73 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:12:34.61 ID:uZKb4BQP0
第四話「生命の危機」


風花の散る穏やかな日だった。
鐘楼からの音が響き、今日も穏やかな一日が始まる。
子供達は外に出て遊び、大人達はせっせと働き。
小さいながらも活気のある街、それがリスボンであった。
人々は自給自足で暮らしているわけではなく、意外と外交も多い。
言うなれば修道院からの聖具を作成依頼されるとか。

リスボンの郊外には川がある。
少し歩いた所にある、イーヴァの山頂から流れ、中流をリスボン、下流はリスボンより先にあるマドリアドまで続く。
その中流域に当たるリスボンだが、この部分だけが聖河と名づけられている。
その昔、トリーシャが体を清めるのに使ったという話だ。
過去の話なので真偽は分からないが、聖河で清められたものだけを教会は使う。
教会の数が増えつつある今、リスボンの仕事は大変だが、街自体はどんどんと豊かになっていくだろう。
今は小さいが、数年後は教会本部(現在は帝都にある)を置くほどになるかもしれない。
もしかすると、帝国に取り込まれてしまうかもしれないが。

さて、そんなリスボンの街で遊ぶ子供を楽しそうに見つめている女性がいた。
金髪の巻き毛が似合うその女性は、大きなリボンをつけていて、青いローブを羽織っていた。
ローブをしているからと言って、教会の人間というわけではない。
一般人の服装としても、最近はローブやら何やらは使われるようになっている。
教会ファッションと呼ばれている格好だ。最近の流行でもある。
だが、彼女は教会ファッションを意識しているわけでもなく、ただローブが好きだから来ているのだ。
74 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:13:53.32 ID:uZKb4BQP0
かといって教会が好きなわけではない。
神という偶像にすがる事を彼女は嫌った。だから、本当はリスボンが教会で発展するのも嫌だった。
そういう事があって、リスボンで聖具を作る道具屋の一人娘である彼女は父からその仕事を受け継ぐのを拒否していた。
適当な者を見つけて継がせれば良いと反抗すると、そいつをお前と結婚させるといわれた。
彼女だって、幸せな人生を送りたい。だから、自分が店を継ぎたくないという理由で適当な男に店を継がせて結婚させられるのは嫌だった。
だから、彼女は四六時中家を空けている。
彼女の時間の大半は子供といる事が多い。彼女は子供が好きなのだ。

そして、今日もそうだった。
遊ぶ子供達を見つめているだけの彼女。
なのに、とても幸せそうであった。
やがて、そんな彼女に男の子が駆け寄る。

「ツンお姉ちゃん」
「なあに、オズ」
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ。僕らだけじゃつまんないよ」

ツンは微笑する。
優しい笑みだった。

「私はいいの。ちょっと今日は体調がよくなくてね。
 でもね、私はオズたちが元気に遊んでいる姿を見るだけで元気になるの」

オズはしかめっ面をしていたが、やがてにっこり笑い、

「分かったよ。じゃあ、僕遊んでくるね」

と言い、また子供達の輪の中に戻って行った。
76 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:15:14.59 ID:uZKb4BQP0
オズは、他の子供達よりもツンと親しかった。
それは、オズがツンが道具屋を受け継がなかった時の為の、道具屋の養子であるからだ。
オズは幼いながらもツンの父親に道具屋の心がけを教わり、日々その仕事を目指していた。
幼い子供を使ってまでこんな事をするのかと気が引けていたツンだが、オズが仕事を楽しそうにしているので、その感情も薄れてきていた。
おそらく、オズは道具屋を継ぐことになるだろう。
そうすれば、ツンはオズと結婚する事になるのは間違いない。
だからツンは複雑な気持ちであった。決して、ツンはオズのことが嫌いなわけではない。
ただ、オズにもツンにも自由に生きるための道があるのだ。
それを勝手な都合で決められるのは、何処かいただけないものがあると。
ツンはそう思っていた。だからと言って、ツンはオズを避けたりはしない。
姉として積極的にオズと親しみ、父親の政略の理不尽さをしっかりと理解してくれる子になって欲しかった。

「はぁ、私ったら最近憂鬱ね」

ツンは一人溜息をつき、空を見上げた。
青い空に浮かぶ白い雲。それと照りつける太陽。
何も変わらない一日。いつもと同じ一日。


それが今日壊されるだなんて、ツンは思ってもいなかった。






77 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:17:15.07 ID:uZKb4BQP0
「やあブーン。君にはこのテキーラをサービスしてやろう」
「僕はお酒は飲まないお。ドクオにでもやれお」
「ドクオは今療養中だろ。それよりもブーンの術が効いた事に僕は驚きだね」

ショボは自分で注いだテキーラを飲みながら言った。

「ま、杖の力だろうけど」
「は。僕の術の威力は日々上がっていくんだお」
「ぶち殺すぞ」


ここはリスボンの近くにある街の診療所だった。
ブーンの快癒でショボの傷は癒えたのだが、山賊三人を相手にしていたドクオの疲労は相当のものであった。
その為、ドクオは療養中。回復を待ってリスボンに向かおうと言う事だった。
が、そこまで治療に時間がかかるわけでもなく、今日の夕方にはリスボンへ出発できる予定だ。
この街からリスボンまでの距離は目と鼻の先。遅くとも、空が暗くなる頃にはリスボンへ到着できるはずだ。

そんな診療所内で、ブーンとショボは雑談しながら暇を潰していた。
本当に小さな町で、特に見るものもない。そんな所だったのだ。
だが、やはりそれだけでは草臥れる。

「暇だお。散歩してくるお」

ブーンが席を立ち上がる。

「あ、そう。まあ僕もちょっと疲れてるからここで寝ていることにするよ」
「勝手にしろお。昼間から酒なんか飲むなお」

ブーンはショボに相槌をうち、診療所の扉を開けて外に出た。


78 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:18:20.06 ID:uZKb4BQP0
「ああ、空気うめー^^」

リスボンはどちらかというと田舎だ。
山々が連なっていて、空気がとても美味しい。
僕の住んでいたあの修道院も田舎の部類には入るのだろうけど、山頂の空気はうまいとはいえない。
だから、僕は将来リスボンで暮らしたいと思ってしまった。
悪くないさ、そんな生活も。でも、僕はミルナ様に引き取ってもらった身。
ミルナ様の夢……僕を一人前の修士にすることを達成するまでは頑張ってみるかなあ。
その為にも、早くリスボンに行かなければ。

僕は伸びをして、リスボンの広場へ向う事にした。
なので、一歩踏み出したその途端。

「おっ」
「きゃっ」

女性とぶつかってしまった。

金の巻き髪が目立つ女性だ。
とても美しい顔立ち、田舎の女性はいいなあ。
クーも美人だけど、こんな子もいるならますますリスボンは悪くないかなぁ。
なんてくだらない事を思いながら、僕は女性に手を差し伸べる。
でも、

「逃げて! 早く!」
「え……?」

79 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:19:49.11 ID:uZKb4BQP0
金髪の女性は、酷く慌てふためいていた。
その慌てぶりは尋常じゃない。この表情は……本気だ。
一体何が………?

「どうしたんですかお、一体。それより大丈夫……」
「いいから逃げて! 早く逃げて! 貴方が死んでしまう!!」
「お、落ち着いて。落ち着いて。こんな時は青い空でも見ましょうお」

女性を落ち着かせるため、声をかける。
何と声をかければいいかわからなかったので、空を見上げてみた。
青い空、見ていると心が落ち着く。

なのに、その時だけ僕は空を見て、恐怖で心臓が破裂しそうになった。

「な………」

空には、生き物がいた。
羽根が生えていて、優雅に飛び回っている。
でも、鳥じゃない。そんなちっぽけなものじゃない。
大きい。それは鳥と比べてだが、僕と同じくらいの背丈がある。
人間が空を飛んでいるのだ……!?

「フフ……リスボンだけではなく、今度はこの街も巻き添えにするのかしら…?」

空を飛ぶ女が喋る。
やはり、その姿は人間。

80 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:20:54.24 ID:uZKb4BQP0
「黙りなさい! 貴方の好きにはさせない!!」

彼女が逃げろといっていたのはこの化け物が原因か……!
ああくそ、僕は能天気な奴だったんだな…。

「貴方は早く逃げて! もう私は逃げない!」

と思うのも束の間。彼女は僕を突き飛ばし、懐から杖を取り出す。
教会では見たことのない宝玉が杖の先端に取り付けられている。
元々、杖とは術力増幅器であるのだ。先端に付けられた宝玉によって力の大きさが変わる。
一級の杖ならばそれに見合う力があるし、五級の杖は増幅器の役割を果たさない程。
ピンキリに効果のあるのが教会の杖だ。だが、彼女のそれは教会のものではない。
杖の先端に付けられた銀の宝玉、僕は見たことがない。

やがて、彼女は印を結ぶ。
体がピリピリする。魔力に僕の体が反応しているのだ。
とても大きい魔力だ。彼女自身のものか、杖のものか。
兎に角、僕の目の前では彼女が作り上げた火炎が数秒のうちに巨大になり、羽根を生やした女へと飛んで行く。
が、女はそれを避け、女の子へ向っている! 女子は術に夢中で気がついていない!

「危ないお!」

咄嗟に女の子の体を跳ね飛ばして攻撃をかわす。
間一髪だった。なのに女の子は、

「危ないから下がっていて! 私が倒す!」

と僕に怒声をあげたのだ。
それには僕もたまらなくなった。

81 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:21:46.47 ID:uZKb4BQP0
「女の子一人で何言ってんだお。今だって僕が押し倒してなきゃ君は死んでいたお。
 何があったか知らんが今は僕を頼れお、僕は修士だお。僕だって術が使えるんだ」
「修士…? 教会の人間? なら尚更頼りたくない! 私は教会なんて大嫌いなのよ!」

「お喋りはいいかしら? 二人とも」

口論の中、翼の女が話しかけてきた。地に足を付けて。
全身を黒い布で覆っているが、フードの部分だけを外している。
ラベンダーと同じような鮮やかな髪が嫌に太陽に反射して眩しい。
一瞬だけ彼女を美しいと思ってしまったが、すぐに前言撤回だ。彼女は恐ろしい。
それも、チンポッポとは比較にならないくらいに……!

「私はエル。そこの彼女…ツンさんを処分しに来たのよ」
「私を処分…!? その為に貴方はリスボンを崩壊させたの!?」
「フフ……違うわ、貴方がいたからリスボンは崩壊したのよ」
「オズは……オズは私の所為で死んだって言うの!? オズだけじゃない、イウァンもエルテも私の所為で!?」
「ええ、そうよ…。貴方がいなければ、リスボンは崩壊しなかった!!」

彼女……ツンががっくりと膝を落とした。
放心している。目がうつろになり、焦点が定まっていない。
精神的なショックを受けているのだろう。一過性のものだとしても、戦闘続行は無理、か。

ならば。

82 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:22:56.12 ID:uZKb4BQP0
「おい、エルとかいったかお! 何があったか知らんが人殺しなんて縁起でもねえお!
 それにリスボン崩壊だとお!? 僕はリスボンに用事があったんだお! オルミア様に殺されるお…!」
「貴方の事情は知った事ではないわ。私と戦う気?」
「その通りだお!」

僕が動いて戦えば、ツンに魔手が伸びるだろう。
なので僕はツンの傍から動かずに印を結ぶ。
修士一級の杖が僕の貧弱な魔力を限界まで強化し、無数の氷の槍を作り出す。

「いいのかしら? 無闇に攻撃すれば、民家を破壊する事になるわ」
「――――――ッ!」

確かにそうだ。
エルの背後には住宅が立ち並んでいる。
僕が今ここで氷の槍を発射したとして、外れた分は民家に直撃するだろう。
先程ツンと戦っているときは、空中にいたからよかった。
だが、今エルは地上にいる。この場合、修士よりも剣士であるドクオの力が必要となる。
なのにドクオは今診療所にいるし……ショボは寝ているし…クソッ!!

「どうするのかしら?」
「こうするお!!」

僕は氷の槍を全てエルに放つ。
エルの胸ではなく、足元を目掛けてだ。
エルは難なくそれを後退して回避するが、その一瞬で僕は十分だ。
氷の槍が全て地面に突き刺さった瞬間、僕はツンを抱えあげて診療所の中に駆け込んだ。
84 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:23:53.94 ID:uZKb4BQP0
中に入ると、椅子の上でショボが間抜けな面をして眠っていた。
僕はショボをそこから引き摺り下ろし、ツンを変わりに寝かせる。
ショボはすぐに目覚めたようで、暫く僕を睨んでいたが、ツンを見て厳しい表情になった。

「何かあったんだな。手短に話せ」
「ドクオは動けるかお?」
「さっき僕が大きい快癒をかけた。多分大丈夫だろう」
「ショボは動けるかお?」
「問題ない」
「外に全身を黒い服で覆った女がいるお。ドクオが来るまで注意をひきつけていて欲しいお。僕はドクオを呼ぶお」
「分かった。そっちの女性は?」
「診療所の人にでも頼むお。早く行ってくれお! どうやら外にいる女、リスボンを崩壊させたらしいお!」

ショボは短くうなずくと、すぐに診療所の外へと駆けて行った。
僕はその後すぐにドクオをたたき起こし、無理やり腕を引っ張って外へ連れ出した。
勿論、ツンはドクオのいたベッドに寝かして。





85 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:25:04.41 ID:uZKb4BQP0
外ではショボとエルが交戦していた。
ショボの術は正確に軌道を変え、エルに当たらない攻撃は全て地面へ落下していく。
もっとも、エルには一つも攻撃は命中していないが。
エルはその全てを回避しているのだ。物凄い動体視力である……。

「ブーン、ドクオ!」

ショボは僕らの姿を見つけると後退して、エルとの間合いを開ける。

「随分な事になってるみたいだな。アイツ、リスボンを崩壊させたって?」
「らしいお。この街も危ないお!」
「だいぶ野次馬が増えてきたみたいだね……これはまずいよ」

ショボの指す先には、戦闘を目撃した人たちがワラワラと集まってきていた。
確かエルは、リスボンにいたツンの友人も殺害したんだっけ…?
だとすれば、確かにこれは非常事態だ。エルは街の人々の安否に関わらず攻撃をするだろう。

「ブーン、君は野次馬を逃がすんだ。僕とドクオはあの女と戦う」
「把握したお」

ブーンが人ごみに向って走っていく。
ドクオはそれを見るとこの街で新調した剣を抜き放ち、エルに刃先を向ける。

「エル、だっけか? リスボンを崩壊させたらしいな?」
「フフ……あんな街、私にかかれば造作もない……」
「マジなのかよ。チンポッポといい、最近わけわかんねえな……」
「チンポッポ……?」

エルが一瞬だけ怪訝そうな顔をする。
が、すぐに元ににやけ面に戻る。先程よりも、口元が引きつっていた。

86 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:26:18.52 ID:uZKb4BQP0
「そう、思い出したわ。あの時の三人組ね」
「え…? 僕らのことを知っている…? そうか、チンポッポを仕向けたのはお前だったのか!」

ショボは杖を持ち直し、火炎の術をエルに向ける。
エルは空中を飛びそれを回避するが、ショボの術による追撃は終わらない。
ショボは一流の修士であるがゆえに、放った後も術を操る事が出来る。
それによるリスクはショボ自信が動けなくなる事だが、放った技で自分を守れるので心配はない。
火炎は速い速度でエルを追い、詰めていく。

「フフ…いい炎ね。貴方も中々腕のある修士なのね。
 でもね、いつまでもこんな子供だましの術には構っていられないのよ」

エルが旋回し、炎を止めようと印を結ぶ。
その瞬間、低い声。

「術だけじゃない」

火炎の陰からドクオが飛び出し、エルの肩にダメージを与える。
エルも油断していた。まさか空中を飛ぶ自分を斬る者がいると思わなかった。
ドクオはショボがエルに注意を向けている間に民家の屋根へと上り、そこから斬り込んだのだ。
エルは動体視力がいい。だが、それは目に見えるものだけに限る。
だからエルは、死角からのドクオの攻撃に注意がまわらなかった。
肩から鮮血を流し、エルは地上へ落下する。

ドクオはそのまま自分も地面へ落下し、着地。
すかさずエルのもとに駆け寄り、喉元に剣を突きつける。
88 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:27:45.21 ID:uZKb4BQP0
「観念しろ」
「嫌よ」

次の瞬間、エルはその場にいない。
ドクオが切り裂いた左の肩の傷をもろともせず、また空中に飛び上がり、印を結ぶ。
だがその術の矛先はドクオやショボに向っているのではない。
何か別の者…………民間人! それに気付いたのは、ショボだった。

「いけない、ドクオ! アイツは街の人を殺す気だ!
 ブーンが退避させているけど、やっぱり一人じゃ限界っぽいね。喧嘩好きなバカがまだ残ってるみたいだ…!」
「クソッ! 間に合わねぇ!!」

ドクオが声を発した瞬間には、エルの放った火炎がもう市民の一人を焼き殺していた。
他の民間人が混乱しないわけがない。街は一瞬静まった後、パニックとなった。
人々は逃げ出そうとし、押し合う。
そして将棋倒しとなり、身動きが出来なくなる。
格好の的だ。エルがこれを見逃すはずがない!


エルの放った巨大な炎が、人の山に向けられる。
ショボがすかさず水の術を懇親の力で噴出すが、それでも炎は止まらない。
一瞬で水は蒸発し、残った炎だけが人ごみに直撃するかと思われた。

89 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:28:46.40 ID:uZKb4BQP0
だが、しなかった。
その炎は、先程よりも強力な水で覆い消されたのだ。

「なんだ、今の術の力…。僕でも消せなかったのに」

動揺するショボの視線の先に移ったのはツンだった。
銀色に輝く宝玉を付けた杖を手に持ち、エルをじっと睨んでいる。

「小癪な……! 私に屈辱を……!」

エルは、今度はツンに向って攻撃を仕掛ける。
エルの背後にいきなり黒雲が現れたかと思うと、一閃の電光がツンへ向った。
だがツンは動じない。それを睨みすえ、呼吸をおいて印を結ぶ。
次の瞬間、ツンの杖の先から地面に向って光が伸びると、街の石床が壁となりツンを護った。
その常識はずれな術力に、ショボは開いた口が塞がらなかった。

「エル! 私は貴方を許さない! オズを……リスボンを返せ!!!!」

間をおかずにツンが雷撃を放つ。
その雷撃は先程のエルのそれとは比較にならない。
黒雲はエルのものよりも二周りは大きい。
そして一瞬黒雲が光ったかと思うと、次にそこにいたのは身を焦がしたエルの姿であった。
翼をぼろぼろにし、どたりと地面に倒れこんだ。

と、思った途端にエルの姿はぼんやりしていった。
最初のうちは輪郭がハッキリしていたが、だんだんと体が透けていく。
そして次に気付いた時、そこにはエルの姿はなかった。
それをみて、初めてエルに逃げられたのだと気付く。

90 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:29:19.11 ID:uZKb4BQP0
「うぅ…」

今度は、ツンが倒れた。

「ツン!」

ブーンがツンに駆け寄り、快癒をかける。
呆然としていたショボンもハッとすると、それに加わる。

一方、ドクオだけは心の中にあるもやがどんどん大きくなっていくのを感じていた。
先程のエルといい、チンポッポといい。
おかしな事が増えている。そういえば、野盗等が頻繁に出没するようになったのも最近のことだ。

「何かが………動いているのか」

ドクオは剣を鞘におさめ、遠くを見て一人悩んだ。


第四話:完
inserted by FC2 system