24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:11:04.70 ID:FGIZM5UQ0


委員長 「じゃあ体育委員は内藤君と飯田さんで」

( ^ω^)「ハイだお!」

委員長がクジ引きの結果を言い渡すと、ブーンは元気よく返事をして右手を挙げた。
軽く視線を走らせて周りの様子を伺うが、クラスメイト達の顔はまるで能面を並べたかように
誰もが無表情だった。ブーンと共に名前を呼ばれた女子も、つまらなそうに力なく右手を頭の
高さまで挙げているだけで、同じ委員に選ばれた彼を見ようともしない。ブーンが返事を返した
相手であるはずの委員長ですら、視線は既に次の指名の為のクジに向けられていた。

(;^ω^)(僕だけ別次元の住人かお……)

もしかしたら自分の声も存在も、クラスメイト達には全く認識出来ないのではないだろうか?
ブーンはそんな錯覚すら覚えた。                 

転校から3ヵ月、ブーンの存在は最早空気と化していた。
相変わらずブーンに話しかけるクラスメイトは一人もいない、そんな彼等の反応にブーンもまた
自分から彼等に歩み寄る気力を奪われつつあった。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:14:39.65 ID:FGIZM5UQ0

この頃になるとブーンもようやく気付き始めた。
今まで当たり前だった友達のいる学校生活と言うものが、実は自分にとってかけがえのないとても
大切なものであったという事、そしてどういう訳かそれは今彼が置かれている状況では容易に
手に入るものでは無いらしいという事に。

(;^ω^)(なんとかしなきゃいけないお……)

そう思いつつも有効な打開策を見出せないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:17:34.87 ID:FGIZM5UQ0


飯田 「じゃあ私ラケットとボールまとめるから、アンタ台とネット片付けといて」

( ^ω^)「わかったお」


体育委員になったブーンは、同じく体育委員である飯田という女子と一緒に
体育の授業で使った卓球の道具の後片付けをしていた。

クラスメイトとの会話がほとんど無い今のブーンにとって、
極めて事務的であるとは言え唯一まともな会話の出来るこの時間は
不本意ながらも密かな楽しみになっていた。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:20:27.47 ID:FGIZM5UQ0

(;^ω^)(……)

この日ブーンはある決意をしていた。

(;^ω^)「飯田さん」

自分の仕事を終えて体育館を出て行こうとしていた飯田を呼び止める。
彼女は身体を半分だけブーンの方に向けて不思議そうに彼を見つめた。

( ^ω^)「…僕、なんかクラスのみんなに避けられてるみたいなんだお。
      でも理由がわからないんだお。どうしたらいいのか教えてほしいお」

思い切って聞いてみた。みんなに避けられている。明らかに気付いてはいたが認めたくない
事実だった。ましてやそれを当人に言うという事はその事実がより明確になるような気がして
気が引けた。恥ずかしさもある。でもこのままでは何も変わらない。
だからブーンは仕事上とは言え自分と唯一会話を交わしてくれる彼女に勇気を出して聞いてみたのだ。

飯田 「……。みんなって誰の事言ってんのかわかんないけど。ウチらそんな事してないし」
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:22:28.17 ID:FGIZM5UQ0

ウチらとはクラス全体の事だろうか?それとも彼女がいつも一緒にいるグループの事なのだろうか?
ブーンが彼女の言葉の意味を考えている内に、飯田は前を向き直して歩き出してしまった。

(;^ω^)「……」

他のクラスメイトと何ら変わらない彼女の態度。分かってはいたのだがそれでもやはり悲しかった。
しかしここで引き下がる訳にはいかない。

(;^ω^)「待ってお飯田さん!お願いだお!僕はみんなと友達になりたいんだお!
      僕に悪い所があったら直すから、お願いだから理由を教えてほしいお!」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:27:24.50 ID:FGIZM5UQ0

飯田 「…マジウザいんだけど」

ボソッと呟きながら面倒くさそうに再度ブーンの方に振り返った彼女の顔には
明らかな嫌悪の色が浮かんでいた。

飯田 「アンタ何考えてるかわかんないし。てかなんなの?その『お、お、お』って喋り方。
   顔も声もそーとーキモイよ、アンタ」

( ω )「……」

ブーンは言葉を失った。

飯田 「てゆーかもう話しかけないでよ?マジ真剣にウザイから」

捨て台詞を残して飯田が体育館を去った後も、ブーンはその場を動けずに
ただ立ち尽くしていた。

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:30:15.47 ID:FGIZM5UQ0

その後、体育の後片付けの時間に飯田がブーンに話しかける事は無くなった。
クラスメイト達も心なしか以前より更に冷たくなった気がする。

( ^ω^)(顔と声がキモい…。喋り方もキモい…)

飯田の言葉はブーンの中に強烈に残っていた。
言われ慣れているハズのその言葉が、今のブーンにとってはまるで
初めて耳にする言葉のように深く心に残った。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:31:45.61 ID:FGIZM5UQ0

クラスの全員に無視されるという初めて体験する苦境を前に、
ブーンは必死にその打開策を模索していた。
どうすれば周りに自分を認めてもらえるのか、一体自分の何が問題なのか。
彼は生まれて初めて自分という存在を客観的に分析しようとしていたのだ。
だから飯田の言葉は今まで何度も聞いてきたソレとは違った意味を持って
彼の心に重く突き刺さった。

( ^ω^)「確かにあんまりカッコよくはないお…」

おかしな喋り方をする小太りのブサメン。ファッションセンスも無いし
恋愛経験ゼロ、特に笑いを取れるような話術もない。

それがブーンが初めて客観的に見た自分という人間だった。

確かに飯田さんの言う通りだ。だからみんなに避けられているのか?
だから誰も自分と友達になってくれないのか?

( ^ω^)「……」

ショックは大きかった。生まれて初めて知る自分のという人間の事実。
彼にとってそれはあまりに絶望的だった。
49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/05/04(金) 01:36:21.97 ID:FGIZM5UQ0


クラス内で完全に空気と化し、自分に全く自信を持てなくなってしまったブーンは
学校を休みがちになっていた。そんな状況で彼がイジメの対象にならなかったのは
もはや幸運とさえ言えた。

そんなブーンに転機が訪れたのは彼が転校してから半年後の事だった。
学校で行われる体育祭で彼は800m走の選手に選ばれた。
まあ選ばれたと言うよりは、皆が希望の種目を選んでいって最後に残ったのが
800m走という長くも短くもない素人から見て中途半端な種目だったと言うだけの話なのだが。

とにかく、走ることは好きだったブーンはこの種目に選ばれた事を素直に喜んだ。



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