8 :>>2ありがとうだぜ:2009/06/08(月) 22:09:39.81 ID:OKAO9iRtP

 夜の森は暗く静かだ。
 だが、かすかに草木のざわめく音がする。

 それは、無数の武装した褐色の裸足が、風のように木々の間を忍び抜けていく音だった。


 戦士たちは戦いに向かって、ただ、闇の中を駆けていた。




   川 ゚ -゚)は探しているようです  第九話


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:12:08.53 ID:OKAO9iRtP
一.



 時間は少し遡る。

 太陽が西の空に落ちきらないうちに、ドクオとクーは「崖」を発った。
 植民地の指導者であるドクオは、日没までに砦に帰って、夜半直の指揮を取る責任があるのだ。


 翳り始めた森をしばらく歩き、二人はニューソク砦にまで帰った。

 暮れなずむ紺色の空を背景に、
 門に掲げられたカンテラのぼんやりしたオレンジ色が、二人を暖かく迎えていた。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:14:16.35 ID:OKAO9iRtP

 真っ赤な顔をした門衛が、ドクオに向かって、額に拳を軽く触れる敬礼をした。

('A`)「ご苦労。それで…、祭りは終わったのか?」

「アイ、サー。日没までに原住民はすべて砦の外に出し、彼らは自分らの村へ帰りました」


 クーとドクオは、まだ祭りの熱気が残る砦の中に入った。
 広場の飾りつけはところどころがちぎれて垂れ、
 そこかしこの地面に雑多なごみが点々と残されていた。

 植民地のあちこちにカンテラが灯されていた。
 何軒かの家の窓からも明かりが漏れている。

 ロマネスクが杯を片手に持ち、地面で寝ていた。
 広場の周りには、冷め切った料理の残り物をつまみに、
 まだ酒を飲んでいる水兵たちのグループがいくつかあった。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:17:38.79 ID:OKAO9iRtP

('A`)「じゃあな。お前もさっさとお前の家に戻れ」

 ドクオは言ってクーと別れ、自分の家へと戻っていった。
 当直交代の指揮を執るために、軍装を整えるつもりなのだろう。

 クーも自分に割り当てられた家に向かって、祭りの後の砦を、ゆっくりと歩き出した。
 そこここの通りに掲げられたカンテラが投げかける金色の光を見ると、
 クーの心には、えもいわれぬ安心と喜びが湧き上がってくる。

 この瞬間、確かに、クーの心は満たされていた。

 暗い森の道を家路に急げば、そこには暖かい光が闇を破り、迎えてくれる場所があった。
 しかもその町の中には、クーの帰るべき家があるのだ。

 帰るべき家!

 意地悪なフォックスも、危険で下卑た客もいない、安全で、自分の居場所のある家が。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:19:56.31 ID:OKAO9iRtP

 入り口に立てかけた戸板をずらし、クーは家の中に入った。

 テーブルに座り、ろうそくの明かりで本を読んでいたショボンが、顔を上げた。

(´・ω・`)「やあクー、おかえり」

 クーはあいまいな顔で牧師に頷き返した。


 クーはこの牧師の正体について思い悩んでいた。
 モララーと同じく王党派のスパイなのだろうか。それともそれは自分の思い過ごしなのだろうか。

 考えた末、ひとつの結論に達していた。
 この男がスパイであれ何であれ、どちらにしろモララーとのつながりは無い。
 今のところは、害は無い。

 だからクーは、むやみな警戒を止めにすることにしていた。
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:21:20.95 ID:OKAO9iRtP

 じっさいショボンはクーに対し良くしてくれた。
 今も、戸口から入ってきたクーに対し、水差しから椀に水を汲んで、クーのほうに差し出してくれている。

 クーはそれを受け取り、一気に水を飲み干した。
 椀を返して、それから自分のベッドに歩み寄り、飛び乗った。


 ベッドのふちに腰掛けて足をぶらぶらしているクーに、ショボンは言った。

(´・ω・`)「お祭りは楽しかったかい?」

川 ゚ -゚)「ふん。くそ坊主、お前は酒を飲んだのか?」

 少しいたずら心を起こして、クーは言った。

(´・ω・`)「少しね。だけど、神の子は自らの血をぶどう酒に擬されたんだよ」

川 ゚ -゚)「うるさい生臭。お前からはラム酒の甘ったるい香りがぷんぷんしてんだよ」

 クーは楽しげに笑いながら、言った。

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:23:23.29 ID:OKAO9iRtP

 そんなクーを見て、ショボンも少し微笑んだ。

(´・ω・`)「何か良いことがあったのかい」

川 ゚ -゚)「?」

 クーは答えず、ただショボンを見た。

(´・ω・`)「クー、今の君は、とてもいい顔をしているよ」

川 ゚ -゚)

 ショボンを見つめながら、クーは足を二、三度大きくぶらぶらとさせた。
 その反動のまま、ばたんと後ろ向きに倒れて、自分のベッドに横になった。


 ショボンは微笑んでテーブルに向き直り、自分の本の続きを読み始めた。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:25:03.04 ID:OKAO9iRtP

 ベッドに横たわったクーは、じっと天井を見つめていた。
 粗末な板張りのところどころに隙間があって、天井裏が見えている。


 やってきたほのかな疲れと眠気の波に抗っていると、
 ふと、ショボンが昔に言っていた言葉を思い出した。

川 ゚ -゚)(居場所…)


《(´・ω・`)「そうだ、居場所だ。
     人間には居場所が必要なんだ。自分のことを認めてくれる人たちがいて…》

 ショボンの声が思い返された。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:27:07.23 ID:OKAO9iRtP

川 ゚ -゚)(居場所…)

 陸にいたときに住んで…いや、飼われていた館では、クーの居場所は、どこにもなかった。
 あの頃のクーにとって、世界といえば、館と、周辺の堕落しきった貧民窟だけだった。
 だから、自分の居場所なんて世界中どこを探しても無い、と思っていた。


 今のクーは、その当時には全く覚え得なかった感情を、確かに持っている。
 心温まる帰り場所。安全な家。
 多くの時間を共に過ごした、よく見知った仲間たち。

 今なら、ショボンの言っていたことも、わかるような気がしていた。

川 ゚ -゚)(人間には居場所が必要だ、か)

 探していた居場所とは、これのことなんだろうか。
 数奇な運命に導かれた半年間は、結局、クーにこの暖かい家とベッドを与えた。
 それは、いくら望んでも、以前には絶対に与えられることのないものだった。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:29:42.96 ID:OKAO9iRtP

 だがクーは、刹那、崖でドクオが言っていた言葉に思い至った。
 彼は言っていた。陰がちに目を伏せて。

《('A`)「人間は、悪事をするのだ。みんな、必ず」》


 昔の自分を見ているようだった。
 だからドクオの言葉は、クーの心に、よけい響いたのだ。

 クーは過去に自分がショボンに向かって吐いた台詞を思い返した。

《川 ゚ -゚)「どうせ、どいつもこいつも、人間なんて自分のことしか考えてないんだ。
     だからいつも最後には必ず裏切り、騙しあうんだ。
     安心できる居場所なんて、あるわけないだろう」》


川 ゚ -゚)(安心できる居場所なんて、あるわけない、か…)

 不思議な気持ちだった。
 いまでは、過去に吐いた自分の言葉が、嘘っぱちの荒唐無稽なもののように思えていた。
 その時はそれはまったく、自分自身の本心からの言葉だったのに。

川 ゚ -゚)(いまでは、安心できる居場所が、私には有る…)

 自分のあまりの変わり身の早さに、クーは苦笑した。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:31:32.44 ID:OKAO9iRtP

 過去、ドクオの身にどんな恐ろしい事件があったのか、それは知らない。
 「崖」の会話では、彼は具体的な事件は何一つ語らなかった。


 クーはいつのまにか、ドクオに「親しみ」の感情を覚えていた。

川 ゚ -゚)(なにか深いところで、自分と彼は心が通じるかもしれない)

 漠然とながら、そう思っていた。
 彼の姿を思い返すと、ますます強く、そんなふうに思えてきた。

 彫りの深いドクオの顔が、もう一度脳裏に浮かんだ。


(´・ω・`)「友達でもできたのかい?」

 唐突にショボンが尋ねてきた。
 クーはびっくりしてベッドから半身を起こした。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:33:28.76 ID:OKAO9iRtP

 クーの顔が赤くなっていた。

川;゚ -゚)「わ、私、何か言ったか?」

(´・ω・`)「いや、…何?」 

 不思議そうにショボンは振り返った。

川;゚ -゚)「お、脅かすな、坊主…」

 クーは後ろに手をついて、ゆっくりともう一度、ベッドに身を横たえた。

(´・ω・`)「僕はただ、あんまり君が楽しそうだったからさ」

川 ゚ -゚)「…そんな風に見えたか?」

(´・ω・`)「ああ」
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:36:05.29 ID:OKAO9iRtP

 クーは頭の後ろで手を組んだ。

川 ゚ -゚)「ところで、友達って、何だ? 仲間とは違うのか?」

(´・ω・`)「ふむ」

 ショボンはしばし考え込んだ。

(´・ω・`)「多くの時間を共に過ごせば、仲間になる。
     だが、友達というものはそれ以上に、なにかを深く分かち合った仲であるものさ」

川 ゚ -゚)「ふーん…」

 クーはベッドの上で足を組んだ。

川 ゚ -゚)(じゃあ、ドクオは、友達かな?)


 一ヶ月、手足をつながれながら、じめじめとした牢で共に過ごした。
 他人には決して心を開かない彼と、さっき、はじめて人間らしい会話をした。

 年齢も地位も立場もまったく接点の無い二人だが、
 こと心情とそれをもたらす知見については、友達と呼べる何かがあるような、クーはそんな気がしていた。


 当直交代を指揮するドクオの声が、どこからか風に乗って運ばれてきた。
 それは冷徹な、感情の無い、いつものドクオの声だった。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:39:04.88 ID:OKAO9iRtP
二.


 士官サーベルを腰に吊って、ドクオは砦の巡回を始めた。
 空はすっかり暗くなっていた。

 中央広場では夜警当番が着任報告をしていた。

ミ,,゚Д゚彡「海尉代理フサ、只今より当直任務を海尉代理ロマネスクに引継ぎます」

( ФωФ)「海尉代理ロマネスク、引継ぎ了承しました」

 酒で顔を真っ赤にして軍服を着崩した二人が、
 不動の姿勢で向かい合って敬礼しているのは、傍目にもおかしな景色だった。

 ロマネスクのうしろに控える夜警当番たちはもっと滑稽だった。
 ひどい酔いで槍に体を預けてぐんにゃりしている者、
 マスケット銃を捧げきれず、あぐらをかいて座って、肩に銃をもたせかけている者。

 普段のドクオなら、武器を正しく扱わなかった罪でその場で藤編みムチをくれてやるところだが、
 この日ばかりはわずかに苦笑を浮かべただけで、酔いどれの彼らの前に立った。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:41:21.12 ID:OKAO9iRtP

('A`)「ロマネスク。報告しろ」

( ФωФ)「はっ。日没現在、敵影異常なし。なお所在不明者一名あり」

('A`)「所在不明?」

( ФωФ)「ヒッキーが戻りません」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、あいつは原住民の女のケツ…失礼、臀部を追っかけて出て行きましたぜ。
      お楽しみが長引いてるんじゃねえですかい」

 酔っ払いの一団が笑った。

ミ,,゚Д゚彡「ま、おっつけ戻ると思いやす」

('A`)「よろしい。彼はいずれ戻った時に、任務懈怠の罪で背中の皮を猫鞭で剥がされることになる。
   諸君はそんなことがないように、直ちに持ち場に着き、正しく自らの義務を果たせ」

 水兵たちは鞭と聞いて一瞬引き締まった顔をしたが、それは長持ちすることなく、
 夜警当直全員がだらだらとした酔いどれの動作で各自の持ち場に散っていった。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:43:20.00 ID:OKAO9iRtP

 ドクオは植民地を囲む柵を視察した。


 トップ台の歩哨が眠りこけていた。

 足元から小さな石を広い、ドクオは眠りこける歩哨に向けて投げ上げた。
 石が歩哨の無帽の頭を直撃しても、彼は大鼾を上げて眠りこけたままだった。
 あきれ顔でドクオはその場を離れた。


 ふいに、門のほうからのんびりとした声が上がった。

「だれか、来まーす」

 ドクオは門楼のほうに駆けていった。

('A`)「だれだ。ヒッキーか?」

「いえ、原住民のようでーす」

 門衛が間延びした声で答えた。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:45:04.40 ID:OKAO9iRtP

 ドクオは門楼のはしご段を駆け上がった。
 回廊上に出て、門衛の隣の見張り台につく。

 カンテラの明かりを差し渡しながら、門衛が言った。

「女、みたいっすね。忘れ物かなあ」

 あたりは暗く、駆け寄ってくる人物の顔がよくわからない。


 人物が門のすぐ下にまで来たとき、ドクオは軽く衝撃を受けた。

 その人物はデレだった。
 明らかに様子がおかしい。髪がふり乱れ、首にかけていた装身具が引きちぎれている。
 
 デレは門の下からドクオを見上げた。
 切羽詰った顔で、瞳は危険を訴えていた。

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:47:06.35 ID:OKAO9iRtP

('A`)「門を開けろ」

 ドクオは門衛に命じた。

「は? ですが、しかし」

('A`)「少しの間だけだ。あの女を中に入れたらすぐに閉めろ」


 ドクオは梯子を駆け下りた。
 わずかに開いた大扉の隙間をくぐってデレが中に入り、そのままドクオの腕の中に倒れこんだ。

('A`)「デレ、どうした」

 デレの背中に手を回し支えて、ドクオは問うた。

 ドクオのすぐ間近でデレの顔が上がった。
 瞳は恐怖で見開かれていたが、その唇はただ震えるばかりで、何も言葉を発しなかった。


 デレの背後で大扉が再び閉じられて、鈍い音がした。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:49:06.40 ID:OKAO9iRtP

 歩哨を率いて巡回していたロマネスクが、ドクオに近づいてきた。

( ФωФ)「…どうしたんで?」

 ドクオはデレを支えつつ、顔だけをロマネスクに向け、
 困惑した表情で首を振った。


 ロマネスクはデレに近寄り、その肩を持ってドクオから引き剥がそうとした。

( ФωФ)「嬢ちゃん、悪いがな、祭りはもう終わったんだ。
       この砦は夜はお客さんを入れてはならねえって決まりが…」

ζ(゚- ゚ζ ジョルジュ

 ようやくデレは、それだけを言った。

('A`)「ジョルジュ? あの…君の護衛の若者か?」

( ФωФ)「そいつがどうかしたのかい?」

 デレの様子がおかしいことに、ようやくロマネスクも気づき、
 小さく震えている彼女の肩に手をかけたまま、じっと彼女の言葉を待った。
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:51:42.31 ID:OKAO9iRtP

 彼らの頭上でがたがたと音がした。
 門楼監視員が突然立ち上がった気配だ。

「ド、ドクオ艦長!」

 切羽詰った声が、門楼の上でドクオを呼んだ。
 ドクオとロマネスクは顔を見合わせた。

('A`)「デレ、とりあえず俺の家にいろ。すぐに行く」

 ドクオはそういい残して、門楼の梯子を上がっていった。


 訴えかけるような視線でドクオの背中を見ているデレに、ロマネスクは声をかけた。

( ФωФ)「すまねえが、ここから退いてくんねえかな。嬢ちゃん。
       ここにいられると歩哨のジャマになるんでね。
       愛しい艦長さんの家はわかるだろ? あっちだ」

 ロマネスクは言って、デレの体をぐいっとドクオの家に向けると、その背中を押し出した。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:54:10.32 ID:OKAO9iRtP

('A`)「おい、どうした」

 はしご段の上で言葉も無い門衛に声をかけると、彼は黙って震える指先を森のほうに向けた。
 ドクオは指差されたほうを見て、恐怖に陥った。

 体を黒く塗った恐ろしげな戦士たちが、森の端から続々と現れていた。


 先頭の野蛮人は、白骨化した頭蓋骨と思われるものを串刺しにした槍を掲げていた。

 戦士たちの集団はいまや隠れようともせずに、
 森と砦とを隔てている広い平原を、どうどうと歩み寄りつつあった。

 手に手に棍棒や槍といった武器を持っているのが見える。
 脂でよく磨かれたそれらは、カンテラの遠い明かりを受けて、ぎらぎらと妖しく黒光りした。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:56:06.16 ID:OKAO9iRtP

 ドクオは門楼の内側の柵に取り付き、植民地に向かって大きく叫んだ。

('A`)「戦闘配置ー!!」

 真下にいたロマネスクがびっくりして振り返った。
 すぐに彼は我に返り、「戦闘配置ー!」とドクオの命令を復唱した。

 声から声に命令は伝えられた。
 祭りで使われてまだ覆いもかけられていなかった太鼓が、ドロドロと打ち鳴らされた。

 家々からあたふたと水兵たちが飛び出してきた。
 倉庫の武器箱が広場に持ち出され、たちまち空になった。
54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 22:58:35.46 ID:OKAO9iRtP

 水兵と海兵隊員たちが急いで自分の部署に取り付いた。
 クーもフサと共に、あらかじめ決められていた海兵隊のポストについた。


 ニューソク側にとって、状態は思わしくなかった。
 ある者は足元も怪しいくらいに酔っ払っており、柵の上の回廊に上ることは不可能だった。
 武器も不足していた。ある者はカトラスのかわりに、手近に置いてあった大工仕事用の手斧で武装していた。

 ロマネスクが門楼に上がってきて、ドクオの隣についた。

( ФωФ)「どうします」

('A`)「様子見だ。マスケット銃は全部装填しておけ。だが俺が撃てと言うまで撃つな」

 ロマネスクはまだドクオを見ていた。ドクオは続けた。

('A`)「こちらは原住民側より人数が少ない。おまけに今は酔っ払いばかりだぞ。
   守りを固めるんだ。砦の門は閉め、閂を完全にかけろ。誰も外に出るな。
   兵を回廊に上げて、なんとか壁を守るんだ」

( ФωФ)「アイ、サー」

 伝令が壁の左右に走り、回廊の上の水兵たちに、守備命令が人から人へと伝えられた。

56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:00:44.17 ID:OKAO9iRtP

 恐ろしげな蛮族の戦士たちは、砦から200メートルほどのところで前進を止め、一塊になって円を作った。

( ФωФ)「マスケット銃の有効射程外ぎりぎりです。奴ら、文明人との戦い方を知ってます」

 ロマネスクがドクオの隣で言った。


 遠くに見える原住民たちの顔がとつぜん明るく照らされた。
 彼らの輪の真ん中で火が灯されたのだ。

 数人の戦士が、手に持ったたいまつに火を移した。
 野蛮人たちの円陣に炎の輪ができた。

('A`)「火矢に備えろ。消火バケツを回廊に上げろ」

 ドクオが門の前で待機している水兵に命令した。


 やがて、原住民たちの周りにもうもうたる煙が立ち込め始めた。
 それは白くて分厚いもので、彼らの輪の真ん中にある焚き火から立ち上っているものらしかった。

 戦士たちは煙を扇ぐように自分のほうに寄せて、さかんに吸い、また塗るように体に擦り付けている。
 不思議そうにその光景を見つめているドクオに、古参水兵ロマネスクは隣から声を掛けた。

( ФωФ)「新大陸の蛮族どもは戦いの前に麻薬――コカの草を煙にしていぶして、
       気分を高揚させて、痛みと恐怖を忘れる…って、あっしは聞いたことがありやす」

 ドクオは眉をしかめた。

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:03:06.04 ID:OKAO9iRtP

 戦士たちが踊り始めた。
 彼らは皆で裏声の奇声を張り上げて、焚き火の周りを円になったまま、
 神がかりにでもなったように踊り狂っていた。

 ドクオは望遠鏡を取り出して戦士たちの数を数えて、その戦力を測っていた。

('A`)「ずいぶん多いな。百人を超えているぞ。
   デレの部族の若者は、せいぜいが六十人ほどだと思っていたが」

( ФωФ)「どっかのお友達の部族でも連れてきたんじゃねえっすかね。
       野蛮人どもは、俺達がここにいることがよっぽど気に食わなかったんでしょ」

('A`)「他部族にまで召集をかけたのか。するとやつら、本気だな。
   祭りの晩を狙って兵隊を集めるとは…。くそっ!」

 ドクオは背筋を伸ばしたまま、刀の柄を強く、ぎゅっと握り締めた。

 戦士たちはあいかわらず、棍棒や槍を振り回して叫び、
 麻薬を含んだ煙に包まれて踊り狂っていた。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:05:04.27 ID:OKAO9iRtP

 ほら貝が鳴った。
 低くおぞましい音がして、あたりの雰囲気が一変した。

 踊り手たちの輪の中から戦士が一人出てきた。
 ドクオはその様子を望遠鏡で眺めた。

('A`)「ジョルジュだ」

( ФωФ)「ジョルジュ? 何ですかい、それ」

('A`)「あいつらの部族の戦士長だ」


 ジョルジュは高い鷲のような帽子を被り、全身にきらきらとした飾り紐を纏っていた。
 太く大きな棍棒を掲げて、何事かやかましく叫んでいる。
 それを囲む戦士たちから、絶え間なく奇声が上がっている。

 彼らの口のまわりには白い泡が張り付き、全員の目がらんらんと見開かれ、焚き火の炎を反射している。
 もはや彼らの精神は恐ろしく高揚して、正気ではなかったのだろう。

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:07:05.07 ID:OKAO9iRtP

 原住民の低い太鼓の連打が始まった。

 ジョルジュが何か合図をした。
 全身を毛皮で覆った、神官と思われる戦士が、一本の綱を引いて、円陣の前に進み出た。

 綱の先には人が括られていた。
 首輪のように輪っかが首につけられ、それに結ばれた綱を神官は引いていた。


 望遠鏡を覗いていたドクオが、困惑して立ち上がった。

( ФωФ)「何です」

('A`;)「ヒッキーだ」

 ドクオはロマネスクに望遠鏡を差し出した。
 ロマネスクも、縄で首輪に繋がれた人影がヒッキーであることを確認した。

65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:10:32.90 ID:OKAO9iRtP

(-_-)「た、助けてーっ…!」

 砦に向かってヒッキーがニューソク語で叫んだ。
 その悲痛な叫びは、おどろおどろしい雑音に混じって、砦まで届いた。

 回廊の上の水兵たちにどよめきが走った。
「捕らえられているのはヒッキーか?」
「ヒッキーだ。白人だ。ニューソク人だ…」


 ヒッキーの周りを取り囲んだ蛮族戦士たちが、手にした棍棒で好き放題に彼を小突き回していた。
 突かれるたびにヒッキーはよろめいていたが、倒れようとすると綱を引っ張られて、また立たされる。
 首を絞められて引き上げられて、ヒッキーは激しく咳き込んでいた。

 仲間がいたぶられるのを見せ付けられて、砦に篭るニューソク人たちが、いっきに殺気立った。


「艦長! ヒッキーを…!」

 回廊のどこかから声が上がった。
 銃手はマスケット銃の照準をぴたりと戦士たちに向けた。

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:12:10.19 ID:OKAO9iRtP

('A`)「だめだ、まだ出るな。やつらはああして、我々を砦からおびき出そうとしているのだ」

「ではせめて、発砲許可を…」

('A`)「だめだ。お前の賢いマスケット銃の弾は、この超遠距離射撃の中でも、
   うまくヒッキーを避けて野蛮人どもに当たりに行ってくれるってのか」

「じゃあ、俺達、どうやってヒッキーを救ったら!」

 悲鳴のようなきんきん声で、水兵の誰かが言った。

('A`)「救出は必ず行う。それが可能であるという目処が立ったら、直ちに」


 門楼要員が歯噛みした。
 ロマネスクがどこからともなくマスケット銃を持ち出して、柵越しに構えていた。

 どこからか不平を言う声が、二、三飛び出した。

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:15:14.60 ID:OKAO9iRtP

 ヒッキーは砦に立てこもるニューソク人たちの目の前でいじめられ続けた。
 原住民の太鼓の音、彼らの上げる気ざわりな奇声、戦士たちの恐ろしい踊り…。
 そして、眼前で拷問を受ける仲間に、何も出来ない自分たち。

 柵の上の水兵たちは、次第にいらいらを募らせていっていた。


 ドクオは動こうとしない。
 望遠鏡を覗き、戦士たちの詳しい様子を見るのみだ。

 ときおりヒッキーの救いを求める悲鳴が、戦士たちの奇声の合間から聞こえてきた。
 彼はそのたびに棍棒の先で激しく小突かれて、悲鳴はおかしな形に中断されていた。

 怒りをあらわに柵を拳で叩く者も、目をそらし、耳をふさぐ水兵もいた。
 誰もがヒッキーを救い出す方法を必死で考え、歯噛みした。


「おい、そういや、この砦にもいま、原住民が一匹来ているんだったな…?」

 回廊のどこかで誰かが、低く押し殺した声でそう言った。
 たちまち辺りの水兵たちの間には、不穏な空気が漂った。
 目と目で会話しあい、頷きあった。

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:20:06.65 ID:OKAO9iRtP

 植民地の内側で女の悲鳴が上がった。
 聞き覚えのある声にどきりとして、ドクオは振り返った。

 髪をわし掴みにされたデレが、引きずって回廊の上に上げられようとしていた。

 デレはその手から逃れようと体をくねらせていたが、数人の屈強な水兵に手足を拘束され、
 たどたどしいニューソク語でただ虚しく哀願の声を上げるだけだった。


('A`)「そこ! 何をしとる!!」

 ドクオは回廊の上を駆けて、今まさにデレが引っ張り上げられようとしている梯子段に駆け寄った。

 ちょっと間を置いて、それからデレの頭を掴んでいた水兵がためらいがちに報告を始めた。
 ドクオはそれを怒声で遮った。

('A`)「このくそったれ共め! 女を元の場所に戻せ!!」

「アイ、艦長。自分らは、仲間であるヒッキーを救出するための、より現実的で穏やかな手段があれば、
 直ちにこの女を『艦長の自宅』に戻す所存であります」

 一等水兵が脇から出てきて、こんどは毅然と胸を張って言った。
 そのまわりを取り囲む水兵たちが、一等水兵の言葉に口々に賛同の意を述べた。

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:23:39.91 ID:OKAO9iRtP

( ФωФ)「艦長。交渉のために彼女の身柄を使うということであれば、これは捕虜交換です。
       国際法上も道義上も問題の無い行為です」

 ドクオに追いついたロマネスクが言った。
 ドクオは振り返り、彼をにらみつけた。

 だが、いまや水兵たちの不満が爆発寸前なのは明らかだった。
 回廊の上に居並ぶ水兵たちも、ほとんど敵意と言って良いような鋭い目線を、ドクオに注いでいた。

 彼らの目から見れば、ドクオは私情によってデレを庇っている、
 仲間であるヒッキーの身の安全より自分の愛人の心配をしている、と思われているのだろう。

 マスケット銃射手が、銃口を下げながらも、ぎらつく銃身をドクオのほうに向けていた。
 原住民たちの騒がしい奇声が響いているにもかかわらず、ドクオの周りは緊迫し、静かだった。

 じりじりとした時間が過ぎた。


('A`)「…捕虜を丁重に扱え。危害を加えることは厳禁する!」

 それだけを言うのが、やっとだった。

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:27:40.43 ID:OKAO9iRtP

 泣き叫ぶデレは、数人の水兵に担ぎ上げられ、梯子段から回廊の上へと投げ込まれた。


「おい、聞こえるか、野蛮人ども!!」

 一等水兵がニューソク語で叫んだ。
 そして持ち上げたデレの腕を固めて、回廊から柵を超え、外に向かって突き出した。

 五メートルほどの高さから虚空に突き出されたデレは、下を見て戦慄し、空気を切り裂く悲鳴を上げた。

 踊り狂っていた戦士たちの目が、一斉に柵の上のデレに注がれた。


「おとなしく俺達の仲間を返して、いますぐに武器を捨てて、森の奥にすっこみやがれ!!!
 さもねえと、お前らの薄汚ねえズベ公を壁から突き落とすぞ!!」

 一等水兵の汚いニューソク語がさらに飛んだ。
 壁際で背中を押され、蹴られ、腕を強く揺さぶられたデレの切羽詰った悲鳴が、それに重なった。


 戦士たちの太鼓と奇声と踊りが、止まった。

83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:31:02.21 ID:OKAO9iRtP

 それはあっけない出来事だった。
 ジョルジュの持つひときわ大きな棍棒が、ひと振り弧を描いて、ヒッキーの頭上に打ち下ろされた。

 グシャッという鈍い音が、回廊に詰め掛けたニューソク人たちにまで届いた。
 片方の眼球が勢いよく飛び出したのが見えた。

 首に輪をかけられたヒッキーは、ゆっくりと、膝から崩れ落ちた。



 吼えるような叫び声がニューソク砦から上がった。

 ロマネスクが柵を乗り越えて、外側に飛び降りた。
 両足でしっかりと地面を掴み着地すると、そのまま手にしたマスケット銃を振り上げて、
 野蛮な戦士たちの輪に向かって駆けていった。

88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:34:50.35 ID:OKAO9iRtP

 壁の上で一斉にマスケットの発砲音が響いた。
 戦士の輪から二人ほどが崩れ落ちた。

「ロマネスクを殺すな!」どこかで声が上がった。

 門楼要員が閂を開けた。
 何人かの水兵たちはロマネスクを追って柵から飛び降りて、
 他の者は争ってはしご段を下り、開け放たれた門を通って戦士たちに向かい殺到した。
 激しい怒りで、ニューソク人たちの酔いはすっかり醒めていた。


 ところで柵を超えて突き出されていたデレの体は、
 既に唯一の支えである一等水兵の手が離されて、五メートルの高さの宙に舞っていた。

 飛び降りるニューソク人たちと共に、彼女の体はしたたかに地面に落ち、打ち付けられた。


 そのまま倒れ臥した彼女の姿は、雪崩を打って敵に向かうニューソク人たちの足の下に消えた。

91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:36:24.59 ID:OKAO9iRtP

 迫り来るニューソク人たちを前にして、原住民は恐ろしい行動を取った。

 彼らはヒッキーを解体した。
 手足にすばやく石のナイフを入れて切り離し、それをいくつにも引きちぎって戦士たちは貪り食った。
 胴体からは内臓が引き出され、剥がされた。

 ジョルジュは砕けたヒッキーの頭部に手をつっこんだ。
 脳をひとすくい取り出すと、それを両手で自分の口の中に?き込んで、
 それから天に向かって祈るようなしぐさをして、長く太く、雄叫びを上げた。


 ロマネスクが蛮族の輪にたどり着いた。
 突き出される槍を掻い潜って、重いマスケット銃の銃尾を振り、戦士をひとり殴り倒した。

 続いてフサ率いる海兵隊が、喚声とともに、戦いの輪に踊りかかった。

 先頭に立ったフサがカトラスを掲げて戦士たちの中に斬り込んでいった。
 クーも同じように、大人用のカトラスを両手で持って、斬りこんだ。
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:42:51.26 ID:OKAO9iRtP

 一人の戦士がクーに石斧で殴りかかってきた。

 蛮族戦士は恐ろしげな容貌だった。
 目は麻薬のために血走り、瞳孔が真っ黒に開ききっている。
 全身に豹のようなまだらの白と黒の刺青をしており、口元にはヒッキーの生肉を咥えたまま、
 その両脇から真っ赤な鮮血が滴り落ちていたのだ。

 クーは身をかわしざま、石斧の柄をカトラスで受け止めた。
 次の瞬間、信じられない、人間を超えた力が、カトラスを持つクーの両手に伝わった。
 カトラスは高い金属音を立てて、あっけなくクーの手から離れ、飛んだ。

 すかさずクーは袖の中から二本のナイフを取り出して、投げる。
 それらは正確に戦士の肩に当たり、細かく振動しながら突き立った。

 戦士は、にまあ、と笑うと、血まみれの手で自分の肩に刺さったナイフを掴み、抜き捨てた。
 肩口から血が噴出したが、彼はまったくそれを気にするそぶりを見せない。
 麻薬で痛みが麻痺しているのだ。

 原住民はもう一度、石斧を振り上げた。

 クーは戦慄した。ナイフはもう無い。
 武器をすべて失ったクーは、恐怖にかられ、そのまま敵に背中を見せて逃げ出した。
98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:46:30.88 ID:OKAO9iRtP

 顔なじみの海兵隊員が近くで戦っていた。
 クーはその陰に逃げ込もうとした。

 だが、隊員の背中から不自然に細い棒が突き出ていることに、クーは気づいた。

川;゚ -゚)「あっ!」

 投槍だ。どこかから飛んできたのだ。
 クーは崩れ落ちる隊員を背中から支えた。そして、そのおぞましい野蛮な武器を抜き取ろうとした。
 だが鏃には返しがついていて、それが背中に引っかかり、隊員は激痛に身をよじり、暴れた。


 さっきの戦士はまだクーを追いかけていた。
 彼は隊員とクーの前に立ち、追い詰めた獲物をいたぶるように笑って、ゆっくりと石斧を振りかぶった。

 クーは隊員の腰に挿さっていたピストルを引き抜いて、ろくに狙いも定めずに撃った。
 雷鳴のような音とともに、ピストルは反動で跳ね上がり、クーの手から離れて後ろのほうに飛んで行ってしまった。
 思わずクーは目をつぶり、首をすくめた。

 硝煙の煙幕が晴れると、左胸の心臓付近を大きな鉛弾にえぐられ潰された戦士が、
 胸元からゾンビのように血を高く噴き出しながら手足をばたつかせ、あおむけに倒れていた。
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:48:31.88 ID:OKAO9iRtP

 ドクオも戦っていた。
 サーベルを振るい、戦士たちを着実に打ち倒しつつ、一人の目標に向かって進んでいた。

 ひときわ大きな体格で目立っている、ジョルジュのところへ。


 ジョルジュがドクオに気づいた。
 ドクオはサーベルと腕を水平に構え、切っ先をジョルジュに向ける。
 ジョルジュもそれに応じて、大きな棍棒を両手で持ち、ドクオに対峙した。

 刹那、裂帛の気合とともに、ジョルジュが棍棒を上げ襲い掛かった。

 だがそれは、蛮族にありがちな、勢いだけはあっても直線的で単純な、読みやすい動きだった。
 少なくともドクオにはそう見えた。

 洗練された剣技が、冷酷にジョルジュを襲った。
 ジョルジュのむき出しの腹筋が鋭い鋼鉄に切り裂かれ、返す剣先が右腕を半ばから切り落とした。

 棍棒がジョルジュの手から落ち、
 つづいて白い糸のようなものを引きながら、腕自体がジョルジュから、ずるりと滑り落ちた。

104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:50:49.49 ID:OKAO9iRtP

 ドクオは血の滴るサーベルの剣先をぴたりとジョルジュの喉元に擬した。
 荒い息をあげて、ジョルジュとドクオはふたたびにらみ合った。

('A`)「戦士たちを、鎮めろ」

 ドクオは覚えたての現地語で、ジョルジュに言った。


 ジョルジュはドクオのサーベルの刀身を、残された左手で掴もうとした。
 だが、それより早くサーベルは無慈悲に前に進み、ジョルジュの喉仏を切り裂いて、貫いた。

 ジョルジュはサーベルの刃を素手で掴み、喉から血を噴き出させて、それでもなお、立っていた。

('A`)「膝を屈して生きるよりは、自由のままの死を選ぶのか」

 サーベルの上の顔が、にまりと口角を上げた。

 ドクオは手首を返し、ジョルジュの首を跳ね飛ばした。


 胴体から噴水のように吹き上がる血で、紺色の海軍士官服の左半分が、血で染まっていった。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:53:08.96 ID:OKAO9iRtP

 戦いの流れは、それで決した。
 戦士長の死を知った現地人の戦士たちは、一人、また一人と、背中を見せて逃げ始めた。

 戦士たちの投げ捨てた松明がところどころの下草と潅木に燃え移っていて、
 戦いの平野は炎で明るく照らし出されていた。

 負傷者のあげるうめき声と、鼻を突く鮮血と生肉の臭いが、先ほどまでの戦場を覆っていた。


 蛮族は去った。
 まともに戦える蛮族の戦士は、もうみな逃げ去ってしまい、平原には負傷者だけが残された。
 まだ息があって下草の中でうごめいている戦士を、ニューソク人たちは次々に見つけ出し、とどめを刺していった。

('A`)「左舷直の者は銃を持って周囲1リーグに歩哨に立て。残りは負傷者を収容しろ」

 ドクオは手近の下士官を捕まえて、命令した。

 負傷者の収容作業が始まった。
 血にまみれて倒れているニューソク人たちを、壁の下まで引きずってきて、軍医の手にゆだねる。
 スカルチノフが助手を何人も使ってあちこち行き来していた。

 ドクオが壁際の負傷者を視察に来た。
 損害は大きかった。重傷の者だけでも十人以上はいるようだ。
 ニューソク植民地は現在、五十人ほどの人間しかいない。
 これに死者も出ていることを考えると、この戦いは、大変な人的損害をもたらしたことになる。

109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/08(月) 23:55:05.94 ID:OKAO9iRtP

 ふとドクオは、壁際の下生えの一部が動いたことに気づいた。


 草丈の長い下生えの中から、ゆっくりと誰かの体が起こされた。
 デレだった。

 ドクオは電気に打たれたように、デレに駆け寄った。

('A`)「デレ! 無事で…」

 デレは駆け寄るドクオを見ると、まるで知らない者でも見るような目つきで、
 恐怖を顔中に浮かべて、座ったままあとずさった。

 ドクオは自分が血まみれの士官服を着ていることに気づいた。
 そこで、できるだけやさしげな動作をするように心がけて、ゆっくりとデレに右手を差し出した。

 デレは呆けたように立ち上がると、びっこを引いてドクオから遠ざかった。
 そしてドクオに背中を向けると、森の、彼女たちの村のほうへ、デレはひょこ、ひょこと歩いていった。


 凄惨な戦いに殺気だったニューソク人たちでも、さすがにデレに刃を振るおうとする者はいなかった。
 死体運びの作業の中を、デレは一人うつろな顔で、足を引きずって反対側に歩いていった。

114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:00:22.99 ID:X2TnqfqwP
三.


 恐ろしい戦いの夜が明けた。
 砦の誰もが一睡もしていなかった。


 太陽が高く上ってから、ドクオは原住民の村を訪れることにした。

('A`)「デレの話だと、ジョルジュという若者は、その過激な思想で王から疎まれていたらしい。
   部族の急進派だけが勝手に起こした騒ぎだというのなら、
   まだ彼らの王とは和平交渉の余地がある」

 といって、ドクオは原住民への贈り物を用意させた。

 五人の海兵隊員が、護衛のために村行きに付き従うことになった。
 フサとクーは、その護衛メンバーに入った。


 穀物や銅の鍋といった贈り物を持って、
 一行は晴れあがった空の、通いなれた森の道を歩いた。
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:02:46.78 ID:X2TnqfqwP

 一行の期待に反して、原住民の村には誰もいなかった。もぬけの殻だった。
 人の住む気配すら、そこからは掻き消えていた。

('A`)「偵察を行う。何が起きているのか、確かめる」

 ドクオは刀を抜いて、警戒して村の中に入り込んでいった。
 付き従う海兵隊員もカトラスを抜き、マスケット銃を構えて、進む。


 王の屋敷の前まで来たとき、血の饐えたような臭いがふわりと漂ってきて、一行の鼻をついた。
 ドクオは狭い入り口から王の小屋に飛び込んだ。

 王は、玉座で頭を砕かれ、死んでいた。

 左側の席では老人たちが同じように壊されて死んでいた。
 全身に槍が突き立ち、頭も胴体も、ぐしゃぐしゃに壊されていた。

 血とわずかに腐った肉の臭いがして、蝿が無数に小屋の中を飛び回っていた。
 一人の海兵隊員が嘔吐した。

 クーもこみ上がってきたものを吐き出すまいと、必死に口の中を押さえ込んだ。
 みんな逃げ出るようにして王の館から這い出た。

120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:05:38.47 ID:X2TnqfqwP

 一行は村の中心に出た。

 村の広場からは一方向に足跡がついていた。
 無数の人間が足を引きずって歩いた後だ。
 血も、点々と残されていた。


('A`)「足跡をたどり、原住民たちの行き先を確認する」

 ニューソク人の一行は、恐ろしい形相をしたドクオの先導で、その足跡を追った。
 足跡の筋は白樺の森の中をまっすぐに進んでいた。

 進むにつれドクオの顔がますますゆがみ、クーの表情にもだんだんと陰が差していった。


 誰も何もしゃべらなかった。
 フサですら真面目な顔をして、手にしたマスケット銃を構えつつ、無言で歩いていた。
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:08:08.83 ID:X2TnqfqwP

 そして、たどり着いた。
 クーとドクオの嫌な予感は、まるまる当たっていた。

 足跡の続くその場所は、最初にデレに連れられて彼らがやってきた「崖」だった。


 青空はあの日と変わらずそこにあった。
 初秋とは違い、冬の訪れを感じさせる薄い白雲がたなびいているものの、
 よく晴れた一日にふさわしく、やわらかな陽光が丘の緑一面に降り注いでいた。
 崖のはるか下では、波の怒涛が岸壁に打ち寄せる音がしている。



 原住民たちの足跡は崖先までまっすぐ続いていた。
 そして、そこで途切れていた。
 はさみで切ったように、ぷっつりと途切れていた足跡の筋。

 あれだけ行きの足跡はあったのに、崖先から帰ってくる足跡は、一つもなかった。
129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:10:24.70 ID:X2TnqfqwP

 崖の高まった先端に、座り込んだデレの後ろ姿が見えた。
 それは、崖の入り口から見れば、やはり空に浮いているように見えた。

 いつから彼女はそこにいるんだろう。
 呆けたように背中を見せて、ぴくりとも動かず、ただ海のほうを眺めていた。



 ドクオも海兵隊員も、誰も崖の先まで行って、下を覗いてみようとする者はいなかった。
 ただ、崖の入り口に立ちすくみ、空だけを眺めて、無言で立っていた。
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/09(火) 00:12:09.58 ID:X2TnqfqwP

 クーは自分が泣いていることに気づいた。
 青い空のまんなかに座り込むデレの背中を見て、いつのまにか、クーは涙を流していた。






 これでデレは、私とおなじ、ひとりぼっち。










第九話 ここまで―――

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