4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 18:58:36.55 ID:pJvkpIt/0
第十六話


事後処理は大変だった。

技術研究本部のビルはあちこちが壊れていてすぐには使えない様子で、僕達はモララー司令官に連れられて横須賀基地の空き部屋に移った。
ハインや兄者、弟者はその後で技本のビルに戻って必要なものを持ってくると言って出て行った。

(´<_` )「まぁ、あれがないと作戦もくそもないからな」

あれ、というのは例のウイルスのことだろう。
僕が、ツンを止めるためのたった一発の弾。

弟者はそれ以上何も言わなかった。僕の決意はわかってくれているのだろう。
もうこれ以上、何も言うことはない、と。

……結構、責任大きいなぁ……
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:00:24.58 ID:pJvkpIt/0
( ・∀・)「六時には起きてきてほしい。色々と、用意しなくてはならないことがあるからね」

(-@∀@)「そうですね」

部屋に案内される前に、モララー司令官とアサピー中将は僕たちにそういった。
本当は、一睡もする余裕は無いはずなのだが、昨日徹夜だった僕達の体調を気遣ってくれたのだろう。

素直に、ありがたかった。

いろんなことが、本当にありすぎた。昨日、今日で事態は本当に大きく動いたのだから。
でも実際、事態は僕らの想像以上に深刻で、想像以上に残酷なものなのだろう。

でもやはり、体は休息を求めていた。部屋の中にベッドがあるのを見たときにうれしさといったら、うまく言い表せないほどだった。

ひとまずの、休息だな、と思い、横になるとすぐに眠りに落ちていった。

そして、深い眠りの底で、夢を見た。


……ツンの夢だった。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:01:34.66 ID:pJvkpIt/0
*



うだる暑さがやる気を奪っていく。
せみの鳴き声が、夏も盛りだということを伝えてくる。

うるせぇ、これ以上暑さを感じさせないでくれ。

学校の屋上の暑さは尋常じゃないものがあり、熱くなったコンクリートは火傷しそうなほどだった。

それでも、僕らはここに来ていた。

……暑くて誰もやってこない、そんな場所くらいしか、僕らが弁当を食べられる場所は無かったからだ。

( ^ω^)「ツン、買ってきたお」

僕は日陰に座っているツンに買ってきたばかりの紙パックの牛乳を差し出しながら言った。
日陰で黙って本を読んでいたツンは僕に気づくとそれをしまい、代わりに弁当の包みを取り出すと広げ始めた。

ξ゚听)ξ「結構、早かったね」

( ^ω^)「ツンを待たせちゃ悪いお」

ξ゚听)ξ「あたしがフルーツ牛乳ね」

(;^ω^)「ちょwwwそれは僕用だお!ツンはプレーンで我慢しろお!」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:02:42.69 ID:pJvkpIt/0
ξ♯゚ー゚)ξ「……ブーン。この前のテスト、赤点が無かったのは誰のお陰かしら?」

(;^ω^)「……どうぞ、フルーツ牛乳をお飲みくださいだお」

大概、昼休みになる前に僕のお弁当はクラスのDQNによってゴミ箱に捨てられていた。
カーチャンに悪いので、最近はいつも購買のパンで済ませることにしていた。

すると、それを見たツンが、

ξ゚听)ξ「じ、じゃああたしがアンタのお弁当も作ってきてあげるわよ。アンタのためにわざわざ作ってあげるんだから、感謝しなさいよ」

と、いうわけだった。

とはいえ、クラスの中で堂々とツンに作ってもらった弁当を食べるのは彼女の世間体上、よくないと思い、屋上に行こう、といつも言っているのだ。

しかしそれでも、ツンはクラスの女子の中では比較的浮いていた。
僕、ドクオ、ショボンを除けば、あとはヒッキーや渡辺さんくらいしかツンと話しているところを見たことが無かった。

( ^ω^)「おっおっおっ!このウインナー変な形だお!」

ξ゚听)ξ「ああー……それはタコにしようと思ったんだけど出来なかったからアポロにしたのよ」

(;^ω^)「アポロ!?これが!?」

ξ♯゚ー゚)ξ「……どこからどう見ても」

(;^ω^)「あ、アポロですよねー」

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:04:20.16 ID:pJvkpIt/0
パクッと、僕はそれを口に入れる。形は結構あれでも、味はなかなか美味しいんだ。
僕はツンの作る弁当が大好きだった。

一口、また一口と食べる僕をツンは黙っていつも見つめていた。視線に気づいた僕が、美味しい、というとツンはいつも満足そうに笑うのだ。

ξ゚ー゚)ξ「よかった」

( ^ω^)「おいしいお。本当に」

いつもどおりの、なんの変哲もない会話。この調子で、僕らの昼休みは過ぎていく。

食べおわると、昼休みだというのに殊勝なことに練習をしている吹奏楽部の演奏をBGMにして、とりとめの無いことを二人で話した。

ドラマの話、音楽の話。本当に、普通の高校生がするような会話だ。

ξ゚听)ξ「……ブーンてさ」

( ^ω^)「なんだお?」

ξ゚听)ξ「結構たくさん音楽聴いてるよね」

( ^ω^)「そうかお?うーん、あんまりそういう意識はないお」

ξ゚听)ξ「だってカラオケに行ったりすると、すごいレパートリーが広いじゃない。邦楽から、洋楽から、アニソンまで」

( ^ω^)「うーん……」
13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:05:21.64 ID:pJvkpIt/0
ξ゚听)ξ「で、さ。この前カラオケに行ったときに歌ってた、あの曲、なんていったっけ?ドント、なんちゃら」

( ^ω^)「Don`t look back in anger かお?」

ξ゚听)ξ「あ、それかな。なんか、すごく気になる曲だったの」

( ^ω^)「気に入ったのかお?」

ξ゚听)ξ「うーん、気に入ったとは違うんだけど、歌詞が、なんか」

( ^ω^)「えーーっと」

僕はその曲を口ずさんだ。英語は得意ではなかったが、その曲だけは何度も聴いていたから覚えてしまっていた。


短調の曲ではあるが、決して悲しさは感じない。むしろ元気をもらえるような、そんな曲だった。

初めてこの曲を聴いたとき、すごく衝撃を受けたことを覚えている。それ以来、僕はカラオケに行けばいつもこの曲を歌うことにしていた。

( ^ω^)「I heard you say〜♪」

黙って聞いていたツンは、一番を聞き終えると口を開いた。

ξ゚听)ξ「……君は言う。私はこの世のすべてを見てきたわけじゃないけど、少なくとも私が見てきたすべてのものは、やがて消えていく、と」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:06:31.03 ID:pJvkpIt/0
( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「その曲の歌詞よ。聴いた感じだと、多分こんなの」

( ^ω^)「……お」

ξ゚听)ξ「……悲しい歌詞、だと思わない?」

( ^ω^)「悲しい?」

どうなんだろう。僕はメロディに惚れて聞いていただけで、歌詞を深く分析したことなんてなかったからよく判らなかった。

ξ゚听)ξ「形あるものは、やがては消える。当然のことを言っているだけなのに」

なんでかしらね、と、ツンは続けて僕の顔をじっと見た。何か言いたげな顔で。

( ^ω^)「ツン……。何が言いたいんだお?」

ツンは目を下にずらして、しばらく何かを考えているようだった。
僕も何も言わずに黙っていたら、ツンはゆっくりと口を開いていった。

ξ゚听)ξ「……今は、こうやってブーンはあたしの隣にいるけど、いずれはいなくなっちゃうのかな」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「いっしょに朝学校に来て、いっしょにお弁当を食べて、いっしょに帰って。そんな当たり前のことも出来なくなっちゃうのかな」

ツンの表情はどことなく悲しげだった。そんなことを考えていたのか、と、僕は内心で思いながら、どう返事を返そうかと思いをめぐらせた。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:07:08.85 ID:pJvkpIt/0
( ^ω^)「ツン、この曲にはまだ続きがあるんだお」

思いがけない返事にきょとん、としたツンを前にして、僕は二番の導入部を歌い始める。
訳せば、こんな意味だった。


……君が行くすべての場所へ、お供するよ。そこが誰も知らないような場所であっても、昼であっても夜であっても。


( ^ω^)「生きているうちは、ツンから離れたりはしないお。心配しなくてもいいお」

一人にはさせないよ、なんて、恋人同士でもないのに僕は言った。
今思えばよくもまぁ恥ずかしげも無くそんなことがいえたものだと思う。でもそれは本心だった。

ツンの悲しげな表情は無くなり、見る見るうちに顔が真っ赤になっていった。
それで、今にも消え入りそうな声で、

ξ///)ξ「……うん」

と頷いた。


帰り道。

ツンと二人で、てくてくと家に向かって歩いていく。別段話すことなど何もないから、二人は黙ったまま。
ツンの家の前まで来ると、僕らは足を止めた。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:08:02.67 ID:pJvkpIt/0
いつもどおり僕が、じゃあ、また明日、という。そしてツンがうん、と返事をする。

日常は崩れない。その日だってそうだった。

……いや、違う。

ξ゚听)ξ「……ブーン。ちょっと待って」

( ^ω^)「どうしたお?」

ξ゚听)ξ「……あの、その……」

そのときのツンの表情は形容しがたい、なんとも微妙なものだった。

ξ゚听)ξ「ちょっとこのあと、時間ない?」

( ^ω^)「お?うーんと、今日はバイト入ってないから時間があるお」

ξ゚听)ξ「じ、じゃあ、あたしの買い物に付き合ってくれない?」

( ^ω^)「いいお。このまま行くのかお?」

ξ゚听)ξ「制服で?……いや、やっぱり、着替えたほうがいいかなぁ、なんて……」

( ^ω^)「把握だお。じゃあ……んっと、五時に迎えにくるお」

ξ゚听)ξ「あ、駅にしようよ。ちょっと街まで出たいの」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:08:47.20 ID:pJvkpIt/0
( ^ω^)「駅、かお。街まで出るって、随分大げさだお。次の休みじゃ駄目なのかお?」

ξ;゚听)ξ「あ、駄目!今日じゃないと!」

(;^ω^)「なにをそんなに慌ててるんだお……。まぁいいお。じゃあ、駅でまた会おうお」

ξ゚听)ξ「うん。じゃあ、また後でね」

( ^ω^)「お。ツン、遅れるなお」


しかし、遅れるのはやはり僕なのだった。
待ち合わせ場所の駅まで行くとご立腹気味のツンがつま先をパタパタさせて待っていた。

ξ♯゚ー゚)ξ「ブーン」

(;^ω^)「つ、ツン!遅れてごめんだお!」

ξ♯゚ー゚)ξ「まぁいいわ。許したげる」

(;^ω^)「も、もうちょっと声に抑揚をつけてくれたら許されてる気がするお……」

ξ゚听)ξ「ところでブーン、あたし、お腹がすいたなぁ」

(;^ω^)「……食事は僕が奢るお」

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:09:41.21 ID:pJvkpIt/0
電車に乗って、三つ先の駅まで。
県内で最も繁華な街で、僕らが街までいく、といえばたいていはここを指した。

ツンはたっぷりと時間を使ってショッピングをした。増えていく持ち物を持つのは、まぁ……僕だった。

ξ*゚ー゚)ξ「あ、これかわいー」

ξ*゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。こっちとこっち、どっちがいいかな」

どうみても同じに見えますほんとうにありがとうございました

(;^ω^)「ツン、お腹すいたんじゃなかったのかお?」

ξ゚听)ξ「あら?……確かにそうね。じゃあ、ご飯食べに行こうかしら」

(;^ω^)「それがいいお」

ξ゚听)ξ「あ、でも、ブーンは先に行ってて。あたし、ちょっと寄るところがあるから」

( ^ω^)「僕もいっしょにいくお?」

ξ゚听)ξ「駄目よ。女の子にはいろいろとあるの。あ、さっき言ったとおり、ブーンのおごりだからね」

(;^ω^)「……」

僕らが選んだのは近くにあったファミレスだった。まぁ、高校生のお金で入れるところといえば、こんなところしかないのだ。
平日だったので店内の人はまばらで、僕はまわりに人のいない、隅の席に座った。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:10:48.62 ID:pJvkpIt/0
( ^ω^)「僕はオムライスで。あ、後から連れが一人きますお」

しばらくするとツンが現れた。

ξ゚听)ξ「ごめん。待った?」

( ^ω^)「いや」

ξ゚听)ξ「あたしは和風ハンバーグと、チョコパフェとキャラメルパンケーキで。もちろん、おごりだからね」

(;^ω^)「……容赦ないお」

財布の中身を確認する。うん、ぎりぎり、いけるか……?でも向こう一週間、節約しないと。

料理が運ばれてきてからは、話しながら料理を口に運んでいった。
そしてふと、思い出した。

( ^ω^)「でも、ツン。どうして今日じゃなきゃいけなかったのかお?」

ξ゚听)ξ「……えっ」

ハンバーグに突き刺したフォークの動きを止めて、ツンは驚いたような表情を見せた。
……やべ、かわいい。

ξ;゚听)ξ「あ、あんた、ほんとになんだかわかってなかったの?」

(;^ω^)「?」
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:15:25.00 ID:pJvkpIt/0
なんのことだ?
えっと、今日は……九月の、えっと、八日?

(;^ω^)「あ」

ξ゚听)ξ「思い出した?」

そうだ。

今日は。

(;^ω^)「僕の、誕生日だお」

ξ゚ー゚)ξ「そうよ」

そういって、ツンが取り出したのは紙袋。ごそごそと開いて、中身を僕に見せた。

( ^ω^)「これは……」

ξ゚ー゚)ξ「チョーカーよ」

シンプルなチョーカーだった。シルバーチョーカー、とツンは付け加えた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、つけてみて」

( ^ω^)「お」

多分、さっきはこれを買いにいってたんだろう。しかし、当日になってから用意するか?やっぱりツンも忘れてたのか?
……いや、気がつかなかったことにしよう。せっかくツンが僕にプレゼントしてくれたのに、こんなことを言うのは失礼だ。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:15:59.85 ID:pJvkpIt/0
素直に、受け取ろう。

襟足を押さえながら、チョーカーを付けようとした、が、うまくいかない。
何度も挑戦してみるが、やっぱり駄目。僕は思わずツンを見た。

(;^ω^)「ツン……」

ξ゚ー゚)ξ「……まったく」

ツンが席を立って、僕の首にチョーカーを回した。手際よく襟足の下でフックを止めた。

ξ゚ー゚)ξ「これで、よし。なかなか、似合ってるよ、ブーン」

( ^ω^)「ほんとうかお。ありがとうだお!」

ξ゚ー゚)ξ「いいのよ。でも、あたしの誕生日の時は倍返しね」

(;^ω^)「……」

料理をすべて食べた後も話は尽きなかった。いろんなことを、ツンと話した。
いつもいっしょにいるのに、話題はなくならなかった。それを、不思議とは感じなかった。

そして気づいた時には、もう九時を過ぎていた。

じゃあそろそろ、ということで僕らは店の外にでた。

夜になったからといって人が減っているわけでもなく、人ごみの中を僕らは駅まで歩いて行った。
時折、僕は手で首のチョーカーを触ってはニヤニヤしていた。まわりから見たら、多分すごく気持ちわるかったと思う。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:19:48.75 ID:pJvkpIt/0
電車ももちろん満員で、ぎゅうぎゅうづめになりながら、僕らは離れないように手をつないでいた。
ツンの手は僕のそれと比べればすごく小さくて、ひんやりとしていた。
僕は心の温かい人は手が冷たい、という言葉を思い出した。

電車から降りて、家に向かって歩いていくときも、どちらからともなく手をつないだ。
ツンは僕を上目遣いで見て、少し、微笑んだ。うん、当然だけど、僕は萌え死んだ。

ξ゚听)ξ「ブーン」

ツンの家に着いたとき、ツンは口を開いた。

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚听)ξ「あ、あのさ……」

手を話して、真正面に僕を見据えてくる。だけど、その声はどこか弱い。

ξ゚听)ξ「昼に、ブーンは言ってくれたよね」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「あたしから、離れないって」

僕はうんと頷く。

ξ゚听)ξ「あ、あの、あたしさ……」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:20:29.53 ID:pJvkpIt/0
後に言葉が続かない。僕はツンを見ながらじっと続く言葉を待っていた。

ξ///)ξ「……や、やっぱり、なんでもない」

( ^ω^)「どうしたんだお?変なツンだお」

ξ///)ξ「……ごめん」

そう言って下を向いたツンの声が本当に消え入りそうな声だったので、僕はツンの頭にポンと手を置いて、くしゃくしゃと髪をかき回した。

ξ///)ξ「ひゃっ!?」

( ^ω^)「謝る程のことじゃないお!」

ξ///)ξ「……」

( ^ω^)「また、そのうち話してくれお」

じゃあ、と僕はツンに別れを告げて、また背を向ける。背中で、ツンのじゃあね、という言葉を聞いた。

数十メートル進んだところで振り返ってみるとまだツンは居た。僕のことに気づいたらしく、手を振ってきた。

それに、僕も手を振り返した。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:21:18.49 ID:pJvkpIt/0
……夢はそこで途切れた。体を起こし周りを見回して目に入ったのはドクオとショボン。
二人とも、気持ちよさそうに寝息を立てていた。

枕元においた携帯電話の時計を見る。

PM3:00

半端な時間に目が覚めてしまった。起き上がって、ペットボトルから水を飲んだ。

冷たい水を体に染み込ませながら、さっきまで見ていた夢を思い出してみる。

あれは、半年以上前のことだった。

帰り道でツンに呼び止められ、結局何も無かった。でも、今考えればツンが何をしたかったのか判る。

今なら僕も同じ気持ちで、ツンと同じことが出来ると思う。

(;^ω^)「(っていうか、僕、鈍感過ぎるお……常識的に考えて……)

首に手をやるとチョーカーに指が触れた。ああ、いつもは外して寝てるのに、今日は付けっぱなしだったんだ。
だから、夢を見たのだろうか。

( ^ω^)「(……もう今日は、眠れそうにないお)」

銃を取り出して構える練習をした。何度も。何度も。
そうやって体を動かしていないと、なんだかまた泣き出してしまいそうだった。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:22:32.63 ID:pJvkpIt/0
*

夕方に、横須賀基地に自衛隊の特別艦隊が結集した。

夕日をバックに海面を走る艦を、僕は基地の港から見ていた。

米第五艦隊と共に自衛艦隊が停泊しているのは実に壮観で、ちょっと本気を出せば小国なら一夜で滅ぼせてしまうんじゃないかと思う程だ。

('A`) 「まったく、これだけあれば国がひとつ滅ぼせるな」

いつの間にかドクオが僕の後ろに立っていて、僕の心を読んだかのように言う。
返事をしないで黙っていると、ドクオは僕の隣に座った。

('A`) 「クーさんは今夜は無理だそうだ。……まぁ、あれだけ傷を負ったんだからな」

( ^ω^)「……そうかお」

僕を守るために戦ってくれたクー。そしてそのために大きな傷を負った。
それに報いるためにも、今日、僕は約束どおり、ツンを止める。

迷いは、もうない。その覚悟は、もう出来ている。

('A`) 「ギコさんは新しい艦で出るって言ってたな、そういえば。なんつったっけな……あた、なんたら」

(´・ω・`)「あたご型護衛艦だね」

(;^ω^)「うわっ、ショボン!いたのかお!」

(´・ω・`)「今来たところだよ。君らこそこそこそと何をしてるのさ」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:23:26.19 ID:pJvkpIt/0
(;^ω^)「別にこそこそなんか……」

('A`) 「まぁ、座れよ」

(´・ω・`)「うん」

( ^ω^)「……」

会話が続かない。普段はくだらない話をぐだぐだとしていたのに。

(´・ω・`)「今夜、ツンが現れるとしたら市街地を狙う可能性があるって、ハインさんが言ってた」

('A`) 「なんだって?」

(´・ω・`)「ツンが市街地を攻撃する可能性がある、って」

( ^ω^)「……」

('A`) 「どうしてだ?」

(´・ω・`)「あれのプログラムがプログラムだからさ。ただ、壊すことを目的に持ったプログラムなんだ。
     壊すだけなら、無抵抗なところを狙うのが一番いいじゃないか」

('A`) 「……」

(´・ω・`)「それで、横浜と川崎、東京には避難勧告が出たらしいよ」

( ^ω^)「……そうかお」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:24:01.62 ID:pJvkpIt/0
( ゚∀゚)「よ、お前ら。なにしんみりしてんだ」

( ^ω^)「ジョルジュさん」

从 ゚∀从 「あたしもいるぞ」

( ´_ゝ`)(´<_` )「俺らもな」

川 ゚ -゚)「……」

( ゚∀゚)「窓から見えたんでな。一息ついたところだったから、みんなで来たんだ」

从 ゚∀从 「ほら、飲みなよ」

差し出されたコーヒーを受けとった。
一口、啜る。

……ブラック、僕飲めないんですけど。

( ´_ゝ`)「ブーン」

( ^ω^)「なんですかお?」

ブラックの苦味に顔をしかめていた僕に、兄者が何かを渡してきた。手のうえにのせられ、ぎゅっと握らされた。

( ^ω^)「……これは」

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:24:29.70 ID:pJvkpIt/0
( ´_ゝ`)「例の弾さ。……俺達の切り札のな」

从 ゚∀从 「あたしたちの技術を総動員してもそれしか作れなかった。……彼女を犠牲にしないと、人造細胞は止めることは出来ないなんてね。
     ……まったく、こんなものしか作れなかった自分が憎いよ」

(´<_` )「すまないな」

( ^ω^)「……いえ」

手の上の一発の弾丸を見た。
きっと、技本のビルが襲撃を受けた後、ハインたちは必死でこれを作っていたのだろう。罪悪感に苛まれながらも、これだけは完成させてくれたんだ。

( ^ω^)「きっと、果たして見せますお」

辺りに、波の音とカモメが鳴く声が響いた。
穏やかで、平和な光景だった。


突然の轟音が響いたのは、そのときだった。

大きな水しぶきがあがり、停泊中の艦から火柱が上がった。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:25:56.93 ID:pJvkpIt/0
*



(;・∀・)「なんだ!?」

そうは言っても、こんなもの判りきったことだと、モララーは言ってから思った。

人造細胞だ。

間違いない。レーダーを張り巡らせていたというのに、引っかからなかったのか。
ステルスまでついてるのか?反則だろ、もう。

(;官゚ゝ゚)「米フリゲート艦、『マイケルジャクソン』大破!」

技本から、今夜には人造細胞は活動再開するという情報は得ていたというのに。
またしても後手に回ってしまった。

(;・∀・)「総員戦闘配備!対空戦闘用意!」

次の瞬間、先ほどまではなかった無数の点が、レーダーに現れた。

(;官゚ゝ゚)「ミサイル捕捉!!」

全身の汗腺から汗が噴出した。

マッハで飛んできたミサイルは艦隊へと向かっていく。
それぞれ任意でミサイルの撃墜に当たるが、そのすべてを撃墜するのは困難だった。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:27:51.71 ID:pJvkpIt/0
撃ち漏らしたミサイルが次々に爆発した。その爆風は司令室にまで届き、モララーは思わず硬直した。

(;・∀・)「ミサイルの発射位置特定、急げ!」

瞬時に特定されたその位置を捕らえた映像が、モニターに映し出される。
見て、息を呑んだ。

その中心にいたのは、やはり女の子だった。だが、その見た目は確実に変化していた。
背中から突き出した羽は、一昨日見たそれと比べて三倍以上はある大きさで、八方向に向かって伸びていた。
右腕は機関銃というよりレールガンのような印象を受け、その大きさは少女の身長を遥かに超えていた。
それでも、やはり本体は少女なのだった。制服を着た、少女なのだった。

(;・∀・)「……」

勝たなくてはならない。
わざわざ大艦隊が配備されているここに再び現れたということは、あの少女が狙うのはおそらく、ここの先、この国で最大の市街地。

東京だ。

破壊と殺戮、それだけもプログラムしか持たないのであるならば、この大都市を狙うのは至極当然のこと。
最初の覚醒で横須賀を狙ったのも、おそらく今日のためだったのだろう。
大艦隊が再配備された今となっては、そのこともある意味では無駄になったわけだが。
しかし、それでもこちらに存在を気付かせたというのは、我々など障害でも何でもない、とでも思っているからなのだろうか。
もしくは、障害になるものは先に叩いておこうという魂胆か。だとすれば我々をそこまで甘く見ているのか。

(;・∀・)「……馬鹿にしやがって」

こちらの艦隊から発射されたミサイルが、真っ直ぐに少女に向かって飛んでいった。
戦闘が、始まった。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:28:38.28 ID:pJvkpIt/0
*

……横須賀基地内の独房。

普段は静かなところではあるが、人造細胞と戦闘中である今はその喧騒がここまで届いていた。

守衛はその音にビクビクしながらも、自分が任された位置を動くまいと心に決めていた。

自分には、独房を守る責任があるのだ、と。

それに、自衛官の中でひどく嫌われていたプギャー中将がここに拘留さていると思うと、不謹慎だが気分がよかった。

外からの轟音に身を震わせたその時、ふと、独房の奥で何かがガン、ガンと音を立てているのに気づいた。

なんだ、と彼は訝しげに檻越しに奥をのぞいてみるが、よくわからない。

檻の鍵を取り出し、音がする方へ歩いていく。

(官゚−゚)「何をしているんだ?静かにしろ」

???「ちょっと外の様子が気になってな」

(官゚−゚)「黙れ。お前には関係のないことだ」

???「……お前、そんなんじゃ出世できないぞpgr」

(官゚−゚)「な…、うっ!!??」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 19:33:50.01 ID:pJvkpIt/0
不意に首筋に強い衝撃を感じた。目が裏返り白目になり、前のめりに倒れ掛かったときに今度は腹に強い衝撃を感じた。
しまったーーーと、思うが早いか、彼の意識はそこで途切れた。

手に持っていた独房の鍵のリングが、大きな音を立てて床に落ちた。
守衛を襲った人物がそれを拾い、にやりと笑うと独房の中に向かって声を発する。

???「遅くなりました」

???「まったくだ、もうちょっと早く来い。セント・ジョーンズ」

(’e’) 「……すみません、プギャー中将」

独房の奥に居た人物が手前に向かい歩いてくる。

( ^Д^)「ふん。まぁいい。早くここを開けろ」

カチャリ、と檻の鍵が開けられる。

( ^Д^)「モララー……アサピー……この俺を散々馬鹿にしやがって」

(’e’) 「私も。あのジョルジュとかいう男には借りがあります」

( ^Д^)「そして何より、俺の経歴に泥をぬった人造細胞とかいうあの女。あいつだけは、俺が殺してやる……!!」

二人はコツコツと音を立てて独房を後にする。
守衛が気絶をしている今、彼らを止めるものは誰も居なかった。
モララーが、プギャーが独房から消えた、という情報を得たのは、この三十分後の事だった。


ーーーーーーーー第十六話「開戦」完

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