35 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:27:16.89 ID:3Hd7NIpOO
act.3

西暦2X22年――ドクオが流石家に来てから、既に一年が経過しようとしていた。

/ ,' 3「ロボットには三つの原則があります。

第一条.人間を傷付けてはならない
第二条.人間の命令に背いてはならない
第三条.上記を抵触しない状況では、自己を守らなければならない

以上の三つです。
最近、ロボットの普及と共に、第三条をロボットに守らせない人が目に付くようになりました。
個人間の代理戦争に用いったり、ロボットの初期化をちらつかせて理不尽な命令を出したりといった行為です。
……残念ながら、現在、ロボットを守る法律はございません。購入者の良心に任せてしまっていると言っていいでしょう」

36 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:28:12.59 ID:3Hd7NIpOO
/ ,' 3「故に、私は一石を投じたい!ロボットは、機械であって機械に非ずと!
私たちと同様に感情を持ち合わせているのです!
ロボットとて権利がある!私は、ロボット擁護法の早急な成立を願って止みません!」

ホールは歓声に包まれ、聴衆はスタンディングオーベーションで荒巻のスピーチを称えていた。
荒巻が退場しても拍手喝采は鳴り止まず、ホールは地響きのように揺れ続けた。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

37 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:28:40.61 ID:3Hd7NIpOO
伝統漂う料亭の一室。三人の男が酒を酌み交していた。
外は銀色の雪景色で、それぞれが手にした猪口のピッチは、いつものそれより早くなっている。

( ´_ゝ`)「スピーチ、見事でした」
/ ,' 3「……恥ずかしい所を見せてしまったな」
(´<_` )「いえ。胸に訴えるものがありましたよ」

ロボット工学の先駆者同士という間柄から、三人の交流は度々行われていた。
一応、ライバル会社同士という肩書きもある為、あまり突っ込んだ話は出来なかったが、
それでもこれからのロボット工学についての談義は尽きることがなかった。

(´<_` )「……悲しいことです。我々が手塩に掛けたロボットたちが、
私闘に使われたり、酷い待遇に遭ってしまうことがあるんですから……」

廃品回収業者の発表によると、月に10000機ものロボットが見るも無惨な姿でゴミ捨て場に晒されているのだ。
低コスト化が進んだ一方、使い捨てという風潮も生まれ、ロボットの寿命は年々低下していた。
その平均寿命、実に三年。ペットどころの話ではない。

38 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:30:53.59 ID:3Hd7NIpOO
/ ,' 3「犬が死ねば墓を建てるのに、ロボットは壊れたらゴミ箱……。実に痛ましい」
( ´_ゝ`)「その辺りの認識を変えねば、ロボットたちもやりきれないでしょう」
/ ,' 3「ああ、無論だ。だからワシは不馴れなスピーチなどやっておるのだよ」

視線を落としながら、荒巻は猪口をあおった。僅かに顔が熱り始めていた。

/ ,' 3「ところで、ブーン君は元気かね?」
( ´_ゝ`)「そりゃもう」
/ ,' 3「……羨ましいよ」

荒巻は猪口をコトリとテーブルに起き、障子窓から見える積もり積もった雪を遠い目で見つめた。

/ ,' 3「ワシの処女作、つまり世界初のロボットはワシの手元には置けなかった。
企業の金で作ったものだし、研究員の手を借りたから、ワシ一人だけの手で作った訳でもなかったからな」
( ´_ゝ`)「……」

39 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:31:40.41 ID:3Hd7NIpOO
/ ,' 3「ワシのロボットは、直ぐに玩具になった。マスコミの眼差し、民衆の関心、業界の妬み、全て一身に受けたのだ」
(´<_` )「私たちも目を輝かせて毎日の報道を見てましたよ……。あのロボットは今どうなったので?」
/ ,' 3「『死んだ』よ。苦心して創り上げた知能が災いした。人の好奇な目に晒され過ぎて、悩み抜いた末に自らの命を絶った」
(´<_` )「すみません……」
/ ,' 3「気にすることはない。もう随分前の話だ」

それからしばらく沈黙が流れた。科学者はロボットの父であり、母だ。
故に、ロボットが無下にされることは、子を侮辱されるに等しいと、荒巻は暗に語っていたのだ。

40 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:32:11.51 ID:3Hd7NIpOO
( ´_ゝ`)「……本当の意味で、ロボットたちが『生きる』ことが出来たらいいですね……」
/ ,' 3「ああ。その為なら、老体に鞭打つのもいとわんよ。もし、私が志なかばでワシが倒れることがあったら、次は君たちにその責務を託すよ。
君たちが駄目ならその次……。
そうやってロボットたちの権利を叫ぶ者の経譜が途切れることなく綴られることを切に願うよ」

再び沈黙が流れた。流石兄弟は荒巻の言葉を噛み締め、荒巻は流石兄弟の意志を感じとっていたのだ。

/ ,' 3「さて、帰るとするかな。真っ暗な部屋に。科学者とは因果なものよ」
( ´_ゝ`)「あの……」

荒巻が腰を上げた時だった。

( ´_ゝ`)「あのロボットの名前、何ていうんでしたっけ?」
/ ,' 3「ああ、あいつの名前は――」
43 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:33:47.47 ID:3Hd7NIpOO
…………
………
……


『おかしいな、何でこんなに棘があるのだ』
『うるさいわね!』
『よし、お前の名前を決めたぞ!お前の名前は――』


……
………
…………

ふと、荒巻の脳裏に15年程前の記憶が鮮明に蘇った。

/ ,' 3「あいつの名前は『ツン』だ」

それは、儚くも暖かで、そして哀しい記憶だった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

46 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:35:33.30 ID:3Hd7NIpOO
interlude

人間は屑だ。人間はゴミだ。人間は歪だ。人間は低脳だ。人間は下等だ。

――言えば言う程、私は傷ついて行く。
人間の枠組みから離れられないのが宿命。
ああ苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい――!

ソウシテ……ジブンガ……コワレテ……ユクノヲ……ジブンデ……リカイシテシマッタ……。

interlude out

――つづく

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