35 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 01:07:42.94 ID:/HxwEU6v0
【第3話『孤独』】


(実;・Д・)『信じられない出来事が起こりました……なんと、ヴィッパーズの先発は、ルーキーの内藤! 喪名監督、この優勝決定戦の先発に、高卒ルーキーを持ってきました!』
(解´Д`)『……何とも、理解しがたい……』
(実・Д・)『一部では擬古の故障が伝えられています。しかし、何故ルーキーを……』
(解´Д`)『ルーキーを持ってこなければならない理由など、どこにもないでしょう。奇策を通り越して、愚策ですよ』
(実・Д・)『また詳しい情報が入り次第、視聴者の皆さんにお伝えしたいと思います』


 ブルペンにミット音が響く。内藤は、自分の放った白球を見つめていた。そして、返球されるのを待っていた。

(;^ω^)(調子は悪くないお……というか、凄く良いお……でも……)

 ショボンからの返球を、思わず取りこぼしそうになった。右手から汗が滴り、ボールを上手く握れない。
 ミットを差し出したショボンに向かって、変化球を投げ込む内藤。ボールは、高めに浮いた。

(´・ω・`)「とにかく低目だ。高目の変化球は御法度、それを確実に心がけてくれ」
(;^ω^)「了解ですお」
(´・ω・`)「お前のコントロールなら大丈夫さ。充分抑えられる」

 内藤はストレートを投げ込んだ。一際大きな音が鳴り、ショボンは捕球したと同時に立ち上がった。

(´・ω・`)「行くぞ。試合開始だ」

 二人は再びベンチに戻った。それを見た観客が、大歓声をあげる。
 内藤は、左右どちらの足で歩き出せばいいのか、分からなくなった。ナインが、グランドへと飛び出していく。それすら、見えていなかった。

36 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 01:10:15.03 ID:/HxwEU6v0
(実・Д・)『さぁ、まずは一番センター長岡! そして二番レフト荒巻! 続いて三番ライト毒田! 外野三人で形成する1・2・3番は近年不動のものとなっております!』

 グラブにいくつか入ったボールを観客席に投げ込んでいく。素早い足取りで外野へと向かっていった。

(実・Д・)『そして四番ファーストのニダ! 五番キャッチャーはショボン! 六番サードに笑野!』

 内野陣もグランドへと飛び込んでいく。内藤の視線は、宙を彷徨っていた。

(実・Д・)『七番セカンド椎名、八番ショート津村、そして九番、なんとプロ初先発のルーキー、内藤です!』

 名前がコールされても、内藤は足が動かなかった。本当に、このグランドに踏み込んでいいのか、自分に問いかけてしまっていた。

ξ゚听)ξ「内藤? 何してんの、行かなきゃ」

 津村に腕を引っ張られ、ベンチからグランドに出る内藤。何万という人の視線が、内藤に集まっている。
 一塁線を跨ぎ、マウンドへ向かった。小高くなっているそれは、内藤の孤独感を煽るに充分だった。


(実・Д・)『プロ初先発の内藤、その一戦は、あまりに大きな一戦です! 果たして今の心境やいかに!』
(解´Д`)『酷なことをするもんだ、喪名監督は……しかし、一体何故……』
(実・Д・)『えー、喪名監督のコメントが取れたようです。『擬古の故障は事実。そしてその代替の先発を模索したとき、内藤が一番手に挙がった。それだけです』とのことですが……』
(解´Д`)『……見てみないと、分かりませんねぇ……内藤がどれほどの球を投げるのか……』
38 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 01:14:05.81 ID:/HxwEU6v0
 政治家の偉い人が、始球式を務めていた。手前でワンバウンドして、バッターが空振る。内藤の頭には、そんな淡々とした言葉しか入らなかった。
 白球を、握る。そして、投球練習を開始する。その初球、いきなり変化球が抜けた。

(実・Д・)『緊張しているのでしょうか……投球練習であれほど球が抜けるのはあまり見かけませんが……』

 二球、三球と投げ込む。掌の汗が、はっきり見てとれた。
 レフトスタンドから大歓声が巻き起こる。球場が揺れているのか、恐怖で自分の手が震えているのか、内藤は分からなかった。

(実・Д・)『さぁ、一番井蓋が左打席に入りました! 今季打率は.3284、現在毒田と首位打者を争っております! ロケッターズ不動のリードオフマン、井蓋!』

 左打席で、井蓋が静かに地を均す。
 ヘルメットから微かに覗く、その眼光が、内藤を貫いた。内藤は、プレートから足を外して逃げ出してしまいたくなった。

 何故、ここに立ってしまっているのだ。何故、白球を握らされているのだ。
 内藤は、何も分からなくなっていた。

(審゚O゚)「プレイボール!」

 球審の声にはっとした内藤は、慌ててサインを確認する。
 初球は、外角に外れるストレート。頷いて、右足をプレートに乗せる。
40 :第3話 ◆azwd/t2EpE :2006/05/07(日) 01:16:48.34 ID:/HxwEU6v0
 第一球を、投げ込んだ。
 瞬間、内藤は視界が白くなった。


(実`・Д・)『打ったァァァァァァァ―――――――――――――!!!!!』


 打球が、どこに飛んだのか。内藤の白くなった視界で、分かる由もなかった。









 第3話 終わり

     〜to be continued
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