55 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 17:57:21.26 ID:uZKb4BQP0
第三話「戦乱の世界」


「さぁて………」

一対ニ、というのは一見厳しそうでそうでない時もある。
例えば、テニスのシングルス対ダブルスなんて滅茶苦茶なプレイがあったとして。
ダブルスのほうの二組の息があっていなければ、シングルスのほうが一人で動ける分勝利を掴みやすい。
ただ、逆にその二人のコンビネーションがいい場合は、シングルスのほうが苦戦する。
要するに、少人数での戦闘はどれだけ相手、もしくは仲間を考えて動けるかによるのだ。
そういう歩合で考えると、ドクオは三人の内の一人を先に仕留められたのを幸運に思っていた。

「おら、どうしたぁ!」
「チンポッポ! バインッ!」

ドクオは防戦一方だった。
一人がドクオに限界まで近づいての攻撃。
全体重をその斧に乗せ、ドクオはそれを簡単に受け流すが、そこに一瞬のラグが生じる。
そのラグを利用して、今度はもう一人が死角から素早く一撃。
一流の騎士であるドクオはそれを風の音、感覚だけで防いでいるが、それもまぐれと言った方が良いかもしれない。
このまま続けていれば、確実に力負けしている自分のほうが不利となる。
刀身の先に滑るようにして力を受け流せば腕への疲労は少ないが、それでも衝撃は来る。
実際の所、ドクオの利き腕の腱は限界にまで達していた。
そのせいか、盾を捨て、剣を両手で構えたではないか。
盾で死角攻撃を防いでいたドクオにとっては、危険な賭けである。

56 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 17:58:25.81 ID:uZKb4BQP0
「くそっ……」

ドクオの思惑には、既に結論が出ていた。
先ずは一人を倒し、ショボの回復を待つ。
ショボが回復すれば、自分の腕の疲労を完全に取り除く程の癒しの術がかけられるだろう。
だが、ショボを回復している術者は才能のないブーン。
それにもう一つ最悪なのが、相手もそれを理解していると言う事。
先程から何度もドクオではなくブーンやショボを目掛けて奴らは突進していた。
その度、ドクオが捨て身で防戦する。
このままでは、ドクオも身が持たない。

「おいブーン、てめえ術者ならきちんと術使えよ!」
「あと少し待っとくれ。って、僕が少しなら快癒をかけてやるお」

ブーンの快癒を先程から何回か貰っているが、対して効果はない。
言い換えれば、オナニーした後の一瞬の快感のような気分にしかならない。
特に乳酸が消えるわけでもなし、機敏になるわけでもなし。
そう考えている間にも、山賊はブーンたちを狙う。
早く、一人殺さねば。
58 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 17:59:39.70 ID:uZKb4BQP0
「どうした、守るだけで精一杯か?」

山賊は、自分も疲れたのだろうか、戦斧の石突きを地面に置き、話しかけてきた。
ドクオはこの機をどう使おうか迷っていた。
この隙に生じて一人を確実に仕留めるか、休憩するか。
だがしかし、こういうときは大抵罠があるのだ。
ドクオが動けば、もう一人が確実な確率でそれよりも早く動くだろう。
ドクオもまた剣の体重を地面に置き、話し始めた。

「へっ、うるせーんだよ。二対一とは卑怯だぜ?」
「卑怯もあるか。お前が人の縄張りでレモンジレンジ熱唱してるからだ」
「うるせー………」

ドクオの憮然とした表情を見て笑う山賊。
ドクオは頭にきたのか、犬歯をむき出しにして酷い形相になった。

「殺す………っ!」
「お前に出来るか?」

次の瞬間には、ドクオは動き出していた。
それと同時にして、もう一人の山賊が背後からドクオの方へ斧を向ける。

だが、ドクオはかすかに微笑んだ。
この時を待っていたのだ。
片方が自分の方へ向う時を。
思い返せば、いつも自分は向ってくる側に反応していたのだ。
それをパターンにしていれば、相手もまたそのパターンが繰り返されるだろうと思う。
ドクオは、実は最初からこれを狙っていたのだ。
行動を確定化させることによって、相手へのある意味での奇襲をかける。
そしてその奇襲は、単純な頭の山賊には意図も簡単に通用した。
59 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:02:28.73 ID:uZKb4BQP0
「!!」

ドクオはその斧の刃を剣で受け流すでなく、靴の裏でそれを蹴り飛ばす。
山賊の斧の力とドクオの足の力が反発し、ドクオは力の方向へと勢いを付けて飛んでいく。
それに、もう一人は反応できなかった。
ドクオの寝かせた剣の刃は、確実に山賊の肋骨から入り、内臓を貫通した。
血潮が上がり、男は幾度か痙攣した後に倒れる。
確実に仕留めただろう。
ドクオはもう一人と間合いを置き、剣の血を自分のマントで拭った。

「お前……、インポッポだけでなくペニスッスまで………」
「お前らにはお似合いの死に方だな。さあて、後はお前だけだがどうする?」
「くっ………」

完全な形勢の逆転。
サシの勝負では、どう考えてもドクオの方が勝るだろう。

更に、ブーンの術が終了したのだろう。
ドクオの体に凄まじい快癒の術がかけられる。
ショボが回復したのだ。これで実質に三対一となる。
もはや山賊に勝ち目などないだろう。

「さっきはよくもやってくれたね」

ショボがドクオの一歩前に出る。
60 名前:小豆男◇X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:03:39.40 ID:uZKb4BQP0
「毒、結構効いたよ。でもブーンに治せるくらいなんだからあまり強くはないみたいだね」
「何だお、その言い方」
「ああ、後君が使ったのは修士一級の杖だよ。二級の杖はこの前売ってしまったんだ。術が効いたのは杖のおかげだね」
「は? お前何してんだお? 僕が修士一級の杖貰うお?」
「いいよ別に。僕には自分の杖があるしね」

ショボはそう言うと、懐に手をまさぐって小奇麗な杖を取り出して。
それを山賊に向けた。動けば術を浴びせるぞ、という意だろう。
山賊はそれを見て舌打ちすると、斧を地面に落とした。
降伏、を意味しているのであろうか。

「降伏してもお前の身柄は帝国に突き出す。大人しく罰を受けろよ」

ドクオの勇ましい声に、山賊は堪えきれないようにケタケタと笑った。
いい加減に狂ったのか、と思う僕たちを尻目に、山賊は笑い続ける。

「いつ俺が降伏するって言った? あ? 大山賊チンポッポなめてんじゃねえよ」
「チンポッポ? キモイ名前だお!!」

チンポッポはブーンの罵倒に反応し、

「そうかい。じゃあ、先ずはお前から殺す」

短く言うと、チンポッポが消えた。

61 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:04:20.75 ID:uZKb4BQP0
三人のうち、動揺しなかったものはいない。
次の瞬間にはドクオが動き、ブーンの手前で激しい金属音。
ドクオの剣が受け止めていたのは、チンポッポの腕であった。
普通ではない。黒光りしている。
酷使しすぎた陰部のような黒さ。それも、相当な硬度だ。
ドクオは力を込めてそれを押し返しているが、チンポッポのほうが力が勝っている。
例え受け流したとしても重量のある斧とは違い、自分の体の一部なのだ。
チンポッポはすぐに反応し、体勢を整えてブーンを殺しに行くだろう。

「それは無理な注文だよね」

ショボが黒光りする腕に火炎の呪文を浴びせる。
のだが、その火炎は腕に当たるなり消滅した。
跡形もなく。火の粉まで残さずに。

「なっ……」

ブーンとショボが後退したのを見、ドクオはいったんチンポッポとの間合いを開ける。
幸いな事にチンポッポは追撃せず、そのまま自分も間合いを取った。
ドクオは腕が痺れているのだろう、剣を持つ方の腕がだらりと下がってしまっている。

「へっへ。どうだ、これが俺の力さ。見くびってくれるなよ?」
「お前、何をしたんだ? その黒い腕は何なんだ? 山賊なら斧で戦えよ。腕いてえ」
「ふん。凡人にはわからねえよ。俺の非凡な才能がなせる業さ!」
「何いってんだか」

62 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:05:17.92 ID:uZKb4BQP0
落ち着いて考える。
黒い腕には物理的手段も術的手段も効果はない。
となると、どうするか? そんなことは決まっている。
もう、残された選択肢は一つしかない。

「逃げるお!!」

三人で頷きあい、一斉に来た道を駆け出す。

と、同時に目前に黒い腕が。

「ぬぁ!」

三人は一斉に散開する。
同時にけたたましい轟音がしたかと思うと、既にそこには地面はなく、大きな穴が出来ていた。
その力、一目瞭然。

「仕方ない! 止まれ!」

ドクオの掛け声にブーンとショボンが足を止め、チンポッポに向かい合う。
冷静な判断だ、ここで逃げていても死ぬだけ。
ならば、どうにかして勝つしかない。

「ショボ、サポートしてくれ! ブーンは隠れてろ!」

ショボとドクオがチンポッポに向う。
対してブーンは、適当な岩陰を探すとそこに腰をおろした。
疲れたのだろう。
64 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:05:56.60 ID:uZKb4BQP0

「懲りないな。チンポッポ! バインッバインッ!!」
「ぬぁ!」

チンポッポが腕を地に叩きつける。
と、同時に地面から衝撃波が流れ、ドクオたちの体を麻痺させる。
そして次の瞬間、チンポッポの腕が空を裂き、ドクオに向う。
ドクオはそれを懇親の力で動かした剣により受けるが、それでも剣を弾き飛ばされ力の方向に吹っ飛ぶ。
ドクオは背中から勢いよく壁に叩きつけられたが、すぐさまにショボが快癒をかける。
そして体勢を整えた二人は、またチンポッポと対峙した。

「ナイスコンビネーションだな。だけど、いつまで持つかな」
「お前を倒すまでさ……!」

ショボが陣を組み、目を閉じる。
途端、洞窟の岩床が砕け、そこから勢いよく水があふれ出る。
不純物を含んだ水は勢いよくチンポッポの体に降りかかるが、水撃程度で倒れる彼ではない。

「俺には何も効かないんだよ。こんな水なら尚更な!」

チンポッポが、水を被ったまま突進する。
それを見、ドクオとショボは互いに頷きあい、走り出す!

「ドクオ、行くよ!」
「アイアイサー」

チンポッポに向って突き進んだのはドクオであった。
黒光りする腕はその姿を捉えようとしたが、次の瞬間にはチンポッポの視界からドクオは消えている。

65 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:06:41.60 ID:uZKb4BQP0
そして、鈍い音と共に黒い鮮血が飛び散る。
見れば、ドクオはいつ拾い上げたのか、剣をチンポッポの肩の硬質化している部分とそうでない部分の間に突き刺したのだ。

それを見、ショボが杖で陣を描くと同時にドクオは剣を突き刺したままチンポッポと間をあける。
途端、陣から溢れんばかりの光が放出され、それは次第に電気を帯びたかと思うと、龍となりドクオの剣を目掛けて飛ぶ。
不純水で体を濡らしたチンポッポに、雷撃が金属を通して落ちたのだ。

「ぐあああああああああああああああ!!!」

絶叫と異臭。
チンポッポの黒光りする腕はそれを通さなかったが、その他の部位が電撃によって焦げたのだ。
きな臭さは次第に辺りを包み、体から薄い煙を噴出させているチンポッポは地面に倒れこんだ。
神経を焦がされたのだろう、四肢を必死に動かそうとしているがそれが叶わない様子であった。
次第にチンポッポはもがくのを止め、おとなしくなる。

「さあて、チンポッポさん。観念したまえよ」

ドクオがチンポッポに言い放つ。
チンポッポは少し上を見上げ、ドクオの目を見つめると何故か不適に笑った。
ドクオはそれが気に入らなかったのか、剣をチンポッポの額に突きつけてもう一度言った。

「観念しろ、お前の身は帝国に引き渡す」
「ククク………俺がこの程度で終わるとでも…?」

チンポッポが今度は大声で笑う。
虚勢を張り上げているのではない、チンポッポの外傷がどんどんと塞がれていく。
いや、違う。黒い腕が他の部位にまで侵食しているのだ。
チンポッポの全身が見るうちに黒に染まり、やがて頭部を残したチンポッポの体は全て漆黒となった。
洞窟と溶け込むような黒。そしてそれは、先程の腕と同じような怪力、硬度を意味していた。
68 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:08:04.10 ID:uZKb4BQP0
「……冗談だろ」

ドクオもショボも目を丸くしていた。
論理的に説明できない謎の男の体。動揺しないわけがない。


だから、二人ともチンポッポの次の攻撃に反応できなかった。


「あぶないお!!」

ブーンの声虚しく、ドクオとショボは復活したチンポッポの腕によって吹き飛ばされる。
力の方向に吹っ飛んだ二人はそのまま勢いよく壁に叩きつけられる。同時に、洞窟を揺らすほどの轟音。
砂煙が舞い、それが消えた頃に現れたのは四肢を痙攣させて動かないドクオとショボの姿であった。
先程の戦いの疲労から考えて、重症なのは明白。もしかすると、死んでいるかもしれない。
いや、それよりも最悪な状況なのは、残ったのがブーン一人ということだ。
落ちこぼれ術師が、一流の術士と一流の剣士で叶わなかった相手に勝つ? 不可能だ。

「チンポッポ! バインッバイン!!」
「あ………あ……」

向うチンポッポに、ブーンは反応できただろう。
だのに、ブーンは腰が抜けて動けなかった。チンポッポの腕は確実にブーンを捕らえるだろう。
そうなればブーンは死ぬ。それは任務の失敗であり……いや、それ以前に死ぬなんて……。
ブーンの中をさまざまな感情が渦巻く。一瞬の事が、永遠に感じられる。

だが、チンポッポは止まらない。
魔手は、ブーンの首元へ伸び…。
70 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:09:22.21 ID:uZKb4BQP0
その瞬間、何かが終わった。


何かが…? ブーンではなく、チンポッポの命が、だ。


「ぐぎあああぁあぁぁぁあああ!!!」
「な、な!?」

チンポッポは、ブーンの喉元を引きちぎろうと姿勢のまま静止していた。
いや、静止しているのではない。させられているのだ、何かに。
チンポッポ自身は必死になって手足を動かそうとしている。
なのに、何かがそれを許さない。何かが、チンポッポの動きを封じているのだ。
チンポッポが動こうとするたび、チンポッポは呻く。恐らく、体を動かそうとすると痛みがはしるのだろう。
次第にチンポッポが悶絶しだしたかと思うと、体中の黒が頭部までを侵食した。
チンポッポの体が全て黒になったかと思ったその瞬間、チンポッポはこの世のものとは思えない絶叫をした。

そして次の瞬間、チンポッポの体が粉々に砕け散った。
臓物や血潮は飛び散らない。黒い塊だけが粉々になり、四散した。

「一体何が………?」

突然の事に驚くブーン。
死への恐怖から開放され、どっと体を脂汗が流れる。
息が荒くなり苦しいが、ドクオとショボを助ける事が先決だ。
ブーンは呼吸を落ち着け、二人に快癒の術をかけはじめた。




71 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:10:37.89 ID:uZKb4BQP0
「失敗、か」

ブーンには届かない声が遠くでした。
物陰から男が一人、その様子を見ていたようだ。
闇に溶けそうな赤い虹彩と黒髪が目立つ男。
紫紺の色に輝くマントを翻して、その男はもう一人の女を見る。

「力を受け入れられなかっただけのこと。サンプルはまだまだいる」

その女は、全身を黒いフードで覆っていた。
顔も分からない、だが重い声の女。

「それに」
「………ん?」

女の口元がニッと笑う。

「ミアもいる。だから私たちは必ず勝つ。ね、ジョルジュ?」
「そうだな……エル」

ジョルジュとエルは微笑した。

「それよりも、見たか? あの修士と剣士を」
「ええ。年の割には大した実力と行ったところね。
 もしかすると、私たちの計画を阻害する事になるかもしれない……?」
「それはないだろう。俺たちのことなど知らんだろうし、そこまで力が大きいわけではない。
 更に言うと、ミアが何か打っているというしな。俺はこの後ミアのところへ向う。お前はリスボンへ行ってくれ」
「リスボンへ……?」

エルが首をかしげる。

72 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日) 18:11:52.08 ID:uZKb4BQP0
「リスボンに住んでいるある女性を処分して欲しい。
 計画の邪魔になるとのことだ。これが女性の写真だ」

ジョルジュは懐をまさぐり、一枚の写真を取り出した。
ピントがあまりあっておらず、少しぼやけているが、美しい女性だという事は分かった。
金髪の巻き髪が特徴的な女性だ。

「名はツンと言うらしい。
 リスボンの道具屋の娘だと聞く。早急な処分をお願いする」
「ふふ………この娘、私より美しいんじゃないかしら。
 いいわ。すぐに処分してきてあげる。フフフフフ……」

エルは黒フードから唯一見える口をにやけさせたまま、甲高い笑い声を上げて宵闇へ消えた。
まるでそれは、エルが闇に溶けた様。
ジョルジュはそれを見届けた後、一息ついてエルとは逆側の方向へ歩き出した。


一陣の風が吹いた後、そこにジョルジュ達のいた痕跡は何もなかった。




第三話 完
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