるわ。安心して」
(´・ω・`)「落ち着いて投げれば打たれない。大丈夫だ」

 矢のように慰めの言葉が内藤にかけられる。内藤の耳には、ほとんど入っていなかった。

(実・Д・)『さぁ、続いて打席に入りますは二番・高掛! 攻撃的二番として今季は26本のホームランを放っています!』
(解´Д`)『いいパンチ力を持ったバッターですね。甘いところは逃しませんよ』

 右打席から、高掛が内藤を睨みつける。
 ショボンが要求するのは、低目に沈むカーブ。内藤は無心で頷いた。

 プロ二球目を、内藤が投じた。
 そして、高めに浮いたボールは、当然のようにレフトへと向かっていく。

(実`・Д・)『また打ったァァァァァ―――――――――!!!! これも大きいィィィィ――――!!』

 二点目。喪名監督に言われていた二点目を、失ってしまった。内藤の頭をそれだけが支配し、視界を塞いでいた。


 そしてその視界を晴らしたのは、ライトスタンドの大歓声だった。
142 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:24:26.25 ID:/HxwEU6v0
(実*`・Д・)『捕った! 捕った! レフト荒巻スーパーファインプレー!!』

 レフトの荒巻が、フェンスにぶつかりながらの好捕。荒巻が軽く微笑みながらボールを内野に返球した。
 内藤は、しばらく事態を飲み込めなかった。本当に、アウトが取れたのか。バックスクリーンでアウトカントを確認するまで、それすら分からなかった。

(*゚ー゚)「言ったでしょ? 打たせていけばいい、って」
( ^Д^)「信頼してくれていいぞ。なんたって、ヴィッパーズの守備は12球団一だからな」
ξ゚听)ξ「自分で言うもんじゃないですよ、笑野さん」
( ^Д^)「ははは。まぁ、守備の堅さはお前達が代名詞みたいなもんだしな」


( ^ω^)「……打たせていけば……」

 内藤の掌の汗は、いつの間にか乾いていた。


(実・Д・)『荒巻に救われた内藤ですが、まだまだ気は抜けません。三番近城の登場です!』

 近城が左打席に入っても、内藤は臆さなかった。

(´・ω・`)(大丈夫だ。お前の球なら一軍のバッターも充分抑えられる)

 ショボンがサインを出す。そして、ミットを差し出した。

(´・ω・`)(その方法は俺に任せろ。お前は自分の投げる球だけに集中してくれ!)

143 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:27:22.37 ID:/HxwEU6v0
 初球、ストレートが低目に決まってワンストライク。二球目のスライダーは内角に外れてボール、そして三球目のストレート。

(実・Д・)『打った! しかしこれはショート正面、津村からニダにボールが渡ってツーアウト!』

 内藤の視界は安定していた。
 サインがよく見える。意図まで、はっきり分かる。頭も冴え始めていた。
 指先の感覚も、しっかり掴めている。

彡 ´ー`)「分かりませんね、何故あのピッチャーなのか……」

 榊がバットを揺らしながら右打席に入る。その眼は、内藤を見据えていた。
 ショボンがサインを送る。

(´・ω・`)「見ての通りですよ。分かりませんか?」
彡 ´ー`)「全く分かりません」

 初球、ストレートがやや甘めに入るも、榊は見逃しストライク。
 ショボンから内藤へボールが放られる様を、じっくりと眺め、そしてゆっくりとフォームを構える榊。

彡 ´ー`)「いくら擬古君が怪我をしたとは言え……他にもピッチャーはいるでしょう」

 二球目のカーブを、右方向へのファール。カウント上で、内藤が榊を追い込んだ。

(´・ω・`)「……もう一度、訊きましょうか。何故内藤なのか、分かりませんか?」
彡 ´ー`)「?」

 三球目を外角に外し、四球目。榊は再びファールを放つ。
145 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:29:47.13 ID:/HxwEU6v0
(実・Д・)『四番・榊。じっくりと球を待っているように見えます……』
(解´Д`)『怖いですよ、この人は……40歳になっても四番に座り続けてるわけですしね』
(実・Д・)『今季の本塁打王・打点王をほぼ手中にしている榊。さぁ、この勝負の行方はどうなるのか』
(解´Д`)『ここが一つのポイントになりそうですね』

 ショボンが一つ一つゆっくりサインを出す。内藤も、ゆっくり頷く。
 榊がバットを構える。
 一瞬、間が流れた。

 内藤の右手からボールが離れる。そして、外角へ。

彡;´ー`)「ッ!!」

 榊は、自然にバットが出ていた。
 しかし、外のボールゾーンに球は逃げていく。バットを伸ばして必死に当てようとするも、届かない。
 アウトローへのスライダー、空振り。

(実`・Д・)『空振り三シィィィィィィンッ!!! 内藤ッ!! プロ初奪三振を榊から奪いました!!』

 ショボンが立ち上がった。内藤が、まだ信じられないというような表情でマウンドを降りていく。
 榊は、暫くバッターボックスに留まっていた。

(´・ω・`)「これで、分かりましたよね?」

 ショボンが、榊のほうを見ないまま言った。榊は、苦々しそうにその後姿を見ていた。
148 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:34:46.24 ID:/HxwEU6v0
彡 ´ー`)「たまたまかも知れませんが……あの決め球は分かっていても手が出てしまいます……あそこに何度も放られると……」
(◎´∵`◎)「しかし、僕に投げたボールはまるで棒球でした。他にも、失投が何球か見受けられましたし」
彡 ´ー`)「えぇ。ですから、甘い球をしっかり打つ、セオリーに忠実な野球をしましょう」
(◎´∵`◎)「……そして、優勝ですね」

 井蓋が守備位置へ走っていく。他のナインも続々とグランドへ散っていった。

彡 ´ー`)「……優勝は……絶対に、逃せない……」

 そして、榊が静かに外野へと向かって行った。


( ゚∀゚)「すぐに取り返しちゃるからな……待っちょけよ、内藤」

 長岡がベンチから出て、バットを振っている。その視線は、マウンドへ向かう一人の男に向けられていた。
 その男は、まるでレストスタンドからの大歓声が耳に入っていないかのように、自然体でマウンドに登っていった。

(実・Д・)『出ました! ロケッターズの大エース畑! 今季既に21勝を挙げているその右腕でチームを優勝に導けるか!』
(解´Д`)『あんな若造とは比べモンになりませんよ、この人は。今年はたったの3敗ですしね。安定性がある』
(実・Д・)『えぇ、昨年も19勝を挙げていますし、不調というのがほとんどないですね』
(解´Д`)『悪いときでもどうにかするんですよ。それがエースってもんです』
(実・Д・)『なるほど。果たして今日の畑はどうなるんでしょうか、注目です』
153 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:39:38.43 ID:/HxwEU6v0
(実・Д・)『さぁ、そしてバッターボックスに向かうは一番長岡! 今季はここまで48盗塁、二位井蓋との差は6、盗塁王はほぼ確定です!』
(実・Д・)『ヴィッパーズは早く一点を取り返したいところ、果たしてどういった作戦に出てくるのか!』


 畑が右手で白球を握り締める。そして、左打席の長岡と眼を合わせる。
 振りかぶり、そして第一球。
 長岡の内角へ、直球が走っていく。

(実`・Д・)『打ったァ!! 一二塁間を破ってライト前!!』

 ライトが捕球したときは既に一塁にたどり着いていた。長岡が一塁ベース上で手を叩く。
 一塁ベンチにいる内藤に向かって、軽く手が突き出された。内藤も呼応して手を上げる。
 ランナー一塁。初球を叩いての出塁だった。

(解´Д`)『そして二番荒巻ですか……ここは送ってくるでしょうね』
(実・Д・)『通算294犠打の荒巻、バントに関してはチャネラーリーグ1です。長岡の盗塁というのは?』
(解´Д`)『それも考えられますね。しかし、畑のクイックモーションだと、中々厳しい気もします』
(実・Д・)『今季は……畑相手には、2回試みて1回成功ですね。さぁ、どう出るかヴィッパーズ!』

 荒巻がのっそりと右打席に入る。ホームベースを見たり、捕手を見たりと、掴みどころがない動きをしている。
 その荒巻が、腰を軽く曲げた。そして、右手でバットの真ん中を掴む。

(^・J・^)(送りバントか)
(^亮^)(監督からの指示は……特になしか……畑さん、ここは)

 捕手の哀歌がサインを出す。マウンドの畑がそれを確認して、首を振った。

154 :第4話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 22:43:06.70 ID:/HxwEU6v0
(^・J・^)(ここで出鼻を挫いておきたい。荒巻のバントが失敗すれば、展開は楽になる)
(^亮^)(……それなら)

 再び哀歌がサインを出して、畑は頷く。
 初球、カーブ。低目にしっかり制球されている。

(実`・Д・)『おおーっと! 長岡初球から走ってきた!!』

 畑ははっとして振り返った。走者のことが、一瞬頭から消えていた。
 哀歌がボールをキャッチする。長岡は、二塁へ猛然と駆けていく。







 第4話 終わり

     〜to be continued
inserted by FC2 system