11 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:07:12.33 ID:3Hd7NIpOO
act.1

流石兄弟のニュースは、爆発的に世界に広まった。
第一に、世界で二例目の快挙であること。第二に、個人でのロボット開発であったことがその要因だった。

从;'ー'从「こ、ここなの!?」

うだるような暑さであった夏が終ろうとしていた時だった。
しかし、まだまだ残暑は厳しい。身に付けた紺の上等なスーツは汗まみれになり、着心地を一層悪くしていた。
ロボット開発を個人でやり遂げたのだから、どこぞの富豪かと想像していた渡辺にとって、古ぼけたコンクリートは想定の範囲外であった。

从'ー'从「こんにちは〜」

ギギギとドアが軋むと、埃っぽい空気が流れ込み、渡辺はひとつ席払いをした。
第一印象は『劣悪な環境』――それに尽きた。

(´<_` )「はいはい。……どちら様で?」

奥の部屋から駆け足でやって来た男は、髭は伸び放題で、身に付けた白衣は皺だらけ。
まるで旧世紀の科学者を体元したかのような出立ちだったのだ。
14 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:08:00.31 ID:3Hd7NIpOO
从;'ー'从「わ、私、先日お電話差し上げました、『テラワロス社』の渡辺と申す者です。貴方が、流石さんでしょうか?」

テラワロス社――電子機器会社の最高峰である『キタコレ社』と肩を並べる企業であり、
理系学生たちの羨望の的であった。

(´<_` )「ああ、弟の方です。……確か、視察でしたね。まぁ、上へ……いや、女性を上げられる状態じゃないな……」

頭を掻き始めた弟者。言葉の端から察するに、散らかりきっているのだろうと渡辺は推測し、そして覚悟を決めた。

从;'ー'从「か、構いません。ぜひ、ロボットを拝見したいですし」
(´<_`;)「……いいですか?想像の三倍は酷いと思って下さい」

どんな伏魔殿が待っているのだろうか。渡辺の覚悟は揺らいだ。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
16 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:08:36.88 ID:3Hd7NIpOO
从'ー'从「うぇぇぇぇ!?」
(´<_`;)「やっぱり」

弟者が申し訳なさそうに溜め息をついた。
研究室と銘打たれた広間には、オイルと脂が混ざったような悪臭が充満していた。
急いで窓を開けようと辺りを見回すと、既に全ての窓が開け放されていて、渡辺を絶望させたのだった。

( ´_ゝ`)「誰?」

作業に没頭していた兄者が振り返った。弟者と瓜二つの男が目の前にいるので、渡辺は意識の混濁を疑った。
しかし、双子という情報を頭の引き出しから取り出して、その疑いを棄却した。
カプセルに目を遣ると、ロボットは微動だにしていなかった。おそらく、電源を切っての作業なのだろう。

(´<_` )「テラワロス社の渡辺さんだ。言ったろ?今度、うちに来るって」
( ´_ゝ`)「ああ、そんなこと言ってたな。で、何だって?」
(´<_` )「話を聞こうとここに通したら、こうなった。……大丈夫ですか?」
从'ー'从「は、はい……」

渡辺は両手を膝に築き、うつ向きながらも何とか返事をした。兄者は話ながらも手を動かし続けていた。

17 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:09:03.20 ID:3Hd7NIpOO
(´<_` )「じゃあ、しばらく休んでいて下さい」

弟者は別室から椅子を運び出し、渡辺を座らせて自らも作業に加わった。

………………
……………
…………
……


从'ー'从「……あの、今は何をされているので?」

ようやく悪臭に慣れ始めた頃、渡辺は作業に興味を持ち始めた。
ここに来た本意を忘れてはいなかった。

(´<_` )「マニュピレーターの調整です。思考回路は完全なのですが、歩行に少し難がありますので」
从;'ー'从「えぇえぇえぇえ!?」
( ´_ゝ`)「さっきから騒がしいなぁ」
从;'ー'从「す、すみません……」

マニュピレーターと思考回路――どちらが困難であるかは明白だった。
つまり、現在、科学者たちが頭を抱えている部分が完璧で、普通は事も無げに行われる部分に詰まっているという、何とも奇妙な状態なのである。

18 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:10:58.15 ID:3Hd7NIpOO
从'ー'从「マニュピレーター技術なんて、もう昇華しきっているのに……」
(´<_` )「恥ずかしい話ですが、良い部品を買う金が無いのです。
キタコレ社の部品も、貴方の会社の部品も高嶺の花ですよ」
( ´_ゝ`)「……じゃあ、せっかくだから、ブーンと会話する?」
从'ー'从「本当ですか!?」

視察員に選ばれたからには、渡辺とて科学者のである。
目を輝かせ、まるで子供のように歓喜し、思わず椅子から立ち上がっていた。
ロボットとの会話――『テラワロス社の中では』経験した者などおらず、未体験ゾーンに立ち入ることに興奮するのも無理はない。

( ´_ゝ`)「ブーン、起きろ」
( ^ω^)「おっ?」
从'ー'从「えぇえぇえぇ!?」

スイッチを入れる動作もなく、ロボットは起き上がった。その事に、渡辺はまたしても驚愕し、腰を抜かしてしまった。

19 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:11:44.53 ID:3Hd7NIpOO
(´<_` )「ロボットとて生きていると、あの荒巻博士と同様に我々は考えています。
ですから、スイッチとかいう無粋な物はありません。
まぁ、強いて言うならば、人間の声がスイッチでしょうか」

弟者の声は全く耳に入らなかった。只々、目前で寝惚けたそぶりをしたロボットに圧倒されていたのだ。
そのロボットはというと、まじまじと見慣れぬ人物を見つめていた。

(;^ω^)「誰だお?」
( ´_ゝ`)「俺の彼女だ」
(;^ω^)「そんな……!こんな若くて綺麗な人が……!何か薬でも盛ったのかお!?」
(#´_ゝ`)「人聞きの悪い」
(´<_` )「はいはい。兄者に生まれてこの方、彼女なんていないから。お客さんだよ」
( ^ω^)「おいすー」
从;'ー'从「お、おはよう」

20 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:13:28.27 ID:3Hd7NIpOO
( ^ω^)「お姉さん、この二人は止めた方がいいお。甲斐性もクソも全くないお。
おまけに解体癖があるお。今だってブーンの足をバラバラに……」
(#´_ゝ`)「廃品回収、いつだったかな?」
(;^ω^)「サーセン」
(´<_` )「さっきの俺の台詞、台無しだな」

三人の掛け合いを呆然としたまま眺めるだけで、渡辺は会話に混ざることが出来なかった。
しかし、ブーンというロボットの完成度と、流石兄弟の技術を嫌という程思い知ったのだった。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

21 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:14:14.77 ID:3Hd7NIpOO
明くる日、流石兄弟たちから受けた衝撃を、渡辺は本社に半興奮状態で報告した。
それまで上層部は流石兄弟たちのニュースに疑念を持っていた。
というのも、テラワロス社は長年ロボットの開発に従事していたが、その成功に到らなかったからだ。
個人の、何処の馬の骨とも知れぬ輩に開発出来る筈がないと考えていたのだ。
しかし、渡辺の報告によってそれが覆ったのである。
しかも、世界初のロボット開発に成功した荒巻博士を擁するライバル会社、キタコレ社に遅れを取る訳にもいかない。
テラワロス社に選択肢は無かった。

(  )「テラワロス社に来て下さい!」
( ´_ゝ`)「へっ?」
(  )「バンス、つまり前金を払ってもいい、いや、払わせてくれと上層部も言っています!」

一週間後、テラワロス社は流石兄弟との交渉に当たっていた。
テラワロス社としては、特許など、権利関係について難航を推測していた――

( ´_ゝ`)「どうするよ?」
(´<_` )「とりあえず条件を聞こうじゃない」
(  )「施設、部品、研究員は自由に使って頂いて結構です!必要ならば、研究費も惜しみません!」
( ´_ゝ`)(´<_` )「うはwwwwwwwおkwwwwwwww」

――しかし、推測は推測に過ぎなかった。
まさに即決だったのだ。

22 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:15:05.95 ID:3Hd7NIpOO
(  )「あの……特許如何のことは……?」
( ´_ゝ`)「テラワロス社にくれてやるよ。しかし、研究には不自由させてくれるなよ。
あと、給料もね」
(  )「あ、ありがとうございます!」

私財を投げ売ってまで研究に従事してきた流石兄弟にとって、研究さえ出来れば金のことなどどうでも良かったのである。
こうして、流石兄弟は企業の支援を得た。そしてこれが、後のロボット工学の大発展の足掛かりとなったのだった。

――つづく

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