146 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:00:17.46 ID:OeSQLu8kO
act.6

*『2月15日、昼のニュースです』
('A`)「……」

…………
………
……


( ;ω;)「うっ、ううっ……」

どれほどの時が経ったかは定かではない。
短いようであり、長いようでもある。
ただ一つ言えることは、泣けるものなら泣きたい――ブーンの頭にあるのは、ただそれだけだった。
しかし、ブーンには、ロボットには泣く機能など備わっているはずも無く、行き場のない欝屈がぐるぐると胸の内を回るだけである。

( ;ω;)「僕は、何で生まれてきたんだお……?」

今までなら『流石兄弟のため』と胸を張って言えたが、その片割れが崩れた為、口にすることすら出来ず、ベッドにうずくまるしかできない。

(;'A`)「ブーン!」

騒々しい足音と共に、ドクオがブーンの閉じ籠っていた殻に飛入ってきた。

( ^ω^)「……どうしたお?」

この時ばかりは、泣けないことが喜ばしかった。
148 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:01:10.15 ID:OeSQLu8kO
(;'A`)「いいから早く来い!」
(;^ω^)「おっ!?」

ドクオは無理矢理ブーンの手を携え、一目散にリビングへ駆け降りて行った。

('A`)「こ、これを見てくれ!」
( ^ω^)「……!」

*『繰り返しお送りします。昨日未明、科学者によって組まれた
クーデター対策本部の提唱した『ロボット初期化法案』が今、臨時政府で採択されました』

――無機質な音声――

(;'A`)「今あるロボットは、全部初期化らしい……!」
( ω )「……」

――交錯する憂鬱――

(´<_` )「おーい。帰ったぞ」

――歪み始めた運命――

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

149 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:01:41.61 ID:OeSQLu8kO
弟者はよれたスーツを脱ぎ捨て、部屋着を身に付けてリビングへ向かった。
自分の意図をブーンとドクオに伝えるためである。

(´<_` )「兄者は?」
('A`)「……まだ寝てます」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「……仕方ないな」

この時点で、弟者は二人の異変に気付いた。
しかし、それはごく僅かで、兄者を待ち疲れたのだろうとぐらいにしか思わなかったのだ。
意識の全ては『これから』に向けられ、ドクオに何と言うべきか、ただそれに尽きた。

( ^ω^)「……ねぇ、弟者さん?」
(´<_` )「ん?」
( ^ω^)「油……差してお……」

そんな約束もあったなと弟者はふと思い出したが、目の前の『これから』に精一杯だった。

(´<_` )「済まない、後にしてくれないか?」
( ω )「……!」

150 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:03:44.28 ID:OeSQLu8kO
そして、一つ咳払いして弟者は本題に入ろうとするが――

(´<_` )「実は、二人に話があるんだ」
( ω )「聞きたくないお……」
(´<_`;)「……!」

――拒絶されたのだった。

('A`)「まだ、何も言われてないぞ……」

一見冷静なドクオも、体中がガタガタ震えていた。

(´<_`;)「大事な話なんだ」
( ω )「聞きたくないお!」
(´<_`;)「ど、どうしたんだ……!?」

全くもって状況が飲み込めない弟者。
しかし、ブーンは明らかに憤慨し、弟者を睨みつけていた。

( ω )「僕たちを初期化する気だお!?」
(´<_`;)「ちゃんと話を聞け……」

近からずも遠くないブーンの言葉に、弟者は圧倒されてしまった。

( ω )「言い訳は……聞きたくないお……!」
(´<_`#)「ブーン!」

言ってから、自分が大声を発してしまったことに弟者は気付いた。

151 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:04:17.42 ID:OeSQLu8kO
( ω )「油……差す必要が無いんだお……」
(´<_`;)「えっ?」
( ;ω;)「ブーンを初期化する気だから、油を差す必要が無いんだろお!?」
(´<_`;)「ま、待て!」

ブーンは脱兎のごとくリビングから、流石家から走り去って行った。
悲しかった。悲しくて悲しくて仕方がなかった。
裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた――!
そんな呪いの言葉を胸に秘めながら、ブーンは走りに走った。
見慣れぬ土地、見慣れぬ人間、見慣れぬ建物、全てが憎くなった。
やがて、自分の身さえ、憎くなった。
兄者の言葉がなければ、弟者の怠慢がなければ、ニュースがなければ、ブーンは人間と共に生きることが出来た。
しかし、運命はそれを許さなかった。

しばらくして、ブーンは走るのを止めた。
同時に、『人間との歩み』も永遠に途絶えた。
そしてブーンは眠りにつく。いつ覚めるともしれぬ、深い深い眠りに。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
153 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:04:41.80 ID:OeSQLu8kO
(´<_`;)「ブーン!何処だ!帰ってこい!」

ネオンの光が目に染みた。

(´<_`;)「俺が悪かった!謝るから……!」

ネオンの光がいっとう目に染みた。

(´<_`;)「油、差してやるから!もうあれこれ言わないから!初期化なんて絶対しないから!……何があっても、お前を守るから……!」

沸き上がる言葉は紡ぎきれない程だった。

(´<_`;)「ブーン……ごめんよ……俺が悪かった……」

クーデターの報を聞いても堪えた弟者も、絶望と後悔でその場に崩れ落ちた。
弟者は後悔した。後悔して、後悔して、後悔し尽した。
何故なら、『これから』を意識しすぎた余り、『今』を失ったからに他ならなかったからだ。

(´<_` )「くそぉぉぉ……!誰か俺を殺せっ……!殺してくれぇぇぇぇ!」

そして弟者は嫌悪する。クーデターを、初期化法案を、そしてドクオに対する残酷極まりない行動を。

――叫びは交錯することなく、ただ錯綜するのみだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

154 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:05:11.23 ID:OeSQLu8kO
(;'A`)「ブーン!」

街の人々の視線が体を刺した。

(;'A`)「どこにいるんだ!?」

街の人々の嫌悪な視線が体中を刺した。

(;'A`)「お前は初期化なんてされないんだ!だから帰ってこい!」

全てを知った。ブーンを待ち受けていた『はずだった』運命と――

(;'A`)「俺なんだ!お前じゃないんだ!初期化されるのは俺なんだ!」

自らを待ち受け『ている』運命を――!

('A`)「そう……俺なんだぁぁぁ……!俺なんだぁぁぁ……!」

そしてドクオは呪う。心の何処かで笑っている自分を。
汚らしく画策している、深部で狡猾に笑う自分を。

('A`)「馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉ!」

ドクオは歩むのを止めた。燃料は満タン。整備は良好。
しかし、ドクオは一歩たりとも歩を進めることが出来なかった。
ドクオは疲弊していた。
疲弊していたのは、ロボットから最も遠く離れた、『心』そのものだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

155 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/07(水) 19:06:33.20 ID:OeSQLu8kO
interlude

全てのパーツは揃った。後は起動するだけ。
それで人間は壊れる。

何も力は要らない。ただ、一押しするだけ。それで人間は壊れる。

人間は脆い。人間は下らない。だから人間は壊れる。

簡単に、簡単に、それはそれは簡単に。

ただ一人。生を許される人間は、ただ一人。
それ以外――要らない。

interlude out

――つづく

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