266 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:44:09 ID:i645QLo20
Act-7 砂塵舞う荒野@

砂塵が吹き乱れる真夜中の荒野。
無秩序な岩壁で構成された荒地の中を三機のMDが片膝を着いた体勢で待機していた。
一機は華奢な体躯の白銀のMD。
一切の光源が無い真夜中の荒野で、夜空に瞬く星々の明かり受ける銀色のMDは、その装甲を時折妖しく光らせている。
残りの二機はグレーを基調としたカラーリングで白銀のMDに比べるとやや厚みのある体躯であった。

(,,-Д-)「…………」
白銀のMD・ガルフストリーム、通称『人形、ドール』に搭乗するギコは目を閉じ、静かに時を待っていた。

( ^Д^)「はぁ、こういう待機は苦手だわー」
グレーのMD・インコグニトに搭乗するプギャーはオープンになっている回線に向けて溜め息を吐く。

( ><)「ドクオさんの交信から5時間が経過したんです……大丈夫でしょうか…」
もう一機のインコグニトに搭乗するビロードがプギャーの愚痴に呼応するようにポツリと呟いた。

267 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:45:52 ID:i645QLo20
( ^Д^)「大丈夫だろ、まだリミットまで時間ありまくりだぜ?」

( ><)「でも、作戦難度はAじゃないですか、それを二人だ」

( ^Д^)「でもも糞もないっつのwwお前が心配しようがしまいがどうにもならねぇから」

( ^Д^)「んな事より自分の事を心配しやがれ、今日はフォローする余裕はねぇと思うからさ」
ビロードの不安を一笑したプギャーは鋭い声で注意を促す。

( ><)「わ、わかってるんです、今日は、僕は頑張るんですっ」

( ^Д^)「どうだかwwww」

(;><)「ほ、ほんとなんです!」

(*゚―゚)「ギコ!」
突如、後方に待機するしぃから鋭い声が割って入る。
その瞬間言葉を交わしていたプギャーとビロードは口を閉じた。

(,,-Д-)「来たか」

268 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:48:38 ID:i645QLo20
しぃの呼び掛けに静かに応えつつギコはゆっくりと目を開ける。
恐らくドクオはある程度やってから撤退するだろう。あいつはここぞという時は必ず結果を出してきた男だ。
だが、異変は必ず哨戒中の先行部隊に察知される。その中には勿論MD部隊もあるはずだ。
ドクオ達が撤退時にVIPの先行部隊に遭遇すれば、この枯れ果てた大地の養分となってしまうのは必至。

ならば先に奴らを誘き寄せ、叩くと同時にドクオとツンを回収する。

(*゚―゚)「こちらに向かってくる部隊が二つ。二時の方角、約20キロメルト先と十一時の方角約30キロメルト先よ」

(*゚ー゚)「データの改竄と隠蔽は見事だけど、侵入路の跡の消し方が甘いかな」
敵は遥か彼方上空、人工衛星とのデータリンクにクラッキングしているようだ。
位置情報を改竄し続け、位置を隠匿したままこちらに接近し、奇襲を仕掛けるつもりだろう。

269 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:53:58 ID:i645QLo20
それはこちらも同じ。敵の位置情報を入手し、こちらの位置情報を欺く。電子戦での化かし合い。
こちらがただの待機中である事、囮、決して待ち伏せている事に気付かれてはいけない。
ただ、通信しやすい為に複雑な地形の中で、比較的拓けた見晴らしの良い大地にいるだけ。
その為に、無線の出力をぎりぎり気取られる位に強め、察知されないだろう程度に時折ガルフストリームのツインアイで辺りを見回した。そしてその努力は功を奏した。

(,,゚Д゚)「数は?」
情報戦のスペシャリストでもあるしぃのクラッキング能力を活かし、十分と余裕のある状態で敵の位置を特定する事が出来、ギコの心は僅かに踊る。

(*゚―゚)「どちらも熱源は6つよ」
想定の範囲内。
しかし数の不利はどこまでも無慈悲で非常だという事をギコは誰よりも良く知っていた。
自身は問題ないが、プギャーと、特にビロードは恐らくやられてしまう。才能は申し分ないが経験の絶対値が足りない。
だからこその奇襲を誘い、それに合わせて奇襲を仕掛ける。
カウンターカウンターアタック。
奇襲後の乱戦にもっていけばこちらの方に分がある。

270 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:56:51 ID:i645QLo20
(,,゚Д゚)「了解した。しぃはこのまま迂回しつつアンルーク荒原に出来るだけ近付いてくれ」
ドクオとツンの回収をしぃに頼み、ギコは静かに機体の起動設定を変更する。
ギコの操作に呼応したガルフストリームのコックピット内は次第に明るくなっていく。

(*゚―゚)「分かった。このまま予定通りに書き換えるけど、相手のレベルも高いからそんなに持たないと思う」

(*゚ー゚)「それとクラッカーはヴィッパーだと思うわ。流石に位置までは辿らせてもらえなかったけど、何処かにいるはず。気を付けてね」

(,,゚Д゚)「何も問題はない。ドクオとツンを頼む……プギャー、ビロード。始めるぞ!」

( ^Д^)「うーす」

( ><)「はっはいなんですっ」

(,,゚Д゚)「二人は二時の方角を頼む。距離は20、フェイクに気付かれる前に仕掛けろ」

( ^Д^)「了解ー、さっさと片付けて帰還しましょう、自分眠いっすからwww」

(;><)「プギャーさん、真面目にお願いします」
プギャーの軽口にビロードが少々批判めいた言葉を吐く。

( ^Д^)「そう言う事はちゃんと仕事できるようになってから言えよ?童貞坊やww」

(,,゚Д゚)「推測の域を出んが、恐らく何処かにヴィッパーが潜んでいる。しぃもその可能性が高いと言っている」

(,,゚Д゚)「戦闘中かその後か、どちらかのタイミングで必ず仕掛けてくるはずだ。頭に入れておけ」
271 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:58:37 ID:i645QLo20
( ^Д^)「了解っす!敵は叩く、借りは返す。完璧っすねwww」

インコグニトを立ち上がらせつつプギャーは気楽に言ってのける。
配属された時から思っていた事だが、彼の軽口は何処かジョルジュを彷彿とさせる。
ギコは口元を緩めつつ激励を飛ばした。

(,,゚Д゚)「いいか、これ以上遅れをとる事は神が許そうが上が許そうが俺が許さん、教導班の矜持に誓って殲滅しろ」

( ^Д^)「「了解っ」」( ><)

(,,゚Д゚)「いくぞっ!!」
ギコの声を最後に二機と一機に別れた彼らは闇夜の中、風に舞う砂塵をものともせず高速で駆けた。



272 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 22:59:38 ID:i645QLo20

足裏と脚部から展開される車輪を用いた高速移動法・RBを使い、先行する灰色の機械人形、インコグニトは不毛の大地を駆ける。

微小な光源であろうが極力敵に気付かれないようにするために、外部光学センサーであるインコグニト頭部のツインアイは機能の大半を切ってあった。
おかげで視界ほぼ零。
その中を、インコグニトは障害物である岩を器用に避けて走行していた。

( ^Д^)「ほいほいっと」
搭乗者であるプギャーは暗闇に包まれている眼前のモニターには目もくれず、操縦桿右横にあるコンソールを見続ける。
そこに映るのは、彼らが今いる地を真上から捉えた地形データであった。
だが、表示されるデータは立体を線と線で結んだだけのお粗末なものである。

( ^Д^)「ビロード、そろそろっぽいがどうだと思う?」
コンソールを見つめたまま操縦桿とフットペダルを捌きつつ、プギャーはヘッドセットの無線でビロードに呼びかける。

( ><)「既に右横は崖のはずなんです」
プギャーの少し後ろを走るビロードは緊張した声音で言葉を返した。

( ^Д^)「だよなー」
彼の眺めるコンソールには何も映らず、先程と同様のお粗末な地形データが表示されるのみである。
プギャーとビロードは視界ほぼ零の暗闇の中、操縦するインコグニトの走行速度、方向と地形データから現在地を見極める作業を行っていた。

273 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:01:07 ID:i645QLo20
プギャーは操縦桿を捻りインコグニトの右手を横に突き出させながら徐々に右横へと機体を寄せていった。
急激に機体を、存在するであろう崖側へと寄せてしまうと崖と激突して中破してしまう事になる。
プギャーは慎重に、神経を削りながら機体を右に寄せて行く。

−ガガッ−

(;^Д^)「あぶなっ、近っ、ビロード、めちゃくちゃすぐ横だ、気ぃつけろ」
崖とインコグニトの指先が擦れる音がすると同時にプギャーは反射的に操縦桿を捻り、機体の腕を引っ込めさせ、同時に機体のRBを止める。

( ><)「りょ、了解なんです」
遅れてビロードも同様に崖の存在を確認しつつRBを停止させる。

( ^Д^)「うし、じゃあ一気に登るわ。……やられるなよ」

( ><)「ま、任せて下さいなんです……」

( ^Д^)「尻すぼみだなwww今日ばかりは頼りにしてるぜ、ルーキー」
そう言うと同時にビロードのインコグニトは再び暗闇の中を疾駆し、プギャーの乗るインコグニトは脚部をたわめ、その場で跳躍する。
跳躍の到達点が最長に達する一歩手前にインコグニトは両腕を暗闇に突き出し、内蔵されているアンカーを同時に射出させた。

−カツッ−

両腕から伸びるアンカーが岸壁の上側に打ち込まれた事を認識すると、すぐさまインコグニトは両腕に力を込め、機体の姿勢を大地と平行にさせると岸壁に足裏を着かせ、RBを作動させる。
同時に両腕のアンカーを高速で回収、腕内に収容させようとする。
それらの瞬間的な力を利用し、インコグニトは崖を一気に駈け上がった。

274 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:02:16 ID:i645QLo20

( ^Д^)「ちっ、無理くせーか?」
凝視するのはコンソールに映る現在自分がいるであろう地点。
登る崖の高さおよそ34メルト。
プギャーは自分の浅い経験と根拠のない勘を信じながら、勢いよく操縦桿を引き、フットペダルを踏み込む。
自分の感覚が少しでもずれていたら、岸壁との闇夜の逢瀬は一瞬で台無しになる。
そんな凄まじい圧力の中、跳躍とRBでの崖走りでは登りきるのに距離が足りないかもしれないという考えがプギャーの脳裏をふと過った。

( ^Д^)「まぁ、いけるっしょ」
しかし、元来の気楽な思考がその考えを否定し、大胆に操縦桿を倒す。同時に操縦桿横に並ぶ開閉機の1つを素早く切り替える。
即座に反応した機体が接地するアンカーを回収。
一拍置き、機体が浮遊感に包まれた。
プギャーは不安定な姿勢のまま、再びインコグニトの右手からアンカーを射出させる。
崖上の大地に打ち込まれた瞬間に再びアンカーを回収させ、不格好ながら崖上に着地する事に成功させた。
ブーストや姿勢制御のバラスト、緊急回避用のクイックブーストを用いずに暗闇の中、崖を一瞬で駈け上ったプギャーの機装士としての腕前は既に熟練の域に達していた。

( ^Д^)「あぶなー、ビロード、いけるか?」

275 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:03:25 ID:i645QLo20
尻持ちを着いた体勢のインコグニトをすぐさま立ち上がらせつつ、プギャーはビロードに語りかける。
崖下でビロードが陽動となり、崖上からプギャーが奇襲をかける手筈となっているのだが、問題はビロードが接敵後、予定通りに崖側まで後退してこれるのか。
プギャーの不安は只一つ、ビロードの気の小ささだった。M
Dの操縦技術は決して低くはないのだが、いかんせん小心者すぎる。

( ^Д^)「っと、そうだ、広域無線は封鎖されてるんだった……頼むぜ…」
祈るように呟いたプギャーは聴覚センサーの集音機能を最大値まで引き上げた。

( ^Д^)「これでおっぱじまったら分かるだろ」
気楽な面持ちの奥に煮えたぎる闘志隠しつつ、プギャーは静かにその時を待つ。



276 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:04:57 ID:i645QLo20
プギャーの乗るインコグニトが跳躍すると同時にビロードは再び機体のRBを作動させ、こちらに向かっているだろう敵へと向かった。
自分の役目は接敵し、崖側まで撤退する事。
そして可能なら接敵時に敵機を一体でも破壊する事。

( ><)「が…がんばるんです…でも………」
敵機に発見されるだけではいけない。
誘き寄せられている、陽動だと思われてはならない。
その為には偶然の遭遇であると思わせる為に、交戦する必要がある。

しかし、向こうは六体編成であり、ビロードは六体を相手に交戦するなど自殺行為としか思えなった。
ビロードの心は次第に弱っていく。

( ><)「僕は……皆とは違うんです…」
ギコ隊長は自分達のように連携せず、一人で六体を請け負った。
恐らく難なくと撃破し、応援に駆けつけてくるつもりだろう。
それも当然、何といっても彼は前大戦時、ラウンジ公国英雄の一人。
その勢い、味方の士気を上げる存在感、苛烈な攻撃から[爆風]の二つ名を付けられ、国内外で囁かれる程の人物だ。

復隊したドクさんにしても数年ぶりに乗ったMDを軽々と動かし、旧式で敵のエース級と交戦し、生存している。
飄々とした態度でぶつくさと文句を言いながらも、彼も難なくとこなすのだろう。

崖上で待機しているだろうプギャーさんにしてもそうだ。
いつも気楽で、緊張感の欠片もない人だが、しっかりと仕事はこなしている。
知覚される手段を極力使わずに崖を登ると言う高難度な方法でなければ、彼は有無を言わさずに配役を取り替え、自分とは対照的に意気揚々と敵へと向かうはずだ。

ツンさんにしても、勝気な性格で、陽動で後退などせずに六体を相手に平然と撃ち合いそうだ。

277 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:06:31 ID:i645QLo20
( ><)「僕は……皆とは違うんです…」
ビロードの折れそうな心が再び弱音を吐く。
自分は彼らとは違い、普通の人間だ。
入隊時に少し演習と試験の内容が良く、ワカッテマス・オルスターと言う有能な兄がいたと言うだけの、何処にでもいる冴えない人間なのだ。

凡人である自分が突出した才能を持つで彼らと同様に任務をこなす事等出来るわけがない。
撃つのも撃たれるのも堪らなく怖い。
起床して軍服に袖を通すのが毎日憂鬱だ。
MDに搭乗する時等、それが演習であろうが毎回毎回緊張で心臓が張り裂けそうになる。

それでも、腐っても自分はオルスター家の家督を引き継ぐ者。
今は亡き兄が身体を張り、没落した子爵の称号を蘇らせた。
家の復興の為、自分も軍人にならざるを得なかったが、兄が戦死してからは、その重圧が自分一人に重くのしかかっている。

−いっその事このまま逃亡しようか。

精神をすり減らす現状と諸々の精神的重圧に参り、内気なビロードの思考は一層とネガティブになっていった。
その時であった。
インコグニトの正面モニターに淡い光源が複数映る。
その光が敵MDのモノアイのものだと瞬時に気付いたビロードは、先程までの思考を頭から排除しようとする。
しかし、複数の光源が死を連想させ、思考の切り替え妨げていた。
緊張と死の恐怖で、ビロードの手足は震える。

278 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:07:21 ID:i645QLo20

(((;><)))

(;><)「ぷ、プギャーさん!やっぱり無理なんですっ」
泣きたくなるのを堪えつつ、ビロードは無線でプギャーに助けを求める。
しかし、先程より無線が封鎖されており、ビロードの悲痛の叫びは無情にもプギャーには届かない。

( ><)「無線……封鎖されてるんでした…」
絶望感がビロードの身体を支配する中、モニターに映る光源が急激に進路を変え、こちらへと向かってくる。

( ><)「死ぬ………のかな……」
諦念がビロードの脳内に広がる。

−今日ばかりは頼りにしてるぜ、ルーキー
ふと先程のプギャーの言葉が脳裏を過った。

( ><)「そう言えば……プギャーさんが初めて僕を当てにしたなぁ」

−教導班の矜持に誓って殲滅しろ
ギコの激励が脳裏を過る。

( ><)「威勢よく返事しちゃったのに…本当に僕は情けない奴です」

279 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:08:09 ID:i645QLo20









280 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:15:57 ID:i645QLo20
ビロードの暗転した視界が次に写したのは今は懐かしきオルスター家の居間であった。

( <●><●>)「ビロード、あなたもこれで軍人です。いいですか、あなたもいつ死んでもおかしくない人間となりました。」
今は亡き兄、ワカッテマスがいつも通りのポーカーフェイスで自分に語りかける。

( <●><●>)「戦争は無慈悲です。誰にとっても公平で、不公平です。私もいつか死ぬでしょう」

( <●><●>)「きっとあなたも死にます」

( <●><●>)「そしていつか死ぬその瞬間を、あなたは受け入れるでしょうね。あなたはそういう性格です。」

( <●><●>)「……兄として、1つ助言しましょう………諦めずに抗いなさい」

( <●><●>)「臆病なあなたに贈るぴったりの言葉があります」

( <●><●>)「―――――――――」

281 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:24:42 ID:i645QLo20





再び視界が暗転。
ビロードは先程と同じインコグニトの搭乗席に座っていた。
体感時間では優に一分を超えていたはずではあったが、実際は一秒にも満たない一瞬であったようだ。

(;><)「今のは……走馬灯?」
283 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:27:40 ID:i645QLo20
自分の意識が一瞬落ちていたという事実にビロードは驚愕する。
しかし、それ以上に落ちた意識の向こうでの兄の言葉が妙に現実感を伴いつつビロードの脳内をぐるぐると廻っていた。

( ><)「……そうなんです、どうせ駄目なんです。一人でどうにか出来る訳がないんです。僕は普通ですから…」
ビロードは震える手に無理矢理力を入れ、震える足で思い切りコックピットの底を叩いた。

(#><)「どーせ僕なんか死ぬんだ!兄さん!あなたの言うとおりですよ!!諦めました!だから…」

(#><)『駄目で元々』、やってやろうじゃないか!!」
精一杯の怒声で自らを叱咤させつつ、ビロードは外部光学センサ作動させ、操縦桿を勢いよく倒しつつフットペダルを斜めに踏み抜いた。
動作に反応したインコグニトは姿勢を低くさせる同時に、小さく斜め横に移動する。
刹那、先程までビロードが居た地を無数の銃弾が通り抜けた。

(#><)「おおおおおおおおおっ」
力強く光るツインアイで敵を見据えつつ、ビロードは決死の覚悟で六つのモノアイへと向かっていく。


285 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/27(月) 23:28:43 ID:i645QLo20
(,,゚Д゚)「始まったか」
視界の端を映ったマズルフラッシュと遅れて耳に届いた銃撃音を聞き、ギコはガルフストリームの走行速度を上げる。
ガルフストリームは左に大きく迂回しつつ移動する敵へと精確に距離を縮めていた。

(,,゚Д゚)「どこからくる………」
操縦桿右横のコンソールに地形データを表示させると、ギコは何処かにいるだろうヴィッパーの潜伏・出現経路を絞る為、辺り一帯の地形データをなぞる様に見つめる。

(,,゚Д゚)(付近にはいないはずだ……余りにも遮蔽物が少ない。だが先行部隊に情報は送っている……)

(,,゚Д゚)(奴は俺とは真逆だ……正攻法は好まない…となると……)
ギコがそこまで思考すると正面モニタを横切ろうとする六つの光点が映る。
敵はプギャー達の交戦に気付き、行く先を変更している。
その為、大きく左に迂回していたギコは側面から攻撃する絶好の機会を得る事となった。

286 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/28(火) 00:05:12 ID:tfG.ORGE0
(,,゚Д゚)「ふん、まずはさっさと片付けて合流するか」

思考を一時中断させると、ギコはガルフストリームの背部にある大口径MD用ライフルを右手に持たせ、スタンディングポジションまま六つの光点の中央に感覚で狙いを定めるとトリガーを引き絞る。
刹那、辺り一帯に響き渡る銃声が鳴り響く。
同時に光点の1つが消失。
強烈な反動による転倒を卓越した操縦技術で防ぎつつ、素早く薬莢を排出させると即座にトリガーを引いた。

(,,゚Д-)「この照準精度はハインに感謝しなければならんな」
紅い光を上げつつ敵MDが爆発、炎上するのを見ながら、ギコは言葉を洩らす。
残り四体のMDはすぐさま散開しつつ、ガルフストリームへと銃撃を見舞う。

(,,゚Д゚)「制限なしでドールを動かすのは今日が初めてだ。悪いが肩慣らしに付き合ってもらおう」

287 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/28(火) 00:22:50 ID:tfG.ORGE0
易々と銃撃をかわすとガルフストリームはライフルを背負いなおす。
代わりに腰部に装着していた散弾銃を手に持たせ、ギコは右に左に機体を高速で跳躍させつつ、敵機の一体へと肉薄する。
その凄まじい速度と機動にVIPのMDは一機たりともついていく事が出来ない。
彼らが照準を再びガルフストリームに合わせた時には、ガルフストリームはすでにその手に握る散弾銃で一機を蜂の巣にし、撃破していた。

(,,゚Д゚)「肩慣らしと言ったが、俺は様子見や手加減などは一切せん」

(,,゚Д゚)「真っ直ぐ、全力で、立ち塞がる障害は全て排除する」
撃破した敵機が背後で炎上する光を受け、ガルフストリームの銀色の装甲は紅く照り輝いていた。



−続く

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