- 30 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:35:35.46 ID:uZKb4BQP0
- 第二話「因果の始動」
ふもとの村、というだけあって小さかった。
遠くから見えた紫色の屋根は、その街の教会のものであった。
街に着くとすぐ、ショボはお祈りしていくと小さく言ってそそくさに僕の前から消えてしまった。
僕のことが嫌いだったんだろうか。悲しい。
まあ、それは置いておいてだ。
僕は自由時間を頂いたわけだ。ショボが戻ってくるまでだけど。
何処へ行こうか、と思案する。
街なんて初めてだし、色々行ってみたい所がある。
様々な露店が並ぶ商店街だとか、街民が集まる広場だとか。
始めてみるその街の光景。新鮮だった。
とりあえず僕は、街の広場に行く事にした。
- 31 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:36:44.34 ID:uZKb4BQP0
- そこには、随分と目立った噴水があった。
大きな噴水で、その中心部には恐らくトリーシャであろう像があった。
凄まじい。トリーシャ教の力は、本当に世に広まっているんだなと実感だ。
そのトリーシャ像が水瓶を持ち、そこから止め処なく水が溢れる。
よく水が絶えなく流れ続け、噴水から溢れないもんだと感心しながら、僕はその辺りのベンチに座った。
ベンチは日の光を吸って暖かかった。
ちなみに猛暑といったが、先程は森の中にいたので余計に暑く感じたらしい。
今は街の中、そして噴水の側という事もあって大分涼しい。
涼しさがこんなに気持ちのいいことだとは。街に下りてきて始めて気付けた発見だ。
「アッハ〜ンなんかいい感じ〜」
そんな心地いい気分を壊す野太い声。
何処かで聞いたことのあるメロディが、突然空間に響き渡った。
ギコのものではない。が、それと同等な臭いがする。
「クモンベイベ〜」
……何だ、街ではレモンジレンジは更に人気らしいぞ。
いったい誰かが歌っているのかと思って周りを見れば、街の至る所に設置されたスピーカーが設置されている。
そこから聞こえてくるとは………つまりこれは、街のBGMという事なのか?
それにこれ、レモンジレンジの歌っている原曲だ。
なんだ、随分へたくそなんだな。一度ギコが歌っているのを聞いたことがあるが、少なくともあれよりはうまいがな、うん。
そもそも、教会社会でこんなちゃらちゃらした連中がいるのがおかしいものだ。
と、思ったがすぐにその考えを否定した。
人口の半分がトリーシャ教というのは、虚言でしかなかったのか。
ならば、レモンジレンジのファンがトリーシャ教の信者に勝っていてもなんらおかしくは無いか。
個人的には嫌だけど…。
- 32 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:38:07.96 ID:uZKb4BQP0
- そんなどうでもいい事に時間を費やしていると、後ろから誰かが肩を掴んできた。
「やあ」
振り返ると、ショボだった。お祈りは終わったらしい。
腕には何だか見慣れぬブレスレットまでしている。どうしたんだろう。
「お祈りは終わったんかお」
「ああ。トリーシャ様に旅の安全を祈ったよ。それより、このブレスレット見てくれよ」
ショボはそう言うと、左右の腕にはめた金のブレスレットを見せびらかしてきた。
微細な装飾が施されていて、しかも金製。決して安価ではないだろう。
しかし、これがどうしたんだ? まさか、旅費で買ったんじゃないだろうな…。
「何でも、トリーシャ教の総本山であるトリーシアの聖水で清められたブレスレットらしいよ!」
「は?」
「魔除けに、安全のお守りにもなるんだって。ブーンも一個持てよ」
ショボは、左の方の腕に嵌めていたブレスレットを外して僕によこした。
受け取ってみて始めて気付いたのだが、その金は鍍金だ。
少しばかり、下地の銀が見えている。
これはショボ、騙されてるぞ、絶対に。
「いくらしたんだお?」
「え? 三千だけど」
「は? 旅費は一万しか貰ってないんだお? 何考えてんだお」
「知らんがな。命は金に変えられないだろ?」
「命? 馬鹿じゃないの、お前騙されてるお」
「何言ってんの? 僕が騙されるわけ無いじゃん。ぶち殺すぞ」
- 33 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:39:23.95 ID:uZKb4BQP0
- ショボはどうやら、騙されやすいようだ。
こんなんで一人前の修道士になれるんだろうか、こいつは。
「そのお守りはショボの自腹だお」
「は?? 何その態度?? 僕はブーンを気遣ってやってんだよ??」
は? 何コイツ?(;^ω^)
「それはお節介だお。第一、旅費をこんなのに費やしてどうすんだお。そのお金はあくまで宿代とかなんだお?」
「は? は? は? うるさいんだけど。なんなんだよ、折角買ったのに………グスッ」
泣き出すショボ。
泣かせるつもりは無かった。しかし、僕も少々言いすぎたか…?
「今回だけは許してやるお。でも、もう二度と必要ないもん買うんじゃないお」
「ブーンのくせに………修士五級がほざいてんじゃねえぇえぇぇぇ!!」
折角慰めをかけてやったのに、ショボはそのまま何処かへ駆けて行ってしまった。
追いかけようとしたのだが、いかんせんショボは足が速い。
というか、即座に術を使って脚力を上昇させ、僕が追いつけないようにしている。
後で適当に探してあげるとしよう、まったく。
もしかしたら、すぐに探して欲しかったのかもしれないけど(´・ω・`)知らんがな。
- 34 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:40:43.49 ID:uZKb4BQP0
- さて、そんなことよりもだ。
ショボの用事が済んだなら、帝国騎士団の詰所に行かなければならない。
リスボンまでは山一つあるらしいし、途中で必ず獣なんかが現れるだろう。
ショボの術で大方は撃退できるだろうが、正直お荷物の僕を庇いながらだと一人ではきついだろう。
そこで、護衛を一名つけることにしたのだ。
と言っても、街から街へ一般人が移動する際には護衛を付けるのが義務なのだけど。
ちなみに、無料。 お給料は国から貰っているそうです。
随分と安心な世の中になりましたね。
そんな訳で、街の人々に道を聞きながら詰所にたどり着いた。
意外とこぢんまりとしている宿舎のような場所だった。
気のせいか、熱気が立ち込めてるような。
蒸れたような臭いがするのは、本当に気のせいだろうな。
ちょっと不安になりながら、詰め所の扉を引く。
と、まあ、中に入ったまでは涼しかった。
冷房が完備されているようだし。
唯一つ、少しばかり奥の方を見たとき、僕はげんなりしてしまったのは言うまでも無い。
その奥の部屋には、冷房がないようだ。
そんな部屋に、男が十人ほど。全員、筋肉トレーニングをしている。
それで更に最悪なのが、その臭いがこちらまで漂ってくる事だ。
汗臭い。とにかく汗臭い。涼しいが臭い。
せめてドアを閉めてやってくれ。うおぇ。
- 35 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:42:10.31 ID:uZKb4BQP0
- 「あら、お客様ですか?」
そんな気分の悪い僕に、リクルートスーツを着た女性が話しかけてきた。
大方、詰所の役員さんか何かだろう。
何というか、この人は体に男たちの汗の臭いがしみこんでいやがる! 体臭くせぇ。
「お客様ですお。そのお客様からお願いがありますお」
「はい?」
聞こうとしていることが本当に分かっていないのか、この人は。
「臭いですお。あのトレーニングルームのドアを閉めてくださいお」
「え? 臭い?」
「臭いんですお」
女の人が、不思議そうな表情をしている。
臭い以外にどんな例え方があるのだろう。
「いい香りです」
「は?」
「男の汗の臭い……いい香りです。何故な貴方には分からないんですか?」
「は? 臭いですお?」
「は、臭い? 何なの、あなた。イキナリ入ってきて私の気持ち良いひと時を邪魔しないでくれない?」
な、何なんだこいつ!
そう思うと同時に、プツッ、と僕の頭で何かが切れる音がした。
「ふざけんなお。僕はお客だお! お前より立場は上だお!」
「何威張ってんのよ、白豚。ブヒブヒ言ってて気持ち悪いわ」
「――――――ッッ!!!」
- 36 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:43:06.00 ID:uZKb4BQP0
- そこで僕は、ギコになった。
いや、正確に言えば、杖でこいつを殴ろうと思ったのだ。
どんなに口が回っても、所詮は女。僕の攻撃を防ぎきれるはずは無い。
僕は無慈悲に女の顔面目掛けて杖を振り下ろしたのだが、それが途中で物凄い力によって止まってしまったのは何故?
見れば、ショボが僕の杖を掴んで止めていた。
つ、都合よく現れやがって!
「ショ、ショボ! 放せお!」
「女性に手を出すとは大人気ない。ギコと同じ臭いがするぞ」
「ちくしょぉぉぉおー!!!」
……あれ? そんなこんなしている間に、僕は数人の男に囲まれているのに気付く。
先程まで鍛錬していた男たちや、軽い鎧をまとった騎士たちや……。
え、僕どうなるんだろう?
ついカッとなったが、これってやっぱり僕も悪い?
「申し訳ございませんでした!」
と、次の瞬間、男の一人が土下座した。
何故土下座されているのかが全く持ってわからない。
- 39 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:44:36.11 ID:uZKb4BQP0
- 「どうかしましたかお?」
「ここではなんですので、こちらへどうぞ…」
今度は別の男が僕とショボの背中に手をやったかと思うと、そのまま持ち上げられた。
僕らは、担がれているようだ。
「自分で歩きますお!」
「滅相も無い」
僕らを担いでいる男たちだが、とにかく臭い!!
汗臭い! 汗を拭いていない! うぉぇ。
男たちは、上半身裸で。汗が直接僕の顔だとか手足にこびりつく。
気持ち悪い、気持ち悪い。
お願いだから降ろしてくれ、とショボも叫んでいたが、その悲痛な叫びは何処か広い部屋に入るまでおさまらなかった。
- 40 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:45:19.51 ID:uZKb4BQP0
- 「すいません。あの娘、異常な性癖の持ち主でして………解雇しました」
「はあ、それはどうもですお」
男の出してくれたお茶をすすりながら会話。
唇が湿って、滑舌が先程より良くなった気がする。
あの娘って、汗大好きなあの女か。
「そんなことより、僕たちは護衛を探しに来たんですけれど」
「はい。了解しております。おーい、ドクオ!」
煎餅を頬張るショボに言われ、責任者であろう男がドアのほうへ手招きをして声をかける。
そうすると、やけに陰気な雰囲気をした青年が出てきた。
が、その体はしっかりと鍛えられたものだ。
腰に挿すその剣も、帝国騎士の上級兵が使うものと教科書で見たことがある。
つまり彼は、この詰所のエリートに当たるのだろう。
「お呼びですか」
「うむ。今回、こちらの方々の護衛についてもらう」
ドクオという名の騎士は、詰所の責任者に紹介され、僕らの目の前に出た。
こうして見ると、背が高い事が分かる。とても強そうだ。
ドクオは僕らの目を見た後、ひざまずき、頭を垂れて、
「初めまして。私はドクオと申します。不束者ですが、どうぞよろしく」
その律儀な態度に一瞬返答を困ったが、そこは真面目なショボがカバーしてくれる。
- 41 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:46:34.82 ID:uZKb4BQP0
- 「僕はショボ。リスボンの街を目指しています。こいつはブーンと言います。どうぞ、よろしく」
「こちらこそ。宜しく、ブーンにショボ」
ドクオとショボが、僕を置き去りにして会話を進めていた。
世知辛い世間の常識はよく分からない。
僕は責任者の出したお茶をゆっくりとすすりながら、二人の会話を聞き流すしかなかった。
のだが。
「おいブーン、お前も少しは挨拶しろよ」
とショボに促され、しぶしぶドクオの方を向く。
その眼光は凍てつくほどに鋭く、これが騎士なのかと思わせるほどであった。
「僕はブーンですお。リスボンまでよろしくお願いしますお」
「ああ、宜しく」
ドクオと握手した。
手が少し汗ばんでいたような気がする。トレーニングでもしてたのだろうか。
そういえばこの男、汗臭いな。
「さて、出発はいつごろですか? 私はいつでも構いませんが」
「ちょっとお待ちを」
ショボが僕のほうに向き直る。
「ブーン、今から行きたいか? それとも明日行きたいか?」
「え? 別に今からでいいお。どうせ野宿するんだろうし」
「そうか。まあ僕は明日の朝からでもいいと思ったけどね。僕のあげたブレスレットしっかり付けろよ」
「は? あ、ああ………」
- 43 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:47:53.17 ID:uZKb4BQP0
- まだ根に持っていたのか、と言おうとした瞬間には、ショボは既にドクオと会話していた。
ドクオは今から出発すると聞くなり、もう一振りの剣を腰に挿し、マントを羽織って、街の外で待っていますとだけ残して去っていった。
まったく、騎士と言う奴は何かと律儀な奴だなあ、と関心と同時に呆れた。
「ほらブーンも支度して。ドクオさんを待たせちゃ悪いよ」
「はいはいおkだお」
僕はショボに言われて、その場を後にした。
- 44 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:49:32.21 ID:uZKb4BQP0
- さて、支度と言っても僕は夢の詰まったリュックを持ち出すだけで。
ショボはというと、買出しに行ってくると言って街に出て、数分したら戻ってきた。
その手には、沢山のわけの分からぬ品物が。
ロザリオだったり、リングだったり、またブレスレットだったり。
ショボの自腹だからいいけど、また紛い物でも買ってきたのか……。
その後、街の入り口でドクオ氏と合流した。
「おいすー」
「準備は出来ましたか。それでは行きましょうか」
「敬語なんて使わなくていいよ。息が詰まっちゃうでしょ」
「いえいえ。私よりクライアント様のほうが偉いのですから」
「そんなことねーおwww 僕ら守られてるだけだし^^」
「そうか。じゃあ敬語面倒だからタメ口になる」
「ちょwww豹変しすぎwwwww」
「知らんがな(´・ω・`)」
「敬語マンドクセ('A`)」
「ねーよwwwww」
「あるあるwwwww」
- 47 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:50:50.84 ID:uZKb4BQP0
- リスボンまでは、先程も言ったが山一つ越えねばならない。
そこがどうも、登山するわけではなく廃坑のトンネルを進んでいくらしい。
長い間放置されていたので、吸血蝙蝠や山賊がいるかもしれない、とのことだ。
ドクオとショボがいるから多少は安心だが、それでも完全にとは行かない。
二人が十数人に勝つのは、ハッキリ言って不可能に等しい。
マンガやアニメでは一騎当千をよく見かけるが、あれは常人の持ちえる力で無い。
元は僕もドクオもショボも普通の人間なのだ。限界はある。
もう一人護衛を付けたほうが良いんじゃないのかと心配もされたが、ショボが何故か断った。
さてさて、その例の廃坑だが、ふもとの村から大して距離は無いのだ。
数十分ほど何事もなく歩き続けたら、山はもう見えた。
周りの山よりも大きくて、天嶮ほどとはいかないが圧倒された。
確かにこれは、山を登っていたら半月はかかりそうである。
「さて、では洞窟に入るが、俺を先頭にしろよ」
「しんがりは僕がやるよ。ブーンは真ん中ね」
「ちょwwww何故wwww僕先頭がいいおwww」
「バーカ。弱い奴を先頭に出来るかよ。それにお前、道知らんだろうが」
「(;^ω^)」
そして僕らは、廃坑の内部へと向う。
- 48 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:51:41.52 ID:uZKb4BQP0
- とても薄暗かった。
天井にはランプが吊るしてあったけど、どれも機能していない。
仕方なく、ショボが一々火炎の術でランプに火を灯して行った。
それでもまだ薄暗い。足元が怖い。
それに、外とは違ってえらく寒い。
おそらく、日の光など全く当たらないのだろう。
虫も何もいないし、コウモリもいないし。
これは別に護衛を付けなくてもいけたかも分からんね。
「何もいないね」
と、ショボも言う。
流石にここまで何も無いと、気が抜けてしまう。
「用心する事にこした事はない。準備を怠っているとそうでないとでは、何かあったときの対応が随分違うしな」
「ドクオは小難しいこと言うお」
「ブーンがバカなだけだろ。ドクオは今いい事言った」
やけにドクオを庇うショボ。
モーホーの気でもあるのかと思ってしまうぞ。
「はいはいワロスワロス」
「おいブーン、あまり私を怒らせないほうがいい」
「短気はきんもーっ☆ だお」
「死ね。氏ねじゃなくて死ね」
- 49 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:52:17.36 ID:uZKb4BQP0
- ドクオと僕の声は、洞窟内に響いていた。
声が反響して、木霊が返ってくる。
何だか面白いな。
「そんなことよりヤッホーやがな(´・ω・`)」
僕より先にそれに気付いていたショボが、洞窟内で大声を。
ヤッホーやがな、と言う言葉は壁に当たり壁に当たり、耳に何重にもなって聞こえた。
やっぱり面白いな。
「俺いい事思いついた」
と、突然ドクオが。
「ん? 何?」
「ここで歌うたったら、響いてうまく聞こえるんじゃね?」
「んなこと(´・ω・`)知らんがな」
次の瞬間、ドクオは大きく息を吸い込んだ。
何か歌う気だ。まさかレモンジレンジでは…………。
「花びらの〜様に塵ゆく中で〜」
「ぐおおおおお!!」
- 50 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:53:27.63 ID:uZKb4BQP0
- ドクオの調子はずれな声が、洞窟内に響き渡る……ッ。
皆様は、ジャイ○ンのリサイタルをご存知だろうか。
特殊な音波がみんなの耳を劈く……。
まさに、現実世界にジャイ○ンのリサイタルがあったらこんな感じだろう。酷い。
音が何重にも重なって耳が痛い。特殊音波を発するな。
お前はギコと気が合いそうだな。
なんて悠長な事を言っている間に、ショボが耳の辺りから血を吹き出して倒れた。
本気でこれはやばいぞ!
「おいドクオやめるお! ショボが死ぬお!」
「あ?」
そこでドクオの声が止んだ時、僕の耳には何かが空を切るような音が聞こえた。
それに咄嗟に反応したドクオが腰から剣を抜き、此方に飛んできたそれを叩き落す。
そして、叩き落したそれを見据え、
「なんだこれ、針?」
「針……? まさか………」
飛んできたのが針?
ショボは耳から血を吹き出して倒れたが、まさか怪音波でそうなったとは思えない。
ならば、ショボが倒れたのはまさか。
- 52 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:54:34.94 ID:uZKb4BQP0
- 慌ててショボに駆け寄り、耳の辺りを見て見ると。
裁縫なんかに使うものよりは少し大きめの針………先端には毒か何かが塗ってある。
が、刺さって、そこから血をだらだらと流していた。
これは非常にまずい。
「おい、ブーン」
と、ドクオの緊張した声が聞こえた。
まさか、何かあったのか?
「なんだお?」
「お前はショボを介抱してろ。俺はコイツを片付けなきゃならねえ」
ドクオの視線の先には、三人の男がいた。
いずれも体格は良く、筋骨隆々。
そしてその手の中には、男たちに不釣り合いではない巨大な斧。
紛れもない。山賊だ。
「よぉ、ここは俺たちの縄張りだ」
山賊のうち一人が、野太い声で喋る。
それに反応し、ドクオは剣を構える。僕は、ショボに解毒の術をかける。
僕は術に関してはダメダメだが、幸いにも修士二級の杖がその威力を数倍に高めてくれるだろう。
「何が縄張りだ。屑どもが」
「あ? レンジファンがグダグダうるせえんだよ」
「何だと? レンジなめんじゃねーぞ」
「ブハハハ! こいつマジでレンジファンだぜ! きんもーっwwww☆」
- 53 名前:豆男
◆X5HsMAMEOw 投稿日:2006/09/10(日)
17:55:06.51 ID:uZKb4BQP0
- 笑う男。
怒るドクオ。
次の瞬間、ドクオの姿はその場から消える。
次にドクオが現れたのが見えたとき、山賊の一人がその場に前から倒れこんだ。
勿論、汚い鮮血を撒き散らして。
ドクオの剣が、速すぎる速度で山賊の首の脈だけを切り裂いたのだ。
その技巧な腕前、他の山賊に戦慄がはしる。
「やってくれるじゃんかよ。よくもインポッポを………」
「インポッポ? この薄汚い面の野郎か。安心しろよ、お前も後を追わせてやるから」
「へっ。来いよ、雑魚」
――――戦いの火蓋が、切って落とされた。
第二話 完