16 名前:第15話 ◆azwd/t2EpE :2006/06/09(金) 00:12:47.73 ID:7RkSa8bO0
【第15話『昂揚』】


(解´Д`)『ヴィッパーズはいい作戦を取ったんですがね』
(実・Д・)『と、いいますと?』
(解´Д`)『津村のヒットに関しては先ほど申し上げた通り、畑の慢心がにじみ出たものでしたが……内藤に対しても、同じことが言えました』

 球場はまだ騒然としている。喪名の抗議は続いていた。

(解´Д`)『ピッチャーの内藤を打席に立たせたことで、バントという選択肢がまず浮かぶ。そして内藤は実際にバントを構えた。瞬間、畑の頭からヒッティングの可能性は消えたことでしょう』
(解´Д`)『内藤が3三振していたこともあわせると、バスターという考えは畑の頭に全くなかったでしょうね。そして、津村が走ったことで球が甘くなった』
(解´Д`)『内藤がそれを上手く捉え、津村が本塁へ……津村の走塁は、まさにプロの技と言うべきもので、完璧だったのですが……』

 試合が中断されている。抗議は、既に十分以上続いていた。
 内藤はジャケットを羽織って二塁ベース上で抗議を見つめている。真剣な眼差しではなく、視線は宙をふらついていた。

 結局、喪名の抗議は二十分近く続いたが、最後は怒りのぶつけどころを失ってベンチに帰っていった。
 塁上の内藤を考慮しないわけにはいかなかった。

 球審が球場のファンに事情を説明し、試合が再開された。

(実・Д・)『さぁ、試合再開です! ツーアウトランナー二塁! ロケッターズ、優勝まであとワンナウト!!』

 打席には一番長岡。
 バットでホームベースの両端を叩いて、ストライクゾーンを確認する。審判を一瞥したあと、畑に視線を移した。

 闘志が横溢していた。

17 名前:第15話 ◆azwd/t2EpE :2006/06/09(金) 00:14:45.87 ID:7RkSa8bO0
(^亮^)(冷静さを欠いてるな……よし)

 哀歌がサインを繰り出す。要求は、シンカー。引っ掛ける可能性が一番高い。

(^亮^)(正直、さっきのはセーフだ。キャッチャーの俺もよく分かってる……が、審判の判定は絶対さ)
(^亮^)(しかし、判定には納得いってないんだろうな……そういうときが、一番打ち取りやすい)

 哀歌がミットを前に出した。畑がボールを投げ込む。
 長岡の怒りが、見て取れるようだった。低めに沈むボールを、強引に捉えにいった。
 しかし、芯を食った。

(実`・Д・)『打ったァァァァッ!! ピッチャー強襲ッ!!』

 畑の足元を、抜けた。
 しかし、哀歌は安堵した。ショートの井蓋が、センター方向にまで回りこんでいる。
 試合終了。間違いなかった。

 白塁が、ボールを遮らなければ。


(実`・Д・)『おぉぉぉぉーっとぉぉぉ!!! ボールがベースに当たってバウンドしたァァァァ!!』


 セカンドベース後方で待ち構えていた井蓋が、一瞬打球を見失った。
 井蓋の右方をボールが転がる。
 慌てて追いかけ、井蓋が右手でボールを掴んだ。

 そのときには、既に内藤は三塁を回っていた。

(実`・Д・)『内藤ホームに向かっている!! 井蓋、バックホォォォ――――――ム!!!!』

18 名前:第15話 ◆azwd/t2EpE :2006/06/09(金) 00:17:04.93 ID:7RkSa8bO0
 ボールがホームに返って来る。
 際どい、と内藤は即座に感じた。このままでは、アウトになってしまうかも知れない。

(;^ω^)(もっと速く……もっと速く!!)

 内藤は、咄嗟に両腕を広げた。そして、更に加速していく。
 誰の眼にも明らかなほど、速度が上がっていた。

⊂二二二( `ω´)二⊃「うおおおおおおおおおおおお!!!」

(実;`・Д・)『内藤、両腕を広げています!! 滑空するかのようなポーズ!! ホームに突っ込んだァァァ!!』

 内藤がヘッドスライディングでホームに駆け込む。
 哀歌がすかさず、内藤にキャッチャーミットを向けた。

(実`・Д・)『これはっ……!?』

 内藤の右手がホームベースに触れた。
 しかし、哀歌のミットも間違いなく左手に触れている。どちらが速いか、先ほどよりも微妙なタイミングだった。


 だが、この判定は球場に居る全員が、はっきりと分かった。


(審゚O゚)「セ―――――――――フ!!!」


 哀歌のミットには、何も入っていなかった。
 焦った哀歌が、ボールを捕球しそこねていた。白球がホームベース付近に転がっている。
21 名前:第15話 ◆azwd/t2EpE :2006/06/09(金) 00:19:11.47 ID:7RkSa8bO0
 内藤が、生還した。
 4−4。ヴィッパーズが土壇場で同点に追いついた。
 球場の熱気が最高潮に達していた。


('∀`)「最高だぜコノヤロー!!」
( ^Д^)「ナイスランだ!! 追いついたぞぉぉぉぉ!!」
(*;ー;)「ありがとう!! 本当にありがとう!!」

 ベンチ前で何度も何度もハイタッチした内藤。手が赤くなっていた。

( ´∀`)「よくやってくれた! 津村、内藤!」
ξ*゚听)ξ「凄いわ内藤……同点よ! 優勝はまだ分からないわ!!」

 内藤は嬉しさで何も喋れなかった。どんな言葉を使っても、この気持ちを表現できそうになかった。


 内藤はサヨナラを信じ、しかし同点のまま終わり延長に突入する可能性も考えて、キャッチボールを始めた。
 しかし気は漫ろで、何度も何度もマウンドとバッターボックスを確認していた。

(実・Д・)『同点に追いつきましたヴィッパーズ、尚もツーアウト二塁のチャンス! 打席には二番荒巻!』

 今までとは違い、背筋を伸ばして、少し体を硬くした荒巻が打席へ。
 畑は、俯き加減のままボールを握っていた。
 強く、強く、潰れそうなほど、強く握り締めていた。
 ベテラン荒巻の体が、更に強張った。
23 名前:第15話 ◆azwd/t2EpE :2006/06/09(金) 00:21:22.86 ID:7RkSa8bO0
 畑が、力強く足を踏み出し、残像しか残らないほどの早さで腕を振った。
 剛速球がキャッチャーミットに向かっていた。

(実・Д・)『詰まった! サードゴロ!』

 三塁手の村者が難なく捕球し、ファーストへ送球。
 荒巻の全力疾走及ばず、スリーアウトとなった。

(実・Д・)『ヴィッパーズ、サヨナラならず! しかし同点! 九回裏、ヴィッパーズ同点に追いつきました!! 試合は延長へ!!』


(´・ω・`)「行こう。今日は最後までお前だ。俺が全力で支えるから、ついてきてくれ」
(;^ω^)「分かりましたお!」

 内藤がキャッチボールを終え、一塁線を越えて、十回表のマウンドに登った。
 肩は重くなく、腕はむしろ軽い。

 しかし、球数は150を越えていた。








 第15話 終わり

     〜to be continued
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