303 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:02:53 ID:pOoCozYQ0
ラウンジ西方面軍基地奇襲作戦より数日前
−神聖VIP王国
VIP王城玉座。そこは煌びやかな装飾が施された大広間。
床は一面真紅の絨毯が敷かれ、壁には値段を付けるのも憚られる文化的価値のある絵画が幾つも飾られてある。
また広間に点在するテーブルの上には豪勢な食事が溢れんばかりに置かれていた。
本来ならば、来賓している客人が歓談と共に酒杯をあげ、スピーチと共に食事を愉しむであろうVIP王・アンプリアメンテ=ちんぽっぽ=ヴィップ12世の誕生祭はしかし、悲鳴と複数の銃声と共に血で彩られるものとなっていた。

(;´・_ゝ・`)「……これは…どういう事でしょうか?オクタリアス選帝侯」
辛うじて平静を保ちつつVIP国の重臣たるデミタスが口を開く。

川 ゚ -゚)「どう…とは。アルリエット候?」

304 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:03:57 ID:pOoCozYQ0
オクタリアス選帝侯と呼ばれた妙齢の美人は本当に分からないと言う仕草で首を傾けつつ足元の死体を転がし、悠々と玉座へと歩いていく。

( #,’3 )「ふざけるなっっ!クール、貴様っ、こんなっ!陛下の御前で……こんなっ」
横合いから一歩歩み出した同じ選帝侯であるバルケンは、怒声を上げるが、混乱しているのか、意味を持たない言葉を発する。

川 ゚ ?゚)「ハーヴァイン選帝侯。貴公が仰りたいのは陛下の誕生祭で、あまつさえ陛下の御前を血で染めたとのはどういう訳だ、と言う事かな?」
ゆっくりと振り返りながらクール・オクタリアスはバルケンへと問いかける。

( #,’3 )「それだけではないわっ!!分かっているのか!き……貴様が殺したのは…同じ選帝侯達だぞ!」
傍らに横たわる5名の選帝侯とその従者の死体を横目にバルケンが声を震わせながら一際大きな声量で言い放つ。

305 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:06:43 ID:pOoCozYQ0
VIP王国7選帝侯。
神聖なるVIP王国の頂点に君臨する王を選挙する特権を持つ7つの侯爵家。
VIP王国は、王都以外の土地の半分以上が彼ら7侯爵により分割されており、実質VIPを動かしてきたのはこの7侯爵家であった。

川 ゚ ?゚)「ああ、そうだな。そして貴公で最後だ」
クールの声と共に横に待機していた騎士の一人が抜剣。
見事な太刀筋でバルケンを両断する。

(;´・_ゝ・`)「……如何なる理由があろうが……分かっておいでか?…これが知れれば、あなたも終わりですぞ」
血糊を払い、鞘に剣を収めるクールの騎士を凝視しつつ、デミタスは何とか声を出す。

当代の侯爵達が殺されたと言う報が知らされれば其々の侯爵家、またその配下の者が黙っていようはずがない。
緘口令をしく事が出来る次元ではないはずだ。
しかしデミタスの考えはクールの次の言葉によってあっさりと粉砕される。

306 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:10:01 ID:pOoCozYQ0
川 ゚ ?゚)「終わり、そうですね。選帝侯が王位を決定すると言うVIPの歴史は今日で終わりでしょう」
川 ゚ -゚)「あぁ、1つ言っておくとグリアモ城、ロッテンハルト城、ヴァンデュ城、ミルドベル城、オーレイク城、ブル城。6侯爵家の居城は陛下の誕生祭が始まる直前に落とさせてもらっていますよ?」
クールが放った言葉は即ち、この場に転がる6つの死体、6選帝侯の居城を征服したという事を意味していた。

(;´・_ゝ・`)「なっ!そんな…」

川 ゚ ?゚)「ふむ、アルリエット候。忘れてもらっては困るが我々オクタリアス家はVIP王国随一の武家だ。現在ラウンジ、シベリアとの国境線、緩衝区における配置兵の半数以上は我がオクタリアス家の騎士達です」

川 ゚ -゚)「分かりますか?VIP王国で、前線で戦い続ける勇敢で技量のある騎士の半数は我が私兵と言う事なのですよ」

307 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:18:15 ID:pOoCozYQ0
そこでクールは玉座に歩み寄るのを再び止め、デミタスに向き直る。
周りにいる数十名の要人、客人は展開に付いていけずにただただ、口を閉じるのみだった。

川 ゚ ?゚)「前大戦を勇敢に戦い抜き、私兵を惜しみなく投入して王国の勝利に貢献したのは我がオクタリアス家です」

川 ゚ -゚)「その勇者達と今現在、前線で力を付けているわが騎士達が、ずっと日和ってきた他の6選帝侯爵家に後れをとる筈など、万が一もないのですよ」
そこでクールは指をぱちりと鳴らし何かを思い出したかのように話し始めた。

川 ゚ ?゚)「そうそう、今の話で思い出した。これまで言う機会が無かったので貴公に聞いてもらいましょう。私の懺悔を。前大戦時の話です。801国のタチ城攻 略戦時、軍部の手配ミスで我が軍への増援並びに食糧、MDの補給物資が届かなくて絶命の危機に晒されました。ええ、あれは厳しかった」
遠くを眺める様な眼差しでクールは吊るされているシャンデリアの1つを見つめる。

クールが発する威圧感か、はたまた傍らに控えている彼女の騎士達の圧力のせいなのか、広間にいる人間は誰一人として声を発せずにいた。

308 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:24:42 ID:pOoCozYQ0
川 ゚ ?゚)「城を落とした所までは良かったのですがね、全く増援が来ず、その報せすら来ない。おかげ様で我らは籠城戦をする羽目になりました。備蓄も無しにね」

川 ゚ -゚)「そして何故か増援が来ない事を知っていた801国の苛烈な包囲攻撃で我が軍は遂に城を放棄、熾烈極める撤退戦をしなければならなかった」

川 ゚ ?゚)「父上は責任を取り殿を務め戦死。我が精鋭も半数以上が壊滅と大打撃を被りました。……あれは本当に酷かった」
クールは顔を俯かせ、手を握り拳を作る。余程後悔があるのか、握り拳は力の入りすぎで震えていた。

川 ゚ ?゚)「あの時、父上の言葉を素直に聞き、もう数日様子を見ていれば増援が来ない事に気付き、やりようがあった。思えば801の撤退もやけに早かった。罠である要素は幾つもあった」

川 ゚ ?゚)「しかし当時の私は『ブラッディ・クール』と言う悪趣味な二つ名がつく位の戦闘狂で、攻める事しか知らず、そして幼かった」

309 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:31:52 ID:pOoCozYQ0
クールは顔を上げ、真っ直ぐデミタスを見つめる。いつの間にか開いていた手からは鮮血が滴り落ちていた。

川 ゚ ?゚)「悔んでいるのですよ、あの時のあの選択を。私の失態で無駄に散ってしまった彼等の英霊にわたしは償わなければならない」

川 ゚ ?゚)「初めにどういう事か、と、お尋ねになりましたね、アルリエット候」

(;´・_ゝ・`)「………」
真っ直ぐ射抜くように見つめられているデミタスは、挟む言葉を思いつけず沈黙を保っていた。

川 ゚ ?゚)「とても単純です。私怨ですよ、4年越しのね。まぁ、タチ城攻略戦、あの作戦が我らオクタリアス家の者をスケープゴートにするものだったと判明したのはほんの半年前ですがね」

(;´・_ゝ・`)「……貴公の気持ちは分かります。実際そのような噂は私も小耳にした事があります。しかし、だからと言ってこの暴虐が許されるはずはない。すぐにでも貴公の暴虐は白日の下に晒される」

310 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:44:57 ID:pOoCozYQ0

川 ゚ ?゚)「暴虐?私の?」
先程と同様にクールは本当に分からないという仕草で首を傾ける。

(#´・_ゝ・`)「これが暴虐で無くして何だと言うのですかっ!」
たまらず、デミタスは声を荒げてクールへと怒声を飛ばした。

川 ゚ ー゚)「ははははははははは」
一拍おきクールは声を上げて笑い始めた。

デミタスの怒声が余程面白かったのか、腹を抱えて笑い転げる。
沈黙の中で響く笑声は酷く不気味であり、広間に居る全ての人々に恐怖を抱かせた。

川 ゚ ?゚)「アルリエット候。貴方は随分と見当違いな事を仰られる。この誕生祭は突如現れた正体不明の襲撃者によるものですよ?」
ぴたりと笑うのをやめたクールはそう言うと腕を掲げる。

その動作に呼応し、クールの騎士の1人が手に持つスイッチを押す。

311 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 17:50:54 ID:pOoCozYQ0
同時に正面大扉より全身を黒ずくめの者達が十数名、マシンガンを抱えつつ広間に乱入。

川 ゚ ?゚)「突如の奇襲により、選帝侯とその従者は果敢に応戦するも戦死。客人も非道なる襲撃者によって全員虐殺されます」
クールが言葉を言い終わるや否や、複数の銃声が広間に響き渡り、遅れて悲鳴が銃声の中を響き渡る。

川 ゚ ?゚)「御前警護に当たっていた我々オクタリアス家は負傷者を出しつつも何とか陛下とアルリエット候を保護する事に成功」
阿鼻叫喚と化す中、クールはゆっくりとデミタスに歩み寄り耳元で喋り続ける。

川 ゚ ?゚)「しかし、襲撃者を捉える事は出来ず、みすみすと逃してしまう。彼らの正体は依然不明」

川 ゚ -゚)「それが今回の陛下の誕生祭襲撃事件のあらましです」

川 ゚ ?゚)「もっとも城外、城内警備はハーヴァイン家の務めでしたからね、失態の責があるとすればハーヴァイン家でしょう」
もっともそのハーヴァイン家も、もうありませんが。とクールは付け足す。

312 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 18:12:07 ID:pOoCozYQ0

川 ゚ ?゚)「どうですか?アルリエット候もこのあらましにお付き合いして頂けませんか?何、貴公はただ縦に首を振るだけでよろしいのですよ」

(;´・_ゝ・`)「…………」
しかし、デミタスは首を縦には振らなかった。

それはこの国を何十年と支えてきた矜持なのか、信念なのかは分からなかったがクールを少し驚かせるものであった。

川 ゚ ?゚)「ほぅ、すぐに首を縦に振らないとは……成程、流石はこの国に尽くし、VIPを何十年と動かしてきたお方だ。生前父上も貴方の事を尊敬しておられた。VIP王国に尽くす、真の聖者であると」

(;´・_ゝ・`)「……」

川 ゚ ?゚)「そうそう、なぜ私がこのような強行的手段に出たかと言うとですね、決定的な証拠を入手したからなのですよ」

((((((;´・_ゝ・`))))))
クールが耳元でそう告げると、デミタスは途端に震え始めた。

313 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 18:13:48 ID:pOoCozYQ0

(´・_ゝ・`)(馬鹿な……そんなはずは………)
不審な挙動を控えようとするデミタスであったが、心とは裏腹に身体は勝手に震え続けていた。

川 ゚ ?゚)「それ程驚かれなくてもよろしくありませんか?流石の私も証拠も無しに事を起こそうとは思いません」
大げさな動作で両手を広げた後にクールはゆるゆると首を左右に振る。

川 ゚ ?゚)「それがこのデータなのですがね、VIPの聖者たる貴公には特別にお見せいたしましょう」
そういうと、クールは懐から電子端末を取り出し、画像を展開させると端末をデミタスに渡す。

受け取った端末に写っていたのは右からオクタリアス家を除く6選帝侯と801国の者、そして左端にデミタスの姿があった。

314 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/12/26(日) 18:16:00 ID:pOoCozYQ0

川 ゚ ?゚)「よくご覧になってください。特に左端です。どうですか?801の間者と繋がる誅敵達が写っているでしょう」
クールは画像を見ずにじっとデミタスを眺める。

先程とは打って変わり、クールは無機質な言葉を連ねる。

川 ゚ ?゚)「実を言うとですね、今回の襲撃事件はもう1つのあらましでもいいかなと思っているのですよ、しかしそちらはもう1人死者が出る」
瞬間、デミタスの背筋に戦慄が奔る。

(;´゜_ゝ゜`)(こ、ころされる)

川 ゚ ∀゚)「アルリエット候はどちらがお好みでしょうか?」
にこやかな笑みと共にクールはデミタスに尋ねる。

がくがくと首を縦に振りつつデミタスは絨毯の上に尻持ちを着いた。

いつの間にか銃声も悲鳴も消え、広間には静謐が漂っていた。
VIP王国が、選帝侯、クール・オクタリアスの手に落ちた瞬間であった。

act-8 砂塵舞う荒野A
323 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:15:01 ID:4faPnXRw0
一切の光源が大地に届かないベルン荒原の山間部。
鬱蒼と生い茂る草木を乱雑に踏み散らしながら、一人の哨戒兵が慌ただしく辺りを見回っていた。

( `ハ´)「こちらポイントC-4、それらしき動きはないッ」
無線に吐き捨てると誰もいない森林に向かい哨戒兵は毒づく。

(;`ハ´)「本隊を襲った敵はまだ見つからないのか……くそっ、ラウンジの蛆どもが……何処に居やがるっ!」
頭部ヘルメットに付いてあるライトを右に左に振りながら、哨戒兵は未だ姿を現さない襲撃者へと一層警戒を強めつつ自らの担当域を往復していた。

324 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:16:10 ID:4faPnXRw0
(((((((((((((( `ハ´)ザッザッザッ
( `ハ´))))))))))))))ザッザッザッ

(((((((((((((‘( `ハ´)ザッザッザッ
       スッ
((((((((((((((‘A( `ハ´)ザッザザッザッザ

( `ハ´)(ん?足音がずれて)
それは聴き間違いかと思える程の僅かな誤差であった。
が、長年戦場に身を置いていた彼はその些細な違和感を振り払わずに、すぐさま後ろに振り向こうとする。

しかしその瞬間、先程まで何の気配もなかった背後から首元に何かが巻きつき…

−トン、プツッ−

一体何が起こったのか分からず、彼が最後に聞いたのは小気味の良い、肉を突き、裂く音だった。

325 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:17:20 ID:4faPnXRw0


崩れ落ちるVIP兵の死体を静かに、そして素早く大地へと横たえるとドクオは刺突型の細いナイフの血糊を払い後ろ腰に直す。

('A`)「行くぞ」
ドクオは後ろを見ずに声を投げかけると何事もなかったかのように再び木々の合間を縫うように走る。

ξ;゚听)ξ「………」
その後を遅れてツンデレが追従するが、その顔は前方を往く無表情なドクオとは違い、当惑の色が前面に出ていた。

ξ;゚听)ξ(な、なんなのよ……一体この人は…)
ドクオの後を懸命に追うツンデレは先程の一幕を思い返す。

326 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:18:55 ID:4faPnXRw0
警戒中の哨戒兵に音もなく忍び寄り、背後から腎臓(恐らく)を刺して首を切り裂く。
一連の手順は驚くほど滑らかであり、息を吐く暇もなかった。

初めはただの腰ぬけだと思っていた。
少しばかりMDが扱えるだけの名ばかりの英雄の一員。
会ってみて更にツンデレのドクオに対する評価は落ちていった。
平均よりやや高めの背ではあるが肉付きは良くなく、所謂ひょろい体型。更には伸び放題の黒髪が顔の上半分を隠しており、どんよりとしたイメージを持ってしまう。
雰囲気に覇気はなく、何処か投げやりな声音。
自分の隊長であるギコとは対照的な、このような人物が戦場神話を創り上げた隊員である事を認める事はツンデレにはどうしても出来なかった。

しかし

ツンデレは振り返る。
音を立てない歩法、狙撃、そしてナイフ捌き。
歩兵での作戦は初であったが、ドクオの技量が並みならぬものである事をツンデレは一瞬にして理解した。
そして驚くことに彼は復隊したばかりなのである。本調子に戻れば一体どれほどのものなのか。

327 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:20:18 ID:4faPnXRw0
だからこそ彼女には腑に落ちない疑問が脳を過る。

ξ゚听)ξ(これ程の力を持って、どうして……なぜ…)
沢山の思いが胸を、沢山の疑問が脳を過る。
一度も後ろを振り返らないその背中に問いかけたい言葉が彼女には沢山あった。

ξ゚听)ξ(でも…)
しかしここはツンデレの自室ではない。
故郷の実家でもなければ基地の会議室でもない。
奔る鼓動が、僅かに乱れる呼吸が、草木を踏みしめる感触が、彼女が戦場にいる事を再認識させる。

ξ゚听)ξ(まずは…切り抜ける!)
様々な考え、思いを一旦脳の隅に置き、ツンデレは思考を切り替える。
いつしか森林を抜け、起伏の多い岩盤地帯へと出ていた。

ξ゚听)ξ「状況は?」

(‘A`)「あぁ、良くないな、合流ポイントへのルートから大分ずれている」
左右に目を奔らせた後、一瞬目を瞑ったドクオはそう呟く。

328 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:21:57 ID:4faPnXRw0
ξ゚听)ξ「では、ルートの修正、または変更」

('A`)「いや、それも難しい。見ろ、通れるルートは限られている。こいつは想像以上だ」
そう言うやドクオは赤外線単眼鏡で岩盤地帯を見渡す。
ツンデレも同様に岩盤地帯を見渡す。

当初の予定では単純に進行ルートをなぞって撤退するつもりだった二人だが、VIPの迅速な対応により哨戒兵が二人の行く手、行く手へと現れ、二人は何度もルートの変更を余儀なくされた。

('A`)「しかし、隙間を作って駆け抜けたはいいがこれとは……」
そこでドクオは言葉をきり、後ろを振り向く。
その先に見えるのは鬱蒼と木々が生い茂る山間。
その方々から光が山林を突き抜け、忙しなく辺りをなぞっている。

そして再び前方を見渡す。
見えるのは地盤が不安定で起伏、凹凸の激しい岩盤地帯。
これまでのように音を殺すのは無理な地形。
更にはドクオの居る位置からほとんどを見渡す事が出来る。

つまり、身を隠せる遮蔽物が極端に少なかった。

('A`)「あぁ、成程…」
330 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:26:58 ID:4faPnXRw0
ξ゚听)ξ「ドクオ?」
溜め息を吐くドクオを不審に思い、ツンデレは言葉少なに問いかける。

('A`)「これ、誘導されたわ」

ξ゚听)ξ「は?」
端的に告げるドクオだったが、余りにも端的である為、ツンデレには何かの冗談のように聞こえた。

('A`)「いや、ちょっと考えればすぐ分かる事だ、うん。向こうの哨戒兵がこの短時間でそう何人も増える訳ないんだ」
ゆるゆると首を左右に振ると、ドクオは一つ溜め息を吐いた。

('A`)「そして俺達も出来る限りの早さで撤退した。これでも足には自信がある。そしてそんな俺に付いてこられるツン。混乱に乗じて哨戒の合間を縫える算段だった。」
ドクオは整理するかのようにこれまでの行動を口にする。

('A`)「だが、ルートは悉く摘まれて、奴らの哨戒範囲も各々が狭い。一人殺してもすぐ見つかる」

('A`)「だから俺達は逸れた」
すっと、持ち上がったドクオの黒曜石を思わせる双眸が暗闇の中、ツンデレへと向けられる。

ξ゚听)ξ「……」
肯定を求められていると思い、ツンデレは静かに顎を引き首を縦に振る。

331 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:30:13 ID:4faPnXRw0
('A`)「すると何だかさっきより幾分も隙だらけ、おまけに哨戒範囲もやや広い奴がいる所を発見。今はまだ余裕があるが、後ろからも迫っている」

('A`)「足跡と辿られるのも時間の問題。狭まる包囲網。まさに時間との勝負。さぁどうする?!」
大仰に腕を拡げ、まるでアクション映画の売り文句のような煽りを口にするドクオ。

('A`)「って感じかな・まんまと乗せられた。これ、こっから降りてみろ、追いつかれたら鼻歌交じりで掃射されるぞ。いや、全然気付かなかったわー。それどこ情報よーって感じ」
一転して声のトーンを落とし頭を掻きながら苦笑しつつ、ツンデレに向けて喋っているのか、はたまた独り言なのか分からない調子でドクオは続ける。

('A`)「それにしても見事だな、思えば不自然だが、それも思えば、だ。相当厄介な指揮官がいる」
顎に手を当てながら他人事のように呟くドクオ。

ξ )ξ「…整理させてください」
先程までドクオが喋るのに任せていたツンデレが言葉を挟む。

('A`)「あぁ、うん」

ξ )ξ「……いえ、整理は出来ているわ。つまり、現状は」

('A`)「あぁ、つまり、ピンチだ。ちょっとした絶体絶命、まさに前門の虎、後門の何とやらってやつだな」
両掌を空へと向けおどけた仕草で肩を竦めるドクオ。

ξ )ξ「……この後は…どうするつもりなの?」

('A`)「そうだな、どうしようか、これ。うーん、どうしよう」
ドクオが普段のようにニヒルな調子で呟いた瞬間

332 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:31:02 ID:4faPnXRw0
ξ#゚听)ξ「呑気に言ってんじゃないわよ!!」

('A`)「おおっ」
顔を上げたツンデレが激昂を宿した眼差しでドクオを刺すように睨む。

ξ#゚听)ξ「何なのよっ、ちょっと見直したかと思ったらこの抜けた感じ!そもそもあんたが有無を言わさずにポイントマンをするからそれに従って来たってのに」

(;'A`)「や、待て、落ち付けツンデレ」

ξ#゚听)ξ「落ち着いてられるかぁー!」
宥めるドクオ、怒髪天を衝く勢いのツンデレ。

ξ#゚゚听゚)ξ「さっきはえっらそうに説教垂れたくせに何よ、格好つけるなら最後まできちんとやりなさいよ、そもそも…」

('A`)「ッ!!」
次の瞬間ドクオは一瞬でツンデレへと密接する。
一方の腕でツンデレの口を塞ぐともう一方の腕をその細い腰に回し、抱き抱えてすぐ傍の岩場へと走り、押し倒すように倒れ込んだ。

333 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:33:26 ID:4faPnXRw0
('A`)「哨戒兵だ」
ツンデレの耳元で喋ると、倒れ込む瞬間腰から頭部へと回していた腕をと口を塞いでいた手をゆっくりと離す。

ξ;゚听)ξ

身体を起こし、押し黙るツンデレから目を離し、ドクオは岩場の端から辺りの様子を伺う。

((((((((((( `ハ´)( `ハ´)( `ハ´)
現れたVIPの哨戒兵3人は岩盤地帯へと灯りを向けると、斜面を隈なく見渡す。
その後、雑に岩場を見て回ると何事かを談笑しながら来た道を戻っていった。

('A`)「ツン、合流予定時間まで後どれ位だ」
暫く経ち、敵の気配が消えるのを待ってドクオはツンに問いかける。

ξ゚听)ξ「予定では後27分」
先ほどの怒りは忽ちに消え、ツンは即座に返す。
それを聞きつつドクオは背嚢から拳大程の機器を二つ取り出た。

('A`)「静かにしていてくれ」
そう言うや、取り出した機器を耳に装着すると目を閉じて押し黙った。

(-A-)

334 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:43:27 ID:4faPnXRw0
一分程であろうか、じっと固まったままだったドクオは目を開くと、鋭い眼差しで虚空を眺め、何事かを思案する。

('A`)「ツン、いいか。ここから俺は単独で動く」

ξ゚听)ξ「は?」
何気ない調子でドクオはツンデレへと語りかける。

('A`)「さっきの奴らは恐らく定時哨戒だ。と、言うことはまだ俺が殺した奴は気付かれていない。慌てた調子も緊迫した雰囲気もなかったからな」
('A`)「だから俺は一度戻る。そんでもって奴らと鬼ごっこでもしようと思う。その間にお前はここを全力で抜けろ」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと待ってよ、どういう事?!」
言わんとしている事を理解したツンデレだが、理解した意味とは裏腹に要領を得ない問いを発する。

('A`)「このままここで二人固まるのは得策じゃない。ここを抜けようとすればどうしても無防備になる。どこも不安定な足場だ、応戦にも無理がある。このままだと定時連絡を返さない事に気付いた奴らはこぞってここに押し寄せる」

('A`)「時間を稼ぐ必要があるんだよ。わかるだろ?」
ドクオは落ち着いた声音で律義に問いに答えた。

ξ;゚听)ξ「そ、それなら、私も」

335 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:45:15 ID:4faPnXRw0
その言葉に対しドクオはただ首を横に振る。そして西北西に顔を向けて続ける。

('A`)「西北西の方からかなりのスピードでこちらに向かってくる音を拾った。音源は1。正確な距離は分からんが100キロメルトより手前だ。恐らくしぃさんだ」

('A`)「降りると同時に無線で呼びかけろ、彼女なら必ず気付いて拾ってくれる」

ξ゚听)ξ「待って、ドクオは……どうするのよ…」

('A`)「一頻り暴れてから包囲網を抜けるさ。恐らくツンよりかは遅れるだろうが、必ず脱出する」

ξ゚听)ξ「何それ?ドクオが囮になって私を逃がすって事?」

('A`)「違う、ツン。いいか、良く聞くんだ」

ξ;゚听)ξ「違わないじゃない、何がどう違うの?」

('A`)「……いいかツン、俺は作戦を提示しているんだ。何も自分が犠牲になってお前を助けようだなんてヒロイズムで言っているんじゃない」

('A`)「適材適所、リスクとリターンを考えれば現状はこれがベストだ。」

ξ ))ξ「私は……足手まとい…なの?」

('A`)「ツン、そうじゃない、そうじゃないんだ。……ちっ、参ったな」
震えるツンデレを眺め、ドクオは頬を掻く。
元来女性の相手が苦手なドクオだったが、ここまでは何とか作戦中、自分の部下であると言い聞かせ、ツンデレと平静にやり取りしてきた。

しかしここにきて不意に女性らしさを覗かせるツンデレに対しドクオは納得してもらえるだけの言葉を持ち合わせていなかった。

336 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:48:36 ID:4faPnXRw0
('A`)「いいか、今はお前の問いに答える暇がない。だから俺の思っていることだけ言うぞ、お前が納得するかは知らん」
そう言葉を置き、ドクオは真摯な声音で言葉を紡ぐ。

('A`)「…仮に足手まといってのが居るとして、そんな奴に俺は単独で行動なんてしてもらおうと思わん。短い間だが共に行動したんだ。お前の事を少しは知る事が出来た。体力、運動神経、観測手としての技量。どれも予想以上だ、申し分のない動きだったさ」

('A`)「俺はお前を仲間として信用したんだ。時間さえ稼げばツンならここを抜ける事が出来ると、そう判断した。その上での提案だ」
そう言うとドクオはツンへと視線を向ける。
褐色の双眸はドクオと同様にこちらを見ていた。

('A`)「出来るな?」

ξ゚听)ξ「……」
ドクオがゆっくりと首を縦に振るとツンもぎこちなく首を縦に振る。


('A`)「いいか、合図を送る、そこから300秒後に行動開始だ」
すぐさまドクオは装備の確認を行い、背嚢から色々と取り出し身体に取り付ける。

ξ--)ξ(落ち着いて。何て事の無い作戦よ。何もドクオは死地に向かおうってわけじゃない、そうよ、悲壮感を持つことはないわ)

ξ--)ξ(こいつは英雄の一人、ドクオ・ロックベルよ。いつも通り、いつものあたし。声をかけるなら……)

337 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/04(月) 21:55:10 ID:4faPnXRw0
ξ゚听)ξ「…あんたが失敗したら台無しになるわね、それだけ自信満々に言うんだから失敗なんて許さないわよ」
ドクオの背中に、無理に平常を装うとしたツンデレは、いつもよりも幾分も攻撃的な皮肉と少しの激励を投げかける。
その言葉にドクオは肩を揺らして笑った。

(  )「……ラインハルト隊ってのはさ、一人一人が何かしらのずば抜けた得意分野を持っているんだ。だからあらゆる状況に対応できた」
準備を終え、各種の点検をしつつ、背を向けたままドクオは唐突にツンに語りかける。

ξ゚听)ξ「?」
不意の言葉に、ツンデレは疑問符を浮かべながら聞き入った。

(  )「ギコは強襲、白兵戦。ブーンは作戦立案と電子戦。ワカッテマスは狙撃。ジョルジュは……まぁいいや、あいつは」
( )「俺は斥候と偵察って事になっているんだ、が」

ξ゚听)ξ「が?」

(  )「本当は……」

ξ゚听)ξ「本当は?」

(  ')「スタッブとサボタージュなんだよ」
そう告げるとドクオは素早く、それでいて音も立てずに来た道へと踵を返す。

ξ゚听)ξ「…スタッブと…サボタージュ…」
ツンデレがドクオの言葉を繰り返した時には、すでにドクオの姿は闇夜に消えていた。
344 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 02:57:21 ID:Z5esyhz.0
ドクオは再び暗闇が支配する山間部へと足を踏み入れる。
足早に、しかし極力音を立てずに、歩を進めながら彼はこの山林部を注意深く観察する。

生い茂る木々は幾重にも重なり合い、星の光が大地へと届く余地を与える事はない。
そしてそれらの木々は吹き抜ける風の煽りを受けて不気味に蠢いている。
養分に富む大地は足を踏み入れる毎にスポンジのように軽く沈み込む。

その何とも言えない感覚がドクオにいつか底なし沼に引き込まれるのではないかと錯覚させる。

('A`)(馬鹿ばかしい)
自分で連想した底なし沼というイメージを胸の中で一笑に付す。

仮に底なし沼があったとして自分が気付かずに足を踏み入れるミスなどするものか。

('A`)(確かにブランクを感じる)
MDの操縦に然り。
射撃然り。
体術、身体操作に然り。

体力に関してはそれ程ブランクは感じないものの、それ以外の戦闘に関わる全ての能力が以前の自分よりも劣っている事を認めない訳にはいかなかった。

345 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 02:59:06 ID:Z5esyhz.0
しかしおよそ3年。
戦場から離れ、農業と林業を営んでいたドクオにとってそれは仕方のない話と言えよう。

('A`)(まぁ今はまだいいが、…早いとこ戻しとかないとな……)
恐らく現在の状況は厳しいものなのだろう。
しかし焦燥や危機感と言ったものが何一つ自分の胸に去来しない。

('A`)(そう、この程度は俺にとっては何でもないはずなんだよ)
装備も充実している。
体力も充分にある。
援軍の到着ももうすぐだ。

('A`)(これである程度取り戻さないとな)
ほんの僅かに心が痛む。
同時にツンデレの今にも泣きそうな顔が浮かび上がったが、即座にそれを払拭する。

単独行動をとるに辺りツンに言えなかった思いが一つあった。
この後もMDでのもう一山場が残っている以上、ツンには余裕のある状態で次の作戦へと継続してもらう必要があった。
だからツンにとって安全策を取る必要があったのは確かだった。
ツンには絶体絶命だとのたまったが、その実、彼の頭には今後のプランが数個浮かび上がっていた。

346 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 03:00:39 ID:Z5esyhz.0
しかし一つを除いてそのどれもが二人の連携を基盤にしたものだった。

ツンが優秀な事は認めない訳にはいかない。
自分が彼女くらいの時に彼女ほど動けていただろうか。

ギコとジョルジュのおんぶにだっこだった事と比較してみれば、答えは考えるまでもない事だった。
最もおんぶにだっこだったのはブーンもだったが。
彼女には精神にブレがあるがそれを差し引いてもツンと自分なら可能なプランはあった。
そしてどう考えてもそちらの方が『二人』で生還率出来る見積もりは高い。

では何故そちらを選ばなかったのか。
('A`)(絶好の機会なんだよ)

先程仕留めた哨戒兵の居場所へと足を進めながら、軽く深呼吸すると耳に装着している指向性集音機を待機から機動形態へを指定範囲を全域へと切り替える。

途端に両耳にあらゆる【音】が吸い込まれる。

傍の木々が揺れる音から100メルト以上先の木々が揺れる音、大地に這う虫達の動く音。
それらは無数に、そして全方向に渡る為、一つ一つを正確把握していれば脳処理が追いつかない。
ドクオは以前のようにそれらの音を意識外へと可能な限り追いやっていく。
その作業を高速でこなしつつ、求める情報を集めていく。

(;'A`)(ちっ、最低でも10人…)
聴覚を尋常ではなく酷使する為に、間断なく脳内に鋭い痛みが奔る。
その痛みを代償に今現在、自身の周囲にいる人間の数、距離を正確に把握していた。

347 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/05(火) 03:01:34 ID:Z5esyhz.0
予定ルートを描きつつ先程殺した哨戒兵へと辿り着く。

辺りを一瞥しつつ、一番拓けている場所にある木へとその死体を背を預けさせる。
死体の無線機からは雑音と共に呼び掛ける声が流れている。

('A`)(どんぴしゃのタイミングだな……こいつはツいてる)
ドクオは素早くミリタリーパンツのサイドポケットからピアノ線と手榴弾を取り出す。
死体の腰部ベルト部分にピアノ線を通し出来る限り分かり辛いように木へと巻き付け一周させて再びベルト部分で、手榴弾をくくりつけた。

作業をしつつ耳に意識を集中させる。
自分の位置を悟られてはいけない今の状況では灯り使う事が出来ず、更には木々が多いこの場所ではろくに遠くを見通す事が出来ない。
今この現状では、視覚よりも集音機を使った限定的だが第二の視覚ともなり得る聴覚の方が余程有用性があった。
そしてその聴覚が今まさにこちらに近付いてくる足音をしっかりと捉えていた。

('A`)(数は2)
ゆらりと極力音を立てずにその場を離れる。

A`)
絶好の機会。
351 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 16:38:00 ID:xPjwpPC20
ロックベル機装伍長へと近付くための。
この単独行動が、自分を取り戻すために必要な事だと半ば以上確信しつつドクオは闇に紛れた。



ドクオがツンデレと離れてから十分程が経とうとしていた。
その間、ツンデレは何度もこの岩盤地帯を渡るルートを吟味していた。

ξ゚听)ξ(一刻でも早くしぃさんと合流しないと)
ツンデレが静かに決意を胸に抱いたその時

爆発音が山間部から鳴り響き、ほぼ同時に紅い光源が木々を染める。

ξ;゚听)ξ「あ、合図ってこれ?」
余りにも想定外の事であった為それが合図かどうか、ツンデレは逡巡する。
しかし、これがVIPのものである可能性は極めて低い。
そもそもVIPの哨戒兵がドクオを見つけたならまずは連絡を取り合うはずだ。
そしてそれは警報と言う形で全員に知らせるのが一番合理的なはずである。

百歩譲っても、交戦に爆発物を使う必要があるだろうか。
消去法を用い、やはりこれがドクオの合図であるだろうと言う結論に達したツンデレは行動を開始する。

352 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 16:41:32 ID:xPjwpPC20



( 1`ハ´)「一体どうなってんだ?!」

(2;`ハ´)「どう考えても敵だろっ、爆薬の取り扱いミスだとでも思うのかよ!」
突如起こった爆発はVIPの哨戒兵達を浮足立たせた。
木々を貪る炎は活き活きと辺り一面を同色に染め上げ、その存在感を否応なく見せつける。

そして突発的に起こったこの状況を冷静対応出来ない兵達が慌ただしく現地へと向かっていく。
その中の一グループに異変が起こった。

( 1;`ハ´)「あがっ」

( 2`ハ´)「どうした?」
二人一組で爆発現場へと向かっていた兵の一人が転がるように突如崩れ落ちた。
瞬時にその異変に気付いたもう1人が傍らへと駆けつけ、状態を調べようとする。
呻く同僚の身体を大雑把に上体から下体へと眼を通していくと、左脹脛に何かが刺さっていた。

( 2`ハ´)「ナイフ……か?」
手に持つ自動小銃を身体の横へと追いやると、男は同僚に刺さる何かを慎重に引き抜いた。
同僚のくぐもった悲鳴が聞こえてくる。
そこに至って男は刺さっていた何かがナイフだという事を理解する。
男がそのナイフから傍に敵が居るという事に気付くより速く、男の首筋へと次なる無音の死神が襲いかかる。

353 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 16:43:37 ID:xPjwpPC20
しかしその一投は微妙に逸れ、男の鼻先を僅かに掠めて大地に突き立った。
一拍遅れ、男は自分が襲われた事に気付き、周囲を見回す。
その過程で倒れ込む同僚の首にナイフが突き立っている事を確認しつつ考えるよりも先に男は立ち上がった。
混乱と驚愕が男の胸を渦巻き、一瞬の逡巡の間を作る。
同時に木々の合間を縫うように音もなく男の数歩手前に何かが着地した。

( 2;`ハ´)「なっ」
無線へと伸びかけていた手は即座に自動小銃を持ち直し、眼の前の何かに照準を合わせようとする。
だがその時には既に男の正面には何もなく、視界の端を僅かに掠め、何かは高速で男の左斜め下方へと移動していた。

動きに照準を合わせようとするが追いつく間もなく肉薄され、男は突き飛ばされると同時に、首に激痛を感じ、次の瞬間には男の意識は消失していた。



354 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 16:46:59 ID:xPjwpPC20
手に持つ湾曲した愛刀の血糊を払い、後ろ腰の鞘に戻しつつドクオは淡々と投擲した投剣を回収する。

('A`)「やれやれ、腕は落ちるもんだ」
大地に突き立つ最後の一本を回収しつつドクオはぼやく。

手にする漆黒の投剣の長さはおよそ200ミリメルト。
フォルムは流線的で無骨さを感じさせない。
また、刀身に近い部分と柄の部分に長細く開いた空洞と、その中途に存在する円系の部品が何処となく機能美を匂わせる。

('A`)「まぁ、おいおい戻るだろう」
強化された聴覚で周囲の敵の位置を確認しつつ、ドクオは背嚢から小型の指向性対人地雷を取り出しその場に設置する。

通常の指向性対人地雷を、よりコンパクトにしたこの小型地雷は小型化の代償として威力、殺傷力は低くなっているが、その分軽量で持ち運びやすくコストも低くなっている。
近くの木々に張ったワイヤーと連動させるとドクオは更に後方に少量のオイルを撒き、火を付け

そしてドクオは再び闇へと姿を晦ます。

ドクオの仕掛けた爆発はすぐに起こり、更なる混乱が山間部一帯を支配する。
その隙を付き、ドクオは銃の類の武器を使わずに一人また一人とVIPの哨戒兵を音もなく仕留めていく。

355 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 16:49:42 ID:xPjwpPC20


ξ;゚听)ξ「しぃさん、まだなんですか?」
インコグニトの搭乗席の中でツンデレはすぐ前にいるしぃへと言葉を投げる。

ドクオの手榴弾の合図から300秒後、迅速に岩盤地帯を渡ったツンデレは無線機の出力を上げてこちらに向かっている予定のしぃと交信を試みた。
交信の途中、更なる爆発音が山間部に響き渡ったり、大音量の警報が山間部に流れたりと、山間部がもはや戦場と化している事に愕然としつつ、ツンデレの反応を捉えたしぃとの合流に成功する。
しかしツンデレに安堵の色はなく、未だ山間部で独り戦うドクオの安否を気遣っていた。

(;゚―゚)「ツンちゃん落ち着いて、この機体は生体センサーに特化したレーダーを積んで来ているの。あなたの事もこれのおかげで気付く事が出来て逸早く回収できたのよ。だから彼が切り抜けて来ればすぐに反応するわ」

‐待つしかないのよ

落ち着いて言葉を吐き出すしぃだったが、コンソールに置かれるその右手が僅かに震えている事にツンデレは気付いた。

一分

二分

恐らくはサーチライトであろう光源が忙しなく動き回り、時折銃撃音が山間部で響き渡る。

五分

銃声が止み、無数のサーチライトが一斉に一つの場所を照らし始め、包囲状に散ったサーチライトの光源が示し合わせたかのように段々と包囲網を狭めていく。

356 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 17:29:30 ID:xPjwpPC20
八分

突如一つの光源が出鱈目に動き始める。
暫くして他の光源も同様にサーチライトを出鱈目に動かし始めた。

九分

元々サーチライトが刺し照らしていた付近で爆発が起こる。
遅れて更に爆発、そして更に爆発。
三段階の爆発がアンルーク山脈の一部を艶やかに紅の焔で染め上げる。

(;゚―゚)「え…なにこれ…」

ξ;゚听)ξ「さぁ……」
轟々と燃え広がる炎を見つめつつ途方に暮れたしぃの呟きが搭乗席内に響く。

十二分

それは突如しぃの眼に映るレーダー表示に反応を示した。

(*゚―゚)「生体反応1。位置は荒原の手前…侵入路と一緒よ。」
一際大きい岩壁に身を隠させていた自機を立ち上げ、しぃは移動を開始する。
荒原の入口である現在の場所は凹凸の酷い荒野でMDのRBを使用する事が出来ない。
RBを使用できない状況に内心で苦々しく舌打ちしながら、ツンデレは眼前のモニタを凝視する。

ξ゚听)ξ「呼びかけは?」

(*゚―゚)「駄目、信号を出しているけどキャッチしてくれないわ」

ξ;゚听)ξ「……」

357 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 17:31:10 ID:xPjwpPC20
恐らく通信機が破損しているのだろう。
あれほど派手に動き回って何事もない方がおかしい。
怪我をしている可能性は高いはずだ。

(*゚―゚)「ツンちゃん、座席下のメディカルパックを用意しといて。もしかしたら……」

ξ゚听)ξ「了解」
しぃもツンデレと同様の結論に至ったのか、硬い声でツンデレに指示を飛ばす。

(*゚―゚)「見えたわ!」

ξ゚听)ξ「拡大を!状態は?!」
凹凸の大地を走破するインコグニトの光学センサーが遂に人影を捉える。
ツンデレの声を聞くまでもなく、優雅な手捌きでしぃは小さく映る人影を拡大させていく。

レーダーに表示される言葉がその人影がドクオであると訴える。
僅かに安堵する心を平常にさせてしぃは人影を拡大させていく。

(*゚―゚)「………」

ξ゚听)ξ「……」
しかし、二人は声をあげなかった。
その表情は、ドクオが見るも無残な状態である事を確認して表情が引き攣り、言葉を失った訳ではなく、ましてや安堵して言葉を失った訳でもなかった。

ドクオの生還を待ち望んでていた二人の顔は何とも言えないとても微妙な表情をしていた。

その間もインコグニトは人影へと急速に接近し、目と鼻の先で停止する。

358 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 17:35:56 ID:xPjwpPC20
(‘A`)「……」

(*゚―゚)「……」

ξ゚听)ξ「……」

(‘A`)「遅くなった」

(*゚―゚)「…あ、はい」

(‘A`)「手にでも乗せてくれるかな?」

(*゚―゚)「…あ、はい」
弾かれた様にしぃはインコグニトを操作し、機体の左掌をドクオに差し向ける。

ξ゚听)ξ「……ドクオ?」
その掌へと器用に移動するドクオにツンは言葉をかける。

(‘A`)「なんだ?」

ξ゚听)ξ「あぁ、やっぱり……………なんで泥だらけなの?」

(‘A`)「こっちに向かう途中で泥沼にはまって転んだ」
そう呟くやドクオはそっぽを向く。
光学センサーに表示されるドクオは頭の先から足の爪先部分まで見事に泥だらけであり、粘着度が高いのか、何度もぬぐった跡があるが顔の泥は依然とれていない状態だった。
背嚢も背負っておらず、手ぶらの状態。
正直なところ、一見して誰なのか全く分からない。

359 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 17:37:12 ID:xPjwpPC20

しかしモニターの表示には[Sergent rockbell]と表示されている。

この人物をドクオと判断するのは積んできた高性能生体センサ搭載型レーダーでなければ難しかったかもしれない。

最悪敵と間違えた可能性も。



しぃは割と本気でそう思った。

ツンデレも割と本気で誰だか判別が出来ていなかった。




−続く

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