109 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:08:45.01 ID:i+6Rt2O3O
act.5

暁の光が窓から差し込み始めた頃だった。
ブーンとドクオは未だテレビに釘付けになり、絶え間なく伝えられる報道を眺めていた。

( ^ω^)「死傷者名簿に兄者さんの名前はなかったけど、心配だお……」
('A`)「……なぁ、ブーン」
( ^ω^)「おっ?」

ドクオの神妙な面持ちに、ブーンはただならぬものを感じとった。
憂いとも、悲しみとも取れるその眼差しは、ブーンの姿勢を正させる。

('A`)「俺たち、どうなるんだろうな?」
( ^ω^)「……」

即答など無理な話だ。自分たちの行く末は、遥か遠い闇の中で、誰も垣間見ることは出来ないのである。
しかし、ブーンには、ただ一つ、声を大にして言えることがあった。

( ^ω^)「わからないけど、兄者さんと弟者さんを信じるだけだお」

ロボット寿命の短命化が叫ばれる中、自分が10年という途方もない年月を生きることができたのは、他でもない流石兄弟のおかげだった。
家族として、親として、兄弟として自分を育んでくれた感謝は、筆舌に尽し難かったのだ。

110 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:09:15.76 ID:i+6Rt2O3O
('A`)「そうだよなぁ」

ドクオの表情が幾らか和らいだ。
おそらく、同じ考えを持っていたのだろう。

( ^ω^)「そう、信じるだけだお……」

自らの言葉を反芻する――

――それが、覆ることも知らずに――

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

111 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:11:10.24 ID:i+6Rt2O3O
ドサッ――!

(;'A`)「な、何の音だ!」

朝のエネルギー補給をしていた時のことだった。何かが崩れる音がリビングまで届き、ドクオは不穏な空気を察した。

(;^ω^)「玄関だお!」

我先にとブーンがリビングを飛び出していった。
その後ろに、怪訝な顔をしたドクオも続く。
(;^ω^)「……!」
( ´_ゝ`)「……」
(;'A`)「あ、兄者さん!」

そう、玄関に兄者が倒れていたのだ。

(;^ω^)「し、しっかりするお!」
(;'A`)「きゅ、救急車!」

慌てふためく二人。事件に巻き込まれたのか、それとも違う事故なのか、二人の脳裏に様々な創造が錯綜した。

( ^ω^)「んっ、待つお!」

ブーンの制止に、ドクオは電話への足を止めた。

( ´_ゝ`)「ヒック……」
(;^ω^)「酔っぱらってるだけだお……」
('A`)「……よかった」

ほっと胸を撫で下ろす。

112 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:11:52.10 ID:i+6Rt2O3O
( ^ω^)「まったく……。ブーンが部屋まで運ぶから、ドクオは休んでてくれお」
('A`)「悪いな」

ブーンは兄者の泥々になった体を担ぎ上げると、一階の兄者の自室にのそのそと歩み始めた。
それを見届けたドクオは半分気が抜けた状態になり、リビングのソファに深く体を沈めて思索に耽った。

('A`)「やっぱり、ショックだったのかな……」

兄者があれほど泥酔する姿を見るのは始めてだった。
というのも、酒に強くない兄者は、普段滅多にアルコールを口にしない。

('A`)「無理もないか……」

そう結論付け、ドクオは考えるのを止めた。

( ^ω^)「……」
('A`)「おっ、おつかれ」

ひと仕事終えたブーンを労う。
しかし、ブーンは呆れるでもなく、安心した風でもなく、どこか虚ろな雰囲気をかもし出していた。

('A`)「ブーン?」
( ^ω^)「……」

返事はない。

113 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:13:38.43 ID:i+6Rt2O3O
('A`)「ブーン!」
(;^ω^)「おっ?」

ようやくの返事。しかし、心ここに非ずといった感じである。

(;^ω^)「ご、ごめんお。疲れたから、少し寝るお」

ブーンは晴れない表情のまま、二階へとぼとぼと上がっていった。

('A`)「……気疲れかな?」

ロボットに肉体的疲労はない。厳密に言えば、部品等の劣化はあるが、流石一家には無縁の話である。
とすれば、張り詰めた緊張の糸が切れ、思考回路が休憩を欲したのだろうとドクオは納得付けた。

('A`)「さて、俺も一休みするかな」

ソファに身を預けたまま、ドクオは体のスイッチを切った。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

114 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:15:49.99 ID:i+6Rt2O3O
クーデター対策本部は、紛糾の極みにあった。

*「やはりEMPを照射して、ロボットたちの活動を止めよう!」
*「無茶を言うな!街に与えるダメージが大き過ぎる!……やはり軍に任せよう!」
*「ロボットとの白兵戦に、人間が勝てる訳ないだろう!
それとも爆撃でもしろと言うのか!?そっちの方が被害は甚大だ!」

EMP――つまり電磁パルスを照射してクーデターに参加しているロボットを強制停止させる意見と、
全ての電子機器が壊滅するという街のダメージを鑑み、軍に全面委任する意見に二分していたのだ。

/ ,' 3「……では、こうしよう。ロボットにはロボット。
つまりこちらで戦闘用ロボットを開発し、クーデターを鎮圧させるというのはどうか?」

見かねた荒巻の意見に場が騒然とする。

115 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:18:30.06 ID:i+6Rt2O3O
*「しかし、敵の戦力に飲み込まれる恐れが……」
/ ,' 3「わかっておるよ。だから、人間への忠誠心がいっとう高いロボットをベースにしようじゃないか。
そうだな、各々方に心当りのあるロボットの中から一体を吟味してみるのはどうか?
もちろん予防策として、何時でもこちらで初期化できるシステムの搭載が不可欠だが」
*「裏切り云々の問題はそれでいいとしても、生産数の低下は否めないのでは?」
/ ,' 3「確かに。然れども、そのロボットを無双に仕立てれば事足りるはずだ。
クーデターを起こしたロボットは所詮、民間用だ。戦闘用ロボットにとっては物の数ではない」

荒巻の提案は直ぐに通った。比較的良策であり、しかも荒巻が権威ということも手伝っての結果だった。

(´<_` )「(もう駄目だ……。荒巻さんが責任を果たそうとしているのは分かるが……)」

ロボットの軍事転用――初期化に次ぐ犯されざる禁があっさりと破られても、
弟者にこの奔流を止める術はなかった。
いや、誰であっても、抗う術を手にすることはなかっただろう。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

116 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:19:53.53 ID:i+6Rt2O3O
弟者はひたすらに苦悩していた。
というのも、『各々の心当りのあるロボット提供』についてである。
このまま行けば、会議で決まった初期化法案でブーンとドクオが初期化されるのは必至。
ならば、どちらか対策本部に提供をして、生き長らえさせた方がいいのではないか。
――大きな足枷を喰らうことになるが。

(´<_` )「くそっ……!」

帰り道、行き場のなくなった憤りを石ころにぶつけた。
ただでさえ大問題なのに、選択肢という悪魔がより一層問題を解れさせる。

――推すとしたら、ブーンか?ドクオか?――

どちらも忠誠心の点ではうってつけである。
ブーンは言うに及ばず、ドクオもこの一年間、よく頑張っていたと思う。

(´<_` )「どうすればいいんだ……!」

結局、どの道も荊――!運命は弟者の両手にあるのだ――!

117 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:21:52.45 ID:i+6Rt2O3O
(´<_` )「……」

ふと、ブーンが生まれた時の姿が浮かぶ。
歓喜に震えた記憶が鮮明に蘇ったのだ。
ブーンは自分の夢だ。そして今、自分の夢の跡が世の中を苦しめている。
そう思うと、ブーンには責がある気がする。
ブーンは全てのロボットの長男――故に、弟たちの過失を正さねばならないかもしれない。
だが、それは勝手なエゴ――ドクオを見限り、自分の責任をブーンに負わせただけじゃないかと自嘲する。
そういった幾度の思考のループを重ね、弟者が選んだのは――

(´<_` )「……済まん、ドクオ……」

――腹を痛めた息子だった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

118 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火) 23:22:18.61 ID:i+6Rt2O3O
interlude

『お前なんか作らなければよかった』

……どういうことだお?なんでそんなこと言うんだお?
酔ってるからかお?いや、酔ってても、瞳は真面目だったお……。ブーンには分かるお……。

なら本音かお……?

そんなこと言われたら、僕は……

僕は……

どうしたらいいんだお……?


interlude out

――つづく

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