2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:43:29.83 ID:uyn98eV/0





[(-_-)と天使のようです/二話目]





ここは、木や山が全く無いような都会ではない。
けれど店がぽつりぽつりとしか無いような、そんな田舎でもない。

ただ、季節が変われば、その季節を少しは感じることが出来る。
時間の流れが少し遅い、そんな街だ。


('A`)「不思議だなあ。空から見下ろすだけの世界が、こんなに身近にあるなんて」


空を覆い隠すような大きな雲は、ゆっくりと時間をかけて流れていく。
その下の赤い屋根の一軒家の住人は、この暑さに悶えていた。

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:45:24.17 ID:uyn98eV/0


開いた窓を網戸にして暑さを凌ぐ。延々と回る扇風機のすぐ目の前で、
テーブルに置いた紙がチロチロとなびいている。

エアコンはある。けれど故障しているから使えない。
暑いのも面倒くさいが、わざわざエアコンを直すのも面倒くさい。
修理業者を呼ぶのも面倒くさい。

暑さはいつの間にか過ぎていくものだ。だから、それまで耐えればいい。


('A`)「何だか悪いな、ヒッキーの家に居候させてもらうなんて。迷惑じゃないか?」

(;-_-)「ドクオは食事しなくてもいいんだよね。生活費要らないみたいだから、大丈夫かな。
    それにどうせ行く当て無いんでしょ?」


セミは、相変わらずうるさく鳴いている。
風がカーテンを踊りに誘う。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:47:32.94 ID:uyn98eV/0


とても緩やかな時間が流れていくようで、不思議なものだ。
ただ太陽が地球に近づいているだけなのに、ここまで景色が変わるなんて。


('A`)「お前、大丈夫か?凄く汗が出てきてるけど…」

(;-_-)「……」


天使は、特に「暑さ」や「寒さ」を感じない。食事も取らなくていい。
故に、年中快適に生活をすることが出来る。
そうでなければ、天使は雲の上でなんて生活出来ないだろう。


(;-_-)「ドクオは暑くないの?」

('A`)「天使が気候の変化に悶えてたら、天使なんてやってらんないさ」

(;-_-)「それもそうだね…」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:49:23.97 ID:uyn98eV/0


今日は神社の近くで夏祭りがあるようで、ここら辺りに人の気配は無い。
静かにセミが鳴いているだけだ。


(;-_-)「そう言えば、僕は人と話すのが苦手なのに、
    どうしてドクオとは普通に話せれるんだろう」

('A`)「…俺が人間じゃないから、とか」

(;-_-)「……うーん、そうなのかな」


暫しヒッキーは考え込んだけれど、ドクオは何かソワソワしている様子で、


('A`)「なあ。この辺りは今、祭りをやっているんだよな?」


と、祭りのことについて話してきた。
人間達のする祭りとはどんなものなのか、気になったようだった。



9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:51:24.49 ID:uyn98eV/0


('A`)「祭りに行ってみたい」

(;-_-)「ま、また外に出るって注文かあ…」


気の乗らないヒッキーは、祭りに行くことを嫌そうにする。
外に出ること自体あまり好きではないヒッキーは、祭りなんてものに行きたくはなかった。

あんなに沢山人が集まるところに、引きこもりの自分が行けるはずない。
行きたいなら一人で行ってほしいと、そう願うばかり。


('A`)「空から眺めてたことがあるんだけど、祭りって面白そうだし、間近で見てみたいんだ」

(;-_-)「……一人で行く、って訳にはいかないか…」


ヒッキーは、この前ドクオが一人で出て行って、
警察に補導されたことを思い出した。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:53:14.47 ID:uyn98eV/0


(;-_-)「祭りだから、警察がうろついているだろうし」

(*'A`)「それじゃあ、一緒に行ってくれるのか!?」


ドクオは、目を輝かせている。それほど行きたいものなのか。


(;-_-)「出来れば行くのをやめてほしいけどね。そこまで行きたいって言うなら…」

('A`)「行きたい!行きたい!行きたい行きたい行きたい」


まるで駄々をこねるように、扇風機に向かって声を出す。
扇風機を通した声は震えて、耳に心地良い。



11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:55:22.08 ID:uyn98eV/0


(;-_-)「まるで子供みたいだなあ」

('A`)「さあ行くぞ!早くしないと屋台が閉まっちゃうかもしれないからな」

(;-_-)「分かった、分かったから。そんなに焦らなくても大丈夫だって。
    まずその白い服は目立つから、僕の服を着て行きなよ」

('A`)「分かった!」


本当は行きたくないんだけどなあと、ヒッキーは心の中で思ったが、
あまりに楽しそうなドクオを見て、少しくらいならいいかなと、
ヒッキーは何年ぶりかの祭りに行くことにした。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:57:13.91 ID:uyn98eV/0


('A`)「ところでさ」

(;-_-)「何?」

('A`)「前に言っていたコスプレ≠チて、何だ?」

(;-_-)「……」


とりあえず、ドクオにコスプレについて簡単に教えてから、祭りに行くことにした。









13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 22:59:15.83 ID:uyn98eV/0



まだ日の照る夕暮れ時。そろそろお月様が上る頃だろうか。

ヒッキーは普段着のまま、ドクオはヒッキーから貸してもらった服を着て、
祭りのある神社の方へと向かっていった。

ヒッキーは、あまり人目に付かないよう、黒い服を着て行った。

神社に近づくにつれ、一定の幅を保って、提灯が木々に飾られている。
綺麗に並んだ屋台の、灯りも見えてきだした。


('A`)「人間の文化って面白いよな」

(-_-)「まあこれは日本独特の文化だけどね」


やっと神社に着いたようで、屋台の主人達が大きな声をあげて客を誘っている。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:01:40.35 ID:uyn98eV/0


着物を着た沢山の人々が、屋台を行ったり来たりしている。
どうやらすぐ近くで団扇を配っているようで、
同じ団扇を持っている人たちが大勢いた。

何の匂いだかは分からないが、とても食欲をそそる匂いが
そこら中に漂っていて、ついつい食べ物を買ってしまいそうになる。


(*'A`)「あれは何だ?」


ドクオが一つの屋台を指差すと、


(-_-)「あれは射的だよ」


と、ヒッキーが答えてあげた。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:03:18.85 ID:uyn98eV/0


けれど、わいわいとはしゃぐドクオの背は、見れば人間ではありえない形をしている。
翼の上から無理矢理服を着せたため、ドクオの背中は不自然に膨らんでいた。

それに、針金も何も付いていない天使の輪は、ひときわ目立つものだった。
服を切って、そこから翼を通せば良かったのだが、それでは服が勿体無い気がした。

はしゃぎ回るドクオを制止しながら、ヒッキーは息を切らして祭りを見ていく。




すると、はしゃいでいたドクオは急に静止し、神社の奥の方をじっと見つめている。
ドクオには何かが見えているらしく、ヒッキーの腕をしっかりと掴む。

何事かと息を切らしながら、ドクオに何があるのかと聞いてみたが、
ドクオは答えようとしない。その一点だけを、しっかりと見つめている。




17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:05:24.67 ID:uyn98eV/0


(;-_-)「ひー、ひー…。ド、ドクオ、どうしたの?」

('A`)「……まさか」

(-_-)「…?」


ドクオの視線の先を見ると、そこは覆い茂る林。
屋台の並ぶ場所からも大分離れた場所で、そろそろ辺りも暗くなってきているというのに。


(-_-)「あそこに行くの?」

('A`)「ああ」

(-_-)「今じゃなきゃ駄目?」

('A`)「……。今じゃないと、駄目だ」



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:07:31.86 ID:uyn98eV/0


ヒッキーには何が何だか分からなかったが、
ドクオが勝手に林の中へと入って行ったので、
仕方なくその林の中へと入って行った。

木々の枝が服に引っかかる。それを手でほどきながら、ずいずいと進んでいく。


その林はあまり深くなかったようで、すぐにドクオは目的の場所に辿り着いた。
そこには、丸い大きな岩や、小さな岩が沢山転がっている川があった。

とても澄んだ水だったが、あまり大きな川ではなく、
こんな川があったなんて初めて知ったくらいだ。


(-_-)「…こんなところに、川があったんだね…」



19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:09:23.32 ID:uyn98eV/0


神社の裏の林の奥。そこに、こんなに澄んだ綺麗な川があるなんて。
けれどドクオは川原で何かを探しているようで、川のことなんて興味が無い様子。


(-_-)「ドクオ、何を探しているの?」


ドクオに声を掛けたが、ドクオは一向に何かを探している。
ヒッキーは一緒に探そうかと思ったが、それが天使にしか見えないものなら探しようがない。

ドクオがそれを探し終えるまで待っていようかと、ヒッキーは岩に腰をかける。

けれどその直後、ドクオは「見つけた」と小さな声で呟いて、その方をじっと見つめる。
何を見つけたのか気になって、ヒッキーはドクオの方へ近寄った。



20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:11:21.08 ID:uyn98eV/0


(-_-)「何を見つけたの……って、え?」



ドクオの目線の先で、白くて小さなふわふわとした物体が、川の上に浮いていた。



('A`)「アレを捕まえなきゃいけない」

(;-_-)「な、何アレ…。アレを捕まえるの?川の上だし、何かこの世のものじゃなさそうだし…」


まるで火の玉のようにふよふよと浮いているその物体は、
出口が分からないかのように、周りをぐるぐると回っていた。


('A`)「弓と矢を握って落ちてきて良かった。これで射れば、捕まえることができる」


ドクオは懐から弓と矢を取り出した。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:13:11.49 ID:uyn98eV/0


('A`)「……あ」


けれど、その矢を見るなり、ドクオは顔を暗くしてしまう。


(;'A`)「これ、愛の矢だった……」


その捕まえる為の矢を、ドクオは持っていなかった。
持っていたのは、モナーから貰ったあの愛の矢だけ。

しまったとばかりに、ドクオは地面にへたり込む。


(;'A`)「あああ…。こんな時にまで俺は役立たずなんて…」

(-_-)「僕には状況が良く分からないんだけど…。
    アレは、絶対に捕まえなきゃいけないものなの?」


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:15:21.04 ID:uyn98eV/0


ドクオは、ヒッキーにあの白い物体のことについて説明した。

あの白い物体は消えかけた魂≠ナ、本当の魂はアレよりも大きいこと。

消えかけた魂は何らかの理由で、天界へ上ることも、地上を彷徨うことも出来ず、
魂の存在自体が消えてしまう、とても珍しい魂だということ。

消えるのを食い止めるには、魂を捕まえて、適切な処置をしなければならないということ。


(;'A`)「今は天使達が怠けているから、この魂を見つけることも無いだろうし…」


こんなに近くに、消えかけてしまっている魂がいるのに、
天使が何もすることができないなんて。

魂は、ゆっくり、ゆっくりとまた小さくなっていく。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:17:11.99 ID:uyn98eV/0




けれどそのとき、空から突然何かが降ってきた。

ちりんと鈴の音が川原に響く。




(-_-)「…何だろう」


その音が、また一つ、また一つと増えて、
黒いコートに黒いフードを被った人が、三人ほど川の上に浮いている。

フードを深く被っているためか、顔がよく見えない。
けれど、浮いていることからして、人間でないことは確かだ。


('A`)「……」


ドクオはその三人を見るなり、無意識に足を一歩後ろへ引いた。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:19:15.26 ID:uyn98eV/0


(-_-)「どうしたの?」


けれどドクオは答えようとしない。


三人の黒尽くめは、それぞれ違った槍を持っていて、
その槍に鈴が付いているようだった。

槍を動かすたび、鈴の音がしゃらんと鳴る。


( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

∬´_ゝ`)「……」



28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:21:20.42 ID:uyn98eV/0


三人はこちらを見たかと思うと、その中の一人の女性と思わしき人物が、
白い魂に向かって突然槍を突き刺した。


(;-_-)「ひっ!?」


魂は槍の先端に突き刺さって、なにやらもぞもぞと蠢いている。



黒尽くめの三人はこちらへ近寄ってきて、先頭にいる女性が、
槍に刺さった魂を引き抜き、ドクオに手渡した。



∬´_ゝ`)「……消える前に、早く」

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:23:26.50 ID:uyn98eV/0


と、後ろに下がっていたドクオが、ゆっくりと前に出てきた。


('A`)「……ああ」


あまり気は進まなかったが、魂を助けることが出来るのなら、
仕方ないことかと、ドクオはその魂を手に取る。


ドクオは手に取った小さな魂を、手の平で包み込んだ。

とても暖かい光が手の平に溢れて、少しずつ、少しずつ、魂は元の大きさに戻っていく。


(-_-)「おおー」


まるで手品を見ているようだ。

あれほど小さかった魂を、元の大きさに戻し終えると、その魂を女性に渡した。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:25:21.45 ID:uyn98eV/0


('A`)「…この魂を天界へ持って行ってくれないか」

∬´_ゝ`)「ええ。喜んでそうさせてもらうわ」


女性は手渡された魂をまた手に取り、早速上へと上っていく。

残された二人の黒尽くめは、ヒッキーの方をちらりと見た。


(´<_` )「……そこの黒い服を着た奴、俺たちが見えているみたいだな」

(;-_-)「え、えッ?」


するとドクオは思い出したように、この黒尽くめや、白い魂が見えていたのかと問う。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:27:44.44 ID:uyn98eV/0


('A`)「そう言えばヒッキー、俺の他にも見えてるのか?あの魂が見えてたのか?」

(;-_-)「いや、見えているもなにも…。ドクオと同種じゃなかったの?
    魂って、皆に見えるものじゃないの?」


ヒッキーは、黒尽くめの三人と魂は、肉眼で普通に見えるものだと思っていたから、
それを聞かれたことに少々困惑してしまった。

黒尽くめの三人は、ドクオの知り合いには違いなさそうだけど、
どうやら天使と同種ではないようだ。


( ´_ゝ`)「………。えっ見えてたの?」

(´<_` )「…いや、あれだけ反応してれば普通気付くだろ」

( ´_ゝ`)「ははっ、見えてる訳ないじゃないか。馬鹿だなあ弟者は」

(´<_` )「お前だろ」



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:29:40.82 ID:uyn98eV/0


態とか素か分からない兄者を他所に、弟者は今度はドクオの方を見た。
服は違うし、服で翼が隠れていたが、頭に付いている光る輪は紛れも無く天使の証拠。

弟者は黒いフードを少し上げて、ドクオの目をしっかりと見た。


(´<_` )「翼の方は」

('A`)「相変わらず」

(´<_` )「…そうか」


そして、その回答を得ると、弟者はフードでまた顔を隠す。


(´<_` )「……本当にすまない」

('A`)「今更どうこう言ったって、どうしようもないよ。もう過ぎたことだし」

(´<_` )「謝りたいんだ。謝らせてくれ」

( ´_ゝ`)「デュフフッ俺からもごっめんちゃーい」

(´<_` )「お前もうすっこんでろ」
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:31:28.72 ID:uyn98eV/0


きもちわるい笑い声と共に、何とも軽い謝り方をする兄者。
この場の雰囲気を良くしたかったのやら、それとも素で言ったのやら。

そして弟者と兄者は、深く深くお辞儀をする。


(´<_` )「…それじゃ、俺達は仕事に戻る」

( ´_ゝ`)「じゃあなー」


二人はスッと綺麗に消え、どこかへと去っていった。



37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:33:28.04 ID:uyn98eV/0



(-_-)「…聞いてもいいかな」

('A`)「何を?」

(-_-)「翼の方は≠チて言っていたけど、もしかして…」

('A`)「……。ああ。あいつらが、俺の翼を斬った£」本人だよ」

(;-_-)「……」


あの黒尽くめの三人は、天使だけど天使ではない。
天使のように仕事があるけど、天使とはまた違う。

それは悪魔という存在であり、これもまた天使と並んで、なくてはならない者達。



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:35:35.00 ID:uyn98eV/0


その仕事内容は、地球上に生物が増え過ぎないよう、
毎日ランダムに生物を殺すというもの。

善人悪人関係なく、病気や災害、色々な方法で殺していく。

けれど悪いことばかりではない。

悪魔に殺された生き物は、その魂を悪魔にストックされ、
次にまたこの世に生まれるときを待つ。

たった三人で世界中を回り、生き物を殺し、そして殺した魂をどこかへストックし、
それを毎日続けるというのは、とても過酷なものだろう。

それでも今の天使たちと違って、毎日休むことなく続けている。


(-_-)「あの人たち、悪魔だったのか。死神かと思った」


なるほど、それであんなに真っ黒い服装をしていたのかと、
ヒッキーは感心すると同時に、悪魔について疑問に思った。



39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:37:22.51 ID:uyn98eV/0


(-_-)「斬られたってことは、もしかして仲が悪いの?」

('A`)「いや、そういう訳じゃないんだ」


どういう訳かは知らないが、仲が悪い、ということではなさそうだ。


('A`)「…ところで死神って何だ」

(;-_-)「えっ、知らないの?」

('A`)「そんな神様、こっちの世界にはいないぞ」

(;-_-)「…そうなのか……」



因みに、ドクオが言うには、厄年≠ヘ悪魔に殺されやすくなる年らしい。



40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:39:27.69 ID:uyn98eV/0




神社の方では、まだ祭りが続いているようだった。
ただ祭りを見に来ただけのはずなのに、天使の他に悪魔にも出会った。

人と話すのも、人に見られるのも苦手なヒッキーが、普通に会話できている。

人間じゃないと分かっているからなのか、どうなのか。
この前自殺しようとしていたことが、嘘のように思える。

けれど自殺したいという願望も、心の中でまだ残っていた。

ただ、最近の出来事が、自殺なんてものを想像させなくなるくらい
珍しい出来事ばかりで、きっと、かなり驚いていたんだろう。


(-_-)「さあ、そろそろ祭りに戻ろうよ」

('A`)「ああ、そう言えば祭りに来てたんだった!」


どこか遠くの方で花火を打ち上げているようで、
光るものが夜空に咲いた後、暫くしてから大きな音が聞こえた。

美味しそうな匂いが、まだそこら中に漂っていた。



41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:41:32.99 ID:uyn98eV/0


天界――


天使たちは相変わらず怠けている。本当、昔の働きっぷりはどうしたものか。
モナーはやれやれと、先ほど仕事を与えたドクオの様子を見に行った。


( ´∀`)「ドクオー、仕事の方は進んでいるモナ?」


けれど確かにここにいたはずの、ドクオの姿が見当たらない。
どこかに休憩しに行ったのかと思ったが、雲の端に愛の矢だけが残されていた。

普通休憩するなら、弓も矢と一緒に置くか、矢も弓と一緒に持って行くだろう。


( ´∀`)「…おかしいモナ」


モナーは辺り一面を見渡したが、ドクオの姿は無い。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:43:41.00 ID:uyn98eV/0


モナーがドクオの姿を探していると、ドクオではないが、代わりに違うものを見つけた。

黒いコートに、黒いフードを被り、槍の先に付いている鈴をちりんと鳴らす。


∬´_ゝ`)「……」


ドクオから魂を受け取り、その魂を天界へと持って来た、あの悪魔。


( ´∀`)「おや、悪魔さんがここに来るなんて珍しいモナね」

∬´_ゝ`)「ドクオさんから、魂を渡してくれと頼まれたの」

( ´∀`)「…ドクオから?」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:45:57.50 ID:uyn98eV/0


どうもおかしい。ドクオは今、天界で仕事をしているはずなのに
どうして、悪魔に魂を渡すということが出来たのか。


( ´∀`)「どうしてドクオがそんな依頼を?」

∬´_ゝ`)「あら、知らないみたいね」


すると悪魔は、下界のほうを槍で指し、


∬´_ゝ`)「ドクオ、下界にいたわよ」


そう言った。


( ´∀`)「……えっ」


( ;´∀`)「ええぇええええぇぇえええッ!?」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:47:31.60 ID:uyn98eV/0


モナーは慌てて、下界の方を見た。まさか下界にいたなんて。

片方の翼の無いドクオが下界にいるというのなら、きっとここから落ちてしまったのだろう。
それならば天界へ戻ってくることは到底無理ではないか。


∬´_ゝ`)「もしかして、連れて帰った方が良かったかしら」

( ;´∀`)「出来ればそうしてほしかったモナよ」

∬´_ゝ`)「でも私も弟達も、まだまだ沢山仕事が残っているから、
     今から連れて帰るは無理ね…。天界まで来るのに、とても時間かかったの」

( ;´∀`)「モナ…。モナー達も、天使が怠けているから今とても大変モナ。
      魂を集める時に、ドクオを見つけることが出来るといいけど…」



46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:49:33.27 ID:uyn98eV/0


そうして悪魔は、「それじゃあ」と言って、跡形も無く綺麗に消えて、
また仕事へと戻っていった。


( ´∀`)「ここから落ちたと言っても、もしかしたらドクオは天界へ戻る方法を探して、
      どこか遠くを彷徨っているかもしれないモナよ。
      天使たちが探してくれればいいけど、見つけることが出来るかどうか…。」


モナーは頭を抱えて、自分の仕事に戻っていった。
天使たちの指揮、天使たちがしていない分の魂運び。
まだまだやらなければならないことが沢山ある。


( ´∀`)「はぁ…」


トボトボと歩いて行き、この場を後にした。





47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:51:32.85 ID:uyn98eV/0


下界――


祭りが終わる前に二人は家に帰り、ヒッキーは部屋に入るなりベッドにバタンと倒れた。


(-_-)「疲れた…」


そのまま動かなくなってしまう。どうやら、もう眠ってしまったようだ。
久しぶりに外に出るなり、ドクオに振り回され、相当疲れたのだろう。


('A`)「今日はありがとな」


すやすやと眠るヒッキーにお礼を言って、ドクオは部屋の隅っこにちょんと座る。



48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:53:22.49 ID:uyn98eV/0


天使は眠らなくても良い。それに眠気も来ない。
だからドクオは、ヒッキーの部屋にあったトランプで、トランプタワーを作って遊んでいた。

四段をやっと積み上げたところで、緊張してしまい、手がトランプに当たり、
トランプタワーはあれよあれよと言う間に崩れていった。


(;'A`)「ぐぬおおおお…」


この遊びは結構精神的に来る。やっぱりやめよう。
いやでも悔しいし、もう少しだけ続けてみるか。

そんなことを思いながら、トランプラワーを根気良く作り続けていたが、
作っても作っても崩れてしまい、ついに諦めてしまった。


('A`)「くそ、トランプめ…俺にタワーを作らせない気か」


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/16(月) 23:55:45.19 ID:uyn98eV/0


なんて勝手にトランプにあたってみたけど、それでも暇なので
暇つぶしに、まだトランプで遊んでいることにした。

一人で寂しくトランプをやる天使の姿は、何とも奇妙なものだ。

トランプのカードを切っていると、ふと天界のことが思い浮かんだ。


('A`)「……。やっぱまだ怠けてんのかなあ」


これから先、本当に天界に帰れなくなったら、どうしたらいいのだろうか。
突然そんな不安が襲ってきて、紛らわすようにドクオはまたトランプゲームを始めた。


さあ今日はもうおやすみ。

また、明日。









つづく

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