3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:06:20.60 ID:zoXhFjqQP


 波が白い浜を洗う。

 波が引くたび、長い黒髪が沖のほうに流される。





   川 ゚ -゚)は探しているようです  第七話

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:10:41.94 ID:zoXhFjqQP

 秋の風が砂浜に吹き渡った。

 砂浜には雑多なものが打ち上げられていた。
 それは、嵐があったことを物語るものだった。

 だが今は、海は静かさを取り戻していた。
 茶色い海草、白くてささくれだった腐木の切れ端、石ころ、大小の魚などが、
 浜辺に打ち上げられ、おだやかな波に洗われていた。


 それらに混じって、波打ち際に、一人の人間の小さな姿があった。


 人間は動かなかった。
 なにかに乗りかかるようにして、うつぶせに倒れている。

 朝の光が、その小さな濡れそぼった体をきらきらと照らし出し、穏やかに暖めていた。
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:13:12.48 ID:zoXhFjqQP
一.


 一頭の狼が砂浜の端に姿を見せた。


 銀色の体毛に覆われた狼は、せわしげに息をしながら、
 軽やかな足取りで砂浜に四つずつの足跡を進めている。

 狼は浜に打ち上げられた漂着物ひとつひとつに鼻を近づけて臭いを嗅ぎ、正体を確かめている。
 ある石ころは前足でつつき、ある流木には戯れにその鋭い牙を立てて遊んでいる。


 倒れている人間を見つけたとき、狼の動きが止まった。

 少しの警戒を、ぴんと立てたひげの張りにあらわして、
 狼はゆっくりゆっくり、その四本の足を人間に向かって進めた。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:16:13.81 ID:zoXhFjqQP

 狼は倒れている人間に鼻を近づけた。
 それから、その周りをゆっくりと回って、観察した。


 ふと、遠くで人の声がする。
 狼はその頭を上げて、声のしたほうを見た。


 砂浜すぐ近くまで迫っている白樺の林から、褐色の肌をした少女が駆け出た。

 少女は簡単な皮の衣服を身に着けていた。
 黒い髪を一つにまとめ、緑色の宝石が飾られた髪飾りで束にしている。

ζ(゚ー゚*ζ ・・ ・・・・ ・!

 少女はまた何事か声を上げると、砂浜の狼のほうに楽しげに駆け寄っていった。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:17:50.50 ID:zoXhFjqQP

 うずくまる銀色の狼に間近い距離に来たとき、少女は狼が何を見つめていたのかを知った。


Σζ(゚Д゚;ζ


 少女は倒れていた小さな人間に駆け寄った。
 両脇を抱えて引きずって、波の届かない砂浜にまで上げた。

 背中を叩いて水を吐き出させた後、
 仰向けに寝かせて手足を整え、楽な姿勢をとらせる。


 そこまでやった後、少女はふと考えた。

 この見慣れない服を着た小さな女の子は何者だろう。
 肌の色からして、自分たちの仲間でないことは確かだ。


ζ(゚、゚*ζ ……


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:19:47.37 ID:zoXhFjqQP

川  - ) ん…

ζ(゚、゚*ζ !!

 女の子がわずかな唸り声を上げた。
 褐色の肌の少女はいそいで腰の皮袋を取り出し、中の水を女の子の口に少し含ませ、顔にかけた。

 目が開いた。


川 ゚ -゚) ……

ζ(゚、゚*ζ ……


 クーは、自分を覗き込む褐色の顔と黒い瞳を、ぼんやりと眺め上げていた。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:23:12.80 ID:zoXhFjqQP

川 ゚ -゚)「…誰?」

 いまだ朦朧とした頭の中から、クーは言葉を紡ぎだした。

 クーが口を開いたのを見て、褐色の少女は笑顔になった。
 矢継ぎ早に言葉を繰り出して、クーに語りかけてきた。

ζ(゚ー゚*ζ ・・・・ ・・ ・・・・・・ ・・!

 だが、クーにはその言葉は、魔法使いの呪文の言葉よりもわからない響きだった。


 きょとんとしているクーに対し、
 褐色の少女は、こんどはいくつかの単語に区切った言葉を、ゆっくりはっきりと話し始めた。

ζ(゚、゚ *ζ コメスタ … アシャンテ … アー … デ ドデ …

川 ゚ -゚)(む)

 ほとんどがクーにとってわからない言葉だったが、
 「はじめまして」を意味するラウンジ語の一語だけは聞き取れた。

 ラウンジ語は、客が話しているのを聞いて、なんとなく耳に覚えがあった。
 赤薔薇亭にはラウンジ人の船員の客も多かったからだ。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:25:24.57 ID:zoXhFjqQP

川 ゚ -゚)「アー…アンシャンテ…」

 クーが言葉を返すと、褐色の少女はぱっと笑った。

ζ(゚ー゚*ζ ナ! エー ア ヴ ヴザプレ コモン! ドゥーネヴー?

川;゚ -゚)

 クーはめんくらった。
 ラウンジ語は単語くらいならわかるが、難しい文章となると、さっぱりわからない。

 だからクーはニューソク語で返事した。

川 ゚ -゚)「すまん、さっぱりわからん」

ζ(゚、゚*ζ

 クーのニューソク語が通じたとは思えなかったが、
 さっぱりわからん、という、クーの言いたいことは伝わったようだ。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:28:10.85 ID:zoXhFjqQP

ζ(-、-*ζ …ジェマペル デレ ドゥーロン

 褐色の少女は自分を指差しながら言った。

川 ゚ -゚)「マペルデレ?」

ζ(゚、゚*ζ ノン、デレ

 少女はもういちど自分を指差して、言った。

川 ゚ -゚)「デレ。ああ、デレって名前?」

 クーも少女を指差して言った。
 少女は微笑んだ。


 クーはこんどは指を自分に向けて言った。

川 ゚ -゚)「私はクー」

ζ(゚ー゚*ζ クー…

 クーもこくりと頷いた。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:30:35.95 ID:zoXhFjqQP

 人と話をしているうちに、だんだんとクーの頭がはっきりと働きはじめた。
 嵐の記憶が、よみがえってきた。

川 ゚ -゚)(そうだ、私はあのとき、嵐の海に飛び込んだんだっけな)


 クーは上半身を起こした。
 褐色の少女デレは、傍らに座った狼の首を撫で、にこにこしてクーを見ている。

川 ゚ -゚)「あーその…デレ、お前が助けてくれたのか?」

 クーはニューソク語で語りかけてみた。
 だがデレはにこにこするばかりで、何一つクーの言葉が伝わった様子はない。

 デレは腰の皮袋から黒く乾燥した何かを取り出し、クーに差し出してきた。
 なにかの干し肉のようだ。

川 ゚ -゚)「あ…ありがとう」

 にこにこして差し出されていたので、クーは受け取った。

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:36:21.39 ID:zoXhFjqQP

 デレは身軽に立ち上がると、クーにはわからない言葉でなにごとか発すると、
 くるりと身をひるがえし、白樺の林に向かって軽やかに駆け出していった。
 銀毛の狼がその後を追った。

 クーは砂浜にぼーっと座っていた。
 体を温めてくれる太陽の光が心地よかった。


 白い砂浜に波がよせ、返している。

 右手に持ったままだった干し肉を、クーは一口かじってみた。
 塩味と、複雑な香草の味わいがした。
 食べなれた味ではなかったが、おいしかった。

 くっちゃくっちゃと硬い干し肉をゆっくりかみながら、
 クーはぼんやりと水平線のほうを向いて座っていた。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:40:27.99 ID:zoXhFjqQP
二.


 昼ごろになって、何人かのニューソク人が、どこからともなく歩いて浜にやってきた。
 彼らはパートレム号沈没後、近くの岩場にボートで漂着したグループだった。

 仲間の白人に出会えたことが嬉しくて、クーはその水夫たちに駆け寄った。
 全く見知らぬ土地で完全な一人ぼっちは、やはり心細かったのだ。

 クーはその水夫たちの顔を知らなかったが、彼らはクーを知っていた。
「小さい女の子が軍艦の中にいたんじゃ、そりゃ目立つわな」と年配の男が言った。


川 ゚ -゚)「みんな何をしてるの?」

「このあたり一帯を探索しとる」

川 ゚ -゚)「探索?」

「とりあえず今夜落ち着く場所を探しとるんじゃ」


 ここからそう遠くない岩場のほうには、一人で流れ着いた者や他所に漂着して歩いてきた者など、
 十数人のニューソク人が既に集まっている、と年配の男は言った。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:43:34.78 ID:zoXhFjqQP

 夕方までに、二十人程度のニューソク人が三々五々浜辺に集まってきた。
 ロマネスクとヒッキーの顔が、その中にあった。
 二人とも疲れ果てて青い顔をしていた。

 近くの白樺の林から枯れ枝を拾ってきて、小さな焚き火が浜の中央に作られた。
 柴拾いにはクーも参加した。

 海に入っていた男が岩牡蠣を掲げて焚き火の輪に戻ってきた。
「牡蠣だ、大きいぞ」
 その声を聞き、腹を減らしていた男たちは浜辺の端の岩場に殺到した。
 ごつごつした岩に大きなムール貝と牡蠣がたくさん張り付いていた。


 日が沈んだ。
 男たちとクーは焚き火で貝を焼き、食べた。
「うまいな」
 みんな言った。

 嵐と戦った後でみんな腹ペコで疲れ果てているということもあったが、
 その牡蠣はまるまると身が太っていて、磯の香りが満ちて、ほんとうにおいしかった。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:45:35.47 ID:zoXhFjqQP

 日はとうに沈んで、浜辺は暗かった。

 夜闇の空に、嵐の後のきれいな空気に助けられ、星がちかちかと瞬いている。
 焚き火のゆらめく暖かい炎に、男たちのひげ面が映し出された。
 遠くの森でふくろうが鳴いた。

 秋の夜風は少し寒いが、焚き火で火照った体には気持ちよかった。


 やがて皆は思い思いの場所に横になり、薪を足す者も無いままに、焚き火の炎も小さくなっていった。

「ああ。俺達、まだ生きてるんだな」
 みんながまどろみかけた頃、だれかが、ぽつりと言った。

 乾いた服は暖かかった。
 横になってすぐに、クーは眠った。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:48:21.01 ID:zoXhFjqQP

 次の日、クーが目をさますと、薪を斧で叩き割っているフサがいた。
 最初にフサを見つけたとき、クーはどこか心温まるものを感じた。
 無事だったか、と安堵した。

ミ,,゚Д゚彡「煙が見えたんでな。この浜辺まで歩いてきた」

 フサは、かなり離れた場所の珊瑚の上に漂着していたのだそうだ。


 岩場に早朝の釣りをしに出かけていた連中が戻ってきた。
「服の止め具を釣り針に、破れた袋で釣り糸を作ったのさ」
 そういって、釣り上げた魚を自慢げに浜の連中に見せびらかした。

 皆はわずかな魚と貝を、きっちり平等に分け合った。
 食料をびしっと人数分に割るのは海軍の伝統だった。


 朝食を食べ終わると、一行は少ない荷物をまとめて浜辺を発ち、内陸へと向かった。
 砂浜よりももっと住み良い場所に移動するのだ。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:49:56.88 ID:zoXhFjqQP

 そこは、近くに小さな清流が流れている、丈の低い草がいちめんに生えている平原だった。

 先行して向かっていた一隊が、既に平原の中央に目印の旗を立てていた。
 ドクオが先頭に立って、建築に使う木材の伐採を指示していた。
 そのグループにはショボンの姿もあった。

('A`)「あっ、生きてたのか」

 ドクオは近くまで寄ったクーを見て、そっけなく言った。

(´・ω・`)「クー! ああよかった、生きていたか…」

 ドクオとは対照的に、ショボンはクーを見つけて、心からの安堵の表情を浮かべていた。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:52:29.84 ID:zoXhFjqQP

('A`)「入植地を作る」

 皆なんとなく、ドクオを指揮官と仰ぐ空気ができていた。

 集まったニューソク人の生き残りは総勢五十人ほど。
 その全員を前に、ドクオは指示を出した。

('A`)「まずは家だ。ここから八百メートル四方の木はぜんぶ伐採して、それで家を作る。
   それと、おっつけ難破したパートレム号の積荷が海岸に漂着しはじめるだろうから、可能なかぎり回収する。
   のこぎり、斧…大工道具はそこに入っているだろう」

 ドクオは男たちを三つの班に分けた。
 木を切り倒し建築を行う班、付近の探索を行う班、漂着物資の回収に当たる班。

 クーは探索班にまわされた。
 建築は重労働だし、また物資の樽はとても重たいからだ。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 19:57:07.81 ID:zoXhFjqQP

 その日から仕事が始まった。

 物資回収班は、漂着物が見つかるたびに、重い樽を二人がかりで抱えて、入植地まで運んでいった。

 海岸には壊れた船材の切れ端に混じって、樽や木箱がときおり漂着した。
 波にゆられてぷかぷかと岩場の影で上下していたりする。

 樽の中身はいろいろだ。
 穀物が入っていたり、割水前の五十五度のラム酒だったり、マスケット銃のための火薬だったりする。
 木箱のほうは工具や武器が中心だった。


 建築班も仕事を始めた。
 船大工が中心になって、切ってきた丸太を製材し、つぎつぎと家の形に作り上げていく。
 暖炉とかまどは積み上げた石で作り、壁は草と泥で塗りこめられる。


 クーたち探索班も成果をあげた。
 森、川、海岸線などを詳しく調べ上げ、付近の地図を作っていった。
 また星や太陽の位置で測量を行い、現在位置を確認し、本国から持ってきていた地図とつきあわせたりした。


 皆が黙々とただ働く中で、日々が過ぎた。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:02:45.72 ID:zoXhFjqQP
三.


 嵐で流された日から、一週間ほどが経った。

 入植地の形がある程度でき始めていた。
 簡単な建物の骨組みと、その屋根が出来上がっていた。


('A`)「来週からは、入植地の周囲に柵を作る」

 日暮れ時、ドクオはそう言って、自分のテントの中に入っていった。
 それが作業終わりの合図だった。


 赤い夕日の中で夕食の準備が始まった。
 クーは、薪置き場から入植地中央の大焚き火台まで、薪を運ぶ係だった。

 両手いっぱいに薪を抱えてちょこちょこと走り回るクーは、いまやこの入植地のちょっとした有名人だった。
 クーはパートレム号の生き残りの水夫たち誰からも愛されており、マスコットのように可愛がられていた。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:05:02.92 ID:zoXhFjqQP

 クーもこの頃、船員たちに対して素直に接するようになっていた。

川 ゚ -゚)(こいつらはあまりにも頭の中がからっぽだ。
     腹の探りあいをしなくていいから、気楽でいいや)

 最初のうちはそんなひねくれた考えで男たちに対応していたのだが、
 やがて彼らの、乱暴だが素朴で、裏表の無い態度に接するにつけ、
 クーは彼らに対して好感を抱き始めていた。

 荒野の辛い環境の中、わずかの人数で共に頑張りあって生き延びていく、という状況が、
 クーをそんな気持ちにさせたのかもしれない。

 ここでは、皆がきちんと仕事を持っていて、誰も怠けず、しかもどの仕事も大事なものだった。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:07:11.58 ID:zoXhFjqQP

 男たちが焚き火の回りに集まって、夕食が始まった。

 小麦粉を水で練ったものを薄く延ばし、焼けた石の上に置いてパンケーキを作る。
 森で取れた小動物の肉と、魚や貝などが串に刺されて、焚き火の上で炙られる。
 脂の焦げるいいにおいがあたりに立ち込めた。

 食べ物は平等な分け前になるように、厨師の手によって慎重に切り分けられた。

 クーは焼きたてのうさぎの肉にかぶりついた。
 塩がほどよく効いている。
 こげた部分の歯ごたえと、ほんのり付いた燻しの風味で、
 脂ののった秋の兎肉はじつに美味しかった。


ミ,,゚Д゚彡「おめえ最近、背が伸びたんじゃねえか、クー」

 向かいに座っていたフサが、兎肉をくちゃくちゃ噛みながら、クーに言った。

( ФωФ)「うん、伸びたな」

 クーが何も言わないうちから、ロマネスクが隣から口を挟んできた。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:09:20.21 ID:zoXhFjqQP

 クー自身それは感じていることだった。
 一ヶ月以上前に支給された少年兵用のいちばん小さい水兵服は、だんだん丈が合わなくなってきていた。

( ФωФ)「伸び盛りだからな」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、そんなトシか、こいつ…。最初はあんなにがりがりに痩せてたのにな」

川 ゚ -゚)「海軍ってやつは、食事だけはいい」

 手に持っていた骨付き肉の骨をぺろぺろとなめて、クーは言った。

ミ,,゚Д゚彡「食事か。まあ、質はともかく、量だけはたんとあらあな」

(-_-)「せ…成長……ヒヒ…」

 ヒッキーがじりじりと会話の輪ににじり寄ってきた。

( ФωФ)「なんだ、気味の悪い笑い方しやがって」

(-_-)「そ…そのうちチチも…成長…フヒ…フヒヒ……」

 クーは兎肉の骨をおもいきりヒッキーに投げつけた。
 甲高い音を立てて骨は額に命中し、ヒッキーは座ったまま後ろにどさりと倒れ落ちた。

 みんな大笑いだった。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:12:49.96 ID:zoXhFjqQP

 人影が遠くを横切った。
 焚き火の光がぎりぎり届くくらいの遠くの場所だ。

 遠目にも目立つ銀色の髪。ドクオだ。
 何かの用でちょっとテントから出ていたのだろうか。


 クーはふと思い当たった。

川 ゚ -゚)(そういえば、夕食の席であいつの姿を見たことが無いな?)


 テントに帰っていく長身の艦長の姿を、クーは目で追った。
 それに気づいたフサが、クーの目線を追い、おなじくドクオを見た。


川 ゚ -゚)「あいつ、夕飯を食わないのかな」

 クーは言った。

ミ,,゚Д゚彡「ん、いや、一人で何やかやと作って食ってるみたいだぜ」

川 ゚ -゚)「ふーん…」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:15:13.93 ID:zoXhFjqQP

 フサはクーのほうに身を乗り出して、小声で言った。

ミ,,゚Д゚彡「あのよ、クー、あんまりあいつに構うな。一人が好きなんだよ。
      あいつの孤独は昔から艦隊でも有名だった。余計なことはなんにもしゃべらない。人と付き合うのを避けてるんだ。
      妙なやつだよ。俺もみんなも、あいつのことは放っておいてる」

 クーはテントに入っていくドクオに視線を戻した。
 背中を向けていた。

 どことなく、放っておけないような気がした。


 クーは立ち上がった。
 ちょうど焼けた魚と、石で焼いたパンケーキを持って、ドクオのテントのほうに歩みだした。

ミ,,゚Д゚彡「…構わねえほうが、あいつも有難がると思うがな」

 焚き火からフサが声を掛けた。
 クーはかまわずその場を離れて行った。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:19:21.04 ID:zoXhFjqQP

 ドクオはテントの中で、ランプの光で、小さな本を読んでいた。
 クーが入ってきても顔を上げもせず、テーブルに肘をついて頁をめくっている。

川 ゚ -゚)「食べ物を持ってきた」

 ドクオは少し顔を上げると、クーの手に持たれた魚を一瞥した。

('A`)「ああ、ありがとう」

 それだけ言うと、また本の上に顔を沈めた。


 ランプに照らされるドクオ。
 繊細な顔つきで、その目にはまちがいなく知性のある印を秘めていた。
 なのに、誰とも心の交流を持とうとしない。

 彼の神経は常に張り詰めていて、くつろいでいるような感じがまるでない。
 彼のことを知らない者だったら、むっつりと黙り込んで、憑かれたように視線を動かさないでいるさまを見て、
 なにか怒っているのだろうか、と思わず考えてしまうかもしれない。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:21:05.83 ID:zoXhFjqQP

 食べ物をテーブルに置いてもまだ突っ立ったままのクー。
 ドクオはそんなクーにかまうそぶりを見せず、食べ物に手をつけるふうもない。


川 ゚ -゚)「ねえ、ドクオ」

 クーは声を掛けた。ドクオがわずかに反応した。

川 ゚ -゚)「なぜお前は、人を拒むの?」

('A`)「ん?」

 ドクオが本から顔を上げた。

('A`)「そんなこた、ない」

 返事は、それだけだった。
 ドクオはまた読書に戻った。


 クーはしばらくドクオを見ていたが、それ以上にかける言葉も見つからなかった。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:22:54.53 ID:zoXhFjqQP

 思い返せば、本ばかりを眺めているこの男と、クーは一ヶ月を牢で共に過ごしていた。
 その間、一度たりとも、このドクオという男から人間らしい交流の感情を感じたことはなかった。
 会話はほとんど無い。あっても一方的な問いかけか、事実を告げる発言のみだった。

 彼の前には常に壁があった。
 通り抜けることはおろか、その向こうを覗き見ることすらできない、厚く、冷たい壁が。


川 ゚ -゚)(この男に取り付いているものは、深く、底知れない孤独なのか?)

 クーは、そう感じていた。

川 ゚ -゚)(一体、何がこいつをこうさせているんだろう)

 そんなことを考えながら、クーはドクオのテントを出た。



 焚き火を囲んだ夕食の席は、配られた配給のラム酒によって、宴会になっていた。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:28:58.81 ID:zoXhFjqQP
四.


 次の日は朝から曇り空だった。
 植民地の主だったものがドクオのテントに集められ、会議が行われていた。


 探索班の班長が、造られたばかりの地図の説明をしていた。

「天測の結果、我々の現在位置が判明しました。ここです。
 いちばん近い白人の植民地村は、このラウンジ人植民地。徒歩で三日の距離です」

 クーも地図の説明に加わった。
 クーは近くにある原住民の村を、単独で偵察する任務をまかされていたからだ。

川 ゚ -゚)「原住民村は、動物の皮で作ったテントが、森の中にいくつも固まってあります。
     大きさとテントの数から言って、住人は三百人から五百人ほどだと思います。
     …もし戦いになれば、このニューソク植民地は、まけるでしょう。数で負けます」

 クーはそう報告した。
 皆の目は地図に注がれていた。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:31:07.94 ID:zoXhFjqQP

 次に口を開いたのは、運搬班の班長をしていたシナーだった。
 彼はその持ち前の怪力を買われ、少ない運搬班をやりくりして、なんとか仕事をこなしていた。

( `ハ´)「物資が決定的に不足してるアル」

 シナーは細かく数字のかかれた紙切れをテーブルに置いた。

( `ハ´)「戦いなんてとんでもないアル。火薬は一樽しかなくて、砲は一門も無し。
     火薬武器はマスケット銃とピストルが少しずつあるだけ。
     槍も斧も無い。刃物は、武器箱一つぶんのカトラスだけアル」

('A`)「ふむ。で、食料は? もうすぐ冬がやってくるが…」

( `ハ´)「そっちも思わしくないアル。
     引き上げた小麦二十二樽のうち、虫が湧いていたのが二つ、水に浸かっていたのが五つ。
     あとは水に浸かった干し肉と、ラム酒の樽が二つ」

ミ,,゚Д゚彡「冬越しどころじゃねえな」

 フサが言った。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:33:46.95 ID:zoXhFjqQP

ミ,,゚Д゚彡「冬越しができないんじゃ、入植なんて無理だ。俺達どうしようもねえ。
      食料がまだあるうちに、そこらに植わってる木で船を作って、
      さっさと本国に引き返してしまったほうがいいんじゃねえか」

('A`)「だめだ。外洋を渡れる船を作るには、どう頑張っても最低三ヶ月はかかるだろ。
   今から三ヶ月といえば冬だ。冬の大西洋は、誰にも渡れない」

 皆は腕を組み、唸った。

('A`)「…どっちにしろ我々だけでは冬越しは不可能だな。小魚も牡蠣も、冬には姿を消す。
   緊急事態だ。我々は早急に誰かに救援を求める必要がある、と私は考える」

 ドクオはテーブルに集まった水兵たちの顔をぐるりと見渡した。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:38:58.70 ID:zoXhFjqQP

ミ,,゚Д゚彡「誰かに救援を求める、つってもなあ。
      ラウンジか、原住民か、どっちかに助けてくれって泣きつくってことだよな…」

('A`)「まあ、そうだ。現実的にはそうなるだろう。ラウンジか、原住民か」

 ドクオは地図上のラウンジ砦と原住民の村を指した。


('A`)「まず同じキリスト教徒として、ここにラウンジ国の砦があるが…
   諸君も知ってのとおり、現在、我がニューソク本国とラウンジ本国は敵対関係にある。
   旧大陸での争いが新大陸の植民地の人間にどんな影響を与えるのかは未知数だが、
   少なくとも歓迎はされないだろうな」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、うん…」

( ФωФ)「俺達さんざんラウンジの船を沈めたからなあ…」

( `ハ´)「植民地帰りのラウンジ船も、襲いまくったアル」

 テントの中は沈黙した。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:41:09.10 ID:zoXhFjqQP

('A`)「…となると、次は原住民だ。
   探検家の旅行記などを見るに、ここに住む部族はヒューロン族という部族だろう。
   問題があるとすれば、こいつらと我々とでは言葉や常識が全く共通しないであろうことだな。
   助けてもらうどころか、交易ができるかどうかすら怪しいものだ。
   下手をしたら、戦争を仕掛けられることになるかもしれん」

 ドクオの言葉に、皆は考え込んでいた。

「…でも、ラウンジの連中と交渉をするよりは、まだ可能性があるんじゃねえかな」

ミ,,゚Д゚彡「確かにな。ラウンジは最初から俺達に敵対的だが、
      原住民なら少なくとも最初はニュートラルな対応をするだろう」

('A`)「うむ…。ラウンジと交渉するよりは、原住民と交渉したほうが、まだ可能性があるか。
   言葉の壁さえ越えれば、あるいは…」

川 ゚ -゚)「あっ」

 クーはドクオのそばに寄っていき、テーブルに手をかけて伸び上がって、言った。

川 ゚ -゚)「そうだ、思い出した。
     あいつら、ラウンジ語を話していたぞ」

('A`)「えっ」


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:43:14.80 ID:zoXhFjqQP

ミ,,゚Д゚彡「クーおめえ、原住民と話をしたのか?」

川 ゚ -゚)「私が砂浜に打ち上げられたとき、原住民の女に助けてもらったように思う。
     わけのわからない言葉を喋っていたが、その中にラウンジ語の単語が混じっていた」

('A`)「えっ、クーお前、ラウンジ語がわかるのか」

 ドクオは驚いたように言った。

 ニューソク国においてラウンジ語は高級言語として認識されており、
 知識層や貴族がたしなみとして身に着けるべきとされている、難しい言葉だったからだ。

川 ゚ -゚)「そんなにはわからん。
     だがあれは確かにラウンジ語だった。言葉区切りの、たどたどしい喋りだったが」

ミ,,゚Д゚彡「そうか。
      じゃあひょっとして原住民は、ラウンジ共と交易の交渉を持っているのかもしれんな」


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 20:46:35.00 ID:zoXhFjqQP

( `ハ´)「単語だけでも通じるなら、交渉はできるアル」

('A`)「そうだな」

 ドクオは貴族出身の士官として、しっかりとしたラウンジ語を身につけている。
 原住民がラウンジ語を使えるのならば、言葉の壁はそんなに問題とならない。

('A`)「よし、まずは原住民と交渉してみよう。食料援助が無理なら、次は交易を交渉してみる。
   とにかくなんとしてでも冬越しぶんの物資を確保しないと、この植民地は来年春までに全滅してしまう」

ミ,,゚Д゚彡「よっしゃ、それしかないよな」

( ФωФ)「…で、誰が原住民村に交渉に行くんで?」

 ドクオは腕組みをして、少し唸った。

('A`)「俺しかないだろ」

 ドクオが言った。

('A`)「ラウンジ語がわかるのは、この砦では俺とクーだけなんだからな」
67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 21:54:22.96 ID:zoXhFjqQP
五.


 森の中で、ついに雨が降り出した。


 大人数で行くと相手を刺激する、と言って、ドクオはクーだけを伴って原住民の村へと向かっていた。
('A`)「お前なら、向こうの村に知り合いもいるしな」
 とドクオは言っていた。

 クーは秋の冷たい雨を降らせる天に、恨みがましい目を向けた。
 甲板勤務用の雨合羽は、ごわごわしていて体にまとわりつき、歩きにくかった。


 まばらな林の中のかえでが、紅葉した広い葉に雨音を響かせていた。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:02:07.38 ID:zoXhFjqQP

 三時間ほど歩いて、二人は原住民の村にたどり着いた。
 獣の皮を張り合わせて作る独特な形の高いテントが、明るい森の中に立ち並んでいる。

 二人が村に近づくと、原住民たちがみな一様に作業の手を止めて、警戒の視線を送ってくる。

 時ならぬ珍しい訪問者に興味を示した原住民たちが、ドクオとクーの周りを取り囲んだ。
 原住民はみな一様な褐色の肌をし、刺青や顔の塗りこみをして、半裸だった。

('A`)「あー…その…」

 ドクオは、原住民たちに、まずはニューソク語で話しかけようとした。

 だが、その言葉を遮り、ひときわ体格の大きい若い原住民が、ドクオの前に立った。
 長身のドクオに比べて背は小さいが、その体はがっしりとした筋肉に覆われている。
 彼は睨み付けるような鋭い視線で、胸を張ってドクオの前に並び立った。

 彼は恐る恐るといった感じでドクオに手を伸ばし、指先が触れると同時に引っ込める。
 上から下までためつ眇めつドクオの姿を観察する。

  _
( ゚∀゚) ウウォウォウォ ウウォウ!


 男は突然甲高いおかしな呼び声を上げると、ドクオの前から走り去っていった。
 ドクオはその男にどう対処していいのかわからず、ただ立っていた。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:05:08.10 ID:zoXhFjqQP

 村を指差しながら、クーがおずおずと、原住民たちに言った。

川 ゚ -゚)「デレ… この村に、デレはいるか?」

「デレ?」
「デレ…」

 原住民はざわついた。
 一人の男が、どこかに走っていった。

 ややあって、あのときの褐色の肌の少女が、村の入り口に駆けてきた。

川 ゚ -゚)「デレ!」

 クーは手を振った。

ζ(゚ー゚*ζ「クー? クー!」

 少女も、嬉しそうに答えた。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:07:53.57 ID:zoXhFjqQP

 クーは、ドクオをデレに紹介した。

 デレとドクオはラウンジ語でなにやらやり取りをしていた。
 手振りも交えながら、どうやら意思の疎通は図れているようだ。

ζ(゚ー゚*ζ「族長と はなし する」

 デレはそういってドクオを手招きして、村の中に導きいれた。


 雨は細く降り続いていた。
 むきだしの土の地面はぬかるみ、ドクオやクーの皮のブーツの中に容赦なく入り込んできた。
 隠れた水たまりに足をつっこむたびに、ドクオは短く毒づいた。

 二人のニューソク人は、デレを先頭に、村の中でもひときわ大きく立派な建物に案内された。

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:10:45.06 ID:zoXhFjqQP

 それは木と皮で作られた、村の中では珍しく円錐形ではない、きちんとした形の建物だった。
 デレが木戸から入っていったのに続いて、ドクオは狭い入り口に身をかがめて、中に入り込む。
 クーもそれに続いた。

 中は薄暗かった。
 天井に空いた煙抜きの穴が、唯一の光源だった。
 ドクオもクーも、目が慣れるまでは建物の中の様子が見えなかった。

 だが、中の異様な「雰囲気」は、入ってすぐにクーにもドクオにもはっきりと感じ取れた。
 異様に緊迫した雰囲気、と言うべきか。


 目が慣れるにつれ小屋の中の様子がわかってきた。

 中央の通路のようになった部分を隔てて、十数人の原住民が向かい合って座っている。
 向かって右側に若い者たち、左側に年配の者たち。

 それらが互いに、異様な緊迫感を持って、にらみ合っていたのだ。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:13:18.81 ID:zoXhFjqQP

 部屋の奥、通路の端には、族長がいた。
 年のころは五十歳ほどだろうか。
 皺の刻まれた顔に白髪の頭。全身に鳥の羽と宝石で作られた飾りをまとっている。

 クーとドクオが族長の前に進み出るには、
 睨みあう二つのグループの間を抜けていかなければならなかった。

 二人は左右に気を配りながら、おっかなびっくり、そろそろと前に進んだ。

  _
( ゚∀゚) ……

 若者グループの中でも、村で最初にドクオに触ってきた男は、
 ことさらドクオに対して厳しい視線を投げつけてきていた。

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:16:28.35 ID:zoXhFjqQP

 ドクオは族長の前に進み出た。
 デレは族長の隣に座り、二言三言、クーたちにはわからない言葉で族長と会話を交わした。

 デレの通訳で、ドクオと族長の会見は始まった。

「お前たちはどこから来た」

('A`)「私たちは海の向こう、ニューソクという国から来た」

 デレがドクオの言葉を通訳すると、一座にざわめきが走った。
 若者のグループからとげとげしい調子の言葉が飛び、
 年寄りのグループがそれをたしなめるように短い叱責の言葉で応じた。

 ややあって酋長が重々しく口を開く。

「ここは我々の土地だ。立ち去れ」

('A`)「それはできない。我々は乗ってきた船が壊れた。
   新しく船を作るにしても時間がかかる。それまで今の場所に留まることを許してくれ」

 ふたたび若者が騒ぎ、年寄りがそれを抑えようと、叱りつけた。

82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:20:05.55 ID:zoXhFjqQP

 だが今度は、若者たちは収まらなかった。
 次第にその言葉は熱を帯び、怒鳴り声を上げ、立ち上がるものまで出はじめた。

 年寄りのほうは全員が腰掛けたまま、落ち着いた、しかし威厳ある声で、若者の怒りに答えていた。


 突然、奇声が上がった。
 と同時に、最初にドクオに触ったあの青年が、ドクオの体の上に飛び掛ってきた。
  _
( ゚∀゚) ・・!!

 どう、と音を立てて、ドクオは背中から土の地面に倒された。

 それを合図に若者たちはいっせいに席を立ち、歓声を上げながら、ドクオに向かって殺到した。
 建物の中に原住民独特の甲高い奇声が幾重にも反響して響く。

 ドクオに馬乗りになった若者が、拳を振り上げた。

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:22:42.97 ID:zoXhFjqQP

 鋭い声が飛んだ。

ζ(゚- ゚*ζ ・・!

 デレが立ち上がって何事か叫んだのだ。
 若者たちの動きが、ぴたりと止まった。

 デレはドクオに馬乗りになった男のほうに歩み寄る。

 若者たちは一様に、歩くデレの姿を目で追った。

ζ(゚- ゚*ζ ・・ ・・
  _
( ゚∀゚) …・・・ ・

ζ(゚- ゚*ζ ・・・! ・・・・・ ・・・
  _
( ゚∀゚) ・ ・・ ・

 デレは若者の腕に手をかけ、ぐいっとドクオから引き剥がした。
 若者はしばらくデレを睨みつけていたが、やがて、ゆっくりと建物から出て行った。

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:27:14.37 ID:zoXhFjqQP

 族長の老人が深いため息をついた。

「我々の若いものが 失礼をした。
 お前たちを永くここにとどめておくことはできないが 非礼は詫びる」

('A`)「…そりゃどうも」

 ドクオは立ち上がり、憮然とした表情で二、三度土埃をはたき、再び族長の前に進んだ。


 族長は震える腕を持ち上げて、ドクオを指差した。

「私はお前に要求する。
 お前はニューソクから来たと言ったな。
 私の子供たちに ニューソクのことを教えてやってくれ」

 族長はそう言って、こんどは震える手でデレを指差した。

('A`)「…教える?」

「そうだ。言葉、地理、習慣、交易。
 海の向こうのさまざまな知識を、我が子供たちに伝えるのだ。
 さすればその間だけ、お前たちが我々の地に留まることを認めよう」

 それだけを言うと族長は立ち上がった。
 原住民は一斉に、立ち上がった族長に向かってひれ伏した。

 どうやら、会見は終わりだ、という意味らしかった。

90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:30:17.36 ID:zoXhFjqQP
六.


 ドクオとクーは、村の真ん中に作られた石の腰掛に座って、かんたんな原住民のもてなしを受けた。
 水の新鮮なにおいが残る森の中で、ドクオは引き倒されたときの傷の手当を受けている。

川 ゚ -゚)「大丈夫か? 赤く腫れてるぞ」

('A`)「ああ、痛かったな。思い切り地面に打ち付けやがって」

 雨はもう上がっていた。
 ときおり梢から、雨のなごりの小さな水滴が落ちてくる。

 石の器に果物が山盛りに盛られていた。
 動物の角で作ったと思われる容器には、果実酒のようなものが満たされていた。


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:33:33.04 ID:zoXhFjqQP

 デレはドクオの隣に座って、にこにこと親しげに微笑んでいた。

('A`)「デレ、お前、族長の娘だったんだな」

ζ(゚ー゚*ζ そう。 族長 子供 たくさん。 わたし 末の娘。

 ドクオは、まずはデレにニューソクの言葉を教えよう、と思っていた。
 デレを通訳にできれば、この部族との交流はやりやすくなるだろう。

ζ(゚ー゚*ζ 傷 ごめんね

('A`)「ああ、まあ…」

ζ(゚ー゚*ζ 若者たち さいきん 怒ってる。らんぼう。

('A`)「怒ってる? そういえばお年寄りたちと若者たち、いがみあってたみたいだけど。
   何か喧嘩でもしてるのか?」

ζ(-、-*ζ うん。 若者と 年寄り 意見 ちがう…
       若者たち 白人 きらい。 追い出したい。
       でも お年寄り 白人と あらそいたくない。 
93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:37:00.75 ID:zoXhFjqQP

('A`)「ほう…白人が嫌い、か。
   この村の若者は、俺達に対して、なにか良くない印象を持っているのか?」

 デレは困った顔をした。

ζ(-、-*ζ ジョルジュ 白人に おこってる

('A`)「ジョルジュ? あの体の大きい若者か?」

ζ(゚、゚*ζ そう。 ジュルジュは 戦士長。
       ジョルジュ 心配してる。白人たち 我々の土地 取る。追い出す。

('A`)「えっ、いや、取りはしないぞ。我々はただ、安全に住む場所がほしいだけで…」

ζ(-、-*ζ 白人 取った。
       ラウンジ 取った。ブラゲ 我々の仲間 殺した。
       仲間の オネイダ族 モホーク族 みんな 戦争した。殺された。

('A`)「あ…」

 ドクオは言葉に詰まり、黙った。

 たしかにニューソク国はまだ新大陸に人を送っていなかったが、他の国はもう既に植民地開拓を行っているのだ。
 ブラゲ国は植民地で原住民を虐殺し、奴隷のように酷使している、という噂は聞いていた。

96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:40:59.65 ID:zoXhFjqQP

ζ(゚ー゚*ζ でも族長は 争い しない。
       白い人間たちと 争う まずい 言ってる。
       海の向こうから おそろしい軍隊 持ってくる。 知ってる。

('A`)「そうか…いや…俺達はただ…」

 ドクオはすまなそうにつぶやいた。

川 ゚ -゚)「何言ってんだドクオ。そういうことなら、私たちも一緒だろ。
     私たちはここを征服しに来たんだしな」

 クーはデレにわからないように、ニューソク語で言った。
 するとドクオの顔には、さらに影が差した。

('A`)「そうだったな」

 そう言うと、しばらく下を向いて、むっつりと黙り込んでしまった。


97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:43:04.63 ID:zoXhFjqQP

('A`)「…デレ」

ζ(゚ー゚*ζ ?

('A`)「俺にも、お前たちの言葉を、教えてくれ」

ζ(゚ー゚*ζ いいよ

 深刻そうなドクオの表情とは対照的に、事もなげに軽い調子で、デレは言った。

ζ(゚ー゚*ζ わたし、 ノケイ ニーア。

('A`) ?

ζ(゚ー゚*ζ ノケイ ニーア。 こっち ほんとうの名前。 デレ 呼ぶだけ

('A`)「ああ…。デレってのは、呼び名か」


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:45:26.86 ID:zoXhFjqQP

('A`)「ノ…ケイ… ニーア…」

ζ(゚ー゚*ζ そう!

('A`)「ふーん。この名前、何か意味でもあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ ノケイ…

 デレは上を指差した。

('A`)「空?」

ζ(゚ー゚*ζ そう。で、ニーア…

 デレはばたばたと両手を動かして、飛ぶような動作をした。

('A`)「鳥」

ζ(゚ー゚*ζ そう

100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:48:07.07 ID:zoXhFjqQP

('A`)「つまり、『空を飛ぶ鳥』ってわけか」

ζ(゚ー゚*ζ そう!

 デレは言って立ち上がり、両手を広げて楽しげにあたりを駆け回り始めた。

 それを見て、ドクオは皮肉っぽいしぐさで肩をすぼめ、ため息をついた。

('A`)「ふうん。空を飛ぶ鳥、ね…。
   人間なんて飛べやしないのに、変わった名前をつけるんだな」

ζ(゚、゚*ζ !

 デレは足を止めた。

102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:52:08.79 ID:zoXhFjqQP

('A`)「ま、できもしない名前を何とつけようと、俺にゃ関係のない話だけどね」

ζ(゚、゚*ζ …とぶ!

 デレは腰に手を当てて、鋭く言った。

('A`)「いや無理言うな。人間は飛べないって」

ζ(゚、゚*ζ ちがう! きもちで とぶの!

('A`)「気持ち? それだって飛べないさ。
    どこまでも醜く、どこまでも汚い利己的な存在。それが人間だろう。
    罪の重さを背負ったまま、飛ぶような気持ちになることなんて…」

 ドクオの言葉の最後のほうは、半ば独白じみたつぶやきだった。

ζ(゚、゚*ζ …?

 突然わけのわからないことを言い出したドクオの言葉を、デレは理解できていないようだった。


103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:54:12.96 ID:zoXhFjqQP

ζ(゚、゚*ζ とべる!

('A`)「まあ、お前はそう信じていればいいよ」

 ドクオの顔にはすっかり影が差していた。
 これ以上、人と接していたくない。そう言いたげに、ドクオは目を伏せた。

 だがデレはそんなドクオの複雑な表情を意にも介さず、同じような調子で、強く言った。

ζ(゚、゚*ζ とべる!

('A`)「ノー。俺はそうは思わない」

ζ(゚、゚#ζ ……

 デレはふくれっ面でドクオをにらみつけた。
 ふい、とドクオは目を逸らせた。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 22:56:31.37 ID:zoXhFjqQP

 ふいにデレはドクオの腕を乱暴に鷲づかみにした。
 ドクオはびっくりして、石の椅子から立ち上がった。

ζ(゚、゚*ζ こっち!

 デレは言って、腕をぐいぐいと引っ張って、ドクオを森のほうへと引き立てていった。

('A`)「お、おい…! どこへ連れて行くん…」

 ドクオは引き摺られながら、腕を振ってデレの手を振り払おうとした。
 だがデレの力は意外なほど強く、ちょっとやそっとの動きでは、逃れられそうも無かった。

 無理矢理にそれを引き剥がす気にもなれず、ドクオはデレに引っ張られるままに歩き出した。


川 ゚ -゚)「あ、おい、お前らどこへ行く」

 クーは立ち上がって、二人の後を追いかけた。

106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:03:03.08 ID:zoXhFjqQP

 三人は原住民の村を出て、白樺の森の中を歩いた。
 ドクオはあいかわらずデレに腕を引かれていた。

 朝から降り続いていた雨は、既に上がっていた。


 デレは道の無いところをずんずんと進んで行っていた。
 白樺の森は木々の間隔がまばらで、
 道から外れても、そう歩きにくいということはなかった。

 どこからか、ときおり鳥のさえずりが聞こえてくる。

 鮮烈な樹木の香りが、三人の鼻腔をくすぐる。


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:06:05.00 ID:zoXhFjqQP

 しばらく歩いた。

 クーとドクオがいいかげん知らない場所を歩き続けることに不安を覚え始めた頃、
 二人の顔を、潮のにおいがする風が撫でていった。

 突然、視界が開けた。


 白樺の森はそこで途切れていた。
 そして目の前には、一面の空があった。


 そこは崖の上だった。

 
 ずいぶん高い場所らしく、吹き渡る潮風はやや強く、涼しげなものだった。
 その風に吹かれて、崖の上の台地に生えた、短く緑色な草がそよいでいる。

 デレがようやくドクオの腕を離した。
 くるりとドクオのほうに向き直り、そして、輝くようにまぶしい笑顔を見せた。
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:09:59.47 ID:zoXhFjqQP

 ドクオはぽかんとして、崖の上からの景色を眺めていた。

 海の水面ははるか下にあるようだ。
 波が岩壁に打ち寄せる音だけは聞こえるが、紺碧の海の姿は見えない。

 かわりに崖のむこうに見えるのは、空―― だけ、だった。


 雨は完全に上がって、いまや空は綺麗に晴れていた。
 おだやかな秋の水色の、ところどころに小さな雲が、ちぎれた真っ白い綿のように浮かんでいた。


 いちめんの青い空に、台地の緑色の草原が、ぽっかりと切り取られたように浮かんでいる。
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:15:56.49 ID:zoXhFjqQP

 軽くステップを踏んで、デレが崖のほうに進みだした。


 心地よい風が通った。
 草原のところどころに咲いた、明るい紫色のアスターの花が揺れる。


 デレは両手を広げて、崖の上を気持ちよさそうに歩いた。
 はるか下から怒涛の逆巻く重厚な響きが聞こえてくるが、それ以外には、崖の上はじつに静かだった。


 デレは楽しそうに、小さく歌いながら舞っていた。
 緑の宝石と羽根の首飾りが陽光を反射し、美しい黒髪が風に洗われ、そよいだ。

 森の側からそれを眺めるドクオとクーから見れば、
 両手を広げて青空だけを背景に舞い踊るデレは、――たしかに、鳥のように軽やかだ。


 二人のニューソク人は、しばし時を忘れて、
 美しい褐色の娘が空色の背景の中で舞うのを眺めていた。


113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:18:11.18 ID:zoXhFjqQP

 鳥が舞い降りるように、デレはドクオの前にやってきた。
 ドクオはあっけにとられ、ただ呆然と立っていた。


 突然デレは、ドクオの右足を思い切り踏みつけた。

('A`)「いてっ!」

 きゃはは、と笑いながら、デレは崖のほうに逃げていった。


('A`)「…んのやろ! 何すんだ!」

 ドクオはデレを追いかけ、彼女の足を踏み返そうとした。

 だがデレは身軽だった。
 わざとドクオが踏みやすいように足を差し出したかと思うと、踏まれる直前にさっと引っ込めて、
 釣られたドクオをまた指差して笑う。

('A`)「こっ…てめ…」

 ドクオは躍起になってデレの足を踏もうとしたが、デレはそのたびにうまく身をかわしていた。

116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:26:11.52 ID:zoXhFjqQP

 何度目かにドクオが右足を上げたとき、デレは素早くドクオの腕を取った。

('A`)「あっ」

 足にばかり気をとられていたドクオは、ふいに上体を揺らされて、バランスを崩しかけた。
 とっさに左足に力を入れて重心をとる。

 デレはそれを見逃さない。
 ドクオが軸足を動かせずにいる隙に、さっとデレは彼の左足を踏んだ。

 二度ばかりも先手を取られて、ドクオの顔が紅潮した。

('A`)「てめ…!」

 ドクオは右に左にものすごい勢いで足を繰り出したが、そのことごとくをデレは華麗に避けていた。

 今度はドクオがデレの腕を掴んだ。
 その状態のままさっきのお返しとばかりに軸足を踏みに行くが、
 デレはドクオの肩に手を置いて、両足を揃えてジャンプして、みごとにドクオの足を回避した。


117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:27:58.51 ID:zoXhFjqQP

 崖の上には点々と、目にしみるように鮮やかな明るいアスターが咲いている。
 心地よい風が通り、はるか下で波が逆巻いている。


川 ゚ -゚)(なかよしだなあ)

 崖の上の草原をいっぱいに使ってじゃれあう二人を、
 クーは森の端にちょこんと座って、眺めていた。
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/01(月) 23:30:48.09 ID:zoXhFjqQP

 虹が出ていた。
 崖の上をまたぐようにして、雨上がりの秋の青空に、大きな虹がかかっていた。

 でも、足踏み遊びに夢中になっている二人は、それに気づいていなかった。


 二人は互いの体の動きだけに集中して、動き回っていた。
 気ぜわしく動きながら、デレは楽しそうな笑い声を、ドクオは短い呪詛の言葉と荒い息を吐いていた。


 虹の橋の下で、それに気づくことなく、二人はただ、舞い続けていた。






第七話 ここまで―――

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