1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:12:13.92 ID:ZNJjs/z/0
( ^ω^)「あんな作品マジつまんねーお、っと」

 日も沈み、窓の外は真っ暗な闇が続く。時刻はさきほど7時を回ったところ。
 もう秋も過ぎ、暦の上では冬に入ってるためか、深々と冷え込んでいる室内では
一人の少年がPCに向かいタイピングをしては数度マウスを操作し、画面を食い入
るように見つめていた。
 ディスプレイに映るのは「( ^ω^)ブーンなようです」というスレッドを表示
している2chブラウザ。
 スレッドでは最近投下されたブーン小説の内容がひどいという話題で盛り上がっ
ていた。

( ^ω^)「フヒヒヒ、これであいつは地に落ちたおwwwwwざまぁwww」

 少年はさらにタイプを続ける。そして特定の作品をひたすら罵倒し、作者を中傷
し、スレを混沌の渦へと巻き込んでいく。
 もはや流れは完全に彼の思うが侭だった。
 しかしそこに一石を投じるものが現れる。



2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:13:05.14 ID:ZNJjs/z/0









「ID:〜〜〜〜、おまえさっきから妬みばっかだな? 空気作者乙」










3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:14:11.64 ID:ZNJjs/z/0
 それを見た瞬間、少年の顔は真っ赤になる。怒りに拳をわなわなと震わせ、目は
殺気に満ちている。

(#^ω^)「誰が空気作者だお! てめー俺の作品読んだことねーのかよ!!」

 コメントと一緒にURLを書き込む。彼が今までに書いた作品がまとめられてい
るまとめサイトのURLだ。そのまとめサイトはそこそこ有名なところで、某スレ
でも時々(いい意味で)話題にあがるようなところだった。
 その書き込みを終えた後、彼はすぐにリロードを繰り返した。

「なにこれ、しらないんだけど?」

「ああ、あんたこの作品の作者だったのかwww」

「昔はよかったけど今は糞だなwwwwwwww」

「そりゃ糞に失礼だろwwww」

「お前も○○の作者も対してかわんねえよ!」

「こいつ\(^o^)/オワタ」

 しかし返ってくるのは相も変らぬ罵倒の言葉のみ。



4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:14:58.00 ID:ZNJjs/z/0
(#^ω^)「ふん、どーせお前らなんか○○にもまとめてもらえない糞以下ども
      だお!」

 少年は一人、スレの住民たちを相手に罵詈雑言を撒き散らし、必死に抵抗して
いたが、いつの間にか「チンカス」の蔑称で呼ばれるようになっていた。

(#゚ω゚)「くっそおおおおおおおおおおお!!」

 彼は怒りのあまりバンバンと机を叩き、机の上のモノを撒き散らして暴れまわ
った。
 しばらく怒りは収まらず、彼の咆哮と暴れまわる雑音は止むことは無かった。


5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:15:52.22 ID:ZNJjs/z/0
 それから彼が現在執筆中の作品の新しい話を書き終えて投下するたびに、某ス
レ民の一部が作品の投下を妨害する荒らし行為を始めるようになった。

「チンカス早く消えろよ」

「お前イラネ」

「どうちたんでちゅかwwwwwwチンカスちゃんwwwwwww」

「m9(^Д^)プギャー!!」

 その行為はだんだんとエスカレートしていき、ついには彼が作品を投下出来な
いほどに荒らされていく。
 これによって今まで彼の作品を読んでいた読者も少しずついなくなっていき、
最後にはスレをたててから数レスで落ちてしまうほどになっていった。

(#^ω^)「くそが! もうやってらんねーお! 逃亡してやるお!」

 こうして彼はブーン系小説を書くことをやめてしまったのだった。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:17:46.48 ID:ZNJjs/z/0
 それ以後の彼はひたすら某スレに入り浸り、他の作品をけなし、有名作者の作品
を荒らし続けた。
 さらにはまとめサイトのまとめが更新されるたびにすぐに作品を読みあげてあら
捜しをする始末。
 彼にとってはそれが日常になり、学校にいる時にでも「あの作品を次はどういう
風にけなしてやろうか」「あいつ最近調子乗っててウザいからつぶすか」等と考え
るようになっていった。

('A`)「なぁ、どうしたんだよ。お前なんか最近イライラしてないか?」

( ^ω^)「別に」

('A`)「ウソつけ。なんかあったんだろ? 聞いてやるから相談してみろよ」

(#^ω^)「別にって言ってんだろお! うるせぇんだお!!」

 こうやってブチキレ、友人や家族などに当り散らすことも増えていった。さらに
そういう自分に対してイライラが募っていき、同じことの繰り返しという悪循環を
続けていく。
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:18:57.41 ID:ZNJjs/z/0
 そんな生活が続いたある日のことだった。
 彼はいつもどおりまとめサイトの更新を読み漁っている時に、ちょうどその日に完
結した作品があるのを見てふと思いついた事があった。

( ^ω^)「もう終わってる作品でもクソみたいなのがあったはずだお。今日はそい
つを叩くことにするおwwwww」

 早速それを実行しようと、まとめサイトの完結した作品のまとめページへと飛ぶ。
 その時に一つの作品に目が留まった。


 「( ^ω^)がもひもひしたようです」


( ^ω^)「うわwwwwつまんなそーなタイトルだおwwwwwwなんだお、もひ
もひってwwwwwww」

 彼は早速その作品のページを開き、じっくりと読み始めた。
 文字の一つ一つの誤字や脱字を探し、展開の荒さを見つけ、とにかくなじりやすい
ところはないかと目を皿のようにして読みふける。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:20:34.74 ID:ZNJjs/z/0
( ^ω^)「マジこれ荒いおwwwwこいつセンスねーおwwwwww」

 しかし彼は読み続けているうちにある違和感を覚えていた。
 彼はこの作品を知っている。

( ^ω^)「まぁ昔読んだことあるのかもしれないお……これ去年の始めの頃の作品
      かお」

 だが、さらに読み進めていくうちに彼は違和感の正体に気がつく。

( ^ω^)「これ……僕が初めて書いたブーン系小説だお……!」



 彼はすぐさま過去ログのページへ飛んだ。

 そこには

 作品の投下を待ちわびていたという言葉。

 作品の内容に一喜一憂している言葉。

 暖かい励ましの言葉だった。




 投下の終わったあとは乙がつき、次回の投下を楽しみにしているという声があった。

 それらを見ているうちに彼はその当時の記憶を思い返し始める。


 ただただ純粋に物語を考えるのが楽しくて。それを読んだ人たちをワクワクさせ、喜
ばせているのがうれしくて。
 本当に、本当に楽しい時間だった。こんな楽しい時間がこの先も続くんだと信じて疑
わなかった。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:22:25.35 ID:ZNJjs/z/0
 しかし現実は違った。
 今の自分は本当にただの糞以下だった。
 大好きだったはずのブーン系小説をバカにし、投下を楽しみにしていたはずの作者をけ
なし、新しい作品を見るのが楽しかったのに、今では煩わしくなっていた。

( ;ω;)「なんて……なんてことだお……僕は、僕は……!」

 目から流れ落ちる涙が止まらなかった。心の奥深くからあふれ出てくるかのようにど
んどんと湧き出し続けた。
 彼は声を上げて泣いた。そしてごめんなさいと謝罪の言葉を繰り返していた。




 大好きなブーン系小説に。


 大好きな作者に。


 大好きな読者に。





 本当にブーン系小説大好きだったあの頃の自分に。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:24:33.82 ID:ZNJjs/z/0
 ( ;ω;)「なんで、なんで僕はこんな風になってしまったんだお……」

 いくら考えても、彼にはわからなかった。
 いつからそうなってしまったのか。
 何が原因だったのか。
 ただ、一つだけ気づいたことがある。

( うω^)「今のままじゃダメだお! こんなのおかしいお!」



 それから彼は心を入れ替えた。もう他の作品をけなしたり荒らしたりはしなくなった。
 そして新しい作品の構想を練り始める。なぜかあの頃の自分のようにどんどんとアイディア
が沸いてきて、彼はそれをひたすら書き綴っていく。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:27:02.92 ID:ZNJjs/z/0
('A`)「な、なぁおい」

( ^ω^)「あ……この間は本当にゴメンお!」

('A`)「え、ああ、おお」

( ^ω^)「自分で自分が嫌になって……でもそれじゃダメだって思ったんだお」

('A`)「そうか……まぁお前がいつものお前に戻ってよかったよ」

( ^ω^)「自分でもそう思うお! あ、そうだ。今ちょっとこういうの書いてるんだけど……」

 彼は今までに迷惑をかけてしまった人たちに謝ってまわった。
 それから作品につまることがあっても投げ出さず、時には誰かの知恵を借りて少しずつ少し
ずつ作品を仕上げていった。
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:29:30.23 ID:ZNJjs/z/0
 そして……。

( ^ω^)「やっと短編書き終わったお! じっくり練ったから結構時間かかったお」

 自室のPCの前、2chブラウザを開き、VIPで新規スレッド書き込みをしようとしている彼
の姿があった。

(;^ω^)「ううー、すっげぇ緊張するお……」

 しかし、せっかくここまで書き上げた作品を放置するのは忍びない。彼は躊躇しながらも
新規にスレッドを立てた。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:32:03.44 ID:ZNJjs/z/0
 そのまま少しずつ、さるさんにひっかからないように間隔をあけてゆっくりと投下してい
く。
 最初の十数レスまでは自分の投下しか書き込みが無かったが、少しずつ支援がつくように
なった。

「支援」

「なかなか面白いな」

「続きwktk」

 そんなちょっとした書き込みが彼に昔と同じ喜びをくれる。
 彼はやる気がグングン沸いてきて、どんどん投下していった。
 ときおり、「つまんねーよクソ」とか「早く終われ」とのレスもついたが、それよりも多
くの支援レスが彼の心を支えていた。
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:35:46.36 ID:ZNJjs/z/0
 その後もペースを守って投下し続け、最後の文を投下し終わる。

( ^ω^)「……終わったお」

 彼の心は充足感に満たされていた。
 そのまま、彼はあとがきを綴り始める。今までのことを思い返しながら。


「乙」

「乙かれー」

「次も期待」

 あの頃のような、優しい書き込みだった。
 それだけで彼はこの短編を書き終えて良かったと思えていた。






29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:38:25.52 ID:ZNJjs/z/0
「ねぇ、前にもなんか書いてたことある?」



( ^ω^)「……」


 予想できていた書き込みだった。

 彼は躊躇なく、自分の素性を書き込んだ。
 たくさんの謝罪の言葉とともに。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:40:32.77 ID:ZNJjs/z/0
 彼の予期していたとおり、スレには某スレ民と思われるバッシングの嵐。

「なんだお前かよ」

「読んで損した」

「チンカスはさっさと氏ねwwwwww」

 そんな書き込みがどんどんと増えていった。
 だがそれだけではなかった。

「面白かったからいいじゃん」

「もう反省してるんだからいいだろ?」

「いつまでもガキみてぇに粘着してんなよ」

「俺は次も楽しみにしてるからな」

 中傷の言葉と同じくらい、彼のことを擁護し応援してくれる読者たちが
いた。
 彼は思った。

 今こうやって僕がここにいることを許してくれている人たちがいる。次
の投下を待ってくれている人たちがいる。
 なら僕はその人たちのために、そして自分のためにこのブーン系小説
を楽しんでいこうと。
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:43:45.17 ID:ZNJjs/z/0
 それからの彼はというとちょくちょく作品を投下し続けていた。
 荒らしが沸くことも何度かあったが、辛抱強く投下を続けているうちに
現れなくなっていった。
 某スレでは時々非難されることもあったが、一時期に比べたらずっとマ
シと言えるレベル。
 とにかく彼は昔のように純粋にブーン系小説を楽しんでいたのだった。



( ^ω^)「よーし、パパ、今日は新作の投下しちゃうぞー!!」






 終わり

 

 

 

 

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/12(月) 16:48:38.71 ID:ZNJjs/z/0
以上です
初スレ立て投下だったんですごく緊張しました

最近色々とアレなんで、こういう風に昔を振り返って
自分を見つめなおす人がいてもいいんじゃないかなぁ
と思って書きました

読んで頂いてどうもありがとうございました

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