84 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:23:59.71 ID:xK5ePqWs0
第八話


こんごう型護衛艦『ひろゆき』に向かって、合計三十発のミサイルが放たれた。

それをレーダーで見た自衛官は思わず息を呑んだ。まさにミサイルの雨だった。

(;、、゚Д゚)「ファランクスっ!急げ急げ急げぇっ!!!」

(;官゚ヾ゚)「弾幕展開!」

ファランクスから弾丸が放たれる。ミサイルに真っ向に勝負を仕掛けに行く。

だが、そのファランクスの弾丸も三十発のミサイルを止めるには少々薄すぎた。
連続した複数の爆発音とともに艦が揺れた後、叫び声が司令室に響いた。

(;官゚」゚)「ミサイルが十発!!本艦に向かってきます!距離…200!!」

撃ち漏らしたかーーーーと考える前にギコは叫んでいた。

85 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:25:56.73 ID:xK5ePqWs0
(;、、゚Д゚)「対ショック防御!!総員、身近なものにつかまれ!!」

対ショック防御、と、復唱の声が艦内から聞こえた。

(;官゚」゚)「距離…100!…50!…着弾まで、5、4…」

ギコは身構えた。無駄だと判っていても、身構えることしかできなかった。

ミサイル十発…これはただの爆発などでは済まされない。
艦が完全に轟沈する量だった。自分も含め、この艦に乗っている乗員すべて、熱を感じる間もなく即死する。

ミサイルのジェット音が聞こえてくる。これは彼らにとって、死を告げる音だった。

(;官゚」゚)「3、2、1、弾着!今!」

思わず目を閉じた。

その声と同時に艦に衝撃が走った。爆発音が耳を劈き、体が浮いた。

司令室の照明が落ちたのが、まぶたの裏が暗くなったことで判った。

もうすぐ、俺は死ぬのか。ギコはそう思った。


86 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:27:19.16 ID:xK5ePqWs0
弾着から数秒経った。

……だが。

痛みがない…?

ミサイルの直撃を食らったはずではなかったのか?

体を動かしてみる。

動く。手も動く。

恐る恐る目を開けた。同時に予備電源に切り替わり、照明が回復した。

まだ、生きている…?

(;、、゚Д゚)「…状況報告」

(;官゚」゚)「はっ…了解」

機器の上に覆いかぶさっていた自衛官が答えた。

(;官゚」゚)「…発射された三十発のうち、二十発を撃墜。本艦に向かっていた十発は…か、海面に落ちました」

(;、、゚Д゚)「…なんだと?」

87 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:28:47.53 ID:xK5ePqWs0
(;官゚」゚)「着弾の直前に、急にコースが変わりました。すべて、海面に落ちました」

助かったのか?

しかし何故?

いや、そんなことを気にしている場合ではない。自分には艦長として、すべきことがあるはずだ。

(;、、゚Д゚)「被害は?」

(;官゚」゚)「直撃は免れましたが、被害は甚大です。
     至近弾の衝撃により艦尾に亀裂、浸水しています。浸水により主電源がやられ、有毒ガスが発生しています。
     機関出力は半分以下に低下。また、爆発の電磁波により一時的にレーダーが使用不能です」

出力が低下。しかも浸水している。レーダーも使用不能。おまけに有毒ガスときた。
ミサイルで死ななくたって、結局はこれだ。

(;、、゚Д゚)「有毒ガスの発生箇所の隔壁をしめろ。目標は?」

(;官゚」゚)「レーダーが落ちる前のデータリンクではミサイル射出後一時的に沈黙。活動再開後は本艦から離れました」

(;、、゚Д゚)「…」

(;官゚」゚)「艦長…」

(;、、゚Д゚)「全艦放送につなげ」

(;官゚」゚)「はっ」

88 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:38:00.61 ID:xK5ePqWs0

( ,,゚Д゚)「全艦放送、艦長より達する。総員、退艦せよ」

被害を受けているとはいえ、退艦命令が出るにはあまりに早すぎた。
他の自衛官は困惑した顔でギコを見た。

(;官゚」゚)「!」

(;官゚ヾ゚)「!」

( ,,゚Д゚)「目標は通常兵器では破壊できない。いくらミサイルを撃ち込んでも破壊することは出来ないだろう。
     目標が本艦から離れている今のうちに、退艦する」

(;官゚ヾ゚)「しかし…まだ『ひろゆき』は戦えます!」

( ,,゚Д゚)「…いや、多分、これ以上やっても無駄だ。奴はおそらくここにあるすべての艦を破壊するつもりだ。
     ここから艦を離れさせても、あの機動力の前では無駄だろう」

(;官゚ヾ゚)「…」

( ,,゚Д゚)「明日を迎えられない場合、次はない。何よりもまず生きのびることを考えよう。
     今は、踏みとどまるときだ」

(;官゚」゚)「…」

(;官゚ヾ゚)「…艦長」


89 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:39:21.94 ID:xK5ePqWs0
( ,,゚Д゚)「今は後退しよう。みな、この悔しさを忘れるな。いいか、次は」

司令室にいる隊員の顔がすべてこちらを向いた。ギコは全員の顔を見渡してから言った。

( ,,゚Д゚)「…次は、勝つぞ。総員、『ひろゆき』に敬礼!!」

艦の乗員300人すべてが立ち上がった。

そして、今自分が乗っている艦に向かって敬礼をした。
もう、これに乗ることはないのだと、全員が理解できた。

敬礼を解き、ギコは叫んだ。

( ,,゚Д゚)「退艦っ!!」

その命令とともに乗員は退艦を始めた。日ごろの訓練の成果もあって、滞りなく退艦を済ませることができた。

海には重油が混じり火がついていた。海に飛び込み、救命ボートに拾われたところで、
ギコは少女が放ったミサイルが『ひろゆき』の艦体を破壊するのを見た。

強烈な爆発が起こった。

海上、ボートの上の乗員はそれを呆然と見つめていた。


90 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:41:18.33 ID:xK5ePqWs0
(;官゚ヾ゚)「…艦長」

(;、、゚Д゚)「…俺は俺の艦を失った。…もう、艦長じゃない」

(;官゚ヾ゚)「いえ。艦長のご英断のおかげで、我々は助かることができました」

救命ボートに乗った乗員全員がギコを見て、敬礼をする。

(;官゚ヾ゚)「これからもギコ艦長についていきます」

(;官゚」゚)「私も。ギコ艦長が艦長をなされている船ならばどこまでも」

( ,,゚Д゚)「…すまないな」

沈みゆく艦を見つめながらギコはつぶやくように言った。

( ,,゚Д゚)「(次は、勝つ。『ひろゆき』…お前の仇は、必ず俺が取ってやる)」

もう一度ギコは『ひろゆき』に向かって敬礼をした。

そして、もう二度と『ひろゆき』を見ることはなかった。
92 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:43:25.63 ID:xK5ePqWs0
*

やられた。

あと少しのところで、またもやツンに邪魔された。ミサイルのコースを、ぎりぎりで変えられてしまった。
ツンを再び封じ込めた後、ちゃんとミサイルを見舞ってやったが、管理が甘いと言うことはこのことかと、
しぃは思った。

さっきからヘリコプターや戦闘機を送り出してくる巨大な艦に爆雷を投下しながらツンは再びツンの意識を感じた。

覚醒したばかりでは、どうもまだ宿主の意識が強いらしい。

爆雷の直撃を食らった艦は大爆発を起こした。艦のキールが折れたらしく、艦首と艦尾を上にしながら、
艦の中央部分から沈んでいった。甲板から滑り落ちる人間が見える。彼女にとって、こういう光景を見るのは
実に愉快な事なのだった。

まぁ、今日最後の獲物としては悪くはないか…そう、彼女は考えた。

彼女は眼下を見渡してみる。

燃え盛る船、艦、建物…その火の中を人間が逃げ回っていた。思わず口元が緩む。

バララララララララララララララ……

ξ 凵@)ξ『!!』

93 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:44:28.59 ID:xK5ePqWs0
不意に向かってきた戦闘ヘリにミサイルを一発見舞い撃墜した。
ヘリは爆発、残骸は海面へ落ちていった。

油断していた。そのせいで、空母で今日を締めくくったはずが小物で終わらせることになってしまった。

不本意だったが、仕方がない。

羽を広げ、アフターバーナーに点火した。

飛び去る間際に、岸とは反対方向から飛んでくる一機の二枚羽の輸送ヘリをみた。
ミサイルを見舞おうかとも考えたが、戦闘ヘリ以下の輸送ヘリを今更撃ち落す気にもなれず、見逃すことにした。

命拾いしたな、と、しぃはヘリに向かって思った。

彼女の体が光始める。アフターバーナーの噴出が強烈な推進力を生む。

そして、次の瞬間には彼女は横須賀の空から消えていた。


94 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:45:45.87 ID:xK5ePqWs0
*


(;^ω^)「ツン!!」

今飛び立って行ったのは間違いなくツンだった。
だがすぐに、羽を広げて、飛び立っていってしまった。

(;^ω^)「ジョルジュさん!急ぐお!ツンを追うんだお!」

(;゚∀゚)「お前は馬鹿か!落ち着け!今追っていってどうする?大体、こんな機体で追いつける訳ないだろ!」

(;^ω^)「で、でも…」

(;゚∀゚)「でもじゃねぇ!なんの対策もしないであれを追うなんて死にたいのか!?」

(;^ω^)「う…」

(;゚∀゚)「すぐに着地する。それまではおとなしくしてろ!」

(;^ω^)「わ、わかったお…」

川 ゚ -゚)「ブーン、お前の気持ちは判るが、それは今すべきことじゃない。いきなり目標に届くと思うな。
     ちゃんと段階を踏んで、はじめて物事は成しえるんだ」

(;^ω^)「…クーさん」


95 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:46:45.35 ID:xK5ePqWs0
僕は下を向いた。

確かに、僕は平穏を保ってられていない。落ち着く必要があるのは間違いなかった。

(;'A`) 「それにしても、今のは結構危なかったんじゃないですか?」

(;゚∀゚)「ああ。よくもまぁ撃たれなかったもんだぜ…。やっぱり、お前らのお陰かもなぁ。なぁブーン」

(;´・ω・`)「それにしても…ひどい有様だ」

窓の外を見ると湾全体が火の海だった。
停泊中だった艦船はことごとく炎上している。

消火艇が、あわただしく火を消しているのが見えた。

ツン…君が。

君がこの光景を作り出したのか?

この、地獄のような光景を。

米軍の空母が再び爆発を起こした。その衝撃波は、ヘリにまで届いていた。

がたがたと、機体が揺れる。何かにつかまっていないとバランスを保てない程だ。


96 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:49:28.90 ID:xK5ePqWs0
(;゚∀゚)「空母が…!!あの空母を沈めるとは…」

化け物め、と、ジョルジュが思わずもらした。
思わず右手に力が入った。

それを見たクーがジョルジュをにらみつける。

川;゚ -゚)「ジョルジュっ。少しは考えろ」

(;゚∀゚)「あ!…すまん、ブーン。そんなつもりじゃなかったんだ」

僕は答えなかった。

いや、答えられなかった。
ここへきて、やっぱり僕はまだ迷っている。

ツンを殺すかもしれないということに。そんな一言に、返す言葉も見つからないほどに。

ツンを助けたい。助けたい。それは本望だった。

だが殺したくはない。ツンを死なせたくはない。

僕は混乱しきっていた。生まれてきて、いままでこれほど悩んだことはないだろう。

そして、これからこれほど悩むこともないだろう。

97 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:51:03.23 ID:xK5ePqWs0
今まで通り、いっしょにいられればいい。そんな普通のことが、今では遠いことのように感じた。

何気ないことを大切にする、そのことばの意味が、判った気がした。

( ゚∀゚)「…ヘリポートは無事のようだな。俺達も、救助を手伝おう」

川 ゚ -゚)「ああ」

機体の高度が、どんどん下がっていくのが判った。
少し衝撃を感じた後、着陸したことを体で感じた。

( ゚∀゚)「ついたぞ、お前ら」

('A`) (´・ω・`)「はい」

( ゚∀゚)「ここが、横須賀だ」

開けられたハッチの先は、警報と消防の音が鳴り響き、時折爆発音が聞こえる火で赤く染まった世界だった。
ニュースなどで見る基地とはまるで違っていた。

思わず息を呑んだ。
この中に、これから行くんだと考えると、背中に冷たい汗が流れた。

ヘリから降りる間際、僕ら三人をクーが呼んだ。


98 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:51:59.89 ID:xK5ePqWs0
川 ゚ -゚)「いいか、君達」

(;^ω^)「はい」

川 ゚ -゚)「これから先は、何が起こるかわからない。だから、君達にはこれをもたせる」

そう言って黒い塊を差し出した。

受け取る。

重い。

こんなに重いものだとは思わなかった。
映画や漫画では、主人公が軽々と振り回していたのに。

ーーーーそう、渡されたものは、拳銃だ。

(;^ω^)(;'A`) (;´・ω・`)「…」

それを持ったとたん、直接的な脅威は去ったとはいえ、僕らは戦場にいるということを実感した。

川 ゚ -゚)「もしものときは、それを使え。引き金を引くことをためらうな。自分が生きることを最優先に考えろ」

(;^ω^)「クーさん…」


99 : 主婦(千葉県):2007/03/21(水) 21:52:33.30 ID:xK5ePqWs0
川 ゚ー゚)「案ずるな。あくまでそれは最終手段だ。君たちのことは、私とジョルジュで守るから安心しろ」

(;^ω^)「…はいですお」

川 ゚ー゚)「…まぁ、ここで使うことはまずないだろうがな」

( ゚∀゚)「とにかく、今は救出作業を手伝うぞ。一通り終わったら調査を始める」

( ^ω^)「はいですお」

('A`) (´・ω・`)「はい」

( ゚∀゚)「いい返事だ。お前ら、俺達から離れるなよ。じゃあ、行こうか」

何気なく時計を見ると日付が変わるのに後一時間はかからないような時間になっていた。

これじゃあ明日は学校にはいけないな…などと悠長に考えている自分がいて、自分の覚悟の足りなさをまた知った。

その学校に通う日々を取り返せるかはこれからの自分の働きにかかっているのだと自分に言い聞かせて、
ジョルジュたちを追った。



ーーーーー第八話「これからのために」

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