53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:39:44.36 ID:FGIZM5UQ0

「よーい」 パァン!

⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン


ブーンはスタートから全力で走った。800mともなれば短距離走のように全力疾走とは
いかず、ペース配分を考えなければいけない距離であったが、彼はおかまいなしだった。
他の走者との距離がみるみる開いてゆく。ブーンの本来の俊足もあり、それは常軌を逸した
光景となり周りの生徒達は一気に盛り上がった。

男子A「なんだよアレwwwww」

男子B「アホだwwwwwwつーかアレうちのクラスじゃね?wwww」

木下 「内藤だよアレwwwwww」

男子C「はええwwwwwwてかキメェwwwwwwww」


普段はブーンの事など全く意に介さないクラスメイト達にとっても、この体育祭という
浮かれた空気の中での彼の奇行とも呼べる奮闘は格好の笑いのネタだった。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:43:28.56 ID:FGIZM5UQ0

⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン


トラックを包む異常な熱気にも気付かず、ブーンは無我夢中で駆け抜けた。
二周目に突入しても彼のペースは殆ど落ちなかった。一周400mのトラックなので
もう半分以上走った事になる。他の走者は未だ遥か後方、と言うより前方と言った方が適切
な位置にいた。

始めの内は彼の自殺行為のような全力疾走に爆笑していた生徒達も、ブーンが最終コーナーに
差し掛かっても後方との距離が全く縮まらない事に気付くと、いよいよ盛り上がった。


「おおおおお何だよアレ!!!!」

「ありえねえだろwwwwwww」

「おいおい、あのままゴールしちまうぞあいつ!」

「すげーwwwwつーかなんだよあのふざけた走り方はwwww」

⊂二二二( ^ω^)二⊃ブーン
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:49:14.16 ID:FGIZM5UQ0

ブーンは二位と一周近くの差をつけてゴールした。
トラックにへたり込んで荒く呼吸をしていた彼は、ようやく自分を包む声援に気付いた。


(;^ω^)「…ハァ…ハァ…ハァ」

多くのクラスメイト達が彼を見つめている。
驚き、嘲笑、感嘆、皆表情は様々だ。相変わらずの無表情の生徒もいた。
でも視線は確かに自分に向いている。


( ^ω^)「……」


ブーンにとっては全く予想外の出来事だった。

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:53:43.35 ID:FGIZM5UQ0


翌日からブーンを取り巻く環境は、ほんの少しだけ変化を見せた。

相変わらずクラスメイトとの会話は無い。しかし、彼らは確実に自分の事を意識している。
彼はハッキリとそう実感した。

( ^ω^)(ああ、そうか…)

ブーンは自分がクラスメイト達の中で『おかしな喋り方をするブサメン』から
『おかしな喋り方をする足の速いブサメン』に変わったのだと悟った。

『おかしな喋り方』、『ブサメン』、これはキモい。他人を遠ざける要素だ。
でも『足が速い』はその逆、ほんの少しではあるが他人を惹き付ける要素、
つまり魅力なのだ。

だからクラスメイトの目が変わった。僅かではあるが彼に興味を持ち始めたのだ。

( ^ω^)(もしかしたら…)

もしかしたらまだ間に合うかも知れない。
あの、大勢の仲間達に囲まれた賑やかで幸せな日々を取り戻せるかも知れない。

( ^ω^)(もっと自分の『魅力』を増やして、逆に『キモい』を減らせば……)

ブーンの中に新しい価値観が生まれつつあった。


131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:22:30.43 ID:FGIZM5UQ0


ブーンはまず陸上部に入部した。面倒くさがり屋のブーンにとって部活、それも
運動系の部活などと言うものは本来最も敬遠すべきモノの一つであったのだが、
今の自分にはどうしても必要な事だと思った。
自分の得意な陸上競技で良い成績を上げる事が出来れば、きっと自分の『魅力』が増す。
彼は真剣に部活動に打ち込んだ。勿論今までようなふざけた走り方はしない、教えられた
通りの正しいフォームで走った。

それと同時にダイエットも始めた。部活で習った運動生理学に基づく高タンパク低脂肪の
食事メニューを作ってもらうよう母親に頼んで、夜の楽しみだったお菓子は一切禁止にした。

今まで自堕落に過してきたブーンにとって、新しい生活は厳し過ぎる程厳しかった。
しかし彼は挫けなかった。
転校する以前の幸せな日々への渇望と、クラスメイト達の僅かな評価を勝ち取った時の
あのなんとも言えない達成感が、どこまでも彼を突き動かした。


133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:25:25.71 ID:FGIZM5UQ0

二ヶ月もすると彼の体型は大分スポーツマンらしいものになっていた。
激しい部活動と厳密な食事制限により、典型的なキモピザだった身体は適度に
筋肉のついたスリムな肉体に変わりつつあった。

また競技においても彼の成長は目覚ましかった。もともと豊かな才能を秘めていた
ブーンの脚力は、彼の一心不乱な努力によって急速に成長して行った。
顧問の教師も、もしかするとインターハイを狙えるかも知れない、と密かに
期待をよせる程だった。

135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:28:14.51 ID:FGIZM5UQ0

部活動を続けていると、自然と他の部員と話す機会にも恵まれた。
しかしブーンはそこではなるべく寡黙でいるよう務めた。転校当初のような
間違いがあってはいけない。不用意に喋りまくってまた周りからキモいと言う
評価を受ける事だけはなんとしても避けたかった。
何か喋る事があっても今までのように思った事をすぐ口にするのでは無く、
一度考えてから慎重に言葉を選んで話した。なるべく人と同じように、なるべく
おかしな事は言わないように。彼は自然と他人の喋り方や話の内容を分析するようになっていた。


137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:30:58.57 ID:FGIZM5UQ0

ブーンにとって嬉しい誤算だったのは陸上部にクラスメイトの大野が所属していた
と言う事だった。

ブーンのクラスには相変わらず彼を無視するような空気が流れていたが、陸上部では
ブーンは期待の新人。雑用も進んでこなし命令や指導も素直に受ける彼に対する上級生の評判も
悪くない。部活動中は大野もブーンを邪険にする事は無く、他の部員と同じように接していた。

( ^ω^)(大野君は僕とクラスとの架け橋になってくれるかもしれない…)

ブーンは部活でもクラスでも常に大野に注目した。
彼の性格や好み、どうすれば彼にとって『魅力』のある人間になれるのかを
常に思索し続けた。

138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:33:23.16 ID:FGIZM5UQ0

部活と自主トレのハードスケジュールにも慣れ始めると、ブーンは自分の
ルックスと言うものにも注目し始めた。
今まで服は全てユニクロの安売り、散髪は近所の床屋。
転校する以前から、さすがにマズいだろうとは思っていた。
しかしこれはブーンにとってはかなりの鬼門だった。

(;^ω^)「???」

まず手始めにファッション誌を数冊買ってみたのだが、これが全く意味不明だった。
まずページを開くと様々な服装をしたモデルの写真が目に飛び込んでくる。
彼等は、かっこいい。
それは分かる、みんなイケメンなのだから。
だが彼らの着ている服を見ても一体なにがどうかっこいいのか、ブーンには
全く理解不能だった。

(;^ω^)「よく分からないけどこの緑色のジャンパーなら似たようなヤツ持ってるし」
ブーンにとって上半身に羽織るシャツより厚手の服は全てジャンパーだった。

(;^ω^)「黒いズボンを穿いてる写真が多いけどコレなら一個買っとけば着まわせるよね」
デニムであってもチノパンであってもスラックスであってもカーゴパンツであっても
彼にとっては皆ズポンだった。勿論シルエットなどと言う概念は全くない。
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:36:44.03 ID:FGIZM5UQ0

さらにその服の値段を見ると、彼にはもうタチの悪い冗談にしか見えなかった。

(;^ω^)「なんでジーパンが4万もすんの?てかこれユニクロの2900円のヤツと何が違うの??
    どこのヒルズ族が買うんだよこんなもん」


(^ω^)「ワーク気分のブルゾンとブラックデニムをモノトーン風にまとめた統一感が
    シックなユニホームスタイルを演出」

着こなしの解説などは最早母国語として認識する事すら不可能だった。


142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 08:40:13.84 ID:FGIZM5UQ0

ファッション誌はとりあえずスルーして、ブーンはとにかくユニクロでないもっとお洒落な、
いわゆるショップという店に行ってみた。

店内に入るだけでもかなり抵抗があったし、やっと入っても初めて体感するオサレな雰囲気に
完全に萎縮してしまった。
店員もブーンを一瞥するとすぐに眉をひそめて彼の視界から姿を消してしまう。
ブーンはいたたまれなくなってすぐに店を出てしまった。

(;^ω^)「なんだあの異空間は…」

やはり自分にとってお洒落と言うものはあまりに遠い、手の届かない世界なのだろうか…。

(;^ω^)「いや、諦めるな。せめてお洒落とは言えなくてもクラスメイトに見られても
    恥ずかしくない程度の格好はしないと…」

自分は絶対に元の楽しい学校生活を取り戻すんだ。
一度憶えた密の味は二度と忘れられない。彼の決意は固かった。

 

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