4 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:00:42.84 ID:3Hd7NIpOO
Prologue

築20年はするのではないか、という程に古ぼけたコンクリート造りの建物にはクーラー等という文明の利器は存在しない。
せめてもの抵抗にと、窓を開け放しているのに熱は室内に籠りきりで、中にいる人間で汗をかかない者は居なかったのだが――

(;´_ゝ`)「インディケーターは?」
(´<_`;)「オールグリーンだ。いいぞ、兄者」

――室内では状況と駆け離れた単語が交錯し、白い二つの白衣が、滝のような汗を流しながら何かのカプセルを囲っていたのだ。
カプセルの中に入っている『ヒト』のシルエットは、うすらぼんやりとして、詳細は定かではない。

(;´_ゝ`)「よ、よぉし……」

兄者は、固唾を飲み込む音を聞いた。子供の頃から志した夢が叶うか、はたまた潰えるか――。
もし後に人生の岐路について聞かれたら、まず間違いなくこの瞬間を語るだろうと兄者は確信する。

5 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:01:13.99 ID:3Hd7NIpOO
ちらりと弟者を一瞥すると、弟者も緊張感の満ちた表情で行く末を見守っていた。
一つ深呼吸し、震える手でロックを解放していく。
その最中に、自身の半生が走馬灯のごとく頭の中を駆け巡っていった。
ここに到達するまでに全てを捨ててきた。親をも食い潰した。代償と呼べる者はあらかた支払ってきた。

( ´_ゝ`)「南無三!」

もし失敗に終わっても、後悔はしない。後悔しては、最期まで迷惑をかけ続けた両親に会わせる顔がない、と兄者は自らに言い聞かせた。
――汗は、いつの間にやら引いていた。

全てのロックが解放され、排気音が室内を支配した。
カプセルが一通り息を吐ききると、そのバイザーが貝状にゆっくりと開き、中に入っている『ヒト』がはっきりと露になった。

( ´_ゝ`)「聞こえるか?聞こえたら返事して欲しい」

緊張の一瞬――!

( ^ω^)「おっ?」

6 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:02:51.63 ID:3Hd7NIpOO
何も知らぬ者からすれば、何とも気の抜けた返事なのかもしれないが――

( ´_ゝ`)「うおおおおお!俺のことが見えるか!?」
(´<_` )「こここ言葉は話せるか!?」

二人にとっては、まさに神の福音だった。気が付くと、まるで遠足前日の小学生のように狂喜乱舞し、身を乗り出して『ヒト』に問いかけていた。

(;^ω^)「み、見えるし、話せるお。おはようだお」

『ヒト』は困惑しているようだった。目覚めたら汗だくの男二人が鼻息を荒くして自身に詰め寄ってきたのだから、無理はない。

(´<_` )「ちょっと訛りがあるけど、調整すれば問題ないな!」
( ´_ゝ`)「おう!……世界二番目の快挙だ……!天国の母者たちも、きっと喜んでるよな!?」
(´<_` )「もちろんだ!なんたって世界屈指のことだからな!……きっと、泣いて喜んでるさ……!」

7 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:03:25.23 ID:3Hd7NIpOO
そうして、暫く二人して泣き続けていた。
――研究費用が足らず、絶望していた時に何も言わず家屋敷を売り払った父。
食うに困っていた自分たちに、最期まで仕送りを続けた母――
今まで溜め込んでいたものが、一挙に吹き出したのだ。

( ^ω^)「……あの」
( ´_ゝ`)「空気嫁」
(´<_` )「状況把握に難ありっと」
(#^ω^)「ビキビキ」
( ´_ゝ`)「なお、感情表現は良好と付け足してくれ」
(#^ω^)「いちいち観察するなお!」
( ´_ゝ`)「だってこれがお仕事だもん」
( ´_ゝ`)(´<_` )「「ねー?」」

さっきまでの感動のシーンは何処かに消えていた。

(´<_` )「で、何だい?」

弟者が話を本題に戻した。空気読めないのはさておき、物事に興味、関心を持つことはいい傾向である。

( ^ω^)「……僕の名前は?」
( ´_ゝ`)(´<_` )「あっ」
(#^ω^)「考えてなかったおね!?」

8 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:04:06.44 ID:3Hd7NIpOO
顔は紅潮せずとも、はっきりと怒りの色が表れているのが手に取るように分かり、兄者と弟者は動揺した。
要は、名前など考えてなかったのだ。

(´<_`;)「い、いやいや。ちゃんと考えてたさ。なぁ、兄者?言ってやれ」
(;´_ゝ`)「あ、ああ。そうだな……」

落ち着かないまま、足掛かりとなるものを必死で探す兄者。

(;´_ゝ`)「あああ、ええと……」
( ;ω;)「やっぱり、考えてなかったおね!?」

そう、お前の名前は『デラべっぴん』だ!、と兄者が言おうとした時だった。
ぶぅぅぅんと音を立てながら窓を駆ける複葉機が目に入った。このご時世に複葉機を駆るとは、どこかの金持ちの娯楽なのだろう。

(´<_` )「そうだ!」

弟者もその姿をまじまじと見ていた。

(´<_` )「お前の名前は『ブーン』だ!」

9 : ◆WzasUq9C.g :2007/02/05(月) 22:04:37.25 ID:3Hd7NIpOO
( ^ω^)「ブーン?」
(;´_ゝ`)「そそそう。ブーンだ!」

デラべっぴんにしようとしたことは墓まで持って行こう、と兄者は決意した。

この時、西暦2X11年8月。後にロボット工学の第一人者に名を連ねる『権威』としての流石兄弟と、彼等の造り出して行くロボットたちの『プロトタイプ』、ブーンの誕生の瞬間であった。

Prologue end

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