2 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 21:54:04.96 ID:WllVhbVH0
【Fourth Color : Orange】


 重苦しい曇り空が鈍々しく広がっている。
 空気も湿り始めていた。

「こんにちは!」
「どうも……」

 私服姿を見るのは当然初めてだった。
 オレンジ色のTシャツに、デニムのミニスカート。
 白いバッグを右手に持っている。
 確かに今日は晴れてこそいないものの、蒸し暑く、肌を露出したくなる気持ちは分かった。
 椎野は早い時期から制服も夏用に変えていたし、恐らく暑いのは苦手なのだろう。

「ドっくん、黒似合うね。凄くいい感じ!」
「そう……?」
「うん……いつも制服姿だったから、私服見ると、ちょっとドキドキする……」
「……うん、俺も……」

 嘘ではなかったが、例え何も感じなかったとしても、発した一言だろう。
 そう言うべきだと思った。

「ホント!? ありがと!! 嬉しい……」

 また、手を握られた。
 そして、そのまま歩き出す。人通りがあまり多くない道を選んで進んだ。
6 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 21:59:24.71 ID:WllVhbVH0
「こっちのほう来たことないから、全然分かんない……」
「ってか、あの駅で降りたことないよね……」
「うん、学校とは逆方向だし……でも、車で来ても30分かからないよね」
「だね……まぁ、何もないから、車で来ることもないだろうけど……」
「う、うーん……まぁ……」

 小さな神社の角を曲がって、古い民家が立ち並ぶ小道を歩く。
 太陽の照りはないが、今日は風もないため、やはり蒸し暑い。
 繋いだ左手が、汗ばんでいるのが分かる。

「けっこう遠いんだね……」
「15分くらいかかるよ……」
「うーん……微妙な距離だね……」

 椎野の右手からも、汗を感じる。少し息が荒くなっているのは、暑さが疲れを促進させているからだろう。
 歩幅が小さくなりはじめ、視点もふらついていた。

「……あれは?」

 ふらついた視線が、何かを捉えたようだった。
 神社の周辺に植えられた木々に隠れて見えていなかった、大きめの建物だ。

「あれは……デパートというか百貨店というか……」
「寄ってもいい?」

 椎野の体は、既にそちらに向いていた。

7 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:05:08.98 ID:WllVhbVH0
「え……今から? 家のほうが近いけど……」
「せっかくドっくんの家に行くんだし、なんか買ってこっかなって。一緒に食べるお菓子とか」
「別にそんな……」
「まーまー……いいから、いいから……ね?」

 また、顔を覗きこんで、上目遣い。
 自分の武器をよく知っているのだろう、と思った。

「……じゃあ、行こっか……」
「うん! ありがと!」

 椎野の歩幅が広がった。


 自動扉が開いた瞬間、中から溢れ出す冷気。
 椎野の表情が緩んだ。

「はぁ〜……生き返る〜……」

 一階はスーパーだった。
 ここは四階建てで、二階はファッションの店が並び、三階は雑貨屋や100円ショップ、四階は飲食店が多く配置されている。
 大した規模ではないが、駅からそれほど遠くないこともあって、人は少なくない。

 椎野はまずスーパーで飲み物やお菓子を少し買って、それからすぐに二階へ上がった。
 一通りぐるっと回って、あのスカートが可愛いなどと言いながら、立ち止まらずに三階へ。
 100円ショップには眼もくれず、雑貨屋のほうへ歩を進めていった。
11 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:12:17.42 ID:WllVhbVH0
「可愛いブレスがあるー……いいなぁ……」

 今度は立ち止まって眺めていた。
 髪飾りやネックレスなど、次々と手にとっていく。

 そして、小さな指輪を掴んだとき、動きが止まった。

「……ねぇ、ドっくん」
「え?」
「恋人同士っていったら……やっぱ指輪だよね?」

 同じデザインの指輪を、右手と左手に持っている。
 シルバーで、小さな十字架が刻まれた指輪。
 値札には3000円と書いてあった。

「ペアで一緒に買いたいなぁって……思って……どうかな……?」

 俺に飾りっ気は全くない。
 ネックレスやブレスレットの類もしたことがないし、する気持ちが分からない。
 似合うとも思えなかった。

 指輪。想像もできない。
 しかし、やはり抗える手段は思い当たらない。

「……うん……そうだね……」
「だよね! じゃあ買おっか。もう持っちゃってるけど、これでいい? 私がデザイン的に気に入ったやつだけど……」
「うん、いいよ……」
「じゃあレジ行こっか」

12 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:17:59.45 ID:WllVhbVH0
 片方を渡されて、レジへ。
 代金の支払いは別々に行った。
 レジを打つ若い女の子が、微笑ましそうにこちらを見ていた。

「はい」

 買ったばかりの指輪を、手渡される。
 一瞬、意味が分からなかった。

「え? これ、二つとも同じやつだよね?」
「うん。でも、お互いにプレゼントしあうほうがいいかなって思って。だから、はい」

 右手を引っ張られて、手の上に指輪を置かれる。
 レジ打ちの女の子は、まだこちらを見ていた。

「じゃあ、こっちも……」

 左手に持っていた指輪を、椎野に渡す。
 椎野は、言葉で表現できないくらい嬉しそうに、それを右手の薬指に嵌めた。
 俺も慌てて右手の薬指に嵌める。

「どんどん恋人っぽくなってくね。嬉しい!」

 無邪気な笑顔を、蟠りなく受け入れることはできなかった。

 そしてまた手を繋いで、歩き出した。
 そのまま下に降りて、そして建物から出る。
 再び、俺の家へ向かった。
15 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:22:10.47 ID:WllVhbVH0
「ホントだー!! おっきいねー!!」

 上京してきた田舎者のようだった。単純に、驚いている。

「かなぁ……」
「え、だって周りの家と比べたら明らかにおっきいし……私の家なんか、ここに比べたら鳥小屋みたいなもんだよー……」
「いやいや……」
「でもホント……凄いねー……」

 呆ける椎野の右手を引っ張って、中に入る。
 玄関を開けても、中は静まり返っていた。

「誰もいないの?」
「うん……親は二人とも仕事」
「そっか……」

 椎野の右手に、少し、力が込められた気がした。

 玄関のすぐ側にある階段を昇って、二階へ。
 昇りきった場所の正面にある扉を開いて、俺の部屋へと足を踏み入れた。

「広い部屋だねー……」
「いつもはもっとゴチャゴチャしてるから狭く感じるけど……」
「私が来るから片付けたの? ゴメンねー……」
「いや……別に謝られることじゃないけど……」

 そもそも、部屋を片付けたのは、自殺しようと思っていたからだ。
 あれはまだ一昨日のことだが、今は遠い昔のことのように感じる。
17 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:27:19.89 ID:WllVhbVH0
「さっぱりしてるねー……」

 部屋のあちこちを眺める椎野。
 何か変なものでも置いてなかっただろうか、と一瞬不安になった。

「クローゼット開けると色々入ってたりするけどね……」
「へぇー……パっと見はホント、物が少ないね」
「かなぁ……パソコンとゲーム……漫画くらいか……」
「標準的な男の子の部屋って感じだね」

 椎野がカバンを開けて、中から袋を取り出す。
 さっきスーパーで買ったものが入っている袋だ。

「どっちがいい? お茶とスポーツドリンク」
「あれ? 二本も買ってたっけ?」
「うん。だって私一人分だけってわけにもいかないし」
「ごめん、お金払うよ」
「いいよ! これくらいで貰ってたら申し訳ないし……ね、どっちがいい?」
「……じゃあ、お茶……」
「はい、どうぞ」

 冷えた緑茶を渡される。
 ペットボトルの表面についた水滴が床に一滴落ちた。

「ありがとう……」
「いえいえ!」

 スポーツドリンクのキャップを開けながら、椎野は嬉しそうだった。
 一口飲んですぐお菓子の袋を開けて、二人でそれを食べながら、雑談が続いた。
21 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:32:37.09 ID:WllVhbVH0
「病院は別のとこにあるんだぁ……」
「うん……すぐ近くだけどね」
「そうだよね……医者っていっても、お金持ちならやっぱ開業医だよね……」
「まぁ、別に金持ちってほどでもないけど……」
「いやいやー……」

 椎野がチョコレートを頬張る。
 口の中で、チョコの割れた音がした。

「お母さんも医者なの?」
「うん……父さんが院長で、母さんが副院長……」
「ほぇー……じゃあドっくんも医者目指すの?」
「……通ってる学校を知ってるなら、医者なんて目指せない頭だって分かると思うけど……」
「な、なるほどね……でもドっくん、頭良さそう……」
「国語は学年2位だったけど、化学が学年270位だった……」
「えー!? 極端だねー……私は化学283位だったけどね!」
「俺より悪いじゃん……」
「高校入ってから、勉強が面倒になっちゃって……どーでもいいやーって感じでテスト受けたら、悲惨なことに……」
「適当だねー……」
「まぁね。ふふふ」

 気持ちが、落ち着いてきた。
 今まで、椎野と話すとき、いつも緊張に似た思いがあった。自然には喋れなかった。
 しかし、少しずつ、気楽に話せるようになっている。
 打ち解けてきた、ということだろう。

 それからもずっと雑談が続いた。
 椎野の生い立ちや、俺の中学時代のバカな友達の話など、話題は多種。
 空が色を変え始めても、話は尽きることなく続いていった。
23 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:38:02.91 ID:WllVhbVH0
「琴欧州は期待してたんだけどねー……カド番脱出も息を切らしながらって感じだったし、最近は白鵬のほうが話題になってるしねー……」
「名古屋場所じゃ雅山も大関に戻れなかったし……」
「うん、まぁ最初から大関に戻れるとは思ってなかったけど……でも、残念だよねー……」
「だね……ってか、まさか大相撲を語れるとは思わなかった……」
「私も……意外なとこで話が合ったね〜」

 いつの間にか、6時半を過ぎていた。
 会話が途切れて、静寂が訪れる。時計が、時を刻む音だけが、響き渡る。

 椎野との距離が、さっきまでより、縮まっているように感じられた。

「暑いね……」

 椎野が、隣にぴたりとくっついてきた。

「エアコン……温度下げようか……」

 そう言って、立ち上がろうとした瞬間、左手を掴まれた。
 力が、篭っている。

「なんか、そういうんじゃなくてね……」

 椎野の頭が、左肩に乗っかった。
 椎野のことを初めて意識した、あの電車の中での出来事が、フラッシュバックする。

「今日、いっぱい話せたね……私、嬉しい……」
「……うん……」
「……ドっくんとの距離が、縮まった気がするんだぁ……」
25 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:44:48.60 ID:WllVhbVH0
 椎野の甘い香りで、頭がくらくらする。
 寄りかかる椎野のTシャツが浮いて、胸元が視界に入った。
 小さくない胸が、白いブラで覆われている。

「……胸見てるー」
「うっ……ご、ごめん……」

 また、視線に気付かれていた。
 慌てて視界を逸らそうとするが、その動きを、椎野の左手が制止する。

「いいよ、見て……電車の中と違って、二人きりだから、周りの眼を気にする必要もないし……」
「え……」
「好きな人に見られるのは、嬉しいから……」

 Tシャツの首元を引っ張って、更に服の中がよく見えるようになった。
 胸全体の形まで、はっきり分かる。

 外はかなり暗くなってきたが、部屋の電気は点いていないままだ。
 服の中は余計に暗かった。

「見えにくい……?」
「え?」
「服の中……」

 首元を引っ張る右手を離し、そして、裾にそのまま手を持っていく。
 Tシャツを、めくり上げた。
37 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 22:54:04.80 ID:WllVhbVH0
「これでばっちりかな……?」

 Tシャツの裾が、胸の上で留まった。
 ブラと、胸の谷間が、完全に露出されている。

「え……ちょっ……」
「ドっくんは、彼氏なんだから……」

 動きの激しい椎野の右手が、今度は俺の右手を掴む。
 ゆっくりと、自分の胸元へ俺の右手を引き寄せる。

「自分の彼女は、好きにしていいんだよ……?」

 椎野の左胸に、俺の右手が、触れた。

 柔らかで、温かで、思わず、全体を掴んでしまった。

「んっ……」

 椎野の息が荒くなった。
 そして、椎野は体を起こして、座っている俺の上に跨る。
 白い胸は眼前にあった。

「あはっ……凄いことになってるね……」

 椎野の股の間に、俺の股間もあった。
 ジーンズの上からでもはっきり分かる膨らみ。
 窮屈で、少し痛いくらいだった。
45 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:01:19.31 ID:WllVhbVH0
「見てもいい……?」

 そう聞かれたが、何も答えないうちに、椎野はベルトを外し始めた。
 ボタンも外され、すぐにトランクスの中から、一物を引っ張り出される。

「凄い……」

 椎野の左手が、一物をそっと掴む。
 人差し指で、先端を撫でられた。

「……脱ぐね……」

 立ち上がって、スカートをめくり上げ、パンツを下げた。
 左足を抜けさせ、右足の足首で留まる。
 ブラのホックも外し、胸も完全に露出する。
 桃色の先端は大きく突起していた。
 Tシャツとブラをその場に脱ぎ捨て、椎野はスカートだけの状態になる。

「私、初めてだから……痛がっちゃったらゴメンね……」
「ま、待って……」

 椎野の腰が、完全に一物の上にあり、椎野は左手で一物の先端を恥部に当てている。
 下半身が焼けるような熱さを帯びていた。

「ゴム……あるから……それ付けないと……」
「……ゴム……?」

 椎野が、単純に不思議そうな視線を俺に向ける。
 思わず、慌てさせられた。

46 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:02:44.50 ID:WllVhbVH0
「要らない……そのまましようよ……」
「えっ……いや、それはマズイって……!」
「だって、お互い初めてなんだし……私、初めてのときは絶対ゴム付けないって決めてたもん……」
「俺、我慢できるとは限らないから……もしそのまま出しちゃったら……」
「大丈夫だよ……私、生理遠いから……妊娠はないよ……」

 椎野の視線が、再び二人の下腹部に向いた。
 直立した一物を固定させ、恥部の一点へと侵入させる。
 先端が、生温かくなった。

「ダ、ダメだって……!! ちゃんと付けないと……!!」
「な、なんでそんなに嫌がるの? そういうのって、普通女の子のほうが嫌がるもんなのに……」
「だって……!」
「女の子が良いって言ってるときは、喜んで受け入れるべきだよ……!」

 一物が、どんどん入り込んでいく。
 その温かみが、体の力を抜いていて、とてもではないが抗えない。

「うっ……!!」

 椎野の顔が苦痛に歪んだ。
 荒ぶる吐息と、顎から滴る汗。
 腰を落とすたびに、息を吐く数が多くなっていく。
 声を極力押し殺しているのが分かった。

「ゴ、ゴメンね……もうちょっと……待ってね……」

 更に息が荒くなる。
 耳にもはっきり聞こえるほど、喉の奥から出されているようだ。
50 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:04:19.38 ID:WllVhbVH0
「……ん……?」

 両耳に響き渡る、椎野の息遣い。
 しかし、別の方向から、確かに聞こえる音。
 木が軋むような音。聞き覚えがある。

 誰かが、階段を昇っている。

「誰か来たっ……!!」
「え!?」
「服着て! 早く!!」

 慌てて一物を抜いて、スカートを下げる椎野。
 俺も急いでトランクスの中に収めて、ジーンズのボタンを留める。
 椎野はほとんど脱いでしまっているため、時間がかかっていた。
 ブラもせずにTシャツを着て、右足に引っかかったままだったパンツは穿く暇がなく、脱いで隠した。

 部屋の扉がノックされ、開いた。

「ただいまー……あれ? お友達?」

 母親だった。
 視線はすぐに椎野に向いたようだ。

「えっと……修哉くんの彼女の、椎野由依です……」
「……か、彼女……?」
「初めまして……ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……」
「……いえいえ……こちらこそ……しょうもない息子ですが……」
55 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:07:30.69 ID:WllVhbVH0
 母親の視線が、今度は部屋全体に向いた。
 怪訝そうな顔で、俺を見る。

「……何で電気点けてないの?」

 心臓と体が、揺れた。
 暗がりの中に男女二人がいれば、何をしていたのかは大体想像がつくだろう。
 電気は点けておくべきだった、と後悔した。

「話してたら、夢中になっちゃって……忘れてたんだ」
「……ふぅん」

 母親が、鼻を一回すすった。
 風邪は引いていないはずだった。

「……すぐにご飯にするから、降りてきなさいよ」
「うん……分かった……」

 扉を閉め、すぐに階段を降りていく母親。
 二人同時に、溜めていた息を吐いた。

「危なかった……」
「怖かったねー……ドっくんが気付いてくれなかったら、見られちゃうとこだった……」
「足音、聞こえてなかった……?」
「うん、全然……夢中になっちゃってて……」
「そっか……じゃあ、尚更危なかった……」
「……途中で、終わりになっちゃったね……」

 完全に収束している俺の股間を見ながら、椎野は残念そうに言った。
60 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:10:07.90 ID:WllVhbVH0
「まぁ……まだ早すぎるってことじゃないかな……」
「そんなことないよ……恋人になったその日にやる人だっていっぱいいるし……」
「でも……俺は、もっと遅くてもいいと思う……焦る必要なんかないんだし……」
「……それは、そうだけど……でも……」

 食い下がろうとした椎野を、手で制した。
 また階段を上がる音が聞こえた。

「……こっちには来ないね……」

 どうやら、自分の部屋に向かったようだった。

「もう暗いし、夕飯だし……」
「……うん……今日は帰るね……」

 Tシャツを脱いで、ブラをつける椎野。
 その光景を見て再び股間は隆起し出したが、椎野には見られないように隠した。
 スカートを上げてパンツを穿き、再びスカートを下ろす。
 椎野が一息ついて、床に座り込んだ。

「……また、しようね……」

 俺の左手を掴む右手。
 温かさは、変わっていなかった。


 家を出て、駅まで一緒に歩く。
 車のヘッドライトが眩しく感じた。
 切れかけた街灯が二人の背に影を生み出す。
 小さな足音は、夜闇に吸い込まれていった。
64 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:12:58.30 ID:WllVhbVH0
「今日はありがとね! 楽しかった!」
「うん、俺も……」

 これは、本心だった。
 他人と話すことがあまり得意でない俺が、何時間も会話を続けられたのだ。
 時も忘れて楽しんだ、という表現が適切だった。

「これからもいっぱい遊ぼうね! 明日は無理だけど、また来週……」
「来週……来週の休みって、期末直前じゃ……」
「え……あっ、そっか……ドっくん、勉強するんだ……」
「うん……何なら、一緒にやる?」
「うーん……テストは捨ててるからなぁ……微妙……」
「まぁ、またメール送って……どうするかの答えはいつでもいいから……」
「うん、分かった……」

 細い小道を歩く。
 近くを通る自転車が、こちらを一瞥して、素早く通り過ぎた。
 犬の遠吠えが耳に響く。

「……雨?」
「え?」
「雨、降ってきた……」

 椎野が左手を天にかざす。
 すぐに俺の腕に雨粒が当たり、降りはじめていることを確認できた。
66 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:15:30.58 ID:WllVhbVH0
「小雨か……まぁ、これくらいなら大丈夫だろうけど……」
「でも、あんまり濡れたくないから……ちょっと急いでいい……?」
「うん、分かった……」

 二人の歩幅が広がった。

 椎野の右手が力を強める。薬指に嵌められたリングが、俺の左手に冷ややかな温かみを与えていた。
 雨が強まる気配はなかった。

「……ねぇ、ドっくん……」
「ん……? 何?」

 椎野が歩みを止めた。
 地面を撫でるように叩く雨音が耳に響く。

「……あのね……言いたいこと……あるんだけど……」

 椎野の髪から、雨が滴る。
 互いに繋がれた手に、水が垂れ込んでいた。
 駅の明かりが、街を照らしている。
 傘を差して歩く人の姿が多く見えた。
69 名前:第4話 ◆azwd/t2EpE 投稿日:2006/08/22(火) 23:18:52.17 ID:WllVhbVH0
「……ごめん、やっぱなんでもない」
「え……?」
「今日はホントにありがと! また月曜、電車でね!!」

 繋いだ手を振り解き、早足で去る椎野。
 雨に濡れたオレンジのTシャツは、その色を暗くしていた。



















 第4話 終わり

     〜to be continued
inserted by FC2 system