399 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 22:26:23.93 ID:IjvLSq6iO
8.5話・無情の童貞


――――12月17日

ふと思う。自分は一体何なのだろう、と
人間なのか?それとも怪物?


いいや、違うね。どっちでもない。
お前はただのキモオタさ。戦う力すらない、媚びる事すら出来ないただのデブだよ―――――――――


昔はそうだった。昔はその通りだった
だが今は違う。今は力を手に入れた。

そして蘇る、心の声。昔の記憶
それは今はもう、聞こえない罵倒。聞こえてはならない声

Ω< ヒソヒソ……ヒソヒソ……

Ω< 月 曜 日 が 現 れ た

Ω< 萬田ぁ。俺昨日童貞卒業したわー

Ω< え……?彼女いない歴=年齢……?

Ω< みんなも萬田みたいに窓際族にならないようになー
404 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 22:42:41.15 ID:IjvLSq6iO
そんな時だった。あのお方が現れたのは
ただ一人、孤独に生きていた所に、手を差しのべてくれたあのお方が現れたのは

★★童貞集まれー★★\(^O^)/(1)

会社から帰った後、毎日のように見るネットの掲示板。そこで何時ものように、糞スレを見付けて即座にクリックをする
レスを見ると当然の用に煽り、ふざけた書き込みがあった。それが糞スレ。それが他のスレとは違う所

だが、僕の肛門も童貞です><等の下らないレスに対して、1には謎のURLが貼ってあった
瞬間、このスレを見た時同様、即座にクリックをする

グロか?はたまたエロか?

だがそんな自分の下らない期待は裏切られた。
URLをクリックすると、画面には誰かの手の写真が写し出されていた

何だこれは?
不思議に思い、再び1を見る。すると下の方にポツリと寂しげに何かが書いてあったのが見えた




「――――紫の靄が見える人は私にメールしろ」
422 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 22:55:25.26 ID:IjvLSq6iO
………紫の靄?

再び、1に貼られている画像を見る。
するとさっきは気付かなかったのか、確かに手の周りに紫の靄が取り巻いてるのが確認できた

「…………」

ふと、1の書き込みが脳裏によぎる。


―――紫の靄が見える人は私にメールをしろ――


暇だったから?いや、違う
からかおうと思ったから?それも違う
では何故?何故自分はいつの間にかメールをしていたんだ?


それは分からない。メールを送った本人にも分からない。

だが………その人物と会い、ようやくその理由が分かった


その人物に……神に……引かれてたんじゃないかな。そのスレを見た時に、もう
436 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 23:10:09.24 ID:IjvLSq6iO
萬田銀次郎。彼はそんな事を思いながら布団に寝そべっていた
今は昼。今日は平日。
だがそんな事は関係無い。彼はもう会社を辞めたのだから。神の存在を知ったあの日から。仲間がいると知ったあの時から

/^^\「そろそろ……起きるか」

萬田は贅肉たっぷりの上半身を重そうに起こし、手をつきながらその場に立ち上がる
そのまま部屋のカーテンを勢い良く開けた。


/^^\「嫌な天気だ………」

萬田は晴れ晴れとした青空に向かってそう言い放った
普通の人間なら、この天気を嫌な天気とは言わないだろう。
だが彼にとっては青空が嫌な天気なのだ。寧ろ雨の日や、曇りの日の方がテンションが上がる

/^^\「………」

あの日……15日にテロを起こした日から神には会っていない。今頃どうしているのだろうか?
自分と同じ様に青空を見ているのだろうか?

萬田がそんな事を考えながら窓から空を見上げていると、ドアからノックの音が部屋に響き渡った
448 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 23:26:11.19 ID:IjvLSq6iO
そしてドアが開き、そこから入ってきたのは小柄な老人だった。
背は萬田より低く、オドオドとした態度で窓を見ている萬田に話し掛ける

J( 'ー`)し「銀ちゃん……」

/^^\「…………」

だが萬田はそれを無視し、空を見上げ続けていた
それでも尚、老人は萬田に話し掛ける

J( 'ー`)し「どうして……お仕事辞めちゃったの…?」

/^^\「………」

萬田はうんざりしていた。何故なら仕事を辞めてから、毎朝この調子だったからだ
いつもいつも同じセリフ。よくこうも飽きずに同じような事が言えるな、と萬田は思っていた

そして何時もの通り、萬田は老人を睨みつける。

J( 'ー`)し「カーチャンも………」

/^^\「うるせぇな!!!!!!!!!!!!!」

この怒鳴り声もいつもの事だった。昨日も、一昨日も自分は同じように叫んだ
その時決まってコイツは体をビクッと震わせながら黙るのだ
461 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 23:39:50.56 ID:IjvLSq6iO
勿論気分がいいものではない。
萬田はそう怒鳴り終えるとスタスタと老人の横を通り過ぎ、ドアに向かう

J( 'ー`)し「どこ行くの?」

/^^\「外」

一言そう言うと萬田は女性に威嚇するように、勢い良くドアを閉めその場から去っていった

J( 'ー`)し「………」

部屋に一人残された女性は机の上にある写真立てを手に持つ

それに飾られている写真には温厚そうな、それでいてふっくらとした老人が笑いながらピースをしている姿が写っていた


V/ ^O^ \V


J( 'ー`)し「チョモランマ―――あの子は一体どうなってしまったの…………?」
481 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/26(日) 23:57:05.70 ID:IjvLSq6iO
カランコローン!!

「いらっしゃいませー」

ガヤガヤと賑わう店内。だが極端に込んでいる訳でも無く、極端に空いてる訳でも無い

/^^\「一人。禁煙席で」

ここが昔からの馴染みの店だった。部屋にいてもあの女が来る。だがここなら心配無い。
ドリンクバー一本頼むだけで長居できるし、よく考え事をする時や暇な時に萬田はこのファミレスを利用していた


萬田は溜め息を吐きながらドスっと重い腰を椅子に降ろし、背持たれによっかかり目を瞑る

/^^\「………」

外の世界が幾ら変わろうとも、この店だけは変わらない。
この瞬間、この空間だけが萬田の安心できる場所だった。
485 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 00:08:29.22 ID:tFgYaNv2O
ふと、萬田は神の言葉が頭に浮かんだ。
15日のテロが終わった時に、再び廃屋敷に集まった時の事を。
その時神田はいなかったが……



「次に全員が集まるのはクリスマスだ。24日の午前0時………。その時、再びこの廃屋敷に集まろう」

「つまりテロを……本番のテロを起こす時ですね?」

「そうだ」

「………それまでは何をすればよろしいので?」

「それは君達に任せる。暴れるのもよし、休むもよし」



/^^\「…………」

クリスマス。それまでに一体何人が死ぬのだろう。その日に一体何人が死ぬのだろう。

だが関係無い。他人の事等。

/^^\「そうさ……これは……罰なんだ……」
490 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 00:24:36.64 ID:tFgYaNv2O
だがしかし、この店にいると思い出したくない事まで思い出してしまう。
昔々の出来事。今はもう過ぎた日の出来事

萬田の人生を変えたあの時の出来事を―――――――――





V/ ^O^ \V「チョッモランマー!!」

彼の父親、チョモランマは少し変わっていた。
自分で編み出した拳法を延々と家の庭で練習したり、「俺は正義の味方だー」等と言って周りにいる人々の冷笑をかっていたりしていた
変人チョモランマ。それが彼のあだ名だった

だがそんな彼を正義の味方と信じて疑わない人間が一人……たった一人だけいた

/^^\「フッジサーン!!」

それが萬田だった。
いつも食卓で家族そろって食事をしていると、チョモランマが毎日のように正義の味方の話をしていたものだ
502 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 00:40:05.23 ID:tFgYaNv2O
その頃、萬田は中学でイジメられていた。イジメと言っても暴力的なモノではない。
それは言葉のイジメだった。

「やーい、ハゲー!!」
「デブー!!!」

今思うと、何故そんな事を言う奴に復讐をしなかったのか。何故やり返せ無かったのか。
昔の自分に腹が立つ

だが泣きそうになりながら家に帰った時、いつもカァチャンと父ちゃんが笑顔で出迎えてくれたのだ
………その笑顔に何度救われた事か


彼の母親もそうだが、チョモランマは彼女以上にいつも笑っていた。
寧ろ笑っていない顔を萬田は見た事が無かった

V/ ^O^ \V 「今日はな、父ちゃん怪人を退治したんだぞー!」

/^^\「今日はどんな怪物ー?」

V/ ^O^ \V 「そうだなぁ……妖怪パフパフ怪人………とか……」

カァチャンはそれを呆れ顔で聞いていたが、萬田は純粋に信じていた。
勿論、そんな怪人等信じる歳でも無かったが、チョモランマの笑顔を見ると何故か信じてしまうのだ
508 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 00:56:27.43 ID:tFgYaNv2O
萬田が泣きそうな時も、チョモランマは笑いながら萬田を慰めた。

V/ ^O^ \V 「ホラホラ、笑顔笑顔!!チョモランマー!!」

/^^\「う……グスッ……ふ、フッジサー……グスッ…ン」

V/ ^O^ \V 「うん!やっぱりお前には笑顔が似合う!!チョモランマー!!」

そんなこんなで時は平和に過ぎていった。萬田も、いつしか笑顔を絶やさずに学校に登校するようになった
それのお陰かイジメは無くならなかったものの、友達が数人かできた(オタクのだが)

だがそんなある日………………


J( 'ー`)し「チョモランマァァァァァ!!!!!!」


V/ ´` \V 「………」

棺に入った父。それを見て泣き叫ぶ母。

なんだろうこれは。

何故父は笑っていないのだろう。


その時、萬田は初めて笑顔ではないチョモランマの顔を見たのだ
519 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 01:16:50.88 ID:tFgYaNv2O
棺に横たわっている変わり果てたチョモランマを見て、萬田は何を思ったのか

V/ ´` \V 「…………」

/^^\「ねぇ……何で笑わないの?」

萬田は至って冷静だった。母とは違い、涙も出ない。
父の会社の社員すら泣いているというのに
悲しいという感情が、萬田には浮かばなかった
何故だろう。それは分からない


そして萬田は見た

その泣いている母を混じって、二人のカップルが笑いを堪えていたのを

号泣する母を見て、指を指し笑いを堪えていたカップルを

/^^\「―――――――――」




………これは後で聞いた事だが。
父、チョモランマはあるカップルから嫌がらせを受けていたらしい。
その理由は分からない。多分いつも笑っている父が鬱陶しかったのだろう

そして聞いた。その日……チョモランマが死んだ日。
父がそのカップルに外に呼び出されていたという事を
536 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 01:34:34.20 ID:tFgYaNv2O
チョモランマは近々、課長に昇進する事に決まっていた
だが……そのチョモランマが死んだ為、課長にはそのカップルの片割れの男がなる事になった

誰が見ても明らかだ。

そのカップルが父を殺した―――――――――


だが………


J( 'ー`)し「証拠が……足りない……?」

('A`)「はい。言いたくはないですが……。旦那さんは少し、変わっておられたようですね?」

J( 'ー`)し「………」

('A`)「故に鬱陶しく思っている社員はあのカップルだけではありません。それにあのカップルが旦那さんをその日に呼んだ、という証言する人もいませんでした……」

J( 'ー`)し「そんな……」

('A`)「訴えても不起訴になるのがオチでしょう。それでも……やりますか?」


しかも父は見付かった時、線路の側でうつ伏せになっている所を発見されたのだ
結局。父、チョモランマの死因は電車に引かれて死亡………事故死扱いになった

事故死だと?電車に引かれて死んだだと?
どこの世界に電車に引かれたあんな綺麗な死体がある?
552 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 01:50:01.88 ID:tFgYaNv2O
その時から。萬田銀次郎は笑わなくなった。あの時の様な、チョモランマと一緒に笑ったあの笑みは誰にも見せなくなった

そこから萬田の修羅が始まる。

高校に入り、喧嘩に明け暮れる日々。その外見とは裏腹に、不良とも喧嘩をし続けた高校時代。
時には相手10人、萬田一人の10対1の喧嘩もした
だが萬田は負けなかった。小さい頃から見ていた父の、拳法。あれを真似して。あれを改良して

/^^\「笑えねぇよ。もう」

この世は腐っている。だからこそ神が現れた。
クリスマスに制裁をする。それの手助けをするのが自分の役目


嫉妬?勿論ある。だが彼の力の根源は、怒りの方が多かった。


もし、父が今の自分を見たらどう思うだろう。笑ってくれるだろうか?

いや…………それは……有り得ない
564 : ◆xkpIzaNQBI :2006/11/27(月) 01:56:46.55 ID:tFgYaNv2O
「ありがとうございましたー」

/^^\「………」

そうして萬田は店を出る。
今の自分の仕事をする為に。
神の手助けをする為に。


/^^\「やれやれだぜ………」


そうして萬田はジョジョ立ちをする。
本当の自分を隠す為に
ふざけて心を落ち着かせる為に


彼は萬田銀次郎。父の編み出した拳法で敵を討ち、葬りさる
彼は笑わない。最早、人では無いのだから―――――――――
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