- 85 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
20:58:45.87 ID:i+6Rt2O3O
- act.4
――西暦2X22年2月14日、ある男の手記より引用――
地獄があるとするならば、あれ以上の地獄は存在しないだろう。
街は紅に包まれ、道端には――『ヒトだったもの』がごろごろと転がっていた。
始め、私は天災だと思っていた。事実、私が居たビルは物凄い揺れと共に崩壊していった。
――しかし、私の予測は見事に裏切られた。
怯えきった表情であえぎあえぎ逃げてゆく人波があった。ふと私は、波に逆らって目を遣った。
この時、私はこの騒ぎが人災であることを悟ったのである。
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- 86 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
20:59:36.24 ID:i+6Rt2O3O
- (;´_ゝ`)「クーデターだと!?」
テラワロス社に入った一報は、研究員たちを激震させるに十分だった。
何でもロボットたちが徒党を組み、政府関係機関が集中する地区――通称『ヘキサゴン』を襲撃したらしい。
死傷者も大量に発生し、現場はパニック状態とのことだ。
从'ー'从「テラワロス社のロボットも一部加わっているそうです……」
(´<_`;)「何ということだ……」
言いようのない悲壮感が研究室を支配していた。
――ロボットは人間を傷付けることは出来ない筈である。
そのようにプログラムされているし、生産されてからも、そういった道徳を嫌と言う程叩き込まれる。
しかし、今回、ロボットがプログラムや道徳を超越し得ることが判明したのだ。
それは、ロボットは機械にあって機械に非ずという流石兄弟らの持論が、皮肉的ではあるが、証明された瞬間でもあった。
- 87 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:01:38.85 ID:i+6Rt2O3O
- (#´_ゝ`)「何故だ……!何故だぁぁぁぁ!?」
膝は言うことを聞かず、地面に崩れ落ちることを余儀なくされてしまう。
ロボットへの愛。ロボットへの信頼。ロボットへの夢――それら全てが、音を立てて崩れていったのだ。
そして、絶望の二文字が兄者の真っ平になった脳裏に居座っていた。
(#´_ゝ`)「ロボット工学を志し、20年ッ……!
……全て間違っていたとでも言うのか!?
くそぉぉぉ!!」
从'ー'从「でも、一部のロボットだけが」
(#´_ゝ`)「関係あるか!こんなことが起きたこと自体が問題なんだよ……!」
(´<_` )「まぁ、落ち着け兄者」
(#´_ゝ`)「……なんだと?お前、よくそんな涼しい顔をしていられるな!」
兄者は立ち上がり、弟者の襟に掴みかかった。兄者の目は充血し、歯は怒りでガチガチと鳴っていた。
- 88 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:02:17.35 ID:i+6Rt2O3O
- (´<_` )「……離せよ。わめいても何も変わらんだろう。俺は荒巻博士の所へ行ってみるが、兄者はどうするんだ?」
(#´_ゝ`)「……俺はお前みたいに冷静でいられないんだよ!」
兄者は弟者の態度が気にくわないのか、非難を吐き捨てて、ドアを力一杯閉めて出ていった。
(´<_` )「馬鹿野郎……!俺はお前の弟だぞ……!」
弟者の握り締めた拳からは、血が滴っていた。
弟者とて絶望と憤怒に狂いそうになっていたのだ。
ただ、兄者と一線を画したのは、その感情を抑え込んでいたか、そうでないかの違いだけだった。
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- 90 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:04:17.62 ID:i+6Rt2O3O
- いくつも並べられた椅子には白衣が並び、そして縦横無陣に伸びた机には何枚にも及ぶプリント類がどっさりと置かれていた。
――キタコレ社の会議室には、ロボットが起こしたクーデターの対策本部が据えられていた。
(´<_`#)「今、何と言ったか!?」
緊急に催された会議に飛び入る形で弟者は参加していたが、兄者の姿は無かった。
会議は初っぱなから白熱の様相を呈していた。
/ ,' 3「だから、現在、クーデターに参加していないロボットの初期化が必要だと言っている」
(´<_`#)「それがどういうことか、分からん貴方でもあるまい!?」
/ ,' 3「……無論だ」
初期化とは、ロボットの思考回路を白紙に戻す、謂わばロボットにとって死に等しい行為である。
新たなクーデターを未然に防ぐため、初期化を敢行しようと荒巻は科学者たちに提案し、そして弟者は激昂したのである。
- 91 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:05:01.64 ID:i+6Rt2O3O
- (´<_`#)「貴方は言ってきた筈だ!ロボットとて人間だと、ロボットとて人権があると!」
/ ,' 3「……ああ」
(´<_`#)「だったら、こんな馬鹿げた提案は却下して下さい!」
/ ,' 3「馬鹿げただとっ……!?」
荒巻の表情が一変し、弟者を刺すような視線で貫いた。
/ ,' 3「貴様には分かるまいっ……!ワシがどれ程の思いで初期化を提案したか……!
貴様はいい!ロボットに関わってきたのは、精々20年だろう!
しかし……ワシは人生を賭けた……。
そのワシが初期化を口にしたのだ!それが、どれだけのことか、貴様には分からんだろうよ!?」
(´<_` )「……」
/ ,' 3「臨時政府にその旨を伝える!各々方、よろしいな!?」
もう弟者に反論の余地は残されていなかった。
それに倣うように他の科学者らも初期化に賛同する意を固めたのだった。
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- 92 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:05:26.00 ID:i+6Rt2O3O
- 夜の帳が辺り一面を覆っている。溶け残った雪は、不気味にそこら中で佇んでいた。
( ^ω^)「遅いお……」
既に0時過ぎ――流石兄弟に於いては珍しいことである。
普段は夕飯時きっかりに帰宅しているのだから、異常事態とも言えよう。
(;'A`)「確かに……」
用意した晩餐はネットの下ですっかり冷えてしまった。
――とぅるるるるる――
(;^ω^)「おっ!」
耳をつん裂く電子音――プッシュホンが深夜の静まり返った邸宅に鳴り響いたのだ。
( ^ω^)「もしもし!?」
(´<_` )「ブーンか?連絡遅くなって済まない。
……今日は帰れそうにないんだ。だから先に休んでいてくれ」
心なしか、弟者の声は震えていた気がした。
( ^ω^)「分かったお。兄者さんも一緒だおね?」
ある意味、予定調和な問掛けだったが――
(´<_` )「兄者はここには居ない。……帰ってないのか?」
- 93 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/06(火)
21:06:50.23 ID:i+6Rt2O3O
- ( ^ω^)「……帰ってないお」
(´<_` )「大方、どこかほっつき歩いてるんだろう」
( ^ω^)「まったく、心配かけさせるお……」
(´<_` )「すまんな。一段落ついたら油差してやるから、勘弁してくれ」
そう言って、弟者は受話器を置いた。
('A`)「何だって?」
( ^ω^)「今日は帰れないそうだお。兄者さんはどうか分からないけど……」
('A`)「じゃあ、もう少し待ってようか」
待つ夜は、秋の夜より長い――
二人は暇を潰す為にテレビを着けた。
('A`)「あれっ?何処もニュースだ」
テレビのモニターが色を成すと直ぐに異変に気付く。
深夜バラエティやドラマ類は一切影を潜め、各局の看板キャスターたちがテレビを支配していたのだ。
『番組の予定を変更して、最新情報をお送りしています』
深刻な空気漂うスタジオ。評論家がああでもない、こうでもないと議論を交し続ける。
普段なら視聴率など取れそうもない内容だが――
(;^ω^)(;'A`)「な、なんだってー!」
――この日ばかりは違ったのだ。
――つづく
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